特表-16139759IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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再表2016-139759燃料電池の状態検出装置及び状態検出方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2016年9月9日
【発行日】2017年12月28日
(54)【発明の名称】燃料電池の状態検出装置及び状態検出方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20171201BHJP
   H01M 8/04119 20160101ALI20171201BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20171201BHJP
【FI】
   H01M8/04 Z
   H01M8/04 K
   H01M8/10
【審査請求】有
【予備審査請求】有
【全頁数】45
【出願番号】特願2017-503259(P2017-503259)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2015年3月3日
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小高 敏和
(72)【発明者】
【氏名】青木 哲也
【テーマコード(参考)】
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H126BB06
5H126EE03
5H127AA06
5H127AB04
5H127AC13
5H127BA02
5H127BA22
5H127BA39
5H127BA56
5H127BA59
5H127BA60
5H127BB02
5H127BB07
5H127BB12
5H127BB34
5H127BB37
5H127BB40
5H127DB48
5H127DB68
(57)【要約】
燃料電池の状態検出装置は、燃料電池のインピーダンス曲線の円弧領域に属するインピーダンス計測値に基づいて、仮定高周波数インピーダンス値を推定する仮定高周波数インピーダンス値設定手段と、燃料電池のインピーダンス曲線の非円弧領域に属するインピーダンス計測値に基づいて、実測高周波数インピーダンス値を求める実測高周波数インピーダンス値算出手段と、仮定高周波数インピーダンス値から実測高周波数インピーダンス値を減算した値をアイオノマ抵抗値と推定するアイオノマ抵抗推定手段と、を有する。そして、仮定高周波数インピーダンス値設定手段は、円弧領域に属するインピーダンス計測値に基づいて設定された等価回路インピーダンス曲線と実軸との交点の値を仮定高周波数インピーダンス値として設定する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池の状態検出装置であって、
前記燃料電池のインピーダンス曲線の円弧領域に属するインピーダンス計測値に基づいて、仮定高周波数インピーダンス値を設定する仮定高周波数インピーダンス値設定手段と、
前記燃料電池のインピーダンス曲線の非円弧領域に属するインピーダンス計測値に基づいて、実測高周波数インピーダンス値を求める実測高周波数インピーダンス値算出手段と、
前記仮定高周波数インピーダンス値から前記実測高周波数インピーダンス値を減算した値をアイオノマ抵抗値と推定するアイオノマ抵抗推定手段と、
を有し、
前記仮定高周波数インピーダンス値設定手段は、
前記円弧領域に属するインピーダンス計測値に基づいて設定される等価回路インピーダンス曲線と実軸との交点の値を前記仮定高周波数インピーダンス値として設定する燃料電池の状態検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池の状態検出装置において、
前記等価回路インピーダンス曲線は、
前記燃料電池の等価回路から得られるインピーダンスの式に前記円弧領域に属するインピーダンス計測値を適用することで設定される燃料電池の状態検出装置。
【請求項3】
請求項2に記載の燃料電池の状態検出装置において、
前記等価回路インピーダンス曲線は、
前記等価回路から得られるインピーダンス実部の式
【数1】
、及び虚部の式
【数2】
(ただし、Zre、Zimはそれぞれ燃料電池のインピーダンスの実部と虚部、ωは交流信号の角周波数、Rcell,supは仮定高周波数インピーダンス値、Ractはカソード電極の反応抵抗、及びCdlはカソード電極の電気二重層容量を意味する。)
に、前記円弧領域の2点以上の周波数におけるインピーダンス計測値の実部及び虚部を適用することで設定される燃料電池の状態検出装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の燃料電池の状態検出装置において、
アイオノマ抵抗補正手段をさらに有し、
前記アイオノマ抵抗補正手段は、
基準運転条件下で推定されたアイオノマ抵抗値の基準値と、該基準運転条件下における推定値から前記燃料電池を所定時間稼動させた後に推定された劣化後アイオノマ抵抗値を比較することでアイオノマ抵抗値の増分を求め、
前記アイオノマ抵抗値の現在推定値に対し前記増分を減算することで補正を行う燃料電池の状態検出装置。
【請求項5】
請求項4に記載の燃料電池の状態検出装置において、
前記燃料電池の劣化状態は、
触媒層の劣化状態である燃料電池の状態検出装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の燃料電池の状態検出装置において、
電解質膜抵抗値を推定する電解質膜抵抗推定手段をさらに有し、
前記電解質膜抵抗推定手段は、
前記推定されたアイオノマ抵抗値と前記燃料電池の湿潤状態との関係に基づいて設定された基準電解質膜抵抗値と、該設定値から前記燃料電池を所定時間稼動させた後に推定された劣化後実測高周波数インピーダンス値と、を比較することでこれらの差分を求め、
前記実測高周波数インピーダンス値の現在測定値に対して前記差分を減算することで補正を行う燃料電池の状態検出装置。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の燃料電池の状態検出装置において、
前記仮定高周波数インピーダンス値設定手段は、
前記円弧領域に属する2以上のインピーダンス計測値に基づき、2以上の仮定高周波数インピーダンス値の候補を求め、
前記2以上の仮定高周波数インピーダンス値の候補の平均値を前記仮定高周波数インピーダンス値に設定する燃料電池の状態検出装置。
【請求項8】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の燃料電池の状態検出装置において、
前記実測高周波数インピーダンス値算出手段は、
前記非円弧領域に属する2以上のインピーダンス計測値に基づき、2以上の実測高周波数インピーダンス値の候補を求め、
前記2以上の実測高周波数インピーダンス値の候補の平均値を前記実測高周波数インピーダンス値に設定する燃料電池の状態検出装置。
【請求項9】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の燃料電池の状態検出装置において、
前記仮定高周波数インピーダンス値設定手段は、
前記円弧領域に属する2以上のインピーダンス計測値に基づき、2以上の仮定高周波数インピーダンス値の候補を求め、
前記2以上の仮定高周波数インピーダンス値の候補のうちの高い値を、それぞれ仮定高周波数インピーダンス値に設定する燃料電池の状態検出装置。
【請求項10】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の燃料電池の状態検出装置において、
前記実測高周波数インピーダンス値算出手段は、
前記非円弧領域に属する2以上のインピーダンス計測値に基づき、2以上の実測高周波数インピーダンス値の候補を求め、
前記2以上の実測高周波数インピーダンス値の候補のうちの低い値を、前記実測高周波数インピーダンス値と推定する燃料電池の状態検出装置。
【請求項11】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の燃料電池の状態検出装置において、
前記仮定高周波数インピーダンス値設定手段は、
前記円弧領域に属する2以上のインピーダンス計測値に基づき、2以上の仮定高周波数インピーダンス値の候補を求め、
前記2以上の仮定高周波数インピーダンス値の候補のうちの低い値を、それぞれ仮定高周波数インピーダンス値と推定する燃料電池の状態検出装置。
【請求項12】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の燃料電池の状態検出装置において、
前記実測高周波数インピーダンス値算出手段は、
前記非円弧領域に属する2以上のインピーダンス計測値に基づき、2以上の実測高周波数インピーダンス値の候補を求め、
前記2以上の実測高周波数インピーダンス値の候補のうちの高い値を、前記実測高周波数インピーダンス値と推定する燃料電池の状態検出装置。
【請求項13】
請求項1〜請求項12に記載の燃料電池の状態検出装置において、
2以上の周波数にて計測されたインピーダンス計測値を結ぶ直線と実軸との交点の値と、前記実測高周波数インピーダンス値と、を比較することで前記2以上の周波数が、それぞれ、前記非円弧領域に属するのか又は前記円弧領域に属するのかを判定する周波数領域判定手段をさらに有する燃料電池の状態検出装置。
【請求項14】
請求項13に記載の燃料電池の状態検出装置において、
前記周波数領域判定手段は、
前記直線と実軸との交点の値と前記実測高周波数インピーダンス値が実質的に一致する場合に、前記2以上の周波数の全てが前記非円弧領域に属すると判定する燃料電池の状態検出装置。
【請求項15】
請求項13に記載の燃料電池の状態検出装置において、
前記周波数領域判定手段は、
前記直線と実軸との交点の値と前記実測高周波数インピーダンス値が実質的に一致しない場合に、前記2以上の周波数のうちの少なくとも一つの相対的に値の小さい周波数が前記円弧領域に属すると判定する燃料電池の状態検出装置。
【請求項16】
請求項15に記載の燃料電池の状態検出装置において、
前記周波数領域判定手段は、
前記交点の値が、前記実測高周波数インピーダンス値よりも小さい場合に、前記2以上の周波数の全てが前記円弧領域に属すると判定する燃料電池の状態検出装置。
【請求項17】
請求項1〜請求項16に記載の燃料電池の状態検出装置において、
前記燃料電池が積層電池として構成され、
前記積層電池に接続されて該積層電池に交流電流を出力する交流電源部と、
前記積層電池の正極側の電位から該積層電池の中途部分の電位を引いて求めた電位差である正極側交流電位差と、前記燃料電池の負極側の電位から前記中途部分の電位を引いて求めた電位差である負極側交流電位差と、に基づいて交流電流を調整する交流調整部と、
前記調整された交流電流並びに前記正極側交流電位差及び前記負極側交流電位差に基づいて前記燃料電池の前記インピーダンス計測値を演算するインピーダンス演算部と、
を有する燃料電池の状態検出装置。
【請求項18】
燃料電池の状態検出方法であって、
前記燃料電池のインピーダンス曲線の円弧領域に属するインピーダンス計測値に基づいて、仮定高周波数インピーダンス値を設定する仮定高周波数インピーダンス値設定工程と、
前記燃料電池のインピーダンス曲線の非円弧領域に属するインピーダンス計測値に基づいて、実測高周波数インピーダンス値を求める実測高周波数インピーダンス値算出手段と、
前記仮定高周波数インピーダンス値から前記実測高周波数インピーダンス値を減算した値をアイオノマ抵抗値と推定するアイオノマ抵抗推定工程と、
を有し、
前記仮定高周波数インピーダンス値設定高低では、
前記円弧領域に属するインピーダンス計測値に基づいて設定される等価回路インピーダンス曲線と実軸との交点の値を前記仮定高周波数インピーダンス値として設定する燃料電池の状態検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池の状態検出装置及び状態検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の状態を推定する手法の一例として、HFR(High Frequency Resistance)により算出される電解質膜抵抗を燃料電池の湿潤状態の検出に用いることが知られている。しかしながら、HFRにより算出される値には、純粋な電解質膜抵抗成分だけでなく、バルク抵抗や接触抵抗等の電子輸送抵抗成分が含まれるので、燃料電池の湿潤状態の検出用には誤差が大きかった。
【0003】
そこで、特許4640661号(特許文献1)には、電解質膜抵抗に対応する第1の周波数領域における第1のインピーダンス、及び電解質膜抵抗と触媒層抵抗との合算値に対応する第1の周波数領域よりも低周波の領域である第2の周波数領域における第2のインピーダンスをそれぞれ算出し、第2のインピーダンスと第1のインピーダンスとの差である差分インピーダンスに基づいて、燃料電池の湿潤度の指標となる触媒層含水量を算出することが提案されている。
【0004】
また、特開2013−258042号公報(特許文献2)には、計測されたインピーダンスの虚数部から仮定された式に基づいてアイオノマ抵抗を算出し、このアイオノマ抵抗を燃料電池の乾湿指標として用いることが提案されている。
【発明の概要】
【0005】
しかし、特許文献1の方法では、第2のインピーダンスと第1のインピーダンスとの差において各電極の反応抵抗成分が誤差として含まれてしまうので、これに基づき算出された触媒層の含水量の精度が低くなる。また、特許文献2では、アイオノマ抵抗の算出のために仮定された式は燃料電池の厚み方向や流路長方向の分布等を考慮しておらず、十分な精度を有していなかった。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目してなされたものであり、高精度に燃料電池の状態を検出し得る燃料電池の状態検出装置及び状態検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様によれば、燃料電池の状態検出装置であって、燃料電池のインピーダンス曲線の円弧領域に属するインピーダンス計測値に基づいて、仮定高周波数インピーダンス値を設定する仮定高周波数インピーダンス値設定手段と、燃料電池のインピーダンス曲線の非円弧領域に属するインピーダンス計測値に基づいて、実測高周波数インピーダンス値を求める実測高周波数インピーダンス値算出手段と、仮定高周波数インピーダンス値から前記実測高周波数インピーダンス値を減算した値をアイオノマ抵抗値と推定するアイオノマ抵抗推定手段と、を有する燃料電池の状態検出装置が提供される。そして、この燃料電池の状態検出装置では、仮定高周波数インピーダンス値設定手段は、円弧領域に属するインピーダンス計測値に基づいて設定される等価回路インピーダンス曲線と実軸との交点の値を前記仮定高周波数インピーダンス値として設定する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の一実施形態による燃料電池の斜視図である。
図2図2は、図1の燃料電池のII−II断面図である。
図3図3は、本発明の一実施形態による燃料電池システムの概略構成図である。
図4図4は、本発明の一実施形態において採用される燃料電池セルの等価回路モデルを示す図である。
図5図5は、電解質膜の触媒層の厚さが大きくなるとアイオノマ抵抗値が増大する原理を説明する図である。
図6図6は、燃料電池セルの厚さ方向の分布が考慮された分布定数系の等価回路である。
図7図7は、簡易等価回路に基づいて定められる虚部インピーダンスの周波数特性を示すグラフである。
図8図8は、一実施形態にかかる燃料電池のナイキスト線図である。
図9図9は、燃料電池のアイオノマ抵抗値の推定の流れを示すフローチャートである。
図10図10は、実測高周波数インピーダンス値を求める流れを示すフローチャートである。
図11図11は、仮定高周波数インピーダンス値を求める流れを示すフローチャートである。
図12図12は、アイオノマ抵抗値と湿潤度の関係を示す図である。
図13図13は、アイオノマ抵抗値補正用のデータを作成する流れを示したフローチャートである。
図14図14は、触媒層の劣化によるアイオノマ抵抗値の上昇の様子を模式的に示したグラフである。
図15図15は、アイオノマ抵抗値の補正の流れを示したフローチャートである。
図16図16は、電解質膜抵抗値と湿潤度の関係を示すグラフである。
図17図17は、電解質膜抵抗値補正用のデータを作成する流れを示したフローチャートである。
図18図18は、セパレータ等の劣化による実測高周波数インピーダンス値の上昇の様子を模式的に示したグラフである。
図19図19は、電解質膜抵抗値の補正の流れを示したフローチャートである。
図20図20は、一実施形態において周波数が円弧領域又は非円弧領域のどちらに属するかを判定する流れを示すフローチャートである。
図21図21は、周波数が円弧領域又は非円弧領域のどちらに属するかを判定する態様を説明する図である。
図22図22は、周波数が円弧領域又は非円弧領域のどちらに属するかを判定する態様を説明する図である。
図23図23は、周波数が円弧領域又は非円弧領域のどちらに属するかを判定する態様を説明する図である。
図24図24は、一実施形態にかかる燃料電池システムにおいて、いわゆる励起電流印加法によるインピーダンス計測を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面等を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0010】
燃料電池のセルは、燃料極としてのアノード極と酸化剤極としてのカソード極とによって電解質膜を挟んで構成されている。燃料電池のセルでは、水素を含有するアノードガスがアノード極に供給される一方で、酸素を含有するカソードガスがカソード極に供給されて、これらガスを用いることで発電が行われる。アノード極及びカソード極の両電極において進行する電極反応は、以下の通りである。
【0011】
アノード極: 2H2→4H++4e- ・・・(1)
カソード極: 4H++4e-+O2 → 2H2O ・・・(2)
これら(1)、(2)の電極反応によって、燃料電池のセルは1V(ボルト)程度の起電力を生じる。
【0012】
図1及び図2は、本発明の一実施形態による燃料電池セル10の構成を説明するための図である。図1は燃料電池セル10の斜視図であり、図2図1の燃料電池セル10のII−II断面図である。
【0013】
図1及び図2に示すように、燃料電池セル10は、膜電極接合体(MEA)11と、MEA11を挟むように配置されるアノードセパレータ12及びカソードセパレータ13と、を備える。
【0014】
MEA11は、電解質膜111と、アノード極112と、カソード極113とから構成されている。MEA11は、電解質膜111の一方の面側にアノード極112を有しており、他方の面側にカソード極113を有している。
【0015】
電解質膜111は、フッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜である。電解質膜111は、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。なお、電解質膜111としては、想定される燃料電池の対応に応じて、例えばリン酸(H3PO4)を所定のマトリックスに含浸させたものなどの他の材料を用いるようにしても良い。
【0016】
アノード極112は、触媒層112Aとガス拡散層112Bとを備える。触媒層112Aは、Pt又はPt等が担持されたカーボンブラック粒子により形成された部材であって、電解質膜111と接するように設けられる。ガス拡散層112Bは、触媒層112Aの外側に配置される。ガス拡散層112Bは、ガス拡散性及び導電性を有するカーボンクロスで形成された部材であって、触媒層112A及びアノードセパレータ12と接するように設けられる。
【0017】
アノード極112と同様に、カソード極113も触媒層113Aとガス拡散層113Bとを備える。触媒層113Aは電解質膜111とガス拡散層113Bとの間に配置され、ガス拡散層113Bは触媒層113Aとカソードセパレータ13との間に配置される。
【0018】
アノードセパレータ12は、ガス拡散層112Bの外側に配置される。アノードセパレータ12は、アノード極112にアノードガス(水素ガス)を供給するための複数のアノードガス流路121を備えている。アノードガス流路121は、溝状通路として形成されている。
【0019】
カソードセパレータ13は、ガス拡散層113Bの外側に配置される。カソードセパレータ13は、カソード極113にカソードガス(空気)を供給するための複数のカソードガス流路131を備えている。カソードガス流路131は、溝状通路として形成されている。
【0020】
アノードセパレータ12及びカソードセパレータ13は、アノードガス流路121を流れるアノードガスの流れ方向とカソードガス流路131を流れるカソードガスの流れ方向とが互いに逆向きとなるように構成されている。なお、アノードセパレータ12及びカソードセパレータ13は、これらガスの流れ方向が同じ向きに流れるように構成されてもよい。
【0021】
このような燃料電池セル10を自動車用電源として使用する場合には、要求される電力が大きいため、数百枚の燃料電池セル10を積層した燃料電池スタックとして使用する。そして、燃料電池スタックにアノードガス及びカソードガスを供給する燃料電池システムを構成して、車両を駆動させるための電力を取り出す。
【0022】
図3は、本発明の一実施形態による燃料電池システム100の概略図である。
【0023】
燃料電池システム100は、燃料電池1と、カソードガス給排装置2と、アノードガス給排装置3と、電力システム5と、コントローラ6と、を備える。
【0024】
燃料電池1は、上述のように複数枚の燃料電池セル10(単位セル)を積層した積層電池である。燃料電池1は、アノードガス及びカソードガスの供給を受けて、車両の走行に必要な電力を発電する。燃料電池1は、電力を取り出す出力端子として、アノード極側端子1Aと、カソード極側端子1Bと、を有している。
【0025】
カソードガス給排装置2は、燃料電池1にカソードガスを供給するとともに、燃料電池1から排出されるカソードオフガスを外部に排出する。カソードガス給排装置2は、カソードガス供給通路21と、カソードガス排出通路22と、フィルタ23と、エアフローセンサ24と、カソードコンプレッサ25と、カソード圧力センサ26と、水分回収装置(WRD;Water Recovery Device)27と、カソード調圧弁28と、を備える。
【0026】
カソードガス供給通路21は、燃料電池1に供給されるカソードガスが流れる通路である。カソードガス供給通路21の一端はフィルタ23に接続され、他端は燃料電池1のカソードガス入口部に接続される。
【0027】
カソードガス排出通路22は、燃料電池1から排出されるカソードオフガスが流れる通路である。カソードガス排出通路22の一端は燃料電池1のカソードガス出口部に接続され、他端は開口端として形成される。カソードオフガスは、カソードガスや電極反応によって生じた水蒸気等を含む混合ガスである。
【0028】
フィルタ23は、カソードガス供給通路21に取り込まれるカソードガスに含まれる塵や埃等を除去する部材である。
【0029】
カソードコンプレッサ25は、フィルタ23よりも下流側のカソードガス供給通路21に設けられる。カソードコンプレッサ25は、カソードガス供給通路21内のカソードガスを圧送して燃料電池1に供給する。
【0030】
エアフローセンサ24は、フィルタ23とカソードコンプレッサ25との間のカソードガス供給通路21に設けられる。エアフローセンサ24は、燃料電池1に供給されるカソードガスの流量を検出する。
【0031】
カソード圧力センサ26は、カソードコンプレッサ25とWRD27との間のカソードガス供給通路21に設けられる。カソード圧力センサ26は、燃料電池1に供給されるカソードガスの圧力を検出する。カソード圧力センサ26で検出されたカソードガス圧力は、燃料電池1のカソードガス流路等を含むカソード系全体の圧力を代表する。
【0032】
WRD27は、カソードガス供給通路21とカソードガス排出通路22とに跨って接続される。WRD27は、カソードガス排出通路22を流れるカソードオフガス中の水分を回収し、その回収した水分を用いてカソードガス供給通路21を流れるカソードガスを加湿する装置である。
【0033】
カソード調圧弁28は、WRD27よりも下流のカソードガス排出通路22に設けられる。カソード調圧弁28は、コントローラ6によって開閉制御され、燃料電池1に供給されるカソードガスの圧力を調整する。
【0034】
次に、アノードガス給排装置3について説明する。
【0035】
アノードガス給排装置3は、燃料電池1にアノードガスを供給するとともに、燃料電池1から排出されるアノードオフガスをカソードガス排出通路22に排出する。アノードガス給排装置3は、高圧タンク31と、アノードガス供給通路32と、アノード調圧弁33と、アノード圧力センサ34と、アノードガス排出通路35と、バッファタンク36と、パージ通路37と、パージ弁38と、を備える。
【0036】
高圧タンク31は、燃料電池1に供給するアノードガスを高圧状態に保って貯蔵する容器である。
【0037】
アノードガス供給通路32は、高圧タンク31から排出されるアノードガスを燃料電池1に供給する通路である。アノードガス供給通路32の一端は高圧タンク31に接続され、他端は燃料電池1のアノードガス入口部に接続される。
【0038】
アノード調圧弁33は、高圧タンク31よりも下流のアノードガス供給通路32に設けられる。アノード調圧弁33は、コントローラ6によって開閉制御され、燃料電池1に供給されるアノードガスの圧力を調整する。
【0039】
アノード圧力センサ34は、アノード調圧弁33よりも下流のアノードガス供給通路32に設けられる。アノード圧力センサ34は、燃料電池1に供給されるアノードガスの圧力を検出する。アノード圧力センサ34で検出されたアノードガス圧力は、バッファタンク36や燃料電池1のアノードガス流路等を含むアノード系全体の圧力を代表する。
【0040】
アノードガス排出通路35は、燃料電池1から排出されたアノードオフガスを流す通路である。アノードガス排出通路35の一端は燃料電池1のアノードガス出口部に接続され、他端はバッファタンク36に接続される。アノードオフガスには、電極反応で使用されなかったアノードガスや、カソードガス流路131からアノードガス流路121へとリークしてきた窒素等の不純物ガスや水分等が含まれる。
【0041】
バッファタンク36は、アノードガス排出通路35を流れてきたアノードオフガスを一時的に蓄える容器である。バッファタンク36に溜められたアノードオフガスは、パージ弁38が開かれる時に、パージ通路37を通ってカソードガス排出通路22に排出される。
【0042】
パージ通路37は、アノードオフガスを排出するための通路である。パージ通路37の一端はアノードガス排出通路35に接続され、他端はカソード調圧弁28よりも下流のカソードガス排出通路22に接続される。
【0043】
パージ弁38は、パージ通路37に設けられる。パージ弁38は、コントローラ6によって開閉制御され、アノードガス排出通路35からカソードガス排出通路22に排出するアノードオフガスのパージ流量を制御する。
【0044】
パージ弁38が開弁状態となるパージ制御が実行されると、アノードオフガスは、パージ通路37及びカソードガス排出通路22を通じて外部に排出される。この時、アノードオフガスは、カソードガス排出通路22内でカソードオフガスと混合される。
【0045】
このようにアノードオフガスとカソードオフガスとを混合させて外部に排出することで、混合ガス中のアノードガス濃度(水素濃度)が排出許容濃度以下の値に決定される。
【0046】
電力システム5は、電流センサ51と、電圧センサ52と、走行モータ53と、インバータ54と、バッテリ55と、DC/DCコンバータ56と、を備える。
【0047】
電流センサ51は、燃料電池1から取り出される出力電流を検出する。電圧センサ52は、燃料電池1の出力電圧、つまりアノード極側端子1Aとカソード極側端子1Bの間の端子間電圧を検出する。
【0048】
なお、電圧センサ52は、燃料電池セル10の1枚ごとの電圧を検出するように構成されてもよいし、燃料電池セル10の複数枚ごとの電圧を検出するように構成されてもよい。
【0049】
走行モータ53は、三相交流同期モータであって、車輪を駆動するため駆動源である。走行モータ53は、燃料電池1及びバッテリ55から電力の供給を受けて回転駆動する電動機としての機能と、外力によって回転駆動されることで発電する発電機としての機能と、を有する。
【0050】
インバータ54は、IGBT等の複数の半導体スイッチから構成される。インバータ54の半導体スイッチは、コントローラ6によってスイッチング制御され、これにより直流電力が交流電力に、又は交流電力が直流電力に変換される。走行モータ53を電動機として機能させる場合、インバータ54は、燃料電池1の出力電力とバッテリ55の出力電力との合成直流電力を三相交流電力に変換し、走行モータ53に供給する。これに対して、走行モータ53を発電機として機能させる場合、インバータ54は、走行モータ53の回生電力(三相交流電力)を直流電力に変換し、バッテリ55に供給する。
【0051】
バッテリ55は、燃料電池1の出力電力の余剰分及び走行モータ53の回生電力が充電されるように構成されている。バッテリ55に充電された電力は、必要に応じてカソードコンプレッサ25等の補機類や走行モータ53に供給される。
【0052】
DC/DCコンバータ56は、燃料電池1の出力電圧を昇降圧させる双方向性の電圧変換機である。DC/DCコンバータ56によって燃料電池1の出力電圧を制御することで、燃料電池1の出力電流等が調整される。
【0053】
コントローラ6は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。コントローラ6には、電流センサ51や電圧センサ52等の各種センサからの信号の他、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルストロークセンサ(図示せず)等のセンサからの信号が入力される。
【0054】
コントローラ6は、燃料電池システム100の運転状態に応じて、アノード調圧弁33やカソード調圧弁28、カソードコンプレッサ25等を制御し、燃料電池1に供給されるアノードガスやカソードガスの圧力や流量を調整する。
【0055】
また、コントローラ6は、燃料電池システム100の運転状態に基づいて、燃料電池1の目標出力電力を算出する。さらに、コントローラ6は、走行モータ53の要求電力やカソードコンプレッサ25等の補機類の要求電力、バッテリ55の充放電要求等に基づいて、目標出力電力を算出する。
【0056】
さらに、コントローラ6は、上述の算出された目標出力電力に基づいて、予め定められた燃料電池1のIV特性(電流電圧特性)を参照して燃料電池1の目標出力電流を算出する。そして、コントローラ6は、燃料電池1の出力電流が目標出力電流となるように、DC/DCコンバータ56によって燃料電池1の出力電圧を制御し、走行モータ53や補機類に必要な電流を供給する制御を行う。
【0057】
また、コントローラ6は、燃料電池1の各電解質膜111や触媒層112A、113Aの湿潤度(含水量)が発電に適した状態となるように、カソードコンプレッサ25等を制御する。本実施形態におけるコントローラ6は、後に詳細に説明するが、特に触媒層112A、113Aの湿潤度と相関関係のあるアイオノマ抵抗値を算出する機能を備えている。
【0058】
さらに、本実施形態においてコントローラ6は、燃料電池1のインピーダンス計測にあたり、燃料電池1の出力電流及び出力電圧に所定周波数の交流信号を重畳する。
【0059】
そして、このコントローラ6は、燃料電池1の出力電圧に所定周波数の交流信号が重畳された値に対してフーリエ変換を施した電圧値を、出力電流にこれと同じ周波数の交流信号が重畳された値に対してフーリエ変換を施した電流値を除して、所定周波数における燃料電池1のインピーダンス値Zを算出する。
【0060】
なお、「周波数f」と「角周波数ω」との間にはω=2πfの関係があることは知られており、これらの間には無次元の定数2πを乗じた差異しかないため、以下では説明の簡略化のため、「周波数」と「角周波数」を同一視し、いずれを表す場合にも「ω」の記号を用いる。
【0061】
図4は、燃料電池セル10の簡易等価回路を示す模式図である。この簡易等価回路とは、実際の燃料電池1における電子輸送抵抗や接触抵抗等の回路要素を省略したものであって、特に、燃料電池1の主たる回路要素として電解質膜抵抗、カソード極113の反応抵抗、及び電気二重層容量のみを考慮して、モデルの簡略化を図った回路である。
【0062】
すなわち、この燃料電池セル10の簡易等価回路では、アイオノマ抵抗及び電子輸送抵抗等の燃料電池セル10の厚さ方向の分布に起因して発生する内部抵抗の影響は無視されている。
【0063】
さらに、本簡易等価回路ではアノード極112における反応抵抗や電気二重層容量は無視している。その理由としては、アノードガス流路121内のアノードガス濃度が発電に適した濃度となっている場合には、アノード極112側の反応抵抗値がカソード極113の反応抵抗値Ractと比較して非常に小さくなるので、これを無視しても燃料電池1の状態検出に大きな誤差を与えないと考えられるからである。
【0064】
さらに、このようにアノード極112側の反応抵抗値が非常に小さいことにより、アノード極112側の反応抵抗の部分に電流が流れやすくなる。すなわち、これは、当該反応抵抗と並列に配置される電気二重層容量成分には電流がほぼ流れないことを意味する。したがって、インピーダンス計測においてアノード極112の電気二重層容量成分を無視しても十分な精度を保つことができる。
【0065】
ここで、図4の等価回路モデルに基づく燃料電池1のインピーダンス(以下では簡易回路インピーダンスとも記載する)Zの式は、
【数1】
で与えられる。
【0066】
この式(1)の実部をとって変形すると、電解質膜抵抗値Rmは、
【数2】
と表される。また、式(1)の虚部をとれば、
【数3】
が得られる。
【0067】
ただし、Zre、Zimはそれぞれ燃料電池1のインピーダンスの実部と虚部、ωは交流信号の角周波数、Ractはカソード極の反応抵抗値、及びCdlはカソード極113の電気二重層容量値を意味する。
【0068】
したがって、燃料電池1のインピーダンスZの計測を2点の周波数で行うことで、インピーダンス計測値の実部と虚部の2組(Zre1,Zim1)、(Zre2,Zim2)が得られるので、これらを式(2)及び式(3)に適用すれば電解質膜抵抗値Rmを求めることができる。
【0069】
特に、式(1)に基づいて定まる複素平面上のインピーダンス曲線(以下では、等価回路インピーダンス曲線とも記載する)は、中心がRm+Ract/2、半径がRact/2の複素平面上の円を表すので、当該円と実軸との交点はRmとなる。これは、十分大きな値の高周波数ωHをインピーダンス計測も用いれば、実部インピーダンスの計測値Zre(ωH)が、電解質膜抵抗値Rmと一致することを意味する。なお、このことは式(2)においてωを十分に大きい値とすると右辺第2項が0に近づき、Rm≒Zreとなることからも明らかである。
【0070】
しかしながら、図4に示す燃料電池1の簡易等価回路では、アイオノマ抵抗値、並びに電解質膜111、ガス拡散層113B、及び触媒層113Aにおける電子輸送抵抗値(以下ではこれを単に電解質膜111の電子輸送抵抗値と記載する)等の燃料電池の厚さ方向の分布に起因して発生する内部抵抗の値の影響を無視しているので、上述のように十分大きな値の高周波数ωHにおける実部インピーダンス計測値Zre(ωH)に基づいて算出された電解質膜抵抗値Rmの値が、燃料電池1が有する真の電解質膜抵抗の値に必ずしも精度良く一致していないことがわかった。
【0071】
そして本発明者らは、上述の簡易等価回路に基づいて定めた電解質膜抵抗値Rmは、実際には燃料電池1の真の電解質膜抵抗値に、アイオノマ抵抗成分及び電解質膜111の電子輸送抵抗成分を加えてなる値(以下、仮定高周波数インピーダンス値Rcell,supと記載する)に相当することを見出した。
【0072】
したがって以下では、簡易等価回路に基づいて定めた電解質膜抵抗値Rmを仮定高周波数インピーダンス値Rcell,supと記載し、燃料電池1の真の電解質膜抵抗を意味する記号としては「Rmem」を用いて明確に区別する。すなわち、仮定高周波数インピーダンス値Rcell,supは、真の電解質膜抵抗値Rmem、アイオノマ抵抗値Rion、及び電解質膜111の電子輸送抵抗値の総和に等しい。
【0073】
燃料電池1の真の電解質膜抵抗値Rmemを精度良く推定するにはアイオノマ抵抗値Rion、及び電解質膜111の電子輸送抵抗値を除外する必要がある。ここで、例えば、アイオノマ抵抗値RionはプロトンH+が触媒層113A中を移動することに起因して生じる抵抗であることが知られており、これを正確に検出するには、触媒層113Aの厚さ方向におけるPt(反応サイト)の分布を考慮しなければならない。
【0074】
図5は、電解質膜111の触媒層113Aの厚さが大きくなるとアイオノマ抵抗値が増大することの原理を説明する図である。図を参照すればわかるように、電解質膜111から遠いPt(白金)上で反応が生じる場合は、プロトンH+は、アイオノマ中を長い距離移動しなければならず、反応効率が低下することとなる。一方で、電解質膜111から近いPt上に反応が集中しすぎてしまうと、プロトンH+及び局所酸素流束が増大し、エネルギーロスが大きくなり、反応効率が低下すると考えられる。
【0075】
上述のように、プロトンH+がアイオノマ中を長い距離移動したり、電解質膜111から近いPt上に集中したりすると反応効率が低下するので、反応は、このような効率の低下が生じないよう厚さ方向に一定程度の均一な分布を持つように進行する傾向にある。
【0076】
上記の考察によれば、触媒層113Aの厚さが大きくなると、プロトンH+が厚さ方向に均一な分布を示す作用に基づいてアイオノマ中の移動距離が増大することとなるので、アイオノマ抵抗値が大きくなることが理解される。
【0077】
図6は、燃料電池セル10の厚さ方向の分布も考慮された分布定数系の等価回路を示す。すなわち、当該等価回路は、アイオノマ抵抗、及び電解質膜111の電子輸送抵抗等の影響を考慮した、現実の燃料電池セル10の特性をより精度良く表した回路である。
【0078】
図示のように、当該等価回路においては、カソード極113では、各々が反応抵抗要素及び電気二重層容量要素を備えた反応サイトA1〜Anが設定されている。すなわち、カソード極113の厚みに対応して複数の反応サイトA1〜Anを設定し、モデルの高精度化が図られている。また、当該等価回路においては、アイオノマ抵抗及び電解質膜111の電子輸送抵抗も考慮されており、カソード極113と同様に燃料電池セル10の厚さが考慮され、それぞれが複数の抵抗素子(図ではn−1個)として設定されている。
【0079】
なお、カソード極113におけるそれぞれの反応抵抗要素に対応する反応抵抗値には、Ract,a1、Ract,a2、・・・Ract,anの符号を付し、電気二重層容量要素に対応する電気二重層容量値には、Cdl,a1、Cdl,a2、・・・Cdl,anの符号を付す。また、同様に、アイオノマ抵抗値にはRion,a1、Rion,a2、・・・Rion,an-1の符号を付し、電解質膜111の電子輸送抵抗値にはRm,eleの符号を付す。なお、図中のRg,ele,a1、Rg,ele,a2、・・・Rg,ele,an-1の符号は、触媒層113A内のPtを担持するカーボンが作る構造に起因する電子輸送抵抗値を意味する。
【0080】
ここで、一般に電気二重層容量素子におけるインピーダンス値は、1/(ωCdl)の式で表されることが知られている。したがって、この式を見れば明らかなように、電気二重層容量素子におけるインピーダンス値は周波数が高いほど小さくなる。
【0081】
これにより、当図において電解質膜111に比較的近いカソード極113の反応サイトA1に着目すると、高周波数になれば当該反応サイトA1全体におけるインピーダンス(すなわちRact,a1とCdl,a1の合成抵抗)の値も低下する。すなわち、電解質膜111に近い反応サイトA1には、高周波数の入力であるほど電流が流れやすくなることがわかる。また、電解質膜111から遠い反応サイトAnに流れる電流は、全てのアイオノマ抵抗素子を通過していることとなる。したがって、上述のように、反応サイトA1側に比較的電流が流れやすい高周波数の場合においては、逆に反応サイトAnには電流が流れにくくなる。
【0082】
ここで、図7は、図4の簡易等価回路に基づいて定められる虚部インピーダンス値の周波数特性を示すグラフである。ここでは、図に破線で示す直線は、上述の簡易等価回路に基づく式(3)を図示したものである。すなわち、この直線の傾きは1/Cdl2actで与えられ、切片はCdlで与えられる。
【0083】
図に示す曲線は、燃料電池1において予め複数周波数ωで計測した虚部インピーダンス計測値Zim(ω)をプロットして結んで描かれている。また、このように、複数周波数点で計測した虚部インピーダンス計測値Zim(ω)を用いれば、上述の簡易等価回路の式(1)から得られる虚部インピーダンスZimに基づいて、電気二重層容量値Cdl及び反応抵抗値Ractを求めることができる。なお、このようにして求められた電気二重層容量値Cdl及び反応抵抗値Ractを用いて上記直線の傾き1/Cdl2act及び切片Cdlも求められる。
【0084】
図示のように、四角形のプロットを結ぶ線は、簡易等価回路に基づく直線に対して相対的に低い周波数領域では一致しているものの、高い周波数領域では一致しておらず、急速に値が減少して乖離している。これはつまり、図4に示す簡易等価回路は、相対的に低い周波数領域では現実の燃料電池を良好にモデル化しているものの、相対的に高い周波数領域では良好なモデル化となっていないことを意味する。
【0085】
本発明者らは、図4に示す簡易等価回路が相対的に高い周波数領域でモデルとしての精度が低くなる理由として、図6における分布定数系の等価回路において考慮されていた電解質膜111の電子輸送抵抗値Rm,eleやアイオノマ抵抗値Rion,a1〜Rion,anの影響が高い周波数領域で無視できないほど大きくなることが要因であると考えている。なお、触媒層113A内のカーボンに起因する電子輸送抵抗値Rg,ele,a1、Rg,ele,a2、・・・Rg,ele,an-1は、電解質膜111の電子輸送抵抗値Rm,eleやアイオノマ抵抗値Rion,a1〜Rion,anと比べて値が非常に小さい。したがって、これら電子輸送抵抗値Rg,ele,a1、Rg,ele,a2、・・・Rg,ele,an-1を無視しても、現実のモデルに対して大きな誤差は生じないので、本実施形態では、電子輸送抵抗値Rg,ele,a1、Rg,ele,a2、・・・Rg,ele,an-1を無視する。
【0086】
図8には、簡易等価回路に燃料電池1の状態量の計測値を当てはめて定まるインピーダンス曲線(等価回路インピーダンス曲線C1とも記載する)、予め所定条件の下で測定されたインピーダンスの実測値に基づくインピーダンス曲線(実測インピーダンス曲線C2とも記載する)、及び実測インピーダンス曲線におい電解質膜111の電子輸送抵抗値Rm,eleの影響を除外したと仮定した場合のインピーダンス曲線(以下、電子輸送抵抗除外インピーダンス曲線C3とも記載する)を示す。
【0087】
なお、図においては、等価回路インピーダンス曲線C1を破線、実測インピーダンス曲線C2を実線、及び電子輸送抵抗除外インピーダンス曲線C3を一点鎖線で示す。ここで、各インピーダンス曲線は、図面の簡略化のため一部分のみしか示していない。
【0088】
等価回路インピーダンス曲線C1は、上記簡易等価回路から得られるインピーダンスの式(1)又は式(2)及び式(3)に、円弧領域(低周波数領域)に属する少なくとも2点のインピーダンス計測値を適用することで設定する。
【0089】
具体的には、等価回路インピーダンス曲線C1は、例えば低周波数領域の2点の周波数ωL1及びωL2におけるインピーダンス計測値Z(ωL1)及びZ(ωL2)、特にその実部Zre(ωL1)及びZre(ωL2)と虚部Zim(ωL1)及びZim(ωL2)を簡易等価回路に基づくインピーダンスの式(2)及び式(3)に適用し、これにより得られた4つの式から、電気二重層容量Cdl、反応抵抗Ract、及び仮定高周波数インピーダンス値Rcell,supを求め、これらの値を式(1)に代入した得られた円弧曲線である。すなわち、特に、図8を参照すれば理解されるように、等価回路インピーダンス曲線C1と実軸との交点の値が仮定高周波数インピーダンス値Rcell,supに相当する。
【0090】
実測インピーダンス曲線C2は、上記等価回路インピーダンス曲線C1を得た燃料電池1に対し、複数の周波数においてインピーダンス計測を行い、得られた複数のインピーダンス計測値を複素平面上にプロットして描いた曲線である。なお、この実測インピーダンス曲線C2は、通常、多数の周波数におけるインピーダンス計測値を必要とするため、燃料電池1を車載した状態で作成することは難しい。したがって、この実測インピーダンス曲線C2としては、例えば燃料電池1と同種の燃料電池に対して予め実験的にインピーダンス計測を行うことで作成したデータを用いる。
【0091】
電子輸送抵抗除外インピーダンス曲線C3は、実測インピーダンス曲線C2に対して電子輸送抵抗値Rm,eleの影響を除外した曲線である。本発明者らは、電子輸送抵抗除外インピーダンス曲線C3が実測インピーダンス曲線C2に対して、電子輸送抵抗値Rm,eleの影響分実軸負方向へ平行移動させた差異しかないことを見出した。すなわち、実測インピーダンス曲線C2と実軸との交点の値である実測高周波数インピーダンス値Rcell,actは、電解質膜抵抗値Rmemに電子輸送抵抗値Rm,eleを加えた値となっている。
【0092】
そして、実測インピーダンス曲線C2は、相対的に低周波数の円弧領域においては、上記等価回路インピーダンス曲線C1に略一致している。しかしながら、実測インピーダンス曲線C2は、相対的に高周波数の非円弧領域L2においては、直線状部分を形成しており、等価回路インピーダンス曲線C1からずれている。
【0093】
このような非円弧領域L2が形成される理由として、上述のように簡易等価回路に基づいて設定された等価回路インピーダンス曲線C1では、燃料電池セルの厚さ方向における分布に基づくアイオノマ抵抗の影響が考慮されていないため、当該アイオノマ抵抗の影響に起因する誤差が高周波数の領域において大きくなったために生じたものである。
【0094】
以上のことから、本発明者らの鋭意研鑽の結果、周波数ωを最も大きくした実軸上の部分において、等価回路インピーダンス曲線C1と実軸との交点の値である仮定高周波数インピーダンス値Rcell,supと実測インピーダンス曲線C2と実軸との交点の値である実測高周波数インピーダンス値Rcell,actとの差をとることで、電解質膜111の電子輸送抵抗値Rm,ele及び電解質膜抵抗値Rmemが打ち消されて、アイオノマ抵抗値Rion,a1〜Rion,an(以下ではこれらをまとめてRionとも記載する)が求められることが見出された。このようにして求めたアイオノマ抵抗値Rionは、他の抵抗成分を含まず高精度である。
【0095】
さらに、アイオノマ抵抗値Rionは、燃料電池1の湿潤状態に相関するので、このように高精度のアイオノマ抵抗値Rionを燃料電池1の湿潤状態の推定に用いることができ、湿潤状態を高精度に推定することができる。
【0096】
以下では、上述のアイオノマ抵抗値Rionの推定及び推定されたアイオノマ抵抗値Rionに基づく湿潤状態の推定の詳細を説明する。
【0097】
(第1の実施形態)
図9は、第1実施形態に係る燃料電池1のアイオノマ抵抗値Rionの推定の流れを示すフローチャートである。なお、以下のステップS101〜ステップS103は、コントローラ6により実行される。
【0098】
図示のように、先ずステップS101において、非円弧領域L2における周波数のインピーダンス計測値を用いて、上述の実測高周波数インピーダンス値Rcell,actが求められる。
【0099】
図10は、この実測高周波数インピーダンス値Rcell,actを求める詳細な流れを示すフローチャートである。本実施形態に係る実測高周波数インピーダンス値Rcell,actの推定は、図に示すステップS1011〜ステップS1014にしたがい行われる。
【0100】
先ず、ステップS1011において、コントローラ6は、インピーダンス測定タイミングにおいて、燃料電池1から出力される出力電流及び出力電圧に非円弧領域L2(高周波数領域)の周波数ωH(数kHz〜数十kHz)の信号が重畳されるようにDC/DCコンバータ56を制御する。
【0101】
なお、周波数ωHは、できるだけ大きい値であることがより好ましく、したがって数十kHzであることが好ましい。このように周波数の値が高いほど、当該周波数が表す複素平面上の点が、実測インピーダンス曲線C2と実軸との交点に近づくこととなる。
【0102】
ステップS1012において、コントローラ6は、電流センサ51で測定された出力電流の電流値Ioutにフーリエ変換処理を施し、電流振幅値Iout(ωH)を算出する。
【0103】
ステップS1013において、電圧センサ52で測定された出力電圧Voutにフーリエ変換処理を施し、電圧振幅値Vout(ωH)を算出する。
【0104】
ステップS1014において、上記電圧振幅値Vout(ωH)を電流振幅値Iout(ωH)で除してインピーダンスZ(ωH)を算出し、この実数成分Zre(ωH)を燃料電池1の実測高周波数インピーダンス値Rcell,actとして決定する。
【0105】
図9に戻り、ステップS102において、低周波数領域である円弧領域における周波数のインピーダンス計測値を用いて、上述の仮定高周波数インピーダンス値Rcell,supが求められる。
【0106】
なお、本実施形態において、上述のように円弧領域においては、実測インピーダンス曲線C2が等価回路インピーダンス曲線C1に略一致する。
【0107】
図11は、この仮定高周波数インピーダンス値Rcell,supを求める流れを示すフローチャートである。本実施形態に係る実測高周波数インピーダンス値の推定は、図に示すステップS1021〜ステップS1025にしたがい行われる。
【0108】
先ず、ステップS1021において、コントローラ6は、インピーダンス測定タイミングにおいて、燃料電池1から出力される出力電流及び出力電圧に円弧領域の2つの周波数ωL1、ωL2(数Hz〜数十Hz)の信号がそれぞれ重畳されるようにDC/DCコンバータ56を制御する。
【0109】
ステップS1022において、コントローラ6は、周波数ωL1の交流信号が重畳された場合に電流センサ51で測定される出力電流の電流値Ioutにフーリエ変換処理を施し、電流振幅値Iout(ωL1)を算出する。また、周波数ωL2の交流信号が重畳された場合に電流センサ51で測定される出力電流の電流値Ioutにフーリエ変換処理を施し、電流振幅値Iout(ωL2)を算出する。
【0110】
ステップS1023において、コントローラ6は、周波数ωL1の交流信号が重畳された場合に電圧センサ52で測定される出力電圧の値Voutにフーリエ変換処理を施し、電圧振幅値Vout(ωL1)を算出する。また、周波数ωL2の交流信号が重畳された場合に電圧センサ52で測定される出力電圧の値Voutにフーリエ変換処理を施し、電流振幅値Vout(ωL2)を算出する。
【0111】
ステップS1024において、電圧振幅値Vout(ωL1)を電流振幅値Iout(ωL1)で除してインピーダンスZ(ωL1)を算出し、電圧振幅値Vout(ωL2)を電流振幅値Iout(ωL2)で除してインピーダンスZ(ωL2)を算出する。
【0112】
ステップS1025において、2つのインピーダンスZ(ωL1)及びインピーダンスZ(ωL2)に基づいて仮定高周波数インピーダンス値Rcell,supを求める。具体的には、測定されたインピーダンスZ(ωL1)及びインピーダンスZ(ωL2)を、簡易等価回路に基づくインピーダンスの式(2)及び式(3)に適用して得られた方程式を解き、未知数の一つであるRcell,sup(式(2)ではRm)を求める。
【0113】
先ず、式(3)に基づけば、(1/ω2)を横軸、(−1/ωZim)を縦軸とする座標平面上において、傾きが(1/Cdlact2)、切片がCdlとなる。ここで、上述のインピーダンス測定値Z(ωL1)及びZ(ωL2)の虚数部分Zim(ωL1)及びZim(ωL2)を式(3)に適用することで、電気二重層容量Cdl及び反応抵抗Ractが算出される。
【0114】
なお、このように式(3)に2つのインピーダンス虚数部分Zim(ωL1)及びZim(ωL2)を適用すると未知数Cdl及びRactについての連立2次方程式が得られることから、正の値をとる未知数Cdl及びRactの解をそれぞれ2つ得ることができる。これら解の組み合わせを(Cdl-1,act-1)及び(Cdl-2,act-2)とすると、式(2)に基づいて当該組み合わせに対応して、仮定高周波数インピーダンス値Rcell,supの候補Rcell,sup-1,Rcell,sup-2が得られる。これらの中から状況に応じて適切な方を選択することができる。
【0115】
本実施形態では、特に、Rcell,sup-1とRcell,sup-2の平均値である(Rcell,sup-1+Rcell,sup-2)/2を仮定高周波数インピーダンス値Rcell,supとして用いることが好ましい。
【0116】
なお、上記のように求められた仮定高周波数インピーダンス値Rcell,supは、等価回路インピーダンス曲線C1と実軸との交点の値に一致することとなる(図8参照)。
【0117】
図9に戻り、ステップS103において、コントローラ6は、実測高周波数インピーダンス値Rcell,act及び仮定高周波数インピーダンス値Rcell,supに基づいてアイオノマ抵抗値Rionを推定する。具体的には、コントローラ6は、仮定高周波数インピーダンス値Rcell,supから実測高周波数インピーダンス値Rcell,actを減算した値、すなわち、Rcell,sup−Rcell,actをアイオノマ抵抗値Rionと推定する。
【0118】
本実施形態では、このように推定されたアイオノマ抵抗値Rionを燃料電池1の湿潤度wの推定に用いる。
【0119】
図12には、アイオノマ抵抗値Rionの値と燃料電池1の湿潤度wの関係を示す。図示のように、アイオノマ抵抗値Rionと燃料電池1の湿潤度wとの間には、負の相関関係がある。すなわち、アイオノマ抵抗値Rionの値を監視することで燃料電池1の湿潤状態を検出することができる。
【0120】
上記した本実施形態にかかる燃料電池1の状態検出装置、すなわちコントローラ6、電流センサ51、電圧センサ52、及びDC/DCコンバータ56から構成される状態検出装置によれば、以下の効果を得ることができる。
【0121】
本実施形態にかかる燃料電池1の状態検出装置では、コントローラ6が、燃料電池1のインピーダンス曲線C2の円弧領域に属するインピーダンス計測値Z(ωL1)、Z(ωL2)に基づいて、仮定高周波数インピーダンス値Rcell,supを設定する仮定高周波数インピーダンス値設定手段と、非円弧領域に属するインピーダンス計測値Z(ωH)に基づいて、実測高周波数インピーダンス値Rcell,actを求める実測高周波数インピーダンス値算出手段と、仮定高周波数インピーダンス値Rcell,supから実測高周波数インピーダンス値Rcell,actを減算した値Rcell,sup−Rcell,actをアイオノマ抵抗値Rionと推定するアイオノマ抵抗推定手段として機能する。そして、上記仮定高周波数インピーダンス値設定手段は、円弧領域におけるインピーダンス計測値Z(ωL1)、Z(ωL2)に基づいて設定される等価回路インピーダンス曲線C1と実軸との交点の値を仮定高周波数インピーダンス値Rcell,supとして設定する(上記ステップS102)。
【0122】
ここで、燃料電池1のインピーダンス曲線C2の円弧領域に属するインピーダンス計測値Z(ωL1)、Z(ωL2)に基づいて設定された等価回路インピーダンス曲線C1に関し、この等価回路インピーダンス曲線C1と実軸との交点の値として定まる仮定高周波数インピーダンス値Rcell,supには、電解質膜抵抗値Rmem及び電解質膜111の電子輸送抵抗値Rm,eleに加えてアイオノマ抵抗値Rionが含まれている。
【0123】
一方で、燃料電池1のインピーダンス曲線C2の非円弧領域L2に属するインピーダンス計測値Z(ωH)に基づいて設定された実測高周波数インピーダンス値Rcell,actには、電解質膜抵抗値Rmem及び電解質膜111の電子輸送抵抗値Rm,eleが含まれている。
【0124】
したがって、上述の仮定高周波数インピーダンス値Rcell,supから実測高周波数インピーダンス値Rcell,actを減算することで電解質膜抵抗値Rmem及び電子輸送抵抗値Rm,eleが打ち消され、アイオノマ抵抗値Rionを求めることができる。このようにして得られた高精度なアイオノマ抵抗値Rionを燃料電池1の状態検出に用いることができ、結果として高精度な燃料電池1の状態検出に資することとなる。
【0125】
また、本実施形態では特に、等価回路インピーダンス曲線C1は、燃料電池1の簡易等価回路(図4参照)から得られるインピーダンスの式(1)〜式(3)に、円弧領域に属するインピーダンス計測値Z(ωL1)、Z(ωL2)を適用することで設定される。このように、燃料電池1の簡易等価回路を用いて等価回路インピーダンス曲線C1を定めることで、等価回路インピーダンス曲線C1の設定に係る演算量が軽減する。結果として、等価回路インピーダンス曲線C1と実軸との交点の値である仮定高周波数インピーダンス値Rcell,supを得るための演算量を低減することができる。
【0126】
さらに、本実施形態では、等価回路インピーダンス曲線C1は、図4の簡易等価回路から得られるインピーダンス実部の式(2)、及びインピーダンス虚部の式(3)に、円弧領域の2点の周波数ωL1、及びωL2におけるインピーダンス計測値Z(ωL1)、Z(ωL2)の実部Zre(ωL1)、Zre(ωL2)及び虚部Zim(ωL1)、Zim(ωL2)を適用して設定される。
【0127】
このようにアノード極112の電気二重層容量や反応抵抗が省略された簡易等価回路に基づくインピーダンス実部の式(2)、及びインピーダンス虚部の式(3)に基づいて、等価回路インピーダンス曲線C1を設定することで、仮定高周波数インピーダンス値Rcell,supを得るための演算量をより低減させることができる。
【0128】
また、本実施形態では、仮定高周波数インピーダンス値設定手段は、円弧領域に属する2以上のインピーダンスZ(ωL1)、Z(ωL2)に基づき、それぞれ2以上の仮定高周波数インピーダンス値の候補Rcell,sup-1,Rcell,sup-2を求め、2以上の仮定高周波数インピーダンス値の候補Rcell,sup-1とRcell,sup-2の平均値(Rcell,sup-1+Rcell,sup-2)/2を、仮定高周波数インピーダンス値Rcell,supと設定する。これにより、仮定高周波数インピーダンス値Rcell,supの計測誤差が低減される。
【0129】
さらに、本実施形態では、実測高周波数インピーダンス値Rcell,actを求めるにあたり、非円弧領域L2における周波数としてωHを選択し、この周波数ωHのインピーダンスZ(ωH)を用いているが、これに限られず、例えば、非円弧領域においてωHよりも小さい2つの周波数ωH´、ωH´´のインピーダンス計測値Z(ωH´)、Z(ωH´´)を用いて実測高周波数インピーダンス値Rcell,actを算出するようにしても良い。この場合、図4の簡易等価回路から得られるインピーダンスの式(1)〜式(3)を用いた仮定高周波数インピーダンス値の算出と同様のプロセスで算出を行うことができる。
【0130】
特に、この場合、上記仮定高周波数インピーダンス値Rcell,supの算出の場合と同様に、実測高周波数インピーダンス値算出手段は、非円弧領域L2に属する2以上のインピーダンスZ(ωH´)、Z(ωH´´)に基づき、それぞれ2以上の実測高周波数インピーダンス値の候補Rcell,act-1,Rcell,act-2を求め、これらの平均値(Rcell,act-1+Rcell,act-2)/2を、実測高周波数インピーダンス値Rcell,actと推定するようにしても良い。これにより、実測高周波数インピーダンス値Rcell,actの計測誤差が減少される。
【0131】
一方で、上述の2以上の仮定高周波数インピーダンス値の候補Rcell,sup-1,Rcell,sup-2のうちの高い値の方を仮定高周波数インピーダンス値Rcell,supと設定するようにしても良い。これにより、仮定高周波数インピーダンス値Rcell,supを相対的に高く見積もることとなるので、Rcell,sup−Rcell,actとして推定されるアイオノマ抵抗値Rionの値も相対的に高く見積もられることとなる。したがって、図12のグラフに示す関係を参照すれば、湿潤度wが比較的低めに推定されることとなるので、燃料電池の乾燥状態を速やかに把握して過乾燥を防止する対策を施すことができる。
【0132】
さらに、上述のように、非円弧領域に属する2以上のインピーダンスZ(ωH´)、Z(ωH´´)に基づき、それぞれ2以上の実測高周波数インピーダンス値の候補Rcell,act-1,Rcell,act-2を求める場合において、得られる2以上の実測高周波数インピーダンス値の候補Rcell,act-1,Rcell,act-2の内の低い値の方を実測高周波数インピーダンス値Rcell,actと推定するようにしても良い。
【0133】
これにより、実測高周波数インピーダンス値Rcell,actを相対的に低く見積もることとなるので、Rcell,sup−Rcell,actとして算出されるアイオノマ抵抗値Rionの値がより高く見積もられることとなる。したがって、図12のグラフに示す関係を参照すれば、湿潤度wが比較的低めに推定されることとなるので、燃料電池1の乾燥状態を速やかに把握して過乾燥を防止する対策を施すことができる。
【0134】
一方で、上述の2以上の仮定高周波数インピーダンス値の候補(Rcell,sup-1,Rcell,sup-2)のうちの低い値の方を仮定高周波数インピーダンス値Rcell,supと推定するようにしても良い。これにより、仮定高周波数インピーダンス値Rcell,supを相対的に低く見積もることとなるので、Rcell,sup−Rcell,actとして算出されるアイオノマ抵抗値Rionの値も相対的に低く見積もられることとなる。したがって、図12のグラフに示す関係を参照すれば、湿潤度wが比較的高めに推定されることとなるので、燃料電池の湿潤状態を速やかに把握してフラッディング等を防止する対策を施すことができる。
【0135】
さらに、上述のように、非円弧領域に属する2以上のインピーダンスZ(ωH´)、Z(ωH´´)に基づき、それぞれ2以上の実測高周波数インピーダンス値の候補(Rcell,act-1,Rcell,act-2)を求める場合において、得られる2以上の実測高周波数インピーダンス値の候補(Rcell,act-1,Rcell,act-2)の内の高い値の方を実測高周波数インピーダンス値Rcell,actと推定するようにしても良い。
【0136】
これにより、実測高周波数インピーダンス値Rcell,actを相対的に高く見積もることとなるので、Rcell,sup−Rcell,actとして推定されるアイオノマ抵抗値Rionの値がより低く見積もられることとなる。したがって、図12のグラフに示す関係を参照すれば、湿潤度wが比較的高めに推定されることとなるので、燃料電池の湿潤状態を速やかに把握してフラッディングを防止する対策を施すことができる。
【0137】
なお、上述のように、過乾燥を防止するには、仮定高周波数インピーダンス値の候補Rcell,sup-1及びRcell,sup-2のうちの高い値を選択する一方で(セレクトハイ)、実測高周波数インピーダンス値の候補Rcell,act-1及びRcell,act-2のうちの低い値を選択する(セレクトロー)。しかし、フラッディングを防止するという観点では、仮定高周波数インピーダンス値をセレクトローとし、実測高周波数インピーダンス値をセレクトハイとする必要がある。
【0138】
したがって、燃料電池1が過乾燥に近い状態であるのか、或いはフラッディング(すなわち過湿潤)に近い状態であるのかを大まかに判断しつつ、セレクトロー及びセレクトハイの判断を行うことが好ましい。
【0139】
このような事情に鑑みて、例えば、既存のHFR計測等によって燃料電池1の湿潤状態を粗推定し、この粗推定の結果に基づいて上記セレクトロー及びセレクトハイの判断を行うようにしても良い。さらに、カソードガス流量、アノードガス流量、及び温度等の燃料電池1の運転条件に基づいて湿潤状態を粗推定し、この粗推定の結果に基づいて上記セレクトロー及びセレクトハイの判断を行うようにしても良い。
【0140】
(第2の実施形態)
以下では、第2の実施形態について説明する。なお、第1の実施形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。本実施形態では、特に、燃料電池1の劣化状態を考慮して、推定されたアイオノマ抵抗値Rionを補正する。
【0141】
このような補正を行う背景として、触媒層113Aが劣化することでアイオノマ抵抗値Rionの推定値が上昇するという点が挙げられる。すなわち、本来であれば、アイオノマ抵抗値Rionと湿潤度wとの関係は図12に示す負の相関関係にあるので、アイオノマ抵抗値Rionを推定することができれば、当該推定値に基づき湿潤度wを推定するも可能である。しかしながら、上記触媒層113Aの劣化が生じると湿潤度wの値とは関係なく、アイオノマ抵抗値Rionが上昇してしまうことがある。
【0142】
したがって、本実施形態では、アイオノマ抵抗値Rionが湿潤度wに精度良く対応する状態となるように、触媒層113Aの劣化によるアイオノマ抵抗値Rionの上昇分を除外する補正を行う。
【0143】
図13は、本実施形態におけるアイオノマ抵抗値補正用のデータを作成する流れを示したフローチャートである。なお、アイオノマ抵抗値の補正用のデータの作成は、例えば、燃料電池1が車載される前に行われるものである。
【0144】
また、図14には、アイオノマ抵抗値Rionの時間変化の様子を模式的に示したグラフである。
【0145】
ステップS1101において、コントローラ6は、基準運転条件下においてアイオノマ抵抗値を推定する。ここで、基準運転条件下におけるアイオノマ抵抗値とは、図13に示す時刻t=0の基準アイオノマ抵抗値(Riont=0、すなわち、燃料電池1の最初の作動時等の触媒層113Aが生じる前に、上記ステップS101〜ステップS103の方法で推定されるアイオノマ抵抗値である。
【0146】
また、「基準運転条件」とは、加速時等の高負荷状態ではなく、通常走行時等の通常負荷状態、又は慣性走行時等の低負荷状態を想定した燃料電池1の発電条件である。特に、カソード調圧弁28やアノード調圧弁33の開閉制御によるアノードガスやカソードガスの供給量調整、又はDC/DCコンバータ56による燃料電池1の出力電圧の制御を行うことにより、この基準運転条件を実現することができる。
【0147】
ステップS1102において、コントローラ6は、上記基準アイオノマ抵抗値(Riont=0の推定の後で、燃料電池1を作動させて時間tが経過した後、アイオノマ抵抗値Rionを推定する。基準アイオノマ抵抗値(Riont=0の推定の後において燃料電池1の作動にともない、触媒層113Aの劣化が進行するので、アイオノマ抵抗値Rionが上昇する(図14参照)。ここでは、この時間tにおける上昇したアイオノマ抵抗値Rionを推定する。以下では、この時間tで推定されたアイオノマ抵抗値Rionを「劣化後アイオノマ抵抗値(Riont」とも記載する。
【0148】
ステップS1103において、コントローラ6は、推定された劣化後アイオノマ抵抗値(Riontから上記基準アイオノマ抵抗値(Riont=0を減算して劣化による増分ΔRion(t)を求める。なお、本実施形態では、上記ステップS1102及びステップS1103を経時的に実行して、この増分ΔRion(t)を時間の関数として求める。
【0149】
ステップS1104において、求めた増分ΔRion(t)をコントローラ6の図示しないメモリ等に記憶させる。
【0150】
以降においては、この増分ΔRion(t)がアイオノマ抵抗値補正用のデータとして用いられる。具体的には、例えば新たに車載された燃料電池1をしばらく作動させた後において、劣化によるアイオノマ抵抗値Rionの増分の演算を行うことなく、上記記憶された増分ΔRion(t)を補正用データとして用いてアイオノマ抵抗値Rionの補正を行う。以下では、このアイオノマ抵抗値補正用のデータを用いたアイオノマ抵抗値の補正の詳細を説明する。
【0151】
図15は、アイオノマ抵抗値の補正の流れを示したフローチャートである。
【0152】
ステップS1111において、コントローラ6は、燃料電池1を作動させて所定時間tが経過した後のアイオノマ抵抗値Rionを推定する。以下では、この推定された値を「現在アイオノマ抵抗値(Rioncur」とも記載する。なお、この現在アイオノマ抵抗値(Rioncurの推定も、上述の図9に示したステップS101〜ステップS103と同様の方法で行われる。また、本実施形態では、現在アイオノマ抵抗値(Rioncurを推定した時における燃料電池1の作動時間tが図示しないメモリ等に記憶される。
【0153】
ステップS1112において、コントローラ6のメモリ等から上記ステップS1204で記憶されていた増分ΔRion(t)を読み出す。特に、本実施の形態では、燃料電池1の作動時間tに対応する増分ΔRion(t)をコントローラ6のメモリ等から読み出す。
【0154】
ステップS1113において、上述の現在アイオノマ抵抗値(Rioncurから増分ΔRion(t)を減算して、補正された真のアイオノマ抵抗値(Riontruを算出する。
【0155】
したがって、燃料電池1の作動時間tが経過した後における現在アイオノマ抵抗値(Rioncurに触媒層113Aの劣化による影響が含まれている場合であっても、この現在アイオノマ抵抗値(Rioncurから増分ΔRion(t)を減算することで、触媒層113Aの劣化による影響が含まれない真のアイオノマ抵抗値(Riontruを求めることができる。
【0156】
上記した本実施形態にかかる燃料電池の状態検出装置によれば、以下の効果を得ることができる。
【0157】
本実施形態によれば、コントローラ6は、さらにアイオノマ抵抗補正手段として機能する。このアイオノマ抵抗補正手段は、基準運転条件下で推定された基準アイオノマ抵抗値(Riont=0と、該基準運転条件下における推定から燃料電池1を所定時間作動させた後に推定された劣化後アイオノマ抵抗値(Riontを比較することでアイオノマ抵抗値の増分ΔRion(t)を求め、アイオノマ抵抗値の現在推定値(Rioncurからこの増分ΔRion(t)を減算して補正し、真のアイオノマ抵抗値(Riontruを求める。
【0158】
これにより、劣化によるアイオノマ抵抗値Rionの上昇分を除外して、真に湿潤度wに対応する真のアイオノマ抵抗値(Riontruの値を高精度に求めることができ、結果として燃料電池1の湿潤状態の推定精度がより向上することとなる。
【0159】
特に、本実施形態では、上記燃料電池1の劣化状態は、触媒層113Aの劣化状態であので、上記補正によりアイオノマ抵抗値Rionの上昇を助長する触媒層113Aの劣化状態の影響を確実に取り除くことができる。
【0160】
なお、本実施形態では、特に燃料電池1の劣化状態として触媒層113Aの劣化状態を想定した場合を説明したが、これに限られず、例えば、ガス拡散層及びセパレータ等の電子輸送抵抗の要因となる他の構成の劣化状態を想定するようにしても良い。この場合において、別途、上記電子輸送抵抗の値を評価し、この評価結果を考慮してアイオノマ抵抗値Rionの上昇分を見積もり、当該アイオノマ抵抗値Rionの上昇分を、推定されたアイオノマ抵抗値(Rioncurから減算して真のアイオノマ抵抗値(Riontruを求めるようにしても良い。
【0161】
(第3の実施形態)
以下、第3の実施形態について説明する。なお、第1又は第2の実施形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。本実施形態では、燃料電池1のガス拡散層113Bやセパレータ13等の電子抵抗への寄与の大きい要素が劣化することによる電解質膜抵抗値Rmemの上昇分を考慮して、推定された電解質膜抵抗値Rmemを補正する。
【0162】
図16は、電解質膜抵抗値Rmemと湿潤度wとの関係を示す。図示のように、電解質膜抵抗値Rmemと湿潤度wとの関係は図に示す負の相関関係にある。したがって、上述のようにアイオノマ抵抗値Rionを用いて湿潤度wを推定することができれば、この湿潤度wの推定値に基づき電解質膜抵抗値Rmemを推定することが可能である。
【0163】
一方で、燃料電池1の各種制御に用いる電解質膜抵抗値Rmemとしては、図10のステップS1011〜ステップS1014により求められた実測高周波数インピーダンス値Rcell,actを採用することが通常である。しかしながら、実測高周波数インピーダンス値Rcell,actには、既に説明したように電子輸送抵抗成分が含まれているので、ガス拡散層113Bやセパレータ13等の要素の劣化が生じるとその値が上昇することとなる。
【0164】
このような事情に鑑みて本実施形態では、上述のアイオノマ抵抗値Rionに基づく湿潤度wを用いて推定された電解質膜抵抗値Rmemを使用して、実測高周波数インピーダンス値Rcell,actから劣化による電子輸送抵抗の増分を除外するように補正を行う。
【0165】
図17には、本実施形態における電解質膜抵抗値補正用のデータを作成する流れを示したフローチャートである。なお、電解質膜抵抗値補正用のデータの作成は、例えば、燃料電池1が車載される前に行われるものであり、各推定や測定は、上記第2実施形態において説明した基準運転条件の下、行われることが好ましい。
【0166】
また、図18には、実測高周波数インピーダンス値Rcell,actの時間変化の様子を模式的に示したグラフである。
【0167】
ステップS1201において、コントローラ6は、燃料電池1の作動開始時において、アイオノマ抵抗値Rionに基づき推定された湿潤度wから、図16に示した電解質膜抵抗値と燃料電池1の湿潤度wとの関係に基づき、電解質膜抵抗値Rmemを推定する。なお、推定に用いられるアイオノマ抵抗値Rionは、図9のステップS103において推定された値でも良いし、図15のステップS1113において求めた真のアイオノマ抵抗値(Riontruを用いても良い。また、このように推定された電解質膜抵抗値Rmemを基準電解質膜抵抗値(Rmemcriとして設定する。
【0168】
ステップS1202において、コントローラ6は、上記基準電解質膜抵抗値(Rmemcriの推定の後で、燃料電池1を作動させて時間tが経過した後、実測高周波数インピーダンス値Rcell,actを求める。基準電解質膜抵抗値(Rmemcriの推定の後において燃料電池1の作動にともない、ガス拡散層113Bやセパレータ13等の要素の劣化が進行するので、実測高周波数インピーダンス値Rcell,actが上昇する(図18参照)。ここでは、この時間tにおける上昇した実測高周波数インピーダンス値Rcell,actを推定する。以下では、この時間tで推定された実測高周波数インピーダンス値Rcell,actを「劣化後実測高周波数インピーダンス値(Rcell,actt」とも記載する。なお、実測高周波数インピーダンス値Rcell,actを求める具体的方法は、図10のステップS1011〜ステップS1014において説明した方法と同一である。
【0169】
ステップS1203において、コントローラ6は、推定された劣化後実測高周波数インピーダンス値(Rcell,acttから上記基準電解質膜抵抗値(Rmemcriを減算して劣化による差分ΔRe(t)を求める。なお、本実施形態では、上記ステップS1202及びステップS1203を経時的に実行して、この差分ΔRe(t)を時間の関数として求める。
【0170】
ステップS1204において、求めた差分ΔRe(t)をコントローラ6の図示しないメモリ等に記憶させる。
【0171】
以降においては、この差分ΔRe(t)が電解質膜抵抗値補正用のデータとして用いられる。具体的には、例えば新たに車載された燃料電池1をしばらく作動させた後において、劣化による実測高周波数インピーダンス値Rcell,actの増分の演算を行うことなく、上記記憶された差分ΔRe(t)を補正用データとして用いてΔRe(t)の補正を行う。以下では、この補正用データを用いた電解質膜抵抗値(実測高周波数インピーダンス値)の補正の詳細を説明する。
【0172】
図19は、アイオノマ抵抗値の補正の流れを示したフローチャートである。
【0173】
ステップS1211において、コントローラ6は、燃料電池1を作動させて所定時間tが経過した後の実測高周波数インピーダンス値Rcell,actを求める。以下では、この求めた値を「現在高周波数インピーダンス値(Rcell,actcur」とも記載する。
【0174】
なお、本実施形態では、現在高周波数インピーダンス値(Rcell,actcurを推定した時における燃料電池1の作動時間tが図示しないメモリ等に記憶される。
【0175】
ステップS1212において、コントローラ6は、コントローラ6のメモリ等から上記ステップS1204で記憶されていた差分ΔRe(t)を読み出す。特に、本実施の形態では、燃料電池1の作動時間tに対応する差分ΔRe(t)をコントローラ6のメモリ等から読み出す。
【0176】
ステップS1213において、コントローラ6は、上述の現在高周波数インピーダンス値(Rcell,actcurから差分ΔRe(t)を減算して、補正された真の電解質膜抵抗値(Rmemtruを算出する。
【0177】
したがって、燃料電池1の作動時間tが経過した後における現在高周波数インピーダンス値(Rcell,actcurにガス拡散層113Bやセパレータ13等の要素の劣化による影響が含まれている場合であっても、この現在高周波数インピーダンス値(Rcell,actcurから差分ΔRe(t)を減算することで、上記劣化による影響が含まれない真の電解質膜抵抗値(Rmemtruを求めることができる。
【0178】
上記した本実施形態にかかる燃料電池の状態検出装置によれば、以下の効果を得ることができる。
【0179】
本実施形態によれば、コントローラ6は、さらに電解質膜抵抗値Rmemを推定する電解質膜抵抗推定手段として機能する。そして、コントローラ6は、推定されたアイオノマ抵抗値Rion又は(Riontruと燃料電池1の湿潤度wとの関係に基づいて設定された基準電解質膜抵抗値(Rmemcriと、該設定時から燃料電池1を所定時間稼動させた後に推定された劣化後実測高周波数インピーダンス値(Rcell,acttと、を比較することで実測高周波数インピーダンス値の差分ΔRe(t)を求め、実測高周波数インピーダンス値の現在測定値(Rcell,actcurからこの差分ΔRe(t)を減算することで真の電解質膜抵抗値(Rmemtruを求める。
【0180】
これによれば、燃料電池1のガス拡散層113Bやセパレータ13等の電子部品の劣化に起因する電子輸送抵抗の増加による電解質膜抵抗値の差分ΔRe(t)を高精度に見積もることができる。そして、この差分ΔRe(t)を実測高周波数インピーダンス値から除去して補正を行うことで、実測高周波数インピーダンス値を現実の電解質膜抵抗値に高精度に一致させることができる。結果として、このように補正された実測高周波数インピーダンス値を真の電解質膜抵抗値として用いることで、燃料電池1の種々の制御をより好適に行うことができる。
【0181】
(第4の実施形態)
以下、第4の実施形態について説明する。なお、第1、第2、又は第3の実施形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。本実施形態では、インピーダンス計測に用いる2以上の周波数が、実測インピーダンス曲線C2の円弧領域に属するものであるのか、又は非円弧領域に属するものであるかを判定する処理が行われる。
【0182】
すなわち、本実施形態では、上記仮定高周波数インピーダンス値Rcell,supや実測高周波数インピーダンス値Rcell,actを求めるに際して用いるインピーダンスの計測用の周波数が、実測インピーダンス曲線C2の円弧領域に属するものであるのか、又は非円弧領域に属するものかを適切に判定する。これにより、結果としてこれらインピーダンス値を用いて求められるアイオノマ抵抗値Rionの精度の向上が図られる。
【0183】
本実施形態では特に、説明を簡略化する目的で、ある2つの周波数ω1、ω2(ω1<ω2)が実測インピーダンス曲線C2の円弧領域に属するか、又は実測インピーダンス曲線C2の非円弧領域L2に属するかについて判定する処理を説明する。しかしながら、3つ以上の周波数についても本実施形態の方法を同様に適用することができる。
【0184】
図20は、インピーダンス計測に用いる2つの周波数ω1、ω2が、実測インピーダンス曲線C2の円弧領域に属するか、又は実測インピーダンス曲線C2の非円弧領域に属するかを判定する流れを示すフローチャートである。ステップS1301〜ステップS1308の処理は、コントローラ6により実行される。
【0185】
ステップS1301において、2つの周波数ω1、ω2におけるインピーダンスZ(ω1)及びZ(ω2)を計測する。なお、インピーダンス計測の具体的な方法は、例えば図10におけるステップS1021〜ステップS1024におけるインピーダンス計測と同様の手法で行われる。
【0186】
ステップS1302において、複素平面上でインピーダンス値Z(ω1)及びZ(ω2)を結ぶ直線Lを設定する。
【0187】
ステップS1303において、直線Lの実軸との交点の座標αと、実測高周波数インピーダンス値Rcell,actとの大きさの比較が行われる。
【0188】
ステップS1304において、上記交点の座標αが実測高周波数インピーダンス値Rcell,actと実質的に一致すると判定されると、ステップS1305に進み、周波数ω1及びω2の双方がともに、非円弧領域L2に属すると判定される。
【0189】
図21には、直線Lの実軸との交点の座標αが実測高周波数インピーダンス値Rcell,actと一致する態様が示されている。
【0190】
図から明確に理解されるように、実測インピーダンス曲線C2の非円弧領域L2は直線状部分として形成されていることから、直線Lの実軸との交点の座標αとRcell,actと実質的に一致する場合には、インピーダンス値Z(ω1)及びZ(ω2)を結ぶ直線Lが非円弧領域L2に一致することとなる。したがって、直線L上のインピーダンス値Z(ω1)及びZ(ω2)は必然的に非円弧領域L2上に存在することとなる。
【0191】
一方、上記ステップS1304において座標αが実測高周波数インピーダンス値Rcell,actと実質的に一致していないと判定されると、ステップS1306に進み、座標αが実測高周波数インピーダンス値Rcell,actより大きいかどうかが判定される。
【0192】
そして、交点の座標αが実測高周波数インピーダンス値Rcell,actより大きいと判定されると、ステップS1307に進み、相対的に小さい値の周波数ω1が少なくとも円弧領域に属すると判定される。
【0193】
図22には、直線Lの実軸との交点の座標αが実測高周波数インピーダンス値Rcell,actより大きい場合の態様が示されている。図からも明らかなように、周波数ω1は円弧領域に属する。一方で、図において周波数ω2は非円弧領域L2上にあるが、直線Lの実軸との交点の座標αの値が一定以上大きくなると、円弧領域上に存在することとなる。
【0194】
一方で、上記ステップS1306において交点の座標αが実測高周波数インピーダンス値Rcell,actより小さいと判定されると、ステップS1308に進み、周波数ω1及びω2の双方がともに、円弧領域に属すると判定される。
【0195】
図23には、直線Lの実軸との交点の座標αが実測高周波数インピーダンス値Rcell,actより小さい態様が示されている。当図を参照すれば明確なように、周波数ω2が円弧領域に属する。したがって、図には示されていないものの、周波数ω2よりも小さいω1も必然的に円弧領域に属することとなるので、周波数ω1及びω2の双方が円弧領域に属する。
【0196】
上記した本実施形態にかかる燃料電池1の状態検出装置によれば、以下の効果を得ることができる。
【0197】
本実施形態では、コントローラ6は、2つの周波数ω1及びω2にて計測されたインピーダンス計測値Z(ω1)及びZ(ω2)を結ぶ直線Lと実軸との交点αと、実測高周波数インピーダンス値Rcell,actと、を比較することで2つの周波数ω1及びω2が、それぞれ、非円弧領域に属するのか又は円弧領域に属するのかを判定する周波数領域判定手段として機能する。
【0198】
これにより、アイオノマ抵抗値Rionの推定のためのインピーダンス計測に用いられる周波数ω1及びω2が、実測インピーダンス曲線C2における円弧領域であるのか、又は非円弧領域であるのかを適切に判定することができる。
【0199】
特に、例えば、図9に示すステップS101〜ステップS103におけるアイオノマ抵抗値Rionの推定において、非円弧領域(高周波数帯)に属する1つの周波数を用い、円弧領域(低周波数帯)に属する2つの周波数を用いている。
【0200】
したがって、本実施形態に係る周波数領域判定手段を用いて、例えば複数の周波数それぞれが非円弧領域に属するのか円弧領域に属するのかを判定し、非円弧領域に属する周波数を1つ選択し、円弧領域に属する周波数を2つ選択することで、アイオノマ抵抗値Rionのより高精度な推定に資することとなる。
【0201】
また、本実施形態では、周波数領域判定手段は、直線Lと実軸との交点αが、実測高周波数インピーダンス値Rcell,actに実質的に一致する場合に、2つの周波数ω1及びω2の全てが非円弧領域に属すると判定する(ステップS1305参照)。
【0202】
ここで、図21を参照すれば明確であるように、直線Lと実軸との交点αが、実測高周波数インピーダンス値Rcell,actに実質的に一致する場合においては、直線Lは、実測インピーダンス曲線C2における直線状の非円弧領域L2にほぼ一致する。したがって、この判定は現実に良好に適合した高精度な判定であるといえる。
【0203】
特に、本実施形態では、周波数領域判定手段は、直線Lと実軸との交点αが、実測高周波数インピーダンス値Rcell,actに実質的に一致しない場合には、少なくとも2つの周波数ω1及びω2の内の相対的に値の小さい周波数ω1が円弧領域に属すると判定する(ステップS1307及びステップS1308参照)。
【0204】
ここで、図22を参照すれば明確であるように、直線Lと実軸との交点αが、実測高周波数インピーダンス値Rcell,actに実質的に一致しない場合には、周波数ω1が円弧領域に属している。したがって、この判定は現実に良好に適合した高精度な判定であるといえる。
【0205】
さらに、本実施形態では、周波数領域判定手段は、直線Lと実軸との交点αが、実測高周波数インピーダンス値Rcell,actよりも小さい場合に、2つの周波数ω1及びω2の双方が円弧領域に属すると判定する(ステップS1308及び図23参照)。
【0206】
ここで、図23を参照すれば明確であるように、直線Lと実軸との交点αが、実測高周波数インピーダンス値Rcell,actよりも小さい場合には、周波数ω1及びω2の双方が円弧領域に属している。したがって、この判定は現実に良好に適合した高精度な判定であるといえる。
【0207】
(第5の実施形態)
以下、第5の実施形態について説明する。なお、第1、第2、第3、又は第4の実施形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。本実施形態では、インピーダンス計測にあたり、燃料電池1の出力電流及び出力電圧に交流信号を重畳する構成に代えて、燃料電池1に測定用電流源から電流Iを供給し、当該供給電流Iと出力される電圧Vとに基づいてインピーダンスZ=V/Iを計測するいわゆる励起電流印加法を行う。
【0208】
本実施形態では、第1実施形態等において行われる燃料電池1のインピーダンスの計測にあたり、交流信号を重畳した出力電流I及び出力電圧Vを測定する構成に代えて、燃料電池1に所定の測定用電流源から電流Iを供給し、当該供給電流Iと出力される電圧Vとに基づいてインピーダンスZ=V/Iを算出するいわゆる励起電流印加法が行われる。
【0209】
図24は、本実施形態の燃料電池システム100において、インピーダンス計測に係る要部を概略的に示したブロック図である。
【0210】
図示のように、本実施形態に係る燃料電池システム100では、燃料電池1に交流電流を調整しつつ印加する印加交流電流調整部200が設けられている。
【0211】
印加交流電流調整部200は、スタックとして構成された燃料電池1の正極端子(カソード極側端子)1B及び負極端子(アノード極側端子)1Aの他に、中途端子1Cに接続されている。なお、中途端子1Cに接続された部分は図に示すようにアースされている。
【0212】
そして、印加交流電流調整部200は、中途端子1Cに対する正極端子1Bの正極側交流電位差V1を測定する正極側電圧測定センサ210と、中途端子1Cに対する負極端子1Aの負極側交流電位差V2を測定する負極側電圧測定センサ212と、を有している。
【0213】
さらに、印加交流電流調整部200は、正極端子1Bと中途端子1Cからなる回路に交流電流I1を印加する正極側交流電源部214と、負極端子1Aと中途端子1Cからなる回路に交流電流I2を印加する負極側交流電源部216と、これら交流電流I1及び交流電流I2の振幅や位相を調整するコントローラ6と、正極側交流電位差V1、V2及び交流電流I1、I2に基づいて燃料電池1のインピーダンスZの演算を行う演算部220と、を有している。
【0214】
本実施形態では、コントローラ6は、正極側交流電位差V1と負極側交流電位差V2が等しくなるように、交流電流I1と交流電流I2の振幅及び位相を調節する。
【0215】
また、演算部220は、図示しないAD変換器やマイコンチップ等のハードウェア、及びインピーダンスを算出するプログラム等のソフトウェア構成を含み、正極側交流電位差V1を交流電流I1で除して、中途端子1Cから正極端子1BまでのインピーダンスZ1を算出し、負極側交流電位差V2を交流電流I2で除して、中途端子1Cから負極端子1AまでのインピーダンスZ2を算出する。さらに、演算部220は、インピーダンスZ1とインピーダンスZ2の和をとることで、燃料電池1の全インピーダンスZを算出する。
【0216】
上記した本実施形態に係る燃料電池1の状態検出装置によれば、以下の効果を得ることができる。
【0217】
本実施形態に係る燃料電池の状態検出装置は、燃料電池1に接続されて、該燃料電池1に交流電流I1,I2を出力する交流電源部214,216と、燃料電池1の正極側1Bの電位から中途部分1Cの電位を引いて求めた電位差である正極側交流電位差V1と、燃料電池1の負極側1Aの電位から中途部分1Cの電位を引いて求めた電位差である負極側交流電位差V2と、に基づいて交流電流I1,I2を調整する交流調整部としてのコントローラ6と、調整された交流電流I1,I2並びに正極側交流電位差V1及び負極側交流電位差V2に基づいて燃料電池1のインピーダンスZを演算するインピーダンス演算部220と、を有する。
【0218】
コントローラ6は、燃料電池1の正極側の正極側交流電位差V1が負極側の負極側交流電位差V2と実質的に一致するように、正極側交流電源部214により印加される交流電流I1及び負極側交流電源部216により印加される交流電流I2の振幅及び位相を調節する。これにより、正極側交流電位差V1の振幅と負極側交流電位差V2の振幅とが等しくなるので、正極端子1Bと負極端子1Aが実質的に等電位となる。したがって、インピーダンス計測のための交流電流I1、I2が走行モータ53に流れることが防止されるので、燃料電池1による発電に影響を与えることが防止される。
【0219】
また、本実施形態にかかるインピーダンス計測において、燃料電池1が発電状態の場合に計測を実行する場合、当該発電により生じた電圧に計測用交流電位が重畳されることとなるので、正極側交流電位差V1及び負極側交流電位差V2の値自体が大きくなるが、正極側交流電位差V1及び負極側交流電位差V2の位相や振幅自体が変わるわけではないので、燃料電池1が発電状態ではない場合と同様に高精度なインピーダンス計測を実行することができる。
【0220】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0221】
例えば、上記第1〜第5の実施形態の要素を任意に組み合わせることは、本発明の要旨の範囲内に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24

【手続補正書】
【提出日】2015年8月7日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池の状態検出装置であって、
前記燃料電池のインピーダンス曲線の円弧領域に属するインピーダンス計測値に基づいて、仮定高周波数インピーダンス値を設定する仮定高周波数インピーダンス値設定手段と、
前記燃料電池のインピーダンス曲線の非円弧領域に属するインピーダンス計測値に基づいて、実測高周波数インピーダンス値を求める実測高周波数インピーダンス値算出手段と、
前記仮定高周波数インピーダンス値から前記実測高周波数インピーダンス値を減算した値をアイオノマ抵抗値と推定するアイオノマ抵抗推定手段と、
を有し、
前記仮定高周波数インピーダンス値設定手段は、
前記円弧領域に属するインピーダンス計測値に基づいて設定される等価回路インピーダンス曲線と実軸との交点の値を前記仮定高周波数インピーダンス値として設定する燃料電池の状態検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池の状態検出装置において、
前記等価回路インピーダンス曲線は、
前記燃料電池の等価回路から得られるインピーダンスの式に前記円弧領域に属するインピーダンス計測値を適用することで設定される燃料電池の状態検出装置。
【請求項3】
請求項2に記載の燃料電池の状態検出装置において、
前記等価回路インピーダンス曲線は、
前記等価回路から得られるインピーダンス実部の式
【数1】
、及び虚部の式
【数2】
(ただし、Zre、Zimはそれぞれ燃料電池のインピーダンスの実部と虚部、ωは交流信号の角周波数、Rcell,supは仮定高周波数インピーダンス値、Ractはカソード電極の反応抵抗、及びCdlはカソード電極の電気二重層容量を意味する。)
に、前記円弧領域の2点以上の周波数におけるインピーダンス計測値の実部及び虚部を適用することで設定される燃料電池の状態検出装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の燃料電池の状態検出装置において、
アイオノマ抵抗補正手段をさらに有し、
前記アイオノマ抵抗補正手段は、
基準運転条件下で推定されたアイオノマ抵抗値の基準値と、該基準運転条件下における推定値から前記燃料電池を所定時間稼動させた後に推定された劣化後アイオノマ抵抗値を比較することでアイオノマ抵抗値の増分を求め、
前記アイオノマ抵抗値の現在推定値に対し前記増分を減算することで補正を行う燃料電池の状態検出装置。
【請求項5】
請求項4に記載の燃料電池の状態検出装置において、
前記燃料電池の劣化状態は、
触媒層の劣化状態である燃料電池の状態検出装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の燃料電池の状態検出装置において、
電解質膜抵抗値を推定する電解質膜抵抗推定手段をさらに有し、
前記電解質膜抵抗推定手段は、
前記推定されたアイオノマ抵抗値と前記燃料電池の湿潤状態との関係に基づいて設定された基準電解質膜抵抗値と、該設定値から前記燃料電池を所定時間稼動させた後に推定された劣化後実測高周波数インピーダンス値と、を比較することでこれらの差分を求め、
前記実測高周波数インピーダンス値の現在測定値に対して前記差分を減算することで補正を行う燃料電池の状態検出装置。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の燃料電池の状態検出装置において、
前記仮定高周波数インピーダンス値設定手段は、
前記円弧領域に属する2以上のインピーダンス計測値に基づき、2以上の仮定高周波数インピーダンス値の候補を求め、
前記2以上の仮定高周波数インピーダンス値の候補の平均値を前記仮定高周波数インピーダンス値に設定する燃料電池の状態検出装置。
【請求項8】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の燃料電池の状態検出装置において、
前記実測高周波数インピーダンス値算出手段は、
前記非円弧領域に属する2以上のインピーダンス計測値に基づき、2以上の実測高周波数インピーダンス値の候補を求め、
前記2以上の実測高周波数インピーダンス値の候補の平均値を前記実測高周波数インピーダンス値に設定する燃料電池の状態検出装置。
【請求項9】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の燃料電池の状態検出装置において、
前記仮定高周波数インピーダンス値設定手段は、
前記円弧領域に属する2以上のインピーダンス計測値に基づき、2以上の仮定高周波数インピーダンス値の候補を求め、
前記2以上の仮定高周波数インピーダンス値の候補のうちの高い値を、仮定高周波数インピーダンス値に設定する燃料電池の状態検出装置。
【請求項10】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の燃料電池の状態検出装置において、
前記実測高周波数インピーダンス値算出手段は、
前記非円弧領域に属する2以上のインピーダンス計測値に基づき、2以上の実測高周波数インピーダンス値の候補を求め、
前記2以上の実測高周波数インピーダンス値の候補のうちの低い値を、前記実測高周波数インピーダンス値と推定する燃料電池の状態検出装置。
【請求項11】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の燃料電池の状態検出装置において、
前記仮定高周波数インピーダンス値設定手段は、
前記円弧領域に属する2以上のインピーダンス計測値に基づき、2以上の仮定高周波数インピーダンス値の候補を求め、
前記2以上の仮定高周波数インピーダンス値の候補のうちの低い値を、仮定高周波数インピーダンス値と推定する燃料電池の状態検出装置。
【請求項12】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の燃料電池の状態検出装置において、
前記実測高周波数インピーダンス値算出手段は、
前記非円弧領域に属する2以上のインピーダンス計測値に基づき、2以上の実測高周波数インピーダンス値の候補を求め、
前記2以上の実測高周波数インピーダンス値の候補のうちの高い値を、前記実測高周波数インピーダンス値と推定する燃料電池の状態検出装置。
【請求項13】
請求項1〜請求項12に記載の燃料電池の状態検出装置において、
2以上の周波数にて計測されたインピーダンス計測値を結ぶ直線と実軸との交点の値と、前記実測高周波数インピーダンス値と、を比較することで前記2以上の周波数が、それぞれ、前記非円弧領域に属するのか又は前記円弧領域に属するのかを判定する周波数領域判定手段をさらに有する燃料電池の状態検出装置。
【請求項14】
請求項13に記載の燃料電池の状態検出装置において、
前記周波数領域判定手段は、
前記直線と実軸との交点の値と前記実測高周波数インピーダンス値が実質的に一致する場合に、前記2以上の周波数の全てが前記非円弧領域に属すると判定する燃料電池の状態検出装置。
【請求項15】
請求項13に記載の燃料電池の状態検出装置において、
前記周波数領域判定手段は、
前記直線と実軸との交点の値と前記実測高周波数インピーダンス値が実質的に一致しない場合に、前記2以上の周波数のうちの少なくとも一つの相対的に値の小さい周波数が前記円弧領域に属すると判定する燃料電池の状態検出装置。
【請求項16】
請求項15に記載の燃料電池の状態検出装置において、
前記周波数領域判定手段は、
前記交点の値が、前記実測高周波数インピーダンス値よりも小さい場合に、前記2以上の周波数の全てが前記円弧領域に属すると判定する燃料電池の状態検出装置。
【請求項17】
請求項1〜請求項16に記載の燃料電池の状態検出装置において、
前記燃料電池が積層電池として構成され、
前記積層電池に接続されて該積層電池に交流電流を出力する交流電源部と、
前記積層電池の正極側の電位から該積層電池の中途部分の電位を引いて求めた電位差である正極側交流電位差と、前記燃料電池の負極側の電位から前記中途部分の電位を引いて求めた電位差である負極側交流電位差と、に基づいて交流電流を調整する交流調整部と、
前記調整された交流電流並びに前記正極側交流電位差及び前記負極側交流電位差に基づいて前記燃料電池の前記インピーダンス計測値を演算するインピーダンス演算部と、
を有する燃料電池の状態検出装置。
【請求項18】
燃料電池の状態検出方法であって、
前記燃料電池のインピーダンス曲線の円弧領域に属するインピーダンス計測値に基づいて、仮定高周波数インピーダンス値を設定する仮定高周波数インピーダンス値設定工程と、
前記燃料電池のインピーダンス曲線の非円弧領域に属するインピーダンス計測値に基づいて、実測高周波数インピーダンス値を求める実測高周波数インピーダンス値算出工程と、
前記仮定高周波数インピーダンス値から前記実測高周波数インピーダンス値を減算した値をアイオノマ抵抗値と推定するアイオノマ抵抗推定工程と、
を有し、
前記仮定高周波数インピーダンス値設定工程では、
前記円弧領域に属するインピーダンス計測値に基づいて設定される等価回路インピーダンス曲線と実軸との交点の値を前記仮定高周波数インピーダンス値として設定する燃料電池の状態検出方法。

【手続補正書】
【提出日】2017年8月25日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0049
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0049】
走行モータ53は、三相交流同期モータであって、車輪を駆動するため駆動源である。走行モータ53は、燃料電池1及びバッテリ55から電力の供給を受けて回転駆動する電動機としての機能と、外力によって回転駆動されることで発電する発電機としての機能と、を有する。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0069
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0069】
特に、式(1)に基づいて定まる複素平面上のインピーダンス曲線(以下では、等価回路インピーダンス曲線とも記載する)は、中心がR+Ract/2、半径がRact/2の複素平面上の円を表すので、当該円と実軸との交点はRとなる。これは、十分大きな値の高周波数ωをインピーダンス計測用いれば、実部インピーダンスの計測値Zre(ω)が、電解質膜抵抗値Rと一致することを意味する。なお、このことは式(2)においてωを十分に大きい値とすると右辺第2項が0に近づき、R≒Zreとなることからも明らかである。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0086
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0086】
図8には、簡易等価回路に燃料電池1の状態量の計測値を当てはめて定まるインピーダンス曲線(等価回路インピーダンス曲線C1とも記載する)、予め所定条件の下で測定されたインピーダンスの実測値に基づくインピーダンス曲線(実測インピーダンス曲線C2とも記載する)、及び実測インピーダンス曲線におい電解質膜111の電子輸送抵抗値Rm,eleの影響を除外したと仮定した場合のインピーダンス曲線(以下、電子輸送抵抗除外インピーダンス曲線C3とも記載する)を示す。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0107
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0107】
図11は、この仮定高周波数インピーダンス値Rcell,supを求める流れを示すフローチャートである。本実施形態に係る実測高周波数インピーダンス値の推定は、図に示すステップS1021〜ステップS1025にしたがい行われる。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0145
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0145】
ステップS1101において、コントローラ6は、基準運転条件下においてアイオノマ抵抗値を推定する。ここで、基準運転条件下におけるアイオノマ抵抗値とは、図14に示す時刻t=0の基準アイオノマ抵抗値(Riont=0、すなわち、燃料電池1の最初の作動時等の触媒層113Aの劣化が生じる前に、上記ステップS101〜ステップS103の方法で推定されるアイオノマ抵抗値である。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0159
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0159】
特に、本実施形態では、上記燃料電池1の劣化状態は、触媒層113Aの劣化状態であので、上記補正によりアイオノマ抵抗値Rionの上昇を助長する触媒層113Aの劣化状態の影響を確実に取り除くことができる。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0172
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0172】
図19は、電解質膜抵抗値の補正の流れを示したフローチャートである。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0175
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0175】
ステップS1212及びステップS1213において、コントローラ6は、コントローラ6のメモリ等から上記ステップS1204で記憶されていた差分ΔR(t)を読み出す。特に、本実施の形態では、燃料電池1の作動時間tに対応する差分ΔR(t)をコントローラ6のメモリ等から読み出す。
【手続補正9】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0176
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0176】
ステップS121において、コントローラ6は、上述の現在高周波数インピーダンス値(Rcell,actcurから差分ΔR(t)を減算して、補正された真の電解質膜抵抗値(Rmemtruを算出する。
【手続補正10】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0213
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0213】
さらに、印加交流電流調整部200は、正極端子1Bと中途端子1Cからなる回路に交流電流I1を印加する正極側交流電源部214と、負極端子1Aと中途端子1Cからなる回路に交流電流I2を印加する負極側交流電源部216と、これら交流電流I1及び交流電流I2の振幅や位相を調整するコントローラ6と、正極側交流電位差V1、負極側交流電位差V2及び交流電流I1、I2に基づいて燃料電池1のインピーダンスZの演算を行う演算部220と、を有している。
【国際調査報告】