特表-17126150IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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再表2017-126150回転体へのZnOコーティング方法並びにZnOコーティングを有する回転体及びそれを組み込んだベアリング
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2017年7月27日
【発行日】2018年11月15日
(54)【発明の名称】回転体へのZnOコーティング方法並びにZnOコーティングを有する回転体及びそれを組み込んだベアリング
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/08 20060101AFI20181019BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20181019BHJP
   C23C 14/50 20060101ALI20181019BHJP
   F16C 33/32 20060101ALI20181019BHJP
【FI】
   C23C14/08 C
   C23C14/34 J
   C23C14/34 R
   C23C14/50 K
   F16C33/32
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】21
【出願番号】特願2017-562425(P2017-562425)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2016年8月25日
(31)【優先権主張番号】特願2016-8111(P2016-8111)
(32)【優先日】2016年1月19日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 平成27年8月31日発行、第76回応用物理学会秋季学術講演会 講演予稿集DVD、公益社団法人応用物理学会 平成27年9月13日から16日開催(発表日は13日)、第76回応用物理学会秋季学術講演会、名古屋国際会議場(愛知県名古屋市熱田区熱田西1番1号) 平成27年8月18日から19日開催(発表日は18日)、グリーントライボ・ネットワーク 夏の学校2015、伝国の杜(山形県米沢市丸の内1−2−1) 平成27年9月8日から10日開催、VACUUM 2015 真空展、パシフィコ横浜(神奈川県横浜市西区みなとみらい1丁目1) 平成27年10月7日開催、第15回NIMSフォーラム、東京国際フォーラム(東京都千代田区丸の内3丁目5−1) 平成27年11月4日開催、GRENE事業 グリーントライボ・イノベーション・ネットワーク & 東北発素材技術先導プロジェクト 超低摩擦技術領域 連携シンポジウム、ホテルメトロポリタン仙台(宮城県仙台市青葉区中央1−1−1) 平成27年11月10日発行、月刊トライボロジー 11月号 第21−23頁、株式会社新樹社 平成27年12月1日から3日開催、2015年真空・表面科学合同講演会、つくば国際会議場(茨城県つくば市竹園2丁目20−3)
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100190067
【弁理士】
【氏名又は名称】續 成朗
(72)【発明者】
【氏名】後藤 真宏
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 道子
(72)【発明者】
【氏名】笠原 章
(72)【発明者】
【氏名】土佐 正弘
【テーマコード(参考)】
3J701
4K029
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701BA02
3J701BA10
3J701BA78
3J701EA78
3J701FA31
3J701XB03
3J701XB50
4K029AA04
4K029AA22
4K029BA49
4K029BB08
4K029BC02
4K029BD04
4K029CA06
4K029CA17
4K029DC03
4K029DC35
4K029DC39
4K029EA05
4K029JA02
(57)【要約】
金属ワイヤーで形成した籠中に回転体を収容して回転しながら、ZnOスパッタリングを行う。籠のメッシュサイズと回転体の直径との比の値を40〜95%の範囲とすることにより、緻密で一様なZnOコーティングを回転体表面上に施すことができる。このようにして作製したZnOコーティング付き回転体を高負荷状態で高速回転するベアリングに使用することで、コーティングなしの場合に比べて摩擦係数を大きく低減することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鏡面になっているZnOコーティング膜を表面全体に有する回転体。
【請求項2】
前記ZnOコーティング膜はZnO(002)面の柱状構造を有する、請求項1に記載の回転体。
【請求項3】
前記回転体は球、円柱及び円錐台からなる群から選択された一の形状を有する、請求項1または2に記載の回転体。
【請求項4】
ベアリング用転動体である、請求項1から3の何れかに記載の回転体。
【請求項5】
請求項4に記載の回転体を組み込んだベアリング。
【請求項6】
回転体を収容した籠を回転させながらZnOスパッタを行うことにより前記回転体表面にZnOコーティングを行う回転体へのZnOコーティング方法であって、前記籠のメッシュサイズと前記回転体の半径との比の値が40%から95%の範囲である、回転体へのZnOコーティング方法。
【請求項7】
前記スパッタは高周波マグネトロンスパッタにより行う、請求項6に記載の回転体へのZnOコーティング方法。
【請求項8】
酸素及びアルゴンからなるスパッタガスを使用するとともに、ターゲットとしてZnを使用する、請求項6または請求項7に記載の回転体へのZnOコーティング方法。
【請求項9】
前記スパッタガス中の酸素分圧比が60%から80%の範囲である、請求項8に記載の回転体へのZnOコーティング方法。
【請求項10】
前記ターゲットの表面を含む平面上から前記籠の外側までの垂直距離が55mmから85mmの範囲である、請求項9に記載の回転体へのZnOコーティング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回転体へのZnOコーティング方法に関し、特に過酷な条件下で使用されるベアリングの低摩擦化等に有効なZnOコーティングを実現する方法及びこのようなベアリング等に好適なZnOコーティングを有する回転体に関する。本発明はまた、そのような回転体を転動体として組み込んだベアリングにも関する。
【背景技術】
【0002】
ベアリングは、多岐に渡り機械駆動部の摩擦低減に用いられている。例えば、自動車には100個を超えるベアリングが使用されていることが知られている。ベアリングの性能向上は、機関の動力性能向上に直結し、摩擦力の低減によるエネルギーの削減に役立つ。
【0003】
本願発明者は、2003年、ZnOコーティングの結晶配向性を制御すると、ピエゾ効果に起因するクーロン反発力の要因によりナノレベルの摩擦力低減が発現することを発見し(非特許文献1)、2008年には、マクロレベルでも真空環境下においてその低摩擦現象が現れることを明らかにした(非特許文献2)。その後、この低摩擦機能を油中でも発現させることに成功している(非特許文献3)。ZnOは、酸化物であることから、化学的安定性に優れ、高温・高湿度環境下で用いることができ、また、人体へもほぼ無害であるので、摩耗粉の飛散による生活環境に与える影響も低減できるなどの利点が大きい。
【0004】
ベアリングは軸受等に使用される基幹部品のひとつであり、機器中のベアリングが一つでも破損すると、単にその機器が停止するだけにとどまらず、機器の深刻な破壊や発火を引き起こす可能性が高い。このように、ベアリングには高い信頼性が要求されるにもかかわらずしばしば高負荷、高速回転、高温の過酷な環境下で長時間使用されるので、転動体球面全体にきわめて均一に強固なZnOコーティングを形成する方法は、ZnOコーティングによる低摩擦ベアリングの実現に当たって必須となる核心的技術の一つである。
【0005】
しかしながら、上記非特許文献に開示されているZnOコーティングは平坦面上へ行われるものであり、ベアリングの転動体のように球面全体へのZnOコーティングを実現することに関する手法は開示されていない。物体の上下左右のあらゆる方向の面にコーティングを行う際には、物体を自由空間に浮遊させながらコーティングを行うことは、コストや処理速度を度外視できる状況でない限り現実的ではないため、コーティング対象物体を他の物体と接触させた状態でコーティングを行う必要がある。しかし、このような接触点やその近傍ではコーティングの形成が妨げられるという問題がある。そのため、接触点を移動させながらコーティングを進めることが考えられるが、その場合には接触点の移動の際に物体表面に起こる他の物体との摩擦や衝突によって、形成途中のまだ十分に強固になっていないコーティングの損傷が起こるため、均一で強固なコーティングの形成の障害となる。また、あらゆる方向の面へコーティング物質を均一に到達させ、またそれ以外のコーティング条件もこれらの面の全てに渡って均一に維持することにも、かなりの困難を伴う。
【0006】
ZnOコーティングとは別に本願発明者が発明した転動体への蒸着方法が特許文献1に示されている。この蒸着方法では、コイルバネ状あるいは網目状のホルダを準備し、球状や円柱状の物体を収容したホルダを回転させながら蒸着を行う。特許文献1ではコイルばね状のホルダを使用し、マグネトロンスパッタリングによってMoSを円柱状のベアリング転動体表面全体に良好なコーティングを形成することができた旨、開示されている。
【0007】
しかしながら、MoSは固体潤滑剤として古くから使用されてきた物質であって、物体表面に極めて容易に摩擦低減用の被膜を形成でき、スパッタリングによるコーティングを行う場合にも、スパッタリング条件の調整はほとんど不要である程コーティングしやすい物質であることは周知である。なお、MoSを非常に広い範囲のスパッタリング条件下でコーティングできることについては、例えば非特許文献4中に記載されている多数の実験を参照されたい。従って、MoSでのコーティングが可能な手法を、それよりもコーティングの際に必要な条件が厳しいZnOコーティングに転用できるとの保証は全くないことは当業者にとって明らかである。
【0008】
しかも、MoS微粒子を分散させた油状液体を使用した潤滑用スプレーが市販されていることからもわかるように、このようなMoS被膜形成の手法の一つとして、摺動によりMoS微粒子を物体表面に付着させることが広く行われている。従って、特許文献1の実施例で行われているコーティング形成の過程で起こるコーティング対象の円柱状のベアリング転動体とコイルバネ状ホルダとの、また他のベアリング転動体との接触・衝突は、MoSコーティングの際にはむしろ有益であると考えられる。しかし、ZnOコーティングはMoSとは異なり、摺動によって形成できるものではないため、ZnOコーティング中にコーティングが行なわれている表面が他の物体と接触・衝突することは、形成途中のまだぜい弱なZnOコーティングの損傷の可能性を考慮すると有害であると考えるのが自然である。しかも、上で挙げた非特許文献でも説明されているように、ZnOコーティングを低摩擦化の目的で使用するためには、ZnOコーティングの結晶配向を制御することが重要であるが、コーティングの形成過程における接触・衝突のような物理的な外乱は、必要な結晶配向への制御を阻害し、また、一様な結晶配向を有するコーティングを実現するに当たっても有害である可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、上述した従来技術の問題点を解消し、ベアリング転動体などの回転体表面に一様で強固なZnOコーティングを形成する方法を提供し、またそのようなZnOコーティングを有する回転体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面によれば、鏡面になっているZnOコーティング膜を表面全体に有する回転体が与えられる。
ここで、前記ZnOコーティング膜はZnO(002)面の柱状構造を有してよい。
また、前記回転体は球、円柱及び円錐台からなる群から選択された一の形状を有してよい。
また、前記回転体はベアリング用転動体であってよい。
本発明の他の側面によれば、前記ベアリング用転動体を組み込んだベアリングが与えられる。
本発明の更に他の側面によれば、回転体を収容した籠を回転させながらZnOスパッタを行うことにより前記回転体表面にZnOコーティングを行う回転体へのZnOコーティング方法であって、前記籠のメッシュサイズと前記回転体の半径との比の値が40%から95%の範囲である、回転体へのZnOコーティング方法が与えられる。
ここで、前記スパッタは高周波マグネトロンスパッタにより行ってよい。
また、酸素及びアルゴンからなるスパッタガスを使用するとともに、ターゲットとしてZnを使用してよい。
また、前記スパッタガス中の酸素分圧比が60%から80%の範囲であってよい。
また、前記ターゲットの表面を含む平面上から前記籠の外側までの垂直距離が55mmから85mmの範囲であってよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によって、ベアリング等に使用することができる例えば球、円柱、円錐台のような回転体表面に一様で強固なZnOコーティングを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施例で使用したZnOコーティングを行うための装置の概念図。
図2図1のZnOコーティングを行うための装置によって良好なコーティングが行なわれたベアリングボールの例(右)及び失敗例(左)の写真。
図3】酸素分圧比60%の酸素・アルゴン混合スパッタガスを使用して作製した本発明の一実施例のZnOコーティングを有するベアリングボールの断面TEM像。
図4図3に示すZnOコーティングのEDX分析結果を示す図。
図5図3に示したものと同じ条件で作製したZnOコーティングを有するベアリングボールをジェットエンジン中で使用した後の断面TEM像。
図6A】酸素分圧比60%の酸素・アルゴン混合スパッタガスを使用して作製した本発明の一実施例のZnOコーティングを有するベアリングボール(距離h=55mm、60mm及び65mm)を組み込んだベアリングの油中での摩擦係数の時間変化を、ZnOコーティングしていないベアリングボールを組み込んだ場合と比較して示すグラフ。
図6B】酸素分圧比70%の酸素・アルゴン混合スパッタガスを使用して作製した本発明の一実施例のZnOコーティングを有するベアリングボール(距離h=55mm及び60mm)を組み込んだベアリングの油中での摩擦係数の時間変化を、ZnOコーティングしていないベアリングボールを組み込んだ場合と比較して示すグラフ。
図7図3に示したものと同じ条件で作製したZnOコーティングを有するベアリングボールを摩擦試験機によって試験した後の断面TEM像。
図8A】酸素分圧比60%の酸素・アルゴン混合スパッタガスを使用して作製した本発明の一実施例のZnOコーティングを有するベアリングボール(距離h=55mm及び60mm)を組み込んだベアリングの大気中での摩擦係数の時間変化を、ZnOコーティングしていないベアリングボールを組み込んだ場合と比較して示すグラフ。
図8B】酸素分圧比60%の酸素・アルゴン混合スパッタガスを使用して作製した本発明の一実施例のZnOコーティングを有するベアリングボール(距離h=65mm及び85mm)を組み込んだベアリングの大気中での摩擦係数の時間変化を、ZnOコーティングしていないベアリングボールを組み込んだ場合と比較して示すグラフ。
図8C】酸素分圧比70%の酸素・アルゴン混合スパッタガスを使用して作製した本発明の一実施例のZnOコーティングを有するベアリングボール(距離h=55mm及び60mm)を組み込んだベアリングの大気中での摩擦係数の時間変化を、ZnOコーティングしていないベアリングボールを使用した場合と比較して示すグラフ。
図9】本発明のZnOコーティングを有するベアリングボールを組み込んだベアリングの評価を行うために使用した、摩擦試験装置にベアリングを取り付けるためのベアリング専用治具の概略及び使用形態を示す図。
図10A】試験状態におけるベアリング専用治具の正面断面図。
図10B】ベアリング専用治具を構成するハウジングの正面断面図であって、測定終了後のベアリングの抜取り作業中の状態を示す。
図10C】ベアリング専用治具を構成するハウジングの正面断面図。
図10D】ベアリング専用治具を構成するハウジングの上面図。
図10E】(a)ベアリング専用治具を構成するベアリング軸の正面断面図及び(b)ベアリング軸のうちのベアリングに接続される部分を下から見た底面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本願発明者は特許文献1に従って、転動体を籠状のホルダに収容し、これを回転させながらスパッタリングを行うことで、転動体表面に一様かつ強固なZnOコーティングを形成しようとしたが、当初はコーティングが形成された場合であっても低摩擦コーティングとして使用できないことが一見して明らかな低品質な結果が得られただけであった。そこで、本願発明者は形成途中のコーティングに外力が印加される態様を変化させることで良好なコーティングを得ることを試みた。この試行錯誤の過程で上記外力の調節手段としてホルダとして使用する籠のメッシュサイズを変更してみたところ、転動体として球を使用した場合にはメッシュサイズを球の直径の40%から95%、より好ましくは50%から80%の範囲とした場合に良好なコーティングが得られるという知見を得て、これにより本発明を完成するに至った。なお、本願では、メッシュサイズとは、籠を形成するワイヤーにおいて、近接する2本のワイヤー間の最短距離と定義する。また、ワイヤーの材料は特に限定しないが、例えば金属で構成してよい。
【0014】
メッシュサイズがこのようにZnOコーティングの品質に影響を与えることの一つの理由としては、メッシュがあまり細かい場合には球体がメッシュと過度に接触する、すなわち球体のコーティング表面とメッシュを構成するワイヤーとの接触確率・頻度が上がり、コーティングに悪影響を及ぼすが、逆にメッシュを荒くしてメッシュサイズが球の直径に近づくと球がメッシュに嵌まり込みやすくなることでその円滑な回転が妨げられるということが考えられる。
【0015】
ただし、メッシュが細かい方が球体とメッシュとの接触箇所が増加する傾向にあることから考えると、球表面上の接触箇所に印加される力はメッシュが細かい方がむしろ小さくなって良質なコーティングの形成にはむしろ好ましいという考え方も成り立ち得るので、メッシュサイズと球の直径との比(メッシュサイズ:直径)の値の上限である95%と言う大きな値はこの点から意外性があり、更に言えばこの比の値を調節することが良好なZnOコーティングの形成に大きく影響すること自体、直感的には明らかではない。また、この比の値の好ましい範囲の下限である40%についても、スパッタターゲットから球表面へのスパッタ材料の飛来の阻害が顕著になるメッシュサイズを考えてみると、籠を形成する線材の径にもよるが、通常は40%よりもかなり小さなメッシュサイズになると推定される。この点からは、好ましい比の値の下限である40%も、特許文献1を見るだけでは意外な値であるということができる。そもそもMoSという非常に成膜しやすい材料のコーティングの実施例しか挙げていない特許文献1は、メッシュサイズとコーティング対象物体のサイズとの関係を調節することは不要であり、従って、このような調節を行うという着想はそこには存在していない。
【0016】
なお、スパッタリングの際の雰囲気として使用されるスパッタガスは酸素とアルゴンとの混合ガスを使用できる。ここで、スパッタガス中の酸素分圧比は60%から80%の範囲が好ましい。またスパッタリングのために使用するスパッタガンのターゲット表面を含む平面上から籠の外側までの垂直距離は55mmから85mmの範囲とすることが好ましい。
【0017】
本発明におけるコーティング対象の回転体は球に限定されるものではなく、円柱、テーパ形状(円錐台)も包含する。回転体が円柱の場合は、メッシュサイズ:直径の比をとる際の直径として円柱の端面である円の直径を使用し、当該比の値を上記範囲とすることで、良好なZnOコーティングが得られる。また、円錐台の場合にはその端面のうちの大きな方の円の直径を比を取る際の直径として使用すれば良い。従って、本願においては、「メッシュサイズと直径の比」と言う場合、その直径としては、コーティング対象の回転体が球、円柱、及び円錐台の場合、夫々その球の直径、円柱端面の円の直径、及び円錐台の両方の端面のうちの大きな方の円の直径を夫々使用する。
【0018】
本発明では鏡面状の緻密で強固なZnOコーティングが施された回転体が与えられる。ZnOは金属酸化物であるため、その緻密で強固なコーティングは例えば高温・高湿度環境下において酸化防止膜として機能する。これによって、過酷な環境下で動作するベアリング中で使用されるこの種の転動体の長寿命化に有効である。また、本発明で与えられるZnOコーティングは鏡面状であるため当然摩擦係数が小さいが、その結晶配向を調節することによって摩擦係数を更に低減することができる。さらには、ZnOはピエゾ特性を有しているので、圧電特性を有する回転体が与えられる。
【0019】
また、本発明は例えば転動体として使用される回転体上に鏡面状の緻密で強固なZnOコーティングを行う方法を初めて明らかにした。この方法はコーティングの損傷等、その一様性、緻密さを損なう等のコーティングの障害を極力抑えながら、回転体表面にコーティングを行うことができるという特徴を有する。更に、本方法は先に非特許文献で明らかにしたところの、平面へのスパッタによるZnOコーティングの際の最適条件と類似した条件で回転体表面へのZnOコーティングを行うことができるので、その早期の実用化に有利である。また、コーティング処理の際に使用する籠は構造が単純であり、またスパッタ装置内に容易に装着、取り外し可能な形状とすることができるので実施が容易である。これに加えて、籠に回転体を収容してから装着し、またコーティング済み回転体が入ったままで取り外して直ちに次のロットのコーティングの準備を開始できるため、複数組の籠を準備しておけば、大量の回転体に本発明のZnOコーティングを行う際のスループットを高い値に維持することが可能である等の利点を有する。
【実施例】
【0020】
実施例では、ZnO低摩擦コーティングをベアリングボールに施し、ベアリングボール球表面上に作製されたコーティング自体及びこのZnOコーティング付きベアリングボールの評価を行った。なお、ここでは球面上へのコーティングの例を示すが、円柱、円錐台などの球体以外の回転体表面へのコーティングでも本発明は同様に適用できる。
【0021】
本願発明者が先に見出した低摩擦のZnOスパッタコーティング膜(非特許文献1〜3)を球体表面などの曲面に施すことにより高性能の低摩擦ベアリングボールを実現するにあたっては、先ず重要なこととして、ZnOコーティングに低摩擦効果を発現させるために、上述したように、その膜の結晶配向性を制御する必要があることが挙げられる。以下ではスパッタ条件を適宜設定することにより、低摩擦をもたらす結晶配向を曲面上に実現できたことを示す。また、他の重要な事項として、本願発明者が見出したZnOコーティングによる高度の低摩擦化が実現されたベアリングボールの部材の性能をどのようにして評価するかということがある。以下で、これらがどのようにして実現できたかを具体的に説明する。
【0022】
本実施例においてZnOコーティングを行うために使用した装置の概念図を図1に示す。本実施例では金属ワイヤーのメッシュで構成された円筒形の籠2中にZnOコーティング対象のベアリングボール1を収容して回転軸3を駆動して回転させながらスパッタガン4からZnOを供給することにより、ZnOをベアリングボール1上にスパッタした。ZnOコーティング対象としては、市販品のアンギュラベアリングのベアリングボール1を使用し、高性能の低摩擦ベアリングを実現することができた。
【0023】
[ZnOコーティングの成膜]
アンギュラベアリングには、GMN社製HY S6000(ベアリング内径:10mm、外形:26mm;詳細な寸法等の仕様は非特許文献5を参照)を用いた。このベアリングボール1は、高温用のSiセラミックス製であり、直径は4.762mmであった。このベアリングボール1を図1に示すようにメッシュの円筒形の籠2に収容した。籠2を構成するワイヤー直径は0.55mmφ、メッシュサイズ(2本のワイヤー間の距離)は、2.6mmとした。これにより、メッシュサイズ/直径は2.6mm/4.762mm×100=54.59...≒55%となった。ベアリングボール1を収容した籠2をゆっくりと回転させながら、マグネトロンスパッタ法を用いて厚さ300nmのZnO膜をボールの前面にむらなくコーティングすることができた。その成膜条件は、ターゲットとしてZnディスクを使用し、RF100W、スパッタガス:酸素・アルゴン混合(酸素分圧比60%、70%)、バイアスなし、サンプル加熱なしとし、スパッタガン4とサンプルとの距離hを何通りか変化させて成膜を行なった。ここで、距離hは、スパッタガン4のターゲット表面を含む平面上から籠2の外側までの垂直距離とした。また、籠2の中には積み重ならない量のボール1を収容することで、スパッタガン4とサンプルであるベアリングボール1までの距離にベアリングボール1毎の違いが出ないようにした。
【0024】
図2の右側に、このようにしてコーティングを施したベアリングボールの写真を示す。写真から容易に見て取れるように、ベアリングボール表面全体が完全な鏡面となっていて、一様かつ緻密なコーティングが施されている(図2では隠れて見えないベアリングボール裏面も全く同じく完全な鏡面となっていた)。これに対して、同図左側に示す失敗例では、その表面は鏡面ではなく光を乱反射しており、表面が一様になっていないことがわかる。また、その表面には目視ではっきりとわかる凹凸があり、コーティングが剥離したり裂け目が入っていることもわかる。なお、メッシュサイズと球の直径との比の値やそのほかの成膜条件を変化させてZnO膜のコーティングを行った際、鏡面状コーティング形成に失敗した場合には全て同図左側によく似た外観を呈した。
【0025】
[ZnOコーティング済みベアリングボールの評価(TEMによる観察、ジェットエンジン中での使用試験)]
距離h=55mmとして作製されたZnOコーティングボールの断面TEM像(酸素分圧比60%)を図3に示す。図3から、ベアリングボール(Si3N4 ball)においても、その表面上のZnOコーティング膜(ZnO coating)に、低摩擦効果の発現に重要であるZnO(002)面の柱状構造が生成されていることが確認された。このEDX分析結果を図4に示す。この分析結果からわかるように、Zn:54.4%,O:43.92%であり、ほぼ1:1の組成比であることとからも、ZnOコーティングであることを追証した。
【0026】
上述のようにしてZnOコーティングを施したベアリングボールを元の位置に戻して再組み立てを行ったベアリングを小型のジェットエンジンに入れ、半日程度の断続的な運転を行った。この運転を行う際のベアリングの潤滑のため、灯油にタービン専用オイルを混合比6〜7%で混合したもの(灯油13.5〜14リットルに対して、タービン専用オイル一缶(946mL))を使用した。タービン専用オイルとして具体的には昭和シェル株式会社から提供されている航空機用エンジン、航空機転用型自家発電用・船舶用ガスタービンエンジン用高性能タービンオイルAeroShell Turbine Oil 500(エーロシェルタービンオイル500;ASTO500)を使用した(AeroShellはシェル ブランズ インターナショナル アクチェンゲゼルシャフトの登録商標)。当該タービン専用オイルの詳細は非特許文献6を参照されたい。
【0027】
その後ベアリングボールを取り出して、同様に断面TEM像を得た。その結果を、「After jet engine test (back bearing)」と表示されている図5に示す。図4に示したコーティング膜(ZnO coating)はジェットエンジン中で使用した後も残存しており、この厳しい条件の試験に耐えたことが確認された。また、柱状の結晶柱が、部分部分で結晶粒に変化していることが明らかとなった。このように、非常に過酷な耐久試験を行なった後においても、ZnOコーティングは、残存し、そして、その結晶配向性も変化していることが明白となった。これにより、結晶配向が変化するほど過酷な条件で使用したにもかかわらず、コーティング膜は単に摩耗しただけであって、剥離等の、まだコーティング膜が残っている状態での突然の破壊が起こらないことが確認された。つまり本実施例により、コーティングが強固に付着していて、寿命の予測性が非常に高い高信頼性低摩擦コーティングが実現できたことがわかる。ただし、本来の性能が発揮される理想的な結晶配向性が、そうでない配向性のものに変化してしまう事態が起こった。
【0028】
[ZnOコーティングを有するベアリングボールの評価(TEMによる観察、空気中及び油中での摩擦係数)]
上で作製したZnOコーティング付きのベアリングボールを組み込んだベアリングを、ベアリング専用治具を介して摩擦試験装置に取り付けて回転させることでその回転中の摩擦係数の時間変化を測定し、またその後にベアリングボールを取り出して断面TEM像を撮影するという性能評価を行った。この性能評価において、摩擦試験装置として新東科学株式会社製の広域荷重摩擦磨耗試験機TYPE:35を使用し、雰囲気は大気中(26℃、湿度54%)及び油中(灯油に上述のタービンオイル(AeroShell Turbine Oil 500)を6%添加したもの)にて行なった。また、回転数は3000rpmとし、荷重は20kgWとした。なお、当該試験機システムにはベアリングを評価するための冶具類がないため、本願出願人にて作製したベアリング専用冶具を使用した。
【0029】
このベアリング専用治具の概略図を図9に、また具体的な構造の図面を図10A図10Eに示す。図9に概略を示すベアリング専用治具10の上部構成要素であるベアリング軸11が上部回転・荷重ユニット(摩擦試験装置)の主軸14に結合されて、摩擦試験装置からの回転及び荷重を、治具10の下部構成要素であるハウジング12内に収容される試験対象のベアリング13に伝達する。なお、図9でベアリング13の上面部分だけが実線で描かれ、それより下側が破線となっているのは、ベアリング13はハウジング12中心部に設けられた凹部であるベアリング収容部内に固定されるようになっているために(詳細は後述)、その上面以外は目視できないからである。この治具10を使用するに当たっては、治具10を構成するハウジング12の下部穴にベアリング13を埋没させ、上からつめで固定する。なお、このつめは図中には明示せず、ボルト(図10C中のベアリング固定ネジ20)のみでベアリング13を固定するように図示してあるが、実際にはボルトとの共締めでつめを固定し、そのつめでベアリング13の外側のリングを固定するように構成されている。なお、ベアリング13の固定はベアリング固定ネジ20だけを使用して行うようにしてもよい。ベアリング13と装置上部の回転ロッド(ベアリング軸11)とは中心軸を合わせて固定可能な構造になっている。試験時の温度変化は熱電対にて測定できる。熱電対を設置するには、例えば上記つめによってベアリング13のアウターリング上に熱電対を固定すればよい。また、ベアリング取り付けブロック(ハウジング12)のうちのベアリング13の上面よりも上にある高さ40mmの薄壁の円筒部分12aは透明プラスチック円筒ケースで構成されており、透明プラスチックでできた円筒状部材と円筒状部材下端部のリング状パッキンとを、ハウジング12の部分にねじ込むことでハウジング12の基部に固定される。このようにハウジング12の上部が円筒状で、ハウジング12との接合部はリング状パッキンでシールされているので、その中に液体を収容可能であり、油で満たした中でベアリング13を回転させる実験が可能である。更に、この円筒ケースは透明であるため、試験中の様子も目視により観察できる。
【0030】
試験終了後にベアリング専用治具10からベアリング13を取り外す必要がある。上述したように、ベアリング専用治具10側のベアリング軸11とベアリング13の回転部の中心とがずれないようにするため、治具10中のベアリング収容部23とベアリング13との間のクリアランスは小さくなっている。更に、試験中に強い圧力を上から印加するため、試験終了後にはベアリング13は、収容部23に強く嵌まり込むことになる。従って、試験終了後にベアリング13を手で引き抜くことは、通常は極めて困難である。そこで、このベアリング専用治具10においては、図10Bに示す構造を設けることで、ベアリング13を容易に引き抜くことができるようにしている。
【0031】
図10Bにおいて、ベアリング13の中心孔からベアリング抜きネジ21を差し込んで、ベアリング抜き治具22の中央部にねじ込むと、ベアリング抜き治具22が、その上に載っているベアリング13と共にせり上がる。これにより、強固に嵌まり込んだベアリング13を簡単に引き抜くことができる。
【0032】
ベアリング専用治具10へのベアリング13の装着から、ベアリング試験、最後にベアリング専用治具10からのベアリング13の取り外しまでの手順をより具体的に説明すれば、以下の通りである。試験ベアリング13をベアリング専用治具10中のベアリング収容部23に装着する際、ベアリング抜き治具22に形成した切欠き凹部とベアリング収容部23に形成した凸部との位置を合わせて、図10Aに示すようにハウジング12中心にあるベアリング収容部23の底に装着する。このように、両者の凹部と凸部とを位置合わせしてこれらが互いにはまり合うように装着することにより、ベアリング13の取り外し時に生じることがあるベアリング抜き治具22の回転を抑制することが出来る。もちろん、これら凹凸は上に説明したものとは互いに逆の部材に設置してもよい。次いで、前もって、上端を摩擦試験装置本体の主軸14に係合させて主軸に仮止めしてあったベアリング軸側治具(ベアリング軸11)(図10E)の下端をベアリング13に差し込んで係合させる。また、この間に、ベアリング固定ネジ20やつめを使用した試験ベアリング13の固定を上述した通りに行う。更に、ここにおいて、必要に応じて熱電対等の取り付けも行うことができる。
【0033】
仮止めしてあったベアリング軸11の上端と摩擦試験装置本体の主軸14とを、この段階で図10Eに示すようにボルト(治具固定ネジ24)で固定することにより、両者は完全に結合され、また芯出しも完了する。これにより、摩擦試装置本体からの回転力を、ベアリング軸11を介してベアリング13に確実に伝達できるようになる。ここで、図10A及び図10Eに示すように、ベアリング軸11の上部はテーパ状になっており、ベアリング軸11と摩擦試験装置本体の主軸14の中心軸を合わせやすい構造となっているため、本治具10を使用することで、ベアリング13との中心軸を合わせてからベアリング軸11を完全に固定できるので、特別な注意や熟練を要することなく、摩擦試験装置の主軸14−ベアリング軸11−ベアリング13の心出しが確実に行われるという効果も得られる。
【0034】
このようにしてベアリング13を摩擦試験装置本体に確実に、かつ両者の回転の中心が正確に一致するように取り付けた後、ベアリング13の試験が開始される。
【0035】
ベアリング13の試験が終了したら、先ず、治具固定ネジ24を取り外してからベアリング軸11と主軸との係合を解除する。また、ベアリング軸11とベアリング13との係合を解除するとともにベアリング13の周囲をハウジング12に固定しているベアリング固定ネジ20及び熱電対固定ネジを外す。その後、ベアリング抜き治具22の中心内壁に切られている雌ネジに係合するベアリング抜き雄ネジ21を、ベアリング13の上から挿入して回転させる。これによってベアリング抜き雄ネジ21が下向きに進行し、更にその先端がベアリング主要部の底に突き当たって下向きの力をそこに印加する。ベアリング抜き雄ネジ21を回転し続けることによって、前記ベアリング抜き治具22は先に説明した凹部と凸部とのかみ合いによって回転せずに、ベアリング13がベアリング抜き治具22とともにベアリング収容部23からせり上がる。このようにして、ベアリング13を簡単にベアリング専用治具10から取り外すことができる。
【0036】
上述のようにして測定した、油中におけるベアリングの摩擦係数の時間変化例を図6A及び図6Bに示す。未コーティングの場合に比べて、ZnOコーティングを施したもの(図6Aに示すところの酸素分圧比60%、h=55mm、60mm及び65mm)は、摩擦係数が低減し、また摩擦係数の時間変動が小さいという意味で安定することがわかった(なお、やや見づらいが、図6A中で一番下に位置する細線で縁取りされたグラフがh=65mmの場合を示す)。実験後のコーティングの断面TEM像を「After bearing test」と表記されている図7に示す。ジェットエンジンに導入した試験後の断面TEM像と比べて結晶配向の乱れは少ない。コーティング厚さは減少した。その他、酸素分圧比70%においても図6Bからわかるように、コーティングなしの場合に比べて摩擦係数の低下やその時間変化の減少(安定化)など、ZnOコーティングの効果が現れた。
【0037】
図8A図8Cに示すように、大気中でも同様に摩擦低減効果が発現した。このように、ZnOコーティングを有する本実施例のベアリングボールは、油中、大気中共に、未コーティングのベアリングボールと比べて摩擦性能が飛躍的に向上している。さらには、長時間の使用後、このコーティング膜が摩耗にて消失したとしても、そこからは本来のSiセラミックス製ボールでの使用が開始されることとなり、安全性は極めて高く、さらに寿命も飛躍的に向上させることが可能である。
【0038】
以下の表に、本実施例で得られたZnOコーティングが施されたベアリングボールを使用した場合の空気中及び油中での摩擦係数を、コーティングなしの場合の比較例とともに示す。なお、表中に示した摩擦係数は、ベアリングを回転させて摩擦係数の測定を開始してから100〜200秒経過後に摩擦係数の減少が落ち着いた(なじんだ)平坦な領域(つまり、グラフ上で摩擦係数の時間変化が少なくなる部分)における平均値である。
【0039】
【表1】
【0040】
上の表からわかるように、酸素分圧比及び距離hはZnOコーティングの摩擦係数に影響を与えることがわかる。しかし、これらのパラメーターを変化させても図2の右側に示す非常に一様な鏡面の表面を持つZnOコーティングを与えるメッシュサイズ/回転体直径の比の値の範囲にはあまり影響を与えることはなく、この比の値が40〜95%の範囲内では良好な鏡面状のZnOコーティングが形成された。つまり、酸素分圧比及び距離hはZnOコーティングの一様性や緻密さよりは、出来上がった鏡面状コーティングを形成するZnOの結晶配向性に影響するので、結局その摩擦係数にも影響を与える。ただし、これらのパラメーターはZnOコーティングの曲面への密着性に僅かに影響を与える場合がある。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は例えばジェットエンジンやガスタービンなど、高負荷で高速回転する装置の軸受けに使用することにより、軸受の摩擦の低減やZnOコーティングなしの場合に比べて一層過酷な使用条件に耐える耐久性向上をもたらすため、本発明はこの種の回転装置の効率や寿命の改善などに大いに貢献することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0042】
【特許文献1】特開2010−209443号公報
【非特許文献】
【0043】
【非特許文献1】M.Goto et al., Jpn. J. Appl. Phys., 42, 4834-4836 (2003).
【非特許文献2】M.Goto et al., Jpn. J. Appl. Phys., 47, 8914-8916 (2008).
【非特許文献3】M.Goto et al., Tribology Lett., 43 (2) 155-162 (2011).
【非特許文献4】宮川行雄 他、トライボロジスト第38巻第1号46〜53ページ 1993年
【非特許文献5】http://www.gmn.de/en/ball-bearings/products/deep-groove-ball-bearings/product-search.html
【非特許文献6】http://www.matsuda-shouten.co.jp/productlist/shell/leaflet/aeroshell/AeroShell_Turbine_Oil_500.pdf
【符号の説明】
【0044】
1 ベアリングボール
2 籠
3 回転軸
4 スパッタガン
10 ベアリング専用治具
11 ベアリング軸
12 ハウジング
12a 円筒部分
13 ベアリング
14 上部回転・荷重ユニット(摩擦試験装置)の主軸
20 ベアリング固定ネジ
21 ベアリング抜きネジ
22 ベアリング抜き治具
23 ベアリング収容部
24 治具固定ネジ
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図8C
図9
図10A
図10B
図10C
図10D
図10E
【国際調査報告】