【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、下記の実施例に限定されるものではない。また、グラフ中のエラーバーは、独立に実験を3回以上行った場合の標準誤差を示している。
【0034】
[1.マウス卵巣腫瘍細胞株OV2944を用いた実験例]
<OV2944細胞株の調製>
汎用されているOV2944-HM-1細胞株(「OV2944細胞」や単に「細胞」と記載することがある。)を用いた。OV2944細胞は、理研バイオリソースセンターより入手し(Cell No. RCB 1483)、培地であるDMEM (+10% FBS)中にて、常法に従って培養した。本株はマウス卵巣癌細胞株であり、高リンパ節転移性を示す株である。
【0035】
<マウスダイカルシンを用いた実験>
(マウスダイカルシンの調製)
マウスダイカルシンは次のようにして調製した。マウス卵巣よりRNA抽出試薬RNA-Bee(登録商標)(AMS Biotech社)を用いてtotal RNAを得、cDNAを調製した後、マウスダイカルシン(Accession No.:NP_058020)のNおよびC末端の配列に対応したプライマーセットを用いたRT-PCRによりマウスダイカルシン翻訳領域を増幅した。プライマーは、5'-ATGCCTACAGAGACT-3'(配列番号9)と5'-TTAGATTCGCTTCTG-3'(配列番号10)を用いた。増幅したPCR断片をpGEM-Tベクター(Promega社)に連結した後、発現用ベクターであるpET17bベクター(Novagen社)にサブクローニングした。作製したベクターを大腸菌pLysS株(Novagen社)に導入し、組換えタンパク質を大腸菌内で発現させた後、フェニルセファロースカラムおよびDEAEカラム(GE Healthcare社)を利用したクロマトグラフィーにより精製した。調製したマウスダイカルシン(全長)のアミノ酸配列は、配列番号11で表される。
【0036】
(細胞結合実験)
[実験例1-1]
ガラスプレート上で培養した細胞を固定し(4%パラホルムアルデヒド/リン酸バッファー、室温、10分)、ヒツジ血清で処理した後、1mM CaCl
2の存在下で、テトラメチルローダミン(TMR)で蛍光標識したマウスダイカルシン(5 μM)を反応させ(4℃、一晩)、TBSバッファーにより洗浄後、共焦点顕微鏡(カールツァイス社)により解析した。また、DAPIにより細胞核を染色した。結果を
図1-1に示す。
[実験例1-2]
1mM EGTAの存在下(カルシウム非存在下と記載することがある。)で行ったこと以外は実験例1-1と同様にした。結果を
図1-2に示す。
[実験例1-3]
一次抗体として抗マウスダイカルシン抗体(Catalog No. MAB5167、R&D Systems社)を、二次抗体としてAlexa Fluor(登録商標)594標識抗ラットIgG抗体(Catalog No. A11007、Invitrogen社)を用いて免疫染色したこと以外は実験例1-1と同様にした。結果を
図1-3に示す。
[結果]
図1-1および
図1-2より、カルシウム非存在下(1mM EGTA)に比べて、カルシウム存在下(1mM CaCl
2)の方が、細胞に結合するマウスダイカルシンが多いことが分かった。また、
図1-3より、細胞には内在性のダイカルシンが存在せず、
図1-1及び
図1-2の蛍光は、添加したダイカルシンが細胞に結合したことが分かった。
【0037】
(細胞浸潤アッセイ)
[実験例2-1]
細胞の浸潤は、BD BioCoat(登録商標)マトリゲルインベージョンチャンバー(ベクトン・ディッキンソン社)を用いて解析した。まず、室温で20分間、一定量の細胞(約1×10
5個/ウェル)を2μM、8μM、又は20μMのマウスダイカルシンで処理した。
上記処理した細胞を遠心処理により洗浄後、予めマトリゲルでコートしたトランスウェルの上側チャンバーに播種し、培地としてDMEM (+10% FBS)を用いて培養した。
約16時間後、下側チャンバーに移動した浸潤細胞を、4%パラホルムアルデヒド/リン酸バッファーで室温下、10分間固定し、クリスタルバイオレットにより染色した後、メンブレンを切り取り、スライド上に封入し、細胞数を計測した。浸潤指数は、{(染色された細胞数)/(播種細胞数)}×100 (%)とし、後述する実験例2-2の結果を100 (%)として規格化した。
[実験例2-2]
マウスダイカルシンの代わりに10μMのBSAを用いたこと以外は実験例2-1と同様にした。
[結果]
結果を
図2に示す。マウスダイカルシンが濃度依存的に細胞の浸潤を抑制することが分かった。
【0038】
(細胞接着アッセイ)
[実験例3-1]
まず、室温で20分間、一定量の細胞(約1×10
5個/ウェル)を8μM又は20μMのマウスダイカルシンで処理した。一方、BDマトリゲル(登録商標)(ベクトン・ディッキンソン社)を24穴プレートにコートしゲル化した後、前処理した細胞を洗浄後、播種した。
約1時間後、接着しなかった細胞を吸引、洗浄した後、接着した細胞を4%パラホルムアルデヒド/リン酸バッファーで室温下、10分間固定し、クリスタルバイオレットにより染色し、細胞数を計測した。接着指数は、{(染色された細胞数)/(播種細胞数)}×100 (%)とした。後述する実験例3-2の結果を100 (%)として規格化した。
[実験例3-2]
マウスダイカルシンを無添加としたこと以外は実験例3-1と同様にした。
[実験例3-3]
マウスダイカルシンの代わりに10μMのBSAを用いたこと以外は実験例3-1と同様にした。
[結果]
結果を
図3に示す。マウスダイカルシンは、濃度依存的に細胞の接着を抑制することが分かった。
【0039】
(細胞生存アッセイ)
[実験例4-1]
まず、室温で20分間、一定量の細胞(約1×10
5個/ウェル)を20μMのマウスダイカルシンで処理し、洗浄後、96穴プレートに分注し培養した。1時間後、PBSバッファーにて洗浄し細胞を4%パラホルムアルデヒド/リン酸バッファーで室温下、10分間固定し、クリスタルバイオレットにより染色し可溶化した後、吸光度を測定(測定波長550nm)して細胞生存率を解析した。細胞生存率は、{(染色された細胞数)/(播種細胞数)}×100 (%)とした。後述する実験例4-2の結果を100 (%)として規格化した。
[実験例4-2]
マウスダイカルシンの代わりに10μMのBSAを用いたこと以外は実験例4-1と同様にした。
[結果]
結果を
図4に示す。細胞をマウスダイカルシンで処理しても細胞の生存に影響がないことが分かった。
【0040】
<マウスダイカルシンの部分ペプチドを用いた実験>
(マウスダイカルシンの部分ペプチドの合成)
マウスダイカルシンの部分ペプチドp1〜p7を合成した。各アミノ酸配列はそれぞれ下記の通りである。また、部分ペプチドp1〜p7のマウスダイカルシン全長における位置は
図5-1の通りである。
p1: PTETERCIE(配列番号12)
p2: SLIAVFQKY(配列番号13)
p3: SGKDGNNTQLSKTEFLSF(配列番号14)
p4: MNTELAAFTKNQKDPGVLDR(配列番号15)
p5: MMKKLDLNCDG(配列番号16)
p6: QLDFQEFLNLI(配列番号17)
p7: GGLAIACHDSFIQTSQKRI(配列番号18)
【0041】
(細胞結合実験)
[実験例5-1]
ローダミンで蛍光標識した部分ペプチドp1〜p7(5μM)のそれぞれを用いたこと以外は実験例1-1と同様にした。結果を
図5-2乃至
図5-8に示す。
また、部分ペプチドp6を用いた場合については、形質膜分子のコントロールとしてのCD44に対する抗CD44抗体(アブカム社)、二次抗体としてAlexa Fluor(登録商標)488標識抗ラットIgG抗体(Catalog No. A21208、Invitrogen社)を用いて免疫細胞染色も併せて行った。Hoechstによる核染色の結果も併せて、その結果を
図5-9に示す。
[結果]
蛍光強度を
図5-10に示す。蛍光強度から、部分ペプチドp6が最大の細胞結合能を示し、次いでp2、p5、p7が大きく、次いでp4であった。また、部分ペプチドp6は、細胞の形質膜に結合することがわかった(
図5-9の矢頭)。
【0042】
(細胞浸潤アッセイ)
[実験例6-1]
部分ペプチドp2、p5、p6、p7(いずれも8μM)を用いて、実験例2-1と同様に解析した。
[実験例6-2]
部分ペプチドの代わりに10μMのBSAを用いたこと以外は実験例6-1と同様にした。
[結果]
結果を
図6に示す。部分ペプチドp6、p2、p7、p5の順で細胞の浸潤を抑制することが分かった。
【0043】
[実験例7]
細胞の浸潤を最も抑制する部分ペプチドp6の濃度を変えた場合の細胞浸潤アッセイを行い、浸潤指数が50となる場合の部分ペプチドp6の濃度IC
50 (μM)を求めた。濃度が0.2μM、0.8μM、2μM、8μM、又は20μMの部分ペプチドp6を用いて、実験例6-1と同様に解析した。
[結果]
結果を
図7に示す。部分ペプチドp6は、濃度依存的に細胞の浸潤を抑制し、IC
50は2μMであった。
【0044】
(細胞移動アッセイ)
[実験例8-1]
蛍光タンパク質(DsRed2)を発現するプラスミドベクターpDsRed2-C1(クロンテック社)を細胞にトランスフェクションした。その細胞をガラスプレート上に播種し、部分ペプチドp6(5μM)存在下、1時間毎に細胞を顕微鏡観察し、ディスプレイ上にて変位計測した。12〜37細胞を対象とした。統計解析はUnpaired Student t-testにより有意差を解析した。
[実験例8-2]
部分ペプチドp6の代わりに部分ペプチドp1(5μM)を用いた以外は実験例8-1と同様にした。
[実験例8-3]
部分ペプチドを無添加としたこと以外は実験例8-1と同様にした。
[結果]
図8(a)にトランスフェクション後の細胞の画像を、
図8(b)にアッセイの結果を示す。部分ペプチドp6が細胞の移動を抑制することが分かった。
【0045】
[2.ヒト卵巣腫瘍細胞株OVCARを用いた実験例]
<OVCAR細胞株の調製>
汎用されているOVCAR-3細胞株(「OVCAR細胞」や単に「細胞」と記載することがある。)を用いた。OVCAR細胞は、理研バイオリソースセンターより入手し(Cell No. RCB2135)、培地であるDMEM (+10% FBS)中にて、常法に従って培養した。本株はヒト卵巣癌(腺癌)由来細胞株である。
【0046】
<ヒトダイカルシンを用いた実験>
(ヒトダイカルシンの調製)
ヒトダイカルシンのcDNAはかずさDNA研究所より入手し(clone No.: pF1KB6753, Accession No.: AB464185)、ヒトダイカルシンのNおよびC末端の配列に対応したプライマーセットを用いたRT-PCRによりヒトダイカルシン翻訳領域を増幅した。プライマーは、5'-ATGGCAAAAATCTCCAGCCCTA-3'(配列番号19)と5'-TTAGGTCCGCTTCTGGGAAG-3'(配列番号20)を用いた。その後は、上記「マウスダイカルシンの調製」欄の記載と同様にしてヒトダイカルシン(全長)を調製した。調製したヒトダイカルシン(全長)のアミノ酸配列が、配列番号1で表されるアミノ酸配列である。
【0047】
(細胞浸潤アッセイ)
[実験例9-1]
細胞としてOVCAR細胞を用い、マウスダイカルシンの代わりに8μM又は20μMのヒトダイカルシンを用いたこと以外は、実験例2-1と同様に解析した。
[実験例9-2]
ヒトダイカルシンの代わりに20μMのBSAを用いたこと以外は実験例9-1と同様にした。
[結果]
結果を
図9に示す。ヒトダイカルシンは、濃度依存的に細胞の浸潤を抑制することが分かった。ヒトダイカルシン(20μM)を用いた場合の浸潤指数は43.9 %であった。
【0048】
(細胞生存アッセイ)
[実験例10-1]
細胞としてOVCAR細胞を用い、マウスダイカルシンの代わりに20μMのヒトダイカルシンを用いたこと以外は実験例4-1と同様にした。
[実験例10-2]
ヒトダイカルシンの代わりに10μMのBSAを用いたこと以外は実験例10-1と同様にした。
[結果]
結果を
図10に示す。細胞をヒトダイカルシンで処理しても細胞の生存に影響がないことが分かった。
【0049】
<ヒトダイカルシンの部分ペプチドを用いた実験>
(ヒトダイカルシンの部分ペプチドの合成)
ヒトダイカルシンの部分ペプチドhDC-p1〜hDC-p7(それぞれ、マウスダイカルシンの部分ペプチドp1〜p7に相当する。)を合成した。各アミノ酸配列は下記の通りである。
hDC-p1:PTETERCIE(配列番号2)
hDC-p2:SLIAVFQKY(配列番号3)
hDC-p3:AGKDGYNYTLSKTEFLSF(配列番号4)
hDC-p4:MNTELAAFTKNQKDPGVLDR(配列番号5)
hDC-p5:MMKKLDTNSDG(配列番号6)
hDC-p6:QLDFSEFLNLI(配列番号7)
hDC-p7:GGLAMACHDSFLKAVPSQKRT(配列番号8)
【0050】
(細胞結合実験)
[実験例11-1]
細胞としてOVCAR細胞を用い、ローダミンで蛍光標識した部分ペプチドhDC-p6(5μM)を用い、カルシウム非存在下で行い、核染色にHoechstを用いたこと以外は、実験例5-1と同様にした。結果を
図11-1に示す。
[実験例11-2]
部分ペプチドhDC-p6の代わりに部分ペプチドp1(5μM)をコントロールペプチドとして用いた以外は実験例11-1と同様にした。結果を
図11-2に示す。
[結果]
蛍光強度から、部分ペプチドhDC-p6は細胞に結合することが分かった。
【0051】
(細胞浸潤アッセイ)
[実験例12-1]
細胞としてOVCAR細胞を用い、部分ペプチドとして2μM又は10μMのhDC-p6を用いたこと以外は、実験例2-1と同様に解析した。統計解析はUnpaired Student t-testにより有意差を解析した。
[実験例12-2]
部分ペプチドhDC-p6の代わりに部分ペプチドp1(10μM)をコントロールペプチドとして用いた以外は実験例12-1と同様にした。
[結果]
結果を
図12-1に示す。部分ペプチドhDC-p6は、濃度依存的に細胞の浸潤を抑制することが分かった。
【0052】
[3.ヒト前立腺癌細胞株PC-3を用いた実験例]
<PC-3細胞株の調製>
汎用されているPC-3細胞株(「PC-3細胞」や単に「細胞」と記載することがある。)を用いた。PC-3細胞は、理研バイオリソースセンターより入手し(Cell No. RCB2145)、培地であるDMEM (+10% FBS)中にて、常法に従って培養した。本株はヒト前立腺癌由来細胞株である。
【0053】
<ヒトダイカルシンの部分ペプチドを用いた実験>
(細胞結合実験)
[実験例12-3]
細胞としてPC-3細胞を用い、ローダミンで蛍光標識した部分ペプチドhDC-p6(5μM)を用い、カルシウム非存在下で行い、核染色にHoechstを用いたこと以外は、実験例5-1と同様にした。
[実験例12-4]
部分ペプチドhDC-p6の代わりに部分ペプチドhDC-p1(5μM)をコントロールペプチドとして用いた以外は実験例12-3と同様にした。
[結果]
結果を
図12-2に示す。蛍光強度から、部分ペプチドhDC-p6は細胞に結合することが分かった。
【0054】
(細胞浸潤アッセイ)
[実験例12-5]
細胞としてPC-3細胞を用い、部分ぺプチドとして10μMのhDC-p6を用いたこと以外は、実験例2-1と同様に解析した。統計解析はUnpaired Student t-testにより有意差を解析した。
[実験例12-6]
部分ペプチドhDC-p6の代わりに部分ペプチドhDC-p1(10μM)をコントロールペプチドとして用いた以外は実験例12-5と同様にした。
[結果]
結果を
図12-3に示す。部分ぺプチドhDC-p6は、細胞の浸潤を抑制することが分かった。
【0055】
[4.マウス卵巣腫瘍細胞株OV2944を用いた転移阻害アッセイ]
(蛍光蛋白質tdTomato発現OV2944細胞の調製)
蛍光蛋白質tdTomatoを発現するプラスミドベクターptdTomato-C1(Clontech社)をOV2944細胞にトランスフェクションし、24-48時間後、細胞をリン酸バッファーに懸濁し、フローサイトメーター(FACS Aria, BD Biosciences社)を用いて、
図13 (a)乃至(c)に示す蛍光蛋白質tdTomato発現OV2944細胞を精製した。
【0056】
(肝臓への転移観察)
[実験例13-1]
精製した蛍光蛋白質tdTomato発現OV2944細胞をマウス(B6C3F1系、9週齢雌、日本クレア)の腹腔内に移入した(1×10
5細胞/匹)。
図14に示す投与スケジュールで、部分ペプチドp6を腹腔内に注射し(3 nmoles/2日;隔日で1回あたり4μg以下注射(隔日で1回あたり20μMを150μL注射))、21日後に腹腔臓器を摘出し、肝臓における蛍光蛋白質tdTomato発現OV2944細胞を蛍光実体顕微鏡OV110(オリンパス)を用いて観察した。
【0057】
[実験例13-2]
部分ペプチドp6の代わりに部分ペプチドp1をコントロールペプチドとして用いたこと以外は実験例13-1と同様にした。
[結果]
顕微観察像を
図15-1に示す。(a)は実験例13-1と実験例13-2との比較を示すものであり、(b)は細胞のコロニーに注目したものであって、(c)は、(b)の蛍光像における白枠部分の拡大像である。また、コロニー数をカウントし、Unpaired Student t-testにより有意差を解析した結果を
図15-2に示す。
部分ペプチドp6を用いた場合、コントロールペプチドp1を用いた場合に比べ、肝臓でのコロニー数が有意に小さかった。
【0058】
[実験例14-1、実験例14-2]
(細胞移入後の生存分析)
実験例13-1、実験例13-2と同様にして腹腔注射をしてその後の生存を分析したものを、それぞれ実験例14-1、実験例14-2とした。カプランマイヤー法を用いた生存曲線についてLog-rank testにより有意差を解析した。
[結果]
結果を
図16-1、
図16-2に示す。部分ペプチドp6は、コントロールペプチドであるp1に比べ、腹腔にOV2944細胞が移入されたマウスの生存率の低下を有意に抑制することがわかった。具体的には、平均生存日数が実験例14-2では32日、実験例14-1では38.5日であり、実験例14-1では実験例14-2に比べて21%上昇した。
尚、従来技術として非特許文献1では、20 mg/kgのパクリタキセル(1週間あたり2回、2週間)の投与により平均生存日数が約20%上昇したことが報告されているが、本発明ではその約1/60倍量という少量で同等の平均生存日数の上昇が確認され、この点でも本発明による顕著な効果が認められる。
【0059】
[5.ヒト癌組織を用いた実験例]
(細胞結合実験1)
[実験例15-1]
対象としてヒト卵巣癌組織(US Biomax社)由来のパラフィン切片を用い、脱パラフィン処理、抗原賦活処理(98℃、30分)およびブロッキング処理(10%BSA、37℃、1時間)後、ローダミンで蛍光標識したヒトダイカルシンの部分ペプチドhDC-p6(5μM)を反応させた(4℃、一晩)。洗浄後、蛍光顕微鏡(オリンパス社)により解析した。結果を
図17-1に示す。
[実験例15-2]
対象としてヒト前立腺癌組織(US Biomax社)由来のパラフィン切片を用いたこと以外は実験例15-1と同様にした。結果を
図17-2に示す。
[実験例15-3]
対象としてヒト大腸(結腸)癌組織(US Biomax社)由来のパラフィン切片を用いたこと以外は実験例15-1と同様にした。結果を
図17-3に示す。尚、白点線により、腫瘍領域と正常領域の境界を示した。
[実験例15-4]
対象としてヒト大腸(直腸)癌組織(US Biomax社)由来のパラフィン切片を用いたこと以外は実験例15-1と同様にした。結果を
図17-4に示す。尚、白点線により、腫瘍領域と正常領域の境界を示した。
[実験例15-5]
対象としてヒト乳癌(乳管癌)組織(US Biomax社)由来のパラフィン切片を用いたこと以外は実験例15-1と同様にした。結果を
図17-5に示す。
[実験例15-6]
対象としてヒト乳癌(浸潤性小葉癌)組織(US Biomax社)由来のパラフィン切片を用いたこと以外は実験例15-1と同様にした。結果を
図17-6に示す。
[実験例15-7]
対象としてヒト乳癌(粘液癌)組織(US Biomax社)由来のパラフィン切片を用いたこと以外は実験例15-1と同様にした。結果を
図17-7に示す。
[実験例15-8]
対象としてヒト乳癌(髄様癌)組織(US Biomax社)由来のパラフィン切片を用いたこと以外は実験例15-1と同様にした。結果を
図17-8に示す。
[実験例15-9]
対象としてヒト腎癌組織(US Biomax社)由来のパラフィン切片を用いたこと以外は実験例15-1と同様にした。結果を
図17-9に示す。
[実験例15-10]
対象としてヒト肺癌(小細胞癌)組織(US Biomax社)由来のパラフィン切片を用いたこと以外は実験例15-1と同様にした。結果を
図17-10に示す。
[実験例15-11]
対象としてヒト脳の神経膠腫組織(US Biomax社)由来のパラフィン切片を用いたこと以外は実験例15-1と同様にした。結果を
図17-11に示す。
[結果]
いずれの組織の癌細胞にも部分ペプチドhDC-p6が結合することが分かった。
【0060】
(細胞結合実験2)
[実験例16-1]
ヒト大腸(結腸)癌組織(US Biomax社)由来のパラフィン切片について、ブロッキング処理とペプチド反応を同時に行ったこと以外は(10%BSA、部分ペプチドhDC-p6、37℃、1時間)、実験例15-3と同様にした。結果を
図17-12に示す。
[結果]
図17-12では、白点線により、腫瘍領域と正常領域の境界を示した。部分ペプチドhDC-p6の蛍光陽性反応を検査することにより腫瘍領域と判定できた。さらに、反応をブロッキング処理と兼ね、反応時間を一晩でなく1時間とし、結果を得るまでの時間を短くしても、比較的同等の結果を得ることが分かった。このことは部分ペプチドhDC-p6の判定薬としての利便性を示している。
【0061】
[6.マウス卵巣腫瘍細胞株OV2944を用いた、部分ペプチドp6の標的分子の同定]
(in vitro実験における標的分子候補の同定)
[実験例17-1]
スライド上に様々な糖鎖が固定された糖脂質糖鎖アレイ(住友ベークライト社)を10%BSAでブロッキング処理した後、蛍光標識したマウスダイカルシンの部分ペプチドp6 (5 μM)を反応させ(4℃、一晩)、洗浄後、アレイ用スキャナーにより部分ペプチドp6の糖脂質糖鎖への結合能を解析した。
[結果]
図18に結果を示す。部分ペプチドp6が結合する標的分子の候補として、GM1bガングリオシドが示された。
【0062】
(部分ペプチドp6のOV2944細胞への結合に及ぼすGM1bの阻害アッセイ)
[実験例18-1]
ガラスプレート上で培養したOV2944細胞を固定し(4%パラホルムアルデヒド/リン酸バッファー、室温、10分)、ヒツジ血清で処理した後、GM1b存在下(10, 100μM)で、テトラメチルローダミン(TMR)で蛍光標識したマウスダイカルシンの部分ペプチドp6 (5 μM)、及び、膜分子のコントロールとしてのCD44に対する抗CD44抗体(二次抗体としてAlexa Fluor(登録商標)488標識抗ラットIgG抗体(Catalog No. A21208、Invitrogen社))を反応させ(4℃、一晩)、洗浄後、共焦点顕微鏡(カールツァイス社)により解析した。
[実験例18-2]
GM1b非存在下で行ったこと以外は実験例18-1と同様にした。
[実験例18-3]
さらに、GM1b単独で濃度が0、10、又は100μMの場合、GT1c単独で濃度が100μMの場合、及びGM1bとGT1cとをいずれも100μMの濃度で併用した場合について、実験例18-1、実験例18-2と同様にした。
[結果]
結果を
図19に示す。
図19中のa、bは、それぞれ実験例18-2、実験例18-1の蛍光像である。
図19中のbは、GM1b濃度が100 μMの場合である。抗CD44抗体の蛍光像の一部(白線で囲んだ部分)について、テトラメチルローダミンの蛍光像と抗CD44抗体の蛍光像とを合成したものがMergedで示される蛍光像である。
図19中のcは、aのMergedで示される蛍光像における白線(スケールバーを示す白線ではない方の白線。)の左から右へ、bのMergedで示される蛍光像における白線(スケールバーを示す白線ではない方の白線。)の左上から右下へ沿った、テトラメチルローダミンの蛍光強度とAlexa Fluor(登録商標)488の蛍光強度とを示すグラフである。テトラメチルローダミンの蛍光強度は部分ペプチドp6のOV2944細胞への結合を示す。Alexa Fluor(登録商標)488の蛍光強度はコントロールとしてのCD44の存在を示し、形質膜の位置を表す。該グラフから、GM1bが培地中に存在する場合、部分ペプチドp6のOV2944細胞への結合、特に形質膜への結合能に顕著な減少が見られた。この結果より、該部分ペプチドp6が培地中のGM1bと結合し、OV2944細胞膜上のGM1bとの結合が消失したことが示唆された。さらに、
図19中のdより、GT1cの存在に関わらず部分ペプチドp6のOV2944細胞への結合能は変化しないことから、部分ペプチドp6は、OV2944細胞の形質膜上で、GT1cではなく、GM1bと結合することが示された。
【0063】
(部分ペプチドp6によるErk1/2シグナリングの抑制)
[実験例19-1]
培養中のOV2944細胞に部分ペプチドp6を添加した後(終濃度5μM)、経時的(0、5、15、30分)に電気泳動用ローディングバッファーを添加し反応を停止させた。OV2944細胞を抽出し超音波処理した後、ウエスタンブロットにより、Erk1/2の活性度を解析した。抗体は、リン酸化状態(つまり活性化状態)のErk1/2タンパク質(pErk1/2)に対する抗体(Cell signalling 社)、またはリン酸化状態および脱リン酸化状態を含めたトータルのErk1/2タンパク質(Erk1/2)に対する抗体(Santa Cruz社)を用いた。ウエスタンブロット像におけるpErk1/2とErk1/2の比(pErk/Erk)を計算し、時刻0のときの値を1として、各データを正規化した。
[結果]
結果を
図20に示す。
図20中のaは、pErk抗体またはErk抗体ウエスタンブロット解析をしたものである。
図20中のbは、ウエスタンブロットの結果を定量化し、Erkの活性化の経時的変化を解析したものである。
図20中のbの時刻0の時点が培養時の定常状態に相当することより、部分ペプチドp6のみの刺激により(GM1b非存在下)、Erk1/2の活性が抑制されることが分かった。一方、部分ペプチドp6およびGM1bが存在する場合では、部分ペプチドp6は細胞膜上GM1bには結合できず、Erkの抑制作用が消失することが分かった。したがって、部分ペプチドp6はOV2944細胞上のGM1bへの結合を介して、OV2944細胞のErk1/2の活性化を抑制し、細胞の移動能、転移能を低下させることが示唆された。