(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA
上記目的を達成するために、本発明は、水および水溶性有機溶剤を含む水性溶剤と、着色剤と、樹脂エマルジョンと、界面活性剤と、を有し、上記樹脂エマルジョンは、シリコンアクリル系樹脂エマルジョンおよび上記シリコンアクリル系樹脂エマルジョン以外の樹脂エマルジョンを含むものであり、上記樹脂エマルジョンの上記着色剤に対する含有量比率(上記樹脂エマルジョンの含有量/上記着色剤の含有量)が、1/5以上15/1以下であり、上記シリコンアクリル系樹脂エマルジョンの上記着色剤に対する含有量比率(上記シリコンアクリル系樹脂エマルジョンの含有量/上記着色剤の含有量)が、1/20以上5/1以下であることを特徴とするインクジェット記録用インク組成物を提供することにより、上記目的を達成する。
前記シリコンアクリル系樹脂エマルジョンの前記シリコンアクリル系樹脂エマルジョン以外の樹脂エマルジョンに対する含有量比率(前記シリコンアクリル系樹脂エマルジョンの含有量/前記シリコンアクリル系樹脂エマルジョン以外の樹脂エマルジョンの含有量)が、1/50以上1/2以下であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録用インク組成物。
沸点が240℃以上の水溶性有機溶剤の前記インク組成物中の含有量が、5質量%未満であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載のインクジェット記録用インク組成物。
前記シリコンアクリル系樹脂エマルジョン以外の樹脂エマルジョンが、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ウレタンアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アクリルポリエステル樹脂、スチレンアクリル樹脂、 アクリル塩化ビニル樹脂の少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載のインクジェット記録用インク組成物。
請求項1から請求項6までのいずれかの請求項に記載のインクジェット記録用インク組成物をインクジェット法により吐出する印刷工程を有することを特徴とする印刷物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、インクジェット記録用インク組成物、ならびにこれを用いたインクジェット記録用インクセット、インクカートリッジおよび印刷物の製造方法に関するものである。
以下、本発明のインクジェット記録用インク組成物、インクジェット記録用インクセット、インクカートリッジおよび印刷物の製造方法について説明する。
【0019】
A.インクジェット記録用インク組成物
まず、本発明のインクジェット記録用インク組成物について説明する。
本発明のインクジェット記録用インク組成物は、水および水溶性有機溶剤を含む水性溶剤と、着色剤と、樹脂エマルジョンと、界面活性剤と、を有し、上記樹脂エマルジョンは、シリコンアクリル系樹脂エマルジョンおよび上記シリコンアクリル系樹脂エマルジョン以外の樹脂エマルジョンを含むものであり、上記樹脂エマルジョンの上記着色剤に対する含有量比率(上記樹脂エマルジョンの含有量/上記着色剤の含有量)が、1/5以上15/1以下であり、上記シリコンアクリル系樹脂エマルジョンの上記着色剤に対する含有量比率(上記シリコンアクリル系樹脂エマルジョンの含有量/上記着色剤の含有量)が、1/20以上5/1以下であることを特徴とするものである。
【0020】
ここで、従来使用されてきた樹脂エマルジョンとして、シリコンアクリル系樹脂エマルジョン以外の樹脂エマルジョンだけで良好な耐傷性を得るためには、多量の添加が必要になりインクジェット吐出が困難になる場合があるといった不具合がある。
一方、樹脂エマルジョンとしてシリコンアクリル樹脂エマルジョンのみを使用した場合には、耐傷性は良好になっても、密着性、耐溶剤性、耐擦過性、耐水性等の膜強度が不十分になる場合があるといった不具合がある。
これに対して、本発明によれば、樹脂エマルジョンとして、シリコンアクリル系樹脂エマルジョンおよび第2樹脂エマルジョンの両者を含み、さらにそれらの含有量を上記所定の範囲内とすることにより、インクジェット吐出性を確保し、耐傷性と、密着性、耐溶剤性、耐擦過性、耐水性等の膜強度との両立が可能となる。
ここで、樹脂エマルジョンとして、シリコンアクリル系樹脂エマルジョンおよび第2樹脂エマルジョンの両者の含有量を所定の範囲内とすることにより、膜強度および耐傷性の両者に優れたインク膜を形成可能となる理由については明確ではないが以下のように推察される。
すなわち、本実施形態のインクジェット記録用インク組成物において、樹脂エマルジョンとは、連続相が水性溶剤であり、樹脂エマルジョンに含まれる樹脂等が微粒子として水性溶剤中に分散しているものである。樹脂エマルジョンを形成することによって、樹脂は、静電反発力や立体反発力によってインクジェット記録用インク組成物中に分散することができる。上記樹脂エマルジョンは、一般に連続相である水性溶剤が蒸発や浸透等により減少すると、増粘・凝集する性質を持ち、着色剤の記録媒体への定着を促進する効果を有する。これによって、上記のような膜強度に優れたインク膜となると考えられる。また、樹脂がエマルジョンとしてインク組成物中に含有されることにより、インクジェット吐出性が良好なものとすることができる。
【0021】
また、シリコンアクリル系樹脂エマルジョン以外の第2樹脂エマルジョンを含むことで、上記インク組成物は、吸収性基材だけでなく非吸収性基材に対する密着性、耐溶剤性、耐擦過性、耐水性等の膜強度に優れたインク膜を形成可能となる。
また、シリコンアクリル系樹脂エマルジョンに含まれるシリコンアクリル系樹脂は、ポリシロキサン構造を含み、表面自由エネルギーが低いため、インク組成物をインクジェット吐出してインク組成物膜を形成した際には、インク組成物膜表面に集まり易い傾向がある。このため、シリコンアクリル系樹脂エマルジョンを含むことにより、上記インク組成物は、インク組成物膜が水性溶剤が乾燥除去された後に、表面にシリコンアクリル系樹脂の含有量の高いインク膜を形成することが可能となる。そして、このようなインク膜には、表面に対して摺動性が付与されると推察される。したがって、例えば、印刷物を使用する使用者の爪等がインク膜に触れた場合でも、爪等がインク膜に引っかかることを抑制でき、耐傷性に優れたものとなる。また、シリコンアクリル系樹脂として、エマルジョン状態となるものを使用することで、摺動性を安定的に発揮可能なインク膜を形成できる。
さらに、シリコンアクリル系樹脂エマルジョンに含まれるシリコンアクリル系樹脂は、ポリ(メタ)アクリル酸エステル等の(メタ)アクリル樹脂モノマーからなる構造を含むものであることにより、上記第2樹脂エマルジョンに含まれるシリコンアクリル系樹脂以外の樹脂(以下、第2樹脂と称する場合がある。)との相溶性に優れたものとなる。このため、インク組成物は、摺動性に優れ、耐傷性と、密着性、耐溶剤性、耐擦過性、耐水性等の膜強度に優れたインク膜を形成可能となる。
また、このようなことから、同一分子内に(メタ)アクリル樹脂モノマーからなる構造を含有する構造と、ポリシロキサン構造と、の両者を含まない樹脂エマルジョンを用いた場合、例えば、シリコン系樹脂エマルジョンのみ、またはシリコン系樹脂エマルジョンおよびアクリル系樹脂エマルジョンの混合物を用いた場合と比較して、シリコンアクリル系樹脂エマルジョンは、摺動性の持続性に優れたもの、すなわち、耐傷性の持続性に優れたインク膜を形成可能となる。
さらにまた、第2樹脂エマルジョンおよびシリコンアクリル系樹脂エマルジョンの含有量が上述の比率であることにより、上記インク組成物は、インク膜の内部側に第2樹脂の含有割合が高い領域を有し、インク膜の表面側に上述のようなシリコンアクリル系樹脂の含有割合が高い領域を有し、かつ膜強度および耐傷性が良好なインク膜を安定的に形成できる。
このようなことから、樹脂エマルジョンとして、シリコンアクリル系樹脂エマルジョンおよび第2樹脂エマルジョンの両者を含むものとし、さらに両者の含有量を上記所定の範囲内とすることにより、上記インク組成物は、膜強度および耐傷性の両者に優れたインク膜を得ることが可能となるのである。
【0022】
本発明のインクジェット記録用インク組成物は、水性溶剤、着色剤、樹脂エマルジョン、界面活性剤を含むものである。
以下、本発明のインクジェット記録用インク組成物の各成分について詳細に説明する。
【0023】
1.樹脂エマルジョン
上記樹脂エマルジョンは、シリコンアクリル系樹脂エマルジョンおよび上記シリコンアクリル系樹脂エマルジョン以外の樹脂エマルジョンを含むものである。
上記樹脂エマルジョンの上記着色剤に対する含有量比率(上記樹脂エマルジョンの含有量/上記着色剤の含有量)は、1/5以上15/1以下である。
また、上記シリコンアクリル系樹脂エマルジョンの上記着色剤に対する含有量比率(上記シリコンアクリル系樹脂エマルジョンの含有量/上記着色剤の含有量)は、1/20以上5/1以下である。
【0024】
上記樹脂エマルジョンの上記着色剤に対する含有量比率(上記樹脂エマルジョンの含有量/上記着色剤の含有量)については、その下限が1/5以上であればよいが、1/3以上が好ましく、1/2以上がより好ましく、1/1以上が特に好ましい。
また、上記比率の上限については、15/1以下であればよいが、12/1以下がより好ましく、10/1以下が特に好ましい。
上記比率の上限および下限が上述の範囲であることにより、上記インク組成物は、膜強度および耐傷性の両者に優れたインク膜を得ることが可能となるからである。
なお、以下、樹脂エマルジョンおよび着色剤の含有量の比率、樹脂エマルジョン同士の含有量の比率は、質量比率を示すものである。
また、樹脂エマルジョンの含有量とは、樹脂エマルジョンの固形分をいうものであり、樹脂エマルジョンとして樹脂のみを含む場合には、樹脂の含有量を指すものであり、樹脂エマルジョンが例えば樹脂と乳化剤等の他の成分を含むものである場合には、樹脂と他の成分との合計の固形分の含有量を指すものである。
【0025】
上記シリコンアクリル系樹脂エマルジョンの上記着色剤に対する含有量比率(上記シリコンアクリル系樹脂エマルジョンの含有量/上記着色剤の含有量)については、その下限が1/20以上であればよいが、1/10以上がより好ましく、1/8以上がさらに好ましい。
また、上記比率の上限は、5/1以下であればよいが、3/1以下がより好ましく、2/1以下がさらに好ましい。
上記比率の上限および下限が上述の範囲であることにより、上記インク組成物は、膜強度および耐傷性の両者に優れたインク膜を得ることが可能となるからである。
【0026】
上記シリコンアクリル系樹脂エマルジョンの上記第2樹脂エマルジョンに対する含有量比率(シリコンアクリル系樹脂エマルジョンの含有量/第2樹脂エマルジョンの含有量)としては、膜強度および耐傷性の両者に優れたインク膜を得ることが可能なものであればよく、例えば、その下限は、1/50以上とすることができ、なかでも、1/40以上がより好ましく、1/20以上がさらに好ましい。
また、上記比率の上限は、1/1以下とすることができ、なかでも、1/2以下がさらに好ましい。
上記比率の上限および下限が上述の範囲であることにより、上記インク組成物は、インク膜の内部側に第2樹脂の含有割合が高い領域を有し、インク膜の表面側に上述のようなシリコンアクリル系樹脂の含有割合が高い領域を有するインク膜を安定的に形成できるからである。
【0027】
(1)シリコンアクリル系樹脂エマルジョン
上記シリコンアクリル系樹脂エマルジョンは、シリコンアクリル系樹脂を含むものであり、さらに本発明のインク組成物中にエマルジョン状態で含まれるものである。
ここで、エマルジョン状態であるとは、上記樹脂エマルジョンに含まれる樹脂等が微粒子としてインク組成物中に分散している状態を示すものである。
また、エマルジョン状態の樹脂は、一般的に連続相である水性溶剤が蒸発や浸透等により減少すると、増粘・凝集する性質を持ち、着色剤の記録媒体への定着を促進することができるものである。
【0028】
上記シリコンアクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸エステルの繰り返し単位(アクリル系構成単位)と、下記一般式(1)で表わされるシロキサンの繰り返し単位(シロキサン系構成単位)と、を構造中に有する共重合体であればよい。
このようなシリコンアクリル系樹脂としては、例えば、アクリル系構成単位を主成分として含むアクリル系樹脂と、ポリシロキサン構造を主骨格として有するポリシロキサン系樹脂と、の両者を含むものとすることができる。
なお、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」および「メタクリル」の両者を意味するものである。
より具体的には、シリコンアクリル系樹脂としては、アクリル系樹脂およびポリシロキサン系樹脂の間が共有結合により結合されたものとすることができ、例えば、アクリル系樹脂およびポリシロキサン系樹脂の端部同士が結合したシリコンアクリル系ブロック共重合体、ポリシロキサン系樹脂を主骨格としてアクリル系樹脂が側鎖に結合したシリコンアクリル系グラフト共重合体、アクリル系樹脂を主骨格としてポリシロキサン系樹脂が側鎖に結合したアクリルシリコン系グラフト共重合体、およびこれらの共重合体同士をさらに結合したもの等を挙げることができる。上記シリコンアクリル系樹脂が、上述の共重合体であることにより、上記インク組成物は、膜強度および耐傷性の両者に優れたインク膜を得ることが可能となるからである。
なお、上記シリコンアクリル系樹脂については、1種類のみ含むものであってもよく、2種類以上を混合して含むものであってもよい。
【0030】
(式(1)中、R
1およびR
2は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基であり、複数あるR
1およびR
2は互いに同一であっても異なっていてもよい。また、pは2以上の整数である。)
【0031】
アクリル系樹脂は、アクリル系構成単位を主成分として含むものである。
ここで、主成分として含まれるとは、シリコンアクリル系樹脂に第2樹脂との相溶性を付与できる含有量で含まれることをいうものであり、より具体的には、アクリル系構成単位の含有量が、アクリル系樹脂中に50質量%以上であるものとすることができる。本発明においては、アクリル系樹脂中のアクリル系構成単位の含有量が、75質量%以上であることがより好ましい。上記含有量が上述の範囲であることにより、上記インク組成物は、膜強度および耐傷性の両者に優れたインク膜を得ることが可能となるからである。
【0032】
上記アクリル系構成単位としては、所望の耐傷性および膜強度を有するインク膜を形成可能なものであればよいが、酸基および水酸基を有さない(メタ)アクリル酸エステルモノマーに由来する構成単位を主成分として含むものであることが好ましい。上記インク組成物は、膜強度および耐傷性の両者に優れたインク膜を得ることが可能となるからである。
ここで、主成分として含むとは、インク膜に膜強度および耐傷性の両者を付与できる含有量で含まれることをいうものであり、より具体的には、全てのアクリル系構成単位中の酸基および水酸基を有さない(メタ)アクリル酸エステルモノマーに由来する構成単位の含有量が、70質量%以上であるものとすることができ、80質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることがさらに好ましい。上記含有量が上述の範囲であることにより、上記インク組成物は、膜強度および耐傷性の両者に優れたインク膜を得ることが可能となるからである。
なお、上記含有量の上限については、所望の耐傷性および膜強度を有するインク膜を形成可能な範囲内で適宜設定することができ、100質量%、すなわち、上記アクリル系構成単位が酸基および水酸基を有さない(メタ)アクリル酸エステルモノマーに由来する構成単位のみを含むものであってもよいが、例えば、99.9質量%以下とすることができる。
【0033】
上記酸基および水酸基を有さない(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、例えば、特開2014−189777号公報に記載の酸基および水酸基を有さない(メタ)アクリル酸エステルモノマーを用いることができる。
本発明においては、なかでも、上記酸基および水酸基を有さない(メタ)アクリル酸エステルモノマーが、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート等であることが好ましい。上記酸基および水酸基を有さない(メタ)アクリル酸エステルモノマーが上述の(メタ)アクリル酸エステルモノマーであることにより、上記インク組成物は、膜強度および耐傷性の両者に優れたインク膜を得ることが可能となるからである。
【0034】
上記アクリル系構成単位は、上記酸基および水酸基を有さない(メタ)アクリル酸エステルモノマーに由来する構成単位以外にその他のアクリル系構成単位を含むことができる。
このようなその他のアクリル系構成単位を構成するモノマーとしては、上記酸基および水酸基を有さない(メタ)アクリル酸エステルモノマーと重合可能な重合性モノマーであればよく、例えば、特開2014−189777号公報に記載のアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のエチレン性不飽和二重結合およびカルボキシル基を有するカルボキシル基含有モノマー等の酸基含有モノマーや、(メタ)アクリル酸アミド類等のようなアミド基含有モノマー、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基を有する水酸基含有モノマー等を挙げることができる。
また、上記アクリル系樹脂は、上記アクリル系構成単位以外のその他の構成単位を含むことができる。このようなその他の構成単位を構成可能なモノマーとしては、特開2014−189777号公報に記載の酢酸ビニル、スチレン等のその他のモノマーを挙げることができる。
【0035】
上記ポリシロキサン系樹脂は、ポリシロキサン構造を主骨格として有するものである。
このようなポリシロキサン構造を構成する構成単位(シロキサン構成単位)としては、例えば、上記式(1)に示される構成単位を主成分として含むものであることが好ましい。ポリシロキサン系樹脂が上記構成単位を主成分として含むことにより、上記インク組成物は、膜強度および耐傷性の両者に優れたインク膜を得ることが可能となるからである。
【0036】
ここで、主成分として含むとは、インク膜に耐傷性を付与できる含有量で含まれることをいうものであり、例えば、上記式(1)で示される構成単位がポリシロキサン系樹脂中に50質量%以上含まれるものとすることができる。本発明においては、ポリシロキサン系樹脂中の上記式(1)で示される構成単位の含有量が、75質量%以上であることがより好ましい。上記含有量が上述の範囲であることにより、上記インク組成物は、膜強度および耐傷性の両者に優れたインク膜を得ることが可能となるからである。
なお、上記含有量の上限については、所望の耐傷性および膜強度を有するインク膜を形成可能な範囲内で適宜設定することができ、100質量%、すなわち、上記ポリシロキサン系樹脂が上記式(1)で示される構成単位のみを含むものであってもよいが、例えば、99.9質量%以下とすることができる。
【0037】
上記式(1)におけるR
1およびR
2は、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基であれば特に限定されるものではないが、なかでも炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましく、特に、メチル基であること、すなわち、ポリシロキサン系樹脂がポリジメチルシロキサンを主骨格として有するポリジメチルポリシロキサン系樹脂であることが好ましい。上記シロキサン系樹脂が上記構造であることにより、上記インク組成物は、耐傷性に優れたインク膜を形成可能となるからである。
【0038】
また、pは2以上の整数であれば特に限定されるものではなく、重量平均分子量等に応じて適宜設定されるものである。
【0039】
上記ポリシロキサン系樹脂は、シロキサン構成単位として、上記式(1)で表わされる構成単位以外の他のシロキサン構成単位を含むものであってもよい。
このような他のシロキサン構成単位としては、例えば、ラジカル重合性基を有するラジカル重合性シロキサン構成単位を含むものであってもよい。
ポリシロキサン系樹脂がラジカル重合性シロキサン構成単位を含むことにより、ラジカル重合性基を介して、アクリル系樹脂を構成する(メタ)アクリル酸エステルモノマーと重合可能となる。このため、例えば、アクリル系樹脂およびポリシロキサン系樹脂が結合したシリコンアクリル系樹脂を容易に得ることが可能となるからである。
このようなラジカル重合性シロキサン構成単位を構成可能なラジカル重合性シラン化合物としては、上記式(1)で表わされる構成単位とポリシロキサン結合により結合可能なものであればよい。
【0040】
上記シリコンアクリル系樹脂を構成するアクリル系構成単位およびシロキサン構成単位の含有比率(アクリル系構成単位/シロキサン構成単位)としては、膜強度および耐傷性の両者に優れたインク膜を形成可能なものであればよく、1/10〜10/1の範囲内が好ましい。 上記含有比率が上述の範囲内であることにより、上記インク組成物は、膜強度および耐傷性の両者に優れたインク膜を得ることが可能となるからである。
【0041】
また、上記シリコンアクリル系樹脂のケイ素(Si)元素含有量としては、所望の耐傷性を有するインク膜を形成可能なものであればよいが、例えば、その下限は、1質量%以上とすることができ、2質量%以上であること好ましく、3質量%以上であることがさらに好ましく、5質量%以上であることがさらにより好ましい。
また、上記含有量の上限は、50質量%以下とすることができ、45質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがさらにより好ましい。
上記含有量の上限および下限が上述の範囲であることにより、上記インク組成物は、膜強度および耐傷性の両者に優れたインク膜を得ることが可能となるからである。
なお、Si元素含有量の測定方法については、シリコンアクリル系樹脂中のSi元素含有量を精度良く測定できる方法であればよく、例えば、ICP(誘導結合高周波プラズマ)質量分析法や、XRF(蛍光X線分析)法等により測定することができる。
【0042】
上記シリコンアクリル系樹脂の分子量としては、所望の耐傷性を有するインク膜を形成可能なものであればよく、例えば、10000〜10000000の範囲内とすることができ、なかでも、100000〜500000の範囲内であることが好ましい。上記分子量が上述の範囲内であることにより、上記インク組成物は、膜強度および耐傷性の両者に優れたインク膜を得ることが容易となるからである。また、インク組成物中でエマルジョン状態を安定的に維持できるからである。
なお、以下、分子量は、重量平均分子量Mwを示すものであり、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定された値であり(東ソー(株)製、HLC−8120GPC)、溶出溶媒を0.01モル/リットルの臭化リチウムを添加したN−メチルピロリドンとし、校正曲線用ポリスチレンスタンダードをMw377400、210500、96000、50400、206500、10850、5460、2930、1300、580(以上、Polymer Laboratories社製 Easi PS−2シリーズ)及びMw1090000(東ソー(株)製)とし、測定カラムをTSK−GEL ALPHA−M×2本(東ソー(株)製)として測定したものである。
【0043】
上記シリコンアクリル系樹脂のガラス転移温度としては、所望の耐傷性を有するインク膜を形成可能なものであればよいが、例えば、−50℃〜150℃の範囲内とすることができ、なかでも−20℃〜120℃の範囲内であることが好ましく、特に、0℃〜110℃の範囲内であることが好ましい。上記ガラス転移温度が上述の範囲であることにより、上記インク組成物は、膜強度および耐傷性の両者に優れたインク膜を得ることが可能となるからである。
なお、以下、ガラス転移温度は、DSC法により、示差走査熱量分析計を用いて測定できる。より具体的には、ガラス転移温度は、示差走査熱熱量計(DSC)(例えば、島津製作所(株)製の示差走査熱量計「DSC−50」)により測定することができる。なお、ガラス転移温度が複数観測される場合があるが、本発明では、より吸熱量の大きい、主転移温度を採用することができる。
また、Tgは、樹脂を構成するモノマーの種類や含有量等によって調整することができる。
【0044】
上記シリコンアクリル系樹脂の形成方法としては、公知の方法を用いることができる。
上記形成方法としては、例えば、特開平9−87586号公報等に記載するように、末端に(メタ)クリロイル基、ビニル基、スチリル基、エポキシ基、アルコキシシリル基、メルカプト基等の重合性基を有するポリシロキサンマクロモノマーを、(メタ)アクリル酸エステルと共に乳化重合する方法を用いることができる。
また、上記形成方法としては、ポリシロキサン系樹脂として、重合性シロキサン構成単位を有するポリシロキサン系樹脂を形成した後、アクリル系樹脂を構成可能な(メタ)アクリル酸エステルモノマーと共に乳化重合する方法も用いることができる。
【0045】
上記シリコンアクリル系樹脂エマルジョンのインク組成物中の平均粒子径としては、シリコンアクリル系樹脂エマルジョンの分散安定性と、膜強度および耐傷性により優れたインク膜を形成可能とするとの観点から、その下限は、10nm以上とすることができ、なかでも、30nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがさらに好ましい。
また、上記平均粒子径の上限については、500nm以下とすることができ、なかでも、300nm以下であることが好ましく、250nm以下であることがさらに好ましい。
樹脂エマルジョンの平均粒子径(平均分散粒径)は、動的光散乱法によって求めることができる。動的光散乱法とは、粒子に対してレーザー光を当てたときに粒子サイズによって回折散乱光の光強度分布が異なることを利用して粒子サイズを測定する方法であり、例えば、日機装株式会社製マイクロトラック粒度分布測定装置UPAや、大塚電子製濃厚系粒径アナライザーFPAR−1000を用いて測定を行うことができる。また、測定は、測定温度25℃、積算時間3分間、測定に用いたレーザーの波長660nmの条件で行い、得られたデータを、CONTIN法で解析することで散乱強度分布を得、最も頻度の高い粒径を平均粒子径とすることができる。なお、ここでの平均粒子径は、体積平均粒径である。
【0046】
上記シリコンアクリル系樹脂エマルジョンは、シリコンアクリル系樹脂を含むものであるが、必要に応じて、その他の成分を含むものであってもよい。
このようなその他の成分としては、例えば、シリコンアクリル系樹脂を重合等する際に用いた乳化剤等を挙げることができる。
上記乳化剤としては、乳化重合に一般的に用いられるものを使用することができ、具体的には、特開2012−51357号公報等に示されるものとすることができる。
【0047】
上記シリコンアクリル系樹脂エマルジョンの市販品の例としては、CHALINE FE−502(日信化学工業(株)製シリコンアクリル共重合樹脂エマルジョン、アクリル系構成単位/シロキサン構成単位の比率:5/5、ガラス転移温度:−20〜―10℃)、CHALINE R−170BX(日信化学工業(株)製シリコンアクリル共重合樹脂エマルジョン、アクリル系構成単位/シロキサン構成単位の比率:7/3、ガラス転移温度:100℃)、アクリット KS−3705(大成ファインケミカル(株)製シリコンアクリル樹脂エマルジョン、アクリル系構成単位/シロキサン構成単位の比率:7/3)、MOWINYL LDM7523(日本合成化学工業(株)製シリコンアクリル樹脂エマルジョン、Tg55℃、酸価20mgKOH/g)、 AE980(JSR(株)製シリコンアクリル樹脂エマルジョン、ガラス転移温度:−14℃)、AE981A(JSR(株)製シリコンアクリルスチレン樹脂エマルジョン、ガラス転移温度:−15℃)、AE982(JSR(株)製シリコンアクリルスチレン樹脂エマルジョン、ガラス転移温度:0℃)、ポリゾール AP−3900(昭和電工(株)製シリコンアクリル樹脂エマルジョン)などを挙げることができるが、これに限定さるものではない。
なお、アクリル系構成単位/シロキサン構成単位の比率は、質量比を示すものである。
【0048】
(2)第2樹脂エマルジョン
上記第2樹脂エマルジョンは、シリコンアクリル系樹脂エマルジョン以外の樹脂エマルジョンである。
このような第2樹脂エマルジョンに含まれる第2樹脂としては、アクリル系構成単位およびシロキサン系構成単位の両者を構造中に含む共重合体以外の樹脂であり、所望の膜強度のインク膜を形成可能なものであれば特に限定されるものではない。
上記第2樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、スチレンアクリル樹脂、スチレン樹脂、アクリル塩化ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン樹脂、ウレタン樹脂、アクリルポリエステル樹脂、ウレタンアクリル樹脂、シリコーン(シリコン)樹脂、アクリルアミド樹脂、エポキシ樹脂、あるいはこれらの共重合樹脂や混合物を用いることができる。
本発明においては、上記第2樹脂が、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ウレタンアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アクリルポリエステル樹脂、スチレンアクリル樹脂、 アクリル塩化ビニル樹脂等であることが好ましく、なかでも、アクリル樹脂であることが好ましい。
上記第2樹脂が上述の樹脂であることにより、モノマー組成の調整、樹脂のガラス転移温度(Tg)の調整が容易であり、樹脂の造膜性や膜耐性を調整することができ、インク組成物が膜強度に優れたインク膜を形成可能となるからである。
なお、上記第2樹脂については、1種類のみを使用してもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0049】
なお、上述の第2樹脂については、インク組成物に一般的に使用されるものを用いることができる。
例えば、上記アクリル樹脂としては、(メタ)アクリル酸エステルモノマーに由来する構成単位(アクリル系構成単位)を主成分として含むものであれば特に限定されるものではなく、例えば、上記「(1)シリコンアクリル系樹脂」の項に記載のアクリル系樹脂と同様とすることができる。
【0050】
上記ウレタン樹脂は、インク組成物に使用される公知のウレタン樹脂を使用できる。
例えば、特開2016−27167号公報等に記載のポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール等の側鎖にヒロドキシ基を有するポリオールと、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどジイソシアネートと、の重合体を用いることができる。
【0051】
上記ウレタンアクリル樹脂としては、インク組成物に使用される公知のウレタンアクリル樹脂を使用できる。
例えば、上記アクリル系構成単位を主成分として含むアクリルポリオールと、ジイソシアネートと、の重合体を用いることができる。
また、上記アクリル系構成単位およびそのアクリルポリオール中の含有量については、上記「(1)シリコンアクリル系樹脂」の項に記載のアクリル系構成単位と同様とすることができる。
【0052】
上記アクリル塩化ビニル樹脂としては、(メタ)アクリル酸エステルモノマーに由来する構成単位(アクリル系構成単位)および塩化ビニルに由来する構成単位(塩化ビニル系構成単位)の両者を含むものである。
上記アクリル塩化ビニル樹脂としては、上記アクリル系構成単位および塩化ビニル系構成単位がランダムに共重合体したランダム共重合体であってもよいが、上記アクリル系構成単位を主成分とするアクリル系樹脂および塩化ビニル系構成単位を主成分とする塩化ビニル系樹脂の端部同士が結合したブロック共重合体、上記アクリル系樹脂を主骨格として塩化ビニル系樹脂が側鎖に結合したアクリル塩化ビニル系グラフト共重合体、塩化ビニル系樹脂を主骨格としてアクリル系樹脂が側鎖に結合した塩化ビニルアクリル系グラフト共重合体、およびこれらの共重合体同士を結合したもの等を好ましく用いることができる。
なお、上記アクリル系構成単位およびそのアクリル系樹脂中の含有量については、上記「(1)シリコンアクリル系樹脂」の項に記載のアクリル系樹脂と同様とすることができる。
また、塩化ビニル系樹脂に主成分として含まれる塩化ビニル系構成単位の含有量については、所望の膜強度等を達成可能なものであればよく、上記「(1)シリコンアクリル系樹脂」の項に記載のアクリル系樹脂中のアクリ系構成単位の含有量と同様とすることができる。
【0053】
上記第2樹脂の分子量としては、所望の膜強度のインク膜を形成可能なものであればよく、例えば、10000〜50000000の範囲内とすることができ、なかでも、100000〜2000000の範囲内であることが好ましい。上記分子量が上述の範囲内であることにより、上記インク組成物は、膜強度に優れたインク膜を得ることが容易となるからである。また、第2樹脂エマルジョンは、インク組成物中でエマルジョン状態を安定的に維持できるからである。
【0054】
上記第2樹脂のガラス転移温度としては、所望の膜強度のインク膜を形成可能なものであればよいが、例えば、20℃〜110℃の範囲内とすることができ、なかでも30℃〜90℃の範囲内であることが好ましく、特に、40℃〜70℃の範囲内であることが好ましい。上記ガラス転移温度が上記範囲内であることにより、上記インク組成物は乾燥性が良好で、膜強度に優れたインク膜を容易に形成できるからである。
【0055】
上記第2樹脂の酸価としては、所望の膜強度のインク膜を形成可能なものであればよいが、例えば、0mgKOH/g〜50mgKH/gの範囲内とすることができ、0.01mgKOH/g〜30mgKOH/gの範囲内であることが好ましく、なかでも0.01mgKOH/g〜25mgKOH/gの範囲内であることが好ましい。上記酸価が上記範囲内であることにより、上記インク組成物は、膜強度に優れたインク膜を容易に形成できるからである。
なお、本発明において酸価とは、試料(樹脂の固形分)1g中に含まれる酸性成分を中和するために要する水酸化カリウムの質量(mg)を示すものであり、JIS K 0070に記載の方法に準ずる方法により測定することができるものである。
また、このような酸価は、樹脂を構成するモノマーの種類や含有量等によって調整することができる。上記酸価は、例えば、第2樹脂中の(メタ)アクリル酸等の酸基含有モノマー由来の構成単位の含有量等により調整することができる。
【0056】
上記第2樹脂エマルジョンのインク組成物中の平均粒子径としては、第2樹脂エマルジョンの分散安定性等の観点から、その下限は、10nm以上とすることができ、なかでも、30nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがさらに好ましい。
また、上記平均粒子径の上限については、500nm以下とすることができ、なかでも、300nm以下であることが好ましく、250nm以下であることがさらに好ましい。
この範囲内であることで、第2樹脂エマルジョンは、インクジェット吐出性を良好なものとすることができ、且つ、インク膜の形成を良好なものとすることができる。
【0057】
上記第2樹脂エマルジョンは、第2樹脂を含むものであるが、必要に応じて、その他の成分を含むものであってもよい。
このようなその他の成分としては、例えば、上記「(1)シリコンアクリル系樹脂」の項に記載の内容と同様とすることができる。
【0058】
2.水性溶剤
上記水性溶剤は、水および水溶性有機溶剤を含むものである。
また、上記水性溶剤は、着色剤、樹脂エマルジョンおよび界面活性剤を分散または溶解するものである。
【0059】
上記水性溶剤中の水および水溶性有機溶剤の含有比率(水/水溶性有機溶剤)としては、樹脂エマルジョン等を安定的に分散可能なものであればよく、例えば、1/10〜10/1の範囲内とすることができ、なかでも、3/10〜10/3の範囲内であることが好ましい。水および水溶性有機溶剤の含有比率が上述の範囲内であることにより、上記インク組成物は、樹脂エマルジョン等を安定的に分散可能となるからである。
なお、含有比率は、質量比率を示すものである。
【0060】
上記水溶性有機溶剤としては、25℃の水100質量部中に、1気圧下で10質量部以上溶解するものとすることができる。
このような水溶性有機溶剤としては、例えば、特開2014−189777号公報に記載の水溶性有機溶剤を用いることができる。
本発明においては、上記水溶性有機溶剤が、鎖状飽和炭化水素に水酸基が2つ結合した構造を有するアルカンジオール類を含むことが好ましく、なかでもアルカンジオール類を主成分として含むことが好ましい。
アルカンジオール類は、樹脂エマルジョンの分散安定性に優れる。このため、インク組成物は、樹脂エマルジョンの分散安定性に優れたものとなるからである。また、その結果、水溶性有機溶剤の水性溶剤中の含有比率を高めることが容易だからである。
また、アルカンジオール類は、通常沸点が水より高いため、インク組成物は、ノズルへの乾燥付着の少ないものとすることが容易となる。
このように、水溶性有機溶剤としてアルカンジオール類を用いることにより、インク組成物は、樹脂エマルジョンの分散安定性を維持しつつ、ノズルへの付着の少ないものとなる。
また、主成分として含むとは、樹脂エマルジョンを安定的に分散可能な含有量で含まれることをいうものであり、例えば、アルカンジオール類の含有量が水溶性有機溶剤中に50質量%以上であるものとすることができ、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。
なお、上記含有量の上限については、所望の分散安定性を得ることができる範囲内で適宜設定することができ、100質量%、すなわち、上記水溶性有機溶剤がアルカンジオール類のみを含むものであってもよいが、例えば、95質量%以下で適宜設定することができる。
本発明において、アルカンジオール類のインク組成物中の含有量については、インク組成物の分散安定性、ノズルへの付着抑制、インク膜の乾燥性の観点等から調整することができる。
例えば、上記水溶性有機溶剤のインク組成物中の含有量が50質量%以下である場合、水溶性有機溶剤がアルカンジオール類のみを含むもの、すなわち、水溶性有機溶剤の全量がアルカンジオール類であるものとすることができる。
また、上記水溶性有機溶剤のインク組成物中の含有量が50質量%より多い場合、水溶性有機溶剤がアルカンジオール類のみを含むもの、すなわち、水溶性有機溶剤の全量がアルカンジオール類であってもよいが、アルカンジオール類のインク組成物中の含有量が、50質量%以下であることが好ましく、なかでも、10質量%以上45質量%以下であることが好ましく、特に、35質量%以上45質量%以下であることが好ましい。上記含有量の上限および下限が上述の範囲であることで、上記インク組成物は、インク組成物の分散安定性、ノズルへの付着抑制、インク膜の乾燥性等に優れたものとすることが容易となるからである。例えば、上記水溶性有機溶剤が、アルカンジオール類と、その添加されているアルカンジオール類より蒸気圧の大きいアルカンジオール類以外の水溶性有機溶剤と、を含むことで、上記インク組成物は、乾燥性に優れたインク膜を得ることが容易となるからである。一方で、アルカンジオール類を所定量以上含むことで、上記インク組成物は、分散安定性、ノズルへの付着抑制等にも優れたものとすることが容易となるからである。
上記添加されているアルカンジオール類より蒸気圧の大きいアルカンジオール類以外の水溶性有機溶剤としては、添加されるアルカンジオール類の蒸気圧からの差が100Pa以上大きいものであることが好ましく、なかでも150Pa以上大きいものであることが好ましく、特に、200Pa以上大きいものであることが好ましい。
なお、蒸気圧(Pa)は、50℃での飽和蒸気圧を指すものである。例えば、プロピレングリコールの蒸気圧は、133Paであり、3−メトキシ−1−ブタノールの蒸気圧は、460Paである。
また、添加されるアルカンジオール類が2種類以上含まれる場合には、添加されるアルカンジオール類の蒸気圧からの差は、蒸気圧の最も高いアルカンジオール類の蒸気圧からの差をいうものである。
【0061】
上記アルカンジオール類としては、鎖状飽和炭化水素に水酸基が2つ結合した構造を有するものであればよく、具体的には、特開2014−189777号公報に記載のジオール類を用いることができる。
本発明においては、上記アルカンジオール類が、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、イソブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール等の炭素数6以下のアルカンジオール類であることが好ましい。上記アルカンジオール類は、樹脂エマルジョンの分散安定性を維持しつつ、ノズルへの付着の少ないものとすることが容易だからである。
【0062】
上記水溶性有機溶剤の沸点としては、インク膜の形成が可能なものであればよいが、例えば、280℃以下であることが好ましく、なかでも150℃〜250℃の範囲内であることが好ましい。上記沸点が上述の範囲内であることにより、インク組成物は、ノズルに乾燥付着の少ないものとし、吐出性を良好なものにすることが容易となるからである。また、上記沸点の上限が上述の範囲であることにより、インク組成物は、インク膜の乾燥が容易なものとなることで、耐水性や密着性等の膜強度に優れたものとなるからである。
また、本発明においては、乾燥性に優れたインク膜形成の観点からは、例えば、上記水溶性有機溶剤のうち、沸点が240℃以上の水溶性有機溶剤のインク組成物中の含有量が、5質量%未満であることが好ましい。
【0063】
上記水溶性有機溶剤の含有量としては、樹脂エマルジョン等の各成分を安定的に分散または溶解可能なものであればよい。
上記含有量としては、インク組成物中に80質量%以下とすることができ、70質量%以下であることが好ましく、なかでも60質量%以下であることが好ましく、特に、0.1質量%〜50質量%の範囲内であることが好ましく、なかでも1質量%〜40質量%の範囲内であることが好ましい。上記水溶性有機溶剤の含有量が上述の範囲であることで、上記インク組成物は、乾燥性に優れたインク膜を得ることが容易となるからである。
また、上記水溶性有機溶剤のインク組成物中の含有量としては、分散安定性の観点からは、80質量%以下であることが好ましく、ノズルへの付着抑制の観点からは、5質量%以上であることが好ましい。
本発明においては、分散安定性や、ノズルへの付着抑制の観点からは、上記水溶性有機溶剤のインク組成物中の含有量が、15質量%以上70質量%以下であることが好ましく、なかでも、25質量%以上60質量%以下であることが好ましい。上記水溶性有機溶剤の含有量の上限および下限が上述の範囲であることで、上記インク組成物は、分散安定性に優れ、ノズルへの付着が少ないものとなるからである。
また、上記水溶性有機溶剤の含有量は、乾燥性に優れたインク膜形成およびノズルへの付着抑制の両者の観点からは、インク組成物中に15質量%以上80質量%以下とすることができ、20質量%以上70質量%以下、であることが好ましく、なかでも、25質量%以上60質量%以下であることが好ましく、特に、30質量%以上60質量%以下であることが好ましく、なかでも特に、40質量%以上60質量%以下であることが好ましい。
また、上記水性溶剤の含有量としては、樹脂エマルジョン等の各成分を安定的に分散または溶解可能なものであればよい。
なお、水溶性有機溶剤および水性溶剤の上記インク組成物中の含有量をそれぞれ単に水溶性有機溶剤の含有量および水性溶剤の含有量と称する場合がある。
【0064】
3.界面活性剤
上記界面活性剤は、インク組成物の表面張力を調整し、インク組成物がインクジェット吐出される記録媒体への濡れ広がりを調整するものである。
【0065】
このような界面活性剤としては、インク組成物に使用される公知の界面活性剤を用いることができる。具体的には、上記界面活性剤として、特開2015−124379号公報に記載の界面活性剤を用いることができる。
本発明においては、なかでも、上記界面活性剤が、重量平均分子量が1000〜30000の範囲内のポリシロキサン系界面活性剤であることが好ましい。優れた表面張力低減効果を有し、インク組成物は表面張力の経時安定性に優れたものとなり、印刷適性に優れたものとなるからである。
【0066】
上記ポリシロキサン系界面活性剤は、ポリシロキサンを主骨格として有するものである。
ここで、ポリシロキサンを主骨格として有するとは、具体的には、下記式(2)に示されるシロキサン構成単位を主成分として有するものとすることができる。
【0068】
(式(2)中、R
3およびR
4は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基であり、複数あるR
3およびR
4は互いに同一であっても異なっていてもよい。また、qは2以上の整数である。)
【0069】
また、qは2以上の整数であれば特に限定されるものではなく、重量平均分子量等に応じて適宜設定されるものである。
上記式(2)におけるR
3およびR
4については、上記「1.シリコンアクリル系樹脂エマルジョン」の項に記載のR
1およびR
2と同様とすることができる。
【0070】
上記式(2)で示されるシロキサン構成単位は、ポリシロキサン系界面活性剤中に主成分として含まれるものである。
ここで、主成分として含むとは、インク組成物に表面張力低減効果を付与できる含有量で含まれることをいうものであり、例えば、上記式(2)で示される構成単位がポリシロキサン系界面活性剤中に50質量%以上であるものとすることができる。本発明においては、ポリシロキサン系界面活性剤中の上記式(2)で示される構成単位の含有量が、75質量%以上であることがより好ましい。上記含有量が上述の範囲であることにより、ポリシロキサン系界面活性剤は、優れた表面張力低減効果を有するものとすることができるからである。
【0071】
上記ポリシロキサン系界面活性剤は、上記シロキサン構成単位を主成分として有するものであれば特に限定されるものではないが、ポリエーテル基を有するもの、すなわち、ポリエーテル基変性ポリシロキサン系界面活性剤であることが好ましい。上記ポリエーテル基を有することにより、ポリシロキサン系界面活性剤を水溶性を有するものとすることが容易だからである。
【0072】
上記ポリエーテル基としては、アルキレンオキサイド含有基を挙げることができ、なかでも、エチレンオキサイド含有基、プロピレンオキサイド含有基であることが好ましく、特に、エチレンオキサイド含有基であることが好ましい。上記ポリエーテル基は、ポリシロキサン系界面活性剤を水溶性を有するものとすることが容易だからである。
【0073】
上記ポリエーテル基変性ポリシロキサン系界面活性剤としては、上記ポリエーテル基を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、ポリシロキサン構造の片末端または両末端のケイ素原子や、ポリシロキサン構造の側鎖、すなわち、上記式(2)で示されるシロキサン構成単位中のR
3およびR
4のいずれかがポリエーテル基に置換されたポリエーテル基含有構成単位を有するものとすることができる。
【0074】
上記ポリシロキサン系界面活性剤の重量平均分子量は、1000〜30000の範囲内であれば特に限定されるものではないが、2000〜20000の範囲内であることが好ましく、なかでも3000〜10000の範囲内であることが好ましい。上記分子量が上述の範囲内であることにより、本発明のインク組成物は、濡れ広がり性に優れたものとすることができるからである。
【0075】
上記ポリシロキサン系界面活性剤は、市販品としては、例えば、FZ−2122、FZ−2110、FZ−7006、FZ−2166、FZ−2164、FZ−7001、FZ−2120、SH 8400、FZ−7002、FZ−2104、8029 ADDITIVE、8032 ADDITIVE、57 ADDITIVE、67 ADDITIVE、8616 ADDITIVE(いずれも、東レ・ダウコーニング社製)、KF−6012、KF−6015、KF−6004、KF−6013、KF−6011、KF−6043、KP−104、110、112、323、341、(いずれも、信越化学(株)製)、BYK−300/302、BYK−301、BYK−306、BYK−307、BYK−320、BYK−325、BYK−330、BYK−331、BYK−333、BYK−337、BYK−341、BYK−342、BYK−344、BYK−345/346、BYK−347、BYK−348、BYK−349、BYK−375、BYK−377、BYK−378、BYK−UV3500、BYK−UV3510、BYK−310、BYK−315、BYK−370、BYK−UV3570、BYK−322、BYK−323、BYK−3455、BYK−Silclean3700(いずれも、ビックケミー社製)、シルフェイスSAG503A、シルフェイスSJM−002、シルフェイスSJM−003(いずれも、日信化学工業(株)製)、TEGO Twin 4000、TEGO Twin 4100、TEGO Wet 240、TEGO Wet 250、TEGO Wet 240、(いずれも、エボニックテグサ社製)等を挙げることができる。
上記ポリシロキサン系界面活性剤は、水溶性であることが好ましい。水溶性であることにより、ポリシロキサン系界面活性剤がインク組成物表面に析出したり、インクジェットヘッドの部材表面に析出して、インクジェッドヘッドがインク組成物をはじいて吐出性が悪化することを抑制できるからである。ここで、水溶性であるとは、25℃の水100質量部中に、1気圧下で0.1質量部以上溶解することを示すものである。
なお、ポリシロキサン系界面活性剤の水溶性の程度の調整方法としては、上記ポリエーテル基の種類や数、上記ポリシロキサン系界面活性剤の分子量等により調整することができる。
【0076】
また、上記界面活性剤として、上述のポリシロキサン系界面活性剤以外のその他の界面活性剤も用いることができる。
上記その他の界面活性剤としては、具体的には、アニオン系界面活性剤、非イオン性界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アルキレンオキサイド変性アセチレングリコール系界面活性剤、アルキレンオキサイド非変性アセチレングリコール系界面活性剤等を挙げることができる。
【0077】
アルキレンオキサイド非変性アセチレングリコール系界面活性剤としては、具体的には、2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、3−メチル−1−ブチン−3−オール、3−メチル−1−ペンチン−3−オール、3−ヘキシン−2,5−ジオール、2−ブチン−1,4−ジオール等が挙げられる。又、市販品としては、サーフィノール61、82、104(いずれも、エアープロダクツ社製)等を用いることができる。
アルキレンオキサイド変性アセチレングリコール系界面活性剤としては、具体的には、サーフィノール420、440、465、485、TG、2502、ダイノール604、607(いずれも、エアープロダクツ社製)、サーフィノールSE、MD−20、オルフィンE1004、E1010、PD−004、EXP4300、PD−501、PD−502、SPC(いずれも、日信化学工業(株)製)、アセチレノールEH、E40、E60、E81、E100、E200(いずれも、川研ファインケミカル(株)製)等が挙げられる。
【0078】
アニオン系界面活性剤、非イオン性界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アルキレンオキサイド変性アセチレングリコール系界面活性剤についての具体例としては、エマール、ラテムル、ネオペレックス、デモール(いずれも、アニオン系界面活性剤;花王株式会社製)、サンノール、リポラン、ライポン、リパール(いずれも、アニオン系界面活性剤;ライオン株式会社製)、ノイゲン、エパン、ソルゲン(いずれも非イオン性界面活性剤;第一工業製薬株式会社製)エマルゲン、アミート、エマゾール(いずれも非イオン性界面活性剤;花王株式会社製)、ナロアクティー、エマルミン、サンノニック(いずれも非イオン性界面活性剤;三洋化成工業株式会社製)、メガファック(フッ素系界面活性剤;DIC株式会社製)、サーフロン(フッ素系界面活性剤;AGCセイミケミカル社製)、日本サイテック・インダストリーズ(株)製 AEROSOL TR−70、TR−70HG、OT−75、OT−N、MA−80、IB−45、EF−800、A−102、花王(株)製 ペレックスOT−P、ペレックスCS、ペレックスTR、ペレックスTA、日本乳化剤(株)製 ニューコール290−A、ニューコール290−KS、ニューコール291−M、ニューコール291−PG、ニューコール291−GL、ニューコール292−PG、ニューコール293、ニューコール297(いずれも、アニオン系界面活性剤)、花王株式会社製エマルゲン320P、エマルゲン350、エマルゲン430、エマルゲン130K、エマルゲン150第一工業製薬株式会社製ノイゲンTDS−120、ノイゲンTDS−200D、ノイゲンTDS−500F、青木油脂工業株式会社製ブラウノンSR−715、ブラウノンSR−720、ブラウノンSR−730、ブラウノンSR−750、ブラウノンEN−1520A、ブラウノンEN−1530、ブラウノンEN−1540、日本乳化剤株式会社製ニューコール2310、ニューコール2320、ニューコール2327、ニューコール1545、ニューコール1820、日光ケミカルズ株式会社製NIKKOL BPS20、NIKKOL BPS30(いずれも、非イオン性界面活性剤)等が挙げられる。
これらの界面活性剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0079】
上記界面活性剤の含有量としては、所望の濡れ広がり性を有するものとすることができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、インク組成物中に、0.01質量%〜10.0質量%の範囲内とすることが好ましく、0.1質量%〜5.0質量%の範囲内であることがより好ましく、0.3質量%〜5.0質量%がさらに好ましく、0.5質量%〜3.0質量%以下がより好ましい。上記含有量が上述の範囲内であることにより、インク組成物の濡れ広がりが良好になり、インク組成物が記録媒体に着弾するときのドット径を広げることができるからである。また、膜強度および耐傷性の両者に優れたインク膜とすることができるからである。
【0080】
4.着色剤
本発明における着色剤は、水性インクに用いられる公知の着色剤を用いることができ、例えば、有機顔料、無機顔料等の顔料を用いることができる。
このような顔料については、例えば、特開2015−124379号公報に記載のものを用いることができる。
また、上記顔料は、上記顔料を顔料分散用の界面活性剤や分散剤等によって水性溶媒中に分散させた顔料分散体であってもよく、上記顔料表面に、親水性基を修飾した自己分散型顔料分散体として含まれるものであってもよい。なお、上記親水性基、分散剤等については、特開2015−124379号公報に記載のものを用いることができる。
【0081】
上記着色剤の含有量としては、所望の画像を形成可能であれば特に限定されるものではなく、適宜調整されるものである。具体的には、着色剤の種類によっても異なるが、上記含有量は、インク組成物全量100質量部に対して、0.05質量部〜20質量部の範囲内であることが好ましく、0.1質量部〜10質量部の範囲内であることがより好ましい。上記含有量が上述の範囲内であることにより、着色剤の分散安定性と着色力のバランスに優れたものとすることができるからである。
【0082】
5.その他の成分
本発明のインク組成物は、水性溶剤、着色剤、樹脂エマルジョン、界面活性剤を有するものであるが、必要に応じて、更に他の成分を含んでもよい。
他の成分としては、浸透剤,湿潤剤、防腐剤、酸化防止剤、導電率調整剤、pH調整剤、粘度調整剤、消泡剤、脱酸素剤等が挙げられる。
【0083】
6.インク組成物
本発明のインク組成物の調製方法は、上記各成分が溶剤中に分散または溶解したものとすることができる方法であれば特に限定されない。
上記調製方法は、例えば、水性溶剤に着色剤として顔料分散体を加え、分散した後、樹脂エマルジョン、界面活性剤および必要に応じてその他の成分を添加して調製する方法、水性溶剤に、着色剤および分散剤を加えて分散した後、樹脂エマルジョン、界面活性剤および必要に応じてその他の成分を添加して調製する方法、水性溶剤に着色剤、樹脂エマルジョン、界面活性剤および必要に応じてその他の成分を添加した後、着色剤を分散して調製する方法等を挙げることができる。
【0084】
B.インクジェット記録用インクセット
次に、本発明のインクジェット記録用インクセットについて説明する。
本発明のインクジェット記録用インクセットは、上述のインクジェット記録用インク組成物と、多価金属塩を含有する受理溶液と、を有することを特徴とするものである。
【0085】
本発明によれば、上述のインクジェット記録用インク組成物を有することにより、膜強度および耐傷性の両者に優れ、さらに、画像鮮明性に優れた印刷物を得ることができる。
【0086】
本発明のインクジェット記録用インクセットは、上述のインクジェット記録用インク組成物および受理溶液を有するものである。
以下、本発明のインクジェット記録用インクセットの各構成について詳細に説明する。
なお、上記インク組成物については、上記「A.インクジェット記録用インク組成物」の項に記載した内容と同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。
【0087】
1.受理溶液
本発明に用いられる受理溶液は、多価金属塩を含有するものである。
【0088】
(1)多価金属塩
上記多価金属塩としては、記録媒体上におけるインク組成物の定着性を向上させるものであれば特に限定されるものではなく、多価金属イオンおよび上記多価金属イオンの対となる陰イオンから構成される2価以上の金属塩であれば特に限定されず、無機金属塩であっても、有機酸金属塩であってもよい。このような多価金属塩としては、カルシウム塩、マグネシウム塩、ニッケル塩、アルミニウム塩、ホウ素塩及び亜鉛塩よりなる群から選択される1種以上であることが好ましい。インクの滲みや異なる色間(インク間)の色の滲みを抑制し、印刷ムラや白抜けのない画像鮮明性に優れた画像を得ることができるからである。
なお、上記2価以上の金属塩は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、上記無機金属塩および有機酸金属塩としては、具体的には特開2012−51357号公報に記載のものを用いることができる。
【0089】
(2)受理溶液
上記受理溶液は、上記多価金属塩を含有するものであるが、通常、溶媒、樹脂成分および界面活性剤を含むものである。
また、必要に応じて、浸透剤、防腐剤、酸化防止剤、導電率調整剤、pH調整剤、粘度調整剤、消泡剤、脱酸素剤等を有するものであってもよい。
なお、上記界面活性剤としては、上記「A.インクジェット記録用インク組成物」の項に記載したものと同様のものを用いることができる。
また、上記溶媒、樹脂成分およびその他の添加剤については、受理溶液に一般的に用いられるものを使用することができ、例えば、特開2012−51357号公報に記載のものを使用できる。
【0090】
2.インクセット
本発明のインクセットは、上記インク組成物および受理溶液を含むものであるが、必要に応じて、その他の構成を有するものであってもよい。
【0091】
C.インクカートリッジ
次に、本発明のインクカートリッジについて説明する。
本発明のインクカートリッジは、インク用容器と、上記インク用容器に収容されたインク組成物と、を有し、上記インク組成物が、上述のインクジェット記録用インク組成物であることを特徴とするものである。
【0092】
本発明によれば、インク組成物として上述のインクジェット記録用インク組成物を有することにより、膜強度および耐傷性の両者に優れた印刷物を得ることができる。
【0093】
本発明のインクカートリッジは、インク用容器と、インク組成物と、を有するものである。
以下、本発明のインクカートリッジの各構成について詳細に説明する。
なお、インク組成物については、上記「A.インクジェット記録用インク組成物」の項に記載の内容と同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。
【0094】
1.インク用容器
上記インク容器は、上記インク組成物を収容するものである。
このようなインク容器としては、インクジェットプリンタで使用可能なものであればよく、容器としては、特に制限はなく、目的に応じてその形状、構造、大きさ、材質等を適宜選択することができ、例えば、アルミニウムラミネートフィルム、樹脂フィルム等で形成されたインク袋などを有するものなどが好適に挙げられる。例えば、特表2005−518974号公報、特開2013−144774号公報、特開2015−193824号公報等に記載の2枚のアルミラミネートフィルムを重ね合わせて周囲を熱溶着等によって接合して形成されたインク袋等のような袋状容器とすることができる。
また、上記インク容器は、使用時にインク組成物を排出するインク取出口を有するものとすることができる。
【0095】
上記インク容器は、本発明のインクカートリッジに少なくとも1個含まれるものであればよく、2個以上含まれるものであってもよい。
上記インク容器の数が2個以上である場合、それぞれのインク容器に収容されるインク組成物の種類は同一であってもよく、異なるものであってもよい。
なお、種類が異なる場合の、インク組成物の組み合わせとしては、例えば、インク組成物に含まれる着色剤の種類が異なり、異なる色のインク膜を形成可能なインク組成物の組み合わせを挙げることができる。
【0096】
2.インクカートリッジ
本発明のインクカートリッジは、インク用容器と、インク組成物と、を有するものであるが、必要に応じてその他の構成を有するものであってもよい。インクジェット記録装置に着脱可能に装着して用いることが特に好ましい。
上記その他の構成としては、インクカートリッジに一般的に用いられるものとすることができ、例えば、インク容器を覆う外枠を挙げることができる。
このような外枠については、インクカートリッジに一般的なものとすることができ、例えば、特表2005−518974号公報、特開2013−144774号公報、特開2015−193824号公報等に記載される上ケースおよび下ケースを用いたケース等と同様とすることができる。
また、上記外枠は、インク容器に設けられたインク取出口が露出する開口部を有するものとすることができる。
【0097】
D.印刷物の製造方法
次に、本発明の印刷物の製造方法について説明する。
本発明の印刷物の製造方法は、上述のインクジェット記録用インク組成物をインクジェット法により吐出する印刷工程を有することを特徴とするものである。
【0098】
本発明によれば、上記印刷工程が、上述のインクジェット記録用インク組成物を用いるものであることにより、膜強度および耐傷性の両者に優れた印刷物を得ることができる。
【0099】
本発明の印刷物の製造方法は、上記印刷工程を有するものである。
以下、本発明の印刷物の製造方法の各工程について詳細に説明する。
【0100】
1.印刷工程
上記印刷工程は、上述のインクジェット記録用インク組成物をインクジェット法により吐出する工程である。
【0101】
本工程におけるインクジェット法としては、ピエゾ方式、サーマル方式、静電方式等のいずれのインクジェット法であってもよいが、なかでも、凝集物が発生し難く、吐出安定性に優れる点から、ピエゾ方式のインクジェット法であることが好ましい。
なお、ピエゾ方式のインクジェットヘッド(記録ヘッド)は、圧力発生素子として圧電振動子を用い、圧電振動子の変形により圧力室内を加圧または減圧してインク滴を吐出させるものである。
【0102】
本工程においてインクジェット法により吐出されるインク組成物のインク滴量については、用途や発色等に応じて適宜設定することができ、例えば、0.5pl〜30plの範囲内とすることができる。
【0103】
本工程においてインク組成物が吐出される記録媒体としては、上記インク組成物を用いて印刷可能なものであれば特に限定されるものではなく、吸収性基材、非吸収性基材のいずれも使用することができる。
吸収性基材としては、更紙、中質紙、上質紙などの非塗工紙、コート紙、アート紙、キャスト紙などの塗工紙、綿、化繊織物、絹、麻、布帛、不織布、皮革等が例示できる。
また非吸収性基材としては、ポリエステル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリイミド樹脂および前述樹脂含有合成紙、金属、金属箔コート紙、ガラス、合成ゴム、天然ゴム等が例示できるがこれらに限定されるものではない。
本発明においては、なかでも、上記記録媒体が、非吸収性基材であることが好ましく、なかでも、ポリエステル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリイミド樹脂、および前述樹脂含有合成紙等の樹脂製基材が好ましく、塩化ビニル樹脂製基材がより好ましい。上記記録媒体であることにより、上述のインク組成物を用いることにより、膜強度および耐傷性に優れた印刷物を得ることができるとの本発明の効果をより効果的に発揮できるからである。
【0104】
2.その他の工程
本発明の製造方法は上記印刷工程を有するものであるが、必要に応じてその他の工程を有するものであってもよい。
上記その他の工程としては、例えば、上記印刷工程より前に、記録媒体上に受理溶液を配置する受理溶液配置工程、上記印刷工程後に、記録媒体を加熱等することでインク組成物のインク組成物膜に含まれる水性溶剤を乾燥除去し、インク膜を形成する乾燥工程等を挙げることができる。
【0105】
上記受理溶液配置工程に用いられる受理溶液については、上記「B.インクジェット記録用インクセット」の項に記載の内容と同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。
また、記録媒体上に受理溶液を配置する方法としては、上記印刷工程が行われる前に受理溶液を記録媒体上に配置できる方法であれば特に限定されるものではなく、スプレー法、コーター法、インクジェット法、グラビア法およびフレキソ法等を用いる方法を挙げることができる。
本工程においては、なかでも、上記形成方法がインクジェット法を用いて受理溶液を記録媒体上に配置する方法であることが好ましい。上記記録媒体上に配置された受理溶液に含まれる溶媒が完全に乾燥する前に、上記印刷工程を行うことが容易で、受理溶液に含まれる多価金属塩と上記インク組成物を素早く反応させて、記録媒体上におけるインク組成物膜の定着性を向上させやすくすることができるからである。
また、受理溶液を配置する箇所については、印刷工程によりインクジェット吐出されるインク組成物膜の定着性を向上可能な箇所であればよく、例えば、記録媒体の全面であってもよく、記録媒体のインク組成物がインクジェット吐出される箇所と平面視上重なるパターン状であってもよい。より具体的には、本工程は、印刷工程によりインク組成物の印字を行う箇所と同じ箇所に、受理溶液の配置方法としてインクジェット法等を用いて印字することができる。
【0106】
なお、上記記録媒体上に配置される単位面積当たりの受理溶液の量については、上記受理溶液の種類等に応じて適宜設定することができる。
【0107】
3.本発明の印刷物の製造方法
本発明の印刷物の製造方法により製造される印刷物は、記録媒体および記録媒体上に形成された上記インク組成物を用いて形成されたインク膜を有するものである。
また、上記記録媒体上に形成された上記インク膜は、上記インク組成物を用いて形成されたインク組成物膜の乾燥膜であり、上記インク組成物の固形分を含み、水性溶剤が乾燥除去されたものである。
なお、固形分とは、インク組成物中の水性溶剤以外の全ての成分を示すものである。
【0108】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0109】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。
【0110】
1.インク組成物の調製
下記表1〜4に記載した組成に従い、着色剤として顔料を分散剤により分散した顔料分散体、第2樹脂エマルジョン、シリコンアクリル系樹脂エマルジョン、界面活性剤、水溶性有機溶剤を混合し、更に水(イオン交換水)を加えて全量を100質量部とし、0.3μmのメンブランフィルターにて濾過し、インク組成物を得た(実施例1〜31および比較例1〜5ならびに実施例32〜37)。
なお、表1〜4中の各成分の数値は、質量部を示すものである。また、顔料、分散剤、第2樹脂エマルジョン、シリコンアクリル系樹脂エマルジョン、界面活性剤の数値は、各成分の固形分の質量部を示すものである。
また、用いた顔料分散体、第2樹脂エマルジョン、シリコンアクリル系樹脂エマルジョン、界面活性剤、水溶性有機溶剤については、以下のものを用いた。
【0111】
(1)顔料分散体
下記方法により、顔料分散樹脂を調製した。
100℃に保たれたトルエン200g中にメタクリル酸メチル63g、アクリル酸ブチル27g、メタクリル酸ブチル30g、アクリル酸15g、メタクリル酸15g、とtert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート3.6gとの混合物を1.5時間かけて滴下した。滴下終了後、100℃で2時間反応させた後冷却して、樹脂溶液を得た。樹脂溶液から樹脂をヘキサンにて精製して、分子量20000、酸価143mgKOH/gの顔料分散樹脂を得た。
【0112】
イオン交換水80gに、上記で得られた顔料分散樹脂2.5gと、N,N−ジメチルアミノエタノール0.6gを溶解させ、カーボンブラック15.0gと消泡剤(エアープロダクツ社製「サーフィノール104PG」)を0.05g加え、ジルコニアビーズを用いてペイントシェーカーにて分散して、顔料分散体A−1を得た。
【0113】
顔料分散体A−2として、自己分散顔料分散体 Cab−O−Jet400(キャボット社製)を用いた。
顔料分散体A−3として、自己分散顔料分散体 SENSIJET ULTRA Black(センシエント社製)を用いた。
カーボンブラックの代わりに、C.I.ピグメントイエロー155、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントブルー15:3をそれぞれ用いた以外は、顔料分散体A−1と同様にして、顔料分散体A−4、A−5、A−6を得た。
なお、顔料分散体A−2およびA−3では、顔料の表面に結合された親水性基の含有量は顔料に対して無視できる程微量であるため、この親水性基の配合量の記載については表1〜4から省略した。
【0114】
(2)第2樹脂エマルジョン
機械式攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流管及び滴下ロートを備えたフラスコ内を十分に窒素ガスで置換した後、反応性界面活性剤(花王(株)製、商品名:ラテムルPD−104)0.75g、過硫酸カリウム0.04g、メタクリル酸6.0gと純水150gを仕込み、25℃にて攪拌し混合した。これに、メタクリル酸メチル111.0g、アクリル酸2−エチルヘキシル18g、アクリル酸ブチル15gの混合物を滴下してプレエマルジョンを調製した。また、機械式攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流管及び滴下ロートを備えたフラスコ内を十分に窒素ガスで置換した後、反応性界面活性剤(花王(株)製、商品名:ラテムルPD−104)3g、過硫酸カリウム0.01gと純水200gを70℃にて攪拌し混合した。その後、調製した前記プレエマルジョンを3時間かけてフラスコ内に滴下した。70℃でさらに3時間加熱熟成した後冷却し、N,N−ジメチルエタノールアミンでpHを8となるよう調整し、#150メッシュ(日本織物製)にて濾過し、500gの第2樹脂エマルジョンB−1(固形分30質量%、ガラス転移温度64℃、酸価7mgKOH/g、平均粒子径120nm)を得た。
【0115】
B−2として、アクリットWBR2101(大成ファインケミカル(株)製、ウレタン樹脂エマルジョン、平均粒子径60nm、Tg40℃、酸価40mgKOH/g)を用いた。
B−3として、リカボンドSU100(中央理化工業(株)製、ウレタンアクリル樹脂、平均粒子径84nm、Tg48℃、酸価16mgKOH/g)を用いた。
B−4として、ビニブラン701NL50(日信化学工業(株)製、塩化ビニルアクリル樹脂、平均粒子径70nm、Tg57℃、酸価50mgKOH/g)を用いた。
B−5として、ビニブラン701RL50S(日信化学工業(株)製、塩化ビニルアクリル樹脂、平均粒子径100nm、Tg26℃、酸価50mgKOH/g)を用いた。
【0116】
(3)シリコンアクリル系樹脂エマルジョン
表1〜4中のシリコンアクリル系樹脂エマルジョンC−1としてCHALINE LC190(日信化学工業(株)製、平均粒子径200nm〜300nm、Tg90℃〜110℃、アクリル系構成単位/シロキサン構成単位の比率は1/9)、C−2としてCHALINE FE 230N(日信化学工業(株)製、平均粒子径200nm〜300nm、Tg−50℃、アクリル系構成単位/シロキサン構成単位の比率は5/5)、C−3としてMOWINYL 7110(日本合成化学工業(株)製、Tg30℃、酸価15mgKOH/g)、C−4としてVONCOAT SA6360(DIC(株)製、平均粒子径150nm、Tg21℃)を用いた。
XRF(波長分散型蛍光X線分析装置 LAB CENTER XRF−1800:島津製作所(株)製)測定によるケイ素含有量は、C−1が20.0質量%、C−2が11.2質量%、C−3が2.0質量%、C−4が0.1質量%であった。
【0117】
(4)界面活性剤
表1〜4中の界面活性剤D−1として、8032additive(東レ・ダウコーニング社製、ポリエーテル変性ポリシロキサン系)、D−2としてシルフェイス SAG503A (日信化学工業(株)製、ポリエーテル変性ポリシロキサン系)、D−3としてBYK3455(ビックケミー社製、ポリエーテル変性ポリシロキサン系)、D−4としてTEGO Twin 4200(evonic社製、ジェミニ型ポリエーテル変性シロキサン系)、D−5としてオルフィンE1010 日信化学工業(株)製、ポリエーテル変性アセチレンジオール系)を用いた。
【0118】
(5)水溶性有機溶剤
表1〜4中の水溶性有機溶剤として、プロピレングリコール(PG)、1,2−ペンタンジオール(1,2−PD)、1,3−プロパンジオール(1,3−PD)、グリセリン(Gly)、1,6−ヘキサンジオール(1,6−HD)、3−メトキシ−1−ブタノール(MB)を用いた。
なお、これらの水溶性有機溶剤のうち、PG、1,2−PD、1,3−PDおよび1,6−HDがアルカンジオール類である。
【0119】
2.インク膜特性評価
上記実施例1〜31および比較例1〜5ならびに実施例32〜37で得られたインク組成物に対して、耐水性、耐溶剤性、耐擦過性、密着性、耐傷性、乾燥性、吐出安定性、印刷画質(1)、表面張力安定性、粘度安定性の評価を行った。結果を下記表1〜4に示す。
【0120】
(1)耐水性
実施例および比較例で得られたインク組成物について、25℃の環境下でピエゾ素子を有するインクジェットヘッドを搭載したインクジェットプリンタに充填し、ポリ塩化ビニルシート(メタマーク社製MD−5)を、40℃に加温しながら、印字率100%のベタ印刷を行い、印刷物を80℃に加温したヒーター上で5分間乾燥した。
次いで、乾燥処理したインク膜表面を水に浸漬した綿棒で10回往復擦過してからインク膜面のLab値と、濃度(OD値)と、を分光測色計(Xrite社製eXactアドバンス分光測色計)で測色し、評価を行った。
評価基準は下記のとおりとした。評価が×以外は実用可能領域である。
◎:ΔEが3未満かつ濃度変化が5%未満である。
○:ΔEが3以上5未満かつ濃度変化が5%以上10%未満である。
△:ΔEが5以上8未満かつ濃度変化が10%以上20%未満である。
×:ΔEが8以上かつ濃度変化が20%以上である。
【0121】
(測色条件)
・光源:D50
・視野角:2°
・濃度ステータス:ISO Status T
・フィルター:M1(昼光)
・濃度白色基準:絶対
・アパーチャー:4mm
【0122】
(ΔEの計算方法)
測色計で試験前後のインク膜のLab値を測定して、下記の計算式から算出した。
ΔE=((a2−a1)
2+(b2−b1)
2+(L2−L1)
2)
0.5
なお、a2、b2およびL2の値が試験後のLab値であり、a1、b1およびL1の値が試験前のLab値である。
【0123】
(2)耐溶剤性
実施例および比較例で得られたインク組成物について、上記「(1)耐水性」と同様の記録媒体および印刷条件で印刷を行い、上記「(1)耐水性」と同様の乾燥条件にて乾燥を行った。
次いで、乾燥処理したインク膜表面をエタノール(EtOH)の40%水溶液に浸漬した綿棒で10回往復擦過してからインク膜面のLab値と、濃度(OD値)と、を分光測色計(Xrite社製eXactアドバンス分光測色計)で測色し、評価を行った。
評価基準は下記のとおりとした。評価が×以外は実用可能領域である。
◎:ΔEが3未満かつ濃度変化が5%未満である。
○:ΔEが3以上5未満かつ濃度変化が5%以上10%未満である。
△:ΔEが5以上8未満かつ濃度変化が10%以上20%未満である。
×:ΔEが8以上かつ濃度変化が20%以上である。
【0124】
(3)耐擦過性
実施例および比較例で得られたインク組成物について、上記「(1)耐水性」と同様の記録媒体および印刷条件で印刷を行い、上記「(1)耐水性」と同様の乾燥条件にて乾燥を行った。
次いで、学振型摩擦堅牢度試験機(テスター産業社製AB−301)を用いて、乾燥処理したインク膜表面と金巾3号(綿)を接触させて、荷重500gを加えた状態で100回往復した試料について評価を行った。
評価基準は下記のとおりとした。評価が×以外は実用可能領域である。
◎:剥離が全くない。
○:インク膜の剥離面積が、試験面積全体の10%未満である。
△:インク膜の剥離面積が、試験面積全体の20%未満である。
×:インク膜の剥離面積が、試験面積全体の20%以上である。
【0125】
(4)密着性
実施例および比較例で得られたインク組成物について、上記「(1)耐水性」と同様の記録媒体および印刷条件で印刷を行い、上記「(1)耐水性」と同様の乾燥条件にて乾燥を行った。
次いで、乾燥処理したインク膜表面へセロハンテープを圧着して90°剥離した際のインク膜の状態を目視で評価した。
評価基準は下記のとおりとした。評価が×以外は実用可能領域である。
◎:剥離が全くない。
○:インク膜の剥離面積が、試験面積全体の10%未満である。
△:インク膜の剥離面積が、試験面積全体の20%未満である。
×:インク膜の剥離面積が、試験面積全体の20%以上である。
【0126】
(5)耐傷性
実施例および比較例で得られたインク組成物について上記「(1)耐水性」と同様の記録媒体および印刷条件で印刷を行い、上記「(1)耐水性」と同様の乾燥条件にて乾燥を行った。
次いで、乾燥処理したインク膜表面を爪でひっかき、インク膜の剥離程度を目視で評価した。
評価基準は下記のとおりとした。評価が◎または○で実用可能領域である。
◎:削れる部位が全くない。
○:インク膜の一部に傷が付くが、基材の表面まで見えるインク膜剥離はない。
△:部分的にインク膜が削れる部分がある。
×:ひっかき部から完全にインク膜が削れ落ちる。
【0127】
(6)乾燥性
実施例および比較例で得られたインク組成物について、上記「(1)耐水性」と同様の記録媒体および印刷条件で印刷を行った。
次いで、印刷物を80℃に加温したヒーター上での乾燥処理を行い、インク膜を指触して、インク組成物が付着しなくなるまでの乾燥時間を測定し、評価を行った。
評価基準は下記のとおりとした。評価が×以外は実用可能領域である。
◎:インク膜の指触で5分以内にインク組成物の付着がなくなる。
○:インク膜の指触で10分以内にインク組成物の付着がなくなる。
△:インク膜の指触で15分以内にインク組成物の付着がなくなる。
×:インク膜の指触で15分以上の乾燥でもインク組成物が付着する。
【0128】
(7)吐出安定性
実施例および比較例で得られたインク組成物について、ピエゾ素子を有するインクジェットヘッドを用いて、全ノズルからインク組成物を吐出後、一度キャリッジを待機状態にしてから、ノズルパターンを印刷して、吐出不良を起こしているノズル数およびクリーニング工程による吐出性の復帰状況を評価した。なお、クリーニングには、実施例1のインク組成から、顔料と樹脂エマルジョンを除いた組成の洗浄液を使用した。
評価基準は下記のとおりとした。評価が×以外は実用可能領域である。
なお、クリーニング工程とは、ノズル面に付着しているインク組成物や気泡を洗浄液を染み込ませた不織布を用いて手で拭い取る作業である。
◎:クリーニング工程をせずに、全ノズルから正常に吐出する。
○:クリーニング工程を一度することで、全ノズルから正常に吐出する。
△:クリーニング工程を2回以上することで、全ノズルから正常に吐出する。
×:クリーニング工程を2回以上しても、全ノズルの吐出性が回復しない。
【0129】
(8)印刷画質A
実施例および比較例で得られたインク組成物について、上記「(1)耐水性」と同様の基材および印刷条件で印刷を行い、上記「(1)耐水性」と同様の乾燥条件にて乾燥を行った。
次いで、乾燥処理後のインク膜の状態を目視にて評価した。
評価基準は下記のとおりとした。評価が×以外は実用可能領域である。
◎:ハジキやムラが起きずに均一で平滑なインク膜である。
○:部分的にムラが起きる。
△:部分的にムラやピンホールが起きる。
×:ハジキ、ムラが顕著でインク膜が形成できない。
【0130】
(9)表面張力安定性
実施例および比較例で得られたインク組成物を60℃の恒温機に10日間保存し、10日間の保存開始前および保存後の表面張力の変動率を測定し、評価を行った。
なお、表面張力の測定は、プレート式表面張力計(共和界面科学製CBVP−Z)を用いて、25℃±0.5℃の環境下で測定した。
評価基準は下記のとおりとした。評価が×以外は実用可能領域である。
◎:保存前後の変動率が3%未満である。
○:保存前後の変動率が5%未満である。
△:保存前後の変動率が10%未満である。
×:保存前後の変動率が10%以上である。
【0131】
(10)粘度安定性
実施例および比較例で得られたインク組成物を60℃の恒温機に10日間保存し、10日間の保存開始前および保存後の粘度の変動率を測定し、評価を行った。
なお、粘度の測定は、落球式粘度計(Antonpaar社製AMVn)を用いて、25℃の環境下で測定した。
評価基準は下記のとおりとした。評価が×以外は実用可能領域である。
◎:保存前後の変動率が3%未満である。
○:保存前後の変動率が5%未満である。
△:保存前後の変動率が10%未満である。
×:保存前後の変動率が10%以上である。
【0132】
【表1】
【0133】
【表2】
【0134】
【表3】
【0135】
【表4】
【0136】
3.まとめ
表1〜表4から、実施例では、密着性、耐溶剤性、耐擦過性、耐水性の4つの特性の全てが実用可能領域であり、さらに、耐傷性についても実用可能領域であるインク膜を得ることができた。このように、実施例では、膜強度に優れ、さらに、耐傷性に優れたインク膜を形成できることが確認できた。
また、実施例2と、実施例15等との比較より、水溶性有機溶剤として沸点が280℃より低いもののみを使用することで、乾燥性に優れたものとすることが確認できた。
また、表1〜表4から、例えば、実施例1および実施例32〜37の比較等により、水溶性有機溶剤の含有量が60質量%以下であることで、上記インク組成物は、乾燥性に優れたインク膜を得ることが容易となることが確認できた。すなわち、上記含有量が上述の範囲内であることで、上記インク組成物は、膜強度および耐傷性の両者に優れつつ、さらに、乾燥性に優れたインク膜を容易形成可能となることが確認できた。
【0137】
4.受理溶液影響評価
受理溶液の有無の影響確認を行った。
具体的には、以下の方法により受理溶液を印字し、次いで、受理溶液を印字した上に実施例1、21、22、23のインク組成物(カーボンブラックの分散体A−1、C.I.ピグメントイエロー155の分散体A−4、C.I.ピグメントレッド122の分散体A−5、C.I.ピグメントブルー15:3の分散体A−6含有インク)の組み合わせのインクを印字した印刷物を形成し、その印刷物について、耐擦過性、乾燥性、耐溶剤性、印刷画質Bおよび印刷画質Cについて試験を行った。結果を下記表5に示す。
また、上記受理溶液を印字していない印刷物も作製して、同様に評価を行った。結果を下記表5に示す。
なお、表5中、条件aが受理溶液の印字無し、条件bが受理溶液の印字有りでの評価結果である。
また、耐擦過性、乾燥性および耐溶剤性については、上述の「2.インク膜特性評価」の「(3)耐擦過性」、「(6)乾燥性」および「(2)耐溶剤性」の項に記載のものと同様の評価方法を用いた。
印刷画質BおよびCの評価方法については、以下に示す方法を用いて評価を行った。
【0138】
(受理溶液の調製)
プロピオン酸マグネシウム1.7質量部、1,2−ペンタンジオール33.0質量部、シルフェイスSAG503A(日信化学工業(株)製表面張力調整剤)0.5質量部、スーパーフレックス620(大成ファインケミカル(株)製アクリル樹脂エマルジョン)4.0質量部(固形分換算)、イオン交換水60.8質量部を配合し、受理溶液を得た。
【0139】
(印刷物の作製方法)
上記「(1)耐水性」と同様に、ピエゾ素子を有するインクジェットヘッドを搭載したインクジェットプリンタに上述の調製方法により調製された受理溶液を充填し、ポリ塩化ビニルシート(メタマーク社製MD−5)に、インク組成物で印字を行う画像と同じ画像を印字した後、上記「(1)耐水性」と同様にして、受理溶液を印字した上にインク組成物で印字を行い、印刷物を得た。
なお、インク組成物の印字は、インク組成物着弾時の被記録媒体の表面温度が40℃になるように設定して行った。また、印刷物は、表面温度が80℃になるように設定して乾燥を行った。
【0140】
(1)印刷画質B
実施例1、21、22、23のインク組成物について単色の12ptにて印字を行い、文字の滲みを評価した。評価結果を表5に示す。
評価基準は下記のとおりとした。評価が×以外は実用可能領域である。
◎:滲みが認められず、鮮明な画像であった。
○:わずかに滲みが認められるが、鮮明な画像であった。
△:滲みが認められ、わずかに鮮明性に劣っていた。
×:明らかに滲みが認められ、鮮明性に劣っていた。
【0141】
(2)印刷画質C
実施例1、21、22、23のインク組成物について各色インクの単色100%ベタ部が隣接しあうように印字を行い、各色の境界部分滲みを評価した。評価結果を表5に示す。
評価基準は下記のとおりとした。評価が×以外は実用可能領域である。
◎:滲みが認められず、鮮明な画像であった。
○:わずかに滲みが認められるが、鮮明な画像であった。
△:滲みが認められ、色の境界が不鮮明な部分がわずかにあった。
×:明らかに滲みが認められ、鮮明性に劣っていた。
【0142】
【表5】
【0143】
(3)まとめ
表5によると、受理溶液が印字された印刷物は、受理溶液が印字されていない印刷物と比べて、特に印刷画質Bおよび印刷画質Cの評価において、滲みが認められず、良好な結果が得られた。
そのため、本発明の受理溶液配置工程と、印刷工程と、を含むインクジェット記録方法は優れたインクジェット記録方法であることが確認できた。