(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2016年9月15日
【発行日】2017年12月21日
(54)【発明の名称】磁気共鳴イメージング装置およびRFシミングパラメータの設定方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20171124BHJP
【FI】
A61B5/05 351
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】18
【出願番号】特願2017-504938(P2017-504938)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2016年2月15日
(31)【優先権主張番号】特願2015-44912(P2015-44912)
(32)【優先日】2015年3月6日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 公輔
(72)【発明者】
【氏名】五月女 悦久
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤 将宏
【テーマコード(参考)】
4C096
【Fターム(参考)】
4C096AB34
4C096CA02
4C096CA03
4C096CA05
4C096CA15
4C096CA16
4C096CA17
4C096CA18
4C096CC40
4C096CD09
4C096DD09
4C096FB01
(57)【要約】
MR撮影時の被検体、特に人体組織への局所SARを低減しつつ、B1不均一を改善するために、本発明は、複数の照射チャンネルに対応するRFシミングパラメータに基づいて該複数の照射チャンネルをそれぞれ制御して、被検体にRF磁場を照射する撮像シーケンスを実行する場合に、RFシミングパラメータを主成分分析して得られる複数の主成分の内の少なくとも一つに対して拘束条件を課して求めたRFシミングパラメータを用いることを特徴とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の照射チャンネルに対応するRFシミングパラメータに基づいて該複数の照射チャンネルをそれぞれ制御して、被検体にRF磁場を照射する撮像シーケンスを実行する制御演算部を備え、
前記制御演算部は、前記RFシミングパラメータを主成分分析して得られる複数の主成分の内の少なくとも一つに対して拘束条件を課して前記RFシミングパラメータを求めることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記拘束条件は、前記複数の主成分の寄与率に応じて設定されることを特徴とする請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記拘束条件は、前記寄与率が設定された閾値よりも低い主成分を設定値に拘束することを特徴とする請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記設定値は、前記寄与率が設定された閾値よりも低い主成分の平均値であることを特徴とする請求項3に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
前記複数の照射チャンネルをそれぞれ制御するRFシミングパラメータが格納された第一のデータベースと、異なる複数の撮像対象のB1マップが蓄積された第二のデータベースを備え、
前記制御演算部は、
前記第二のデータベースからB1マップ群を読出し、
該読出した前記B1マップ群の各B1マップを用いてRFシミングの最適化計算を実行し、
該求めた最適な前記RFシミングパラメータのパラメータ群を用いて求めた、照射チャンネル数に応じた複数の主成分の内から、局所SAR低減の寄与率が閾値より小さい主成分を抽出し、
該抽出した主成分を設定値に拘束して得たRFシミングパラメータを前記異なる複数の撮像対象毎に対応付けて前記第一のデータベースに蓄積することを特徴とする請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
前記第一のデータベースには、前記被検体の属性およびRFシミングの属性に対応付けて前記RFシミングパラメータに課す前記拘束条件が蓄積されていることを特徴とする請求項5に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
前記属性は、前記被検体の年齢、性別、身長、体重、撮像部位の少なくとも1つ、及びRFシミングの目的関数であることを特徴とする請求項6に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
被検体にRF磁場を照射する複数の照射チャンネルをそれぞれ制御するためのRFシミングパラメータの設定方法であって、
前記RFシミングパラメータは、前記RFシミングパラメータを主成分分析して得られる複数の主成分の内の少なくとも一つに対して拘束条件を課して求められたものであることを特徴とするRFシミングパラメータの設定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴イメージング装置およびRFシミングパラメータの設定方法に係り、特に生体組織の電磁波吸収量を低減しつつ高周波磁場分布の均一度を改善する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴イメージング(以下、「MRI」という)装置は、被検体、特に人体の組織を構成する原子核スピンが発生する核磁気共鳴(以下、「NMR」という)信号を計測し、核の密度分布や緩和時間分布等に基づいて頭部、腹部、四肢等の形態や機能を2次元的に或いは3次元的に画像化する装置である。
【0003】
MR撮影においては、NMR信号には、傾斜磁場によって異なる位相エンコードが付与されるとともに周波数エンコードされて、時系列データとして計測される。計測されたNMR信号は、2次元又は3次元フーリエ変換されることにより画像に再構成される。
【0004】
高磁場MRI装置では、プロトンの共鳴周波数が高いため被検体に照射する高周波(以下、RFという。)パルスの波長が短くなる。このため、照射RFパルスの空間的な分布(B1分布)が不均一になり、シェーディングやSNRの低下などの問題が発生する。また、照射RFパルスの周波数が高いことは、被検体の生体組織が吸収するRFパルスの吸収量を表すSARも高くなる。
【0005】
B1不均一を改善する手法として、特許文献1に示されるRFシミングが知られている。RFシミングでは、複数のRF照射コイルのチャンネル(以下、照射チャンネルという。)に、それぞれ異なる振幅比と位相差を有するシミングパラメータを設定して、照射RFパルスの空間的な分布を均一化する技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2014/021172号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1等に記載されているRFシミングでは、選択可能な振幅比や位相差によっては局所SARが高くなるケースを排除することについて配慮されていない。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、局所SARを低減しつつ、B1不均一を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明は、複数の照射チャンネルに対応するRFシミングパラメータに基づいて該複数の照射チャンネルをそれぞれ制御して、被検体にRF磁場を照射する撮像シーケンスを実行する場合に、RFシミングパラメータを主成分分析して得られる複数の主成分の内の少なくとも一つに対して拘束条件を課して求めたRFシミングパラメータを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、局所SARを低減しつつ、B1不均一を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係るMRI装置の一実施例の全体構成図である。
【
図2】本発明のMRI装置のSARを低減するRFシミングパラメータの拘束条件を求める手順を示すフローチャートである。
【
図3】複数照射チャンネルを用いて取得した複数人分の頭部のB1マップを用いて、最適化計算により求めたRFシミングパラメータの主成分について分析した結果を示す図である。
【
図4】分析したRFシミングパラメータの主成分の寄与率と累積寄与率を示す図である。
【
図5】拘束条件Aを適用したRFシミングパラメータでRF照射コイルを制御して得られたB1マップにより局所SARを計算した結果を示す図である。
【
図6】本発明の拘束条件が課されたRFシミングパラメータを用いて、局所SARが低減され、かつB1不均一が改善された撮像を実行する手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のMRI装置およびRFシミングパラメータの設定方法を、一実施形態に基づいて説明する。
【0013】
図1に、本発明に係るMRI装置の一実施形態の全体構成図を示す。図示のように、MRI装置は、静磁場発生系2と、傾斜磁場発生系3と、送信系5と、受信系6と、信号処理系7と、シーケンサ4と、中央処理装置(CPU)8とを備えて構成される。静磁場発生系2は、垂直磁場方式であれば、被検体1の周りの空間にその体軸と直交する方向に、水平磁場方式であれば、体軸方向に均一な静磁場を発生させるもので、被検体1の周りに永久磁石方式、常電導方式あるいは超電導方式の静磁場発生源が配置されている。
【0014】
傾斜磁場発生系3は、MRI装置の座標系(静止座標系)であるX,Y,Zの3軸方向に巻かれた傾斜磁場コイル9と、それぞれの傾斜磁場コイルを駆動する傾斜磁場電源10とから成り、シ−ケンサ4からの命令に従ってそれぞれのコイルの傾斜磁場電源10を駆動することにより、X,Y,Zの3軸方向に傾斜磁場Gx,Gy,Gzを印加する。撮影時には、スライス面(撮影断面)に直交する方向にスライス方向傾斜磁場パルス(Gs)を印加して被検体1に対するスライス面を設定し、そのスライス面に直交して且つ互いに直交する残りの2つの方向に位相エンコード方向傾斜磁場パルス(Gp)と周波数エンコード方向傾斜磁場パルス(Gf)を印加して、エコー信号にそれぞれの方向の位置情報をエンコードする。
【0015】
シーケンサ4は、高周波磁場パルス(以下、RFパルスという。)と、上述した傾斜磁場パルスを所定のパルスシーケンスで繰り返し印加する制御手段であり、CPU8の制御で動作し、被検体1の断層画像であるMR画像のデータ収集に必要な種々の命令を送信系5、傾斜磁場発生系3および受信系6に送る。
【0016】
送信系5は、被検体1の生体組織を構成する原子の原子核スピンに核磁気共鳴を起こさせるために、被検体1にRFパルスを照射するものである。送信系5は、高周波発振器11と変調器12と高周波増幅器13と送信側の高周波コイル(送信コイル)14aとから構成される。高周波発振器11から出力されたRFパルスは、シーケンサ4の指令によるタイミングで変調器12により振幅変調される。振幅変調されたRFパルスは高周波増幅器13で増幅された後、被検体1に近接して配置された高周波コイル14aに供給され、これによりRFパルスが被検体1に照射される。
【0017】
受信系6は、被検体1の生体組織を構成する原子核スピンの核磁気共鳴により放出されるエコー信号(NMR信号)を検出するもので、受信側の高周波コイル(受信コイル) 14bと信号増幅器15と直交位相検波器16と、A/D変換器17とから成る。送信側の高周波コイル14aから照射された電磁波によって誘起された被検体1の応答のNMR信号は、被検体1に近接して配置された高周波コイル14bで検出される。検出されたNMR信号は、信号増幅器15で増幅された後、シーケンサ4からの指令によるタイミングで直交位相検波器16により直交する二系統の信号に分割され、それぞれがA/D変換器17でディジタル量に変換されて信号処理系7に送られる。
【0018】
信号処理系7は、各種データ処理と処理結果の表示及び保存等を行うもので、光ディスク19、磁気ディスク18等の外部記憶装置と、CRT等からなるディスプレイ20とを有する。CPU8に受信系6からデータが入力されると、CPU8が信号処理、画像再構成等の処理を実行し、その結果である被検体1のMR画像をディスプレイ20に表示すると共に、外部記憶装置の磁気ディスク18等に記録する。
【0019】
操作部25は、MRI装置の各種制御情報や信号処理系7で行う処理の制御情報を入力するもので、トラックボール又はマウス23、およびキーボード24から成る。この操作部25はディスプレイ20に近接して配置され、操作者がディスプレイ20を見ながら操作部25を通してインタラクティブにMRI装置の各種処理を制御する。
【0020】
なお、
図1において、送信側の高周波コイル14aと傾斜磁場コイル9は、被検体1が挿入される静磁場発生系2の静磁場空間内に、垂直磁場方式であれば被検体1に対向して、水平磁場方式であれば被検体1を取り囲むようにして設置されている。また、受信側の高周波コイル14bは、被検体1に対向して、或いは取り囲むように設置されている。
【0021】
現在、MRI装置の撮像対象核種は、臨床で普及しているものとしては、被検体の主たる構成物質である水素原子核(プロトン)である。プロトン密度の空間分布や、励起状態の緩和時間の空間分布に関する情報を画像化することで、人体頭部、腹部、四肢等の形態または、機能を2次元もしくは3次元的に撮像する。
【0022】
ここで、本発明の特徴技術であるRFシミングパラメータを決定する処理手順を説明する。この処理は、信号処理系7およびCPU8により協働して、またはCPU8単独で行ってもよい。特に、本発明は、局所SARを低減しつつ、B1不均一を改善するために、RFシミングパラメータに拘束条件を課すことを特徴とする。
【0023】
そして、拘束条件が課されたRFシミングパラメータに基づいて、新たな被検体に照射する各RF照射チャンネルのRFシミングパラメータを決定する。具体的には、複数の照射チャンネルに対応するRFシミングパラメータに基づいて該複数の照射チャンネルをそれぞれ制御して、被検体にRF磁場を照射する撮像シーケンスを実行する場合に、RFシミングパラメータを主成分分析して得られる複数の主成分の内の少なくとも一つに対して拘束条件を課して求めたRFシミングパラメータを用いる。
【0024】
例えば、拘束条件は、複数の照射チャンネルのRFシミングパラメータについての複数の主成分の寄与率に応じて設定される。これにより、局所SARを低減しつつ、B1不均一を改善するものである。
以下、RFシミングパラメータに拘束条件を課す処理について、実施例に分けて説明する。
【実施例1】
【0025】
図2に、実施例1の拘束条件を課すRFシミングパラメータの設定方法の手順のフローチャートを示す。ここで、RFシミングパラメータに拘束条件を課すことにより、局所SARを低減しつつ、B1不均一を改善できることについて説明する。まず、本発明の発明者らは、従来のRFシミングにより最適なRFシミングパラメータを得ることができるが、複数のRF照射チャンネルごとに求めた最適なRFシミングパラメータの振幅比や位相差によっては、局所SARが高くなることがあることを知見した。
【0026】
そこで、複数のRF照射チャンネルの各々について求めた最適なRFシミングパラメータの関係について分析した結果、次に述べる関係が判明した。まず、異なる複数の被検体について予めB1マップを計測する。なお、被検体は人体モデルでも構わないが、本実施例では実在の複数の被検体について得られたB1マップを用いる例で説明する。
【0027】
異なる複数の被検体について計測したB1マップを用い、例えば特許文献1の最適化計算により、最適なRFシミングパラメータを計算する。計算により得られるRFシミングパラメータは、複数のRF照射チャンネル(例えば、4チャンネル)の各々について求められる複素数である。そして、複数のRFシミングパラメータの主成分の関係を解析した結果、次に述べる関係性を知見した。
【0028】
図3に、4チャンネルのRF照射コイルを用いて取得した19人分の頭部のB1マップを用いて、最適化計算により求めたRFシミングパラメータを主成分分析した結果を示す。ここで、本実施例では、複数のRF照射チャンネルが4チャンネルRF照射コイルの場合を例に説明する。4チャンネルRF照射コイルの場合、RFシミングパラメータは4つの複素数で表現され、各複素数はそれぞれ2つの成分を有するから、8自由度の系である。
図3の各図において、横軸は主成分PC1の値であり、縦軸は残りの主成分PC2〜PC8の値である。それらの図からわかるように、主成分PC4からPC8は被検体に依らずほぼ同じ値になっている。
【0029】
また、分析した主成分の寄与率と累積寄与率を
図4に示す。同図の横軸は主成分PC1〜PC8を示し、縦軸は寄与率と累積寄与率を示す。ここで、寄与率とは、どの程度その主成分が元のデータのバラツキを表現しているかの指標である。
図3および
図4の例では、PC1の寄与率が最も大きく、次いで、PC2,PC3の順で寄与率が大きい。このことは、言い換えれば、PC1の値はバラツキが大きく、PC2の値,PC3の値に順でバラツキが小さくなっている。
【0030】
つまり、B1不均一に関し、主成分PC1〜PC3で19人分のデータの90%以上を説明できることがわかる。逆に言えば、寄与率が設定閾値(例えば、10〜15%)より小さい主成分を全ての被検体の平均値などの設定値に設定しても、RFシミングの最適化計算には影響を及ぼす程度が小さいと言える。
【0031】
これらの知見に基づいて、本実施例では、寄与率が設定された閾値よりも低い主成分を設定値に拘束することにより、局所SARおよび全身SARを低減できるRFシミングパラメータを設定することを特徴とする。具体的には、主成分PC4〜PC8に関しては、設定値に固定する拘束条件AをRFシミングパラメータに課す。なお、拘束条件Aの設定値としては、例えば19人分の主成分PC4〜PC8の各データの平均値としてもよいが、これに限られるものではない。
【0032】
確認のため、人体モデルを用いて、拘束条件Aを適用したRFシミングパラメータでRF照射コイルを制御して得られたB1マップにより局所SARを計算した。その結果を
図5に示す。同図は、縦軸に局所SARの最大値、横軸に均一度の指標であるUsdを示し、計算値(局所SAR最大値)をプロットした図である。
【0033】
局所SAR計算では予め設定した可変範囲内で、RFシミングパラメータを振幅比:2dB、位相差:20°のステップで調整し、網羅的に計算した。なお、同図(a)〜(c)は、異なる人体モデルM1〜M3を示す。また、図において、全ての組み合わせの計算値を濃度が薄い点(all combination)で示し、主成分PC4〜PC8を平均値に拘束した計算値を濃い点(new constraint)で示している。それらの図から、局所SAR最大値が、12.7[W/kg]から3.6[W/kg]に低下していることが判る。
【0034】
つまり、局所SAR最大値および均一度指標Usdのいずれもが大きく改善され、これによりRF照射均一度が向上する。
【0035】
以上説明した知見に基づいて、局所SARを低減しつつ、B1不均一を改善できるRFシミングパラメータに拘束条件を課す処理手順を、
図2のステップS201〜S204に示す。すなわち、ステップS201において、異なる複数の撮像対象のB1マップが蓄積されたデータベースからB1マップ群を読出す。
【0036】
次に、ステップS202において、B1マップ群の各B1マップを用い、特許文献1等に記載された公知の最適化計算を実行し、最適なRFシミングパラメータをそれぞれB1マップについて算出する。
【0037】
ステップS203においては、求めた最適なRFシミングパラメータのパラメータ群について、照射チャンネル数に応じた複数の主成分PCの関係を分析する。その分析により、局所SAR低減の寄与率が閾値より小さい主成分PCを抽出する。
【0038】
ステップS204においては、抽出した主成分を設定値に拘束したRFシミングパラメータを、異なる複数の撮像対象の各々に対応付けてデータベースに蓄積する。ここで、データベースは、例えば、磁気ディスク18などの外部記憶装置などに構築してもよい。
【0039】
このようにして、データベースに蓄積された拘束条件が課されたRFシミングパラメータに基づいて、新たな撮像対象(被検体)に照射する各RF照射チャンネルのRFシミングパラメータを決定する処理について、
図6のフローチャートを参照して説明する。
【0040】
まず、ステップS601において、データベースに蓄積された異なる複数の撮像対象から、新たな被検体に対応する撮像対象を探索し、主成分が設定値に拘束されたRFシミングパラメータを読出す。
【0041】
次いで、ステップS602において、読出した拘束条件が課されたRFシミングパラメータを用いて、B1マップを計測し、最適化計算を実行して最適なRFシミングパラメータを算出する。
【0042】
そして、ステップS603において、拘束条件が課されたRFシミングパラメータに従って算出されたRFシミングパラメータを撮像用として決定して、新たな被検体の撮像を実行する。これにより、局所SARを低減しつつ、B1不均一が改善された新たな被検体のMR画像を撮像することができる。
【実施例2】
【0043】
次に、実施例2について説明する。本実施例が実施例1と異なる点は、RFシミングパラメータについて行った複数の主成分の分析結果をデータベースに蓄積することにある。
【0044】
通常、RFシミングパラメータは、被検体の撮像部位や最適化計算に係る目的関数によって、同じ被検体を撮像していても変わる。そこで、実施例2では、撮像部位や目的関数に応じたRFシミングパラメータを算出し、算出したRFシミングパラメータについて主成分分析し、撮像部位や目的関数に対応した複数の拘束条件をデータベースに蓄積することを特徴とする。
【0045】
図2に示したフローチャートの手順と同様に、最初にあらかじめ複数の被検体のB1マップを複数の撮像部位(例えば、スライス位置、頭部、腹部、等々)の各々で取得する。次に各被検体および各撮像部位のB1マップを用いて、異なる複数の目的関数(例えば、照射均一度、全身SAR制約、等々)の下で、RFシミングの最適化計算を行う。
【0046】
このようにして得られたRFシミングパラメータを、被検体、撮像部位、目的関数ごとに、主成分分析をする。そして、局所SAR等の低減に寄与率が小さい主成分を、例えば平均値にする拘束条件をそれぞれ決定し、被検体、撮像部位、目的関数に対応付けて、データベースに蓄積する。
【0047】
本実施例によれば、被検体、撮像部位、目的関数ごとに、拘束条件が課されたRFシミングパラメータがデータベースに蓄積される。したがって、新たな被検体を撮像するに際して、その被検体、撮像部位、目的関数に対応した拘束条件が課されたRFシミングパラメータを読出して、RFシミングの最適化計算を実行することにより、局所SARを低減しつつ、B1不均一が改善された新たな被検体のMR画像を撮像することができる。
【実施例3】
【0048】
次に、実施例3について説明する。本実施例が実施例1、実施例2と異なる点は、RFシミングパラメータの主成分分析に用いるB1マップ、およびRFシミングパラメータをデータベースに順次追加することを特徴とする。つまりRFシミングを行う際は、必ずB1マップを取得する。したがって、B1マップを取得するごとに、データベースに蓄積することにより、RFシミングパラメータの主成分分析に使えるデータが増えるので、主成分分析の精度ないし信頼性が向上する。
【0049】
具体的には、新たに取得したB1マップを用いて、拘束条件を課さずにRFシミングパラメータを計算する。そして、新たに計算されたRFシミングパラメータを、既にデータベースに蓄積されているRFシミングパラメータに加えて主成分分析を行い、新たな拘束条件を計算する。計算された拘束条件で局所SARを計算しなおす。局所SAR計算には既にデータベースに蓄積されている一つまたは複数の人体モデルのデータを用いる。局所SARの最大値が、既にデータベースに蓄積されているRFシミングパラメータの拘束条件から計算された局所SARの最大値より小さい場合は、新たな拘束条件をデータベースに蓄積する。
【0050】
これにより、本実施例によれば、RFシミングパラメータの主成分分析に使えるデータが増えるので、主成分分析の精度ないし信頼性が向上するとともに、局所SARを一層低減することができる。
【実施例4】
【0051】
次に、実施例4について、説明する。本実施例が実施例1〜3と異なる点は、被検体の年齢、性別、身長、体重などに応じて、RFシミングパラメータに異なる拘束条件を用いる点にある。すなわち、B1マップは被検体の体格に大きく依存して変わる。そのため、RFシミングパラメータに対する最適な拘束条件は被検体の体格によって異なる。そこで、本実施例では、予め被検体の年齢、性別、身長、体重に応じてB1マップを分類し、それぞれのB1マップを用いて、RFシミングパラメータの主成分分析をして、拘束条件を算出し、被検体の年齢、性別、身長、体重に対応付けてデータベースに蓄積することを特徴とする。これにより、新たに検査を行う被検体の年齢、性別、身長、体重に応じて用いる拘束条件を変えて、RFシミングを行うことができるから、RFシミングの効果を向上させることができる。
【0052】
以上、本発明を実施例1〜4に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の主旨の範囲で変形又は変更された形態で実施することが可能であることは、当業者にあっては明白なことであり、そのような変形又は変更された形態が本願の特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【0053】
例えば、実施例1〜4では、B1マップデータ、RFシミングパラメータに課す拘束条件などを、被検体の年齢、性別、身長、体重、撮像部位、等々、およびRFシミングの目的関数ごとに対応付けてデータベースに蓄積することを説明した。このことは、局所SARないし磁場不均一を改善することに関係するRFシミングパラメータに課す拘束条件は、被検体の属性およびRFシミングの属性によって変わることから、それらの属性に対応付けてRFシミングパラメータに課す拘束条件をデータベースに蓄積することを意味する。これにより、複数のRF照射チャンネルを備えたMRI装置において、局所SARを低減しつつ、B1不均一を改善することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 被検体、2 静磁場発生系、3 傾斜磁場発生系、4 シーケンサ、5 送信系、6 受信系、7 信号処理系、8 中央処理装置(CPU)、9 傾斜磁場コイル、10 傾斜磁場電源、11 高周波発振器、12 変調器、13 高周波増幅器、14a 高周波コイル(送信コイル)、14b 高周波コイル(受信コイル)、15 信号増幅器、16 直交位相検波器、17 A/D変換器、18 磁気ディスク、19 光ディスク、20 ディスプレイ、23 トラックボール又はマウス、24 キーボード、51 ガントリ、52 テーブル、53 筐体、54 処理装置
【手続補正書】
【提出日】2017年8月31日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0005
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0005】
B1分布の不均一を改善する手法として、特許文献1に示されるRFシミングが知られている。RFシミングでは、複数のRF照射コイルのチャンネル(以下、照射チャンネルという。)に、それぞれ異なる振幅比と位相差を有する
RFシミングパラメータを設定して、照射RFパルスの空間的な分布を均一化する技術である。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、局所SARを低減しつつ、
B1分布の不均一を改善することである。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0011】
【
図1】本発明に係るMRI装置の一実施例の全体構成図である。
【
図2】本発明のMRI装置のSARを低減するRFシミングパラメータの拘束条件を求める手順を示すフローチャートである。
【
図3】複数照射チャンネルを用いて取得した複数人分の頭部のB1マップを用いて、最適化計算により求めたRFシミングパラメータの主成分について分析した結果を示す図である。
【
図4】分析したRFシミングパラメータの主成分の寄与率と累積寄与率を示す図である。
【
図5】拘束条件Aを適用したRFシミングパラメータでRF照射コイルを制御して得られたB1マップにより局所SARを計算した結果を示す図である。
【
図6】本発明の拘束条件が課されたRFシミングパラメータを用いて、局所SARが低減され、かつ
B1分布の不均一が改善された撮像を実行する手順を示すフローチャートである。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0022
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0022】
ここで、本発明の特徴技術であるRFシミングパラメータを決定する処理手順を説明する。この処理は、信号処理系7およびCPU8により協働して、またはCPU8単独で行ってもよい。特に、本発明は、局所SARを低減しつつ、
B1分布の不均一を改善するために、RFシミングパラメータに拘束条件を課すことを特徴とする。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0024
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0024】
例えば、拘束条件は、複数の照射チャンネルのRFシミングパラメータについての複数の主成分の寄与率に応じて設定される。これにより、局所SARを低減しつつ、
B1分布の不均一を改善するものである。
以下、RFシミングパラメータに拘束条件を課す処理について、実施例に分けて説明する。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0025
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0025】
図2に、実施例1の拘束条件を課すRFシミングパラメータの設定方法の手順のフローチャートを示す。ここで、RFシミングパラメータに拘束条件を課すことにより、局所SARを低減しつつ、
B1分布の不均一を改善できることについて説明する。まず、本発明の発明者らは、従来のRFシミングにより最適なRFシミングパラメータを得ることができるが、複数のRF照射チャンネルごとに求めた最適なRFシミングパラメータの振幅比や位相差によっては、局所SARが高くなることがあることを知見した。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0028
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0028】
図3に、4チャンネルのRF照射コイルを用いて取得した19人分の頭部のB1マップを用いて、最適化計算により求めたRFシミングパラメータを主成分分析した結果を示す。ここで、本実施例では、複数のRF照射チャンネルが4チャンネル
のRF照射コイルの場合を例に説明する。4チャンネル
のRF照射コイルの場合、RFシミングパラメータは4つの複素数で表現され、各複素数はそれぞれ2つの成分を有するから、8自由度の系である。
図3の各図において、横軸は主成分PC1の値であり、縦軸は残りの主成分PC2〜PC8の値である。それらの図からわかるように、主成分PC4からPC8は被検体に依らずほぼ同じ値になっている。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0030
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0030】
つまり、
B1分布の不均一に関し、主成分PC1〜PC3で19人分のデータの90%以上を説明できることがわかる。逆に言えば、寄与率が設定閾値(例えば、10〜15%)より小さい主成分を全ての被検体の平均値などの設定値に設定しても、RFシミングの最適化計算には影響を及ぼす程度が小さいと言える。
【手続補正9】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0035
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0035】
以上説明した知見に基づいて、局所SARを低減しつつ、
B1分布の不均一を改善できるRFシミングパラメータに拘束条件を課す処理手順を、
図2のステップS201〜S204に示す。すなわち、ステップS201において、異なる複数の撮像対象のB1マップが蓄積されたデータベースからB1マップ群を読出す。
【手続補正10】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0042
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0042】
そして、ステップS603において、拘束条件が課されたRFシミングパラメータに従って算出されたRFシミングパラメータを撮像用として決定して、新たな被検体の撮像を実行する。これにより、局所SARを低減しつつ、
B1分布の不均一が改善された新たな被検体のMR画像を撮像することができる。
【手続補正11】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0047
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0047】
本実施例によれば、被検体、撮像部位、目的関数ごとに、拘束条件が課されたRFシミングパラメータがデータベースに蓄積される。したがって、新たな被検体を撮像するに際して、その被検体、撮像部位、目的関数に対応した拘束条件が課されたRFシミングパラメータを読出して、RFシミングの最適化計算を実行することにより、局所SARを低減しつつ、
B1分布の不均一が改善された新たな被検体のMR画像を撮像することができる。
【手続補正12】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0053
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0053】
例えば、実施例1〜4では、B1マップデータ、RFシミングパラメータに課す拘束条件などを、被検体の年齢、性別、身長、体重、撮像部位、等々、およびRFシミングの目的関数ごとに対応付けてデータベースに蓄積することを説明した。このことは、局所SARないし磁場不均一を改善することに関係するRFシミングパラメータに課す拘束条件は、被検体の属性およびRFシミングの属性によって変わることから、それらの属性に対応付けてRFシミングパラメータに課す拘束条件をデータベースに蓄積することを意味する。これにより、複数のRF照射チャンネルを備えたMRI装置において、局所SARを低減しつつ、
B1分布の不均一を改善することができる。
【手続補正13】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0054
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0054】
1 被検体、2 静磁場発生系、3 傾斜磁場発生系、4 シーケンサ、5 送信系、6 受信系、7 信号処理系、8 中央処理装置(CPU)、9 傾斜磁場コイル、10 傾斜磁場電源、11 高周波発振器、12 変調器、13 高周波増幅器、14a 高周波コイル(送信コイル)、14b 高周波コイル(受信コイル)、15 信号増幅器、16 直交位相検波器、17 A/D変換器、18 磁気ディスク、19 光ディスク、20 ディスプレイ、23 トラックボール又はマウス、24 キーボー
ド
【国際調査報告】