(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2018年7月19日
【発行日】2019年11月7日
(54)【発明の名称】黒色イソインドリノン顔料及び着色剤
(51)【国際特許分類】
C09B 1/20 20060101AFI20191011BHJP
G02B 5/22 20060101ALI20191011BHJP
【FI】
C09B1/20CSP
G02B5/22
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】21
【出願番号】特願2018-561923(P2018-561923)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2017年12月27日
(31)【優先権主張番号】特願2017-3779(P2017-3779)
(32)【優先日】2017年1月13日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】尾迫 秀和
【テーマコード(参考)】
2H148
【Fターム(参考)】
2H148CA04
2H148CA14
(57)【要約】
黒色度(着色力)が高く、耐熱性などの耐久性に優れた、新規骨格を有する赤外線反射性の黒色イソインドリノン顔料を提供する。下記一般式(1)(Xは、それぞれ独立に塩素原子、臭素原子、又はアルキル基を示し、8≧n+m≧0である)で表される黒色イソインドリノン顔料である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される黒色イソインドリノン顔料。
(前記一般式(1)中、Xは、それぞれ独立に塩素原子、臭素原子、又はアルキル基を示し、8≧n+m≧0である)
【請求項2】
下記式(1−1)、(1−2)、又は(1−3)で表される請求項1に記載の黒色イソインドリノン顔料。
【請求項3】
アルキド/メラミン焼き付け塗料中で240以上の黒色度を有する請求項1又は2に記載の黒色イソインドリノン顔料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の黒色イソインドリノン顔料を含有する着色剤。
【請求項5】
カラーフィルター用のブラックマトリックス又は遮光フィルムを形成するために用いられる請求項4に記載の着色剤。
【請求項6】
レーザー樹脂溶着に使用されるプラスチック製品を形成するために用いられる請求項4に記載の着色剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線非吸収性の黒色イソインドリノン顔料、及びそれを用いた着色剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塗料、印刷インキ、プラスチック用の着色剤などに使用されている黒色顔料としては、カーボンブラック系の顔料や酸化鉄系の顔料などが一般的である。これらの黒色顔料は、太陽光のうちの可視光領域を含む全ての光線を吸収することで黒色を示している。
【0003】
黒色顔料(特に、カーボンブラック系の顔料)は可視光領域(約380〜780nm)の光を吸収して黒色を示すが、実際には、熱に寄与する度合いの大きい800〜1,400nmの波長領域を含む近赤外領域の光も吸収する。このため、上記のような黒色顔料で着色された物品は、太陽光を浴びることで容易に昇温するという課題があった。また、黒色顔料で着色された物品としては、近年、カラーフィルター用のブラックマトリックスなどの精密な製品も登場している。
【0004】
カラーフィルター用のブラックマトリックスを構成するために用いる黒色顔料については、薄膜トランジスタの誤作動を防止すべく、電気絶縁性であることが要求される。カーボンブラックは、電気抵抗の低い顔料である。このため、カーボンブラックはブラックマトリックス等の製品に用いる色材としては適切であるとは言えず、より電気絶縁性に優れた遮光性材料を使用することが望ましい。関連する従来技術として、太陽光を浴びても昇温しにくく、電気絶縁性を有する黒色有機顔料が種々検討されている(特許文献1)。なお、高分子有機材料等を着色するための顔料として有用な、特定構造を有するイソインドリノン化合物が提案されている(特許文献2及び3)。
【0005】
近年、注目されている黒色有機顔料の他の用途として、レーザー樹脂溶着に使用されるプラスチック製品を形成するために用いられる着色剤を挙げることができる。レーザー樹脂溶着は、レーザー透過性の樹脂層と、レーザー吸収性の樹脂層とを組み合わせるとともに、近赤外領域の波長(例えば、800〜1100nm)のレーザーを照射して、接着剤を用いることなくプラスチック製品同士を溶着する方法である。このようなレーザー樹脂溶着に使用されるプラスチック製品を形成するための着色剤として有用な黒色有機顔料が、これまでに種々検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2007−522297号公報
【特許文献2】特開昭63−161062号公報
【特許文献3】特公昭57−019145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2及び3で提案されたイソインドリノン化合物は、黄色、橙色、又は赤橙色を呈する顔料であるため、カラーフィルター用のブラックマトリックス等を構成するための顔料としては不適当であった。
【0008】
また、カーボンブラックは、レーザー透過性の樹脂層に用いる色材として好適なものであるとは言えなかった。このため、近赤外領域の波長光の透過性により優れているとともに、プラスチック製品を着色するための適正(分散性、黒色度)を有する着色剤が望まれていた。
【0009】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、黒色度(着色力)が高く、耐熱性などの耐久性に優れた、新規骨格を有する赤外線反射性の黒色イソインドリノン顔料を提供することにある。また、本発明の課題とするところは、上記の黒色イソインドリノン顔料を用いた着色剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明によれば、以下に示す黒色イソインドリノン顔料が提供される。
[1]下記一般式(1)で表される黒色イソインドリノン顔料。
【0011】
(前記一般式(1)中、Xは、それぞれ独立に塩素原子、臭素原子、又はアルキル基を示し、8≧n+m≧0である)
【0012】
[2]下記式(1−1)、(1−2)、又は(1−3)で表される前記[1]に記載の黒色イソインドリノン顔料。
【0013】
【0014】
[3]アルキド/メラミン焼き付け塗料中で240以上の黒色度を有する前記[1]又は[2]に記載の黒色イソインドリノン顔料。
【0015】
さらに、本発明によれば、以下に示す顔料着色剤が提供される。
[4]前記[1]〜[3]のいずれかに記載の黒色イソインドリノン顔料を含有する着色剤。
[5]カラーフィルター用のブラックマトリックス又は遮光フィルムを形成するために用いられる前記[4]に記載の着色剤。
[6]レーザー樹脂溶着に使用されるプラスチック製品を形成するために用いられる前記[4]に記載の着色剤。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、黒色度(着色力)が高く、耐熱性などの耐久性に優れた、新規骨格を有する赤外線反射性の黒色イソインドリノン顔料を提供することができる。また、本発明によれば、この黒色イソインドリノン顔料を用いた着色剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例1の顔料(1−1)で形成した塗膜の可視−赤外吸収スペクトルである。
【
図2】実施例2の顔料(1−2)で形成した塗膜の可視−赤外吸収スペクトルである。
【
図3】実施例3の顔料(1−3)で形成した塗膜の可視−赤外吸収スペクトルである。
【
図4】比較例3の顔料(4)で形成した塗膜の可視−赤外吸収スペクトルである。
【
図5】比較例4の顔料(5)で形成した塗膜の可視−赤外吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<黒色イソインドリノン顔料>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明の黒色イソインドリノン顔料は、下記一般式(1)で表される構造を有する顔料である。以下、その詳細について説明する。
【0019】
(前記一般式(1)中、Xは、それぞれ独立に塩素原子、臭素原子、又はアルキル基を示し、8≧n+m≧0である)
【0020】
一般式(1)中、Xで表されるアルキル基は、分岐を有していてもよい炭素数1〜6の低級アルキル基であることが好ましく、炭素数1〜3の低級アルキル基であることがさらに好ましい。
【0021】
本発明の黒色イソインドリノン顔料は、一般式(1)で表される構造を有することを重要な特徴の一つとする。一般式(1)で表される構造を有する顔料は、他のイソインドリノン系顔料と同等以上の顔料特性を有する。また、本発明の黒色イソインドリノン顔料は、その構造中に1,5−ジアミノアントラキノン骨格を有するため、特別な色調を示す。
【0022】
一般式(1)で表される顔料の色調は、他のイソインドリノン系顔料と異なる。一般的なイソインドリノン系顔料は、黄〜橙色を呈する明色の顔料である。これに対して、一般式(1)で表される顔料は、400〜850nmの波長域の光を有効に吸収するため、優れた黒色度を示す。
【0023】
本発明者らが鋭意検討した結果、下記式(2)で表される1,5−ジアミノナフタレン骨格を有する化合物や、下記式(3)で表される2,6−ジアミノアントラキノン骨格を有する化合物は、黒色を呈しないことが判明した。なお、一般式(1)で表される顔料は、アントラキノンのカルボニル酸素と、アミノ基の水素との間で分子内水素結合を形成し、平面構造をとっていると推定される。このため、強固な分子間π−π相互作用が形成されており、長波長領域まで光が吸収されると考えられる。
【0025】
また、一般式(1)で表される顔料は、濃色において、h
*=270〜290(L
*C
*h
*表色系)の青みの黒色を呈する。近年、様々な分野で意匠性を高めることが要求されている。例えば、黒色については、高級感のある青みの黒色が要求されている。本発明の黒色イソインドリノン顔料は、漆黒性の高い黒色顔料として好適である。
【0026】
(黒色イソインドリノン顔料の製造方法)
本発明の黒色イソインドリノン顔料は、例えば、下記一般式(A)で表される化合物及び下記一般式(B)で表される化合物と、下記式(C)で表される化合物とを、不活性溶媒中で反応させることによって製造することができる。
【0027】
(前記一般式(A)及び(B)中、Xは、それぞれ独立に塩素原子、臭素原子、又はアルキル基を示し、8≧n+m≧0である)
【0028】
一般式(A)及び(B)で表される3−イミノイソインドリノン−1−オン類の具体例としては、下記式で表される化合物を挙げることができる。これらの化合物は、公知の方法にしたがって酸無水物から合成することができる。
【0030】
イソインドリノン構造を有する上記の化合物は加水分解しやすいため、不活性溶媒として疎水性溶媒を用いることが好ましい。疎水性溶媒の具体例としては、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、2−メチルペンタンなどの脂肪族炭化水素;トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン、クロロナフタレンなどの芳香族炭化水素を挙げることができる。なお、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン、クロロナフタレンなどの、溶解力が高く、高沸点の溶媒を使用すると、反応が円滑に進むために好ましい。
【0031】
反応温度は100〜140℃とすることが好ましい。100℃未満の温度で反応させると1置換物が多く生成しやすく、目的化合物の収率が低下する場合がある。なお、酸を触媒として共存させると、反応がより円滑に進むために好ましい。
【0032】
不活性溶媒中、150〜200℃で加熱撹拌する顔料化処理を行うことで、得られる顔料の黒色度が上昇するために好ましい。不活性溶媒の具体例としては、キシレン、ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン、クロロナフタレンなどの芳香族炭化水素を挙げることができる。
【0033】
<着色剤>
本発明の着色剤は、上述の黒色イソインドリノン顔料を含有する。例えば、上述の黒色イソインドリノン顔料を液体分散媒体又は固体分散媒体に含有させる(分散させる)ことで、着色組成物である着色剤を得ることができる。すなわち、着色対象、用途、及び使用方法などに応じて、黒色イソインドリノン顔料を含む顔料成分を液体分散媒体に分散させて液状の組成物としてもよく、固体分散媒体に分散させて固体の組成物としてもよい。
【0034】
液体分散媒体や固体分散媒体等の分散媒体に分散させる顔料成分には、黒色イソインドリノン顔料以外のその他の顔料を用いることができる。すなわち、分散媒体には、黒色イソインドリノン顔料のみを顔料成分として分散させてもよく、黒色イソインドリノン顔料とその他の顔料を含む顔料成分を分散させてもよい。その他の顔料としては、有彩色顔料、白色顔料、他の黒色顔料、及び体質顔料などを用いることができる。目的とする色彩にあわせて1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。黒色イソインドリノン顔料とともに、その他の顔料を分散媒体に分散させることで、暗色の有彩色の着色、無彩色の着色、及び黒色の着色が可能な着色剤を得ることができる。
【0035】
着色剤中の黒色イソインドリノン顔料の含有量は、用途に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。具体的には、着色剤中の黒色イソインドリノン顔料の含有量は、着色剤の全質量を基準として、1〜50質量%程度とすればよい。
【0036】
本発明の着色剤は、黒色度(着色力)が高く、耐熱性などの耐久性に優れた黒色イソインドリノン顔料を含有するものである。このため、本発明の着色剤は、カラーフィルター用のブラックマトリックス又は遮光フィルムを形成するための着色剤として有用である。さらに、本発明の着色剤は、レーザー樹脂溶着に使用されるプラスチック製品を形成するための着色剤としても有用である。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0038】
<顔料の製造>
(実施例1)黒色イソインドリノン顔料(1−1)の製造
ニトロベンゼン130部に、1,5−ジアミノアントラキノン4.8部、3−イミノ−4,5,6,7−テトラクロロイソインドリノン12.5部、及びパラトルエンスルホン酸一水和物8.4部を加え、130℃で3時間加熱した。熱時ろ過し、メタノール及び水で洗浄した後、80℃で乾燥して、下記式(1−1)で表される顔料(1−1)11.6部を得た。MALDIによる質量分析を行ったところ、772のピークが検出された。
【0039】
【0040】
(実施例2)黒色イソインドリノン顔料(1−2)の製造
3−イミノ−4,5,6,7−テトラクロロイソインドリノンに代えて、3−イミノイソインドリノン6.1部を用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして、下記式(1−2)で表される顔料(1−2)4.9部を得た。MALDIによる質量分析を行ったところ、496のピークが検出された。
【0041】
【0042】
(実施例3)黒色イソインドリノン顔料(1−3)の製造
3−イミノ−4,5,6,7−テトラクロロイソインドリノンに代えて、3−イミノ−4,5,6,7−テトラクロロイソインドリノン6.0部及び3−イミノイソインドリノン3.0部を用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして、下記式(1−3)で表される顔料(1−3)、式(1−1)で表される顔料(1−1)、及び式(1−2)で表される顔料(1−2)の混合物8.6部を得た。MALDIによる質量分析を行ったところ、496、634、及び772のピークが検出された。
【0043】
【0044】
(比較例1)橙色イソインドリノン顔料(2)の製造
特許文献3の記載を参考にして、下記式(2)で表される顔料(2)を合成した。合成した顔料(2)は、橙色を呈していた。
【0045】
【0046】
(比較例2)橙色イソインドリノン顔料(3)の製造
1,5−ジアミノアントラキノンに代えて、2,6−ジアミノアントラキノンを用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして、下記式(3)で表される顔料(3)12.2部を得た。MALDIによる質量分析を行ったところ、772のピークが検出された。
【0047】
【0048】
(比較例3及び4)
以下に示す市販の顔料を、それぞれ、比較例3の顔料(4)及び比較例4の顔料(5)とした。
・比較例3(顔料(4)):商品名「クロモファインブラックA1103」(大日精化工業社製)
・比較例4(顔料(5)):商品名「カーボンブラック#45B」(三菱化学社製)
【0049】
<評価>
(1)塗料試験
以下に示す配合にしたがって各成分を配合し、ペイントコンディショナーを使用して90分間分散させて塗料(濃色塗料)を調製した。アプリケーター(3ミル)を用いて調製した塗料を展色紙に展色した後、140℃で30分間焼き付けて塗膜を形成した。
・顔料:1.5部
・商品名「スーパーベッカミンJ−820」(*1):8.5部
・商品名「フタルキッド133〜60」(*2):17.0部
・キシレン/1−ブタノール(2/1(質量比))混合溶剤:5.0部
(*1)ブチル化メラミン樹脂(大日本インキ化学工業社製)
(*2)椰子油の短油性アルキド樹脂(日立化成社製)
【0050】
(黒色度、色相角度、明度、及び彩度)
分光光度計(商品名「U−4100」、日立ハイテクノロジーズ社製)を使用し、前述の「塗料試験」で形成した塗膜の可視−赤外吸収スペクトルを測定した。測定した可視−赤外吸収スペクトルを
図1〜5に示す。また、常法にしたがってCIE3色刺激値(X,Y,Z)を測定し、塗膜の黒色度、色相角度、明度、及び彩度を測定及び算出した。結果を表1に示す。
【0051】
図4に示すように、比較例3の顔料(4)で形成した塗膜は、680nm付近から長波長側にかけて反射率が急激に上昇している。しかし、可視光領域である400〜700nmの波長域の光を吸収するには立ち上がりが早いため、黒色度が不足している。また、
図5に示すように、比較例4の顔料(5)で形成した塗膜は、〜2500nmまでの広い波長域の光を吸収しており、赤外線反射性を全く示さないことがわかる。これに対して、
図1〜3に示すように、実施例1〜3の顔料(1−1)、(1−2)、及び(1−3)で形成した塗膜は、可視光領域の光をバランスよく吸収しているとともに、500〜800nm付近の波長域の光も漏れなく吸収しているため、高い黒色度を示すことがわかる。さらに、実施例1〜3の顔料(1−1)、(1−2)、及び(1−3)で形成した塗膜は、良好な赤外線反射性を示していることもわかる。
【0052】
(赤外線反射性)
前述の「塗料試験」で形成した塗膜の赤外線反射率を測定し、以下に示す評価基準にしたがって赤外線反射性を評価した。結果を表1に示す。
○:1300nmの赤外線反射率が30%以上
×:1300nmの赤外線反射率が30%未満
【0053】
(耐熱性)
各顔料について、熱重量測定及び示差熱分析(TG−DTA)を行った。そして、350℃における減量率を算出し、以下に示す評価基準にしたがって耐熱性を評価した。結果を表1に示す。
○:350℃における減量率が10%以下
×:350℃における減量率が10%より大きい
【0054】
【0055】
(2)プラスチック着色試験
以下に示す配合にしたがって各成分を配合するとともに、射出成形機(日精樹脂工業社製)を使用して射出成形し、成型プレート(厚さ1mmの部分と厚さ2mmの部分を有するプレート)を作製した。
・顔料:8部
・商品名「スミペックスLG」(*1)800部
・商品名「ステアリン酸マグネシウム」:2部
(*1)PMMA樹脂(住友化学社製)
【0056】
(色(黒色度))
作製した成型プレートの色(黒色度)を目視で確認した。結果を表2に示す。
【0057】
(分散性)
成型プレートを熱プレスして薄片(厚さ100μm)を得た。マイクロスコープ(キーエンス社製)を使用して得られた薄片を観察し、以下に示す評価基準にしたがって分散性を評価した。結果を表2に示す。
○:顔料の粒子が観察されない。
×:顔料の粒子が観察された。
【0058】
(レーザー溶着性)
レーザー吸収性の樹脂層として、カーボンブラックを含有する樹脂成型プレート(厚さ1mm)を用意した。前述の成型プレート(厚さ1mm)をレーザー透過性の樹脂層とし、これら2片のプレートを積層するとともにクリップで挟んで固定した。レーザー装置(商品名「LP−Z」、パナソニック社製、3D制御FAYbレーザーマーカー))を使用して2片のプレートを溶着した。溶着したプレートを観察し、以下に示す評価基準にしたがってレーザー溶着性を評価した。結果を表2に示す。
○:クリップを外して持ち上げても、溶着していた。
×:クリップを外して持ち上げると、2片のプレートに分かれた。
【0059】
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の黒色イソインドリノン顔料は、ブラックマトリックスなどの高い黒色度が求められる用途に有用である。また、近赤外領域の光の反射率が高いため、カーボンブラックなどの顔料が不適当な熱線反射性の黒色顔料として有用である。
【国際調査報告】