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再表2017-159862多能性幹細胞由来心筋細胞の凝集体の凍結方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2017年9月21日
【発行日】2019年1月24日
(54)【発明の名称】多能性幹細胞由来心筋細胞の凝集体の凍結方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/077 20100101AFI20181221BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20181221BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20181221BHJP
   C12N 5/16 20060101ALN20181221BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALN20181221BHJP
【FI】
   C12N5/077
   C12Q1/02
   A61L27/36 100
   C12N5/16
   C12N5/0735
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
【全頁数】35
【出願番号】特願2018-506047(P2018-506047)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2017年3月17日
(31)【優先権主張番号】特願2016-55913(P2016-55913)
(32)【優先日】2016年3月18日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
【住所又は居所】京都府京都市左京区吉田本町36番地1
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】南 一成
【住所又は居所】京都府京都市左京区吉田本町36番地1 国立大学法人京都大学内
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C081
【Fターム(参考)】
4B063QA05
4B063QQ17
4B063QR77
4B063QS08
4B065AA93X
4B065AB01
4B065BC18
4B065BD09
4B065BD21
4B065CA46
4C081AB11
4C081AB34
4C081BA12
4C081BA13
4C081EA02
4C081EA05
4C081EA13
(57)【要約】
多能性幹細胞由来心筋細胞の凝集体の凍結方法であって、
(i)多能性幹細胞由来心筋細胞の凝集体を凍結保護液に浸漬すること、および、
(ii)凍結保護液に浸漬した前記凝集体を凍結すること、
を含む方法が提供される。また、前記方法により凍結された凍結多能性幹細胞由来心筋細胞凝集体が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多能性幹細胞由来心筋細胞の凝集体の凍結方法であって、
(i)多能性幹細胞由来心筋細胞の凝集体を凍結保護液に浸漬すること、および、
(ii)凍結保護液に浸漬した前記凝集体を凍結すること、
を含む、方法。
【請求項2】
凍結多能性幹細胞由来心筋細胞凝集体の製造方法であって、
(i)多能性幹細胞由来心筋細胞の凝集体を凍結保護液に浸漬すること、および、
(ii)凍結保護液に浸漬した前記凝集体を凍結すること、
を含む、方法。
【請求項3】
凝集体を5〜60分間凍結保護液に浸漬する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
凝集体を2〜24℃で凍結保護液に浸漬する、請求項1〜3のいずれか記載の方法。
【請求項5】
凝集体を−60〜−150℃で凍結する、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
凝集体の直径が50〜5000μmである、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
多能性幹細胞由来心筋細胞がGFP−カルモジュリン−ミオシン軽鎖フラグメント結合蛋白質を発現する細胞である、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
多能性幹細胞由来心筋細胞が、
(1)多能性幹細胞をWNTシグナル活性化剤およびPKC活性化剤を含む培地中で培養すること、および
(2)工程(1)で得られた細胞をWNTシグナル阻害剤、Src阻害剤、およびEGF受容体阻害剤を含む培地中で培養すること、
を含む方法により得られたものである、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
凍結保護液がDMSOまたはグリセロールを含む、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の方法により凍結または製造された、凍結多能性幹細胞由来心筋細胞凝集体。
【請求項11】
薬剤応答評価または移植に用いるための、凍結多能性幹細胞由来心筋細胞凝集体。
【請求項12】
解凍後に70%以上の生存率を有する、請求項10または11に記載の凍結多能性幹細胞由来心筋細胞凝集体。
【請求項13】
直径が50〜5000μmである、凍結多能性幹細胞由来心筋細胞凝集体。
【請求項14】
請求項10〜13のいずれかに記載の凍結多能性幹細胞由来心筋細胞凝集体を含むキット。
【請求項15】
薬剤応答評価または移植に用いるための、請求項14に記載のキット。
【請求項16】
直径50〜5000μmの凍結多能性幹細胞由来心筋細胞凝集体を含む、組成物。
【請求項17】
薬剤応答評価または移植に用いるための、請求項16に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、日本国特許出願第2016−055913号について優先権を主張するものであり、ここに参照することによって、その全体が本明細書中へ組み込まれるものとする。
本発明は、多能性幹細胞由来心筋細胞の凝集体の凍結方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多能性幹細胞由来の心筋細胞は、細胞移植、ドラッグスクリーニング、心毒性評価などの用途での実用化が期待されている。その実現には、同一の機能的性質を持った同一ロットの心筋細胞の大量生産および供給と、効率的な心筋細胞の凍結保存法が必要とされる。
【0003】
現在の多能性幹細胞由来心筋細胞の凍結法は、まず多能性幹細胞から誘導したシート状やコロニー状の心筋細胞凝集体をタンパク分解酵素で分散させ、単一細胞の状態で凍結する手法である。この方法では、細胞生存率が不安定かつ低く、タンパク分解酵素や凍結のダメージにより、均一な凝集体を再形成することが困難である。また単一心筋細胞の凍結では、凍結前の電気生理学的機能パターン(細胞内カルシウム変化の波形や心拍数など)を解凍後に再現することができない。これは、単一細胞に分散して凍結することにより、元の心筋細胞凝集体の形状や細胞間結合等の3次元構造の情報が失われることによる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2012/026491号
【特許文献2】国際公開第2013/111875号
【特許文献3】国際公開第2014/136519号
【特許文献4】国際公開第2015/037706号
【特許文献5】国際公開第2015/182765号
【特許文献6】米国特許出願公開第2013/0183753号
【特許文献7】米国特許出願公開第2014/0127807号
【特許文献8】米国特許出願公開第2015/0017718号
【特許文献9】米国特許出願公開第2016/0002600号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Kim YY, et al., Cryopreservation of human embryonic stem cells derived-cardiomyocytes induced by BMP2 in serum-free condition., Reprod Sci. 2011 Mar;18(3):252-60. doi: 10.1177/1933719110385130. Epub 2011 Jan 25.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、多能性幹細胞由来心筋細胞の凝集体の凍結方法および凍結多能性幹細胞由来心筋細胞凝集体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ある態様において、多能性幹細胞由来心筋細胞の凝集体の凍結方法であって、
(i)多能性幹細胞由来心筋細胞の凝集体を凍結保護液に浸漬すること、および、
(ii)凍結保護液に浸漬した前記凝集体を凍結すること、
を含む、方法を提供する。
本発明は、さらなる態様において、凍結多能性幹細胞由来心筋細胞凝集体の製造方法であって、
(i)多能性幹細胞由来心筋細胞の凝集体を凍結保護液に浸漬すること、および、
(ii)凍結保護液に浸漬した前記凝集体を凍結すること、
を含む、方法を提供する。
本発明は、さらなる態様において、前記方法により凍結または製造された凍結多能性幹細胞由来心筋細胞凝集体を提供する。
本発明は、さらなる態様において、薬剤応答評価または移植に用いるための、凍結多能性幹細胞由来心筋細胞凝集体を提供する。
本発明は、さらなる態様において、凍結多能性幹細胞由来心筋細胞凝集体を含む組成物またはキットを提供する。
【発明の効果】
【0008】
多能性幹細胞由来心筋細胞の実用化に資する心筋細胞凝集体凍結方法および凍結心筋細胞凝集体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、ヒトiPS由来心筋細胞の単一細胞凍結法と凝集体凍結法の形状比較を示す。Aは、単一細胞凍結による凍結解凍後3日目の心筋細胞凝集体の形態(1凝集体/ウェル)、Bは、凝集体凍結による凍結解凍後2日目の心筋細胞凝集体の形態(1凝集体/ウェル)を示す。
図2図2は、単一細胞凍結法と凝集体凍結法の形状解析と、細胞生存率の定量比較を示す。
図3図3は、凝集体凍結法による凍結解凍前後のGCaMP−心筋細胞の蛍光パターン変化を示す。
図4図4は、ヒトiPS細胞由来心筋細胞およびサルiPS細胞由来心筋細胞の凝集体凍結法による凍結解凍前後の各パラメータ変化率と凍結保護液の比較を示す。
図5図5は、凍結解凍後の心筋細胞凝集体におけるGCaMP蛍光を指標としたE4031薬剤効果を示す。
図6図6は、凍結解凍後の心筋細胞凝集体におけるE4031薬剤効果の濃度依存性を示す。
図7図7は、凍結解凍後の心筋細胞凝集体におけるGCaMP蛍光を指標としたいくつかの薬剤(E4031、アステミゾール(Astemizole)、ニフェカラント(Nifekalant)、クロマノール293b(Chromanole293b)、メキシレチン(Mexiletine)、ニフェジピン(Nifedipine)、イソプロテレノール(Isoproterenol)、プロプラノロール(Propranol)、リアノジン(Ryanodine))の薬剤効果を示す。
図8図8は、凍結解凍後の心筋細胞凝集体におけるアンスラサイクリン心毒性を示す。
図9図9は、凍結解凍後の心筋細胞凝集体におけるアンスラサイクリン心毒性の解析結果を示す。
図10図10は、サイズの異なる凝集体の凍結解凍前後の各パラメータ変化率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、数値が「約」の用語を伴う場合、その値の±10%の範囲を含むことを意味する。数値の範囲は、両端点の間の全ての数値および両端点の数値を含む。範囲に関する「約」は、その範囲の両端点に適用される。よって、例えば、「約20〜30」は、「20±10%〜30±10%」を含むものとする。
【0011】
「多能性幹細胞」とは、成体を構成する全ての細胞に分化することができる多分化能(pluripotency)と、細胞分裂を経てもその多分化能を維持することができる自己複製能を有する細胞を意味する。「多能性幹細胞」には、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性生殖細胞(EG細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)が含まれる。「多能性幹細胞」の生物種は特に限定はされないが、好ましくは哺乳類であり、より好ましくは齧歯類または霊長類、さらにより好ましくは霊長類である。本発明は、サルまたはヒト多能性幹細胞に、特にサルまたはヒトES細胞およびiPS細胞に、好適である。
【0012】
ES細胞は、初期胚に由来する多能性幹細胞であり、胚盤胞の内部細胞塊または着床後の初期胚のエピブラストから樹立することができる。ES細胞としては、ヒト(Thomson J. A. et al., Science 282: 1145-1147 (1998);Biochem Biophys Res Commun. 345(3), 926-32 (2006));アカゲザルおよびマーモセット等の霊長類(Thomson J. A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92: 7844-7848 (1995);Thomson J. A. et al., Biol. Reprod. 55: 254-259 (1996));ウサギ(特表2000−508919号);ハムスター(Doetshman T. et al., Dev. Biol. 127: 224-227 (1988))、ブタ(Evans M. J. et al., Theriogenology 33: 125128 (1990); Piedrahita J.A. et al., Theriogenology 34: 879-891 (1990); Notarianni E. et al., J. Reprod. Fert. 40: 51-56 (1990); Talbot N. C. et al., Cell. Dev. Biol. 29A: 546-554 (1993))、ヒツジ(Notarianni E. et al., J. Reprod. Fert. Suppl. 43: 255-260 (1991))、ウシ(Evans M. J. et al., Theriogenology 33: 125-128 (1990); Saito S. et al., Roux. Arch. Dev. Biol. 201: 134-141 (1992))、ミンク(Sukoyan M. A. et al., Mol. Reorod. Dev. 33: 418-431 (1993))などのES細胞が挙げられる。例えば、ES細胞としては、CMK6.4、KhES−1、KhES−3、KhES−4、KhES−5、H1、H9などを使用できる。
【0013】
EG細胞は、始原生殖細胞に由来する多能性幹細胞であり、例えば、ヒトEG細胞(Shamblott, et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA 95: 13726-13731 (1998))が挙げられる。
【0014】
「iPS細胞」とは、体細胞や組織幹細胞などの多能性幹細胞以外の細胞から誘導された多能性幹細胞を意味する。iPS細胞の作製方法は、例えば、WO2007/069666、WO2009/006930、WO2009/006997、WO2009/007852、WO2008/118820、Cell Stem Cell 3(5): 568-574 (2008) 、Cell Stem Cell 4(5): 381-384 (2009)、Nature 454: 646-650 (2008) 、Cell 136(3) :411-419 (2009) 、Nature Biotechnology 26: 1269-1275 (2008) 、Cell Stem Cell 3: 475-479 (2008) 、Nature Cell Biology 11: 197-203 (2009) 、Cell 133(2): 250-264 (2008)、Cell 131(5): 861-72 (2007)、Science 318 (5858): 1917-20 (2007)に記載される。しかしながら、人工的に誘導された多能性幹細胞であれば、いかなる方法で作製された細胞も本明細書における「iPS細胞」に含まれる。iPS細胞としては、IMR90−1、IMR90−4、201B7、253G1などを使用できる。
【0015】
多能性幹細胞由来心筋細胞は、多能性幹細胞から誘導された心筋細胞を意味し、その誘導方法は特に限定されない。誘導方法としては、BMP4およびアクチビンAを用いる方法(Nat Biotechnol. 2007 Sep;25(9):1015-24. Epub 2007 Aug 26.)、アクチビンA、FGF2、VEGFAおよびDkk1等を用いる方法(Cell Stem Cell. 2012 Jan 6;10(1):16-28. doi: 10.1016/j.stem.2011.12.013.)、遺伝子組み換えアルブミンとCHIR99021およびWNT阻害剤を用いる方法(Nat Methods. 2014 Aug;11(8):855-60. doi: 10.1038/nmeth.2999. Epub 2014 Jun 15.)などが例示される。iCell(登録商標) Cardiomyocytes(Cellular Dynamics International, Inc.)、Cellartis(登録商標) Cardiomyocytes (from P11012)/(from ChiPSA22) (タカラバイオ株式会社)などの心筋細胞、およびこれらと同様の方法で誘導された心筋細胞も用いることができる。
【0016】
好ましい態様において、多能性幹細胞由来心筋細胞は、国際公開第2015/182765号に記載の方法により誘導された細胞である。
すなわち、多能性幹細胞由来心筋細胞は、
(1)多能性幹細胞をWNTシグナル活性化剤およびPKC活性化剤を含む培地中で培養すること、および
(2)工程(1)で得られた細胞をWNTシグナル阻害剤、Src阻害剤、およびEGF受容体阻害剤を含む培地中で培養すること、
を含む方法により得られたものでありうる。
【0017】
また、本発明の凍結方法は、工程(i)に先立ち、
(1)多能性幹細胞をWNTシグナル活性化剤およびPKC活性化剤を含む培地中で培養すること、および
(2)工程(1)で得られた細胞をWNTシグナル阻害剤、Src阻害剤、およびEGF受容体阻害剤を含む培地中で培養すること、
を含む方法により多能性幹細胞由来心筋細胞を得ることを、さらに含んでもよい。
【0018】
例えば、多能性幹細胞由来心筋細胞は、以下のいずれかの方法により誘導された細胞でありうる。また、本発明の凍結方法は、以下のいずれかの方法により多能性幹細胞由来心筋細胞を得ることをさらに含みうる。

1.多能性幹細胞の心筋分化誘導法であって、以下の工程を含む方法:
(1)多能性幹細胞をWNTシグナル活性化剤およびPKC活性化剤を含む培地中で培養する工程、および;
(2)工程(1)で得られた細胞をWNTシグナル阻害剤、Src阻害剤、およびEGF受容体阻害剤を含む培地中で培養する工程。
2.Wntシグナル阻害剤が、以下の式(I)の化合物またはその塩である、前記1に記載の方法:
式(I):
【化1】
[式中、
−Rは、各々独立して、水素原子;ハロゲン原子;水酸基;炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルコキシ基;非置換又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基;又は基−NR1213(R12及びR13は、各々独立して、水素原子、酸素原子、又は非置換又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜5の直鎖または分岐アルキル基である)である、ここでR−Rのうち隣接する2つが一緒になって−O−CH−O−または−O−(CH−O−を形成していてもよい、
−Rは、各々独立して、水素原子;ハロゲン原子;水酸基;炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルコキシ基;基−C(O)Aで置換された炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルコキシ基(Aは、非置換又は炭素数1〜5の直鎖または分岐アルキル基で置換された飽和または不飽和5または6員環であり、該環は窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子から独立に選択される1または2個の原子を含んでいてもよい);非置換又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基;又は基−NR1213(R12及びR13は、各々独立して、水素原子、酸素原子、又は非置換又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜5の直鎖または分岐アルキル基である)である、ここでR−Rのうち隣接する2つが一緒になって−O−CH−O−または−O−(CH−O−を形成していてもよい、
10−R11は、各々独立して、水素原子;又は炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基である、
Xは、−CR14(R14は、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルコキシ基、又は非置換又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基である);酸素原子;硫黄原子;セレン原子;又は基−NR15(R15は、水素原子、炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基、又は炭素数1〜5の直鎖又は分岐アシル基である)である、および
nは、0から6の整数である]。
3.R、R、R、R、R、R10及びR11が水素原子であり、
及びRが、各々独立して、メトキシ基、エトキシ基、又はプロポキシ基であり、
が、水素原子;ハロゲン原子;水酸基;炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルコキシ基;基−C(O)Aで置換された炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルコキシ基(Aは、非置換又は炭素数1〜5の直鎖または分岐アルキル基で置換された飽和または不飽和5または6員環であり、該環は窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子から独立に選択される1または2個の原子を含んでいてもよい);非置換又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基;又は基−NR1213(R12及びR13は、各々独立して、水素原子、酸素原子、又は非置換又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基である)であり、
が、水素原子;ハロゲン原子;水酸基;炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルコキシ基;又は非置換又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基であり、又は、
及びRが、一緒になって−O−CH−O−または−O−(CH−O−を形成しており、
Xが、硫黄原子であり、および
nが、0から4の整数である、前記2に記載の方法。
4.R、R、R、R、R、R、R10及びR11が水素原子であり、
及びRが、各々独立して、メトキシ基、エトキシ基、又はプロポキシ基であり、
が、水素原子;ハロゲン原子;水酸基;炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルコキシ基;基−C(O)Aで置換された炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルコキシ基(Aは、非置換又は炭素数1〜5の直鎖または分岐アルキル基で置換された飽和または不飽和5または6員環であり、該環は窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子から独立に選択される1または2個の原子を含んでいてもよい);非置換又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基;又は基−NR1213(R12及びR13は、各々独立して、水素原子、酸素原子、又は非置換又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜5の直鎖または分岐アルキル基である)であり、
Xが、硫黄原子であり、および
nが、0から4の整数である、前記2に記載の方法。
5.Rが、ハロゲン原子である、前記4に記載の方法。
6.nが、1から4の整数である、前記3〜5のいずれかに記載の方法。
7.Wntシグナル阻害剤が、以下から選択される化合物またはその塩である、前記1に記載の方法:
KY02111
【化2】
KY01041
【化3】
T61164
【化4】
KY02114
【化5】
KY01045
【化6】
KY01040
【化7】
KY02109
【化8】
KY01042
【化9】
KY01043
【化10】
KY01046
【化11】
PB2852
【化12】
N11474
【化13】
PB2572
【化14】
PB2570
【化15】
KY02104
【化16】
SO087
【化17】
SO102
【化18】
SO096
【化19】
SO094
【化20】
SO3031(KY01−I)
【化21】
SO2031(KY02−I)
【化22】
SO3042(KY03−I)
【化23】
および、
SO2077
【化24】

8.Wntシグナル阻害剤が、KY02111、SO3031(KY01−I)、SO2031(KY02−I)、またはSO3042(KY03−I)である、前記7に記載の方法。
9.Wntシグナル阻害剤が、SO3042(KY03−I)である、前記8に記載の方法。
10.工程(2)の培地が2種以上のWNTシグナル阻害剤を含み、前記2種以上のWNTシグナル阻害剤の1つが前記2〜9のいずれかに記載の式(I)の化合物またはその塩であり、他のWNTシグナル阻害剤がIWP2、XAV939、およびIWR1から選択される1種以上の化合物である、前記1〜9のいずれかに記載の方法。
11.2種以上のWNTシグナル阻害剤が、前記2〜9のいずれかに記載の式(I)の化合物またはその塩およびXAV939である、前記10に記載の方法。
12.WNTシグナル活性化剤が、BIOまたはCHIR99021である、前記1〜11のいずれかに記載の方法。
13.WNTシグナル活性化剤が、CHIR99021である、前記1〜12のいずれかに記載の方法。
14.PKC活性化剤が、PMAまたはプロストラチンである、前記1〜13のいずれかに記載の方法。
15.PKC活性化剤が、PMAである、前記1〜14のいずれかに記載の方法。
16.Src阻害剤が、A419259またはSU6656である、前記1〜15のいずれかに記載の方法。
17.Src阻害剤が、A419259である、前記1〜16のいずれかに記載の方法。
18.EGF受容体阻害剤が、AG1478またはゲフィチニブである、前記1〜17のいずれかに記載の方法。
19.EGF受容体阻害剤が、AG1478である、前記1〜18のいずれかに記載の方法。
20.WNTシグナル活性化剤がCHIR99021であり、
PKC活性化剤がPMAであり、
WNTシグナル阻害剤が、KY02111、SO3031(KY01−I)、SO2031(KY02−I)、およびSO3042(KY03−I)から選択される化合物並びにXAV939であり、
Src阻害剤がA419259であり、および
EGF受容体阻害剤がAG1478である、前記1〜19のいずれかに記載の方法。
21.WNTシグナル阻害剤が、SO3042(KY03−I)およびXAV939である、前記20に記載の方法。
22.工程(1)および(2)における培地が蛋白質成分およびペプチド成分を含まない、前記1〜21のいずれかに記載の方法。
23.工程(1)および(2)において細胞を浮遊培養により培養する、前記1〜22のいずれかに記載の方法。
24.工程(1)が1〜3日間であり、工程(2)が2〜13日間である、前記1〜23のいずれかに記載の方法。
【0019】
「Wntシグナル活性化剤」とは、Wntシグナル経路を活性化する物質を意味する。Wntシグナル活性化剤としては、BIOおよびCHIR99021、TWS119などのGSK3β阻害剤が例示される。ある態様において、Wntシグナル活性化剤はCHIR99021またはBIOであり、好ましくはCHIR99021である。国際公開第2015/182765号に記載の方法において、2種以上のWntシグナル活性化剤を併用してもよく、例えばCHIR99021とBIOの両方を使用してもよい。
【0020】
「Wntシグナル阻害剤」とは、Wntシグナル経路を阻害する物質を意味する。Wntシグナル阻害剤には、例えば、前記式(I)の化合物またはその塩、IWP2、IWP4、XAV939、およびIWR1などの化合物が含まれる。本発明においては、2種以上のWntシグナル阻害剤を併用してもよい。ある態様において、2種以上のWntシグナル阻害剤の1つが式(I)の化合物またはその塩であり、他のWntシグナル阻害剤がIWP2、XAV939、およびIWR1から選択される1種以上の化合物、好ましくはXAV939、である。2種以上のWntシグナル阻害剤がいずれも式(I)の化合物またはその塩であってもよい。
【0021】
炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基が挙げられる。
【0022】
炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基が挙げられる。
【0023】
炭素数1〜5の直鎖又は分岐アシル基としては、例えば、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基が挙げられる。
【0024】
ハロゲン原子としては、Cl、Br、IまたはFが挙げられる。
【0025】
好ましい態様において、R−Rは、各々独立して、水素原子;ハロゲン原子;水酸基;炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルコキシ基;又は非置換又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基であり、ここでR−Rのうち隣接する2つが一緒になって−O−CH−O−または−O−(CH−O−を形成していてもよい。
【0026】
及びRは、好ましくは、炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルコキシ基であるか、又は、一緒になって−O−CH−O−または−O−(CH−O−を形成している。さらに好ましくは、R及びRは、各々独立して、メトキシ基、エトキシ基、又はプロポキシ基であり、さらにより好ましくはメトキシ基である。
【0027】
、R及びRは、好ましくは、水素原子である。
【0028】
ある態様において、R−Rは、各々独立して、水素原子;ハロゲン原子;水酸基;炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルコキシ基;非置換又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基;又は基−NR1213(R12及びR13は、各々独立して、水素原子、酸素原子、又は非置換又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜5の直鎖または分岐のアルキル基である)であり、ここでR−Rのうち隣接する2つが一緒になって−O−CH−O−または−O−(CH−O−を形成していてもよい。
【0029】
及びRは、好ましくは、各々独立して、水素原子;ハロゲン原子;水酸基;炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルコキシ基;又は非置換又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基であり、より好ましくは、水素原子である。
【0030】
好ましい態様において、Rは、水素原子;ハロゲン原子;水酸基;炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルコキシ基;基−C(O)Aで置換された炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルコキシ基(Aは、非置換又は炭素数1〜5の直鎖または分岐アルキル基で置換された飽和または不飽和5または6員環であり、該環は窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子から独立に選択される1または2個の原子を含んでいてもよい);非置換又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基;又は基−NR1213(R12及びR13は、各々独立して、水素原子、酸素原子、又は非置換又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基である)であって、Rは、水素原子;ハロゲン原子;水酸基;炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルコキシ基;又は非置換又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基であるか、又は、R及びRは、一緒になって−O−CH−O−または−O−(CH−O−を形成している。
【0031】
ある態様において、Rは、基−C(O)Aで置換された炭素数1〜5の直鎖アルコキシ基であり、基−C(O)Aは前記アルコキシ基の末端の炭素原子に結合している。
【0032】
好ましい態様において、Aは窒素原子を少なくとも1つ含み、そのようなAとしては、非置換又は炭素数1〜5の直鎖または分岐アルキル基で置換された、ピロリジニル、イミダゾリジニル、ピラゾリジニル、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、ピペリジニル、ピペラジニル、モルホリニル、ピリジル、ピリミジニル、ピラジニル、及びピリダジニル基が例示される。より好ましい態様において、Aは、非置換又は炭素数1〜5の直鎖または分岐アルキル基で置換された、ピペリジニル基、ピペラジニル基、又はモルホリニル基である。さらに好ましい態様において、Aは、非置換又は炭素数1〜5の直鎖または分岐アルキル基で置換された、ピペリジン−1−イル基、ピペラジン−1−イル基、又はモルホリン−4−イル基である。
【0033】
10及びR11は、好ましくは、水素原子である。
【0034】
ある態様において、nは、0から4、1から4、もしくは1から3の整数、または2もしくは3である。
【0035】
ある態様において、Xは、酸素原子;硫黄原子;基−NR15(R15は、水素原子、炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基、炭素数1〜5の直鎖又は分岐アシル基である)である。Xは、好ましくは、硫黄原子である。
【0036】
ある態様において、式(I)の化合物は、
、R、R、R、R、R、R10及びR11が水素原子であり、
が、ハロゲン原子であり、
及びRが、各々独立して、メトキシ基、エトキシ基、又はプロポキシ基であり、
Xが、硫黄原子であり、および
nが、0から4、好ましくは1から4の整数である。
【0037】
ある態様において、式(I)の化合物は、
、R、R、R、R、R、R10及びR11が水素原子であり、
が、ハロゲン原子であり、
及びRが、メトキシ基であり、
Xが、硫黄原子であり、および
nが、0から4、好ましくは1から4の整数である。
【0038】
式(I)の化合物は、好ましくはKY02111、SO3031(KY01−I)、SO2031(KY02−I)、またはSO3042(KY03−I)であり、より好ましくはKY02111またはSO3042(KY03−I)であり、さらにより好ましくはSO3042(KY03−I)である。
【0039】
式(I)の化合物は、公知の方法(J. Med. Chem., 1965, 8 (5), pp 734-735)により、あるいは国際公開第2012/026491号パンフレットに記載の方法に準じて、合成することができる。あるいは、UkrOrgSynthesis社(PB2852、PB2572、PB2570)やENAMINE社(T61164)などから入手可能である。
【0040】
「PKC活性化剤」は、プロテインキナーゼC(PKC)またはその下流のシグナル伝達経路を活性化する物質を意味する。PKC活性化剤としては、ホルボール12−ミリスタート13−アセタート(Phorbol 12-myristate 13-acetate)(PMA)、プロストラチン、ブリオスタチン1(Bryostatin 1)、ブリオスタチン2(Bryostatin 2)、FR236924、(−)−インドラクタムV((-)-Indolactam V)、PEP005、ホルボール12,13−ジブチラート(Phorbol 12,13-dibutyrate)、SC−9、SC−10、1−オレオイル−2−アセチル−sn−グリセロール(1-Oleoyl-2-acetyl-sn-glycerol)、1−O−ヘキサデシル−2−O−アラキドニル−sn−グリセロール(1-O-Hexadecyl-2-O-arachidonyl-sn-glycerol)、1,2−ジオクタノイル−sn−グリセロール(1,2-Dioctanoyl-sn-glycerol)、PIP2、レシニフェラトキシン(Resiniferatoxin)、ホルボール12,13−ジヘキサノアート(Phorbol 12,13-Dihexanoate)、メゼレイン(Mezerein)、インゲノール3−アンゲラート(Ingenol 3-Angelate)、RHC−80267、DCP−LA、リポキシンA4(Lipoxin A4)などが例示される。ある態様において、PKC活性化剤は、ホルボルエステル系PKC活性化剤である、PMA、プロストラチン、PEP005、ホルボール12,13−ジブチラート、レシニフェラトキシン、ホルボール12,13−ジヘキサノアート、メゼレイン、またはインゲノール3−アンゲラートである。国際公開第2015/182765号に記載の方法において、2種以上のPKC活性化剤を併用してもよい。好ましい態様において、PKC活性化剤は、PMAまたはプロストラチンであり、より好ましくはPMAである。
【0041】
「Src阻害剤」は、チロシンキナーゼであるSrcまたはその下流のシグナル伝達経路を阻害する物質を意味する。Src阻害剤としては、A419259、SU6656、PP1、1−ナフチルPP1(1-Naphthyl PP1)、PP2、インジルビン−3’−(2,3−ジヒドロキシプロピル)−オキシムエーテル(Indirubin-3'-(2,3-dihydroxypropyl)-oximether)、TX−1123、Src Kinase Inhibitor I(CAS 179248-59-0)、AZM475271、ボスチニブ(Bosutinib)、ハービマイシンA(Herbimycin A)、KB SRC 4、MNS、PD166285、TC−S7003などが例示される。ある態様において、Src阻害剤は、A419259、KB SRC 4、SU6656、またはインジルビン−3’−(2,3−ジヒドロキシプロピル)−オキシムエーテルである。国際公開第2015/182765号に記載の方法において、2種以上のSrc阻害剤を併用してもよい。好ましい態様において、Src阻害剤は、A419259またはSU6656であり、より好ましくはA419259である。
【0042】
「EGF受容体阻害剤」(EGFR阻害剤とも記載する)は、EGF受容体からのシグナル伝達を阻害する物質を意味する。EGF受容体阻害剤としては、AG1478、ゲフィチニブ(Gefitinib)、アファチニブ(Afatinib)、ARRY334543、AST1306、AZD8931、BIBU1361、BIBX1382、BPDQ、BPIQ−I、BPIQ−II、カネルチニブ(Canertinib)、CL−387,785、CUDC101、ダコミチニブ(Dacomitinib)、バンデタニブ(Vandetanib)、EGFR Inhibitor III(N−(4−((3,4−ジクロロ−6−フルオロフェニル)アミノ)−キナゾリン−6−イル)−2−クロロアセトアミド、CAS 733009-42-2)、EGFR/ErbB-2 Inhibitor(4−(4−ベンジルオキシアニリノ)−6,7−ジメトキシキナゾリン、CAS 179248-61-4)、エルロチニブ(Erlotinib)、GW583340、GW2974、HDS029、ラパチニブ(Lapatinib)、WHI−P154、OSI−420、PD153035、PD168393、PD174265、ペリチニブ(Pelitinib)、Compound 56、XL657、PP3、AG−490、AG555、チロホスチン(Tyrphostin)B42、チロホスチンB44、AG556、AG494、AG825、RG−13022、DAPH、EGFR Inhibitor(シクロプロパンカルボン酸−(3−(6−(3−トリフルオロメチル−フェニルアミノ)−ピリミジン−4−イルアミノ)−フェニル)−アミド、CAS 879127-07-8)、エルブスタチンアナログ(Erbstatin Analog)(メチル 2,5−ジヒドロキシシナマート、CAS 63177-57-1)、JNJ28871063、チロホスチン47、ラベンダスチン(Lavendustin)A、ラベンダスチンC、ラベンダスチンCメチルエステル、LFM−A12、TAK165、TAK285、チロホスチン51、チロホスチンAG183、チロホスチンAG528、チロホスチンAG99、チロホスチンRG14620、WZ3146、WZ4002、WZ8040、ブテイン、チロホスチンAG112などが例示される。ある態様において、EGF受容体阻害剤は、キナゾリン系骨格を有するEGF受容体阻害剤、例えばAG1478、ゲフィチニブ、アファチニブ、ARRY334543、AST1306、AZD8931、BIBU1361、BIBX1382、BPDQ、BPIQ−I、BPIQ−II、カネルチニブ、CL−387,785、CUDC101、ダコミチニブ、バンデタニブ、EGFR Inhibitor III(CAS 733009-42-2)、EGFR/ErbB-2 Inhibitor(CAS 179248-61-4)、エルロチニブ、GW583340、GW2974、HDS029、ラパチニブ、WHI−P154、OSI−420、PD153035、PD168393、PD174265、ペリチニブ、Compound 56、もしくはXL657である。好ましい態様において、EGF受容体阻害剤は、AG1478またはゲフィチニブ、より好ましくはAG1478である。EGF受容体阻害剤は、Santa Cruz Biotechなどから入手可能である。
【0043】
国際公開第2015/182765号に記載の方法は、インビトロで実施される。前記方法に用いる培地は、一般的な多能性幹細胞用の心筋分化培地であればよく、その組成は特に限定はされない。心筋分化培地は、タンパク質成分やペプチド成分を含んでいてもよいが、含まないことが好ましい。国際公開第2015/182765号に記載の方法に用いる心筋分化培地は、例えば、IMDM培地および/またはDMEM培地、MEM non-essential amino acid solution、並びにL−グルタミンを含む。ある態様において、培地は、IMDM培地およびDMEM培地(好ましくはIMDM:DMEM=1:1)、MEM non-essential amino acid solution、並びにL−グルタミンを含む。培地は、IMDM培地および/またはDMEM培地、MEM non-essential amino acid solution、並びにL−グルタミンに加えて、L−カルニチン、アスコルビン酸、および/またはクレアチンを含んでもよい。好ましい態様において、培地は、IMDM培地およびDMEM培地(好ましくはIMDM:DMEM=1:1)、MEM non-essential amino acid solution、L−グルタミン、L−カルニチン、アスコルビン酸、およびクレアチンを含む。培地は、必要に応じてペニシリン-ストレプトマイシン等の抗生物質を含んでもよい。具体的な培地としては、実施例で使用しているIMDMおよびDMEMを基礎培地とする培地(IMDM 242ml、DMDM 242ml、MEM non-essential amino acid solution(×100) 5ml、ペニシリン−ストレプトマイシン(×100) 5ml、0.2M L−グルタミン 5ml、1M L−カルニチン 100μl、アスコルビン酸 50mg、0.5Mクレアチン 1ml含有)が例示される。
【0044】
また、心筋分化培地としては、公知のIMDM培地を基礎培地とする心筋分化培地(例えば、IMDM培地 200ml、ウシ胎児血清 50ml、MEM non-essential amino acid solution(×100) 2.5ml、ペニシリン−ストレプトマイシン(×100) 2.5ml、200mM L−グルタミン 2.5ml、2−メルカプトエタノール 2μ1、5N NaOH 255μl含有)、公知のDMEM培地を基礎培地とする心筋分化培地(例えば、DMEM/F12培地 200ml、ウシ胎児血清 50ml、MEM non-essential amino acid solution(×100) 2.5ml、ペニシリン−ストレプトマイシン(×100) 2.5ml、200mM L−グルタミン 2.5ml、2−メルカプトエタノール含有)、またはStemPro(登録商標)-34SFM(GIBCO)+BMP4(10ng/ml)などを使用可能である。
【0045】
多能性幹細胞由来心筋細胞の誘導には、一般的に多能性幹細胞の心筋分化に適した培養方法を用いることができる。培養方法としては、例えば、接着培養法、浮遊培養法等が挙げられる。好ましい態様において、多能性幹細胞由来心筋細胞の誘導は、浮遊培養法で実施される。培養開始時の多能性幹細胞の細胞数は、培養方法、培養容器、細胞の種類等によって適宜決定されるが、1×10細胞/ml〜10×10細胞/ml程度で播種すればよい。培地の交換は、1〜3日に1回、例えば2日に一回、行えばよい。
【0046】
工程(1)および工程(2)の期間、および工程(1)の終了から工程(2)の開始までの期間は、細胞の種類等に応じて適宜変更されうる。工程(2)は、工程(1)の終了直後から開始してもよいし、工程(1)の終了から一定期間後に開始してもよい。例えば、工程(1)の終了後、WNTシグナル活性化剤、PKC活性化剤、WNTシグナル阻害剤、Src阻害剤、およびEGF受容体阻害剤のいずれも含まない培地中で細胞を1〜2日間、好ましくは1日間培養した後、培地をWNTシグナル阻害剤、Src阻害剤、およびEGF受容体阻害剤を含む培地に交換し、工程(2)を開始してもよい。
【0047】
例えば、工程(1)を1〜3日間実施し、次いで、工程(2)を、工程(1)の終了直後または工程(1)の終了の1〜2日後から、2〜13日間、好ましくは3〜10日間、より好ましくは4〜10日間、さらに好ましくは4〜8日間、実施する。例えば、工程(1)の開始日を0日目として、0〜1日目、0〜2日目または0〜3日目に工程(1)を実施し、工程(1)の終了直後または工程(1)の終了の1〜2日後から、2〜10日目(8日間)、2〜9日目(7日間)、2〜8日目(6日間)、2〜7日目(5日間)、2〜6日目(4日間)、3〜10日目(7日間)、3〜9日目(6日間)、3〜8日目(5日間)、3〜7日目(4日間)、4〜10日目(6日間)、4〜9日目(5日間)、または4〜8日目(4日間)に、工程(2)を実施することができる。
【0048】
工程(1)は、多能性幹細胞から中胚葉への分化誘導期である心筋分化誘導の前期段階にあたることから、工程(1)の期間は、中胚葉関連遺伝子の発現に基づき決定することもできる。中胚葉関連遺伝子としては、T、MIXL1、NODAL等が挙げられる。工程(2)は中胚葉から心筋細胞へ分化する心筋分化誘導の後期段階にあたり、その期間は、心筋細胞への分化を確認することによって決定することができる。心筋細胞への分化は、拍動心筋細胞の数、心筋マーカーの発現、イオンチャネルの発現、電気生理学的刺激に対する反応等により確認することができる。心筋マーカーとしては、αMHC、βMHC、cTnT、αアクチニン、およびNKX2.5が挙げられる。また、イオンチャネルとしては、HCN4、Nav1.5、Cav1.2、Cav3.2、HERG1b、およびKCNQ1が挙げられる。
【0049】
Wntシグナル活性化剤およびWntシグナル阻害剤の濃度は、使用する細胞および薬剤等に応じて適宜変更されうる。Wntシグナル活性化剤としてBIOまたはCHIR99021を使用する場合、例えば最終濃度100nM〜100μM、好ましくは1μM〜10μMで使用すればよい。Wntシグナル阻害剤としてIWP2、XAV939、またはIWR1を用いる場合、例えば最終濃度0.5〜20μM、好ましくは0.5〜10μM、より好ましくは1〜10μMで使用すればよい。Wntシグナル阻害剤として式(I)の化合物またはその塩を用いる場合、使用する化合物またはその塩に応じて、例えば最終濃度0.1〜20μM、好ましくは0.1〜10μM、より好ましくは1〜10μMで使用すればよい。
【0050】
PKC活性化剤の濃度は、使用する細胞および薬剤等に応じて適宜変更されうる。PMAの場合、例えば最終濃度0.01μM〜10μM、好ましくは0.03〜1μM、より好ましくは0.1〜1μMで、プロストラチンの場合、例えば最終濃度0.1μM〜100μM、好ましくは1〜10μMで、使用すればよい。
【0051】
Src阻害剤の濃度は、使用する細胞および薬剤等に応じて適宜変更されうる。A419259およびSU6656の場合、例えば最終濃度0.1μM〜10μM、好ましくは0.1μM〜3μM、より好ましくは0.3〜3μMで使用すればよい。
【0052】
EGF受容体阻害剤の濃度は、使用する細胞および薬剤等に応じて適宜変更されうる。ゲフィチニブまたはAG1478の場合、例えば最終濃度100nM〜100μM、好ましくは1μM〜20μMで、PP3の場合、例えば最終濃度1μM〜1mM、好ましくは10μM〜100μMで使用すればよい。
【0053】
前記工程(2)の後、培地をWNTシグナル阻害剤、Src阻害剤、およびEGF受容体阻害剤を含まない心筋分化培地に交換し、数日間、数週間、または数ヶ月間、好ましくは約1週間〜3ヶ月間、より好ましくは約3週間〜3ヶ月間培養した心筋細胞を、凍結に用いることが好ましい。
【0054】
多能性幹細胞由来心筋細胞は、細胞内Ca2+濃度変化の検出が可能となるよう、GFP−カルモジュリン−ミオシン軽鎖フラグメント結合蛋白質(本明細書中、GCaMPシリーズ蛋白質とも称する)などのカルシウムセンサー蛋白質や、VSFPなどの膜電位センサー蛋白質を発現する多能性幹細胞から誘導された細胞であってもよい。すわなち、ある態様において、多能性幹細胞または多能性幹細胞由来心筋細胞は、カルシウムセンサー蛋白質、好ましくはGCaMPシリーズ蛋白質、を発現する細胞である。GCaMPシリーズ蛋白質としては、GCaMP、GCaMP2、GCaMP3、GCaMP7などが例示される。Ca2+と結合して蛍光を発するカルシウムセンサー蛋白質を発現する心筋細胞では、細胞内Ca2+濃度の変化を蛍光強度の変化として検出することができ、また、心筋拍動を蛍光により可視化することができる。Ca2+は筋収縮の直接的トリガーであり、心毒性評価などの実用化に適している。また、細胞外電極を必要としないので、浮遊状態のまま評価が可能であり、細胞−電極間の接着状態による影響を受けず、薬剤をウォッシュすれば同じ心筋凝集体から長期にわたって繰り返し測定が可能である。
【0055】
本発明の凍結方法で凍結する多能性幹細胞由来心筋細胞の凝集体は、直径50〜5000μmのサイズであればよい。好ましくは、凝集体の直径は、50〜3000μm、50〜2000μm、100〜3000μm、または100〜2000μmである。ある実施形態において、凝集体の直径は、200〜2000μm、好ましくは500〜1000μmである。凝集体の直径は、図2に示すような凝集体の外径の値とする。
【0056】
多能性幹細胞由来心筋細胞の凝集体は、多能性幹細胞からの分化誘導で得られた心筋細胞の凝集体を単一細胞に分散後、再形成したものであってよい。あるいは、多能性幹細胞からの分化誘導で得られた心筋細胞の凝集体を直接(すなわち、単一細胞への分散および凝集体の再形成の経ることなしに)、凍結してもよい。
【0057】
すなわち、本発明の方法は、工程(i)に先立ち、
(a)多能性幹細胞からの分化誘導で得られた心筋細胞の凝集体を、タンパク分解酵素を用いて単一細胞に分散すること、および
(b)上記(a)の細胞を容器に播種して培養し、心筋細胞の凝集体を作製すること、
を含んでもよい。
【0058】
単一細胞への分散には、トリプシン/コラゲナーゼ液、TryPLE selectなどのタンパク分解酵素溶液を用いることができる。単一細胞に分散後の細胞を、0.3〜30×10細胞/cmで容器に播種して培養し、上記のサイズの心筋細胞凝集体を作製する。培養容器としては、後述する凝集体の凍結保護液への浸漬に用いる容器を用いることができ、この場合、凝集体を作製後、凝集体の凍結保護液への浸漬を同じ容器中で行うことができる。例えば、96ウェルプレートの場合、0.1〜10×10細胞/ウェル、好ましくは0.5〜2×10細胞/ウェルで播種すればよい。培養期間は、限定はされないが、通常3〜180日間の間で適宜決定することができる。ある態様において、培養期間は、14〜30日間である。
【0059】
多能性幹細胞由来心筋細胞の凝集体の凍結保護液への浸漬は、マルチウェルプレート、ディッシュ、またはチューブなどの容器中で行う。容器としては、細胞の凍結に使用可能な市販の容器を使用することができ、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、およびガラス製の容器が例示される。マルチウェルプレートとしては、6、12、24、48、96または384ウェルの、平底、U底、またはV底のプレートが例示される。例えば、スミロンPrimeSurface(登録商標)96ウェルV底プレートを使用することができる。
【0060】
凍結保護液は、特に限定されず、セルバンカー1(日本全薬工業)、ステムセルバンカー(日本全薬工業)、バンバンカー(日本ジェネティクス)などの市販の凍結保護液を用いることができる。また、当業者は適切な凍結保護液を調製することができる。凍結保護液は、一般的な細胞の凍結保護剤を含むものであってよいが、DMSOまたはグリセロールを含む凍結保護液が好適に用いられる。例えば、DMSO含有血清またはグリセロール含有血清を凍結保護液として用いることができる。凍結保護液は、例えば、約5−20%のDMSOまたは約5−20%のグリセロールを含む。
【0061】
凍結保護液への浸漬は、好ましくは2〜24℃、より好ましくは2〜10℃、さらにより好ましくは約4℃にて行う。浸漬時間は、例えば5〜60分間、より好ましくは10〜40分間、さらにより好ましくは10〜30分間、さらにより好ましくは20〜30分間である。凍結保護液の量は、細胞凝集体が十分に覆われる量であればよい。例えば、96ウェルプレートの場合、5〜30μl/ウェルでありうる。
【0062】
凍結保護液への浸漬の後、凝集体を凍結する。凍結は、好ましくは−60〜−150℃、より好ましくは−60〜−100℃、さらにより好ましくは−70〜−90℃、さらに好ましくは約−80℃で行う。凝集体を含む容器を、バイセル凍結処理容器などの一般的な凍結処理容器に入れ、フリーザーで凍結すればよい。例えばプログラムフリーザーなどを用いて、時間をかけて(例えば、0.1〜1℃/分で)温度を低下させる場合、前記の凍結保護液への浸漬時間を5分未満とすることもできる。凍結時の凍結保護液の量は少ないことが好ましく、そのため細胞凝集体が露出しない程度に余分な凍結保護液を取り除くことが好ましい。例えば、96ウェルプレートの場合、凍結保護液が5〜20μl/ウェル程度となるよう、余分な凍結保護液を取り除けばよい。前記温度での凍結後、凍結された凝集体は、−140〜−150℃で保存することができる。
【0063】
凍結された凝集体は、使用前に解凍される。例えば、凍結された凝集体を含む容器に心筋細胞培養用の培地を加えて解凍することができる。培地としては、IMDMおよび/またはDMEMを基礎培地とする心筋細胞培養用の培地を用いることができるが、これらに限定されない。前述の国際公開第2015/182765号に記載の方法に用いる心筋分化培地を解凍に用いてもよい。例えば、培地は、IMDM培地および/またはDMEM培地、MEM non-essential amino acid solution、並びにL−グルタミンを含む。ある態様において、培地は、IMDM培地およびDMEM培地(好ましくはIMDM:DMEM=1:1)、MEM non-essential amino acid solution、並びにL−グルタミンを含む。培地は、IMDM培地および/またはDMEM培地、MEM non-essential amino acid solution、並びにL−グルタミンに加えて、L−カルニチン、アスコルビン酸、および/またはクレアチンを含んでもよい。好ましい態様において、培地は、IMDM培地およびDMEM培地(好ましくはIMDM:DMEM=1:1)、MEM non-essential amino acid solution、L−グルタミン、L−カルニチン、アスコルビン酸、およびクレアチンを含む。培地は、必要に応じてペニシリン-ストレプトマイシン等の抗生物質を含んでもよい。具体的な培地としては、実施例で使用しているIMDMおよびDMEMを基礎培地とする培地(IMDM 242ml、DMDM 242ml、MEM non-essential amino acid solution(×100) 5ml、ペニシリン−ストレプトマイシン(×100) 5ml、0.2M L−グルタミン 5ml、1M L−カルニチン 100μl、アスコルビン酸 50mg、0.5Mクレアチン 1ml含有)が例示される。
【0064】
解凍用培地は、血清(例えばウシ胎児血清(FBS)またはヒト血清)を含むことが好ましく、血清とRock阻害剤とを含むことがさらに好ましい。好ましくは、解凍用培地は、5〜30%、好ましくは約20%の血清を含む。さらに好ましくは、解凍用培地は、血清に加えて、1〜10μM、好ましくは約3μMのRock阻害剤を含む。Rock阻害剤としては、Y27632、ファスジル(Fasudil)、リパスジル(Ripasudil)が例示される。
【0065】
解凍は、できるだけ速やかに行うことが望ましい。例えば、凍結された凝集体を含む容器に、約37℃に温めた解凍用培地を、容器中の凍結保護液の5倍量以上、好ましくは10倍量以上の量で加えた後、速やかに上清を捨て、再度解凍用培地を加え、培養する。解凍用培地がRock阻害剤を含む場合、解凍の翌日に、Rock阻害剤を含まない培地に培地の全量を交換する。解凍の翌日以降、例えば1〜7日後から、細胞の機能解析を行うことができる。
【0066】
多能性幹細胞由来心筋細胞の凝集体の凍結解凍方法であって、
(i)多能性幹細胞由来心筋細胞の凝集体を凍結保護液に浸漬すること、
(ii)凍結保護液に浸漬した前記凝集体を凍結すること、および
(iii)凍結された凝集体を血清およびRock阻害剤を含む培地で解凍すること
を含む方法もまた提供される。
【0067】
工程(i)および(ii)は、本発明の凍結方法と同様に実施すればよい。ある態様において、工程(iii)は、
約37℃に温めた血清およびRock阻害剤を含む培地を、前記凝集体を含む容器に、好ましくは容器中の凍結保護液の5倍量以上、より好ましくは10倍量以上の量で、加えること、
速やかに上清を捨て、再度、前記容器に前記培地を加えること、および
1日後に、培地を、血清を含みRock阻害剤を含まない培地に交換すること、
を含む。
【0068】
本発明の凍結方法により、凍結多能性幹細胞由来心筋細胞凝集体が製造される。すなわち、凍結多能性幹細胞由来心筋細胞凝集体の製造方法もまた提供される。さらに、凍結多能性幹細胞由来心筋細胞凝集体を含む組成物もまた提供される。ある実施形態において、本発明の組成物は、凍結多能性幹細胞由来心筋細胞凝集体および凍結保護液を含む。
【0069】
心毒性評価やドラッグスクリーニングなどの薬剤応答評価や移植に用いる場合、凍結心筋細胞は、解凍後に凍結前の電気生理学的性質(例えば、細胞内カルシウム変化の波形や心拍数)や薬剤応答を維持している必要がある。また、解凍が容易であり、かつ解凍後の生存率が高いことが望ましい。本発明の凍結多能性幹細胞由来心筋細胞凝集体は、解凍後にこれら用途に十分な電気生理学的性質や薬剤応答を維持しており、薬剤応答評価または移植に用いることができる。また、簡便な操作で解凍可能であり、解凍後の生存率も高い。ある態様において、本発明の凍結多能性幹細胞由来心筋細胞凝集体は、解凍後に70%以上、好ましくは80%以上の細胞生存率を有するものである。細胞生存率は、トリパンブルー染色などにより生存細胞と死細胞とを区別して細胞数を計測することにより得られる、生存細胞数と全細胞数とから算出することができる。
【0070】
GCaMPなどのカルシウムセンサー蛋白質やVSFPなどの膜電位センサー蛋白質を発現する心筋細胞の場合、細胞内カルシウム濃度や膜電位の変化を蛍光強度の変化として検出することができ、また、心筋拍動を蛍光により可視化することができる。カルシウムセンサー蛋白質を発現しない心筋細胞の場合、Fluo−4、Fluo−8、Fura−2などのカルシウムインジケーターや、DiOCなどの膜電位感受性色素、細胞外電極などを用いて、薬剤応答評価を行うことができる。
【0071】
本発明の凍結多能性幹細胞由来心筋細胞凝集体は、薬剤応答評価や移植などに用いるためのキットとして提供されうる。キットは、用途に応じた容器(例えば、マイクロプレート、ディッシュ、またはチューブ)を含み、その容器中に凍結多能性幹細胞由来心筋細胞凝集体が含まれていてもよい。キットはさらに、解凍用および/または培養用の培地や、その他必要な試薬を含んでいてもよい。
【0072】
特に、国際公開第2015/182765号に記載の方法で誘導された多能性幹細胞由来心筋細胞を本発明の凍結方法で凍結することで、心毒性評価やドラッグスクリーニングなどの薬剤応答評価により適する凍結多能性幹細胞由来心筋細胞凝集体およびこれを含むキットを提供することができる。
【0073】
ある実施形態において、凍結多能性幹細胞由来心筋細胞凝集体を含む組成物またはキット中の10%以上の多能性幹細胞由来心筋細胞が、直径50〜5000μmの凝集体を形成している。好ましくは、組成物またはキット中の10%以上の多能性幹細胞由来心筋細胞が、直径50〜3000μm、50〜2000μm、100〜3000μm、または100〜2000μmの凝集体を形成している。ある実施形態において、組成物またはキット中の10%以上の多能性幹細胞由来心筋細胞が、直径200〜2000μmまたは500〜1000μmの凝集体を形成している。組成物またはキット中の20、30、40、50、60、70、80%、90%、または95%以上の多能性幹細胞由来心筋細胞が、所定の直径の凝集体を形成していてもよい。好ましい実施形態において、組成物またはキット中の70、80%、90%、または95%以上の多能性幹細胞由来心筋細胞が、所定の直径の凝集体を形成している。
【0074】
国際公開第2015/182765号に記載の方法によれば、低コストかつ高効率に多能性幹細胞から心筋細胞を誘導することができ、心筋細胞の大量生産が可能である。また、前記方法により誘導した心筋細胞は、チャネル遺伝子(HERG、KCNQ1等)の発現量が比較的高く、パッチクランプ法でも比較的成熟した心筋細胞と同様の電気生理学的性質を示し、それぞれのチャネル阻害剤であるE4031やクロマノール293bによる活動電位の延長(QT延長)が見られる。そして、本発明の凍結方法によれば、生存率と機能性を維持したまま誘導された心筋細胞の凍結保存が可能である。よって、同一ロットの心筋細胞を大量に生産・保存して、電気生理学的性質が担保された細胞をいつでも供給可能となる。これにより、動物試験やHERGチャネル試験に代わる新たな薬剤評価系が提供されうる。
【0075】
本発明の例示的実施形態を以下に示す。
1.多能性幹細胞由来心筋細胞の凝集体の凍結方法であって、
(i)多能性幹細胞由来心筋細胞の凝集体を凍結保護液に浸漬すること、および、
(ii)凍結保護液に浸漬した前記凝集体を凍結すること、
を含む、方法。
2.凍結多能性幹細胞由来心筋細胞凝集体の製造方法であって、
(i)多能性幹細胞由来心筋細胞の凝集体を凍結保護液に浸漬すること、および、
(ii)凍結保護液に浸漬した前記凝集体を凍結すること、
を含む、方法。
3.凝集体を5〜60分間凍結保護液に浸漬する、前記1または2に記載の方法。
4.凝集体を10〜30分間凍結保護液に浸漬する、前記1〜3のいずれかに記載の方法。
5.凝集体を2〜24℃で凍結保護液に浸漬する、前記1〜4のいずれか記載の方法。
6.凝集体を2〜10℃で凍結保護液に浸漬する、前記1〜5のいずれかに記載の方法。
7.凝集体を−60〜−150℃で凍結する、前記1〜6のいずれかに記載の方法。
8.凝集体を−70〜−90℃で凍結する、前記1〜7のいずれかに記載の方法。
9.凝集体の直径が50〜5000μmである、前記1〜8のいずれかに記載の方法。
10.凝集体の直径が50〜2000μmである、前記1〜9のいずれかに記載の方法。
11.凝集体の直径が100〜2000μmである、前記1〜10のいずれかに記載の方法。
12.多能性幹細胞由来心筋細胞がGFP−カルモジュリン−ミオシン軽鎖フラグメント結合蛋白質を発現する細胞である、前記1〜11のいずれかに記載の方法。
13.多能性幹細胞由来心筋細胞が、
(1)多能性幹細胞をWNTシグナル活性化剤およびPKC活性化剤を含む培地中で培養すること、および
(2)工程(1)で得られた細胞をWNTシグナル阻害剤、Src阻害剤、およびEGF受容体阻害剤を含む培地中で培養すること、
を含む方法により得られたものである、前記1〜12のいずれかに記載の方法。
14.工程(i)に先立ち、
(1)多能性幹細胞をWNTシグナル活性化剤およびPKC活性化剤を含む培地中で培養すること、および
(2)工程(1)で得られた細胞をWNTシグナル阻害剤、Src阻害剤、およびEGF受容体阻害剤を含む培地中で培養すること、
を含む方法により多能性幹細胞由来心筋細胞を得ることをさらに含む、前記1〜13のいずれかに記載の方法。
15.多能性幹細胞がヒトまたはサル多能性幹細胞である、前記1〜14のいずれかに記載の方法。
16.多能性幹細胞がヒトiPS細胞である、前記1〜15のいずれかに記載の方法。
17.多能性幹細胞がGFP−カルモジュリン−ミオシン軽鎖フラグメント結合蛋白質を発現する細胞である、前記1〜16のいずれかに記載の方法。
18.凍結保護液がDMSOまたはグリセロールを含む、前記1〜17のいずれかに記載の方法。
19.前記1〜18のいずれかに記載の方法により凍結または製造された、凍結多能性幹細胞由来心筋細胞凝集体。
20.薬剤応答評価または移植に用いるための、凍結多能性幹細胞由来心筋細胞凝集体。
21.解凍後に70%以上の生存率を有する、前記19または20に記載の凍結多能性幹細胞由来心筋細胞凝集体。
22.凝集体の直径が50〜5000μmである、前記19〜21のいずれかに記載の凍結多能性幹細胞由来心筋細胞凝集体。
23.凝集体の直径が50〜2000μmである、前記19〜22のいずれかに記載の凍結多能性幹細胞由来心筋細胞凝集体。
24.凝集体の直径が100〜2000μmである、前記19〜23のいずれかに記載の凍結多能性幹細胞由来心筋細胞凝集体。
25.直径が50〜5000μmである、凍結多能性幹細胞由来心筋細胞凝集体。
26.凝集体の直径が50〜2000μmである、前記25に記載の凍結多能性幹細胞由来心筋細胞凝集体。
27.凝集体の直径が100〜2000μmである、前記25または26に記載の凍結多能性幹細胞由来心筋細胞凝集体。
28.前記19〜27のいずれかに記載の凍結多能性幹細胞由来心筋細胞凝集体を含むキット。
29.マルチウェルプレート、ディッシュまたはチューブをさらに含む、前記28に記載のキット。
30.解凍用培地および/または培養用培地をさらに含む、前記28または29に記載のキット。
31.薬剤応答評価または移植に用いるための、前記28〜30のいずれかに記載のキット。
32.直径50〜5000μmの凍結多能性幹細胞由来心筋細胞凝集体を含む、組成物。
33.凝集体の直径が50〜2000μmである、前記32に記載の組成物。
34.凝集体の直径が100〜2000μmである、前記32または33に記載の組成物。
35.薬剤応答評価または移植に用いるための、前記32〜34のいずれかに記載の組成物。
36.前記19〜27のいずれかに記載の凍結多能性幹細胞由来心筋細胞凝集体、前記28〜31のいずれかに記載のキット、または前記32〜34のいずれかに記載の組成物の、薬剤応答評価または移植のための使用。
【0076】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、これら実施例は如何なる意味においても本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0077】
1.ヒトiPS由来心筋細胞の単一細胞凍結法と凝集体凍結法の形状比較
国際公開第2015/182765号に記載の方法により、ヒトiPS細胞(253G1株)から心筋細凝集体を作製した。具体的には、心筋分化前期(day0−2)において、ヒトiPS細胞(253G1株)の浮遊コロニー(Minami, I. et al., Cell reports 2, 1448-1460 (2012)および国際公開第2013/111875号パンフレットに記載のとおり調製)をGSK3β阻害剤(2μM CHIR99021)とPKC活性剤(0.3μM PMA)を添加した表1の培地(以下、プロテインフリー心筋分化(PFCD)培地とも称する)により、浮遊培養条件下で培養した。次に、1日間(day2−3)、GSK3β阻害剤およびPKC活性剤化合物を含まないPFCD培地で培養した後、分化後期(day3−7)にWntシグナル阻害剤(3μM KY03−Iおよび1μM XAV939)とEGFR阻害剤(10μM AG1478)、Src阻害剤(0.3 μMA419259)を添加したPFCD培地中で、浮遊培養条件下(低接着ディッシュ(和光641−07391またはコーニングYO−01835−24)上で)で4日間培養した。その後、Wntシグナル阻害剤、EGFR阻害剤、およびSrc阻害剤を含まないPFCD培地で21〜30日間培養したものを以下の実験に使用した。
【表1】
【0078】
単一細胞凍結については、得られた心筋細胞コロニーをトリプシン/コラゲナーゼ溶液で単一細胞に分散した後、直ちに培養液を凍結保護液(セルバンカー1(日本全薬工業株式会社))で置換し、CryoTube(Nunc)で−80℃で凍結した。凝集体凍結については、得られた心筋細胞凝集体をトリプシン/コラゲナーゼ溶液で単一細胞に分散し、スミロンPrimeSurface 96ウェルV底プレートに1×10細胞/ウェルで細胞を播種して7日間培養し、凝集体(直径700〜1000μm)を形成した。次いで、培養液を凍結保護液(セルバンカー1)に置換し、4℃で20分間静置後、凍結保護液が5〜20μl/ウェルになるように余分な凍結保護液を捨て、−80℃で凍結した。
【0079】
解凍用培地として、20%のウシ胎児血清(FBS)および3μMのRock阻害剤(Y−27632)を含むPFCD培地を37℃に温めた。単一細胞凍結サンプルは、前記解凍用培地(10ml)を速やかに加えて解凍した後、上清を捨てて、同じ解凍用培地に懸濁し、スミロンPrimeSurface 96ウェルV底プレートに1×10/ウェルで播種した。翌日に10%FBS含有PFCD培地(Rock阻害剤不含)で全量培地交換し、3日間培養して凝集体を形成後、解析した(図1−A)。凝集体凍結サンプルは、前記解凍用培地を速やかに200μl/ウェルで各ウェルに加えて解凍した後、上清を捨て、同じ解凍用培地を添加して培養し、翌日に10%FBS含有PFCD培地(Rock阻害剤不含)で全量培地交換した。2日間培養後、解析に用いた(図1−B)。
【0080】
凍結した単一細胞から形成した凝集体は、大きさと形がウェル間で非常に不均一であった(図1−A)。これは、細胞生存率のバラつきや細胞間接着の不安定さによると考えられる。一方、凝集体を形成してから凍結解凍すると、大きさと形を維持したまま、高い生存率で均一な凝集体として解凍できた(図1−B)。
【0081】
2.単一細胞凍結法と凝集体凍結法の形状解析と細胞生存率の定量比較
図1−Aと図1−Bの凝集体の形態について、外径と内径を計測し(図2−A)、その比率を計算し解析した(図2−B)。凝集体のまま凍結解凍したほうが、外径と内径の差が小さく、球形に近い形状であった。また、単一細胞凍結の凍結解凍の前後と凝集体凍結の凍結解凍の前後で、細胞数をセルカウンターで計測し細胞生存率の比較を行った(図2−C)。単一細胞凍結の細胞生存率が50%前後であったのに対して、凝集体凍結では85%前後と安定して高かった。
【0082】
3.GCaMP陽性iPS細胞由来心筋細胞の作製
細胞内カルシウムと結合してGFP蛍光を発するカルシウム感受性GFPであるGCaMP3の遺伝子を、CRISPRを用いたAAVS1領域特異的遺伝子導入により、ヒトiPS細胞株(253G1)またはとサルiPS細胞株(HT4M2)に導入した。このGCaMP3−ヒトiPS細胞から、上記1と同様の方法で心筋細胞を誘導し、拍動時の細胞内カルシウム濃度変化に対応してGFP蛍光を発する心筋細胞凝集体を作製した。また、GCaMP−サルiPS細胞からサイトカインを用いる方法(Nat Biotechnol. 2007 Sep;25(9):1015-24. Epub 2007 Aug 26.に記載)で心筋細胞を誘導し、細胞内カルシウム濃度変化に対応してGFP蛍光を発する心筋細胞凝集体を作製した。具体的には、GCaMP−サルiPS細胞を、ヒト組換えアクチビンA(R&D Systems)(100ng/ml)を含むRPMI−B27培地(Invitrogen)で24時間培養した後、ヒト組換えBMP4(R&D Systems)(10ng/ml)を含むRPMI−B27培地で4日間培養し、その後、培地をこれらサイトカインを含まないRPMI−B27培地に交換して、21日間培養した。これらのGCaMP−心筋細胞をトリプシン/コラゲナーゼ溶液で単一細胞に分散した後、スミロンPrimeSurface 96ウェルV底プレートに1×10/ウェルで播種して均一な凝集体(直径700〜1000μm)を形成し、心筋細胞の拍動と同期する細胞内カルシウムイオン濃度変化の波形解析に用いた。
【0083】
4.凝集体凍結法による凍結解凍前後のGCaMP−心筋細胞の蛍光パターン変化
ヒトiPS細胞由来のGCaMP−心筋細胞の凝集体の、凝集体凍結前の細胞内カルシウム応答の波形パターンと解凍後1日における波形パターンを測定した(図3−A)。その結果、波形パラメータ(Time to peak(TtP)、CAD50、70、90、下記6参照)や拍動間隔(Peak to peak(PtP))について、凍結解凍前後で大きな変化がなかった(図3−B)。また、凝集体の外径は、凍結解凍後に5〜10%程度しか減少せず、また基本的な形状も保たれていた(図3−C)。これらの結果は、心筋細胞凝集体のサイズおよび形態、並びに電気生理学的応答のパターンが、凍結解凍前後で非常に良く保存されていることを示している。
【0084】
5.凝集体凍結解凍前後の各パラメータ変化率と凍結保護液の比較
凍結保護液として、セルバンカー1(日本全薬工業)にかえて、5%DMSO含有ウシ胎児血清(FBS)(5%DMSO/FBS溶液)(DMSO(Sigma)、FBS(Gibco))、10%グリセロール含有ウシ胎児血清(FBS)(10%グリセロール/FBS溶液)(グリセロール(Sigma)、FBS(Gibco))、ステムセルバンカー(日本全薬工業)、またはバンバンカー(日本ジェネティクス)を用いて、上記1と同様にヒトiPS由来心筋細胞の凝集体を凍結解凍し、凍結前と解凍後1日で凝集体の各パラメータを測定し、凍結前後の変化を解析した。また、上記3のサルiPS由来心筋細胞について、上記1と同様にセルバンカー1を凍結保護液として用いて凝集体凍結を行い、凍結前後の変化を解析した。ヒトiPS細胞由来心筋細胞の凝集体の外径の直径(図4中「直径」と示す)は、どの凍結保護液においても10%程度しか減少しなかった。また、GCaMP蛍光波形の各パラメータ(TtP、CaD50、70、90、PtP)の凍結前後の変化率は±25%以内であり、大きな変化は見られなかった。サルiPS細胞由来心筋細胞凝集体では、直径は20%程度減少し、GCaMP蛍光波形の各パラメータは20〜40%程度上昇していた。サイトカインを用いる方法で誘導されたサルiPS由来心筋細胞についても、ヒトiPS由来心筋細胞に比べ変化率は大きいものの、機能性を維持しつつ凍結解凍が可能であった。
【0085】
6.凍結解凍後の心筋細胞凝集体におけるGCaMP蛍光を指標としたE4031薬剤効果
凍結解凍後7日目のヒトiPS細胞由来のGCaMP−心筋細胞凝集体に、HERGチャネル阻害剤であるE4031(300nM)を添加し、E4031添加前と添加後10分におけるGCaMP蛍光波形(細胞内カルシウムイオン濃度変化)の各パラメータを比較した。蛍光波形の立ち上がりからピークまでの時間(TtP)、波形の立ち上がりからピークに達した後さらにピーク値の50%減衰するまでの時間(CaD50)、70%減衰するまでの時間(CaD70)、90%減衰するまでの時間(CaD90)を解析した(図5−A)。その結果、E4031の添加によりすべてのパラメータが40%前後延長しており、ウェル間のばらつきも非常に少なかった(図5−B)。HERGチャネルを阻害すると心筋活動電位と細胞内カルシウムイオン上昇の持続時間が延長し、心電図において薬剤誘導性QT延長が起こることが知られている。この結果は、凍結解凍後もHERGチャネル阻害剤の薬剤応答(QT延長)が安定して検出できることを示している。
【0086】
7.凍結解凍後の心筋細胞凝集体におけるE4031薬剤効果の濃度依存性
凍結解凍後7日目のヒトiPS細胞由来のGCaMP−心筋細胞凝集体に、E4031を0、0.3、3、30、300nMの各濃度で添加し、E4031による変化率を解析した。E4031を300nMで添加した前後のGCaMP蛍光波形(図6−A)とその各波形パラメータ変化率(図6−B)を示す。TtP、CAD50、CAD70、およびCAD90の値が、3nM以上のE4031添加において濃度依存的に延長した(図6−C)。この結果は、凝集体の凍結解凍後において、HERGチャネル阻害剤の薬剤応答(QT延長)が安定して高感度に検出できることを示している。このように濃度依存的なE4031薬剤応答(QT延長)を示すことは、薬剤の心毒性評価において重要である。これらの結果により、凝集体の凍結解凍後に心毒性評価が可能であることが示された。
【0087】
8. 凍結解凍後の心筋細胞凝集体におけるいくつかの薬剤(E4031、アステミゾール、ニフェカラント、クロマノール293b、メキシレチン、ニフェジピン、イソプロテレノール、プロプラノロール、リアノジン)の薬剤効果
凍結解凍後7日目のヒトiPS細胞由来のGCaMP−心筋細胞凝集体に、300nM E4031、1μM アステミゾール、1μM ニフェカラント、10μM クロマノール293b、30μM メキシレチン、50nM ニフェジピン、300nM イソプロテレノール、1μM プロプラノロール、または50μM リアノジンを添加し、各パラメータの変化率を解析した(図7−A)。またTtP、CaD50、CAD70、およびCAD90の値をPtPの立方根で割って補正した値の変化率(TtPcF、CaD50cF、CAD70cF、およびCAD90cF)も示した(図7−B)。この補正は薬剤誘導性QT延長を解析する際に用いられる補正法である(修正QT間隔Fridericia法、QT corrected Fridericia)。E4031、アステミゾール、ニフェカラントはHERGチャネル阻害剤であり、クロマノール293bはKCNQ1チャネル阻害剤、メキシレチンは電位依存性ナトリウムチャネル阻害剤、ニフェジピンはL型カルシウムチャネル阻害剤、イソプロテレノールはβ刺激剤、プロプラノロールはβ阻害剤、リアノジンは小胞体リアノジン受容体の阻害剤である。HERG阻害剤、KCNQ1阻害剤または電位依存性ナトリウムチャネル阻害剤の添加によりTtP、CAD50、CAD70およびCAD90の値が延長し、L型カルシウムチャネル阻害剤でこれらのパラメータが短縮した。また、β刺激剤でPtPが減少(心拍数が増加)し、β阻害剤でPtPが増加(心拍数が減少)し、リアノジン受容体阻害剤でPtPが増加してGCaMP蛍光のピーク値(PeakValue、細胞内カルシウム増加量)が減少していた。これらの結果は、凍結解凍後の心筋細胞凝集体のカルシウム応答が実際の心臓における各種薬剤の効果を反映していることを示す。
【0088】
9.凍結解凍後の心筋細胞凝集体におけるアンスラサイクリン心毒性
凍結解凍後7日目のヒトiPS細胞由来のGCaMP−心筋細胞凝集体を用いて、アンスラサイクリン系抗がん剤の心毒性を検出するために、ドキソルビシン(Doxorubicin)(10μM)とダウノルビシン(Daunorubicin)(20μM)を24時間添加した。薬剤添加なしのコントロール心筋細胞凝集体(図8−A、8−B)とドキソルビシン添加後3日(図8−C)あるいはダウノルビシン添加後3日(図8−D)の凝集体の細胞内カルシウム波形をGCaMP蛍光でプロットした。その結果、アンスラサイクリン添加した凝集体ではPtPが短く、頻脈が見られ、また心拍間隔が一定ではなく、不整脈の発生が見られた(図8−C、8−D)。QT延長等の数分〜数十分の短期間で見られる心毒性だけでなく、抗がん剤による心毒性のような、数日以上の長期にわたる心毒性も検出可能であることが示された。
【0089】
10.凍結解凍後の心筋細胞凝集体におけるアンスラサイクリン心毒性の解析
ドキソルビシン(10μM)とダウノルビシン(20μM)添加による、GCaMP蛍光波形のパラメータ変化を解析した(図9−A、9−B)。TtPやCaDに有意な変化はなかったが、PtPが有意に減少しており、頻脈が起こっていることが定量的に示されている。また、GCaMP蛍光波形の振幅(立ち上がりからピーク値までの蛍光量の絶対値)が有意に減少する傾向が見られた(図9−C)。この結果は、アンスラサイクリンの心毒性により心筋細胞死や細胞内カルシウムイオン増加量の低下が起こり、頻脈や不整脈が起きていることを示唆している。
【0090】
11.サイズの異なる凝集体の凍結解凍前後の各パラメータ変化率
上記1のヒトiPS由来心筋細胞を用いて、比較的少量の細胞数(0.1×10細胞/ウェル)で作製した直径100〜200μmの小さいサイズの凝集体(CB1_Small size)と、比較的大量の細胞数(2×10細胞/ウェル)で作製した直径1200〜1600μmの大きいサイズの凝集体(CB1_Large size)について、上記1と同様にセルバンカー1を凍結保護液として用いて凝集体凍結を行い、凍結前後の変化を解析した(図10)。上記5と同様に、凝集体の外径の直径(図10中「直径」と示す)は、どちらのサイズの凝集体においても、10%程度しか減少しなかった。また、GCaMP蛍光波形の各パラメータ(TtP、CaD50、70、90、PtP)の凍結前後の変化率は±25%以内であり、大きな変化は見られなかった。凝集体の細胞数とサイズを変えても、同様に凍結解凍が可能であった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10

【手続補正書】
【提出日】2017年9月6日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多能性幹細胞由来心筋細胞の凝集体の凍結方法であって、
(i)直径200〜5000μmの多能性幹細胞由来心筋細胞の疑集体を凍結保護液に2〜24℃で5〜60分間浸漬すること、および、
(ii)凍結保護液に浸漬した前記凝集体を−60〜−150℃で凍結すること、
を含む、方法。
【請求項2】
凍結多能性幹細胞由来心筋細胞凝集体の製造方法であって、
(i)直径200〜5000μmの多能性幹細胞由来心筋細胞の凝集体を凍結保護液に2〜24℃で5〜60分間浸漬すること、および、
(ii)凍結保護液に浸漬した前記凝集体を−60〜−150℃で凍結すること、
を含む、方法。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
凝集体の直径が200〜2000μmである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
多能性幹細胞由来心筋細胞がGFP−カルモジュリン−ミオシン軽鎖フラグメント結合蛋白質を発現する細胞である、請求項1、2および6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
多能性幹細胞由来心筋細胞が、
(1)多能性幹細胞をWNTシグナル活性化剤およびPKC活性化剤を含む培地中で培養すること、および
(2)工程(1)で得られた細胞をWNTシグナル阻害剤、Src阻害剤、およびEGF受容体阻害剤を含む培地中で培養すること、
を含む方法により得られたものである、請求項1、2、6および7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
凍結保護液がDMSOまたはグリセロールを含む、請求項1、2および6〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
請求項1、2および6〜9のいずれかに記載の方法により凍結または製造された、凍結多能性幹細胞由来心筋細胞凝集体。
【請求項11】
(削除)
【請求項12】
解凍後に70%以上の生存率を有する、請求項10に記載の凍結多能性幹細胞由来心筋細胞凝集体。
【請求項13】
直径が200〜5000μmである、凍結多能性幹細胞由来心筋細胞凝集体。
【請求項14】
請求項10、12および13のいずれかに記載の凍結多能性幹細胞由来心筋細胞凝集体を含むキット。
【請求項15】
薬剤応答評価または移植に用いるための、請求項14に記載のキット。
【請求項16】
直径200〜5000μmの凍結多能性幹細胞由来心筋細胞凝集体を含む、組成物。
【請求項17】
薬剤応答評価または移植に用いるための、請求項16に記載の組成物。
【国際調査報告】