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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2017年1月19日
【発行日】2018年5月24日
(54)【発明の名称】高品質なiPS細胞の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/074 20100101AFI20180420BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20180420BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20180420BHJP
【FI】
   C12N5/074ZNA
   C12N5/10
   C12N15/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】39
【出願番号】特願2017-528287(P2017-528287)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2016年7月11日
(31)【優先権主張番号】特願2015-138645(P2015-138645)
(32)【優先日】2015年7月10日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】516182203
【氏名又は名称】Heartseed株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【識別番号】100145920
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 博行
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 慎介
(72)【発明者】
【氏名】福田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】國富 晃
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA02
(57)【要約】
本発明は、iPS細胞の品質改善剤、iPS細胞の製造方法、かかる製造方法により製造されるiPS細胞、及び、iPS細胞製造用組成物を提供することを目的とする。本発明のiPS細胞の製造方法は、(a)核初期化物質、及び(b)H1foo遺伝子又はその遺伝子産物を体細胞に導入する工程を含むことを特徴とする。核初期化物質だけでなく、H1foo遺伝子又はその遺伝子産物を体細胞に導入することにより、品質の高いiPS細胞をより多く製造することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
H1foo遺伝子又はその遺伝子産物を含むことを特徴とするiPS細胞の品質改善剤。
【請求項2】
H1foo遺伝子を含む発現ベクターを含むことを特徴とする請求項1に記載のiPS細胞の品質改善剤。
【請求項3】
(a)核初期化物質、及び(b)H1foo遺伝子又はその遺伝子産物を体細胞に導入する工程を含むことを特徴とするiPS細胞の製造方法。
【請求項4】
核初期化物質が、Oct遺伝子ファミリーの遺伝子、Sox遺伝子ファミリーの遺伝子、Klf遺伝子ファミリーの遺伝子、Myc遺伝子ファミリーの遺伝子、Lin遺伝子ファミリーの遺伝子、及びNanog遺伝子、並びに、それらの遺伝子産物からなる群から選択される少なくとも1つを含む請求項3に記載のiPS細胞の製造方法。
【請求項5】
核初期化物質が、Oct遺伝子ファミリーの遺伝子又はその遺伝子産物、Sox遺伝子ファミリーの遺伝子又はその遺伝子産物、及びKlf遺伝子ファミリー遺伝子又はその遺伝子産物からなる請求項3又は4に記載のiPS細胞の製造方法。
【請求項6】
核初期化物質が、Oct3/4遺伝子又はその遺伝子産物、Sox2遺伝子又はその遺伝子産物、及びKlf4遺伝子又はその遺伝子産物からなる請求項3〜5のいずれかに記載のiPS細胞の製造方法。
【請求項7】
核初期化物質が、Oct3/4遺伝子又はその遺伝子産物、Sox2遺伝子又はその遺伝子産物、Klf4遺伝子又はその遺伝子産物、及びL−Myc遺伝子又はその遺伝子産物からなる請求項3〜5のいずれかに記載のiPS細胞の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のiPS細胞の製造方法により製造されるiPS細胞。
【請求項9】
(a)核初期化物質、及び(b)H1foo遺伝子又はその遺伝子産物を含むことを特徴とするiPS細胞製造用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、iPS細胞の品質改善剤、iPS細胞の製造方法、かかる製造方法により製造されるiPS細胞、及び、iPS細胞製造用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
iPS(induced pluripotent stem)細胞(「人工多能性幹細胞」又は「誘導多能性幹細胞」とも呼ばれる。)は、Oct3/4、Sox2、Klf4及びc−Mycを導入することによって、体細胞から産生することができる(非特許文献1、特許文献1)。これは、親体細胞の転写ネットワーク及びエピジェネティックシグネチャー(epigenetic signature)をリプログラミングすることによって達成できる。iPS細胞は、基礎研究、医薬の革新、及び再生医療にさまざまな利益をもたらす。しかし、生成したiPS細胞の細胞群が、胚性幹細胞(ES細胞)の細胞群と比較して不均一な品質(heterogeneous quality)であることは、依然として深刻な問題である。例えば、ES細胞の場合、細胞毎の性質のばらつきが小さく、おおむねどの細胞も目的とする細胞へ分化させることができるのに対し、iPS細胞は、細胞毎の性質のばらつきが大きく、目的とする細胞へ分化させることができない細胞がしばしばあった。いずれのiPS細胞もばらつきなく高品質を示すことは、基礎研究及び臨床目的のために重要である。
【0003】
iPS細胞の細胞群の品質が不均一であるという問題を解決するために、多くの試みがなされてきた。例えば特許文献2には、所定量のOct3/4遺伝子、Klf4遺伝子、c−Myc遺伝子及びSox2の遺伝子を、体細胞に所定回数導入すると、iPS細胞の製造効率及び安定性を向上させることができる旨が記載されている。また、特許文献3には、Oct3/4遺伝子乃至その遺伝子産物、Sox2遺伝子乃至その遺伝子産物、Klf4遺伝子乃至その遺伝子産物及びc−Myc遺伝子乃至その遺伝子産物に加えて、Prdm14遺伝子乃至その遺伝子産物、Esrrb遺伝子乃至その遺伝子産物、及びSall4a遺伝子乃至その遺伝子産物を体細胞に導入することにより、品質面に優れた人工多能性幹細胞(iPS細胞)を効率良く、短期間で製造することができる旨が記載されている。さらに特許文献4には、Oct3/4遺伝子乃至その遺伝子産物、Sox2遺伝子乃至その遺伝子産物、Klf4遺伝子乃至その遺伝子産物及びc−Myc遺伝子乃至その遺伝子産物に加えて、Jarid2変異体遺伝子乃至その遺伝子産物を体細胞に導入することにより、品質面に優れた人工多能性幹細胞(iPS細胞)を効率良く、短期間で製造することができる旨が記載されている。しかし、iPS細胞の品質にはまだ改善の余地があった。そこで、より高品質でしかも品質のばらつきがより少ないiPS細胞の製造方法の開発が求められていた。
【0004】
なお、リンカーヒストンH1ファミリーは、リンカーDNAに結合し、遺伝子発現を制御するために、高次クロマチン構造を生じさせる。リンカーヒストンH1ファミリーのメンバーには、ヒストンH1a、H1b、H1c、H1d、H1e、H1foo、H1x、H1.0、H1t、H1T2、HILS1が含まれている。リンカーヒストンファミリーの大部分のメンバーは、クロマチンを凝縮する体細胞リンカーヒストンからなる。したがって、かかる構造は、一般的に全体的な遺伝子転写活性を抑制する(非特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4183742号公報
【特許文献2】特開2011−004674号公報
【特許文献3】特開2014−217344号公報
【特許文献4】特開2014−217345号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Takahashi, K. & Yamanaka, S. Induction of pluripotent stem cells from mouse embryonic and adult fibroblast cultures by defined factors. Cell126, 663-676 (2006)
【非特許文献2】Steinbach, O.C., Wolffe, A.P. & Rupp, R.A. Somatic linker histones cause loss of mesodermal competence in Xenopus. Nature 389, 395-399 (1997)
【非特許文献3】Hebbar, P.B. & Archer, T.K. Altered histone H1 stoichiometryand an absence of nucleosome positioning on transfected DNA. The Journal of biological chemistry 283, 4595-4601 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、iPS細胞の品質改善剤、iPS細胞の製造方法、かかる製造方法により製造されるiPS細胞、及び、iPS細胞製造用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、iPS細胞の品質を改善すべく、鋭意検討を行った結果、核初期化物質を体細胞に導入してiPS細胞を製造する方法において、核初期化物質だけでなく、「H1foo遺伝子又はその遺伝子産物」を体細胞に導入すると、より高品質でしかも品質のばらつきがより少ないiPS細胞を製造できることを見いだし、本発明を完成するに至った。「H1foo遺伝子又はその遺伝子産物」を核初期化物質と併用することによって、より高品質でしかも品質のばらつきがより少ないiPS細胞を製造できたことは、当業者にとって意外であった。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)H1foo遺伝子又はその遺伝子産物を含むことを特徴とするiPS細胞の品質改善剤や、
(2)H1foo遺伝子を含む発現ベクターを含むことを特徴とする上記(1)に記載のiPS細胞の品質改善剤を提供する。
【0010】
また、本発明は、
(3)(a)核初期化物質、及び(b)H1foo遺伝子又はその遺伝子産物を体細胞に導入する工程を含むことを特徴とするiPS細胞の製造方法や、
(4)核初期化物質が、Oct遺伝子ファミリーの遺伝子、Sox遺伝子ファミリーの遺伝子、Klf遺伝子ファミリーの遺伝子、Myc遺伝子ファミリーの遺伝子、Lin遺伝子ファミリーの遺伝子、及びNanog遺伝子、並びに、それらの遺伝子産物からなる群から選択される少なくとも1つを含む上記(3)に記載のiPS細胞の製造方法や、
(5)核初期化物質が、Oct遺伝子ファミリーの遺伝子又はその遺伝子産物、Sox遺伝子ファミリーの遺伝子又はその遺伝子産物、及びKlf遺伝子ファミリー遺伝子又はその遺伝子産物からなる上記(3)又は(4)に記載のiPS細胞の製造方法や、
(6)核初期化物質が、Oct3/4遺伝子又はその遺伝子産物、Sox2遺伝子又はその遺伝子産物、及びKlf4遺伝子又はその遺伝子産物からなる上記(3)〜(5)のいずれかに記載のiPS細胞の製造方法や、
(7)核初期化物質が、Oct3/4遺伝子又はその遺伝子産物、Sox2遺伝子又はその遺伝子産物、Klf4遺伝子又はその遺伝子産物、及びL−Myc遺伝子又はその遺伝子産物からなる上記(3)〜(5)のいずれかに記載のiPS細胞の製造方法を提供する。
【0011】
さらに、本発明は、
(8)上記(1)〜(7)のいずれかに記載のiPS細胞の製造方法により製造されるiPS細胞や、
(9)(a)核初期化物質、及び(b)H1foo遺伝子又はその遺伝子産物を含むことを特徴とするiPS細胞製造用組成物を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、iPS細胞の品質改善剤、iPS細胞の製造方法、かかる製造方法により製造されるiPS細胞、及び、iPS細胞製造用組成物を提供することができる。本発明によれば、より高品質で、しかも品質のばらつきがより少ないiPS細胞を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】外来性(マウス)H1fooを発現させたC57BL/6Jマウスの尾部線維芽細胞(以下、単に「マウス線維芽細胞」という)の顕微鏡による画像である。図1aの「BF」、「DAPI」、「H1foo」、及び「MERGE」画像は、それぞれ、位相差画像、DAPI蛍光染色画像、H1foo蛍光染色画像、及び前記3種の画像を重ね合わせた画像を示す。図1bの左右の画像は、それぞれH1foo蛍光染色2次元及び2.5次元画像を示す。図1cの左右の画像は、それぞれコントロール細胞(マウス線維芽細胞)及び外来性H1fooを発現させたマウス線維芽細胞の電子顕微鏡画像を示す。
図2図2aは、3種類の核初期化物質(マウスOct3/4、Sox2、及びKlf4遺伝子[OSK遺伝子])、OSK遺伝子及びリンカーヒストンH1遺伝子(OSK+H1c遺伝子)、又はOSK遺伝子及びH1foo遺伝子(OSK+H1foo遺伝子)をマウス線維芽細胞へ導入し、ALP陽性ES様細胞(iPS細胞)コロニー形成効率を解析した結果を示す図である。図2bは、OSK遺伝子、又はOSK+H1foo遺伝子を導入して産生されたiPS細胞(以下、それぞれ「OSK−iPS細胞」及び「OSK+H1foo−iPS細胞」という)における、3種類の多能性マーカー(Oct3/4、Nanog、及びSSEA1)の発現を解析した結果を示す図である。図2cは、OSK遺伝子、又はOSK遺伝子、及びc−Myc遺伝子(OSKM遺伝子)を導入後1〜5日目における内在性H1fooの発現を解析した結果を示す図である。図2c中の「MEF+H1foo」は、H1foo遺伝子を導入したマウス胎児線維芽細胞(MEF)を解析した結果を示す。
図3】OSKM遺伝子、OSKM遺伝子及びH1foo遺伝子(OSKM+H1foo遺伝子)、OSK遺伝子、又はOSK+H1foo遺伝子をNanog−GFP発現線維芽細胞に導入し、Nanog−GFP陽性ES様細胞(iPS細胞)の割合を解析した結果を示す図である。
図4図4aは、OSK+H1foo−iPS細胞とES細胞の間で、全遺伝子トランスクリプトームプロファイルを比較した結果を示す図である。図4bは、OSK+H1foo−iPS細胞とOSK−iPS細胞の間で、全遺伝子トランスクリプトームプロファイルを比較した結果を示す図である。
図5】OSK−iPS細胞及びOSK+H1foo−iPS細胞のIG−DMR(図5a)、及びGtl2−DMR(図5b)のDNAメチル化レベルを解析した結果を示す図である。図中の「ES」及び「MEF」は、それぞれES細胞及びMEF細胞を解析した結果を示す。
図6】OSK−iPS細胞及びOSK+H1foo−iPS細胞から形成させた胚様体(EB)の形態を解析した結果を示す図である。
図7】OSK−iPS細胞及びOSK+H1foo−iPS細胞から形成させたEBのアポトーシス細胞の割合を解析した結果を示す図である。
図8】OSK−iPS細胞及びOSK+H1foo−iPS細胞から形成させたEBにおける細胞増殖マーカー2種(Ki67及びPCNA)の発現を解析した結果を示す図である。
図9】OSK−iPS細胞及びOSK+H1foo−iPS細胞のキメラ形成能を解析した結果を示す図である。
図10】OSK−iPS細胞及びOSK+H1foo−iPS細胞由来のキメラマウスの生殖系列移行能を解析した結果を示す図である。
図11】OSKL+H1foo−iPS細胞(Oct3/4、Sox2、Klf4、L−MycおよびH1foo遺伝子を導入して産生したiPS細胞)、及び、OSKL−iPS細胞(Oct3/4、Sox2、Klf4およびL−Myc遺伝子を導入して産生したiPS細胞)において、SRF遺伝子(図11a)やACTG2遺伝子(図11b)について定量RT−PCR解析を行った結果を示す図である。グラフ横軸の1〜4の数値は、クローン番号を表す。
図12】OSKL+H1foo−iPS細胞、及び、OSKL−iPS細胞において、Oct3/4遺伝子について定量RT−PCR解析を行った結果を示す図である。グラフ横軸の1〜4の数値は、クローン番号を表す。
図13】OSKL+H1foo−iPS細胞、及び、OSKL−iPS細胞を分化誘導培養して5日間の時点での細胞生存数を示す図である。グラフ横軸の1〜4の数値は、クローン番号を表す。
図14】OSKL+H1foo−iPS細胞、及び、OSKL−iPS細胞を分化誘導培養して5日間の時点で、Oct3/4遺伝子について定量RT−PCR解析を行った結果を示す図である。グラフ横軸の1〜4の数値は、クローン番号を表す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.iPS細胞の製造方法
本発明のiPS細胞の製造方法は、(a)核初期化物質、及び(b)H1foo遺伝子又はその遺伝子産物を体細胞に導入する工程(以下、単に「導入工程」とも表示する。)を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の工程を含み得る。
【0015】
<導入工程>
上記導入工程は、少なくとも、(a)核初期化物質、及び(b)H1foo遺伝子又はその遺伝子産物を体細胞に導入する工程である。核初期化物質だけでなく、H1foo遺伝子又はその遺伝子産物を体細胞に導入することにより、品質の高いiPS細胞をより多く製造することができる。本明細書において、遺伝子産物とは、遺伝子から転写されるmRNA(メッセンジャーRNA)、及び/又は、該mRNAから翻訳されるタンパク質を意味する。また、上記のH1foo遺伝子とは、H1fooタンパク質をコードするポリヌクレオチドを意味する。なお、H1foo遺伝子又はその遺伝子産物は、iPS細胞の品質改善剤として使用することができる。また、後述するH1foo遺伝子を含むベクターもまた、iPS細胞の品質改善剤として使用することができる。
【0016】
(H1foo遺伝子)
上記H1foo遺伝子の由来としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウシ、ヒツジ、ウマ、サルなどの任意の哺乳動物が挙げられる。上記H1foo遺伝子の配列情報は、公知のデータベースから得ることができ、例えば、GenBankでは、アクセッション番号BC047943(ヒト)、AY158091(ヒト)、BC137916(マウス)で入手することができる。ヒトのH1foo遺伝子(BC047943)のヌクレオチド配列を配列番号1に表し、ヒトのH1fooタンパク質(BC047943のH1foo遺伝子がコードするタンパク質)のアミノ酸配列を配列番号2に表す。ヒトのH1foo遺伝子(AY158091)のヌクレオチド配列を配列番号59に表し、ヒトのH1fooタンパク質(AY158091のH1foo遺伝子がコードするタンパク質)のアミノ酸配列を配列番号60に表す。また、マウスのH1foo遺伝子(BC137916)のヌクレオチド配列を配列番号3に表し、マウスのH1fooタンパク質(BC137916のH1foo遺伝子がコードするタンパク質)のアミノ酸配列を配列番号4に表す。
【0017】
上記H1foo遺伝子のヌクレオチド配列や、そのmRNAのヌクレオチド配列は、野生型のH1foo遺伝子のヌクレオチド配列や、そのmRNAのヌクレオチド配列と同一であってもよいし、変異を含んでいてもよい。かかる変異を含むヌクレオチド配列としては、「野生型のH1foo遺伝子のヌクレオチド配列(例えば、配列番号1又は59又は3に表されるヌクレオチド配列)又はそのmRNAのヌクレオチド配列において、1〜30個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜15個、さらに好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜3個のヌクレオチドが欠失、置換、挿入、又は付加されたヌクレオチド配列であって、H1foo活性を有するタンパク質をコードする前記ヌクレオチド配列」や、「タンパク質に翻訳される部分のヌクレオチド配列において、野生型のH1foo遺伝子のヌクレオチド配列(例えば、配列番号1又は59又は3に表されるヌクレオチド配列)又はそのmRNAのヌクレオチド配列との配列同一性が、70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上であるヌクレオチド配列であって、H1foo活性を有するタンパク質をコードする前記ヌクレオチド配列」などが挙げられる。
【0018】
上記H1fooタンパク質のアミノ酸配列は、野生型のH1fooタンパク質のアミノ酸配列(例えば、配列番号2又は60又は4に表されるアミノ酸配列)と同一であってもよいし、変異を含んでいてもよい。かかる変異を含むタンパク質としては、「野生型のH1fooタンパク質のアミノ酸配列(例えば、配列番号2又は60又は4に表されるアミノ酸配列)において、1〜30個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜15個、さらに好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜3個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、H1foo活性を有するタンパク質」や、「野生型のH1fooタンパク質のアミノ酸配列(例えば、配列番号2又は60又は4に表されるアミノ酸配列)との配列同一性が、70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上であるアミノ酸配列からなり、かつ、H1foo活性を有するタンパク質」が挙げられる。本明細書において「H1foo活性を有するタンパク質」とは、核初期化物質と共に体細胞に導入した場合に、該核初期化物質のみを体細胞に導入した場合と比較して、品質の高いiPS細胞をより多く製造することができるタンパク質を意味する。
【0019】
(核初期化物質)
本明細書において「核初期化物質」とは、その物質単独、又はその物質と他の物質との組み合わせを体細胞の細胞内に導入することにより、体細胞をiPS細胞に誘導することができる物質(群)を意味する。かかる核初期化物質としては、体細胞からiPS細胞を誘導することができる物質(群)であれば、遺伝子(発現ベクターに組み込まれた形態を含む)又はその遺伝子産物、あるいは低分子化合物等のいかなる物質であってもよい。核初期化物質である遺伝子とは、核初期化物質であるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを意味する。核初期化物質が遺伝子又はその遺伝子産物の場合、Oct遺伝子ファミリーの遺伝子、Sox遺伝子ファミリーの遺伝子、Klf遺伝子ファミリーの遺伝子、Myc遺伝子ファミリーの遺伝子、Lin遺伝子ファミリーの遺伝子、及びNanog遺伝子、並びに、それらの遺伝子産物からなる群から選択される少なくとも1つを挙げることができ(WO2007/69666;特許第5696282号; Science, 2007, 318:1917-1920)、中でも、かかる群から選択される2つ以上が好ましく、3つ以上がより好ましく挙げられ、また、かかる群から選択される2〜4つの範囲内が好ましく、3つ又は4つがより好ましく挙げられる。これらのファミリーの遺伝子及びその組み合わせの具体例を以下に列挙する。なお、以下においては遺伝子の名称のみを記載するが、その遺伝子産物を用いる場合も含まれる。
【0020】
(a)Oct遺伝子ファミリーの遺伝子からなる1種の核初期化物質;
(b)Oct遺伝子ファミリーの遺伝子及びSox遺伝子ファミリーの遺伝子からなる2種の核初期化物質の組み合わせ;
(c)Oct遺伝子ファミリーの遺伝子及びKlf遺伝子ファミリーの遺伝子からなる2種の核初期化物質の組み合わせ;
(d)Oct遺伝子ファミリーの遺伝子及びNanog遺伝子からなる2種の核初期化物質の組み合わせ;
(e)Oct遺伝子ファミリーの遺伝子、Sox遺伝子ファミリーの遺伝子、及びKlf遺伝子ファミリーの遺伝子からなる3種の核初期化物質の組み合わせ;
(f)Oct遺伝子ファミリーの遺伝子、Klf遺伝子ファミリーの遺伝子及びMyc遺伝子ファミリーの遺伝子からなる3種の核初期化物質の組み合わせ。
(g)Oct遺伝子ファミリーの遺伝子、Sox遺伝子ファミリーの遺伝子、Klf遺伝子ファミリーの遺伝子及びMyc遺伝子ファミリーの遺伝子からなる4種の核初期化物質の組み合わせ;並びに
(h)Oct遺伝子ファミリーの遺伝子、Sox遺伝子ファミリーの遺伝子、Lin遺伝子ファミリーの遺伝子、及びNanog遺伝子からなる4種の核初期化物質の組み合わせ;
あるいは、上記(a)〜(h)のいずれかの核初期化物質又はその組み合わせに、さらに他の核初期化物質(遺伝子又はその遺伝子産物)を追加した組み合わせであってもよい。具体的に記載すると、
(a’)Oct遺伝子ファミリーの遺伝子からなる1種の核初期化物質を含む核初期化物質の組み合わせ;
(b’)Oct遺伝子ファミリーの遺伝子及びSox遺伝子ファミリーの遺伝子からなる2種の核初期化物質を含む核初期化物質の組み合わせ;
(c’)Oct遺伝子ファミリーの遺伝子及びKlf遺伝子ファミリーの遺伝子からなる2種の核初期化物質を含む核初期化物質の組み合わせ;
(d’)Oct遺伝子ファミリーの遺伝子及びNanog遺伝子からなる2種の核初期化物質を含む核初期化物質の組み合わせ;
(e’)Oct遺伝子ファミリーの遺伝子、Sox遺伝子ファミリーの遺伝子、及びKlf遺伝子ファミリーの遺伝子からなる3種の核初期化物質を含む核初期化物質の組み合わせ;
(f’)Oct遺伝子ファミリーの遺伝子、Klf遺伝子ファミリーの遺伝子及びMyc遺伝子ファミリーの遺伝子からなる3種の核初期化物質を含む核初期化物質の組み合わせ。
(g’)Oct遺伝子ファミリーの遺伝子、Sox遺伝子ファミリーの遺伝子、Klf遺伝子ファミリーの遺伝子及びMyc遺伝子ファミリーの遺伝子からなる4種の核初期化物質を含む核初期化物質の組み合わせ;並びに
(h’)Oct遺伝子ファミリーの遺伝子、Sox遺伝子ファミリーの遺伝子、Lin遺伝子ファミリーの遺伝子、及びNanog遺伝子からなる4種の核初期化物質を含む核初期化物質の組み合わせ;
【0021】
より具体的には、以下の組み合わせが例示されるが、これらに限定されない。
(1)Oct3/4遺伝子、Klf4遺伝子、c−Myc遺伝子;
(2)Oct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、Klf4遺伝子、c−Myc遺伝子(ここで、Sox2遺伝子はSox1遺伝子、Sox3遺伝子、Sox15遺伝子、Sox17遺伝子又はSox18遺伝子で置換可能である。また、Klf4遺伝子はKlf1遺伝子、Klf2遺伝子又はKlf5遺伝子で置換可能である。さらに、c−Myc遺伝子は、T58A(活性型変異体)遺伝子、N−Myc遺伝子、L−Myc遺伝子で置換可能である。);
(3)Oct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、Klf4遺伝子、c−Myc遺伝子、Fbx15遺伝子、Nanog遺伝子、Eras遺伝子、ECAT15−2遺伝子、TclI遺伝子、β−catenin(活性型変異体S33Y);
(4)Oct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、Klf4遺伝子、c−Myc遺伝子、hTERT遺伝子、SV40 Large T antigen(以下、SV40LT)遺伝子;
(5)Oct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、Klf4遺伝子、c−Myc遺伝子、hTERT遺伝子、HPV16 E6遺伝子;
(6)Oct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、Klf4遺伝子、c−Myc遺伝子、hTERT遺伝子、HPV16 E7遺伝子;
(7)Oct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、Klf4遺伝子、c−Myc遺伝子、hTERT遺伝子、HPV6 E6遺伝子、HPV16 E7遺伝子;
(8)Oct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、Klf4遺伝子、c−Myc遺伝子、hTERT遺伝子、Bmil遺伝子;
(上記(1)〜(8)の組み合わせについては、WO2007/069666を参照(但し、上記(2)の組み合わせにおいて、Sox2遺伝子からSox18遺伝子への置換、Klf4遺伝子からKlf1遺伝子若しくはKlf5遺伝子への置換については、Nature Biotechnology, 26, 101-106 (2008)を参照)。「Oct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、Klf4遺伝子、c−Myc遺伝子」の組み合わせについては、Cell, 126, 663-676 (2006)、Cell, 131, 861-872 (2007) 等も参照。「Oct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、Klf2(又はKlf5)遺伝子、c−Myc遺伝子」の組み合わせについては、Nat. Cell Biol., 11, 197-203 (2009) も参照。「Oct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、Klf4遺伝子、c−Myc遺伝子、hTERT遺伝子、SV40LT遺伝子」の組み合わせについては、Nature, 451, 141-146 (2008)も参照。)
(9)Oct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、Klf4遺伝子(Nature Biotechnology, 26, 101-106 (2008)を参照);
(10)Oct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、Nanog遺伝子、Lin28遺伝子(Science, 318, 1917-1920 (2007)を参照);
(11)Oct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、Nanog遺伝子、Lin28遺伝子、hTERT遺伝子、SV40LT遺伝子(Stem Cells, 26, 1998-2005 (2008)を参照);
(12)Oct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、Klf4遺伝子、c−Myc遺伝子、Nanog遺伝子、Lin28遺伝子(Cell Research (2008) 600-603を参照);
(13)Oct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、Klf4遺伝子、c−Myc遺伝子、SV40LT遺伝子(Stem Cells, 26, 1998-2005 (2008)も参照);
(14)Oct3/4遺伝子、Klf4遺伝子(Nature 454:646-650 (2008)、Cell Stem Cell, 2:525-528(2008))を参照);
(15)Oct3/4遺伝子、c−Myc遺伝子(Nature 454:646-650 (2008)を参照);
(16)Oct3/4遺伝子、Sox2遺伝子(Nature, 451, 141-146 (2008), WO2008/118820を参照);
(17)Oct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、Nanog遺伝子(WO2008/118820を参照);
(18)Oct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、Lin28遺伝子(WO2008/118820を参照);
(19)Oct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、c−Myc遺伝子、Esrrb遺伝子(ここで、Essrrb遺伝子はEsrrg遺伝子で置換可能である。Nat. Cell Biol., 11, 197-203 (2009) を参照);
(20)Oct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、Esrrb遺伝子(Nat. Cell Biol., 11, 197-203 (2009) を参照);
(21)Oct3/4遺伝子、Klf4遺伝子、L−Myc遺伝子;
(22)Oct3/4遺伝子、Nanog遺伝子;
(23)Oct3/4遺伝子;
(24)Oct3/4遺伝子、Klf4遺伝子、c−Myc遺伝子、Sox2遺伝子、Nanog遺伝子、Lin28遺伝子、SV40LT遺伝子(Science, 324: 797-801 (2009)を参照);
【0022】
上記(1)〜(24)の組み合わせにおいて、Oct3/4遺伝子に代えて、他のOct遺伝子ファミリーのメンバー遺伝子(例えばOct1A、Oct6など)を用いることもできる。また、Sox2遺伝子(又はSox1遺伝子、Sox3遺伝子、Sox15遺伝子、Sox17遺伝子、Sox18遺伝子)に代えて、他のSox遺伝子ファミリーのメンバー遺伝子(例えばSox7遺伝子など)を用いることもできる。さらにLin28遺伝子に代えて、他のLin遺伝子ファミリーのメンバー遺伝子(例えばLin28b遺伝子など)を用いることもできる。
また、上記(1)〜(24)のいずれかの組み合わせそのものではないが、上記(1)〜(24)のいずれかにおける構成要素をすべて含み、且つ任意の他の物質(好ましくは他の核初期化物質)をさらに含む組み合わせも、本発明における「核初期化物質」の範疇に含まれ得る。また、核初期化の対象となる体細胞が上記(1)〜(24)の組み合わせのいずれかにおける構成要素の一部を、核初期化のために十分なレベルで内在的に発現している条件下にあっては、当該構成要素を除いた残りの構成要素のみの組み合わせもまた、本発明における「核初期化物質」の範疇に含まれ得る。
【0023】
さらにまた、上記の核初期化物質に加えて、Fbx15遺伝子、ERas遺伝子、ECAT15−2遺伝子、Tcl1遺伝子、及びβ−catenin遺伝子からなる群から選ばれる1種以上の核初期化物質を組み合わせてもよく、及び/又はECAT1遺伝子、Esg1遺伝子、Dnmt3L遺伝子、ECAT8遺伝子、Gdf3遺伝子、Mybl2遺伝子、ECAT15−1遺伝子、Fthl17遺伝子、Sall4遺伝子、Rex1遺伝子、UTF1遺伝子、Stella遺伝子、Stat3遺伝子、及びGrb2遺伝子からなる群から選ばれる1種以上の核初期化物質を組み合わせることもできる。これらの組み合わせについてはWO2007/69666に具体的に説明されている。
【0024】
好ましい核初期化物質としては、Oct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、Klf4遺伝子、c−Myc遺伝子(又はL−Myc遺伝子)、Lin28遺伝子、及びNanog遺伝子、並びに、それらの遺伝子産物からなる群から選択される少なくとも1つ、好ましくは2つ以上、より好ましくは3つ以上が、好ましい核初期化物質の例として挙げられる。特に好ましい核初期化物質の組み合わせとしては、(1)Oct3/4遺伝子又はその遺伝子産物、Sox2遺伝子又はその遺伝子産物、及びKlf4遺伝子又はその遺伝子産物、(2)Oct3/4遺伝子又はその遺伝子産物、Sox2遺伝子又はその遺伝子産物、Klf4遺伝子又はその遺伝子産物、及びc−Myc遺伝子又はその遺伝子産物、(3)Oct3/4遺伝子又はその遺伝子産物、Sox2遺伝子又はその遺伝子産物、Klf4遺伝子又はその遺伝子産物、及びL−Myc遺伝子又はその遺伝子産物を挙げることができ、中でも、Oct3/4遺伝子又はその遺伝子産物、Sox2遺伝子又はその遺伝子産物、及びKlf4遺伝子又はその遺伝子産物の組み合わせや、Oct3/4遺伝子又はその遺伝子産物、Sox2遺伝子又はその遺伝子産物、Klf4遺伝子又はその遺伝子産物、及びL−Myc遺伝子又はその遺伝子産物の組み合せを好ましく挙げることができ、中でも、Oct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、及びKlf4遺伝子の組み合わせや、Oct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、Klf4遺伝子、及びL−Myc遺伝子の組み合わせをより好ましく挙げることができる。
【0025】
本発明に用いる核初期化物質の1つとして、c−Myc遺伝子又はその遺伝子産物を用いてもよいが、c−Myc遺伝子又はその遺伝子産物を用いないことが好ましい。c−Mycは、Nanog−GFP陽性コロニーの割合を低減し、細胞の発がん性を増加することが報告されているからである(Nakagawa, M., et al. Generation of induced pluripotent stem cells without Myc from mouse and human fibroblasts. Nature biotechnology 26, 101-106 (2008))。
【0026】
核初期化物質が遺伝子又はその遺伝子産物の場合、かかる遺伝子の由来としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウシ、ヒツジ、ウマ、サルなどの任意の哺乳動物が挙げられる。
【0027】
上記の各核初期化物質のマウス及びヒトcDNA配列情報は、WO2007/069666に記載のGenBank accession numbersを参照することにより取得することができる。なお、Nanog遺伝子は当該公報中では「ECAT4」との名称で記載されている。また、上記の各核初期化物質のうち、特に好ましい3つの遺伝子(Oct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、Klf4遺伝子)のマウス及びヒトcDNA配列情報を、以下に改めて記載する。
遺伝子名 マウス ヒト
Oct3/4 NM_013633 NM_002701
Sox2 NM_011443 NM_003106
Klf4 NM_010637 NM_004235
L-Myc NM_008506 NM_001033081
なお、ヒトのOct3/4遺伝子のcDNA配列を配列番号47に示し、ヒトのOct3/4タンパク質のアミノ酸配列を配列番号48に示し、ヒトのSox2遺伝子のcDNA配列を配列番号49に示し、ヒトのSox2タンパク質のアミノ酸配列を配列番号50に示し、ヒトのKlf4遺伝子のcDNA配列を配列番号51に示し、ヒトのKlf4タンパク質のアミノ酸配列を配列番号52に示し、ヒトのL−Myc遺伝子のcDNA配列を配列番号53に示し、ヒトのL−Mycタンパク質のアミノ酸配列を配列番号54に示す。
【0028】
また、上記の各核初期化物質のうち、WO2007/069666にGenBank accession numbersが記載されていない遺伝子のマウス及びヒトcDNA配列情報を以下に記載する。
遺伝子名 マウス ヒト
Lin28 NM_145833 NM_024674
Lin28b NM_001031772 NM_001004317
Esrrb NM_011934 NM_004452
Esrrg NM_011935 NM_001438
【0029】
当業者は、上記の各核初期化物質のマウス及びヒトcDNA配列情報に基づき、これらの核初期化物質のcDNAを容易に単離することができる。
【0030】
核初期化物質が上記各遺伝子又はそのmRNAである場合のそれらのヌクレオチド配列は、本発明の効果を損なわない限り特に制限はなく、上記各遺伝子の各ヌクレオチド配列のうち、タンパク質に翻訳される部分のみであってもよいし、それ以外の部分を含んでいてもよい。また、上記各遺伝子のヌクレオチド配列や、そのmRNAのヌクレオチド配列は、野生型の上記各遺伝子のヌクレオチド配列や、そのmRNAのヌクレオチド配列と同一であってもよいし、変異を含んでいてもよい。かかる変異を含むヌクレオチド配列としては、「野生型の上記各遺伝子のヌクレオチド配列又はそのmRNAのヌクレオチド配列において、1〜30個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜15個、さらに好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜3個のヌクレオチドが欠失、置換、挿入、又は付加されたヌクレオチド配列であって、かつ、前記遺伝子の遺伝子産物の核初期化作用を有するタンパク質をコードする前記ヌクレオチド配列」や、「タンパク質に翻訳される部分のヌクレオチド配列において、野生型の上記各遺伝子のヌクレオチド配列又はそのmRNAのヌクレオチド配列との配列同一性が、70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上であるヌクレオチド配列であって、かつ、前記遺伝子の遺伝子産物の核初期化作用を有するタンパク質をコードする前記ヌクレオチド配列」などが挙げられる。
【0031】
核初期化物質が、上記各遺伝子によりコードされるタンパク質(すなわち、上記各遺伝子から転写されるmRNAから翻訳されるタンパク質)である場合のそれらのアミノ酸配列は、野生型の上記各遺伝子によりコードされるタンパク質と同一であってもよいし、変異を含んでいてもよい。かかる変異を含むタンパク質としては、「野生型の上記各遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列において、1〜30個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜15個、さらに好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜3個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、核初期化作用を有するタンパク質」や、「野生型の上記各遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列との配列同一性が、70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上であるアミノ酸配列からなり、かつ、核初期化作用を有するタンパク質」が挙げられる。
【0032】
(体細胞)
上記体細胞としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、胎児期の体細胞、成熟した体細胞などが挙げられる。上記成熟した体細胞の具体例としては、間葉系幹細胞、造血幹細胞、脂肪組織由来間質細胞、脂肪組織由来間質幹細胞、神経幹細胞、精子幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞);組織前駆細胞;線維芽細胞、上皮細胞、リンパ球、筋肉細胞等の既に分化した細胞;などが挙げられる。
【0033】
上記体細胞が由来する生物種としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウシ、ヒツジ、ウマ、サルなどの任意の哺乳動物が挙げられる。また、上記体細胞が由来する生物種と、該体細胞に導入する遺伝子が由来する生物種は同じでなくてもよいが、同じであることが好ましい。
【0034】
上記体細胞を採取する個体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、得られるiPS細胞を再生医療用途に用いる場合には、拒絶反応の観点から、個体自身、又はMHCの型が同一若しくは実質的に同一の他個体が好ましい。ここで、上記MHCの型が実質的に同一とは、免疫抑制剤などの使用により、上記体細胞由来のiPS細胞から分化誘導して得られた細胞を個体に移植した場合に移植細胞が生着可能な程度にMHCの型が一致していることをいう。
【0035】
上記体細胞は、iPS細胞の選択を容易にするために、組み換えたものであってもよい。上記組換え体細胞の具体例としては、分化多能性細胞において特異的に高発現する遺伝子の遺伝子座に、レポーター遺伝子、及び薬剤耐性遺伝子の少なくともいずれかを組み込んだ組換え体細胞が挙げられる。上記分化多能性細胞において特異的に高発現する遺伝子としては、例えば、Fbx15遺伝子、Nanog遺伝子、Oct3/4遺伝子、などが挙げられる。上記レポーター遺伝子としては、例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、β−ガラクトシダーゼ遺伝子などが挙げられる。上記薬剤耐性遺伝子としては、ブラストシジン遺伝子、ハイグロマイシン遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子などが挙げられる。
【0036】
上記体細胞の培養条件としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、培養温度は約37℃、CO濃度は約2%〜5%などが挙げられる。上記体細胞の培養に用いる培地としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、5質量%〜20質量%の血清を含む、最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地、F12培地などが挙げられる。
【0037】
((a)核初期化物質及び(b)H1foo遺伝子又はその遺伝子産物を、体細胞へ導入する方法)
(a)核初期化物質や、(b)H1foo遺伝子又はその遺伝子産物を、体細胞へ導入する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、発現ベクターを用いる方法、mRNAを用いる方法、組換えタンパク質を用いる方法、などが挙げられる。体細胞への導入の容易さを考慮すると、核初期化物質は、タンパク質の形態で体細胞へ導入するよりも、遺伝子の形態や、該遺伝子のmRNAの形態で体細胞へ導入する方が好ましく、遺伝子の形態で体細胞へ導入することがより好ましい。かかる遺伝子はDNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよいが、安定性の観点から、DNAであることが好ましい。また、該遺伝子は二本鎖であっても一本鎖であってもよいが、二本鎖であることが好ましい。好ましい核初期化物質としては、上記各遺伝子のcDNAが挙げられ、中でも、上記各遺伝子の二本鎖のcDNAが好ましく挙げられる。
【0038】
同様に、体細胞への導入の容易さを考慮すると、「H1foo遺伝子又はその遺伝子産物」は、タンパク質の形態で体細胞へ導入するよりも、遺伝子の形態や、該遺伝子のmRNAの形態で体細胞へ導入する方が好ましく、遺伝子の形態で体細胞へ導入することがより好ましい。かかるH1foo遺伝子はDNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよいが、安定性の観点から、DNAであることが好ましい。また、該H1foo遺伝子は二本鎖であっても一本鎖であってもよいが、二本鎖であることが好ましい。「H1foo遺伝子又はその遺伝子産物」の好ましい態様としては、H1foo遺伝子のcDNAが挙げられ、中でも、H1foo遺伝子の二本鎖のcDNAが好ましく挙げられる。
【0039】
(発現ベクター)
核初期化物質を遺伝子の形態で体細胞へ導入する場合や、H1foo遺伝子を体細胞へ導入する場合には、宿主となる体細胞で機能し得るプロモーターを含む適当な発現ベクターに、核初期化物質やH1foo遺伝子を組み込んだ発現ベクターを好適に用いることができる。核初期化物質やH1foo遺伝子を組み込むための発現ベクターとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エピソーマルベクター、人工染色体ベクター、プラスミドベクター、ウイルスベクターなどが挙げられる。
【0040】
上記の発現ベクターにおいて使用されるプロモーターとしては、例えばSRαプロモーター、SV40初期プロモーター、レトロウイルスのLTR、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター、HSV−TK(単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ)プロモーター、EF1αプロモーター、メタロチオネインプロモーター、ヒートショックプロモーターなどが挙げられる。また、ヒトCMVのIE遺伝子のエンハンサーをプロモーターと共に用いてもよい。一例としては、CAGプロモーター(サイトメガロウイルスエンハンサーとニワトリβ−アクチンプロモーターとβ−グロビン遺伝子のポリAシグナル部位を含む)を用いることができる。
【0041】
上記の発現ベクターは、プロモーターの他に、所望によりエンハンサー、ポリA付加シグナル、マーカー遺伝子、複製開始点、複製開始点に結合して複製を制御するタンパク質をコードする遺伝子などを含有していてもよい。上記のマーカー遺伝子とは、該マーカー遺伝子を細胞に導入することにより、細胞の選別や選択を可能とするような遺伝子をいう。上記のマーカー遺伝子の具体例としては、薬剤耐性遺伝子、蛍光タンパク質遺伝子、発光酵素遺伝子、発色酵素遺伝子などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。上記の薬剤耐性遺伝子の具体例としては、ネオマイシン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子などが挙げられる。上記の蛍光タンパク質遺伝子の具体例としては、緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子、黄色蛍光タンパク質(YFP)遺伝子、赤色蛍光タンパク質(RFP)遺伝子などが挙げられる。上記の発光酵素遺伝子の具体例としては、ルシフェラーゼ遺伝子などが挙げられる。上記の発色酵素遺伝子の具体例としては、βガラクトシターゼ遺伝子、βグルクロニダーゼ遺伝子、アルカリフォスファターゼ遺伝子などが挙げられる。
【0042】
上記のエピソーマルベクターは、染色体外で自律複製可能なベクターである。エピソーマルベクターを用いる具体的手段は、Yu et al., Science, 324, 797-801 (2009) に開示されている。本発明の特に好ましい一実施態様においては、エピソーマルベクターの複製に必要なベクター要素の5’側および3’側にloxP配列を同方向に配置したエピソーマルベクターが使用され得る。エピソーマルベクターは染色体外で自律複製可能なため、ゲノムに組み込まれなくとも宿主細胞内での安定な発現を提供し得るが、いったんiPS細胞が樹立された後は、当該ベクターは速やかに除かれることが望ましい。エピソーマルベクターの複製に必要なベクター要素を2つのloxP配列で挟み、これにCreリコンビナーゼを作用させて当該ベクター要素を切り出すことにより、エピソーマルベクターの自律複製能を喪失させることができ、該ベクターを早期にiPS細胞から脱落させることができる。
【0043】
本発明に用いられるエピソーマルベクターとしては、例えば、EBV、SV40等に由来する自律複製に必要な配列をベクター要素として含むベクターが挙げられる。自律複製に必要なベクター要素としては、具体的には、複製開始点と、複製開始点に結合して複製を制御するタンパク質をコードする遺伝子であり、例えば、EBVにあっては複製開始点oriPとEBNA−1遺伝子、SV40にあっては複製開始点oriとSV40LT遺伝子が挙げられる。
【0044】
また、上記人工染色体ベクターとしては、YAC(Yeast artificial chromosome)ベクター、BAC(Bacterial artificial chromosome)ベクター、PAC(P1-derived artificial chromosome)ベクターなどが挙げられる。
【0045】
また上記のプラスミドベクターとしては、導入する体細胞内で発現し得るプラスミドベクターである限り特に制限はなく、体細胞が哺乳動物である場合は、pA1−11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neo等の、動物細胞発現用プラスミドベクターが挙げられる。
【0046】
上記ウイルスベクターとしては、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)ベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、ポックスウイルスベクター、ポリオウイルスベクター、シルビスウイルスベクター、ラブドウイルスベクター、パラミクソウイルスベクター、オルソミクソウイルスベクターなどが挙げられる。
【0047】
上記の発現ベクターを上記の体細胞に導入する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、リポフェクション法、マイクロインジェクション法、DEAEデキストラン法、遺伝子銃法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法などが挙げられる。
【0048】
なお、体細胞に導入する発現ベクターとして、ウイルスベクターを用いる場合には、パッケージング細胞を用いて得られたウイルス粒子を用いてもよい。かかるパッケージング細胞は、ウイルスの構造タンパク質をコードする遺伝子を導入した細胞であり、該細胞に目的遺伝子を組み込んだ組換えウイルスベクターを導入すると、該目的遺伝子を組み込んだ組換えウイルス粒子を産生する。上記のパッケージング細胞としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト腎臓由来のHEK293細胞やマウス繊維芽細胞由来のNIH3T3細胞をベースとしたパッケージング細胞、Ecotropic virus由来エンベロープ糖タンパク質を発現するよう設計されているPLAT−E細胞、Amphotropic virus由来エンベロープ糖タンパク質を発現するよう設計されているPLAT−A細胞、水疱性口内炎ウイルス由来エンベロープ糖タンパク質を発現するよう設計されているPLAT−GP細胞などが挙げられる。これらの中でも、ヒト体細胞に対して組換えウイルスベクターを導入する場合にはPLAT−A細胞、PLAT−GP細胞が、宿主指向性の点で、好ましい。上記のパッケージング細胞へのウイルスベクターの導入方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、リポフェクション法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法などが挙げられる。得られたウイルス粒子を体細胞へ感染させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリブレン法が挙げられる。
【0049】
上記の発現ベクターを用いて、核初期化物質や、H1foo遺伝子を体細胞に導入する場合、1つの発現ベクターに1つの遺伝子を組み込んでもよいし、2つ以上の遺伝子を組み込んでもよい。1つのベクターに2つ以上の遺伝子を組み込むことにより、該2つ以上の遺伝子を同時に発現(以下、「共発現」と称することがある)させることができる。また、体細胞へ導入するすべての核初期化物質及びH1foo遺伝子を1つの発現ベクターに組み込んでもよい。
【0050】
上記の1つのベクターに2つ以上の遺伝子を組み込む方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、上記の2つ以上の遺伝子を、連結配列を通じて組み込むことが好ましい。かかる連結配列としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、口蹄疫ウイルス(Picornaviridae Aphthovirus)由来2Aペプチドをコードする遺伝子配列、IRES(internal ribosome entry sites)などが挙げられる。
【0051】
本発明のiPS細胞の製造方法においては、(a)核初期化物質及び(b)H1foo遺伝子の遺伝子産物を、mRNAの形態で体細胞へ導入してもよい。上記のmRNA(メッセンジャーRNA)を上記の体細胞に導入する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択して用いることができる。例えば、Lipofectamine(登録商標)MessengerMAX(Life Technologies社製)などの、市販のRNAトランスフェクション試薬などを用いることができる。
【0052】
また、本発明のiPS細胞の製造方法においては、(a)核初期化物質及び(b)H1foo遺伝子の遺伝子産物を、タンパク質の形態で体細胞へ導入してもよい。かかるタンパク質を前記体細胞に導入する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択して用いることができる。そのような方法としては、例えば、タンパク質導入試薬を用いる方法、タンパク質導入ドメイン(PTD)融合タンパク質を用いる方法、マイクロインジェクション法などが挙げられる。タンパク質導入試薬としては、カチオン性脂質をベースとしたBioPOTER(登録商標)Protein Delivery Reagent(Gene Therapy Systmes社製)及びPro-JectTM Protein Transfection Reagent(PIERCE社製)、脂質をベースとしたProfect-1(Targeting Systems社製)、膜透過性ペプチドをベースとしたPenetratin Peptide(Q biogene社製)及びChariot Kit(Active Motif社製)、HVJエンベロープ(不活化センダイウイルス)を利用したGenomONE(石原産業社製)等が市販されている。導入はこれらの試薬に添付のプロトコルに従って行うことができるが、一般的な手順は以下の通りである。タンパク質の形態である「(a)核初期化物質」や「(b)H1foo遺伝子の遺伝子産物」を適当な溶媒(例えば、PBS、HEPES等の緩衝液)に希釈し、導入試薬を加えて室温で5〜15分間程度インキュベートして複合体を形成させ、これを無血清培地に交換した細胞に添加して37℃で1時間〜数時間インキュベートすることができる。その後培地を除去して血清含有培地に交換することができる。
【0053】
上記のPTDとしては、ショウジョウバエ由来のAntP、HIV由来のTAT、HSV由来のVP22等のタンパク質の細胞通過ドメインを用いたものが開発されている。かかるPTDは、「(a)核初期化物質」や「(b)H1foo遺伝子の遺伝子産物」のcDNAとPTD配列とを組み込んだ融合タンパク質発現ベクターを作製して組換え発現させ、融合タンパク質を回収して導入に用いることができる。かかる融合タンパク質の導入は、タンパク質導入試薬を添加しない以外は上記と同様にして行うことができる。
【0054】
上記のマイクロインジェクション法としては、先端径1μm程度のガラス針にタンパク質溶液を入れ、細胞に穿刺導入する方法であり、確実に細胞内にタンパク質を導入することができる。以前より、マウスおよびヒトにおいて、タンパク質の形態の核初期化物質をポリアルギニンやTAT等のCPP(cell penetrating peptide)と共に導入してiPS細胞を樹立する方法が開発されており、これらの手法を用いることもできる(Cell Stem Cell, 4:381-384 (2009))。
【0055】
本発明のiPS細胞の製造方法において、「(a)核初期化物質」及び「(b)H1foo遺伝子又はその遺伝子産物」の体細胞への導入回数は、1回であってもよいし、2回以上であってもよい。その導入時期としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、導入する「(a)核初期化物質」及び「(b)H1foo遺伝子又はその遺伝子産物」の全てを同時期に導入してもよいし、一部又は全てを異なる時期に導入してもよい。上記の「H1foo遺伝子又はその遺伝子産物」は、遺伝子のみを用いる態様であってもよいし、その遺伝子産物のみを用いる態様であってもよいし、遺伝子とその遺伝子産物の両方を用いる態様であってもよい。上記の核初期化物質が遺伝子又はその遺伝子産物の場合、遺伝子のみを用いる態様であってもよいし、その遺伝子産物のみを用いる態様であってもよいし、遺伝子とその遺伝子産物の両方を用いる態様であってもよい。また、上記の核初期化物質が遺伝子又はその遺伝子産物であって、かつ、2種類以上の「遺伝子又はその遺伝子産物」を併用する場合、ある遺伝子については遺伝子産物を用い、他の遺伝子については遺伝子を用いる態様であってもよい。
【0056】
H1foo遺伝子又はその遺伝子産物の体細胞への導入量としては、(a)核初期化物質、及び(b)H1foo遺伝子又はその遺伝子産物を体細胞に導入した場合に、より高品質でしかも品質のばらつきがより少ないiPS細胞を製造し得る限り特に制限されない。また、上記の核初期化物質が遺伝子又はその遺伝子産物の場合、上記の遺伝子又はその遺伝子産物の体細胞への導入量としては、かかる体細胞の核を初期化し得る限り特に制限されず、用いる全ての遺伝子又はその遺伝子産物を等量ずつ導入してもよいし、異なる量で導入してもよい。遺伝子又はその遺伝子産物として、遺伝子を用いる場合の例としては、Oct3/4遺伝子がSox2遺伝子、Klf4遺伝子、又はc−Myc遺伝子に対して多量、例えば約3倍量、導入するのが(PNAS 106(31):12759-12764 (2009)、J.Biol.Chem.287(43): 36273-36282 (2012))好ましい。
【0057】
本発明のiPS細胞の製造方法において用いる核初期化物質が低分子化合物である場合、かかる低分子化合物の体細胞への接触は、その低分子化合物を適当な濃度で水性もしくは非水性溶媒に溶解し、体細胞の培養に適した培地(例えば、約5〜20%の胎仔ウシ血清を含む最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地、F12培地など)中に、その低分子化合物の濃度が体細胞において核初期化が起こるのに十分で且つ細胞毒性がみられない範囲となるようにその低分子化合物溶液を添加して、細胞を一定期間培養することにより実施することができる。核初期化物質である低分子化合物の濃度は用いるその低分子化合物の種類によって異なるが、約0.1nM〜約100nMの範囲で適宜選択することができる。接触期間は細胞の核初期化が達成されるのに十分な時間であれば特に制限はないが、通常は陽性コロニーが出現するまで培地に共存させておけばよい。
【0058】
<その他の工程>
前述したように、本発明のiPS細胞の製造方法は、(a)核初期化物質及び(b)H1foo遺伝子又はその遺伝子産物を体細胞に導入する工程(「導入工程」)を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の工程を含み得る。上記のその他の工程としては、本発明の効果を損なわない限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、上記の(a)核初期化物質及び(b)H1foo遺伝子又はその遺伝子産物が導入された体細胞(以下、単に「導入細胞」とも表示する。)を培養する工程(以下、単に「導入細胞培養工程」とも表示する。)などが挙げられる。
【0059】
(導入細胞培養工程)
上記の導入細胞培養工程は、上記の(a)核初期化物質及び(b)H1foo遺伝子又はその遺伝子産物が導入された体細胞を培養する工程である。上記の導入細胞の培養条件としては、特に制限はなく、例えばES細胞の培養に適した条件を挙げることができる。かかる条件として例えば、培養温度は約37℃、CO濃度は約2%〜5%などが挙げられる。また、上記の導入細胞の培養に用いる培地としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。マウス細胞の場合、通常の培地に分化抑制因子としてLeukemia Inhibitory Factor(LIF)を添加して培養を行う。一方、ヒト細胞の場合には、LIFの代わりに塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)および/または幹細胞因子(SCF)を添加することが望ましい。また通常、細胞は、フィーダー細胞として、放射線や抗生物質で処理して細胞分裂を停止させたマウス胎仔由来の線維芽細胞(MEF)の共存下で培養される。MEFとしては、通常STO細胞等がよく使われるが、iPS細胞の誘導には、SNL細胞(McMahon, A. P. & Bradley, A. Cell 62, 1073-1085 (1990))等がよく使われている。フィーダー細胞との共培養は、(a)核初期化物質及び(b)H1foo遺伝子又はその遺伝子産物の導入より前から開始してもよいし、該導入時から、あるいは該導入より後(例えば1〜10日後)から開始してもよい。
【0060】
上記の導入細胞培養工程の期間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0061】
2.iPS細胞
上記のiPS細胞の製造方法により製造される本発明のiPS細胞は、分化多能性及び自己複製能を有する。前記分化多能性とは、三胚葉系列すべてに分化できることを意味する。また、前記自己複製能とは、未分化状態を保持したまま増殖できる能力を意味する。
【0062】
上記のiPS細胞の製造方法により製造された細胞がiPS細胞であるか否かを確認する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、上記の体細胞として、分化多能性細胞において特異的に高発現する遺伝子(例えば、Fbx15、Nanog、Oct3/4など、好ましくはNanog又はOct3/4)の遺伝子座に、レポーター遺伝子、及び薬剤耐性遺伝子の少なくともいずれかを組み込んだ組換え体細胞を用いた場合には、上記のレポーター遺伝子や薬剤耐性遺伝子を利用して確認することができる。具体的には、上記のレポーター遺伝子として、緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子を用いた場合には、例えば、フローサイトメーターによりGFP陽性の細胞を確認する方法が挙げられる、また、上記の薬剤耐性遺伝子として、ピューロマイシン耐性遺伝子を用いた場合には、細胞にピューロマイシンを投与することにより確認することができる。
【0063】
本願明細書において「品質の高いiPS細胞」とは、H1foo遺伝子又はその遺伝子産物を体細胞に導入しないこと以外は、同じ方法で作製したiPS細胞よりも、品質の高いiPS細胞を意味する。また、本明細書において「品質のばらつきが少ないiPS細胞」とは、H1foo遺伝子又はその遺伝子産物を体細胞に導入しないこと以外は、同じ方法で作製したiPS細胞よりも、品質のばらつきが少ないiPS細胞を意味する。これらの品質としては、1種であっても2種以上であってもよい。「品質の高いiPS細胞」又は「品質のばらつきが少ないiPS細胞」の具体例として、以下の(a)〜(q)から選択される1種又は2種以上の特性を有するiPS細胞が挙げられる。
(a)H1foo遺伝子又はその遺伝子産物を体細胞に導入しないこと以外は、同じ方法で作製したiPS細胞(好ましくは、後述の実施例における「OSK−iPS細胞」又は「OSKL−iPS細胞」)と比較して、後述の[胚様体(EB)形成]の方法で5日間培養したときの胚様体形成数が割合として5%以上、好ましくは10%以上向上したiPS細胞。
(b)後述の[胚様体(EB)形成]の方法で5日間培養したときの胚様体形成数が78個以上、好ましくは80個以上であるiPS細胞。
(c)H1foo遺伝子又はその遺伝子産物を体細胞に導入しないこと以外は、同じ方法で作製したiPS細胞(好ましくは、後述の実施例における「OSK−iPS細胞」又は「OSKL−iPS細胞」)と比較して、後述の[胚様体(EB)形成]の方法で5日間培養したときの胚様体のサイズ(μm)のばらつき(σ)が割合として25%以上、好ましくは40%以上低下したiPS細胞。
(d)後述の[胚様体(EB)形成]の方法で5日間培養したときの胚様体のサイズ(μm)のばらつき(σ)が10000(μm)以下、好ましくは8000(μm)以下であるiPS細胞。
(e)H1foo遺伝子又はその遺伝子産物を体細胞に導入しないこと以外は、同じ方法で作製したiPS細胞(好ましくは、後述の実施例における「OSK−iPS細胞」又は「OSKL−iPS細胞」)と比較して、後述の[アポトーシスアッセイ]の方法で測定した生細胞(アネキシンV(−)/PI(−)細胞)の割合が、1.1倍以上、好ましくは1.2倍以上に向上したiPS細胞。
(f)後述の[アポトーシスアッセイ]の方法で測定した生細胞(アネキシンV(−)/PI(−)細胞)の割合が68%以上、好ましくは73%以上であるiPS細胞。
(g)H1foo遺伝子又はその遺伝子産物を体細胞に導入しないこと以外は、同じ方法で作製したiPS細胞(好ましくは、後述の実施例における「OSK−iPS細胞」又は「OSKL−iPS細胞」)と比較して、後述の[アポトーシスアッセイ]の方法で測定したアポトーシス細胞(アネキシンV(+)/PI(−)細胞とアネキシンV(+)/PI(+)細胞の合計)の割合が、0.75倍以下、好ましくは0.67倍以下に低下したiPS細胞。
(h)後述の[アポトーシスアッセイ]の方法で測定したアポトーシス細胞(アネキシンV(+)/PI(−)細胞とアネキシンV(+)/PI(+)細胞の合計)の割合が30%以下、好ましくは25%以下であるiPS細胞。
(i)H1foo遺伝子又はその遺伝子産物を体細胞に導入しないこと以外は、同じ方法で作製したiPS細胞(好ましくは、後述の実施例における「OSK−iPS細胞」又は「OSKL−iPS細胞」)と比較して、後述の[定量RT−PCR解析]の項目に記載の方法で測定したKi67遺伝子又はPCNA遺伝子(両遺伝子は細胞増殖マーカーとして知られている)の発現量が1.7倍、好ましくは2.2倍に向上したiPS細胞。
(j)後述の[定量RT−PCR解析]の項目に記載の方法で測定したKi67遺伝子又はPCNA遺伝子(両遺伝子は細胞増殖マーカーとして知られている)の発現量が、ES細胞と比較して、0.65倍以上、好ましくは0.73倍以上であるiPS細胞。
(k)H1foo遺伝子又はその遺伝子産物を体細胞に導入しないこと以外は、同じ方法で作製したiPS細胞(好ましくは、後述の実施例における「OSK−iPS細胞」又は「OSKL−iPS細胞」)と比較して、キメラ形成能が高いiPS細胞。
(l)H1foo遺伝子又はその遺伝子産物を体細胞に導入しないこと以外は、同じ方法で作製したiPS細胞(好ましくは、後述の実施例における「OSK−iPS細胞」又は「OSKL−iPS細胞」)と比較して、性腺移行能が高いiPS細胞。
(m)H1foo遺伝子又はその遺伝子産物を体細胞に導入しないこと以外は、同じ方法で作製したiPS細胞(好ましくは、後述の実施例における「OSKL−iPS細胞」又は「OSK−iPS細胞」)と比較して、後述の[定量RT−PCR解析]の項目に記載の方法で測定したSRF遺伝子(SRF遺伝子は染色体異常を有すると発現量が低下する染色体異常マーカーとして知られている)の発現量が1.1倍、好ましくは1.2倍に向上したiPS細胞。
(n)H1foo遺伝子又はその遺伝子産物を体細胞に導入しないこと以外は、同じ方法で作製したiPS細胞(好ましくは、後述の実施例における「OSKL−iPS細胞」又は「OSK−iPS細胞」)と比較して、後述の[定量RT−PCR解析]の項目に記載の方法で測定したACTG2遺伝子(ACTG2遺伝子は染色体異常を有すると発現量が低下する染色体異常マーカーとして知られている)の発現量が1.2倍、好ましくは1.5倍に向上したiPS細胞。
(o)H1foo遺伝子又はその遺伝子産物を体細胞に導入しないこと以外は、同じ方法で作製したiPS細胞(好ましくは、後述の実施例における「OSKL−iPS細胞」又は「OSK−iPS細胞」)と比較して、後述の[定量RT−PCR解析]の項目に記載の方法で測定したOct3/4遺伝子(幹細胞の未分化マーカー)の発現量のばらつき(σ)が割合として10%以上、好ましくは20%以上低下したiPS細胞。
(p)H1foo遺伝子又はその遺伝子産物を体細胞に導入しないこと以外は、同じ方法で作製したiPS細胞(好ましくは、後述の実施例における「OSKL−iPS細胞」又は「OSK−iPS細胞」)と比較して、後述の[分化誘導初期における細胞生存率の比較]の項目に記載の方法で測定した生存細胞数が、1.2倍、好ましくは1.5倍に向上したiPS細胞。
(q)H1foo遺伝子又はその遺伝子産物を体細胞に導入しないこと以外は、同じ方法で作製したiPS細胞(好ましくは、後述の実施例における「OSKL−iPS細胞」又は「OSK−iPS細胞」)と比較して、後述の[iPS細胞の分化誘導初期の未分化マーカー残存量の比較]の項目に記載の方法で測定したOct3/4遺伝子(幹細胞の未分化マーカー)の発現量のばらつき(σ)が割合として10%以上、好ましくは20%以上低下したiPS細胞。
【0064】
上記のiPS細胞が由来する生物種としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウシ、ヒツジ、ウマ、サルなどの任意の哺乳動物が挙げられる。
【0065】
3.iPS細胞の品質改善剤
本発明のiPS細胞の品質改善剤は、H1foo遺伝子又はその遺伝子産物を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の構成を含み得る。H1foo遺伝子又はその遺伝子産物は、上記のiPS細胞の製造方法で記載したものと同様である。また、H1foo遺伝子又はその遺伝子産物は、上記のiPS細胞の製造方法で記載したものと同様の変異が含まれていてもよい。また、H1foo遺伝子として、宿主となる体細胞で機能し得るプロモーターを含む上記の発現ベクターに組み込まれたものを用いてもよい。
【0066】
4.iPS細胞製造用組成物
本発明のiPS細胞製造用組成物は、(a)核初期化物質、及び(b)H1foo遺伝子又はその遺伝子産物を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の構成を含み得る。
【0067】
<(a)核初期化物質、及び(b)H1foo遺伝子又はその遺伝子産物>
上記の(a)核初期化物質、及び(b)H1foo遺伝子又はその遺伝子産物は、上記のiPS細胞の製造方法で記載したものと同様である。また、H1foo遺伝子又はその遺伝子産物や、核初期化物質である遺伝子又はその遺伝子産物は、上記のiPS細胞の製造方法で記載したものと同様の変異が含まれていてもよい。
【0068】
上記のiPS細胞製造用組成物における核初期化物質の好ましい形態として、遺伝子がベクターに組み込まれている形態、合成mRNAの形態、タンパク質(好ましくは組換えタンパク質)の形態などが挙げられる。上記のベクターとしては、上記のiPS細胞の製造方法で記載したものと同様のものが挙げられる。上記の合成mRNA、上記のタンパク質(好ましくは組換えタンパク質)は、公知の方法により製造することができる。
【0069】
上記のiPS細胞製造用組成物は、上記の(a)核初期化物質や、上記の(b)H1foo遺伝子又はその遺伝子産物が、個別の容器に分けられているものであってもよいし、1つの容器にまとめられているものであってもよいし、任意の数ごとに容器にまとめられているものであってもよい。
【0070】
上記のiPS細胞製造用組成物における上記の(a)核初期化物質や、上記の(b)H1foo遺伝子又はその遺伝子産物の量としては、特に制限はなく、全ての核初期化物質や、H1foo遺伝子又はその遺伝子産物を等量としてもよいし、異なる量としてもよい。
【0071】
上記のiPS細胞製造用組成物は、上記の(a)核初期化物質や、上記の(b)H1foo遺伝子又はその遺伝子産物の他に、それら以外の遺伝子又はその遺伝子産物などを含んでいてもよく、また、前記ウイルスベクターを用いる場合には、例えば、パッケージング細胞を含んでいてもよい。前記各遺伝子乃至その遺伝子産物以外の遺伝子乃至その遺伝子産物、前記パッケージング細胞としては、前記iPS細胞の製造方法で記載したものと同様のものが挙げられる。
【0072】
本発明には、他の態様として、
「H1foo遺伝子又はその遺伝子産物を体細胞に導入する工程を含むことを特徴とする、iPS細胞の品質の改善方法」や、
「iPS細胞の品質改善剤の製造における、H1foo遺伝子又はその遺伝子産物の使用」や、
「iPS細胞製造用組成物の製造における、(a)核初期化物質、及び(b)H1foo遺伝子又はその遺伝子産物の使用」
も含まれる。
【0073】
上記の「iPS細胞の品質の改善方法」における、H1foo遺伝子又はその遺伝子産物を体細胞に導入する工程は、本発明のiPS細胞の製造方法における導入工程と同じである。かかる工程を含むことにより、iPS細胞の品質を改善して、高品質のiPS細胞を得ることができる。
【0074】
以下に実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の全ての実験は、慶應義塾大学の動物及びDNA実験指針にしたがって行い、慶應義塾大学の倫理委員会によって承認され、アメリカ国立衛生研究所の実験動物の管理と使用に関する指針に準拠している。
【実施例】
【0075】
1.材料と方法
[プラスミドの構築]
H1foocDNA及びH1ccDNA(Teranishi, T., et al. Rapid replacement of somatic linker histones with the oocyte-specific linker histone H1foo in nuclear transfer. Developmental Biology 266, 76-86 (2004).)を、それぞれpMXsプラスミドの制限酵素BamH1−Sal1部位、及びにEcoR1−Sal1部位に挿入し、DNAシークエンシングによりH1foocDNA及びH1ccDNAが挿入されたことを確認した。
【0076】
[マウスiPS細胞の産生と細胞培養法]
1)マウスiPS細胞の産生は、文献(Takahashi, K., Okita, K., Nakagawa, M. & Yamanaka, S. Induction of pluripotent stem cells from fibroblast cultures. Nature protocols 2, 3081-3089 (2007))に記載されたプロトコールにしたがって行った。ただし、本試験では、前記文献に記載の遺伝子に加えて、H1foo遺伝子も用いた。すなわち、マウスのOct3/4、Sox2、Klf4及びH1foo遺伝子(配列番号3のヌクレオチド配列:BC137916)を含むpMXsレトロウイルスベクターを用いて、マウス線維芽細胞、又はNanog−GFP−IRES−puroトランスジェニックマウス(Okita, K., Ichisaka, T. & Yamanaka, S. Generation of germline-competent induced pluripotent stem cells. Nature 448, 313-317 (2007))の尾部線維芽細胞(以下、単に「Nanog−GFP発現線維芽細胞」という)からiPS細胞を産生した。なお、コントロールとして、H1foo遺伝子に代えてDsRed遺伝子を用いた。また、実験マウスの管理は、慶應義塾大学の動物及びDNA実験指針にしたがって行った。
【0077】
2)マウスES細胞(B6J−23UTR)(Tanimoto, Y., et al. Embryonic stem cells derived from C57BL/6J and C57BL/6N mice. Comparative medicine 58, 347-352 (2008))は、筑波大学動物資源センターから入手し、文部科学省のヒトES細胞の分配及び使用に関する指針にしたがって使用した。
【0078】
3)マウスiPS及びES細胞株は、20% KnockOut Serum Replacement(Gibco社製)、1mM GlutaMAX (Gibco社製)、1mM 非必須アミノ酸(Sigma-Aldrich社製)、0.1mM 2−メルカプトエタノール、50U ペニシリン、50mg/ml スプレプトマイシン(Gibco社製)、及びマウス白血病阻害因子(LIF)を含有するDMEM(Sigma-Aldrich社製)培養液(以下、「iPS細胞培養液」という)中で、野生型ICRマウス由来のX線照射したマウス胎児線維芽細胞(iMEFフィーダー細胞)上で培養・維持した。なお、マウスiPS細胞培養液は2〜3日毎に交換し、細胞は2〜3日毎に0.5mMトリプシン−EDTA(Gibco社製)を用いて継代した。
【0079】
[胚様体(EB)形成]
iPS細胞のEB形成は、1mg/mlコラゲナーゼIVを用いて採取した5×10個のiPS細胞を、100mmの低接着プレート(AGC社製)に播種し、20% FBS(Gibco社製)、2mM GlutaMAX(Gibco社製)、0.1mM 非必須アミノ酸(Sigma-Aldrich社製)、0.1mM 2−メルカプトエタノール、50U/ml ペニシリン、及び50mg/ml ストレプトマイシン(Gibco社製)を含有するMinimum Essential Medium Alpha Medium(Gibco社製)(以下、「EB形成用培養液」という)存在下で5日間培養することにより行った。EB形成用培養液は、2〜3日毎に交換した。なお、コントロールとして、ES細胞を用いた。
【0080】
[テラトーマ形成]
iPS細胞のテラトーマ形成能は、ケタミン(50mg/kg)、キシラジン(10mg/kg)及びクロルプロマジン(1.25mg/kg)の混合物を用いて麻酔処理したSCIDマウス(日本クレア社製)の精巣に、iPS細胞を注入し、約8週間後、マウスを頚椎脱臼により犠牲にし、iPS細胞を注入した組織切片を10%のパラホルムアルデヒド(PFA)に一晩固定し、パラフィンに包埋した後、ヘマトキシリン・エオシン(HE)染色法により確認した。なお、マウスの麻酔処理は、マウスの心拍数、筋肉弛緩及び感覚反射反応(すなわち、テールピンチに対して無反応)をモニターすることによって適切に行った。
【0081】
[免疫組織化学染色法]
ガラスボトムディッシュ(AGC社製)上に播種したiPS細胞及び線維芽細胞を、PBSで一回洗浄し、4%パラホルムアルデヒド(武藤化学社製)で4℃、15分固定処理を行った。固定処理した細胞をPBS中0.5%トリトンX−100で10分間、室温で透過処理した。その後、ImmunoBlock(DSファーマバイオメディカル社製)で20分間ブロッキング処理し、4種類の一次抗体(抗Oct3/4抗体[Oct3/4抗体sc-8629、Santa Cruz Biotechnology社製]、抗Nanog抗体[RCAB0001P;リプロセル社製]、抗SSEA1抗体[sc-21702;Santa Cruz Biotechnology社製]、及び抗H1foo抗体[HPA037992; Sigma-Aldrich社製])存在下で、室温で60分インキュベートし、ImmunoBlock(DSファーマバイオメディカル社製)で洗浄し、各々の一次抗体に対応する二次抗体(Alexa Fluor 488又はAlexa Fluor 568[Life Technologies社製]とコンジュゲートした抗ウサギIgG抗体と抗マウスIgG又はIgM抗体)と室温で60分インキュベートし、6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI; Life Technologies社製)で細胞核を染色した後、カラー電荷結合素子カメラ(BZ−9000;キーエンス社製)、光学顕微鏡(IX71;Olympus社製)及びレーザー共焦点顕微鏡(LSM 510 META;Carl Zeiss, Jena社製)を備えた蛍光レーザー顕微鏡を用いて蛍光観察を行った。
【0082】
[定量RT−PCR解析]
全RNA試料は、TRIZOL試薬(Life Technologies社製)を用い、製品添付の説明書にしたがって単離した。RNA試料の濃度及び純度は、ND−1000分光測光器(Thermo Fisher Scientific社製)で測定し、cDNAの調製は、ReverTra Ace qPCR RT Master Mix(東洋紡社製)を用いて行った。定量PCR(QT−PCR)は、SYBR Premix ExTaq(タカラバイオ社製)を用い7500リアルタイムPCRシステム(Life Technologies社製)により行った。mRNAの量は、GAPDHのmRNA量により標準化した。なお、定量PCRに用いたプライマーセットのヌクレオチド配列は、以下の表1に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
[アポトーシスアッセイ]
EB形成用培養液での培養を開始してから1日目のiPS細胞をトリプシン処理し、アネキシンA5結合緩衝液(タカラバイオ社製)に懸濁した後、製品添付の説明書にしたがって、アネキシン−A5−FITC及びヨウ化プロピジウム(PI)(BD社製)により、それぞれアポトーシス初期細胞及びアポトーシス後期細胞を染色した。細胞を70mm孔ナイロン膜でろ過し、CellQuestソフトウェア(BD社製)を用いてFACS Aria3(BD社製)フローサイトメトリーにより蛍光染色した細胞を解析し、FlowJoソフトウェア(Tree Star社製)を用いてアポトーシス細胞の割合を測定した。
【0085】
[DNAメチル化解析]
Oct3/4及びNanog遺伝子のプロモーター領域におけるDNAメチル化レベルを、バイサルファイトシーケンス(Bisulfite Sequence)法を用いて解析するために、細胞試料からSVゲノムDNA精製キット(Promega社製)を用いてゲノムDNAを単離・精製した。精製したゲノムDNAを、EZ DNAメチル化ゴールドキット(ZYMO RESEARCH社製)を用い、製品添付の説明書にしたがって非メチル化シトシン(C)をウラシル(U)に変換し、バイサルファイトPCR用インプットDNAを調製した。かかるインプットDNA、プライマーセット、及びTaKaRa EpiTaq HS(TaKaRa社製)を用い、PCR反応条件(98℃で10分間の変性処理を1サイクル;95℃で20秒間、55℃で30秒間、及び72℃で60秒間の増幅処理を40サイクル;並びに72℃で5分間の最終伸長処理を1サイクル)下でバイサルファイトPCRを行った。なお、バイサルファイトPCRに用いたプライマーセットのヌクレオチド配列は、以下の表2に示す。
【0086】
【表2】
【0087】
PCR産物は、精製後pGEM−Tベクター(Promega社製)にTA−クローニングし、シーケンシングを行った。また、Dlk1及びDlk2遺伝子の間に位置する遺伝子間メチル化可変領域(differentially methylated region;DMR)(IG−DMR)と、Gtl2メチル化可変領域(Gtl2−DMR)のメチル化状態を解析するために、上記のとおりゲノムDNAを精製し、バイサルファイトPCR用インプットDNAを調製した後、PyroMark Q24(QIAGEN社製)を用い、製品添付の説明書にしたがってパイロシーケンス(Pyrosequence)を行った。なお、パイロシーケンスに用いたプライマーセットのヌクレオチド配列は、以下の表3に示す。
【0088】
【表3】
【0089】
[ES細胞及びiPS細胞の共培養凝集法]
2細胞期の胚を、過剰排卵し自然交尾したICR(CD−1(登録商標))メスマウスから回収し、その後、胚盤胞期まで培養した。ES細胞及びiPS細胞は、共培養凝集の直前に0.25%トリプシンで解離し、15〜20個の細胞を、透明膜を除去した8細胞期の割球と凝集させた。胚盤胞期のキメラ胚を2.5dpc(days of post-coitus)のICR偽妊娠マウスの子宮角に導入した。
【0090】
[全遺伝子発現解析]
iPS細胞及びES細胞から全RNAを単離し、シアニン標識アンチセンスRNAをQuick Amp Labeling Kit(Agilent Technologies社製)を用いて増幅し、遺伝子発現ハイブリダイゼーションキットで、全マウスゲノムオリゴマイクロアレイ(Agilent Technologies社製)上にハイブリダイズし、アジレントマイクロアレイスキャナーを使用して解析した。データは、GeneSpring GX12.0 ソフトウェア(Agilent Technologies社製)で解析した。
【0091】
[統計解析]
図のエラーバー付きの棒グラフの値は、平均±標準偏差(SME)として示す。データは、StatView J-4.5 ソフトウェアを用いて解析した。2つのグループ間の比較は、Student’s t-testで行った。グループ間の比較は、ボンフェローニ事後検定(Bonferroni's post hoc test)でone-way ANOVAで行った。図中の「*」及び「**」は、有意性(それぞれP<0.05及びP<0.01)があることを示す。
【0092】
2.結果
[外来性H1foo遺伝子を用いたiPS細胞の産生]
H1fooの体細胞リプログラミングに対する効果について調べた。
まず、上記[免疫組織化学染色法]の項目に記載の方法を行い、外来性H1fooは細胞核にのみ発現すること(図1a)や、その多くが核周辺に局在すること(図1b)を確認した。なお、外来性H1fooの発現により、細胞核の膨張や、核膜内側の電子密度の高い領域(ヘテロクロマチン)の減少は観察されなかった(図1c)。
【0093】
次に、上記[マウスiPS細胞の産生と細胞培養法]の項目に記載の方法にしたがって、マウス線維芽細胞に3種類の核初期化物質(Oct3/4、Sox2、及びKlf4遺伝子[OSK遺伝子])に加え、H1foo遺伝子(OSK+H1foo遺伝子)を、レトロウイルスベクターを用いて体細胞へ導入し、20日目にTRACP & ALP double- stain Kit(タカラバイオ社製)を用いてALP(Alkaline phosphatase)染色を行い、ALP陽性でかつ、ES様細胞からなるコロニー数を測定した。ALPは幹細胞マーカーとして知られている。なお、コントロールとして、OSK遺伝子のみを導入した実験や、OSK+H1foo遺伝子のH1fooに代えてリンカーヒストンH1遺伝子(OSK+H1c遺伝子)を導入した実験も行った。その結果、OSK+H1foo遺伝子をマウス線維芽細胞へ導入すると、OSK遺伝子やOSK+H1c遺伝子を導入した場合と比べ、ALP陽性ES様細胞(iPS細胞)コロニー数は顕著に増加することが示された(図2a)。
【0094】
また、上記[免疫組織化学染色法]の項目に記載の方法にしたがって、3種類の多能性マーカー(Oct3/4、Nanog、及びSSEA1)の発現を解析したところ、OSK+H1foo−iPS細胞は、OSK−iPS細胞と同様に、上記多能性マーカーを発現することが示された(図2b)。一方、内在性H1fooは、iPS細胞への誘導過程や、産生されたiPS細胞において、発現は認められなかった(図2b、c)。
【0095】
また、OSK+H1foo遺伝子をNanog−GFP発現線維芽細胞に導入し、GFPのシグナルを指標として産生されたiPS細胞(図3a)の品質を調べた。なお、Nanog−GFP陽性細胞は、高品質な幹細胞のマーカーとして知られている。興味深いことに、OSK遺伝子に加え、H1foo遺伝子をNanog−GFP発現線維芽細胞へ導入した場合は、OSK遺伝子を導入した場合と比べ、Nanog−GFP陽性ES様細胞(iPS細胞)のコロニー数が約8倍に増加することが示された(図3b)。さらに、産生されたiPS細胞集団におけるNanog−GFP陽性ES様細胞(iPS細胞)の割合は、90%以上と高かった(図3c)。一方、OSK遺伝子及びc−Myc遺伝子(OSKM遺伝子)を導入した場合や、OSKM遺伝子に加え、H1foo遺伝子(OSKM+H1foo遺伝子)をNanog−GFP発現線維芽細胞へ導入した場合は、OSK+H1foo遺伝子を導入した場合と比べ、Nanog−GFP陽性コロニー数自体は多かったものの(図3b)、産生されたiPS細胞集団におけるNanog−GFP陽性細胞の割合は低いことが示された(図3c)。これらの結果は、OSK+H1foo遺伝子を体細胞へ導入した場合は、従来技術であるOSK遺伝子を導入した場合や、OSKM遺伝子を導入した場合と比べ、高品質なiPS細胞集団を産生できることを示している。
【0096】
[OSK+H1foo−iPS細胞の性質]
OSK+H1foo−iPS細胞の性質について詳細に解析を行った。上記[定量RT−PCR解析]の項目に記載の方法にしたがって、4種類の多能性マーカー(Oct3/4、Sox2、Rex1、及びSall4)の発現を解析したところ、OSK+H1foo−iPS細胞は、OSK−iPS細胞と同様に、上記多能性マーカーを発現することが示された(表4)。なお、H1foo遺伝子を含む外来性遺伝子の発現は抑制されていた(表5)。また、細胞増殖率についても解析したところ、OSK+H1foo−iPS細胞の増殖レベルはOSK−iPS細胞と同レベルであった。
【0097】
【表4】
【0098】
表4は、ES細胞(ES)、OSK−iPS細胞3クローン(OSK−iPS1〜3)、OSK+H1foo−iPS細胞3クローン(OSKH−iPS1〜3)、及びMEF細胞(MEF)における5種類の多能性マーカー(Nanog、Oct3/4、Sox2、Rex1、及びSall4)の発現を解析した結果を示す表である。なお、各多能性マーカーの発現量は、ES細胞の結果を1としたときの相対値として示す。
【0099】
【表5】
【0100】
表5は、ES細胞(ES)、OSKH遺伝子導入MEF細胞(MEF+OSKH)、OSK−iPS細胞3クローン(OSK−iPS1〜3)、OSK+H1foo−iPS細胞3クローン(OSKH−iPS1〜3)、及びMEF細胞(MEF)における3種類の外来性タンパク質(Oct3/4、Sox2、及びH1foo)の発現を解析した結果を示す表である。なお、各多能性マーカーの発現量は、OSKH遺伝子導入MEF細胞の結果を1としたときの相対値として示す。
【0101】
また、OSK+H1foo−iPS細胞と、ES細胞又はOSK−iPS細胞の間で、全遺伝子トランスクリプトームプロファイルを比較した(図4a及びb)。その結果、OSK+H1foo−iPS細胞における遺伝子発現パターンと、ES細胞やOSK−iPS細胞における遺伝子発現パターンは非常によく類似している(0.99の相関関数[R])ことが示された。
【0102】
また、上記[DNAメチル化解析]の項目に記載の方法にしたがって、ゲノムDNAのメチル化解析を行った。その結果、OSK+H1foo−iPS細胞は、ES細胞やOSK−iPS細胞と同様に、2種類の多能性マーカー(Oct3/4及びNanog)遺伝子のプロモーター領域、IG−DMR、及びGtl2−DMRのDNAが脱メチル化されていた(図5a及びb)。なお、OSK−iPS細胞ではクローン(細胞群)間で脱メチル化レベルにばらつきが認められたのに対して、OSK+H1foo−iPS細胞ではそのようなばらつきの程度は低かった(図5a及びb)。
【0103】
[OSK+H1foo−iPS細胞由来のEBの性質]
iPS細胞から各種細胞へ分化誘導する場合、通常は、まずEBを形成させ、その後各種細胞に特異的な分化誘導法によりさらに分化誘導することが行われている。形成されるEBの数やEBサイズの均一性は、その後の分化誘導効率に影響を及ぼすと考えられているため、サイズが均一でかつ数の多いEBを形成できるiPS細胞が望ましいと考えられていた。そこで、OSK+H1foo−iPS細胞のEB形成能について解析した。
【0104】
上記[胚様体(EB)形成]の項目に記載の方法にしたがってOSK+H1foo−iPS細胞からEBを形成させたところ、かかるOSK+H1foo−iPS細胞由来のEBは、OSK−iPS細胞由来のEBと比べ、EBの数が多く(割合として約12%向上)、及び、EBのサイズ(μm)が大きく(図6a〜c)、また、EBのサイズ(μm)のばらつき(σ)が少なかった(割合として約50%低下)(図6d及びe)。
【0105】
また、上記[アポトーシスアッセイ]の項目に記載の方法にしたがってアポトーシス細胞の割合を解析したところ、OSK+H1foo−iPS細胞由来のEBは、OSK−iPS細胞由来のEBと比べ、アポトーシス初期細胞(アネキシンV陽性(+)/PI陰性(−)細胞)や、アポトーシス後期細胞(アネキシンV(+)/PI(+)細胞及びアネキシンV(−)/PI(+)細胞)の割合が少なく、生細胞(アネキシンV(−)/PI(−)細胞)の割合が高いことが示された(図7a及びb)。OSK+H1foo−iPS細胞由来のEBは、OSK−iPS細胞由来のEBと比べ、生細胞(アネキシンV(−)/PI(−)細胞)の割合が約1.2倍に向上した。また、OSK+H1foo−iPS細胞由来のEBは、OSK−iPS細胞由来のEBと比べ、アポトーシス細胞(アネキシンV(+)/PI(−)細胞とアネキシンV(+)/PI(+)細胞の合計)の割合が、約0.65倍に低下した。
【0106】
さらに、EB形成用培養液での培養を開始してから2日目のiPS細胞について、上記[定量RT−PCR解析]の項目に記載の方法にしたがって2種類の細胞増殖マーカー(Ki67及びPCNA)の発現を解析したところ、OSK+H1foo−iPS細胞由来のEBは、OSK−iPS細胞由来のEBと比べ、上記細胞増殖マーカーの発現量が高い(約2.4〜2.6倍に向上した)ことが示された(図8a及びb)。
以上の結果は、OSK+H1foo−iPS細胞を用いてEB形成させた場合は、OSKを用いてEB形成させた場合と比べ、サイズが比較的均一で数が多く、かつ死細胞の割合の少ないEB(高品質なEB)を産生できることを示している。
【0107】
[OSK+H1foo−iPS細胞の分化多能性]
OSK+H1foo−iPS細胞の分化多能性について解析を行った。上記[ES細胞及びiPS細胞の共培養凝集法]の項目に記載の方法にしたがって、OSK+H1foo−iPS細胞のうち、染色体数が正常な2種のクローン(OSKH1及び3)を用いてキメラマウスを作製した。また、コントロールとして、OSK−iPS細胞のうち、染色体数が正常な2種のクローン(OSK1及び2)を用いて、同様の方法にしたがってキメラマウスを作製した。なお、本実験で用いたiPS細胞やES細胞は、黒色マウスの体細胞から作製したため、iPS細胞やES細胞のキメラ形成能が高いほど、より黒色のマウスがより高い割合で作製されることとなる。キメラマウスの作製試験の結果、OSK+H1foo−iPS細胞の2種のクローン(OSKH1及び3)は、OSK−iPS細胞の2種のクローン(OSK1及び2)と同等かより高いキメラ形成能を有することが示された(図9a及びb)。特に、OSKH3は、ES細胞と同レベルのキメラ形成能を有することが示された(図9a及びb)。
【0108】
生殖系列移行能(Germline transmission potential、性腺移行能ともいう)とは、ES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞が生殖細胞に分化でき、キメラを介して多能性幹細胞由来の遺伝子を次世代に伝えることができる能力をいう。この生殖系列移行能(Germline transmission potential)は、多能性幹細胞であることの最も厳格な特徴の1つであり、多能性幹細胞が高品質であることを示す特徴の1つである。そこで、体外受精(IVF)により100%キメラマウス由来の生殖系列移行能を調べた。その結果、OSK+H1foo−iPS細胞由来のキメラマウス4種(OSKH1、OSKH3−1、OSKH3−2、及びOSKH3−3)は、OSK−iPS細胞由来のキメラマウス2種(OSK2−1及びOSK2−2)よりも高い生殖能力を示すとともに(図10a)、有色の毛の仔を多く出産した(図10b及びc)。なお、かかる仔において表現型の異常は認められなかった。
以上の結果は、OSK+H1foo−iPS細胞は、高い分化多能性を有することを示している。
【0109】
3.方法
[ヒトiPS細胞の産生と細胞培養法]
ヒトiPS細胞の産生は、文献(Seki, T., Yuasa, S., Fukuda, K., Generation of induced pluripotent stem cells from a small amount of human peripheral blood using a combination of activated T cells and Sendai virus, Nature Protocols 7, 718-728, 2012)に記載されたプロトコールにしたがって行った。ヒトのOct3/4、Sox2、Klf4、L−Myc及びH1foo遺伝子(配列番号1のヌクレオチド配列:BC047943)を含むセンダイウイルスベクターを用いて、ヒト末梢血リンパ球又はヒト皮膚線維芽細胞からiPS細胞(OSKL+H1foo−iPS細胞)を産生した。なお、コントロールとして、H1foo遺伝子に代えてAzami-Green遺伝子を用いてiPS細胞(OSKL−iPS細胞)を産生した。また、本実験は慶應義塾大学の遺伝子組み換え実験指針にしたがって行った。
【0110】
ヒトiPS細胞株は、StemFit AK02N(味の素社製)培養液(以下、「ヒトiPS細胞培養液」という)中で、iMatrix-511(ニッピ社製)でコーティングした培養皿上で培養・維持した。なお、ヒトiPS細胞の培養液は2日毎に交換し、細胞は5〜7日毎にStemPro Accutase(Gibco社製)を用いて継代した。
【0111】
4.結果
[iPS細胞の染色体異常を反映する遺伝子の発現量の比較]
上記[ヒトiPS細胞の産生と細胞培養法]の項目に記載の方法にしたがって樹立したヒトiPS細胞のゲノム不安定性の比較検討を行うため、染色体異常を有すると発現量が低下するSRF遺伝子、ACTG2遺伝子(Lamm, N., Kerem, B., Genomic Instability in Human Pluripotent Stem Cells Arises from Replicative Stress and Chromosome Condensation Defects Cell Stem Cell 18(2): 253-261. 2016)について、その発現量を定量RT−PCR解析により比較検討した。かかる定量RT−PCR解析は、4クローンのOSKL+H1foo−iPS細胞、及び、4クローンのOSKL−iPS細胞(コントロール)を用い、上記[定量RT−PCR解析]の項目に記載の方法にしたがって行った。SRF遺伝子に関する定量RT−PCR解析の結果を図11aに示し、ACTG2遺伝子に関する定量RT−PCR解析の結果を図11bに示す。
【0112】
図11のa及びbの結果から分かるように、OSKL+H1foo−iPS細胞群は、SRF遺伝子およびACTG2遺伝子いずれについても、OSKL−iPS細胞群(コントロール)よりも有意に高い発現量を示した。この結果から、核初期化物質に加えて、H1foo遺伝子を用いると、iPS細胞樹立過程で生じうる染色体異常が抑制され、より高品質なiPS細胞集団を産生できることが示された。
【0113】
[iPS細胞の未分化マーカーの発現量の比較]
上記[ヒトiPS細胞の産生と細胞培養法]の項目に記載の方法にしたがって樹立したiPS細胞が、安定した未分化状態を維持しているかを調べるために、Oct3/4遺伝子(幹細胞の未分化マーカー)の発現量を定量RT−PCR解析により比較検討した。かかる定量RT−PCR解析は、4クローンのOSKL+H1foo−iPS細胞、及び、4クローンのOSKL−iPS細胞(コントロール)を用い、上記[定量RT−PCR解析]の項目に記載の方法にしたがって行った。かかる定量RT−PCR解析の結果を図12に示す。
【0114】
図12の結果から分かるように、OSKL−iPS細胞群(コントロール)と比較して、OSKL+H1foo−iPS細胞群は、Oct3/4遺伝子(幹細胞の未分化マーカー)の発現量のクローン間のばらつきが有意に少なかった。この結果から、核初期化物質に加えて、H1foo遺伝子を用いると、より安定した未分化状態が維持され、品質のばらつきがより少ないiPS細胞集団を産生できることが示された。
【0115】
[分化誘導初期における細胞生存率の比較]
上記[ヒトiPS細胞の産生と細胞培養法]の項目に記載の方法にしたがって樹立したヒトiPS細胞の分化誘導初期における細胞生存数を比較検討するため,一定の細胞数(1×10cells/well)を播種した後に、iPS細胞培養液からRPMI-1640 (Sigma Aldrich社製)+B27 Supplement(Gibco社製)培養液へと交換し、翌日細胞を回収しトリパンブルー溶液を用いて生存細胞数を算出し比較した。かかる性細胞数の算出を、4クローンのOSKL+H1foo−iPS細胞、及び、4クローンのOSKL−iPS細胞(コントロール)について行った結果を図13に示す。
【0116】
図13の結果からわかるように、OSKL−iPS細胞群(コントロール)と比較して、OSKL+H1foo−iPS細胞群は分化誘導後の生存細胞数が有意に多く、分化誘導環境下への適応力が高い傾向が認められた。この結果から、核初期化物質に加えて、H1foo遺伝子を用いると、分化誘導後の生存細胞数がより多く、分化誘導環境下への適応力がより高いという、より高品質なiPS細胞集団を産生できることが示された。
【0117】
[iPS細胞の分化誘導初期の未分化マーカー残存量の比較]
上記[ヒトiPS細胞の産生と細胞培養法]の項目に記載の方法にしたがって樹立したヒトiPS細胞の分化誘導初期におけるOct3/4遺伝子(幹細胞の未分化マーカー)の残存量の比較を行った。具体的には、一定の細胞数(1×10cells/well)を各ウェルに播種した後に、iPS細胞培養液から分化誘導培養液[DMEM F12 HAM(Sigma Aldrich社製)+FBS(Gibco社製)+GlutaMAX(Gibco社製)+PenStrep(Gibco社製)+2メルカプトエタノール(Sigma Aldrich社製)]へと交換し、培養液交換後5日目に細胞を回収し、未分化マーカーであるOct3/4遺伝子の発現量を定量RT−PCR解析を用いて比較した。かかる定量RT−PCR解析は、4クローンのOSKL+H1foo−iPS細胞、及び、4クローンのOSKL−iPS細胞(コントロール)を用い、上記[定量RT−PCR解析]の項目に記載の方法にしたがって行った。かかる定量RT−PCR解析の結果を図14に示す。
【0118】
図14の結果から分かるように、OSKL−iPS細胞群(コントロール)においては、分化誘導培養液で5日間培養したにもかかわらず、未分化マーカー(Oct3/4)が高度に残存しているクローン(OSKL−iPS 2や、OSKL−iPS 4)が複数存在したのに対し、OSKL+H1foo−iPS細胞群においては、いずれのクローンでも未分化マーカーの発現は低く、しかも、クローン間における未分化マーカーの発現のばらつきは有意に少なかった。これらの結果から、核初期化物質に加えて、H1foo遺伝子を用いて作製したiPS細胞は、分化誘導培養液で培養すると、未分化マーカーの発現が速やかに消失し、その消失についてばらつきが少ないことが示された。よって、核初期化物質に加えて、H1foo遺伝子を用いると、品質のばらつきがより少ないiPS細胞集団を産生できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明は、iPS細胞の品質改善剤、iPS細胞の製造方法、かかる製造方法により製造されるiPS細胞、及び、iPS細胞製造用組成物を提供することができる。本発明によれば、より高品質で、しかも品質のばらつきがより少ないiPS細胞を製造することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]
【国際調査報告】