特表-17164388IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2017年9月28日
【発行日】2018年12月6日
(54)【発明の名称】変異型キシロース代謝酵素とその利用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/61 20060101AFI20181109BHJP
   C12N 9/90 20060101ALI20181109BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20181109BHJP
   C12P 7/06 20060101ALI20181109BHJP
【FI】
   C12N15/61ZNA
   C12N9/90
   C12N1/19
   C12P7/06
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】38
【出願番号】特願2018-507453(P2018-507453)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2017年3月24日
(31)【優先権主張番号】特願2016-62838(P2016-62838)
(32)【優先日】2016年3月25日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、バイオマスエネルギー技術研究開発/バイオ燃料製造の有用要素技術開発事業/有用微生物を用いた発酵生産技術の研究開発事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】清家 泰介
(72)【発明者】
【氏名】藤森 一浩
(72)【発明者】
【氏名】小林 洋介
(72)【発明者】
【氏名】佐原 健彦
(72)【発明者】
【氏名】扇谷 悟
(72)【発明者】
【氏名】鎌形 洋一
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B050CC04
4B050DD02
4B050LL10
4B064AC03
4B064BJ01
4B064CA06
4B064CC24
4B064CD24
4B064DA20
4B065AA23Y
4B065AA72X
4B065AA73X
4B065AA76X
4B065AA77X
4B065AA79X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BB26
4B065CA06
4B065CA27
4B065CA60
(57)【要約】
本発明は、出芽酵母に高いキシロース代謝能を付与可能な変異型キシロース異性化酵素遺伝子及び変異タンパク質の情報を提供する。さらにその変異型キシロース異性化酵素遺伝子を有する酵母株を提供する。また、当該酵母株を利用した有用物質の効率的な生産方法を提供する。
本発明により、Clostridium phytofermentans 由来キシロース異性化酵素(CpXI)の配列番号11における第63番目のスレオニンがイソロイシン、リジン、グリシン、または、ヒスチジンに置換され、及び/又は第162番目のバリンがアラニンに置換されるアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を含み、高いキシロース代謝活性を有する変異型CpXIを提供した。また、出芽酵母の優先コドンに最適化されたCpXI遺伝子において、配列番号11中の第63番目のスレオニンがイソロイシン、リジン、グリシン、または、ヒスチジンに置換され、及び/又は第162番目のバリンがアラニンに置換されるコドン変異に対応するコドン変異を含む変異型CpXI遺伝子を用いて形質転換された、エタノール生産能が高い形質転換酵母、並びに当該形質転換酵母を用いたエタノール生産方法が提供できた。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Clostridium phytofermentans 由来キシロース異性化酵素(CpXI)のアミノ酸配列において、配列番号11における第63番目のスレオニン及び第162番目のバリンに対応する少なくとも1つのアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を含む変異型キシロース異性化酵素(変異型CpXI)であって、野生型キシロース異性化酵素(CpXI)と比較して高いキシロース代謝活性を有する変異型CpXI。
【請求項2】
前記配列番号11における第63番目のスレオニンの他のアミノ酸への置換がイソロイシン、リジン、グリシン、または、ヒスチジンへの置換であり、第162番目のバリンの他のアミノ酸への置換がアラニンへの置換である、請求項1に記載の変異型CpXI。
【請求項3】
配列番号11に示されるキシロース異性化酵素のアミノ酸配列において、第63番目のスレオニンがイソロイシン、リジン、グリシン、または、ヒスチジンに置換され、及び/又は第162番目のバリンがアラニンに置換されている、請求項2に記載の変異型CpXI。
【請求項4】
Clostridium phytofermentans 由来キシロース異性化酵素(CpXI)遺伝子の塩基配列において、コードするアミノ酸配列における配列番号11中の第63番目のスレオニン及び第162番目のバリンに対応するコドンの少なくとも1つのコドンが他のアミノ酸に対応するコドンに置換された塩基配列を含む変異型キシロース異性化酵素遺伝子(変異型CpXI遺伝子)であって、Saccharomyces cerevisiae 宿主に対して、野生型CpXI遺伝子と比較して高いキシロース代謝能及び高いエタノール生産能を付与する変異型CpXI遺伝子。
【請求項5】
配列番号12に示されるキシロース異性化酵素遺伝子(CpXI遺伝子)の塩基配列において、コードするアミノ酸配列中の第63番目のスレオニンがイソロイシン、リジン、グリシン、または、ヒスチジンに置換され、及び/又は第162番目のバリンがアラニンに置換される変異に対応するコドン変異を有する塩基配列を含む、請求項4に記載の変異型CpXI遺伝子。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の変異型CpXI遺伝子により形質転換された酵母であって、親酵母と比較して高いキシロース代謝能を有する形質転換酵母。
【請求項7】
前記酵母が、サッカロマイセス属(Saccharomyces)、クルイベロマイセス属(Kluyveromyces)、カンジダ属(Candida)、ピキア属(Pichia)、シゾサッカロマイセス属(Schizosaccharomyces)、及びハンセヌラ属(Hansenula)からなる群から選択される酵母である、請求項6に記載の形質転換酵母。
【請求項8】
前記酵母がサッカロマイセス属(Saccharomyces)酵母である、請求項6に記載の形質転換酵母。
【請求項9】
キシロース存在下において、請求項6〜8のいずれかに記載の形質転換酵母を用いたエタノール生産方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵母を用いて発酵法によりエタノールを生産する技術に関し、より詳しくは、キシロースの代謝能力が向上した変異型キシロース異性化酵素ならびに当該酵素遺伝子を導入した酵母によるバイオマス糖化液からのエタノール生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeは、高い発酵能と高いエタノール耐性を有しており、主に酒類の製造のために古くからエタノール生産に利用されている微生物であり、近年は、燃料用エタノール生産においても利用されている。また、エタノールは、ガソリンの代替燃料として再生可能エネルギーとしても位置づけられており、植物由来バイオマスより発酵法によって生産されている。
第一世代バイオエタノールは、サトウキビなどに由来するグルコース、あるいはトウモロコシなどに由来するデンプンを酵素分解などにより得られたグルコースを原料として、出芽酵母などを用いることにより発酵によって生産される燃料用エタノールである。しかしながら、これらの原料が食糧や家畜飼料と競合することが問題視されている。
【0003】
一方、第二世代バイオエタノールは、食糧や家畜飼料と競合しないセルロース系バイオマスから生産されるエタノールである。セルロース系バイオマスからのエタノール生産においては、原料の種類、前処理方法、糖化プロセス、発酵プロセスの組み合わせによってさまざまな問題が知られており、それらの解決が期待されている。
また、セルロース系バイオマスにはさまざまな資源が想定されているが、特に木質は、グルコースの原料となるセルロースが最も多量に含まれていることから、その利用について期待も高い。また、木質には、セルロースのほかに、ヘミセルロース、リグニンを主成分として有しているが、セルロースの次に含量が多いヘミセルロースの利用も、セルロース系バイオマスからのエタノール生産において重要な課題である。ヘミセルロースは、糖化酵素による分解によってキシロースに変換されるが、出芽酵母はキシロースを資化するための遺伝子がほとんど機能していないため、キシロースからのエタノール生産効率が著しく低いことが問題であった。このため、キシロース資化性生物由来のキシロース代謝酵素を出芽酵母に導入したり、内在性のキシロース代謝に関わる遺伝子の強制発現などによって、出芽酵母にキシロースの資化性を付与するという研究が広くなされている。これらのキシロース代謝に関わる酵素は、キシロース還元酵素、キシリトール脱水素酵素、キシルロースリン酸化酵素、キシロース異性化酵素、ペントースリン酸経路に関わる酵素などである。
【0004】
キシロースからキシルロースへの変換には二種類の経路があり、一つは、還元型経路であり、本経路は、NADPH依存型キシロース還元酵素(XR)およびNAD+依存型キシリトール脱水素酵素(XDH)が触媒するが、両酵素における補酵素が異なるため、そのインバランスから副産物としてキシリトールが蓄積する(非特許文献1)。特に、商業スケールでのキシロースからのエタノール生産においては、このキシリトール蓄積の問題は、エタノール生産効率の低下につながるため、本問題点の解決は重要である。
【0005】
もう一方の経路は、キシロース異性化酵素(XI)が触媒し、本経路では副産物としてのキシリトールの蓄積の問題を生じない利点がある。一方で、キシロース異性化酵素遺伝子を発現させた酵母細胞において、キシロースからのエタノール生産速度が遅いといった問題点が知られている。これらの問題点の解決のため、これまでに多くの細菌や真菌等からキシロース異性化酵素遺伝子がクローニングされ、酵母細胞内での発現が試みられてきた。これまでに、Piromyces sp. E2(非特許文献2)、Orpinomyces sp. ukk1(非特許文献3)、Clostridium phytofermentans ISDg(非特許文献4)、Ruminococcus flavefaciens 17(非特許文献5)、Prevotella ruminicola TC2-24(非特許文献6)、Burkholderia cenocepacia J2315(非特許文献7)、Clostridium cellulolyticum H10(非特許文献8)、Streptomyces rubiginosus(非特許文献9)に由来するキシロース異性化酵素遺伝子が酵母細胞内で機能し、宿主出芽酵母に効率は悪いながらもキシロース代謝能を付与可能であることが示されている。
【0006】
近年、Piromyces sp. E2由来キシロース異性化酵素の分子進化工学的手法による高活性化についての報告がなされた(非特許文献10)。本報告では、6カ所(E15D, E114G, E129D, T142S, A177T, V433I)の変異が導入された変異型Piromyces sp. E2由来キシロース異性化酵素が、出芽酵母におけるキシロースを炭素源とした好気条件での生育速度、およびキシロースの消費速度の向上によるエタノール生産を改善することが示された。本変異型Piromyces sp. E2由来キシロース異性化酵素は、野生型と比較して77% Vmax値が向上していたが、Km値は約2倍高いことも示されている。また、6カ所の変異のうち、高活性化に重要なアミノ酸変異は、E15DおよびT142Sであることも示されている。
また、Ruminococcus flavefaciens 17由来キシロース異性化酵素においても、キシロース結合部位付近のアミノ酸置換(G179A)による15%の活性の改善、およびN-末端10アミノ酸配列をPiromyces sp. E2由来キシロース異性化酵素のN-末端12アミノ酸配列に置換することによる26.8%の活性の改善が報告されている(非特許文献5)。
Streptomyces rubiginosus由来キシロース異性化酵素については、pH6以下の反応条件においてキシロースと高い親和性を獲得した幾つかの変異型キシロース異性化酵素遺伝子が得られたことが報告されている(非特許文献9)。
【0007】
このように、酵母におけるキシロースからの高効率なバイオエタノール生産のためのキシロース異性化酵素に関わる研究は広くなされているが、それぞれのキシロース異性化酵素遺伝子を導入した酵母におけるキシロース代謝能の評価は、それぞれ異なる条件においてなされたものであり、キシロースからのバイオエタノール生産を最も効率的に行える能力を付与可能なキシロース異性化酵素は、どの生物由来のキシロース異性化酵素遺伝子であるのか、多種類のキシロース異性化酵素を同一の宿主株・発現条件・培養条件で比較検討された報告例はない。また、出芽酵母において最も効率的にエタノール生産を行える発酵条件は、嫌気もしくは微好気条件であるが、これまでの多くの報告では好気条件下での培養におけるキシロース異性化酵素の機能評価が多く、エタノール生産を高効率に行える発酵条件下での比較評価はなされていない。さらに変異導入によって高機能化された変異型キシロース異性化酵素であっても、嫌気もしくは微好気条件において、高効率なバイオエタノール生産に資するものであるかは不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2015−33342号公報
【特許文献2】特許第4332630号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Matsushika A,et al., Applied and Environmental Microbiology, 2009, 75, p.3818-3822.
【非特許文献2】Kuyper M, et al., FEMS Yeast Research, 2003, 4, p.69-78.
【非特許文献3】Tanino T, et al., Applied Microbiology and Biotechnology, 2010, 88, p.1215-1221.
【非特許文献4】Demeke MM,et al., Biotechnology for Biofuels, 2013, 6, p.89.
【非特許文献5】Aeling KA,et al., Journal of Industrial Microbiology and Biotechnology, 2012, 39, p. 1597-1604.
【非特許文献6】Hector RE,et al., Biotechnology for Biofuels, 2013, 6, p.84.
【非特許文献7】de Figueiredo Vilela L,et al., Bioresource Technology, 2013, 128, p.792-796.
【非特許文献8】Harcus D,et al., PloS One, 2013, 8, e80733.
【非特許文献9】Waltman MJ ,et al., Protein Engineering, Design and Selection, 2014, 27, p.59-64.
【非特許文献10】Lee SM,et al., Applied and Environmental Microbiology, 2012, 78, p.5708-5716.
【非特許文献11】日本農芸化学会2016年度大会(2016年3月27日〜30日開催)要旨集、発表番号:2A022, 2A023
【非特許文献12】Akashi H.,Genetics, 2003, 164, p.1291-1303.
【非特許文献13】Kuriyama H,et al., Journal of Fermentation Technology, 1985, 63, p.59-165.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明では、由来が異なる8種類のキシロース異性化酵素遺伝子を用いて、各キシロース異性化酵素遺伝子について、同一条件下でのコドンの最適化と同一発現ベクターへのクローニングを行い、得られた各キシロース異性化酵素遺伝子発現プラスミドを導入したエタノール生産実用酵母株を作製し、それらのキシロース資化性の評価を同一培養条件下で行うことで、最適なキシロース異性化酵素遺伝子の情報を提供する。さらに最適なキシロース異性化酵素遺伝子に人工的な変異導入を行い、それら変異型キシロース異性化酵素遺伝子を有する酵母株のキシロース資化性の評価を行うことで、高いキシロース代謝能を出芽酵母に付与可能な変異型キシロース異性化酵素遺伝子及び変異型タンパク質の情報を提供する。さらにその変異型キシロース異性化酵素遺伝子を有する酵母株を提供する。また、当該酵母株を利用した有用物質の効率的な生産方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
背景技術に示したとおり、酵母においてキシロースからエタノールを生産させる効率を向上させるためには、優れたキシロース代謝能を有する外来性のキシロース代謝酵素遺伝子を機能する形で、酵母細胞内に導入する必要がある。これまで、多くのキシロース異性化酵素遺伝子が単離され、酵母における発現が試みられてきたが、酵母細胞内において機能を有する形で発現に成功しているキシロース異性化酵素遺伝子の報告は僅かである。また、各キシロース異性化酵素の酵母細胞内でのキシロース代謝能力の評価は、異なる発酵条件下で行われたものであり、どのキシロース異性化酵素遺伝子が酵母細胞での発現に適しており、優れたキシロース代謝能を宿主酵母細胞に付与可能かどうかは明らかにされていない。また、エタノール生産を高効率に行える嫌気条件もしくは微好気条件での発酵において、これらのキシロース異性化酵素遺伝子が有効に機能するのかなど不明な点が多く、キシロースからエタノールを生産させる効率を向上させるためには、最適なキシロース異性化酵素遺伝子を選抜することが重要である。
【0012】
本発明者らは、これまで出芽酵母において、機能を有する形で発現に成功している8種類のキシロース異性化酵素遺伝子から、最も優れたキシロース代謝能を付与可能なキシロース異性化酵素遺伝子を選抜することとし、その際のスクリーニング方法として、本発明者らが以前にキシロース代謝能が向上した酵母変異株を取得する際に用いた、好気性条件下での高濃度キシロース培地および微好気性条件下での疑似糖化液(YPDX)培地を用いた発酵試験を組み合わせたスクリーニング方法(特許文献1)を改良して用いることとした。
すなわち、上記8種類のキシロース異性化酵素遺伝子について、翻訳効率の影響を最小限に抑えるためコドンの最適化を行い、同一のプロモーターおよびターミネーターを用いた各キシロース異性化酵素遺伝子発現プラスミドを構築し、同一のエタノール生産実用酵母株に導入することで、各キシロース異性化酵素遺伝子を発現する酵母株を構築した。こうして得られた酵母株を用いて、キシロースを炭素源として用いた培地における生育を評価することで、各酵母株のキシロース資化性について検討した。また、疑似糖化液(YPD85X35)を用いた微好気条件下での回分発酵試験によって、エタノール生産性についても評価を行った。これらの評価によって、最も優れたキシロース代謝能を付与可能なキシロース異性化酵素遺伝子としてClostridium phytofermentans由来遺伝子(CpXI遺伝子)を選抜した。次いで、キシロース代謝能の向上のため、選抜されたキシロース異性化酵素遺伝子(CpXI遺伝子)に分子進化工学的手法によって人工的に変異導入を行った変異型キシロース異性化酵素遺伝子ライブラリーを作製し、キシロースを炭素源として用いた培地における好気条件での生育、および疑似糖化液(YPD85X35)を用いた微好気条件下での回分発酵試験によって、評価を行った(非特許文献11)。
【0013】
その結果、異なる箇所にアミノ酸配列レベルでの変異が導入された複数の種類の変異型キシロース異性化酵素遺伝子を単離した。さらに、これらの変異型キシロース異性化酵素遺伝子が有する変異のうちの2か所の変異を集約した二重変異型キシロース異性化酵素遺伝子を構築し、疑似糖化液(YPD85X35)を用いた微好気条件での回分発酵試験によって評価を行った。その結果、2種類の変異型キシロース異性化酵素遺伝子、特に二重変異型キシロース異性化酵素遺伝子が、従来報告されていたキシロース異性化酵素よりも優れたキシロース代謝能を宿主酵母株に付与可能であることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
[1] Clostridium phytofermentans 由来キシロース異性化酵素(CpXI)のアミノ酸配列において、配列番号11における第63番目のスレオニン及び第162番目のバリンに対応する少なくとも1つのアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を含む変異型キシロース異性化酵素(変異型CpXI)であって、野生型キシロース異性化酵素(CpXI)と比較して高いキシロース代謝活性を有する変異型CpXI。
[2] 前記配列番号11における第63番目のスレオニンの他のアミノ酸への置換がイソロイシン、リジン、グリシン、または、ヒスチジンへの置換であり、第162番目のバリンの他のアミノ酸への置換がアラニンへの置換である、前記[1]に記載の変異型CpXI。
[3] 配列番号11に示されるキシロース異性化酵素のアミノ酸配列において、第63番目のスレオニンがイソロイシン、リジン、グリシン、または、ヒスチジンに置換され、及び/又は第162番目のバリンがアラニンに置換されている、前記[2]に記載の変異型CpXI。
特に、配列番号11中の第63番目のスレオニンがイソロイシンに置換され、かつ第162番目のバリンがアラニンに置換されているアミノ酸配列を含む変異型CpXIが好ましい。
[4] Clostridium phytofermentans 由来キシロース異性化酵素(CpXI)遺伝子の塩基配列において、コードするアミノ酸配列における配列番号11中の第63番目のスレオニン及び第162番目のバリンに対応するコドンの少なくとも1つのコドンが他のアミノ酸に対応するコドンに置換された塩基配列を含む変異型キシロース異性化酵素遺伝子(変異型CpXI遺伝子)であって、Saccharomyces cerevisiae 宿主に対して、野生型CpXI遺伝子と比較して高いキシロース代謝能及び高いエタノール生産能を付与する変異型CpXI遺伝子。
[5] 配列番号12に示されるキシロース異性化酵素遺伝子(CpXI遺伝子)の塩基配列において、コードするアミノ酸配列中の第63番目のスレオニンがイソロイシン、リジン、グリシン、または、ヒスチジンに置換され、及び/又は第162番目のバリンがアラニンに置換される変異に対応するコドン変異を有する塩基配列を含む、前記[4]に記載の変異型CpXI遺伝子。
特に、配列番号12において、コードするアミノ酸配列中の第63番目のスレオニンがイソロイシンに置換され、かつ第162番目のバリンがアラニンに置換される変異に対応するコドン変異を有する塩基配列を含む変異型CpXI遺伝子が好ましい。
[6]
前記[4]又は[5]に記載の変異型CpXI遺伝子により形質転換された酵母であって、親酵母と比較して高いキシロース代謝能を有する形質転換酵母。
[7] 前記酵母が、サッカロマイセス属(Saccharomyces)、クルイベロマイセス属(Kluyveromyces)、カンジダ属(Candida)、ピキア属(Pichia)、シゾサッカロマイセス属(Schizosaccharomyces)、及びハンセヌラ属(Hansenula)からなる群から選択される酵母である、前記[6]に記載の形質転換酵母。
[8] 前記酵母がサッカロマイセス属(Saccharomyces)酵母である、前記[6]に記載の形質転換酵母。
[9] キシロース存在下において、前記[6]〜[8]のいずれかに記載の形質転換酵母を用いたエタノール生産方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、優れたキシロース代謝能を有する微生物が提供される。また、本発明によって見いだされた変異型キシロース異性化酵素をコードする変異型遺伝子あるいは変異型タンパク質を利用することにより、優れたキシロース代謝能を有する微生物を遺伝子組換え技術などにより作出することが可能となる。さらには、本発明の微生物あるいは本発明によって見いだされた変異遺伝子を有する微生物を用いることにより、キシロースを含有する培地を利用して効率的にエタノールなどの有用物質を生産することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】プラスミドの物理マップ:図中、pUG6zeoは、pUC系ベクター骨格に、loxPサイトを両端に配置したZeocinTM耐性遺伝子(bleMX6)を導入したプラスミドである。pUG6hygは、pUC系ベクター骨格に、loxPサイトを両端に配置したハイグロマイシン耐性遺伝子(hphMX6)を導入したプラスミドである。pUG35-kan-TDH3pは、pUC系ベクター骨格に、酵母用複製起点(CEN6/ARSH4)、Geneticin(R)耐性遺伝子(kanMX6)、および酵母用発現ユニット(TDH3プロモーター、マルチクローニングサイト(MCS)、CYC1ターミネーター)を導入したプラスミドである。pAUR101r2-XKS1-06_CpXIoptは、pAUR101(タカラバイオ)に、XKS1発現ユニット(PGK1プロモーター、XKS1遺伝子、CYC1ターミネーター)、及びCpXI遺伝子を導入したプラスミドである。
図2】キシロース異性化酵素遺伝子導入株の好気条件下でのキシロース培地における生育:8種類のキシロース異性化酵素遺伝子を導入した酵母株(SS37〜SS44)および発現ベクターのみを導入した酵母株(SS36)のキシロースを単一の炭素源として用いたYPX50培地を用いた好気条件下での生育曲線を示す。データは3回の実験の平均値である。
図3】キシロース異性化酵素遺伝子導入株の微好気条件下での疑似糖化液を用いた発酵試験:8種類のキシロース異性化酵素遺伝子を導入した酵母株(SS37〜SS44)および発現ベクターのみを導入した酵母株(SS36)のグルコースとキシロースを炭素源として含む疑似糖化液(YPD85X35)を用いた微好気条件下での発酵試験結果を示す。本発酵試験中、経時的に培養上清のサンプリングを行い、培養上清中のグルコース、キシロース、キシリトール、グリセロール、酢酸、エタノール含量をHPLCによって測定した。データは3回の実験の平均値である。
図4】変異型CpXI遺伝子発現株の好気条件下におけるキシロース培地における生育:分子進化工学的手法によるCpXI遺伝子への変異導入と変異型CpXI遺伝子ライブラリーのスクリーニングによって得られた11株(M6-2、M6-6、M6-7、M6-10、M6-11、M6-13、M6-15、M6-19、M6-20、M6-21、およびM6-22)、および野生型CpXI発現株(SS42)のYPX80培地を用いた好気条件下での生育曲線を示す。データは3回の実験の平均値である。
図5】変異型CpXI遺伝子発現株の微好気条件下における疑似糖化液を用いた発酵試験:分子進化工学的手法によるCpXI遺伝子への変異導入と変異型CpXI遺伝子ライブラリーのスクリーニングによって得られた11株(M6-2、M6-6、M6-7、M6-10、M6-11、M6-13、M6-15、M6-19、M6-20、M6-21、およびM6-22)の疑似糖化液(YPD85X35)を用いた微好気条件下での発酵試験結果を示す。本発酵試験中、経時的に培養上清のサンプリングを行い、グルコース、キシロース、キシリトール、グリセロール、酢酸、エタノール含量をHPLCによって測定した。データは3回の実験の平均値である。
図6A】変異型CpXI遺伝子ゲノム導入株の微好気条件下における疑似糖化液を用いた発酵試験:変異型CpXI遺伝子発現ユニットを宿主酵母株(SS29株)に導入した株のうちの8種類の株(SS82 [CpXI-T63I]、SS84 [CpXI-K136T, A176T]、 SS85 [CpXI-Y13H, D228V]、SS86 [CpXI-T273A]、SS87 [CpXI-D207G]、SS88 [CpXI-N223I]、SS89 [CpXI-L78S]、およびSS91 [CpXI-E114G])並びに、野生型CpXI遺伝子発現ユニットをSS29株に導入した株(SS81)の疑似糖化液(YPD85X35)を用いた微好気条件下での発酵試験結果を示す。(図6A,B)における発酵試験中、経時的に培養上清のサンプリングを行い、グルコース、キシロース、キシリトール、グリセロール、酢酸、エタノール含量をHPLCによって測定した。データは3回の実験の平均値である。
図6B】変異型CpXI遺伝子ゲノム導入株の微好気条件下における疑似糖化液を用いた発酵試験:変異型CpXI遺伝子発現ユニットを宿主酵母株(SS29株)に導入した株のうちの3種類の株(SS92 [V162A, N303T]、SS93 [CpXI-R191K, E192K] および SS94 [CpXI-L304S] )、SS92株が有する変異型CpXI遺伝子に存在する2箇所の変異(V162AおよびN303T)をそれぞれ分離した変異型CpXI遺伝子を導入した株(SS104 [CpXI-V162A]およびSS105 [CpXI-N303T])、並びにSS82 [CpXI-T63I]とSS104 [CpXI-V162A] がそれぞれ有する変異型CpXI遺伝子に存在する変異(T63IおよびV162A)を集約した変異型CpXI遺伝子を導入した株(SS120 [CpXI-T63I, V162A])の疑似糖化液(YPD85X35)を用いた微好気条件下での発酵試験結果を示す。
図7】既知の変異型キシロース異性化酵素遺伝子導入株の微好気条件下における疑似糖化液を用いた発酵試験:非特許文献5および10に示されているRfXIおよびPspXIにおいて、キシロース代謝向上に関わる変異を導入した変異型RfXI遺伝子(RfXI-G179A)の遺伝子発現プラスミドをSS29株に導入した株(SS45)、および変異型PspXI遺伝子(PspXI-E15D、PspXI-T142S、およびPspXI-E15D, T142S)の発現プラスミドを導入した株(それぞれ、SS46、SS48、およびSS51)を作製した。得られたこれらの株の疑似糖化液(YPD85X35)を用いた微好気条件下での発酵試験結果を示す。本発酵試験中、経時的に培養上清のサンプリングを行い、グルコース、キシロース、キシリトール、グリセロール、酢酸、エタノール含量をHPLCによって測定した。データは3回の実験の平均値である。
図8】プラスミドの物理マップ:pAUR101r2-XKS1-HSP12p2は、pAUR101(タカラバイオ)に、XKS1発現ユニット(PGK1プロモーター、XKS1遺伝子、CYC1ターミネーター)、及びHSP12プロモーター、マルチクローニングサイト(MCS)を導入したプラスミドである。
図9】変異型CpXI遺伝子発現株の好気条件下でのキシロース培地における生育:野生型CpXI発現株(T63T)、および変異型CpXI発現株(T63I, T63L, T63G, T63H)のキシロースを炭素源として用いたYPX50培地を用いた好気条件下での生育曲線を示す。データは3回の実験の平均値である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、変異を有するキシロース異性化酵素遺伝子(変異型CpXI遺伝子)を有する微生物あるいはその利用に関する。
キシロース異性化酵素遺伝子の塩基配列の情報は、National Center for Biotechnology Information(NCBI)などのデータベースを遺伝子名、あるいは、当該遺伝子の塩基配列あるいはそれにコードされるアミノ酸配列をキーとしたBLASTなどによる配列解析によって見いだすことが可能である。本発明において変異を導入する対象のキシロース異性化酵素遺伝子は、Clostridium phytofermentans 由来の遺伝子(CpXI遺伝子ともいう。)であり、当該CpXI遺伝子としては、ゲノム由来であっても、cDNAでもよい。本発明の実施例では、非特許文献4に記載のClostridium phytofermentans ISDg株由来のCpXI(配列番号11)のコドンを、サッカロマイセス・セレビシエ宿主に最適化(非特許文献12に記載の最適コドン情報)して人工合成したCpXI遺伝子(配列番号12)を用いた。使用する宿主としてサッカロマイセス・セレビシエ以外の宿主を用いる場合は、宿主に応じた最適コドン情報により最適化することが好ましい。
【0018】
本発明においては、配列番号12のCpXI遺伝子に分子進化工学の手法を適用して、もとのCpXIと比較してキシロース代謝能が優れた複数の変異型CpXI遺伝子を取得し、その変異箇所のうち、配列番号11の63位のスレオニン及び162位のバリンに対応する位置に変異を有する変異型CpXI遺伝子が優れていることを見いだし、当該2箇所の変異を集約した二重変異型CpXI遺伝子が特に優れたキシロース代謝能及びエタノール生産能をサッカロマイセス・セレビシエ宿主に対して付与できることを確認している。
したがって、本発明のClostridium phytofermentans 由来キシロース異性化酵素(CpXI)の変異したタンパク質およびそれをコードする遺伝子は、機能的に同等である限り、開示された上記2箇所のいずれかの変異箇所以外に、さらに1又は数個のアミノ酸あるいは塩基の欠失、置換、付加があってもかまわない。数個のアミノ酸の欠失、置換、付加があるというとき、以下に限定されないが、例えば、2〜20、22、44、66、88、132個のアミノ酸の欠失、置換、付加を含む。また、これらの変異型タンパク質およびそれをコードする遺伝子について、開示される上記変異箇所の少なくとも1箇所が保存されていれば、全体のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の同一性、少なくとも80%の同一性、少なくとも85%の同一性、少なくとも90%の同一性、少なくとも95%の同一性、少なくとも96%の同一性、少なくとも97%の同一性、少なくとも98%の同一性、又は少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ開示されたキシロースを含む培地における増殖およびキシロースからのエタノール生産を示す遺伝子も本発明に含まれる。さらに、これらの変異タンパク質をコードする遺伝子について、開示される上記アミノ酸変異箇所の少なくとも1箇所に対応するコドン変異が保存されていれば、開示された塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズする遺伝子も本発明に含まれる。ストリンジェントな条件は、当分野で周知であり、配列依存性であるため様々な状況において相違するが、例えば5分間にわたって2×SSCおよび0.5% SDS中で、15分間にわたって2×SSCおよび0.1% SDS中で、30-60分間にわたって37℃で0.1×SSCおよび0.5% SDS中で、次いで30〜60分間にわたって68℃で0.1×SSCおよび0.5% SDS中で、ハイブリッドの計算上のTmを12〜20℃下回る温度で洗浄する洗浄条件を含む。また、変異については、Error-prone PCR法の他、あらゆる変異導入法を用いて組み込むことが可能である。
【0019】
これらの変異型CpXI遺伝子の発現を制御するプロモーターは、HSP12遺伝子由来に限定されない。すなわち、グリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素(TDH3)など他の遺伝子由来プロモーターを用いることができる。また、ターミネーターもCYC1遺伝子由来に限定されず、他の遺伝子由来ターミネーターを用いることができる。さらに、プロモーター、変異型CpXI遺伝子およびターミネーターは、プラスミドの形態で酵母に導入されても良いし、ゲノムDNAに組み込まれても良い。また、プラスミド、ゲノムへの挿入いずれの場合にもコピー数は問わない。ゲノムDNAに組み込む際には、ゲノム中に部位特異的に導入されても良いし、ランダムに導入されても良い。
本発明に関わる変異型CpXI遺伝子を導入するための宿主酵母は機能的に同等である限り、ゲノム中に存在する遺伝子が改変されていても、改変されていなくてもかまわないが、キシロースからキシルロースへの代謝において、内在性のキシロース還元酵素(XR)もしくは、キシリトール脱水素酵素(XDH)の逆反応によって生成されるキシリトールによるキシロース異性化酵素(CpXI)の活性阻害の抑制のため、一方もしくは両酵素遺伝子が欠損していることが望ましい。また、キシルロースからキシルロース5リン酸への代謝を強化するため、内在性のキシルロースリン酸化酵素(XK)が過剰発現されていることが望ましい。キシルロースリン酸化酵素遺伝子の発現を制御するプロモーターはPGK1遺伝子由来に限定されず、他の遺伝子由来プロモーターを用いることができる。またターミネーターもCYC1遺伝子由来に限定されず、他の遺伝子由来ターミネーターを用いることができる。キシルロースリン酸化酵素遺伝子の過剰発現には、プロモーター、キシルロースリン酸化酵素遺伝子およびターミネーターがプラスミドの形態で酵母に導入されても良いし、ゲノムDNAに組み込まれても良く、そのコピー数も問わない。さらに、キシルロースリン酸化酵素遺伝子はいかなる生物由来の遺伝子を用いても良い。また、いかなる生物由来の上記以外の他の遺伝子が導入されていてもかまわない。変異型CpXI遺伝子を導入するための宿主酵母の作製、及び変異型CpXI遺伝子の導入においては、組換えベクターの種類、形質転換法を問わない。培養液については、キシロースを含んでいれば、他の炭素源の存在を含め、酵母が生育する限り構成成分に限定されない。
【0020】
有用物質を生産する場合、少なくともキシロースを含む培養液を用い、本発明の酵母を用いて生産することができる。この場合、当該酵母は本発明に示した変異型CpXI遺伝子を有する他に、当該有用物質を生産するために適した遺伝子が導入されたり、変異型遺伝子を有していても可能である。有用物質としては特に限定しないが、エタノール、キシルロース、乳酸、酢酸、プロパノール、イソブタノール、ブタノール、コハク酸、グリセロールが含まれる。特にエタノールが有用物質として得られることが望ましい。これらの物質は酵母が元来有している代謝酵素の反応によって酵母内で生産される物質、あるいはこれらを生産するために必要な酵素遺伝子を遺伝子組換え技術によって酵母に導入することによって生産可能となる物質であり、さらには代謝マップを参考に酵素の発現量などを適切に調節することによってより効率的な生産が可能となる。これらの物質を生産するための研究においては、多くは通常のグルコースを炭素源とした培地を用いて当該物質を生産しているが、これら従来の技術に本発明の成果を適用することにより、キシロースを含む炭素源をこれらの有用物質を生産するために用いることが可能となる。すなわち、本発明の成果はバイオエタノールの生産のみならず、さまざまな化成品の原料の生産にも用いることが可能となる。
【0021】
本発明の変異型CpXI遺伝子を用いて形質転換する酵母宿主としてはサッカロマイセス属(Saccharomyces)、クルイベロマイセス属(Kluyveromyces)、カンジダ属(Candida)、ピキア属(Pichia)、シゾサッカロマイセス属(Schizosaccharomyces)、ハンセヌラ属(Hansenula)などが挙げられる。特にサッカロマイセス属(Saccharomyces)が好ましく、例えばサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイセス・バヤヌス(Saccharomyces bayanus)、サッカロマイセス・ボウラルディ(Saccharomyces boulardii)などが挙げられる。
【0022】
培養方法については、当該酵母がキシロースを含む培養液で生育する限り、形態を問わない。培養液は、木質などの天然物を処理することによって得たキシロースを含む前処理液や糖化液であってもよいし、人工的にキシロース他の物質を調合したものでもよい。天然物を処理して得られた液に化学物質を添加した液でもよい。培養条件は当該酵母が生育し、キシロースを代謝し有用物質を生産する限り、温度、pH、通気条件、攪拌速度、培養時間など限定されない。これらの条件を制御する方法にも限定されない。また、前処理や糖化処理の有無や、糖化処理と同時に発酵をすすめるかという工程についても限定されない。発酵後の有用物質の精製処理も制限されない。有用物質の種類などに応じて適切な方法を用いることができる。
【実施例】
【0023】
以下に本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
本発明におけるその他の用語や概念は、当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものであり、本発明を実施するために使用する様々な技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。また、各種の分析などは、使用した分析機器又は試薬、キットの取り扱い説明書、カタログなどに記載の方法を準用して行った。
なお、本明細書中に引用した技術文献、特許公報及び特許出願明細書中の記載内容は、本発明の記載内容として参照されるものとする。
【0024】
(本実施例で用いる培地)
酵母の増殖培地として用いたYPD培地は、BactoTM 酵母エキス (BD バイオサイエンス、米国)10 g、BactoTM ペプトン(BD バイオサイエンス) 20 g、D-グルコース(以下グルコース、シグマ アルドリッチ、米国)20 gを精製水 1 Lに含む。YPX50培地は、BactoTM 酵母エキス 10 g、BactoTM ペプトン 20 g、D-キシロース(以下キシロース、シグマ アルドリッチ) 50 gを精製水 1 Lに含む。YPX80培地は、BactoTM 酵母エキス 10 g、BactoTM ペプトン 20 g、キシロース 80 gを精製水 1 Lに含む。YPD85X35培地は、BactoTM 酵母エキス 10 g、BactoTM ペプトン 20 g、グルコース 85 g、キシロース 35 gを精製水 1 L に含む。また、平板培地は、上記の組成の培地に、BactoTM アガー(BD バイオサイエンス) 20 gを1 L培地当たりに添加した。
酵母の遺伝子操作による株の構築には、以下に記載の抗生物質を各濃度になるように上記組成の培地に適宜添加した。Geneticin(R)(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社、米国) 200μg/mL、ZeocinTM(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社) 200μg/mL、ハイグロマイシンB (サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)200μg/mL、オーレオバシジンA(タカラバイオ株式会社) 0.5μg/mL。
また、大腸菌 DH5α株の液体培養には、DifcoTM LB, Miller 培地(BD バイオサイエンス)、平板培地での培養には DifcoTM LB Agar, Miller 培地(BD バイオサイエンス)を用いた。
大腸菌 DH5α株を宿主として用いた遺伝子操作では、DifcoTM LB, Miller 培地もしくはDifcoTM LB Agar, Miller 培地にアンピシリン(和光純薬工業株式会社) 100μg/mLを添加した選択培地を用いた。
【0025】
(本実施例におけるDNA抽出法、PCR法、及び形質転換方法)
大腸菌からのプラスミド抽出は、QIAprep Spin Miniprep Kit(キアゲン社、ドイツ)を用いて、添付のプロトコルに従い抽出、精製を行った。酵母からのゲノムDNA抽出は、Genとるくん(酵母用)High Recovery (タカラバイオ株式会社)を用いて、添付のプロトコルに従い抽出、精製を行った。
PCR反応は、KOD -Plus- Neo(東洋紡株式会社)を用いて行い、反応液中には添付のプロトコルに従って、1×PCR buffer for KOD -Plus- Neo、0.2 mM dNTPs、1.5 mM MgSO4、0.3μM primer、Template DNA(1 ng)、KOD -Plus- Neo DNA polymerase (1 U/μL)の組成で調製し (50 μL反応液)、3ステップサイクル(プレ変性 94℃ 2分、変性 98℃ 10秒、アニーリング Tm温度 30秒、伸長反応 68℃ 30秒/kb)で、30サイクルで行った。アニーリング温度は、使用するプライマーのTm温度に従った。また、伸長反応時間は、増幅を目的とする塩基配列の長さに従って調整した。大腸菌を宿主として用いたキシロース異性化酵素遺伝子発現プラスミドの構築は、ECOSTM Competent E. coli DH5α(株式会社ニッポンジーン)を用いて行い、形質転換方法は添付のプロトコルに従って行った。出芽酵母の形質転換は酢酸リチウム法にて行った。
【0026】
(実施例1)キシロース異性化酵素遺伝子の人工合成
出芽酵母にキシロース代謝能を付与可能と報告されている8種類のキシロース異性化酵素遺伝子のアミノ酸配列情報(Burkholderia cenocepacia J2315 (BcXI、表1:配列番号1、非特許文献7)、Prevotella ruminicola TC2-24 (PrXI、表1:配列番号3、非特許文献6)、Ruminococcus flavefaciens 17 (RfXI、表1:配列番号:5、非特許文献5)、Orpinomyces sp. ukk1 (OspXI、表1:配列番号7、非特許文献3)、Piromyces sp. strain E2 (PspXI、表1:配列番号9、非特許文献2)、Clostridium phytofermentans ISDg (CpXI、表1:配列番号11、非特許文献4)、Clostridium cellulolyticum H10 (CcXI、表1:配列番号13、非特許文献8)、Streptomyces rubiginosus (SrXI、表1:配列番号15、非特許文献9)を、National Center for Biotechnology Information (NCBI)のデータベースより入手した。
各キシロース異性化酵素のアミノ酸配列に対し、出芽酵母において高い遺伝子発現量を有する遺伝子群に基づき作成された最適化コドンテーブル (非特許文献12)を用いて、各キシロース異性化酵素遺伝子に含まれるコドンの最適化を行った。得られた塩基配列はそれぞれ、BcXI遺伝子(配列番号2)、PrXI遺伝子(配列番号4)、RfXI遺伝子(配列番号6)、OspXI遺伝子(配列番号8)、PspXI遺伝子(配列番号10)、CpXI遺伝子(配列番号12)、CcXI遺伝子(配列番号14)、およびSrXI遺伝子(配列番号16)である。これらの塩基配列に基づき、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社に委託して人工合成を行い、各キシロース異性化酵素遺伝子を得た。
以下、(表1)「本研究で使用したキシロース異性化酵素遺伝子のアミノ酸配列および塩基配列」として、本研究で使用したキシロース異性化酵素遺伝子について、由来生物名、本研究で付与した遺伝子名、アミノ酸配列、GenBank Accession No.、およびコドン最適化後の塩基配列を示した。
【0027】
【表1】
【0028】
(実施例2)宿主酵母株の作製
各キシロース異性化酵素のキシロース代謝性能の評価のための宿主として、二倍体エタノール生産実用酵母株IR-2(表4、非特許文献13)より、一倍体IR-2株を構築した。
具体的には、以下の手順で行った。まず、単離される一倍体株におけるmating-typeの転換を抑制するため、HO 遺伝子の破壊を行った。pUG6zeo(図1)を鋳型とし、5’-末端にHO遺伝子のプロモーター領域もしくはターミネーター領域と相同な配列を有するプライマーセット(表2:配列番号17および18)を用いてPCR反応によって、ゼオシン耐性遺伝子の両端にHO遺伝子のプロモーター領域もしくはターミネーター領域と相同な配列を付加したDNA断片を作製した。次いで、本DNA断片を鋳型として、両端の相同配列をさらに延伸するため、プライマーセット(表2:配列番号19および20)を用いてPCR反応によってHO-bleMX6 断片を作製した。本断片を用いて、相同組換えによるIR-2株の形質転換を行い、ゼオシン添加YPD平板培地にて3日間培養を行った。
【0029】
得られた形質転換体を、ゼオシン添加YPD培地によって一晩培養後、酵母細胞よりゲノムDNAの抽出を行った。HO遺伝子破壊の確認のため、確認用プライマーセット(表2:配列番号21および22)を用いて、形質転換体より得られたゲノムDNAを鋳型としたPCR反応を行い、約1.6 kbのDNA断片を得た。得られた断片の塩基配列解析によって、HO遺伝子が破壊された形質転換体を判別した。得られた形質転換体を胞子形成平板培地(酢酸カリウム 10 g、BactoTM アガー 20 gを精製水1Lに含む)における培養によって胞子形成をさせ、マイクロマニピュレーター(MSM System series 400、シンガー インスツルメンツ社、英国)によって、四分子胞子分離を行った。得られた胞子をYPD平板培地で培養を行い、親株IR-2と同等の性質を示す一倍体2a-3-34A株(表4)を取得した。
【0030】
さらに、宿主酵母が有するキシロース還元酵素遺伝子によるキシロースからキシリトールへの触媒反応を抑制するため、キシロース還元酵素遺伝子であるGRE3遺伝子の破壊を行った。pUG6hyg(図1)を鋳型として、5’-末端にGRE3遺伝子のプロモーター領域もしくはターミネーター領域と相同な配列を有するプライマーセット(配列番号:23および24)を用いてPCR反応によって、ハイグロマイシン耐性遺伝子の両端にGRE3遺伝子のプロモーター領域もしくはターミネーター領域と相同な配列を付加したDNA断片を作製した後、本DNA断片を鋳型として、両端の相同配列をさらに延伸するため、プライマーセット(表2:配列番号25および26)を用いてPCR反応によってGRE3-hphMX6断片を作製した。
【0031】
本DNA断片を用いて、相同組換えによる2a-3-34A株の形質転換を行い、ハイグロマイシンB添加YPD平板培地にて3日間の培養を行った。得られた形質転換体を、ハイグロマイシンB添加YPD培地によって一晩培養後、形質転換体細胞よりゲノムDNAの抽出を行った。GRE3遺伝子破壊の確認のため、GRE3破壊確認用プライマーセット(配列番号:27および28)を用いて、形質転換体より得られたゲノムDNAを鋳型としたPCR反応を行い、約2 kbのDNA断片を得た。得られた断片の塩基配列解析によって、GRE3遺伝子が破壊された形質転換体を判別し、得られた本形質転換体を以下の実施例で用いる宿主酵母のSS29株(表4)とした。
以下には、(表2)として、本研究で使用したプライマーの塩基配列を示す。
【0032】
【表2】
【0033】
(実施例3)キシロース異性化酵素遺伝子発現系の構築と酵母株への導入
実施例2で作製した出芽酵母宿主(SS29株)を用い、各キシロース異性化酵素の発現を試みるため、酵母発現ベクターであるpLTex321sV5H(表3:プラスミド番号3、特許文献2)にサブクローニングを行った。具体的には、以下の手順でサブクローニングを行った。
実施例1で作製した各キシロース異性化酵素遺伝子をそれぞれに対応するプライマーセット(表2:配列番号29〜44)を用いてPCRによって増幅を行った。増幅の際に用いたリバースプライマーには、XhoIサイトが導入されており、増幅されたDNA断片約1.3 kbをXhoIにて切断処理を行った。同時に、SmaI および XhoI によって切断した酵母発現ベクターpLTex321sV5H断片(約7.4 kb)と、各キシロース異性化酵素をコードする増幅DNA断片を、TaKaRa Ligation Kit Mighty Mix(タカラバイオ株式会社)を用いて、添付のプロトコルに従ってライゲーション反応を行った。反応終了後、各ライゲーション反応液を用いて、大腸菌DH5αの形質転換を行い、アンピシリン添加LB平板培地にて一晩培養を行った。得られた形質転換体を、アンピシリン添加LB培地によって一晩培養後、プラスミドを抽出し、制限酵素切断パターンおよび塩基配列解析によって目的のプラスミドを保有した形質転換体を判別した。
得られた各キシロース異性化酵素遺伝子を含むプラスミドを、SpeI および KpnI によって切断し、HSP12 プロモーター、各キシロース異性化酵素遺伝子、CYC1 ターミネーターからなる約 2.2 kbの断片を得て、同様に、SpeI および KpnI によって切断した酵母発現ベクター pUG35-kan-PTDH3(図1、表3:プラスミド番号4)断片(約4.6 kb)とライゲーション反応を行った。ライゲーション反応終了後、各ライゲーション反応液を用いて、大腸菌DH5αの形質転換を行い、アンピシリン添加LB平板培地にて一晩培養を行った。得られた形質転換体を、アンピシリン添加LB培地によって一晩培養後、プラスミドを抽出し、制限酵素切断パターンおよび塩基配列解析によって目的のプラスミドを保有した形質転換体を判別した。得られた形質転換体よりプラスミド抽出を行い、各キシロース異性化酵素遺伝子発現ユニットを含む発現プラスミドをそれぞれ得た。
【0034】
さらに、キシルロースからキシルロース 5-リン酸への反応を触媒するキシルロースリン酸化酵素遺伝子(XKS1)の過剰発現のため、上記の各発現プラスミドへのXKS1遺伝子発現ユニットの導入を行った。その際の導入方法については、以下のとおり。XKS1遺伝子発現ユニットを含むプラスミドである pAUR-XRXDHXK(表3:プラスミド番号5)を鋳型として用いて、PGK1プロモーター、XKS1遺伝子、CYC1ターミネーターからなるXKS1過剰発現ユニットを含むDNA断片を増幅するため、XKS1過剰発現ユニット用プライマーセット(表2:配列番号45および46)を用いてPCRによって増幅を行った。増幅されたDNA断片約2.9 kbと、KpnIによって切断した上記の発現プラスミド断片を、In-Fusion(R) HD Cloning Kit(タカラバイオ株式会社)を用いて、添付のプロトコルに則ってIn-Fusion反応を行った。反応終了後、In-Fusion反応液を用いて、大腸菌DH5α株の形質転換を行い、アンピシリン添加LB平板培地にて一晩培養を行った。得られた形質転換体を、アンピシリン添加LB培地によって一晩培養後、プラスミドを抽出し、制限酵素切断パターンおよび塩基配列解析によって目的のプラスミドを保有した形質転換体を得た。得られた形質転換体よりプラスミド抽出を行い、各キシロース異性化酵素遺伝子発現ユニットおよびキシルロキナーゼ遺伝子発現ユニットを含むプラスミド(表3:プラスミド番号7〜14)を得た。同様の方法で、いずれのXIも含まない発現ユニットだけのプラスミドを作製した(表3:プラスミド番号6)。
【0035】
得られたプラスミドを用いて、SS29株の形質転換を行った。SS29株の形質転換は、酢酸リチウム法によって行い、Geneticin(R)添加YPD平板培地によって3日間培養を行うことで、各キシロース異性化酵素遺伝子発現ユニットおよびキシルロキナーゼ遺伝子発現ユニットを含むプラスミドを保有するSS29株形質転換体を得た。得られた形質転換体は、それぞれ、SS36〜SS44株(表4:株番号4〜12)と命名した。
以下に、(表3)として、本研究で使用したプラスミドを、(表4)として、本研究で使用した酵母株の遺伝子型を示す。
【0036】
【表3】
【0037】
【表4】
【0038】
(実施例4)好気条件下での生育試験
酵母株に導入されたキシロース異性化酵素によるキシロース代謝能の評価のため、YPX50培地における生育試験を行った。各形質転換体SS36〜SS44株をGeneticin(R)添加YPD培地にて定常期まで前培養を行い、本培養液を遠心分離によって各形質転換体細胞を集菌し、滅菌水によって細胞を洗浄した。96穴透明プレートの各ウェルに100 μLのYPX50培地を分注し、OD600 =0.1となるように洗浄した形質転換体細胞を植菌した。各形質転換体のYPX50培地における生育は、マイクロプレートリーダー(Infinite(R) 200 PRO 、テカン社、スイス)を用いて、30℃で振盪培養を行うとともに、経時的に吸光度測定(OD600)を4日間行った。得られたOD値を1 cm光路での吸光度に変換し、各形質転換体の生育曲線を得た。本結果を図2と表5に示す。本結果から、OspXI遺伝子を含むSS40株が最も速い生育速度を示し、次いで、CpXI遺伝子を含むSS42株が同程度の生育速度を示した。一方、BcXI遺伝子、CcXI遺伝子およびSrXI遺伝子を含むそれぞれの株は高濃度キシロース培地では生育しなかった。
【0039】
以下に、(表5)「好気条件下での各種キシロース異性化酵素発現株の生育速度」として、8種類のキシロース異性化酵素遺伝子を導入した株(SS37〜SS44)および発現ベクターのみを導入した酵母株(SS36)のキシロースを単一の炭素源として用いたYPX50培地を用いた好気条件下での指数増殖期における生育速度を示す。なお、データは3回の実験の平均値および標準偏差である。また、n.d.は、生育できなかったことを示す。
【0040】
【表5】
【0041】
(実施例5)微好気条件下での発酵試験
各形質転換酵母株(SS36〜SS44株)を、5 mLのYPD培地(14 mL 試験管)に植菌し、30℃、150 rpm で1日間振盪培養を行った(前々培養)。前々培養液全量を50 mLのYPD培地(100 mLバッフル付きフラスコ)に植菌し、2日間振盪培養(30℃、 135 rpm)行った(前培養)。前培養液の濁度は、何れの株も約OD600 =20であった。前培養液全量を用いて、遠心分離(3,000 rpm、 5分、4℃)によって酵母細胞を集菌し、10 mLの疑似糖化液(YPD85X35培地:glucose 85 g/L, xylose 35 g/L, yeast extract 10 g/L, peptone 20 g/L)に再懸濁後、再度、遠心分離によって集菌した。疑似糖化液での細胞洗浄後、全量が10 mLとなるように、再度、疑似糖化液に酵母細胞を懸濁した。100 mL フラスコに 60 mLの疑似糖化液を加え、10 mLの細胞懸濁液を植菌した(全量 70 mL)。発酵時における微好気条件を維持するため、発酵中に発生する二酸化炭素の排気のための注射針と培養液のサンプリング用の注射針を刺したシリコン栓にてフラスコを閉栓した。サンプリング用注射針には、三方活栓を連結し、サンプリング時以外は閉栓するようにした。本フラスコを、30℃、135 rpmで72時間の振盪培養を行った。培養開始後、0、1、3、6、12、24、36、48、60、72時間に、2.5 mLシリンジを用いて、サンプリング用注射針より500 μLの培養液を経時的にサンプリングした。
採取した培養液は、15,000 rpm、 5分、4℃にて遠心分離を行い、その上澄み 400 μLを-80℃にて凍結保存した。
【0042】
(実施例6)各形質転換酵母株の培養液中の糖、アルコールのHPLCによる定量
サンプリングした培養液中のグルコース、キシロース、キシリトール、グリセロール、酢酸およびエタノールの高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による定量のため、以下の方法で測定を行った。測定には、Aminex HPX-87Cカラム(バイオラッド株式会社)および Cation H Refill Guard カラム(バイオラッド株式会社)を装備したHPLC LC-2000Plusシリーズ(日本分光株式会社)を用いて、5 mM H2SO4を移動相として、流速 0.6 mL/分、65℃の条件で分離を行った。なお、カラムによって分離された物質の検出には、示差屈折計(日本分光株式会社)を用いた。サンプリングした培養液を蒸留水にて5倍希釈したサンプル 25 μLを、本HPLC装置にて上記の条件で分析を行った。また、定量のための標準曲線作成のため、グルコース、キシロース、キシリトール、グリセロール、酢酸およびエタノールを、それぞれ2%(w/v)の濃度で混合した標準物質溶液と、本溶液を、1%、0.1%、0.01%となるように段階希釈した溶液を用いて、本HPLC装置で測定を行うことで、定量のための標準曲線を作成し、培養液サンプル中に含まれる各物質の濃度を定量した。各形質転換酵母株(SS36〜SS44)に対する上記の条件での発酵試験の結果、SS42株(表4:株番号10)が、最も高いキシロース代謝能を有していることが明らかとなった(図3)。
このことは、CpXI遺伝子が宿主酵母株に最も高いキシロース代謝能を付与可能であることを示している。
【0043】
(実施例7)既知の変異型キシロース異性化酵素遺伝子導入株の構築と発酵性能評価
(7−1)既知の変異型キシロース異性化酵素遺伝子導入株の構築
非特許文献5及び10に示される、キシロース代謝能が向上した変異型キシロース異性化酵素遺伝子を導入した株を作製し、その発酵性能の評価を行った。
変異型RfXI(G179A)遺伝子発現プラスミドは、野生型RfXI発現プラスミドpUG35-kan-HSP12p-RfXI-CYC1t-PGK1p-XKS1-CYC1t(表3:プラスミド番号9)を鋳型として、プライマーセット(表2:RfXI(Opt)(G179A)[配列番号57]およびRfXI(Opt)(G179A)as[配列番号58])を用いたInverse PCR法によって作製した。反応液の組成は、添付のプロトコルに則って以下のとおり調製した。PCRグレード脱イオン水 13.4 μL、10×PCR Buffer for KOD -Plus- Neo 2 μL、2 mM dNTP Mix 2 μL、25 mM MgSO4 1.2 μL、10 μM プライマーセット 0.6 μL、1 ng/μL 鋳型DNA 0.4 μL、および 1 U/μL KOD -Plus- Neo DNA Polymerase 0.4 μLで構成され、反応サイクルを、プレ変性 94℃2分の後、変性 98℃ 10秒、アニーリング 58℃ 30秒、伸長反応 68℃ 5分を10サイクル、最終伸長反応 68℃5分で行った。得られたPCR産物にDpnI 1.2 μLを加え、37℃で2時間処理した。得られた直鎖状ベクター断片の平滑末端ライゲーションを行った。ライゲーション反応は、T4 DNA Ligase(タカラバイオ株式会社)を用いて行い、反応液の組成は、添付のプロトコルに則って以下のとおり調製した。Distilled water 14 μL、10 ×Ligation Buffer 2 μL、T4 DNA ligase 1 μL、T4 Polynucleotide Kinase 1 μL、直鎖状DNA 2 μLで構成され、室温で1時間反応させた。本反応液を用いて、大腸菌DH5αの形質転換を行い、アンピシリン添加LB平板培地にて一晩培養を行った。得られた形質転換体から複数選別し、それぞれアンピシリン添加LB培地によって一晩培養後、プラスミドを抽出し、塩基配列解析によって目的の変異を有したプラスミドpUG35-kan-HSP12p-RfXI(G179A)-CYC1t-PGK1p-XKS1-CYC1t(表3:プラスミド番号15)を得た。
【0044】
変異型PspXI(E15D)遺伝子発現プラスミドは、野生型PspXI発現プラスミドpUG35-kan-HSP12p-PspXI-CYC1t-PGK1p-XKS1-CYC1t(表3:プラスミド番号11)を鋳型として、プライマーセット(PspXI(Opt)(E15D) [配列番号59]およびPspXI(Opt)(E15D)as [配列番号60])を用いて、同様に構築を行い、目的の変異を有したプラスミドpUG35-kan-HSP12p-PspXI(E15D)-CYC1t-PGK1p-XKS1-CYC1t(表3:プラスミド番号16)を得た。
変異型PspXI(T142S)遺伝子発現プラスミドは、野生型PspXI発現プラスミドpUG35-kan-HSP12p-PspXI-CYC1t-PGK1p-XKS1-CYC1t(表3:プラスミド番号11)を鋳型として、プライマーセット(PspXI(Opt)(T142S)[配列番号61]およびPspXI(Opt)(T142S)as[配列番号62])を用いて、同様に構築を行い、目的の変異を有したプラスミドpUG35-kan-HSP12p-PspXI(T142S)-CYC1t-PGK1p-XKS1-CYC1t(表3:プラスミド番号17)を得た。
変異型PspXI(E15D, T142S)遺伝子発現プラスミドは、pUG35-kan-HSP12p-PspXI(E15D)-CYC1t-PGK1p-XKS1-CYC1t(表3:プラスミド番号16)を鋳型として、プライマーセット(PspXI(Opt)(T142S)[配列番号61]およびPspXI(Opt)(T142S)as[配列番号62])を用いて、同様に構築を行い、目的の変異を有したプラスミドpUG35-kan-HSP12p-PspXI(E15D, T142S)-CYC1t-PGK1p-XKS1-CYC1t(表3:プラスミド番号18)を得た。
【0045】
(7−2)キシロース代謝能の評価
構築したRfXI(G179A)遺伝子発現プラスミド(表3:プラスミド番号15)、PspXI(E15D)遺伝子発現プラスミド(表3:プラスミド番号16)、PspXI(T142S)遺伝子発現プラスミド(表3:プラスミド番号17)、およびPspXI(E15D, T142S)遺伝子発現プラスミド(表3:プラスミド番号18)をそれぞれ用いて、SS29株を形質転換し、SS45(表4:株番号13)、SS46(表4:株番号14)、SS48(表4:株番号15)、およびSS51(表4:株番号16)株を得た。これらの株のキシロース代謝能の評価のため、(実施例5)で用いたのと同様のYPD85X35擬似糖化液を用いた微好気条件での発酵試験を行った。(実施例5)と同様に経時的に培養液のサンプリングを行い、HPLCによる培養液中のグルコース、キシロース、キシリトール、グリセロール、酢酸、エタノールの定量を行った。その結果を図7に示す。変異型RfXI遺伝子発現株SS45株と野生型RfXI遺伝子発現株SS39株(図3)との発酵試験結果の比較、および変異型PspXI遺伝子発現株SS46, SS48, SS51株と野生型PspXI遺伝子発現株SS41株(図3)との発酵試験結果の比較において、変異導入による顕著なキシロース代謝能の向上は観察されなかった。本結果からも、CpXI遺伝子が宿主酵母株に最も高いキシロース代謝能を付与可能であることを示している。
【0046】
(実施例8)変異導入PCRによる変異型CpXIライブラリーの作製
(実施例6)の発酵試験結果から宿主酵母株に最も高いキシロース代謝能を付与可能であることが示されたCpXI遺伝子に対して、分子進化工学的手法によりさらなる改良を加えるため、変異型CpXIライブラリーをランダム変異導入PCR法によって作製した。
具体的な手順は以下のとおりである。
鋳型としては、CpXI遺伝子が導入された発現プラスミド(pUG35-kan-HSP12p-CpXI-CYC1t-PGK1p-XKS1-CYCt、表3:プラスミド番号12)を用い、CpXI遺伝子の5’-末端から約1 kbの範囲の変異導入部位の両端に相同性を有するプライマーセット(表2:oSS62 XI-F_HSP12s[配列番号47]およびoSS74 XI-Rc[配列番号48])を用いてDiversify PCR Random Mutagenesis Kit(タカラバイオ株式会社)によりランダム変異導入PCRを行った。ランダム変異導入PCRの条件は、添付のプロトコルに則って、1 kbあたり2.7カ所の変異が導入される条件を設定した。ランダム変異導入PCR反応液の組成は、PCRグレード脱イオン水 38μL、10×TITANIUM Taq バッファー 5 μL、8 mM MnSO4 2 μL、2 mM dGTP 1 μL、50× Diversify dNTP Mix 1 μL、0.02 mM プライマーセット 1 μL、1 ng/μL 鋳型DNA 1μL、および TITANIUM Taq Polymerase 1μLで構成され、反応サイクルを、プレ変性 94℃ 30秒の後、変性 94℃ 30秒、伸長反応 68℃ 1分を25サイクル、最終伸長反応 68℃ 1分で行った。
【0047】
一方、直鎖状ベクター断片については以下の方法で行った。pUG35-kan-HSP12p-CpXI-CYC1t-PGK1p-XKS1-CYC1tを鋳型として、プライマーセット(表2:oSS63 XI-R_HSP12as[配列番号49]およびoSS83 06_CpXI-Fc[配列番号50])およびKOD -Plus- Neo(東洋紡株式会社)を用いた Inverse PCR法によって作製した。
反応液の組成は、添付のプロトコルに則って以下のとおり調製した。PCRグレード脱イオン水 33.5 μL、10×PCR Buffer for KOD -Plus- Neo 5 μL、2 mM dNTP Mix 5 μL、25 mM MgSO4 3 μL、10 μM プライマーセット 1.5 μL、1 ng/μL 鋳型DNA 1 μL、および 1 U/μL KOD -Plus- Neo DNA Polymerase 1 μLで構成され、反応サイクルを、プレ変性 94℃ 2分の後、変性 98℃ 10秒、アニーリング 58℃ 30秒、伸長反応 68℃ 4分を25サイクル、最終伸長反応 68℃ 5分で行った。得られた変異CpXI遺伝子断片および直鎖状ベクター断片を、In-Fusion(R) HD Cloning Kitを用いて、添付のプロトコルに則って In-Fusion反応を行った。本反応液を用いて、大腸菌DH5α株(Giga Competent Cell (DH5α)、株式会社バイオダイナミクス研究所)の形質転換を行い、1×104以上のDH5α形質転換体からなる変異型CpXIライブラリーを構築した。変異導入頻度の確認のため、幾つかのDH5α形質転換体からプラスミドを調製し、CpXI遺伝子の塩基配列解析を行った結果、少なくとも90%以上のプラスミドのCpXI遺伝子に、平均2カ所の変異が導入されたことを確認した。またそれらは独立的に、かつ全体に変異が導入されていたことから、極めて質の高いライブラリーであると判断した。
【0048】
(実施例9)キシロース代謝能が向上した変異型CpXI遺伝子のスクリーニング
(実施例8)で構築した変異型CpXIライブラリーより、キシロース代謝能が向上した変異型CpXI遺伝子のスクリーニングを行うため、その条件検討を行った。野生型CpXI遺伝子発現プラスミド(pUG35-kan-HSP12p-CpXI-CYC1t-PGK1p-XKS1-CYC1t、表3:プラスミド番号12)を導入した酵母株SS42を用いて、キシロース濃度を 50 g/L から 90 g/L まで変更したYPX平板培地(発現プラスミドの保持のため、Geneticin(R)を添加)を用いて、SS42株の生育試験を行った。5 mL YPD培地にSS42株を植菌し、30℃で振盪培養(150 rpm)を行った。培養液より集菌し、滅菌水で細胞を洗浄した後、OD600 = 1.0×10-4になるように、滅菌水に再度懸濁した。キシロース濃度を、50 g/L、60 g/L、70 g/L、80 g/L、90 g/Lの濃度で含むYPX平板培地(それぞれ、YPX50、YPX60、YPX70、YPX80、YPX90)に、本菌体液 50 μLを植菌し、30℃で4日間培養を行った。その結果、YPX50、YPX60およびYPX70平板培地では、SS42株はコロニー形成が観察されたが、80 g/L以上のキシロースを含むYPX80およびYPX90平板培地上ではコロニー形成が観察されなかった。
【0049】
本結果を踏まえ、SS29株を宿主とした変異型CpXI遺伝子ライブラリーから、キシロース代謝能が向上した変異型CpXI遺伝子をスクリーニングするためには、80 g/L以上の高濃度キシロースを含む培地で選抜を行うこととした。
大腸菌DH5αにおいて構築した変異型CpXIライブラリーより、変異型CpXI遺伝子を含む発現プラスミドの抽出を行い、得られたプラスミドを用いて、SS29株の形質転換を行った。得られたSS29株形質転換体(約2.4 ×105 コロニー)をGeneticin(R)添加YPX80平板培地に植菌し、30℃、4日間培養を行った。YPX80平板培地を用いたスクリーニングの結果、YPX80平板培地においてもコロニーを形成でき、生育が可能となった24株が得られた。
【0050】
(実施例10)キシロース代謝能が向上した変異型CpXI遺伝子のセカンドスクリーニング (実施例9)の高濃度キシロース培地(YPX80平板培地)でのスクリーニングで得られた24個のコロニーには、CpXIにおける変異によってキシロース代謝能が向上したSS29形質転換株だけでなく、自然突然変異によってそのゲノムDNAに変異が生じることで、高濃度キシロース培地においても生育が可能となった擬陽性株も含まれていることが考えられた。そのため、得られた24個のコロニーに由来するSS29株形質転換体から、Easy Yeast Plasmid Isolation Kit(タカラバイオ株式会社)を用いて、添付のプロトコルに則り、変異型CpXI発現プラスミドの抽出を行った。得られた各発現プラスミドを用いて、大腸菌DH5α(ECOSTM Competent E. coli DH5α)を形質転換し、各発現プラスミドの増幅を行った。複数の大腸菌コロニーから得られたプラスミドから、プライマー(表2:06_CpXIopt_F1[配列番号39]、06_CpXIopt_R1[配列番号40]、06_CpXIopt_Seq_F1[配列番号51]、および06_CpXIopt_Seq_R1[配列番号52])を用いて、それぞれCpXI遺伝子領域の塩基配列解析を行った結果、18株の変異型CpXI遺伝子にはアミノ酸置換を伴う変異を有していた。
次に、得られた各変異型CpXI発現プラスミドを用いて、再度、SS29株の形質転換を行った。得られたSS29形質転換体を、再度、YPX80平板培地に植菌しその生育を確認した結果、11株のSS29形質転換体においてYPX80平板培地における生育を確認した。これらの11株が有する変異型CpXI酵素におけるアミノ酸変異について、下記(表6)に示す。
【0051】
【表6】
【0052】
(実施例11)変異型CpXI遺伝子を発現させたSS29形質転換株のサードスクリーニング
(実施例10)のセカンドスクリーニングによって得られた11個のSS29形質転換株については、そのキシロース代謝能の向上が、変異導入されたCpXI遺伝子に由来することが確認された。
さらに、その有効性を確認するため、前述の96穴マイクロプレートを用いた方法で好気条件下でのYPX80液体培地での生育試験を行った。その結果、11株全ての単離した形質転換体において野生型CpXIを発現させたSS42株よりも速い生育が観察された。その結果を図4および表7に示す。また、疑似糖化液(YPD85X35培地)を用いた発酵試験を、前述の方法で行った結果、得られた11株は、何れも本発酵試験条件下において、野生型CpXIを発現させたSS42株よりも高いキシロース代謝能を有していることが明らかとなった(図5)。
【0053】
以下に、(表7)「変異型CpXI酵素遺伝子導入株の好気条件下でのキシロース培地における生育速度」として、変異型CpXI遺伝子ライブラリーのスクリーニングによって得られた11株のキシロースを単一の炭素源として用いたYPX80培地を用いた指数増殖期における好気条件下での生育速度(Specific growth rate)および、野生型CpXI遺伝子を導入した株(SS42)に対する相対生育速度(Relative growth rate)を示す。なお、データは3回の実験の平均値である。また、生育速度についてはその標準偏差を示した。
【0054】
【表7】
【0055】
(実施例12)変異型CpXI遺伝子のゲノムへの導入
(実施例9)のスクリーニングでは、酵母細胞内において低コピーで保持される発現ベクターを利用したが、酵母細胞内での変異型CpXI発現プラスミドのコピー数の影響が、宿主酵母細胞のキシロース代謝能の向上に寄与している可能性が考えられた。そのため、選抜した11種類の変異型CpXI遺伝子発現ユニットを宿主酵母株ゲノムへ導入した株の構築と発酵性能の評価を行った。11種類の変異型CpXI遺伝子発現プラスミドを、SpeIおよびSphIによって切断し、HSP12p-CpXI含む断片(約2 kb)を得た。一方、酵母ゲノム導入型ベクターであるpAUR101(タカラバイオ株式会社)にXKS1遺伝子発現ユニットおよび野生型CpXI遺伝子を導入したベクターであるpAUR101r2-XKS1-06_CpXIopt(図1)を、同様にSpeIおよびSphIによって切断し、約8.3 kbのベクター断片を得た。両DNA断片を、TaKaRa DNA Ligation Kit Mighty Mix(タカラバイオ株式会社)を用いて、添付のプロトコルに則って、ライゲーション反応を行った。ライゲーション反応液を用いて、大腸菌DH5α株(ECOSTM Competent E. coli DH5α、ニッポンジーン株式会社)の形質転換を行い、アンピシリン添加LB平板培地に植菌し、37℃で一晩培養することで形質転換株を得た。得られた形質転換株を、アンピシリン添加LB培地によって一晩培養後、プラスミドを抽出し、制限酵素切断パターンおよび塩基配列解析によって目的のプラスミドを保有した形質転換体を判別した。得られた11種類の変異型CpXI遺伝子発現プラスミド(表3:プラスミド番号20〜30)をBsiWIによって切断し、本DNA断片を用いて、SS29株の形質転換を行った。形質転換反応液をオーレオバシジンA添加YPD平板培地に塗布し、30℃、3日間静置培養した。本操作によって、各変異型CpXI発現ユニットが、宿主SS29株のAUR1遺伝子座に導入された酵母株(SS82、SS84、SS85、SS86、SS87、SS88、SS89、SS91、SS92、SS93、およびSS94[表4:株番号18〜28])を得た。また、コントロールとして、野生型CpXI発現プラスミド(pAUR-kanMX6-HSP12p-CpXI-CYC1t-PGK1p-XKS1-CYC1t[表3:プラスミド番号19])を同様に作製し、SS29株の形質転換を行った。得られたコントロール株をSS81株(表4:株番号17)とした。
【0056】
(実施例13)疑似糖化液における微好気条件での発酵試験
(実施例12)で作製した12種類のSS29形質転換株(SS81、SS82、SS84、SS85、SS86、SS87、SS88、SS89、SS91、SS92、SS93、およびSS94)のキシロース代謝能の評価のため、(実施例5)で用いたのと同様のYPD85X35疑似糖化液を用いた微好気条件での発酵試験を行った。(実施例5)と同様に、経時的に培養液のサンプリングを行い、HPLCによる培養液中のグルコース、キシロース、キシリトール、グリセロール、酢酸、エタノールの定量を行った。その結果を図6に示す。本発酵試験の結果、野生型CpXIを発現させたSS81株よりも、有意に優れたキシロース代謝能を示した2株(SS82株およびSS92株)を選抜した。
【0057】
(実施例14)キシロース異性化酵素の活性測定
(実施例13)で選抜された2株の変異型CpXI発現株について、微好気条件での発酵条件における酵母細胞内で発現されたキシロース異性化酵素の活性を以下の方法で測定した。YPD85X35培地での微好気条件における発酵試験開始後、24時間後の培養液をサンプリングし、遠心分離によって、酵母細胞を集菌した。酵母細胞は、酵母破砕溶液である CelLyticTM Y Cell Lysis Reagent(シグマアルドリッチジャパン株式会社)およびProtease Inhibitor Cocktail for use with fungal and yeast extracts(シグマアルドリッチジャパン株式会社)に懸濁し、0.5 mm ジルコニアビーズを用いて、細胞破砕を行った。細胞破砕操作後、遠心分離によってジルコニアビーズおよび細胞不溶物を除去した上清を得た。本細胞破砕溶液のタンパク質濃度測定のため、PierceTM 660 nm Protein Assay Reagent(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)を用いて、添付のプロトコルに従って、タンパク質濃度の定量を行った。細胞破砕溶液中のキシロース異性化酵素活性は、以下の方法で測定した。100 μLの反応液中の組成は、以下のとおりである。100 mM Tris-HCL buffer (pH8.0)、 10 mM MgCl2、 0.3 mM β-NADH(オリエンタル酵母工業株式会社)、2 U Sorbitol dehydrogenase(シグマアルドリッチジャパン株式会社)、1 mg/ml 各細胞破砕液、各種濃度のキシロース(10、50、100、もしくは 500 mM)を含むように調製した。反応は、前述のキシロース溶液の添加によって開始し、Infinite(R) 200 PROマイクロプレートリーダーを用いて、30℃にて340 nmの吸光度の変化を経時的に測定した。NADHの340 nmの分子吸光係数を6.25 mM-1 cm-1として、比活性を計算した。活性測定の結果を、下記(表8)に示す。その結果、野生型CpXI発現株と比較して、変異型CpXI発現株では高いキシロース異性化酵素活性が観察された。これらの結果は、各変異型CpXI発現株の微好気条件での発酵試験結果と一致した。特に、CpXI-T63Iは、野生型と比較して38%高い代謝活性(Vmax)を示し、そのKm値は 29.2 mMだった。また、CpXI-V162A, N303Tは、Vmax値は野生型と同等であったが、Km値は 28.4 mMと変異型CpXIのうち、最も低い値を示した。
【0058】
以下に、(表8)「変異型CpXI酵素の反応速度論的パラメーター」を示す。なお、表中、野生型CpXI遺伝子ゲノム導入株(SS81)、および変異型CpXI遺伝子ゲノム導入株(SS82、SS92、SS104、SS105、およびSS120)の微好気条件下での発酵試験において、培養開始後24時間の細胞破砕溶液中のキシロース異性化酵素活性における、Vmax値およびKm値を示した。データは3回の実験の平均値である。また、Vmax値については、その標準偏差を示した。
【0059】
【表8】
【0060】
(実施例15)部位特異的変異導入によるCpXIの改変
(実施例14)で検討した変異CpXI遺伝子中のCpXI-V162A, N303Tにおける2箇所の変異のそれぞれの変異におけるキシロース代謝能の向上への寄与について検討するため、両変異を分離したCpXI-V162AおよびCpXI-N303Tを部位特異的変異導入法によって作製した。具体的な部位特異的変異導入方法については、以下のとおり行った。
野生型CpXI発現プラスミドpAUR-kanMX6-HSP12p-CpXI-CYC1t-PGK1p-XKS1-CYC1t(表3:プラスミド番号19)を鋳型として、プライマーセット(表2:oSS106 06_CpXI_V162A[配列番号53]およびoSS107 06_CpXI_V162Aas[配列番号54])を用いたInverse PCR法によって作製した。反応液の組成は、添付のプロトコルに則って以下のとおり調製した。PCRグレード脱イオン水 13.4 μL、10×PCR Buffer for KOD -Plus- Neo 2 μL、2 mM dNTP Mix 2 μL、25 mM MgSO4 1.2 μL、10 μM プライマーセット 0.6 μL、1 ng/μL 鋳型DNA 0.4 μL、および 1 U/μL KOD -Plus- Neo DNA Polymerase 0.4 μLで構成され、反応サイクルを、プレ変性 94℃2分の後、変性 98℃ 10秒、アニーリング 58℃ 30秒、伸長反応 68℃ 5分を10サイクル、最終伸長反応 68℃5分で行った。得られたPCR産物にDpnI 1.2 μLを加え、37℃で2時間処理した。得られた直鎖状ベクター断片の平滑末端ライゲーションを行った。ライゲーション反応は、T4 DNA Ligase(タカラバイオ株式会社)を用いて行い、反応液の組成は、添付のプロトコルに則って以下のとおり調製した。Distilled water 14 μL、10 ×Ligation Buffer 2 μL、T4 DNA ligase 1 μL、T4 Polynucleotide Kinase 1 μL、直鎖状DNA 2 μLで構成され、室温で1時間反応させた。本反応液を用いて、大腸菌DH5αの形質転換を行い、アンピシリン添加LB平板培地にて一晩培養を行った。得られた形質転換体から複数選別し、それぞれアンピシリン添加LB培地によって一晩培養後、プラスミドを抽出し、塩基配列解析によって目的の変異を有したプラスミド(表3:プラスミド番号31)を得た。CpXI-N303T発現プラスミドについても、プライマーセット(oSS108 06_CpXI_N303T[配列番号55]およびoSS109 06_CpXI_N303Tas[配列番号56])を用いて、同様に構築を行い、目的の変異を有したプラスミド(表3:プラスミド番号32)を得た。
【0061】
作製した変異型CpXI-V162A遺伝子発現プラスミド(表3:プラスミド番号31)およびCpXI-N303T遺伝子発現プラスミド(表3:プラスミド番号32)を、BsiWIによって切断し、SS29株を形質転換した。得られた株をそれぞれ、SS104株(表4:株番号29)およびSS105株(表4:株番号30)とした。前述と同一条件にて、疑似糖化液(YPD85X35培地)を用いた微好気条件での発酵試験を行い、培養開始後、24時間後の両株の細胞内におけるキシロース異性化酵素の活性測定を行った。
その結果、両変異型CpXIはそれぞれ、29.5 mMおよび19.1 mMと野生型CpXIよりも低いKm値を示したが、CpXI(N303T)のVmax値は、0.03 μmol/mg protein/minと野生型CpXI(0.66 μmol/mg protein/min)よりも低い値であった(表8)。
さらに、本発酵試験の結果、CpXI-V162Aを発現させたSS104株は、野生型CpXIを発現させたSS81株と比較して高いキシロース代謝能を示したが、CpXI-N303Tを発現させたSS105株はSS81株よりもキシロース代謝能が低下した(図5および表9)。以上の結果から、V162A変異は、CpXIのキシロース代謝能の向上に有効であることが確認された。
【0062】
以下に、(表9)として、「CpXI遺伝子導入株の微好気条件下での擬似糖化液を用いた発酵試験結果」を示す。
なお、表中、発現ベクターのみ導入した株(SS36)、野生型CpXI遺伝子ゲノム導入株(SS81)、および変異型CpXI遺伝子ゲノム導入株(SS82、SS92、SS120)の疑似糖化液(YPD85X35)を用いた微好気条件下での発酵試験結果である。本表では、発酵試験開始後、72時間後の培養上清中のグルコース、キシロース、キシリトール、グリセロール、酢酸、エタノール含量を示した。また、投入した糖(グルコースおよびキシロース)から得られるエタノール量に対する、生成エタノールの収率(%理論収率)を示した。データは3回の実験の平均値およびその標準偏差である。また、n.d.は、HPLCによる定量において検出限界以下であることを示す。
【0063】
【表9】
【0064】
(実施例16)CpXI二重変異体の作製とその評価
(16−1)CpXI二重変異体の作製
CpXIのキシロース代謝能の向上に有効であることが示された2種類の変異について、両変異を導入した変異型CpXI(T63I, V162A)を部位特異的変異導入方法によって作製した。具体的な作製方法は以下のとおりである。
変異型CpXIpAUR-kanMX6-HSP12p-CpXI(T63I)-CYC1t-PGK1p-XKS1-CYC1t(表3:プラスミド番号20)を鋳型として、プライマーセット(表2:oSS106 06_CpXI_V162A[配列番号53]およびoSS107 06_CpXI_V162Aas[配列番号54])を用いたInverse PCR法によって作製した。反応液の組成は、添付のプロトコルに則って以下のとおり調製した。PCRグレード脱イオン水 13.4 μL、10×PCR Buffer for KOD -Plus- Neo 2 μL、2 mM dNTP Mix 2 μL、25 mM MgSO4 1.2μL、10 μM プライマーセット 0.6μL、1 ng/μL 鋳型DNA 0.4 μL、および 1 U/μL KOD -Plus- Neo DNA Polymerase 0.4 μLで構成され、反応サイクルを、プレ変性 94℃ 2分の後、変性 98℃ 10秒、アニーリング 58℃ 30秒、伸長反応 68℃ 5分を10サイクル、最終伸長反応 68℃ 5分で行った。得られたPCR産物にDpnI 1.2 μLを加え、37℃で2時間処理した。得られた直鎖状ベクター断片は、T4 DNA Ligase(タカラバイオ株式会社)を用いて、平滑末端ライゲーション反応を行った。反応液の組成は、添付のプロトコルに則って以下のとおり調製した。Distilled water 14 μL、10 × Ligation Buffer 2 μL、T4 DNA ligase 1 μL、T4 Polynucleotide Kinase 1 μL、直鎖状DNA 2 μLで構成され、室温で1時間反応させた。本反応液を用いて、大腸菌DH5αの形質転換を行い、アンピシリン添加LB平板培地にて一晩培養を行った。得られた形質転換体から複数選別し、それぞれアンピシリン添加LB培地によって一晩培養後、プラスミドを抽出し、塩基配列解析によって目的の変異を有したプラスミド(表3:プラスミド番号33)を得た。
作製したCpXI(T63I, V162A)遺伝子発現プラスミド(表3:プラスミド番号33)をBsiWIによって切断し、SS29株を形質転換した。得られた二重変異型CpXI遺伝子導入株をSS120株とした(表4:株番号31)。
【0065】
(16−2)CpXI二重変異株の評価
当該SS120株に対して前述と同一条件における微好気条件での発酵試験を行い、同様に発酵試験開始後、24時間後のSS120株細胞中のキシロース異性化酵素の活性測定を行った。その結果、本変異型CpXI(T63I, V162A)遺伝子を含むSS120株は、SS82株およびSS92株と比較して、Km値については34.4 mMと僅かに高くなったが、Vmax値が0.104μmol/mg protein/minと大きく改善された(表8)。また、微好気条件での発酵試験の結果も、他の構築株と比較して、SS120株は最も高いキシロース代謝能、エタノール生産量およびエタノール収率を示した(図6および表9)。さらに、SS120株を用いて、前述の擬似糖化液(YPD85X35培地)を用いた微好気条件での発酵試験において、より低濃度の初期植菌量OD600=3、より高温条件の培養温度38℃に変更した発酵試験を行った結果、120時間以内に、疑似糖化液(YPD85X35)中のグルコースおよびキシロースの大部分を消費し、約53.3g/Lのエタノールを産生した。エタノール変換効率は、投入糖に対しては約87%、消費糖に対して約92%であり、低植菌量かつ高温条件下での発酵においても、SS120株は高いキシロース代謝能、エタノール生産量を示した。
【0066】
以上の結果から、CpXIにおいてキシロース代謝能の向上に寄与している変異は、T63IおよびV162Aのアミノ酸置換であり、特にその2か所の変異(T63IおよびV162A)を同時に付与した二重変異型CpXI遺伝子は、宿主酵母株に対して高いキシロース代謝能およびエタノール生産能を付与できることが実証された。
【0067】
(16−3)ラボスケールでの評価
さらに、(16−1)で得られた二重変異型CpXI遺伝子導入株のSS120株に対して、ラボスケールでの評価を行うため、NaOH処理バガスを用いて同時糖化発酵実験(SSF)を行った。
その結果、ラボスケールでのSSF実験においても、推定糖化率約85%、120g/L 糖生産条件において、72h以内に約53g/Lのエタノールを生産することができ、推定変換効率は約91%という高いエタノール生産能を示した。
【0068】
(実施例17)飽和変異ライブラリーの作製とその評価
前述において同定した2種類の変異(T63IおよびV162A)において、他のアミノ酸残基へ置換した変異型CpXIにおけるキシロース代謝能を評価するため、両変異部位における飽和変異ライブラリーを作製した。作製方法は以下のとおり。XKS1発現ユニットを含み、HSP12プロモーター、マルチクローニングサイト、CYC1ターミネーターからなる発現ユニットを含む発現ベクター pAUR101r2-XKS1-HSP12p2(図8)をSmaIおよびXhoIで切断したベクター断片および、CpXIにおける63番目のアミノ酸残基(スレオニン)、もしくは162番目のアミノ酸残基(バリン)において、野生型アミノ酸残基とは異なる18種類のアミノ酸残基(システインを除く)に置換した変異型CpXI遺伝子断片をライゲーション反応によって、ベクター断片に導入した飽和変異ライブラリーを、それぞれの変異箇所について作製した(ジェンスクリプトジャパン株式会社)。
両飽和変異ライブラリーを用いて、大腸菌DH5αの形質転換を行い、アンピシリン添加LB平板培地にて一晩培養を行った。得られた形質転換体から複数コロニーを選別し、アンピシリン添加LB培地にて一晩培養後、プラスミドを抽出した。塩基配列解析によって、得られたプラスミドの変異箇所の塩基配列を決定し、63番目のスレオニン、もしくは162番目のバリンにおいて、野生型のアミノ酸残基を含み他のアミノ酸残基(システインを除く)に置換された19種類の発現プラスミドをそれぞれ取得した。
得られた発現プラスミドをBsiWI(ニューイングランドバイオラボ社)によって切断し、各DNA断片を用いて、SS29株を形質転換し、オーレオバシジンA添加YPD平板培地にて、30℃、3日間培養を行うことで形質転換体を取得した。
得られた形質転換体のキシロース代謝能の評価のため、キシロースを炭素源としたYPX50培地における好気条件下での生育試験を行った。オーレオバシジンA添加YPD培地において、各形質転換体を30℃, 定常期まで前培養を行った後、YPX50培地を100 uLずつ分注したマイクロプレート(透明、平底、コーニング社)に、各ウェルにOD600 = 0.1となるように前培養液を植菌した。マイクロプレートリーダー(Infinite(R) 200 PRO、テカン社)を用いて、本マイクロプレートの30℃、96時間の培養および経時的な吸光度測定(OD600)を行い、各形質転換体の生育曲線を得た。本生育試験の結果、T63I変異を有する変異型CpXIと同等もしくはそれ以上のxylose資化能を宿主酵母株に付与可能なアミノ酸置換は、リジン(T63L)、グリシン(T63G)、ヒスチジン(T63H)へのアミノ酸置換であった(図9:T63L、T63G、T63Hへのアミノ酸置換を有する変異型CpXIの塩基配列は、それぞれ配列番号63−65に相当する)。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明により、キシロースからの高効率なエタノール生産が可能な酵母株を構築することが可能となり、バイオマスを原料とした第二世代バイオエタノール生産の高効率化に寄与できることが見込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
【配列表】
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【手続補正書】
【提出日】2018年9月25日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0014
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0014】
すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
[1] Clostridium phytofermentans 由来キシロース異性化酵素(CpXI)のアミノ酸配列において、配列番号11における第63番目のスレオニン及び第162番目のバリンに対応する少なくとも1つのアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を含む変異型キシロース異性化酵素(変異型CpXI)であって、野生型キシロース異性化酵素(CpXI)と比較して高いキシロース代謝活性を有する変異型CpXI。
[2] 前記配列番号11における第63番目のスレオニンの他のアミノ酸への置換がイソロイシン、ロイシン、グリシン、または、ヒスチジンへの置換であり、第162番目のバリンの他のアミノ酸への置換がアラニンへの置換である、前記[1]に記載の変異型CpXI。
[3] 配列番号11に示されるキシロース異性化酵素のアミノ酸配列において、第63番目のスレオニンがイソロイシン、ロイシン、グリシン、または、ヒスチジンに置換され、及び/又は第162番目のバリンがアラニンに置換されている、前記[2]に記載の変異型CpXI。
特に、配列番号11中の第63番目のスレオニンがイソロイシンに置換され、かつ第162番目のバリンがアラニンに置換されているアミノ酸配列を含む変異型CpXIが好ましい。
[4] Clostridium phytofermentans 由来キシロース異性化酵素(CpXI)遺伝子の塩基配列において、コードするアミノ酸配列における配列番号11中の第63番目のスレオニン及び第162番目のバリンに対応するコドンの少なくとも1つのコドンが他のアミノ酸に対応するコドンに置換された塩基配列を含む変異型キシロース異性化酵素遺伝子(変異型CpXI遺伝子)であって、Saccharomyces cerevisiae 宿主に対して、野生型CpXI遺伝子と比較して高いキシロース代謝能及び高いエタノール生産能を付与する変異型CpXI遺伝子。
[5] 配列番号12に示されるキシロース異性化酵素遺伝子(CpXI遺伝子)の塩基配列において、コードするアミノ酸配列中の第63番目のスレオニンがイソロイシン、ロイシン、グリシン、または、ヒスチジンに置換され、及び/又は第162番目のバリンがアラニンに置換される変異に対応するコドン変異を有する塩基配列を含む、前記[4]に記載の変異型CpXI遺伝子。
特に、配列番号12において、コードするアミノ酸配列中の第63番目のスレオニンがイソロイシンに置換され、かつ第162番目のバリンがアラニンに置換される変異に対応するコドン変異を有する塩基配列を含む変異型CpXI遺伝子が好ましい。
[6]
前記[4]又は[5]に記載の変異型CpXI遺伝子により形質転換された酵母であって、親酵母と比較して高いキシロース代謝能を有する形質転換酵母。
[7] 前記酵母が、サッカロマイセス属(Saccharomyces)、クルイベロマイセス属(Kluyveromyces)、カンジダ属(Candida)、ピキア属(Pichia)、シゾサッカロマイセス属(Schizosaccharomyces)、及びハンセヌラ属(Hansenula)からなる群から選択される酵母である、前記[6]に記載の形質転換酵母。
[8] 前記酵母がサッカロマイセス属(Saccharomyces)酵母である、前記[6]に記載の形質転換酵母。
[9] キシロース存在下において、前記[6]〜[8]のいずれかに記載の形質転換酵母を用いたエタノール生産方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0068
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0068】
(実施例17)飽和変異ライブラリーの作製とその評価
前述において同定した2種類の変異(T63IおよびV162A)において、他のアミノ酸残基へ置換した変異型CpXIにおけるキシロース代謝能を評価するため、両変異部位における飽和変異ライブラリーを作製した。作製方法は以下のとおり。XKS1発現ユニットを含み、HSP12プロモーター、マルチクローニングサイト、CYC1ターミネーターからなる発現ユニットを含む発現ベクター pAUR101r2-XKS1-HSP12p2(図8)をSmaIおよびXhoIで切断したベクター断片および、CpXIにおける63番目のアミノ酸残基(スレオニン)、もしくは162番目のアミノ酸残基(バリン)において、野生型アミノ酸残基とは異なる18種類のアミノ酸残基(システインを除く)に置換した変異型CpXI遺伝子断片をライゲーション反応によって、ベクター断片に導入した飽和変異ライブラリーを、それぞれの変異箇所について作製した(ジェンスクリプトジャパン株式会社)。
両飽和変異ライブラリーを用いて、大腸菌DH5αの形質転換を行い、アンピシリン添加LB平板培地にて一晩培養を行った。得られた形質転換体から複数コロニーを選別し、アンピシリン添加LB培地にて一晩培養後、プラスミドを抽出した。塩基配列解析によって、得られたプラスミドの変異箇所の塩基配列を決定し、63番目のスレオニン、もしくは162番目のバリンにおいて、野生型のアミノ酸残基を含み他のアミノ酸残基(システインを除く)に置換された19種類の発現プラスミドをそれぞれ取得した。
得られた発現プラスミドをBsiWI(ニューイングランドバイオラボ社)によって切断し、各DNA断片を用いて、SS29株を形質転換し、オーレオバシジンA添加YPD平板培地にて、30℃、3日間培養を行うことで形質転換体を取得した。
得られた形質転換体のキシロース代謝能の評価のため、キシロースを炭素源としたYPX50培地における好気条件下での生育試験を行った。オーレオバシジンA添加YPD培地において、各形質転換体を30℃, 定常期まで前培養を行った後、YPX50培地を100 uLずつ分注したマイクロプレート(透明、平底、コーニング社)に、各ウェルにOD600 = 0.1となるように前培養液を植菌した。マイクロプレートリーダー(Infinite(R) 200 PRO、テカン社)を用いて、本マイクロプレートの30℃、96時間の培養および経時的な吸光度測定(OD600)を行い、各形質転換体の生育曲線を得た。本生育試験の結果、T63I変異を有する変異型CpXIと同等もしくはそれ以上のxylose資化能を宿主酵母株に付与可能なアミノ酸置換は、ロイシン(T63L)、グリシン(T63G)、ヒスチジン(T63H)へのアミノ酸置換であった(図9:T63L、T63G、T63Hへのアミノ酸置換を有する変異型CpXIの塩基配列は、それぞれ配列番号63−65に相当する)。
【手続補正3】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
野生型キシロース異性化酵素(CpXI)と比較して高いキシロース代謝活性を有する変異型CpXIであって、
(a1)配列番号11における第63番目のスレオニン及び第162番目のバリンに対応する少なくとも1つのアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列から成るタンパク質;
(a2)上記(a1)のタンパク質のアミノ酸配列において、上記第63番目及び第162番目以外の位置で、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列から成り、かつ(a1)のタンパク質と機能的に同等であるタンパク質;あるいは
(a3)上記(a1)のタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有し、配列番号11に示されるアミノ酸配列の第63番目のスレオニン及び第162番目のバリンに対応する少なくとも1つのアミノ酸が他のアミノ酸に置換されており、かつ(a1)のタンパク質と機能的に同等であるタンパク質、
を含む変異型CpXI。
【請求項2】
前記配列番号11における第63番目のスレオニンの他のアミノ酸への置換がイソロイシン、ロイシン、グリシン、または、ヒスチジンへの置換であり、第162番目のバリンの他のアミノ酸への置換がアラニンへの置換である、請求項1に記載の変異型CpXI。
【請求項3】
配列番号11に示されるキシロース異性化酵素のアミノ酸配列において、第63番目のスレオニンがイソロイシン、ロイシン、グリシン、または、ヒスチジンに置換され、かつ、第162番目のバリンがアラニンに置換されている、請求項2に記載の変異型CpXI。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の変異型CpXIをコードする変異型CpXI遺伝子。
【請求項5】
請求項4に記載の変異型CpXI遺伝子であって、
(b1)配列番号12に示される塩基配列において、コードするアミノ酸配列中の第63番目のスレオニンがイソロイシン、ロイシン、グリシン、または、ヒスチジンに置換され、及び/又は第162番目のバリンがアラニンに置換される変異に対応するコドン変異を有する塩基配列;あるいは
(b2)上記(b1)の塩基配列と相補的な塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列、
を含む、変異型CpXI遺伝子。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の変異型CpXI遺伝子により形質転換された酵母であって、親酵母と比較して高いキシロース代謝能を有する形質転換酵母。
【請求項7】
前記酵母が、サッカロマイセス属(Saccharomyces)、クルイベロマイセス属(Kluyveromyces)、カンジダ属(Candida)、ピキア属(Pichia)、シゾサッカロマイセス属(Schizosaccharomyces)、及びハンセヌラ属(Hansenula)からなる群から選択される酵母である、請求項6に記載の形質転換酵母。
【請求項8】
前記酵母がサッカロマイセス属(Saccharomyces)酵母である、請求項6に記載の形質転換酵母。
【請求項9】
キシロース存在下において、請求項6〜8のいずれか1項に記載の形質転換酵母を用いたエタノール生産方法。
【国際調査報告】