(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2017年6月22日
【発行日】2018年5月24日
(54)【発明の名称】熱応答性材料、熱応答性材料の製造方法、及び熱制御装置
(51)【国際特許分類】
C08J 9/06 20060101AFI20180420BHJP
C08G 18/32 20060101ALI20180420BHJP
C08J 9/04 20060101ALI20180420BHJP
C08G 101/00 20060101ALN20180420BHJP
【FI】
C08J9/06CFF
C08G18/32 015
C08J9/04 101
C08G101:00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】23
【出願番号】特願2017-556402(P2017-556402)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2016年10月27日
(31)【優先権主張番号】特願2015-246665(P2015-246665)
(32)【優先日】2015年12月17日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(72)【発明者】
【氏名】井関 清治
【テーマコード(参考)】
4F074
4J034
【Fターム(参考)】
4F074AA79
4F074BA03
4F074CA23
4F074CC02Z
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4J034KB02
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4J034KC17
4J034KD02
4J034KD07
4J034NA01
4J034QB01
4J034QC01
4J034RA15
(57)【要約】
気泡を含みながらも耐久性が改善された熱応答性材料を提供する。
温度変化に応じて状態が変化する熱応答性材料1であって、マトリックス2中に平均径30〜400μmの気泡4が分散されている。気泡4の直径の標準偏差をDとし、気泡4の平均径をaとしたとき、 D/a ≦ 0.7を満たす。常温において、気泡4の容積をV
1とし、マトリックス2の見かけ容積をV
2としたとき、0.3 ≦ V
1/V
2 ≦ 0.9を満たす。マトリックス2は、液晶性ポリウレタンを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度変化に応じて状態が変化する熱応答性材料であって、
マトリックス中に平均径30〜400μmの気泡が分散されている熱応答性材料。
【請求項2】
前記気泡の直径の標準偏差をDとし、前記気泡の平均径をaとしたとき、
D/a ≦ 0.7を満たす請求項1に記載の熱応答性材料。
【請求項3】
常温において、前記気泡の容積をV1とし、前記マトリックスの見かけ容積をV2としたとき、
0.3 ≦ V1/V2 ≦ 0.9を満たす請求項1又は2に記載の熱応答性材料。
【請求項4】
前記マトリックスは、液晶性ポリウレタンを含む請求項1〜3の何れか一項に記載の熱応答性材料。
【請求項5】
前記液晶性ポリウレタンは、延伸によって配向したメソゲン基を有しており、相転移温度(Ti)を超えると前記メソゲン基の配向が崩れて延伸方向に収縮し、相転移温度(Ti)未満になると前記メソゲン基の配向が復活して延伸方向に伸張する請求項4に記載の熱応答性材料。
【請求項6】
温度変化に応じて状態が変化する熱応答性材料の製造方法であって、
加熱溶融前又は加熱溶融後の液晶性ポリオールに重量比で0.02〜0.20倍の熱分解型発泡剤を添加し、さらに、加熱溶融後の液晶性ポリオールに重量比で0.15〜0.45倍のイソシアネート化合物を添加することにより、融液中に気泡を発生させる発泡工程と、
前記気泡を含む融液を冷却して液晶性ポリウレタンを形成する冷却工程と、
を包含する熱応答性材料の製造方法。
【請求項7】
前記液晶性ポリウレタンに含まれるメソゲン基を配向させる配向工程と、
前記メソゲン基の配向状態を保持するエージング工程と、
をさらに包含する請求項6に記載の熱応答性材料の製造方法。
【請求項8】
前記発泡工程において、前記熱分解型発泡剤として炭酸水素ナトリウムを添加する請求項6又は7に記載の熱応答性材料の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜5の何れか一項に記載の熱応答性材料を含む熱制御装置。
【請求項10】
熱制御を行う対象物に対して接触/離間可能に構成された伝熱部材と、
前記対象物から前記伝熱部材に伝達された熱を受け取って外部に放出する放熱板と、
前記対象物と前記放熱板との間に設置され、前記対象物に対して前記放熱板及び前記伝熱部材を支持する支持部材と、
を備え、前記支持部材は前記熱応答性材料を含み、温度変化に応じて前記支持部材が収縮したときに、前記伝熱部材が前記対象物に接触するように構成されている請求項9に記載の熱制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度変化によって状態が変化する熱応答性材料、熱応答性材料の製造方法、及び当該熱応答性材料を使用した熱制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、形状変化が可能な高分子材料に液晶性を有する成分を含有させて、液晶の相転移に伴う形状変化を利用したアクチュエータなどが開発されている。
【0003】
従来の高分子材料を利用したアクチュエータの例として、軽量化、省スペース化が可能であるとともに、熱エネルギーを機械的な出力に変換して変形させる刺激変形体(熱応答性材料)が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1の刺激変形体は、空隙を有する高分子材料において、空隙以外の骨格中に駆動源となる液晶が含まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2006/134697号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アクチュエータ等に利用される材料には、繰り返しの温度変化、変形、負荷に耐え得るように、高い耐久性が要求される。この点に関し、特許文献1の刺激変形体は、空隙を有する高分子材料で構成されており、高分子材料中の空隙は外部との間で空気の出入りが可能となるように、大きいサイズの連続気泡とすることが好ましいとされている。ところが、このような大きいサイズの連続気泡を有する高分子材料をアクチュエータ等に使用すると、繰り返される温度変化、変形、負荷等によって気泡が潰れたり、気泡を起点として材料が破断するなどして、変形前の形状に戻らない、すなわち耐久性が低下する虞がある。
【0006】
このように、アクチュエータ等に利用される熱応答性材料において、気泡を含む材料の耐久性の低下を抑制する技術は未だ十分に確立されておらず、熱応答性材料を用途展開していく上で改善の余地は大きい。本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、気泡を含みながらも耐久性が改善された熱応答性材料、熱応答性材料の製造方法、及び当該熱応答性材料を使用した熱制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明に係る熱応答性材料の特徴構成は、
温度変化に応じて状態が変化する熱応答性材料であって、
マトリックス中に平均径30〜400μmの気泡が分散されていることにある。
【0008】
一般に、材料(物体)の内部に気泡が含まれていると、当該気泡による様々な特性を材料に付与することができる。熱応答性材料においても、マトリックス中に含まれる気泡の状態を把握することは、熱応答性材料を設計する上で重要な手掛かりとなる。そこで、本発明者らは、マトリックス中に気泡が分散された新たな熱応答性材料を開発するにあたり、特に、気泡のサイズに着目し、気泡の平均径を種々変更することで、本発明の目的に合致する熱応答性材料を探索した。
本構成の熱応答性材料によれば、マトリックス中に気泡を分散させるに際して、気泡の平均径が30〜400μmの範囲に含まれるようにした。このような気泡は、気泡体積及び気泡表面積が微小であるため、マトリックス中において、浮力、せん断応力、圧縮応力等の影響を受け難い。従って、熱応答性材料が外部応力を受けても、マトリックス中の気泡を起点として破断されることがなく、気泡は長期に亘ってマトリックス中に存在し続けることができる。このような気泡を含む熱応答性材料は、気泡による断熱性等の特性を備えたものでありながら、安定した状態が長期に亘って維持されるため、耐久性に優れた材料として有用である。
【0009】
本発明に係る熱応答性材料において、
前記気泡の直径の標準偏差をDとし、前記気泡の平均径をaとしたとき、
D/a ≦ 0.7を満たすことが好ましい。
【0010】
本構成の熱応答性材料によれば、熱応答性材料に含まれる気泡の標準偏差と気泡の平均径との関係が上記の範囲に設定されていることから、熱応答性材料に含まれる気泡の大きさのバラツキが小さくなる。従って、熱応答性材料が外部応力を受けても、その応力を熱応答性材料全体で負担することができる。このため、応力が熱応答性材料の特定の位置に集中することがなく、気泡を起点としたマトリックスの破断を防止することができる。
【0011】
本発明に係る熱応答性材料において、
常温において、前記気泡の容積をV
1とし、前記マトリックスの見かけ容積をV
2としたとき、
0.3 ≦ V
1/V
2 ≦ 0.9を満たすことが好ましい。
【0012】
本構成の熱応答性材料によれば、V
1/V
2すなわち空隙率を上記の範囲に設定していることから、断熱性と強度(耐久性)とのバランスに優れた熱応答性材料を得ることができる。
【0013】
本発明に係る熱応答性材料において、
前記マトリックスは、液晶性ポリウレタンを含むことが好ましい。
【0014】
本構成の熱応答性材料によれば、熱応答性材料が液晶性ポリウレタンを含有することから、液晶性ポリウレタンによる液晶性と伸縮性とを兼ね備えたマトリックスが得られ、特に、温度変化に応じて可逆的に伸縮する熱応答性伸縮材料として利用することができる。
【0015】
本発明に係る熱応答性材料において、前記液晶性ポリウレタンは、延伸によって配向したメソゲン基を有しており、相転移温度(T
i)を超えると前記メソゲン基の配向が崩れて延伸方向に収縮し、相転移温度(T
i)未満になると前記メソゲン基の配向が復活して延伸方向に伸張することが好ましい。
【0016】
本構成の熱応答性材料によれば、液晶性ポリウレタンが延伸によって配向したメソゲン基を有しているため、液晶性ポリウレタンの相転移(メソゲン基の配向状態の変化)を利用することで、温度変化に応じて可逆的に伸縮する熱応答性伸縮材料として利用することができる。
【0017】
上記課題を解決するための本発明に係る熱応答性材料の製造方法の特徴構成は、
温度変化に応じて状態が変化する熱応答性材料の製造方法であって、
加熱溶融前又は加熱溶融後の液晶性ポリオールに重量比で0.02〜0.20倍の熱分解型発泡剤を添加し、さらに、加熱溶融後の液晶性ポリオールに重量比で0.15〜0.45倍のイソシアネート化合物を添加することにより、融液中に気泡を発生させる発泡工程と、
前記気泡を含む融液を冷却して液晶性ポリウレタンを形成する冷却工程と、
を包含することにある。
【0018】
本構成の熱応答性材料の製造方法によれば、加熱溶融前又は加熱溶融後の液晶性ポリオールに適量の熱分解型発泡剤を添加し、さらに、加熱溶融後の液晶性ポリオールに適量のイソシアネート化合物を添加することにより、熱分解型発泡剤を発泡させている。これにより、融液に適切な平均径を有する気泡が存在することとなり、最終的にマトリックス中に平均径30〜400μmの気泡が分散した熱応答性材料を製造することができる。
【0019】
本発明に係る熱応答性材料の製造方法において、
前記液晶性ポリウレタンに含まれるメソゲン基を配向させる配向工程と、
前記メソゲン基の配向状態を保持するエージング工程と、
をさらに包含することが好ましい。
【0020】
本構成の熱応答性材料の製造方法によれば、融液を冷却して形成した液晶性ポリウレタンを配向させ、そのままエージングを行うことにより、温度変化に応じて可逆的に伸縮する熱応答性伸縮材料を得ることができる。
【0021】
本発明に係る熱応答性材料の製造方法において、
前記発泡工程において、前記熱分解型発泡剤として炭酸水素ナトリウムを添加することが好ましい。
【0022】
本構成の熱応答性材料の製造方法によれば、熱分解型発泡剤として炭酸水素ナトリウムを用いることで、マトリックス中に略均一な平均径を有する気泡を容易に分散させることができる。このようにして得られた気泡を有する熱応答性材料は、耐久性がさらに向上したものとなる。
【0023】
上記課題を解決するための本発明に係る熱制御装置の特徴構成は、
上記に記載の熱応答性材料を含むことが好ましい。
【0024】
本構成の熱制御装置によれば、上記の熱応答性材料を含むものであるため、熱応答性に優れた熱制御装置として有用なものとなる。また、上記の熱応答性材料は、耐久性に優れているため、本構成の熱制御装置は、放熱部材のアクチュエータとして利用することができる。
【0025】
本発明に係る熱制御装置において、
熱制御を行う対象物に対して接触/離間可能に構成された伝熱部材と、
前記対象物から前記伝熱部材に伝達された熱を受け取って外部に放出する放熱板と、
前記対象物と前記放熱板との間に設置され、前記対象物に対して前記放熱板及び前記伝熱部材を支持する支持部材と、
を備え、前記支持部材は前記熱応答性材料を含み、温度変化に応じて前記支持部材が収縮したときに、前記伝熱部材が前記対象物に接触するように構成されていることが好ましい。
【0026】
本構成の熱制御装置によれば、熱応答性材料を含む支持部材が温度変化に応じて収縮した場合、伝熱部材が熱制御を行う対象物に接触するように構成されているため、支持部材に加えて伝熱部材も応力を負担できるようになる。従って、温度変化によって支持部材の弾性率や破断応力が低下したとしても、その低下分を伝熱部材が分担することができるため、結果として、熱制御装置全体の強度を維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、本発明に係る熱応答性材料の製造方法の手順を示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、熱応答性材料を利用した熱制御装置の説明図である。
【
図3】
図3は、本発明の代表的な熱応答性材料の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る熱応答性材料、熱応答性材料の製造方法、及び熱制御装置に関する実施形態について図面を参照して説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されることを意図しない。
【0029】
〔熱応答性材料の組成〕
本発明の熱応答性材料は、温度変化に応じて状態が変化するものであり、例えば、液晶性ポリマーをマトリックスとして含むエラストマーである。本明細書において、「マトリックス」とは、材料の主成分であることを意味する。従って、本発明の熱応答性材料は、主成分の他に、少量添加される副成分(例えば、他のポリマー、低分子物質、フィラー等)を含み得ることを排除するものではない。
【0030】
マトリックスである液晶性ポリマーは、例えば、液晶性ポリウレタン、液晶性シリコーン樹脂、液晶性アクリレート樹脂、液晶性ポリN置換(メタ)アクリルアミド、及び液晶性ポリビニルエーテル等が挙げられる。これらのうち、液晶性ポリウレタンは、液晶性と伸縮性とを兼ね備えた液晶性エラストマーであり、繊維、フィルム、発泡体等への加工が容易である。液晶性ポリウレタンは、本発明の熱応答性材料のマトリックスとして好ましい材料である。従って、以下の実施形態では、液晶性ポリマーとして、特に液晶性ポリウレタンを使用した熱応答性材料について例示する。
【0031】
液晶性ポリウレタンは、活性水素基を有するメソゲン基含有化合物(以下、単に「メソゲン基含有化合物」と称する。)と、イソシアネート化合物と、アルキレンオキシド及び/又はスチレンオキシドと、架橋剤とを反応させることにより生成される。
【0032】
メソゲン基含有化合物は、例えば、下記の一般式(1)で表される化合物が使用される。
【0034】
一般式(1)において、Xは活性水素基であり、R
1は単結合、−N=N−、−CO−、−CO−O−、又は−CH=N−であり、R
2は単結合、又は−O−であり、R
3は単結合、又は炭素数1〜20のアルキレン基である。ただし、R
2が−O−であり、且つR
3が単結合であるものを除く。Xとしては、例えば、OH、SH、NH
2、COOH、二級アミン等が挙げられる。
【0035】
イソシアネート化合物は、例えば、ジイソシアネート化合物、又は3官能以上のイソシアネート化合物を使用することができる。ジイソシアネート化合物を例示すると、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、及びm−キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネート、及び1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、並びに1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’−ジシクロへキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、及びノルボルナンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネートが挙げられる。上掲のジイソシアネート化合物は、単独で使用してもよいし、複数種を混合して使用してもよい。3官能以上のイソシアネート化合物を例示すると、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオホスフェート、リジンエステルトリイソシアネート、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート、1,8−ジイソシアネート−4−イソシアネートメチルオクタン、ビシクロヘプタントリイソシアネート等のトリイソシアネート、及びテトライソシアネートシラン等のテトライソシアネートが挙げられる。上掲の3官能以上のイソシアネート化合物は、単独で使用してもよいし、複数種を混合して使用してもよい。イソシアネート化合物は、上掲のジイソシアネート化合物と、上掲の3官能以上のイソシアネート化合物とを混合したものを使用することも可能である。イソシアネート化合物の配合量は、液晶性ポリウレタンの全原材料に対して、10〜40重量%、好ましくは15〜30重量%となるように調整される。イソシアネート化合物の配合量が10重量%未満の場合、ウレタン反応による高分子化が不十分となるため、液晶性ポリウレタンを連続成形することが困難となる。イソシアネート化合物の配合量が40重量%を超える場合、全原材料に占めるメソゲン基含有化合物の配合量が相対的に少なくなるため、液晶性ポリウレタンの液晶性が低下する。
【0036】
アルキレンオキシドは、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、又はブチレンオキシドを使用することができる。上掲のアルキレンオキシドは、単独で使用してもよいし、複数種を混合して使用してもよい。スチレンオキシドについては、ベンゼン環にアルキル基、アルコキシル基、ハロゲン等の置換基を有するものでもよい。アルキレンオキシドは、上掲のアルキレンオキシドと、上掲のスチレンオキシドとを混合したものを使用することも可能である。アルキレンオキシド及び/又はスチレンオキシドの配合量は、メソゲン基含有化合物1モルに対して、アルキレンオキシド及び/又はスチレンオキシドが1〜10モル、好ましくは1〜6モル付加されるように調整される。アルキレンオキシド及び/又はスチレンオキシドの付加モル数が1モル未満の場合、液晶性ポリウレタンの液晶性が発現する温度範囲を十分に低下させることが困難となり、そのため、無溶媒で且つ液晶性が発現した状態で原材料を反応硬化させながら液晶性ポリウレタンを連続成形することが困難となる。アルキレンオキシド及び/又はスチレンオキシドの付加モル数が10モルを超える場合、液晶性ポリウレタンの液晶性が発現し難くなる虞がある。
【0037】
架橋剤は、例えば、少なくとも3つの反応性官能基を有するポリオールを使用することができる。このようなポリオールを架橋剤として使用すれば、マトリックスが緻密化されるため、材料として一定以上の強度を確保することができる。従って、熱応答性材料が液晶相から等方相に相転移したとき、熱応答性は維持しながら、マトリックスの応力低下を少なくすることができる。少なくとも3つの反応性官能基を有するポリオールを例示すると、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、及びポリエステルポリカーボネートポリオール等の3つ以上の水酸基を有する高分子量ポリオール(分子量400以上)、並びにトリメチロールプロパン、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、テトラメチロールシクロヘキサン、メチルグルコシド、ソルビトール、マンニトール、ズルシトール、スクロース、2,2,6,6−テトラキス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサノール、及びトリエタノールアミン等の低分子量ポリオールが挙げられる。上掲のポリオールは、単独で使用してもよいし、複数種を混合して使用してもよい。架橋剤の配合量は、すべての原材料(メソゲン基含有化合物、イソシアネート化合物、アルキレンオキシド及び/又はスチレンオキシド、並びに架橋剤)の合計量を100重量部としたとき、0.1〜20重量部、好ましくは0.2〜18重量部に調整される。このような範囲であれば、液晶性ポリウレタン中のメソゲン基は適度に動くことが可能であり、熱応答性と液晶性とをバランスよく発現させることができる。架橋剤の配合量が0.1重量部未満の場合、液晶性ポリウレタンが十分に硬化しないため、マトリックス自体が流動して熱応答性が得られなくなる虞がある。架橋剤の配合量が20重量部を超える場合、液晶性ポリウレタンの架橋密度が高くなり過ぎるため、メソゲン基の配向が阻害されて液晶性が発現し難くなり、熱応答性が得られなくなる虞がある。
【0038】
液晶性ポリウレタンは、例えば、以下の反応スキームにより生成される。初めに、メソゲン基含有化合物とアルキレンオキシド及び/又はスチレンオキシドとを反応させ、アルキレンオキシド及び/又はスチレンオキシドが付加されたメソゲン基含有化合物(以下、「メソゲンジオール」と称する。)を調製する。得られたメソゲンジオールに、架橋剤及びイソシアネート化合物を添加し、加熱しながら混合すると半硬化状態の液晶性ウレタン化合物(プレポリマー)が得られる。この半硬化状態の液晶性ウレタン化合物を適切な条件下で養生すると、液晶性ウレタン化合物が高分子化しながら硬化し、液晶性ポリウレタン(エラストマー)が生成する。液晶性ポリウレタンは、使用目的に応じて、繊維、フィルム、発泡体等の形態に成形される。このとき、液晶性ポリウレタンをガラス転移温度(T
g)以上かつ相転移温度(T
i)以下(すなわち、液晶性が発現する温度)で延伸しながら成形すると、液晶性ポリウレタンに含まれるメソゲン基が延伸方向に沿うように動いて高度な配向性が得られる。そして、延伸した状態で液晶性ポリウレタンを養生すると、液晶性と伸縮性とを兼ね備えた熱応答性材料が完成する。この熱応答性材料は、液晶性ポリウレタン中のメソゲン基が延伸方向に配向したものであり、熱が加わるとメソゲン基の配向が崩れて(不規則となって)延伸方向に収縮し、熱を取り除くとメソゲン基の配向が復活して延伸方向に伸張するという特異的な熱応答挙動を示す。なお、液晶性ポリウレタンの配向性は、メソゲン基の配向度によって評価することができる。配向度の値が大きいものは、メソゲン基が一軸方向に高度に配向している。配向度は、後の「熱応答性材料の製造方法」で説明するように、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)によって測定される芳香族エーテルの逆対称伸縮振動の吸光度(0°、90°)、及びメチル基の対称変角振動の吸光度(0°、90°)をパラメータとする所定の計算式に基づいて算出される。熱応答性材料が有意な伸縮性を発現するためには、液晶性ポリウレタンの配向度が0.05以上であることが好ましく、0.1以上であることがより好ましい。
【0039】
上述の反応スキームにより得られた液晶性ポリウレタンは、そのまま本発明の熱応答性材料のマトリックスとして利用可能であるが、液晶性ポリウレタンに副成分を少量添加して利用することも可能である。液晶性ポリウレタンに添加可能な副成分を例示すると、有機フィラー、無機フィラー、補強剤、増粘剤、離型剤、賦形剤、カップリング剤、難燃剤、耐炎剤、顔料、着色料、消臭剤、抗菌剤、防カビ剤、帯電防止剤、紫外線防止剤、及び界面活性剤等が挙げられる。また、副成分として、他のポリマーや低分子物質を添加することも可能である。副成分が添加された液晶性ポリウレタンは、当該副成分の機能が付与されたものとなり、様々な場面で利用することができる。
【0040】
〔熱応答性材料への気泡の分散〕
本発明の熱応答性材料は、マトリックス中に平均径30〜400μmの気泡が分散されていることに特徴がある。このような気泡は、気泡体積及び気泡表面積が微小であるため、マトリックス中において、浮力、せん断応力、圧縮応力等の影響を受け難い。従って、熱応答性材料が外部応力を受けても、マトリックス中の気泡を起点として破断されることがなく、気泡は長期に亘ってマトリックス中に存在し続けることができる。気泡の平均径が30μm未満の場合、気泡が膨張又は圧縮され難くなり、その結果、熱応答性材料の弾性率が低下する。気泡の平均径が400μmを超える場合、気泡がせん断応力、圧縮応力等の外部応力の影響を受け易くなり、気泡を起点として破断され易くなる。上記の平均径範囲の気泡を含む熱応答性材料は、気泡による断熱性等の特性を備えたものでありながら、安定した状態が長期に亘って維持されるため、耐久性に優れた材料として有用である。
【0041】
マトリックス(液晶性ポリウレタン)中に気泡を分散させる方法としては、例えば、液晶性ポリウレタンの原材料に発泡剤を混合しておき、液晶性ポリウレタンの硬化反応時に発泡剤を発泡させる方法が挙げられる。この場合、発泡剤として、例えば、炭酸水素ナトリウムを使用することができる。また、マトリックス中に気泡を分散させる別の方法として、例えば、液晶ポリウレタンの原材料に空気を含ませながら当該原材料を混合することにより、マトリックス中に気泡を混入させるメカニカルフロス法、液晶性ポリウレタンの原材料に中空フィラーを混合することにより、マトリックス中に中空フィラーを分散させる方法等が挙げられる。マトリックス中に気泡が分散した熱応答性材料は、気泡によって断熱性が高まるため、温度変化が大きい環境でも使用することが可能となる。また、マトリックス中に気泡が含まれることで熱応答性材料が軽量化されるため、例えば、自動車等の輸送用機械に好適に適用することができる。
【0042】
本発明の熱応答性材料は、気泡の直径の標準偏差をDとし、気泡の平均径をaとしたとき、D/aが0.7以下であるように設定される。この場合、熱応答性材料に含まれる気泡の大きさのバラツキが小さくなり、熱応答性材料が外部応力を受けても、その応力を熱応答性材料全体で負担することができる。このため、応力が熱応答性材料の特定の位置に集中することがなく、気泡を起点としたマトリックスの破断を防止することができる。
【0043】
本発明の熱応答性材料は、常温において、気泡の容積をV
1とし、マトリックスの見かけ容積をV
2としたとき、0.3 ≦ V
1/V
2 ≦0.9を満たすように設定される。V
1/V
2は、マトリックスに対して気泡が占める割合であり、熱応答性材料の空隙率に相当する。空隙率が上記の適切な範囲に設定されることで、熱応答性材料は、断熱性と強度(耐久性)とのバランスに優れたものとなる。V
1/V
2が0.3未満の場合、気体の占める割合が小さくなるため、熱応答性材料中の断熱性が低くなる。また、体積変化し易い気体の占める割合が減少するため、伸縮性が低下する。V
1/V
2が0.9を超える場合、マトリックス中の気泡体積が大きくなるため、浮力、せん断応力、圧縮応力等の影響を受け易くなる。その結果、熱応答性材料に外部応力が繰り返し付与されたときに気泡を起点としてマトリックスが破断され易くなり、熱応答性材料の耐久性が低下する。
【0044】
〔熱応答性材料の製造方法〕
図1は、本発明に係る熱応答性材料の製造方法の手順を示すフローチャートである。各工程に付している記号「S」は工程を意味する。熱応答性材料の製造方法は、発泡工程(S1,S2)及び冷却工程(S3)を包含し、さらに、追加の工程として、配向工程(S4)及びエージング工程(S5)を包含する。以下、熱応答性材料の製造方法の各工程について説明する。
【0045】
<発泡工程>
初めに、発泡工程(S1,S2)を実行する。発泡工程(S1,S2)では、メソゲン基を含有する液晶性ポリオール(以後、「液晶性ポリオール」ともいう。)を加熱し溶融させる(S1)。このとき、熱分解型発泡剤が添加される。熱分解型発泡剤として炭酸水素ナトリウムが好ましく用いられ、これにより、マトリックス中に略均一な平均径を有する気泡を分散させることが容易となる。略均一な気泡がマトリックス中に分散された熱応答性材料は、耐久性や断熱性が向上し、種々の用途において有用な材料となり得る。
【0046】
熱分解型発泡剤は、
図1に示すように、加熱溶融前の液晶性ポリオール(固体)、又は加熱溶融後の液晶性ポリオール(融液)に添加される。熱分解型発泡剤の添加量は、液晶性ポリオールに対して重量比で0.02〜0.20倍であり、好ましくは0.02〜0.10倍である。熱分解型発泡剤の添加量が0.02倍未満の場合、発生する気泡が少ないため、マトリックス中の気泡が占める割合が低く、液晶性ポリウレタンの硬度が高くなって、良好な弾性を有する液晶性ポリウレタンが得られない虞がある。熱分解型発泡剤の添加量が0.20倍を超える場合、マトリックス中の気泡が占める割合が高くなるため、液晶性ポリウレタンの耐久性が低下する虞がある。次いで、硬化剤であるイソシアネート化合物を添加し、イソシアネート化合物が均一に混合されるまで所定時間撹拌する(S2)。イソシアネート化合物の添加量は、液晶性ポリオールに対して重量比で0.15〜0.45倍であり、好ましくは0.20〜0.40倍である。イソシアネート化合物の添加量が0.15倍未満の場合、ウレタン反応による高分子化が不十分となるため、液晶性ポリウレタンを連続成形することが困難となる。イソシアネート化合物の添加量が0.45倍を超える場合、全原材料に占めるメソゲン基含有化合物の配合量が相対的に少なくなるため、液晶性ポリウレタンに液晶性が発現し難くなる。このように、液晶性ポリオールに適量の熱分解型発泡剤及びイソシアネート化合物を添加し、発泡させることにより、融液に適切な平均径(30〜400μm)を有する気泡を含ませることができる。
【0047】
発泡工程においては、液晶性ポリオールに界面活性剤をさらに添加することもできる。界面活性剤を添加した場合、マトリックス中に形成される気泡の形状が整い、気泡の平均径のバラツキが抑制される。
【0048】
<冷却工程>
冷却工程(S3)では、発泡工程(S1,S2)で得られた気泡を含有する融液を冷却する。融液は、液晶性を有するメソゲン基を含有するため、ガラス転移温度(T
g)以上かつ相転移温度(T
i)下の所定の温度に冷却すると、マトリックス中にメソゲン基が配列可能な液晶相が発現する。
【0049】
<配向工程>
配向工程(S4)では、冷却工程(S3)で得られた液晶性ポリウレタンに含まれるメソゲン基を配向させる。配向工程(S4)は、液晶性ポリウレタンを上記所定の温度に維持した状態で延伸することにより行われる。これにより、液晶性ポリウレタンに含まれるメソゲン基が延伸方向に沿って配向し、配向方向においては高い強度が発揮される。なお、メソゲン基を配向させる方法としては、延伸による方法だけでなく、液晶性ポリウレタンや添加物の種類に応じて、電場、磁場、光の外部刺激によって配向させる方法も可能である。
【0050】
液晶性ポリウレタンの配向性は、配向度によって確認することができる。配向度が大きいものは、メソゲン基が一軸方向に高度に配向している。配向度は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)によって測定される芳香族エーテルの逆対称伸縮振動の吸光度(0°、90°)、及びメチル基の対称変角振動の吸光度(0°、90°)をパラメータとする所定の計算式に基づいて算出することができる。例えば、内部反射エレメント(IRE)にゲルマニウムを使用し、測定光は入射角45°で垂直偏光(S偏光)として夫々の吸光度を測定し、以下の計算式に基づいて、液晶性ポリウレタンの配向度を求める。
配向度 = (A−B)/(A+2B)
A:0°で測定したときの芳香族エーテルの逆対称伸縮振動の吸光度/0°で測定したときのメチル基の対称変角振動の吸光度
B:90°で測定したときの芳香族エーテルの逆対称伸縮振動の吸光度/90°で測定したときのメチル基の対称変角振動の吸光度
なお、熱応答性材料が有意な伸縮性を発現するためには、液晶性ポリウレタンの配向度が0.1以上であることが好ましく、0.2以上であることがより好ましい。
【0051】
<エージング工程>
エージング工程(S5)では、高い配向性を有する液晶性ポリウレタンの配向状態を保持するため、配向工程(S4)で得られた液晶性ポリウレタンを所定の温度以下の温度で一定の時間静置される。これにより、メソゲン基の配向状態が維持された液晶性ポリウレタンが得られる。本発明の熱応答性材料の製造方法によって得られた液晶性ポリウレタンは、液晶性と伸縮性とを兼ね備えた熱応答性材料のマトリックスとなり得る。すなわち、液晶性ポリウレタンは、メソゲン基が延伸方向に配向されたものであるが、加熱により相転移温度(T
i)を超えるとメソゲン基の配向が崩れて(不規則となって)延伸方向に収縮し、相転移温度(T
i)未満に冷却するとメソゲン基の配向が復活して延伸方向に伸張するという特異的な応答挙動を示す。従って、メソゲン基が配向された液晶性ポリウレタンは、温度変化に応じて可逆的に伸縮する熱応答性伸縮材料として利用することができる。
【0052】
〔熱応答性材料の用途〕
本発明の熱応答性材料は、マトリックスである液晶性ポリウレタンの液晶性と伸縮性とを利用して様々な用途に適用することができる。そのような適用例について説明する。
【0053】
本発明の熱応答性材料は、熱制御装置に適用することができる。
図2は、熱応答性材料を利用した熱制御装置10の説明図である。
図2の破線円内のイラストは、熱応答性材料を構成するメソゲン基3を有する液晶性ポリウレタンと、材料内に分散される気泡4とのイメージを説明するものである。この破線円内のイラストは、あくまでもイメージを表したものであり、実際の液晶性ポリウレタンと気泡4とのサイズ関係を正確に反映させたものではない。
【0054】
熱制御装置10は、例えば、熱制御を行う対象物11に取り付けられるものであり、放熱板12と、伝熱部材13と、支持部材14とを備える。放熱板12は、対象物11から伝熱部材13に伝達された熱を受け取って外部に放出するように機能する。伝熱部材13は、放熱板12に取り付けられるとともに、対象物11に対して接触/離間可能に構成されている。支持部材14は、対象物11と放熱板12との間に設置され、対象物11に対して放熱板12及び伝熱部材13を支持するものである。
【0055】
上記の熱制御装置10において、支持部材14に本発明の熱応答性材料が使用される。
図2(a)に示すように、熱制御装置10が液晶性ポリウレタンの相転移温度(T
i)未満の環境にあり、破線円内のイメージに示すように、支持部材14を構成する熱応答性材料が液晶相を含んでいる状態では、支持部材14が伸張している。このため、伝熱部材13は対象物11から離間し、対象物11の熱は放熱板12に伝達されない。一方、
図2(b)に示すように、熱制御装置10が液晶性ポリウレタンの相転移温度(T
i)を超える環境にあり、破線円内のイメージに示すように、支持部材14を構成する熱応答性材料が等方相を含んでいる状態では、支持部材14が収縮している。このため、伝熱部材13は対象物11に接触し、対象物11の熱は放熱板12に伝達される。従って、熱制御装置10の支持部材14として使用する液晶性ポリウレタンの相転移温度(T
i)が当該熱制御装置10の設置環境温度に含まれるように熱制御装置10を設計すれば、対象物11に対して適切な熱制御を行うことができる。
【0056】
マトリックス2には気泡4が分散されており、
図2(a)及び
図2(b)に示すように、気泡4はマトリックス2の変形に応じて変形する。気泡4は、マトリックス2の弾力性及び柔軟性の向上に寄与する。気泡4は、平均径が30〜400μmとなるように設定されているため、熱応答性材料1のマトリックス2が繰り返し伸縮されても、気泡4を起点として破断されることはなく、柔軟に伸縮することができる。従って、熱制御装置10の耐久性が向上する。このように、熱制御装置10は、熱応答性材料1を含むものであるため、繰り返し伸縮可能であるとともに、熱応答性に優れた熱制御装置10として有用なものとなる。また、熱応答性材料1は耐久性に優れているため、熱制御装置10は、例えば、熱に応答するアクチュエータとして利用することができる。
【0057】
ところで、熱制御装置10は、
図2(a)の状態から
図2(b)の状態に移行すると、温度上昇に伴って液晶性ポリウレタンのメソゲン基3が不規則になるため、支持部材14の弾性率や破断応力が低下することになる。このため、熱制御装置10の強度や耐久性が不足するのではないかという懸念が生じる。しかしながら、
図2(b)の状態では、伝熱部材13が対象物11に接触することにより、支持部材14に加えて伝熱部材13も応力を負担できるようになる。従って、温度上昇により支持部材14の弾性率や破断応力が低下したとしても、その低下分を伝熱部材13が分担することができるため、結果として、熱制御装置10全体の強度を維持することが可能となる。
【実施例】
【0058】
本発明の熱応答性材料の有用性を確認するため、原材料の配合を変更して熱応答性材料を製造し、それらの特性について評価を行った。以下、熱応答性材料の実施例として説明する。
【0059】
〔液晶性ポリウレタンの合成〕
熱応答性材料のマトリックスとなる液晶性ポリウレタンを合成した(実施例1〜4、比較例1〜3)。液晶性ポリウレタンの合成にあたっては、初めに液晶性ポリウレタンの前駆体である液晶性ポリオール(メソゲンジオールA(BH6−PO4)、又はメソゲンジオールB(BH6−PO6))を合成し、次いで、この液晶性ポリオールとイソシアネート化合物とを反応させた。熱応答性材料の製造に使用した原材料の配合を後述の表1に示す。なお、実施例及び比較例では、液晶性ポリウレタンの配合量の単位を「g」としているが、本発明は、任意の倍率でスケールアップが可能である。すなわち、液晶性ポリウレタンの各原材料の配合量の単位については、「重量部」と読み替えることができる。
【0060】
(メソゲンジオールA(BH6−PO4)の合成)
液晶性ポリオールとしてメソゲンジオールA(BH6−PO4)(以下、単に「メソゲンジオールA」と称する。)を合成した。反応容器に、メソゲン基含有化合物としてビフェニル化合物(BH6)100g、水酸化カリウム3.8g、及び溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミド600mlを入れて混合し、さらに、アルキレンオキシドとしてプロピレンオキシドをビフェニル化合物(BH6)1モルに対して4当量添加し、これらの混合物を、加圧条件下、120℃で2時間反応させた(付加反応)。次いで、反応容器にシュウ酸3.0gを添加して付加反応を停止させ、反応液中の不溶な塩を吸引ろ過によって除去し、さらに、反応液中のN,N−ジメチルホルムアミドを減圧蒸留法により除去することにより、メソゲンジオールAを得た。メソゲンジオールAの合成スキームを式(2)に示す。なお、式(2)中に示したメソゲンジオールAは代表的なものであり、種々の構造異性体を含み得る。
【0061】
【化2】
【0062】
(メソゲンジオールB(BH6−PO6)の合成)
液晶性ポリオールとしてメソゲンジオールB(BH6−PO6)(以下、単に「メソゲンジオールB」と称する。)を合成した。プロピレンオキシドの添加量を、ビフェニル化合物(BH6)1モルに対して6当量とした以外は、上記メソゲンジオールAの合成と同様に行った。メソゲンジオールBの合成スキームを式(3)に示す。なお、式(3)中に示したメソゲンジオールBは代表的なものであり、種々の構造異性体を含み得る。
【0063】
【化3】
【0064】
<実施例1>
反応容器に、メソゲンジオールA100g、熱分解型発泡剤として炭酸水素ナトリウム(ナカライテスク株式会社製)2.5g、触媒としてオクチル酸錫(T−9、東栄化学工業株式会社製)0.25gを入れて混合し、さらに温度を100℃に調節してメソゲンジオールAを溶融させた。続いて、イソシアネート化合物(硬化剤)として60℃に温調したブレンドイソシアネート(HDI(日本ポリウレタン工業株式会社製)と、スミジュール(登録商標)N3300(住化バイエルウレタン株式会社製)とを重量比8:2で混合したもの。)32gを添加し、撹拌装置を用いて15秒間、8000rpmで攪拌し、混合物を得た。この混合物を予熱した金型に充填し、50℃で30分間反応硬化させることにより、半硬化状態の液晶性ウレタン化合物(プレポリマー)を得た。この液晶性ウレタン化合物を金型から離型し、20℃で延伸倍率が2倍となるように一軸延伸した。その後、液晶性ウレタン化合物の延伸状態を維持したまま20℃で完全に硬化するまで養生し、液晶(メソゲン基)が配向した実施例1の液晶性ポリウレタンを得た。
【0065】
<実施例2>
半硬化状態の液晶性ウレタン化合物を得るに際し、炭酸水素ナトリウムの配合量を5.0gとした。その他の原材料、及びその配合量、並びに、反応条件、延伸条件、及び養生条件については、実施例1と同様とし、実施例2の液晶性ポリウレタンを得た。
【0066】
<実施例3>
半硬化状態の液晶性ウレタン化合物を得るに際し、炭酸水素ナトリウムの配合量を5.0gとし、オクチル酸錫の配合量を0.10gとした。その他の原材料、及びその配合量、並びに、反応条件、延伸条件、及び養生条件については、実施例1と同様とし、実施例3の液晶性ポリウレタンを得た。
【0067】
<実施例4>
半硬化状態の液晶性ウレタン化合物を得るに際し、液晶性ポリオールをメソゲンジオールBとし、炭酸水素ナトリウムの配合量を5.0gとし、ブレンドイソシアネートの配合量を28gとし、メソゲンジオールBを溶融させる温度を80℃に調節した。その他の原材料、及びその配合量、並びに、反応条件、延伸条件、及び養生条件については、実施例1と同様とし、実施例4の液晶性ポリウレタンを得た。
【0068】
<比較例1>
半硬化状態の液晶性ウレタン化合物を得るに際し、発泡剤として炭酸水素ナトリウムの代わりにシクロペンタン(東京化成工業株式会社製)3gを使用し、このシクロペンタンをブレンドイソシアネートに40℃に調節して添加した。その他の原材料、及びその配合量、並びに、反応条件、延伸条件、及び養生条件については、実施例1と同様とし、比較例1の液晶性ポリウレタンを得た。
【0069】
<比較例2>
半硬化状態の液晶性ウレタン化合物を得るに際し、液晶性ポリオールをメソゲンジオールBとし、ブレンドイソシアネートの配合量を28gとし、オクチル酸錫の配合量を0.50gとし、メソゲンジオールBを溶融させる温度を80℃に調節し、発泡剤として炭酸水素ナトリウムの代わりにシクロペンタン3gを使用し、このシクロペンタンをブレンドイソシアネートに40℃に調節して添加した。その他の原材料、及びその配合量、並びに、反応条件、延伸条件、及び養生条件については、実施例1と同様とし、比較例2の液晶性ポリウレタンを得た。
【0070】
<比較例3>
半硬化状態の液晶性ウレタン化合物を得るに際し、液晶性ポリオールをメソゲンジオールBとし、ブレンドイソシアネートの配合量を28gとし、オクチル酸錫の配合量を0.50gとし、メソゲンジオールBを溶融させる温度を80℃に調節し、発泡剤として炭酸水素ナトリウムの代わりにシクロペンタン3gを使用し、このシクロペンタンをブレンドイソシアネートに40℃に調節して添加した。また、オクチル酸錫を添加するに際し、発泡剤としてさらに水0.1gを添加した。その他の原材料、及びその配合量、並びに、反応条件、延伸条件、及び養生条件については、実施例1と同様とし、比較例3の液晶性ポリウレタンを得た。
【0071】
〔評価方法〕
<空隙率>
液晶性ポリウレタンを縦20mm×横20mm×長さ30mmの直方体のサンプルに切り出し、下記の式から空隙率を算出した。
空隙率(%) = V
1/V
2 × 100
V
1:気泡の容積(cm
3)
V
2:サンプル寸法から算出した見かけ容積(cm
3)
ここで、V
1は、空気比較式比重計(930型、ベックマン株式会社製)を用いて、ASTM−2856−94−C法に準拠してサンプルの実容積V
3(cm
3)を測定し、V
2とV
3との差から求めたものである。
【0072】
<見掛け密度>
液晶性ポリウレタンを50mm×50mm×50mmの立方体のサンプルに切り出し、JIS K7222に準拠して、見掛け密度を測定した。
【0073】
<気泡の平均径、及び気泡の直径の標準偏差>
液晶性ポリウレタンを厚み1mm以下となるように、カミソリ刃で平行に切り出したものをサンプルとした。サンプルをスケールとともにスライドガラス上に固定し、SEM(S−3500N、日立サイエンスシステムズ株式会社製)を用いて拡大倍率100倍で撮影した。得られた画像を画像処理ソフト(二次元画像解析処理ソフトウェア「WinROOF」、三谷商事株式会社製)により任意範囲の気泡を選択し、気泡の輪郭をトレースした。トレースした図形の周長から相当円の直径を算出し、これを気泡の直径とした。気泡の輪郭が楕円状である場合は、楕円面積を等価な円面積に換算し、円相当径を気泡の直径とした。得られた夫々の気泡の直径から、気泡の平均径a、及び気泡の直径の標準偏差Dを算出し、D/aを気泡のバラツキのパラメータとした。
【0074】
<液晶相から等方相への相転移温度(T
i)の測定>
示差走査熱量分析計[DSC](株式会社日立ハイテクサイエンス社製、X−DSC 7000)を使用し、液晶性ポリウレタンの相転移温度(T
i)を測定した。測定時の昇温速度については、20℃/分とした。
【0075】
<回復率>
液晶性ポリウレタンを幅10mm×長さ100mm×厚み10mmの直方体のサンプルに切り出し、配向方向(伸縮方向)に張力を付与して30kPaの内部応力を発生させた状態で、雰囲気温度を20℃と80℃との間で繰返し変化させることにより、液晶性ポリウレタンを伸縮させた。温度変化(伸縮)を1000サイクル実施した後、熱応答性材料の耐久性を下記の式の回復率によって評価した。
回復率(%) = S
2/S
1 × 100
S
1:温度変化1サイクル目のサンプルの伸縮率
S
2:温度変化1000サイクル目のサンプルの伸縮率
伸縮率(%) = L
20/L
80
L
20:20℃で30kPa負荷した状態でのサンプルの配向方向の長さ(mm)
L
80:80℃で30kPa負荷した状態でのサンプルの配向方向の長さ(mm)
【0076】
〔評価結果〕
実施例及び比較例の液晶性ポリウレタンの評価結果を以下の表1にまとめる。
【0077】
【表1】
【0078】
表1に示すように、実施例1〜4では、熱応答性材料のマトリックス中に含まれる気泡の平均径は、本発明で規定する30〜400μmの範囲であった。また、気泡の直径の標準偏差Dと気泡の平均径aとの比率(D/a)は、0.7以下であった。さらに、熱応答性材料の空隙率(%)は、37%〜83%(V
1/V
2=0.37〜0.83)であった。このように、実施例1〜4については、気泡がマトリックス中で微小なサイズのまま維持されており、気泡サイズのばらつきも少ないことが確認された。また、熱応答性材料の回復率は97%と高く、熱応答性材料の耐久性が十分に高められていることが確認された。
【0079】
これに対し、比較例1〜3では、熱応答性材料のマトリックス中に含まれる気泡の平均径は、500μmより大きくなった。また、気泡の直径の標準偏差Dと気泡の平均径aとの比率(D/a)は、0.7を超えるものであった。このように、比較例1〜3では、マトリックス中で一部の気泡が肥大化(膨張)し、気泡サイズのばらつきも大きくなる傾向がみられた。また、温度変化(伸縮)を繰り返したことで、熱応答性材料は温度変化が1000サイクルに至るまでに破断され(回復率0%)、熱応答性材料の耐久性は実用に耐え得るものではなかった。
【0080】
図3は、本発明の代表的な熱応答性材料の電子顕微鏡写真である。(a)は、実施例1の熱応答性材料を液晶性ポリウレタンの相転移温度(T
i)未満にある環境下で撮影した写真であり、(b)は、実施例2の熱応答性材料を同様に撮影した写真である。相転移温度(T
i)未満の環境下では、実施例1及び実施例2のいずれの熱応答性材料においても、気泡の大きさについて、材料の強度低下の原因となる程の顕著なバラツキは認められず、500μm以上の直径を有する気泡も確認されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の熱応答性材料は、その優れた熱応答性、伸縮性、耐久性を利用し、実施形態で説明した熱制御装置の他にも様々な用途で利用することができる。例えば、熱応答性材料は、アクチュエータ、フィルター等の工業分野において利用できる可能性がある。また、熱応答性材料は、人工筋肉、カテーテル等の医学・医療分野において利用できる可能性がある。
【符号の説明】
【0082】
1 熱応答性材料
2 マトリックス(液晶性ポリウレタン)
3 メソゲン基
4 気泡
10 熱制御装置
11 熱制御を行う対象物
12 放熱板
13 伝熱部材
14 支持部材(熱応答性材料)
【国際調査報告】