特表-19116475IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社牧野フライス製作所の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2019年6月20日
【発行日】2020年10月22日
(54)【発明の名称】フライス工具及びワークの加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23C 5/12 20060101AFI20200925BHJP
   B23C 5/02 20060101ALI20200925BHJP
   B23C 5/10 20060101ALI20200925BHJP
   B23C 3/00 20060101ALI20200925BHJP
【FI】
   B23C5/12 Z
   B23C5/02
   B23C5/10 D
   B23C3/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】22
【出願番号】特願2019-559473(P2019-559473)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2017年12月13日
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】000154990
【氏名又は名称】株式会社牧野フライス製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】上野 裕司
(72)【発明者】
【氏名】宮本 了一
(72)【発明者】
【氏名】永田 福人
【テーマコード(参考)】
3C022
【Fターム(参考)】
3C022AA01
3C022AA09
3C022AA10
3C022GG01
3C022KK01
3C022KK04
3C022KK11
3C022KK21
(57)【要約】
フライス工具(10)がシャンク部(12)と、該シャンク部の先端側に設けられ、切刃を有するヘッド(14)とで構成され、ヘッド(14)は、シャンク部(12)に接する基端部から先端方向に直径が次第に拡大する拡径部(14a)と、最大直径部(14c)から先端方向に直径が次第に縮小する縮径部(14b)とを含み、拡径部(14a)および縮径部(14b)の各々に少なくとも1つの切刃(20、22)が設けられている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャンク部と、該シャンク部の先端側に設けられ、切れ刃を有するヘッドとで構成されたフライス工具において、
前記ヘッドは、前記シャンク部に接する基端部から先端方向に直径が次第に拡大する拡径部と、最大直径部から先端方向に直径が次第に縮小する縮径部とを含み、
前記拡径部および前記縮径部に切れ刃が設けられていることを特徴としたフライス工具。
【請求項2】
前記拡径部には少なくとも1つの上側溝が形成され、前記縮径部には少なくとも1つの下側溝が形成されており、該少なくとも1つの上側溝と下側溝の各々には、前記切れ刃を形成したインサートを取り付ける座が形成されている請求項1に記載のフライス工具。
【請求項3】
前記上側溝には上側座が形成され、前記下側溝には下側座が形成されており、前記上側座には上側インサートが取り付けられ、前記下側座には下側インサートが取り付けられる請求項2に記載のフライス工具。
【請求項4】
前記上側インサートと下側インサートは、各々の一端から直線状に延びる主切れ刃と、該主切れ刃に接続され前記上側インサートと下側インサートの他端に配置された凸状に湾曲した副切れ刃とを有しており、前記上側インサートと下側インサートは、各々の副切れ刃が、前記拡径部と縮径部との接合部に隣接するように配置される請求項3に記載のフライス工具。
【請求項5】
前記下側インサートは、前記副切れ刃とは反対側の端部に底切れ刃と内切れ刃とが形成されている請求項4に記載のフライス工具。
【請求項6】
前記上側溝から下側溝へ亘って延びる座が形成されており、該座にくの字形のインサートが取り付けられる請求項2に記載のフライス工具。
【請求項7】
工作機械のテーブルに固定されたワークのリブと該リブに続けて形成されるリターンフランジとの内側部分をアンダーカットするワークの加工方法において、
請求項1に記載のフライス工具を前記工作機械の主軸に取り付けて回転させ、
前記フライス工具の前記拡径部の切れ刃でリターンフランジの内側を加工し、前記フライス工具の前記縮径部の切れ刃でリブの側面を加工するワークの加工方法。
【請求項8】
前記工作機械は、少なくとも2つの回転送り軸を有する5軸工作機械であり、
ワークに対する前記フライス工具の相対的な姿勢と位置とを制御してリターンフランジ付きのリブが交差するコーナー部分のアンダーカット行う請求項7に記載のワークの加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リターンフランジを有したリブのようなアンダーカット部を高効率かつ高精度に加工可能なフライス工具及びワークの加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ワーク側面にアンダーカットを形成するT形カッタが記載されている。該T形カッタは、シャンクの一端に結合されたヘッドを有しており、該ヘッドの先端側に切れ刃を有した複数の底刃部と、基端側に切れ刃を有した複数の上刃部とが周方向に交互に配置されており、前記底刃部及び前記上刃部の切れ刃が、前記シャンク及び前記ヘッドと一体構造をなしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2014068710
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のT形カッタは、底刃部、上刃部、シャンク及びヘッドが一体構造をなしているので、剛性が高く高効率でアンダーカット加工することが可能である。然しながら、リブの高さが高くなると、それだけシャンクを長くしなければならず、シャンクには大きな横方向の力(曲げ応力)が作用してシャンクが変形し、加工速度や加工精度が低下する問題がある。また、特許文献1のT形カッタでは、ワークのリブとリブとが交差する隅部に湾曲した内周面を加工する場合、T形カッタのヘッドの半径より大きい又は同じ曲率半径を有した内周面しか加工することができない問題がある。
【0005】
本発明は、こうした従来技術の問題を解決することを技術課題としており、リターンフランジを有したリブのようなアンダーカット部を高効率かつ高精度に加工可能なフライス工具及びワークの加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するために、本発明によれば、シャンク部と、該シャンク部の先端側に設けられ、切れ刃を有するヘッドとで構成されたフライス工具において、前記ヘッドは、前記シャンク部に接する基端部から先端方向に直径が次第に拡大する拡径部と、最大直径部から先端方向に直径が次第に縮小する縮径部とを含み、前記拡径部及び前記縮径部に切れ刃が設けられているフライス工具が提供される。
【0007】
また、本発明によれば、工作機械のテーブルに固定されたワークのリブと該リブに続けて形成されるリターンフランジとの内側部分をアンダーカットするワークの加工方法において、請求項1に記載のフライス工具を前記工作機械の主軸に取り付けて回転させ、前記フライス工具の前記拡径部の切れ刃でリターンフランジの内側を加工し、前記フライス工具の前記縮径部の切れ刃でリブの側面を加工するワークの加工方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、フライス工具のヘッドが、基端部から先端方向に直径が次第に拡大する拡径部と、最大直径部から先端方向に直径が次第に縮小する縮径部とを含み、前記拡径部及び前記縮径部に切れ刃を設けたので、フライス工具をワークのアンダーカット部に斜めに接近させて、リターンフランジと干渉することなくワークの加工が可能となるので、シャンクの突き出し長さを短くすることが可能となる。よって、アンダーカット部を高い加工条件で効率よく、高品位に加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1の実施形態によるフライス工具の正面図である。
図2図1とは90°異なる方向から見たフライス工具の側面図である。
図3】切れ刃を取り外して示す図1のフライス工具の正面図である。
図4】切れ刃を取り外して示す図2のフライス工具の側面図である。
図5】ヘッド側から見た図1のフライス工具の底面図である。
図6】シャンク側から見た図1のフライス工具の平面図である。
図7図1のフライス工具で用いる上側インサートの正面図である。
図8図7の上側インサートの斜視図である。
図9】別の方向から見た図7の上側インサートの斜視図である。
図10図1のフライス工具で用いる下側インサートの正面図である。
図11図7の下側インサートの斜視図である。
図12】別の方向から見た図10の下側インサートの斜視図である。
図13A】リターンフランジを有したリブを加工する方法を説明するための模式図である。
図13B】リターンフランジを有したリブを加工する方法を説明するための模式図である。
図14A】リターンフランジを有したリブを加工する方法を説明するための模式図である。
図14B】リターンフランジを有したリブを加工する方法を説明するための模式図である。
図15A】リターンフランジを有したリブを加工する方法を説明するための模式図である。
図15B】リターンフランジを有したリブを加工する方法を説明するための模式図である。
図16】T形カッタを用いた場合のアンダーカット部の加工を説明するための模式図である。
図17】本発明のフライス工具を用いた場合のアンダーカット部の加工を説明するための模式図である。
図18】コーナー部におけるアンダーカット部の加工を説明するための模式図であり、図18においてフライス工具はコーナー部の入口に到達している。
図19図18において矢視線XIXの方向に見た斜視図である。
図20図18において矢視線XXの方向に見た側面図である。
図21図18において矢視線XXIの方向に見た側面図である。
図22】コーナー部におけるアンダーカット部の加工を説明するための模式図であり、図22においてフライス工具はコーナー部の略中央部を加工している。
図23図22において矢視線XXIIIの方向に見た斜視図である。
図24図22において矢視線XXIVの方向に見た側面図である。
図25図22において矢視線XXVの方向に見た側面図である。
図26】コーナー部におけるアンダーカット部の加工を説明するための模式図であり、図26においてフライス工具はコーナー部の出口に到達している。
図27図26において矢視線XXVIIの方向に見た斜視図である。
図28図26において矢視線XXVIIIの方向に見た側面図である。
図29図26において矢視線XXIXの方向に見た側面図である。
図30】本発明の第2の実施形態によるフライス工具の正面図である。
図31図30のフライス工具の斜視図である。
図32】ヘッド側から見た図30のフライス工具の底面図である。
図33】シャンク側から見た図30のフライス工具の平面図である。
図34】切れ刃を取り外して示す図30のフライス工具の正面図である。
図35】切れ刃を取り外して示す図30のフライス工具の斜視図である。
図36】切れ刃を取り外して示すヘッド側から見た図30のフライス工具の底面図である。
図37】切れ刃を取り外して示すシャンク側から見た図30のフライス工具の平面図である。
図38図30のフライス工具で用いるインサートの正面図である。
図39図30のインサートの斜視図である。
図40】別の方向から見た図30のインサートの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態を説明する。
先ず、図1図12を参照して、本発明のフライス工具の第1の実施の形態を説明する。
【0011】
フライス工具10は、円柱状のシャンク12と、シャンク12の先端に一体的に形成されたヘッド14とを具備している。ヘッド14は、シャンク12に接する基端側から先端方向に直径が拡大する略円錐台形状の拡径部14aと、拡径部14aから更に先端方向に直径が縮小する略円錐台形状の縮径部14bとを有し、概ね算盤玉の形状に形成されている。拡径部14aと縮径部14bとの間に直径が最大となる最大直径部としての遷移部14cが形成されている。ヘッド14は、また、拡径部14aに形成された上側溝16と、縮径部14bに形成された下側溝18とを有している。上側溝16と下側溝18とはヘッド14の中心軸線O周りに交互に等角度間隔で配置されている。図示する実施形態では、ヘッド14は、3つの上側溝16と、3つの下側溝18とを有している。なお、本実施形態では上側溝16と下側溝18は等角度間隔で配置されているが、びびり振動防止のため不等角度間隔で配置されていてもよい。
【0012】
上側溝16の各々には上側座16aが形成され、下側溝18の各々には下側座(図3、4)が形成されている。上側座16aの各々には上側インサート20が取り付けられ、下側座18aの各々には下側インサート22が取り付けられる。図示する実施形態では、拡径部14aに3つの上側インサート20が配置され、縮径部14bに3つの下側インサート22が配置されているが、本発明において上側インサート20及び下側インサート22の個数は3に限定されず、少なくとも1つの上側インサート20と、少なくとも1つの下側インサート22が配置されていればよい。従って、拡径部14a及び縮径部14bの各々も少なくとも1つの上側溝16及び下側溝18を備えていればよい。
【0013】
上側座16aは、該上側座16aに取り付けられた上側インサート20の直線の主切れ刃20c(図7図9)が、該フライス工具10の回転方向に次第に遷移部14cに接近する方向に斜めに延びるように形成されている。下側座18aは、該下側座18aに取り付けられた下側インサート22の直線状の主切れ刃22c(図10図12)が、該フライス工具10の回転方向に次第に遷移部14cに接近する方向に斜めに延びるように形成されている。
【0014】
更に、フライス工具10には加工領域にクーラントを供給するためのクーラント通路を形成することができる。該クーラント通路は、フライス工具10の中心軸線Oに沿ってシャンク12を貫通する入口通路24、該入口通路24から半径方向にヘッド14を貫通して各上側溝16の上側座16aに対面する側壁16bに開口する上側半径方向通路26a、及び、各下側溝18の下側座18aに対面する側壁18bに開口する下側半径方向通路26bとを含むことができる。
【0015】
図7図9を参照すると、上側インサート20は上端部20aと下端部20bとを有している。上側インサート20は、下端部20bが遷移部14cの近傍に配置されるように、上側座16aに取り付けられる。上側インサート20は、また、上側座16aに取り付けたとき、該上側座16aとは反対側に配置され上側溝16の側壁16bに対面するすくい面20eと、半径方向外側に向けられる逃げ面20gとを有している。すくい面20eと逃げ面20gとによって、上端部20aから概ね直線状に延びる主切れ刃20cと、下端部20bに隣接して設けられ、主切れ刃20cに連結される円弧状の副切れ刃20dが形成される。
【0016】
図10図12を参照すると、下側インサート22は上端部22aと下端部22bとを有している。下側インサート22は、上端部22aが遷移部14cの近傍に配置されるように、下側座18aに取り付けられる。下側インサート22は、また、下側座18aに取り付けたとき、該下側座18aとは反対側に配置され下側溝18の側壁18bに対面するすくい面22eと、半径方向外側に向けられる逃げ面20fとを有している。すくい面22eと逃げ面22fとによって、下端部22bから概ね直線状に延びる主切れ刃22cと、上端部22aに隣接して設けられ、主切れ刃22cに連結される円弧状の副切れ刃22dが形成される。下側インサート22は、更に、その下端部22bに主切れ刃22cに連結された底切れ刃22gと、該底切れ刃22gに連結された内切れ刃22hとが形成されている。
【0017】
上側インサート20と下側インサート22は、各々の副切れ刃20d、22dがフライス工具10の回転方向に主切れ刃20c、22cに対して前側に捻れて配置されるように、上側座16a、下側座18aに取り付けられる。つまり、上側インサート20と下側インサート22とは、互い違いに傾斜して取り付けられる。更に、上側インサート20は、フライス工具10を中心軸線O周りに回転させたときに、全ての上側インサート20の主切れ刃20cが1つの円錐面に沿って回転するように、上側座16aに取り付けられる。同様に、下側インサート22は、フライス工具10を中心軸線O周りに回転させたときに、全ての下側インサート22の主切れ刃22cが1つの円錐面に沿って回転するように、下側座18aに取り付けられる。なお、副切れ刃20d、22dがフライス工具10の回転方向に主切れ刃20c、22cに対して後側に捻れて配置されていても、また捻れのない状態で配置されていてもよい。
【0018】
図示する実施形態では、フライス工具10が回転するときに上側インサート20及び下側インサート22の主切れ刃20c、22cが描く2つの円錐面は、該2つの円錐面の間の交線が規定する平面に対して対称となっているが、目的とする加工プロセスやワーク形状によっては非対称でもよい。また、中心軸線Oを含む平面と、上記2つの円錐面との間の交線(各円錐面の母線)は所定の角度で交差する。この角度は、目的とする加工プロセスに応じて種々な値とすることができる。上記2つの交線が形成する角度は、例えば、後述するようにリブと、該リブの上端から張り出したリターンフランジとの間の角度に一致する角度、好ましくは90°とすることができる。また、上側インサート20の主切れ刃20cは、上記リターンフランジの張り出し寸法(幅)よりも長く形成される。
【0019】
更に、上側インサート20及び下側インサート22は、フライス工具10を中心軸線O周りに回転させたときに、副切れ刃20d、22dが、ヘッド14の半径方向に膨出する1つの円弧をフライス工具10の中心軸線O周りに回転させときの軌跡である回転体形状に沿って移動するように、上側座16a及び下側座18aに取り付けられる。この回転体形状は、上記のフライス工具10が回転するときに、上側インサート20及び下側インサート22の主切れ刃20c、22cが描く2つの円錐面の双方に内接する形状とすることができる。
【0020】
また、工具鋼を用いてシャンク12とヘッド14とを一体的に形成し、上側インサート20及び下側インサート22は、ろう付けのような適当な結合技術を用いてこのヘッド14の上側座16a及び下側座18aに取り付けることができる。更に、上側インサート20及び下側インサート22を上側座16a及び下側座18aに取り付けた後に、上側インサート20及び下側インサート22に研削加工を施し、主切れ刃20c、22cが描く上記2つの円錐面の各々の母線が、ワークのリブと、該リブの上端から張り出したリターンフランジとの間の角度に一致する角度となり、かつ、副切れ刃20d、22dの描く回転体形状が前記2つの円錐面の双方に内接するようにしてもよい。
【0021】
以下、図13A図15Bを参照して、フライス工具10を用いたリブ加工方法を説明する。図13A図15Bでは、ワークである製品100は底壁102、底壁102から垂直に延びる薄壁を形成するリブ104、及び、リブ104の上端から底壁102に概ね平行に互いに反対方向に突出した第1と第2のリターンフランジ106、108を有している。図13A図15Bの例では、例えば、直交3軸の直線送り軸と少なくとも1つの回転送り軸とを有した少なくとも4軸のマシニングセンタ、好ましくは直交3軸の直線送り軸に2つの回転送り軸を有した5軸のマシニングセンタのような工作機械(図示せず)で、エンドミル70、本実施形態によるフライス工具10及びT形カッタ72を前記工作機械の主軸80の先端に順次装着して、アルミニウム合金のような金属材料で成る厚板から製品100が削り出される。なお、エンドミル70、フライス工具10及びT形カッタ72は、それぞれ工具ホルダ74を介して主軸80に取り付けられている。また、ワークは工作機械のテーブル(図示せず)に固定される。
【0022】
第1と第2のリターンフランジ106、108の一方、本例では第1のリターンフランジ106の側から加工される。まず、第1のリターンフランジ106の幅寸法に合わせて、エンドミル70(図13A)のように工具の側面で切削可能な回転工具を用いて、底壁102、第1と第2のリターンフランジ106、108、及び、第1と第2のリターンフランジ106、108と底壁102との間の部分110、112以外の領域で前記厚板から材料を除去する(図13B)。
【0023】
次いで、エンドミル70をフライス工具10と交換して(図14A)、第1のリターンフランジ106と底壁102との間の部分110から材料を除去(アンダーカット)する。このとき、図14Aに示すように、下側インサート22によってリブ104の側面を加工できるように、工作機械の回転送り軸を設定する。図14Aでは、フライス工具10はワークに対して紙面に垂直な方向に送られ、次いで、矢印Zで示すように、リターンフランジ106から底壁102の方向に所定距離(ピックフィード量)だけ送られ、再び紙面に垂直な方向に送られ、部分110を第1のリターンフランジ106側から底壁102側にピックフィード量に相当する幅の帯状に順次材料を除去する。下側インサート22が底壁102の表面に接するまで、矢印Zで示す方向へピックフィードを繰り返しながら紙面に垂直な方向にフライス工具10を送ることによって部分110から材料を除去すると、最終的に図14Bに示すように、リブ104と底壁102との間に紙面に垂直な方向に延びる三角柱状の部分110aが残る。この部分110aは、T形カッタ72(図15A)を用いて除去することができる(図15B)。フライス工具10によるアンダーカットがが行われる間、主切れ刃20c、22c、副切れ刃20d、22dのみならず、底切れ刃22gおよび内切れ刃22hが加工プロセスに寄与することによって、むしれが発生することなく加工を行うことができる。
【0024】
第2のリターンフランジ108と底壁102との間の部分112も上述した方法と同様の方法で除去することができる。こうして、底壁102、底壁102から垂直に延びるリブ104、及び、リブ104の上端から底壁102に概ね平行に互いに反対方向に突出した第1と第2のリターンフランジ106、108を有した製品100がアルミニウム合金等の金属製厚板材料から削り出すことが可能となる。製品100は、例えば航空機の翼の部品とすることができる。
【0025】
部分110aは、図16に示すように、T形カッタ72を用いても除去することができる。この場合、T形カッタ72は、その回転軸線がリブ104と平行になるように配向される。従って、T形カッタ72の突き出し長さ、つまり工具ホルダ74の下端面からT形カッタ72の先端までの距離LTCは、リブ104の高さよりも長くなければならない。これに対して本実施形態によるフライス工具10では、下側インサート22が描く円錐面がリブ104に接するように斜めに配向される。従って、フライス工具10の突き出し長さLTPはリターンフランジ106又は108と工具ホルダ74とが干渉しない長さとすることができる。リターンフランジ106、108の張り出し長さは、通常、リブ104の高さよりも格段に短いので、フライス工具10の突き出し長さLTPは、T形カッタ72の突き出し長さLTCよりも短くすることができる。突き出し長さを短くすることによって、通常、工具は湾曲や倒れに対する静剛性も、振動に対する動剛性も高くなるので、工具の回転速度や送り速度を高くすることが可能となる。従って、本実施形態によるフライス工具10を用いることによって、従来のT形カッタ72を用いた場合よりも、高効率に製品100を加工することが可能となる。また、びびり振動が発生しにくく、加工面品位も向上する。
【0026】
更に、フライス工具10は、図13A図15Bに示したような、直線状のリブを加工する場合のみならず、図18図29に示すような、所定の角度、図示する例では90°で屈曲したリブを加工することもできる。図18図29において、平板状の底壁202、底壁202から垂直に突出した第1と第2のリブ204、206、第1のリブ204の上端から垂直に突出したリターンフランジ208及び第1と第2のリブ204、206の交差するコーナー部210を有している。コーナー部210によって互いに結合された第1と第2のリブ204、206は、互いに90°の角度で底壁202に沿って延設されている。なお、ワーク200は、工作機械のテーブル(図示せず)に固定されている。
【0027】
まず、フライス工具10は、図14A、14Bで説明したように、第1のリブ204の上縁部とリターンフランジ208の下面とが加工される。より詳細には、フライス工具10は、上側インサート20の主切れ刃20cによってリターンフランジ208の下面と、下側インサート22の主切れ刃22cによって第1のリブ204の側面とを同時に加工するように、第1のリブ204の一端(図18では下端部)からコーナー部210に向けて(図18では上方に向けて)第1のリブ204の上縁部の側面に沿って直線送りされる。第1のリブ204の上縁部の側面とリターンフランジ208の下面が加工(アンダーカット)される間、上側インサート20及び下側インサート22の副切れ刃20d、22dによって、第1のリブ204とリターンフランジ208の間のコーナーR部208aが同時に加工される。
【0028】
図18図21に示すように、フライス工具10がコーナー部210の入口に到達すると、フライス工具10は、途切れることなく引き続きコーナー部210の上縁部の内周面210aに沿って概ね円弧状の工具経路に沿って送られる(図22図25)。既述したように、フライス工具10は、下側インサート22が底切れ刃22gと内切れ刃22hとを有しているので、同時5軸制御によって切り込み方向(フライス工具10の回転軸線Oの方向)を自在に変更しながら切削可能となり、加工面に段差のような加工痕を形成することなく、図示するようにリターンフランジを有したコーナー部210を加工することが可能となる。
【0029】
図26図29に示すように、フライス工具10がコーナー部210の出口に到達すると、フライス工具10は、途切れることなく引き続き第2のリブ206の側面に沿って第2のリブ206の先端へ向けて(図22、24では右方へ)直線送りされる。この間、下側インサート22の主切れ刃22cによって、第2のリブ206の上縁部の側面が加工される。フライス工具10が第2のリブ206の先端(図22、24では右部)に到達し、第2のリブ206の上縁部の加工が終了すると、フライス工具10は、底壁202に接近する方向(下方)にピックフィードが与えられる。次いで、コーナー部210へ向けて第2のリブ206の側面に沿って直線送りされ、第2のリブ206の側面において、前回の加工工程で完了した加工面の下側が加工される。
【0030】
なお、図18図29において、第1のリブ204とコーナー部210の間、及び、コーナー部210と第2のリブ206との間に直線が示されているが、この直線は単に、第1のリブ204、コーナー部210、第2のリブ206を分かり易くする目的で図面に記載されたものであって、実際の加工面にこうした直線状の段差や溝のような加工痕が形成されることはない。
【0031】
こうして、第1のリブ204の上縁部の側面がリターンフランジ208の下面と共に加工され、コーナー部210及び第2のリブ206の上縁部の側面が加工され、更に第1のリブ204、コーナー部210及び第2のリブ206の側面が加工されると、最終的に図14Bに示す断面が三角形状の部分110aに類似する削り残し部分(図示せず)が、第1のリブ204、コーナー部210及び第2のリブ206と、底壁202との間に形成される。この削り残し部分は、図15Aに示すようにT形カッタによって除去することができる。その際、T形カッタの形状により、第1のリブ204、コーナー部210及び第2のリブ206と、底壁202との間にコーナーR部204a、210b、206aを形成するようにできる。
【0032】
なお、図18図29に示した実施形態では、リターンフランジ208は、第1のリブ204の上端に沿って底壁202に対して略平行に、かつ、一定の幅で延設されている。リターンフランジ208は、コーナー部210では第2のリブ206に接近するにつれ幅が漸減し、第2のリブ206には実質的にリターンフランジが設けられていない。然しながら、ワーク200は、第2のリブ206の上端に沿って、リターンフランジ208と同様のリターンフランジを有していてもよい。
【0033】
次に、図30図40を参照して、本発明のフライス工具の第2の実施形態を説明する。
第1の実施形態では、インサートを上側インサート20と下側インサート22とに分割したが、第2の実施形態では、両インサート20、22を一体化して、くの字形の1つのインサートに形成し、該インサートをヘッドの拡径部から縮径部に亘って取り付けた形態となっている。
【0034】
フライス工具50は、円柱状のシャンク52と、シャンク52の先端に一体的に形成されたヘッド54とを具備している。ヘッド54は、シャンク52に接する基端側から先端方向に直径が拡大する略円錐台形状の拡径部54aと、拡径部54aから更に先端方向に直径が縮小する略円錐台形状の縮径部54bとを有し、概ね算盤玉の形状に形成されている。拡径部54aと縮径部54bとの間に直径が最大となる最大直径部としての遷移部54cが形成されている。本実施形態では、遷移部54cは、ヘッド54の半径方向に膨出する円弧をフライス工具50の中心軸線O周りに回転させた回転体形状を呈している。
【0035】
ヘッド54は、拡径部54aに形成された上側溝56と、縮径部54bに形成された下側溝58とを有している。ヘッド54には、ヘッド54の中心軸線O周りに等角度間隔で配置された四対の上側溝56と下側溝58が形成されている。各対の上側溝56と下側溝58は連続しており、拡径部54a、遷移部54c及び縮径部54bに亘って形成された1つの溝部を形成している。なお、溝部の個数は本発明の必須の要件ではなく、少なくとも1つの溝部を設けることができる。
【0036】
溝部56、58には、インサート60を取り付けるための座62が形成されている。座62は、くの字形に形成されたインサート60を受承する平面より成る。本実施形態では、座62を形成する平面はフライス工具50の中心軸線Oに平行となっている。
【0037】
更に、フライス工具50には加工領域にクーラントを供給するためのクーラント通路を形成することができる。該クーラント通路は、フライス工具50の中心軸線Oに沿ってシャンク52を貫通する入口通路64、該入口通路64から半径方向にヘッド54を貫通して各上側溝56において座62に対面する側壁56aに開口する上側半径方向通路66a、及び、各下側溝58において座62に対面する側壁58aに開口する下側半径方向通路66bとを含むことができる。
【0038】
図38図40を参照すると、インサート60は第1と第2の腕部60a、60bと、該第1と第2の腕部60a、60bを結合する屈曲部61とを有して、全体的にくの字形に形成されている。インサート60は、また、座62に取り付けたとき、該座62とは反対側に配置され上側溝56の側壁56aに対面するすくい面60fと、半径方向外側に向けられる逃げ面60gとを有している。すくい面60fと逃げ面60gとによって、第1の腕部60aにおいて概ね直線状に延びる第1の主切れ刃60c、第2の腕部60bにおいて概ね直線状に延びる第2の主切れ刃60d、及び、屈曲部61に設けられ第1と第2の主切れ刃60c、60dに連結された円弧状の副切れ刃60eが形成される。
【0039】
インサート60は、フライス工具50を中心軸線O周りに回転させたときに、第1の主切れ刃60cが同一の円錐面に沿って回転し、第2の主切れ刃60dが同一の円錐面に沿って回転するように、座62に取り付けられる。フライス工具50が回転するときに、第1と第2の主切れ刃60c、60dが描く円錐面と中心軸線Oを含む平面と間の2本の交線(各円錐面の母線)は所定の角度で交差する。この角度は、目的とする加工プロセスに応じて種々な値とすることができる。上記2つの交線が形成する角度は、例えば、後述するようにリブと、該リブの上端から張り出したリターンフランジとの間の角度に一致する角度、好ましくは90°とすることができる。
【0040】
また、インサート60は、好ましくは、図32、33に示すように、座62に取り付けたときに、その第1と第2の主切れ刃60c、60d、副切れ刃60e、底切れ刃60h及び内切れ刃60jが、フライス工具50の中心軸線Oを含む1つの平面内に配置される。更に、第1と第2の主切れ刃60c、60d、副切れ刃60e、底切れ刃60h及び内切れ刃60jは、直径上反対側のインサート60の第1と第2の主切れ刃60c、60d、副切れ刃60e、底切れ刃60h及び内切れ刃60jが配置される同一平面内に配置される。
【0041】
更に、インサート60は、フライス工具50を中心軸線O周りに回転させたときに、副切れ刃60eが、ヘッド14の半径方向に膨出する円弧をフライス工具50の中心軸線O周りに回転させた1つの回転体形状の軌跡を描くように、座62に取り付けられる。この回転体形状は、上記のフライス工具50が回転するときに、インサート60の第1と第2の主切れ刃60c、60dが描く2つの円錐面の双方に内接する形状とすることができる。
【0042】
また、インサート60は、ろう付けのような適当な結合技術を用いて座62に取り付けることができる。更に、インサート60を座62に取り付けた後に、インサート60に研削加工を施し、第1と第2の主切れ刃60c、60dが描く上記2つの円錐面の各々の母線が、リブと、該リブの上端から張り出したリターンフランジとの間の角度に一致する角度となり、かつ、副切れ刃60eの描く回転体形状が前記2つの円錐面の双方に内接するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0043】
10 フライス工具
12 シャンク
14 ヘッド
14a 拡径部
14b 縮径部
20 上側インサート
22 下側インサート
104 リブ
106 第1のリターンフランジ
108 第2のリターンフランジ
204 第1のリブ
206 第2のリブ
208 リターンフランジ
210 コーナー部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図14A
図14B
図15A
図15B
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38
図39
図40
【国際調査報告】