(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2017年9月8日
【発行日】2018年12月27日
(54)【発明の名称】射出成形用金型
(51)【国際特許分類】
B29C 45/73 20060101AFI20181130BHJP
B29C 45/78 20060101ALI20181130BHJP
B29C 45/27 20060101ALI20181130BHJP
【FI】
B29C45/73
B29C45/78
B29C45/27
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】16
【出願番号】特願2016-561877(P2016-561877)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2016年3月3日
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】000147888
【氏名又は名称】エスバンス 株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103975
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】三好 秀樹
【テーマコード(参考)】
4F202
4F206
【Fターム(参考)】
4F202AP05
4F202AR06
4F202CA11
4F202CB01
4F202CK03
4F202CK04
4F202CN01
4F202CN21
4F202CN27
4F206AP056
4F206AR066
4F206JA07
4F206JL05
4F206JN14
4F206JN44
4F206JQ81
(57)【要約】
マニホールドの温度を短時間で射出成形が可能な温度に加熱、保持することができると共に、マニホールド内のランナーの温度を全長に亘って溶融樹脂を良好な溶融状態となるように保持しながらキャビティ側に供給することができるようにする。マニホールド4内に、ランナー6に沿って内蔵しているカートリッジヒータ9において、マニホールド4におけるスプルー5側の領域4aとランナーブッシュ7側の領域4bをそれぞれ加熱する第1ヒータ部分9aと第2ヒータ部分9bの発熱温度を、中間領域9cを溶融樹脂の溶融温度に略等しい温度となるように加熱する第3ヒータ部分9cよりも高温度に設定し、スプルー5側の領域4aとランナーブッシュ7側の領域4bからの放熱量が大きいにもかかわらず、マニホールド4を全長に亘って溶融樹脂の溶融温度に略等しい温度となるように構成している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融樹脂をキャビティに供給するためのランナーブッシュを設けている固定金型と、
上記固定金型上に配設され、射出成形機のノズルを接続させるスプルーとこのスプルーから上記ランナーブッシュに向かって分岐したランナーとを設けているマニホールドと、 上記スプルーの下方の固定金型とマニホールドとの間の隙間に介装している受圧片と、 上記マニホールド内に各ランナーに沿って配設され、上記マニホールドにおける上記スプルー側の領域を加熱する第1ヒータ部分と上記ランナーブッシュ側の領域を加熱する第2ヒータ部分と上記スプルー側の領域とランナーブッシュ側の領域間の中間領域を加熱する第3ヒータ部分とを有するカートリッジヒータとを備えてあり、
このカートリッジヒータにおける上記第3ヒータ部分の発熱温度を溶融樹脂の溶融温度を保持し得る温度に設定していると共に上記第1、第2ヒータ部分の発熱温度をこの第3ヒータ部分の加熱温度よりも高い温度に設定していることを特徴とする射出成形用金型。
【請求項2】
カートリッジヒータにおいて、マニホールドのランナーブッシュ側の領域を加熱する第2ヒータ部分の発熱温度を、スプルー側の領域を加熱する第1ヒータ部分の加熱温度よりも高い温度に設定していることを特徴とする請求項1に記載の射出成形用金型。
【請求項3】
マニホールド内におけるランナーブッシュ側の領域に温度センサーを配設していることを特徴とする請求項1に記載の射出成形用金型。
【請求項4】
第1ヒータ部分によって加熱されるスプルー側の領域におけるマニホールドと固定金型との間の隙間部分に介在され、マニホールド側から固定金型側に放熱するためのスペーサ部材を備えていることを特徴とする請求項1に記載の射出成形用金型。
【請求項5】
ランナーブッシュは、上端部に固定金型とマニホールドとの間の隙間よりも厚みが薄い鍔部、及び、上記鍔部から上方の上端部外周面に形成され且つマニホールドに設けている螺子孔に螺合させる螺子部を有し、上記螺子部を上記螺子孔に螺合させて、上記鍔部をマニホールドの下面に圧接させた状態にしてランナーブッシュをマニホールドに取付けていることを特徴とする請求項1に記載の射出成形用金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機のノズルから供給される溶融樹脂を高温に保持しながら金型のキャビティ内に送り込むホットランナーシステムを備えた射出成形用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
ホットランナーシステムは、内部に溶融樹脂の通路となるランナーを設けたマニホールドと、このマニホールドから金型のキャビティ側に溶融樹脂を供給するランナーブッシュとを備えてなる金型構造を有し、従来から、例えば、特許文献1に記載されているようなホットランナーシステムを備えてなる射出成形金型が広く知られている。
【0003】
この射出成形用金型は、固定金型上に適当な隙間を存してマニホールドを配設してあり、マニホールドには、射出成形機のノズルを接続させるスプルーとこのスプルーから放射状に分岐してその先端をランナーブッシュに連通させている複数のランナーが備えられ、さらにこれらのランナーに沿ってランナー内を流通する溶融樹脂を加熱、保温するためのヒータが内蔵されている。
【0004】
また、固定金型とマニホールドとの間の上記隙間における上記スプルーの下方に、射出成形機のノズルからの圧力によりマニホールドが変形するのを防止するための受圧片を介装している。なお、この受圧片はマニホールドからの発熱が固定金型に伝達するのを防止する断熱機能も兼備している。
【0005】
一方、上記ランナーブッシュは固定金型内に配設されていて、マニホールドのランナーから流入する溶融樹脂を金型のキャビティ内に射出するための樹脂通路を設けてあり、この樹脂通路内にはマニホールド上に設置しているシリンダによって上下動するバルブピンが挿入されてあり、このバルブピンの先端によってキャビティに向かって開口している樹脂通路のゲートを開閉させるように構成している。
【0006】
また、このランナーブッシュの上端部は固定金型の上面から固定金型とマニホールドとの間の上記隙間内に突出していて、その上端面をマニホールドの端部下面に密着させていると共に、このランナーブッシュの上端部を囲むようにして上記隙間内に断熱リングを介装している。さらに、マニホールドの端部には、マニホールドをボルトによって固定金型に固定するためのボルト挿通孔を有するフランジ部が設けられている。
【0007】
このように構成したホットランナーシステムを備えた射出成形用金型は、射出成形機を稼動するに際して、マニホールド内に内蔵しているヒータによりマニホールドを加熱してマニホールドの温度を、スプルーを通じてマニホールドのライナー内に供給される溶融樹脂がその溶融温度を保持し得る所定の温度に達するまで立ち上げ、しかるのち、射出成形機のノズルからの溶融樹脂をスプルー、ランナー、ランナーブッシュを通じて金型キャビティ内に充填することにより射出成形を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−28744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記のようにヒータによってマニホールドを所定の温度に達するまで立ち上げる際に、マニホールドを加熱する熱の一部が、上記スプルー側においては受圧片やマニホールドを固定金型に固定させている部分等から固定金型側に放熱され、マニホールドの端部側においては断熱リングやマニホールドを固定金型に固定しているフランジ部から固定金型側に放熱されると共にマニホールドの端部上に立設しているシリンダからも放熱されて、マニホールドを射出成形が可能な所定の温度にまで立ち上げるには比較的長時間を要して生産能率が低下することになる。
【0010】
なお、上記受圧片や断熱リングは、マニホールドを形成している金属材料よりも伝熱性の低いステンレス等の金属材料から形成されてあり、熱を完全に遮断するものではなく、これらの受圧片や断熱リングを介してマニホールド側から固定金型側に放熱されることになる。
【0011】
マニホールドを短時間で射出成形が可能な所定の温度に達するまで立ち上げるには、上記ヒータの加熱温度を上げれば可能となるが、そうすると、スプルーとランナーブッシュとの間のマニホールドの中間部分の温度が上がり過ぎ、射出成形時においては樹脂が分解して樹脂特性が劣化するという問題を引き起こすことになる。
【0012】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、射出成形を行うに際して、マニホールドの温度を短時間で射出成形が可能な温度に加熱、保持することができ、さらに、樹脂特性を劣化させることなく良好な溶融状態を保持させながらキャビティ側に供給することができるマニホールドシステムを備えた射出成形金型を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明の射出成形用金型は、請求項1に記載したように、溶融樹脂をキャビティに供給するためのランナーブッシュを設けている固定金型と、上記固定金型上に配設され、射出成形機のノズルを接続させるスプルー及びこのスプルーから上記ランナーブッシュに向かって分岐したランナーとを設けているマニホールドと、上記スプルーの下方の固定金型とマニホールドとの間の隙間に介装している受圧片と、上記マニホールド内に各ランナーに沿って配設され、上記マニホールドにおける上記スプルー側の領域を加熱する第1ヒータ部分と上記ランナーブッシュ側の領域を加熱する第2ヒータ部分と上記スプルー側の領域とランナーブッシュ側の領域間の中間領域を加熱する第3ヒータ部分とを有するカートリッジヒータとを備えてあり、このカートリッジヒータにおける上記第3ヒータ部分の発熱温度を溶融樹脂の溶融温度を保持し得る温度に設定していると共に上記第1、第2ヒータ部分の発熱温度をこの第3ヒータ部分の加熱温度よりも高い温度に設定していることを特徴とする。
【0014】
このように構成した射出成形用金型において、請求項2に係る発明は、上記カートリッジヒータにおいて、マニホールドのランナーブッシュ側の領域を加熱する第2ヒータ部分の発熱温度を、スプルー側の領域を加熱する第1ヒータ部分の加熱温度よりも高い温度に設定していることを特徴とする。
【0015】
請求項3に係る発明は、上記マニホールド内におけるランナーブッシュ側の領域に温度センサーを配設していることを特徴とする。
【0016】
また、請求項4に係る発明は、上記第1ヒータ部分によって加熱されるスプルー側の領域におけるマニホールドと固定金型との間の隙間部分に介在され、マニホールド側から固定金型側に放熱するためのスペーサ部材を備えてこと特徴とする。
【0017】
請求項5に係る発明は、上記ランナーブッシュは、上端部に固定金型とマニホールドとの間の隙間よりも厚みが薄い鍔部、及び、上記鍔部から上方の上端部外周面に形成され且つマニホールドに設けている螺子孔に螺合させる螺子部を有し、上記螺子部を上記螺子孔に螺合させて、上記鍔部をマニホールドの下面に圧接させた状態にしてランナーブッシュをマニホールドに取付けていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る発明によれば、マニホールドに各ランナーに沿って内蔵しているカートリッジヒータは、マニホールドにおけるスプルー側の領域を加熱する第1ヒータ部分と、ランナーブッシュ側の領域を加熱する第2ヒータ部分と、上記スプルー側の領域とランナーブッシュ側の領域間の中間領域を加熱する第3ヒータ部分とを有し、この第3ヒータ部分の発熱温度を溶融樹脂の溶融温度を保持し得る温度に設定していると共に上記第1、第2ヒータ部分の発熱温度を上記第3ヒータ部分の加熱温度よりも高い温度に設定しているので、射出成形機を稼動させる前に、上記カートリッジヒータによりマニホールドを加熱すると、このカートリッジヒータにおける発熱温度の高い上記第1、第2ヒータ部分によってマニホールドを急速に加熱することができ、短時間で射出成形が可能な温度にまでマニホールドの温度を立ち上げることができる。
【0019】
さらに、カートリッジヒータの第1ヒータ部によって溶融樹脂の溶融温度以上の高い温度にまで加熱されるスプルー側の領域は、固定金型上にマニホールドを受止させている受圧片やこの受圧片周囲の固定金型と接触している部分からの固定金型側への放熱によって降温するので、この領域を、射出成形機のノズルからスプルーを通じてライナー内に供給される溶融樹脂を良好な溶融状態に保持し得る温度に調整することができる。
【0020】
同様に、カートリッジヒータの第2ヒータ部によって溶融樹脂の溶融温度以上の高い温度にまで加熱されるランナーブッシュ側の領域においても、マニホールドを固定金型に固定している部分やマニホールドの端部上に立設しているシリンダ等からの放熱によって降温するので、この領域を、射出成形機のノズルからスプルーを通じてライナー内に供給される溶融樹脂を良好な溶融状態に保持することができる温度に調整することができる。
【0021】
一方、マニホールドにおけるスプルー側の領域とランナーブッシュ側の領域との間の中間領域においては、固定金型側への放熱は殆ど生じなく、その上、この中間領域を加熱するカートリッジヒータにおける第3ヒータ部分の発熱温度を溶融樹脂の溶融温度を保持し得る温度に設定しているので、この領域のランナー内を通過する溶融樹脂の樹脂特性を劣化させることなく、射出成形機のノズルからスプルーに注入される溶融樹脂を、ランナーを通じてランナーブッシュ側に良好な溶融状態を保持させながら供給することができる。
【0022】
また、請求項2に係る発明によれば、上記カートリッジヒータにおいて、マニホールドのランナーブッシュ側の領域を加熱する第2ヒータ部分の発熱温度を、スプルー側の領域を加熱する第1ヒータ部分の発熱温度よりも高い温度に設定しているので、第1ヒータ部分によって加熱されるスプルー側よりも発熱量の大きいランナーブッシュのゲート開閉用シリンダや固定金型に対する固定部等を有する上記ランナーブッシュ側の領域をスプルー側と略同じ温度となるように加熱することができ、従って、カートリッジヒータからの発熱によってマニホールドを全長に亘って溶融樹脂の溶融温度を保持し得る略均一な温度に設定することができる。
【0023】
請求項3に係る発明によれば、上記マニホールド内におけるランナーブッシュ側の領域に温度センサーを配設しているので、スプルー側からランナーブッシュ側に至るランナー内を流動する溶融樹脂の温度を検出して常に良好な溶融状態を保つように調節することができる。
【0024】
請求項4に係る発明によれば、上記第1ヒータ部分によって加熱されるスプルー側の領域におけるマニホールドと固定金型との間の隙間部分にマニホールド側から固定金型側に放熱するためのスペーサ部材を介装しているので、上記カートリッジヒータによってマニホールドを射出成形が可能な温度にまで立ち上げた後に、発熱温度が高い第1ヒータ部分によって加熱されるスプルー側の領域の加熱量の一部をこのスペーサ部材を通じて放熱してこのスプルー側領域を流通する溶融樹脂を所定の良好な溶融状態となるように加熱することができる。
【0025】
また、請求項5に係る発明によれば、上記ランナーブッシュは、その上端部に固定金型とマニホールドとの間の隙間よりも厚みが薄い鍔部、及び、上記鍔部から上方の上端部外周面に形成され且つマニホールドに設けている螺子孔に螺合させる螺子部を有しているので、マニホールドに対するランナーの取付けが簡単且つ確実に行うことができると共に、取付けた状態においてはランナーブッシュの上端鍔部が固定金型に接することなくこの鍔部と固定金型間に隙間が設けられるので、マニホールド側からこの鍔部を通じて固定金型側に放熱するのを防止することができ、マニホールドの端部からの過度の放熱を抑制してランナーブッシュ側に流動する溶融樹脂を良好な溶融状態となるように保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図2】射出成形用金型におけるマニホールドの簡略平面図。
【
図3】マニホールド内における一つのランナーとこのランナーに沿って配設しているカートリッジヒータとの横断面図。
【
図4】カートリッジヒータの一部を省略した横断面図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の具体的な実施例を図面に基づいて説明すると、
図1、
図2において、射出成形用金型は、固定金型1と移動金型2とを上下に対向させて配設し、これらの金型1、2の対向面間で成形品を得るためのキャビティ3を形成するように構成してあり、上記固定金型1上には一定幅と一定高さを有し長さが長いブロック形状に形成されたマニホールド4が配設されてあり、ボルト等によって固定金型1に固定されている。
【0028】
マニホールド4には、射出成形機の溶融樹脂供給用ノズル27を接続させるスプルー5を上方に向かって突設してあり、マニホールド4はこのスプルー5の配設個所を中央にして平面方向に放射状に延びた複数のブロック形状の部分によって形成されている。
【0029】
マニホールド4内には、上記スプルー5の下端から分岐して先端がそれぞれのマニホールド部分の端部に至る溶融樹脂の通路となるランナー6が設けられあり、スプルー5から放射状に延びている各ランナー6の端部は各マニホールド4の端部側に設けているランナーブッシュ7内の樹脂通路8の上端開口部にそれぞれ連通している。従って、射出成形機のノズル27からスプルー5内に注入された溶融樹脂は、スプルー5の下端から放射状に延びている各マニホールド4内の各ランナー6に分流してこれらのランナー6を通じてそれぞれ対応するランナーブッシュ7の樹脂通路8に送り込まれるように構成している。
【0030】
さらに、マニホールド4内には、各ランナー6に沿ってこのランナー6を両側から挟むようにしてカートリッジヒータ9、9を並設し、このカートリッジヒータ9によってマニホールド4におけるスプルー5からランナーブッシュ7に至る部分を全長に亘って所定の温度にまで加熱し、その加熱温度を保持し得るように構成している。なお、上記ランナー6及びカートリッジヒータ9を設けているマニホールド4と、このマニホールド4内の各ランナー6からキャビティ3側に溶融樹脂を供給するランナーブッシュ7を備えた金型構造によってホットランナシステムが構成されている。
【0031】
上記カートリッジヒータ9は、
図4に示すように、有底の金属パイプ10の内部にニクロム線等の電熱線11を巻き付けた円筒状の絶縁コア12を挿入し、この絶縁コア12の周囲に電気絶縁粉末13を充填し、金属パイプ10の開口端からリード線を引き出してなる構造を有し、上記絶縁コア12に巻装している電熱線11の巻密度を絶縁コア12の長さ方向の両端部側が絶縁コア12の長さ方向の中間部よりも大きい巻密度、具体的には一端部側に巻装している電熱線11の巻密度を中間部の巻密度の1. 1〜1.3 倍に、他端部側に巻装している電熱線11の巻密度を中間部の巻密度の1.5 〜2.0 倍になるように形成している。
【0032】
そして、このカートリッジヒータ9における一端部側と他端部側とに巻装している巻密度の大きい上記電熱線部分をそれぞれ第1ヒータ部分9aと第2ヒータ部分9bとし、巻密度の小さい中間部分を第3ヒータ部分9cとして、
図3に示すように、第1ヒータ部分9aによってマニホールド4におけるスプルー5側の領域4aを加熱させ、第2ヒータ部分9bによってマニホールド4におけるランナーブッシュ7側の領域4bを加熱させ、第3ヒータ部分9cによって上記スプルー5側の領域とランナーブッシュ7側の領域間の中間領域4cを加熱させるように構成している。
【0033】
マニホールド4における上記スプルー5側の領域4aとランナーブッシュ7側の領域4b間の中間領域4cを加熱するカートリッジヒータ9の上記第3ヒータ部分9cの発熱温度は、射出成形機のノズル27からスプルー5に注入する溶融樹脂の溶融温度に対して±10℃の温度、好ましくは溶融樹脂の溶融温度に略等しい温度にして、上記領域のスプルー5内を流動する溶融樹脂を良好な流動性と樹脂劣化の生じる虞れのない良好な溶融状態に保持し得るように設定している。溶融樹脂の溶融温度は、樹脂の種類等に応じて適宜設定されればよいが、(樹脂の融点+50℃)〜(樹脂の融点+150℃)が好ましい。溶融樹脂の溶融温度は、例えば、融点が170℃のポリプロピレンの場合、溶融樹脂の溶融温度は約220℃に設定されることが多く、融点が100〜125℃であるABSの場合、溶融樹脂の溶融温度は240〜250℃に設定されることが多い。樹脂の融点は、JIS K7121に準拠して測定された温度をいう。具体的には、樹脂の融点は、示差走査熱量計(DSC)を用いて昇温速度10℃/minの条件下にて30℃から300℃まで昇温してDSC曲線を測定し、得られたDSC曲線のピーク温度を融点とする。
【0034】
一方、マニホールド4における上記スプルー5側の領域4aを加熱するカートリッジヒータ9の上記第1ヒータ部分9aの発熱温度は、このスプルー5側の領域4aからの放熱量が上記中間領域4cよりも大きいので、その放熱量に見合う温度、具体的には(第3ヒータ部分9cの発熱温度+10℃)〜(第3ヒータ部分9cの発熱温度+20℃)となるように電熱線11の上記巻密度によって設定してあり、さらに、マニホールド4における上記ランナーブッシュ7側の領域4bにおいては、後述するように、ランナーブッシュ7のゲート7aを開閉するバルブピン14を駆動する流体圧シリンダ15が立設されていてこの流体圧シリンダ15等からの放熱量が上記スプルー5側の領域4aからの放熱量よりも大きいので、この放熱量に見合う温度、具体的には(第3ヒータ部分9cの発熱温度+30℃)〜(第3ヒータ部分9cの発熱温度+40℃)となるように電熱線11の上記巻密度によって設定している。
【0035】
さらに、マニホールド4におけるランナーブッシュ7側の領域4b内にこの領域4bの温度を検出する温度センサー16を配設してあり、領域4bの温度が溶融樹脂の溶融温度以上の所定の温度に上昇した際に、カートリッジヒータ9に対する通電を遮断してマニホールド4の温度を溶融樹脂の溶融温度にまで降下させ、上記領域4bの温度が溶融樹脂の溶融温度以下の所定の温度にまで降下した際に、カートリッジヒータ9に通電してマニホールド4の温度を溶融樹脂の溶融温度にまで上昇させるように制御回路を設けている。
【0036】
スプルー5を中央にしてこのスプルー5側から放射状に延びている上記マニホールド4の各端部には、その両側面下端部にボルト挿通孔17を有するフランジ部18が設けられてあり、これらのフランジ部18を固定金型1の上面に設置し、ボルト挿通孔17を通じてボルト19を固定金型1に設けている螺子孔(図示せず)に螺締させることにより、固定金型1上にマニホールド4を、このマニホールド4の下面と固定金型1の上面との間に一定の隙間20を設けた取付状態となるように固定している。
【0037】
上記隙間20は、固定金型1の上面に接触している上記フランジ部18以外のマニホールド4の下面全面と固定金型1の上面との間に設けられてあり、マニホールド4におけるスプルー5側の領域4aにおいて、スプルー5の下方における隙間部分に射出成形機のノズル27からの圧力によりマニホールドが変形するのを防止するための金属製の受圧片21を介装している。
【0038】
さらに、上記スプルー5側の領域4aにおいて、上記受圧片21の近傍位置の隙間部分に、カートリッジヒータ9の上記第1ヒータ部分9aによるマニホールド4に対する過剰な発熱量を固定金型1側に伝熱によって放熱させるための金属製のスペーサ部材22を介装している。
【0039】
マニホールド4の各端部側に設けている上記ランナーブッシュ7は、その上部を上記固定金型1とマニホールド4との隙間20側に突出させた状態にして固定金型1に設けている配設孔23内に配設されている。このランナーブッシュ7の上端部外周面に上記隙間20よりも厚みが薄い鍔部7aを設けていると共にこの鍔部7aから上端に至る外周面に螺子部7bを刻設してあり、この螺子部7bをマニホールド4に設けている螺子孔24に螺合させ、上記鍔部7aをマニホールド4の下面に圧接させた状態にしてランナーブッシュ7をマニホールド4に取付けている。
【0040】
なお、ランナーブッシュ7にはその外周面にバンドヒータ25が装着されてあり、上記ランナー6からこのランナーブッシュ7内の樹脂通路を通じてキャビティ3内に充填される溶融樹脂をこのバンドヒータ25によって加熱して良好な溶融状態を保持するように構成している。
【0041】
下面側にランナーブッシュ7を取付けている上記マニホールド4の各部の端部上には、油圧シリンダ又はエアーシリンダ等の流体圧シリンダ15が設置されてあり、この流体圧シリンダ15によってランナーブッシュ7の樹脂通路8内に挿入しているバルブピン14を上下動させ、キャビティ3側に向かって開口している上記樹脂通路8の下端ゲートをこのバルブピン14によって開閉させるように構成している。なお、上記流体圧シリンダ15はマニホールド4の端部上に立設している複数本の脚柱26上に配設されている。
【0042】
上記のように構成した射出成形用金型は、射出成形を開始するに際して、マニホールド4をカートリッジヒータ9によって加熱して射出成形が可能な温度に達するまで立ち上げる。
【0043】
この際、マニホールド4におけるスプルー5側の領域4aとランナーブッシュ7側の領域4bを加熱する第1、第2ヒータ部分9a、9bの発熱温度を、溶融樹脂の溶融温度よりも高い温度に設定しているので、マニホールド全体を急速に加熱して短時間で射出成形が可能な温度にまで立ち上げることができ、立ち上げた後は、スプルー5側の領域4aにおいては、この領域4aを加熱する第1ヒータ部分9aの発熱量の一部を、固定金型1上にマニホールド4を支持している受圧片21やスペーサ部材22によって固定金型1側に放熱して溶融樹脂を良好な溶融状態に保持し得る温度に調整される。
【0044】
同様に、マニホールド4におけるランナーブッシュ7側の領域4bにおいては、マニホールド4を固定金型2上に固定しているフランジ部18やマニホールド4上に立設している脚柱26、及びこの脚柱26上に設置している流体圧シリンダ15からの放熱によって降温する。この際、マニホールド4の各端部下面に取付けているランナーブッシュ7においては、その上端部に設けている鍔部7aを固定金型1とマニホールド4との間の隙間20よりも薄くしてその下面を固定金型1の上面から離間させているので、この鍔部7aからの固定金型1側への伝熱による放熱がなくなり、ランナーブッシュ7側の領域4bからの過度の放熱を抑制してこの領域4bを溶融樹脂が良好な溶融状態に保持し得る温度に調整することができる。
【0045】
一方、マニホールド4におけるスプルー5側の領域4aとランナーブッシュ7側の領域4bとの間の中間領域4cにおいては、固定金型1側への放熱は殆ど生じなく、この中間領域4cを加熱するカートリッジヒータ9における第3ヒータ部分9cの発熱温度を、溶融樹脂の溶融温度を保持し得る温度に設定しているので、この領域4cを過度に昇温させることなく溶融樹脂の溶融状態を良好に保持し得る温度に設定しておくことができる。
【0046】
このように、射出成形を開始する前に、カートリッジヒータ9によってマニホールド4全体を射出成形機のノズル27から注入される溶融樹脂の溶融温度に略等しい温度に加熱してその温度を保持させた状態にしたのち、射出成形機のノズル27からスプルー5に溶融樹脂を注入し、スプルー5の下端から放射状に延びている各マニホールド4内のランナー6に分流させる。
【0047】
マニホールド4におけるランナーブッシュ7側の領域4b内には温度センサー16が配設されてあり、この温度センサー16によってこの領域4bのランナー6からランナーブッシュ7側に送給される溶融樹脂の溶融温度を検出し、その溶融樹脂の溶融温度が所定の温度よりも高くなった時にその検出値を制御回路に出力させて樹脂劣化が生じる温度に達する前にカートリッジヒータ9に対する通電を遮断してマニホールド4の温度を降下させたのち、カートリッジヒータ9に通電して、マニホールド4を溶融樹脂が良好な溶融状態となる温度に調節する。
【0048】
このように、スプルー5側の領域4aからランナーブッシュ7側の領域4bに至る全長に亘ってカートリッジヒータ9により溶融樹脂の溶融温度に略等しい温度に加熱、調整して溶融樹脂の溶融温度を良好な溶融状態に保持しながらランナーブッシュ7の樹脂通路8内に溶融樹脂を送給し、流体圧シリンダ15によってバルブピン14を上動させることにより開放されるランナーブッシュ7のゲートを通じてキャビティ3内に充填して成形品を成形する。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の射出成形用金型は、射出成形を行うに際して、マニホールドの温度を短時間で射出成形が可能な温度に加熱、保持することができ、さらに、樹脂特性を劣化させることなく良好な溶融状態を保持させながらキャビティ側に供給することができるマニホールドシステムを備えており、生産効率良く樹脂の劣化のない成形品を成形することができ、様々な用途の成形品の成形に用いることができる。
【符号の説明】
【0050】
1 固定金型
2 移動金型
3 キャビティ
4 マニホールド
5 スプルー
6 ランナー
7 ランナーブッシュ
8 樹脂通路
14 バルブピン
15 流体圧シリンダ
16 温度センサー
20 隙間
21 受圧片
22 スペーサ部材
【手続補正書】
【提出日】2017年8月21日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融樹脂をキャビティに供給するためのランナーブッシュを設けている固定金型と、
上記固定金型上に配設され、射出成形機のノズルを接続させるスプルーとこのスプルーから上記ランナーブッシュに向かって分岐したランナーとを設けているマニホールドと、 上記スプルーの下方の固定金型とマニホールドとの間の隙間に介装している受圧片と、 上記マニホールド内に各ランナーに沿って配設され、上記マニホールドにおける上記スプルー側の領域を加熱する第1ヒータ部分と上記ランナーブッシュ側の領域を加熱する第2ヒータ部分と上記スプルー側の領域とランナーブッシュ側の領域間の中間領域を加熱する第3ヒータ部分とを有するカートリッジヒータとを備えてあり、
このカートリッジヒータにおける上記第3ヒータ部分の発熱温度を溶融樹脂の溶融温度を保持し得る温度に設定していると共に上記第1、第2ヒータ部分の発熱温度をこの第3ヒータ部分の加熱温度よりも高い温度に設定していることを特徴とする射出成形用金型。
【請求項2】
カートリッジヒータにおいて、マニホールドのランナーブッシュ側の領域を加熱する第2ヒータ部分の発熱温度を、スプルー側の領域を加熱する第1ヒータ部分の加熱温度よりも高い温度に設定していることを特徴とする請求項1に記載の射出成形用金型。
【請求項3】
マニホールド内におけるランナーブッシュ側の領域に温度センサーを配設していることを特徴とする請求項1に記載の射出成形用金型。
【請求項4】
第1ヒータ部分によって加熱されるスプルー側の領域におけるマニホールドと固定金型との間の隙間部分に介在され、マニホールド側から固定金型側に放熱するためのスペーサ部材を備えていることを特徴とする請求項1に記載の射出成形用金型。
【請求項5】
ランナーブッシュは、上端部に固定金型とマニホールドとの間の隙間よりも厚みが薄い鍔部、及び、上記鍔部から上方の上端部外周面に形成され且つマニホールドに設けている螺子孔に螺合させる螺子部を有し、上記螺子部を上記螺子孔に螺合させて、上記鍔部をマニホールドの下面に圧接させた状態にしてランナーブッシュをマニホールドに取付けていることを特徴とする請求項1に記載の射出成形用金型。
【請求項6】
ランナーブッシュの樹脂通路内に挿入され且つ上記樹脂流路の下端ゲートを開閉するバルブピンをさらに有することを特徴とする請求項1に記載の射出成形用金型。
【国際調査報告】