特表-17115774IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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再表2017-115774コバルト含有培地によるカロテノイド産生細菌によるカロテノイドの発酵製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2017年7月6日
【発行日】2017年12月28日
(54)【発明の名称】コバルト含有培地によるカロテノイド産生細菌によるカロテノイドの発酵製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20171201BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20171201BHJP
   C12P 5/00 20060101ALI20171201BHJP
【FI】
   C12N1/20 A
   C12N1/00 GZNA
   C12P5/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】33
【出願番号】特願2017-536048(P2017-536048)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2016年12月27日
(31)【優先権主張番号】特願2015-255920(P2015-255920)
(32)【優先日】2015年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】JXTGエネルギー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】矢田 哲久
(72)【発明者】
【氏名】米田 久
(72)【発明者】
【氏名】東 光利
(72)【発明者】
【氏名】平澤 和明
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AB01
4B064CA02
4B064CD01
4B064DA01
4B064DA10
4B064DA11
4B065AA01X
4B065AA13X
4B065AC14
4B065BA22
4B065BB02
4B065CA03
4B065CA41
4B065CA43
4B065CA44
(57)【要約】
微生物培養によりカロテノイドを高収率かつ安定的に製造する方法の提供。
コバルト又はコバルト塩を0.005μmol/L〜20μmol/Lの濃度で含有する培地を用いてカロテノイド産生細菌を培養することを特徴とする、カロテノイド産生細菌の培養方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルト又はコバルト塩を0.005μmol/L〜20μmol/Lの濃度で含有する培地を用いてカロテノイド産生細菌を培養することを特徴とする、カロテノイド高産生細菌の培養方法。
【請求項2】
コバルト又はコバルト塩を0.005μmol/L〜20μmol/Lの濃度で含有する培地を用いてカロテノイド産生細菌を培養することを特徴とする、カロテノイド高産生細菌の製造方法。
【請求項3】
コバルト又はコバルト塩を0.005μmol/L〜20μmol/Lの濃度で含有する培地を用いてカロテノイド産生細菌を培養し、得られる培養物からカロテノイドを採取することを特徴とする、カロテノイドの製造方法。
【請求項4】
培地中のコバルト又はコバルト塩の濃度が、0.005μmol/L〜8μmol/Lである請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
カロテノイドが、アスタキサンチン、カンタキサンチン、ゼアキサンチン、β−クリプトキサンチン、リコペン、β−カロテン、アドニルビン、アドニキサンチン、エキネノン、アステロイデノン及び3−ヒドロキシエキネノンからなる群から選ばれる少なくとも一つである請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
カロテノイド産生細菌が、Paracoccus属、Brevundimonas属又はErythrobacter属に属する細菌である請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
カロテノイド産生細菌が、16SリボソームRNAに対応するDNAであって塩基配列が配列番号1に記載の塩基配列と95%以上の相同性を有するDNAを含む細菌である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
カロテノイド産生細菌が、E-396株(FERM BP-4283)若しくはA-581-1株(FERM BP-4671)又はそれらの変異株である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
請求項2及び4〜8のいずれか1項に記載の方法によって製造された、カロテノイド高産生細菌。
【請求項10】
乾燥菌体中にカロテノイドを少なくとも36mg/g含む、カロテノイド高産生細菌。
【請求項11】
コバルトを含有するカロテノイド高産生細菌。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カロテノイド産生細菌によるカロテノイドの微生物学的製造方法に関する。 詳細には、本発明は、アスタキサンチン、カンタキサンチン、ゼアキサンチン、β−クリプトキサンチン、リコペン、β−カロテン、アドニルビン、アドニキサンチン、エキネノン、アステロイデノン及び3−ヒドロキシエキネノンなどのカロテノイドを産生する微生物の発酵により、当該カロテノイドを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カロテノイドは飼料添加物、食品添加物、医薬品等として使用される有用な天然色素である。カロテノイドには、アスタキサンチン、カンタキサンチン、ゼアキサンチン、β−クリプトキサンチン、リコペン、β−カロテン、アドニルビン、アドニキサンチン、エキネノン、アステロイデノン及び3−ヒドロキシエキネノンなどが含まれる。中でも、アスタキサンチンは養殖魚であるサケ、マス、マダイ等の体色改善剤や、家禽類の卵黄色改善剤のような飼料添加物として有用である。また、天然のアスタキサンチンは安全な食品添加物や健康食品素材として産業上の価値が高い。アドニキサンチン及びアドニルビンは、アスタキサンチンと同様に飼料添加物、食品添加物、医薬品等としての用途が期待されている。
【0003】
さらに、β−カロテンは飼料添加物、食品添加物、医薬品等として使用され、カンタキサンチンは飼料添加物、食品添加物、化粧品等として使用され、ゼアキサンチンは食品添加物、飼料添加物等として使用されている。さらにリコペン、エキネノン、β−クリプトキサンチン、3−ヒドロキシエキネノン、アステロイデノン等も飼料添加物、食品素材等としての使用が期待される。これらカロテノイドの製造方法としては、化学合成法、天然物からの抽出法、微生物の培養による産生方法などが知られている。
【0004】
アスタキサンチンの化学合成法としてはβ−カロテンの変換による方法(Pure Appl. Chem., 57, 741, 1985(非特許文献1))及びC15ホスホニウム塩から合成する方法(Helv. Chim. Acta, 64, 2436, 1981(非特許文献2))が知られている。天然物からの抽出法として、アスタキサンチンはサケ、マダイ等の魚類及びエビ、カニ、オキアミ等の甲殻類に存在するため、これらより抽出して採取することも可能である。
【0005】
微生物によるカロテノイドの生産方法としては、緑藻類Haematococcus pluvialisによる培養法(特開2007−97584号公報(特許文献1))、赤色酵母Phaffia rhodozymaによる発酵法(特開平11−69969号公報(特許文献2))、Paracoccus属に属する細菌(以下、「Paracoccus属細菌」ともいう)による発酵法、Brevundimonas属に属する細菌による発酵法(特開2006−340676号公報(特許文献3))、Erythrobacter属に属する細菌による発酵法(特開2008−259449号公報(特許文献4))が報告されている。カロテノイドを生産するParacoccus属細菌の例としては、E−396株及びA−581−1株が挙げられる(特開平7−79796号公報(特許文献5)及びInternational Journal of Systematic Bacteriology (1999), 49, 277-282(非特許文献3))。他のカロテノイド生産性のParacoccus属に属する細菌としては、Paracoccus marcusii MH1株(特表2001−512030号公報(特許文献6))、Paracoccus haeundaensis BC74171株(International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology (2004), 54, 1699-1702(非特許文献4))、Paracoccus属細菌N-81106株(特開2007−244205号公報(特許文献7))、Paracoccus zeaxanthinifaciens(International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology (2003), 53, 231-238(非特許文献5))及びParacoccus sp. PC-1株(WO 2005/118812号パンフレット(特許文献8))などが挙げられる。
【0006】
しかしながら、前述のカロテノイドの製造方法にはいくつかの問題点があった。例えば、化学合成法で製造したカロテノイドは安全性の観点から消費者に好ましくない印象を与える。天然物から抽出したカロテノイドは化学合成法に比べて製造コストが格段に高い。微生物による製造のうち、緑藻類や酵母の培養による産生は生産性が低いうえにこれらの微生物は強固な細胞壁を持ち、これにより培養物からのカロテノイドの抽出が困難である。
【0007】
一方、Paracoccus属に属する細菌によるカロテノイドの製造では、当該菌体の増殖速度が速い、カロテノイドの生産性が高い、培養物からのカロテノイドの抽出が容易であるなどの利点を有し、いくつかの培養方法及び製造方法が報告されている。
【0008】
例としては、特開2007−143492号公報(特許文献9)は培養中に鉄塩を添加する方法、WO2010/044469号パンフレット(特許文献10)は培地にアミノ酸を添加する方法、特開2011−188795号公報(特許文献11)は培地にビオチンを添加する方法、また、特開2012−139164号公報(特許文献12)は培地に3.6mM以上となるようにカルシウム化合物を添加する方法を開示する。しかし、Paracoccus属細菌によるカロテノイドの発酵において、培地成分が培養方法及び製造方法にどのように影響するか、その詳細は不明であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−97584号公報
【特許文献2】特開平11−69969号公報
【特許文献3】特開2006−340676号公報
【特許文献4】特開2008−259449号公報
【特許文献5】特開平7−79796号公報
【特許文献6】特表2001−512030号公報
【特許文献7】特開2007−244205号公報
【特許文献8】WO 2005/118812号パンフレット
【特許文献9】特開2007−143492号公報
【特許文献10】WO2010/044469号パンフレット
【特許文献11】特開2011−188795号公報
【特許文献12】特開2012−139164号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Pure Appl. Chem., 57, 741, 1985
【非特許文献2】Helv. Chim. Acta, 64, 2436, 1981
【非特許文献3】International Journal of Systematic Bacteriology (1999), 49, 277-282
【非特許文献4】International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology (2004), 54, 1699-1702
【非特許文献5】International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology (2003), 53, 231-238
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、カロテノイド産生細菌によるカロテノイドの製造を目的として培養を実施する際に、培養のバッチによりカロテノイドの生産性が大きく変動し、場合によっては全く当該細菌が生育せず、安定的な製造ができないという重大な課題に直面した。
本発明は、このような実情に鑑みなされたものであり、その目的は微生物培養によりカロテノイドを高収率かつ安定的に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
培養のバッチにより生産性が変動する原因としては、不適切な通気・撹拌、温度の変動、pHの変動、溶存酸素電極の性能異常、種菌の活性の変動、培地原料のロット間差、水中微量成分の変動、培地滅菌による栄養源の損失や阻害物質の生成、磁気・振動の影響、電気的な刺激、雑菌汚染、装置からの阻害物質混入など種々考えられ、原因究明は困難を極めた。
本発明者らは、上記課題を解決するため多大な労力と時間を費やし、鋭意研究し、幾多の検討を積み重ねた結果、培地中のコバルトがカロテノイド生産細菌の生育及びカロテノイドの生産の重要な因子であり、培地中のコバルト濃度が低すぎた場合は微生物が生育しないこと、及びコバルト濃度が高すぎてもやはり微生物が生育しないことを見出した。さらに、従来の方法では、培地の原料、水あるいは発酵設備金属部などから夾雑物として微量に培地に混入するコバルトの量が適量であるときにはカロテノイド生産細菌の生育が良好でかつカロテノイドの生産濃度が高い培養が成立すること、混入するコバルトの量が適量に達しないときには培養が成立しないために、安定的な製造ができなかったことを本発明者らは突き止めた。
【0013】
また、本発明者らは、培養に必要なコバルトの量が微量であること、培養に適した濃度範囲があることを見出し、従来技術では誰も気づかなかった、培地中のコバルトの濃度がカロテノイド産生細菌の生育及びカロテノイド生産において非常に重要な要素であることを確認した。
即ち、本発明者らは、コバルトがカロテノイド産生細菌の生育及びカロテノイド生産に必須の栄養素であること、またその濃度に適正な範囲があることを初めて明らかにし、本発明のカロテノイド産生細菌によるカロテノイドの微生物学的製造方法を完成させ、製造上の課題を解決し、微生物による安定的なカロテノイドの製造を実現可能にした。
【0014】
本発明は、以下の特徴を有する。
(1)コバルト又はコバルト塩を0.005μmol/L〜20μmol/Lの濃度で含有する培地を用いてカロテノイド産生細菌を培養することを特徴とする、カロテノイド高産生細菌の培養方法。
(2)コバルト又はコバルト塩を0.005μmol/L〜20μmol/Lの濃度で含有する培地を用いてカロテノイド産生細菌を培養することを特徴とする、カロテノイド高産生細菌の製造方法。
(3)コバルト又はコバルト塩を0.005μmol/L〜20μmol/Lの濃度で含有する培地を用いてカロテノイド産生細菌を培養し、得られる培養物からカロテノイドを採取することを特徴とする、カロテノイドの製造方法。
(4)培地中のコバルト又はコバルト塩の濃度が、0.005μmol/L〜8μmol/Lである(1)〜(3)のいずれか1項に記載の方法。
(5)カロテノイドが、アスタキサンチン、カンタキサンチン、ゼアキサンチン、β−クリプトキサンチン、リコペン、β−カロテン、アドニルビン、アドニキサンチン、エキネノン、アステロイデノン及び3−ヒドロキシエキネノンからなる群から選ばれる少なくとも一つである、(1)〜(4)のいずれか1項に記載の方法。
【0015】
(6)カロテノイド産生細菌が、Paracoccus属、Brevundimonas属又はErythrobacter属に属する細菌である(1)〜(5)のいずれか1項に記載の方法。
(7)カロテノイド産生細菌が、16SリボソームRNAに対応するDNAであって塩基配列が配列番号1に記載の塩基配列と95%以上の相同性を有するDNAを含む細菌である、(1)〜(6)のいずれか1項に記載の方法。
(8)カロテノイド産生細菌が、E-396株(FERM BP-4283)若しくはA-581-1株(FERM BP-4671)又はそれらの変異株である、(1)〜(7)のいずれか1項に記載の方法。
(9)(2)及び(4)〜(8)のいずれか1項に記載の方法によって製造された、カロテノイド高産生細菌。
(10)乾燥菌体中にカロテノイドを少なくとも36mg/g含む、カロテノイド高産生細菌。
(11)コバルトを含有するカロテノイド高産生細菌。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、培地成分、水などの原料のメーカー、グレード、ロット、生産地の影響や、発酵設備の材質、製造場所等の影響を受けることなく、安定して高い生産性が得られるカロテノイドの生産細菌又はカロテノイドの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】培地中のコバルト存在濃度と菌体生育OD610及び総カロテノイド生産濃度との関係を示す図である。
図2】培地中のコバルト存在濃度と菌体生育OD610及び総カロテノイド生産濃度との低濃度域(0.001−0.1μmol/L)の関係を示す図である。
図3】培地中のコバルト存在濃度と菌体生育OD610及び総カロテノイド生産濃度との高濃度域(1−100μmol/L)の関係を示す図である。
図4】培地中のコバルト存在濃度と菌体生育OD610及び総カロテノイド生産濃度との低濃度域(0−0.05μmol/L)の関係を示す図である。
図5】塩化コバルトの添加培地及び無添加培地における総カロテノイド量のバッチ間差を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に限定されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施し得る。
なお、本明細書の表に記載の数値は、実施した実験に応じて、有効数字や四捨五入される数字の桁数(下1桁、下2桁)などを変えて表記する場合がある。このため、合計値に記載の数値が、各数値を合計した値と一致しない場合がある。
【0019】
本発明は、カロテノイド産生細菌を安定的に培養し、カロテノイドを製造する方法に関するものであり、本方法は培地中にコバルト又はコバルト塩が所定濃度範囲内に存在させることを特徴とする。
本発明の方法により、カロテノイド産生細菌を安定的に培養し、高濃度のカロテノイドを安定的に製造することが可能になる。
【0020】
本発明に用いる細菌としては、カロテノイドを産生する細菌であれば何ら限定されず、例えばParacoccus属、Brevundimonas属、Erythrobacter属に属する細菌が挙げられる。
好ましくはParacoccus属に属する細菌、Brevundimonas属に属する細菌又はErythrobacter属に属する細菌が用いられ、より好ましくはParacoccus属に属する細菌が用いられる。Paracoccus属、Erythrobacter属及びBrevundimonas属は、いずれもProteobacteria門、Alphaproteobacteria鋼に分類され、細菌分類学上の共通性があるため、本発明においては、これらの属に属する細菌を使用することが可能である。
【0021】
Paracoccus属に属する細菌の中では、Paracoccus carotinifaciens、Paracoccus marcusii、Paracoccus haeundaensis及びParacoccus zeaxanthinifaciensが好ましく用いられ、特にParacoccus carotinifaciensが好ましく用いられる。Paracoccus属に属する細菌の具体的な菌株の例として、Paracoccus carotinifaciens E-396株及びParacoccus属細菌A-581-1株(FERM BP-4671)が挙げられ、これらの変異株も本発明に好ましく用いられる。
Erythrobacter属に属するカロテノイド産生細菌としては、例えばErythrobacter JPCC M種(特開2008-259452)、Erythrobacter JPCC O種(特開2008-259449)などが挙げられる。
Brevundimonas属に属するカロテノイド産生細菌としては、例えばBrevundimonas SD212株(特開2009-27995)、Brevundimonas FERM P-20515, 20516株(特開2006-340676)、Brevundimonas vesicularis(Gene, Vol.379, p.101-108, 1 Sep 2006)などが挙げられる。
【0022】
また、カロテノイド産生細菌として、好ましくは16SリボソームRNAに対応するDNAの塩基配列が配列番号1に記載されるE-396株の塩基配列と高い相同性を有する細菌が用いられる。ここで言う塩基配列の相同性は、好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上である。
16SリボソームRNAに対応するDNAの塩基配列とは、16SリボソームRNAの塩基配列中のU(ウラシル)をT(チミン)に置き換えた塩基配列を意味する。
【0023】
この16SリボソームRNAの塩基配列の相同性に基づいた微生物の分類法は、近年主流になっている。従来の微生物の分類法は、従来の運動性、栄養要求性、糖の資化性など菌学的性質に基づいているため、自然突然変異による形質の変化等が生じた場合に、微生物を誤って分類する場合があった。これに対し、16SリボソームRNAの塩基配列は極めて遺伝的に安定であるので、その相同性に基づく分類法は従来の分類法に比べて分類の信頼度が格段に向上する。
【0024】
Paracoccus carotinifaciens E-396株の16SリボソームRNAの塩基配列と、他のカロテノイド産生細菌Paracoccus marcusii DSM 11574株、Paracoccus属細菌N-81106株、Paracoccus haeundaensis BC 74171株、Paracoccus属細菌 A-581-1株、Paracoccus zeaxanthinifaciens ATCC 21588株、及びParacoccus sp. PC-1株の16SリボソームRNAの塩基配列との相同性は、それぞれ99.7%、99.7%、99.6%、99.4%、95.7%、及び95.4%であり、これらは分類学上極めて近縁な菌株であることが分かる。よって、これらの菌株はカロテノイドを産生する細菌として一つのグループを形成しているといえる。このため、これらの菌株は本発明に好ましく用いられ、カロテノイドを効率的に産生することができる。
【0025】
本発明において、カロテノイドの生産性が改良された変異株も用いることができる。改良された変異株の例としては、アスタキサンチン生産能の高い菌株(特開2001−95500)、カンタキサンチンを選択的に多く産生する菌株(特開2003−304875)、ゼアキサンチンとβ−クリプトキサンチンを選択的に多く産生する菌株(特開2005−87097)、リコペンを選択的に産生する菌株(特開2005−87100)を挙げることができる。
カロテノイドの生産性が改良された変異株は、変異処理とスクリーニングにより取得することができる。変異処理する方法は変異を誘発するものであれば特に限定されない。例えば、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)及びエチルメタンスルホネート(EMS)などの変異剤による化学的方法、紫外線照射及びX線照射などの物理的方法、遺伝子組換え及びトランスポゾンなどによる生物学的方法などを用いることができる。変異処理される細菌は特に限定されないが、カロテノイド産生細菌であることが好ましい。また、変異株は、自然に起こる突然変異により生じたものでもよい。
【0026】
変異株のスクリーニング方法は特に限定されないが、例えば、寒天培地上のコロニーの色調で目的の変異株を選択する方法の他、試験管、フラスコ、発酵槽などで変異株を培養し、吸光度、高速液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィーなどを利用したカロテノイド色素分析により目的の変異株を選択する方法などが例示される。
変異及びスクリーニングの工程は1回でもよいし、また、例えば突然変異処理とスクリーニングにより変異株を得て、これをさらに変異処理とスクリーニングにより生産性の改良された変異株を取得するというように、変異及びスクリーニング工程を2回以上繰り返してもよい。
【0027】
本発明に使用するカロテノイド産生細菌の例として挙げられるE−396株は、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに以下のとおり国際寄託されている。
国際寄託当局:独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
(旧名称:通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所)
〒305−8566
茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6
識別のための表示:E-396
受託番号:FERM BP-4283
原寄託日:平成5年(1993年)4月27日
【0028】
また、本発明に使用するカロテノイド産生細菌の他の例として挙げられるA−581−1株は、上記機関に以下のとおり国際寄託されている。
識別のための表示:A-581-1
受託番号:FERM BP-4671
原寄託日:平成6年(1994年)5月20日
【0029】
本発明において、上記のカロテノイド産生細菌を所定の濃度のコバルト又はコバルト塩を含有する培地で培養することにより、高濃度のカロテノイドを安定的に生産させることができる。
産生されるカロテノイドは特に限定されないが、例えば、アスタキサンチン、カンタキサンチン、ゼアキサンチン、β−クリプトキサンチン、リコペン、β−カロテン、アドニルビン、アドニキサンチン、エキネノン、アステロイデノン又は3−ヒドロキシエキネノンであり、好ましくは、アスタキサンチン、カンタキサンチン、ゼアキサンチン又はβ−クリプトキサンチンであり、より好ましくは、アスタキサンチン又はゼアキサンチンである。本発明より製造されるカロテノイドは一種でもよいし、複数種が組み合わされていてもよい。
【0030】
本発明において上記細菌を培養する方法を以下に説明する。
本発明は、コバルト又はコバルト塩を所定濃度で含有する培地を用いてカロテノイド産生細菌を培養する方法に関する。
本発明においてコバルト又はコバルト塩を培地中に添加し、所定の濃度で含有させる方法に特に制限はないが、たとえば、塩化コバルト、硝酸コバルト、ギ酸コバルト、酢酸コバルト、酸化コバルト、臭化コバルト、炭酸コバルト、硫酸コバルト、ナフテン酸コバルト、オレイン酸コバルト、ステアリン酸コバルト、チオシアン酸コバルト、粉末コバルト、シアノコバラミンなどから選ばれるコバルト化合物の1種又は2種以上を所定の濃度範囲内になるように培地に添加する方法が好ましく用いられる。これらのコバルト化合物は無水物でも水和物でも良い。コバルト化合物は、好ましくは培養開始前の仕込み時に培地に添加されるが、培養開始後に単回的、逐次的又は連続的に添加されても良い。
【0031】
別の添加方法として、コバルトを夾雑物として微量に含有する培地原料を所定のコバルト濃度範囲内になるように添加する方法が用いられる。コバルトを微量に含有する可能性のある培地原料として、たとえば、コーンスティープリカー、ファーマメディア、大豆粕、大豆粉、ピーナッツミール、ソイペプトン、ディスティラーズソルブル、乾燥酵母、酵母エキス、グルコース、シュークロース、糖蜜、鉄塩類、マンガン塩類、銅塩類、亜鉛塩類、モリブデン塩類、ニッケル塩類、セレン塩類、リン酸塩類、マグネシウム塩類、カルシウム塩類、水などを例示することができる。これら培地原料の1種又は2種以上を所定のコバルト濃度範囲内になるように添加する方法を用いることができる。この方法では培地原料中に含有するコバルトの量はメーカー、ロット、産地などにより変動することがあるので、原料中のコバルト含量を適宜管理することもできる。これらのコバルトを夾雑物として微量に含有する培地原料は、好ましくは培養開始前の仕込み時に培地に添加されるが、培養開始後に単回的、逐次的又は連続的に添加されても良い。
【0032】
さらに別の添加方法としてコバルトを含有する材質からなる発酵設備を用いて所定のコバルト濃度範囲内になるようにコバルトを溶出させながら培養することも可能である。撹拌軸、撹拌軸の軸受け、シール部などにコバルトを含有する超合金を用いてコバルトを溶出させることもこれに含まれる方法である。この方法では、溶出するコバルトの量が設備の状態などにより変動し、少なすぎれば栄養源として不足し、多すぎれば生産を阻害するので、培地中のコバルト濃度を分析して適宜管理することもできる。
上記、コバルト化合物を添加する方法、コバルトを夾雑物として微量に含有する培地原料を添加する方法、及びコバルトを含有する材質の発酵設備から溶出させて添加する方法から選ばれる2種以上を組み合わせることも好ましく行うことができる。
【0033】
コバルト化合物添加のタイミングとして、シード培地から持ち込まれたコバルトが最終段階の生産用培地で所定の濃度範囲になるようにシード培地に添加する方法、又はシード培地と最終段階の生産培地の両方にコバルトを添加して最終段階の生産培地で所定の濃度範囲内にする方法、培養の最終段階で使用する培地に当該化合物を添加する方法がある。
本発明においては、培地中に含有するコバルト又はコバルト塩の濃度は低すぎても高すぎても微生物の生育及びカロテノイドの生産が十分に行われないことが分かった。この知見は、濃度が低すぎれば栄養源として不足すること、また、高すぎれば微生物の生育及びカロテノイドの生産を阻害するためであると考えられる。
【0034】
培地中のコバルト又はコバルト塩の下限濃度は、好ましくは0.005μmol/L以上、0.006μmol/L以上、より好ましくは0.01μmol/L以上、さらに好ましくは0.02μmol/L以上である。上限濃度は、好ましくは20μmol/L以下、より好ましくは10μmol/L以下、9μmol/L以下、8μmol/L以下、7μmol/L以下、6μmol/L以下、5μmol/L以下であり、さらに好ましくは4μmol/L以下、3μmol/L以下、2μmol/Lであり、最も好ましくは1μmol/L以下である。 本発明においては、上記上限濃度及び下限濃度を適宜選択して、培養に必要なコバルト等の濃度範囲、例えば、0.005μmol/L〜20μmol/L、0.006μmol/L〜20μmol/L、0.01μmol/L〜8μmol/L、0.02μmol/L〜8μmol/L、0.02μmol/L〜7μmol/L、0.02μmol/L〜6μmol/L、0.02μmol/L〜1μmol/L等の範囲とすることができる。但し、上記範囲は例示であってこれらの濃度範囲に限定されるものではない。
【0035】
本発明の培養に用いるカロテノイド生産用培地は、所定濃度のコバルト又はコバルト塩を含有する培地であるが、コバルトのほか、カロテノイド産生細菌が生育し、カロテノイドを生産するものであるならば任意の成分を添加することができる。そのような添加物を含有する培地は何れでもよいが、炭素源、窒素源、無機塩類及び必要に応じてビタミン類などを含有する培地が好ましく用いられる。
【0036】
炭素源としては、例えば、グルコース、シュークロース、ラクトース、フルクトース、トレハロース、マンノース、マンニトール及びマルトース等の糖類、酢酸、フマル酸、クエン酸、プロピオン酸、リンゴ酸、マロン酸及びピルビン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、イソブタノール及びグリセノール等のアルコール類、大豆油、ヌカ油、オリーブ油、トウモロコシ油、ゴマ油及びアマニ油等の油脂類などが挙げられ、中でも好ましくはグルコース又はシュークロースが用いられる。これらの炭素源の中、1種又は2種以上を用いることができる。培養前の培地(始発培地)に添加する量は炭素源の種類により異なり適宜調整すれば足りるが、通常、培地1L当たり1〜100g、好ましくは2〜50gである。また、炭素源は始発培地に添加するだけでなく、培養途中に逐次的又は連続的に追加供給することも好ましく行われる。
【0037】
窒素源としては、無機塩として、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウムなどのアンモニウム塩類、硝酸カリウムなどの硝酸塩類、アンモニア及び尿素等の中、1種又は2種以上が用いられる。添加量は窒素源の種類により異なり適宜調整すれば足りるが、通常、培地1Lに対し0.1g〜20g、好ましくは0.2〜10gである。
また、有機窒素源としては、例えば、コーンスティープリカー(ろ過処理物を含む)、ファーマメディア、大豆粕、大豆粉、ピーナッツミール、ソイペプトン、ディスティラーズソルブル、乾燥酵母、酵母エキス、カザミノ酸、グルタミン酸、アスパラギン酸などの中、1種又は2種以上が用いられる。添加濃度は窒素源の種類により異なり適宜調整すれば足りるが、通常、0〜80g/L、好ましくは1〜30g/Lである。
【0038】
無機窒素源及び有機窒素源は、通常始発培地に添加するが、逐次的又は連続的に追加供給することも好ましく行われる。
無機塩類としては、例えば、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二ナトリウムなどのリン酸塩類、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウムなどのマグネシウム塩類、硫酸鉄、塩化鉄などの鉄塩類、塩化カルシウム、炭酸カルシウムなどのカルシウム塩類、炭酸ナトリウム、塩化ナトリウムなどのナトリウム塩類、硫酸マンガンなどのマンガン塩類、硫酸銅などの銅塩類、硫酸亜鉛などの亜鉛塩類、モリブデン酸ナトリウムなどのモリブデン塩類、硫酸ニッケルなどのニッケル塩類、セレン酸ナトリウムなどのセレン塩類、タングステン酸ナトリウムなどのタングステン塩類、塩化アルミニウムなどのアルミニウム塩類、塩化クロムなどのクロム塩類、ホウ酸及びヨウ化カリウム等の中、1種又は2種以上が用いられる。添加量は無機塩の種類により異なり適宜調整すれば足りるが、通常、培地1Lに対し0.0001〜15gである。リン酸塩類、マグネシウム塩類、カルシウム塩類、ナトリウム塩類及び鉄塩類では、0.02〜15g/Lが好ましく、マンガン塩類、銅塩類、亜鉛塩類、モリブデン塩類、ニッケル塩類、セレン塩類、タングステン塩類、アルミニウム塩類、クロム塩類、ホウ酸、ヨウ化カリウムなどを加える場合には、0.1〜15mg/Lが好ましい濃度である。無機塩類は通常始発培地に添加するが、逐次的又は連続的に追加供給してもよい。
【0039】
ビタミン類としては、例えば、シアノコバラミン、リボフラビン、パントテン酸、ピリドキシン、チアミン、アスコルビン酸、葉酸、ナイアシン、p−アミノ安息香酸、ビオチン、イノシトール、コリンなどを用いることができる。添加割合はビタミン類の種類により異なり適宜調整すれば足りるが、通常、培地1Lに対し0.001〜1000mgであり、好ましくは0.01〜100mgである。ビタミン類は通常始発培地に添加するが、逐次的又は連続的に追加供給してもよい。
【0040】
本発明において、培養液の発泡を抑えるために消泡剤が好ましく用いられる。消泡剤の種類は泡の発生を抑制し又は発生した泡を消す作用があり、かつ産生細菌に対する阻害作用の少ないものであれば何れでもよい。たとえば、アルコール系消泡剤、ポリエーテル系消泡剤、エステル系消泡剤、脂肪酸系消泡剤、シリコン系消泡剤、スルフォン酸系消泡剤などを例示することができる。添加量は消泡剤の種類により異なり適宜調整すれば足りるが、通常、培地1Lに対し0.01g〜10gである。
【0041】
消泡剤は通常殺菌前の始発培地に添加する。さらに、培養途中に連続的又は間欠的に追加添加してもよい。培養途中に消泡剤を添加する方法としては、センサーで泡を感知して自動添加する方法、プログラムタイマーで一定時間ごとに添加する方法、生育速度に連動するようにフィード用炭素源、窒素源又はpH調整剤などと混合して添加する方法などを例示できる。始発培地に添加する消泡剤と培養途中に培養液に添加する消泡剤とは同種でもよいが、作用に合わせて異なる種類を用いることもできる。
【0042】
本発明において、培地の初期pHは2〜12、好ましくは6〜9、より好ましくは6.5〜8.0に調整する。培養中も上記範囲のpHを維持することが好ましい。pH調整剤としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、アンモニア水、アンモニアガス、硫酸水溶液又はこれらの混合物が例示される。
本発明において、培地は滅菌処理した後、細菌の培養に用いられる。滅菌処理は、当業者であれば、適宜行うことができる。例えば、適切な容器中の培地をオートクレーブで加熱滅菌すればよい。あるいは、滅菌フィルターによりろ過滅菌すればよい。
【0043】
本発明において、カロテノイド産生細菌は、上記のように調製された培地に植菌され、所定の条件で培養される。植菌は、試験管、フラスコあるいは発酵槽などを用いたシード培養により菌株を適宜増やし、得られた培養液をカロテノイド生産用培地に加えることで行う。シード培養に用いる培地は、カロテノイド産生細菌が良好に増殖する培地であれば特に限定されないが、生育に必要な最低限のコバルト又はコバルト塩を含有する必要がある。
【0044】
培養は、適切な培養容器において行われる。培養容器は培養容量により適宜選択することができ、例えば、試験管、フラスコ、発酵槽などをあげることができる。
培養温度は15〜40℃、好ましくは20〜35℃、より好ましくは25℃〜32℃であり、通常1日〜18日間、好ましくは2〜12日間、より好ましくは3〜8日間、好気条件で培養を行う。好気条件としては、例えば、振とう培養又は通気撹拌培養等が挙げられ、溶存酸素濃度を一定の範囲に制御するのが好ましい。溶存酸素濃度の制御は、例えば、攪拌回転数、通気量、内圧などを変化させることにより行うことができる。溶存酸素濃度は好ましくは0.3〜10ppm、より好ましくは0.5〜7ppm、さらに好ましくは1〜5ppmに制御する。
【0045】
本発明において、カロテノイド産生細菌を培養した後のカロテノイド産生細菌の菌体数はODにより測定することができる。また、カロテノイド産生細菌を培養して得られる培養物中のカロテノイド、又は培養物から採取されたカロテノイドの定量は、高速液体クロマトグラフィーにより行うことができる。上記のようにカロテノイド産生細菌を培養した後、得られる培養物からカロテノイド採取することができる。
培養物は、例えば、培養液、培養上清、菌体濃縮液、湿菌体、乾燥菌体、菌体溶解物などが挙げられる。培養上清は、培養液を遠心処理又はろ過処理することで、培養液から菌体を除いて調製すればよい。菌体濃縮液は、培養液を遠心分離又は膜ろ過濃縮することにより得ることができる。湿菌体は、培養液を遠心又はろ過することにより得ることができる。乾燥菌体は、湿菌体又は菌体濃縮液を一般的な乾燥方法によって乾燥させることにより得ることができる。このようにして得られたカロテノイド含有乾燥菌体はそのまま飼料添加物として用いることができる。
【0046】
得られた乾燥菌体中には、少なくとも36mg/g、例えば36mg/g、37mg/g、38mg/g、39mg/g又は40mg/gのカロテノイドが含まれている。使用する菌体により乾燥菌体中に含まれるカロテノイドの量は変動するが、例えば36mg/g〜50mg/g、さらに好ましくは36mg/g〜45mg/gのカロテノイドを含む。これらの量を含有する細菌も本発明に含まれる。従って、本発明は、乾燥菌体中に少なくとも36mg/gのカロテノイドを含有する、カロテノイド高産生細菌(例えばParacoccus属、Brevundimonas属又はErythrobacter属に属する細菌)を提供する。
【0047】
本発明においてカロテノイドを上記培養物から採取する方法は特に限定されず、カロテノイドが安定に効率よく回収されるいずれの方法でもよい。これらの方法は、当業者であれば公知の抽出、精製技術から適宜選択して行うことができる。また、本発明においては、上記培養物をカロテノイド含有組成物として用いることもできる。
抽出を行う前に、培養物をアルカリ試薬や界面活性剤などを用いた化学的処理、溶菌酵素、脂質分解酵素及びタンパク分解酵素などを用いた生化学処理、又は超音波若しくは粉砕などの物理的処理の中、1つ又は2つ以上の処理を行ってもよい。
例えば、カロテノイドを培養物から抽出する場合、抽出及び洗浄に用いる溶媒は特に限定されないが、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどの低級アルコール類、アセトン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジクロロメタン、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。
【0048】
抽出操作中のカロテノイドの酸化を極力防止したい場合には、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気で処理すればよい。また、医薬品や食品で用いられている酸化防止剤を選択して抽出溶媒に加えてもよい。あるいは、これらの処理を組み合わせてもよい。また、光によるカロテノイドの分解を極力防止するために、光を当てない条件下で行ってもよい。
このように得られた抽出物をカロテノイドとしてそのまま用いることが可能であり、さらに精製して使用することもできる。
【0049】
抽出操作後の抽出物に残存する細菌等を分離する方法は特に限定されないが、膜濾過、遠心分離、デカンテーションなどが用いられる。
抽出液からカロテノイド沈殿物を得る方法としては、一般的には加熱及び/又は減圧濃縮や晶析が挙げられる。この他、低温におけるカロテノイド色素の析出、酸・アルカリ薬剤や各種塩類による析出によってカロテノイド色素を濃縮せずに分離してもよい。工業的に用いる場合には、晶析することが望ましい。
得られたカロテノイド沈殿物は、洗浄のため必要に応じて少量の低級アルコール類などの溶媒を用いて懸濁攪拌させてもよい。洗浄の手法は特に限定されないが、例えば、懸濁攪拌後に濾取する方法又は沈殿物の上から通液する方法等が実用的に好ましい方法として挙げられる。
上記のように得られる培養物、抽出物又は精製物は、カロテノイドとしてそれぞれ単独で用いることもできるし、これらを任意の割合で混合して用いることもできる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、実施例におけるカロテノイド類の定量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて以下のように行った。
【0051】
カラムはInertsil SIL-100A,5μm(φ4.6 mm×250 mm)(ジーエルサイエンス製)を2本連結して使用した。溶出は、移動相であるn−ヘキサン:テトラヒドロフラン:メタノール混合液(40:20:1)を室温付近一定の温度にて毎分1.0mL流すことで行った。測定においては、サンプルをテトラヒドロフランで溶解したものを移動相にて100倍希釈した液20μLを注入量とし、カラム溶離液の検出は波長470nmで行った。また、定量のための標準品としては、シグマ社製アスタキサンチン(Cat.No.A9335)を用いた。標準液のアスタキサンチン濃度の設定は、標準液の477nmの吸光度(A)及び上記条件でHPLC分析を行ったときのアスタキサンチンピークの面積百分率%(B)を測定した後に、以下の式を用いて行った。
アスタキサンチンの濃度(mg/L)=A÷2150×B×100
【0052】
〔実施例1〕
以下の組成の培地(シュークロース30g/L、コーンスティープリカー30g/L、リン酸二水素カリウム1.5g/L、リン酸水素二ナトリウム12水和物3.8g/L、塩化カルシウム2水和物5.0g/L、硫酸マグネシウム7水和物 0.7g/L、硫酸鉄7水和物1.0g/L、pH7.2)8mlを内径18mmの綿栓付き試験管に入れ121℃で15分間オートクレーブ滅菌し、シード用試験管培地を調製した。シード用試験管培地の原料は、十分に菌体の生育することが確認されているロットのものを使用した。
次に以下の組成の培地(グルコース30g/L、コーンスティープリカーろ過処理物30g/L、硫酸アンモニウム1.5g/L、リン酸二水素カリウム1.5g/L、リン酸水素二ナトリウム12水和物3.8g/L、塩化カルシウム2水和物5.0g/L、硫酸マグネシウム7水和物0.7g/L、硫酸鉄7水和物1.0g/L、シリコン系消泡剤0.2g/L)7.2mlを内径18mmの綿栓付き試験管に入れた生産用試験管培地を5本準備した。生産用試験管培地の原料は、菌体の生育が不十分であることが確認されているロットのものを使用した。
【0053】
上記生産用試験管の1本目(試験管1)には最終的な培地中の濃度(終濃度)が表1に記載の濃度になるように調製した微量金属類の混合水溶液(塩化コバルト6水和物 0.1mg/L=0.42μmol/L )0.8mlを、2本目(試験管2)には表2の濃度になるように核酸類の混合水溶液0.8mlを、3本目(試験管3)には表3の濃度になるようにビタミン類の混合水溶液0.8mlを、4本目(試験管4)には3g/Lの濃度になるようにクエン酸三ナトリウム2水和物の水溶液0.8mlを、そして5本目(試験管5)にはイオン交換水0.8mlを添加した。培地は水酸化ナトリウム水溶液又は硫酸水溶液でpH7.2に調整し、121℃で20分間オートクレーブ滅菌した。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】

【表3】
【0057】
Paracoccus carotinifaciens E-396株(FERM BP-4283)をシード用試験管培地に植菌し、28℃で2日間、300spmで振盪培養を行った後、その培養液を5種類の生産用試験管培地にそれぞれ0.05mlずつ植菌し、28℃で4日間、300spmで振盪培養を行った。
培養液の菌体生育をOD610(610nmの光学密度)により測定したところ、5種類の生産用試験管培地のうち、微量金属類を添加した試験管だけが良好な生育を示した(表4)。
【0058】
【表4】

【0059】
〔実施例2〕
シード用試験管培地を実施例1に記載の方法と同じ方法で調製した。次に以下の組成の培地(グルコース30g/L、コーンスティープリカーろ過処理物30g/L、硫酸アンモニウム1.5g/L、リン酸二水素カリウム1.5g/L、リン酸水素二ナトリウム12水和物3.8g/L、塩化カルシウム2水和物5.0g/L、硫酸マグネシウム7水和物0.7g/L、硫酸鉄7水和物1.0g/L、シリコン系消泡剤0.2g/L)7.2mlを内径18mmの綿栓付き試験管に入れた生産用試験管培地を13本準備した。生産用試験管培地の原料は、菌体の生育が不十分であることが確認されているロットのものを使用した。
【0060】
表1に記載の12種の微量金属類を別々に表1記載の終濃度になるように0.8mlに調製し、12本の上記生産用試験管にそれぞれ添加し、残りの1本にはイオン交換水0.8mlを添加した。培地は水酸化ナトリウム水溶液又は硫酸水溶液でpH7.2に調整し、121℃で20分間オートクレーブ滅菌した。
Paracoccus carotinifaciens E-396株(FERM BP-4283)をシード用試験管培地に植菌し、28℃で2日間、300spmで振盪培養を行った後、その培養液を13種類の生産用試験管培地にそれぞれ0.05mlずつ植菌し、28℃で4日間、300spmで振盪培養を行った。
培養後の菌体生育をOD610により測定したところ、塩化コバルト6水和物を添加した試験管だけが良好な生育を示した(表5)。
【0061】
【表5】
【0062】
〔実施例3〕
シード用試験管培地を実施例1に記載の方法と同じ方法で調製した。次に以下の組成の培地(グルコース30g/L、コーンスティープリカーろ過処理物30g/L、硫酸アンモニウム1.5g/L、リン酸二水素カリウム1.5g/L、リン酸水素二ナトリウム12水和物3.8g/L、塩化カルシウム2水和物5.0g/L、硫酸マグネシウム7水和物0.7g/L、硫酸鉄7水和物1.0g/L、シリコン系消泡剤0.2g/L)7.2mlを内径18mmの綿栓付き試験管に入れた生産用試験管培地を12本準備した。生産用試験管培地の原料は、菌体の生育が不十分であることが確認されているロットのものを使用した。
【0063】
塩化コバルト6水和物を終濃度が0、0.0001、0.001、0.002、0.005、0.01、0.1、0.25、1、2、5及び10mg/L (すなわち0、0.00042、0.0042、0.0084、0.021、0.042、0.42、1.1、4.2、8.4、21及び42μmol/L)になるように0.8mlの水溶液として12本の上記生産用試験管に添加した。培地は水酸化ナトリウム水溶液又は硫酸水溶液でpH7.2に調整し、121℃で20分間オートクレーブ滅菌した。
Paracoccus carotinifaciens E-396株(FERM BP-4283)をシード用試験管培地に植菌し、28℃で2日間、300spmで振盪培養を行った後、その培養液をコバルト濃度の異なる12種類の生産用試験管培地にそれぞれ0.05mlずつ植菌し、28℃で4日間、300spmで振盪培養を行った。
【0064】
別に準備した塩化コバルト6水和物を添加していない前述の生産用試験管培地中のシード植菌後のコバルト濃度をICP−MS(Inductively Coupled Plasma-Mass Spectrometry)を使用して測定したところ0.002μmol/Lであった。塩化コバルト無添加培地中に存在するコバルト濃度と添加した塩化コバルトの濃度を合わせて培地中のコバルト存在濃度を算出した(表6)。
【0065】
4日間の培養後、培養液の菌体生育をOD610により、カロテノイドの濃度をHPLCにより測定した結果を表6に示した。また培地中のコバルト存在濃度と菌体生育OD610及び総カロテノイド生産濃度との関係を図1に示した。また、コバルト存在濃度の高濃度範囲及び低濃度範囲の目盛を拡大してプロットした図を図2〜4に示した。図2〜4により、カロテノイドが産生されるための効果的な濃度範囲として、0.005μmol/L以上、8μmol/L以下、より効果的な濃度範囲として、0.01μmol/L以上、8μmol/L以下、さらに効果的な濃度範囲として、0.02μmol/L以上、8μmol/L以下であることが示された。
コバルト濃度が低すぎると細菌数及びカロテノイド生産量は用量依存的に増加し、高すぎると細菌数及びカロテノイド生産量とも用量依存的に低下し、カロテノイドの生産にはコバルトの適当な濃度範囲が存在することが分かった。
【0066】

【表6】

【0067】
〔実施例4〕
シード用試験管培地を実施例1に記載の方法と同じ方法で調製した。次に、メーカー、ロットの異なる原料を組み合わせ、以下の組成の培地(グルコース30g/L、コーンスティープリカーろ過処理物30g/L、硫酸アンモニウム1.5g/L、リン酸二水素カリウム1.5g/L、リン酸水素二ナトリウム12水和物3.8g/L、塩化カルシウム2水和物5.0g/L、硫酸マグネシウム7水和物0.7g/L、硫酸鉄7水和物1.0g/L、シリコン系消泡剤0.2g/L)を表7に示したA、B、C、D、Eの5種作成し、7.2mlを内径18mmの綿栓付き試験管に入れた生産用試験管培地を2本ずつ計10本準備した。
【0068】
次に、塩化コバルト6水和物を培地の終濃度が0.1mg/L (すなわち0.42μmol/L)になるように0.8mlの水溶液として調製し、A、B、C、D、Eの各1本に添加し、他の各1本には陰性対照としてイオン交換水を0.8ml添加した。培地は水酸化ナトリウム水溶液又は硫酸水溶液でpH7.2に調整し、121℃で20分間オートクレーブ滅菌した。
Paracoccus carotinifaciens E-396株(FERM BP-4283)をシード用試験管培地に植菌し、28℃で2日間、300spmで振盪培養を行った後、その培養液をコバルト濃度の異なる5種類(計10本)の生産用試験管培地にそれぞれ0.05mlずつ植菌し、28℃で4日間、300spmで振盪培養を行った。
【0069】
4日間の培養後、培養液の菌体生育をOD610により、カロテノイドの濃度をHPLCにより測定し、塩化コバルトを添加していないときの結果(別に準備した塩化コバルト6水和物を添加していない生産用試験管培地中のシード植菌後のコバルト濃度をICP−MSを使用して測定)を表8に、添加したときの結果を表9に、総カロテノイドの比較を図5に示した。塩化コバルトを添加しなかった場合は、培地原料のメーカー、ロットにより生育及びカロテノイド生産濃度のばらつきが大きかった。特にコバルトの存在濃度が低い培地ロットA及びDではカロテノイド生産濃度が極めて低かった。一方、塩化コバルトを終濃度0.1mg/L添加した場合には、培地原料のメーカー、ロットに係わらず、安定して高い細菌の生育性及びカロテノイド生産性が認められ、培地中のコバルト濃度が適切な範囲内にあることの重要性が分かった。
【0070】

【表7】
【0071】
【表8】
【0072】
【表9】
【0073】
〔実施例5〕
Paracocus carotinifaciens E-396株をN−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジンで変異処理し、0.4mmol/Lのclomazoneを含有する試験管培地で10日間培養した。この培養液を0.3mmol/Lのfosmydomycinを含有する寒天培地に塗布して培養し、赤色の色調が濃いコロニーを選択した。選択された株の培養液中のカロテノイドを分析し、アスタキサンチン生産性の向上した変異株CF-358株を選択した。
以下の組成の培地(グルコース20g/L、コーンスティープリカーろ過処理物5g/L、リン酸二水素カリウム0.54g/L、リン酸水素二カリウム2.78g/L、塩化カルシウム2水和物5.0g/L、硫酸マグネシウム7水和物0.7g/L、硫酸鉄7水和物1.0g/L、アルコール系消泡剤0.2g/L、pH7.5)100mlを500ml容量の綿栓付き三角フラスコに入れ121℃で20分間オートクレーブ滅菌し、シード用フラスコ培地5本を調製した。シード用フラスコ培地の原料は、十分に生育することが確認されているロットのものを使用した。
【0074】
次に、以下の組成の培地(グルコース40g/L、コーンスティープリカーろ過処理物30g/L、硫酸アンモニウム0.5g/L、グルタミン酸ナトリウム1水和物6g/L、リン酸二水素カリウム2.25g/L、リン酸水素二ナトリウム12水和物5.7g/L、塩化カルシウム2水和物0.1g/L、硫酸マグネシウム7水和物0.5g/L、硫酸鉄7水和物1.0g/L、ビオチン0.1mg/L、アルコール系消泡剤0.5g/L)2.0Lを5L容量の発酵槽に入れた生産培地を5基準備した。
塩化コバルト6水和物を終濃度が0、0.01、0.1、1及び5mg/L (すなわち0、0.042、0.42、4.2及び21μmol/L)になるように上記生産用発酵槽に添加した。培地は121℃で30分間オートクレーブ滅菌し、冷却後、20%水酸化ナトリウム水溶液でpHを7.2に合わせた。塩化コバルトを添加していない発酵槽培地中のシード植菌後のコバルト濃度をICP−MSを使用して測定したところ0.003μmol/Lであった。
【0075】
上記で選択した変異株Paracoccus carotinifaciens CF-358株をシード用フラスコ培地に植菌し、28℃で2日間、100rpmで回転振盪培養を行った後、その培養液80mlを各発酵槽に植菌した。28℃、ゲージ圧力0.01MPaで通気量1.5vvmの通気撹拌培養を5日間行った。培養中pHが7.2を維持するように15%アンモニア水を自動供給した。培養液中の溶存酸素濃度が2〜4ppmを維持するように撹拌回転数を自動的に変化させた。アルコール系消泡剤を自動添加して発泡を抑制した。
培養終了時の培養液について、菌体生育をOD610により、カロテノイドの濃度をHPLCにより測定した(表10)。塩化コバルトを終濃度で0.042〜21μmol/L添加した場合には高い総カロテノイド生産濃度を示したが、添加しなかった場合には生産濃度は低かった。
【0076】

【表10】
【0077】
〔実施例6〕
以下の組成の培地(シュークロース30g/L、コーンスティープリカー30g/L、リン酸二水素カリウム1.5g/L、リン酸水素二ナトリウム12水和物3.8g/L、塩化カルシウム2水和物5.0g/L、硫酸マグネシウム7水和物0.7g/L、硫酸鉄7水和物1g/L、pH7.2)8mlを内径18mmの綿栓付き試験管に入れ、121℃で15分間オートクレーブ殺菌し、シード用試験管培地を調製した。シード用試験管培地の原料は、十分に菌体の生育することが確認されているロットのものを使用した。
【0078】
次に以下の組成の培地(グルコース40g/L、リン酸二水素カリウム0.54g/L、リン酸水素二カリウム2.78g/L、硫酸アンモニウム1.5g/L、塩化カルシウム2水和物1g/L、塩化ナトリウム3g/L、硫酸マグネシウム7水和物0.7g/L、硫酸鉄7水和物0.5g/L、硫酸マンガン5水和物5mg/L、ホウ酸5mg/L,硫酸亜鉛7水和物5mg/L、モリブデン酸ナトリウム2水和物2mg/L、硫酸銅5水和物2mg/L、ヨウ化カリウム1mg/L、タングステン酸ナトリウム1mg/L、硫酸ニッケル6水和物1mg/L、セレン酸ナトリウム0.1mg/L、塩化アルミニウム(III)6水和物0.1mg/L、塩化クロム(III)6水和物0.1mg/L、myo−イノシトール50mg/L、アスコルビン酸30mg/L、ピリドキシン塩酸塩20mg/L、パントテン酸カルシウム15mg/L、リボフラビン10mg/L、p−アミノ安息香酸10mg/L、コリン10mg/L、シアノコバラミン5mg/L、チアミン塩酸塩1mg/L、葉酸1mg/L、ナイアシン1mg/L、ビオチン0.1mg/L、ポリエーテル系消泡剤0.2g/L)7.2mlを内径18mmの綿栓付き試験管に入れたものを7本準備した。生産用試験管培地の原料は、菌体の生育が不十分であることが確認されているロットのものを使用した。
【0079】
塩化コバルト6水和物を終濃度が0、0.0001、0.001、0.01、0.1、1及び10mg/L (すなわち0、0.00042、0.0042、0.042、0.42、4.2及び42μmol/L)になるように0.8mlの水溶液として調製し、上記生産用試験管にそれぞれ添加した。培地は水酸化ナトリウム水溶液又は硫酸水溶液でpH7.2に調整し、121℃で20分間オートクレーブ滅菌した。
Paracoccus属細菌A-581-1株(FERM BP-4671)をシード用試験管培地に植菌し、29℃で2日間、300spmで振盪培養を行った後、その培養液をコバルト濃度の異なる7種類の生産用試験管培地にそれぞれ0.05mlずつ植菌し、29℃で4日間、300spmで振盪培養を行った。
別に準備した塩化コバルト6水和物を添加していない生産用試験管培地中のシード植菌後のコバルト濃度をICP−MSを使用して測定したところ0.002μmol/Lであった。
【0080】
4日間の培養後、培養液の菌体生育をOD610により、カロテノイドの濃度をHPLCにより測定した結果を培地中コバルトの総濃度と合わせて表11に示した。E-396株とは別個に土壌から分離発見されたParacoccus属細菌A-581-1株においても、E-396株と同様にコバルト濃度が低すぎても高すぎても生育及びカロテノイドの生産は著しく低かった。
【0081】
【表11】
【0082】
〔実施例7〕
シード用試験管培地を実施例1に記載の方法と同じ方法で調製した。次に以下の組成の培地(グルコース30g/L、コーンスティープリカーろ過処理物30g/L、硫酸アンモニウム1.5g/L、リン酸二水素カリウム1.5g/L、リン酸水素二ナトリウム12水和物3.8g/L、塩化カルシウム2水和物5.0g/L、硫酸マグネシウム7水和物0.7g/L、硫酸鉄7水和物1.0g/L、シリコン系消泡剤0.2g/L)7.2mlを内径18mmの綿栓付き試験管に入れた生産用試験管培地を9本準備した。生産用試験管培地の原料は、菌体の生育が不十分であることが確認されているロットのものを使用した。
【0083】
塩化コバルト6水和物を終濃度が0、0.0001、0.001、0.005、0.01、0.1、1、5及び10mg/L (すなわち0、0.00042、0.0042、0.021、0.042、0.42、4.2、21及び42μmol/L)になるように0.8mlの水溶液として調製し、9本の上記生産用試験管にそれぞれ添加した。培地は水酸化ナトリウム水溶液又は硫酸水溶液でpH7.2に調整し、121℃で20分間オートクレーブ滅菌した。
【0084】
Paracoccus zeaxanthinifaciens ATCC 21588株をシード用試験管培地に植菌し、28℃で2日間、300spmで振盪培養を行った後、その培養液をコバルト濃度の異なる9種類の生産用試験管培地にそれぞれ0.05mlずつ植菌し、28℃で4日間、300spmで振盪培養を行った。
別に準備した塩化コバルト6水和物を添加していない生産用試験管培地中のシード植菌後のコバルト濃度をICP−MSを使用して測定したところ0.002μmol/Lであった。
【0085】
4日間の培養後、培養液の菌体生育をOD610により、カロテノイドの濃度をHPLCにより測定した結果を表12に示した。コバルト濃度が低すぎても高すぎても生育及びカロテノイド生産が著しく低く、Paracoccus zeaxanthinifaciensによるゼアキサンチン及びβ-クリプトキサンチンの生産においても、コバルトの適切な濃度範囲が他のParacoccus属細菌と同様であることが分かった。
【0086】
【表12】
【配列表フリーテキスト】
【0087】
nはa, c, g又はtを表す(存在位置:1350)。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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【手続補正書】
【提出日】2017年7月6日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルト又はコバルト塩を0.005μmol/L〜20μmol/Lの濃度で含有する培地を用いてカロテノイド産生細菌を培養することを特徴とする、カロテノイド高産生細菌の培養方法。
【請求項2】
コバルト又はコバルト塩を0.005μmol/L〜20μmol/Lの濃度で含有する培地を用いてカロテノイド産生細菌を培養し、カロテノイドを安定的に産生するカロテノイド高産生細菌を製造する方法。
【請求項3】
コバルト又はコバルト塩を0.005μmol/L〜20μmol/Lの濃度で含有する培地を用いてカロテノイド産生細菌を培養することにより当該細菌に安定的にカロテノイドを生産させ、得られた培養物からカロテノイドを採取することを特徴とする、カロテノイドの製造方法。
【請求項4】
コバルト又はコバルト塩を0.005μmol/L〜20μmol/Lの濃度で含有する培地を用いてカロテノイド産生細菌を培養することを特徴とする、カロテノイド産生菌によるカロテノイド産生量を安定化させる方法
【請求項5】
培地中のコバルト又はコバルト塩の濃度が、0.005μmol/L〜8μmol/Lである請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
カロテノイドが、アスタキサンチン、カンタキサンチン、ゼアキサンチン、β−クリプトキサンチン、リコペン、β−カロテン、アドニルビン、アドニキサンチン、エキネノン、アステロイデノン及び3−ヒドロキシエキネノンからなる群から選ばれる少なくとも一つである請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
カロテノイド産生細菌が、Paracoccus属、Brevundimonas属又はErythrobacter属に属する細菌である請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
カロテノイド産生細菌が、16SリボソームRNAに対応するDNAであって塩基配列が配列番号1に記載の塩基配列と95%以上の相同性を有するDNAを含む細菌である、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
カロテノイド産生細菌が、E-396株(FERM BP-4283)若しくはA-581-1株(FERM BP-4671)又はそれらの変異株である、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
請求項及び5〜9のいずれか1項に記載の方法によって製造された、カロテノイド高産生細菌。
【請求項11】
乾燥菌体中にカロテノイドを少なくとも36mg/g含む、カロテノイド高産生細菌。
【請求項12】
コバルトを含有するカロテノイド高産生細菌。
【請求項13】
コバルト又はコバルト塩を0.005μmol/L〜20μmol/Lの濃度で含有する培地を含む、カロテノイド産生菌によるカロテノイド産生安定化剤。
【国際調査報告】