(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2019年6月27日
【発行日】2020年12月10日
(54)【発明の名称】LDHセパレータ及び亜鉛二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 2/16 20060101AFI20201113BHJP
H01M 10/24 20060101ALI20201113BHJP
H01M 8/1016 20160101ALI20201113BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20201113BHJP
【FI】
H01M2/16 M
H01M2/16 P
H01M10/24
H01M8/1016
H01M8/10
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】19
【出願番号】特願2019-561018(P2019-561018)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2018年12月13日
(31)【優先権主張番号】特願2018-114670(P2018-114670)
(32)【優先日】2018年6月15日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100131842
【弁理士】
【氏名又は名称】加島 広基
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100218800
【弁理士】
【氏名又は名称】河内 亮
(72)【発明者】
【氏名】武内 幸久
(72)【発明者】
【氏名】山田 直仁
(72)【発明者】
【氏名】大河内 聡太
(72)【発明者】
【氏名】横山 昌平
(72)【発明者】
【氏名】犬飼 直子
【テーマコード(参考)】
5H021
5H028
5H126
【Fターム(参考)】
5H021BB12
5H021CC04
5H021EE02
5H021EE03
5H021EE04
5H021EE07
5H021EE10
5H021EE11
5H021EE22
5H021HH00
5H021HH02
5H028EE05
5H028EE06
5H028HH00
5H126AA03
5H126BB06
5H126GG18
5H126GG19
5H126JJ00
5H126JJ04
5H126JJ06
(57)【要約】
亜鉛デンドライトに起因する短絡をより一層効果的に抑制可能なLDHセパレータが提供される。このLDHセパレータは、高分子材料製の多孔質基材と、多孔質基材の孔を塞ぐ層状複水酸化物(LDH)とを含み、0.03%以上1.0%未満の平均気孔率を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材料製の多孔質基材と、前記多孔質基材の孔を塞ぐ層状複水酸化物(LDH)とを含む、LDHセパレータであって、前記LDHセパレータが0.03%以上1.0%未満の平均気孔率を有する、LDHセパレータ。
【請求項2】
前記平均気孔率が0.05%以上0.9%以下である、請求項1に記載のLDHセパレータ。
【請求項3】
前記LDHが前記多孔質基材の厚さ方向の全域にわたって組み込まれている、請求項1又は2に記載のLDHセパレータ。
【請求項4】
前記LDHセパレータの単位面積あたりのHe透過度が3.0cm/atm・min以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のLDHセパレータ。
【請求項5】
前記LDHセパレータのイオン伝導率が2.0mS/cm以上である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のLDHセパレータ。
【請求項6】
前記高分子材料が、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、フッ素樹脂、セルロース、ナイロン、及びポリエチレンからなる群から選択される、請求項1〜5のいずれか一項に記載のLDHセパレータ。
【請求項7】
前記多孔質基材及び前記LDHからなる、請求項1〜6のいずれか一項に記載のLDHセパレータ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のLDHセパレータを備えた、亜鉛二次電池。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のLDHセパレータを備えた、固体アルカリ形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LDHセパレータ及び亜鉛二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル亜鉛二次電池、空気亜鉛二次電池等の亜鉛二次電池では、充電時に負極から金属亜鉛がデンドライト状に析出し、不織布等のセパレータの空隙を貫通して正極に到達し、その結果、短絡を引き起こすことが知られている。このような亜鉛デンドライトに起因する短絡は繰り返し充放電寿命の短縮を招く。
【0003】
上記問題に対処すべく、水酸化物イオンを選択的に透過させながら、亜鉛デンドライトの貫通を阻止する、層状複水酸化物(LDH)セパレータを備えた電池が提案されている。例えば、特許文献1(国際公開第2013/118561号)には、ニッケル亜鉛二次電池においてLDHセパレータを正極及び負極間に設けることが開示されている。また、特許文献2(国際公開第2016/076047号)には、樹脂製外枠に嵌合又は接合されたLDHセパレータを備えたセパレータ構造体が開示されており、LDHセパレータがガス不透過性及び/又は水不透過性を有する程の高い緻密性を有することが開示されている。また、この文献にはLDHセパレータが多孔質基材と複合化されうることも開示されている。さらに、特許文献3(国際公開第2016/067884号)には多孔質基材の表面にLDH緻密膜を形成して複合材料(LDHセパレータ)を得るための様々な方法が開示されている。この方法は、多孔質基材にLDHの結晶成長の起点を与えうる起点物質を均一に付着させ、原料水溶液中で多孔質基材に水熱処理を施してLDH緻密膜を多孔質基材の表面に形成させる工程を含むものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2013/118561号
【特許文献2】国際公開第2016/076047号
【特許文献3】国際公開第2016/067884号
【発明の概要】
【0005】
上述したようなLDHセパレータを用いてニッケル亜鉛電池等の亜鉛二次電池を構成した場合、亜鉛デンドライトによる短絡等をある程度防止できる。しかしながら、デンドライト短絡防止効果の更なる改善が望まれる。
【0006】
本発明者らは、今般、高分子多孔質基材の孔をLDHで塞いで、平均気孔率が0.03%以上1.0%未満になる程に高度に緻密化することで、亜鉛デンドライトに起因する短絡をより一層効果的に抑制可能なLDHセパレータを提供できるとの知見を得た。
【0007】
したがって、本発明の目的は、亜鉛デンドライトに起因する短絡をより一層効果的に抑制可能なLDHセパレータを提供することにある。
【0008】
本発明の一態様によれば、高分子材料製の多孔質基材と、前記多孔質基材の孔を塞ぐ層状複水酸化物(LDH)とを含む、LDHセパレータであって、前記LDHセパレータが0.03%以上1.0%未満の平均気孔率を有する、LDHセパレータが提供される。
【0009】
本発明の他の一態様によれば、LDHセパレータを備えた、亜鉛二次電池が提供される。
【0010】
本発明の他の一態様によれば、前記LDHセパレータを備えた、固体アルカリ形燃料電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明のLDHセパレータを概念的に示す模式断面図である。
【
図2】例1〜8のデンドライト短絡確認試験で使用された測定装置の模式断面図である。
【
図3A】例1〜8で使用されたHe透過度測定系の一例を示す概念図である。
【
図3B】
図3Aに示される測定系に用いられる試料ホルダ及びその周辺構成の模式断面図である。
【
図4】例1〜8で用いた電気化学測定系を示す模式断面図である。
【
図5】例4において作製されたLDHセパレータの断面FE−SEM像である。図中、灰色領域が高分子多孔質基材に、白色領域がLDHに、黒色領域が残留気孔にそれぞれ相当する。
【
図6】例8(比較)において作製されたLDHセパレータの断面FE−SEM像である。図中、灰色領域が高分子多孔質基材に、白色領域がLDHに、黒色領域が残留気孔にそれぞれ相当する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
LDHセパレータ
図1に模式断面図が概念的に示されるように、本発明のLDHセパレータ10は、多孔質基材12と、層状複水酸化物(LDH)14とを含む。なお、本明細書において「LDHセパレータ」は、LDHを含むセパレータであって、専らLDHの水酸化物イオン伝導性を利用して水酸化物イオンを選択的に通すものとして定義される。なお、
図1においてLDHセパレータ10の上面と下面の間でLDH14の領域が繋がっていないように描かれているが、これは断面として二次元的に描かれているためであり、奥行きを考慮した三次元的にはLDHセパレータ10の上面と下面の間でLDH14の領域が繋がっており、それによりLDHセパレータ10の水酸化物イオン伝導性が確保されている。多孔質基材12は高分子材料製であり、多孔質基材12の孔をLDH14が塞いでいる。もっとも、多孔質基材12の孔は完全に塞がれている訳ではなく、残留気孔Pが僅かに存在する。かかる残留気孔Pに起因して、LDHセパレータ10は0.03%以上1.0%未満の平均気孔率を有する。すなわち、本発明のLDHセパレータ10は残留気孔P(LDHで塞がれていない気孔)が極めて少ないものである。0.03%以上1.0%未満の平均気孔率は、多孔質基材12の孔がLDHで十分に塞がれて極めて高度な緻密性を有することを意味する。このように高分子多孔質基材12の孔をLDHで塞いで、平均気孔率が0.03%以上1.0%未満になる程に高度に緻密化することで、亜鉛デンドライトに起因する短絡をより一層効果的に抑制可能なLDHセパレータ10を提供することができる。すなわち、従来のセパレータにおける亜鉛デンドライトの貫通は、(i)セパレータに含まれる空隙又は欠陥に亜鉛デンドライトが侵入し、(ii)セパレータを押し広げながらデンドライトが成長及び進展し、(iii)最後にデンドライトがセパレータを貫通する、というメカニズムで起こるのではないかと推定される。これに対し、本発明のLDHセパレータ10は、0.03%以上1.0%未満という平均気孔率で評価されるように、多孔質基材12の孔がLDHで十分に塞がれた形で緻密化されているため、亜鉛デンドライトが侵入及び伸展する余地を与えず、それ故、亜鉛デンドライトに起因する短絡をより一層効果的に抑制することができる。
【0013】
また、本発明のLDHセパレータ10は、LDHの有する水酸化物イオン伝導性に基づき、セパレータとして要求される所望のイオン伝導性を備えることは勿論のこと、可撓性及び強度にも優れている。これは、LDHセパレータ10に含まれる高分子多孔質基材12自体の可撓性及び強度に起因するものである。すなわち、高分子多孔質基材12の孔がLDHで十分に塞がれた形でLDHセパレータ10が緻密化されているため、高分子多孔質基材12とLDH14とが高度に複合化された材料として渾然一体化しており、それ故、セラミックス材料であるLDH14に起因する剛性や脆さが高分子多孔質基材12の可撓性や強度によって相殺又は軽減されるといえる。
【0014】
LDHセパレータ10は、0.03%以上1.0%未満の平均気孔率を有しており、好ましくは0.05%以上0.95%以下、より好ましくは0.05%以上0.9%以下、さらに好ましくは0.05〜0.8%、最も好ましくは0.05〜0.5%である。上記範囲内の平均気孔率であると、多孔質基材12の孔がLDH14で十分に塞がれて極めて高度な緻密性をもたらし、それ故、亜鉛デンドライトに起因する短絡をより一層効果的に抑制することができる。また、有意に高いイオン伝導率を実現することができ、LDHセパレータ10が水酸化物イオン伝導セパレータとしての十分な機能を呈することができる。平均気孔率の測定は、a)クロスセクションポリッシャ(CP)によりLDHセパレータを断面研磨し、b)FE−SEM(電界放出形走査電子顕微鏡)により50,000倍の倍率で機能層の断面イメージを2視野取得し、c)取得した断面イメージの画像データをもとに画像検査ソフト(例えばHDevelop、MVTecSoftware製)を用いて2視野それぞれの気孔率を算出し、d)得られた気孔率の平均値を求めることにより行うことができる。
【0015】
LDHセパレータ10はイオン伝導率が0.1mS/cm以上であるのが好ましく、より好ましくは1.0mS/cm以上、さらに好ましくは1.5mS/cm以上、特に好ましくは2.0mS/cm以上である。このような範囲内であるとLDHセパレータが水酸化物イオン伝導セパレータとしての十分な機能を呈することができる。イオン伝導率は高ければ高い方が良いため、その上限値は特に限定されないが、例えば10mS/cmである。イオン伝導率は、LDHセパレータの抵抗、並びにLDHセパレータの厚み及び面積に基づいて算出される。LDHセパレータ10の抵抗は、所定濃度(例えば5.4M)のKOH水溶液中に浸漬させたLDHセパレータ10に対して、電気化学測定システム(ポテンショ/ガルバノスタット−周波数応答アナライザ)を用いて、周波数範囲1MHz〜0.1Hz及び印加電圧10mVで測定を行い、実数軸の切片をLDHセパレータの抵抗として求めることにより決定することができる。
【0016】
LDHセパレータ10は層状複水酸化物(LDH)14を含むセパレータであり、亜鉛二次電池に組み込まれた場合に、正極板と負極板とを水酸化物イオン伝導可能に隔離するものである。すなわち、LDHセパレータ10は水酸化物イオン伝導セパレータとしての機能を呈する。好ましいLDHセパレータ10はガス不透過性及び/又は水不透過性を有する。換言すれば、LDHセパレータ10はガス不透過性及び/又は水不透過性を有するほどに緻密化されているのが好ましい。なお、本明細書において「ガス不透過性を有する」とは、特許文献2及び3に記載されるように、水中で測定対象物の一面側にヘリウムガスを0.5atmの差圧で接触させても他面側からヘリウムガスに起因する泡の発生がみられないことを意味する。また、本明細書において「水不透過性を有する」とは、特許文献2及び3に記載されるように、測定対象物の一面側に接触した水が他面側に透過しないことを意味する。すなわち、LDHセパレータ10がガス不透過性及び/又は水不透過性を有するということは、LDHセパレータ10が気体又は水を通さない程の高度な緻密性を有することを意味し、透水性又はガス透過性を有する多孔性フィルムやその他の多孔質材料ではないことを意味する。こうすることで、LDHセパレータ10は、その水酸化物イオン伝導性に起因して水酸化物イオンのみを選択的に通すものとなり、電池用セパレータとしての機能を呈することができる。このため、充電時に生成する亜鉛デンドライトによるセパレータの貫通を物理的に阻止して正負極間の短絡を防止するのに極めて効果的な構成となっている。LDHセパレータ10は水酸化物イオン伝導性を有するため、正極板と負極板との間で必要な水酸化物イオンの効率的な移動を可能として正極板及び負極板における充放電反応を実現することができる。
【0017】
LDHセパレータ10は、単位面積あたりのHe透過度が3.0cm/min・atm以下であるのが好ましく、より好ましくは2.0cm/min・atm以下、さらに好ましくは1.0cm/min・atm以下である。He透過度が3.0cm/min・atm以下であるセパレータは、電解液中においてZnの透過(典型的には亜鉛イオン又は亜鉛酸イオンの透過)を極めて効果的に抑制することができる。このように本態様のセパレータは、Zn透過が顕著に抑制されることで、亜鉛二次電池に用いた場合に亜鉛デンドライトの成長を効果的に抑制できるものと原理的に考えられる。He透過度は、セパレータの一方の面にHeガスを供給してセパレータにHeガスを透過させる工程と、He透過度を算出して水酸化物イオン伝導セパレータの緻密性を評価する工程とを経て測定される。He透過度は、単位時間あたりのHeガスの透過量F、Heガス透過時にセパレータに加わる差圧P、及びHeガスが透過する膜面積Sを用いて、F/(P×S)の式により算出する。このようにHeガスを用いてガス透過性の評価を行うことにより、極めて高いレベルでの緻密性の有無を評価することができ、その結果、水酸化物イオン以外の物質(特に亜鉛デンドライト成長を引き起こすZn)を極力透過させない(極微量しか透過させない)といった高度な緻密性を効果的に評価することができる。これは、Heガスが、ガスを構成しうる多種多様な原子ないし分子の中でも最も小さい構成単位を有しており、しかも反応性が極めて低いためである。すなわち、Heは、分子を形成することなく、He原子単体でHeガスを構成する。この点、水素ガスはH
2分子により構成されるため、ガス構成単位としてはHe原子単体の方がより小さい。そもそもH
2ガスは可燃性ガスのため危険である。そして、上述した式により定義されるHeガス透過度という指標を採用することで、様々な試料サイズや測定条件の相違を問わず、緻密性に関する客観的な評価を簡便に行うことができる。こうして、セパレータが亜鉛二次電池用セパレータに適した十分に高い緻密性を有するのか否かを簡便、安全かつ効果的に評価することができる。He透過度の測定は、後述する実施例の評価5に示される手順に従って好ましく行うことができる。
【0018】
LDHセパレータ10においては、LDH14が多孔質基材12の孔を塞いでいる。一般的に知られているように、LDH12は、複数の水酸化物基本層と、これら複数の水酸化物基本層間に介在する中間層とから構成される。水酸化物基本層は主として金属元素(典型的には金属イオン)とOH基で構成される。LDHの中間層は、陰イオン及びH
2Oで構成される。陰イオンは1価以上の陰イオン、好ましくは1価又は2価のイオンである。好ましくは、LDH中の陰イオンはOH
−及び/又はCO
32−を含む。また、LDHはその固有の性質に起因して優れたイオン伝導性を有する。
【0019】
一般的に、LDHは、M
2+1−xM
3+x(OH)
2A
n−x/n・mH
2O(式中、M
2+は2価の陽イオンであり、M
3+は3価の陽イオンであり、A
n−はn価の陰イオンであり、nは1以上の整数であり、xは0.1〜0.4であり、mは0以上である)の基本組成式で代表されるものとして知られている。上記基本組成式において、M
2+は任意の2価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはMg
2+、Ca
2+及びZn
2+が挙げられ、より好ましくはMg
2+である。M
3+は任意の3価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはAl
3+又はCr
3+が挙げられ、より好ましくはAl
3+である。A
n−は任意の陰イオンでありうるが、好ましい例としてはOH
−及びCO
32−が挙げられる。したがって、上記基本組成式において、M
2+がMg
2+を含み、M
3+がAl
3+を含み、A
n−がOH
−及び/又はCO
32−を含むのが好ましい。nは1以上の整数であるが、好ましくは1又は2である。xは0.1〜0.4であるが、好ましくは0.2〜0.35である。mは水のモル数を意味する任意の数であり、0以上、典型的には0を超える又は1以上の実数である。もっとも、上記基本組成式は、一般にLDHに関して代表的に例示される「基本組成」の式にすぎず、構成イオンを適宜置き換え可能なものである。例えば、上記基本組成式においてM
3+の一部または全部を4価またはそれ以上の価数の陽イオンで置き換えてもよく、その場合は、上記一般式における陰イオンA
n−の係数x/nは適宜変更されてよい。
【0020】
例えば、LDHの水酸化物基本層は、Ni、Ti、OH基、及び場合により不可避不純物で構成されてもよい。LDHの中間層は、上述のとおり、陰イオン及びH
2Oで構成される。水酸化物基本層と中間層の交互積層構造自体は一般的に知られるLDHの交互積層構造と基本的に同じであるが、本態様のLDHは、LDHの水酸化物基本層を主としてNi、Ti及びOH基で構成することで、優れた耐アルカリ性を呈することができる。その理由は必ずしも定かではないが、本態様のLDHにはアルカリ溶液に溶出しやすいと考えられる元素(例えばAl)が意図的又は積極的に添加されていないためと考えられる。そうでありながらも、本態様のLDHは、アルカリ二次電池用セパレータとしての使用に適した高いイオン伝導性も呈することができる。LDH中のNiはニッケルイオンの形態を採りうる。LDH中のニッケルイオンは典型的にはNi
2+であると考えられるが、Ni
3+等の他の価数もありうるため、特に限定されない。LDH中のTiはチタンイオンの形態を採りうる。LDH中のチタンイオンは典型的にはTi
4+であると考えられるが、Ti
3+等の他の価数もありうるため、特に限定されない。不可避不純物は製法上不可避的に混入されうる任意元素であり、例えば原料や基材に由来してLDH中に混入しうる。上記のとおり、Ni及びTiの価数は必ずしも定かではないため、LDHを一般式で厳密に特定することは非実際的又は不可能である。仮に水酸化物基本層が主としてNi
2+、Ti
4+及びOH基で構成されるものと想定した場合には、対応するLDHは、一般式:Ni
2+1−xTi
4+x(OH)
2A
n−2x/n・mH
2O(式中、A
n−はn価の陰イオン、nは1以上の整数、好ましくは1又は2であり、0<x<1、好ましくは0.01≦x≦0.5、mは0以上、典型的には0を超える又は1以上の実数である)なる基本組成で表すことができる。もっとも、上記一般式はあくまで「基本組成」と解されるべきであり、Ni
2+やTi
4+等の元素がLDHの基本的特性を損なわない程度に他の元素又はイオン(同じ元素の他の価数の元素又はイオンや製法上不可避的に混入されうる元素又はイオンを含む)で置き換え可能なものとして解されるべきである。
【0021】
あるいは、LDHの水酸化物基本層は、Ni、Al、Ti及びOH基を含むものであってもよい。中間層は、上述のとおり、陰イオン及びH
2Oで構成される。水酸化物基本層と中間層の交互積層構造自体は一般的に知られるLDHの交互積層構造と基本的に同じであるが、本態様のLDHは、LDHの水酸化物基本層をNi、Al、Ti及びOH基を含む所定の元素ないしイオンで構成することで、優れた耐アルカリ性を呈することができる。その理由は必ずしも定かではないが、本態様のLDHは、従来はアルカリ溶液に溶出しやすいと考えられていたAlが、Ni及びTiとの何らかの相互作用によりアルカリ溶液に溶出しにくくなるためと考えられる。そうでありながらも、本態様のLDHは、アルカリ二次電池用セパレータとしての使用に適した高いイオン伝導性も呈することができる。LDH中のNiはニッケルイオンの形態を採りうる。LDH中のニッケルイオンは典型的にはNi
2+であると考えられるが、Ni
3+等の他の価数もありうるため、特に限定されない。LDH中のAlはアルミニウムイオンの形態を採りうる。LDH中のアルミニウムイオンは典型的にはAl
3+であると考えられるが、他の価数もありうるため、特に限定されない。LDH中のTiはチタンイオンの形態を採りうる。LDH中のチタンイオンは典型的にはTi
4+であると考えられるが、Ti
3+等の他の価数もありうるため、特に限定されない。水酸化物基本層は、Ni、Al、Ti及びOH基を含んでいさえすれば、他の元素ないしイオンを含んでいてもよい。もっとも、水酸化物基本層は、Ni、Al、Ti及びOH基を主要構成要素として含むのが好ましい。すなわち、水酸化物基本層は、主としてNi、Al、Ti及びOH基からなるのが好ましい。したがって、水酸化物基本層は、Ni、Al、Ti、OH基及び場合により不可避不純物で構成されるのが典型的である。不可避不純物は製法上不可避的に混入されうる任意元素であり、例えば原料や基材に由来してLDH中に混入しうる。上記のとおり、Ni、Al及びTiの価数は必ずしも定かではないため、LDHを一般式で厳密に特定することは非実際的又は不可能である。仮に水酸化物基本層が主としてNi
2+、Al
3+、Ti
4+及びOH基で構成されるものと想定した場合には、対応するLDHは、一般式:Ni
2+1−x−yAl
3+xTi
4+y(OH)
2A
n−(x+2y)/n・mH
2O(式中、A
n−はn価の陰イオン、nは1以上の整数、好ましくは1又は2であり、0<x<1、好ましくは0.01≦x≦0.5、0<y<1、好ましくは0.01≦y≦0.5、0<x+y<1、mは0以上、典型的には0を超える又は1以上の実数である)なる基本組成で表すことができる。もっとも、上記一般式はあくまで「基本組成」と解されるべきであり、Ni
2+、Al
3+、Ti
4+等の元素がLDHの基本的特性を損なわない程度に他の元素又はイオン(同じ元素の他の価数の元素又はイオンや製法上不可避的に混入されうる元素又はイオンを含む)で置き換え可能なものとして解されるべきである。
【0022】
前述したとおり、LDHセパレータ10はLDH14と多孔質基材12とを含み(典型的には多孔質基材12及びLDH14からなり)、LDHセパレータ10は水酸化物イオン伝導性及びガス不透過性を呈するように(それ故水酸化物イオン伝導性を呈するLDHセパレータとして機能するように)LDHが多孔質基材の孔を塞いでいる。LDH14は高分子多孔質基材12の厚さ方向の全域にわたって組み込まれているのが特に好ましい。LDHセパレータの厚さは、好ましくは3〜80μmであり、より好ましくは3〜60μm、さらに好ましくは3〜40μmである。
【0023】
多孔質基材12は高分子材料製である。高分子多孔質基材12には、1)可撓性を有する(それ故薄くしても割れにくい)、2)気孔率を高くしやすい、3)伝導率を高くしやすい(気孔率を高めながら厚さを薄くできるため)、4)製造及びハンドリングしやすいといった利点がある。また、上記1)の可撓性に由来する利点を活かして、5)高分子材料製の多孔質基材を含むLDHセパレータを簡単に折り曲げる又は封止接合することができるとの利点もある。高分子材料の好ましい例としては、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、フッ素樹脂(四フッ素化樹脂:PTFE等)、セルロース、ナイロン、ポリエチレン及びそれらの任意の組合せが挙げられる。より好ましくは、加熱プレスに適した熱可塑性樹脂という観点から、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、フッ素樹脂(四フッ素化樹脂:PTFE等)、ナイロン、ポリエチレン及びそれらの任意の組合せ等が挙げられる。上述した各種の好ましい材料はいずれも電池の電解液に対する耐性として耐アルカリ性を有するものである。特に好ましい高分子材料は、耐熱水性、耐酸性及び耐アルカリ性に優れ、しかも低コストである点から、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンであり、最も好ましくはポリプロピレン又はポリエチレンである。多孔質基材が高分子材料で構成される場合、LDHが多孔質基材の厚さ方向の全域にわたって組み込まれている(例えば多孔質基材内部の大半又はほぼ全部の孔がLDHで埋まっている)のが特に好ましい。このような高分子多孔質基材として、市販の高分子微多孔膜を好ましく用いることができる。
【0024】
製造方法
本発明のLDHセパレータは、(i)高分子多孔質基材を用いて公知の方法に従いLDH含有複合材料(すなわち粗LDHセパレータ)を作製し、(ii)このLDH含有複合材料をプレスすることにより製造することができる。プレス手法は、例えばロールプレス、一軸加圧プレス、CIP(冷間等方圧加圧)等であってよく、特に限定されないが、好ましくはロールプレスである。このプレスは加熱しながら行うのが高分子多孔質基材を軟化させることで、多孔質基材の孔をLDHで十分に塞ぐことができる点で好ましい。十分に軟化する温度として、例えば、ポリプロピレンやポリエチレンの場合は60〜200℃で加熱するのが好ましい。このような温度域でロールプレス等のプレスを行うことで、LDHセパレータの残留気孔に由来する平均気孔率を大幅に低減することができる。その結果、LDHセパレータを極めて高度に緻密化することができ、それ故、亜鉛デンドライトに起因する短絡をより一層効果的に抑制することができる。ロールプレスを行う際、ロールギャップ及びロール温度を適宜調整することで残留気孔の形態を制御することができ、それにより所望の緻密性ないし平均気孔率のLDHセパレータを得ることができる。
【0025】
プレスされる前のLDH含有複合材料(すなわち粗LDHセパレータ)の製造方法は特に限定されず、既に知られるLDH含有機能層及び複合材料(すなわちLDHセパレータ)の製造方法(例えば特許文献1〜3を参照)の諸条件を適宜変更することにより作製することができる。例えば、(1)多孔質基材を用意し、(2)多孔質基材に酸化チタンゾル或いはアルミナ及びチタニアの混合ゾルを塗布して熱処理することで酸化チタン層或いはアルミナ・チタニア層を形成させ、(3)ニッケルイオン(Ni
2+)及び尿素を含む原料水溶液に多孔質基材を浸漬させ、(4)原料水溶液中で多孔質基材を水熱処理して、LDH含有機能層を多孔質基材上及び/又は多孔質基材中に形成させることにより、LDH含有機能層及び複合材料(すなわちLDHセパレータ)を製造することができる。特に、上記工程(2)において酸化チタン層或いはアルミナ・チタニア層を多孔質基材に形成することで、LDHの原料を与えるのみならず、LDH結晶成長の起点として機能させて多孔質基材の中に高度に緻密化されたLDH含有機能層をムラなく均一に形成することができる。また、上記工程(3)において尿素が存在することで、尿素の加水分解を利用してアンモニアが溶液中に発生することによりpH値が上昇し、共存する金属イオンが水酸化物を形成することによりLDHを得ることができる。また、加水分解に二酸化炭素の発生を伴うため、陰イオンが炭酸イオン型のLDHを得ることができる。
【0026】
特に、多孔質基材が高分子材料で構成され、機能層が多孔質基材の厚さ方向の全域にわたって組み込まれている複合材料(すなわちLDHセパレータ)を作製する場合、上記(2)におけるアルミナ及びチタニアの混合ゾルの基材への塗布を、混合ゾルを基材内部の全体又は大部分に浸透させるような手法で行うのが好ましい。こうすることで最終的に多孔質基材内部の大半又はほぼ全部の孔をLDHで埋めることができる。好ましい塗布手法の例としては、ディップコート、ろ過コート等が挙げられ、特に好ましくはディップコートである。ディップコート等の塗布回数を調整することで、混合ゾルの付着量を調整することができる。ディップコート等により混合ゾルが塗布された基材は、乾燥させた後、上記(3)及び(4)の工程を実施すればよい。
【0027】
亜鉛二次電池
本発明のLDHセパレータは亜鉛二次電池に適用されるのが好ましい。したがって、本発明の好ましい態様によれば、LDHセパレータを備えた、亜鉛二次電池が提供される。典型的な亜鉛二次電池は、正極と、負極と、電解液とを備え、LDHセパレータを介して正極と負極が互いに隔離されるものである。本発明の亜鉛二次電池は、亜鉛を負極として用い、かつ、電解液(典型的にはアルカリ金属水酸化物水溶液)を用いた二次電池であれば特に限定されない。したがって、ニッケル亜鉛二次電池、酸化銀亜鉛二次電池、酸化マンガン亜鉛二次電池、亜鉛空気二次電池、その他各種のアルカリ亜鉛二次電池であることができる。例えば、正極が水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含み、それにより亜鉛二次電池がニッケル亜鉛二次電池をなすのが好ましい。あるいは、正極が空気極であり、それにより亜鉛二次電池が亜鉛空気二次電池をなしてもよい。
【0028】
固体アルカリ形燃料電池
本発明のLDHセパレータは固体アルカリ形燃料電池に適用することも可能である。すなわち、高分子多孔質基材の孔をLDHで塞いで、平均気孔率が0.03%以上1.0%未満になる程に高度に緻密化させたLDHセパレータを用いることで、燃料の空気極側への透過(例えばメタノールのクロスオーバー)に起因する起電力の低下を効果的に抑制可能な、固体アルカリ形燃料電池を提供できる。LDHセパレータの有する水酸化物イオン伝導性を発揮させながら、メタノール等の燃料のLDHセパレータの透過を効果的に抑制できるためである。したがって、本発明の別の好ましい態様によれば、LDHセパレータを備えた、固体アルカリ形燃料電池が提供される。本態様による典型的な固体アルカリ形燃料電池は、酸素が供給される空気極と、液体燃料及び/又は気体燃料が供給される燃料極と、燃料極と空気極の間に介在されるLDHセパレータとを備える。
【0029】
その他の電池
本発明のLDHセパレータはニッケル亜鉛電池や固体アルカリ形燃料電池の他、例えばニッケル水素電池にも使用することができる。この場合、LDHセパレータは当該電池の自己放電の要因であるナイトライドシャトル(nitride shuttle)(硝酸基の電極間移動)をブロックする機能を果たす。また、本発明のLDHセパレータは、リチウム電池(リチウム金属が負極の電池)、リチウムイオン電池(負極がカーボン等の電池)あるいはリチウム空気電池等にも使用可能である。
【実施例】
【0030】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。なお、以下の例で作製されるLDHセパレータの評価方法は以下のとおりとした。
【0031】
評価1:LDHセパレータの同定
X線回折装置(リガク社製、RINT TTR III)にて、電圧:50kV、電流値:300mA、測定範囲:10〜70°の測定条件で、LDHセパレータの結晶相を測定してXRDプロファイルを得た。得られたXRDプロファイルについて、JCPDSカードNO.35−0964に記載されるLDH(ハイドロタルサイト類化合物)の回折ピークを用いて同定を行った。
【0032】
評価2:厚さの測定
マイクロメータを用いてLDHセパレータの厚さを測定した。3箇所で厚さを測定し、それらの平均値をLDHセパレータの厚さとして採用した。
【0033】
評価3:平均気孔率測定
クロスセクションポリッシャ(CP)により、LDHセパレータを断面研磨し、FE−SEM(ULTRA55、カールツァイス製)により、50,000倍の倍率でLDHセパレータの断面イメージを2視野取得した。この画像データをもとに、画像検査ソフト(HDevelop、MVTecSoftware製)を用いて、2視野それぞれの気孔率を算出し、それらの平均値をLDHセパレータの平均気孔率とした。
【0034】
評価4:連続充電試験
図2に示されるような測定装置210を構築して亜鉛デンドライトを連続的に成長させる加速試験を行った。具体的には、ABS樹脂の直方体型の容器212を用意して、その中に亜鉛極214a及び銅極214bを互いに0.5cm離間し且つ対向するように配置した。亜鉛極214aは金属亜鉛板であり、銅極214bは金属銅板である。一方、LDHセパレータについてはその外周に沿ってエポキシ樹脂系接着剤を塗布して、中央に開口部を有するABS樹脂製の治具に取り付けて、LDHセパレータ216を含むLDHセパレータ構造体とした。このとき、治具とLDHセパレータの接合箇所で液密性が確保されるように上記接着剤で十分に封止した。そして、容器212内にLDHセパレータ構造体として配置して、亜鉛極214aを含む第一区画215aと銅極214bを含む第二区画215bとを互いにLDHセパレータ216以外の箇所で液体連通を許容しないように隔離した。このとき、エポキシ樹脂系接着剤を用いてLDHセパレータ構造体の外縁3辺(すなわちABS樹脂製の治具の外縁3辺)を容器212の内壁に液密性を確保できるように接着させた。すなわち、LDHセパレータ216を含むセパレータ構造体と容器212の接合部分は液体連通を許容しないように封止された。第一区画215aと第二区画215bにアルカリ水溶液218として5.4mol/LのKOH水溶液を飽和溶解度相当のZnO粉末とともに入れた。亜鉛極214a及び銅極214bを定電流電源の負極と正極にそれぞれ接続するとともに、定電流電源と並列に電圧計を接続した。第一区画215a及び第二区画215bのいずれにおいてもアルカリ水溶液218の水位はLDHセパレータ216の全領域がアルカリ水溶液218に浸漬されるようにし、かつ、LDHセパレータ構造体(治具を含む)の高さを超えない程度とした。こうして構築された測定装置210において、亜鉛極214a及び銅極214bの間に20mA/cm
2の定電流を最大200時間にわたって継続的に流した。その間、亜鉛極214a及び銅極214b間に流れる電圧の値を電圧計でモニタリングし、亜鉛極214a及び銅極214b間における亜鉛デンドライト短絡(急激な電圧低下)の有無を確認した。このとき、100時間以上(又は200時間以上)にわたって短絡が生じなかった場合は「短絡なし」と判定し、100時間未満(又は200時間未満)で短絡が生じた場合は「短絡あり」と判定した。
【0035】
評価5:He透過測定
He透過性の観点からLDHセパレータの緻密性を評価すべく、He透過試験を以下のとおり行った。まず、
図3A及び
図3Bに示されるHe透過度測定系310を構築した。He透過度測定系310は、Heガスを充填したガスボンベからのHeガスが圧力計312及び流量計314(デジタルフローメーター)を介して試料ホルダ316に供給され、この試料ホルダ316に保持されたLDHセパレータ318の一方の面から他方の面に透過させて排出させるように構成した。
【0036】
試料ホルダ316は、ガス供給口316a、密閉空間316b及びガス排出口316cを備えた構造を有するものであり、次のようにして組み立てた。まず、LDHセパレータ318の外周に沿って接着剤322を塗布して、中央に開口部を有する治具324(ABS樹脂製)に取り付けた。この治具324の上端及び下端に密封部材326a,326bとしてブチルゴム製のパッキンを配設し、さらに密封部材326a,326bの外側から、フランジからなる開口部を備えた支持部材328a,328b(PTFE製)で挟持した。こうして、LDHセパレータ318、治具324、密封部材326a及び支持部材328aにより密閉空間316bを区画した。支持部材328a,328bを、ガス排出口316c以外の部分からHeガスの漏れが生じないように、ネジを用いた締結手段330で互いに堅く締め付けた。こうして組み立てられた試料ホルダ316のガス供給口316aに、継手332を介してガス供給管334を接続した。
【0037】
次いで、He透過度測定系310にガス供給管334を経てHeガスを供給し、試料ホルダ316内に保持されたLDHセパレータ318に透過させた。このとき、圧力計312及び流量計314によりガス供給圧と流量をモニタリングした。Heガスの透過を1〜30分間行った後、He透過度を算出した。He透過度の算出は、単位時間あたりのHeガスの透過量F(cm
3/min)、Heガス透過時にLDHセパレータに加わる差圧P(atm)、及びHeガスが透過する膜面積S(cm
2)を用いて、F/(P×S)の式により算出した。Heガスの透過量F(cm
3/min)は流量計314から直接読み取った。また、差圧Pは圧力計312から読み取ったゲージ圧を用いた。なお、Heガスは差圧Pが0.05〜0.90atmの範囲内となるように供給された。
【0038】
評価6:イオン伝導率の測定
電解液中でのLDHセパレータのイオン伝導率を
図4に示される電気化学測定系を用いて以下のようにして測定した。LDHセパレータ試料Sを両側から厚み1mmシリコーンパッキン440で挟み、内径6mmのPTFE製フランジ型セル442に組み込んだ。電極446として、#100メッシュのニッケル金網をセル442内に直径6mmの円筒状にして組み込み、電極間距離が2.2mmになるようにした。電解液444として、5.4MのKOH水溶液をセル442内に充填した。電気化学測定システム(ポテンショ/ガルバノスタット−周波数応答アナライザ、ソーラトロン社製1287A型及び1255B型)を用い、周波数範囲は1MHz〜0.1Hz、印加電圧は10mVの条件で測定を行い、実数軸の切片をLDHセパレータ試料Sの抵抗とした。得られたLDHセパレータの抵抗と、LDHセパレータの厚み及び面積を用いて伝導率を求めた。
【0039】
例1(比較)
(1)高分子多孔質基材の準備
気孔率50%、平均気孔径0.1μm及び厚さ20μmの市販のポリエチレン微多孔膜を高分子多孔質基材として用意し、2.0cm×2.0cmの大きさになるように切り出した。
【0040】
(2)高分子多孔質基材へのアルミナ・チタニアゾルコート
無定形アルミナ溶液(Al−ML15、多木化学株式会社製)と酸化チタンゾル溶液(M6、多木化学株式会社製)をTi/Al(モル比)=2となるように混合して混合ゾルを作製した。混合ゾルを、上記(1)で用意された基材へディップコートにより塗布した。ディップコートは、混合ゾル100mlに基材を浸漬させてから垂直に引き上げ、90℃の乾燥機中で5分間乾燥させることにより行った。
【0041】
(3)原料水溶液の作製
原料として、硝酸ニッケル六水和物(Ni(NO
3)
2・6H
2O、関東化学株式会社製、及び尿素((NH
2)
2CO、シグマアルドリッチ製)を用意した。0.015mol/Lとなるように、硝酸ニッケル六水和物を秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を75mlとした。得られた溶液を攪拌した後、溶液中に尿素/NO
3−(モル比)=16の割合で秤量した尿素を加え、更に攪拌して原料水溶液を得た。
【0042】
(4)水熱処理による成膜
テフロン(登録商標)製密閉容器(オートクレーブ容器、内容量100ml、外側がステンレス製ジャケット)に原料水溶液とディップコートされた基材を共に封入した。このとき、基材はテフロン(登録商標)製密閉容器の底から浮かせて固定し、基材両面に溶液が接するように水平に設置した。その後、水熱温度120℃で24時間水熱処理を施すことにより基材表面と内部にLDHの形成を行った。所定時間の経過後、基材を密閉容器から取り出し、イオン交換水で洗浄し、70℃で10時間乾燥させて、多孔質基材の孔内にLDHを形成させた。こうして、LDHを含む複合材料を得た。
【0043】
(5)ロールプレスによる緻密化
上記LDHを含む複合材料を、1対のPETフィルム(東レ株式会社製、ルミラー(登録商標)、厚さ40μm)で挟み、ロール回転速度3mm/s、ロール温度110℃、ロールギャップ60μmにてロールプレスを行い、LDHセパレータを得た。
【0044】
(6)評価結果
得られたLDHセパレータに対して評価1〜6を行った。評価1の結果、本例のLDHセパレータは、LDH(ハイドロタルサイト類化合物)であることが同定された。評価2〜6の結果は表1に示されるとおりであった。表1に示されるように、100時間までの連続充電時間では亜鉛デンドライト短絡が発生しなかったが、200時間未満の連続充電時間で亜鉛デンドライト短絡が発生した。
【0045】
例2〜7
上記(5)のロールプレスによる緻密化において、ローラ加熱温度を表1に示される値に変更したこと以外は、例1と同様にしてLDHセパレータを作製し、同様に評価した。評価1の結果、本例のLDHセパレータは、LDH(ハイドロタルサイト類化合物)であることが同定された。評価2〜6の結果は表1に示されるとおりであった。表1に示されるように、例2〜7はいずれも200時間以上の連続充電時間においても亜鉛デンドライト短絡が発生しなかった。また、
図5に例4の評価3で得られたLDHセパレータの断面FE−SEM像を示す。
【0046】
例8(比較)
上記(5)のロールプレスによる緻密化を行わなかったこと以外は、例1と同様にしてLDHセパレータの作製及び評価を行った。評価1の結果、本例のLDHセパレータは、LDH(ハイドロタルサイト類化合物)であることが同定された。評価2〜6の結果は表1に示されるとおりであった。表1に示されるように、評価4は、100時間未満の連続充電時間で亜鉛デンドライト短絡が発生した。また、
図6に評価3で得られたLDHセパレータの断面FE−SEM像を示す。
【0047】
例9〜11
下記a)〜c)以外は、例1と同様にしてLDHセパレータの作製及び評価を行った。
a)上記(3)の原料として、硝酸ニッケル六水和物の代わりに、硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO
3)
2・6H
2O、関東化学株式会社製)を用い、0.03mol/Lとなるように、硝酸マグネシウム六水和物を秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を75mlとし、得られた溶液を攪拌した後、溶液中に尿素/NO
3−(モル比)=8の割合で秤量した尿素を加え、更に攪拌して原料水溶液を得たこと。
b)上記(4)の水熱温度を90℃としたこと。
c)上記(5)のロールプレスによる緻密化において、ローラ加熱温度を表1に示される値に変更したこと。
【0048】
評価1の結果、本例のLDHセパレータは、LDH(ハイドロタルサイト類化合物)であることが同定された。評価2〜6の結果は表1に示されるとおりであった。表1に示されるように、例9〜11はいずれも200時間以上の連続充電時間においても亜鉛デンドライト短絡が発生しなかった。
【0049】
【表1】
【国際調査報告】