【実施例】
【0023】
以下に本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
本発明におけるその他の用語や概念は、当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものであり、本発明を実施するために使用する様々な技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。また、各種の分析などは、使用した分析機器又は試薬、キットの取り扱い説明書、カタログなどに記載の方法を準用して行った。
なお、本明細書中に引用した技術文献、特許公報及び特許出願明細書中の記載内容は、本発明の記載内容として参照されるものとする。
【0024】
(本実施例で用いる培地)
酵母の増殖培地として用いたYPD培地は、Bacto
TM 酵母エキス (BD バイオサイエンス、米国)10 g、Bacto
TM ペプトン(BD バイオサイエンス) 20 g、D-グルコース(以下グルコース、シグマ アルドリッチ、米国)20 gを精製水 1 Lに含む。YPX
50培地は、Bacto
TM 酵母エキス 10 g、Bacto
TM ペプトン 20 g、D-キシロース(以下キシロース、シグマ アルドリッチ) 50 gを精製水 1 Lに含む。YPX
80培地は、Bacto
TM 酵母エキス 10 g、Bacto
TM ペプトン 20 g、キシロース 80 gを精製水 1 Lに含む。YPD
85X
35培地は、Bacto
TM 酵母エキス 10 g、Bacto
TM ペプトン 20 g、グルコース 85 g、キシロース 35 gを精製水 1 L に含む。また、平板培地は、上記の組成の培地に、Bacto
TM アガー(BD バイオサイエンス) 20 gを1 L培地当たりに添加した。
酵母の遺伝子操作による株の構築には、以下に記載の抗生物質を各濃度になるように上記組成の培地に適宜添加した。Geneticin
(R)(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社、米国) 200μg/mL、Zeocin
TM(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社) 200μg/mL、ハイグロマイシンB (サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)200μg/mL、オーレオバシジンA(タカラバイオ株式会社) 0.5μg/mL。
また、大腸菌 DH5α株の液体培養には、Difco
TM LB, Miller 培地(BD バイオサイエンス)、平板培地での培養には Difco
TM LB Agar, Miller 培地(BD バイオサイエンス)を用いた。
大腸菌 DH5α株を宿主として用いた遺伝子操作では、Difco
TM LB, Miller 培地もしくはDifco
TM LB Agar, Miller 培地にアンピシリン(和光純薬工業株式会社) 100μg/mLを添加した選択培地を用いた。
【0025】
(本実施例におけるDNA抽出法、PCR法、及び形質転換方法)
大腸菌からのプラスミド抽出は、QIAprep Spin Miniprep Kit(キアゲン社、ドイツ)を用いて、添付のプロトコルに従い抽出、精製を行った。酵母からのゲノムDNA抽出は、Genとるくん(酵母用)High Recovery (タカラバイオ株式会社)を用いて、添付のプロトコルに従い抽出、精製を行った。
PCR反応は、KOD -Plus- Neo(東洋紡株式会社)を用いて行い、反応液中には添付のプロトコルに従って、1×PCR buffer for KOD -Plus- Neo、0.2 mM dNTPs、1.5 mM MgSO
4、0.3μM primer、Template DNA(1 ng)、KOD -Plus- Neo DNA polymerase (1 U/μL)の組成で調製し (50 μL反応液)、3ステップサイクル(プレ変性 94℃ 2分、変性 98℃ 10秒、アニーリング Tm温度 30秒、伸長反応 68℃ 30秒/kb)で、30サイクルで行った。アニーリング温度は、使用するプライマーのTm温度に従った。また、伸長反応時間は、増幅を目的とする塩基配列の長さに従って調整した。大腸菌を宿主として用いたキシロース異性化酵素遺伝子発現プラスミドの構築は、ECOS
TM Competent E. coli DH5α(株式会社ニッポンジーン)を用いて行い、形質転換方法は添付のプロトコルに従って行った。出芽酵母の形質転換は酢酸リチウム法にて行った。
【0026】
(実施例1)
キシロース異性化酵素遺伝子の人工合成
出芽酵母にキシロース代謝能を付与可能と報告されている8種類のキシロース異性化酵素遺伝子のアミノ酸配列情報(Burkholderia cenocepacia J2315 (BcXI、表1:配列番号1、非特許文献7)、Prevotella ruminicola TC2-24 (PrXI、表1:配列番号3、非特許文献6)、Ruminococcus flavefaciens 17 (RfXI、表1:配列番号:5、非特許文献5)、Orpinomyces sp. ukk1 (OspXI、表1:配列番号7、非特許文献3)、Piromyces sp. strain E2 (PspXI、表1:配列番号9、非特許文献2)、Clostridium phytofermentans ISDg (CpXI、表1:配列番号11、非特許文献4)、Clostridium cellulolyticum H10 (CcXI、表1:配列番号13、非特許文献8)、Streptomyces rubiginosus (SrXI、表1:配列番号15、非特許文献9)を、National Center for Biotechnology Information (NCBI)のデータベースより入手した。
各キシロース異性化酵素のアミノ酸配列に対し、出芽酵母において高い遺伝子発現量を有する遺伝子群に基づき作成された最適化コドンテーブル (非特許文献12)を用いて、各キシロース異性化酵素遺伝子に含まれるコドンの最適化を行った。得られた塩基配列はそれぞれ、BcXI遺伝子(配列番号2)、PrXI遺伝子(配列番号4)、RfXI遺伝子(配列番号6)、OspXI遺伝子(配列番号8)、PspXI遺伝子(配列番号10)、CpXI遺伝子(配列番号12)、CcXI遺伝子(配列番号14)、およびSrXI遺伝子(配列番号16)である。これらの塩基配列に基づき、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社に委託して人工合成を行い、各キシロース異性化酵素遺伝子を得た。
以下、(表1)「本研究で使用したキシロース異性化酵素遺伝子のアミノ酸配列および塩基配列」として、本研究で使用したキシロース異性化酵素遺伝子について、由来生物名、本研究で付与した遺伝子名、アミノ酸配列、GenBank Accession No.、およびコドン最適化後の塩基配列を示した。
【0027】
【表1】
【0028】
(実施例2)
宿主酵母株の作製
各キシロース異性化酵素のキシロース代謝性能の評価のための宿主として、二倍体エタノール生産実用酵母株IR-2(表4、非特許文献13)より、一倍体IR-2株を構築した。
具体的には、以下の手順で行った。まず、単離される一倍体株におけるmating-typeの転換を抑制するため、HO 遺伝子の破壊を行った。pUG6zeo(
図1)を鋳型とし、5’-末端にHO遺伝子のプロモーター領域もしくはターミネーター領域と相同な配列を有するプライマーセット(表2:配列番号17および18)を用いてPCR反応によって、ゼオシン耐性遺伝子の両端にHO遺伝子のプロモーター領域もしくはターミネーター領域と相同な配列を付加したDNA断片を作製した。次いで、本DNA断片を鋳型として、両端の相同配列をさらに延伸するため、プライマーセット(表2:配列番号19および20)を用いてPCR反応によってHO-bleMX6 断片を作製した。本断片を用いて、相同組換えによるIR-2株の形質転換を行い、ゼオシン添加YPD平板培地にて3日間培養を行った。
【0029】
得られた形質転換体を、ゼオシン添加YPD培地によって一晩培養後、酵母細胞よりゲノムDNAの抽出を行った。HO遺伝子破壊の確認のため、確認用プライマーセット(表2:配列番号21および22)を用いて、形質転換体より得られたゲノムDNAを鋳型としたPCR反応を行い、約1.6 kbのDNA断片を得た。得られた断片の塩基配列解析によって、HO遺伝子が破壊された形質転換体を判別した。得られた形質転換体を胞子形成平板培地(酢酸カリウム 10 g、Bacto
TM アガー 20 gを精製水1Lに含む)における培養によって胞子形成をさせ、マイクロマニピュレーター(MSM System series 400、シンガー インスツルメンツ社、英国)によって、四分子胞子分離を行った。得られた胞子をYPD平板培地で培養を行い、親株IR-2と同等の性質を示す一倍体2a-3-34A株(表4)を取得した。
【0030】
さらに、宿主酵母が有するキシロース還元酵素遺伝子によるキシロースからキシリトールへの触媒反応を抑制するため、キシロース還元酵素遺伝子であるGRE3遺伝子の破壊を行った。pUG6hyg(
図1)を鋳型として、5’-末端にGRE3遺伝子のプロモーター領域もしくはターミネーター領域と相同な配列を有するプライマーセット(配列番号:23および24)を用いてPCR反応によって、ハイグロマイシン耐性遺伝子の両端にGRE3遺伝子のプロモーター領域もしくはターミネーター領域と相同な配列を付加したDNA断片を作製した後、本DNA断片を鋳型として、両端の相同配列をさらに延伸するため、プライマーセット(表2:配列番号25および26)を用いてPCR反応によってGRE3-hphMX6断片を作製した。
【0031】
本DNA断片を用いて、相同組換えによる2a-3-34A株の形質転換を行い、ハイグロマイシンB添加YPD平板培地にて3日間の培養を行った。得られた形質転換体を、ハイグロマイシンB添加YPD培地によって一晩培養後、形質転換体細胞よりゲノムDNAの抽出を行った。GRE3遺伝子破壊の確認のため、GRE3破壊確認用プライマーセット(配列番号:27および28)を用いて、形質転換体より得られたゲノムDNAを鋳型としたPCR反応を行い、約2 kbのDNA断片を得た。得られた断片の塩基配列解析によって、GRE3遺伝子が破壊された形質転換体を判別し、得られた本形質転換体を以下の実施例で用いる宿主酵母のSS29株(表4)とした。
以下には、(表2)として、本研究で使用したプライマーの塩基配列を示す。
【0032】
【表2】
【0033】
(実施例3)
キシロース異性化酵素遺伝子発現系の構築と酵母株への導入
実施例2で作製した出芽酵母宿主(SS29株)を用い、各キシロース異性化酵素の発現を試みるため、酵母発現ベクターであるpLTex321sV5H(表3:プラスミド番号3、特許文献2)にサブクローニングを行った。具体的には、以下の手順でサブクローニングを行った。
実施例1で作製した各キシロース異性化酵素遺伝子をそれぞれに対応するプライマーセット(表2:配列番号29〜44)を用いてPCRによって増幅を行った。増幅の際に用いたリバースプライマーには、XhoIサイトが導入されており、増幅されたDNA断片約1.3 kbをXhoIにて切断処理を行った。同時に、SmaI および XhoI によって切断した酵母発現ベクターpLTex321sV5H断片(約7.4 kb)と、各キシロース異性化酵素をコードする増幅DNA断片を、TaKaRa Ligation Kit Mighty Mix(タカラバイオ株式会社)を用いて、添付のプロトコルに従ってライゲーション反応を行った。反応終了後、各ライゲーション反応液を用いて、大腸菌DH5αの形質転換を行い、アンピシリン添加LB平板培地にて一晩培養を行った。得られた形質転換体を、アンピシリン添加LB培地によって一晩培養後、プラスミドを抽出し、制限酵素切断パターンおよび塩基配列解析によって目的のプラスミドを保有した形質転換体を判別した。
得られた各キシロース異性化酵素遺伝子を含むプラスミドを、SpeI および KpnI によって切断し、HSP12 プロモーター、各キシロース異性化酵素遺伝子、CYC1 ターミネーターからなる約 2.2 kbの断片を得て、同様に、SpeI および KpnI によって切断した酵母発現ベクター pUG35-kan-PTDH3(
図1、表3:プラスミド番号4)断片(約4.6 kb)とライゲーション反応を行った。ライゲーション反応終了後、各ライゲーション反応液を用いて、大腸菌DH5αの形質転換を行い、アンピシリン添加LB平板培地にて一晩培養を行った。得られた形質転換体を、アンピシリン添加LB培地によって一晩培養後、プラスミドを抽出し、制限酵素切断パターンおよび塩基配列解析によって目的のプラスミドを保有した形質転換体を判別した。得られた形質転換体よりプラスミド抽出を行い、各キシロース異性化酵素遺伝子発現ユニットを含む発現プラスミドをそれぞれ得た。
【0034】
さらに、キシルロースからキシルロース 5-リン酸への反応を触媒するキシルロースリン酸化酵素遺伝子(XKS1)の過剰発現のため、上記の各発現プラスミドへのXKS1遺伝子発現ユニットの導入を行った。その際の導入方法については、以下のとおり。XKS1遺伝子発現ユニットを含むプラスミドである pAUR-XRXDHXK(表3:プラスミド番号5)を鋳型として用いて、PGK1プロモーター、XKS1遺伝子、CYC1ターミネーターからなるXKS1過剰発現ユニットを含むDNA断片を増幅するため、XKS1過剰発現ユニット用プライマーセット(表2:配列番号45および46)を用いてPCRによって増幅を行った。増幅されたDNA断片約2.9 kbと、KpnIによって切断した上記の発現プラスミド断片を、In-Fusion
(R) HD Cloning Kit(タカラバイオ株式会社)を用いて、添付のプロトコルに則ってIn-Fusion反応を行った。反応終了後、In-Fusion反応液を用いて、大腸菌DH5α株の形質転換を行い、アンピシリン添加LB平板培地にて一晩培養を行った。得られた形質転換体を、アンピシリン添加LB培地によって一晩培養後、プラスミドを抽出し、制限酵素切断パターンおよび塩基配列解析によって目的のプラスミドを保有した形質転換体を得た。得られた形質転換体よりプラスミド抽出を行い、各キシロース異性化酵素遺伝子発現ユニットおよびキシルロキナーゼ遺伝子発現ユニットを含むプラスミド(表3:プラスミド番号7〜14)を得た。同様の方法で、いずれのXIも含まない発現ユニットだけのプラスミドを作製した(表3:プラスミド番号6)。
【0035】
得られたプラスミドを用いて、SS29株の形質転換を行った。SS29株の形質転換は、酢酸リチウム法によって行い、Geneticin
(R)添加YPD平板培地によって3日間培養を行うことで、各キシロース異性化酵素遺伝子発現ユニットおよびキシルロキナーゼ遺伝子発現ユニットを含むプラスミドを保有するSS29株形質転換体を得た。得られた形質転換体は、それぞれ、SS36〜SS44株(表4:株番号4〜12)と命名した。
以下に、(表3)として、本研究で使用したプラスミドを、(表4)として、本研究で使用した酵母株の遺伝子型を示す。
【0036】
【表3】
【0037】
【表4】
【0038】
(実施例4)
好気条件下での生育試験
酵母株に導入されたキシロース異性化酵素によるキシロース代謝能の評価のため、YPX
50培地における生育試験を行った。各形質転換体SS36〜SS44株をGeneticin
(R)添加YPD培地にて定常期まで前培養を行い、本培養液を遠心分離によって各形質転換体細胞を集菌し、滅菌水によって細胞を洗浄した。96穴透明プレートの各ウェルに100 μLのYPX
50培地を分注し、OD
600 =0.1となるように洗浄した形質転換体細胞を植菌した。各形質転換体のYPX
50培地における生育は、マイクロプレートリーダー(Infinite
(R) 200 PRO 、テカン社、スイス)を用いて、30℃で振盪培養を行うとともに、経時的に吸光度測定(OD
600)を4日間行った。得られたOD値を1 cm光路での吸光度に変換し、各形質転換体の生育曲線を得た。本結果を
図2と表5に示す。本結果から、OspXI遺伝子を含むSS40株が最も速い生育速度を示し、次いで、CpXI遺伝子を含むSS42株が同程度の生育速度を示した。一方、BcXI遺伝子、CcXI遺伝子およびSrXI遺伝子を含むそれぞれの株は高濃度キシロース培地では生育しなかった。
【0039】
以下に、(表5)「好気条件下での各種キシロース異性化酵素発現株の生育速度」として、8種類のキシロース異性化酵素遺伝子を導入した株(SS37〜SS44)および発現ベクターのみを導入した酵母株(SS36)のキシロースを単一の炭素源として用いたYPX
50培地を用いた好気条件下での指数増殖期における生育速度を示す。なお、データは3回の実験の平均値および標準偏差である。また、n.d.は、生育できなかったことを示す。
【0040】
【表5】
【0041】
(実施例5)
微好気条件下での発酵試験
各形質転換酵母株(SS36〜SS44株)を、5 mLのYPD培地(14 mL 試験管)に植菌し、30℃、150 rpm で1日間振盪培養を行った(前々培養)。前々培養液全量を50 mLのYPD培地(100 mLバッフル付きフラスコ)に植菌し、2日間振盪培養(30℃、 135 rpm)行った(前培養)。前培養液の濁度は、何れの株も約OD
600 =20であった。前培養液全量を用いて、遠心分離(3,000 rpm、 5分、4℃)によって酵母細胞を集菌し、10 mLの疑似糖化液(YPD
85X
35培地:glucose 85 g/L, xylose 35 g/L, yeast extract 10 g/L, peptone 20 g/L)に再懸濁後、再度、遠心分離によって集菌した。疑似糖化液での細胞洗浄後、全量が10 mLとなるように、再度、疑似糖化液に酵母細胞を懸濁した。100 mL フラスコに 60 mLの疑似糖化液を加え、10 mLの細胞懸濁液を植菌した(全量 70 mL)。発酵時における微好気条件を維持するため、発酵中に発生する二酸化炭素の排気のための注射針と培養液のサンプリング用の注射針を刺したシリコン栓にてフラスコを閉栓した。サンプリング用注射針には、三方活栓を連結し、サンプリング時以外は閉栓するようにした。本フラスコを、30℃、135 rpmで72時間の振盪培養を行った。培養開始後、0、1、3、6、12、24、36、48、60、72時間に、2.5 mLシリンジを用いて、サンプリング用注射針より500 μLの培養液を経時的にサンプリングした。
採取した培養液は、15,000 rpm、 5分、4℃にて遠心分離を行い、その上澄み 400 μLを-80℃にて凍結保存した。
【0042】
(実施例6)
各形質転換酵母株の培養液中の糖、アルコールのHPLCによる定量
サンプリングした培養液中のグルコース、キシロース、キシリトール、グリセロール、酢酸およびエタノールの高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による定量のため、以下の方法で測定を行った。測定には、Aminex HPX-87Cカラム(バイオラッド株式会社)および Cation H Refill Guard カラム(バイオラッド株式会社)を装備したHPLC LC-2000Plusシリーズ(日本分光株式会社)を用いて、5 mM H
2SO
4を移動相として、流速 0.6 mL/分、65℃の条件で分離を行った。なお、カラムによって分離された物質の検出には、示差屈折計(日本分光株式会社)を用いた。サンプリングした培養液を蒸留水にて5倍希釈したサンプル 25 μLを、本HPLC装置にて上記の条件で分析を行った。また、定量のための標準曲線作成のため、グルコース、キシロース、キシリトール、グリセロール、酢酸およびエタノールを、それぞれ2%(w/v)の濃度で混合した標準物質溶液と、本溶液を、1%、0.1%、0.01%となるように段階希釈した溶液を用いて、本HPLC装置で測定を行うことで、定量のための標準曲線を作成し、培養液サンプル中に含まれる各物質の濃度を定量した。各形質転換酵母株(SS36〜SS44)に対する上記の条件での発酵試験の結果、SS42株(表4:株番号10)が、最も高いキシロース代謝能を有していることが明らかとなった(
図3)。
このことは、CpXI遺伝子が宿主酵母株に最も高いキシロース代謝能を付与可能であることを示している。
【0043】
(実施例7)
既知の変異型キシロース異性化酵素遺伝子導入株の構築と発酵性能評価
(7−1)既知の変異型キシロース異性化酵素遺伝子導入株の構築
非特許文献5及び10に示される、キシロース代謝能が向上した変異型キシロース異性化酵素遺伝子を導入した株を作製し、その発酵性能の評価を行った。
変異型RfXI(G179A)遺伝子発現プラスミドは、野生型RfXI発現プラスミドpUG35-kan-HSP12p-RfXI-CYC1t-PGK1p-XKS1-CYC1t(表3:プラスミド番号9)を鋳型として、プライマーセット(表2:RfXI(Opt)(G179A)[配列番号57]およびRfXI(Opt)(G179A)as[配列番号58])を用いたInverse PCR法によって作製した。反応液の組成は、添付のプロトコルに則って以下のとおり調製した。PCRグレード脱イオン水 13.4 μL、10×PCR Buffer for KOD -Plus- Neo 2 μL、2 mM dNTP Mix 2 μL、25 mM MgSO
4 1.2 μL、10 μM プライマーセット 0.6 μL、1 ng/μL 鋳型DNA 0.4 μL、および 1 U/μL KOD -Plus- Neo DNA Polymerase 0.4 μLで構成され、反応サイクルを、プレ変性 94℃2分の後、変性 98℃ 10秒、アニーリング 58℃ 30秒、伸長反応 68℃ 5分を10サイクル、最終伸長反応 68℃5分で行った。得られたPCR産物にDpnI 1.2 μLを加え、37℃で2時間処理した。得られた直鎖状ベクター断片の平滑末端ライゲーションを行った。ライゲーション反応は、T4 DNA Ligase(タカラバイオ株式会社)を用いて行い、反応液の組成は、添付のプロトコルに則って以下のとおり調製した。Distilled water 14 μL、10 ×Ligation Buffer 2 μL、T4 DNA ligase 1 μL、T4 Polynucleotide Kinase 1 μL、直鎖状DNA 2 μLで構成され、室温で1時間反応させた。本反応液を用いて、大腸菌DH5αの形質転換を行い、アンピシリン添加LB平板培地にて一晩培養を行った。得られた形質転換体から複数選別し、それぞれアンピシリン添加LB培地によって一晩培養後、プラスミドを抽出し、塩基配列解析によって目的の変異を有したプラスミドpUG35-kan-HSP12p-RfXI(G179A)-CYC1t-PGK1p-XKS1-CYC1t(表3:プラスミド番号15)を得た。
【0044】
変異型PspXI(E15D)遺伝子発現プラスミドは、野生型PspXI発現プラスミドpUG35-kan-HSP12p-PspXI-CYC1t-PGK1p-XKS1-CYC1t(表3:プラスミド番号11)を鋳型として、プライマーセット(PspXI(Opt)(E15D) [配列番号59]およびPspXI(Opt)(E15D)as [配列番号60])を用いて、同様に構築を行い、目的の変異を有したプラスミドpUG35-kan-HSP12p-PspXI(E15D)-CYC1t-PGK1p-XKS1-CYC1t(表3:プラスミド番号16)を得た。
変異型PspXI(T142S)遺伝子発現プラスミドは、野生型PspXI発現プラスミドpUG35-kan-HSP12p-PspXI-CYC1t-PGK1p-XKS1-CYC1t(表3:プラスミド番号11)を鋳型として、プライマーセット(PspXI(Opt)(T142S)[配列番号61]およびPspXI(Opt)(T142S)as[配列番号62])を用いて、同様に構築を行い、目的の変異を有したプラスミドpUG35-kan-HSP12p-PspXI(T142S)-CYC1t-PGK1p-XKS1-CYC1t(表3:プラスミド番号17)を得た。
変異型PspXI(E15D, T142S)遺伝子発現プラスミドは、pUG35-kan-HSP12p-PspXI(E15D)-CYC1t-PGK1p-XKS1-CYC1t(表3:プラスミド番号16)を鋳型として、プライマーセット(PspXI(Opt)(T142S)[配列番号61]およびPspXI(Opt)(T142S)as[配列番号62])を用いて、同様に構築を行い、目的の変異を有したプラスミドpUG35-kan-HSP12p-PspXI(E15D, T142S)-CYC1t-PGK1p-XKS1-CYC1t(表3:プラスミド番号18)を得た。
【0045】
(7−2)キシロース代謝能の評価
構築したRfXI(G179A)遺伝子発現プラスミド(表3:プラスミド番号15)、PspXI(E15D)遺伝子発現プラスミド(表3:プラスミド番号16)、PspXI(T142S)遺伝子発現プラスミド(表3:プラスミド番号17)、およびPspXI(E15D, T142S)遺伝子発現プラスミド(表3:プラスミド番号18)をそれぞれ用いて、SS29株を形質転換し、SS45(表4:株番号13)、SS46(表4:株番号14)、SS48(表4:株番号15)、およびSS51(表4:株番号16)株を得た。これらの株のキシロース代謝能の評価のため、(実施例5)で用いたのと同様のYPD
85X
35擬似糖化液を用いた微好気条件での発酵試験を行った。(実施例5)と同様に経時的に培養液のサンプリングを行い、HPLCによる培養液中のグルコース、キシロース、キシリトール、グリセロール、酢酸、エタノールの定量を行った。その結果を
図7に示す。変異型RfXI遺伝子発現株SS45株と野生型RfXI遺伝子発現株SS39株(
図3)との発酵試験結果の比較、および変異型PspXI遺伝子発現株SS46, SS48, SS51株と野生型PspXI遺伝子発現株SS41株(
図3)との発酵試験結果の比較において、変異導入による顕著なキシロース代謝能の向上は観察されなかった。本結果からも、CpXI遺伝子が宿主酵母株に最も高いキシロース代謝能を付与可能であることを示している。
【0046】
(実施例8)
変異導入PCRによる変異型CpXIライブラリーの作製
(実施例6)の発酵試験結果から宿主酵母株に最も高いキシロース代謝能を付与可能であることが示されたCpXI遺伝子に対して、分子進化工学的手法によりさらなる改良を加えるため、変異型CpXIライブラリーをランダム変異導入PCR法によって作製した。
具体的な手順は以下のとおりである。
鋳型としては、CpXI遺伝子が導入された発現プラスミド(pUG35-kan-HSP12p-CpXI-CYC1t-PGK1p-XKS1-CYCt、表3:プラスミド番号12)を用い、CpXI遺伝子の5’-末端から約1 kbの範囲の変異導入部位の両端に相同性を有するプライマーセット(表2:oSS62 XI-F_HSP12s[配列番号47]およびoSS74 XI-Rc[配列番号48])を用いてDiversify PCR Random Mutagenesis Kit(タカラバイオ株式会社)によりランダム変異導入PCRを行った。ランダム変異導入PCRの条件は、添付のプロトコルに則って、1 kbあたり2.7カ所の変異が導入される条件を設定した。ランダム変異導入PCR反応液の組成は、PCRグレード脱イオン水 38μL、10×TITANIUM Taq バッファー 5 μL、8 mM MnSO
4 2 μL、2 mM dGTP 1 μL、50× Diversify dNTP Mix 1 μL、0.02 mM プライマーセット 1 μL、1 ng/μL 鋳型DNA 1μL、および TITANIUM Taq Polymerase 1μLで構成され、反応サイクルを、プレ変性 94℃ 30秒の後、変性 94℃ 30秒、伸長反応 68℃ 1分を25サイクル、最終伸長反応 68℃ 1分で行った。
【0047】
一方、直鎖状ベクター断片については以下の方法で行った。pUG35-kan-HSP12p-CpXI-CYC1t-PGK1p-XKS1-CYC1tを鋳型として、プライマーセット(表2:oSS63 XI-R_HSP12as[配列番号49]およびoSS83 06_CpXI-Fc[配列番号50])およびKOD -Plus- Neo(東洋紡株式会社)を用いた Inverse PCR法によって作製した。
反応液の組成は、添付のプロトコルに則って以下のとおり調製した。PCRグレード脱イオン水 33.5 μL、10×PCR Buffer for KOD -Plus- Neo 5 μL、2 mM dNTP Mix 5 μL、25 mM MgSO
4 3 μL、10 μM プライマーセット 1.5 μL、1 ng/μL 鋳型DNA 1 μL、および 1 U/μL KOD -Plus- Neo DNA Polymerase 1 μLで構成され、反応サイクルを、プレ変性 94℃ 2分の後、変性 98℃ 10秒、アニーリング 58℃ 30秒、伸長反応 68℃ 4分を25サイクル、最終伸長反応 68℃ 5分で行った。得られた変異CpXI遺伝子断片および直鎖状ベクター断片を、In-Fusion
(R) HD Cloning Kitを用いて、添付のプロトコルに則って In-Fusion反応を行った。本反応液を用いて、大腸菌DH5α株(Giga Competent Cell (DH5α)、株式会社バイオダイナミクス研究所)の形質転換を行い、1×10
4以上のDH5α形質転換体からなる変異型CpXIライブラリーを構築した。変異導入頻度の確認のため、幾つかのDH5α形質転換体からプラスミドを調製し、CpXI遺伝子の塩基配列解析を行った結果、少なくとも90%以上のプラスミドのCpXI遺伝子に、平均2カ所の変異が導入されたことを確認した。またそれらは独立的に、かつ全体に変異が導入されていたことから、極めて質の高いライブラリーであると判断した。
【0048】
(実施例9)
キシロース代謝能が向上した変異型CpXI遺伝子のスクリーニング
(実施例8)で構築した変異型CpXIライブラリーより、キシロース代謝能が向上した変異型CpXI遺伝子のスクリーニングを行うため、その条件検討を行った。野生型CpXI遺伝子発現プラスミド(pUG35-kan-HSP12p-CpXI-CYC1t-PGK1p-XKS1-CYC1t、表3:プラスミド番号12)を導入した酵母株SS42を用いて、キシロース濃度を 50 g/L から 90 g/L まで変更したYPX平板培地(発現プラスミドの保持のため、Geneticin
(R)を添加)を用いて、SS42株の生育試験を行った。5 mL YPD培地にSS42株を植菌し、30℃で振盪培養(150 rpm)を行った。培養液より集菌し、滅菌水で細胞を洗浄した後、OD
600 = 1.0×10
-4になるように、滅菌水に再度懸濁した。キシロース濃度を、50 g/L、60 g/L、70 g/L、80 g/L、90 g/Lの濃度で含むYPX平板培地(それぞれ、YPX
50、YPX
60、YPX
70、YPX
80、YPX
90)に、本菌体液 50 μLを植菌し、30℃で4日間培養を行った。その結果、YPX
50、YPX
60およびYPX
70平板培地では、SS42株はコロニー形成が観察されたが、80 g/L以上のキシロースを含むYPX
80およびYPX
90平板培地上ではコロニー形成が観察されなかった。
【0049】
本結果を踏まえ、SS29株を宿主とした変異型CpXI遺伝子ライブラリーから、キシロース代謝能が向上した変異型CpXI遺伝子をスクリーニングするためには、80 g/L以上の高濃度キシロースを含む培地で選抜を行うこととした。
大腸菌DH5αにおいて構築した変異型CpXIライブラリーより、変異型CpXI遺伝子を含む発現プラスミドの抽出を行い、得られたプラスミドを用いて、SS29株の形質転換を行った。得られたSS29株形質転換体(約2.4 ×10
5 コロニー)をGeneticin
(R)添加YPX
80平板培地に植菌し、30℃、4日間培養を行った。YPX
80平板培地を用いたスクリーニングの結果、YPX
80平板培地においてもコロニーを形成でき、生育が可能となった24株が得られた。
【0050】
(実施例10)
キシロース代謝能が向上した変異型CpXI遺伝子のセカンドスクリーニング (実施例9)の高濃度キシロース培地(YPX
80平板培地)でのスクリーニングで得られた24個のコロニーには、CpXIにおける変異によってキシロース代謝能が向上したSS29形質転換株だけでなく、自然突然変異によってそのゲノムDNAに変異が生じることで、高濃度キシロース培地においても生育が可能となった擬陽性株も含まれていることが考えられた。そのため、得られた24個のコロニーに由来するSS29株形質転換体から、Easy Yeast Plasmid Isolation Kit(タカラバイオ株式会社)を用いて、添付のプロトコルに則り、変異型CpXI発現プラスミドの抽出を行った。得られた各発現プラスミドを用いて、大腸菌DH5α(ECOS
TM Competent E. coli DH5α)を形質転換し、各発現プラスミドの増幅を行った。複数の大腸菌コロニーから得られたプラスミドから、プライマー(表2:06_CpXIopt_F1[配列番号39]、06_CpXIopt_R1[配列番号40]、06_CpXIopt_Seq_F1[配列番号51]、および06_CpXIopt_Seq_R1[配列番号52])を用いて、それぞれCpXI遺伝子領域の塩基配列解析を行った結果、18株の変異型CpXI遺伝子にはアミノ酸置換を伴う変異を有していた。
次に、得られた各変異型CpXI発現プラスミドを用いて、再度、SS29株の形質転換を行った。得られたSS29形質転換体を、再度、YPX
80平板培地に植菌しその生育を確認した結果、11株のSS29形質転換体においてYPX
80平板培地における生育を確認した。これらの11株が有する変異型CpXI酵素におけるアミノ酸変異について、下記(表6)に示す。
【0051】
【表6】
【0052】
(実施例11)
変異型CpXI遺伝子を発現させたSS29形質転換株のサードスクリーニング
(実施例10)のセカンドスクリーニングによって得られた11個のSS29形質転換株については、そのキシロース代謝能の向上が、変異導入されたCpXI遺伝子に由来することが確認された。
さらに、その有効性を確認するため、前述の96穴マイクロプレートを用いた方法で好気条件下でのYPX
80液体培地での生育試験を行った。その結果、11株全ての単離した形質転換体において野生型CpXIを発現させたSS42株よりも速い生育が観察された。その結果を
図4および表7に示す。また、疑似糖化液(YPD
85X
35培地)を用いた発酵試験を、前述の方法で行った結果、得られた11株は、何れも本発酵試験条件下において、野生型CpXIを発現させたSS42株よりも高いキシロース代謝能を有していることが明らかとなった(
図5)。
【0053】
以下に、(表7)「変異型CpXI酵素遺伝子導入株の好気条件下でのキシロース培地における生育速度」として、変異型CpXI遺伝子ライブラリーのスクリーニングによって得られた11株のキシロースを単一の炭素源として用いたYPX
80培地を用いた指数増殖期における好気条件下での生育速度(Specific growth rate)および、野生型CpXI遺伝子を導入した株(SS42)に対する相対生育速度(Relative growth rate)を示す。なお、データは3回の実験の平均値である。また、生育速度についてはその標準偏差を示した。
【0054】
【表7】
【0055】
(実施例12)
変異型CpXI遺伝子のゲノムへの導入
(実施例9)のスクリーニングでは、酵母細胞内において低コピーで保持される発現ベクターを利用したが、酵母細胞内での変異型CpXI発現プラスミドのコピー数の影響が、宿主酵母細胞のキシロース代謝能の向上に寄与している可能性が考えられた。そのため、選抜した11種類の変異型CpXI遺伝子発現ユニットを宿主酵母株ゲノムへ導入した株の構築と発酵性能の評価を行った。11種類の変異型CpXI遺伝子発現プラスミドを、SpeIおよびSphIによって切断し、HSP12p-CpXI含む断片(約2 kb)を得た。一方、酵母ゲノム導入型ベクターであるpAUR101(タカラバイオ株式会社)にXKS1遺伝子発現ユニットおよび野生型CpXI遺伝子を導入したベクターであるpAUR101r2-XKS1-06_CpXIopt(
図1)を、同様にSpeIおよびSphIによって切断し、約8.3 kbのベクター断片を得た。両DNA断片を、TaKaRa DNA Ligation Kit Mighty Mix(タカラバイオ株式会社)を用いて、添付のプロトコルに則って、ライゲーション反応を行った。ライゲーション反応液を用いて、大腸菌DH5α株(ECOS
TM Competent E. coli DH5α、ニッポンジーン株式会社)の形質転換を行い、アンピシリン添加LB平板培地に植菌し、37℃で一晩培養することで形質転換株を得た。得られた形質転換株を、アンピシリン添加LB培地によって一晩培養後、プラスミドを抽出し、制限酵素切断パターンおよび塩基配列解析によって目的のプラスミドを保有した形質転換体を判別した。得られた11種類の変異型CpXI遺伝子発現プラスミド(表3:プラスミド番号20〜30)をBsiWIによって切断し、本DNA断片を用いて、SS29株の形質転換を行った。形質転換反応液をオーレオバシジンA添加YPD平板培地に塗布し、30℃、3日間静置培養した。本操作によって、各変異型CpXI発現ユニットが、宿主SS29株のAUR1遺伝子座に導入された酵母株(SS82、SS84、SS85、SS86、SS87、SS88、SS89、SS91、SS92、SS93、およびSS94[表4:株番号18〜28])を得た。また、コントロールとして、野生型CpXI発現プラスミド(pAUR-kanMX6-HSP12p-CpXI-CYC1t-PGK1p-XKS1-CYC1t[表3:プラスミド番号19])を同様に作製し、SS29株の形質転換を行った。得られたコントロール株をSS81株(表4:株番号17)とした。
【0056】
(実施例13)
疑似糖化液における微好気条件での発酵試験
(実施例12)で作製した12種類のSS29形質転換株(SS81、SS82、SS84、SS85、SS86、SS87、SS88、SS89、SS91、SS92、SS93、およびSS94)のキシロース代謝能の評価のため、(実施例5)で用いたのと同様のYPD
85X
35疑似糖化液を用いた微好気条件での発酵試験を行った。(実施例5)と同様に、経時的に培養液のサンプリングを行い、HPLCによる培養液中のグルコース、キシロース、キシリトール、グリセロール、酢酸、エタノールの定量を行った。その結果を
図6に示す。本発酵試験の結果、野生型CpXIを発現させたSS81株よりも、有意に優れたキシロース代謝能を示した2株(SS82株およびSS92株)を選抜した。
【0057】
(実施例14)
キシロース異性化酵素の活性測定
(実施例13)で選抜された2株の変異型CpXI発現株について、微好気条件での発酵条件における酵母細胞内で発現されたキシロース異性化酵素の活性を以下の方法で測定した。YPD
85X
35培地での微好気条件における発酵試験開始後、24時間後の培養液をサンプリングし、遠心分離によって、酵母細胞を集菌した。酵母細胞は、酵母破砕溶液である CelLytic
TM Y Cell Lysis Reagent(シグマアルドリッチジャパン株式会社)およびProtease Inhibitor Cocktail for use with fungal and yeast extracts(シグマアルドリッチジャパン株式会社)に懸濁し、0.5 mm ジルコニアビーズを用いて、細胞破砕を行った。細胞破砕操作後、遠心分離によってジルコニアビーズおよび細胞不溶物を除去した上清を得た。本細胞破砕溶液のタンパク質濃度測定のため、Pierce
TM 660 nm Protein Assay Reagent(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)を用いて、添付のプロトコルに従って、タンパク質濃度の定量を行った。細胞破砕溶液中のキシロース異性化酵素活性は、以下の方法で測定した。100 μLの反応液中の組成は、以下のとおりである。100 mM Tris-HCL buffer (pH8.0)、 10 mM MgCl
2、 0.3 mM β-NADH(オリエンタル酵母工業株式会社)、2 U Sorbitol dehydrogenase(シグマアルドリッチジャパン株式会社)、1 mg/ml 各細胞破砕液、各種濃度のキシロース(10、50、100、もしくは 500 mM)を含むように調製した。反応は、前述のキシロース溶液の添加によって開始し、Infinite
(R) 200 PROマイクロプレートリーダーを用いて、30℃にて340 nmの吸光度の変化を経時的に測定した。NADHの340 nmの分子吸光係数を6.25 mM
-1 cm
-1として、比活性を計算した。活性測定の結果を、下記(表8)に示す。その結果、野生型CpXI発現株と比較して、変異型CpXI発現株では高いキシロース異性化酵素活性が観察された。これらの結果は、各変異型CpXI発現株の微好気条件での発酵試験結果と一致した。特に、CpXI-T63Iは、野生型と比較して38%高い代謝活性(Vmax)を示し、そのKm値は 29.2 mMだった。また、CpXI-V162A, N303Tは、Vmax値は野生型と同等であったが、Km値は 28.4 mMと変異型CpXIのうち、最も低い値を示した。
【0058】
以下に、(表8)「変異型CpXI酵素の反応速度論的パラメーター」を示す。なお、表中、野生型CpXI遺伝子ゲノム導入株(SS81)、および変異型CpXI遺伝子ゲノム導入株(SS82、SS92、SS104、SS105、およびSS120)の微好気条件下での発酵試験において、培養開始後24時間の細胞破砕溶液中のキシロース異性化酵素活性における、Vmax値およびKm値を示した。データは3回の実験の平均値である。また、Vmax値については、その標準偏差を示した。
【0059】
【表8】
【0060】
(実施例15)
部位特異的変異導入によるCpXIの改変
(実施例14)で検討した変異CpXI遺伝子中のCpXI-V162A, N303Tにおける2箇所の変異のそれぞれの変異におけるキシロース代謝能の向上への寄与について検討するため、両変異を分離したCpXI-V162AおよびCpXI-N303Tを部位特異的変異導入法によって作製した。具体的な部位特異的変異導入方法については、以下のとおり行った。
野生型CpXI発現プラスミドpAUR-kanMX6-HSP12p-CpXI-CYC1t-PGK1p-XKS1-CYC1t(表3:プラスミド番号19)を鋳型として、プライマーセット(表2:oSS106 06_CpXI_V162A[配列番号53]およびoSS107 06_CpXI_V162Aas[配列番号54])を用いたInverse PCR法によって作製した。反応液の組成は、添付のプロトコルに則って以下のとおり調製した。PCRグレード脱イオン水 13.4 μL、10×PCR Buffer for KOD -Plus- Neo 2 μL、2 mM dNTP Mix 2 μL、25 mM MgSO
4 1.2 μL、10 μM プライマーセット 0.6 μL、1 ng/μL 鋳型DNA 0.4 μL、および 1 U/μL KOD -Plus- Neo DNA Polymerase 0.4 μLで構成され、反応サイクルを、プレ変性 94℃2分の後、変性 98℃ 10秒、アニーリング 58℃ 30秒、伸長反応 68℃ 5分を10サイクル、最終伸長反応 68℃5分で行った。得られたPCR産物にDpnI 1.2 μLを加え、37℃で2時間処理した。得られた直鎖状ベクター断片の平滑末端ライゲーションを行った。ライゲーション反応は、T4 DNA Ligase(タカラバイオ株式会社)を用いて行い、反応液の組成は、添付のプロトコルに則って以下のとおり調製した。Distilled water 14 μL、10 ×Ligation Buffer 2 μL、T4 DNA ligase 1 μL、T4 Polynucleotide Kinase 1 μL、直鎖状DNA 2 μLで構成され、室温で1時間反応させた。本反応液を用いて、大腸菌DH5αの形質転換を行い、アンピシリン添加LB平板培地にて一晩培養を行った。得られた形質転換体から複数選別し、それぞれアンピシリン添加LB培地によって一晩培養後、プラスミドを抽出し、塩基配列解析によって目的の変異を有したプラスミド(表3:プラスミド番号31)を得た。CpXI-N303T発現プラスミドについても、プライマーセット(oSS108 06_CpXI_N303T[配列番号55]およびoSS109 06_CpXI_N303Tas[配列番号56])を用いて、同様に構築を行い、目的の変異を有したプラスミド(表3:プラスミド番号32)を得た。
【0061】
作製した変異型CpXI-V162A遺伝子発現プラスミド(表3:プラスミド番号31)およびCpXI-N303T遺伝子発現プラスミド(表3:プラスミド番号32)を、BsiWIによって切断し、SS29株を形質転換した。得られた株をそれぞれ、SS104株(表4:株番号29)およびSS105株(表4:株番号30)とした。前述と同一条件にて、疑似糖化液(YPD
85X
35培地)を用いた微好気条件での発酵試験を行い、培養開始後、24時間後の両株の細胞内におけるキシロース異性化酵素の活性測定を行った。
その結果、両変異型CpXIはそれぞれ、29.5 mMおよび19.1 mMと野生型CpXIよりも低いKm値を示したが、CpXI(N303T)のVmax値は、0.03 μmol/mg protein/minと野生型CpXI(0.66 μmol/mg protein/min)よりも低い値であった(表8)。
さらに、本発酵試験の結果、CpXI-V162Aを発現させたSS104株は、野生型CpXIを発現させたSS81株と比較して高いキシロース代謝能を示したが、CpXI-N303Tを発現させたSS105株はSS81株よりもキシロース代謝能が低下した(
図5および表9)。以上の結果から、V162A変異は、CpXIのキシロース代謝能の向上に有効であることが確認された。
【0062】
以下に、(表9)として、「CpXI遺伝子導入株の微好気条件下での擬似糖化液を用いた発酵試験結果」を示す。
なお、表中、発現ベクターのみ導入した株(SS36)、野生型CpXI遺伝子ゲノム導入株(SS81)、および変異型CpXI遺伝子ゲノム導入株(SS82、SS92、SS120)の疑似糖化液(YPD
85X
35)を用いた微好気条件下での発酵試験結果である。本表では、発酵試験開始後、72時間後の培養上清中のグルコース、キシロース、キシリトール、グリセロール、酢酸、エタノール含量を示した。また、投入した糖(グルコースおよびキシロース)から得られるエタノール量に対する、生成エタノールの収率(%理論収率)を示した。データは3回の実験の平均値およびその標準偏差である。また、n.d.は、HPLCによる定量において検出限界以下であることを示す。
【0063】
【表9】
【0064】
(実施例16)
CpXI二重変異体の作製とその評価
(16−1)CpXI二重変異体の作製
CpXIのキシロース代謝能の向上に有効であることが示された2種類の変異について、両変異を導入した変異型CpXI(T63I, V162A)を部位特異的変異導入方法によって作製した。具体的な作製方法は以下のとおりである。
変異型CpXIpAUR-kanMX6-HSP12p-CpXI(T63I)-CYC1t-PGK1p-XKS1-CYC1t(表3:プラスミド番号20)を鋳型として、プライマーセット(表2:oSS106 06_CpXI_V162A[配列番号53]およびoSS107 06_CpXI_V162Aas[配列番号54])を用いたInverse PCR法によって作製した。反応液の組成は、添付のプロトコルに則って以下のとおり調製した。PCRグレード脱イオン水 13.4 μL、10×PCR Buffer for KOD -Plus- Neo 2 μL、2 mM dNTP Mix 2 μL、25 mM MgSO
4 1.2μL、10 μM プライマーセット 0.6μL、1 ng/μL 鋳型DNA 0.4 μL、および 1 U/μL KOD -Plus- Neo DNA Polymerase 0.4 μLで構成され、反応サイクルを、プレ変性 94℃ 2分の後、変性 98℃ 10秒、アニーリング 58℃ 30秒、伸長反応 68℃ 5分を10サイクル、最終伸長反応 68℃ 5分で行った。得られたPCR産物にDpnI 1.2 μLを加え、37℃で2時間処理した。得られた直鎖状ベクター断片は、T4 DNA Ligase(タカラバイオ株式会社)を用いて、平滑末端ライゲーション反応を行った。反応液の組成は、添付のプロトコルに則って以下のとおり調製した。Distilled water 14 μL、10 × Ligation Buffer 2 μL、T4 DNA ligase 1 μL、T4 Polynucleotide Kinase 1 μL、直鎖状DNA 2 μLで構成され、室温で1時間反応させた。本反応液を用いて、大腸菌DH5αの形質転換を行い、アンピシリン添加LB平板培地にて一晩培養を行った。得られた形質転換体から複数選別し、それぞれアンピシリン添加LB培地によって一晩培養後、プラスミドを抽出し、塩基配列解析によって目的の変異を有したプラスミド(表3:プラスミド番号33)を得た。
作製したCpXI(T63I, V162A)遺伝子発現プラスミド(表3:プラスミド番号33)をBsiWIによって切断し、SS29株を形質転換した。得られた二重変異型CpXI遺伝子導入株をSS120株とした(表4:株番号31)。
【0065】
(16−2)CpXI二重変異株の評価
当該SS120株に対して前述と同一条件における微好気条件での発酵試験を行い、同様に発酵試験開始後、24時間後のSS120株細胞中のキシロース異性化酵素の活性測定を行った。その結果、本変異型CpXI(T63I, V162A)遺伝子を含むSS120株は、SS82株およびSS92株と比較して、Km値については34.4 mMと僅かに高くなったが、Vmax値が0.104μmol/mg protein/minと大きく改善された(表8)。また、微好気条件での発酵試験の結果も、他の構築株と比較して、SS120株は最も高いキシロース代謝能、エタノール生産量およびエタノール収率を示した(
図6および表9)。さらに、SS120株を用いて、前述の擬似糖化液(YPD
85X
35培地)を用いた微好気条件での発酵試験において、より低濃度の初期植菌量OD
600=3、より高温条件の培養温度38℃に変更した発酵試験を行った結果、120時間以内に、疑似糖化液(YPD
85X
35)中のグルコースおよびキシロースの大部分を消費し、約53.3g/Lのエタノールを産生した。エタノール変換効率は、投入糖に対しては約87%、消費糖に対して約92%であり、低植菌量かつ高温条件下での発酵においても、SS120株は高いキシロース代謝能、エタノール生産量を示した。
【0066】
以上の結果から、CpXIにおいてキシロース代謝能の向上に寄与している変異は、T63IおよびV162Aのアミノ酸置換であり、特にその2か所の変異(T63IおよびV162A)を同時に付与した二重変異型CpXI遺伝子は、宿主酵母株に対して高いキシロース代謝能およびエタノール生産能を付与できることが実証された。
【0067】
(16−3)ラボスケールでの評価
さらに、(16−1)で得られた二重変異型CpXI遺伝子導入株のSS120株に対して、ラボスケールでの評価を行うため、NaOH処理バガスを用いて同時糖化発酵実験(SSF)を行った。
その結果、ラボスケールでのSSF実験においても、推定糖化率約85%、120g/L 糖生産条件において、72h以内に約53g/Lのエタノールを生産することができ、推定変換効率は約91%という高いエタノール生産能を示した。
【0068】
(実施例17)
飽和変異ライブラリーの作製とその評価
前述において同定した2種類の変異(T63IおよびV162A)において、他のアミノ酸残基へ置換した変異型CpXIにおけるキシロース代謝能を評価するため、両変異部位における飽和変異ライブラリーを作製した。作製方法は以下のとおり。XKS1発現ユニットを含み、HSP12プロモーター、マルチクローニングサイト、CYC1ターミネーターからなる発現ユニットを含む発現ベクター pAUR101r2-XKS1-HSP12p2(
図8)をSmaIおよびXhoIで切断したベクター断片および、CpXIにおける63番目のアミノ酸残基(スレオニン)、もしくは162番目のアミノ酸残基(バリン)において、野生型アミノ酸残基とは異なる18種類のアミノ酸残基(システインを除く)に置換した変異型CpXI遺伝子断片をライゲーション反応によって、ベクター断片に導入した飽和変異ライブラリーを、それぞれの変異箇所について作製した(ジェンスクリプトジャパン株式会社)。
両飽和変異ライブラリーを用いて、大腸菌DH5αの形質転換を行い、アンピシリン添加LB平板培地にて一晩培養を行った。得られた形質転換体から複数コロニーを選別し、アンピシリン添加LB培地にて一晩培養後、プラスミドを抽出した。塩基配列解析によって、得られたプラスミドの変異箇所の塩基配列を決定し、63番目のスレオニン、もしくは162番目のバリンにおいて、野生型のアミノ酸残基を含み他のアミノ酸残基(システインを除く)に置換された19種類の発現プラスミドをそれぞれ取得した。
得られた発現プラスミドをBsiWI(ニューイングランドバイオラボ社)によって切断し、各DNA断片を用いて、SS29株を形質転換し、オーレオバシジンA添加YPD平板培地にて、30℃、3日間培養を行うことで形質転換体を取得した。
得られた形質転換体のキシロース代謝能の評価のため、キシロースを炭素源としたYPX
50培地における好気条件下での生育試験を行った。オーレオバシジンA添加YPD培地において、各形質転換体を30℃, 定常期まで前培養を行った後、YPX
50培地を100 uLずつ分注したマイクロプレート(透明、平底、コーニング社)に、各ウェルにOD
600 = 0.1となるように前培養液を植菌した。マイクロプレートリーダー(Infinite
(R) 200 PRO、テカン社)を用いて、本マイクロプレートの30℃、96時間の培養および経時的な吸光度測定(OD
600)を行い、各形質転換体の生育曲線を得た。本生育試験の結果、T63I変異を有する変異型CpXIと同等もしくはそれ以上のxylose資化能を宿主酵母株に付与可能なアミノ酸置換は、リジン(T63L)、グリシン(T63G)、ヒスチジン(T63H)へのアミノ酸置換であった(
図9:T63L、T63G、T63Hへのアミノ酸置換を有する変異型CpXIの塩基配列は、それぞれ配列番号63−65に相当する)。