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再表2017-209290多能性幹細胞由来運動ニューロンの製造及びその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2017年12月7日
【発行日】2019年4月11日
(54)【発明の名称】多能性幹細胞由来運動ニューロンの製造及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20190315BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20190315BHJP
   C12Q 1/6883 20180101ALI20190315BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALI20190315BHJP
   C12N 5/0793 20100101ALI20190315BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20190315BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20190315BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20190315BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20190315BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20190315BHJP
【FI】
   C12N15/12ZNA
   C12N15/86 Z
   C12Q1/6883 Z
   C12N5/0735
   C12N5/0793
   C12Q1/02
   C12N7/01
   C12N5/10
   G01N33/15 Z
   G01N33/50 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】40
【出願番号】特願2018-521019(P2018-521019)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2017年6月2日
(31)【優先権主張番号】特願2016-112289(P2016-112289)
(32)【優先日】2016年6月3日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Triton
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「再生医療実現拠点ネットワークプログラム 疾患特異的iPS細胞を活用した難病研究」委託事業、「高品質な分化細胞・組織を用いた神経系および視覚系難病のin vitroモデル化と治療法の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
【住所又は居所】京都府京都市左京区吉田本町36番地1
(71)【出願人】
【識別番号】505048482
【氏名又は名称】株式会社IDファーマ
【住所又は居所】東京都千代田区富士見二丁目10番2号
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】井上 治久
(72)【発明者】
【氏名】今村 恵子
(72)【発明者】
【氏名】後藤 和也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 良輔
(72)【発明者】
【氏名】井上 誠
(72)【発明者】
【氏名】朱 亜峰
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045BB20
4B063QA20
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4B063QQ13
4B063QQ44
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4B065BB19
4B065BB20
4B065BC12
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
本発明は、以下の工程を含む、多能性幹細胞から運動ニューロンを製造する方法を提供する:
(1) Lhx3をコードする核酸、Ngn2をコードする核酸及びIsl1をコードする核酸を含む、単一のセンダイウイルスベクターを多能性幹細胞に導入する工程、及び
(2) 該多能性幹細胞を2日間以上培養する工程。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、多能性幹細胞から運動ニューロンを製造する方法:
(1) Lhx3をコードする核酸、Ngn2をコードする核酸及びIsl1をコードする核酸を含む、単一のセンダイウイルスベクターを多能性幹細胞に導入する工程、及び
(2) 該多能性幹細胞を2日間以上培養する工程。
【請求項2】
前記センダイウイルスベクターが、Lhx3をコードする核酸、Ngn2をコードする核酸及びIsl1をコードする核酸を、この順序で3’側から5’側に連続して含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記培養工程が、全期間を通じて単一組成の運動ニューロン分化シグナル因子を含む培地中で行われる、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記運動ニューロン分化シグナル因子が、レチノイン酸、ソニックヘッジホッグ(SHH)シグナル刺激剤及び神経栄養因子を含む、請求項3記載の方法。
【請求項5】
得られるニューロン全体に占める運動ニューロンの割合が60%以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記多能性幹細胞が運動ニューロン病の表現型を示す動物由来である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記運動ニューロン病が筋萎縮性側索硬化症(ALS)である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記多能性幹細胞がES細胞又はiPS細胞である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記多能性幹細胞がヒト又はマウス由来である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記多能性幹細胞がALS患者由来のiPS細胞である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法により得られる運動ニューロン集団。
【請求項12】
請求項6〜10のいずれか1項に記載の方法により得られる、運動ニューロン病の表現型を再現する運動ニューロン集団。
【請求項13】
Lhx3をコードする核酸、Ngn2をコードする核酸及びIsl1をコードする核酸を含む、センダイウイルスベクター。
【請求項14】
Lhx3をコードする核酸、Ngn2をコードする核酸及びIsl1をコードする核酸を、この順序で3’側から5’側に連続して含む、請求項13記載のベクター。
【請求項15】
請求項13又は14記載のベクターを含む、多能性幹細胞からの運動ニューロン分化誘導剤。
【請求項16】
以下の工程を含む、運動ニューロン病の治療薬候補物質のスクリーニング方法:
(1) 請求項12記載の運動ニューロン集団に被検物質を接触させる工程、
(2) 前記細胞集団における運動ニューロン病の表現型の程度を測定する工程、及び
(3) 被検物質を接触させなかった場合と比較して、該表現型の程度を改善した被検物質を運動ニューロン病の治療薬候補物質として選択する工程。
【請求項17】
前記運動ニューロン病がALSである、請求項16記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多能性幹細胞からの運動ニューロンの製造方法、運動ニューロンの誘導剤、当該方法及び当該誘導剤の使用により得られる運動ニューロンを用いた薬剤スクリーニング法等に関する。
【背景技術】
【0002】
筋萎縮性側索硬化症(以下、「ALS」ともいう。)は、運動ニューロン病(以下、「MND」ともいう。)の最も一般的かつ重篤な形態であり、進行性の筋力低下を引き起こし数年以内に死に至る。これまでにALSに関する膨大な量の知見が報告されてきたが、この疾患の鍵となるメカニズムは依然として十分には理解されていない。
【0003】
近年、人工多能性幹細胞(以下、「iPS細胞」ともいう。)の樹立により、MNDの研究に対して新しいアプローチが提供され、新規薬剤の発見がもたらされた。2008年に、ALS患者のiPS細胞由来の運動ニューロン(MN)が初めて作製されて以来、多数のALS iPS細胞由来の運動ニューロンの樹立が報告されている(例えば、非特許文献1を参照)。これらの方法の多くは、発生の原理に依拠したものであり、レチノイン酸(RA)やソニックヘッジホッグ(Shh)などの種々のシグナル伝達分子の培地への添加に基づいているが、各工程においてシグナル伝達分子の組合せの変更を必要とし、中には機能的な運動ニューロンへの分化までに4週間以上もの長期間を要する場合もある。
【0004】
一方、運動ニューロンの分化に関与する転写因子を外因的に導入することにより、迅速かつ効率よく多能性幹細胞(PSC)から運動ニューロンに分化させる試みがなされている。例えば、Hesterらは、転写因子ニューロゲニン2 (Ngn2)、islet-1 (Isl-1)、及びLIM/ホメオボックスタンパク質3 (Lhx3)をコードする核酸を、ヒト胚性幹細胞(ES細胞)もしくはiPS細胞由来の神経前駆細胞に導入することにより、迅速に運動ニューロンに分化誘導させたことを報告している(非特許文献2)。Sonらは、上記3つの転写因子を含む7種及び8種の転写因子をそれぞれ用いて、マウス及びヒト線維芽細胞を、直接、運動ニューロンへ転換させたことを報告している(非特許文献3)。さらに、2013年には、Mazzoniらが、Dox誘導性にNgn2、Isl-1及びLhx3を発現するマウスES細胞を用いて、迅速かつ効率よく運動ニューロンを得たことを報告している(非特許文献4)。
【0005】
しかしながら、これらの方法では、導入遺伝子は宿主ゲノムに組み込まれている。宿主ゲノムへのベクター遺伝子の組込みは、宿主細胞の挙動に影響する危険性を孕んでいる。Hesterらは、ヒトES細胞への遺伝子導入には、染色体への組込みが稀なアデノウイルスベクターを用いているが、目的細胞への分化/脱分化といった厳しい選択圧のかかる条件下では、本来は非常に稀なはずの組込み事象が顕在化する場合もある。また、導入遺伝子の持続的発現を得るために複数回の導入操作を必要とする(非特許文献2)。
さらに、ヒト細胞において機能的な運動ニューロンを誘導するには、これらの方法によっても依然として3〜4週間を要しており(非特許文献2、3)、また、シグナル伝達因子の組み合わせの異なる2〜3種の組成の培地を使用する必要がある(非特許文献2〜4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Dimos JT. et al., Science. 2008 Aug 29;321(5893): 1218-21.
【非特許文献2】Hester ME. et al., Mol Ther. 2011 Oct;19(10):1905 -12.
【非特許文献3】Son EY. et al., Cell Stem Cell. 2011 Sep 2;9(3): 205-18.
【非特許文献4】Mazzoni EO. et al., Nat Neurosci. 2013 Sep;16(9): 1219-27.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の課題は、外因性核酸の宿主ゲノムへの組込みのリスクがなく、ヒト細胞においても、簡便かつ迅速に多能性幹細胞から運動ニューロンへと分化させ得る新規な分化誘導法及び分化誘導剤を提供することであり、当該方法及び薬剤を用いて、MNDの表現型を再現する均質な多能性幹細胞由来運動ニューロン(MND PSC-MN)を樹立し、当該細胞におけるMND表現型の変化を指標とする、MND治療薬候補物質のより信頼性の高いスクリーニング手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を達成するために、原理的に宿主細胞ゲノムに組み込まれることのないセンダイウイルス(SeV)ベクターに着目し、まず既報にて共通して使用された3転写因子(Lhx3、Ngn2、及びIsl-1)をコードする核酸をそれぞれ別個に搭載した3種のSeVベクターを構築し、それらの1種以上をヒトiPS細胞に導入した。その結果、少なくともLhx3及びNgn2の2因子導入により、iPS細胞から運動ニューロンを誘導し得ることが明らかとなった。このことは、3因子をそれぞれ別個のベクターで導入した場合、得られる運動ニューロン集団の中には、Lhx3及びNgn2の2因子のみによって誘導された運動ニューロンが混在する可能性を示唆する。本発明者らは、かかる不均一性がMND PSC-MNの表現型にばらつきを生じる等の、インビトロMNDモデルとしての性能に影響を及ぼす懸念があると考えた。
【0009】
そこで、本発明者らは、より均質な多能性幹細胞由来運動ニューロンを得るために、Lhx3、Ngn2、及びIsl-1をコードする単一のSeVベクター(SeV-L-N-I)を設計し、ヒトiPS細胞及びヒトES細胞に導入したところ、該3因子をそれぞれ別個のベクターで導入した場合に比べて、ニューロンへの分化効率は低下したものの、ニューロン全体に占める運動ニューロンの割合は飛躍的に増大した。即ち、多能性幹細胞への3因子の導入を担保することにより、より均一に運動ニューロンへの分化挙動を示すことが明らかとなった。しかも、遺伝子導入時から実質的に単一の培地組成で培養することにより、導入後2日以内という極めて短期間のうちにHB9陽性の運動ニューロンに分化させることができた。さらに、SOD1又はTDP-43遺伝子に変異を有する家族性ALS患者及びマウスモデル由来のiPS細胞から、SeV-L-N-Iを用いて誘導された運動ニューロンは、いずれも元のALS表現型を示したことから、本法により得られるMND PSC-MNは、MNDのインビトロモデルとして有用であることが実証された。
本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]以下の工程を含む、多能性幹細胞から運動ニューロンを製造する方法:
(1) Lhx3をコードする核酸、Ngn2をコードする核酸及びIsl1をコードする核酸を含む、単一のセンダイウイルスベクターを多能性幹細胞に導入する工程、及び
(2) 該多能性幹細胞を2日間以上培養する工程。
[2]前記センダイウイルスベクターが、Lhx3をコードする核酸、Ngn2をコードする核酸及びIsl1をコードする核酸を、この順序で3’側から5’側に連続して含む、[1]記載の方法。
[3]前記培養工程が、全期間を通じて単一組成の運動ニューロン分化シグナル因子を含む培地中で行われる、[1]又は[2]記載の方法。
[4]前記運動ニューロン分化シグナル因子が、レチノイン酸、ソニックヘッジホッグ(SHH)シグナル刺激剤及び神経栄養因子を含む、[3]記載の方法。
[5]得られるニューロン全体に占める運動ニューロンの割合が60%以上である、[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[6]前記多能性幹細胞が運動ニューロン病の表現型を示す動物由来である、[1]〜[5]のいずれかに記載の方法。
[7]前記運動ニューロン病が筋萎縮性側索硬化症(ALS)である、[6]記載の方法。
[8]前記多能性幹細胞がES細胞又はiPS細胞である、[1]〜[7]のいずれかに記載の方法。
[9]前記多能性幹細胞がヒト又はマウス由来である、[1]〜[8]のいずれかに記載の方法。
[10]前記多能性幹細胞がALS患者由来のiPS細胞である、[9]記載の方法。
[11][1]〜[10]のいずれかに記載の方法により得られる運動ニューロン集団。
[12][6]〜[10]のいずれかに記載の方法により得られる、運動ニューロン病の表現型を再現する運動ニューロン集団。
[13]Lhx3をコードする核酸、Ngn2をコードする核酸及びIsl1をコードする核酸を含む、センダイウイルスベクター。
[14]Lhx3をコードする核酸、Ngn2をコードする核酸及びIsl1をコードする核酸を、この順序で3’側から5’側に連続して含む、[13]記載のベクター。
[15][13]又は[14]記載のベクターを含む、多能性幹細胞からの運動ニューロン分化誘導剤。
[16]以下の工程を含む、運動ニューロン病の治療薬候補物質のスクリーニング方法:
(1) [12]記載の運動ニューロン集団に被検物質を接触させる工程、
(2) 前記細胞集団における運動ニューロン病の表現型の程度を測定する工程、及び
(3) 被検物質を接触させなかった場合と比較して、該表現型の程度を改善した被検物質を運動ニューロン病の治療薬候補物質として選択する工程。
[17]前記運動ニューロン病がALSである、[16]記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、導入遺伝子やベクター由来の核酸が宿主細胞ゲノムへ組み込まれないので、ゲノムの擾乱により宿主細胞の挙動に影響を与えるおそれがない。さらに、本発明によれば、Lhx3、Ngn2及びIsl1の3因子が一括して導入されるので、各因子の導入率に細胞間でばらつきが生じないため、該3因子の発現により分化誘導された均質な運動ニューロン集団を得ることができる。従って、本発明の方法により誘導されるMND PSC-MNは、遺伝子導入の影響や細胞の不均一性といった問題が排除された、従来法により提供されるものに比べてより信頼性の高いMNDのインビトロモデルであり得る。
加えて、本発明によれば、培養途中で実質的に培地組成を変更することなく、極めて短期間にヒト多能性幹細胞から運動ニューロンへと分化させることができ、従来法よりも簡便性及び迅速性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】3つの別々のセンダイウイルスベクターによる運動ニューロンの誘導を示す図である。(a) SeV-Lhx3、SeV-Ngn2及びSeV-Isl1を用いた、HB9-EGFP ノックインヒトiPS細胞から運動ニューロン(MN)を作製するための実験手順のアウトライン。(b)iPS細胞由来の運動ニューロンの、HB9及びChAT(運動ニューロンマーカー)、並びにTuj1及びMAP2(ニューロンマーカー)に対する免疫蛍光染色(上段、下段はそれぞれ同一視野であり、一番右が各染色像とDAPI染色された核とのマージを示す)。スケールバー=20 μm 。(c)0日目及び14日目における分化した細胞の、運動ニューロンマーカー(HB9及びChAT)並びにニューロンマーカー(MAP2)に対するqPCR解析。スチューデントt検定を統計学的比較に用いた。*p<0.05。エラーバーはSEM、n=3である。
図2】3つのSeVベクターの組合せ間の比較を示す図である。(a)SeV-Lhx3 (L)、SeV-Ngn2 (N)、及びSeV-Isl1 (I)の様々な組み合わせによって分化させた細胞の、HB9(上段)及びTuj1(中段)に対する免疫蛍光染色;下段はこれらとDAPI染色された核のマージを示す。スケールバー=40 μm 。(b)転写因子の様々な組み合わせにより得られたHB9陽性(運動ニューロン;左)及びTuj1陽性(ニューロン;右)細胞の割合。データは、一元配置分散分析及びDunnetteの事後比較解析により解析した。*p<0.05。エラーバーはSEM、n=3である。
図3】SeV-Lhx3-Ngn2-Isl1による運動ニューロンの誘導及び機能解析を示す図である。(a)単一のベクター、SeV-Lhx3-Ngn2-Isl1 (SeV-L-N-I)を用いた、HB9-EGFP ノックインヒトiPS細胞から運動ニューロンを作製するための実験手順のアウトライン。(b)単一ベクターによって誘導された細胞の、HB9、Tuj1、MAP2及びChATに対する免疫蛍光染色(上段、下段はそれぞれ同一視野であり、一番右が各染色像とDAPI染色された核とのマージを示す)、並びに得られたHB9陽性(運動ニューロン;左)及びTuj1陽性(ニューロン;右)細胞の割合。エラーバーはSEMである。(c)0日目及び14日目における分化した細胞の、HB9、ChAT及びMAP2に対するqPCR解析。スチューデントt検定を統計学的比較に用いた。*p<0.05。エラーバーはSEM、n=3である。(d)自発性活動電位のカレントクランプ記録。(e)運動ニューロンについてのGFP及びアセチルコリン受容体についてのα-ブンガロトキシンに対する二重免疫染色。スケールバー=10 μm 。
図4】ヒト及びマウスiPS細胞から分化した細胞におけるニューロンマーカー及び運動ニューロンマーカーの発現を示す図である。(a-b) SeV-L-N-Iを介して誘導された細胞における(a)HB9(上段)及びTuj1(中段)、(b)ChAT(上段)及びTuj1(中段)の免疫蛍光染色(下段は各染色像とDAPI染色された核とのマージを示す)。ヒトiPS細胞株は正常人(対照)、SOD1-ALS患者、及びTDP-43-ALS患者由来である。マウスiPS細胞株は、正常マウス(対照)、変異SOD1遺伝子導入マウス、及び変異TDP-43遺伝子導入マウス由来である。スケールバー=20 μm 。
図5】SeV-L-N-Iにより、SOD1-ALS及びTDP-43-ALS iPS細胞から誘導された運動ニューロンの表現型を示す図である。(a)ミスフォールドしたSOD1及びTuj1に対して免疫染色された対照及びSOD1-ALSマウスiPS細胞由来の運動ニューロン。スケールバー=10 μm 。(b)対照及びTDP-43-ALSマウスiPS細胞由来の運動ニューロンがTDP-43及びTuj1に対して免疫染色された。(c)対照及びALS(SOD1-ALS)患者iPS細胞由来の運動ニューロンが、ミスフォールドしたSOD1及びTuj1に対して免疫染色された。スケールバー=10 μm 。(d)対照及びALS(TDP43-ALS)患者iPS細胞由来の運動ニューロンが、TDP-43及びTuj1に対して免疫染色された。スケールバー=10 μm。
図6】SeV-L-N-IによるヒトES細胞から運動ニューロンへの誘導を示す図である。(a)単一のベクター、SeV-L-N-Iを用いて、H9 ES細胞において運動ニューロンを作製するための実験手順のアウトライン。(b)運動ニューロンマーカー(HB9及びChAT)並びにニューロンマーカー(Tuj1及びMAP2)の発現を示す免疫蛍光染色(上段、下段はそれぞれ同一視野であり、一番右が各染色像とDAPI染色された核とのマージを示す)。スケールバー=20μm 。(c)0日目及び14日目における分化した細胞の、運動ニューロンマーカー(HB9及びChAT)並びにニューロンマーカー(MAP2)に対するqPCR解析。スチューデントt検定を統計学的比較に用いた。0日目に対し、*p<0.05。エラーバーはSEM、n=3である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<運動ニューロンまたは神経細胞の製造方法>
本発明は、多能性幹細胞から運動ニューロンを製造する方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう。)を提供する。当該方法は、以下の工程:
(1) Lhx3をコードする核酸、Ngn2をコードする核酸及びIsl1をコードする核酸を含む、単一のセンダイウイルスベクターを多能性幹細胞に導入する工程、及び
(2) 該多能性幹細胞を2日間以上培養する工程
を含む。
【0014】
1.多能性幹細胞
本発明において、多能性幹細胞とは、生体に存在するすべての細胞に分化可能である多能性を有し、かつ、増殖能をも併せもつ幹細胞であり、特に限定されないが、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、核移植により得られるクローン胚由来の胚性幹細胞(ntES細胞)、精子幹細胞(GS細胞)、胚性生殖細胞(EG細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、培養線維芽細胞や骨髄幹細胞由来の多能性細胞(Muse細胞)などが含まれる。好ましい多能性幹細胞は、ES細胞及びiPS細胞である。多能性幹細胞の由来は特に制限されず、例えば、下記のいずれかの多能性幹細胞の樹立が報告されている任意の動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒト及びマウス等があげられる。
【0015】
(A) 胚性幹細胞(ES細胞)
ES細胞は、受精卵の8細胞期、桑実胚後の胚である胚盤胞の内部細胞塊に由来する胚由来の幹細胞であり、成体を構成するあらゆる細胞に分化する能力、いわゆる分化多能性と、自己複製による増殖能とを有している。ES細胞は、マウスで1981年に発見され(M.J. Evans and M.H. Kaufman (1981), Nature 292:154-156)、その後、ヒト、サルなどの霊長類でもES細胞株が樹立されている(J.A. Thomson et al. (1998), Science 282:1145-1147; J.A. Thomson et al. (1995), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92:7844-7848;J.A. Thomson et al. (1996), Biol. Reprod., 55:254-259; J.A. Thomson and V.S. Marshall (1998), Curr. Top. Dev. Biol., 38:133-165)。
【0016】
ES細胞は、対象動物の受精卵の胚盤胞から内部細胞塊を取出し、内部細胞塊を線維芽細胞のフィーダー上で培養することによって樹立することができる。また、継代培養による細胞の維持は、白血病抑制因子(leukemia inhibitory factor (LIF))、塩基性線維芽細胞成長因子(basic fibroblast growth factor (bFGF))などの物質を添加した培養液を用いて行うことができる。ヒトおよびサルのES細胞の樹立と維持の方法については、例えばUSP5,843,780; Thomson JA, et al. (1995), Proc Natl. Acad. Sci. U S A. 92:7844-7848; Thomson JA, et al. (1998), Science. 282:1145-1147; H. Suemori et al. (2006),Biochem. Biophys. Res. Commun., 345:926-932; M. Ueno et al. (2006), Proc. Natl.Acad. Sci. USA, 103:9554-9559; H. Suemori et al. (2001), Dev. Dyn., 222:273-279;H. Kawasaki et al. (2002), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99:1580-1585;Klimanskaya I, et al. (2006), Nature. 444:481-485などに記載されている。
【0017】
ES細胞作製のための培養液として、例えば0.1mM 2-メルカプトエタノール、0.1mM 非必須アミノ酸、2mM L-グルタミン酸、20% KSRおよび4ng/ml bFGFを補充したDMEM/F-12培養液を使用し、37℃、2% CO2/98% 空気の湿潤雰囲気下でヒトES細胞を維持することができる(O. Fumitaka et al. (2008), Nat. Biotechnol., 26:215-224)。また、ES細胞は、3〜4日おきに継代する必要があり、このとき、継代は、例えば1mM CaCl2および20% KSRを含有するPBS中の0.25% トリプシンおよび0.1mg/mlコラゲナーゼIVを用いて行うことができる。
【0018】
ES細胞の選択は、一般に、アルカリホスファターゼ、Oct-3/4、Nanogなどの遺伝子マーカーの発現を指標にしてReal-Time PCR法で行うことができる。特に、ヒトES細胞の選択では、OCT-3/4、NANOG、ECADなどの遺伝子マーカーの発現を指標とすることができる(E. Kroon et al. (2008), Nat. Biotechnol., 26:443-452)。
【0019】
ヒトES細胞株は、例えば、WA01(H1)及びWA09(H9)であれば、WiCell Reserch Instituteから、KhES-1、KhES-2及びKhES-3は、京都大学再生医科学研究所(京都、日本)から入手可能である。
【0020】
(B) 精子幹細胞
精子幹細胞は、精巣由来の多能性幹細胞であり、精子形成のための起源となる細胞である。この細胞は、ES細胞と同様に、種々の系列の細胞に分化誘導可能であり、例えばマウス胚盤胞に移植するとキメラマウスを作出できるなどの性質をもつ(M. Kanatsu-Shinohara et al. (2003) Biol. Reprod., 69:612-616; K. Shinohara et al. (2004), Cell, 119:1001-1012)。神経膠細胞系由来神経栄養因子(glial cell line-derived neurotrophic factor (GDNF))を含む培養液で自己複製可能であるし、またES細胞と同様の培養条件下で継代を繰り返すことによって、精子幹細胞を得ることができる(竹林正則ら(2008),実験医学,26巻,5号(増刊),41〜46頁,羊土社(東京、日本))。
【0021】
(C) 胚性生殖細胞
胚性生殖細胞は、胎生期の始原生殖細胞から樹立される、ES細胞と同様な多能性をもつ細胞であり、LIF、bFGF、幹細胞因子(stem cell factor)などの物質の存在下で始原生殖細胞を培養することによって樹立しうる(Y. Matsui et al. (1992), Cell, 70:841-847; J.L. Resnick et al. (1992), Nature, 359:550-551)。
【0022】
(D) 人工多能性幹細胞(iPS細胞)
iPS細胞は、特定の初期化因子を、DNA又はタンパク質の形態で体細胞に導入することによって作製することができる、ES細胞とほぼ同等の特性、例えば分化多能性と自己複製による増殖能、を有する体細胞由来の人工の幹細胞である(K. Takahashi and S. Yamanaka(2006) Cell, 126:663-676; K. Takahashi et al. (2007), Cell, 131:861-872; J. Yu et al. (2007), Science, 318:1917-1920; Nakagawa, M.ら,Nat. Biotechnol. 26:101-106 (2008);国際公開WO 2007/069666)。
【0023】
本明細書中で使用する「体細胞」なる用語は、卵子、卵母細胞、ES細胞などの生殖系列細胞または分化全能性細胞を除くあらゆる動物細胞(好ましくは、ヒトを含む哺乳動物細胞)をいう。体細胞には、非限定的に、胎児(仔)の体細胞、新生児(仔)の体細胞、および成熟した健全なもしくは疾患性の体細胞のいずれも包含されるし、また、初代培養細胞、継代細胞、および株化細胞のいずれも包含される。具体的には、体細胞は、例えば(1)神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)、(2)組織前駆細胞、(3)リンパ球、上皮細胞、内皮細胞、筋肉細胞、線維芽細胞(皮膚細胞等)、毛細胞、肝細胞、胃粘膜細胞、腸細胞、脾細胞、膵細胞(膵外分泌細胞等)、脳細胞、肺細胞、腎細胞および脂肪細胞等の分化した細胞などが例示される。
【0024】
また、運動ニューロン病(MND)のモデル細胞を作製するという観点から、MND患者由来の体細胞を用いてiPS細胞を製造してもよい。ここで、「運動ニューロン病(MND)」とは、運動ニューロンの変性を起こす病気のことであり、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄性筋萎縮症(SMA)、および球脊髄性筋萎縮症(SBMA)などが例示される。例えば、ALS患者の体細胞とは、SOD1遺伝子やTDP-43遺伝子に変異がある体細胞が例示され、より詳細には、G93A、G93S、H46R及びL144FVXなどのSOD1遺伝子の変異や、M337V、Q343R及びA315TなどのTDP-43遺伝子の変異が挙げられるが、特にこれらに限定されない。
【0025】
初期化因子は、ES細胞に特異的に発現している遺伝子、その遺伝子産物もしくはnon-cording RNAまたはES細胞の未分化維持に重要な役割を果たす遺伝子、その遺伝子産物もしくはnon-cording RNA、あるいは低分子化合物によって構成されてもよい。初期化因子に含まれる遺伝子として、例えば、Oct3/4、Sox2、Sox1、Sox3、Sox15、Sox17、Klf4、Klf2、c-Myc、N-Myc、L-Myc、Nanog、Lin28、Fbx15、ERas、ECAT15-2、Tcl1、beta-catenin、Lin28b、Sall1、Sall4、Esrrb、Nr5a2、Tbx3またはGlis1等が例示され、これらの初期化因子は、単独で用いても良く、組み合わせて用いても良い。初期化因子の組み合わせとしては、WO2007/069666、WO2008/118820、WO2009/007852、WO2009/032194、WO2009/058413、WO2009/057831、WO2009/075119、WO2009/079007、WO2009/091659、WO2009/101084、WO2009/101407、WO2009/102983、WO2009/114949、WO2009/117439、WO2009/126250、WO2009/126251、WO2009/126655、WO2009/157593、WO2010/009015、WO2010/033906、WO2010/033920、WO2010/042800、WO2010/050626、WO 2010/056831、WO2010/068955、WO2010/098419、WO2010/102267、WO 2010/111409、WO 2010/111422、WO2010/115050、WO2010/124290、WO2010/147395、WO2010/147612、Huangfu D, et al. (2008), Nat. Biotechnol., 26: 795-797、Shi Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 2: 525-528、Eminli S, et al. (2008), Stem Cells. 26:2467-2474、Huangfu D,et al. (2008), Nat Biotechnol. 26:1269-1275、Shi Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 3, 568-574、Zhao Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 3:475-479、Marson A, (2008), Cell Stem Cell, 3, 132-135、Feng B, et al. (2009), Nat Cell Biol. 11:197-203、R.L. Judson et al., (2009), Nat. Biotech., 27:459-461、Lyssiotis CA, et al. (2009), Proc Natl Acad Sci U S A. 106:8912-8917、Kim JB, et al. (2009), Nature. 461:649-643、Ichida JK, et al. (2009), Cell Stem Cell. 5:491-503、Heng JC, et al. (2010), Cell Stem Cell. 6:167-74、Han J, et al. (2010), Nature. 463:1096-100、Mali P, et al. (2010), Stem Cells. 28:713-720、Maekawa M, et al. (2011), Nature. 474:225-9.に記載の組み合わせが例示される。
【0026】
上記初期化因子には、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤[例えば、バルプロ酸 (VPA)、トリコスタチンA、酪酸ナトリウム、MC 1293、M344等の低分子阻害剤、HDACに対するsiRNAおよびshRNA(例、HDAC1 siRNA Smartpool (登録商標)(Millipore)、HuSH 29mer shRNA Constructs against HDAC1 (OriGene)等)等の核酸性発現阻害剤など]、MEK阻害剤(例えば、PD184352、PD98059、U0126、SL327およびPD0325901)、Glycogen synthase kinase-3阻害剤(例えば、BioおよびCHIR99021)、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば、5-azacytidine)、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば、BIX-01294 等の低分子阻害剤、Suv39hl、Suv39h2、SetDBlおよびG9aに対するsiRNAおよびshRNA等の核酸性発現阻害剤など)、L-channel calcium agonist (例えばBayk8644)、酪酸、TGFβ阻害剤またはALK5阻害剤(例えば、LY364947、SB431542、616453およびA-83-01)、p53阻害剤(例えばp53に対するsiRNAおよびshRNA)、ARID3A阻害剤(例えば、ARID3Aに対するsiRNAおよびshRNA)、miR-291-3p、miR-294、miR-295およびmir-302などのmiRNA、Wnt Signaling activator(例えばsoluble Wnt3a)、神経ペプチドY、プロスタグランジン類(例えば、プロスタグランジンE2およびプロスタグランジンJ2)、hTERT、SV40LT、UTF1、IRX6、GLISl、PITX2、DMRTBl等の樹立効率を高めることを目的として用いられる因子も含まれており、本明細書においては、これらの樹立効率の改善目的にて用いられた因子についても初期化因子と別段の区別をしないものとする。
【0027】
初期化因子は、タンパク質の形態の場合、例えばリポフェクション、細胞膜透過性ペプチド(例えば、HIV由来のTATおよびポリアルギニン)との融合、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入してもよい。
【0028】
一方、DNAの形態の場合、例えば、ウイルス、プラスミド、人工染色体などのベクター、リポフェクション、リポソーム、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入することができる。ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター(以上、Cell, 126, pp.663-676, 2006; Cell, 131, pp.861-872, 2007; Science, 318, pp.1917-1920, 2007)、アデノウイルスベクター(Science, 322, 945-949, 2008)、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスベクター(WO 2010/008054)などが例示される。導入遺伝子の宿主染色体への組込みのないiPS細胞由来運動ニューロンを提供するという本発明の目的に照らせば、該iPS細胞もまた、初期化遺伝子の染色体への組込みなしに樹立されることが望ましい。かかる目的のためには、原理的に染色体への組込みがないRNA細胞質型ベクターであるセンダイウイルスベクターや、組込みが稀であるか比較的低頻度なアデノウイルスベクターもしくはアデノ随伴ウイルスベクターの使用が適しているが、これらに限定されるものではない。また、人工染色体ベクターとしては、例えばヒト人工染色体(HAC)、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC、PAC)などが含まれる。プラスミドとしては、哺乳動物細胞用プラスミドを使用しうる(Science, 322:949-953, 2008)。ベクターには、核初期化物質が発現可能なように、プロモーター、エンハンサー、リボゾーム結合配列、ターミネーター、ポリアデニル化サイトなどの制御配列を含むことができるし、さらに、必要に応じて、薬剤耐性遺伝子(例えばカナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子など)、チミジンキナーゼ遺伝子、ジフテリアトキシン遺伝子などの選択マーカー配列、緑色蛍光タンパク質(GFP)、βグルクロニダーゼ(GUS)、FLAGなどのレポーター遺伝子配列などを含むことができる。また、上記ベクターには、体細胞への導入後、初期化因子をコードする遺伝子もしくはプロモーターとそれに結合する初期化因子をコードする遺伝子を共に切除するために、それらの前後にLoxP配列を有してもよい。
【0029】
別の好ましい一実施態様においては、トランスポゾンを用いて染色体に導入遺伝子を組み込んだ後に、プラスミドベクターもしくはアデノウイルスベクターを用いて細胞に転移酵素を作用させ、導入遺伝子を完全に染色体から除去する方法が用いられ得る。好ましいトランスポゾンとしては、例えば、鱗翅目昆虫由来のトランスポゾンであるpiggyBac等が挙げられる(Kaji, K. et al., (2009), Nature, 458: 771-775、Woltjen et al., (2009), Nature, 458: 766-770、WO 2010/012077)。さらに、ベクターには、染色体への組み込みがなくとも複製されて、エピソーマルに存在するように、リンパ指向性ヘルペスウイルス(lymphotrophic herpes virus)、BKウイルスおよび牛乳頭腫(Bovine papillomavirus)の起点とその複製に係る配列を含んでいてもよい。例えば、EBNA-1およびoriPもしくはLarge TおよびSV40 ori配列を含むことが挙げられる(WO 2009/115295、WO 2009/157201、WO 2009/149233、WO 2011/016588)。初期化効率をさらに高めるために、初期化遺伝子を搭載したエピソーマルベクターとは別に、EBNA-1をトランスに供給する別のプラスミドを共導入してもよい(WO 2013/176233)。また、複数の核初期化物質を同時に導入するために、ポリシストロニックに発現させる発現ベクターを用いてもよい。ポリシストロニックに発現させるためには、遺伝子をコードする配列の間は、IRESまたは口蹄疫ウイルス(FMDV)2Aコード領域により結合されていてもよい(Science, 322:949-953, 2008およびWO 2009/092042、WO 2009/152529)。
【0030】
また、RNAの形態の場合、例えばリポフェクション、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入しても良く、分解を抑制するため、5-メチルシチジンおよびpseudouridine (TriLink Biotechnologies)を取り込ませたRNAを用いても良い(Warren L, (2010) Cell Stem Cell. 7:618-630)。
【0031】
iPS細胞誘導のための培養液としては、例えば、10〜15%FBSを含有するDMEM、DMEM/F12又はDME培養液(これらの培養液にはさらに、LIF、penicillin/streptomycin、puromycin、L-グルタミン、非必須アミノ酸類、β-メルカプトエタノールなどを適宜含むことができる。)または市販の培養液[例えば、マウスES細胞培養用培養液(TX-WES培養液、THROMBO X)、霊長類ES細胞培養用培養液(霊長類ES/iPS細胞用培養液、ReproCELL)、無血清培地(mTeSR、Stemcell Technology)]などが含まれる。
【0032】
培養法の例としては、たとえば、37℃、5%CO2存在下にて、10%FBS含有DMEM又はDMEM/F12培養液上で体細胞と初期化因子とを接触させ約4〜7日間培養し、その後、細胞をフィーダー細胞(たとえば、マイトマイシンC処理STO細胞、SNL細胞等)上にまきなおし、体細胞と初期化因子の接触から約10日後からbFGF含有霊長類ES細胞培養用培養液で培養し、該接触から約30〜約45日又はそれ以上ののちにiPS様コロニーを生じさせることができる。
【0033】
あるいは、37℃、5% CO2存在下にて、フィーダー細胞(たとえば、マイトマイシンC処理STO細胞、SNL細胞等)上で10%FBS含有DMEM培養液(これにはさらに、LIF、ペニシリン/ストレプトマイシン、ピューロマイシン、L-グルタミン、非必須アミノ酸類、β-メルカプトエタノールなどを適宜含むことができる。)で培養し、約25〜約30日又はそれ以上ののちにES様コロニーを生じさせることができる。望ましくは、フィーダー細胞の代わりに、初期化される体細胞そのものを用いる(Takahashi K, et al. (2009), PLoS One. 4:e8067またはWO2010/137746)、もしくは細胞外基質(例えば、Laminin-5(WO2009/123349)およびマトリゲル(BD社))を用いる方法が例示される。
【0034】
この他にも、血清を含有しない培地を用いて培養する方法も例示される(Sun N, et al. (2009), Proc Natl Acad Sci U S A. 106:15720-15725)。さらに、樹立効率を上げるため、低酸素条件(0.1%以上、15%以下の酸素濃度)によりiPS細胞を樹立しても良い(Yoshida Y, et al. (2009), Cell Stem Cell. 5:237-241またはWO2010/013845)。
【0035】
上記培養の間には、培養開始2日目以降から毎日1回新鮮な培養液と培養液交換を行う。また、核初期化に使用する体細胞の細胞数は、限定されないが、培養ディッシュ100cm2あたり約5×103〜約5×106細胞の範囲である。
【0036】
iPS細胞は、形成したコロニーの形状により選択することが可能である。一方、体細胞が初期化された場合に発現する遺伝子(例えば、Oct3/4、Nanog)と連動して発現する薬剤耐性遺伝子をマーカー遺伝子として導入した場合は、対応する薬剤を含む培養液(選択培養液)で培養を行うことにより樹立したiPS細胞を選択することができる。また、マーカー遺伝子が蛍光タンパク質遺伝子の場合は蛍光顕微鏡で観察することによって、発光酵素遺伝子の場合は発光基質を加えることによって、また発色酵素遺伝子の場合は発色基質を加えることによって、iPS細胞を選択することができる。
【0037】
(E) 核移植により得られたクローン胚由来のES細胞(ntES細胞)
ntES細胞は、核移植技術によって作製されたクローン胚由来のES細胞であり、受精卵由来のES細胞とほぼ同じ特性を有している(T. Wakayama et al. (2001), Science, 292:740-743; S. Wakayama et al. (2005), Biol. Reprod., 72:932-936; J. Byrne et al. (2007), Nature, 450:497-502)。すなわち、未受精卵の核を体細胞の核と置換することによって得られたクローン胚由来の胚盤胞の内部細胞塊から樹立されたES細胞がntES(nuclear transfer ES)細胞である。ntES細胞の作製のためには、核移植技術(J.B. Cibelli et al. (1998), Nature Biotechnol., 16:642-646)とES細胞作製技術(上記)との組み合わせが利用される(若山清香ら(2008),実験医学,26巻,5号(増刊), 47〜52頁)。核移植においては、哺乳動物の除核した未受精卵に、体細胞の核を注入し、数時間培養することで初期化することができる。
【0038】
(F) Multilineage-differentiating Stress Enduring cells(Muse細胞)
Muse細胞は、WO2011/007900に記載された方法にて製造された多能性幹細胞であり、詳細には、線維芽細胞または骨髄間質細胞を長時間トリプシン処理、好ましくは8時間または16時間トリプシン処理した後、浮遊培養することで得られる多能性を有した細胞であり、SSEA-3およびCD105が陽性である。
【0039】
本発明において、MNDの病態モデル細胞を作製するという観点から、MND患者の体細胞から誘導したiPS細胞に加えて、MNDの原因となる遺伝子を導入した多能性幹細胞を用いることもできる。原因となる遺伝子としては、ALSの場合、SOD1、C9ORF72、TDP-43、FUS、PRN1、EPH4N、ANG、UBQLNおよびHNPNPAが例示され、これらの変異遺伝子を多能性幹細胞へ導入することができる。例えば、変異型SOD1(A4V、G37R、G41D、H46R、G85R、D90A、G93A、G93S、I112T、I113T、L114FまたはS134N変異が例示される)、変異型TDP-43(M337V、Q343R、A315T変異が例示される)を導入して得られた多能性幹細胞が挙げられる。また、SBMAの場合、CAGリピートが異常延長した変異アンドロゲン受容体(AR)遺伝子、SMAの場合、第7及び第8エクソン領域の欠失したSMN1遺伝子を導入して得られた多能性幹細胞が挙げられる。
【0040】
2.運動ニューロン分化因子(Lhx3、Ngn2及びIsl1)をコードする核酸
本発明の製造方法の工程(1)において、Lhx3、Ngn2及びIsl1(以下、「本発明の運動ニューロン分化因子(MN化因子)」と総称することもある。)をコードする核酸が上記の多能性幹細胞に導入される。
本発明において、Lhx3をコードする核酸とは、LIM homeobox 3として知られるタンパク質をコードする核酸であれば特に制限はなく、例えばNCBIデータベースにアクッセッション番号:NM_001039653(マウス)又はNM_014564若しくはNM_178138(ヒト)として登録されているポリヌクレオチド、その転写変異体、スプライシング変異体及びそれらのオルソログ、並びにこれらの核酸の相補鎖配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズすることができる程度の相補関係を有するものであってよい。
【0041】
本発明において、Ngn2をコードする核酸とは、Neurogenin 2として知られるタンパク質をコードする核酸であれば特に制限はなく、例えば、NCBIデータベースにアクッセッション番号:NM_009718(マウス)、若しくはNM_024019(ヒト)として登録されているポリヌクレオチド、その転写変異体、スプライシング変異体及びそれらのオルソログ、並びにこれらの核酸の相補鎖配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズすることができる程度の相補関係を有するものであってよい。
【0042】
本発明において、Isl1をコードする核酸とは、Islet 1として知られるタンパク質をコードする核酸であれば特に制限はなく、例えば、NCBIタンパク質をコードする核酸であれば特に制限はなく、例えばアクッセッション番号:NM_021459(マウス)、若しくはNM_002202(ヒト)として登録されているポリヌクレオチド、その転写変異体、スプライシング変異体及びそれらのオルソログ、並びにこれらの核酸の相補鎖配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズすることができる程度の相補関係を有するものであってよい。
【0043】
なお、ここで「ストリンジェントな条件」とは、Berger and Kimmel(1987, Guide to Molecular Cloning Techniques Methods in Enzymology, Vol.152, Academic Press, San Diego CA)に教示されるように、複合体或いはプローブを結合する核酸の融解温度(Tm)に基づいて決定することができる。例えばハイブリダイズ後の洗浄条件として、通常「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度の条件を挙げることができる。相補鎖はかかる条件で洗浄しても対象とする正鎖とハイブリダイズ状態を維持するものであることが好ましい。特に制限されないが、より厳しいハイブリダイズ条件として「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」程度の洗浄条件、さらに厳しくは「0.1×SSC、0.1%SDS、65℃」程度の洗浄条件で洗浄しても正鎖と相補鎖とがハイブリダイズ状態を維持する条件を挙げることができる。具体的には、このような相補鎖として、対象の正鎖の塩基配列と完全に相補的な関係にある塩基配列からなる鎖、並びに該鎖と少なくとも90%、好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、いっそう好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上の同一性を有する塩基配列からなる鎖を例示することができる。
【0044】
MN化因子(Lhx3、Ngn2、Isl1)をコードする核酸は、DNAであっても、RNAであってもよい。好ましくは、二本鎖DNAまたは一本鎖RNAである。例えば、センダイウイルスベクターの再構成のための鋳型となるcDNAの場合、Lhx3、Ngn2、又はIsl1をコードする核酸は二本鎖DNAの形態であり、実際に多能性幹細胞に導入されるセンダイウイルスベクター(エンベロープタンパク質を含むウイルス粒子の形態の他、ゲノムRNAとNP、P及びLタンパク質からなるRNP複合体をも包含する。)上においては、これらMN化因子をコードする核酸は
マイナス鎖RNAの形態であり、導入された細胞内で該ベクターから個々に転写されるLhx3、Ngn2、又はIsl1をコードする核酸は、プラス鎖RNAの形態である。
【0045】
より具体的には、本発明のMN化因子をコードする核酸は、後述の実施例に記載されるpAd/PL-DESTベクター中に挿入されたマウス由来のLhx3 cDNA(配列番号1)、Ngn2 cDNA(配列番号3)、Isl1 cDNA(配列番号5)が挙げられる。尚、本発明においてはMN化因子の導入にセンダイウイルスベクターを使用するので、MN化因子をコードする核酸は、マイナス鎖RNAに転写された場合に、転写終結シグナル(E)配列が該核酸配列の内部に生じないように、かつMN化因子の機能が損なわれないように、該核酸配列中のヌクレオチドの一部に変異を導入する必要がある場合がある。また、プラス鎖配列中に6個以上Aが連続した領域があると、SeVベクター上の該当部位に変異が生じ易いため、当該領域内にサイレント変異を導入してAの連続が5個以下となるように改変することが望ましい。例えば、配列番号5で表されるIsl1 cDNAの30番目のAをGに置換することなどが挙げられる。
【0046】
一実施態様において、Lhx3、Ngn2及びIsl1をコードする核酸に加えて、該3因子による運動ニューロン誘導を阻害しない限り(好ましくは、該3因子による運動ニューロン誘導効率を改善する)、任意の他のタンパク性因子をコードする核酸を多能性幹細胞に導入してもよい。このような追加のMN化因子としては、例えば、Ascl1、Brn2、Myt1l及びHB9をコードする核酸などが挙げられる。
【0047】
3.センダイウイルスベクター
本発明のMN化因子(Lhx3、Ngn2及びIsl1)をコードする核酸は、一緒に単一のセンダイウイルスベクター中に挿入される。
本明細書において、ウイルスベクターとは、当該ウイルスに由来するゲノム核酸を有し、該核酸に導入遺伝子を組み込むことにより、該遺伝子を発現させることができるベクターを意味する。
センダイウイルスは、モノネガウイルス目(Mononegavirales)ウイルスの1つでパラミクソウイルス科(Paramyxoviridae; Paramyxovirus, Morbillivirus, Rubulavirus, およびPnemovirus属等を含む)に属し、一本のマイナス鎖(ウイルス蛋白質をコードするセンス鎖に対するアンチセンス鎖)のRNAをゲノムとして含んでいる。マイナス鎖RNAはネガティブ鎖RNAとも呼ばれる。センダイウイルスベクターは、染色体非組み込み型ウイルスベクターであって、ベクターは細胞質中で発現されるので、導入遺伝子が宿主の染色体に組み込まれる危険性がない。従って安全性が高く、また目的達成後に導入細胞からベクターを除去することが可能である。
【0048】
本発明におけるセンダイウイルスベクターには、感染性ウイルス粒子の他、ウイルスコア、ウイルスゲノムとウイルス蛋白質との複合体、または非感染性ウイルス粒子などからなる複合体であって、細胞に導入することにより搭載する遺伝子を発現する能力を持つ複合体が含まれる。例えば、センダイウイルスゲノムとそれに結合するセンダイウイルス蛋白質(NP、P、およびL蛋白質)からなるリボヌクレオ蛋白質(ウイルスのコア部分)は、細胞に導入することにより該細胞内で導入遺伝子を発現することができる(WO 00/70055に開示)。細胞への導入は、適宜トランスフェクション試薬等を用いて行えばよい。従って、このようなリボヌクレオ蛋白質(RNP)も本発明におけるセンダイウイルスベクターに含まれる。
【0049】
センダイウイルスのゲノムは、3’端から5’端に向けて順に、NP(ヌクレオキャプシド)遺伝子、P(ホスホ)遺伝子、M(マトリックス)遺伝子、F(フュージョン)遺伝子、HN(赤血球凝集素/ノイラミニダーゼ)遺伝子、及びL(ラージ)遺伝子が含まれている。このうち、センダイウイルスは、NP遺伝子、P遺伝子、およびL遺伝子があればベクターとして十分機能でき、細胞中でゲノムを複製し、搭載されている遺伝子(本発明においては、Lhx3、Ngn2、及びIsl-1)を発現させることができる。なお、センダイウイルスは、マイナス鎖RNAをゲノムに持つことから、通常とは逆で、ゲノムの3’側が上流にあたり、5’側が下流にあたる。
【0050】
センダイウイルスの上記各遺伝子の塩基配列のデータベースのアクセッション番号は、例えばNP遺伝子については、M29343,M30202,M30203,M30204,M51331,M55565,M69046,X17218、P遺伝子については、M30202,M30203,M30204,M55565,M69046,X00583,X17007,X17008、M遺伝子については、D11446,K02742,M30202,M30203,M30204,M69046,U31956,X00584,X53056、F遺伝子については、D00152,D11446,D17334,D17335,M30202,M30203,M30204,M69046,X00152,X02131、HN遺伝子については、D26475,M12397,M30202,M30203,M30204,M69046,X00586,X02808,X56131、L遺伝子については、D00053,M30202,M30203,M30204,M69040,X00587,X58886を参照することにより特定することができる。
但し、センダイウイルスには複数の株が知られており、株の違いにより上記に例示した以外の配列からなる遺伝子も存在する。これらのいずれかの遺伝子に由来するウイルス遺伝子を持つセンダイウイルスベクターもまた、本発明におけるセンダイウイルスベクターとして有用である。例えば、本発明におけるセンダイウイルスベクターは、上記のいずれかのウイルス遺伝子のコード配列と、90%以上、好ましくは95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、または99%以上の同一性を持つ塩基配列を含む。また、本発明におけるセンダイウイルスベクターは、例えば、上記のいずれかのウイルス遺伝子のコード配列がコードするアミノ酸配列と、90%以上、好ましくは95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、または99%以上の同一性を持つアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む。また、本発明におけるセンダイウイルスベクターは、例えば、上記のいずれかのウイルス遺伝子のコード配列がコードするアミノ酸配列において、10個以内、好ましくは9個以内、8個以内、7個以内、6個以内、5個以内、4個以内、3個以内、2個以内、または1個のアミノ酸が置換、挿入、欠失、および/または付加されたアミノ酸配列であって、各遺伝子産物の機能を保持するポリペプチドをコードする塩基配列を含む。
【0051】
なお、本明細書に記載した塩基配列およびアミノ酸配列などのデータベースアクセッション番号が参照された配列は、本願出願日における配列を参照するものであって、本願出願日時点における配列として特定される。各時点での配列はデータベースのリビジョンヒストリーを参照することにより特定することができる。
【0052】
なお、本実施形態において用いられるセンダイウイルスベクターは誘導体であってもよく、誘導体には、ウイルスによる遺伝子導入能を損なわないように、ウイルス遺伝子が改変されたウイルス、および化学修飾されたウイルス等が含まれる。
【0053】
また、センダイウイルスは、天然株、野生株、変異株、ラボ継代株、および人為的に構築された株などに由来してもよい。例えばZ株が挙げられる(Medical Journal of Osaka University Vol.6, No.1, March 1955 p1-15に開示)。つまり、当該ウイルスは、目的とする機能を達成できる限り、天然から単離されたウイルスと同様の構造を持つウイルスベクターであっても、遺伝子組み換えにより人為的に改変したウイルスであってもよい。例えば、野生型ウイルスが持ついずれかの遺伝子に変異や欠損があるものであってよい。また、DI粒子(J.Virol.68:8413-8417,1994に開示)などの不完全ウイルスを用いることも可能である。例えば、ウイルスのエンベロープ蛋白質または外殻蛋白質をコードする少なくとも1つの遺伝子に変異または欠損を有するウイルスを好適に用いることができる。このようなウイルスベクターは、例えば感染細胞においてはゲノムを複製することはできるが、感染性ウイルス粒子を形成できないウイルスベクターである。このような伝搬能欠損型のウイルスベクターは、周囲に感染を拡大する懸念がないので安全性が高い。例えば、Fおよび/またはHNなどのエンベロープ蛋白質またはスパイク蛋白質をコードする少なくとも1つの遺伝子、あるいはそれらの組み合わせが含まれていないウイルスベクターを用いることができる(WO 00/70055、WO 00/70070、Li,H.-O.et al., J. Virol. 74(14) 6564-6569 (2000)に開示)。ゲノム複製に必要な蛋白質(例えばNP、P、およびL蛋白質)をゲノムRNAにコードしていれば、感染細胞においてゲノムを増幅することができる。欠損型ウイルスを製造するには、例えば、欠損している遺伝子産物またはそれを相補できる蛋白質をウイルス産生細胞において外来的に供給する(WO 00/70055、WO 00/70070、Li, H.-O.et al., J. Virol. 74(14) 6564-6569 (2000)に開示)。また、ウイルスベクターをRNP(例えばN、L、P蛋白質、およびゲノムRNAからなるRNP)として回収する場合は、エンベロープ蛋白質を相補することなくベクターを製造することができる。
【0054】
本発明において好適なセンダイウイルスベクターとしては、例えば、M蛋白質にG69E,T116A及びA183Sの変異を、HN蛋白質にA262T,G264及びK461Gの変異を、P蛋白質にL511F変異を、そしてL蛋白質にN1197S及びK1795E変異を持つF遺伝子欠失型センダイウイルスベクター(例えばZ strain)であってよく、このベクターにさらにTS 7、TS 12、TS 13、TS 14、またはTS 15の変異を導入したベクターはより好ましい。具体的には、SeV18+/TSΔF(WO 2010/008054、WO 2003/025570)やSeV(PM)/TSΔF、および、これらにさらにTS 7、TS 12、TS 13、TS 14、またはTS 15の変異を導入したベクターなどが挙げられるが、これらに限定されない。
なお「TSΔF」は、M蛋白質にG69E,T116A及びA183Sの変異を、HN蛋白質にA262T,G264及びK461Gの変異を、P蛋白質にL511F変異を、そしてL蛋白質にN1197S及びK1795E変異を持ち、F遺伝子を欠失することを言う。
【0055】
Lhx3をコードする核酸(L)、Ngn2をコードする核酸(N)及びIsl-1(I)をコードする核酸が組み込まれる位置は特に制限されないが、3’側から5’側にかけてL、N及びIの順序で配置されることが好ましい。これらの核酸は互いに隣接していてもよいし(L-N-I)、センダイウイルスのゲノム遺伝子のいずれかが間に介在していてもよい。即ち、L、N及びIのうちのいずれか1つのみがNP遺伝子の上流、NP遺伝子とP遺伝子の間、P遺伝子とM遺伝子の間、M遺伝子とHN遺伝子の間、あるいはHN遺伝子とL遺伝子の間に挿入されていてもよいし、2つ以上(L-N、N-I又はL-N-I)が上記いずれかの位置に挿入されていてもよい。好ましくは、L、N及びIが、この順番でP遺伝子の直後、すなわちP遺伝子のすぐ下流(マイナス鎖RNAゲノムのすぐ5’側)に隣接して組み込まれる。この場合、P遺伝子とLとの間には、他の転写単位(例えば蛋白質をコードする遺伝子をコードする転写単位)は含まれない。センダイウイルスのゲノム上でL、N及びIがこの順番で並ぶとき、Lが3つの核酸の中では最も3’側に配置され、Iが最も5’側に配置される。
上記のように、好ましい実施形態において、L、N及びIは、P遺伝子とM遺伝子の間に挿入することができるが、他の場所に挿入した場合であっても、全体の発現量が変化するのみで、運動ニューロンの誘導効率に差が生じる可能性はあるものの、目的である運動ニューロンへの分化誘導そのものは同様に可能である。
【0056】
各MN化因子は、転写開始(S)配列と転写終結(E)配列とに挟まれていることが好ましい。S配列とE配列とで挟まれた領域は1つの転写単位となる。ある遺伝子のE配列と次の遺伝子のS配列との間には、適宜スペーサーとなる介在(I)配列を挿入することができる。例えば、L、N及びIがこの順序で互いに隣接している場合、S-[L]−E-I-S-[N]-E-I-S-[I]-Eの構成の核酸をセンダイウイルスゲノム中に挿入する。
【0057】
本実施形態において、MN化因子を持つ組換えセンダイウイルスベクターの再構成は公知の方法を利用して行うことができる。
具体的には、(a)センダイウイルスゲノムRNA(マイナス鎖)またはその相補鎖(プラス鎖)をコードするcDNAを、ウイルス粒子形成に必要なウイルス蛋白質(N、P、およびL)を発現する細胞で転写させる工程、(b)生成したウイルスを含む培養上清を回収する工程、により製造することができる。粒子形成に必要なウイルス蛋白質は、転写させたウイルスゲノムRNAから発現されてもよいし、ゲノムRNA以外からトランスに供給されてもよい。例えば、N、P、およびL蛋白質をコードする発現プラスミドを細胞に導入して供給することができる。ゲノムRNAにおいて粒子形成に必要なウイルス遺伝子が欠損している場合は、そのウイルス遺伝子をウイルス産生細胞で別途発現させ、粒子形成を相補することもできる。ウイルス蛋白質やRNAゲノムを細胞内で発現させるためには、該蛋白質やゲノムRNAをコードするDNAを宿主細胞で機能する適当なプロモーターの下流に連結したベクターを宿主細胞に導入する。転写されたゲノムRNAは、ウイルス蛋白質の存在下で複製され、感染性ウイルス粒子が形成される。エンベロープ蛋白質などの遺伝子を欠損する欠損型ウイルスを製造する場合は、欠損する蛋白質またはその機能を相補できる他のウイルス蛋白質などをウイルス産生細胞において発現させることもできる。
【0058】
また、センダイウイルスの製造は、以下の公知の方法を利用して実施することができる(WO 97/16539;WO 97/16538;WO 00/70055;WO 00/70070;WO 01/18223;WO 03/025570;WO 2005/071092;WO 2006/137517;WO 2007/083644;WO 2008/007581;Hasan, M.K. et al., J. Gen. Virol. 78: 2813-2820, 1997、Kato, A. et al., 1997, EMBO J. 16: 578-587及びYu, D. et al., 1997, Genes Cells 2: 457-466;Durbin, A.P. et al., 1997, Virology 235: 323-332;Whelan, S. P. et al., 1995, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92: 8388-8392;Schnell. M.J. et al., 1994, EMBO J. 13: 4195-4203;Radecke, F. et al., 1995, EMBO J. 14: 5773-5784;Lawson, N.D. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92: 4477-4481;Garcin, D. et al., 1995, EMBO J. 14: 6087-6094;Kato, A. et al.,1996, Genes Cells 1: 569-579;Baron, M.D. and Barrett, T., 1997, J. Virol. 71: 1265-1271;Bridgen, A. and Elliott, R.M., 1996, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93: 15400-15404;Tokusumi, T. et al. Virus Res. 2002: 86; 33-38、Li,H.-O.et al., J. Virol. 2000: 74; 6564-6569)。
【0059】
4.核酸の導入方法
このようにして得られるMN化因子をコードする核酸を搭載したセンダイウイルスベクターは、該ベクター(センダイウイルス粒子)を多能性幹細胞の培地に添加して該細胞に感染させることにより、該細胞内に導入される。ベクターの用量は適宜調節することができるが、例えば、感染多重度(MOI)0.1以上、好ましくは0.3以上、0.5以上、1以上、2以上又は3以上であり、かつ100以下、好ましくは90以下、80以下、70以下、60以下、50以下、40以下、30以下、20以下、10以下又は5以下で感染させることができる。好ましくは、MOI0.3〜100、より好ましくはMOI 0.5〜50、MOI 1〜40、MOI 1〜30、MOI 2〜30又はMOI 3〜30で感染させる。
あるいは、センダイウイルスベクターがRNPの形態である場合には、例えばエレクトロポレーション、リポフェクション、マイクロインジェクションなどの手法によって多能性幹細胞内に導入することができる。
【0060】
本発明の製造方法においては、多能性幹細胞へのMN化因子をコードする核酸を含むセンダイウイルスベクターへの導入は、多能性幹細胞を分化誘導条件に変更したと同時に行われることが好ましい。また、導入したMN化因子の発現期間は、長期間になることで運動ニューロンの製造において不利益を被ることはないので、特に上限は定められないが、少なくとも2日間、好ましくは3日間以上、4日間以上、5日間以上、6日間以上、7日間以上は維持されていることが好ましい。より好ましくは、2日以上14日以下である。本発明においては、持続発現型センダイウイルスベクターを用いることにより、上記の期間MN化因子を持続発現させることができる。所望の期間経過後は、例えば、センダイウイルスゲノムの任意の遺伝子配列、例えばL遺伝子内の配列に特異的なsiRNAを導入することにより、該ウイルスベクターを消失させることができる。
【0061】
5.遺伝子導入された多能性幹細胞の培養工程
本発明において、運動ニューロンの分化誘導条件とは、運動ニューロンへの分化シグナル因子を添加した基本培地中で培養することである。ここで運動ニューロン分化シグナル因子としては、前記工程で導入されたMN化因子による運動ニューロンへの分化誘導を促進し得る1以上のシグナル伝達因子であれば特に制限はないが、例えば、レチノイン酸、SHHシグナル刺激剤および神経栄養因子が挙げられる。
基本培地としては、例えば、Glasgow's Minimal Essential Medium(GMEM)培地、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、Neurobasal Medium(ライフテクノロジーズ)およびこれらの混合培地などが挙げられる。基本培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清でもよい。必要に応じて、培地は、例えば、Knockout Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、アルブミン、トランスフェリン、アポトランスフェリン、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3'-チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、Glutamax(Invitrogen)、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類、セレン酸、プロゲステロンおよびプトレシンなどの1つ以上の物質も含有し得る。好ましい基本培地は、インスリン、アポトランスフェリン、セレン酸、プロゲステロンおよびプトレシンを含有するDMEMおよびF12の混合培地である。本発明では、この基本培地へ適宜、レチノイン酸、SHHシグナル刺激剤および神経栄養因子を加えた培地中で培養することが好ましい。
【0062】
本発明において、SHH(Sonic hedgehog)シグナル刺激剤とは、SHHが受容体であるPatched (Ptch1)に結合して引き起こされるSmoothened (Smo)の脱抑制およびさらに続くGli2の活性化を引き起こす物質として定義され、例えば、SHH、Hh-Ag1.5 (Li, X., e t al., Nature Biotechnology, 23, 215-221 (2005))、Smoothened Agonist、SAG (N-Methyl-N’-(3-pyridinylbenzyl)-N’-(3-chlorobenzo[b]thiophene-2-carbonyl)-1,4-diaminocyclohexane)、20a-hydroxycholesterol、Purmorphamineおよびこれらの誘導体などが例示される(Stanton BZ, Peng LF, Mol Biosyst. 6:44-54, 2010)。好ましくは、SAGであり得る。
【0063】
本発明において、神経栄養因子とは、運動ニューロンの生存と機能維持に重要な役割を果たしている膜受容体へのリガンドであり、例えば、神経増殖因子(NGF)、脳由来神経栄養因子 (BDNF)、ニューロトロフィン3 (NT-3)、ニューロトロフィン4/5 (NT-4/5)、ニューロトロフィン6 (NT-6)、塩基性FGF、酸性FGF、FGF-5、上皮成長因子(EGF)、肝細胞増殖因子 (HGF)、インスリン、インスリン様増殖因子1(IGF 1)、インスリン様増殖因子2 (IGF2)、グリア細胞由来神経栄養因子 (GDNF)、TGF-b2、TGF-b3、インターロイキン6 (IL-6)、毛様体神経栄養因子(CNTF)およびLIFなどが挙げられるが、これらに限定されない。
本発明において好ましい神経栄養因子は、GDNF、BDNF及びNT-3から選択される1以上の因子である。
【0064】
本発明の製造方法は、当該分化誘導条件下での培養工程を、分化シグナル因子の組成を変更することなく、実質的に単一組成の培地を用いて実施し得ることを特徴の1つとする。ここで「実質的に単一組成」であるとは、運動ニューロンへの分化シグナル因子の組み合わせ及び/又は濃度が変更されない限り、他の培地組成に変更があることを許容することを意味し、例えば、核酸導入の当日の培地にROCK阻害剤(例えば、Y-27632など)を添加し、翌日以降ROCK阻害剤を含まない培地に変更すること以外に培地組成を変更しない場合は、実質的に単一組成であるといえる。
【0065】
本発明の運動ニューロンの分化誘導工程における培養温度は、特に限定されないが、約30〜40℃、好ましくは約37℃であり、CO2含有空気の雰囲気下で培養が行われ、CO2濃度は、好ましくは約2〜5%である。
【0066】
MN化因子をコードする核酸導入後の分化誘導工程において細胞を培養する期間は、運動ニューロンの製造が確認されれば特に限定されないが、例えば、2日間以上、好ましくは3、4、5、6、7、10もしくは14日間、あるいはそれ以上である。
【0067】
本明細書において、「運動ニューロンを誘導する」又は「運動ニューロンを製造する」との語は互換的に用いられ、運動ニューロンを含有する細胞集団を得ることを意味する。また、本発明において「運動ニューロン」とは、HB9及び/又はChATなどの運動ニューロン特異的なマーカー遺伝子を発現している細胞と定義される。また、本発明の製造方法により得られる運動ニューロンを含有する細胞集団には、運動ニューロンに特異的なマーカーを発現していないが、ニューロンに特異的なマーカーを発現する運動ニューロン以外のニューロンも含まれ得る。本発明において「ニューロン」とは、Tuj1及び/又はMAP2などのニューロンマーカーを発現している細胞と定義される。
【0068】
本発明の製造方法により運動ニューロン及び/又はニューロンが誘導されたかどうかの確認は、例えば、前記分化誘導工程を経て得られた細胞集団に関し、先述の発現マーカーに基づいた免疫細胞化学や定量的PCR(qPCR)といった当業者に公知の手法により、そのタンパク質発現及び/又はmRNA発現を観察することにより行うことができる。
【0069】
本発明の製造方法によれば、単一のセンダイウイルスベクターにすべてのMN化因子をコードする核酸を搭載して導入するので、少なくとも多能性幹細胞に導入されるMN化因子の種類における細胞間でのばらつきはない。従って、本発明の製造方法は、より均質な運動ニューロン集団を提供することができる。これは運動ニューロンの中での均一性に関することであるが、導入されるMN化因子の種類に細胞間でばらつきがあると、ニューロンには分化誘導されるものの運動ニューロンに特異的に分化できない蓋然性も高まると考えられる。実際にLhx3、Ngn2(及びIsl1)をコードする核酸を、それぞれ別個のセンダイウイルスベクターに搭載して導入した場合には、得られる細胞集団におけるニューロン全体に占める運動ニューロンの割合が低い。これに対し、単一のベクターに全MN化因子を搭載した本発明の製造方法によれば、ニューロン全体に占める運動ニューロンの割合は、例えば60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上と顕著に高い。このことは、運動ニューロンの中でも細胞間のばらつきが少なく、より均質な運動ニューロンが得られていることを強く示唆するものである。
【0070】
本発明の製造方法により、運動ニューロン病(MND)患者由来のiPS細胞や、MNDの原因となる変異遺伝子を導入したモデル動物(マウス等)由来の多能性幹細胞(PSC)から誘導された運動ニューロンは、由来となった患者やモデル動物における疾患の表現型をよく再現することができる。例えば、ALSの原因となる変異遺伝子を有する多能性幹細胞由来運動ニューロン(ALS PSC-MN)の場合、細胞の生存率低下や神経突起の伸長抑制などの表現型を示す。また、SOD1の変異を有するALS PSC-MNの場合、運動ニューロンにおけるSOD1タンパク質のミスフォールディング及びミスフォールドタンパク質の凝集がALSの表現型として挙げられる。あるいは、TDP-43の変異を有するALS PSC-MNの場合、運動ニューロンにおけるTDP-43タンパク質量の増加及び不溶性TDP-43の細胞質での凝集が、ALSの表現型として挙げられる。SBMAの原因となる変異アンドロゲン受容体(AR)遺伝子を有するSBMA PSC-MNの場合、テストステロン誘導性のARの凝集がSBMAの表現型として挙げられる。SMAの原因となるSMN1の変異を有するSMA PSC-MNの場合、脊髄運動ニューロン数の減少や神経突起の伸長抑制、カスパーゼ-3、-8活性化を伴うアポトーシスなどがSMAの表現型として挙げられる。
【0071】
本発明において、多能性幹細胞から運動ニューロンを製造する工程において、筋管細胞を混在させることで、筋管細胞と運動ニューロンとが接着した神経筋接合部を有する細胞培養物を得ることができる。神経筋接合部とは、神経細胞の突起末端よりアセチルコリンが放出され、筋管細胞に存在する受容体が受け取ることができる構造を意味する。神経筋接合部は、例えば、運動ニューロンにおけるSV2および筋管細胞におけるアセチルコリン受容体が共局在することにより確認することができる。神経筋接合部の形成不全によって引き起こされる病態(例えば、重症筋無力症およびLambert-Eaton筋無力症)の病態を再現するにあたって、神経筋接合部を含有する細胞培養物は有用である。
【0072】
<運動ニューロン病の治療薬のスクリーニング方法>
本発明はまた、上記本発明の製造方法により得られた、運動ニューロン病(MND)患者由来のiPS細胞から誘導された運動ニューロン集団や、MND原因遺伝子を導入した多能性幹細胞から誘導された運動ニューロン集団を用いて、MNDの治療薬候補物質をスクリーニングする方法を提供する。当該方法は、
(1) 該運動ニューロン集団に被検物質を接触させる工程、
(2) 前記細胞集団における運動ニューロン病の表現型の程度を測定する工程、及び
(3) 被検物質を接触させなかった場合と比較して、該表現型の程度を改善した被検物質を運動ニューロン病の治療薬候補物質として選択する工程
を含む。
【0073】
工程(2)において測定される表現型としては、上記した各種MNDに特異的な表現型の1つ以上を適宜選択することができる。例えば、ALS PSC-MNの場合、運動ニューロンの細胞数、神経突起の長さ、SOD1タンパク質のミスフォールディング、不溶性TDP-43タンパク質の細胞質凝集などを指標とすることができる。
【0074】
細胞数を測定する方法は特に限定されないが、生細胞数を計測することによって行ってもよく、死細胞の数の逆数によって算出してもよい。死細胞の数の測定は、MTT 法、WST-1法、WST-8法を用いて吸光度を測定する方法、または、TO(thiazole orange) 、PI( propidium iodide)、7AAD、カルセインAM、またはエチジウムホモダイマー1(EthD-1)を用いて染色し、フローサイトメーターを用いて計数する方法、もしくはLDHの活性を測定する方法が例示される。
【0075】
神経突起長の測定は目視によって行うこともでき、例えば、細胞画像解析装置(インセルアナライザー)を用いて測定してもよい。細胞画像解析装置を用いるに当たっては、運動ニューロンを特異的に認識できるように、HB9のプロモーターの下流に蛍光物質(例えば、GFPなど)を発現させるベクターを細胞に組み込んで行うことができる。
【0076】
ミスフォールドSOD1タンパク質や不溶性TDP-43の検出は、それぞれ後述の実施例に記載される方法により行うことができる。
【0077】
被検物質としては、例えば、細胞抽出物、細胞培養上清、微生物発酵産物、海洋生物由来の抽出物、植物抽出物、精製タンパク質又は粗タンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成低分子化合物、及び天然化合物が挙げられる。
【0078】
被検物質はまた、(1)生物学的ライブラリー、(2)デコンヴォルーションを用いる合成ライブラリー法、(3)「1ビーズ1化合物(one-bead one-compound)」ライブラリー法、及び(4)アフィニティクロマトグラフィ選別を使用する合成ライブラリー法を含む当技術分野で公知のコンビナトリアルライブラリー法における多くのアプローチのいずれかを使用して得ることができる。アフィニティクロマトグラフィ選別を使用する生物学的ライブラリー法はペプチドライブラリーに限定されるが、その他のアプローチはペプチド、非ペプチドオリゴマー、又は化合物の低分子化合物ライブラリーに適用できる(Lam (1997) Anticancer Drug Des. 12: 145-67)。分子ライブラリーの合成方法の例は、当技術分野において見出され得る(DeWitt et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 6909-13; Erb et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91: 11422-6; Zuckermann et al. (1994) J. Med. Chem. 37: 2678-85; Cho et al. (1993) Science 261: 1303-5; Carell et al. (1994) Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33: 2059; Carell et al. (1994) Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33: 2061; Gallop et al. (1994) J. Med. Chem. 37: 1233-51)。化合物ライブラリーは、溶液(Houghten (1992) Bio/Techniques 13: 412-21を参照のこと)又はビーズ(Lam (1991) Nature 354: 82-4)、チップ(Fodor (1993) Nature 364: 555-6)、細菌(米国特許第5,223,409号)、胞子(米国特許第5,571,698号、同第5,403,484号、及び同第5,223,409号)、プラスミド(Cull et al. (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 1865-9)若しくはファージ(Scott and Smith (1990) Science 249: 386-90; Devlin (1990) Science 249: 404-6; Cwirla et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 6378-82; Felici (1991) J. Mol. Biol. 222: 301-10; 米国特許出願公開第2002/0103360号)として作製され得る。
【0079】
被検物質を接触させなかった場合と比較して、運動ニューロン細胞数を増加させたり、神経突起を伸長させたり、ミスフォールドSOD1量や不溶性TDP-43量を減少させたりした被検物質を、ALS治療薬の候補物質として選択することができる。
【0080】
ALS以外のMND PSC−MNの場合も、同様に、各疾患特異的な表現型を自体公知の方法により検出し、その程度を、被検物質を接触させた場合とさせなかった場合とで比較することにより、該MNDの治療薬候補物質を選択することができる。
【0081】
医薬候補化合物の探索系(薬効スクリーニング系)としての用途を強調して記載したが、本発明のMND PSC-MNは、当該疾患に対する既存の医薬化合物の、個々の患者(あるいは同じ原因遺伝子変異を有する患者群)における感受性の評価(患者群の分類(例、レスポンダーと非レスポンダー))にも使用可能である。さらに、分類された患者群間における網羅的遺伝子発現解析結果を比較することにより、薬剤感受性マーカー遺伝子を同定するのにも応用可能である。
【0082】
<多能性幹細胞から誘導された運動ニューロンを用いた移植治療>
一方、健常人由来の多能性幹細胞から誘導された運動ニューロンは、MND(例えば、ALS、SBMA、SMAなど)をはじめとする神経変性疾患及び神経損傷の移植療法剤として利用することができる。本発明の製造方法により得られるPSC-MNは、MN化因子やベクター要素の染色体への組み込みがないので、腫瘍化リスクが低く安全に使用することができる。運動ニューロンは、常套手段にしたがって医薬上許容される担体と混合するなどして、注射剤、懸濁剤、点滴剤等の非経口製剤として製造される。当該非経口製剤に含まれ得る医薬上許容される担体としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液(例えば、D-ソルビトール、D-マンニトール、塩化ナトリウムなど)などの注射用の水性液を挙げることができる。当該製剤は、例えば、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤、酸化防止剤などと配合してもよい。運動ニューロンを水性懸濁液剤として製剤化する場合、上記水性液に約1×10〜1×108細胞/mLとなるように、運動ニューロンを懸濁させればよい。運動ニューロンの移植は、上記懸濁液を神経変性または神経損傷の病変部に注入することにより行うことができる。投与される細胞数は病変の程度等により適宜変更され得るが、例えば、ヒトALS患者の場合、約1×10〜1×108細胞を投与することができる。
【0083】
上記移植治療と薬物療法とを併用することができる。併用薬としては、例えば対象疾患がALSの場合には、既存のALS治療薬であるリルゾール(商品名: リルテック(登録商標)(サノフィ社))や、WO2012/029994に記載の1,3-ジフェニル尿素誘導体またはマルチキナーゼ阻害剤、WO2011/074690に記載のHMG-CoA還元酵素阻害剤、あるいは、アナカジン酸(Egawa, N et al, Sci Transl Med. 4(145):145ra104. doi: 10.1126)等を挙げることができる。対象疾患がSBMAの場合には、酢酸リュープロレリンなどの黄体形成ホルモンアナログが挙げられる。これらの薬剤は、例えば、ALS、SBMAの治療(治験)に通常使用される投与量・投与経路で使用することができる。
【0084】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されないことは言うまでもない。
【実施例】
【0085】
<材料及び方法>
1. ヒト線維芽細胞の誘導及びiPS細胞の作製
ヒト線維芽細胞は、書面による同意を得たうえで入手した。iPS細胞は、Egawa N. et al., Sci Transl Med. 2012 Aug 1;4 (145):145ra104.に記載された方法により作製した。iPS細胞コロニーを選抜後、iPS細胞を培養し、SNLフィーダー層上で継代した。培地は、塩基性の線維芽細胞増殖因子(4 ng/ml;和光純薬工業)並びに50 mg/mlペニシリン及びストレプトマイシンを含む霊長類胚性幹細胞培地(ReproCELL)を用いた。培地は毎日交換し、iPS細胞は約1週間に1回継代した。
【0086】
2. マウス胎児線維芽細胞の誘導及びiPS細胞の作製
マウス胎児線維芽細胞(MEF)は、Gurney ME. et al., Science. 1994 Jun 17;264(5166):1772-5に記載された方法を用いて、SOD1(G93A)変異を有するALSモデルマウス及びその同腹仔の対照マウスから得た。4つの初期化因子(Oct3/4、Sox2、Klf4及びc-Myc)は、Okita K. et al., Nature. 2007 Jul 19;448(7151):313-7及びTakahashi K. et al., Nat Protoc. 2007;2(12):3081-9に記載される方法により、レトロウイルスベクターを用いてMEFへ導入した。マウスiPS細胞はSNLフィーダー細胞上で培養した。
【0087】
3. 遺伝子型解析
ヒトSOD1遺伝子はゲノムDNAからPCRによって増幅し、3100 Genetic Analyzer(Applied Biosystems, Life Technologies, Carlsbad, CA)を用いて直接配列決定を行った。
【0088】
4. センダイウイルスベクターの構築
(SeV18+Lhx3/TS7ΔFの作製)
1)Lhx3遺伝子搭載SeVベクター作製用のプラスミド(pSeV18+Lhx3/TS7ΔF)の構築
plasmid DNA(pAd/PL-DEST-mLhx3)に搭載されたLhx3遺伝子(配列番号1)を鋳型にして、Lhx3遺伝子のうち、PCRを用いたMutagenesis法により492番目のグアニン(G)をアデニン(A)に変換し、NotI認識部位を消失させた。492番目の変異導入のプライマーとしてmLhx3_G492A_F(5’- CAGCCAAGCGaCCGCGCACCACC-3’(配列番号:7))及びmLhx3_G492A_R(5’- GGTGGTGCGCGGtCGCTTGGCTG -3’(配列番号:8))を用いた。この変異を導入したLhx3遺伝子を鋳型にして、Not1_mLhx3_EIS_N(5'- taagcggccgccaaggttcaATGGAAGCTCGCGGGG -3'(配列番号:9))及びmLhx3_EIS_Not1_C(5'-ttagcggccgcgatgaactttcaccctaagtttttcttactacggTCAGAACTGAGCATGGTCTAC-3'(配列番号:10))のプライマーを用いて、KOD-Plus-Ver.2を使用し、94℃ 2分、(98℃ 10秒、55℃ 30秒、68℃ 1.5分)のサイクルを30サイクル、68℃ 5分、4℃ ∞の条件でPCRを行い、増幅されたフラグメントをQIAquick PCR purification kitにて精製した。精製したフラグメントをNot Iで消化後にアガロースゲル電気泳動にて分離後、約1.3kbpのバンドを切り出し、QIAquick Gel Extraction kitにて精製した。一方、NP遺伝子の上流に導入遺伝子挿入部位(NotI部位)を有するpSeV18+/TS7ΔFプラスミドをNotIで消化してQIAquick PCR purification kitにて精製した後、アルカリフォスファターゼ処理し、再度、QIAquick PCR purification kitにて精製した。次に、精製したLhx3フラグメントをpSeV18+/TS7ΔFプラスミドのNotIサイトにライゲーションし、大腸菌にトランスフォーメーション後にクローニングを行い、シークエンスにより塩基配列の正しいクローンを選択して、pSeV18+Lhx3/TS7ΔFプラスミドを得た。
【0089】
2)Ngn2遺伝子搭載SeVベクター作製用のプラスミド(pSeV18+Ngn2/TS7ΔF)の構築
plasmid DNA(pAd/PL-DEST-mNgn2)に搭載されたNgn2遺伝子(配列番号3)を鋳型にして、Not1_mNeurog2_EIS_N(5'-taagcggccgccaaggttcaCTTATGTTCGTCAAATCTG-3'(配列番号:11))及びmNeurog2_EIS_Not1_C(5'-ttagcggccgcgatgaactttcaccctaagtttttcttactacggCTAGATACAGTCCCTGGCG-3'(配列番号:12))のプライマーを用いて、KOD-Plus-Ver.2を使用し、94℃ 2分、(98℃ 10秒、55℃ 30秒、68℃ 1.5分)のサイクルを30サイクル、68℃ 5分、4℃ ∞の条件でPCRを行い、増幅されたフラグメントをQIAquick PCR purification kitにて精製した。精製したフラグメントをNot Iで消化後にアガロースゲル電気泳動にて分離後、約0.9kbpのバンドを切り出し、QIAquick Gel Extraction kitにて精製した。一方、NP遺伝子の上流に導入遺伝子挿入部位(NotI部位)を有するpSeV18+/TS7ΔFプラスミドをNotIで消化してQIAquick PCR purification kitにて精製した後、アルカリフォスファターゼ処理し、再度、QIAquick PCR purification kitにて精製した。次に、精製したNgn2フラグメントをpSeV18+/TS7ΔFプラスミドのNotIサイトにライゲーションし、大腸菌にトランスフォーメーション後にクローニングを行い、シークエンスにより塩基配列の正しいクローンを選択して、pSeV18+ Ngn2/TS7ΔFプラスミドを得た。
【0090】
3)Isl1遺伝子搭載SeVベクター作製用のプラスミド(pSeV18+Isl1/TS7ΔF)の構築
plasmid DNA(pAd/PL-DEST-mIsl1)に搭載されたIsl1遺伝子(配列番号5)を鋳型にして、Isl1遺伝子の連続するアデニン(A)のうち、PCRを用いたMutagenesis法により30番目のアデニン(A)をグアニン(G)に変換し、アデニン(A)の連続を減らした。また、513番目のグアニン(G)をアデニン(A)に変換し、NotI認識部位を消失させた。30番目の変異導入のプライマーとしてISL1_A30G_F(5’-GATCCACCAAAAAAgAAACGTCTGATTTCC-3’(配列番号:13))及びISL1_A30G_R(5’-GGAAATCAGACGTTTcTTTTTTGGTGGATC-3’(配列番号:14))を用い、513番目の変異導入のプライマーとしてmIsl1_G513G_F(5’-GCCAGCTCTGCGaCCGCACGTCCAC-3’(配列番号:15))及びmIsl1_G513G_R(5’-GTGGACGTGCGGtCGCAGAGCTGGC-3’(配列番号:16))を用いた。この2カ所に変異を導入したIsl1遺伝子を鋳型にして、Not1_mIsl1_EIS_N(5'-taagcggccgccaaggttcaCTTATGGGAGACATGGGC-3'(配列番号:17))及びISL1_EIS_Not1_C(5'-aatgcggccgcgatgaactttcaccctaagtttttcttactacggTCATGCCTCAATAGGAC-3'(配列番号:18))のプライマーを用いて、KOD-Plus-Ver.2を使用し、94℃ 2分、(98℃ 10秒、55℃ 30秒、68℃ 1.5分)のサイクルを30サイクル、68℃ 5分、4℃ ∞の条件でPCRを行い、増幅されたフラグメントをQIAquick PCR purification kitにて精製した。精製したフラグメントをNot Iで消化後にアガロースゲル電気泳動にて分離後、約1.1kbpのバンドを切り出し、QIAquick Gel Extraction kitにて精製した。一方、NP遺伝子の上流に導入遺伝子挿入部位(NotI部位)を有するpSeV18+/TS7ΔFプラスミドをNotIで消化してQIAquick PCR purification kitにて精製した後、アルカリフォスファターゼ処理し、再度、QIAquick PCR purification kitにて精製した。次に、精製したIsl1フラグメントをpSeV18+/TS7ΔFプラスミドのNotIサイトにライゲーションし、大腸菌にトランスフォーメーション後にクローニングを行い、シークエンスにより塩基配列の正しいクローンを選択して、pSeV18+Isl1/TS7ΔFプラスミドを得た。
【0091】
4)Lhx3-Ngn2-Isl1の3遺伝子搭載SeVベクター作製用のプラスミド(pSeV(PM)Lhx3-Ngn2-Isl1/TSΔF)の構築
Lhx3遺伝子フラグメントの構築は、SeV18+Lhx3/TS7ΔF のcDNAに搭載されたLhx3遺伝子を鋳型にしたPCRによって行った。Not1_mLhx3_EIS_N(5’-taagcggccgccaaggttcaATGGAAGCTCGCGGGG-3'(配列番号:9))及びmLhx3-mNgn2_C(5’-ctaagtttttcttactacggTCAGAACTGAGCATGGTC-3’(配列番号:19))をプライマーとして用いて、KOD-Plus-Ver.2を使用し、94℃2分、(98℃ 10秒、55℃ 30秒、68℃ 1.5分)のサイクルを30サイクル、68℃ 5分、4℃ ∞の条件でPCRを行い、増幅したLhx3遺伝子フラグメント(約1.3kbp)をQIAquick PCR purification kitにて精製した。
Ngn2遺伝子フラグメントの構築は、SeV18+Ngn2/TS7ΔF のcDNAに搭載されたNgn2遺伝子を鋳型にしたPCRによって行った。mLhx3-mNgn2_N(5’-gtaagaaaaacttagggtgaaagttcatccacctaacagccgccATGTTCGTCAAATCTG-3'(配列番号:20))及びmNgn2-mIsl1_C(5’-ggtgaaatctttcaccctaagtttttcttattctacggCTAGATACAGTCCCTGGC-3’(配列番号:21))をプライマーとして用いて、KOD-Plus-Ver.2を使用し、94℃2分、(98℃ 10秒、55℃ 30秒、68℃ 1.5分)のサイクルを30サイクル、68℃ 5分、4℃ ∞の条件でPCRを行い、増幅したLhx3遺伝子フラグメント(約0.9kbp)をQIAquick PCR purification kitにて精製した。
Isl1遺伝子フラグメントの構築は、SeV18+Isl1/TS7ΔF のcDNAに搭載されたIsl1遺伝子を鋳型にしたPCRによって行った。mNgn2-mIsl1_N(5’-gaaagatttcacctaacacgccgccATGGGAGACATGGGCG-3'(配列番号:22))及びEIS-NotI-R(5’- acctgcggccgcgaactttcaccctaagtttttc-3’(配列番号:23))をプライマーとして用いて、KOD-Plus-Ver.2を使用し、94℃2分、(98℃ 10秒、55℃ 30秒、68℃ 1.5分)のサイクルを30サイクル、68℃ 5分、4℃ ∞の条件でPCRを行い、増幅したIsl1遺伝子フラグメント(約1.1kbp)をQIAquick PCR purification kitにて精製した。
次にLhx3-Ngn2-Isl1遺伝子フラグメントの構築は、前述のPCRによって作製したLhx3遺伝子フラグメント、Ngn2遺伝子フラグメント及びIsl1遺伝子フラグメントを混合して鋳型にしたPCRによって行った。Not1_mLhx3_EIS_N及びEIS-NotI-Rをプライマーとして用いて、KOD-Plus-Ver.2を使用し、94℃ 2分、(98℃ 10秒、55℃ 30秒、68℃ 1.5分)のサイクルを30サイクル、68℃ 5分、4℃ ∞の条件でPCRを行い、増幅したLhx3-Ngn2-Isl1遺伝子フラグメント(約3.2kbp)をQIAquick PCR purification kitにて精製した。次に、精製したLhx3-Ngn2-Isl1フラグメントをpSeV(PM)/TSΔFプラスミドのNotIサイトにライゲーションし、大腸菌にトランスフォーメーション後にクローニングを行い、シークエンスにより塩基配列の正しいクローンを選択して、pSeV(PM)Lhx3-Ngn2-Isl1/TSΔFプラスミドを得た。
【0092】
5)EGFP遺伝子搭載SeVベクター作製用のプラスミド(pSeV18+EGFP/TS7ΔF)の構築
plasmid DNA(pCXLE-EGFP; addgeneより入手可能)に搭載されたEGFP遺伝子を鋳型にして、Not1_EGFP_EIS_N2.seq(5'-attgcggccgccaaggttcacttATGGTGAGCAAGGGCGAGGAGCTGTTCACCG-3'(配列番号:24))及びEGFP_EIS_Not1_C2.seq(5'-aatgcggccgcgatgaactttcaccctaagtttttcttactacggTTACTTGTACAGCTCGTCCATGCCG-3'(配列番号:25))のプライマーを用いて、KOD-Plus-Ver.2を使用し、94℃ 2分、(98℃ 10秒、55℃ 30秒、68℃ 1.5分)のサイクルを30サイクル、68℃ 5分、4℃ ∞の条件でPCRを行い、増幅されたフラグメントをQIAquick PCR purification kitにて精製した。精製したフラグメントをNot Iで消化後にアガロースゲル電気泳動にて分離後、約0.8kbpのバンドを切り出し、QIAquick Gel Extraction kitにて精製した。一方、NP遺伝子の上流に導入遺伝子挿入部位(NotI部位)を有するpSeV18+/TS7ΔFプラスミドをNotIで消化してQIAquick PCR purification kitにて精製した後、アルカリフォスファターゼ処理し、再度、QIAquick PCR purification kitにて精製した。次に、精製したEGFPフラグメントをpSeV18+/TS7ΔFプラスミドのNotIサイトにライゲーションし、大腸菌にトランスフォーメーション後にクローニングを行い、シークエンスにより塩基配列の正しいクローンを選択して、pSeV18+EGFP/TS7ΔFプラスミドを得た。
【0093】
6)Lhx3遺伝子搭載SeVベクター(SeV18+Lhx3/TS7ΔF)、Ngn2遺伝子搭載SeVベクター(SeV18+Ngn2/TS7ΔF)、Isl1遺伝子搭載SeVベクター(SeV18+Isl1/TS7ΔF)、Lhx3-Ngn2-Isl1の3遺伝子搭載SeVベクター(SeV(PM)Lhx3-Ngn2-Isl1/TSΔF)及びEGFP遺伝子搭載SeVベクター(SeV18+EGFP/TS7ΔF)の作製(再構成)
トランスフェクションの前日に6ウェルプレートに1ウェル当たり106細胞の293T/17細胞を播種し、37℃のCO2インキュベーター(5%CO2条件下)で培養した。その293T/17細胞にpCAGGS-NP(0.5μg), pCAGGS-P4C(-)(0.5μg), pCAGGS-L(TDK)(2μg), pCAGGS-T7(0.5μg), pCAGGS-F5R(0.5μg) (WO2005/071085参照)、並びに上記で示したLhx3遺伝子搭載SeVベクター作製用のプラスミド(pSeV18+Lhx3/TS7ΔF)、Ngn2遺伝子搭載SeVベクター作製用のプラスミド(pSeV18+Ngn2/TS7ΔF)、Isl1遺伝子搭載SeVベクター作製用のプラスミド(pSeV18+Isl1/TS7ΔF)、Lhx3-Ngn2-Isl1の3遺伝子搭載SeVベクター作製用のプラスミド(pSeV(PM)Lhx3-Ngn2-Isl1/TSΔF)又はEGFP遺伝子搭載SeVベクター作製用のプラスミド(pSeV18+EGFP/TS7ΔF)(5.0μg)を混合し、TransIT-LT1 (Mirus)を15μl使用してトランスフェクションを行った。37℃のCO2インキュベーターで2日間培養した。その後、センダイウイルスの融合タンパク質(Fタンパク質)を発現する細胞LLC-MK2/F/A (Li, H.-O. et al., J. Virology 74. 6564-6569 (2000), WO00/70070) を1ウェル当たり106細胞の割合でトランスフェクションを行った293T/17細胞に重層し、32℃のCO2インキュベーターで1日間培養した。翌日、細胞の培養液を除き、ペニシリンストレプトマイシンを添加したMEM培地(以下PS/MEM)1mlで細胞を1度洗浄し、2.5 μg/mlのトリプシンを含むPS/MEM培地(以下Try/PS/MEMとする)を1ウェル当たり1ml添加し、32℃のCO2インキュベーターで2日間培養した。3〜4日毎に培地交換を行いながら、場合によっては、LLC-MK2/F/A細胞で継代を行いながら培養を継続した。培養上清の一部を赤血球凝集分析によりベクター回収の有無を確認し、十分な赤血球凝集反応が得られた後に培養上清を回収した。回収した培養上清よりQIAamp Viral RNA Mini Kitを用いてRNAを回収し、搭載した転写因子の領域を標的にRT-PCRを行った。得られたRT-PCR産物はシークエンスにより正しい塩基配列であることを確認し、SeV18+Lhx3/TS7ΔFベクター(以下、SeV-Lとも称す)、SeV18+Ngn2/TS7ΔFベクター(以下、SeV-Nとも称す)、SeV18+Isl1/TS7ΔFベクター(以下、SeV-Iとも称す)、eV(PM)Lhx3-Ngn2-Isl1/TSΔFベクター(以下、SeV-L-N-Iとも称す)及びSeV18+EGFP/TS7ΔFベクター(以下、SeV-EGFPとも称す)を得た。得られた各センダイウイルス液は液体窒素にて急速凍結後、-80℃にて保存した。
【0094】
5. ES/iPS細胞への形質導入に関するSeVのMOI
SeVベクターのMOIを決定するために、SeV-EGFPを対照iPS細胞へ形質導入した。iPS細胞は、コラゲナーゼタイプIV、トリプシン、及びKSR(CTK)分離液(ReproCELL)で1分間処理し、Accumax(Innovative Cell Technologies)で単一細胞へ分離させ、マトリゲル(Becton Dickinson)でコートされた96ウェルプレートへ移した。細胞を2日目及び4日目で固定した。イメージはIn Cell Analyzer 6000 (GE Healthcare)によって撮影した。
【0095】
6. SeVベクターを用いたマウスiPS細胞から運動ニューロンへの分化
iPS細胞をトリプシン処理することにより単一の細胞とし、0.5 % N2 (Life Technologies)、1 % B27 (Life Technologies)、1 μM レチノイン酸(SIGMA)、 1 μM スムーズンドアゴニスト (Enzo Life Sciences)、10 ng/ml 脳由来神経栄養因子 (BDNF; R&D Systems)、10 ng/ml グリア細胞由来神経栄養因子 (GDNF; R&D Systems)、10 ng/ml ニューロトロフィン3 (NT-3; R&D Systems)及び10 μM Y-27632 (Nacalai tesque)を添加したNeurobasal 培地 (Life Technologies)及びDMEM/F12 (1:1; 1×; Life Technologies)の1:1混合物を含有するMN培地を含んだマトリゲルでコートされたプレート上へ蒔いた。同時に、iPS細胞は0日目にSeV-L-N-Iに感染させた。MOIは5であった。培地は1日目及び4日目にY-27632を含まないMN培地へ交換した。6日目に免疫細胞化学により細胞を評価した。
【0096】
7. SeVベクターを用いたヒトiPS細胞からMNへの誘導
iPS細胞をCTK分離液で2分間処理し、フィーダー細胞を、PBSを用いて取り除いた。その後、iPS細胞をAccumaxを用いて単一の細胞へと分離し、MN培地を含んだマトリゲルでコートされたプレート上へ移した。同時に、iPS細胞は0日目にSeV-L-N-I又はSeV-L、SeV-N、及びSeV-Iの組合せに感染させた。MOIは、図1〜3においては10であったが、MOIが10の場合SOD1-ALS iPS細胞が死んでしまったため、図4及び5においては、MOIは5とした。培地は1日目にY-27632を含まないMN培地へ交換し、その後3日毎に交換した。図4及び図5においては、細胞をAccumaxプラス10 μM Y-27632で処理し、7日目にポリ-L-リジン及びマトリゲルでコートしたガラスディッシュ上へ移した。免疫細胞化学及びqPCR解析より、細胞を14日目に評価した。
【0097】
8. RNA抽出、cDNA合成、及び定量的PCR(qPCR)
RNAは、RNeasy Mini Kit (QIAGEN)を用い、製造者の取扱説明書に従って単離した。cDNAはReverTra Ace-αキット (東洋紡)を用いて合成した。qPCRはSYBR Premix Ex Taq II(タカラ)を用いて、StepOne Plus instrument (Applied Biosystems)により実施した。プライマー配列は、以下に示す(表1)。
【0098】
【表1】
【0099】
表中、各プライマーの配列表中の配列番号は上から順に配列番号26〜33である。
【0100】
9. ヒト運動ニューロンとヒト筋芽細胞との共培養
Hu/E18細胞株は理化学研究所バイオリソースセンターより購入した。Hu5/E18細胞は、Hashimoto N. et al., Biochem Biophys Res Commun. 2006 Oct 6;348(4):1383-8により報告された方法により、維持及び分化させた。細胞は、20%ウシ胎仔血清(Gibco)を含む高グルコース含有ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(ナカライテスク)で維持した。細胞は、iPS細胞へのSeV-L-N-I感染の7日前に、5 μg/ml ホロトランスフェリン ウシ (SIGMA)、10 μg/ml インスリン (ウシ、SIGMA)、10 nM 亜セレン酸ナトリウム (SIGMA)及び 2% ウマ血清(Gibco)を含有するDMEMにおいてヒト筋細胞へ分化させた。iPS細胞は0日目にSeV-L-N-Iに感染させ、Accumaxプラス10 μM Y-27632で分離し、その後7日目にHu5/E18培養プレート上へ移した。培地はMN培地へ交換した。14日目に、4%パラホルムアルデヒド(pH7.4)、30分間で細胞を固定し、免疫細胞化学によって評価した。
【0101】
10. 電気生理学的記録
電気生理学的記録及び解析は、Egawa N. et al., Sci Transl Med. 2012(前述)に記載された方法により、21日目に光学顕微鏡及び微分干渉(DIC)イメージングの組合せの下で実施した。電気生理学的記録の間、細胞は30℃で維持され、125 mM NaCl、2.5 mM KCl、2 mM CaCl2、1 mM MgCl2、26 mM NaHCO3、1.25 mM NaH2PO4、及び20 mM グルコースからなる酸素添加したKrebs-Ringer溶液で連続的に灌流した。iPS細胞由来の運動ニューロンが機能的に活性を有するかを調べるため、NaOHを用いてpH 7.4へと調整した、140 mM KCl, 2 mM MgCl2, 10 mM HEPES及び1 mM EGTAから構成される塩化カリウムベースの電極溶液を用いてカレントクランプモードにおいて活動電位を測定した。記録には、EPC 9増幅器(HEKA)が用いられ、データはPatchmasterソフトウェア(HEKA)により解析した。初代星状細胞はP1マウスから得て、10 % FBS含有DMEMにおいて培養した。
【0102】
11. 免疫細胞化学
細胞を4%パラホルムアルデヒド(pH7.4)、30分間で固定した。その後、細胞を0.2 % Triton X-100により透過処理し、非特異的結合部分をBlock Ace(雪印)でブロックした。細胞を一次抗体と共に4℃、オーバーナイトでインキュベートし、二次抗体と共に室温で1時間インキュベートした。蛍光イメージを撮影し、運動ニューロン又はニューロンの割合をIn Cell Analyzer 6000を用いて計算した。図5において、イメージはDelta Vision (GE Healthcare)を用いて取得した。一次抗体は以下を用いた:HB9 (DSHB, 1:200)、Tuj1 (COVANCE, 1:2,000)、Tuj1 (Chemicon, 1:500)、ChAT (Chemicon, 1:100)、ミスフォールドSOD1 (MEDIMABS, B8H10, 1:200), ミスフォールドSOD1 (MEDIMABS, A5C3, 1:200)、TDP-43 (Proteintech, 1:200)、ヒトNanog (ReproCELL, 1:500)、SSEA4 (Millipore, 1:200)、及びSSEA1 (Chemicon,1:1000)。
【0103】
12. 経時的イメージング
経時的イメージングに関しては、35-mm ガラスボトムディッシュ(MatTek)をポリ-L-リジン(SIGMA)及びマトリゲルでコートした。SeV-L-N-Iにより形質導入されたヒトiPS細胞を0日目に前記ディッシュ上に蒔いた。培地は、1日目に、0.5% N2 (Life Technologies)、1% B27 (Life Technologies)、1 μM レチノイン酸(SIGMA)、1 μM スムーズンドアゴニスト (Enzo Life Sciences)、10 ng/ml 脳由来神経栄養因子 (BDNF; R&D Systems)、10 ng/ml グリア細胞由来神経栄養因子 (GDNF; R&D Systems)、及び 10 ng/ml ニューロトロフィン3 (NT-3; R&D Systems)を添加したFluoroBrite DMEMへ交換した。経時的イメージングはプレーティング24時間後に開始し、BioStation IM-Q (Nikon)を用いた。イメージは、30分毎に撮影された。
【0104】
13. 統計解析
すべてのデータは平均±SEMとして示す。データはスチューデントt検定又は一元配置分散分析により解析し、その後Dunnetteの事後比較検定により解析した。統計解析は、SPSS version 2.1により実施した。
【0105】
実施例1 ヒトiPS細胞の作製及び性質決定
まず、本発明者らは、Takahashi K. et al., Cell. 2007(前述)及びEgawa N. et al., Sci Transl Med. 2012(前述)において報告された方法を用いて、4つの転写因子Oct3/4、Sox2、Klf4、及びc-Mycを形質導入することにより、変異スーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)を有する家族性のALS患者の線維芽細胞からヒトiPS細胞を作製した。なお、今回作製したヒトiPS細胞を含む、複数のヒトiPS細胞株の特性などに関する概要を以下に示す(表2)。
【0106】
【表2】
【0107】
iPS細胞は、ES細胞マーカーであるSSEA4及びNANOGに対して免疫細胞化学により調べられ(図6a)、SOD1遺伝子変異を保持していることが確認された(図6b)。別の家族性ALSであるTAR DNA結合タンパク質43kDa(TDP-43)媒介ALS(ヒトTDP-43 ALS)患者由来のiPS細胞株並びに対照由来のiPS細胞株の作製もEgawa N. et al.,(前述)に記載される方法を用いた。
【0108】
実施例2 3つの別々のSeVベクターによるヒトiPS細胞の運動ニューロンへの分化
図1に記述される方法により、ヒトiPS細胞を運動ニューロンへ分化させた。容易に運動ニューロンを検出するために、HB9-EGFP ノックインヒトiPS細胞を使用した。0日目にiPS細胞はマトリゲルコートしたディッシュ上へ播種し、培地をES細胞培地からN2サプリメント及びB27サプリメントを含むNeurobasal培地へ交換した。RA、スムーズンドアゴニスト(SAG)、及び神経栄養因子(NTF)も0日目に追加した。運動ニューロンの誘導のために、3つの別々のベクターであるSeV18+Lhx3/TS7ΔF (SeV-L、配列番号:5)、SeV18+Ngn2/TS7ΔF (SeV-N、配列番号:6)、及びSeV18+Isl-1/TS7ΔF (SeV-I、配列番号:7)を、ヒトiPS細胞へ形質導入した。SeVベクターの形質導入効率を試験するために、SeV18+EGFP/TS7ΔF (SeV-EGFP、配列番号:9)を対照iPS細胞へ、1、3、10、30、及び100の感染多重度(MOI)で形質導入した。MOIが3において50%以上の効率が観察され、MOIが100の場合に最も高い効率が観察された。しかしながら、MOIが高いほどに、細胞死が増加した。従ってMOIは30未満が選択された。14日目に行われた免疫細胞化学的分析及び定量的PCR(qPCR)により、HB9陽性、ChAT陽性、MAP2陽性ニューロンであることが明らかとなった(図1b及び1c)。
【0109】
実施例3 3つすべての転写因子の形質導入によりヒトES/iPS細胞からHB9及びTuj1陽性細胞を作製するにおいて最高の効率がもたらされる
Lhx3、Ngn2、及びIsl-1のどのような組合せが、最も効率よくiPS細胞から運動ニューロンを生産できるのかを決定するために、SeV-L、SeV-N、及びSeV-Iの3種類のベクターの1〜3種類をヒトiPS細胞へ形質導入し、免疫細胞組織学的手法によりTuj1及びHB9の発現を評価した。3つの転写因子すべての組合せを導入した場合及びSeV-L及びSeV-Nの組合せを導入した場合には、Tuj1及びHB9の両方共が陽性のニューロンが得られた一方で、SeV-Nを導入した場合はTuj1が陽性、HB9陰性のニューロンが得られた(図2a)。培地のみの場合は、ニューロン又は運動ニューロンのいずれも誘導されなかった(0 %)。3つの因子すべてが形質導入に用いられた場合は、20.6 % ± 8.7 %の細胞がニューロンであり、7.9 % ± 1.9 %の細胞が運動ニューロンであった。Lhx3及びNgn2のみを用いた場合は、21.2 % ± 1.6 %の細胞がニューロンであり、3.9 % ± 0.5 %の細胞が運動ニューロンであった(図2b)。3つすべての因子を用いた場合、運動ニューロン/ニューロンの割合は43.9 % ±6.6 %であり、Lhx3及びNgn2を用いた場合は、18.2 % ± 1.1 %であった。3つすべての因子の組合せが最も高い効率で運動ニューロンを生産したが、程度は低いものの、2つの因子(Lhx3及びNgn2)の組合せでも運動ニューロンを生産できた。これは、3つすべての転写因子を同時に形質導入したとき、運動ニューロンのいくらかは、2つの転写因子のみによって作製され得ることを示唆している。また、免疫細胞化学及びqPCR解析を介して、このSeVベクターを用いてヒトES細胞から運動ニューロンの作製が可能であることも確認した(図7)。
【0110】
実施例4 単一のSeVベクター中のLhx3、Ngn2、及びIsl-1による運動ニューロンの誘導及び経時的イメージング
本発明者らは、Lhx3、Ngn2、及びIsl-1をコードする単一のSeVベクター(SeV-L-N-I)を設計し、運動ニューロンの誘導を調べた(図3a)。14日目に、HB9陽性ニューロン及びChAT陽性ニューロンの両方が観察され、全細胞のうち6.4 % ± 0.8 %がニューロンであり、5.0 % ± 0.9 %が運動ニューロンであった(図3b)。運動ニューロン/ニューロンの割合は78.1 % ±6.7 %であった。qPCR解析により、HB9、ChAT、及びMAP2の発現レベルは増加していることが示された(図3c)。電気生理学的パッチクランプ法によって、初代星状細胞と共培養された際の、作製された運動ニューロンの活動電位を観察した(図3d)。運動ニューロンをヒト筋芽細胞株であるHu5/E18から分化させたヒト筋細胞と共培養した際に、HB9-EGFP陽性の神経突起とα-ブンガロトキシンで染色したアセチルコリン受容体の共局在により、神経筋接合部の形成が確認された(図3e)。
【0111】
HB9陽性細胞が発生する時点を捕捉するために、HB9-EGFPノックインiPS細胞を用いた経時的イメージングを実施した。GFPの経時的イメージングは1日目から開始し、2日目にGFP陽性細胞が観察された。GFP陽性細胞の数は徐々に増加したが、そのいくらかは時間経過と共に消失した。3日目には、ニューロン様の形態が観察された(データは開示せず)。
【0112】
実施例5 SeV-L-N-Iにより誘導されたSOD1-ALS 運動ニューロンは疾患特異的表現型を示す
本発明の方法がMNDの研究に適用可能かを確認するために、本発明者らはまず、Takahashi K. et al., Cell. 2007(前述)及びEgawa N. et al., Sci Transl Med. 2012(前述)において報告された方法を用いて、4つの転写因子Oct3/4、Sox2、Klf4、及びc-Mycを形質導入することにより、変異SOD1(Gurney ME. et al., Science. 1994(前述))、変異TDP-43(Wegorzewska I. et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2009 Nov 3;106(44):18809-14.)を有するALSモデルマウス及びそれらと同腹仔の対照マウス胎児線維芽細胞からiPS細胞を作製した(図6c-d)。なお、作製したマウスiPS細胞を含む、複数のマウスiPS細胞株の特性などに関する概要を以下に示す(表3)。
【0113】
【表3】
【0114】
次に、本発明者らは、作製したiPS細胞を運動ニューロンへ誘導し、免疫細胞化学を介してその表現型を調べた(図4)。マウスSOD1-ALS iPS細胞由来の運動ニューロンはミスフォールドしたSOD1に対して陽性であったが、一方、マウス対照iPS細胞由来の運動ニューロンは陰性だった(図5a)。マウスTDP-43-ALS iPS細胞由来の運動ニューロンはTDP-43の細胞質基質での凝集を示さなかったが(図5b)、この結果は、TDP-43遺伝子導入マウスの病理組織学的な知見に関する報告(Hatzipetros T. et al., Brain Res. 2014 Oct 10;1584:59-72.)とも一致する。SeV-L-N-Iを用いてヒトALS iPS細胞を運動ニューロンへ分化させた場合、ヒトSOD1-ALS及びヒトTDP-43-ALS 運動ニューロンは、それぞれミスフォールドしたSOD1の凝集(図5c)及びTDP-43の細胞質基質での凝集(図5d)を示した。以上から、本発明の誘導方法により誘導された運動ニューロンは、iPS細胞の由来となった患者又はモデルマウスにおける疾患特異的表現型を示すことが示された。
【0115】
実施例6 単一のSeVベクターSeV-L-N-IによるヒトES細胞からの運動ニューロンの誘導
本発明者らは、実施例4と同様にして、Lhx3、Ngn2、及びIsl-1をコードする単一のSeVベクター(SeV-L-N-I)を用いて、ヒトES細胞からの運動ニューロンの誘導を試験した(図6a)。14日目に、HB9陽性ニューロン及びChAT陽性ニューロンの両方が観察された(図6b)。qPCR解析により、HB9、ChAT、及びMAP2の発現レベルは増加していることが示された(図6c)。
【0116】
本発明を好ましい態様を強調して説明してきたが、好ましい態様が変更され得ることは当業者にとって自明であろう。よって、本発明は、本発明が本明細書に詳細に記載された以外の方法で実施され得ることを意図する。即ち、本発明は添付の「特許請求の範囲」の精神及び範囲に包含されるすべての変更を含むものである。
【0117】
ここで述べられた特許及び特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、ここに引用されたことによって、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の誘導方法を用いて得られる運動ニューロンは、形質導入した遺伝子が宿主細胞ゲノムへ組込まれる恐れがなく、また、導入される転写因子の発現レベルも比較的均質である。従って、ALSをはじめとする運動ニューロン疾患患者又はそのモデル動物由来の多能性幹細胞から本発明の方法を用いて誘導した運動ニューロンは、当該疾患の病態をより忠実に反映していると考えられる。従って、これらの疾患の治療又は予防のための候補物質をスクリーニングする研究等において、極めて有用であると考えられる。
【0119】
本出願は、日本で出願された特願2016−112289(出願日:2016年6月3日)を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]
【国際調査報告】