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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2017年5月18日
【発行日】2018年8月30日
(54)【発明の名称】植毛粉体塗装方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/14 20060101AFI20180803BHJP
   B05D 1/04 20060101ALI20180803BHJP
【FI】
   B05D1/14
   B05D1/04 H
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】16
【出願番号】特願2017-550291(P2017-550291)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2016年11月4日
(31)【優先権主張番号】特願2015-219910(P2015-219910)
(32)【優先日】2015年11月9日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA
(71)【出願人】
【識別番号】000210986
【氏名又は名称】中央発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(72)【発明者】
【氏名】山下 尊
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 秀和
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 誠記
(72)【発明者】
【氏名】▲桑▼山 年雄
【テーマコード(参考)】
4D075
【Fターム(参考)】
4D075AA09
4D075AE03
4D075AF01
4D075BB26Z
4D075BB81Y
4D075BB89X
4D075CA13
4D075CA22
4D075CA33
4D075DA06
4D075DA23
4D075DB01
4D075DC11
4D075DC13
4D075EA02
4D075EA03
4D075EA17
4D075EA19
4D075EB07
4D075EB12
4D075EB13
4D075EB14
4D075EB15
4D075EB16
4D075EB22
4D075EB32
4D075EB33
4D075EB35
4D075EB38
4D075EB39
4D075EB42
4D075EC13
4D075EC22
4D075EC47
4D075EC49
(57)【要約】
本発明の植毛粉体塗装方法は、粉体塗料を基材に付着させる粉体塗料付着工程と、付着した粉体塗料層に植毛用有機フィラーを静電力により付着させる植毛工程と、該粉体塗料に含まれる樹脂を硬化または固化させて塗膜を形成することにより、該植毛用有機フィラーの一部を該塗膜に固定する固定工程と、を有する。本発明の植毛粉体塗装方法によると、塗装および植毛を接着剤を使用せずに行うことができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体塗料を基材に付着させる粉体塗料付着工程と、
付着した粉体塗料層に植毛用有機フィラーを静電力により付着させる植毛工程と、
該粉体塗料に含まれる樹脂を硬化または固化させて塗膜を形成することにより、該植毛用有機フィラーの一部を該塗膜に固定する固定工程と、
を有することを特徴とする植毛粉体塗装方法。
【請求項2】
前記植毛工程において、静電塗装ガンにより前記植毛用有機フィラーを前記粉体塗料層に吹き付ける請求項1に記載の植毛粉体塗装方法。
【請求項3】
前記植毛用有機フィラーの長手方向の長さは50μm以上2000μm以下であり、
前記固定工程において、前記塗膜の厚さは、30μm以上500μm以下である請求項1または請求項2に記載の植毛粉体塗装方法。
【請求項4】
前記植毛用有機フィラーの表面抵抗値は1×10Ω以上1×1018Ω未満である請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の植毛粉体塗装方法。
【請求項5】
前記植毛用有機フィラーは、表面に電着処理膜を有する請求項4に記載の植毛粉体塗装方法。
【請求項6】
前記植毛用有機フィラーは、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、レーヨン繊維、綿繊維、およびポリエチレン繊維から選ばれる一種以上を含む請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の植毛粉体塗装方法。
【請求項7】
前記粉体塗料は熱硬化性樹脂を含み、
前記固定工程において、該熱硬化性樹脂を加熱により硬化させる請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の植毛粉体塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装および植毛を接着剤を使用せずに行うことができる植毛粉体塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車のパワーバックドアなどにはコイルばねが収容されたスプリングアセンブリが用いられる。当該コイルばねには、防錆性および消音性が要求される。このため、コイルばねの表面には、防錆性を付与するための塗装と、消音性を付与するための植毛加工が施される。
【0003】
植毛加工とは、被加工物の表面に予め接着剤を塗布しておき、その表面に短繊維を植え付ける加工である。植毛加工の方法としては、静電植毛法が知られている。静電植毛法においては、静電力により飛翔させた短繊維を、被加工物の接着剤の塗布面に突き刺すように付着させることにより、被加工物の表面に短繊維をほぼ直立した状態で固定する(例えば特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−224612号公報
【特許文献2】特開平5−138813号公報
【特許文献3】特開平10−258472号公報
【特許文献4】特開2004−16966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の静電植毛法によると、短繊維を付着させるために接着剤が必要である。しかしながら、接着剤は、防錆性能を有しない。よって、防錆性を付与するためには、植毛加工の前に防錆性能を有する塗膜を形成しておかなければならない。この場合、塗装、接着剤の塗布、植毛という三工程が必要になる。塗装工程においては、後の接着剤の塗布工程の前に、塗膜を乾燥させる時間も必要である。このため従来の方法においては、工程数が多く、処理に時間を要し、製造コストが大きいという問題があった。また、植毛時に脱落した短繊維には接着剤が付着する。接着剤は液状であるため、脱落した短繊維を回収して再利用することは難しい。さらに、接着剤は有機溶剤を含むものが多いため、環境への負荷も大きい。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、塗装および植毛を接着剤を使用せずに行うことができる植毛粉体塗装方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の植毛粉体塗装方法は、粉体塗料を基材に付着させる粉体塗料付着工程と、付着した粉体塗料層に植毛用有機フィラーを静電力により付着させる植毛工程と、該粉体塗料に含まれる樹脂を硬化または固化させて塗膜を形成することにより、該植毛用有機フィラーの一部を該塗膜に固定する固定工程と、を有することを特徴とする。
【0008】
本発明の植毛粉体塗装方法において使用する粉体塗料は、熱硬化性または熱可塑性の樹脂を含む。植毛工程においては、付着した粉体塗料層に含まれる樹脂を硬化させない状態(熱硬化性樹脂を含む場合)、または固化させない状態(熱可塑性樹脂を含む場合)で、粉体塗料層に植毛用有機フィラーを付着させる。そして、固定工程において、粉体塗料に含まれる樹脂を硬化または固化させることにより塗膜を形成する。この時、植毛用有機フィラーの一部は塗膜に固定され、それ以外の他部は塗膜から突出する。このように、本発明の植毛粉体塗装方法によると、粉体塗料が接着剤としての役割を果たすことにより、接着剤を使用しなくても植毛を行うことができる。すなわち、本発明の植毛粉体塗装方法によると、従来塗装工程において必要であった塗膜の乾燥工程と、接着剤の塗布工程と、を省略することができる。したがって、従来と比較して、工程数を減らして処理時間を短縮することができる。これにより、製造コストを削減することができる。
【0009】
本発明の植毛粉体塗装方法によると、植毛用有機フィラーを固定するための接着剤は不要である。また、粉体塗料は有機溶剤を含まない。よって、本発明の植毛粉体塗装方法によると、有機溶剤を使用しないで済む。このため、本発明の植毛粉体塗装方法によると、環境への負荷を小さくすることができる。粉体塗料は、液体塗料と比較して、塗料の飛散が少なく回収が容易である。液体塗料の場合、基材表面に塗布できる量は表面張力により決まるため、それを超えると流れてしまい厚膜化しにくい。この点、粉体塗料によると、塗膜厚さを調整しやすく、厚膜化も容易である。また、粉体塗料に配合される樹脂の種類、添加剤などを適宜選択することにより、所望の特性を塗膜に付与することができる。例えば、防錆性能が高い樹脂を選択することにより、塗膜の防錆性を高めることができる。
【0010】
本発明の植毛粉体塗装方法においては、液状ではなく乾いた粉体塗料層に植毛用有機フィラーを付着させるため、付着しなかった植毛用有機フィラーを回収しやすく、再利用することも容易である。植毛用有機フィラーは、無機フィラーと比較して、柔軟である。このため、触感に優れるだけでなく、付着時に折れにくく植毛状態を維持しやすい。
【0011】
ちなみに、特許文献3には、表面処理鋼板の表面に、水性エポキシ変性ポリウレタン樹脂などからなる植毛接着水性塗料組成物をロール塗装またはスプレー塗装して植毛植付層を形成した後、有機短繊維を静電植毛する方法が開示されている。また、特許文献4には、基材にウレタンエマルジョンを含む一液塗料を吹き付けた後、パイルを吹き付ける植毛方法が開示されている。特許文献3、4において使用される植毛接着水性塗料組成物およびウレタンエマルジョンを含む一液塗料は、いずれも液体塗料であり粉体塗料ではない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1のコイルばねの断面のSEM写真である(倍率20倍)。
図2】同コイルばねの表面付近の断面のSEM写真である(倍率100倍)。
図3】参考例のコイルばねの表面付近の断面のSEM写真である(倍率100倍)。
図4】実施例の植毛粉体塗装方法における焼き付け前の状態を示すモデル図である。
図5】参考例の植毛粉体塗装方法における焼き付け前の状態を示すモデル図である。
図6】圧縮試験装置の概略図である。
図7】圧縮試験における打音の振動レベルを示すグラフである。
【符号の説明】
【0013】
10:コイルばね、11:粉体塗料、12:植毛用有機フィラー、20:圧縮試験装置、21:外筒、22:コイルばね、23:治具、24:加速度ピックアップ、25:チャージアンプ、26:FFTアナライザ、210:芯棒、211:ばね座。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の植毛粉体塗装方法の実施の形態について説明する。なお、本発明の植毛粉体塗装方法は、以下の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良などを施した種々の形態にて実施することができる。
【0015】
本発明の植毛粉体塗装方法は、粉体塗料付着工程と植毛工程と固定工程とを有する。以下、各工程について順に説明する。
【0016】
(1)粉体塗料付着工程
本工程は、粉体塗料を基材に付着させる工程である。粉体塗料は、塗膜形成のベース材料である樹脂、硬化剤、顔料などを含む。樹脂としては、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂の中から選択すればよい。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられる。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、メタクリル樹脂、ナイロン樹脂などが挙げられる。例えば、塗膜による防錆性を高めたい場合には、エポキシ樹脂を選択することが望ましい。また、防錆性に加えて、本発明の植毛粉体塗装物を屋外で使用する場合などで塗膜に耐候性を付与したい場合には、エポキシ樹脂と、カルボキシ基を有するポリエステル樹脂と、を組み合わせて用いることが望ましい。
【0017】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、結晶性エポキシ樹脂などが挙げられる。また、ポリエステル樹脂としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオールなどの多価アルコールと、テレフタル酸、マレイン酸、イソフタル酸、コハク酸、アジピン酸、セバチン酸などのカルボン酸と、をエステル交換または重縮合反応させた樹脂が挙げられる。
【0018】
硬化剤としては、例えば、芳香族アミン、酸無水物、ブロックイソシアネート、ヒドロキシアルキルアミド(HAA)、トリグリシジルイソシアヌレート(TGIC)、脂肪族二塩基酸、ジシアンジアミドの誘導体、有機酸ジヒドラジドの誘導体などが挙げられる。樹脂として、エポキシ樹脂とカルボキシ基を有するポリエステル樹脂とを組み合わせて用いる場合は、カルボキシ基を有するポリエステル樹脂が、エポキシ樹脂の硬化剤としての役割を果たす。
【0019】
顔料としては、例えば、着色顔料として、カーボンブラック、二酸化チタン、ベンガラ、黄土などの無機系顔料、キナクリドンレッド、フタロシアニンブルー、ベンジジンエローなどの有機系顔料が挙げられる。また、体質顔料として、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、シリカ、硫酸バリウムなどが挙げられる。体質顔料の粒子径、粒子形状により、塗膜の屈曲性、耐衝撃性などの機械的性質を調整することができる。
【0020】
粉体塗料は、上述した成分以外にも必要に応じて種々の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、表面調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電抑制剤、難燃剤などが挙げられる。粉体塗料は、公知の方法により製造すればよい。例えば、樹脂などの材料を溶融混練した後、粉砕して製造することができる。
【0021】
基材は特に限定されない。例えば金属製の部材として、コイルばねなどのばね部材、ばね部材を収容する相手側部材などが挙げられる。ばね部材の材質としては、一般にばね用として用いられるばね鋼などが好適である。ばね部材については、例えば、ばね鋼などを熱間または冷間成形した後、ショットピーニングなどを施して、表面粗さを調整しておくとよい。また、ばね部材の素地表面に、リン酸亜鉛、リン酸鉄などのリン酸塩の皮膜を形成しておくことが望ましい。リン酸塩皮膜の上に塗膜を形成することにより、耐食性および塗膜の密着性が向上する。特に、リン酸塩がリン酸亜鉛の場合には、耐食性がより向上する。リン酸塩皮膜は、既に公知の方法により形成すればよい。例えば、リン酸塩の溶液槽にばね部材を浸漬する浸漬法、リン酸塩の溶液をスプレーガンなどでばね部材に吹き付けるスプレー法などが挙げられる。
【0022】
粉体塗料を基材に付着させる方法としては、既に公知の方法を採用すればよい。例えば、流動浸漬法、静電流動浸漬法、静電スプレー法などが挙げられる。なかでも、静電力を用いた静電スプレー法、静電流動浸漬法が好適である。前者の場合、粉体塗料を、静電塗装ガンのノズルを通過させることにより帯電させて、基材の表面に付着させればよい。粉体塗料を帯電させることができれば、静電塗装ガンのノズルに電圧を印加してもしなくてもよい。後者の場合、流動浸漬槽内で粉体塗料を流動させながら、電圧が印可された針状の放電極により帯電させて、基材の表面に付着させればよい。
【0023】
本工程において、粉体塗料を基材に付着させる回数は、一回でも二回以上でもよい。例えば、粉体塗料を基材に付着させた後、それに重ねて粉体塗料を繰り返し付着させてもよい。
【0024】
(2)植毛工程
本工程は、付着した粉体塗料層に植毛用有機フィラーを静電力により付着させる工程である。本工程における粉体塗料層とは、粉体塗料に含まれる樹脂が硬化または固化していない状態をいう。すなわち、粉体塗料が熱硬化性樹脂を含む場合には、当該樹脂を硬化させない状態で植毛用有機フィラーを付着させる。あるいは、粉体塗料が熱可塑性樹脂を含む場合には、固化させない状態で植毛用有機フィラーを付着させる。
【0025】
植毛用有機フィラーを静電力により付着させるには、静電塗装ガン、静電流動浸漬槽などを用いればよい。前者の場合、植毛用有機フィラーを静電塗装ガンのノズルを通過させることにより帯電させて、粉体塗料層に吹き付ければよい。植毛用有機フィラーを帯電させることができれば、静電塗装ガンのノズルに電圧を印加してもしなくてもよい。後者の場合、植毛用有機フィラーを静電流動浸漬槽内で流動させながら、電圧が印可された針状の放電極により帯電させて、粉体塗料層に付着させればよい。
【0026】
植毛用有機フィラー(以下、単に「フィラー」と称す場合がある)の種類は、特に限定されない。例えば、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、レーヨン繊維、綿繊維、ポリエチレン繊維、アラミド繊維、フッ素繊維などが挙げられる。なかでも、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、レーヨン繊維、綿繊維、およびポリエチレン繊維から選ばれる一種以上を含むことが望ましい。
【0027】
植毛用有機フィラーとしては、表面抵抗値が1×10Ω以上1×1018Ω未満のフィラーを用いればよい。本明細書においては、表面抵抗値として、日置電機(株)製の超絶縁計「SM−8220」により測定された値を採用する。植毛用有機フィラーの表面抵抗値が1×10Ω未満の場合には、導電性が高く放電しやすくなるためフィラーの飛翔性が悪くなる。このため、静電力による植毛が難しくなる。より好適な表面抵抗値は、1×10Ω以上である。反対に、表面抵抗値が1×1018Ω以上になると、帯電しすぎてフィラーの飛翔性が悪くなる。このため、静電力による植毛が難しくなる。より好適な表面抵抗値は、1×1017Ω未満、さらには1×1011Ω未満である。
【0028】
植毛用有機フィラーとしては、分散性の向上や過剰な帯電を抑制することを目的として、電着処理、吸水処理、撥水処理、プライマー処理などの種々の表面処理が施された繊維を使用することができる。例えば、植毛用有機フィラーは、表面に電着処理膜を有することが望ましい。電着処理膜を有することにより、フィラーの表面抵抗値が所望の値に調整される。これにより、フィラーの過剰な帯電が抑制され植毛時の飛翔力が向上する。また、繊維は凝集しやすいため、そのままでは絡まりやすく塊状になりやすい。この点、表面に電着処理膜を有すると、繊維(植毛用有機フィラー)の分散性が向上する。これにより、フィラーの凝集が抑制され、ほぼ均一な植毛状態を実現することができる。
【0029】
電着処理膜は、植毛用有機フィラーとして使用する繊維の表面を電着処理して形成される。電着処理としては、繊維をタンニン、吐酒石などで処理して、繊維の表面にタンニン化合物などを生成させる方法がある。また、塩化バリウム、硫酸マグネシウム、珪酸ソーダ、硫酸ナトリウムなどの無機塩類、第四級アンモニウム塩、高級アルコール硫酸エステル塩、ベタイン型などの界面活性剤、および有機珪素化合物(コロイダルシリカ)を適宜混合した溶液で繊維を処理して、繊維の表面にシリコン系化合物を付着させる方法がある。
【0030】
植毛用有機フィラーは、繊維状を呈している。フィラーの長手方向の長さは特に限定されないが、フィラーが短すぎると、フィラーが粉体塗料に埋もれてしまい所望の植毛状態を実現できなくなる。例えば、フィラーの長さは50μm以上であることが望ましい。200μm以上、さらには500μm以上であるとより好適である。一方、フィラーが長すぎると、フィラーが倒れて所望の植毛状態を実現できなくなる。例えば、フィラーの長さは2000μm以下であることが望ましい。1000μm以下、さらには600μm以下であるとより好適である。フィラーの短手方向の最大長さ(太さ)は、特に限定されないが、フィラーが細すぎると、自重でカールしてしまい所望の植毛状態を実現できなくなる。例えば、フィラーの太さは5μm以上であることが望ましい。10μm以上、さらには20μm以上であるとより好適である。一方、フィラーが太すぎると、触感が悪くなる。例えば、フィラーの太さは50μm以下であることが望ましい。40μm以下、さらには30μm以下であるとより好適である。
【0031】
植毛用有機フィラーの付着量は、例えば、1.2mg/cm以上80mg/cm以下にするとよい。植毛用有機フィラーの付着量が1.2mg/cm未満の場合には、製造するのが難しいだけでなく、フィラーが少ないため、例えば消音性などの植毛により得られる効果が小さくなる。2mg/cm以上にすると好適である。一方、80mg/cmより多くなると、フィラーが付着しにくくなりロスが大きくなる。また、フィラーを80mg/cmより多く付着させても、得られる効果に差が見られない。製造コストを考慮すると、植毛用有機フィラーの付着量を18mg/cm以下にするとよい。消音性を確保しつつ製造コストをさらに削減するためには、10mg/cm以下にするとよい。なお、植毛用有機フィラーの付着量は、相手側部材に対して植毛粉体塗装された部材が接触する接触面において測定すればよい。
【0032】
(3)固定工程
本工程は、粉体塗料に含まれる樹脂を硬化または固化させて塗膜を形成することにより、該植毛用有機フィラーの一部を該塗膜に固定する工程である。
【0033】
本工程において、粉体塗料に含まれる樹脂が熱硬化性樹脂である場合には、加熱して硬化させればよく、熱可塑性樹脂である場合には、加熱して溶融した後、冷却して固化させればよい。加熱温度、加熱時間などは、樹脂の種類に応じて適宜決定すればよい。また、加熱は、通常使用される電気炉、熱風乾燥機などを用いて行えばよい。
【0034】
樹脂が硬化または固化することにより塗膜が形成される。この時、植毛用有機フィラーの一部は塗膜に埋設されて固定され、それ以外の他部は塗膜から突出する。塗膜の厚さや、突出した植毛用有機フィラーからなる層の厚さは、要求される特性に応じて適宜決定すればよい。例えば、植毛用有機フィラーの長手方向の長さが50μm以上2000μm以下である場合、塗膜の厚さを30μm以上500μm以下とすることが望ましい。塗膜の厚さが30μm未満の場合には、防錆性の付与など塗装により得られる効果が小さくなる。また、植毛用有機フィラーが刺さりにくく、埋設される長さが短いため植毛用有機フィラーを充分に固定することができない。例えば、植毛用有機フィラーのうち塗膜に埋設されている部分の長さは20μm以上であるとよい。反対に、塗膜の厚さが500μmを超えると、植毛用有機フィラーが付着しにくくなる。
【実施例】
【0035】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0036】
<植毛粉体塗装>
基材としてばね鋼製のコイルばねを使用して植毛粉体塗装を行った。コイルばねの総巻数は50、寸法は外径27.5mm、自由高さ570mm、線径3.7mmである。コイルばねの表面にはリン酸亜鉛皮膜が形成されている。粉体塗料としては、神東塗料(株)製のエポキシ/ポリエステル粉体塗料「イノバックス(登録商標)Hシリーズ」を使用した。植毛用有機フィラーとしては、(株)新ニッセン製のナイロン繊維(3.3デシテックス(太さに換算すると19.3μm)、長さ500μm、電着処理膜有り、表面抵抗値1010〜1013Ω)を使用した。
【0037】
まず、静電塗装ガンにより粉体塗料をコイルばねに吹き付けた(粉体塗料付着工程)。静電塗装ガンとしては、旭サナック(株)製「BPS700」(ノズルは反射板式ノズル)を使用した。吹き付け条件は、電圧100kV、吐出量70g/分、静電塗装ガンの移動速度40mm/秒、ワーク間距離200mmとした。吹き付けは次のようにして行った。コイルばねを縦に静置した状態で(軸方向=上下方向)、静電塗装ガンを下から上、上から下、下から上というように、上下方向に3回移動(1.5往復)させた。その後、コイルばねを軸を中心にして180°回転させて、同じように静電塗装ガンを1.5往復させた。
【0038】
次に、静電塗装ガンにより植毛用有機フィラーをコイルばねに吹き付けた(植毛工程)。静電塗装ガンとしては、旭サナック(株)製「NU−070P」を使用した。ノズルは、フラット形状であり、幅4mmのスリットを有する。吹き付け条件は、電圧100kV、吐出量100g/分、搬送エアー圧0.1MPa、静電塗装ガンの移動速度50mm/秒、ワーク間距離200mmとした。吹き付けは次のようにして行った。粉体塗料を吹き付けた時と同様にコイルばねを縦に静置した状態で、静電塗装ガンを下から上に移動させた。この際、ノズルのスリットの向きが、コイルばねの軸方向と同じ方向になるようにした。その後、コイルばねを軸を中心にして90°ずつ回転させて、その都度同じように静電塗装ガンを移動させた。このようにして、コイルばねの全周に対して、植毛用有機フィラーの吹き付けを合計4回行った。
【0039】
次に、コイルばねを熱風乾燥機に入れ、200℃で20分間焼き付けた(固定工程)。これにより、粉体塗料中のエポキシ樹脂とポリエステル樹脂とを硬化させて塗膜を形成した。このようにして植毛粉体塗装されたコイルばねを実施例1のコイルばねと称す。
【0040】
図1に、実施例1のコイルばねの断面の走査型電子顕微鏡写真(SEM写真)を示す(倍率20倍)。図2に、同コイルばねの表面付近の断面のSEM写真を示す(倍率100倍)。図1図2に示すように、植毛用有機フィラーの一部は、塗膜に埋設され、それ以外の他部は塗膜から突出している。図2中、Aで示すように、塗膜の厚さは100μmであった。図2中、Bで示すように、塗膜および植毛用有機フィラーを合わせた厚さ(植毛塗装層の厚さ)は600μmであった。植毛用有機フィラーの付着量は、3mg/cmであった。
【0041】
参考例として、粉体塗料と植毛用有機フィラーとが予めドライブレンドされてなる粉体塗料組成物を使用して、コイルばねに植毛粉体塗装した。コイルばね、粉体塗料組成物に含まれる粉体塗料および植毛用有機フィラーは、先の植毛粉体塗装において使用したものと同じである。粉体塗料および植毛用有機フィラーの配合比は、質量比で1:1である。参考例の植毛粉体塗装方法を以下に説明する。
【0042】
まず、静電塗装ガンにより粉体塗料組成物をコイルばねに吹き付けた。静電塗装ガンとしては、ノードソン(株)製「VERSA−SPRAY II」を使用した。ノズルは、フラット形状であり、幅4mmのスリットを有する。吹き付け条件は、電圧100kV、吐出量60g/分、搬送エアー圧2.5MPa、静電塗装ガンの移動速度50mm/秒、ワーク間距離200mmとした。吹き付けは次のようにして行った。コイルばねを縦に静置した状態で、静電塗装ガンを上から下に移動させた。この際、ノズルのスリットの向きが、コイルばねの軸方向と同じ方向になるようにした。その後、コイルばねを軸を中心にして90°回転させて、静電塗装ガンを下から上に移動させた。続いて、コイルばねを軸を中心にして同方向に180°回転させて、電塗装ガンを上から下に移動させた。最後に、コイルばねを軸を中心にして戻る方向に90°回転させて、静電塗装ガンを下から上に移動させた。このようにして、コイルばねの全周に対して、粉体塗料組成物の吹き付けを合計4回行った。それから、コイルばねを熱風乾燥機に入れ、200℃で20分間焼き付けた。これにより、粉体塗料中のエポキシ樹脂とポリエステル樹脂とを硬化させて塗膜を形成した。このようにして植毛粉体塗装されたコイルばねを参考例1のコイルばねと称す。
【0043】
図3に、参考例1のコイルばねの表面付近の断面のSEM写真を示す(倍率100倍)。図3に示すように、参考例1のコイルばねの塗膜には、「巣」と呼ばれる空孔がある。これに対して、前出図2に示すように、実施例1のコイルばねの塗膜には、空孔はほとんど見られない。この理由を以下に説明する。
【0044】
図4に、実施例の植毛粉体塗装方法における焼き付け前の状態のモデル図を示す。図5に、参考例の植毛粉体塗装方法における焼き付け前の状態のモデル図を示す。図4図5に示すように、コイルばね10の表面には、粉体塗料11と植毛用有機フィラー12とが付着している。植毛用有機フィラー12の一部は粉体塗料11に埋設されており、それ以外の他部は、粉体塗料11から突出している。
【0045】
実施例の植毛粉体塗装方法によると、予め粉体塗料を吹き付けて粉体塗料層を形成した後で、植毛用有機フィラーを吹き付ける。この場合、図4に示すように、植毛用有機フィラー12は、粉体塗料11の間にほぼ垂直に突き刺さる。このため、焼き付け時に粉体塗料11が溶融してコイルばね10の表面に広がる際に、空気を巻き込みにくい。これに対して、粉体塗料と植毛用有機フィラーとがドライブレンドされてなる粉体塗料組成物を吹き付けると、図5に示すように、粉体塗料11と植毛用有機フィラー12とが絡み合って付着される。このため、焼き付け時に粉体塗料11が溶融してコイルばね10の表面に広がる際に、空気を巻き込みやすい。これにより、塗膜に空孔が形成されやすくなると考えられる。
【0046】
<耐食性評価>
実施例1および参考例1のコイルばねについて塩水噴霧試験を行い、耐食性(防錆性)を評価した。塩水噴霧試験には、スガ試験機(株)製の塩水噴霧試験機「STP−160」を使用した。試験条件はJIS Z 2371:2000に規定される塩水噴霧試験方法の中性塩水噴霧試験に準拠し、塩分濃度を5質量%、温度を35℃として、72、240、480、720時間経過ごとに、赤錆発生の有無を確認した。赤錆の有無については、植毛塗装層などを剥離して、コイルばねの素地を目視により観察して確認した。
【0047】
比較のため、接着剤を使用した従来の方法により植毛したコイルばねについても塩水噴霧試験を行い、耐食性を評価した。コイルばねとしては、ジオメット(登録商標)塗装されたものを使用した。ジオメット塗装により、コイルばねの表面には、金属フレークが無機バインダーにより結合されて層状に重なったジオメット皮膜が形成される。ジオメット皮膜は、防錆性能を有する。コイルばねの総巻数、寸法などは、実施例1の植毛粉体塗装において使用したものと同じである。接着剤としては、ヘンケルジャパン(株)製のアクリル・スチレン共重合樹脂接着剤「ヨドゾール(登録商標)AA76」を使用した。植毛用有機フィラーは、実施例1の植毛粉体塗装において使用したものと同じである。植毛方法は次の通りである。
【0048】
まず、スプレーガン(アネスト岩田(株)製「W−100」、ノズル径1.8mm)により接着剤をコイルばねに吹き付けた。吹き付けは、コイルばねを回転させながらスプレーガンを十数往復させて行った。スプレーガンの移動速度は600mm/秒、吹き付け時間は80秒、ワーク間距離は50mmとした。続いて、吹き付けられた接着剤の表面に、静電塗装ガンにより植毛用有機フィラーを吹き付けた。使用した静電塗装ガンは、参考例1の植毛粉体塗装において使用したものと同じである(ノードソン(株)製「VERSA−SPRAY II」)。吹き付け条件は、電圧1kV、吐出量100g/分、静電塗装ガンの移動速度600mm/秒、吹き付け時間60秒、ワーク間距離50mmとした。吹き付けは、コイルばねを回転させながら静電塗装ガンを十数往復させて行った。それから、コイルばねを熱風乾燥機に入れ、70℃で20分間焼き付けた後、さらに130℃で5分間焼き付けた。このようにして植毛されたコイルばねを比較例1のコイルばねと称す。比較例1のコイルばねにおける赤錆の有無については、植毛層(フィラーおよび接着剤層)などを剥離して、コイルばねの素地を目視により観察して確認した。
【0049】
塩水噴霧試験の結果、720時間経過後においても、実施例1、参考例1および比較例1のコイルばねには赤錆は見られなかった。これにより、実施例1のコイルばねは、従来の植毛方法により得られたコイルばねと同等の耐食性を有することが確認された。
【0050】
<消音性評価>
コイルばねが圧縮されて座屈すると、うねり部が隣接部材に当接して打音が発生する。したがって、実施例1、参考例1、比較例1の各コイルばねについて圧縮試験を行い、コイルばねの座屈に伴い発生する打音の振動レベルを測定することにより、植毛による消音性を評価した。図6に、圧縮試験装置の概略図を示す。
【0051】
図6に示すように、圧縮試験装置20は、外筒21と、コイルばね22と、治具23と、を備えている。外筒21は、上向きに開口する有底円筒状を呈している。外筒21の底面には、芯棒210が立設されている。芯棒210は、外筒21の径方向中心に配置されている。外筒21の底面には、芯棒210を囲むようにばね座211が配置されている。コイルばね22は、外筒21内に収容されている。コイルばね22は芯棒210を軸にして配置され、下側の座巻部はばね座211に環装されている。治具23は、リング状を呈しており、外筒21の内周面に沿って上下方向に移動可能である。治具23は、コイルばね22の上側の座巻部に当接している。外筒21の外周面には、加速度ピックアップ24が取り付けられている。加速度ピックアップ24は、チャージアンプ25を介してFFT(高速フーリエ変換)アナライザ26に接続されている。
【0052】
治具23を下方に移動させてコイルばね22を圧縮し、圧縮荷重がある大きさに到達すると、コイルばね22の軸が、波形や螺旋状などに湾曲する。すなわち、コイルばね22が座屈する。これにより、コイルばね22にうねり部が発生する。うねり部が外筒21の内周面に当接する際、打音が発生する。発生した打音を加速度ピックアップ24により検出し、FFTアナライザ26により振動レベルを測定した。本実施例においては、加速度ピックアップ24として、昭和測器(株)製の「2354A」を使用した。また、チャージアンプ25として(株)小野測器製の「CH−1200A」を、FFTアナライザ26として同社製の「DS−3000」を使用した。
【0053】
図7に、実施例1、参考例1、および比較例1の各コイルばねにおける打音の振動レベルを示す。図7に示すように、参考例1のコイルばねの振動レベルは、比較例1のコイルばねの振動レベルよりもやや小さくなった。一方、実施例1のコイルばねの振動レベルは、比較例1のコイルばねの振動レベルの約1/3にまで低下した。これにより、本発明の植毛粉体塗装方法により形成される植毛塗装層は、消音性に優れることが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】