(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2018年4月5日
【発行日】2018年12月27日
(54)【発明の名称】細胞組織の製造方法、及び多孔フィルム
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20181130BHJP
C08J 9/00 20060101ALI20181130BHJP
【FI】
C12N5/071
C08J9/00 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】33
【出願番号】特願2018-542409(P2018-542409)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2017年9月15日
(31)【優先権主張番号】特願2016-188627(P2016-188627)
(32)【優先日】2016年9月27日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 晃寿
(72)【発明者】
【氏名】後藤 俊
(72)【発明者】
【氏名】小橋 創一
(72)【発明者】
【氏名】中澤 浩二
(72)【発明者】
【氏名】藪 浩
【テーマコード(参考)】
4B065
4F074
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065BC21
4B065BC50
4B065CA44
4F074AA68
4F074AH03
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4F074DA03
(57)【要約】
表面に設けられた複数の開孔と、互いに隣接する開孔どうしを連通する連通孔とを有する多孔フィルムの開孔及び連通孔の内部で、フィーダー能を有する細胞を培養する培養工程を含む、細胞組織の製造方法、及び、表面に設けられた複数の開孔と、互いに隣接する開孔どうしを連通する連通孔とを有する多孔フィルム。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に設けられた複数の開孔と、互いに隣接する前記開孔どうしを連通する連通孔とを有する多孔フィルムの前記開孔及び前記連通孔の内部で、フィーダー能を有する細胞を培養する培養工程を含む、細胞組織の製造方法。
【請求項2】
前記培養工程が、フィーダー能を有する細胞と、血管内皮細胞及びリンパ管内皮細胞の少なくともいずれかとを、前記開孔及び前記連通孔の内部で共培養する培養工程である、請求項1に記載の細胞組織の製造方法。
【請求項3】
前記培養工程が、フィーダー能を有する細胞と、実質臓器を形成する細胞とを、前記開孔及び前記連通孔の内部で共培養する培養工程である、請求項1に記載の細胞組織の製造方法。
【請求項4】
前記培養工程が、フィーダー能を有する細胞と、血管内皮細胞及びリンパ管内皮細胞の少なくともいずれかと、実質臓器を形成する細胞とを、前記開孔及び前記連通孔の内部で共培養する培養工程である、請求項1に記載の細胞組織の製造方法。
【請求項5】
前記フィーダー能を有する細胞が、間葉系幹細胞及び線維芽細胞の少なくともいずれかである、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の細胞組織の製造方法。
【請求項6】
前記複数の開孔が、前記多孔フィルムの表面にハニカム状に配置されている、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の細胞組織の製造方法。
【請求項7】
前記連通孔が、前記多孔フィルムの面方向全域に亘って略同一の深さに設けられている、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の細胞組織の製造方法。
【請求項8】
前記連通孔の孔径が、前記多孔フィルムに播種される細胞の長径に対して50%〜500%の範囲である、請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の細胞組織の製造方法。
【請求項9】
前記連通孔の孔径が5μm〜50μmの範囲である、請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の細胞組織の製造方法。
【請求項10】
前記連通孔の孔径の変動係数が30%以下である、請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の細胞組織の製造方法。
【請求項11】
前記開孔の、前記多孔フィルムの面方向における長径が10μm〜100μmの範囲である、請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載の細胞組織の製造方法。
【請求項12】
前記開孔の深さが10μm〜100μmの範囲である、請求項1〜請求項11のいずれか1項に記載の細胞組織の製造方法。
【請求項13】
前記開孔の開口径が5μm〜90μmの範囲である、請求項1〜請求項12のいずれか1項に記載の細胞組織の製造方法。
【請求項14】
前記開孔の開口径の変動係数が20%以下である、請求項1〜請求項13のいずれか1項に記載の細胞組織の製造方法。
【請求項15】
前記培養工程の前に、
前記多孔フィルムの前記複数の開孔が開口した側の面に細胞を播種した後、前記細胞を播種した側の面から反対面に向かう方向に遠心力をかけ前記細胞を前記複数の開孔の内部に移動させる遠心処理工程を含む、
請求項1〜請求項14のいずれか1項に記載の細胞組織の製造方法。
【請求項16】
表面に設けられた複数の開孔と、互いに隣接する前記開孔どうしを連通する連通孔とを有する多孔フィルムであって、
前記開孔の、前記多孔フィルムの面方向における長径が20μm〜100μmの範囲である、多孔フィルム。
【請求項17】
表面に設けられた複数の開孔と、互いに隣接する前記開孔どうしを連通する連通孔とを有する多孔フィルムであって、
前記開孔の深さが20μm〜100μmの範囲である、多孔フィルム。
【請求項18】
前記開孔の開口径が5μm〜90μmの範囲である、請求項16又は請求項17に記載の多孔フィルム。
【請求項19】
前記連通孔の孔径が5μm〜50μmの範囲である、請求項16〜請求項18のいずれか1項に記載の多孔フィルム。
【請求項20】
前記複数の開孔が、前記多孔フィルムの表面にハニカム状に配置されている、請求項16〜請求項19のいずれか1項に記載の多孔フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
細胞組織の製造方法、及び細胞組織の製造に供する多孔フィルム
【背景技術】
【0002】
生体内へ細胞又は細胞組織を移植することを目的に使用される、細胞を濃縮するフィルタ、細胞を増殖させるための足場材、細胞を生着させて生体内へと移植するための移植材が知られている。
【0003】
例えば特開2012−006010号公報には、目的とする細胞を大きさで分離する複合多孔膜が開示されている。例えば国際公開第2006/093207号には、細胞培養面に孔がハニカム配列した培養基材が開示されている。例えば特開2005−110709号公報には、骨髄間葉系幹細胞を生着させ骨芽細胞に分化誘導後に骨欠損部に移植する骨補填材として、貫通孔と連通孔とが組み合わされてなる骨補填材が開示されている。例えば特開2004−216119号公報には、細胞が生着して増殖するための足場材として、厚さ方向に長い形状の孔が面方向に並列的に配置され各孔間が小孔で連通した構造を有する多孔性支持体が開示されている。例えば特開2008−199962号公報には、三次元網目構造を有する多孔質フィルム表面に、複数個の細胞接着性領域と、細胞接着性領域を取り囲む細胞非接着性領域とが配置されたスフェロイド形成用基材が開示されている。例えば特開2001−523483号公報には、骨形成原細胞が生着して増殖するための足場材として、相互に連結した孔を含んでなる多孔性ポリマースカフォードが開示されている。例えば特開2008−307180号公報には、構造体内部に幹細胞を注入し生体内に移植する移植材として、縦横格子状に配置した支柱を積層してなるスカフォールドが開示されている。例えば特許第4437227号公報には、非水溶性ポリマーからなる筒状多孔質体と、筒状多孔質体の内面を被覆する血管内皮細胞と、筒状多孔質体の外面を被覆する血管平滑筋細胞とを含む人工血管が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在、皮膚、軟骨といった、構造が比較的単純な細胞組織が人工的に作られ、移植医療の現場で使われている。一方で、多様な細胞が複雑な構造を形成している臓器、例えば肝臓、膵臓などを代替する人工的な細胞組織の実用化が待ち望まれているが、そのためには、臓器特異的な細胞が機能的に配置し且つ血管網とリンパ管網とを備えた細胞組織を製造する必要がある。また、動物実験や臨床試験に替わる試験用細胞組織としても、生体内の臓器に似た構造を有する細胞組織が待たれている。
【0005】
状況のもとになされた。
マイクロオーダーのネットワーク構造を備えた細胞組織を製造する製造方法、及び、マイクロオーダーのネットワーク構造を備えた細胞組織の製造に供する多孔フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
の課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
【0007】
[1] 表面に設けられた複数の開孔と、互いに隣接する開孔どうしを連通する連通孔とを有する多孔フィルムの開孔及び連通孔の内部で、フィーダー能を有する細胞を培養する培養工程を含む、細胞組織の製造方法。
[2] 培養工程が、フィーダー能を有する細胞と、血管内皮細胞及びリンパ管内皮細胞の少なくともいずれかとを、開孔及び連通孔の内部で共培養する培養工程である、[1]に記載の細胞組織の製造方法。
[3] 培養工程が、フィーダー能を有する細胞と、実質臓器を形成する細胞とを、開孔及び連通孔の内部で共培養する培養工程である、[1]に記載の細胞組織の製造方法。
[4] 培養工程が、フィーダー能を有する細胞と、血管内皮細胞及びリンパ管内皮細胞の少なくともいずれかと、実質臓器を形成する細胞とを、開孔及び連通孔の内部で共培養する培養工程である、[1]に記載の細胞組織の製造方法。
[5] フィーダー能を有する細胞が、間葉系幹細胞及び線維芽細胞の少なくともいずれかである、[1]〜[4]のいずれか1つに記載の細胞組織の製造方法。
[6] 複数の開孔が、多孔フィルムの表面にハニカム状に配置されている、[1]〜[5]のいずれか1つに記載の細胞組織の製造方法。
[7] 連通孔が、多孔フィルムの面方向全域に亘って略同一の深さに設けられている、[1]〜[6]のいずれか1つに記載の細胞組織の製造方法。
[8] 連通孔の孔径が、多孔フィルムに播種される細胞の長径に対して50%〜500%の範囲である、[1]〜[7]のいずれか1つに記載の細胞組織の製造方法。
[9] 連通孔の孔径が5μm〜50μmの範囲である、[1]〜[8]のいずれか1つに記載の細胞組織の製造方法。
[10] 連通孔の孔径の変動係数が30%以下である、[1]〜[9]のいずれか1つに記載の細胞組織の製造方法。
[11] 開孔の、多孔フィルムの面方向における長径が10μm〜100μmの範囲である、[1]〜[10]のいずれか1つに記載の細胞組織の製造方法。
[12] 開孔の深さが10μm〜100μの範囲である、[1]〜[11]のいずれか1つに記載の細胞組織の製造方法。
[13] 開孔の開口径が5μm〜90μmの範囲である、[1]〜[12]のいずれか1つに記載の細胞組織の製造方法。
[14] 開孔の開口径の変動係数が20%以下である、[1]〜[13]のいずれか1つに記載の細胞組織の製造方法。
[15] 培養工程の前に、多孔フィルムの複数の開孔が開口した側の面に細胞を播種した後、細胞を播種した側の面から反対面に向かう方向に遠心力をかけ細胞を複数の開孔の内部に移動させる遠心処理工程を含む、[1]〜[14]のいずれか1つに記載の細胞組織の製造方法。
[16] 表面に設けられた複数の開孔と、互いに隣接する開孔どうしを連通する連通孔とを有する多孔フィルムであって、開孔の、多孔フィルムの面方向における長径が20μm〜100μmの範囲である、多孔フィルム。
[17] 表面に設けられた複数の開孔と、互いに隣接する開孔どうしを連通する連通孔とを有する多孔フィルムであって、開孔の深さが20μm〜100μmの範囲である、多孔フィルム。
[18] 開孔の開口径が5μm〜90μmの範囲である、[16]又は[17]に記載の多孔フィルム。
[19] 連通孔の孔径が5μm〜50μmの範囲である、[16]〜[18]のいずれか1つに記載の多孔フィルム。
[20] 複数の開孔が、多孔フィルムの表面にハニカム状に配置されている、[16]〜[19]のいずれか1つに記載の多孔フィルム。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、マイクロオーダーのネットワーク構造を備えた細胞組織を製造する製造方法、及び、マイクロオーダーのネットワーク構造を備えた細胞組織の製造に供する多孔フィルムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1A】多孔フィルムの構造を示す斜視図である。
【図1B】図1Aにおける開口面側から見た平面図である。
【図1C】図1Bにおけるc−c線に沿った断面図である。
【図1D】図1Bにおけるd−d線に沿った断面図である。
【図2】多孔フィルムの製造方法の一例を示す模式図である。
【図3】多孔フィルムの走査型電子顕微鏡像である。
【図4】培養デバイスの部品及び培養デバイスの一例である。
【図5A】多孔フィルムの断面及び表面の走査型電子顕微鏡像である。
【図5B】多孔フィルムの断面及び表面の走査型電子顕微鏡像である。
【図6】間葉系幹細胞から分化誘導した細胞におけるアクチンの蛍光免疫染色像である。
【図7A】血管内皮細胞を単独培養した又は間葉系幹細胞と血管内皮細胞を共培養した培養3日目の細胞におけるCD31の蛍光免疫染色像(低倍率)である。
【図7B】同じく培養3日目の細胞におけるCD31の蛍光免疫染色像(高倍率)である。
【図7C】同じく培養7日目の細胞におけるCD31の蛍光免疫染色像(高倍率)である。
【図7D】間葉系幹細胞と血管内皮細胞の共培養におけるネットワークの全長及び総面積を示すグラフである。
【図8A】間葉系幹細胞又は線維芽細胞と血管内皮細胞を共培養した培養3日目の細胞におけるCD31の蛍光免疫染色像である。
【図8B】同じく培養7日目の細胞におけるCD31の蛍光免疫染色像である。
【図8C】培養3日目におけるネットワークの全長及び総面積を示すグラフである。
【図8D】培養7日目におけるネットワークの全長及び総面積を示すグラフである。
【図9A】開孔寸法の異なる多孔フィルムを用いて間葉系幹細胞と血管内皮細胞を共培養した培養3日目の細胞におけるCD31の蛍光免疫染色像(低倍率)である。
【図9B】同じく培養3日目の細胞におけるCD31の蛍光免疫染色像(高倍率)である。
【図9C】同じく培養7日目の細胞におけるCD31の蛍光免疫染色像(低倍率)である。
【図9D】同じく培養7日目の細胞におけるCD31の蛍光免疫染色像(高倍率)である。
【図9E】培養3日目及び7日目におけるネットワークの全長及び総面積を示すグラフである。
【図10A】3種類の細胞を同時に共培養した培養3日目の蛍光像である。
【図10B】同じく培養3日目の細胞におけるCD31の蛍光免疫染色像である。
【図11A】3種類の細胞を段階的に共培養した共培養3日目の蛍光像である。
【図11B】同じく共培養3日目の細胞におけるCD31の蛍光免疫染色像である。
【図11C】共培養3日目における、同時共培養、段階的共培養それぞれのネットワークの全長及び総面積を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本開示の実施形態について説明する。これらの説明及び実施例は実施形態を例示するものであり、発明の範囲を制限するものではない。
【0011】
本開示において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ下限値及び上限値として含む範囲を示す。
【0012】
本開示において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0013】
本開示において組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
【0014】
本開示においては、変動係数を百分率で示す。変動係数は、ある集団について標準偏差を平均で除した値であり、その集団のばらつきの度合いを示す指標である。
【0015】
<多孔フィルム>
本実施形態の細胞組織の製造方法は、生体外において細胞組織を製造する方法であり、表面に設けられた複数の開孔と、互いに隣接する開孔どうしを連通する連通孔とを有する多孔フィルムの開孔及び連通孔の内部で、細胞を培養する培養工程を含む。まず、細胞組織の製造に供する多孔フィルムについて説明する。本実施形態の多孔フィルムは、細胞が生着し組織を形成するための足場として機能する。
【0016】
本実施形態の多孔フィルムは、表面に設けられた複数の開孔と、互いに隣接する開孔どうしを連通する連通孔とを有する。多孔フィルムが備える開孔及び連通孔の壁面は、細胞が生着する足場となる。本実施形態の多孔フィルムに播種された細胞は、開孔及び連通孔の内部に生着し、マイクロオーダーのネットワーク構造を備えた細胞組織を形成する。
【0017】
以下、多孔フィルムの一例を、図面を参照しつつ説明する。各図面において同一又は等価な構成要素及び部分には同一の参照符号を付与している。以下の説明において、「面方向」とは、多孔フィルムの主面方向を意味し、「厚さ方向」とは、多孔フィルムの厚さ方向を意味する。以下の説明において、「長径」とは、輪郭上の任意の2点間距離のうちの最大長を意味し、但し方向が特定されている場合は、その方向の任意の2点間距離のうちの最大長を意味する。以下の説明において、「開口の中心」とは、開口を面方向の2次元図形と捉えた場合の重心を意味する。
【0018】
図1Aは、多孔フィルムの構造を示す斜視図であり、図1Bは、図1Aにおける開口面側から見た平面図であり、図1Cは、図1Bにおけるc−c線に沿った断面図であり、図1Dは、図1Bにおけるd−d線に沿った断面図である。図1A〜図1Dには、本実施形態の一例である多孔フィルム200を示す。
【0019】
多孔フィルム200は、面方向に複数の開孔210が配置された多孔層204と、多孔層204を支持する支持体202とを備える積層体である。ほかの例として、多孔フィルム200は、支持体202を備えず、多孔層204のみの単層体でもよい。
【0020】
多孔フィルム200の多孔層204には、面方向全域に亘って開孔210が配置されている。ただし、多孔層204に細胞が接触し得ない領域が有る場合、該領域には開孔210が配置されていなくてもよい。
【0021】
多孔フィルム200の開口面206は、複数の開孔210が開口した側の面であり、細胞を播種する側の面である。開口面206において、互いに隣接する開孔210の開口どうしは、開口部210aの間に延在する平坦部208により離間されている。開口面206における開孔210の開口を通じ、開孔210及び連通孔212の内部に液体培地が供給される。
【0022】
各々の開孔210は、多孔層204を貫通していない有底孔である。ほかの例として、各々の開孔210は、多孔層204を貫通し、支持体202の表面を底面とする有底孔でもよい。多孔フィルム200が多孔層204の単層体である例において、各々の開孔210は、多孔層204を貫通していない有底孔でもよく、多孔層204を貫通した貫通孔でもよい。
【0023】
開孔210各々の形状としては、例えば、球体の一部を切り取った球欠形状、バレル形状、円柱形状、又は角柱形状が挙げられる。開孔210各々の開口の形状としては、例えば、円形、楕円形、又は多角形が挙げられる。
【0024】
複数の開孔210は、規則的に配置されており、具体的には、ハニカム状に配置されている。ほかの例として、複数の開孔210は、格子状又は面心格子状に配置されていてもよい。複数の開孔210の配置をランダムとしてもよいが、面方向における開孔210の密度を均一にし、多孔フィルム200において細胞が形成する組織の均質性を高める観点から、複数の開孔210は規則的に配置されていることが好ましい。規則的な配置は、途切れたりズレがあったりしてもよいが、あらゆる方向に隙間無く連続して繰り返していることが好ましい。ハニカム状の配置とは、平行六辺形(好ましくは正六角形)又はこれに近い形状を単位とし、これら図形の頂点及び対角線の交点に開口の重心が位置する配置である。格子状の配置とは、平行四辺形(言うまでもないが、正方形、長方形、菱形が含まれる。好ましくは正方形)又はこれに近い形状を単位とし、これら図形の頂点に開口の重心が位置する配置である。面心格子状の配置とは、平行四辺形(言うまでもないが、正方形、長方形、菱形が含まれる。好ましくは正方形)又はこれに近い形状を単位とし、これら図形の頂点及び対角線の交点に開口の重心が位置する配置である。規則的に配置されていることの目安は、配置の単位である平行六辺形又は平行四辺形の面積に関し、その変動係数が10%以下である。
【0025】
多孔フィルム200において、互いに隣接する開孔210どうしは、多孔層204の内部において、連通孔212により連通している。1個の開孔210は、隣接する全部の開孔210と連通していることが好ましい。複数の開孔210がハニカム状に配置されている多孔フィルム200においては、1個の開孔210は、隣接する6個の開孔210と連通していることが好ましく、即ち、1個の開孔210は、6個の連通孔212を有することが好ましい。
【0026】
多孔フィルム200において、互いに隣接する開孔210どうしは、それぞれの壁面の一部を連続させて配置されており、連通孔212は、開孔210間の連結部210bで囲まれる孔である。ほかの例として、隣接する開孔210どうしは独立しており、筒状の空隙である連通孔212が、隣接する開孔210どうしを繋いでいてもよい。
【0027】
以下、多孔フィルム200の構造の寸法について説明する。
【0028】
複数の開孔210は、多孔フィルム200に播種された細胞が入り込み生着できる大きさを有する。多孔フィルム200に播種される細胞の長径は、例えば、10μm〜50μmである。
【0029】
開孔210の開口径Daは、多孔フィルム200に播種される細胞の長径に対して50%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、120%以上であることが更に好ましい。50%以上(より好ましくは80%以上、更に好ましくは120%以上)であることにより、多孔フィルム200に播種された細胞が開孔210の内部に入り込むことが可能となる。具体的には、開孔210の開口径Daは、5μm以上であることが好ましく、8μm以上であることがより好ましく、12μm以上であることが更に好ましい。開孔210の開口径Daは、開孔210の好ましい配置及び大きさとの関係により、90μm以下であることが好ましく、70μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることが更に好ましい。開口径Daは、開孔210の開口の長径であり、開口径Daの範囲は、任意に選択した10個以上の開口の開口径を測定し確認する。
【0030】
開孔210の開口径Daの変動係数は、20%以下であることが好ましく、小さいほど好ましい。開口径Daの変動係数が小さいほど、多孔フィルム200において細胞が形成する組織の均質性が高まる。
【0031】
多孔フィルム200の細胞培養領域において、開口面206の全面積に占める開孔210の開口の合計面積の割合は、20%〜90%であることが好ましく、30%〜80%であることがより好ましく、40%〜70%であることが更に好ましい。
【0032】
開孔210の面方向における長径Dbは、10μm〜100μmの範囲であることが好ましく、20μm〜80μmの範囲であることがより好ましく、30μm〜60μmの範囲であることが更に好ましい。10μm以上(より好ましくは20μm以上、更に好ましくは30μm以上)であることにより、増殖性の細胞が増殖する空間が確保され、また、共培養する複数種の細胞が共存する空間が確保される。100μm以下(より好ましくは80μm以下、更に好ましくは60μm以下)であることにより、マイクロオーダーのネットワーク構造の形成が可能となる。長径Dbは、開孔210をその開口の長軸上(つまり開口径Da上)且つ厚さ方向に切断した切断面に現れる開孔210の輪郭の面方向の長径である。面方向に等方的な形状且つ略同一(同一を含む)の大きさの複数の開孔210が正六角形又はこれに近い形状を単位にしたハニカム状に配置されており、互いに隣接する開孔210どうしがそれぞれの壁面の一部を連続させて配置されている多孔フィルム200においては、互いに隣接する開口の間の中心間距離P1を長径Dbとみなす。この場合、長径Dbの範囲は、中心間距離P1を、角度を略60度(60度を含む)ずつずらした3方向に合計10個以上測定し確認する。配置以外の多孔フィルムについては、に準じ、開孔210の配置の規則性に応じて確認する。
【0033】
開孔210の深さDcは、10μm〜100μmの範囲であることが好ましく、20μm〜80μmの範囲であることがより好ましく、30μm〜60μmの範囲であることが更に好ましい。10μm以上(より好ましくは20μm以上、更に好ましくは30μm以上)であることにより、増殖性の細胞が増殖する空間が確保され、また、共培養する複数種の細胞が共存する空間が確保される。100μm以下(より好ましくは80μm以下、更に好ましくは60μm以下)であることにより、マイクロオーダーのネットワーク構造の形成が可能となる。深さDcは、各々の開孔210において開口面206から開孔210の最深部までの距離である。複数の開孔210が正六角形又はこれに近い形状を単位にしたハニカム状に配置されている多孔フィルム200においては、開口の中心間を結ぶ線上で厚さ方向に切断した切断面に現れる開孔210の輪郭において、開口面206から開孔210の最深部までの距離を、深さDcとする。この場合、深さDcの範囲は、切断線の角度を略60度(60度を含む)ずつずらした3個の切断面を形成し、合計10個以上測定し確認する。
【0034】
連通孔212の孔径Ddは、多孔フィルム200に播種される細胞の長径に対して50%〜500%の範囲であることが好ましい。連通孔212の孔径Ddが播種される細胞の長径に対して50%以上であることにより、互いに隣接する開孔210間を細胞が移動することが可能となる。該観点から、連通孔212の孔径Ddは、播種される細胞の長径に対して、より好ましくは80%以上、更に好ましくは120%以上である。一方、連通孔212の孔径Ddが播種される細胞の長径に対して500%以下であることにより、連通孔212に生着する細胞数が適切になる。該観点から、連通孔212の孔径Ddは、播種される細胞の長径に対して、より好ましくは400%以下、更に好ましくは300%以下である。
【0035】
連通孔212の孔径Ddは、の観点から、5μm〜50μmの範囲であることが好ましく、8μm〜45μmの範囲であることがより好ましく、12μm〜40μmの範囲であることが更に好ましい。孔径Ddは、開口の中心間を結ぶ線上で厚さ方向に切断した切断面に現れる連通孔212の輪郭において、厚さ方向の長径である。複数の開孔210が正六角形又はこれに近い形状を単位にしたハニカム状に配置されている多孔フィルム200においては、孔径Ddの範囲は、切断線の角度を略60度(60度を含む)ずつずらした3個の切断面を形成し、合計10個以上測定し確認する。配置以外の多孔フィルムについては、に準じ、開孔210の配置の規則性に応じた切断面を形成して確認する。
【0036】
連通孔212の孔径Ddの変動係数は、30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、小さいほど好ましい。孔径Ddの変動係数が小さいほど、多孔フィルム200において細胞が形成する組織の均質性が高まる。
【0037】
連通孔212は、面方向全域に亘って略同一(同一を含む)の深さに設けられていることが好ましい。これにより、多孔フィルム200において細胞が形成する組織の均質性が確保される。略同一の目安は、孔径Ddを測定するための切断面において、開口面206から連通孔212の最深部までの距離の変動係数が10%以下である。
【0038】
平坦部208の幅Wは、細胞の長径よりも狭いことが好ましい。これにより、平坦部208上で培養される細胞の割合を小さくし、開孔210及び連通孔212の内部で培養される細胞の割合を大きくする。幅Wは、開口の中心間において測定される、平坦部208の長さである。
【0039】
以下、多孔フィルム200の素材について説明する。多孔フィルム200の素材は、細胞の接着性の観点、生体内における移植部位との親和性の観点、生体内での分解又は吸収の難易の観点等から選択される。
【0040】
多孔層204の素材としては、後述する製造方法により多孔フィルム200を製造する観点からは、疎水性の有機溶媒に溶解可能な疎水性ポリマーが好ましい。疎水性の有機溶媒は、25℃の水に対する溶解度が10(g/100g水)以下の液体である。
疎水性ポリマーとしては、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロペン、ポリビニルエーテル、ポリビニルカルバゾール、ポリ酢酸ビニル、ポリテトラフルオロエチレン等)、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸、ポリ−3−ヒドロキシブチレート等)、ポリラクトン(例えば、ポリカプロラクトン等)、ポリアミド又はポリイミド(例えば、ナイロン、ポリアミド酸等)、ポリウレタン、ポリウレア、ポリブタジエン、ポリカーボネート、ポリアロマティックス、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリシロキサン誘導体、セルロースアシレート(例えば、トリアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート)などのポリマーが挙げられる。これらのポリマーは、溶剤への溶解性、光学的物性、電気的物性、膜強度、弾性等の観点から、必要に応じてホモポリマー、コポリマー、ポリマーブレンド又はポリマーアロイとしてよい。これらのポリマーは、1種単独で又は2種以上を混合して使用してよい。生体吸収性の観点からは、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリ−3−ヒドロキシブチレート等が好ましい。
【0041】
支持体202の素材は、多孔層204と同一でもよく異なっていてもよい。支持体202の素材としては、合成樹脂、ガラス、金属などが挙げられる。細胞組織の製造に使用する際又は細胞組織を製造した後に多孔層204を支持体202から剥離する場合は、支持体202の素材は、多孔層204とは異なる素材であることが好ましい。
【0042】
多孔フィルム200は、例えば、下記の工程(a)〜工程(e)を順次行う製造方法により製造される。図2は、工程(a)〜工程(e)にある多孔フィルム200の断面を示した模式図である。
【0043】
[工程(a)]
多孔層204を構成する疎水性ポリマーを溶媒に溶解した塗布液を用意し、塗布液を支持体202の上に塗布して、支持体202上に塗膜204aを形成する。
【0044】
塗布液は、疎水性ポリマーと、溶媒と、両親媒性化合物とを混合して調製する。溶媒としては、疎水性ポリマーの良溶媒と疎水性の液体との混合溶媒、又は、疎水性ポリマーの良溶媒である疎水性有機溶剤が好ましい。後者としては、トリクロロメタン、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン系溶剤が挙げられ、これら溶剤に疎水性の液体であるn−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ペンタン、n−オクタン、n−ヘプタン等の炭化水素化合物を混合して用いてもよい。
両親媒性化合物は、親水性基と疎水性基を両方有する化合物である。両親媒性化合物を塗布液に配合することにより、塗膜の表面に水滴を形成しやすくなる。また、溶媒に対する疎水性ポリマーの分散状態を両親媒性化合物によって制御することにより、水滴の成長をより容易に制御することができる。両親媒性化合物としては、市販されている多くの界面活性剤、二量体や三量体等のオリゴマー、ポリマー等の高分子化合物が挙げられる。両親媒性化合物としては、具体的には例えば、ポリアクリル骨格を主鎖とし、親油性側鎖として長鎖脂肪族基(例えばドデシル基)及び親水性側鎖としてカルボキシル基を有する化合物;ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールブロックコポリマー;リン脂質;等が挙げられる。
塗布液において、疎水性ポリマーの濃度は、0. 1質量%〜10質量%が好ましく、両親媒性化合物の濃度は、0.01質量%〜1質量%が好ましい。
【0045】
[工程(b)]
加湿空気を塗膜204aの表面全体に亘って流し、結露現象によって塗膜204a上に水滴210Sを形成する。この際、塗膜204aの近傍を流れる加湿空気の露点Tdと、塗膜204aの表面温度Tsとの差分ΔT(=Td−Ts)が、下記の式(1)を満たすように、Td及びTsの少なくとも一方を制御する。
式(1):3℃≦ΔT≦30℃
【0046】
[工程(c)]
加湿空気の供給を継続することにより水滴210Sを成長させる。水滴210Sの各々は、互いに略同一(同一を含む)の大きさに成長する。水滴210Sは、塗膜204aに含まれる溶媒の蒸発に伴って、横毛細管力によりハニカム状に配置されるとともに、塗膜204aの中に入り込む。これと並行して、塗膜204aに含まれる溶媒の蒸発に伴って、疎水性ポリマーが水滴210Sの周囲に析出する。
【0047】
[工程(d)]
加湿空気の供給を続け、塗膜204aの中で水滴210Sどうしが、両親媒性化合物の膜220を隔てて密接するまで水滴210Sを成長させる。
【0048】
[工程(e)]
溶媒の蒸発に並行して又は溶媒を蒸発させた後に、水滴210Sを蒸発させ、塗膜204aに水滴210Sが入り込んだ部分を開孔210として残し、並行して、密接する水滴210Sどうしを隔てていた両親媒性化合物の膜220を破膜する。こうして、複数の開孔210がハニカム状に配置し且つ内部で連結した多孔層204が形成される。
【0049】
以上の工程(a)〜工程(e)を経て、多孔層204と支持体202の積層体が得られる。多孔層204と支持体202の積層体を多孔フィルム200としてもよく、多孔層204を支持体202から剥離し、多孔層204の単層体を多孔フィルム200としてもよく、多孔層204を支持体202から剥離し別の支持体に貼り付けて多孔フィルム200としてもよい。多孔フィルム200の細胞を播種する側の面に、プラズマ放電等による電荷処理を施してもよい。図3は、工程(a)〜工程(e)を経て製造された多孔フィルムの一例を、開口面側から、走査型電子顕微鏡を用いて撮影した写真である。
【0050】
開孔210の開口径Da、長径Db及び深さDcと、連通孔212の孔径Ddとは、水滴210Sの大きさを調整することで制御可能である。水滴210Sの大きさの調整は、塗膜204aの膜厚、加湿空気に含まれる水蒸気量、及び水滴210Sを蒸発させるタイミングにより調整可能である。
【0051】
の製造方法によれば、複数の開孔がハニカム状に均一性高く配置された多孔フィルムを、型やマスクを使用することなく製造可能である。の製造方法の詳細は、例えば、特開2007−291367号公報、特開2009−256624号公報、特開2011−74140号公報、特開2011−202100号公報に記載されている。多孔フィルム200は、エッチング、サンドブラスト、プレス成形等によっても製造可能である。
【0052】
<細胞組織の製造方法>
本実施形態の細胞組織の製造方法は、生体外において細胞組織を製造する製造方法であり、本開示の多孔フィルムの開孔及び連通孔の内部で、細胞を培養する培養工程を含む。以下、多孔フィルムの開孔と連通孔とを総称して「孔」という。
【0053】
本実施形態によれば、本開示の多孔フィルムが備える孔が、細胞がマイクロオーダーの網状に配列する軌道の働きをするので、マイクロオーダーのネットワーク構造を備えた細胞組織が形成される。マイクロオーダーのネットワーク構造を備えた細胞組織は、生体内への移植材料として、また、動物実験や臨床試験に替わる試験用細胞組織として、有用である。細胞組織は、多孔フィルムごと使用してもよく、多孔フィルムの開口周囲の平坦部を除去して多孔フィルムの孔内から取り出して使用してもよい。細胞組織は、複数個を積層して使用することも可能である。
【0054】
本実施形態の培養工程には、以下の実施形態(1)〜(4)が含まれる。
【0055】
実施形態(1):フィーダー能を有する細胞を単独で培養する培養工程。ただし、フィーダー能を有する細胞は、1種でもよく2種以上でもよい。
【0056】
実施形態(1)によれば、フィーダー細胞のネットワーク構造を備えた細胞組織が提供される。実施形態(1)によって製造された細胞組織は、例えば、生体外で細胞培養を行う際の足場材、又は、生体内に移植され移植部位において組織を再生する足場材として用いられる。
【0057】
フィーダー能を有する細胞としては、間葉系幹細胞、線維芽細胞が挙げられる。間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell、MSC)は、筋細胞、脂肪細胞、軟骨細胞等へ分化可能な体性幹細胞であり、フィーダー能を有することも知られている。培養工程において間葉系幹細胞に対する分化誘導因子を培地に添加し、間葉系幹細胞を体細胞(例えば、筋細胞、脂肪細胞、軟骨細胞)に分化させることも可能である。この場合、例えば、マイクロオーダーのネットワーク構造を備えた筋肉組織、脂肪組織又は軟骨組織などが提供される。
【0058】
実施形態(2):フィーダー能を有する細胞と、血管内皮細胞及びリンパ管内皮細胞の少なくともいずれかとを共培養する培養工程。
【0059】
実施形態(2)によれば、血管内皮細胞又はリンパ管内皮細胞のネットワーク構造を備えた細胞組織が提供される。実施形態(2)によって製造された細胞組織は、例えば、生体外で体細胞の培養を行う際の足場材、又は、生体内に移植され移植部位において組織を再生する足場材として用いられる。
【0060】
血管内皮細胞としては、臍帯静脈、臍帯動脈、大動脈、冠状動脈、肺動脈、肺微小血管、皮膚微小血管などに由来する血管内皮細胞、多能性幹細胞から分化誘導した血管内皮細胞が挙げられる。リンパ管内皮細胞としては、皮膚微小リンパ管、肺微小リンパ管などに由来するリンパ管内皮細胞、多能性幹細胞から分化誘導したリンパ管内皮細胞が挙げられる。培養工程において培地組成を変化させることにより、血管内皮細胞又はリンパ管内皮細胞の増殖、遊走、管形成を制御することが可能である。
【0061】
実施形態(3):フィーダー能を有する細胞と、実質臓器を形成する細胞とを共培養する培養工程。
【0062】
実施形態(3)によれば、マイクロオーダーのネットワーク構造を備えた細胞組織が提供される。実施形態(3)によって製造された細胞組織は、例えば、生体内に移植され組織又は臓器の機能を補うために用いられる。ほかに、実施形態(3)によって製造された細胞組織は、動物実験や臨床試験に替わる試験用細胞組織として用いられる。
【0063】
実質臓器(parenchymal organ)としては、肝臓、膵臓、腎臓、脾臓、心臓、肺、乳腺組織、脂肪組織、卵巣、精巣、胸腺などが挙げられ、実質臓器を形成する細胞としては、これら臓器を形成する実質細胞、上皮細胞、腺細胞、脂肪細胞、これらの細胞の幹細胞又は前駆細胞などが挙げられる。実質臓器を形成する細胞は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。実質臓器を形成する細胞の2種以上の組合せとしては、例えば、肝細胞と胆管上皮細胞;膵α細胞と膵β細胞と膵δ細胞;I型肺胞上皮細胞とII型肺胞上皮細胞;乳腺腺房細胞と乳管上皮細胞;などが挙げられる。
【0064】
実質臓器を形成する細胞としては、多能性幹細胞も挙げられる。多能性幹細胞は、未分化状態を保持したまま増殖できる「自己複製能」と三胚葉系列すべてに分化できる「多分化能」とを有する未分化細胞である。多能性幹細胞としては、例えば、胚性幹細胞(embryonic stem cell;ES細胞)、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell;iPS細胞)、胚性生殖細胞(embryonic germ cell;EG細胞)、胚性癌細胞(embryonal carcinoma cell;EC細胞)、多能性成体前駆細胞(multipotent adult progenitor cell;MAP細胞)、成体多能性幹細胞(adult pluripotent stem cell;APS細胞)、Muse細胞(multi-lineage differentiating stress enduring cell);などが挙げられる。培養工程において目的の体細胞へと分化誘導する分化誘導因子を培地に添加し、多能性幹細胞を体細胞に分化させる。
【0065】
実施形態(4):フィーダー能を有する細胞と、血管内皮細胞及びリンパ管内皮細胞の少なくともいずれかと、実質臓器を形成する細胞とを共培養する培養工程。
【0066】
実施形態(4)によれば、実質臓器の細胞組織の表面又は内部に、血管内皮細胞又はリンパ管内皮細胞のネットワーク構造を備えた細胞組織が提供される。実施形態(4)によって製造された細胞組織は、例えば、生体内に移植され組織又は臓器の機能を補うために用いられる。ほかに、実施形態(4)によって製造された細胞組織は、動物実験や臨床試験に替わる試験用細胞組織として用いられる。
【0067】
実施形態(4)の培養工程は、3種の細胞を同時期に播種して3種の細胞を同時に共培養する培養工程でもよく、3種の細胞を段階的に播種して3種の細胞を段階的に共培養する培養工程でもよい。後者としては、例えば、フィーダー能を有する細胞と、血管内皮細胞及びリンパ管内皮細胞の少なくともいずれかとを同時期に播種し、数日間培養を行い血管内皮細胞又はリンパ管内皮細胞のネットワーク構造を形成した後、実質臓器を形成する細胞を播種して培養を継続する。
【0068】
培養工程は、例えば、多孔フィルムを複数の開孔が開口した側の面を上にして培養容器に載置し、多孔フィルムに細胞懸濁液を播種し、播種した細胞種に合せた培養条件にて行う。多孔フィルムを載置する培養容器としては、細胞培養用として公知のあらゆる培養容器が挙げられる。培養容器の材質としては、例えば、樹脂(例えば、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂)、ガラス、セラミックス、金属等が挙げられる。培養容器の形状としては、例えば、マルチウェルプレート、ペトリディッシュ、マイクロアレイ用プレート、チューブ、フラスコ、ローラーボトル、バッグ等が挙げられる。
【0069】
本培養工程の前に、多孔フィルムの複数の開孔が開口した側の面に細胞を播種した後、細胞を播種した側の面から反対面に向かう方向に遠心力をかけ細胞を複数の開孔の内部に移動させる遠心処理工程を含むことが好ましい。多孔フィルムに播種された細胞が遠心処理工程によって多孔フィルムの開孔内に移行するので、孔内で培養される細胞の割合が大きくなる。
【0070】
本実施形態に遠心処理工程を含む場合、遠心処理工程の実施を容易にするため、比較的少ない量の培地に細胞を懸濁した細胞懸濁液を播種して遠心処理工程を実施することが好ましい。そして、遠心処理工程後に培養容器内に培地を追加する。
【0071】
[培地、培養条件]
本実施形態に用いる培地は、哺乳類細胞の培養に用いられる公知の培地の中から、培養対象となる細胞種に合せて選択される。具体的な培地としては、例えば、DMEM(Dulbecco's Modified Eagle's Medium)、DMEM:F−12(Dulbecco's Modified Eagle Medium: Nutrient Mixture F-12)、EMEM(Eagle's minimal essential medium)、MEMα(Minimum Essential Medium Alpha)、BME(Basal Medium Eagle)等の基本培地に細胞増殖因子を添加し、細胞種に合せて最適化した培地が挙げられる。このような培地は市販品として入手可能である。本実施形態に用いる培地は、共培養する細胞種に応じて、複数種の培地を混合した培地でもよい。培地のpHは、例えばpH7.0〜8.0であり、好ましくはpH7.3〜7.4である。
【0072】
培地には、一般的に添加される各種の成分、例えば、FGF−2(Fibroblast Growth Factor-2)、TGF−β(Transforming Growth Factor-β)、EGF(Epidermal Growth Factor)、VEGF(Vascular Endothelial Growth Factor)等の細胞増殖因子;アスコルビン酸、レチノイン酸等のビタミン又はビタミン誘導体;グルコース等の糖源;アミノ酸;亜セレン酸ナトリウム、塩化ナトリウム等の無機塩;トランスフェリン等のタンパク質;インスリン等のホルモン;分化抑制因子;分化誘導因子;2−メルカプトエタノール、ジチオトレイトール等の抗酸化剤;ペニシリン、ストレプトマイシン等の抗生物質;などを添加してもよい。成分は、培養期間全体に亘って濃度を所期の範囲に保つために、細胞の培養中に培地に補充してもよい。培地は、抗原性物質や感染源などが細胞組織に混入することを抑制する観点から、血清及び血清代替物を含まないことが好ましい。
【0073】
本実施形態における培養工程においては、適宜、培地交換を行うことが好ましい。一連の培養工程に用いる培地は、同一組成でなくてもよい。共培養する細胞種に応じて異なる組成の培地に置き換えながら培養を継続してもよい。
【0074】
フィーダー能を有する細胞(第一の細胞)と、血管内皮細胞又はリンパ管内皮細胞(第二の細胞)とを共培養する際、又は、フィーダー能を有する細胞(第一の細胞)と、実質臓器を形成する細胞(第二の細胞)とを共培養する際の二者の混合比は、例えば、第一の細胞の細胞数:第二の細胞の細胞数=1:0.5〜1:5であり、好ましくは第一の細胞の細胞数:第二の細胞の細胞数=1:1〜1:3である。
【0075】
フィーダー能を有する細胞(第一の細胞)と、血管内皮細胞又はリンパ管内皮細胞(第二の細胞)と、実質臓器を形成する細胞(第三の細胞)とを共培養する際の三者の混合比は、例えば、(第一の細胞の細胞数+第二の細胞の細胞数):第三の細胞の細胞数=1:1〜1:10であり、好ましくは(第一の細胞の細胞数+第二の細胞の細胞数):第三の細胞の細胞数=1:2〜1:5である。第一の細胞と第二の細胞の混合比は、の範囲が好ましい。
【0076】
多孔フィルムに対する細胞の播種密度は、例えば1×10
3cells/cm
2〜1×10
6cells/cm
2であり、好ましくは1×10
4cells/cm
2〜1×10
6cells/cm
2である。複数種の細胞を共培養する場合は、合計の播種密度を範囲とすることが好ましい。
【0077】
本実施形態における培養条件には、一般的な条件を適用してよい。例えば、温度37℃且つ5%(v/v)CO
2濃度のインキュベーター内での培養が適用される。培養期間は、特に制限されず、細胞のネットワーク構造が十分に発達する期間、培養することが好ましい。
【実施例】
【0078】
以下に実施例を挙げて、発明の実施形態を詳細に説明する。発明の以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0079】
以下において、「PET」とは、ポリエチレンテレフタレート(Polyethylene Terephthalate)を意味し、「PMMA」とは、ポリメチルメタクリレート(Polymethyl methacrylate) を意味し、「PDMS」とは、ポリジメチルシロキサン(Polydimethylsiloxane)を意味し、「SEM」とは、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope)を意味し、「FBS」とは、ウシ胎児血清(Fetal Bovine Serum)を意味する。
【0080】
以下において、多孔フィルムの開孔と連通孔とを総称して「孔」という。
【0081】
<多孔フィルム及び培養デバイスの作製>
[多孔フィルム]
ポリ乳酸5質量部、トリクロロメタン94.5質量部、両親媒性化合物としてポリアクリルアミド系の両親媒性ポリマー0.5質量部を混合し、塗布液を調製した。塗布液をPETフィルム(膜厚188μm)の上に塗布してPETフィルム上に塗膜を形成した。加湿空気を塗膜の表面全体に亘って流し、結露現象によって塗膜上に水滴を形成した。加湿空気の供給を継続して水滴を成長させながら、水滴を塗膜の中に入り込ませた。塗膜の中で水滴どうしが両親媒性化合物の膜を隔てて密接するまで水滴を成長させながら、塗膜に含まれる溶媒の蒸発により水滴の周囲にポリ乳酸を析出させた。次いで、加湿空気の供給を停止し、雰囲気温度を上げて水滴を蒸発させ、塗膜に水滴が入り込んだ部分を開孔として残し、複数の開孔がハニカム状に配列し且つ連通構造を有するポリ乳酸からなる多孔層と、PETフィルム層とを備える多孔フィルムを得た。塗膜の膜厚、加湿空気に含まれる水蒸気量、及び水滴を蒸発させるタイミングにより、多孔層における開孔及び連通孔の寸法を調整し、表1に示す各多孔フィルムを得た。
【0082】
[培養デバイス]
多孔フィルムを直径23mmの円形に切り出し、その外周部に、リング(外径22mm、内径16mm、高さ8mm。PMMA製、側面にPDMSコート)を、両面粘着テープ(3M社の品番1510、皮膚貼付用テープ)を用いて貼り付け、リング付き多孔フィルムを作製した。リング付き多孔フィルムを、滅菌を目的に70%(v/v)エタノール水溶液に数分間浸し、次いで滅菌水で洗浄してエタノールを除去した。図4に、多孔フィルム、リング及び培養デバイスの一例を示す。
【0083】
リング付き多孔フィルムを、多孔フィルムのPETフィルム層側が下になるように、組織培養用ディッシュに置き、培養デバイスを得た。滅菌を目的に、培養デバイスに対して紫外線照射を2時間行った。表1に、各培養デバイスが備える多孔フィルムの構造の寸法を示す。
【0084】
【表1】
【0085】
図5Aは、PLA10が備える多孔フィルムの断面及び表面のSEM像であり、図5Bは、PLA40が備える多孔フィルムの断面及び表面のSEM像である。表1に示すすべての多孔フィルムにおいて、隣接する開孔の開口どうしは平坦部により離間されており、隣接する開孔どうしはそれぞれの壁面の一部が連続しており連通していた。表1に示すすべての多孔フィルムにおいて、ポリ乳酸からなる多孔層に配列している開孔は、多孔層を貫通していなかった。
【0086】
対照用培養デバイスとして、開孔のない平坦なポリ乳酸からなる層をPETフィルム上に積層した積層体を、多孔フィルムの代わりに備えるデバイス(「Flat」という。)と、組織培養用ディッシュ(Tissue culture polystyrene:TCPS、直径35mm、商品名:Falconセルカルチャーディッシュ353001、コーニング社製)の培養面にリングを貼り付けたデバイス(「TCP」という。)を用意した。
【0087】
これら培養デバイスにおいては、リング内の底面が細胞を培養する培養面であり、リングで囲まれた底面の面積は2cm
2である。
【0088】
<培養実験の材料>
[細胞]
・間葉系幹細胞:ヒト成人骨髄由来正常細胞、ロンザジャパン社から購入。以下「MSC」という。
・線維芽細胞:ヒト皮膚由来正常細胞NHSF46、理化学研究所バイオリソースセンター(日本国茨城県つくば市高野台3−1−1)から分譲。
・血管内皮細胞:ヒト新生児臍帯静脈由来正常細胞、ロンザジャパン社から購入。以下「HUVEC」という。
・肝臓由来の増殖性細胞:ヒト肝癌由来細胞HepG2、理化学研究所バイオリソースセンター(日本国茨城県つくば市高野台3−1−1)から分譲。
【0089】
[培養液]
・MSC培地:ヒト間葉系幹細胞培地キットMSCGM BulletKit、ロンザジャパン社
・NHSF46培地:MEMα+10%FBS
・HUVEC培地:ヒト内皮細胞培地キットEGM-2 BulletKit、ロンザジャパン社
・HepG2培地:DMEM+10%FBS
【0090】
<培養実験1:間葉系幹細胞の単独培養>
培養デバイスとしてTCP、Flat、PLA3、PLA10、PLA30を用いて、下記の培養条件でMSCを単独培養した。
【0091】
・播種密度:1×10
5cells/disk(5×10
4cells/cm
2)
・播種後の遠心処理:多孔フィルムを備えた培養デバイスに対して、回転半径120mm、回転数1100rpm、回転時間3分間の遠心処理を施した。
・骨分化誘導培地:hMSC differentiation BulletKit-osteogenic(商品番号:PT-3002、ロンザジャパン社)
・脂肪分化誘導培地:hMSC differentiation BulletKit-adipogenic(商品番号:PT-3004、ロンザジャパン社)
・培養液量:1.0ml/disk
・インキュベーター:37℃、5%CO
2【0092】
MSC培地を用いて培養を開始し、培養1日目に、骨分化誘導培地と脂肪分化誘導培地を1:1で混合した分化誘導培地に交換し、その後3日毎に分化誘導培地を交換し、合計15日間培養した。分化誘導14日目にリアルタイムPCR(Polymerase Chain Reaction)により、骨細胞の分化マーカーであるRunx2及びOsx、並びに、脂肪細胞の分化マーカーであるC/EBPα及びPPARγの発現を解析した。また、分化誘導14日目にアクチンの蛍光免疫染色を行った。図6に、分化誘導14日目におけるアクチンの蛍光免疫染色像を示す。
【0093】
本実験から、以下のことが明らかになった。
・多孔フィルムの開孔の大きさに応じて細胞の形態が変化した。PLA10及びPLA30において、細胞は多孔フィルムの孔内で細長い形態を示した。TCP、Flat及びPLA3において、細胞は多孔フィルムの表面において伸展した形態を示した。
・PLA3及びPLA10における細胞の増殖性は、Flatと同程度であったが、PLA30における細胞の増殖性は、Flatに比べ低かった。このことから、細胞が多孔フィルムの孔内に侵入すると増殖が抑制されることが示唆された。
・リアルタイムPCRの解析結果は、いずれの培養デバイスにおいても、骨細胞への分化と脂肪細胞への分化とが起こることを示していた。
【0094】
<培養実験2:間葉系幹細胞と血管内皮細胞の共培養>
培養デバイスとしてTCPとPLA40を用いて、下記の培養条件で、HUVECを単独培養、又は、MSCとHUVECを共培養した。
【0095】
・単独培養:HUVECの播種密度1×10
5cells/disk(5×10
4cells/cm
2)。MSC培地とHUVEC培地の混合培地(MSC培地:HUVEC培地=体積比1:2)で培養。
・共培養:MSCとHUVECを混合したのち播種した。MSCの播種密度0.5×10
5cells/disk、HUVECの播種密度1×10
5cells/disk、合計播種密度1.5×10
5cells/disk(7.5×10
4cells/cm
2)。MSC培地とHUVEC培地の混合培地(MSC培地:HUVEC培地=体積比1:2)で培養。
・播種後の遠心処理:多孔フィルムを備えた培養デバイスの半数に対して、回転半径120mm、回転数1100rpm、回転時間3分間の遠心処理を施した。
・培養液量:1.0ml/disk
・インキュベーター:37℃、5%CO
2
・培養期間:7日間培養。2日毎に培地を交換した。
【0096】
培養3日目と7日目に、HUVEC特異的な細胞表面マーカーであるCD31の蛍光免疫染色を行い、共焦点レーザー顕微鏡システム(Nikon社C2
+、10倍対物レンズ)を用いて観察した。細胞組織においてネットワーク構造が最も発達している深度に焦点を合せ、1.27mm×1.27mm(=1.61mm
2)の領域を任意に10個選択して蛍光画像を取得し、取得した蛍光画像を画像解析ソフトウェア(Nikon社NIS-Elements Basic Research)を用いて二値化処理した。二値化処理した画像全体に散在する蛍光領域の長径を個別に計測し、その長さを足し合わせ、さらに10領域の合計を算出し、HUVECが形成しているネットワークの全長とした。二値化処理した画像全体中に散在する蛍光領域の面積を個別に計測し、その面積を足し合わせ、さらに10領域の合計を算出し、HUVECが形成しているネットワークの総面積とした。
【0097】
図7A〜図7D及び表2に、共焦点レーザー顕微鏡像及びネットワークの解析結果を示す。図7A〜図7Cにおいて、「Mono−」が単独培養を意味し、「Co−」が共培養を意味する。図7A〜図7Dにおいては、「cfg」を付した像が、遠心処理を施した培養例であり、「cfg」を付していない像が、遠心処理を施していない培養例である。
【0098】
・図7A:培養3日目のCD31の蛍光免疫染色像(低倍率)。
・図7B:培養3日目のCD31の蛍光免疫染色像(高倍率)。
・図7C:培養7日目のCD31の蛍光免疫染色像(高倍率)。
・図7D、表2:共培養におけるネットワークの全長及び総面積。
【0099】
【表2】
【0100】
本実験から、以下のことが明らかになった。
・HUVECは血管内膜を形成する細胞であるところ、HUVECのみでは毛細血管網様のネットワークの形成は難しいが、MSCとHUVECの共培養により毛細血管網様のネットワークが形成された。内皮細胞が管腔構造を形成するには内皮細胞を支持する細胞が必要であると考えられるところ、MSCは内皮細胞に作用するサイトカインを分泌すること及び壁細胞への分化が可能であることから、HUVECの毛細血管網様のネットワーク形成にMSCが効果的に作用していることが示唆された。
・毛細血管網様のネットワークの形成は経時に伴って進行し、培養7日目では、培養3日目に比べ、より発達したネットワークが形成された。
・PLA40においては、多くの細胞が多孔フィルムの孔内に存在した。PLA40においては、TCPに比べ、発達した毛細血管網様のネットワークが形成された。
・遠心処理を施したPLA40においては、遠心処理を施していないPLA40に比べ、毛細血管網様のネットワークがより長く発達していた。遠心処理を施すことにより、多孔フィルムの孔内に移行する細胞の割合が大きくなることが示唆された。
・通常の播種操作後の培養においては、培養デバイスのリング周辺において細胞密度が高い傾向が見られたが、遠心処理を施した後の培養では、培養面全体において比較的均一なネットワーク形成が見られた。播種された細胞が遠心処理によって多孔フィルムの孔内に移行するので、リング周辺に細胞が移行することが抑制されることが示唆された。
【0101】
<培養実験3:間葉系幹細胞又は線維芽細胞と血管内皮細胞の共培養>
培養デバイスとしてTCP、Flat、PLA40を用いて、下記の培養条件で、MSCとHUVECを共培養、又は、NHSF46とHUVECを共培養した。
【0102】
・MSCとHUVECの共培養:MSCとHUVECを混合したのち播種した。MSCの播種密度0.5×10
5cells/disk、HUVECの播種密度1×10
5cells/disk、合計播種密度1.5×10
5cells/disk(7.5×10
4cells/cm
2)。MSC培地とHUVEC培地の混合培地(MSC培地:HUVEC培地=体積比1:2)で培養。
・NHSF46とHUVECの共培養:NHSF46とHUVECを混合したのち播種した。NHSF46の播種密度0.5×10
5cells/disk、HUVECの播種密度1×10
5cells/disk、合計播種密度1.5×10
5cells/disk(7.5×10
4cells/cm
2)。NHSF46培地とHUVEC培地の混合培地(NHSF46培地:HUVEC培地=体積比1:2)で培養。
・播種後の遠心処理:多孔フィルムを備えた培養デバイスに対して、回転半径120mm、回転数1100rpm、回転時間3分間の遠心処理を施した。
・培養液量:1.0ml/disk
・インキュベーター:37℃、5%CO
2
・培養期間:7日間培養。毎日培地を交換した。
【0103】
培養3日目と7日目にCD31の蛍光免疫染色を行い、共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察した。図8A〜図8D及び表3に、顕微鏡像及びネットワークの解析結果を示す。
【0104】
・図8A:培養3日目のCD31の蛍光免疫染色像(高倍率)。
・図8B:培養7日目のCD31の蛍光免疫染色像(高倍率)。
・図8C、表3:培養3日目のネットワークの全長及び総面積。
・図8D、表3:培養7日目のネットワークの全長及び総面積。
【0105】
【表3】
【0106】
本実験から、以下のことが明らかになった。
・NHSF46とHUVECの共培養により、MSCとHUVECの共培養と同様に、毛細血管網様のネットワークが形成された。
・毛細血管網様のネットワークは、経時に伴って発達した。
・PLA40においては、TCP及びFlatに比べ、より発達したネットワークが形成された。
【0107】
<培養実験4:多孔フィルムの寸法の検討>
培養デバイスとしてTCP、Flat、PLA3、PLA10、PLA20、PLA40を用いて、下記の培養条件でMSCとHUVECを共培養した。
【0108】
・播種:MSCとHUVECを混合したのち播種した。
・播種密度:MSC 0.5×10
5cells/disk、HUVEC 1×10
5cells/disk、合計1.5×10
5cells/disk(7.5×10
4cells/cm
2)。
・培地:MSC培地とHUVEC培地の混合培地、MSC培地:HUVEC培地=体積比1:2。
・播種後の遠心処理:多孔フィルムを備えた培養デバイスに対して、回転半径120mm、回転数1100rpm、回転時間3分間の遠心処理を施した。
・培養液量:1.0ml/disk
・インキュベーター:37℃、5%CO
2
・培養期間:7日間培養。2日毎に培地を交換した。
【0109】
培養3日目と7日目にCD31の蛍光免疫染色を行い、共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察した。図9A〜図9E及び表4に、顕微鏡像及びネットワークの解析結果を示す。
【0110】
・図9A:培養3日目のCD31の蛍光免疫染色像(低倍率)。
・図9B:培養3日目のCD31の蛍光免疫染色像(高倍率)。
・図9C:培養7日目のCD31の蛍光免疫染色像(低倍率)。
・図9D:培養7日目のCD31の蛍光免疫染色像(高倍率)。
・図9E、表4:ネットワークの全長及び総面積。
【0111】
【表4】
【0112】
本実験から、以下のことが明らかになった。
・PLA3及びPLA10においては、細胞は、多孔フィルムの表面において伸展した形態を示し、ネットワークは形成されなかった。
・PLA20においては、細胞は、多孔フィルムの表面で伸展した形態と、多孔フィルムの孔内でネットワークを形成した形態を示した。
・PLA40においては、毛細血管網様のネットワークが形成された。
・のとおり、多孔フィルムの開孔の大きさに応じて細胞の形態が変化した。本実験で使用した細胞の長径が20μm程度であることから、多孔フィルムの開孔の大きさが細胞サイズと同等以上であると、細胞は多孔フィルムの孔内でネットワークを形成しやすいことが示唆された。
【0113】
<培養実験5:3種類の細胞の同時共培養>
培養デバイスとしてTCP、PLA40を用いて、下記の培養条件でMSCとHUVECとHepG2を共培養した。
【0114】
・播種:MSCとHUVECとHepG2を混合したのち播種した。予めHepG2を蛍光染料CellTracker Redで標識した。
・播種密度:MSC 0.5×10
5cells/disk、HUVEC 1×10
5cells/disk、HepG2 5×10
5cells/disk。
・培地:MSC培地とHUVEC培地とHepG2培地の混合培地、MSC培地:HUVEC培地:HepG2培地=体積比1:2:3。
・播種後の遠心処理:多孔フィルムを備えた培養デバイスに対して、回転半径120mm、回転数1100rpm、回転時間3分間の遠心処理を施した。
・培養液量:1.0ml/disk
・インキュベーター:37℃、5%CO
2
・培養期間:3日間培養。毎日培地を交換した。
【0115】
培養3日目にCD31の蛍光免疫染色を行い、共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察し、細胞が形成しているネットワークを解析した。図10A〜図10Bに顕微鏡像を示す。
【0116】
・図10A:培養3日目の蛍光像(緑色蛍光と赤色蛍光の重ね合せ画像)。
・図10B:培養3日目におけるCD31の蛍光免疫染色像。
【0117】
本実験から、以下のことが明らかになった。
・PLA40においては、細胞はネットワーク構造を形成したが、ネットワーク間の連結状態は乏しかった。
・MSCとHUVECとHepG2の3種共培養は、MSCとHUVECの2種共培養に比べ、播種密度が高く、多孔フィルムの孔内に高密度に細胞が充填されたことにより細胞の遊走性が低下し、ネットワーク形成の低下あるいは遅延が起こっていることが示唆された。播種密度の最適化又は培養時間の延長により、ネットワーク形成が可能と推測された。
【0118】
<培養実験6:3種類の細胞の段階的共培養>
培養デバイスとしてTCP、PLA40を用いて、下記の培養条件でMSCとHUVECとHepG2を共培養した。
【0119】
・播種:MSCとHUVECを混合したのち播種し、3日間培養した後、HepG2を播種した。予めHepG2を蛍光染料CellTracker Redで標識した。
・播種密度:MSC 0.5×10
5cells/disk、HUVEC 1×10
5cells/disk、HepG2 5×10
5cells/disk。
・播種後の遠心処理:多孔フィルムを備えた培養デバイスに対して、回転半径120mm、回転数1100rpm、回転時間3分間の遠心処理を施した。
・培養液量:1.0ml/disk
・インキュベーター:37℃、5%CO
2
・培養期間:2種共培養を3日間、3種共培養を3日間行った。
・培地:培養開始から3日間は、MSC培地とHUVEC培地の混合培地(体積比1:2)で培養し、1日目に培地交換を行った。HepG2を播種した後は、MSC培地とHUVEC培地とHepG2培地の混合培地(体積比1:2:3)に交換し、毎日培地を交換しながら培養した。
【0120】
HepG2を播種してから3日目にCD31の蛍光免疫染色を行い、CD31の蛍光像とHepG2の蛍光像とから、細胞が形成しているネットワークを解析した。図11A〜図11Bに顕微鏡像を示す。図11C及び表5に、CD31の蛍光像を解析して得たネットワークの全長及び総面積を示す。
【0121】
・図11A:HepG2を播種した後の培養3日目の蛍光像(緑色蛍光と赤色蛍光の重ね合せ画像)。
・図11B:HepG2を播種した後の培養3日目におけるCD31の蛍光免疫染色像。
・図11C、表5:3種の共培養3日目における、同時共培養(培養実験5)、段階的共培養(培養実験6)それぞれのネットワークの全長及び総面積。
【0122】
【表5】
【0123】
本実験から、以下のことが明らかになった。
・PLA40においては、TCPに比べ、細く長いネットワークが形成された。
・段階的共培養は、同時共培養に比べ、ネットワークの連結が増していた。MSCとHUVECを共培養してネットワークを予め形成した後にHepG2を播種することが、高次のネットワーク構造の形成に効果的であることが示唆された。
【0124】
2016年9月27日に出願された日本国出願番号第2016−188627号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
【0125】
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図9E】
【図10A】
【図10B】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【国際調査報告】