特表-19107568IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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再表2019-107568プログラム可能な遺伝子発現システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2019年6月6日
【発行日】2021年1月14日
(54)【発明の名称】プログラム可能な遺伝子発現システム
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20201211BHJP
   C12Q 1/48 20060101ALI20201211BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20201211BHJP
【FI】
   C12M1/00 AZNA
   C12Q1/48 Z
   C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】68
【出願番号】特願2019-556767(P2019-556767)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2018年11月30日
(31)【優先権主張番号】特願2017-232193(P2017-232193)
(32)【優先日】2017年12月1日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2018-135358(P2018-135358)
(32)【優先日】2018年7月18日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】517422135
【氏名又は名称】多田隈 尚史
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100179039
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 洋介
(72)【発明者】
【氏名】多田隈 尚史
(72)【発明者】
【氏名】増渕 岳也
(72)【発明者】
【氏名】原田 慶恵
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029AA21
4B029BB15
4B029BB20
4B029CC02
4B029CC03
4B029FA12
4B029FA15
4B029GB02
4B029GB06
4B063QA01
4B063QA20
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QQ79
4B063QR08
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】
本発明の目的は、十分にクロストークが抑えられた制御された遺伝子発現を行うことができる、環境を感知するセンサーの材料的制約が極めて低減された遺伝子回路用デバイス、及び該デバイスを含む遺伝子回路を提供することにある。本発明は、触媒、標的遺伝子、及び形状変化要素を有して構成される開閉機構を有し、該触媒が、該標的遺伝子と接触することで標的遺伝子の発現を誘導するように構成されている遺伝子回路用デバイス等に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子回路用のデバイスであって、前記デバイスは:
触媒、標的遺伝子、及び形状変化要素を有して構成される開閉機構を有し、
前記触媒は、前記標的遺伝子と接触することで前記標的遺伝子の発現を誘導するものであり、
前記形状変化要素は、第1部位と第2部位を有し、かつ、活性化源の作用によって、前記第1部位と第2部位との間の距離が変化する構造を有するものであり、
前記開閉機構は、前記形状変化要素を可動部として有し、前記形状変化要素の第1部位と第2部位との間の距離の変化に応じて、前記標的遺伝子と前記触媒とが相対的に近づいて接するか、又は接触状態から相対的に離れる開閉動作を実行するように構成されている、前記デバイス。
【請求項2】
前記デバイスが、ベース部材をさらに有し、
前記触媒及び標的遺伝子のいずれか一方が、前記ベース部材に固定され、他方が可動部における形状変化要素の第1部位の側に固定され、
可動部における形状変化要素の第2部位の側は、前記ベース部材に固定され、
前記形状変化要素の第1部位と第2部位との間の距離の増大によって、触媒と標的遺伝子とが相対的に近づいて接するように若しくは接触状態から相対的に離れるように、前記開閉機構が構成されているか、又は
前記形状変化要素の第1部位と第2部位との間の距離の減少によって、前記触媒と標的遺伝子とが相対的に近づいて接するように若しくは接触状態から相対的に離れるように、前記開閉機構が構成されている
請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記デバイスが、ベース部材をさらに有し、かつ、互いに独立した第1の可動部としての第1の形状変化要素と、第2の可動部としての第2の形状変化要素を有し、
前記触媒が、第1の可動部における第1の形状変化要素の第1部位の側に固定され、
前記標的遺伝子が、第2の可動部における第2の形状変化要素の第1部位の側に固定され、
第1及び第2の可動部における各形状変化要素の第2部位の側が、前記ベース部材に固定され、
各形状変化要素の第1部位と第2部位との間の距離の増大によって、前記触媒と標的遺伝子とが相対的に近づいて接するように若しくは接触状態から相対的に離れるように、前記開閉機構が構成されているか、又は
各形状変化要素の第1部位と第2部位との間の距離の減少によって、前記触媒と標的遺伝子とが相対的に近づいて接するように若しくは接触状態から相対的に離れるように、前記開閉機構が構成されている、
請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記デバイスが、可撓性を有するベース部材をさらに有し、
前記ベース部材に前記触媒と標的遺伝子とが配置されており、前記形状変化要素の第1部位と第2部位が前記ベース部材に固定され、第1部位と第2部位との間の距離の減少、又は増大が前記ベース部材を変形させ、前記ベース部材の変形によって触媒と標的遺伝子とが相対的に近づいて接するか、又は接触状態から相対的に離れるように、前記開閉機構が構成されている、
請求項1に記載のデバイス。
【請求項5】
前記可動部が、互いに接続されたn個の形状変化要素を有し、ここで、nは2以上の整数であり、
前記n個の形状変化要素のうちの少なくとも1個の形状変化要素の第1部位と第2部位との間の距離が変化したときに、前記標的遺伝子と前記触媒とが相対的に近づいて接するか、又は接触状態から相対的に離れるように構成されている、
請求項1〜3のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項6】
前記n個の形状変化要素のうちの全ての形状変化要素のそれぞれの第1部位と第2部位との間の距離が変化したときに、前記標的遺伝子と前記触媒とが相対的に近づいて接するか、又は接触状態から相対的に離れるように構成されている、請求項5に記載のデバイス。
【請求項7】
前記可動部が、互いに接続されたn個の形状変化要素を有し、ここで、nは3以上の整数であり、
前記n個の形状変化要素のうちの半数以上の形状変化要素のそれぞれの第1部位と第2部位との間の距離が変化したときに、前記標的遺伝子と前記触媒とが相対的に近づいて接するか、又は接触状態から相対的に離れるように構成されている、
請求項1〜3のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項8】
前記触媒及び標的遺伝子のいずれか一方が前記ベース部材の第1アンカー部に固定され、他方が可動部における形状変化要素の第1部位の側にある第1固定部に固定され、
可動部における形状変化要素の第2部位の側にある第2固定部が、前記ベース部材の第2アンカー部に固定され、
可動部の第1固定部と第2固定部との間には第3固定部が設けられ、ベース部材には、可動部の第3固定部が届く位置に第3アンカー部が設けられ、
第3アンカー部と第3固定部は、互いに結合可能であるようにそれぞれ構成されている、
請求項2に記載のデバイス。
【請求項9】
前記第3アンカー部が、前記第1アンカー部と第2アンカー部との間に位置する、請求項8に記載のデバイス。
【請求項10】
前記第3アンカー部と第3固定部は、結合用の活性化源の作用によって互いに結合可能である、請求項8又は9に記載のデバイス。
【請求項11】
前記第3固定部が前記第3アンカー部に結合した場合に、前記第3アンカー部と前記第3固定部とは、解放用の活性化源の作用によって互いに離脱可能である、請求項8又は9に記載のデバイス。
【請求項12】
前記可動部が、接続された複数の形状変化要素を有し、前記第3固定部が、複数の形状変化要素同士の間に位置する、請求項8〜11のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項13】
前記触媒及び標的遺伝子のいずれか一方が前記ベース部材の第1アンカー部に固定され、他方が可動部における形状変化要素の第1部位の側にある第1固定部に固定され、
可動部における形状変化要素の第2部位の側にある第2固定部が、前記ベース部材の第2アンカー部に固定され、
ベース部材には第3アンカー部が設けられ、可動部の第1固定部と第2固定部との間には第3固定部が設けられ、
第3アンカー部と第3固定部とは、解放用の活性化源の作用によって互いに離脱可能に結合されており、
ベース部材における第3アンカー部の位置は、第1固定部が第1アンカー部に届かないように選択されており、解放用の活性化源の作用によって第3アンカー部と第3固定部とが互いに離脱した場合に、第1固定部が第1アンカー部に届きそれにより前記標的遺伝子と前記触媒とが相対的に近づいて接するように構成されている、
請求項2に記載のデバイス。
【請求項14】
前記触媒及び標的遺伝子のいずれか一方が前記ベース部材の第1アンカー部に固定され、他方が可動部における形状変化要素の第1部位の側にある第1固定部に固定され、
可動部における形状変化要素の第2部位の側にある第2固定部が、前記ベース部材の第2アンカー部に固定され、
ベース部材には第3アンカー部が設けられ、可動部の第1固定部と第2固定部との間には第3固定部が設けられ、
第3アンカー部と第3固定部とは、解放用の活性化源の作用によって互いに離脱可能に結合されており、
ベース部材における第3アンカー部の位置は、第1アンカー部と第3アンカー部との間の距離が、第1固定部と第3固定部との間の距離に等しいか長くなるように選択され、それにより、前記標的遺伝子と前記触媒とが接するように構成されている、
請求項2に記載のデバイス。
【請求項15】
前記解放用の活性化源の作用によって第3アンカー部と第3固定部とが互いに離脱した場合に、形状変化要素の第1部位と第2部位との間の距離の変化によって、第1固定部から第2固定部までの距離が、第1アンカー部から第2アンカー部までの距離よりも短くなるか又は長くなる、
請求項14に記載のデバイス。
【請求項16】
前記ベース部材が、DNA、RNA、人工核酸、ペプチド、タンパク質、若しくはポリマー、又はそれらの組み合わせからなるナノ構造物である、請求項2〜4及び請求項8〜15のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項17】
前記触媒が、RNAポリメラーゼ、DNAポリメラーゼ、人工核酸ポリメラーゼ、又はポリマー合成酵素であり、前記形状変化要素が核酸、人工核酸、又はポリマーであり、前記活性化源が、miRNA、RNA、DNA、人工核酸、ポリマーLacIタンパク質、IPTG(Isopropyl β−D−1−thiogalactopyranoside)化合物、Ampicillin抗生物質、又は光である、請求項1〜16のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか1項に記載のデバイスを1以上有し、前記1以上のデバイスの開閉機構によって論理演算を行うよう構成された論理回路を有する、遺伝子回路。
【請求項19】
下記(I)の論理回路及び下記(II)の論理回路のうちの、一方又は両方を有する、請求項18に記載の遺伝子回路。
(I)上記1以上のデバイスによって構成された、ONスイッチ、OFFスイッチ、ON/OFF切り替えスイッチ、ANDスイッチ、ORスイッチ、NANDスイッチ、NORスイッチ、及びMAJORITYスイッチから選ばれる1以上のスイッチを有する論理回路
(II)上記1以上のデバイスによって構成された、ONスイッチ、OFFスイッチ、ON/OFF切り替えスイッチ、ANDスイッチ、ORスイッチ、NANDスイッチ、NORスイッチ、及びMAJORITYスイッチから選ばれる2以上のスイッチの組み合わせを有する論理回路
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プログラム可能な遺伝子発現システムに関し、具体的には、遺伝子回路用のデバイス、該デバイスを含む遺伝子回路に関する。
【背景技術】
【0002】
合成生物学において、遺伝子発現の調節は、基本的なゴールである。遺伝子発現の調節において鍵となるステップは、環境を感知し、情報を演算し、結果を出力することである。そのような機能を得るためには、労力をかけて触媒と基質遺伝子とを組み合わせたネットワークを構築する必要がある。
【0003】
従来の遺伝子回路における遺伝子発現システムでは、関連する因子(触媒や基質)が、溶液中を自由に漂う反応拡散系を基にしており、生化学反応が起こるためには、拡散によって互いに見つけ合う必要がある。従って、このシステムには、(1)生化学反応が、触媒、基質及び他の成分の濃度に依存する、及び(2)触媒と基質の非特異的結合が、遺伝子回路間のクロストークを引き起こすという、2つの大きな欠点がある。そのため、有用な遺伝子回路を開発するためには、構成要素の濃度及び活性の微調整という大変労力と時間のかかる試みが必要であり、複数の直交する遺伝子反応を構築する際の限界に繋がっていた。また、反応速度は触媒と基質の衝突頻度に依存するため、触媒と基質の濃度が低い場合には、反応速度の低下がみられ、多段階反応の制限に繋がる。さらに、従来の遺伝子回路では、遺伝子発現の調節において鍵となる環境を感知するセンサーが、触媒の基質である必要があり、該センサーに使用できる材料が極めて制限されるという問題もあった。非特許文献1では、これらの問題を解決するために、半導体設計の手法を用い、自動設計の手法を導入したが、非特異相互作用を排除できない為、複雑度に限界があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Nielsen et al., Science. 352, aac7341, 2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の遺伝子回路における遺伝子発現システムが有する、(1)生化学反応が、触媒、基質及び他の成分の濃度に依存する、及び(2)触媒と基質の非特異的結合が、遺伝子回路間のクロストークを引き起こすという2つの大きな欠点を克服することができる、環境を感知するセンサーの材料的制約が極めて低減された新たな遺伝子回路用のデバイス、及び該デバイスを含む遺伝子回路を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記(1)及び(2)の欠点を克服するために、触媒と基質間の分子間距離を制御することに着目し、その制御方法について検討した。鋭意研究を行った結果、伸縮動作や、展開・折り畳み動作を行わせることが可能であるリンカーを用いることで、触媒と基質間の分子間距離が制御でき、その結果、両者の接触頻度が制御され、クロストークの発生が抑えられた適切な遺伝子発現を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。また、リンカーを用いて触媒と基質の分子間距離を制御する手法を見出したため、環境を検知するセンサーが触媒の基質である必要性がなくなり、材料の制約を著しく低減させることにも成功した。さらに、本発明者らは、触媒と基質間の分子間距離を任意に変更することで、論理演算を変更する方法も見出し、再プログラミングという機能を付加することにも成功した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
[1]遺伝子回路用のデバイスであって、前記デバイスは:
触媒、標的遺伝子、及び形状変化要素を有して構成される開閉機構を有し、
前記触媒は、前記標的遺伝子と接触することで前記標的遺伝子の発現を誘導するものであり、
前記形状変化要素は、第1部位と第2部位を有し、かつ、活性化源の作用によって、前記第1部位と第2部位との間の距離が変化する構造を有するものであり、
前記開閉機構は、前記形状変化要素を可動部として有し、前記形状変化要素の第1部位と第2部位との間の距離の変化に応じて、前記標的遺伝子と前記触媒とが相対的に近づいて接するか、又は接触状態から相対的に離れる開閉動作を実行するように構成されている、前記デバイス。
[2]前記デバイスが、ベース部材をさらに有し、
前記触媒及び標的遺伝子のいずれか一方が、前記ベース部材(の1つの面上)に固定され、他方が可動部における形状変化要素の第1部位の側に固定され、
可動部における形状変化要素の第2部位の側は、前記ベース部材(の前記面)に固定され、
前記形状変化要素の第1部位と第2部位との間の距離の増大によって、触媒と標的遺伝子とが相対的に近づいて接するように若しくは接触状態から相対的に離れるように、前記開閉機構が構成されているか、又は
前記形状変化要素の第1部位と第2部位との間の距離の減少によって、前記触媒と標的遺伝子とが相対的に近づいて接するように若しくは接触状態から相対的に離れるように、前記開閉機構が構成されている
[1]に記載のデバイス。
[3]前記デバイスが、ベース部材をさらに有し、かつ、互いに独立した第1の可動部としての第1の形状変化要素と、第2の可動部としての第2の形状変化要素を有し、
前記触媒が、第1の可動部における第1の形状変化要素の第1部位の側に固定され、
前記標的遺伝子が、第2の可動部における第2の形状変化要素の第1部位の側に固定され、
第1及び第2の可動部における各形状変化要素の第2部位の側が、前記ベース部材(の1つの面上に互いに離れて)に固定され、
各形状変化要素の第1部位と第2部位との間の距離の増大によって、前記触媒と標的遺伝子とが相対的に近づいて接するように若しくは接触状態から相対的に離れるように、前記開閉機構が構成されているか、又は
各形状変化要素の第1部位と第2部位との間の距離の減少によって、前記触媒と標的遺伝子とが相対的に近づいて接するように若しくは接触状態から相対的に離れるように、前記開閉機構が構成されている、
[1]に記載のデバイス。
[4]前記デバイスが、可撓性を有する(シート状の)ベース部材をさらに有し、
前記(シート状の)ベース部材(の1つの面上、一方の面上、又はある面上)に前記触媒と標的遺伝子とが(互いに離れて)配置されており、前記形状変化要素の第1部位と第2部位が(前記シート状の)ベース部材(の互いに同じ面上に互いに離れて)に固定され、第1部位と第2部位との間の距離の減少、又は増大が(前記シート状の)ベース部材を変形させ、(前記シート状の)ベース部材の変形によって触媒と標的遺伝子とが相対的に近づいて接するか、又は接触状態から相対的に離れるように、前記開閉機構が構成されている、
[1]に記載のデバイス。
[5]前記可動部が、互いに接続されたn個の形状変化要素を有し、ここで、nは2以上の整数であり、
前記n個の形状変化要素のうちの少なくとも1個の形状変化要素の第1部位と第2部位との間の距離が変化したときに、前記標的遺伝子と前記触媒とが相対的に近づいて接するか、又は接触状態から相対的に離れるように構成されている、
[1]〜[3]のいずれかに記載のデバイス。
[6]前記n個の形状変化要素のうちの全ての形状変化要素のそれぞれの第1部位と第2部位との間の距離が変化したときに、前記標的遺伝子と前記触媒とが相対的に近づいて接するか、又は接触状態から相対的に離れるように構成されている、[5]に記載のデバイス。
[7]前記可動部が、互いに接続されたn個の形状変化要素を有し、ここで、nは3以上の整数であり、
前記n個の形状変化要素のうちの半数以上の形状変化要素のそれぞれの第1部位と第2部位との間の距離が変化したときに、前記標的遺伝子と前記触媒とが相対的に近づいて接するか、又は接触状態から相対的に離れるように構成されている、
[1]〜[3]のいずれかに記載のデバイス。
[8]前記触媒及び標的遺伝子のいずれか一方が前記ベース部材(の1つの面上)の第1アンカー部に固定され、他方が可動部における形状変化要素の第1部位の側にある第1固定部に固定され、
可動部における形状変化要素の第2部位の側にある第2固定部が、前記ベース部材の(前記面上の)第2アンカー部に固定され、
可動部の第1固定部と第2固定部との間には第3固定部が設けられ、ベース部材(の前記面上)には、可動部の第3固定部が届く位置に第3アンカー部が設けられ、
第3アンカー部と第3固定部は、互いに結合可能であるようにそれぞれ構成されている、
[2]に記載のデバイス。
[9]前記第3アンカー部が、前記第1アンカー部と第2アンカー部との間に位置する、[8]に記載のデバイス。
[10]前記第3アンカー部と第3固定部は、結合用の活性化源の作用によって互いに結合可能である、[8]又は[9]に記載のデバイス。
[11]前記第3固定部が前記第3アンカー部に結合した場合に、前記第3アンカー部と前記第3固定部とは、解放用の活性化源の作用によって互いに離脱可能である、[8]又は[9]に記載のデバイス。
[12]前記可動部が、(直列状に)接続された複数の形状変化要素を有し、前記第3固定部が、複数の形状変化要素同士の間に位置する、[8]〜[11]のいずれかに記載のデバイス。
[13]前記触媒及び標的遺伝子のいずれか一方が前記ベース部材(の1つの面上)の第1アンカー部に固定され、他方が可動部における形状変化要素の第1部位の側にある第1固定部に固定され、
可動部における形状変化要素の第2部位の側にある第2固定部が、前記ベース部材(の前記面上)の第2アンカー部に固定され、
ベース部材(の前記面上)には第3アンカー部が設けられ、可動部の第1固定部と第2固定部との間には第3固定部が設けられ、
第3アンカー部と第3固定部とは、解放用の活性化源の作用によって互いに離脱可能に結合されており、
ベース部材(の前記面上)における第3アンカー部の位置は、第1固定部が第1アンカー部に届かないように選択されており、解放用の活性化源の作用によって第3アンカー部と第3固定部とが互いに離脱した場合に、第1固定部が第1アンカー部に届きそれにより前記標的遺伝子と前記触媒とが相対的に近づいて接するように構成されている、
前記[2]に記載のデバイス。
[14]前記触媒及び標的遺伝子のいずれか一方が前記ベース部材(の1つの面上)の第1アンカー部に固定され、他方が可動部における形状変化要素の第1部位の側にある第1固定部に固定され、
可動部における形状変化要素の第2部位の側にある第2固定部が、前記ベース部材の(前記面上の)第2アンカー部に固定され、
ベース部材(の前記面上)には第3アンカー部が設けられ、可動部の第1固定部と第2固定部との間には第3固定部が設けられ、
第3アンカー部と第3固定部とは、解放用の活性化源の作用によって互いに離脱可能に結合されており、
ベース部材(の前記面上)における第3アンカー部の位置は、第1アンカー部と第3アンカー部との間の距離が、第1固定部と第3固定部との間の距離に等しいか長くなるように選択され、それにより、前記標的遺伝子と前記触媒とが接するように構成されている、前記[2]に記載のデバイス。
[15]前記解放用の活性化源の作用によって第3アンカー部と第3固定部とが互いに離脱した場合に、形状変化要素の第1部位と第2部位との間の距離の変化によって、第1固定部から第2固定部までの距離が、第1アンカー部から第2アンカー部までの距離よりも短くなるか又は長くなる、
前記[14]に記載のデバイス。
[16]前記ベース部材が、DNA、RNA、人工核酸、ペプチド、タンパク質、若しくはポリマー、又はそれらの組み合わせからなるナノ構造物である、[2]〜[4]及び[8]〜[15]のいずれかに記載のデバイス。
[17]前記触媒が、RNAポリメラーゼ、DNAポリメラーゼ、人工核酸ポリメラーゼ、又はポリマー合成酵素であり、前記形状変化要素が核酸、人工核酸、又はポリマーであり、前記活性化源が、miRNA、RNA、DNA、人工核酸、ポリマーLacIタンパク質、IPTG(Isopropyl β−D−1−thiogalactopyranoside)化合物、Ampicillin抗生物質、又は光である、[1]〜[16]のいずれかに記載のデバイス。
[18][1]〜[17]のいずれかに記載のデバイスを1以上有し、前記1以上のデバイスの開閉機構によって論理演算を行うよう構成された論理回路を有する、遺伝子回路。
[19]下記(I)の論理回路及び下記(II)の論理回路のうちの、一方又は両方を有する、[18]に記載の遺伝子回路。
(I)上記1以上のデバイスによって構成された、ONスイッチ、OFFスイッチ、ON/OFF切り替えスイッチ、ANDスイッチ、ORスイッチ、NANDスイッチ、NORスイッチ、及びMAJORITYスイッチから選ばれる1以上のスイッチを有する論理回路
(II)上記1以上のデバイスによって構成された、ONスイッチ、OFFスイッチ、ON/OFF切り替えスイッチ、ANDスイッチ、ORスイッチ、NANDスイッチ、NORスイッチ、及びMAJORITYスイッチから選ばれる2以上のスイッチの組み合わせを有する論理回路
【発明の効果】
【0008】
本発明のデバイスは、触媒と標的遺伝子との互いの位置関係又は接触関係を制御し得るよう構成された開閉機構を有することを特徴とする。該開閉機構は、
(i)互いに離れた状態(開状態)にある触媒と標的遺伝子とを互いに近づけて接触させる動作(即ち、開いた回路を閉じる閉動作)を行うように構成されているか、又は、
(ii)互いに接触した状態(閉状態)にある触媒と標的遺伝子とを切り離す動作(即ち、閉じた回路を開く開動作)を行うように構成されている。
触媒と標的遺伝子とを互いに近づけて接触させる動作には、両者の接触を完了させる動作のみならず、両者が接触する確率をより高くする動作が含まれる。また、互いに接触した状態にある触媒と標的遺伝子とを切り離す動作には、互いに接触する確率が高い状態にある触媒と標的遺伝子に対して、両者が接触する確率をより低くする動作が含まれる。
開閉機構の前記(i)、(ii)の閉動作と開動作(開閉動作)を達成するための可動部(駆動源)として、本発明では1以上の形状変化要素を用いている。
【0009】
形状変化要素は、第1の部位と第2の部位を有し、典型的な例であるステムループ構造のように、(例えば、外部から加えられる)活性化源の作用によって、第1部位と第2部位との間の距離が変化する構造を有するものである。第1部位と第2部位との間の距離の変化は、形状変化要素の伸縮動作による距離の増減であってもよいし、形状変化要素の展開/折り畳み動作による距離の増減であってもよい。例えば、ステムループ構造の場合には、その両端部(即ち、ステムの2つの直線部分のそれぞれの基端部)だけに着目すると、該両端部同士の間の距離が単純に増減すると解することもできるし、また、ステムループ構造全体の形態に着目すると、ステムループ構造全体の展開と折り畳み動作によって、該両端部同士の間の距離が増減すると解することもできる。
形状変化要素は、複数連なって1つの可動部を構成していてもよい。また、当該デバイスは、2以上の可動部を有していてもよい。1つのデバイス中に複数の形状変化要素が含まれている場合、それら複数の形状変化要素を1つの可動部と見なすか、任意の複数の可動部と見なすかは、各形状変化要素の動作、意図された目的、便宜上のグループ分けなどに応じて、適宜定めることができる。
【0010】
形状変化要素は、例えば、RNAにおけるステムループ構造のように全体の形状が変化し得る要素であってもよいし、その一端又は両端にさらにアーム部がつながった要素であってもよい。以下、前記ステムアンドループ構造のような全体の形状が変化し得る要素をセンサー部と呼び、形状の変化に寄与しないアーム部と区別する。よって、形状変化要素の態様としては、センサー部単独の態様、センサー部の片端にアーム部が接続された態様、センサー部の両端にそれぞれにアーム部が接続された態様などが挙げられる。
形状変化要素の第1部位と第2部位は、典型的な例では、センサー部の両端の部位が挙げられるが、アーム部を含んだ形状変化要素中の任意の2つの部位であってもよく、(例えば、外部から加えられる)活性化源の作用によって、それら2つの部位の間の距離が変化し得るように選択された部位であればよい。
【0011】
開閉機構は、可動部である形状変化要素の第1部位と第2部位との間の距離が変化することを利用して、触媒と標的遺伝子とを開閉するための種々の構成を有する機構として構築され得る。
例えば、形状変化要素の第1部位と第2部位は、互いの間の距離が増減するだけでなく、ステムループ構造におけるステム部分の2つの基端部のように、互いに接触し離れることが可能である。よって、そのような互いに接触し離れることが可能な形状変化要素では、該形状変化要素の第1部位に触媒を付与し、第2部位に標的遺伝子を付与すれば、触媒と標的遺伝子との間の開閉動作が得られる。また、形状変化要素の第1部位と第2部位とが互いに直接的に接触し得ず、単に両者の間の距離が増減するだけの関係にある場合であっても、この距離の増減を利用して、例えば、バイメタル構造のように、触媒と標的遺伝子とを開閉する構成を構築することができる。
また、形状変化要素の第1部位と第2部位とが互いに直接的に接触し得ず、単に両者の間の距離が増減するだけの関係にある場合、第1部位をあるベース部材の面上の基準位置に固定すれば、第2部位と該基準位置との間の距離が増減する。よって、第2部位に触媒(又は標的遺伝子)を付与し、前記基準位置から所定の距離に存在する他の位置に標的遺伝子(又は触媒)を付与すれば、形状変化要素の第1部位と第2部位との間の距離の増減に応じて、触媒と標的遺伝子とを接触させまた離脱させることが可能になる(触媒と標的遺伝子とが接触する確率を増減することが可能になることも含まれる)。前記したベース部材の基準位置と、そこから所定の距離に存在する他の位置は、共に同じ1つのベース部材上の2点であってもよいし、互いに所定の位置関係にある2つの部材上のそれぞれの1点であってもよい。
【0012】
本発明の好ましい態様では、当該デバイスはベース部材を有する。本態様では、触媒(標的遺伝子でもよい)がベース部材の1つの面上に固定され、標的遺伝子(触媒でもよい)が可動部における形状変化要素の第1部位の側に固定される。また、可動部における形状変化要素の第2部位の側が、前記ベース部材の前記面上に固定される。これにより、例えば、可動部全体が短いために、触媒と標的遺伝子とが互いに離れている場合、形状変化要素の第1部位と第2部位との間の距離の増大によって、触媒と標的遺伝子とを近づけて接触させることができる。また、触媒と標的遺伝子とが互いに接触している場合、形状変化要素の第1部位と第2部位との間の距離(以下、形状変化要素の長さともいう)の増大によって、触媒と標的遺伝子との接触を解除することができる。逆に、可動部全体が長過ぎるために、触媒と標的遺伝子とが互いに離れている場合、形状変化要素の長さの減少によって、触媒と標的遺伝子とを近づけて接触させることができる。また、触媒と標的遺伝子とが互いに接触している場合、形状変化要素の長さの減少によって、触媒と標的遺伝子とを引き離すことができる。
【0013】
本発明の好ましい態様では、当該デバイスはベース部材を有し、かつ、互いに独立した2つの可動部(第1の可動部、第2の可動部)を有する。本態様では、触媒が、第1の可動部における第1の形状変化要素の第1部位の側に固定され、標的遺伝子が、第2の可動部における第2の形状変化要素の第1部位の側に固定される。一方、各形状変化要素の第2部位の側は、ベース部材の1つの面上に互いに離れて固定される。これにより、例えば、両方の可動部全体がそれぞれ短いために、触媒と標的遺伝子とが互いに離れている場合、形状変化要素の長さの増大によって、触媒と標的遺伝子とを近づけて接触させることができる。また、触媒と標的遺伝子とが互いに接触している場合、形状変化要素の長さの増大によって、触媒と標的遺伝子との接触を解除することができる。逆に、両方の可動部全体がそれぞれ長過ぎるために、触媒と標的遺伝子とが互いに離れている場合、形状変化要素の長さの減少によって、触媒と標的遺伝子とを近づけて接触させることができる。また、触媒と標的遺伝子とが互いに接触している場合、形状変化要素の長さの減少によって、触媒と標的遺伝子とを引き離すことができる。
【0014】
本発明の好ましい態様では、当該デバイスは、可撓性を有するベース部材を有する。該ベース部材の1つの面(第1面)に触媒と標的遺伝子とが互いに離れて配置される。そして、該ベース部材の1つの面又はその他の面(第2面)には、形状変化要素の第1部位と第2部位が同じ面上に互いに離れて固定される。これにより、例えば、触媒と標的遺伝子と形状変化要素とがベース部材の同じ面(例えば、第1面)に配置される場合、形状変化要素の長さが減少すると、ベース部材は湾曲し、同じ面上の触媒と標的遺伝子とを近づけて接触させることができ、形状変化要素の長さが増大すると、湾曲が解除されるか、逆に反り、触媒と標的遺伝子とを引き離すことができる。一方、触媒と標的遺伝子とがベース部材の第1面に配置され、形状変化要素が裏面である第2面に配置される場合、形状変化要素の長さが減少すると、ベース部材は変化し、第1面の側にある触媒と標的遺伝子とを引き離すことができ、形状変化要素の長さが増大すると、シート状のベース部材は逆に変化し、触媒と標的遺伝子とを近づけて接触させることができる。
【0015】
上記本発明の好ましい態様に含まれるより具体的な態様として、例えば、可撓性を有するベース部材は、シート状のベース部材である。該シート状のベース部材の一方の面(第1面)に触媒と標的遺伝子とが互いに離れて配置される。そして、該シート状のベース部材の第1面又はその裏面(第2面)には、形状変化要素の第1部位と第2部位が同じ面上に互いに離れて固定される。これにより、例えば、触媒と標的遺伝子と形状変化要素とがベース部材の同じ面(例えば、第1面)に配置される場合、形状変化要素の長さが減少すると、シート状のベース部材は湾曲し、同じ面上の触媒と標的遺伝子とを近づけて接触させることができ、形状変化要素の長さが増大すると、湾曲が解除されるか、逆に反り、触媒と標的遺伝子とを引き離すことができる。一方、触媒と標的遺伝子とがベース部材の第1面に配置され、形状変化要素が裏面である第2面に配置される場合、形状変化要素の長さが減少すると、シート状のベース部材は湾曲し、第1面の側にある触媒と標的遺伝子とを引き離すことができ、形状変化要素の長さが増大すると、シート状のベース部材は逆に湾曲し、触媒と標的遺伝子とを近づけて接触させることができる。
【0016】
本発明の好ましい態様では、当該デバイスはベース部材を有し、触媒(標的遺伝子でもよい)がベース部材の1つの面上の第1アンカー部に固定され、標的遺伝子(触媒でもよい)が可動部における形状変化要素の第1部位の側にある第1固定部に固定され、可動部における形状変化要素の第2部位の側にある第2固定部が、前記ベース部材の前記面上の第2アンカー部に固定される。さらに、可動部の第1固定部と第2固定部との間には第3固定部が設けられ、ベース部材の前記面上には、可動部の第3固定部が届く位置に第3アンカー部が設けられる。ベース部材の第3アンカー部と、可動部の第3固定部とは、互いに結合可能である。これにより、第3アンカー部が第3固定部に結合しない状態では、可動部全体の動作の固定端部は第2固定部であるが、第3アンカー部が第3固定部に結合すると、可動部全体の動作の固定端部は第3固定部へと移る。この固定端部の移動により、(例えば、可動部全体のうち、自由に動くことができる部分の長さが短くなり、可動部の動作範囲が制限され、)触媒と標的遺伝子とが接触する確率をより高めることが可能になる。
また、可動部が複数の形状変化要素を有する場合、それら形状変化要素同士の間に第3固定部を設ければ、触媒と標的遺伝子との開閉のために作動させるべき形状変化要素を別の形状変化要素へと変化させることも可能になる。触媒と標的遺伝子との開閉という出力に対して、形状変化要素が変化するということは、入力の条件の変化を意味し、それは、1つの回路における入出力の論理の変化を意味する。
【0017】
本発明の好ましい態様では、当該デバイスはベース部材を有し、触媒(標的遺伝子でもよい)がベース部材の1つの面上の第1アンカー部に固定され、標的遺伝子(触媒でもよい)が可動部における形状変化要素の第1部位の側にある第1固定部に固定され、可動部における形状変化要素の第2部位の側にある第2固定部が、前記ベース部材の前記面上の第2アンカー部に固定される。さらに、ベース部材の前記面上には第3アンカー部が設けられ、可動部の第1固定部と第2固定部との間には第3固定部が設けられる。第3アンカー部と第3固定部とは、解放用の活性化源の作用によって互いに離脱可能に結合されており、かつ、ベース部材の前記面上における第3アンカー部の位置は、第1固定部が第1アンカー部に届かないように選択されている。これにより、解放用の活性化源の作用によって第3アンカー部と第3固定部とが互いに離脱した場合に、第1固定部が第1アンカー部に届くことができ、標的遺伝子と触媒とが相対的に近づいて接することができる。この動作は、最初OFFであったスイッチが、解放用の活性化源の作用という入力によって、ONになる動作であるということができる。
【0018】
本発明の好ましい態様では、当該デバイスはベース部材を有し、触媒(標的遺伝子でもよい)がベース部材の1つの面上の第1アンカー部に固定され、標的遺伝子(触媒でもよい)が可動部における形状変化要素の第1部位の側にある第1固定部に固定され、可動部における形状変化要素の第2部位の側にある第2固定部が、前記ベース部材の前記面上の第2アンカー部に固定される。さらに、ベース部材の前記面上には第3アンカー部が設けられ、可動部の第1固定部と第2固定部との間には第3固定部が設けられる。第3アンカー部と第3固定部とは、解放用の活性化源の作用によって互いに離脱可能に結合されており、ベース部材の前記面上における第3アンカー部の位置は、第1アンカー部と第3アンカー部との間の距離が、第1固定部と第3固定部との間の距離に等しいか長くなるように選択される。これにより、第3アンカー部と第3固定部とが互いに結合された状態では、触媒と標的遺伝子とを高い確率で接触可能にし得るか、実際に接触させることができる。
この態様では、解放用の活性化源の作用によって、第3アンカー部と第3固定部とを互いに離脱させた場合に、可動部における自由に動くことができる部分の長さが長くなり、可動部の動作範囲の制限が解除され、触媒と標的遺伝子とが接触する確率をより低くすることが可能になる。また、第3アンカー部と第3固定部とを互いに離脱させ、かつ、形状変化要素の長さを変化させれば、第1固定部から第2固定部までの距離を、第1アンカー部から第2アンカー部までの距離よりも短くするか又は長くすることができる。これにより触媒と標的遺伝子とを接触状態から相対的に離れさせることができる。
【0019】
本発明のデバイスは、後述するように、ONスイッチ、OFFスイッチ、ON/OFF切り替えスイッチ、ANDスイッチ、ORスイッチ、NANDスイッチ、NORスイッチ、MAJORITYスイッチなど、種々のスイッチや論理スイッチとして機能する。よって、当該デバイスを1以上用い、及び/又は、2以上組み合わせることによって、種々の論理演算が行われるように構成された論理回路を有する遺伝子回路を提供することができる。当該遺伝子回路としては、例えば、前記のONスイッチ、OFFスイッチ、ON/OFF切り替えスイッチ、ANDスイッチ、ORスイッチ、NANDスイッチ、NORスイッチ、MAJORITYスイッチから選ばれる1以上のスイッチを含んだ回路や、さらにこれらのスイッチを2以上任意に組み合わせた種々の論理演算を行う回路が例示される(前記2以上のスイッチは、同じスイッチが重複的に選択されたものでもよい)。当該遺伝子回路は、用途に応じて、前記したスイッチや回路を任意に含んでいてもよい。
【0020】
本発明によれば、環境を感知するセンサーの材料的制約が極めて低減された新しい遺伝子回路用デバイス、及び該デバイスを含む遺伝子回路を提供し、十分にクロストークが抑えられた制御された遺伝子発現を行うことができる遺伝子回路として、例えば、遺伝子疾患の治療や、バイオマーカー検出、バイオ医薬の効率的合成のために利用されることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1A−Fは、T7チップの組立て及びその活性を示す。(図1A)SNAPリガンド・ハンドルを長方形のDNAオリガミタイルの特定の位置に導入し、SNAPfタンパク質を融合したT7RNAP(T7RNAPSNAPf)を加えた。DNAオリガミとT7RNAPSNAPfの複合体(T7チップ)を、トーホールド溶出法を用いた磁気ビーズで精製した。(図1B)サンプルを1%アガロースゲル電気泳動によって分離した。結合しなかったフリーのT7RNAPSNAPf(左のゲル(Cy5チャンネル)の矢じり)が見られたので、精製段階で除去した。右のゲルの矢印(Cy3チャンネル)は、長方形タイル(Rect−tile)の位置を示す。(図1C)12%ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)の結果でも、結合しなかったフリーT7RNAPSNAPf(矢じり)の除去を確認した。矢印は、結合したT7RNAPSNAPfの位置を示す。対照レーン(ctrl)はフリーのT7RNAPSNAPfの位置を示す。(図1D)T7チップのAFMイメージでは、T7RNAPSNAPfは、左下部に結合していた。結合率は95%(222/234タイル)であり、スケールバーは、20nmである。(図1E)T7チップの動態特性を評価する実験の模式図である。(図1F)T7チップ(下)の転写活性は、見かけのミカエリス・メンテン型であった。見かけのKm値(1010nM)は、自由拡散系のT7RNAPSNAPfよりも高く、溶液中では、自由拡散系の外来基質遺伝子に対して、より低い親和性を示した。また、Vmax値(34nt/s)は、自由拡散系のT7RNAPSNAPf(62nt/s)よりも低かった(速度は、10nMのT7RNAPに相当に変換した値)。これらの結果は、T7チップが外来基質遺伝子を転写しにくいことを示している。
図2図2A−Eは、遺伝子ナノチップ活性の特性及びその合理的設計を示す。(図2A)5つの遺伝子ナノチップの分子配置を示す。黒丸と黒四角は、それぞれT7RNAPSNAPfと標的遺伝子の位置を示す。スケールバーは50nmである。(図2B)5’末端(灰色丸)及び3’末端(黒丸)で結合させた遺伝子の転写活性を示す。エラーバーは、3回の独立した実験の標準偏差を示す。転写活性は、10nMのT7 RNAPに相当する値に変換した。(図2C)(左図)競合アッセイの模式図を示す。(右上図)4%尿素ポリアクリルアミドゲル電気泳動(Urea−PAGE)の結果を示す。Endoは、ナノチップに固定させたsfGFP遺伝子(942nt)の転写を、Exoは、自由拡散系の競合DHFR遺伝子(682nt)の転写を示す。アッセイを転写バッファー中で行い、そしてナノチップの濃度は約1nMであった。(右下図)Urea−PAGEデータの定量は、DNAオリガミのチップ内遺伝子の有効濃度が2μMより大きいことを示した。(図2D)(上図)T7遺伝子チップの模式図を示す。Pはプロモーター配列であり、Linkerは固定位置とプロモーター配列間の二本鎖リンカーDNAである。(下図)最適なT7RNAPSNAPfと遺伝子間の距離は、リンカー長に依存している。アッセイは、転写バッファー中で行った。転写活性は、10nMのT7RNAPに相当する値に変換した。(図2E)2遺伝子の発現比は、それぞれの遺伝子の分子配置を変更することで調節することができる。この実験においては、T7RNAPSNAPf(黒丸)とmCherry遺伝子(灰黒色長方形)の位置を固定し、sfGFP遺伝子(灰色長方形)の位置を変化させた。従って、標的遺伝子の分子比又はプロモーター配列を変更する比率制御の従来の方法(挿入図を参照)とは対照的に、ナノチップは同じ材料を使うが、分子配置を変更する。アッセイをPUREシステム中で行い、そしてナノチップの濃度は約1nMであった。反応時間は300、600、1800及び3600秒(5、10、30、60分)で、蛍光イメージを3600秒で取得した。
図3図3A−Bは、単一ナノチップが、人工細胞内で特定の遺伝子を発現できることを示す。(図3A)(左図)実験で用いたマイクロ流体装置を示す。人工細胞、すなわちPUREシステムを封入した油中水(w/o)滴を、空気圧を用いて作製した。スケールバーは、20μmである。(右図)各々の細胞で発現しているsfGFPの蛍光強度を示す。ナノチップ活性(黒丸)を、DNA開始型(灰色丸)及びmRNA開始型(黒四角)のものと比較した。下部パネルは、0.8pMのナノチップ濃度での細胞の代表的なイメージであり、sfGFPの蛍光の不均一な強度を示す(左半分)。右半分は、位相コントラストのイメージを示す。(図3B)示された標的遺伝子濃度での細胞数のヒストグラムを示す。矢印は、バックグラウンドシグナル強度を示す。一重と二重の矢じりは、1つ又は2つの遺伝子を含む細胞に相当する特有のピークを示す。ナノチップ上に固定されたT7RNAPSNAPf濃度は、ほぼナノチップ濃度(0.4pM)と等しい一方、自由拡散系を用いた場合(DNA開始型反応)は、T7 RNAPSNAPf濃度が、100nMであることに注目すべきである(下部のビングラフ)。
図4-1】図4A−Fは、ナノチップに基づく遺伝子回路が、人工細胞のmiRNAプロファイルに自律的に応答することを示す。(図4A)ONスイッチの構造を説明する模式図を示す。miRNAの結合の際、基質遺伝子の有効アーム長が伸びることで、プロモーター配列とのRNAPの相互作用を可能にする。(挿入図)let−7 miRNAの添加によって、let−7のONスイッチが活性化した。w/はmiRNAあり、w/oはmiRNAなしを意味する。(図4B)ONスイッチの直交性を示す。各々のセンサーの活性は、コグネイトなトリガーmiRNAを伴ったスイッチで測定されたsfGFP出力によって標準化した。(図4C)let−7、miR−206及びmiR−92a−3pに応答する3入力ANDスイッチを示す。油中水滴(w/o)実験により、単一の3入力ANDスイッチ活性を確認したことに注目すべきである(図23A−Eを参照)。(図4D)(挿入図)特定のリンカー長で、ナノチップの活性は、分子間距離に沿ってピークを示した(図2Dを参照)。逆にいえば、特定の分子間距離で、最適なリンカー長が存在するはずである。従って、miRNA結合によって、非最適な長さ(例えば、短すぎる)から最適な長さに、有効リンカー長が変化する場合、チップは活性化された(図4A)。加えて、OFFからONへの有効リンカー長の変更の転換点を仮定できるのであれば、ある特定数のmiRNAの結合によって、有効リンカー長の伸長変化が、転換点と交わるのに十分な伸長を誘導するようにチップを設計することができる(例えば、転換点に必要なmiRNAの結合が、1つであれば3入力OR、2つであれば3入力MAJORITY(多数決)スイッチ、3つであれば3入力ANDスイッチ)。(外側)例えば、3入力ANDスイッチにおいては、転換点と交わるためには結合した3つのmiRNAが必要である(左上図、図24A-Dも参照)。ここで、酵素と基質遺伝子の固定位置間の分子間距離を、miRNAが2つ結合したことによって達成される伸長分と同等な長さ短くした場合、この統合センサーは1つのmiRNAの結合によって活性化される3入力ORスイッチとして機能する。(図4E)3入力ANDスイッチの機能が、ナノチップ構造の変更で、3入力ORスイッチ(上図)や3入力MAJORITYスイッチ(下図)に変更し得ることを示す。図4Eの左側は、ナノチップの分子配置及びその同等スイッチを示す。エラーバーは3つの独立した実験で得られたデータの標準偏差を示す。(図4F)光応答性人工核酸塩基cnvKを用いた架橋及び乖離(開裂)の模式図を示す。
図4-2】(図4G)UVに反応して、3入力ANDスイッチから、3入力MAJORITYスイッチに論理を変換することが可能であることを示す。(図4H)油中水(w/o)滴のmiRNAプロファイルを自律的に感知する2つのANDチップからなる遺伝子回路は、論理演算を実行し応答する。回路において、チップ1は、miR−206及びmiR−9a−3pを検出し、そして情報伝達物質(出力)のmiRNA(let−7)を産生した。チップ2は、miRNA−197−3pと情報伝達物質のmiRNA(let−7)の両方が存在する時にのみ、sfGFPのmRNAを産生した。ボックスプロットは、各細胞中の発現したsfGFPの蛍光強度の分布を示す。スケールバーは20μmを示す。
図5図5A−Cは、T7チップを用いた外因性遺伝子転写の代表的な生データを示す。(図5A)4% Urea−PAGEゲルのイメージを示す。反応時間は、100、250及び400nMの外因性遺伝子については、300、600及び1800秒であり、1000及び2000nMの外因性遺伝子については、300及び600秒であった。電気泳動後、[32P]UTPをBAS−5000でイメージ化した。(図5B図5Aのデータの定量を示す。300及び600秒で得たデータを用いてフィッティングした。(図5C)外因性遺伝子濃度に対して、図5Bの傾きをプロットした。ミカエリス・メンテン型反応を想定して曲線のフィッティングを行った。活性値は、10nMのT7RNAPの活性相当に補正した。
図6図6A−Bは、2重ビオチンを用いる事で、結合遺伝子数が確実に1つに限定されることを示す。(図6A)内因性遺伝子組立ての模式図を示す。2重ビオチンを、DNAオリガミ・タイルへのストレプトアビジン(SA)の結合、及びSAに対する内因性遺伝子の結合の両方で用いた。(図6B)2重ビオチン(左)と通常ビオチン(右)を用いた内因性遺伝子組立ての典型的なアガロースゲルイメージを示す。矢じりの数は、DNAオリガミ・タイル毎の結合遺伝子の数を示す。
図7図7は、AFMイメージ及びT7遺伝子チップの収率を示す。w/geneは、遺伝子(T7遺伝子チップ、及び遺伝子チップ)を含むナノチップの観察された比率であり、ゲル分析からのデータと直接比較することができる。n.d.は、決定されていないことを示す。32、50及び70nmの複合体の結果から計算されたように、3重の複合体(T7遺伝子チップ)の形成効率は、ゲル分析で得られたデータの89±2%である(T7遺伝子チップ及び遺伝子チップの両方を含む)。従って、4及び24nmの3重の複合体は、両方とも効率69%であったと概算した。
図8図8A−Cは、5’末端又は3’末端をT7遺伝子チップに固定した場合の典型的な生データを示す。(図8A)T7チップに5’末端又は3’末端を固定した場合の分子配置の模式図を示す(T7RNAPと遺伝子の固定位置間の分子間距離は50nmである)。(図8B)4% Urea−PAGEゲルのイメージを示す。反応時間は、300、600、1800、及び3600秒(それぞれ、5、10、30、及び60分)であった。(図8C図8Bのデータの定量を示す。5’末端及び3’末端を固定した場合についてのT7チップの濃度は、それぞれ0.37及び0.5nMであった。
図9図9A−Bは、T7遺伝子チップが、転写反応後に無傷のままであったことを示す。(図9A)1%アガロースゲルの典型的なイメージを示す。反応時間は、0、5、10及び60分であった。メインバンド(T7遺伝子チップ)とエキストラバンド(T7チップ:遺伝子を有さないナノチップ)の位置を線で示す。(図9B図9Aのデータの定量を示す。
図10図10A−Bは、競合実験の典型的な生データを示す。(図10A)4%Urea−PAGEゲルのイメージを示す。反応時間は、300、600及び1800秒(それぞれ、5、10、及び30分)であった。endoは内因性遺伝子(sfGFP、942bp)であり、exoは外因性遺伝子(DHFR、682bp)を意味する。(図10B図10Aのデータの定量を示す。
図11図11A−Cは、T7チップの直交性を示す。(図11A)4% Urea−PAGEゲルのイメージを示す。反応時間は、600、1800、及び3600秒(それぞれ、5、30、及び60分)であった。(図11B図11Aのデータの定量を示す。600及び1800秒で得たデータを用いてフィッティングした。(図11C)比活性を示す。値は、10nMのT7RNAP濃度相当の値に換算した。
図12図12A−Cは、酵素基質衝突効率曲線の予測を示す。(図12A)単純化のために、1次元分布を検討した。RNAPのプロモーター認識ドメインのサイズdrを0.1nmと想定した。(図12B及びC)持続長(lp)が50nm(B)及び30nm(C)であると想定して、衝突効率を予測した。プロットしたデータは、図2Dに示した22nm(黒丸)、44nm(灰丸)、66nm(白丸)のリンカーのプロットしたデータと同じであった。DNAのワーム・ライク・チェインモデルを想定すると、ナノチップの分子間依存性は、おおよそ予測した衝突効率曲線に従っていたが、より小さい持続長が、より短いリンカー条件(25〜35nm(右)、50nm(左)という既知の値より小さい)に必要である。2つの可能性のある機構によって、計算の相違を説明し得る:1つはDNA(遺伝子)のより柔らかい状態を反映した可能性(R. S. Mathew-Fenn, R. Das, P. A. Harbury. Science 322, 446-449 (2008)、及びR. Vafabakhsh, T. Ha. Science 337, 1097-1101 (2012))、もう1つはRNAPのスキャニング能力を介して到達可能範囲が拡がった可能性を示している。センサー統合チップの結果に従って推測すると、後者の機構がこの相違を説明し得る。
図13図13は、AFMイメージ及びT7遺伝子チップの2重遺伝子バージョンの収率を示す。w/geneは、遺伝子を含むナノチップの観察された比率であり、ゲル分析からのデータと直接比較することができる。
図14図14A−Dは、液滴のsfGFP強度プロファイルを示す。(図14A−C)(A)ナノチップ、(B)DNA開始型、及び(C)mRNA開始型の反応の強度プロファイルを示す。(C)mRNA開始型の遺伝子濃度が、(A)ナノチップ及び(B)DNA開始型の反応と比して非常に高いことに注目すべきである。(図14D)液滴における単一の遺伝子の発現によって生じる蛍光強度のT7RNAP濃度依存性を示す。単一のナノチップの遺伝子発現レベルは、約1500(a.u.)であり、100nMの自由拡散系のT7RNAPSNAPfのものと同等である。
図15図15A−Dは、ナノチップ・ユニット要素の能力を示す。(図15A)より低い濃度では、構成要素の確率的分布の結果、2つの遺伝子のうち1つしか発現しない「不活性」細胞が生じた。(図15B)ナノチップによる2重遺伝子発現の典型的な蛍光強度プロファイルを示す。(図15C)ナノチップ及びDNA開始型反応に対応する代表的な円グラフ。(図15D)規定された遺伝子セットの発現の成功比率を示す。共発現比は、(2重陽性細胞数/sfGFP陽性細胞)、及び(2重陽性細胞数/mCherry陽性細胞)の平均値として定義した。線は、確率的分布を想定したDNA開始型反応の期待値を示す。
図16-1】図16A−Cは、センサー統合ナノチップの特徴を示す。(図16A)酵素と基質間の分子間距離の調節により、ナノチップ活性を切り替えることが可能である。本研究で使用したセンサーの概略図を示す。固定位置とプロモーター配列の間のリンカーは、センサーとして機能した。リンカー部分は酵素反応から独立しているので、センサーには材料的な制約がない。(図16B)従来の方法(反応拡散システム、左)、及び本発明の方法(統合チップ、右)に関する、オペレーターの配列の制約とセンサーの材料の制約を示す。(図16C)制約の概要を示す。本発明の方法(統合チップ)は、配列又は材料の制約を受けない。
図16-2】図16D−Eは、センサー統合ナノチップの特徴を示す。(図16D)従来の方法(左)及び本発明の方法(右)における、低い酵素・基質濃度での動態と反応速度の環境依存性を示す。本発明の方法では、環境依存性が小さい。加えて、全ての必要な構成要素が同じチップに統合されており、従って、高い有効濃度を有するので、反応速度はチップ(酵素・基質)濃度に依存しない。(図16E)従来の方法(左、リコンビナーゼを使用)及び本発明の方法(右)における、論理機能の機能的調節を示す。本発明の方法では、シグナル結合の際の衝突効率変更を数多くのアプローチを介して設計できるため(例えば、リンカー長の変更、分子配置変更、及び足場形状の変形)、異なるナノチップ配置により、異なる論理機能を持たせることが可能である。
図17図17A−Dは、センサー設計の重要な要素及び有効リンカー長の推定を示す。(図17A)センサー設計において3つの重要な要素:I.センサーの剛性、II.RNAPのスキャニング能力、及びIII.基質・遺伝子に結合したセンサーのリンカー部分を伸長するRNAPの引張力を検討すべきである。(図17B)センサー統合ナノチップの構造を説明する模式図を示す。ssDNA及びdsDNAドメインを含むリンカー部分は、センサーとして機能した。前者のssDNAドメインは、miRNA結合部位を提供し、そして後者のdsDNAドメインは、剛性スペーサーとして機能する。センサーを設計するために、有効なセンサーアーム長を評価することが重要であり、よってssDNA及びdsDNAドメインの有効長の予測が重要である。従って、固定した酵素と基質の間の分子間距離(50nm)で、ssDNA(0−60nt)及びdsDNA(25−85bp)を含むリンカー長を変えつつ、チップ活性を測定した。(図17C)同じdsDNAリンカー長では、短いssDNAリンカーを有するセンサーアームの到達距離は、チップ活性の活性化のためには短すぎるが、長いssDNAリンカーでは十分な長さとなる。そこで、OFFからONへ移行する転換点のアーム長の存在を仮定した。(図17D)異なるssDNA及びdsDNAリンカーを有するナノチップの活性を示す。本発明者らの実験条件下では、短いdsDNAは、一定の長さを有する剛体棒として考えることができ、一方で、ssDNAリンカーは、伸長可能な柔軟なリンカーとして考えることができる。従って、有効センサーアーム長を評価するために、ssDNAの有効長を予測することは、重要な検討事項である。異なるssDNA/dsDNAの組み合せで得られたデータが、推定されたセンサーアーム長に沿って同じような活性プロファイルを示したので、ssDNAの有効なユニット長を推定するために、OFFからONに移行する転換点となるアーム長に注目した。異なるdsDNAリンカー長から得られたデータで、各dsDNAリンカー長にとっての転換点となるアーム長を推定し、各転換点となるアーム長の相違の合計を計算した。下記ユニット長の場合のデータが相違の最少合計を提供したので、実験に基づいたssDNAのユニット長(CssDNA)を、約0.23nm/ntと推定した(挿入像、方法を参照)。異なるdsDNAリンカー長から得られたデータを、ssDNA及びdsDNAについて、それぞれ0.23及び0.34nm/ntを用いてプロットした。
図18-1】図18A−Fは、ONスイッチの設計を示す。(図18A)miRNAのONスイッチの構造変化を説明する模式図を示す。トーホールド領域(図中の「T」)へのmiRNAのハイブリダイゼーションの際、miRNAが、スイッチ(図中の「H」)のステム・ハイブリダイズ部分に侵入し、そしてスイッチの短い相補的な部位(図中の「H」)を置き換える。従って、スイッチ構造は、伸長されたオープン型に変換される。Lは、スイッチのループ部位(ポリT)を、hは、「H」に対するmiRNAの相補的部分を、tは、「T」に対する、miRNAの相補的部分を示す。(図18B)let−7 miRNAのONスイッチの代表的な構造を示す。1つの追加のハイブリダイゼーション部分を、ハイブリダイズ領域の末端に導入したことに注目すべきである(図18Fを参照)。DGは、1M Na及び37℃での、NUPACKによって予測されたセンサー構造の最小自由エネルギー(MFE)を示す。(図18C)有効センサードメイン長(ΔL)における違いを以下に示すように計算した。単純化のために、miRNAハイブリダイゼーションを、センサードメインの5’末端から開始した。dsD/RNAは、DNA−RNAのハイブリッド二本鎖を示す。(図18D)(上)37℃、1M Na濃度(黒丸)、及びPUREシステム(50mM Na及び18mM Mg2+、灰色丸)でのセンサー構造のMFEを示す。59ntのssDNAドメイン及び45bpのdsDNAドメインを有するセンサーを使用した。(中)異なるハイブリダイゼーション部位長を有するlet−7センサーの比活性を示す(黒丸:w/miRNA、灰色丸:w/o miRNA)。90分での対照ナノチップの活性を用いて、活性を標準化した(図18F及びHでも同様)。1M Na濃度で計算したセンサー構造のMFEを用いた(図18F及びHでも同様)図18Dについて、100nM miRNAをナノチップとともに氷上で30分間インキュベートし、そして3×過剰量のPUREシステム溶液を、反応混合物に添加した。miRNAの終濃度は、25nMであった(図18F及びHでも同様)。(下)各センサーのOn/Off比を示す。(図18E)センサー構造を安定化するために、追加のハイブリダイゼーションペアをステム構造の根元部分に導入した。MFEは、図18Dと同様にして算出した。(図18F)(上)異なるハイブリダイゼーションペア長を有するlet−7センサーの比活性を示す(黒丸:w/miRNA、灰色丸:w/o miRNA)。活性は、90分での対照ナノチップの活性を用いて標準化した。1M Naで計算したセンサー構造のMFEを使用した。図19Fについて、100nM miRNAをナノチップとともに氷上で30分間インキュベートし、そして3×過剰量のPUREシステム溶液を、反応混合物に添加した。従って、最終的なmiRNA濃度は、25nMであった。(下)各々のセンサーのOn/Off比を示す。
図18-2】図18G−Hは、ONスイッチの設計を示す。(図18G)有効ループ長L’(=T+L)の影響を評価するために、L’長を変更させて、ナノチップ活性を測定した。(図18H)(上)NUPACKを用いて予測したように、効果的なハイブリダイゼーション長H’=H+1=12bp(黒丸)、11bp(白丸)について、37℃、1M Naでのセンサー構造のMFEを示す。(下)異なる有効ループ長L’(黒丸:H’=12及びw/miRNA、灰色丸:H’=12及びw/omiRNA、白丸:H’=11及びw/miRNA、灰白色丸:H’=11及びw/o miRNA)を有するlet−7センサーの比活性。活性は、90分での対照ナノチップの活性を用いて標準化した。図18Hについて、最終的なmiRNA濃度は、25nMであった。主な結論として、センサー構造の十分なMFEは、スイッチのリークを抑制するために重要であった。十分なループ長L'(及び全リンカー長)は、スイッチを十分に活性化するために重要であった。
図19図19A−Cは、ナノチップに対するmiRNAハイブリダイゼーションの速度論分析を示す。(図19A)1%アガロースゲル(1mM Mg2+をゲル中に添加)のイメージである。反応時間は、37℃で、60、300、1800秒(1、5、及び30分)であった。この図では、ナノチップに結合していない溶液を漂う基質遺伝子を除去せず実験を行った。残存する結合していない基質遺伝子は、対照として使用した。(図19B)(上)(A)におけるデータの定量を示す。同じゲル(非表示)におけるキャリブレーション用のレーンを用いて、結合したmiRNAを定量した。(下)推定した結合定数Konは、ナノチップ及び自由拡散系の基質遺伝子について、それぞれ3.4×10[/M/s]、及び2.8×10[/M/s]であった。これは、ナノチップに統合されたセンサーに対するmiRNAのKon値が、自由拡散系における値と同様のオーダーであったことを示している。(図19C)let−7センサーの見かけのKm値を測定した。図19Cについては、miRNAを、ナノチップを含むPUREシステムに直接添加し、そして転写・翻訳反応を開始する前に、氷上で30分インキュベートした。
図20図20A−Cは、let−7 ONスイッチのミスマッチの影響を示す。(図20A)ミスマッチ(灰色)の影響を調べるために、miRNAを、シングルlet−7 ONスイッチ(ハイブリダイゼーション部分=12nt)とともに用いた。NUPACKを用いて予測したような、37℃、及び1M Naでのセンサー構造のMFEを示す。(図20B)実験データと予測値との比較を示す。(上)ミスマッチ部位の影響を推定するための、予測結合比(黒線)と実験データ(白棒)の比較を示す。(下)予測値と実験データとの間の関連性を評価するために、これらのパラメーターを比較した。これにより、15%超の結合比では、ミスマッチ部位は完全にチップを活性化し得ることが示された。図20Bについては、miRNAは、ナノチップを含むPUREシステム溶液に直接添加し、転写・翻訳反応が開始する前に、氷上で30分、インキュベートした。(図20C)実験データの疑似カラー表示を示す。let−7 miRNAの標的部位を、黒丸で示した。
図21図21A−Eは、ONスイッチの直交性を示す。(図21A)37℃でのセンサー構造の配列及びMFEを示す。(図21B)let−7センサーの直交性に関する代表的なデータを示す。(図21C)8つのセンサー間のクロストークに関するマトリックスデータを示す。90分での対照ナノチップの活性を用いて、比活性を標準化した。独立した3回の実験で得られたデータを示す(平均値±標準偏差)。図21B及びCでは、miR−224−5pを除くmiRNAについて、100nMで、氷上で30分間、ナノチップとともにインキュベートし、その後3×過剰量のPUREシステム溶液を反応混合物に添加した。従って、miRNAの終濃度は、25nMであった。miR−224−5pについては、miRNAの終濃度は、100nMである。(図21D)miR−1−3pとmiR−206の5’末端における同一のヌクレオチドは、スイッチの直交性に僅かに影響を及ぼした。(図21E)miR−224−5pは、試験条件において自己二量体化し、これがmiR−224−5pセンサーの低い反応性に関与している可能性がある。
図22図22A−Eは、OFFスイッチの設計を示す。(図22A)スイッチング機構を説明する模式図を示す。miRNAハイブリダイゼーションによって、センサー構造が安定化され、折り畳まれた構造が支配的となり、その結果、センサーアームの有効な到達距離が短くなり、ナノチップの活性のスイッチが切られた。(図22B)NUPACKを用いて予測したOFFスイッチの代表的な二次構造(サポートハイブリダイゼーションペアを6bpとする)。(図22C)OFFスイッチの、センサー単独(上)及びセンサーmiRNA(下)の安定性を示す。NUPACKを用いた予測のように、23℃(37℃ではない)で、1M Na(黒丸)、及びPUREシステム(50mM Na及び18mM Mg2+、灰色丸)における該構造のMFEを示す。(図22D)(上)異なるサポートハイブリダイゼーション部位長を有するlet−7 OFFセンサーの比活性を示す。活性は、90分での参照ナノチップの活性を用いて標準化した。測定を、23℃(37℃でない)で行ったことに注目すべきである。図23Dでは、100nM miRNAを、氷上で30分間、ナノチップとともにインキュベートし、その後3×過剰量のPUREシステム溶液を反応混合物に添加した。従って、miRNAの終濃度は、25nMであった。(下)各々のセンサーのOn/Off比を示す。(図22E)測定されたlet−7OFFスイッチの見かけのKm値を示す。図22Eでは、miRNAを、ナノチップを含むPUREシステム溶液に直接添加し、そして転写・翻訳反応を開始する前に、氷上で30分インキュベートした。
図23図23A−Eは、2入力ANDスイッチの設計を示す。(図23A)センサーの末端間距離の伸長を説明する模式図を示す。miRNAハイブリダイゼーションの際、ステムループ構造が伸長される。(図23B)スイッチング機構を説明する模式図を示す。2つの異なるmiRNAとのハイブリダイゼーションの際、センサーアームの到達距離の長さは、ナノチップを活性化するのに十分な長さとなる。(図23C)37℃、及び1M NaでのNUPACKを用いた予測ANDスイッチの二次構造を示す。(図23D)溶液系(bulk)実験におけるANDスイッチの活性を示す。ナノチップの濃度は、約1nMである。図23Dでは、400nM miRNAをナノチップとともに氷上で30分間インキュベートし、その後、3×過剰量のPUREシステム溶液を反応混合物に添加した。従って、miRNAの終濃度は、100nMであった。(図23E)油中水(w/o)滴における単一ANDチップ活性を示す。ナノチップの濃度は、0.4pMである。図23Eでは、miRNAを、ナノチップを含むPUREシステム溶液に直接添加し、転写・翻訳反応を開始する前に、20℃で30分(油中水(w/o)滴を形成するために必要な時間)インキュベートした。
図24図24A−Dは、3入力ANDスイッチの設計を示す。(図24A)センサーの末端間距離の伸長を説明する模式図を示す。miRNAハイブリダイゼーションの際、ステムループ構造が伸長された。(図24B)37℃、1M Naでの、NUPACKを用いた、let−7/miR−206/miR−92a−3pについての3入力ANDスイッチの予測された二次構造を示す。(図24C)let−7/miR−206/miR−197−3p(上)及びlet−7/miR−365a−3p/miR−183−5p(下)についての3入力ANDスイッチの溶液系(bulk)実験の結果を示す。(図24D)油中水(w/o)滴における単一の3入力ANDチップの活性を示す。ナノチップの濃度は、0.4pMであった。図24Cでは、miRNAを、ナノチップを含むPUREシステム溶液に直接添加し、転写・翻訳反応を開始する前に、20℃で30分間(油中水(w/o)滴を形成するために必要な時間)インキュベートした。
図25図25A−Bは、分子配置を変更することによる、3入力ANDスイッチの機能調節を示す。(図25A)ANDスイッチからORスイッチへの変換を示す。相違は、2入力分から、2つのステム構造の厚み分を引いた分である(22nt×2×0.34nm/nt+22nt×2×0.23nm/nt−4nm〜21nm)。従って、RNAP酵素と基質・遺伝子間の分子間距離を50から70nmに変更した。(図25B)ANDスイッチからMAJORITY(多数決)スイッチへの変換を示す。dsDNAリンカー長を45から85bpに変更し、違いは、おおよそ1入力分から、1つのステム構造分の厚み分を引いた分である(22nt×1×0.34nm/nt+22nt×1×0.23nm/nt−2nm〜11nm〜31nt dsDNA)。
図26図26A−Dは、PUREシステムにおけるナノチップ活性を示す。(図26A)ナノチップ濃度の影響を示す。活性を、0.52nMのナノチップ濃度における、180分の値を用いて、標準化した。(図26B)miRNA濃度の影響を示す。蛍光強度を、0nMのmiRNAにおける、180分の値を用いて、標準化した。(図26C)miRNAの添加時間のONスイッチ統合ナノチップ活性に与える影響。矢印は、miRNAの添加時間を示す(50nMのmiRNA終濃度)。ナノチップの終濃度は、0.13nMである。活性を、180分での対照ナノチップの活性を用いて、標準化した。破線、黒、及び灰色の線はナノチップの活性を示し、破線は、不活性ナノチップを示し、黒線は、センサーは活性化しているがsfGFP mRNA産生が不活性であるナノチップを示し、そして灰色線は、センサーとmRNA産生が活性化しているナノチップを示す。(図26D)他のチップ活性のセンサーを統合したナノチップに与える影響を示す。矢印は、miRNA添加のタイミングを示す(50nMのmiRNAの終濃度)。両方のナノチップの終濃度は、0.13nMである。活性を、対照ナノチップにおける180分での活性を用いて、標準化した。破線、黒、灰色及び灰黒色の線は、ナノチップの活性を示し、破線は、不活性ナノチップを示し、黒線は、センサーは活性化しているがsfGFPのmRNA産生が不活性であるナノチップを示し、灰色線は、センサーとmRNA産生が活性化しているナノチップを示し、そして灰黒色線は、sfCherryのmRNA産生が活性化しているナノチップを示す。sfGFP産生の減少は、タンパク質を産生する資源の不足によって説明し得る(例えば、PUREシステムの成分)。主な結論として、ナノチップ濃度をより低減する(〜0.5nM)ことが、資源の消費を防ぐために重要である。他のチップが機能しており、それによってバックグラウンドで転写・翻訳システムが作動しているのであれば、miRNA活性化のタイミングは、miRNA感受性チップの活性にとって重要である。
図27図27A−Gは、ナノチップ コミュニケーションが遺伝子回路を可能にすることを示す。(図27A)2つの「緩衝(ONスイッチ)」機能ナノチップを含む遺伝子回路の模式図を示す。(図27B)(A)に示した回路の活性を示す。(図27C)2つのANDスイッチを有するナノチップからなる遺伝子回路の模式図を示す。(図27D)(C)に示した回路のリークチェックを示す。(図27E)チップ1の濃度が、(C)に示した遺伝子回路の全体的な産生に影響を及ぼすことを示す。(図27F)対照反応におけるsfGFPタンパク質産生のタイムラグを示す。(図27G)(F)に示した遺伝子発現の動態分析を示す。ドットは実験データを示し、そしてフィッティングラインは、それぞれ、ナノチップ開始型(ナノチップと同濃度でのRNAP)、及びDNA開始型(RNAP〜30nM、ナノチップのものよりさらに高濃度)の反応についての基質・遺伝子の推定された転写速度:0.034及び0.02/秒/分子を用いた、予測された経時的推移を示す。高いRNAP濃度では、実験値は予測値よりも低かったことから、遺伝子発現系の資源消費を反映している可能性がある。
図28図28は、ナノチップに基づく遺伝子回路が、人工細胞のmiRNAプロファイルを検出し応答することを示す。関心領域(ROI)は、図4Fに示した位置を示す。
図29図29A−Fは、LacIスイッチの設計を示す。(図29A)(上)LacI−DNAの3次元タンパク質・核酸立体構造(PDB:1lbg)を、iCn3D(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/Structure/icn3d/icn3d.html)で描画した。LacI4量体は、2つのDNA認識部位に結合する。(下)2つのLacO配列を実験に用いた。(図29B)(上)LacIセンサーの模式図を示す。Pはプロモーターを、RBSはリボソーム結合部位を、ORFはオープンリーディングフレームを、Tはターミネーターを示す。(下)ON及びOFFスイッチを得るために、同じセンサーをDNAオリガミの異なる部位に固定した。酵素(T7RNAP、黒丸)と基質遺伝子(LacIセンサー、黒四角)の固定位置間の分子間距離は、ONスイッチで32nm、OFFスイッチで70nmであった。(図29C)スイッチング機構を説明する模式図を示す。LacI 4量体の結合の際、ナノチップを活性化するために、センサーアームの到達距離は十分に短い。(図29D)ナノチップ(上)と反応拡散系(溶液中の自由拡散系LacI−T7RNAPと反応する自由拡散系LacIセンサー)におけるLacIセンサーの活性を示す。灰色丸はIPTGなし、黒丸は100mM IPTGありを示す。活性を、180分でのデータを用いて標準化した(0nM LacI IPTGなしを1に設定した)。(図29E)LacIのOFFスイッチのスイッチング機構を説明する模式図を示す。LacI 4量体の結合の際、センサーアームの到達距離が短すぎて、ナノチップを活性化できない。(図29F)LacIのOFFスイッチの活性を示す。
図30図30A−Cは、Ampicillin(Amp)スイッチの設計を示す。(図30A)Ampアプタマーの構造を示す。(図30B)スイッチング機構を説明する模式図を示す。Ampの結合の際、センサーアームの到達距離が短くなるので、ナノチップの活性が低下する。(図30C)AmpのOFFスイッチの活性を示す。
図31図31A−Cは、NANDスイッチの設計を示す。(図31A)スイッチの論理動作を示す。(図31B)スイッチング機構を説明する模式図を示す。miRNAとのハイブリダイゼーションの際、センサーアームの到達距離の長さが伸び、ナノチップは不活性化される。(図31C)NANDスイッチの活性を示す。
図32図32A−Bは、固定点変化による論理変更の設計を示す。(図32A)スイッチング機構を説明する模式図を示す。IPTGが元の固定点(LacI)と結合する際、センサーアームの到達距離の長さが伸び、ナノチップは活性化される。(図32B)スイッチング機構を説明する模式図を示す。IPTGが元の固定点(LacI)と結合する際、センサーアームの到達距離の長さが短くなり、ナノチップは不活性化される。
図33図33A−Bは、UVに反応してナノチップの機能をON/OFFスイッチングする設計を示す。(図33A)Pはプロモーターを、cnvkは光応答性人工核酸塩基を示す。366nmのUVを5分間照射した際(Operation1)、センサーアームの到達距離が短くなるので、ナノチップの活性が低下する。該活性が低下した状態にて、さらに312nmのUVを10分間照射した場合(Operation2)、センサーアームの到達距離の長さが伸び、ナノチップは活性化される。(図33B)UVによるON/OFFスイッチングの活性を示す。
図34図34A−Bは、UV入力とmiRNAプロファイルに応答する回路の設計を示す。(図34A)チップ1は、366nmのUV照射を行わない場合、情報伝達物質(出力)のmiRNA(miR−206)を産生した。チップ2は、miR−206、let−7、及びmiR−92a−3pの3つが存在する時にのみ、sfGFPのmRNAを産生した(上部)。下部は、回路の論理動作を示す。(図34B)UVとmiRNAプロファイルに応じて、試験管内で発現したsfGFPの蛍光強度の時間変化を示す(上部)。下部は、相対値を示す(UVの入力がなく、miRNAが2つ存在する場合を1とした)。
図35図35A−Cは、個体(生体)内で機能するチップの設計及びその結果を示す。(図35A)筒状のチップ(Cage)の内側にRNAPと標的遺伝子が固定してあることを示す。(図35B)実験の概略図。ゼブラフィッシュの初期胚(受精卵、未受精卵)にマイクロインジェクションによりサンプル(〜5nM)を導入し(1nL程度)、28℃で1時間インキュベーションした後に、トライゾール液やDNaseI酵素処理等を用いて、RNAを抽出した。合成されたRNA量はリアルタイムPCR装置で確認した。(図35C)合成されたRNAの相対値を示す(RNAPと遺伝子を両方固定したサンプルの合成量を1とした)。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を説明する。本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、本発明が属する技術分野で通常に用いられる意味を有する。
【0023】
遺伝子回路用デバイス
本発明において、「触媒」とは、なんらかの化学反応を促進、又は抑制させるような物質を意味し、例えば、生体触媒、無機触媒が挙げられる。具体的には、例えば、酵素、タンパク質、核酸、人工核酸が挙げられ、より具体的には、DNA/RNA/人工核酸ポリメラーゼ、ポリマー合成酵素、核酸結合タンパク質(制限酵素、ライガーゼ、ニッカーゼ、メチラーゼ、転写因子などが挙げられるが、これらに限定されない)、分子シャペロン(HSP70,HSP90などが挙げられるが、これらに限定されない)、分子モーター(キネシン、ミオシン、ダイニンなどが挙げられるが、これらに限定されない)、膜タンパク質、修飾酵素(リン酸化キナーゼ、ユビキチンリガーゼなどが挙げられるが、これらに限定されない)、合成酵素(F1−ATP合成酵素などが挙げられるが、これらに限定されない)、分解タンパク質(プロテアーゼ、プロテオソームなどが挙げられるが、これらに限定されない)、RNA酵素(リボザイム、Long non−coding RNA(lncRNA)などが挙げられるが、これらに限定されない)、DNA酵素、人工核酸酵素、核酸−タンパク質複合体(リボソーム(非天然アミノ酸を取り込む改変体を含む)、RNA−induced silencing complex(RISC)やCRISPR/Casなどが挙げられるが、これらに限定されない)が挙げられる。本明細書において、「人工核酸ポリメラーゼ」とは、人工核酸、あるいは人工核酸と天然核酸の両方、あるいは化学修飾された人工核酸/天然核酸を基質とするポリメラーゼを意味し(VB Pinheiro et al., Science 336, 341-344 (2012); AI. Taylor et al., Nature 518, 427-430 (2015); N. Ramsay et al., JACS 132, 5096-5104 (2010))、「ポリマー合成酵素」とは高分子ポリマー(例えば、バイオプラスチック)や、その原料を合成する酵素を意味する(BH. Rehm, Nat Rev Microbiol. 8, 578-92 (2010); T. Iwata, Angew Chem Int Ed Engl. 54, 3210-3215 (2015))。また、本発明において使用される酵素、タンパク質等は、自体公知の組み換えタンパク質発現技術を用いて生成されてもよい。
上記触媒は、後述する形状変化要素と結合していてもよく、していなくてもよい。また、該触媒が、形状変化要素と結合していない場合、該触媒は、ベース部材と結合していてもよい。
【0024】
本発明において、「標的遺伝子」とは、上記触媒と接触することで遺伝子の発現が誘導される遺伝子を意味し、具体的には、例えばsfGFP遺伝子、small RNA遺伝子が、挙げられる。また、標的遺伝子は、任意数の適切な制御配列(転写及び翻訳調節配列、プロモーター、リボソーム結合部位、エンハンサー、複製起点などが挙げられるが、これらに限定されない)、他の要素(選択遺伝子、シグナルペプチド又はタグペプチドをコードする配列、ターミネーター配列)等を含んでもよく、これらは全て、本発明が属する技術分野でよく知られるように作動可能に連結される。
【0025】
本明細書において、「プロモーター」は、RNAポリメラーゼ及び他の転写因子などが結合することができる領域も含んでもよい。本明細書において、遺伝子の発現とは、転写・翻訳を経てタンパク質が合成されることを意味してもよく、またRNAとして機能する遺伝子(ノンコーディングRNA)の場合は、RNAの合成を意味してもよい。上記標的遺伝子は、後述する形状変化要素と結合していてもよく、していなくてもよい。該標的遺伝子が、形状変化要素と結合していない場合、該標的遺伝子は、ベース部材と結合していてもよい。
【0026】
本発明の遺伝子回路用デバイスは、「スイッチ」として使用されてもよい。本発明において、「スイッチ」は、標的遺伝子の発現の制御に関わるものであり、少なくとも1つの「開閉機構」を有する。該開閉機構は、形状変化要素を駆動部として有する。該形状変化要素は、第1部位と第2部位を有し、かつ、活性化源の作用によって、該第1部位と第2部位との間の距離が変化する構造を有している。該第1部位と第2部位は、形状変化要素の任意の部位でよく、例えば、形状変化要素の両端が挙げられる。また、形状変化要素は、第1部位側に第1固定部を、第2部位側に第2固定部を有し、触媒や標的遺伝子が形状変化要素と結合している場合、該固定部に固定される。形状変化要素の第1部位と第1固定部とは、同一の部位であってもよく、異なる部位であってもよい。同様に、形状変化要素の第2部位と第2固定部とは、同一の部位であってもよく、異なる部位であってもよい。
【0027】
本発明の形状変化要素は、長さを規定できるものであれば、特に限定されないが、具体的には、例えば、タンパク質/ペプチド鎖、核酸(DNA、RNA、人工核酸)、タンパク質−核酸複合体、金属材料(金属断片、金ナノロッド)、半導体(シリコン)、 炭素同素体(CNT、グラファイト、フラーレン、ダイヤモンド)、無機材料(セラミック)、非晶質固体(ガラス)、有機材料、高分子ポリマーが挙げられる。
本発明において、「リンカー」、「アンカーアーム」、「センサー」及び「センサーアーム」は、「形状変化要素」に該当する。また、本明細書において、「リンカー」、「アンカーアーム」、「センサー」及び「センサーアーム」は、それぞれ互換的に使用される。また、本発明において、形状変化要素は、活性化源の作用により具体的に変化する部分(例えば、センサー部と称する)とその他の部分(例えば、アーム部と称する)の2つの部分から構成されていてもよい。
【0028】
本明細書では、形状変化要素の大きさ(長さ)は、形状変化要素のベース部材における固定位置から、該形状変化要素との結合対象が標的遺伝子の場合、プロモーター配列までの長さであるアーム(リンカー)長として規定され、該形状変化要素との結合対象が触媒の場合、該触媒までの長さであるアーム(リンカー)長として規定される。また、本明細書では、形状変化要素がベース部材に固定される部分を、固定端と称する場合がある。
【0029】
開閉機構は、該形状変化要素を可動部として有し、該形状変化要素の第1部位と第2部位との間の距離の変化に応じて、上記標的遺伝子と上記触媒とが相対的に近づいて接するか、又は接触状態から相対的に離れるように構成されている。また、上記のような構成を採る限り、いかなる構成を有していてもよい。
開閉機構の全体が形状変化要素であってもよく、その一部が形状変化要素であってもよい。
【0030】
形状変化要素の具体的な構造として、例えば、ステムループ構造が挙げられ、該ステムループは、基本構造として、トーホールド、ハイブリダイゼーション、ループ、アンチハイブリダイゼーション、及びステムループとリンカーの他の部分との間のスペーサーの5つのドメインを有する(図18B)。トーホールドドメイン及びハイブリダイゼーションドメインに結合するmiRNAが、先ずトーホールドドメインに結合し、次にステム構造に侵入し、最後にステムループを展開する。また、安定したハイブリダイゼーションをサポートするために、ステム構造の根元にサポートハイブリダイゼーションをさらに導入してもよい。
【0031】
また、他の具体的な構造として、二本鎖DNAを使用した、LacI−LacO対を用いた形状変化要素が挙げられる(図29A-D)。LacIは、四量体を形成する二本鎖DNA結合タンパク質であり、2つのLacO配列に結合できる(図29A)。LacI−LacO対を用いた形状変化要素は、まず第1の活性化源であるLacIが2つのLacO配列に結合することで、二本鎖DNAが折り畳まれ、その長さが短くなり、さらに第2の活性化源であるイソプロピルβ−D−1−チオガラクトピラノシド(IPTG)添加により、LacO配列からLacIの離脱が誘導され、再度二本鎖DNAが展開され本来の長さになる(図29C及びE)機構である。
【0032】
また、他の具体的な構造として、光応答性人工核酸塩基cnvK(3−cyanovinylcarbazole nucleoside)を用いた形状変化要素が挙げられる(図4F)。cnvKは光応答性であり、紫外光に反応し、相補鎖ピリミジン(チミン塩基、シトシン塩基)と共有結合性の架橋を形成できる。cnvKを用いた形状変化要素は、まず第1の活性化源である366nmの紫外光が架橋を誘導することで、ベース部剤(DNAオリガミ)と標的遺伝子固定用StreptAvidinの間のリンカーオリゴヌクレオチドが折り畳まれ、その長さが短くなり、さらに第2の活性化源である312nmの紫外光により、架橋が開裂し、再度リンカーオリゴヌクレオチドが展開され、本来の長さになる機構である。
【0033】
本発明のスイッチのうち、活性化源の作用によって、標的遺伝子と触媒とが相対的に近づいて接するように構成されているスイッチを、「ONスイッチ」と称する。ONスイッチが入力されると、標的遺伝子と触媒との接触頻度が、入力前と比して高められ、その結果、標的遺伝子の発現量がバックグラウンドと比して上昇する。
一方、本発明のスイッチのうち、活性化源の作用によって、標的遺伝子と触媒とが接触状態から相対的に離れるように構成されているスイッチを、「OFFスイッチ」と称する。OFFスイッチが入力されると、標的遺伝子と触媒との接触頻度が、入力前と比して低められ、その結果、標的遺伝子の発現量がバックグラウンドと比して有意な差がない程度にまで低下する。
【0034】
本発明のスイッチの具体的な構造及び機構(スイッチング機構)は、例えば、以下:
(i)互いに独立した第1の可動部としての第1の形状変化要素と、第2の可動部としての第2の形状変化要素を有し、触媒が、第1の可動部における第1の形状変化要素の第1部位の側に固定され、標的遺伝子が、第2の可動部における第2の形状変化要素の第1部位の側に固定され、第1及び第2の可動部における各形状変化要素の第2部位の側が、ベース部材(例えば、ベース部材の1つの面上)に(例えば、互いに離れて)固定され、各形状変化要素の第1部位と第2部位との間の距離の増大によって、触媒と標的遺伝子とが相対的に近づいて接するように若しくは接触状態から相対的に離れるように構成されているか、又は各形状変化要素の第1部位と第2部位との間の距離の減少によって、触媒と標的遺伝子とが相対的に近づいて接するように若しくは接触状態から相対的に離れるように構成されているような構造及び機構や、
(ii)触媒及び標的遺伝子のいずれか一方が、ベース部材(例えば、ベース部材の1つの面上)に固定され、他方が可動部における形状変化要素の第1部位の側に固定され、可動部における形状変化要素の第2部位の側は、ベース部材(の前記面上)に固定され、形状変化要素の第1部位と第2部位との間の距離の増大によって、触媒と標的遺伝子とが相対的に近づいて接するように若しくは接触状態から相対的に離れるように構成されているか、又は形状変化要素の第1部位と第2部位との間の距離の減少によって、触媒と標的遺伝子とが相対的に近づいて接するように若しくは接触状態から相対的に離れるよう構成されているような構造や機構が挙げられる。
【0035】
また、ベース部材の形状自体が変化する場合も、本発明のスイッチに含まれ、具体的な構造及び機構(スイッチング機構)としては、例えば、以下:(シート状の)ベース部材(の一方の面上)に触媒と標的遺伝子とが(互いに離れて)配置されており、形状変化要素の第1部位と第2部位が(前記シート状の)ベース部材(の両面のうちの互いに同じ面上に互いに離れて)に固定され、第1部位と第2部位との間の距離の減少、又は増大が前記(シート状の)ベース部材を変形させ、前記(シート状の)ベース部材の変形によって触媒と標的遺伝子とが相対的に近づいて接するか、又は接触状態から相対的に離れるように構成されているような構造が挙げられる。
【0036】
本発明において、「ベース部材」とは、触媒、標的遺伝子、形状変化要素などの分子を固定でき、そして所望する位置に配置できる面を有するものであれば特に限定されず、可撓性を有していてもよい。また、本明細書において、触媒、標的遺伝子、形状変化要素などの分子が固定されるベース部材上の部位を、アンカー部と称する場合があり、複数のアンカー部が存在する場合、それぞれを区別するために、例えば、第1アンカー部、第2アンカー部、第3アンカー部のように称してもよい。ベース部材の形態は、帯状、シート状、ヒモ状や線状であっても塊状であってもよい。ベース部材としては、例えば、DNA、RNA、人工核酸、タンパク質、ポリマーなどからなるナノ構造物が挙げられ、具体的には、例えば、DNAオリガミ、RNAオリガミ、ペプチドオリガミ、タンパク質オリガミ、超分子ポリマーが挙げられる。
また、「ベース部材」は、本明細書において、「足場」と互換的に使用される。
【0037】
本発明において、「ANDスイッチ」とは、2つ以上の入力(端子)と1つの出力(端子)を有し、全ての入力(端子)に「1」が入力された場合に、出力(端子)に「1」を出力し、入力(端子)の少なくとも1つに「0」が入力された場合は、「0」を出力する素子を意味する。ここで「入力」とは、例えば、活性化源の作用により形状変化要素が駆動し得る状態になることが挙げられ、「出力」とは、例えば、標的遺伝子が発現することが挙げられる。
該ANDスイッチは、例えば、2つ、3つ又はそれ以上の異なる形状変化要素を直接的に結合させ、入力(端子)の全てに「1」が入力された場合に、生じた有効リンカー長の伸長変化が、転換点と交わるのに十分な伸長を誘導するようにチップを設計することで、構築することができる(図4D図16E)。また、形状変化要素同士の結合様式は、それぞれの形状変化要素の距離の変化が妨げられないように結合されていれば特に限定されず、例えば、直列、並列等の結合様式が挙げられる。本明細書において、「転換点」とは、活性化源の作用により形状変化要素が変化し、触媒活性が不活化状態から活性化状態、あるいは、活性化状態から不活化状態へと遷移する、特定のリンカー長のことを意味する(図17)。
上記のような論理演算を行うANDスイッチは、本明細書において、「ANDゲート」と互換的に使用される。
【0038】
本発明において、「ORスイッチ」とは、2つ以上の入力(端子)と1つの出力(端子)を有し、入力(端子)の少なくとも1つに「1」が入力された場合に、出力(端子)に「1」を出力し、全ての入力(端子)に「0」が入力され場合は、「0」を出力する素子を意味する。
該ORスイッチは、例えば、2つ、3つ又はそれ以上の異なる形状変化要素を直接的に結合させ、入力(端子)の少なくとも1つに「1」が入力された場合に、生じた有効リンカー長の伸長変化が、転換点と交わるのに十分な伸長を誘導するようにチップを設計することで、構築することができる(図4D図16E図25)。また、形状変化要素同士の結合様式は、それぞれの形状変化要素の距離の変化が妨げられないように結合されていれば特に限定されず、例えば、直列、並列等の結合様式が挙げられる。
上記のような論理演算を行うORスイッチは、本明細書において、「ORゲート」と互換的に使用される。
【0039】
発明において、「MAJORITY(多数決)スイッチ」とは、3つ以上の入力(端子)と1つの出力(端子)を有し、多数決の原理に基づいて、過半数の入力(端子)に「1」が入力された場合に、出力(端子)に「1」を出力し、過半数の入力(端子)に「0」が入力され場合は、「0」を出力する素子を意味する。
該MAJORITYスイッチは、例えば、2つ、3つ又はそれ以上の異なる形状変化要素を直接に結合させ、多数決の原理に基づいて、過半数の入力(端子)に「1」が入力された場合に、生じた有効リンカー長の伸長変化が、転換点と交わるのに十分な伸長を誘導するようにチップを設計することですることで、構築することができる(図4D図16E図25)。また、形状変化要素同士の結合様式は、それぞれの形状変化要素の距離の変化が妨げられないように結合されていれば特に限定されず、例えば、直列、並列等の結合様式が挙げられる。
上記のような論理演算を行うMAJORITY(多数決)スイッチは、本明細書において、「MAJORITY(多数決)ゲート」と互換的に使用される。
【0040】
本発明において、「NOTスイッチ」とは、1つの入力(端子)と1つの出力(端子)を有し、入力(端子)に「1」が入力された場合に、出力(端子)に「0」を出力する素子を意味する。該NOTスイッチは、例えば、入力(端子)に「1」が入力された場合に、生じた有効リンカー長の伸長変化が、転換点と交わるのに十分な伸長を誘導するようにチップを設計することで、構築することができる。
上記のような論理演算を行うNOTスイッチは、本明細書において、「NOTゲート」、「OFFスイッチ」、「OFFゲート」と互換的に使用される。
【0041】
本発明において、「NORスイッチ」とは、2つ以上の入力(端子)と1つの出力(端子)を有し、入力(端子)の少なくとも1つに「1」が入力された場合に、出力(端子)に「0」を出力し、全ての入力(端子)に「0」が入力され場合は、「1」を出力する素子を意味する。
該NORスイッチは、例えば、2つ、3つ又はそれ以上の異なる形状変化要素を直接的に結合させし、入力(端子)の少なくとも1つに「1」が入力された場合に、生じた有効リンカー長の伸長変化が、転換点と交わるのに十分な伸長を誘導するようにチップを設計することで、構築することができる(図4D図16E)。形状変化要素同士の結合様式は、それぞれの形状変化要素の距離の変化が妨げられないように結合されていれば特に限定されず、例えば、直列、並列等の結合様式が挙げられる。
上記のような論理演算を行うNORスイッチは、本明細書において、「NORゲート」と互換的に使用される。
【0042】
本発明において、「NANDスイッチ」とは、2つ以上の入力(端子)と1つの出力(端子)を有し、全ての入力(端子)に「1」が入力された場合に、出力(端子)に「0」を出力し、入力(端子)の少なくとも1つに「0」が入力された場合は、「1」を出力する素子を意味する。
該ANDスイッチは、例えば、2つ、3つ又はそれ以上の異なる形状変化要素を直接的に結合させすることで、入力(端子)の全てに「1」が入力された場合に、生じた有効リンカー長の伸長変化が、転換点と交わるのに十分な伸長を誘導するようにチップを設計することで、構築することができる(図4D図16E)。形状変化要素同士の結合様式は、それぞれの形状変化要素の距離の変化が妨げられないように結合されていれば特に限定されず、例えば、直列、並列等の結合様式が挙げられる。
上記のような論理演算を行うNANDスイッチは、本明細書において、「NANDゲート」と互換的に使用される。
【0043】
本明細書において、ベース部材に少なくとも1つの上述したようなスイッチが統合されたものを「チップ」と称する。また、本明細書において、「チップ」、「ナノチップ」、及び「遺伝子ナノチップ」は、互換的に使用される。また、本発明の遺伝子回路用デバイスは、それ自体が上述のスイッチであってもよい。
【0044】
本発明のANDスイッチ、ORスイッチ、及びMAJORITY(多数決)スイッチは、本発明で用いたような触媒と標的遺伝子の間の分子間距離を調節するアプローチにより、それらの分子配置(アンカー部位)の変更、ベース部材の形状の変化、又はリンカー長の変更によって、異なる構造のナノチップにおける論理機能の変更が可能である。具体的には、例えば、異なる波長の光線を照射することで架橋と乖離(開裂)を切り替えることが可能な人工核酸をステムループ構造の一部に導入したり、ベース部材と遺伝子間のリンカー部分に導入したりすることで、リンカー長を制御し、触媒と標的遺伝子の間の分子間距離を調節することで、論理機能の変更が可能となる。また、例えば、形状変化要素中の第1部位と第2部位との間の任意の固定部と、ベース部材上のアンカー部が結合された状態が、該結合を解放し得る解放用の活性化源により互いに分離されることや、形状変化要素中の第1部位と第2部位との間の任意の固定部とベース部材上のアンカー部とが、結合用の活性化源の作用により結合されることでも、論理機能の変更が可能となる。
【0045】
また本発明のANDスイッチ、ORスイッチ、MAJORITY(多数決)スイッチ、NOTスイッチ、NORスイッチ、及び/又はNANDスイッチを組み合わせてベース部材に配置することで、遺伝子回路を作製することができる。該遺伝子回路は、複数のスイッチを配置することが可能なベース部材にそれぞれのスイッチを配置することで作製されてもよく、少なくとも2つ以上の上述のチップを組み合わせることで作製されてもよい。
【0046】
ベース部材への固定
本発明の標的遺伝子、触媒、及び形状変化要素のベース部材への固定方法は、限定されないが、例えば、核酸同士のハイブリダイゼーションのような水素結合、核酸同士のスタッキング相互作用、アビジン(Avidin)タンパク質−ビオチン(biotin)化合物間のような非共有結合、SNAPタンパク質−SNAPリガンド間のような共有結合、あるいは、これらを組み合わせた方法を介して行われる。具体的には、例えば、ベース部材がDNAオリガミである場合、標的遺伝子及び形状変化要素(例えば、核酸)を自体公知の方法でビオチン修飾し、DNAオリガミ上にストレプトアビジンを自体公知の方法で結合させて、ビオチン・アビジン相互作用によりDNAオリガミ上に標的遺伝子及び形状変化要素を固定させてもよい。また、触媒(例えば、タンパク質)については、自体公知の組み換えタンパク質発現技術を用いて、SNAPタグを結合させたタンパク質を作製し、自体公知の方法でDNAオリガミ上に固定してもよい。
【0047】
プロモーター
本発明において使用されるプロモーターは、本発明の遺伝子回路用のデバイスが使用される環境内で、標的遺伝子を発現することが可能なものであれば特に限定されず、誘導型プロモーターでも、構成型プロモーターでもよい。
具体的には、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)由来プロモーター(例:CMV前初期プロモーター)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)由来プロモーター(例:HIVLTR)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)由来プロモーター(例:RSV LTR)、マウス乳癌ウイルス(MMTV)由来プロモーター(例:MMTV LTR)、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMLV)由来プロモーター (例:MoMLV LTR)、単純ヘルペスウイルス(HSV)由来プロモーター(例:HSVチミジンキナーゼ(TK)プロモーター)、SV40由来プロモーター(例:SV40初期プロモーター)、エプスタインバーウイルス(EBV)由来プロモーター、アデノ随伴ウイルス(AAV)由来プロモーター(例:AAV p5プロモーター)、アデノウイルス(AdV)由来プロモーター(Ad2又はAd5主要後期プロモーター)などが用いられてもよい。
また、ポリヘドリンプロモーター、P10プロモーター、trpプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、λPLプロモーター、lppプロモーター、T7プロモーター、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーター、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターなどが用いられてもよい。
さらに、U6プロモーター、H1プロモーター、tRNAプロモーターなどが用いられてもよい。
【0048】
シグナルペプチド
本発明において使用されるシグナルペプチドは、例えば、ゴルジ体移行シグナルペプチド、細胞膜移行シグナルペプチド、ミトコンドリア移行シグナルペプチド、核移行シグナルペプチド、シナプス移行シグナルペプチド、核小体移行シグナルペプチド、核膜移行シグナルペプチド、ペルオキシソーム移行シグナルペプチド等が挙げられる。
【0049】
タグペプチド
本発明において使用されるタグペプチドは、例えば、FLAGタグペプチド、HAタグペプチド、MYCタグペプチド、GFPタグペプチド、MBPタグペプチド、GSTタグペプチド、HISタグ、SNAPタグ、ACPタグ、CLIPタグ、TAPタグ、V5タグ等が挙げられる。
【0050】
ターミネーター
本発明において使用されるターミネーターは、限定されず、当業者に知られている任意の転写ターミネーターでもよい。具体的には、例えば、ウイルス遺伝子由来、各種哺乳動物又は鳥類の遺伝子由来のターミネーター配列が挙げられる。より具体的には、例えば、ウシ成長ホルモンターミネーター、SV40ターミネーター、spy、yejM、SECG−leuU、thrLABC、rrnB T1、hisLGDCBHAFI、metZWV、rrnC、xapR、aspA及びarcAターミネーターが挙げられる。
【0051】
遺伝子回路用のデバイスの使用環境
本発明の遺伝子回路用のデバイスは、予定される最終用途に依存して、例えば、反応容器、生細胞、人工細胞、細胞ゴースト(すなわち、赤血球ゴースト又は血小板ゴースト)、死細胞、細胞外顆粒(エキソソーム等)、ウイルス、人工ウイルス、又は擬ビリオン中で使用されてもよい。
本発明の遺伝子回路用のデバイスは、例えば、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、リポフェクション、細胞透過性ペプチド、DNAナノ構造の形状を利用した細胞内取り込みなどを利用した自体公知の方法により、細胞内に取り込むことができる。
本発明の遺伝子回路用のデバイスは、例えば、注射、経口投与、皮膚・粘膜への塗布、吸引、噴霧、食餌、などを利用した自体公知の方法により、動物及び植物体内に取り込むことができる。
本発明の遺伝子回路用のデバイスは、例えば、バイオマーカーの検出、遺伝子治療、遺伝子又はゲノム改変(例:置換、挿入、欠失等などの編集)、細胞死誘導、細胞活性化/不活性化誘導、予防医療、再生医療、有用物質(例:サイトカイン、ホルモンなどの生理活性物質)の生産などの様々な用途に使用することができ、各用途に応じて、自体公知の方法により、例えば、注射、経口投与、皮膚・粘膜への塗布、吸引、噴霧、食餌、投入などに適した形態で製剤化したり、検出用試薬として調製したりすることができる。 本発明の遺伝子回路用のデバイスが使用される環境としては、例えば、昆虫細胞、昆虫、動物細胞、動物、植物細胞、植物などが挙げられる。
昆虫細胞としては、例えば、夜盗蛾の幼虫由来株化細胞(Spodoptera frugiperda cell;Sf細胞)、Trichoplusia niの中腸由来のMG1細胞、Trichoplusia niの卵由来のHigh FiveTM細胞、Mamestra brassicae由来の細胞、Estigmena acrea由来の細胞、蚕由来株化細胞(Bombyx mori N 細胞;BmN細胞)、Sf9細胞(ATCC CRL1711)、Sf21細胞などが用いられてもよい。
昆虫としては、例えば、カイコの幼虫、ショウジョウバエ、コオロギなどが用いられてもよい。
動物細胞としては、例えば、サルCOS-7細胞、サルVero細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、dhfr遺伝子欠損CHO細胞、マウスL細胞,マウスAtT-20細胞、マウスミエローマ細胞、ラットGH3細胞、ヒトFL細胞などの細胞株、ヒト及び他の哺乳動物のiPS細胞やES細胞などの多能性幹細胞、種々の組織から調製した初代培養細胞が用いられてもよい。また、ゼブラフィッシュ胚、アフリカツメガエル卵母細胞なども用いることができる。
動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ミンク等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、ヒト、サル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類、ゼブラフィッシュ、メダカ、キンギョ、コイ、マグロなどの魚類等が用いられてもよい。
植物細胞としては、種々の植物(例えば、イネ、コムギ、トウモロコシ等の穀物、トマト、キュウリ、ナス等の商品作物、カーネーション、トルコギキョウ等の園芸植物、タバコ、シロイヌナズナ等の実験植物など)から調製した懸濁培養細胞、カルス、プロトプラスト、葉切片、根切片などが用いられてもよい。
【0052】
本発明の触媒(例えば、タンパク質)の作製において使用される発現ベクターの種類は特に限定されず、例えば、大腸菌由来のプラスミド(例: pBR322、pBR325、pUC12、pUC13)、枯草菌由来のプラスミド (例: pUB110、pTP5、pC194)、酵母由来プラスミド (例: pSH19、pSH15)、昆虫細胞発現プラスミド (例: pFast-Bac)、動物細胞発現プラスミド (例: pA1-11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neo)、λファージなどのバクテリオファージ、バキュロウイルスなどの昆虫ウイルスベクター (例: BmNPV、AcNPV)、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルスなどの動物ウイルスベクターなどが用いられてもよい。
また、FLAGタグペプチド、HAタグペプチド、MYCタグペプチド、GFPタグペプチド、MBPタグペプチド、GSTタグペプチド、HISタグ、SNAPタグ、ACPタグ、CLIPタグ、TAPタグ、V5タグなどとの融合タンパク質を発現可能なベクターが用いられてもよく、具体的には、例えば、pSNAPfベクターが挙げられる。
【0053】
入力(活性化源)
本発明において使用される活性化源は、本発明の形状変化要素を駆動し得るものであれば、特に限定されないが、例えば、miRNA、siRNA、ショートヘアピンRNA、二本鎖RNA、lncRNA、1本鎖DNA、2本鎖DNA、核酸ナノ構造物(DNAオリガミ、RNAオリガミなど)、IPTG、酵素、タンパク質、核酸―タンパク質複合体、ペプチド、脂質、糖鎖、代謝物、イオン、コロイド、錯体、光線、pH、熱、電場、磁場が挙げられる。該活性化源は、本発明の遺伝子回路用のデバイスが使用される環境中に内在してもよく、外部から加えられてもよい。
【0054】
出力(産物)
本発明のスイッチにより出力される産物は、特に限定されないが、例えば、タンパク質(例えば、蛍光タンパク質、転写リプレッサー、転写アクチベーター、酵素、受容体タンパク質、リガンドタンパク質)、RNA(例えば、miRNA、siRNA、ショートヘアピンRNA、リボスイッチ、lncRNA)、DNA(例えば、1本鎖DNA)、イオン、代謝物(例えば、ATP)、核酸ナノ構造物(DNAオリガミ、RNAオリガミなど)、光、熱が挙げられる。本発明のスイッチにより出力される産物の量は、自体公知の方法により定量することができる。本発明のスイッチを複数用いる場合、一のスイッチの出力(産物)が、他のスイッチの活性化源(入力)として機能してもよい。また、本発明のスイッチにより出力される産物により、本発明の遺伝子回路用のデバイスが使用される環境(例えば、細胞)におけるタンパク質、RNA、DNA、代謝物等の合成を制御し得る。また、該タンパク質、RNA、DNA,代謝物等の合成の制御により、特定の疾患を検知及び/又は予防及び/又は治療し得る。また、該タンパク質、RNA、DNA、代謝物等の合成の制御により、反応容器において、特定の物質(例えば、バイオ医薬や、有害物質)の生産・分解効率を向上及び/又は低下させ得る。
【0055】
本発明において、形状変化要素の第1固定部と第2固定部の間の任意の固定部(例えば、第3固定部)と結合可能な、ベース部材上のアンカー部(例えば、第3アンカー部)は、該固定部と結合し得るものであれば、特に限定されないが、例えば、miRNA、siRNA、ショートヘアピンRNA、二本鎖RNA、lncRNA、1本鎖DNA、2本鎖DNA、核酸ナノ構造物(DNAオリガミ、RNAオリガミなど)、IPTG、酵素、タンパク質(リガンドタンパク質、受容体タンパク質など)、核酸―タンパク質複合体、ペプチド、脂質、糖鎖、代謝物、イオン、コロイド、錯体が挙げられる。また、上述の本発明の標的遺伝子、触媒、及び形状変化要素をベース部材に固定する際に使用するようなものを用いてもよい。
【0056】
結合用の活性化源
本発明において使用される結合用の活性化源は、第1固定部と第2固定部の間の任意の固定部(例えば、第3固定部)と、ベース部材上のアンカー部(例えば、第3アンカー部)との結合を活性化し得るものであれば、特に限定されないが、例えば、miRNA、siRNA、ショートヘアピンRNA、二本鎖RNA、lncRNA、1本鎖DNA、2本鎖DNA、核酸ナノ構造物(DNAオリガミ、RNAオリガミなど)、IPTG、酵素、タンパク質、核酸―タンパク質複合体、ペプチド、脂質、糖鎖、代謝物、イオン、コロイド、錯体、光線、pH、熱、電場、磁場が挙げられる。該活性化源は、本発明の遺伝子回路用のデバイスが使用される環境中に内在してもよく、外部から加えられてもよい。
【0057】
解放用の活性化源
本発明において使用される解放用の活性化源は、第1固定部と第2固定部の間の任意の固定部(例えば、第3固定部)と、ベース部材上のアンカー部(例えば、第3アンカー部)との結合を分離し得るものであれば、特に限定されないが、例えば、miRNA、siRNA、ショートヘアピンRNA、二本鎖RNA、lncRNA、1本鎖DNA、2本鎖DNA、核酸ナノ構造物(DNAオリガミ、RNAオリガミなど)、IPTG、酵素、タンパク質、核酸―タンパク質複合体、ペプチド、脂質、糖鎖、代謝物、イオン、コロイド、錯体、光線、pH、熱、電場、磁場が挙げられる。該活性化源は、本発明の遺伝子回路用のデバイスが使用される環境中に内在してもよく、外部から加えられてもよい。
【0058】
以下の実施例において本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【実施例】
【0059】
[材料と方法]
1.プラスミド構築及びタンパク質精製
SNAPfタグをコードする核酸配列を含むDNA断片を、pSNAPfベクター(NEB)を鋳型として用いてPCRによって増幅した。In−Fusion HD(Clontech)を用いてpQE−30(Qiagen)のT7 RNAポリメラーゼのN末端に連結した。sfGRP配列又はmCherry配列を、pET32b(Merck)のNdeI−EcoRI部位に挿入した。タンパク質生産効率を改善するため、mCherryの最初の21コドン(対応するアミノ酸配列:MVSKGEEDNMAIIKEFMRFKV(配列番号73))を、ATリッチな配列へと最適化した(オリジナル:ATGGTG AGC AAG GGC GAG GAG GAT AAC ATG GCC ATC ATC AAG GAG TTC ATG CGC TTC AAG GTG(配列番号71);最適化後:ATG GTT TCT AAA GGT GAA GAA GAT AAC ATG GCA ATT ATT AAA GAA TTT ATG CGT TTT AAA GTT(配列番号72))。最適化されたmCherry配列を用いた場合、PUREシステム(PURE frex 2.0)におけるタンパク質産生が、オリジナル配列を用いた場合と比較して4〜5倍に増加したことが、[35S]メチオニンを用いた定量により示された。かかる配列は、実施例6等において使用した。該組み換えタンパク質は、大腸菌BL21株において、N末端にHisタグを付与した状態で発現させた。通常、大腸菌細胞は1L培地で培養し、超音波破砕し、遠心し、次いで、該タンパク質を公知の方法(Y. Shimizuら、Cell-free translation reconstituted with purified components. Nat Biotechnol. 19, 751-755 (2001))を用いて、5mL容量のHisTrap HPカラム(GEヘルスケア)を用いて精製した。T7 RNAPSNAPfを、さらに、5mL容量のHiTrapQカラム(GE Healthcare)を用いて精製した。ピーク画分を採取し、HTバッファー(50mM HEPES−KOH、pH7.6、100mM塩化カリウム、10mM塩化マグネシウム、40%グリセロール、7mMβメルカプトエタノール)に置換し、液体窒素中で凍結した後、−80℃で保存した。
【0060】
2.足場及びオリゴヌクレオチド
一本鎖M13mp18DNAをNEBから購入し、DNAオリガミの足場として用いた。未修飾のステープル鎖は、オリゴヌクレオチド精製カートリッジ(OPC)グレードのものをSigma−Genosysより購入した。蛍光色素(Cy3及びCy5)で修飾したステープル鎖は、PAGE精製グレードのものをSigma−Genosysより購入した。2重ビオチンで修飾したステープル鎖は、HPLC精製グレードのものをIDTより購入した。アミノ基修飾したステープル鎖は、HPLC2回精製グレードのものをIDTより購入した。公知の方法(N. D. Derrら、Tug-of-war in motor protein ensembles revealed with a programmable DNA origami scaffold. Science 338, 662-665 (2012))に従い、ステープル鎖とGB−GLA−NHS(NEB、DMSO溶解)を混合することにより、SNAPリガンドをアミノ基修飾ステープル鎖に共有結合的に結合させた。精製したSNAPタグタンパク質を用いたゲルシフトアッセイにより、SNAPリガンドのラベル効率は95〜98%であると推定した。光架橋性塩基(cnvK:3−Cyanovinylcarbazole)修飾したステープル鎖は、HPLC精製グレードのものをつくばオリゴサービスより購入した。以下に本明細書で使用したプライマー等の配列を示す。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
【表4】
【0065】
【表5】
【0066】
【表6】
【0067】
【表7】
【0068】
【表8】
【0069】
【表9】
【0070】
3.DNAオリガミの構築及びT7 RNAPSNAPfの組立て
長方形のDNAオリガミタイル(1ターン当たり10.4bp)を、1×タイルバッファー(20mM Tris−acetate、pH7.5、10mM酢酸マグネシウム、1mM EDTA)中で折り畳んだ。通常、40nMの一本鎖M13mp18DNA(NEB)と110nMの各ステープル鎖(3倍等量超)を1×タイルバッファー中で混合し、PCR装置(Bio−Rad)を用いて、1℃/30秒の平均速度で、85℃から25℃に温度を下げることでアニールさせた。折り畳まれたDNAオリガミタイルを、MicroSpin S−300 HRカラム(GE Healthcare)にロードし、過剰量のステープル鎖を除去した。次に、DNAオリガミタイルを20倍等量のStreptavidin(SA)と混ぜ、23℃で10分間反応させ、SAを結合させた後に、MicroSpin S−400 HRカラム(GE Healthcare)にロードし、過剰量のステープル鎖を除去した。最後に、T7 RNAPSNAPfをDNAオリガミに混合し、公知のトーホールド置換メカニズム(toehold displacement mechanism)を介したDNAコンジュゲート磁気ビーズ(Dynabeads MyOne Streptavidin C1、Thermo Fisher Scientific)を用いて精製した(T7−SA−チップ。T. Torisawaら、Autoinhibition and cooperative activation mechanisms of cytoplasmic dynein. Nat. Cell Biol. 16, 1118-1124 (2014))。
【0071】
4.T7チップ上への第1及び第2の遺伝子の固定
第1の遺伝子は、アビジン−ビオチン法を用いてDNAオリガミタイルに結合させた。2重ビオチンで修飾したプライマーを用いてPCRを行い、そのPCR産物を、未精製又はアガロースゲル精製を行った状態のいずれかで用いた。また、必要に応じて濃縮を行った。続いて、2重ビオチンが結合した遺伝子を、T7−SA−チップと混ぜ、精製せずに活性評価に用いた。第2の遺伝子は、修復法によってDNAオリガミタイルに集積化(integrate)させた。まず、2重ビオチンが結合した第2の遺伝子を、20倍等量のStreptavidin(SA)と混ぜ、23℃で10分間反応させ、SAを結合させた後に(SA−gene)、1%アガロースゲルを用いてゲル切り出し精製を行った(1xTAEバッファーで30分泳動)。精製したSA−Geneは遠心エバポレーター(TOMY MV−100)で200−250nM程度に濃縮した。続いて、DNAオリガミタイルを、1つを除く全てのステープル鎖でアニールした。第1の遺伝子を組み込んだ後、折り畳まれたDNAオリガミを、2重ビオチンタグを5’末端に有する、組み込まれなかったステープル鎖(5倍等量)と共に50℃で1時間反応した後にMicroSpin S−400 HRカラム(GE Healthcare)にロードし、過剰量の追加ステープル鎖を除去した。次いで、ストレプトアビジンでプレコンジュゲートした第2の遺伝子をDNAオリガミタイル上に固定した後、T7 RNAPSNAPfを混ぜ、上記の磁気ビーズ法によって精製して実験に用いた。サンプルの収率を、アガロースゲル電気泳動及びAFMによって推定した。アガロースゲルを、FLA−3000イメージアナライザー(Fujifilm)によって撮像した。
【0072】
5.センサー付遺伝子のT7チップへの固定
センサー付遺伝子を、上記と同様の方法によってT7チップ上に固定した。ただし、一部のセンサー付遺伝子は2重ビオチンの代わりにビオチンを用いた。センサー付遺伝子の大半は(miRNAを産生するセンサー付遺伝子を除く)、4℃で30分、T7チップと共にインキュベートし(5nMセンサー結合遺伝子及び0.5nMのT7チップ)、精製することなく用いた。miRNAを産生する論理チップを、上記の磁気ビーズ法によって精製した。自由拡散系の基質遺伝子に対するT7チップの見かけのKm値がμモルオーダーであったことから、sfGFPのORFを有する、過剰量の自由拡散系のセンサー結合遺伝子はT7チップによっては転写されないことが確認された(μモルオーダーのKm値は200bpの基質遺伝子長に至ることが確認された(データ非開示))。
【0073】
6.再プログラム可能なチップの作製と論理の書き換え
光架橋性塩基がついたステープルは、まず、UV光(365nm)を用いて架橋反応(室温、30分)を行った後に、ゲル切り出しを行い(15% Urea−PAGE泳動、300V、60分)、カラム(QIAGEN社 nucleotide removal column)精製した。精製した架橋済みステープルは乾燥させ、TEで溶かした後に、他のステープルと混ぜ、上記と同様の方法で、遺伝子付のT7チップを作製した。論理の書き換えは、別の波長のUV光(312nm)を照射し(4℃、10分)、行った。
【0074】
7.個体(生体)内におけるRNA産生
Cageのスキャフォルド(3614nt)を、2つの方法で調製した。1つ目の方法では、自体公知の方法(P. Shresthaら、Confined Space Facilitates G-quadruplex Formation. Nat. Nanotechnol. 12, 582-588 (2017))に従った。市販の1本鎖DNAのp8064スキャフォルド(tilibit nanosystems/Eurofins Genomics)に2つの相補的DNA(TAAGGGAAAATTAATTAATAGCGACGAT (PacI用)と(TAGCCTTTGTAGATCTCTCAAAAATA (Bg1II用))を加えた後、制限酵素(PacI/Bg1II)でp8064スキャフォルドを2箇所切断し、長さ3614ntの1本鎖DNAを得た。2つ目の方法では、自体公知の方法(Veneziano Rら、Enzymatic synthesis of gene-length single-stranded DNA. Sci Rep. 8, 6548 (2018))に従い、非対称増幅PCR(asymmetric PCR)で該当箇所を増幅し(Forward primer: "p8064_F4475_20nt" TAATAGCGACGATTTACAGA、Reverse primer: "p8064_R24_23nt" TACAAAGGCTATCAGGTCATTGC、PCR酵素: Quanta社 AccuStart Taq DNA Polymerase HiFi)、ゲル切り出しで1本鎖DNAを精製した後に使用した。実験には主に非対称増幅PCRで作製した1本鎖DNAスキャフォルドを使用した。Cageの組み立ては、自体公知の方法(P. Shresthaら、Confined Space Facilitates G-quadruplex Formation. Nat. Nanotechnol. 12, 582-588 (2017))に従った。通常、20nMの一本鎖スキャフォルドと80nMの各ステープル鎖(4倍等量超)を1×Cageバッファー(20mM Tris−HCl、pH7.6、10mM塩化マグネシウム、1mM EDTA)中で混合し、PCR装置(Matsusada)を用いて、65℃ 15分置いた後に、50℃に1時間置き、アニールさせた。折り畳まれたCageを、MicroSpin S−200 HRカラム(GE Healthcare)にロードし、過剰量のステープル鎖を除去した。RNAPや標的遺伝子の固定は前述の方法に従った。作製したCage(約5nM)は、マイクロインジェクターを用いてゼブラフィッシュの初期胚に導入した。その際、産生された新生RNA鎖の分解を防ぐため、新生RNA鎖の末端に結合するモルフォリノオリゴ(10μM)をCage溶液に混ぜた。インジェクション後、28℃で1時間インキュベーションした後に、トライゾール液やDNaseI酵素処理等を用いて、RNAを抽出した。合成されたRNA量を、キット(TAKARA PrimeScript RT Master Mix)を用いて逆転写反応を行った後に、リアルタイムPCR装置(Applied Biosystems社 StepOne Realtime PCR system)でSYBR Green Iを用いて確認した。
【0075】
8.AFMイメージング
高速AFM(Nano Explore,RIBM)をイメージングに用いた。サンプルを、AFMイメージングバッファー(20mM Tris−acetate、pH7.5、10mM Mg(OAc))で希釈し、マイカ表面に浸し、公知の方法に従って、タッピングモードでイメージ化した(O. I. Wilnerら、Enzyme cascades activated on topologically programmed DNA scaffolds. Nat. Nanotechnol. 4, 249-254 (2009))。
【0076】
9.転写アッセイ
転写活性は、転写バッファー(10mM HEPES−KOH、pH7.6、10mM MgCl、2.5mM DTT、0.5mM スペルミジン、1.25mMの各NTP、0.25μg/ml PPIase、12.5mM GMP)中で、[α32P]−UTP(ParkinElmer、NEG007H)を用いて、37℃で測定した。転写産物をPAGEで分析し、BAS−5000(FujiFilm)で画像化した。転写産物は、[α32P]−UTPの段階希釈プロットによって作成した検量線を用いて定量した。
【0077】
10.PUREシステムにおける転写−翻訳共役アッセイ
反応は、PUREfrex2.0中において、37℃で行った。T7チップ又はT7遺伝子チップを用いたナノチップアッセイに関しては、自由拡散系のT7 RNAPを除き、反応の各時間にナノチップを添加した。転写産物は、上述の方法により分析した。タンパク質産生に関しては、RI、又はsfGFP及び/又はmCherryの蛍光強度により測定した。RI分析では、[35S]−メチオニンを使用し、タンパク質をSDS−PAGEにより分析し、BAS−5000で画像化した。蛍光強度分析においては、qPCR装置(StepOne、ABI)を、タイムラプスインキュベーターとして用いた。図2Eに示されるデータに関しては、反応混合物を、励起フィルターであるFF01−475/35及びFF01−482/563−25(Semrock)を用いたLED(Light Engine,Lumencor)によって励起し、該励起光源をダイクロイックミラー(Di01−R488/561、Semrock)で反射させ、その蛍光イメージをiPhone(登録商標)5で記録した。
【0078】
11.人工細胞形成のためのマイクロ流体装置
ポリジメチルシロキサン(PDMS)装置は標準的なソフトリソグラフィ及びモールドレプリカ技術を用いて調製した。該装置は2つの注入口(オイル用及び水溶液用の注入口)、1つの排出口、並びにflow−Focusingジャンクションから構成される(図3A)。主な流路及びflow−focusing constrictionの幅は、それぞれ、100μm及び40μmであった。全ての流路の高さは、50μmであった。マイクロ流体装置の流路の表面を、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)ジメチルクロロシラン(Gelest、SIH5840.4)で被覆することで流路壁の液滴による湿りを防止した。PDMSは、DOW CORNING TORAY(SILPOT 184W/C)から購入した。
【0079】
12.人工細胞構築及び転写−翻訳活性の観察
油中水(w/o)液滴は、上述のPDMSベースのマイクロ流体装置を用いて生成させた。簡潔に説明すると、PDMS装置の1つの注入口をオイル(98% v/v ミネラルオイル(Sigma、M5904)、及び2% v/v ABIL EM90(Cetyl PEG/PPG−10/1 Dimethicone、EVONIK))で満たし(図3A中の注入口1)、もう一方の注入口を水溶液(遺伝子基質を含むPUREシステム水溶液)で充填した。20℃で、オイルに対しては40kPaの空気圧で、PUREシステムに対しては20kPaの空気圧で溶液を流し、直径20μm、容積4pLのw/o液滴を100Hz(10液滴/秒)で生成させた。液滴形成過程はハイスピードカメラ(DigiMo、LRH2500XE)でモニターし、自作のVisual Basic .NET2010(Microsoft(登録商標))プログラムの補助下、手動で圧力を調整した。PUREシステム成分の非特異的な結合を防ぐために、過剰量のアミノ酸(f.8mMをPUREfrex2.0に添加し、且つ、PDMSの表面をBlockmaster(商標)PA651(JSR Life Sciences Corporation)でさらに被覆した。加えて、データの再現性を改善するために、自由拡散系のT7 RNAP酵素を用いたDNA(PCR産物)開始型実験では、T7 RNAP濃度を100nMに増加させた。PDMS装置中において37℃で3時間インキュベートした後に、サンプルをピペットで採取し、クォーツ製カバーガラス(7980 standard grade、corning)上に置き、逆位相型顕微鏡(IX−70、Olympus)で観察した。sfGFP及びmCherryの蛍光イメージは、W−View(HamamatsuPhotonics)を用いて分離し、そして電子倍増型CCDカメラ(iXon Ultra 897、Andor)に、並べて投影した。イメージを、0〜100のEMゲインで1秒当たり1〜10フレームの速度で記録し、ImageJを用いて分析した。検量線は、大腸菌から精製したsfGFPとmCherryタンパク質を用いて作成した。
【0080】
13.酵素・基質衝突効率曲線の予測
DNAの剛性は3つのパラメーター:伸長、折り曲げ、及びねじれ、によって決定されるが(Y. Miyazono, M. Hayashi, P. Karagiannis, Y. Harada, H. Tadakuma. Strain through the neck linker ensures processive runs: a DNA-kinesin hybrid nanomachine study. EMBO J. 29, 93-106 (2010))、衝突効率の推定に際して、折り曲げ効果のみを考慮した。計算に関しては、DNAの末端がWorm−Like Chain(WLC)モデル(以下式:Eq.S1)(D. Thirumalai, B. Y. Ha. Theoretical and Mathematical Models in Polymer Research, ed. Grosberg, A. (Academia, New York), pp. 1-35 (1988))に従って挙動すると仮定した。なお、該モデルは、ポリプロリン残基を用いて実測されており(B. Schuler, E. A. Lipman, P. J. Steinbach, M. Kumke, W. A. Eaton. Polyproline and the "spectroscopic ruler" revisited with single-molecule fluorescence. Proc Natl Acad Sci U S A 102: 2754-2759 (2005))、以下の式で表される:
【0081】
【数1】
【0082】
式中、rはDNAの末端間の距離、LはDNAの輪郭長、P(r)はrを有するDNAの確率、lpはDNAの折り曲げ持続長、及びCは標準化係数である。単純化のため、lp=50nm(図12B)及び30nm(図12C)の1次元分布を検討した。
【0083】
[実施例1]酵素・基質複合体の足場の調製
酵素・基質複合体の足場として、Rothemundの長方形DNAオリガミを用いた。まず、SNAPタグのリガンドが結合しており、DNAオリガミから突出しているハンドル上に、SNAPfタグタンパク質を融合させたT7 RNAポリメラーゼ(T7 RNAPSNAPf)を共有結合によって取り付けた(図1A)。T7 RNAPSNAPfが結合していることはゲル分析(図1B、C)と原子間力顕微鏡(AFM)イメージング(図1D)によって確認した。DNAナノ構造体(T7チップ)にT7 RNAPSNAPfが結合したものが高収率(〜95%)で得られたことを確認した。T7チップの転写活性は、ミカエリス・メンテン型の動態を示した(図1E、F、図5)。しかし、チップに組み込まれていない拡散系の基質遺伝子に対する見かけのKm値は、固定されていない自由拡散系のT7 RNAPSNAPfのKm値と比較して約200倍大きかった(図1F)。942 ntからなるsfGFP遺伝子の転写に関するT7チップのKm値は1000nMであり、自由拡散系のT7 RNAPSNAPfのKm値は5.6nMであった。これは、チップ外で拡散している基質遺伝子に対してT7チップは親和性が低いことを示している。また、T7チップのVmax値は、自由拡散系のT7 RNAPSNAPfのVmax値よりも低く、それぞれ、34nt/s(T7チップ)及び62nt/s(自由拡散系のT7RNAPSNAPf)であった(図1F)。これらの結果は、T7チップが外来基質遺伝子を転写しにくいことを示している。
【0084】
[実施例2]アビジン・ビオチンを用いた基質遺伝子のチップへの結合
次に、アビジン・ビオチン相互作用を介して基質遺伝子をT7チップに一体化させた(T7遺伝子チップ、図6)。分子配置をnm単位の正確性で調節できるDNAオリガミの長所を活用した。グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)やマレイン酸デヒドロゲナーゼ(MDH)等の酸化還元カスケードを担う酵素では、中間媒体基質のNADがチャネリングするときの分子間距離依存性が観察されていることから、高分子量のポリマー基質もまた、酵素(RNAP)及び基質遺伝子の分子間距離に対する依存性を示すと予測した。加えて、結合方向(すなわち、5'末端や3'末端)や固定位置とプロモーター配列のリンカー長等のポリマー−基質特性に関わる何らかの特異点が存在するはずであると考えられた。そこで、RNAPと基質遺伝子の分子間距離が4、24、32、50及び70nmとなるように基質遺伝子を固定する部位を5カ所設定した(図2A)。5つの複合体の収率は、69−83%の範囲であった(図7)。5’末端近傍(5’末端から44nmの距離にある)にプロモーターを挿入した遺伝子の5’末端側又は3’末端側でチップに結合させ、転写活性を比較した。その結果、5’末端側でチップに結合させた方が、3’末端側でチップに結合させるよりも転写活性が高かった(図2B図8図9)。これにより、固定位置からプロモーター配列までの長さであるアーム(リンカー)長とプロモーター配列と酵素の間の付随する衝突効率が、転写活性に影響することが示唆された。5’末端を固定したT7遺伝子チップの活性は、酵素と基質遺伝子間が約50nmの距離にあるときに最大となった。ここで注目すべきは、この結果は、低分子中間基質NADで報告されていた結果と比較して著しく対照的であったという点である。既報の結果では、NADは、一本鎖DNA(ssDNA)アンカーでDNAオリガミに固定されており、GDH酵素とNAD基質の距離が短くなるにつれて酵素活性が上昇し、一方で分子間距離を0nmから10−20nmへと広げるにつれて、当該酵素活性を亢進させる効果は減退した(O. I. Wilnerら、Enzyme cascades activated on topologically programmed DNA scaffolds. Nat. Nanotechnol. 4, 249-254 (2009).;J. Fuら、Interenzyme substrate diffusion for an enzyme cascade organized on spatially addressable DNA nanostructures. J. Am. Chem. Soc. 134, 5516-5519 (2012).;J. Fuら、Multi-enzyme complexes on DNA scaffolds capable of substrate channelling with an artificial swinging arm. Nat. Nanotechnol. 9, 531-536 (2014))。この結果は、アンカーアーム(リンカー)の剛性(乃ち、二本鎖DNAをリンカーに用いたT7遺伝子チップと、一本鎖DNAをリンカーに用いたGDH−NAD対)の違いが、酵素に対するプロモーター配列の衝突効率及び付随する酵素活性に強く影響することを示す。
【0085】
[実施例3]ナノチップの反応速度特性の測定
準最適条件において、ナノチップの反応速度特性を測定した。まず、チップ内遺伝子とT7 RNAPSNAPfの衝突効率が有効濃度に対応するものと仮定して、競合アッセイを介して、T7遺伝子チップに一体化させたチップ内遺伝子有効濃度を見積もった。おおよそ1nMのT7遺伝子チップと、チップ外の競合因子として0−2000nM DHFR遺伝子を用いた競合アッセイに基づくと、該一体化させた遺伝子の有効濃度は2μM超と見積られた(図2C図10)。
【0086】
[実施例4]ナノチップの直交性の確認
次に、ナノチップの直交性についても確認した。RNAPしか結合していないナノチップ(T7チップ)又は基質遺伝子しか結合していないナノチップ(遺伝子チップ)の2種類を調製したが、これらは殆んど転写が見られなかったことから、基質遺伝子の直交性が確認された(図11)。5’末端側で固定したT7遺伝子チップのVmax値は87nt/sであり、自由拡散系のT7 RNAPSNAPf の値(62nt/s)よりも大きかった。理論に拘束されることを望むものではないが、本結果は、強固に結合した水和層の作用、又はその他の機構(例えば、表面近傍のpHが、他の大部分におけるpHよりも小さい等)の作用を介して、多価陰イオン性の表面に固定された酵素の活性が促進され得ることを反映している可能性がある。
【0087】
[実施例5]酵素活性に影響を与える分子間距離の検討
次に、基質遺伝子固定部位(アンカー部位)とプロモーター配列間のリンカー長や、RNAP及び基質遺伝子固定位置間の距離を変えることにより、分子間距離が活性に与える影響を調べた(図2D、E)。異なるリンカー毎の分子間距離依存性により異なるピークプロファイルが生じ、これらはDNAのワーム・ライク・チェイン(WLC)モデルを前提とする予測衝突効率曲線におおよそ従っていた(図12)。分子間距離を変更することで転写活性が変化したことから、2つの遺伝子の発現量を、その分子配置を変更することにより調節できることが期待された(図2E)。そこで、RNAPと2つの遺伝子(sfGFP及びmCherry)の分子間距離を調節し得るT7遺伝子チップを調製した。無細胞翻訳システム(PUREシステム)におけるT7遺伝子チップの転写活性及び付随する翻訳活性は、それらの発現比から、当該2遺伝子の相対的な分子間距離依存性を明確に示しており(図2E図13)、これは、各々の分子間距離を調節することによって、複数の遺伝子発現モジュールを合理的に設計できることを示している。乃ち、上記結果は、DNAオリガミテクノロジーのナノレベルでの分子配置能力により、直交性の転写ナノチップを合理的に設計し得ることを証明している。
【0088】
回路間のクロストークを完全に回避することが困難であることから、合成生物学における重要な課題は、細胞サイズの閉鎖系反応容量中において複雑な遺伝子回路を構築することといえる。電子コンピュータ工学では、論理チップのユニットを組み合わせて用いることにより、論理回路の各サブセットが閉鎖領域に配置された、高性能の大規模な回路(例えば、LSI(大規模集積回路))が製造される。仮に、閉鎖されたチップ内において、あるシグナルを感知し、論理演算を実行し、且つ、出力を生成することができる直交性ユニット要素が存在するならば、生物学的遺伝子回路においてもまた電子工学におけるアプローチと同様のアプローチを採用し得る可能性があり、かかるアプローチは、同一のナノチップ上に必要とされる要素の全てを一体化させることができ、且つ、直交性の転写ナノチップの合理的設計を達成可能なDNAオリガミ技術を用いることにより実現し得る可能性がある。
【0089】
[実施例6]ナノチップが単一ユニット要素として機能し得るかの確認
先ず、ナノチップが単一ユニット要素として機能し得るかを、極度に希釈されたナノチップの活性を測定することにより確認した。そのために、人工細胞を模したPURE無細胞翻訳システムを含有する油中水(w/o)滴内に、ナノチップを封入した。次いで、当該油中水(w/o)滴内における、1)結合ナノチップシステムの遺伝子発現活性を、2)DNAによって開始される拡散反応をベースとした系の遺伝子発現活性、又は3)mRNAによって開始される拡散反応をベースとした系の遺伝子発現活性と比較した(図3A)。チップ濃度が1チップとなるまで液滴中のチップ濃度を低下させた。期待していた通り、3つの系全てにおいて、核酸基質濃度を下げるにつれてタンパク質の全産生量は減少した(図3A図14)。しかし、mRNAが開始させる反応においては、他の2つの系に比べて、sfGFPタンパク質を産生するために必要な基質濃度が3オーダー高かった。この違いは、他の2つの系が転写での追加的増幅を経ているのに対して、mRNAが開始させる反応では翻訳段階によってしか遺伝子発現が増幅されないとの事実を反映している可能性がある。さらに遺伝子濃度を低減することにより、各人工細胞は不均一な蛍光強度を示し、遺伝子濃度の低下に伴って蛍光を発さない細胞数が増加した(図3A、B)。0.8pMのナノチップ濃度では、各細胞の蛍光強度分布は、約1500(a.u.)の間隔で量子化された特有のピークを示した。0.4pMのナノチップ濃度では、ピーク数は1つまで減少し、大半の細胞は蛍光を発さず、僅かな細胞だけが約1450±117(a.u.)(n=3、12nMのsfGFP分子に相当)のピークを示した。これは、該後者のピークが、単一のナノチップを有する人工細胞に相当することを示す。自由拡散系のDNA遺伝子の系では、100nMの自由拡散系のRNAPを用いた場合に、約1310±466(a.u.)(n=3)のピークを示し(図4B)、これより単一のナノチップの活性は100nMの自由拡散系のRNAP(すなわち、直径20μmの人工細胞において10〜10分子)の活性と同等であることが示された(図14)。これらの結果は、ナノチップの高い転写活性を示すバルク実験(図1F図2B)と合わせると、バルク溶液及び人工細胞系において、ナノチップは基質遺伝子を効率的に転写していることを示す。なお、本発明者らは2遺伝子の共発現アッセイを用いて、必要な要素全てを同一ナノチップ上に固定できることも確認した(図15)。
【0090】
[実施例7]論理チップとしてナノチップが機能し得るかの検討
ナノチップがユニット要素(素子)として機能することを確認した後、ナノチップが、あるシグナルを感知し、論理演算を実行し、アウトプットを生成し得る論理チップとして機能するかどうかを調べた。この目的のために、同一チップ上にセンサー及びアクチュエータ(RNAP酵素)を組み合わせ、ナノチップ上に論理ゲートを固定させた(図16図17)。これにより、感知されたシグナルは演算され、出力に直接変換される。
【0091】
[実施例8]論理チップの再プログラムの検討
ナノチップが論理チップとして機能することを確認した後、ナノチップに搭載されている論理が、作製後に書き換え可能かを調べた。この目的のために、光架橋性塩基が入ったステープルをチップに導入し、センサーを結合させた(図4)。これにより、搭載センサーは、UV光照射の有無で、論理内容が変更される。
【0092】
<センサー設計の3つの重要な要素>
本実施例では、核酸ベースの生体高分子を含むセンサーを使用した。そのため、以下の3つの重要な要素が考慮された(図17A)。
【0093】
1)センサーの剛性
センサーの剛性が酵素・基質間の衝突効率の分子間距離依存性を決定する。DNAのワーム・ライク・チェイン(WLC)モデルを想定することで、dsDNAリンカーが予測される衝突効率曲線に概ね従うことが示された。
【0094】
2)RNAPのスキャニング能力
RNAPは、プロモーター領域外の他の配列と相互作用し、dsDNAに沿って長距離を移動することができる。この特徴は、センサー(リンカー)の剛性に基づく予測値を超えてRNAPがアクセスし得る領域を拡大し得る可能性がある。
【0095】
3)RNAPの引張力
統合システムでは、センサーとRNAPは剛性の足場に固定されており、これにより両者に内部張力(力)がもたらされる。具体的には、引張(伸張)力がセンサーにかかり、アシスト力がRNAPにかかった。引張力とアシスト力の影響を評価するために、それぞれを順に検討した。引張力に関しては、シグナル(miRNA)の非存在下であってさえも、いくらかの「ONスイッチ」がセンサーのステムループの平衡定数より計算された値よりも高いリーク活性を有していた(図18D)。例えば、センサーの二次構造形成における自由エネルギー変化ΔGが約−5kcal/molである場合、平衡定数K=exp(−ΔG/RT)は数千のオーダー(約3400)であり、センサーの大部分は折畳まれた状態となる。しかしながら、ΔGが約−5kcal/molでは、センサーは、miRNAシグナルが存在しない場合ですら、半分活性化した。このリークは、引張(伸張)力の影響によって説明できると推測された。そこで、ΔGを指標とした引張力の影響を検討した。アシスト力に関しては、微小管に沿って移動するキネシンモータータンパク質は高い負荷依存性を有する一方で、高いNTP濃度においてRNAPの負荷依存性は低いとの事実を考慮し、ナノチップ設計に関しては、RNAPにかかる引張(伸張)力の影響のみを考慮し、アシスト力は考慮しなかった。
【0096】
<効果的なセンサーアーム長への引張(伸張)力の影響>
本実施例においては、miRNAプロファイルを検出するために、ssDNAドメイン及びdsDNAドメインを有するセンサーを設計した(図17B)。前者のssDNAドメインはmiRNA結合部位を提供し、後者のdsDNAドメインは剛性スペーサーとして働く。テンションが無い場合、ssDNAは柔軟なバネとして挙動するため、dsDNAリンカーに隣接し、それ故プロモーター領域に近接するssDNAの自由末端は、ssDNAの他方の末端(アンカー側の固定末端)に近づくべきである。しかし、上記のように、RNAPのスキャニング能力と引張力がリンカー長を伸ばし、これにより自由端とプロモーター領域が高分子量ポリマーのモデル(例えば、WLCモデル)から予測される領域より広い領域にアクセスできると考えられた。そこで、実験によって単純化した経験則を決定した。
【0097】
miRNA結合に際して、リンカーのmiRNA結合部位はDNA−RNAハイブリッド二本鎖(dsD/RNA)を形成した(図18A参照)。dsD/RNAがdsDNAと類似した物理的性質を有すると仮定すると、dsDNAの持続長(150bp)よりも短い、21〜22bpのdsD/RNAは、剛体棒とみなすことができる。簡略化のため、以下の仮定を用いた:先ず、実際にはssDNAはdsD/RNAの両末端に位置するが、ssDNAが一方の末端にのみ存在するものと仮定した。加えて、リンカーの二本鎖部分が剛体棒であり、且つ、RNAPによって伸長される一本鎖部分がヌクレオチド当たり一定の平均長を有すると仮定した。
【0098】
上記仮定全てを考慮すると、センサーアームの有効長(アンカー位置から始まり、プロモーター配列で終わるリンカー部分として定義される)は、ON及びOFF状態に関し、以下のとおり定義される:
【0099】
【数2】
【0100】
【数3】
【0101】
(式中:CdsDNA=定数 ここでは0.34(nm/bp)
ssDNAoff:off状態におけるssDNAに対する未決定の定数
ssDNAon:(RNAPによって伸ばされた)on状態のssDNAにおける未決定の定数
dsDNA:センサーのdsDNA部分における塩基数
dsD/RNA:dsD/RNAの塩基数 ここではNx(21−22)
(N:miRNA結合部位の数)
ssDNAoff:off状態のセンサーにおけるssDNA部位の塩基数
ssDNAon:on状態のセンサーにおけるssDNA部位の塩基数。)
【0102】
有効なセンサーアーム長を予測するために、未決定の定数:CssDNAoffとCssDNAonを決定した。先ず、CssDNAoffを検討した。テンションがなければ、CssDNAoff値は小さくなる。しかしながら、RNAPにより引っ張られた場合、CssDNAoff値は大きくなり得る。効果的なセンサーアーム長を予測するために、最大アーム長を見積もる必要がある。それ故、テンションが働く状況下のCssDNAonに近似することができる、テンションが働く状況下のCssDNAoffの決定を試みた。これにより、テンションが働く状況下のCssDNAoff及びCssDNAonと同等である、新しい定数CssDNAを導入した。ssDNA(0−60nt)及びdsDNA(25−85bp)を含むリンカーの長さを変えながら、酵素と基質間の固定された分子間距離(50nm、図17C)でチップ活性を測定した。同一のdsDNAリンカー長を用いた場合、短いssDNAリンカーを有するセンサーアームは短すぎてチップ活性を活性化することができず、一方、長いssDNAリンカーを有するセンサーアームは活性化に対して十分な距離を有する(図17C)。OFFからONへの切り替わる転換点のアーム長を仮定した場合、異なるssDNA/dsDNAの組み合わせを用いて得られたデータセットは、推定されるセンサーアーム長に従って、類似の活性プロファイルを示し得る。この仮定を用いることにより、テンションが働く状況下でのCssDNA値は、本実験の実験条件下において約0.23nm/ntと推定された(図17D)。該データは、センサー活性のリークがない場合、ON/OFF比が数百にまで達することも示唆している。
【0103】
以後、センサーを設計する上で、ssDNA及びdsDNAについて、それぞれ0.23nm/nt及び0.34nm/bpを用いて、センサーアーム長を推定した。
【0104】
センサー設計に関しては、ナノチップの長所を活かし、酵素及び遺伝子の分子間距離を制御することで、遺伝子発現プラットフォームを合理的に設計した。例えば、シグナル(例、miRNA)がない場合は、ステムとループから構成される「ONスイッチ」のプロモーター配列はRNAPに届かなかったが、シグナルのハイブリダイズ時は、トーホールド(Toe−hold)の変形が起こり、転写を開始するに十分な到達距離まで「ONスイッチ」アームを伸長させた(図4A図18−21)。分子間距離を制御する類似アプローチを逆方向の調節に用いることで、「OFFスイッチ」を製造することができる(図22)。「ONスイッチ」には直交性があることから、2つ又は3つの異なる「ONスイッチ」を単純に直列に接続することで、「ANDスイッチ」を構築することができ(図4B、C、図23図24)、当該ANDスイッチは、単一チップでも作動した(図23図24)。合成遺伝子回路において3入力ANDスイッチは6つのサブスイッチ及び計47の因子を必要とし(文献Nielsen et al., Science. 352, aac7341, 2016)、多数の分子を含むため、かかる構成要素をさらに組み合わせての演算回路の作成には困難を伴う。入力シグナルと動作環境はかなり異なるが、単一のナノチップ分子は論理的には47の因子からなる複雑な遺伝子回路と同等の機能を有し、これは合成遺伝子回路が、さらに簡易化できる可能性を示唆している。
【0105】
<ONスイッチの構造>
有効なセンサーアーム差を最大化するために、ステムループ構造を使用した(図18A)。ステムループ構造では、OFF状態においてセンサーアームの末端間距離は短く(数nm程度)、miRNAハイブリダイゼーションにより誘導される展開時には、その末端間距離は転写を活性化するのに十分な長さとなる。ステムループは、トーホールド(T)、ハイブリダイゼーション(H)、ループ(L)、アンチハイブリダイゼーション(H*)、及びステムループとリンカーの他の部分との間のスペーサーの5つのドメインを有する。トーホールドドメイン及びハイブリダイゼーションドメイン(図18B)に結合するmiRNAは、先ずトーホールドドメインに結合し、次にステム構造に侵入し、最後にステムループを展開する。ポリT配列を含むループドメインは、OFF/折畳み状態(miRNAハイブリダイゼーション前)におけるmiRNAに対する親和性の向上に寄与するとともに、ON/展開状態(ハイブリダイゼーション後)におけるセンサーアームの到達距離の延長に寄与している。安定したハイブリダイゼーションをサポートするために、ステム構造の根元に「サポートハイブリダイゼーション(support hybridization)」をさらに導入した。スペーサーは、miRNAのセンサーへの結合に影響する立体障害を防ぐために導入した。
【0106】
<ONスイッチ設計における主な要素>
ONスイッチの設計にステムループ構造を使用したことにより、スイッチのON/OFF状態それぞれに対して重要な因子が存在する。センサーアームがmiRNAのハイブリダイゼーションによって伸張するON状態では、プロモーター配列のRNAPへの効率的な衝突を保証するためにセンサーアームを十分に伸長させることが極めて重要である。従って、dsDNA及びssDNAリンカードメインを含むセンサーアーム(図17B)の到達距離(有効な末端間距離)が重要な要因である。ssDNAリンカードメインはmiRNAハイブリダイゼーションによって変形し展開するが、短いdsDNAは一定の長さを有する剛体棒とみなし得ることから、ssDNAリンカードメインの有効長が重要となる。ステムループ構造が折畳み形態をとるOFF状態では、ステム構造の安定性が、リーク活性の阻止及びmiRNA結合のためのループ部分の自由度を十分な程度に維持するために極めて重要である。従って、センサーの二次構造形成における自由エネルギー変化ΔG、及びループ長が重要な要因となる。
【0107】
<センサーアーム長>
dsDNA及びssDNAのリンカードメインを含むセンサーアーム長を検討した。上述した通り、ssDNAリンカードメインはmiRNAハイブリダイゼーションの際に展開されるが、短いdsDNAリンカードメインは一定の長さを有する剛体棒とみなし得る。それ故、OFFからON状態への切り替えにおける有効センサーアーム長の違いは、主に、ssDNAリンカードメインの変化に起因する(図18C)。したがって、dsDNA及びssDNAのリンカーの最初の試行におけるリンカー長を決定する目的で、先ず、ssDNAリンカードメインについて検討した。
【0108】
ssDNAリンカードメイン長に関しては、2つの限界点(必要な長さの最小値及び利用可能な長さの最大値)を検討することができたが、dsDNAリンカードメインを長く(又は短く)することによって、有効センサーアーム長の不足(又は過剰)を相殺できることから(図17D)、ここでは利用可能な最大長について検討した。実験的に利用可能なヌクレオチド長は、1)市販のDNA合成サービスの最大ヌクレオチド長(Nservice、ONスイッチについて90nt)、及び、2)センサー結合基質遺伝子に対するPCRプライマーの最大ヌクレオチド長(Nmax−primer、ONスイッチについて31nt)が限界である。従って、本実施例において利用可能な最大のssDNAリンカードメイン長は、59nt(=90−31)であった。
【0109】
ssDNAリンカードメインについて最初に試行する長さを59ntと設定し、次に、センサーアーム長の残りの部分であるdsDNAリンカードメインについて検討した(図17B)。ssDNAリンカーとしてポリT配列を用いた実験結果(図17D)を考慮し、65ntのdsDNAリンカーのデータ(図17D)が、ssDNAリンカーが展開時に大部分のOFFからONへの切り替えをカバーしたことから、最初の試行長として45ntのdsDNAリンカーを選択した。miRNAハイブリダイゼーション後のセンサーアームの二本鎖部分の塩基数は、45ntのdsDNAリンカーを有することから、67ntであった(NdsDNA+NdsD/RNA=45+22=67nt)。
【0110】
ONスイッチに関する他の実施例では、59ntのssDNAと45ntのdsDNAリンカードメインを含むセンサーアーム長を用いた。
【0111】
<各センサードメイン長の最適化>
次に、59ntのssDNAリンカードメインを用いて、5つのドメイン(トーホールド(T)、ハイブリダイゼーション(H)、ループ(L)、アンチハイブリダイゼーション(H*)及びスペーサー)の長さを最適化した。ステム構造の安定性とトーホールドの変化の動態はセンサーの二次構造形成における自由エネルギー変化ΔG及び有効ループ長(T+L≡L')に大きく依存するため、主にハイブリダイゼーション長(H)と有効ループ長(L')を検討した。さらに、できるだけ長いトーホールド長を維持するために、ステムの根元にサポートハイブリダイゼーションを1bp導入し(図18B)、有効なハイブリダイゼーション長H'(=H+1)を変化させてチップ活性を評価した。このH'と有効ループ長L'(=T+L)を使用して、プライマーを命名した(表1〜7)。例えば、H12L31は12ntのH'及び31ntのL'を有する(H=H'−1=12−1=11nt、T=(T+H)−H=21−11=10nt(備考:let−7は21nt)、L=L'−T=31−10=21nt)。
【0112】
NUPACKソフトウェア(http://www.nupack.org/)を用いてΔGを計算したところ、H'が長くなるほどに、負のΔG値がより大きくなることが判明した(図18D)。チップ活性はΔGに依存した(図18D)。特に、ΔG値が比較的大きな(すなわち、ΔG値がゼロに近い)ステムループ及び比較的安定性に乏しいステムループに対して、miRNAシグナルの存在下又は非存在下でチップ活性は近い値を示した。チップのリーク(OFF)活性は、ΔGが小さくなるほど(負の値が大きくなるほど)減少し、ΔG<−6kcal/molでリーク活性は一定となった。対照的に、チップのON活性は、大部分のΔG値に対して一定であり、低ΔG(約−13kcal/mol)においてわずかに減少した。これは、大きな負のΔG値では、ステムの安定性が高すぎるため、miRNAのハイブリダイゼーションが妨げられることを示唆している。概して、ON/OFF比は−11kcal/mol<ΔG<−8kcal/mol周辺でピーク値を示し(DNAモードにおけるNUPACK及び1M Na濃度)、その際の有効なハイブリダイゼーションH'(=H+1)は12bp〜14bpであった。ここで、ΔGが約−5kcal/molであってもリーク活性はON活性の約半分あり、これはRNAPの引張力がステム構造を広げ得ることを示す。
【0113】
RNAPの引張力を克服するために、サポートハイブリダイゼーションを導入した(図18E、F)。サポートハイブリダイゼーションにより、高いmiRNA親和性を得るための長いトーホールド長を維持しつつ、RNAPの引張力に対してステム構造を安定化できると予想された。ステムの根元にGC対を導入した。様々な数のGC対を用いて検討したところ、2及び3のサポートハイブリダイゼーション長(乃ち、GC対)に対して、リーク活性の減少が観察され、ON/OFF比が増加した。しかし、ON状態での絶対活性が減少するので、1bpのサポートハイブリダイゼーション長を有するセンサーを使用した。
【0114】
次に、有効ループ長Lを評価した(図18G、H)。様々なループ長L(1〜21nt)を有する、有効ハイブリダイゼーションH'=12bpのチップ活性を比較した。ループが短くなるにつれて、チップの活性の低下が観察された。この結果は2つの要因(有効センサーアームの短縮及びmiRNAに対する親和性の低下)によって説明され得る。従って、21ntのループを有するセンサーを使用した。
【0115】
概して、let−7(このmiRNAは21nt)センサーでは、以下条件を有するセンサーを用いた:H'=H+サポートハイブリダイゼーション=11+1=12nt、T=(T+H)−H=21−H=10nt、L'=L+T=21+10=31nt(1M NaClでΔG=−8.6kcal/mol、50mM Na及び18mM Mg2+(PUREシステムの条件)でΔG=−7.7kcal/mol)。次に、このlet−7センサーの動態パラメーターを測定した。ゲルシフトアッセイによって、miRNA結合定数(Kon)約3×10/M/sを得た(図19A、B)。また、活性測定から、見かけのミカエリス定数(Km)約19nMを得た(図19C)。
【0116】
<ONスイッチの直交性>
遺伝子回路でセンサーを使用するために、他のmiRNAに対する直交性を確認することは重要である。センサーの直交性の分子基盤を調べるために、miRNAセンサー対にミスマッチを導入した(図20A)。2連続のミスマッチを有し(例えば、「mm1−2」は、第1及び第2のヌクレオチドにミスマッチを有する)、低い二次構造形成能(ΔG 約0)を有する20種のミスマッチmiRNAを調製した。NUPACKによって計算された結合比を比較することにより、チップ活性は15%の結合比まで直線的に増加し、15%を上回ると、ミスマッチmiRNAはセンサーを完全に活性化した(図20B)。チップ活性に影響を及ぼすミスマッチ位置は、トーホールドドメイン、及びトーホールド−ステム間のヒンジ領域に位置していた(図20C)。反対に、ステムの根元のミスマッチはチップ活性に影響を与えなかった。これらの結果は、第1番目のヌクレオチドから15番目ヌクレオチドまでの配列内部の配列の違いは検出可能であるが、第16番目のヌクレオチド〜第21番目のヌクレオチドまでの配列内部の配列の違いは検出できないことを示唆する(位置はmiRNAの5'末端からの順)。
【0117】
ミスマッチmiRNAに対するチップの直交性を確認後、二次構造形成能が低い、HeLa細胞で発現している7つのmiRNAを選択した(図21A)。let−7センサーは、let−7 miRNAにのみ応答した(図21B)。また、他のセンサーも、各センサーと同種配列のmiRNAにのみ応答したことから、これらのセンサーが直交性であることが実証された(図21C)。直交性の程度を評価するために、miR−206の5'末端の10塩基と同一の配列を有するmiR−1−3pに注目した(図21C、D)。ミスマッチ実験(図20)からも予想されるように、miR−1−3pセンサーは、ほんのわずかしかmiR−206に応答しなかった。これは、設計されたセンサーが類似配列を区別し得ることを示唆している。なお、miRNA濃度を25nMから100nMに増加させたにもかかわらず、miR−224−5pセンサーが他のセンサーよりも、同種配列を有するmiRNA(乃ち、miR−224−5p)に対する応答性が低かった理由は、miR−224−5pの自己二量体化に起因すると推測される(図21E)。従って、本発明のアプローチは、自己二量体化したmiRNAを検出するのには不向きである可能性がある。
【0118】
<OFFスイッチ設計>
OFFスイッチの設計は、ONスイッチ設計の逆であった。乃ち、折り畳まれていないセンサー構造にmiRNAが結合し、短い有効なセンサーアームでセンサーがステムループ構造へと折り畳まれるように誘導し、チップの活性を低下させる(図22A)。OFFセンサーは、miRNAがハイブリダイズし得るアンチmiRNAドメイン、ポリTドメイン、及びかかる2つの間に、サポートハイブリダイゼーションドメインを有する(図22B)。サポートハイブリダイゼーションドメインを有さないセンサーは、低いON/OFF比を示し(図22C、D)、また、サポートハイブリダイゼーションドメインを有するセンサーであっても、37℃では低いON/OFF比を示すことを見出した。そこで、23℃において、サポートハイブリダイゼーションドメインを有するセンサーからデータを得た。隔てられたmiRNA標的ドメイン(それぞれ約11nt)とRNAP引張り力は、共に、miRNAのアンチmiRNAドメインへのハイブリダイゼーションの安定性を低下させるためである。動態分析により、6bpのサポートハイブリダイゼーションドメインを有するセンサーでは、阻害定数(Ki)は46nMであることが明らかになった(図22E)。
【0119】
<2入力ANDスイッチの設計(図23に関連)>
2入力ANDスイッチを設計するために、2つのONスイッチをシンプルにタンデムに連結した(図23A)。miRNAハイブリダイゼーションにより、活性化のための有効なセンサーアーム長が十分に増加する(図23B)。let−7とmiR−197−3pのONスイッチをタンデムに接続したとき(図23C)、結果として生じるANDスイッチは、両方のmiRNAが存在したときのみ、活性を示した(図23D)。さらに、油中水(W/O)滴実験を用いて、当該ANDスイッチの単一チップでの演算を確認した(図23E)。
【0120】
2入力ANDスイッチには、87ntのssDNAを用いた(=DNA合成サービスで得られる最大DNA長(Lservice、ここでは100nt)−プライマー長(Lprimer、ここでは13nt))。NUPACKで予測されたmiRNAとセンサーの結合比を用いて、各ONスイッチのポリT長とステムループ長を調整した。また、dsDNAリンカー長も最適化した。活性化状態では、dsDNA及びssDNAのヌクレオチド数は、それぞれ、22nt(1つのmiRNA長)及び6nt(=87−59−22)増加し、従って、その差は、dsDNAの約26nt(22+6×0.23/0.34)に等しかった。ONスイッチのdsDNAは45nt長であるため、19nt前後(13、19又は25nt)へdsDNAリンカーを調整し、let−7/miR−197−3pANDスイッチでは、19ntが最適であることを見出した。
【0121】
<3入力ANDスイッチの設計(図24に関連)>
3入力ANDスイッチを設計するために、3つのONスイッチをシンプルにタンデムに繋げた(図24A)。let−7 ONスイッチ、miR−206 ONスイッチ、及びmiR−92a−3p ONスイッチをタンデムに繋げた場合(図24B)、結果として生じるANDスイッチは、3つのmiRNAが存在するときにのみ活性を示した(図24C)。let−7/miR−206/miR197−3p及びlet−7/miR365a−3p/miR183に対する3入力ANDスイッチにおいても同様の挙動が観察された(図24C)。さらに、油中水(w/o)滴実験を用いて、当該ANDスイッチの単一チップでの演算も確認された(図24D)。
【0122】
詳細な設計アプローチは、2入力ANDスイッチと同様であった。簡潔には、1)2入力ANDスイッチと3入力ANDスイッチの違い、又は2)ONスイッチと3入力ANDスイッチの違いを考慮して、ssDNAリンカー長を133nt(約44nt×3+スペーサー)として、dsDNAリンカー長(45nt)及び分子間距離(70nm)を調節した。
【0123】
分子間距離を調節するとのアプローチにより、異なる構造のナノチップにおける論理機能の変更が可能となった。本アプローチを用いることにより、3入力ANDゲートは、分子配置(アンカー部位)の変更又はリンカー長の変更によって、それぞれ、3入力「ORゲート」又は「MAJORITY(多数決)ゲート」に変換することができた(図4D、E、図25)。これは、同一のセンサー配列を用いて論理回路を繰り返し再プログラムし得ることを示唆している。
【0124】
<同一の遺伝子・基質を用いての異なる論理機能(図25に関連)>
分子間距離とリンカー長の調節を用いて、酵素(RNAP)と酵素結合ドメイン(プロモーター)の衝突頻度、及びそれに続く環境シグナルに対する応答を変化させた(図16E)。また、3入力ANDスイッチについて、アンカー位置及びdsDNAリンカー長も変更した(図25)。その結果、分子間距離を70nmから50nmに変更することで、3入力ORスイッチに変換し得ること、及びdsDNAリンカーを45ntから85ntへ伸長させることで、3入力多数決スイッチに変換し得ることが示された。かかる結果は、同一のセンサー配列を有する論理回路を再プログラムすることが可能であることを示唆する。
【0125】
詳細な設計原理は次のとおりである:
1)ORスイッチ:3入力ANDスイッチにおいては3つの同時入力が必要であるが、ORスイッチでは、1つの入力のみあればよい。そこで、分子間距離を70nmから50nmへ変更した。この差は、2つの入力から2つのステム構造の厚さを差し引いたものに相当する(22nt×2×0.34nm/nt+22nt×2×0.23nm/nt−4〜21nm。図25A)。
【0126】
2)多数決スイッチ:多数決スイッチにおいては、2つの同時入力がスイッチを活性化し得る。それ故、dsDNAリンカー長を45bpから85bpに変更した。この差は、1つの入力から1つのステム構造の厚さを差し引いた引いたものに相当する(22nt×1×0.34nm/nt+22nt×1×0.23nm/nt−31nt dsDNA分の長さ2〜11nm。図25B)。
【0127】
[実施例9]ナノチップを用いた遺伝子回路の構築
ナノチップを用いて遺伝子回路を構築した。溶液中において3つのmiRNAに応答する2つの「ANDスイッチ」を接続した(図4F図26−28)。第1の「ANDスイッチ」は2種類のmiRNA(miR−206及びmiR−92a−3p)に応答し、伝達シグナル(出力)としてlet−7 miRNAを産生する。第2の「ANDスイッチ」は、miRNA−197−3pと前記伝達シグナルに応答する。これにより、ナノチップで構築された全回路は、miRNAプロファイルを演算し、sfGFPのmRNAを出力する(図4F)。分子配置、RNAP活性及び遺伝子基質配列の更なる最適化により、該スイッチ活性が改善されると考えられる。特に、RNAPのスキャニング活性に起因するスイッチのリークを抑制する必要がある(図18)。
【0128】
<ナノチップを用いたカスケード応答(チップ間コミュニケーション;図26〜28に関連)>
複雑なタスクを実行するためには、論理演算の効率的なカスケード応答(コミュニケーション)が重要である。従って、1)高伝達流、2)(入力/伝達/出力)流れの直交性、及び、3)低リーク流が重要な要因となる。高い直交性、及び低リーク流については検討済であることから、本実施例では、高伝達流に着目し、資源(例えば、エネルギー)限界、miRNA阻害、及びその両者の組み合わせによる影響について調べた。
【0129】
先ず、資源限界の影響を調べた。論理チップのカスケード応答(コミュニケーション)が反応拡散系に基づいている第1世代の集積ナノチップを用いた場合、伝達率は論理チップの出力流量に依存した。出力流量を増加させ伝達率を促進する簡単な方法は、論理チップの濃度を増加させることである。しかしながら、人工細胞や試験管においては現時点において代謝系が完全に再構成されていないことから、資源(例えば、エネルギー)の限界が問題となり得る。例えば、多段階遺伝子回路では、最後尾のチップは最先のチップの活性化と比較してかなり遅れて活性化され、系全体の演算を保証するためには、全てのチップが各段階において資源が枯渇する前に活性化される必要がある。それ故、第一にチップ濃度の最適化を検討した(図26A)。0.032〜1nMの間の代表的な値である0.52nMのチップ濃度において、反応開始後180分で活性が最大となることが観察された。対照的に、sfGFPの蛍光強度は1nMチップ濃度において約90分で飽和しており、これは資源消費を示している。従って、基礎条件として0.5nM以下のチップ濃度を選択した。
【0130】
次に、いくつかのRNAがT7 RNAP活性を阻害することが報告されていることから、遺伝子回路上のmiRNA、シグナル及びトランスミッターの阻害効果を測定した(図26B)。500nMのmiRNAでは、0〜500nM間の他の濃度と同様に、sfGFP蛍光強度(チップ活性の指標)は60分で約86%、180分で81%であり、miRNAが転写や翻訳にはほとんど影響しなかった。多入力実験用に1つの反応に複数種のmiRNAを添加する場合、転写翻訳系に影響を与えることなくチップの活性化を保証するために、100nM以下のmiRNA濃度を基礎条件として選択した。
【0131】
チップ及びmiRNAの濃度を最適化した後、活性化タイミングの影響を確認した(図26C)。アイドリング反応が資源を消費する場合、活性化後のチップ活性は減少する可能性がある。そこで、37℃に昇温後、−30分、0分、+30分及び+60分の時点でmiRNAを加え、アイドリング反応を開始させたところ、−30分及び0分の時点でmiRNAを添加した場合に、類似する初期増加が観察された。この実験で使用された50nMのmiRNAがセンサーに結合するためには1分しか要しない(50nM×3×10/M/s=0.015/s;従って、τ=67s(約1分))ことから、この結果はセンサーへのmiRNAのKonにより説明し得る(3×10/M/s、図19)。また、+60分の時点でmiRNAを添加したときの該添加後90分及び180分の時点におけるsfGFP蛍光強度が、−30分の時点でmiRNAを添加した場合の当該数値と比較して96%であったことから、miRNAの添加タイミングはほとんど影響を与えないことが示された。次に、他のチップ(mCherry(sfCherry)のmRNAを生成するセンサーレスのナノチップ)がアイドリング反応中に機能している条件下、すなわち、転写翻訳系が常時バックグランドで動作しているという条件下で、センサーチップの活性を調べた。+30分及び+60分の時点でmiRNAを添加する条件下、miRNA添加から90分の時点における活性は、−30分の時点でmiRNAを添加したときの活性に対して、それぞれ91%及び60%であったことから、本条件の場合においては、miRNA添加のタイミングが重要であることが示された(図26D)。
【0132】
資源限界、miRNAによる阻害、及び反応開始点の各影響を評価した後、遺伝子カスケード応答の活性を測定した。2つのONスイッチ(図27A、B)、2つのANDスイッチ(図27C、D)を含む応答を観察した。カスケード応答の動態をより詳細に理解するために、先ず各ステップ上の出力流の影響を調べた。第1チップの濃度が0.04〜1.8nMの範囲では、全体的出力(すなわちsfGFPの産生)が促進した(図27E)。遺伝子回路の動態において異なる遺伝子・基質の影響を比較するため、1)集積ナノチップ、2)DNA開始型の拡散反応系、及び3)mRNA開始型の拡散反応系の遺伝子発現活性を試験管内で測定した(図27F)。無細胞転写翻訳PUREシステムにおいては、mRNA開始型の条件が最も早くsfGFPを産生した。しかしながら、効率は非常に低く、ナノチップ及びDNA開始型において産生されるsfGFP産生量と同等のsfGFP量を産生させるためには、200倍の濃度を要した(mRNA開始型では100nM、ナノチップ及びDNA開始型では0.5nM)。ナノチップ開始型とDNA開始型(RNAP 約30nM)反応とを比較することにより、チップ開始型反応がより速いことが示された。この結果は、ナノチップの基質・遺伝子の有効濃度が2μMを超えるとの事実によって説明され得る。ナノチップに基づく遺伝子回路の動態を定量的に分析するため、Systems Biology Markup Language(SBML)シミュレーターを用いてこのデータをフィッティングした(図27G)。見積もられたRNA産生速度は、ナノチップ開始型反応(RNAPは、ナノチップのときと同じである。例えば、0.5nM。図27F)、及びDNA開始型反応(RNAPは約30nM、図27Fのナノチップ濃度の60倍)で、それぞれ0.034及び0.02/秒/分子であった。この違いは、これらの実験条件下では大きくはないものの、特に、RNAP及び基質・遺伝子が低濃度での多段階カスケード反応に影響し得る。かかる状況は、資源消費を防止できる閉鎖された反応容積(例えば、人工細胞)に複雑な遺伝子回路を封入する場合に生じ得る場合がある。
【0133】
全体として、油中水(w/o)滴中において2つのANDチップを含む遺伝子回路をモニターした(図28)。迅速且つ効率的なコミュニケーションのために、第1のANDチップ濃度を1nM(約1000チップ/滴)に増やし、翻訳による資源消費を低減するために、第2のANDチップの濃度を0.08nM(約80チップ/滴)に減らした。かかる条件下において、液滴中のmiRNAプロファイルの自律的検出が達成された。
【0134】
[実施例10]LacI/IPTGセンサー
統合法を用いれば、センサーは物質的制約を受けないため、センサーを多様なシグナルに応答させることは可能であり得る。例えば、センサー材料としてdsDNAを使用し、LacI−LacO対を用いたON及びOFFスイッチを調製した(図29)。四量体を形成するdsDNA結合タンパク質であるLacIは、2つのLacO配列に結合できる(図29A)。プロモーター配列の上流の2つのLacO配列を特徴とするLacIセンサーを構築した。これらのセンサーを異なる部位に固定することにより、反対の機能(ON及びOFF)を構築することができた(図29B)。ONスイッチに対するリンカーは、RNAPがプロモーターに結合するのには長すぎるが、LacIの結合により、リンカーが短縮され転写に適した有効なリンカー長となる(図29C)。さらにイソプロピルβ−D−1−チオガラクトピラノシド(IPTG)添加により、LacO配列からLacIの離脱が誘導され、その結果「ONスイッチ」を無効化された(図29D)。逆に、OFFスイッチでは、LacIの非存在下においては転写に適したリンカー長であり、LacIの存在下で短縮され、これにより転写活性を停止させる(図29E、F)。
【0135】
[実施例11]Ampicillin(Amp)スイッチの設計
低分子化合物を結合させる事が可能なアプタマーセンサーを用いたスイッチを作製した。例えば、センサー材料としてssDNAを使用し、Ampicillin(Amp)に応答するOFFスイッチを調製した(図30)。Ampアプタマーは、ステムループ構造をしている(図30A)。プロモーター配列の上流の3つアプタマー配列を特徴とするAmpセンサーを構築した。Ampの結合の際、センサーアームの到達距離が短くなるので、ナノチップの活性が低下する(図30B)。Amp存在下(w/Amp)で、転写活性と引き続く翻訳活性の低下が観察された(図30C)。
【0136】
[実施例12]NANDスイッチの設計
miRNAセンサーを利用したNANDスイッチを調製した(図31)。2入力NANDスイッチを設計するために、2つのONスイッチをタンデムに連結した(図31A)。miRNAハイブリダイゼーションにより、有効なセンサーアーム長が増加し、スイッチは不活性化される(図31B)。miRNA存在下で活性の低下を確認した(図31C)。
【0137】
[実施例13]実効固定端の変更によるスイッチング及び論理変更
実効固定端の変更によるスイッチング、及び論理変更を設計するために、ベース部材にセンサーと結合可能な第二固定点を導入した。例えば、センサー材料としてdsDNAを使用し、第二固定点として、LacIをベース部材に固定し、LacI−LacO対を用いたON及びOFFスイッチを調製した(図32)。IPTGが元の固定点(第二固定点:LacI)と結合する際、センサーアームの到達距離の長さが伸び、ナノチップは活性化される(図32A)。IPTGが元の固定点(第二固定点:LacI)と結合する際、センサーアームの到達距離の長さが短くなり、ナノチップは不活性化される(図32B)。
【0138】
これらの結果は、有効なセンサーアーム長を調節することによって可能となる論理機能を介して、様々なシグナルを検出するための統合法の可能性を示唆している。さらに、同一の固定された基質・遺伝子を有するセンサーが反対の論理機能を示したことから、有効リンカー長の調節、センサーの配置変更及び足場の変形を介して、遺伝子回路において反復可能な再プログラミングが可能であることを示唆している。
【0139】
[実施例14]UV照射によるON/OFFスイッチング
光応答性人工核酸塩基cnvKを用いた架橋及び乖離(開裂)を利用して、UVに反応してナノチップの機能をON/OFFスイッチングできるチップを設計した。366nmのUVを5分間照射した際(Operation1)、cnvKが架橋し、センサーアームの到達距離が短くなるので、ナノチップの活性が低下した(図33A、B)。該活性が低下した状態において、さらに312nmのUVを10分間照射した場合(Operation2)、cnvKが乖離し、センサーアームの到達距離の長さが伸び、ナノチップは活性化された(図33A、B)。
図34Bに示す結果からも明らかなように、本発明のデバイスは、実際にON/OFF切り替えスイッチとして設計することが可能である。
【0140】
[実施例15]UV照射(入力)とmiRNAプロファイルに応答する回路構築
UVを活性化源とするセンサー(を有するデバイス1(チップ1))とmiRNAを活性化源とするセンサー(を有するデバイス2(チップ2))を用いて遺伝子回路を構築した。溶液中においてUV(入力)に応答する「NOTスイッチ」(チップ1)と、3つのmiRNA(入力)に応答する「ANDスイッチ」(チップ2)を接続した(図34A)。「NOTスイッチ」は、UV照射を行わない場合に伝達シグナル(出力)としてmiR−206を産生する。「ANDスイッチ」は、let−7 miRNA、miRNA−197−3pと前記伝達シグナルに応答する。これにより、ナノチップで構築された全回路は、UV照射とmiRNAプロファイルを演算し、sfGFPのmRNAを出力する(図34A)。
構築した遺伝子回路において、UV照射とmiRNAプロファイルに応じたsfGFPの蛍光強度の経時的変化が確認でき、従って、実際に本発明のデバイスを用いて、種々の論理演算が行われるように構成された論理回路を有する遺伝子回路の構築が可能であることが理解される(図34B)。
【0141】
[実施例16]細胞内・個体(生体)内での機能の確認
ゼブラフィッシュの初期胚にチップ(Cage)を導入し、RNA産生をリアルタイムPCR装置で確認した(図35A−C)。該結果より、本発明の遺伝子発現用デバイスを用いて、細胞内や個体(生体)内での遺伝子発現制御が可能である事が理解される(図35C)。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明の遺伝子回路用デバイス、及び該デバイスを含む遺伝子回路は、十分にクロストークが抑えられた制御された遺伝子発現を行うことができる、環境を感知するセンサーの材料的制約が極めて低減された遺伝子回路であるため、例えば、遺伝子疾患の治療や、バイオマーカー検出、バイオ医薬の効率的合成のために利用することが可能であり、従って、十分に産業上の利用可能性がある。
【0143】
本出願は、日本で出願された特願2017−232193(出願日:平成29年12月1日)及び特願2018−135358(出願日:平成30年7月18日)を基礎としており、その内容は本明細書に包含されるものである。
図1
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【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]
【国際調査報告】