特表-17135251IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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再表2017-135251強磁性トンネル接合体、これを用いた磁気抵抗効果素子及びスピントロニクスデバイス並びに強磁性トンネル接合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2017年8月10日
【発行日】2018年11月29日
(54)【発明の名称】強磁性トンネル接合体、これを用いた磁気抵抗効果素子及びスピントロニクスデバイス並びに強磁性トンネル接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 43/08 20060101AFI20181102BHJP
   H01L 21/8239 20060101ALI20181102BHJP
   H01L 27/105 20060101ALI20181102BHJP
   H01L 43/10 20060101ALI20181102BHJP
【FI】
   H01L43/08 P
   H01L27/105 447
   H01L43/08 Z
   H01L43/10
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】22
【出願番号】特願2017-565561(P2017-565561)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2017年1月31日
(31)【優先権主張番号】特願2016-18432(P2016-18432)
(32)【優先日】2016年2月2日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、内閣府革新的研究開発推進プログラム、単結晶化・高集積化・3次元化プロジェクト、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100190067
【弁理士】
【氏名又は名称】續 成朗
(72)【発明者】
【氏名】介川 裕章
(72)【発明者】
【氏名】シェーク トーマス
(72)【発明者】
【氏名】三谷 誠司
(72)【発明者】
【氏名】大久保 忠勝
(72)【発明者】
【氏名】宝野 和博
(72)【発明者】
【氏名】猪俣 浩一郎
【テーマコード(参考)】
4M119
5F092
【Fターム(参考)】
4M119AA19
4M119BB01
4M119CC05
4M119DD03
4M119JJ02
4M119JJ03
4M119JJ07
4M119JJ09
5F092AA02
5F092AA11
5F092AB01
5F092AB02
5F092AB06
5F092AC12
5F092AC24
5F092AD25
5F092BB04
5F092BB05
5F092BB10
5F092BB17
5F092BB22
5F092BB23
5F092BB24
5F092BB25
5F092BB34
5F092BB42
5F092BB43
5F092BB53
5F092BB55
5F092BC03
5F092BE02
5F092BE13
5F092BE21
5F092BE23
5F092BE27
5F092CA02
5F092CA15
5F092CA26
5F092GA01
(57)【要約】
本発明は、スピネル構造を有するMgAl型絶縁体材料を用いたバリア層を用いて従来にはない高いトンネル磁気抵抗(TMR)比を達成することを課題とする。バリア層がスピネル構造をもつ立方晶の非磁性物質からなり、バリア層の上下に隣接する2つの強磁性層の両方がCoFeAlのホイスラー合金からなる強磁性トンネル接合体により、前記課題を解決できる。好ましくは、前記非磁性物質がMg1−xAl(0<x≦1)合金の酸化物からなり、室温において250%以上34000%以下のトンネル磁気抵抗を示すとよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルバリア層がスピネル構造をもつ立方晶の非磁性物質からなり、トンネルバリア層の上下に隣接する2つの強磁性層の両方がCoFeAlのホイスラー合金からなる強磁性トンネル接合体。
【請求項2】
前記強磁性トンネル接合体において、非磁性物質とCoFeAlとの格子不整合が3%以下、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下であることを特徴とする請求項1に記載の強磁性トンネル接合体。
【請求項3】
前記非磁性物質がMg1−xAl(0<x≦1)合金の酸化物からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の強磁性トンネル接合体。
【請求項4】
前記非磁性物質がMgAlからなることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のトンネル接合体。
【請求項5】
室温において250%以上34000%以下のトンネル磁気抵抗を示すことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の強磁性トンネル接合体。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載の強磁性トンネル接合体を用いたスピントロニクスデバイス。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項に記載の非磁性材料と強磁性体の積層膜からなるスピン注入素子。
【請求項8】
単結晶基板上に下地層を成膜する工程と、
当該下地層の上に第一の強磁性層を成膜する工程と、
当該第一の強磁性層の上にトンネルバリア層を形成する工程であって、当該第一の強磁性層の成膜された基板にMgAl合金層を成膜する工程と、このMgAl合金層の成膜された基板を酸化処理する工程とを有し、
当該トンネルバリア層が形成された基板に、第二の強磁性層を成膜する工程と、
当該第二の強磁性層を所定の熱処理条件で熱処理して、当該トンネルバリア層の結晶構造を不規則構造からスピネル構造に変態させる工程と、
この第二の強磁性層が形成された基板に、上部電極層又はキャップ層の少なくとも一方を成膜する工程とを有することを特徴とする強磁性トンネル接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルバリア層を二つの強磁性層で挟んだ構造からなる強磁性トンネル接合体、並びにこれを用いた磁気抵抗効果素子及びスピントロニクスデバイスへの応用に関する。
また、本発明は、トンネルバリア層を二つの強磁性層で挟んだ構造からなる強磁性トンネル接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
強磁性層/絶縁体トンネルバリア層(バリア層)/強磁性層の三層からなる強磁性トンネル接合体(MTJ素子)は現在ハードディスク用磁気ヘッドや不揮発性ランダムアクセス磁気メモリ(MRAM)として実用化されている。MRAMではMTJ素子を2次元マトリックス状に配置し、スピン移行トルク磁化反転と呼ばれる技術を用いて電流方向によって、各MTJ素子を構成する二つの磁性層を互いに平行、反平行に制御することにより高抵抗状態と低抵抗状態を作り出すことでメモリ動作させる。このような応用分野では高速動作のため、大きなトンネル磁気抵抗(TMR)比を示し抵抗の小さいMTJ素子が要求される。特に、スピン移行トルク磁化反転による動作のため素子に大きな電流を流すことから、低抵抗であり、耐電圧が高いバリア層を持つことが要求される。さらには、バリア層を介して半導体へスピン注入する技術も、スピン依存した出力が得られる金属(M)―酸化物バリア層(O)―半導体(S)構造型の電界効果トランジスタ(スピンMOSFET)の分野で重要性を増している。これらの分野でもオン電流を大きく取るため抵抗の小さいバリア層が必要である。
【0003】
このような背景の下、100%を超える高いTMR比を容易に得ることができるMgOがMTJ素子のバリア層として広く用いられている。MgOバリアは(001)方位を持つ結晶質である場合、そのバンド構造の特質からΔバンドと呼ばれるバンドの電子のみ優先的にトンネルされる効果であるコヒーレントトンネル効果が現れる。このときトンネル抵抗が小さくなる上、TMR比が大きく増大することが知られている(非特許文献1)。しかし、MgOバリアの格子定数やバンドギャップなどの特性を変えることは容易ではなく、強磁性層材料に大きな制限があるという問題がある。例えばCoFe系合金との間には3〜4%、高スピン偏極材料として知られるCo基ホイスラー合金では3〜6%、FePtとは10%程度の格子不整合があるため、これらの界面には必ず格子不整合によるミスフィット転位が密に導入されるためTMR特性を引き出すことが難しい。
【0004】
大きな格子ミスマッチを低減し、より高品質なMTJ素子を作製するためにスピネル構造を有するMgAlをバリア層として用いる方法がある(特許文献1)。MgAlは格子定数が約0.809nmの正スピネル構造(空間群(国際表記):Fd−3m)をもち、その単位格子の半分は岩塩構造を持つMgO(0.4213nm)と比較して約4%小さいため、体心立方結晶構造(BCC構造)を持つCoFe合金やCo基ホイスラー合金などの強磁性層との格子整合性が非常に良い。さらに、MgAlのMgとAl組成の調整によって格子定数を連続的に変化させることができるため強磁性層と格子整合性をより高めることができる。一般的にTMR比はバイアス電圧の印加によって低下する問題があるが、この問題をMgAlバリアによる格子ミスマッチの低減により大きく改善できることが知られている。
【0005】
しかし、MgAlバリアを用いた場合ではコヒーレントトンネル効果によるTMR増大効果が小さく、MgOバリアの場合に比べてTMR比が小さいという重大な問題があることが知られている(特許文献1、2)。これは物理的には以下のように解釈される。まず、強磁性層に広く用いられるCoFe系合金のバンド構造は、フェルミ準位においてΔバンドが多数スピンバンドに存在する一方、少数スピンバンドではΔバンドは存在しない。すなわち、強磁性層のΔバンドは完全にスピン偏極している状態にある。スピン偏極の度合い(スピン分極率)が高いほどTMR比は一般的に大きくなる。このため、コヒーレントトンネル効果のためにΔバンドのみトンネルするバリア層を用いた場合、有効的なスピン分極率が増大するため非常に大きなTMR比が実現される。MgOバリアとMgAlバリアの両方ともコヒーレントトンネル効果を示すが、これらの結晶構造の違いによってTMR増大効果の有効性が異なる。MgOバリアを用いる場合、バリア層と強磁性層の格子ユニットサイズ(結晶の繰り返し周期)はほぼ等しく上記のTMR比増大効果が明瞭に現れる。一方、スピネル構造をもつMgAlの場合、MgOのほぼ2倍の大きさの格子ユニットサイズを持つことから、CoFe系強磁性層との格子ユニットサイズが一致しない。このような場合、電気伝導に関与する強磁性層のバンド構造が変調される現象であるバンド折りたたみ効果が顕在化するため、CoFe系強磁性層のΔバンドの完全スピン偏極状態が失われ有効スピン分極率が低下する。このためMgAlバリアでは観察されるTMR比がMgOバリアに比べて小さいものとなる。
【0006】
MgAlの格子定数を有効的に半減させる不規則性を導入させる方法によって、MgAlバリアMTJ素子において高いTMR比を得る手段が本出願人の提案にかかる特許文献2に開示されている。そこにはMTJ素子の構造として、バリア層として、スピネル構造の陽イオン配列が不規則化した結晶構造を持ち、空間群Fm−3mもしくはF−43mの対称性をもつ立方晶の非磁性酸化物が開示されている。開示された非磁性酸化物を用いることでバンド折りたたみ効果を引き起こす格子ユニットサイズの違いという問題が解消される。この手法によってTMR比測定値は、15Kで479%、室温で308%が得られている。
しかし、MgAlなどスピネル構造を安定相として持つ材料は、作製時に高温での熱処理などを行うとスピネル構造に変態してしまう。したがって、指標となる250%を超えるTMR比は得ることができないため、スピネル酸化物バリア層の作製プロセスを制限してしまうという問題があった。
【0007】
本出願人の提案にかかる特許文献3では、MTJ素子の製造方法が開示されていると共に、MTJ素子として、バリア層が結晶化したMgAlである構造が開示されている。しかし、MgAl上にCo基ホイスラー合金層を高品質に形成できなかったという製造上の問題があり、この為に、常温でのTMR比として指標となる250%以上の値は得ることができなかった。
【0008】
特許文献4では、L2構造もしくはB2構造を持つCo基ホイスラー合金CoFe(Si1−xAl)(0<x<1)を用いたMTJ素子の製造方法が開示されていると共に、TMR素子として、2つの強磁性層CoFe(Si1−xAl)で挟まれたバリア層が、岩塩構造を持つMgOである構造が開示されている。しかし、CoFe(Si1−xAl)とMgOとは数%の無視できない大きさの格子不整合、より詳細には3.8%〜5.3%の格子不整合、があり、界面欠陥を抑制できないという原理的な問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許5586028号公報
【特許文献2】特開2013−175615号公報
【特許文献3】特開2015−90870号公報
【特許文献4】WO2007/126071 A1
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】S. Yuasa and D.D. Djayaprawira, J. Phys. D: Appl. Phys. 40, R337 (2007).
【非特許文献2】W. Wang, E. Liu, M. Kodzuka, H. Sukegawa, M. Wojcik, E. Jedryka, G.H. Wu, K. Inomata, S. Mitani, and K. Hono, Phys. Rev. B 81, 140402(R) (2010).
【非特許文献3】T. Scheike, H. Sukegawa, T. Furubayashi, Z.-C. Wen, K. Inomata, T. Ohkubo, K. Hono, and S. Mitani, Appl. Phys. Lett. 105, 242407 (2014).
【非特許文献4】W. Wang, H. Sukegawa, and K. Inomata, Phys. Rev. B 82, 092402 (2010).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような実情に鑑み、スピネル構造を有するMgAl型絶縁体材料を用いたバリア層を用いて従来にはない高いトンネル磁気抵抗(TMR)比を達成する格子整合した強磁性トンネル接合体(MTJ素子)を提供することを課題としている。
また本発明の他の目的は、微細素子作製時に用いられるウェットプロセスで問題となる潮解性がなく、高品質な強磁性層/バリア層界面が達成可能になり、高い信頼性をもつMTJ素子が効率よく製造できる強磁性トンネル接合体の製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らはMgAlバリアを用いたMTJ素子の研究を行っている過程で、バリア層の上下に隣接する2つの強磁性層として高いスピン分極率を有するB2構造(CsCl構造)を持つCoFeAl合金層を作製できることを見出した。その結果、発明者らはMgAlバリアがスピネル構造を持つ場合でも室温で340%を超える大きなTMR比が得られることを見出したことで、本発明に至っている。このとき、MgAlスピネル層の格子ユニットサイズはCoFeAlと一致しないためバンド折りたたみ効果が起こる条件を満たす。しかし、CoFeAl層を2層用いたCoFeAl/MgAl/CoFeAl積層構造を用いたことで、CoFeAl層が持つ高いスピン分極率を反映してバンド折りたたみの影響を受けずに高いTMR比が得られることをこの結果が示している。また、(001)方位に結晶成長させたMgAlとCoFeAlの格子不整合は1%未満であり、ほぼ完全な格子整合が可能であることから品質の高い結晶MTJ素子が実現される。格子不整合が3%を超える場合、バリア層とホイスラー合金層との界面に多くの不整合欠陥が導入されることから、TMR比の低下、平坦な膜成長の阻害、絶縁破壊確率の増加が起こるなどの不都合がある。この知見は、MgAlの組成に限らず、他のスピネル酸化物材料から構成されるバリア層の場合でも有効である。また、CoFeAl層の代わりにB2構造を持ち、高いスピン分極率を有するCo基ホイスラー合金全般で有効である。さらに、スピネルバリア層上にCoFeAl層を得る手法は、スピンMOSFET素子の半導体/バリア層/強磁性層構造をもつスピン注入素子としても提供できることを意味している。
【0013】
すなわち、本発明の第1は、バリア層がスピネル構造をもつ立方晶の非磁性物質からなり、バリア層の上下に隣接する2つの強磁性層の両方がCoFeAlのホイスラー合金からなる強磁性トンネル接合体を提供する。
第2は、第1の強磁性トンネル接合体であって、非磁性物質とCoFeAlとの格子不整合が格子不整合3%、好ましくは1%、より好ましくは0.5%以下であるトンネル接合体を提供する。
【0014】
第3は、第1又は2に記載の強磁性トンネル接合体であって、前記非磁性物質がMg1−xAl(0<x≦1)合金の酸化物からなる強磁性トンネル接合体を提供する。
第4は、第1乃至3の何れか1項に記載の強磁性トンネル接合体であって、前記非磁性物質がMgAlからなるトンネル接合体を提供する。
第5は、第1乃至4の何れか1項に記載の強磁性トンネル接合体であって、室温において250%以上34000%以下のトンネル磁気抵抗を示す強磁性トンネル接合体を提供する。
【0015】
第6は、第1乃至5の何れか1項に記載の強磁性トンネル接合体を用いたスピントロニクスデバイスを提供する。
第7は、第1乃至6の何れか1項に記載の非磁性材料と強磁性体の積層膜からなるスピン注入素子を提供する。
【0016】
本発明の強磁性トンネル接合体の製造方法は、単結晶MgO(001)基板上に下地層を成膜する工程と(S100)、当該下地層の上に第一の強磁性層を成膜する工程と(S104)、当該第一の強磁性層の上にバリア層を形成する工程であって(S106)、当該第一の強磁性層の成膜された基板にMgAl合金層を成膜する工程(S122)と、このMgAl合金層の成膜された基板を酸化処理する工程(S124)と、形成した不規則構造のMgAlを熱処理する工程と、を有し、当該バリア層が形成された基板に、第二の強磁性層を成膜する工程と(S108)、当該第二の強磁性層を所定の熱処理条件で熱処理して、当該トンネルバリア層の結晶構造を不規則構造からスピネル構造に変態させる工程と(S110)、この第二の強磁性層が形成された基板に、上部電極層又はキャップ層の少なくとも一方を成膜する工程と(S112)を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明のMTJ素子によれば、スピネル構造を持つ立方晶の非磁性物質からなる結晶質バリア層と高スピン分極率を有するCo基ホイスラー合金層を組み合わせたMTJ素子を用いることで、高いTMR比を室温で利用できることができる上、格子整合した界面が得られることから、高い印加電圧においても大きな室温TMR比を利用することが可能になる。
本発明の強磁性トンネル接合体の製造方法によれば、微細素子作製時に用いられるウェットプロセスで問題となる潮解性がなく、高品質な強磁性層/バリア層界面が達成可能になり、高い信頼性をもつMTJ素子が効率よく製造できる。
本発明のMTJ素子を用いた磁気抵抗効果素子及びスピントロニクスデバイスによれば、上記本発明の強磁性トンネル接合体をメモリセルとして用いることができ、例えば不揮発ランダムアクセス磁気メモリMRAM等に用いるのに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る強磁性トンネル接合体(MTJ素子)膜の基本構造を示す断面図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る強磁性トンネル接合体(MTJ素子)膜の製造方法を説明するフローチャートである。
図3図3は、バリア層の成膜工程の細部を説明するフローチャートである。
図4図4は、MgAl層上にCoFeAl層を作製できることを示すX線回折プロファイルである。Cr/CoFe/MgAlの上に10nm厚さのCoFeAl層を成膜し、ポストアニール温度を変えた結果。図4(a)は面外スキャン図、図4(b)は面内スキャン図である。
図5図5は強磁性トンネル接合体(MTJ素子)における上部CoFeAl層のポストアニール温度(TCFA)によるTMR比、面積抵抗(RA)値の関係を示した図である。
図6図6は下部CoFeAl/CoFe挿入層(0.5nm)/MgAl/上部CoFeAl、ポストアニール温度TCFA=550℃の構造を持つ試料のTMR曲線を示した図である。
図7図7図6で示した試料の300Kと4Kにおける微分コンダクタンス曲線を示した図である。
図8図8(a)は図6で示した試料の断面についての散乱暗視野法による観察像(ADF−STEM像)を示している。図8(b)は図8(a)に対応する領域についてエネルギー分散型X線分析法(EDS)を用いて同定した原子比プロファイルを示す図である。
図9図9図8に示した強磁性トンネル接合体(MTJ素子)のADF−STEM像の各箇所に対応するナノ電子線回折(NBD)像を示す図である。
図10図10(a)は不規則構造のMgAl層を持つ強磁性トンネル接合体(MTJ素子)断面のADF−STEM像を示している。図10(b)はMgAlから得られたNBD像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図1を参照しながら、本発明の各実施形態に係る強磁性トンネル接合体(MTJ)素子膜1について詳細に説明する。図1に示すように、本発明の一実施形態であるMTJ素子膜1は、基板2、下地層3、第一の強磁性層4、バリア層5、第二の強磁性層6、上部電極7からなる。
【0020】
基板2は(001)面方位の酸化マグネシウム(MgO)単結晶、スピネル構造を有するスピネル(MgAl)単結晶、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)単結晶、Si単結晶、Ge単結晶である。さらに、基板2は(001)面方位に配向した面内多結晶MgO膜でもよく、また、MgOの代わりの岩塩構造を持ち同等の格子定数を有するマグネシウム−チタン酸化物(MgTiO)を用いてもよい。
【0021】
下地層3は基板2の上に隣接し、第一の強磁性層4の結晶成長用の下地として、また導電性の電極としての役割も有する層である。下地層3は結晶方位を制御して成長させたクロム(Cr)、バナジウム(V)、タングステン(W)などのBCC型金属、非磁性のNiAl、CoAl、FeAlなどのB2型合金、ルテニウム(Ru)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、レニウム(Re)、銀(Ag)、金(Au)などの貴金属層からなる。もちろん、これらを組み合わせた多層膜でもよい。また強磁性であるCo1−xFe(0≦x≦1)合金を用いてもよい。下地層3の厚さは典型的には5nmから100nm程度である。さらに、これらの下地層の成長制御のためMgO、スピネルなどの酸化物層を基板2と下地層3の間に5nm〜50nm程度挿入しても良い。
【0022】
第一の強磁性層4は、下地層3の上に隣接して形成されたCo基ホイスラー強磁性合金層であり、ここではB2構造(CsCl型構造)をもつものが該当する。ここで、Co基ホイスラー合金とは、本来L2構造(CuMnAl型構造)をもち、CoXY(X=Fe、Mn、Ti、Crなど、Y=Si、Al、Ga、Ge、Snなど)組成から構成される合金である。Co基ホイスラーは強磁性を持ち、室温よりも高い磁気転移温度(キュリー温度)を有し、多くの合金組成で非常に高いスピン分極率を持つ。いくつかの組成では完全にスピン分極したバンド構造(スピン分極率P=1)を持ち、ハーフメタルと呼ばれる。B2構造は、L2構造のX−Yサイト間がランダムに占められた構造を持つ不規則構造であるが、バンド構造はおおむね保持されることが知られている。そのため、B2構造であってもハーフメタルを示すP=1もしくは、それに準じる高い値が得られる。第一の強磁性層の厚さは例えば5nmであるがより薄くてもよい。Co基ホイスラー合金の組成としては、B2構造が得られる組成領域であれば良く、例えば化学量論組成から5%程度のずれがあってもよい。
【0023】
次に、バリア層5は第一の強磁性層4の上に設けられる。この層はスピネル構造を有する酸化物からなる非磁性体からなり(001)面方位をもつ。また、その膜厚は0.8nmから3nm程度である。スピネル構造はMgAlが有する結晶構造であり、空間群Fd−3m(No.227)に属する。スピネルの格子定数は、BCC構造の合金やB2構造の合金の格子定数(面内45度回転させた場合)よりも2倍大きい。この場合、バンド折りたたみ効果によって一般的にスピン分極率が有効的に低下し、そのためTMR比が低下する問題がある。一方、本実施形態で用いるB2型のCo基ホイスラー合金層を、第一の強磁性層4および第二の強磁性層6として両方の強磁性層として用いる場合、この問題は起こらないため大きなTMR比を得ることができる。すなわち、Co基ホイスラー合金層が本質的に高いスピン分極率を持つため、バンド折りたたみの影響が非常に小さいためである。
【0024】
スピネル構造をもつ立方晶の非磁性物質には、ZnAl、MgCr、MgMn、CuCr、NiCr、GeMg、SnMg、TiMg、SiMg、CuAl、Li0.5Al2.5、γ−Al、γ−Ga、MgGa、ZnGa、GeZnおよびこれらの固溶体が含まれる。
より一般的にはA、Bを金属元素としてABの組成を持つスピネル酸化物材料が該当する。ここでA、Bには主にLi、Mg、Al、Si、Sc、V、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Cd、In、Snなどが入る。スピネル構造には正スピネル構造と逆スピネル構造があるが、これらのどちらの構造でも、また、これらが混ざった構造であっても効用は変わらない。また、上記のγ−Al、γ−Gaもスピネル類似構造を有するため該当する。さらに、A原子とB原子がより高度に規則化した構造であるP432(No.212)もしくはP432(No.213)を有するLiAl(Li0.5Al2.5)、LiGa(Li0.5Ga2.5)もこの層として含まれる。また、化学量論組成であるA:B=1:2原子比である必要はなく、長周期構造として上記のスピネル構造もしくはスピネル類似構造の対称性を持てば良い。
【0025】
第二の強磁性層6は、バリア層5の上に隣接して設けられる。この層は第一の強磁性層4と同様にB2構造の強磁性Co基ホイスラー合金層である。膜厚は1nmから8nm程度である。第一の強磁性層4とバリア層5、および、バリア層5と第二の強磁性層6の間には界面ダメージの低減や界面状態の改質のため1nm程度までの厚さを持った層を挿入することもできる。このとき、第一の強磁性層4および第二の強磁性層6の実効的なスピン分極率を低下させないものに限る。この目的では例えばFe、CoFe合金、Co基ホイスラー合金、Mg、MgAl合金、Al、MgOが該当する。
【0026】
上部電極7は第二の強磁性層6の上に隣接して設けられる層である。典型的にはRuである。Ta、Ptなども利用できる。また、第二の強磁性層6に膜面内に一方向磁気異方性を付与するため、反強磁性層IrMn層を8〜15nm程度の厚さで上部電極7との間に挿入することできる。
【0027】
本発明の実施形態であるMTJ素子膜構造のバリア層5から上の層は、スピンMOSFETの有する半導体層へのスピン注入・スピン検出部としてそのまま利用できる。その用途で用いる場合、SiやGe半導体層上に、スピネル構造を持つバリア層、その上にB2構造のCo基ホイスラー合金層、さらにその上に上部電極層を形成することができる。
【0028】
以下、フローチャートを用いてMTJ素子膜の製造工程を説明する。図2は、本発明の一実施形態に係るMTJ素子膜の製造方法を説明するフローチャートである。図3は、バリア層の成膜工程の細部を説明するフローチャートである。
下地層が単結晶基板、例えばMgO(001)上に成膜される(S100)。この成膜には、例えば超高真空直流マグネトロンスパッタ装置を用いる。下地層としては、例えばCrを用いると共に、膜厚は例えば20〜100nmがよく、特に好ましくは30〜50nmがよい。
【0029】
下地層の結晶性と平坦性を向上させるため、下地層であるCr層の形成後に熱処理する(S102)。熱処理温度は下地材料によって適切な範囲があり、例えばCr下地では400〜900℃がよく、特に好ましくは600〜800℃である。熱処理は、真空チャンバー中において行うのがよく、熱処理時間は3分〜3時間程度が良く、特に好ましくは30分〜1時間程度である。下地層は、熱処理を行ったのち室温へ冷却するのが好ましい。Cr/CoFeの2層膜からなる下地層の場合は、上記の方法でCr層を作製した後、例えば膜厚10nmのCoFe層をCo50Fe50組成ターゲットから室温でスパッタ作製する。
【0030】
続いて、第一の強磁性層が下地層の上に成膜される(S104)。第一の強磁性層としてCoFeAl層を用いる場合は、例えば膜厚5nmのCoFeAl層をCo50Fe25Al25組成ターゲットからスパッタ作製する。続いて、第一の強磁性層の成膜された基板を熱処理する(S104)。例えば、真空チャンバー内において250〜400℃で熱処理を10〜30分程度行い、室温へ冷却する。
【0031】
次に、バリア層を形成する(S106)。
この形成プロセスの詳細を、図3を参照して説明する。好ましくは、まず、S104の熱処理をへた基板に、室温でMg層を成膜する(S120)。このMg層は、例えば、例えば直流(DC)スパッタを用いて原子1層の半分ないし原子5層分程度の膜厚(0.1〜1.0nm)とするのがよい。次に、この積層膜を酸化用チャンバー室に移動させて、MgAl合金層を成膜する(S122)。このMgAl合金層の成膜では、例えば高周波(RF)スパッタを用いて、Mg17Al83合金組成ターゲットからMgAl合金層を、例えば3原子層分程度分ないし10原子層分程度の膜厚(0.5〜2.5nm)で成膜する。なお、本実施形態に係るMTJ素子膜の製造方法では、工程S120は省略することができる。また、工程S120として、Mg層の代わりに、工程S122で成膜されるMgAl合金層よりもMg含有量がより多い組成を有するMgAl層を成膜してもよい。さらに、これらのMg層およびMgAl層は、酸素を含む形態であってもよい。
続いて、このMgAl合金層の成膜された基板を酸化処理する(S124)。まず、アルゴンと酸素の混合ガスを酸化用チャンバーへ導入する。次に、誘導結合プラズマ(ICP)による酸化処理を行う。すると、Mg層とMgAl層が一体の酸化物となりバリア層が形成される(S126)。酸化処理には例えば5Paの純酸素を真空チャンバーへ導入し、1分〜1時間保持して自然酸化膜として得る方法でも良い。この酸化処理の終了時には、バリア層はスピネル構造ではなく不規則構造を有している。この酸化処理の後に、真空中で250〜300℃での熱処理を10〜30分程度行なうと結晶化が促進するためよい。熱処理を行ったのち基板を室温まで冷却する(S128)。
【0032】
次に、図2に戻り、バリア層が形成された基板に、第二の強磁性層を成膜する(S108)。第二の強磁性層に対応する層としては、例えばCoFeAl(5〜20nm)をCoFeAl組成の合金ターゲットから直流スパッタによって作製する。
その後この層を熱処理することでバリア層をスピネル構造に変態させる。そのためにはTCFA=450〜600℃の温度で15〜60分程度熱処理するとよい(S110)。
引き続き、室温まで基板を冷却した後、キャップ層としてIrMn(8〜15nm)、Ru(2〜20nm)の保護膜を室温で成膜する(S112)。なお、併せて上部電極層を成膜しても良い。
【0033】
以下、図4乃至図9を参照して、本実施形態のバリア層とそれを用いたMTJ素子の特性について以下の実施例として説明する。
【実施例1】
【0034】
まず、図4を参照して、第二の強磁性層6であるCo基ホイスラー合金層を、バリア層5であるスピネルMgAl層上に隣接して作製する手法を示す。Co基ホイスラー合金層の例としてCoFeAl層の場合を示す。超高真空直流マグネトロンスパッタ装置を用いて、単結晶MgO(001)基板上に下地層として室温でCr(40nm)層を作製した。結晶性と平坦性を向上させるため、Cr層の形成後に500℃で真空チャンバー中において1時間の熱処理を行ったのち室温へ冷却した。その上にCoFe(10nm)層をCo50Fe50組成ターゲットからスパッタ作製し、その後真空チャンバー内において250℃で熱処理を15分行い室温へ冷却した。
【0035】
引き続き室温でMg(0.45nm)を成膜したのち、この積層膜を酸化用チャンバー室に移動した。Mg17Al83合金組成ターゲットから高周波(RF)スパッタを用いてMgAl合金層(0.75nm)を成膜した。成膜されたMgAl膜の組成はMg19Al81であった。その後アルゴンと酸素の混合ガスを酸化用チャンバーへ導入して誘導結合プラズマ(ICP)による酸化処理を行うことでMg層とMgAl層が一体の酸化物となりバリア層が形成された。このときの導入ガスはアルゴンガス5Paおよび酸素ガス1Paである。ICPの形成のために、2インチ径スパッタターゲットとスパッタターゲット近くに配置した一回巻コイルに、RF電力をそれぞれ5Wおよび100W投入した。酸化時には生成したICPと試料の間にシャッターを設け、ICPの影響を弱めることで酸化力を調整してある。用いた酸化時間は50秒である。この時点ではバリア層はスピネル構造ではなく不規則構造を有している。
【0036】
上記積層膜を再び成膜室に移動し、250℃の温度で15分熱処理した。引き続き第二の強磁性層に対応する層としてCoFeAl(10nm)をCo47.4Fe24.4Al28.2組成の合金ターゲットから直流スパッタ作製した。作製されたCoFeAl層の組成は組成分析からCo49Fe26Al25であり、ほぼCoFeAlの化学量論組成であることを確認した。その後、この層をTCFA=250〜600℃の温度で15分熱処理した。なお、TCFA=450〜550℃程度でバリア層がスピネル構造に変態する。引き続き、室温まで基板を冷却した後キャップ層としてRu(2nm)保護膜を室温で成膜した。
【0037】
図4にはTCFA=250、450、600℃として作製した膜のX線回折(XRD)パターンを示した。なお、見やすさのためTCFA=450℃および600℃のパターンは垂直上方向へずらして表記している。また、MgAl層およびRu層は2nm以下と薄いためこの測定では観察されない。図4(a)には面外方向のXRDパターンを示した。いずれの温度でもCoFeAl(CFAと表記)(002)ピークが得られており、このピークはB2構造の超格子ピークである。したがって、いずれのCoFeAl膜も少なくてもB2構造を有している。図4(b)にはMgO基板[110]方位にX線を入射して測定した面内XRDスキャンの結果を示す。
【0038】
図4(a)、(b)のいずれにおいても、温度上昇によって(002)および(200)ピーク強度が増大することからB2規則度が上昇していることを示している。また、面内スキャン(図4(a))では(00L)ピーク(Lは偶数)のみ、面外スキャン(図4(b))では(L00)ピークのみが形成された層から観測されることから、Cr層、CoFe層、MgAl層、CoFeAl層は全て(001)方位にエピタキシャル成長していることを示している。また、面内スキャンの広角側ではCr(002)ピークに加えて、CoFe(002)とCFA(004)の重なったピークが得られる。これはCoFeとCoFeAlはほぼ格子定数が等しいことに対応している。
【0039】
また、より高い温度を用いたTCFA=600℃のスキャンではこれらのピーク位置が近づくことがわかる。このことはこの温度ではCr層とCoFe層以降の層が相互拡散しており、各層の界面における結晶性の低下を示唆している。図4(b)の65°近傍では、Cr(200)、CoFe(200)、CoFeAl(400)の3つの層からのピークが重なって現れている。すなわちこれらの層の膜面内の格子間隔が全く等しいことを示している。そのため、CoFe層とCoFeAl層間に形成したMgAl層の面内格子間隔もこれらと等しいことを示しており、格子整合した構造が得られている。したがって、Cr層からCoFeAl層まで一貫して高い結晶性を有していることがわかる。以上の結果から、CoFeAl層は本発明による作製法によって、MgAl上に直接成膜可能であること、高いB2規則度を持って平坦膜として得られるため有効であることが分かる。
【実施例2】
【0040】
次に、図5を参照して、実施例1で示した手法を応用することでMTJ素子を形成する例を示す。
実施例1と同一の超高真空直流マグネトロンスパッタ装置を用いて、単結晶MgO(001)基板上に下地層として室温でCr(40nm)/CoFe(5nm)の2層からなる膜を作製した。Cr層成膜後には500℃で真空中において熱処理を行っている。その上に第一の強磁性層としてCoFeAl(5nm)を実施例1と同一の手法でスパッタ作製した。その後CoFeAl膜の結晶性を向上させるため250℃で下地層と同様に熱処理し室温へ冷却した。引き続き室温でMg(0.45nm)を成膜したのち、この積層膜を酸化用チャンバー室に移動した。引き続き、実施例1と同一の手法を用いて、Mg(0.45nm)/MgAl合金(0.75nm)からなる層を形成し、その後に酸化処理を行うことでバリア層を形成した。このときの酸化条件も実施例1と同一である。次に上記積層膜を再び成膜室に移動し、250℃の温度で15分熱処理した。
【0041】
引き続き第二の強磁性層としてCoFeAl(6nm)を成膜し、この層をTCFA=250〜500℃の温度で15分間熱処理した。引き続き、上部電極層として、CoFe(0.5nm)/IrMn(12nm)/Ru(10nm)積層膜を室温で成膜し、スピンバルブ型MTJ素子を作製した。このときCoFe層は上部CoFeAl層とIrMn層間の磁気的結合を増強させる役割を持っている。また、Ruは保護膜であるとともに微細加工におけるマスクの役割もしている。
【0042】
次に、作製した多層膜を真空チャンバーから取り出し、5kOeの磁場を印加しながら175℃の温度において30分間、積層膜全体を別の真空チャンバー中で熱処理し、上部CoFeAl層に一方向性の異方性を付与した。その後上記積層膜をフォトリソグラフィとArイオンミリングを用いて約10μm×5μmのサイズに微細加工した。微細加工ではフォトレジストからなるマスクを素子形状に形成した後、上部Ru層からMgAl層までイオンミリングによるエッチングを行うことで円柱状素子を作製した。引き続き、層間絶縁膜として酸化シリコン層を形成させ、上部電極と下部電極間を電気的に絶縁させた。その後フォトレジストのリフトオフを行なったのち、金からなる電気配線を下部Cr層と上部Ru層からそれぞれ引き出した。作製した微細加工素子は外部磁場を変化させながら直流四端子法を用いた伝導特性評価を行った。このとき抵抗値の外部磁場による変化を測定することでTMR比を決定した。TMR比は2層のCoFeAl層の磁化が平行と反平行状態の抵抗をそれぞれR、RAPとして、TMR比(%)=100×(RAP−R)/Rと定義した。
【0043】
図5には室温で測定したTMR比(上図)と面積抵抗(RA)値(下図)について、上部CoFeAl層形成後の熱処理温度TCFA依存性を示している。このとき用いたバイアス電圧は10mV以下である。TMR比の図では、比較例としてCoFeAl/MgO/CoFeAl(非特許文献2)、CoFeAl/MgAl/CoFe(非特許文献3)による値をそれぞれ点線と一点鎖線で示している。この図から作製したMTJ素子は、TCFA上昇とともにTMR比が向上することがわかる。またTCFA=400℃以上でCoFeAl/MgO/CoFeAl(TCFA=450℃以上でCoFeAl/MgAl/CoFe)よりも高い値に達している。より高い値が得られたのはMgAl層の上下に隣接させた2層のCoFeAl層の寄与によるものである。したがって、CoFeAl/MgAl/CoFeAl構造を用いることが有効性であることを示している。また、RA値もTCFAの増加とともに増加しており、CoFeAlとMgAlとの界面構造も同時に変化していくことを表している。
【実施例3】
【0044】
次に、図6ないし図9を参照して、実施例2で示した手法を応用させることでMTJ素子を形成し、TMR比を向上させる例を示す。実施例2と同一の装置、手法を用いてMgO(001)基板上にCr(40nm)/CoFe(5nm)/下部CoFeAl(5nm)多層膜を形成した。その後直流スパッタ法を用いてCoFe層を0.5nm成膜した。その後直ちに250℃で15分間真空中熱処理を行い室温まで冷却した。その後実施例1および2と同一の手法を用いてMgAlバリア層、上部CoFeAl層を形成し、TCFA=550℃の温度で真空中熱処理を行った。室温まで冷却した後、実施例2と同一の方法で上部電極層として、CoFe(0.5nm)/IrMn(12nm)/Ru(10nm)積層膜を成膜し、スピンバルブ型MTJ素子を作製した。その後、175℃の温度で30分の磁場中熱処理を行った後、微細加工素子を作製し、TMR比の測定を行った。また、電流−電圧特性を測定し、それを数値微分することで微分コンダクタンス曲線(dI/dV曲線)を得た。
【0045】
図6は上記のCoFeAl/CoFe挿入層/MgAl/CoFeAl構造をもつMTJ素子の室温で測定したTMR比の磁場依存性(TMR曲線)を示した図である。この試料において最大のTMR比である342%が得られた。また、4Kで測定したTMR比は616%であった。極薄のCoFe層を下部CoFeAl層とMgAl層間に挿入することで、酸化プロセスによるダメージを低減でき、実質的にTMR比を向上できることを示している。このTMR比はCoFe/MgAl(不規則スピネル構造を持つ)/CoFeで得られている値、室温308%よりも有意に大きいことから、本発明の実施形態で示したMTJ素子構造および製造方法の有効性がわかる。
【0046】
図7は上記のCoFeAl/CoFe挿入層/MgAl/CoFeAl構造をもつMTJ素子の室温(300K)と低温(4K)での微分コンダクタンス曲線の変化を示した図である(平行磁化配列状態)。この図ではゼロバイアス電圧の値を1として規格化してある。なお見やすさのために4Kの曲線は垂直上方向にずらして表記をしている。微分コンダクタンス曲線は、バリア層と強磁性層間の電子状態を反映することが知られており、伝導機構と結晶品質を判断できる。300K、4Kの曲線の両方において微分コンダクタンス曲線は電圧方向に対して非対称である。また、4Kでは、実線矢印で示した±0.35V付近に極小構造が、また、点線矢印で示した±0.2V付近に極大構造が観察された。非対称性は上下のバリア層界面の状態が異なっていることを示している。その一方、正負電圧でほぼ同じ電圧位置に極大、極小構造が見られることは、度合いの差はあるものの、CoFeAlに特有の電子構造を反映していると考えられる。さらに、負バイアス方向(上部から下部電極へ電子eが流れる方向)においては平坦な領域が形成されていることから、上部CoFeAl層の電子構造が特異的であることが示唆される。このような微分コンダクタンス曲線の振る舞いは、少数スピンバンドにバンドギャップを有しているハーフメタル層から電子がトンネルする場合にも報告されていることから、上部CoFeAl層はハーフメタル的であることが期待される。一方、正電圧方向ではこのような明確な平坦構造は見られず、下部CoFeAl層はハーフメタルでは無く、スピン分極率が上部層よりも小さいことを反映していると思われる。これはCoFe層が挿入されており下部CoFeAlの特徴が弱まること、また、酸化プロセスによる下部CoFeAl界面へのダメージ低減が不十分であることを示していると思われる。それにもかかわらず、340%を超える大きな室温TMR比が得られたことは、さらに向上の余地があることをも示唆している。
【0047】
各層の詳細な結晶構造を確認するために、走査型透過型電子顕微鏡(STEM)を用いて上記のMTJ素子膜の断面観察を行った。図8(a)は上記積層膜のMgO基板の[110]方位に切り出した断面構造について、MgAl層(図ではMAO層と記載)付近について散乱暗視野法(ADF−STEM)観察像を示す。下部CoFeAl層から上部CoFeAlまで完全に格子整合したエピタキシャル成長していることがわかる。また、MgAl層上下界面とも比較的平坦であり、明瞭な欠陥は見られない。したがって、上下CoFeAl層とMgAl層の格子不整合は1%よりも小さく、格子整合していることを示している。
【0048】
次に、図8(b)はエネルギー分散型X線分析法(EDS)を用いて決定した図8(a)に対応する領域における各元素の濃度プロファイルを示したものである。MgAl層にはMg、Al、Oの各元素が確認でき、MgAlに近い組成が得られている。また、上下CoFeAl層のAlはもとの組成よりも少し低下しているものの、各層の相互拡散の度合いは小さく、各層の界面が規定できることもわかる。また、図8(a)にInt−CoFeと表記した下部CoFe挿入層においてもAl元素の存在が確認できるため、高い熱処理温度(550℃)によってCoFe挿入層へ少量のAl原子が拡散移動したと考えられる。したがって、下部界面のCoFe挿入層は酸化ダメージ抑制効果に加え、CoFeからCoFeAlへ組成が近づくことによる効果も高いTMR比に寄与していると考えることができる。
【0049】
図9はナノ電子線ビーム回折像を示したものである。図中、図9(a)は上部CoFeAl層内部、図9(b)はMgAl層内部、図9(c)は下部CoFeAl層内部、図9(d)はMgAl/上部CoFeAl界面近傍、図9(e)はCoFe挿入層/MgAl界面近傍からの像である。また図中、スポットに書かれている「C」および「M」はそれぞれ、CoFeAl、MgAlに対応する回折スポットを示している。まず図9(b)からスピネル規則構造の形成を意味する{022}面のスポット(M022などと記載)が観察されることから、バリア層はスピネル構造を有していることがわかる。したがって、通常のCoFe強磁性層を用いた場合では100%を大きく超える高いTMR比は容易に得られない結晶構造を有している。図9(a)および図9(c)から上下CoFeAl層の両方に{002}および{222}B2超格子スポットが観察される(C002などと記載)。一方で、L2規則構造を示す{111}超格子スポットはCoFeAl層から全く観察されないことから、B2構造であることがわかる。また、上部界面(d)にもB2超格子スポットが明瞭に観察されることから、上部CoFeAl界面は非常に高品質であり、高いTMR比が得られたと結論づけられる。下部界面(e)ではCoFe層の挿入のため相対的に弱いもののB2超格子スポットが観察されることから下部CoFeAl層も高いTMR比の実現に寄与していると考えられる。
【0050】
B2合金においても、スピネル規則構造を有するMgAlバリアを用いると格子ユニットサイズの違いからBCC系合金と同様にバンド折りたたみ効果が起こり、スピン分極率を有意に低下させる恐れがある。しかし、合金がハーフメタルであり、バリア層の上下両方の強磁性体として用いることができればスピン分極率の低下は起こりえない。したがって、本発明のMTJ素子構造は、格子ユニットサイズが大きいスピネル構造およびその類似構造を持つバリアを用いることによるTMR比低下という問題を、高いスピン分極率を持つB2型Co基ホイスラー合金層に挟み込むことで解決できることを示している。また、実施例2、3に示したMTJ素子では下部CoFeAl層がハーフメタルとして期待されるP=1ではないことが示唆されるにも関わらず高いTMR比が得られている。したがって、片方のB2合金層が完全スピン偏極した状態ではなくても本発明の実施形態で示したMTJ素子構造および製造方法が有効であることが理解される。
なお、実施例1〜3では、Mg(0.45nm)/MgAl合金(0.75nm)からなる層を形成し、その後に酸化処理を行うことでバリア層を形成する例を示したが、Mg層を省略してMgAl層を1.2nmとした場合、また、Mg層の代わりに、成膜後の組成がMg19Al81よりもMg含有量が多い組成を有するMg40Al60層を成膜した場合にも、上記と同様の結果が得られることが確認されている。
<比較例1>
【0051】
次にMTJ素子の作製温度を375℃までに制限した場合のMgAlバリアを比較例として示す。実施例3と同一の方法を用いて、MgO(001)基板上にCr(40nm)/CoFe(25nm)/CoFeAl(5nm)/CoFe挿入層(1nm)を作製し、次にMg(0.45nm)/MgAl(0.9nm)構造を作製した後実施例1〜3と同一の方法でバリア層を作製した。次にCoFe(5nm)層をスパッタにより作製した後300℃で真空中熱処理を行った。その後、実施例2および3と同一の方法を用いて上部電極としてIrMn(12nm)/Ru(7nm)を成膜した後、試料を取り出した。その後に磁場中において375℃において30分間真空中熱処理を行った。
【0052】
図10(a)には形成したMTJ素子のADF−STEM像を示す。観察方位は図8(a)と同一である。また、図10(b)にMgAlのNBD像を示した。図10(a)から、高品質なエピタキシャル成長と完全格子整合したMgAl界面が観察される。一方、図10(b)からスピネル規則構造を示す{022}スポットは全く観察されない。したがって、低温で作製したMgAlバリアは不規則構造であることがわかる。また、この素子では室温で280%の高いTMR比が得られているが、バリア層が不規則構造であることによるものである。おおむね400℃よりも高い温度ではスピネル規則構造化が促進されることから、そのような作製条件を用いて250%を超える室温TMR比を得るためには下部強磁性層のみならず、上部強磁性層にもスピン分極率が高いB2型ホイスラー合金を形成することが必要である。
<比較例2>
【0053】
次にMTJ素子のバリア層にMgAlの代わりにMgO用いた例を比較例として示す(非特許文献4)。MgO(001)基板上にCr(40nm)下地を作製後に30nmのCoFeAl層をRFスパッタ法にて作製した。その後480℃において15分真空チャンバー内で熱処理を行った後室温へ冷却した。次にMgOをターゲットとしてRFスパッタ法を用いてMgO層を1.8nm成膜した。引き続き、CoFeAl層を5nm上記の方法で成膜した。次に、上部電極としてIrMn(12nm)/Ru(7nm)を成膜した後、試料を取り出し、磁場中において450℃において60分間真空中熱処理を行った。微細加工後にTMR比を室温および低温(15K)で測定したところ、それぞれ223%、415%であった。これらの値は実施例3で示したMgAlバリアを用いた場合の値である室温342%、低温(4K)616%と比較して小さい。これはCoFeAlとMgOとの間の3.8%の格子不整合によってMgO直上にCoFeAl層を結晶性良く成長させることができないためである。
【0054】
なお、本発明の実施形態として、上記の説明を行ったが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、特に、スピンMOSFETへの応用に際し、Si基板やGe基板上に本発明のバリア層と高スピン分極磁性層をスタックする場合、本発明のスピネル構造からなる非磁性物質をバリアとして用いると、格子ひずみの少ない磁性層を成長させることが可能であり、結果として磁性層からSiやGeへ効率よくスピン注入することが可能なスピン注入素子を構成できる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のMTJ素子はハードディスク用磁気ヘッドやMRAMに応用できるほか、強磁性2重トンネル接合からなるスピン共鳴トンネル素子、及び半導体への効率的なスピン注入が必要とされるスピンMOSFETなどを用いたスピンロジックデバイス、高性能磁気センサーなど、多くのスピントロニクスデバイスに利用することができる。
また、本発明のMTJ素子は高いTMR比によってハードディスクドライブ装置のヘッドセンサーとして利用が可能であり、大容量なハードディスクドライブ装置が開発できる。また、本発明によれば半導体層への高効率なスピン注入可能なバリア/ハーフメタル層を提供できることから、スピンMOSFETの中核部として使用でき、不揮発性ロジックLSI回路の開発ができる。
【符号の説明】
【0056】
1 MTJ素子膜
2 基板
3 下地層
4 第一の強磁性層
5 バリア層
6 第二の強磁性層
7 上部電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】