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再表2019-131709燃料電池用触媒層、膜電極接合体および燃料電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2019年7月4日
【発行日】2020年12月24日
(54)【発明の名称】燃料電池用触媒層、膜電極接合体および燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20201127BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20201127BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20201127BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20201127BHJP
【FI】
   H01M4/86 M
   H01M4/90 Z
   H01M4/92
   H01M4/86 B
   H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】29
【出願番号】特願2019-562071(P2019-562071)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2018年12月26日
(31)【優先権主張番号】特願2017-254979(P2017-254979)
(32)【優先日】2017年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2018-53387(P2018-53387)
(32)【優先日】2018年3月20日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2018-56989(P2018-56989)
(32)【優先日】2018年3月23日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】特許業務法人河崎・橋本特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石本 仁
(72)【発明者】
【氏名】山崎 和哉
(72)【発明者】
【氏名】井村 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】南浦 武史
(72)【発明者】
【氏名】島崎 幸博
(72)【発明者】
【氏名】江崎 賢一
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018DD05
5H018EE02
5H018EE03
5H018EE04
5H018EE05
5H018EE08
5H018EE10
5H018EE17
5H018EE18
5H018HH01
5H018HH02
5H018HH03
5H018HH04
5H018HH05
5H126BB06
5H126DD02
5H126DD05
5H126EE22
5H126EE24
(57)【要約】
触媒層全体において良好なガス拡散性を得るとともに、触媒粒子の粗大化を抑制する。燃料電池用触媒層は、繊維状導電部材と、触媒粒子と、を備える。繊維状導電部材は、触媒層の面方向に対して傾斜しており、且つ繊維状導電部材の長さLと触媒層の厚みTとが関係式: L/T≦3を満たしている。触媒粒子は、コア部と、コア部を覆うとともにコア部と異なる成分を含むシェル部と、を備える。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維状導電部材と、触媒粒子と、を備える燃料電池用触媒層であって、
前記繊維状導電部材の長さLと、前記燃料電池用触媒層の厚みTとが、関係式:
L/T≦3
を満たし、
前記繊維状導電部材は、前記燃料電池用触媒層の面方向に対して傾斜している、燃料電池用触媒層。
【請求項2】
前記燃料電池用触媒層の面方向に対する前記繊維状導電部材の傾斜角度θは、80°以下である、請求項1に記載の燃料電池用触媒層。
【請求項3】
前記繊維状導電部材の長さLと、前記繊維状導電部材の直径Dとが、関係式:
D/L<1
を満たす、請求項1または2に記載の燃料電池用触媒層。
【請求項4】
前記繊維状導電部材の直径Dは、200nm以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池用触媒層。
【請求項5】
さらに、粒子状導電部材を、前記繊維状導電部材および前記粒子状導電部材の合計の100質量部あたり40質量部以下含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃料電池用触媒層。
【請求項6】
前記繊維状導電部材のBET比表面積は、50m/g以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃料電池用触媒層。
【請求項7】
電解質膜と、前記電解質膜を挟む一対の電極と、を有する膜電極接合体を備え、
前記一対の電極の少なくとも一方が、請求項1〜6のいずれか1項に記載の触媒層を備える、燃料電池。
【請求項8】
繊維状導電部材と、触媒粒子と、を備える燃料電池用触媒層であって、
前記繊維状導電部材の長さLと、前記燃料電池用触媒層の厚みTとが、関係式:
L/T≦3
を満たし、
前記繊維状導電部材は、前記燃料電池用触媒層の面方向に対して傾斜しており、
前記触媒粒子は、コア部と、シェル部と、を備える第1粒子を含み、
前記シェル部は、前記コア部を覆うとともに前記コア部と異なる成分を含む、燃料電池用触媒層。
【請求項9】
前記コア部は、パラジウムおよびパラジウム合金の少なくとも一方を含み、
前記シェル部は、白金および白金合金の少なくとも一方を含む、請求項8に記載の燃料電池用触媒層。
【請求項10】
前記第1粒子の平均粒径は、2nm以上10nm以下である、請求項8または9に記載の燃料電池用触媒層。
【請求項11】
前記触媒粒子は、さらに、前記コア部と同じ成分を含む第2粒子を含む、請求項8〜10のいずれか1項に記載の燃料電池用触媒層。
【請求項12】
前記触媒粒子は、さらに、前記シェル部と同じ成分を含む第3粒子を含む、請求項8〜11のいずれか1項に記載の燃料電池用触媒層。
【請求項13】
電解質膜と、前記電解質膜を挟む一対の電極と、を有する膜電極接合体を備え、
前記一対の電極の少なくとも一方が、請求項8〜12のいずれか1項に記載の触媒層を備える、燃料電池。
【請求項14】
電解質膜と、前記電解質膜を挟む一対の電極と、を備え、
前記一対の電極は、それぞれ、前記電解質膜側から順に、触媒層およびガス拡散層を備え、
前記一対の電極の少なくとも一方の前記触媒層は、第1繊維状導電部材と触媒粒子とを含み、
前記第1繊維状導電部材の長さLと、前記触媒層の厚さTとが、関係式:
/T≦3
を満たし、
前記第1繊維状導電部材は、前記触媒層の面方向に対して傾斜しており、
前記一対の電極の前記少なくとも一方の前記ガス拡散層は、導電性材料と高分子樹脂とを含む多孔質層で構成されている、膜電極接合体。
【請求項15】
前記ガス拡散層は、前記触媒層の厚さの2倍以上の厚さを有する、請求項14に記載の膜電極接合体。
【請求項16】
前記ガス拡散層の厚さは、600μm以下である、請求項14または15に記載の膜電極接合体。
【請求項17】
前記導電性材料は、第2繊維状導電部材を含む、請求項14〜16のいずれか1項に記載の膜電極接合体。
【請求項18】
前記第2繊維状導電部材の長さは、前記第1繊維状導電部材の長さよりも大きい、請求項17に記載の膜電極接合体。
【請求項19】
前記第2繊維状導電部材の直径は、前記第1繊維状導電部材の直径よりも大きい、請求項17または18に記載の膜電極接合体。
【請求項20】
前記触媒層の空隙率Pは、30%以上70%以下であり、
前記ガス拡散層の空隙率Pは、60%以上90%以下である、
請求項14〜19のいずれか1項に記載の膜電極接合体。
【請求項21】
前記触媒層の前記空隙率Pと、前記ガス拡散層の前記空隙率Pとが、P<Pという関係を有している、請求項20に記載の膜電極接合体。
【請求項22】
請求項15〜21のいずれか1項に記載の膜電極接合体と、前記膜電極接合体を挟む一対のセパレータと、を備える、燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、膜電極接合体および燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質膜およびそれを挟む一対の電極を有する膜電極接合体を備える。一対の電極は、それぞれ、電解質膜側から順に、触媒層およびガス拡散層を備える。
【0003】
特許文献1では、触媒層(電解質膜)の面方向に対して略垂直方向に配向している導電性ナノ柱状体(以下、単に柱状体と称する。)および柱状体に担持された触媒を含む触媒層を用い、触媒層と電解質膜との間に埋め込み防止層を介在させることが提案されている。
【0004】
触媒層は、化学気相成長法により基板上にその面方向に対して略垂直方向に配向する柱状体を形成し、基板上の柱状体を電解質膜に転写することにより、形成される。埋め込み防止層は、上記の転写に伴う柱状体端部の電解質膜への埋め込みによる触媒の利用率低下を抑制するために設けられている。
【0005】
また、特許文献1は、導電性を有するシート状の多孔質基材(以下、単に基材と称する。)の触媒層側の表面に導電性材料と撥水性樹脂とを含む撥水層を形成したガス拡散層や、基材の触媒層側に撥水性樹脂を含浸させたガス拡散層を、開示している。特許文献1は、カーボンペーパー、カーボンクロス等の基材や、厚さ50μm以上の基材を、開示している。
【0006】
一方、特許文献2では、特許文献1と同様、導電性ナノ柱状体および柱状体に担持された触媒を用いており、柱状体が電解質膜の面方向に対して60°以下の傾斜をもって配向させること、柱状体の一端が電解質膜に埋設されることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2013/065396号
【特許文献2】特開2007−257886号公報
【発明の概要】
【0008】
膜電極接合体、単セルまたは複数の単セルの積層体(セルスタック)の作製の際において、膜電極接合体に対してその厚み方向の外力が加えられることがある。特許文献1の柱状体は、触媒層(電解質膜)の面方向に対して略垂直方向に配向しつつ、その両端部は、それぞれ電解質膜およびガス拡散層と接触している。そのため、厚み方向の外力が加えられると、柱状体の両端部に応力が集中し、柱状体が屈曲したり、その端部が電解質膜またはガス拡散層に突き刺さったりするという不具合が生じ得る。このような不具合が生じると、触媒層内に形成される空隙(ガス経路)に偏りが生じて、触媒層の一部においてガス拡散性が低下する。特許文献2の柱状体は、電解質膜の面方向に対して斜めに配向されており、電解質膜側の一端は電解質膜に埋設した構成となっている。上記と同様、柱状体の厚み方向の外力が加えられると、柱状体に付加された応力が直接、電解質膜に付加されることになり、電解質膜の破損を招いてしまう。更に、柱状体が斜め方向に配向しているため、柱状体の側面部に応力が集中し、柱状体の屈曲させてしまう。このような屈曲が生じると、隣接する柱状体との距離が縮小することから、ガス経路の偏りを生じ、ガス拡散性の低下を招いてしまう。
【0009】
触媒粒子は、柱状体の凹凸の少ない表面に担持されているため、発電時に触媒粒子が柱状体表面を移動し、複数の触媒粒子同士が凝集して、触媒粒子が粗大化し得る。触媒粒子の粗大化に伴い、触媒粒子サイズのばらつきが増大すると、触媒層内のガス拡散性が低下し、局所的に電流が集中し、それに伴う発熱により電解質膜が劣化することがある。また、触媒粒子が粗大化すると、触媒粒子表面のプロトン伝導性樹脂による被覆状態が変化し、プロトン伝導抵抗が増大することもある。
【0010】
また、特許文献1のガス拡散層は上記の基材を含むため、柔軟性が低い。上記のガス拡散層は上記の触媒層の表面に追従し難く、触媒層とガス拡散層との密着性が低い。触媒層とガス拡散層との低い密着性は、ガス拡散層から触媒層への反応ガスの供給および触媒層からガス拡散層への生成水の排出に影響を与える。
【0011】
膜電極接合体の作製時に、上記の触媒層と上記のガス拡散層とを密着させようと高い圧力で熱プレスすると、上記のように柱状体の湾曲やガス拡散層等への突き刺さりが生じ、触媒層のガス拡散性が低下する。
【0012】
本開示の一局面は、繊維状導電部材と、触媒粒子と、を備える燃料電池用触媒層に関し、であって、繊維状導電部材の長さLと、触媒層の厚みTとが、関係式:L/T≦3を満たす繊維状導電部材は、触媒層の面方向に対して傾斜している。
【0013】
本開示の他の一局面は、電解質膜と、前記電解質膜を挟む一対の電極と、を有する膜電極接合体を備え、前記一対の電極の少なくとも一方が、上記の触媒層を備える、燃料電池に関する。
【0014】
本開示の他の一側面は、繊維状導電部材と、触媒粒子と、を備える燃料電池用触媒層に関する。繊維状導電部材は、触媒層の面方向に対して傾斜しており、触媒粒子は、コア部と、シェル部と、を備える第1粒子を含む。シェル部は、コア部を覆うとともにコア部と異なる成分を含む。
【0015】
本開示の他の一側面は、電解質膜と、電解質膜を挟む一対の電極と、を有する膜電極接合体を備え、一対の電極の少なくとも一方が、上記触媒層を備える、燃料電池に関する。
【0016】
本開示の一局面は、電解質膜と、電解質膜を挟む一対の電極と、を備える膜電極接合体に関する。一対の電極は、それぞれ、電解質膜側から順に、触媒層およびガス拡散層を備える。一対の電極の少なくとも一方の触媒層は、第1繊維状導電部材と触媒粒子とを含む。第1維状導電部材は、その長さL1と、触媒層の厚みTとが関係式:L/T≦3を満たし、す第1繊維状導電部材は、触媒層の面方向に対して傾斜している。一対の電極の少なくとも一方のガス拡散層は、導電性材料と高分子樹脂とを含む多孔質層で構成されている。
【0017】
本開示の他の一局面は、上記の膜電極接合体と、前記膜電極接合体を挟む一対のセパレータと、を備える、燃料電池に関する。
【0018】
本開示によれば、触媒層全体において良好なガス拡散性を得ることができ、その結果、燃料電池の出力特性を高めることができる。
【0019】
また、本開示によれば、触媒層全体において良好なガス拡散性が得られるとともに、触媒粒子の粗大化を抑制することができる。
【0020】
本開示によれば、触媒層全体において良好なガス拡散性が得られるとともに、触媒層とガス拡散層との密着性が向上する。その結果、燃料電池の発電性能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】繊維状導電部材の直線率Lおよび傾斜角度θの算出法を、触媒層の断面を用いて説明する説明図である。
図2】本開示の第1の実施形態に係る燃料電池の単セルの構造を模式的に示す断面図である。
図3】本開示の第1の実施形態に係る触媒層の内部を模式的に示す図である。
図4図3の触媒粒子に含まれる第1粒子を模式的に示す断面図である。
図5】第1繊維状導電部材の直線率Lおよび傾斜角度θの算出法を、触媒層の断面を用いて説明する説明図である。
図6】本開示の第2の実施形態に係る燃料電池の単セルの構造を模式的に示す断面図である。
図7】本開示の第2の実施形態に係る触媒層の内部を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1の実施形態)
本開示の実施形態に係る燃料電池用触媒層は、繊維状導電部材と、触媒粒子とを備える。繊維状導電部材は、触媒層の面方向(触媒層の厚み方向と垂直な面)に対して傾斜している。触媒粒子は、コア部とシェル部とを備える第1粒子(コアシェル粒子)を含む。シェル部は、コア部を覆うとともにコア部と異なる成分を含む。また、本発明の実施形態に係る燃料電池は、電解質膜と、電解質膜を挟む一対の電極とを有する膜電極接合体を備える。一対の電極の少なくとも一方は、上記触媒層を備える。すなわち、繊維状導電部材が、電解質膜の面方向(電解質膜の厚み方向と垂直な面)に対して傾斜している。一対の電極の一方がアノードであり、その他方がカソードである。以下、触媒層の面方向および電解質膜の面方向をXY方向とも称する。また、触媒層の厚み方向および電解質膜の厚み方向をZ方向とも称する。
【0023】
繊維状導電部材がXY方向に対して傾斜しているとは、繊維状導電部材がXY方向に対して平行ではなく、かつ垂直でもないことを意味する。つまり、繊維状導電部材は、XY方向に対して傾斜すると同時に、Z方向に対しても傾斜しているといえる。
【0024】
このように、繊維状導電部材がXY方向に対して傾斜していることにより、膜電極接合体(触媒層)のZ方向への外力付与による繊維状導電部材の屈曲や電解質膜等への突き刺さりが抑制される。よって、繊維状導電部材の屈曲や電解質膜等への突き刺さりに伴う触媒層の一部におけるガス拡散性の低下が抑制され、触媒層全体において良好なガス拡散性が得られる。さらに、繊維状導電部材の屈曲や電解質膜等への突き刺さりにより繊維状導電部材の導電性に影響を及ぼす可能性も排除される。よって、埋め込み防止層を設けなくても、触媒層の電解質膜への転写時に、繊維状導電部材の端部の電解質膜への埋め込みが抑制される。
【0025】
繊維状導電部材が傾斜しているとは、触媒層内において、繊維状導電部材が、その直線性が確保された状態で、XY方向に対して傾いて存在していることを意味する。なお、繊維状導電部材の直線性が確保されているとは、繊維状導電部材が大きく屈曲していないことであり、後述の方法により求められる直線率L(平均値)が0.6以上であることを意味する。ガス拡散性の更なる向上の観点から、直線率L(平均値)は0.7以上が好ましい。
【0026】
触媒層内で繊維状導電部材が傾斜する方向は特に限定されない。触媒層に含まれる複数の繊維状導電部材は、互いに異なる方向に傾斜してもよく、互いに同じ方向に傾斜してもよい。
【0027】
第1粒子のコア部とシェル部とは互いに異なる成分を含む。なお、コア部とシェル部とが互いに異なる成分を含むとは、コア部で存在割合が最も高い金属元素と、シェル部で存在割合が最も高い金属元素とが、互いに異なることを意味する。発電時に第1粒子が繊維状導電部材の表面を移動すると、金属の凝集が進行する。ただし、凝集は同種の金属間で進行しやすいため、コア部同士およびシェル部同士がそれぞれ別々に凝集しやすい。これにより、複数の触媒粒子の全体が一体化するような凝集が抑制され、触媒粒子の粗大化が抑制される。よって、粒子サイズのばらつきが増大しにくく、触媒層内の局所的な電流集中およびそれに伴う発熱が生じにくくなり、電解質膜の劣化が抑制される。
【0028】
通常、触媒粒子の表面は、プロトン伝導性樹脂で被覆されている。触媒粒子の粗大化が抑制される場合、触媒粒子の表面のプロトン伝導性樹脂による被覆状態が変化しにくくなるため、プロトン伝導抵抗の増大も抑制される。
【0029】
繊維状導電部材をXY方向に対して傾斜させると、触媒層全体のガス拡散性が向上するため、発電時に触媒粒子が移動し易くなり、触媒粒子の粗大化が更に進み易くなるものと考えられる。これに対し、触媒粒子にコアシェル粒子を用いる場合には、コア部同士およびシェル部同士がそれぞれ別々に凝集するため、触媒層全体のガス拡散性が大きく向上する場合でも、触媒粒子の粗大化を顕著に抑制し得る。このように触媒層全体において良好なガス拡散性が得られるとともに、触媒粒子の粗大化が抑制されることにより、燃料電池の発電性能(出力特性等)が向上する。すなわち、繊維状導電部材をXY方向に対して傾斜させる場合には、特にコアシェル粒子による触媒粒子の粗大化の抑制が顕在化し得る。
【0030】
第1粒子の平均粒径は、例えば2nm以上10nm以下であることが好ましく、特に3nm以上8nm以下であることが好ましい。第1粒子の平均粒径が2nm以上である場合、触媒活性が十分に確保される。第1粒子の平均粒径が10nm以下である場合、触媒粒子の1g当たりの電気化学的有効面積が十分に高められる。特に第1粒子の平均粒径が3nm以上8nm以下であれば、触媒活性が十分に確保されるとともに、第1粒子の移動に伴い形成され得る後述の第2粒子および第3粒子のサイズを十分に小さくすることができる。
【0031】
第1粒子の平均粒径は、未使用の燃料電池を解体して、膜電極接合体(触媒層)を取り出し、以下のようにして求められる。
【0032】
透過型電子顕微鏡(TEM)の画像から、第1粒子を任意に1つ選出し、当該粒子を球状と見なしてその粒径を算出する。同様にして、同じTEM画像で観察される200〜300個の第1粒子のそれぞれの粒径を算出する。これらの粒径の平均値を第1粒子の平均粒径とする。なお、触媒層中に存在する触媒粒子が第1粒子(コアシェル型粒子)であることは、エネルギー分散型X線分光法(EDX)を用いた組成分析により確認する。
【0033】
シェル部を構成する成分は、触媒活性を有するものであればよい。高い触媒活性の確保の観点から、シェル部は、白金および白金合金の少なくとも一方を含むことが好ましい。白金合金は、主成分として白金を含む。ここでいう主成分とは、白金合金中の白金の含有量が、90質量%以上かつ100質量%未満であることをいう。白金合金中の白金の含有量が90質量%以上である場合、高い触媒活性および耐久性が得られる。白金合金は、例えば、白金以外に、イリジウム、ルテニウム、ロジウム、ニッケル、金、コバルト、パラジウム、銀、鉄、および銅よりなる群から選択される少なくとも1種を含む。
【0034】
コア部は、例えば、白金以外の遷移金属を含む。白金以外の遷移金属としては、例えば、パラジウム、銅、鉄、ニッケル、コバルト、ルテニウム、ロジウム、銀、金が挙げられる。白金以外の遷移金属の中でも、コスト低減の観点から、銅、鉄、およびニッケルが好ましい。ただし、銅、鉄、ニッケルはコア部から溶出し易いため、使用環境に応じて適宜選択されることが望ましい。上記で例示した各種金属は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上を組み合わせて用いる場合、合金として用いてもよい。
【0035】
触媒粒子の粗大化抑制、シェル部の安定性の観点から、コア部は、パラジウムおよびパラジウム合金の少なくとも一方を含むことが好ましい。パラジウム合金は、主成分としてパラジウムを含む。ここでいう主成分とは、パラジウム合金中のパラジウムの含有量が、80質量%以上かつ100質量%未満であることをいう。パラジウム合金中のパラジウムの含有量が80質量%以上である場合、触媒粒子の粗大化が更に抑制される。また、パラジウム合金中のパラジウムの含有量が80質量%以上である場合、シェル部に含まれる白金との原子サイズの差が小さくなり、均一なシェル部が得られ易い。パラジウム合金は、例えば、パラジウム以外に、イリジウム、銅、鉄、ニッケル、コバルト、ルテニウム、ロジウム、および銀よりなる群から選択される少なくとも1種を含む。
【0036】
高い触媒活性の確保および触媒粒子の粗大化抑制の観点から、第1粒子に占めるシェル部の質量割合は、コア部の100質量部に対して30質量部以上かつ400質量部以下であることが好ましく、コア部の100質量部に対して40質量部以上かつ200質量部以下であることがより好ましい。また、シェル部は、シェル部を構成する原子の1個分から4個分までに相当する厚さを有することが好ましい。
【0037】
コア部の表面の70%以上がシェル部で覆われていることが好ましく、コア部の表面の80%以上がシェル部で覆われていることがより好ましい。コア部の表面の70%以上がシェル部で覆われている場合、高い触媒活性が十分に確保される。
【0038】
触媒粒子は、さらに、コア部と同じ成分を含む第2粒子を含んでもよい。このような第2粒子は、発電時の複数の第1粒子の移動に伴うコア部同士の凝集により形成され得る。第2粒子の形成により、複数の触媒粒子が全体として凝集する場合よりも、凝集粒子のサイズを小さくすることができる。なお、第2粒子とコア部とが、互いに同じ成分を含むとは、第2粒子で存在割合が最も高い金属元素と、コア部で存在割合が最も高い金属元素とが、互いに同じであることを意味する。
【0039】
触媒粒子は、さらに、シェル部と同じ成分を含む第3粒子を含んでもよい。このような第3粒子も、発電時の複数の第1粒子の移動に伴うシェル部同士の凝集により形成され得る。第3粒子の形成により、複数の触媒粒子が全体として凝集する場合よりも、凝集粒子のサイズを小さくすることができる。なお、第3粒子とシェル部とが、互いに同じ成分を含むとは、第3粒子で存在割合が最も高い金属元素と、シェル部で存在割合が最も高い金属元素とが、互いに同じであることを意味する。
【0040】
第2粒子および第3粒子は、第1粒子に由来するが、少なくともコアシェル構造を有さない点で第1粒子と区別し得る。
【0041】
繊維状導電部材の長さLと、触媒層の厚みTとが、関係式:L/T≦3を満たすことが好ましい。L/Tが3以下である場合、繊維状導電部材の直線性を相当程度に確保しつつ、XY方向に対して傾斜する繊維状導電部材が得られやすい。これにより、触媒層内において空隙(ガス経路)を十分に形成することができ、触媒層全体において、効果的にガスを拡散させることができる。
【0042】
触媒層のガス拡散性の更なる向上の観点から、L/Tは、好ましくは0.25以上2.0以下であり、より好ましくは0.25以上1.0以下である。この場合、後述する傾斜角度θの好ましい範囲内に繊維状導電部材を傾斜させ易い。
【0043】
繊維状導電部材の長さLは、平均繊維長さであり、触媒層から繊維状導電部材を任意に10本取り出し、これらの繊維状導電部材の繊維長さを平均化することにより、求められる。なお、上記の繊維状導電部材の繊維長さとは、繊維状導電部材の一端と、その他端とを直線で結んだときのその直線の長さを意味する。
【0044】
繊維状導電部材の長さLは、好ましくは0.2μm以上20μm以下であり、より好ましくは0.5μm以上10μm以下である。この場合、薄い触媒層(例えば厚みTが10μm以下)でも、繊維状導電部材を触媒層の面方向に対して容易に傾斜させることができる。また、上記範囲の短い繊維状導電部材を用いることにより、触媒層内で繊維状導電部材の両端が、それぞれ電解質膜およびガス拡散層に接触することが抑制される。これにより、触媒層の電解質膜への転写時の繊維状導電部材端部の電解質膜への埋め込みおよび膜電極接合体の厚み方向への外力付与時の繊維状導電部材の電解質膜等への突き刺さりが、さらに抑制される。
【0045】
触媒層の厚みTは、平均厚みであり、触媒層の断面における任意の10箇所について、一方の主面から他方の主面まで、触媒層の厚み方向に沿った直線を引いたときの距離を平均化することにより、求められる。
【0046】
触媒層の厚みTは、燃料電池の小型化を考慮すると、薄いことが望ましい一方で、強度の観点から、過度に薄くないことが好ましい。触媒層の厚みTは、例えば1μm以上50μm以下であり、好ましくは2μm以上20μm以下である。
【0047】
触媒層の面方向に対する繊維状導電部材の傾斜角度θは、好ましくは80°以下であり、より好ましくは70°以下である。傾斜角度θが80°以下の場合、触媒層の厚み方向に加え、触媒層の面方向におけるガス拡散性が、さらに向上する。傾斜角度θが70°以下の場合、膜電極接合体の厚み方向への外力付与による繊維状導電部材の屈曲や電解質膜等への突き刺さりが、さらに抑制される。
【0048】
また、触媒層の面方向に対する繊維状導電部材の傾斜角度θは、好ましくは25°以上である。傾斜角度θが25°以上の場合、触媒層の面方向に加え、触媒層の厚み方向におけるガス拡散性が、さらに向上する。
【0049】
傾斜角度θは、さらに好ましくは25°以上65°以下である。
【0050】
繊維状導電部材の直線率Lおよび傾斜角度θは、図1を用いて、以下のようにして求められる。図1は、繊維状導電部材の直線率Lの算出法および傾斜角度θの算出法を、触媒層120の断面を用いて説明する説明図である。図1には、一部の繊維状導電部材121のみを示している。
【0051】
まず、触媒層120の厚み方向に沿った断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影する。触媒層120は、繊維状導電部材121および触媒粒子(図示せず)を含み、ガス拡散層側の第1主面120Xと電解質膜側の第2主面120Yとを有する。
【0052】
得られたSEM画像から、例えば20本以上の繊維状導電部材121が確認できる領域であって、触媒層120の厚みTを一辺とする正方形の領域(以下、指定領域R)を決める。指定領域Rは、以下のようにして決定できる。まず、触媒層120の厚み方向に沿った直線を引く。この直線と第2主面120Yとの交点を、指定領域Rを示す正方形の頂点の一つとする。次に、この頂点から、長さがTであって、互いに垂直に交わる2辺を引き、さらに、この2辺を含む正方形が形成されるように、残りの2辺を引く。
【0053】
次に、指定領域R内の確認可能な繊維状導電部材121を任意に10本選び出す。10本の繊維状導電部材121に対して、観察できる長さ部分の一端と他端とを直線で結び、その直線の長さLを求める。また、観察できる長さ部分の実際の長さLを求める。Lに対するLの比:L/Lを直線率Lとする。
【0054】
上記において、3つの指定領域Rを互いに重複しないように決めて、3つの指定領域Rに対してそれぞれ10本の繊維状導電部材121の直線率Lを求め、合計30本の繊維状導電部材121の直線率Lの平均値を求める。直線率L(平均値)が0.6以上である場合、繊維状導電部材121の直線性が確保されていると判断する。一方、直線率L(平均値)が0.6未満である場合、繊維状導電部材121は屈曲しており、後述の傾斜角度θは求められないとする。
【0055】
上記の直線率により繊維状導電部材の直線性が確保されていることを確認した上で、繊維状導電部材の傾斜角度θは、図1を用いて、以下のようにして求められる。
【0056】
上記の3つの指定領域R内でそれぞれ選び出した10本の繊維状導電部材121に対して、観察できる長さ部分の中間地点Cにおける接線TLを引く。この接線TLと第1主面120Xとが成す角度(90°以下)を、その繊維状導電部材121の傾斜角度θとし、合計30本の繊維状導電部材121の傾斜角度θの平均値を求める。なお、第1主面120Xが凹凸を有する場合、触媒層120の厚み方向に垂直な面、あるいは、平滑な第2主面120Yを、傾斜角度θを決定する際の基準としてもよい。
【0057】
繊維状導電部材の直径Dは、好ましくは200nm以下であり、より好ましくは5nm以上かつ200nm以下であり、さらに好ましくは8nm以上かつ100nm以下である。この場合、触媒層中に占める繊維状導電部材の体積割合を小さくして、ガス経路を十分に確保することができ、ガス拡散性をさらに高めることができる。
【0058】
繊維状導電部材の直径Dは、触媒層から繊維状導電部材を任意に10本取り出し、これらの直径を平均化することにより、求められる。直径は、繊維状導電部材の長さ方向に垂直な方向の長さである。
【0059】
繊維状導電部材の長さLと、繊維状導電部材の直径Dとが、関係式:D/L<1を満たすことが好ましい。この場合、触媒層全体で良好なガス拡散性が十分に得られる。
【0060】
導電性向上の観点から、D/Lは0.002以上1未満がより好ましい。
【0061】
触媒層のガス拡散性向上の観点から、繊維状導電部材のBET比表面積は、50m/g以上であることが好ましい。この場合、繊維状導電部材上に存在する触媒粒子の間隔が一定以上確保されるため、触媒粒子近傍のガス拡散性を確保できる。
【0062】
繊維状導電部材のBET比表面積は、以下のようにして求められる。
【0063】
作製した触媒層の一部を切り出し、切り出したサンプルから触媒粒子およびプロトン伝導性樹脂を取り除き、繊維状導電部材を抽出する。繊維状導電部材の比表面積を、ガス吸着法による比表面積測定装置を用いて、一般的な比表面積の測定法であるBET法により求める。
【0064】
繊維状導電部材121としては、例えば、気相成長法炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー等の炭素繊維が挙げられる。
【0065】
触媒粒子の少なくとも一部は、繊維状導電部材に担持されている。触媒粒子は、繊維状導電部材に加えて、後述する粒子状導電部材に担持されていることが好ましい。触媒粒子がガスに接触し易くなり、ガスの酸化反応あるいは還元反応の効率が高まるためである。
【0066】
触媒粒子としては特に限定されないが、Sc、Y、Ti、Zr、V、Nb、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Pt、Os、Ir、ランタノイド系列元素やアクチノイド系列の元素の中から選ばれる合金や単体といった触媒金属が挙げられる。例えば、アノードに用いられる触媒粒子としては、Pt、Pt−Ru合金等が挙げられる。カソードに用いられる触媒金属としては、Pt、Pt−Co合金等が挙げられる。
【0067】
導電パスを短くして導電性をさらに高める観点から、触媒層は、さらに、粒子状導電部材を含むことが好ましい。粒子状導電部材としては特に限定されないが、導電性に優れる点で、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラックなどが挙げられる。その粒径(あるいは、複数の連結した一次粒子で構成されたストラクチャーの長さ)は特に限定されず、従来、燃料電池の触媒層に用いられるものを使用することができる。
【0068】
触媒層中の粒子状導電部材の含有量は、繊維状導電部材および粒子状導電部材の合計である100質量部あたり、好ましくは40質量部以下であり、より好ましくは5質量部以上35質量部以下であり、さらに好ましくは10質量部以上30質量部以下である。この場合、触媒層全体の良好なガス拡散性を確保しつつ、導電性を高めることができる。
【0069】
触媒層の反応性向上の観点から、触媒層は、さらに、プロトン伝導性樹脂を含むことが好ましい。この場合、プロトン伝導性樹脂は、繊維状導電部材および触媒粒子の少なくとも一部を被覆している。繊維状導電部材が触媒層の面方向に対して傾斜しているため、膜電極接合体の厚み方向への外力付与による繊維状導電部材の屈曲に伴う触媒層の反応性(プロトン伝導性)への影響が抑制される。
【0070】
プロトン伝導性樹脂としては特に限定されないが、パーフルオロカーボンスルホン酸系高分子、炭化水素系高分子等が例示される。なかでも、耐熱性と化学的安定性に優れる点で、パーフルオロカーボンスルホン酸系高分子等が好ましい。パーフルオロカーボンスルホン酸系高分子としては、例えばNafion(登録商標)が挙げられる。プロトン伝導性樹脂は、さらに粒子状導電部材の少なくとも一部を被覆していてもよい。
【0071】
触媒層中の繊維状導電部材の含有量は、触媒粒子、粒子状炭素材料およびプロトン伝導性樹脂の合計である100質量部に対して、好ましくは15質量部以上65質量部以下であり、より好ましくは20質量部以上55質量部以下である。繊維状導電部材が所望の状態に配置され易くなって、ガス拡散性および電気化学反応の効率が高まり易いためである。
【0072】
触媒層は、例えば、繊維状導電部材および触媒粒子を含む触媒インクを電解質膜の表面に塗布し、乾燥させて形成することができる。また、触媒インクを転写用基材シートに塗布し、乾燥させて、触媒層を形成し、基材シートに形成された触媒層を電解質膜に転写してもよい。触媒層の面方向に対して繊維状導電部材が傾斜しているため、電解質膜の表面に埋め込み防止層を配置しなくても、触媒層の転写の際の繊維状導電部材の電解質膜への埋め込みが抑制される。基材シートとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン等の平滑表面を有するシートを用いることが好ましい。
【0073】
触媒インクは、繊維状導電部材および触媒粒子以外に、分散媒を含む。分散媒には、例えば、水、エタノール、プロパノール等が用いられる。触媒インクは、さらに、粒子状導電部材、プロトン伝導性樹脂等を含んでもよい。
【0074】
塗布法としては、例えば、スプレー法、スクリーン印刷法、および、ブレードコーター、ナイフコーター、グラビアコーター等の各種コーターを利用するコーティング法が挙げられる。コーターを用いる場合、繊維状導電部材が傾斜する方向を制御し易い。
【0075】
触媒層(電解質膜)の面方向に対して傾斜している繊維状導電部材は、触媒インクの塗布による触媒層の形成において、L/Tが3以下を満たすように繊維状導電部材の長さおよび触媒層の厚みを調節することにより得られる。繊維状導電部材の長さは、繊維状導電部材に用いる材料の長さを適宜選定することで調節できる。触媒層の厚みは、触媒インクの塗布量等を変えることで調節できる。
【0076】
繊維状導電部材の傾斜角度θは、例えば、触媒インクについて、組成、粘度、塗布量、塗布速度、乾燥速度等を変えることで調節できる。
【0077】
電解質膜として、高分子電解質膜が好ましく用いられる。高分子電解質膜の材料としては、プロトン伝導性樹脂として例示した高分子電解質が挙げられる。電解質膜の厚みは、例えば5〜30μmである。
【0078】
ガス拡散層は、基材層を有する構造でもよく、基材層を有さない構造でもよい。基材層を有する構造としては、例えば、基材層と、その触媒層側に設けられた微多孔層とを有する構造体が挙げられる。基材層には、カーボンクロスやカーボンペーパー等の導電性多孔質シートが用いられる。微多孔層には、フッ素樹脂等の撥水性樹脂と、導電性炭素材料と、プロトン伝導性樹脂(高分子電解質)との混合物等が用いられる。
【0079】
以下、本実施形態に係る燃料電池の構造の一例を、図2を参照しながら説明する。図2は、本発明の実施形態に係る燃料電池に配置される単セルの構造を模式的に示す断面図である。通常、複数の単セルは積層されて、セルスタックとして燃料電池に配置される。図2では、便宜上、1つの単セルを示している。
【0080】
燃料電池200の単セルは、電解質膜110と、電解質膜110を挟むように配置された第1触媒層120Aおよび第2触媒層120Bと、を備える。燃料電池200の単セルは、さらに、第1触媒層120Aおよび第2触媒層120Bをそれぞれ介して、電解質膜110を挟むように配置された第1ガス拡散層130Aおよび第2ガス拡散層130Bと、第1ガス拡散層130Aおよび第2ガス拡散層130Bをそれぞれ介して、電解質膜110を挟むように配置された第1セパレータ240Aおよび第2セパレータ240Bと、を備える。第1触媒層120Aおよび第2触媒層120Bのうちの一方はアノードとして機能し、他方は、カソードとして機能する。電解質膜110は、第1触媒層120Aおよび第2触媒層120Bより一回り大きいため、電解質膜110の周縁部は、第1触媒層120Aおよび第2触媒層120Bからはみ出している。電解質膜110の周縁部は、一対のシール部材250A、250Bで挟持されている。
【0081】
第1触媒層120Aおよび第2触媒層120Bの少なくとも一方は、図3に示す触媒層120である。図3は、触媒層の内部を模式的に示す図であり、触媒層内部を面方向からみた図である。繊維状導電部材が傾斜していることを示すため、便宜上、電解質膜110も示す。図3に示すように、触媒層120は、繊維状導電部材121と、触媒粒子122と、を備える。繊維状導電部材121は、電解質膜110の面方向に対して傾斜しており、繊維状導電部材121の長さLと、触媒層120の厚みTとが、関係式:L/T≦3を満たす。第1触媒層120Aまたは第2触媒層120Bが上記触媒層120でない場合、触媒層としては、公知の材質および公知の構成が採用できる。
【0082】
第1ガス拡散層130Aおよび第2ガス拡散層130Bの少なくとも一方は、上記ガス拡散層である。第1ガス拡散層130Aおよび第2ガス拡散層130Bのいずれもが、上記のガス拡散層と同様の構成であってもよい。
【0083】
第1セパレータ240Aおよび第2セパレータ240Bは、気密性、電子伝導性および電気化学的安定性を有すればよく、その材質は特に限定されない。このような材質としては、炭素材料、金属材料などが好ましい。金属材料には、カーボンを被覆してもよい。例えば、金属板を所定形状に打ち抜き、表面処理を施すことにより、第1セパレータ240Aおよび第2セパレータ240Bが得られる。
【0084】
本実施形態においては、第1セパレータ240Aの第1ガス拡散層130Aと当接する側の面には、ガス流路260Aが形成されている。一方、第2セパレータ240Bの第2ガス拡散層130Bと当接する側の面には、ガス流路260Bが形成されている。ガス流路の形状は特に限定されず、パラレル型、サーペンタイン型などに形成すればよい。
【0085】
シール部材250A、250Bは、弾性を有する材料であり、ガス流路260A、260Bから燃料および/または酸化剤がリークすることを防止している。シール部材250A、250Bは、例えば、第1触媒層120Aおよび第2触媒層120Bの周縁部をループ状に取り囲むような枠状の形状を有する。シール部材250A、250Bとしては、それぞれ、公知の材質および公知の構成が採用できる。
【0086】
触媒粒子122は、図4に示す第1粒子122Aを含む。図4は、第1粒子122Aを模式的に示す断面図である。第1粒子122Aは、コア部122Bと、コア部122Bを覆うとともにコア部122Bと異なる成分を含むシェル部122Cと、を備える。触媒粒子122は、さらに、上記の第2粒子および第3粒子を含んでもよい。第1触媒層120Aまたは第2触媒層120Bが上記触媒層120でない場合、触媒層としては、公知の材質および公知の構成が採用できる。
【0087】
第1ガス拡散層130Aおよび第2ガス拡散層130Bの少なくとも一方は、上記ガス拡散層である。第1ガス拡散層130Aおよび第2ガス拡散層130Bのいずれもが、上記のガス拡散層と同様の構成であってもよい。
【0088】
第1セパレータ240Aおよび第2セパレータ240Bは、気密性、電子伝導性および電気化学的安定性を有すればよく、その材質は特に限定されない。このような材質としては、炭素材料、金属材料などが好ましい。金属材料には、カーボンを被覆してもよい。例えば、金属板を所定形状に打ち抜き、表面処理を施すことにより、第1セパレータ240Aおよび第2セパレータ240Bが得られる。
【0089】
本実施形態においては、第1セパレータ240Aの第1ガス拡散層130Aと当接する側の面には、ガス流路260Aが形成されている。一方、第2セパレータ240Bの第2ガス拡散層130Bと当接する側の面には、ガス流路260Bが形成されている。ガス流路の形状は特に限定されず、パラレル型、サーペンタイン型、ストレート型などに形成すればよい。
【0090】
シール部材250A、250Bは、弾性を有する材料であり、ガス流路260A、260Bから燃料および/または酸化剤がリークすることを防止している。シール部材250A、250Bは、例えば、第1触媒層120Aおよび第2触媒層120Bの周縁部をループ状に取り囲むような枠状の形状を有する。シール部材250A、250Bとしては、それぞれ、公知の材質および公知の構成が採用できる。
【0091】
以下、本開示にかかる発明を実施例に基づいて、更に詳細に説明する。ただし、本開示にかかる発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0092】
[実施例1]
<膜電極接合体の作製>
触媒粒子(Pt)を担持した繊維状導電部材を適量の水に添加した後、撹拌して、分散させた。繊維状導電部材には、CNT(平均直径15nm、平均繊維長15μm)を用いた。この際、触媒粒子と繊維状導電部材との合計100質量部に対して、触媒粒子は50質量部、繊維状導電部材は50質量部である。次に、得られた分散液を撹拌しながら適量のエタノールを加えた後、繊維状導電部材50質量部に対して、プロトン伝導性樹脂(Nafion(登録商標))30質量部を添加した。これを攪拌することにより、カソード触媒層用の触媒インクを調製した。
【0093】
触媒粒子(Pt)を担持した粒子状導電部材(アセチレンブラック)を適量の水に添加した後、撹拌して、分散させた。この際、触媒粒子と粒子状導電部材との合計100質量部に対して、触媒粒子は50質量部、粒子状導電部材は50質量部である。次に、得られた分散液を撹拌しながら適量のエタノールを加えた後、粒子状導電部材50質量部に対して、プロトン伝導性樹脂(Nafion(登録商標))40質量部を添加した。これを撹拌することにより、アノード触媒層用の触媒インクを調製した。
【0094】
電解質膜として、Nafion(登録商標)膜(厚み15μm)を準備した。電解質膜のカソード側の主面にカソード触媒層用の触媒インクをスプレー法により塗布し、70℃の雰囲気下で3分間放置して乾燥させ、カソード触媒層を形成した。カソード触媒層の厚みが6μmとなるようにカソード触媒層用の触媒インクの塗布量を調整した。次に、電解質膜のアノード側の主面にアノード触媒層用の触媒インクをスプレー法により塗布し、70℃の雰囲気下で3分間放置して乾燥させ、アノード触媒層を形成した。
【0095】
ガス拡散層として、一方の主面に微多孔層(MPL)を有する導電性多孔質シートを2枚準備した。アノード触媒層の電解質膜とは反対側の主面に、ガス拡散層を、微多孔層とアノード触媒層とが対向するように配置した。カソード触媒層の電解質膜とは反対側の主面に、ガス拡散層を、微多孔層とカソード触媒層とが対向するように配置した。その後、熱プレスにより、電解質膜と電解質膜を挟む一対の触媒層およびガス拡散層とを一体化させ、膜電極接合体を作製した。アノードおよびカソードを囲むように枠状シール部材を配置した。
【0096】
得られた膜電極接合体の断面をSEMにより撮影した。SEM画像から、触媒粒子の一部が繊維状導電部材に担持されていることが確認された。このSEM画像を用いて、既述の方法により求められたカソード触媒層の厚みTは6μmであった。既述の方法により求められた繊維状導電部材の長さLは15μmであり、繊維状導電部材の直径Dは15nmであった。上記で求められた繊維状導電部材の長さLおよびカソード触媒層の厚みTより、L/Tは15/6であることが算出された。
【0097】
既述の方法により求められた直線率Lpが0.6以上であることから、繊維状導電部材の直線性が確保されていることが確認された。既述の方法により求められたカソード触媒層の面方向に対する繊維状導電部材の傾斜角度θは30°であり、繊維状導電部材は倒伏していないことが確認された。SEM画像から、繊維状導電部材は電解質膜やガス拡散層に突き刺さっていないことも確認された。
【0098】
<単セルの作製>
膜電極接合体を一対のステンレス鋼製平板(セパレータ)で全体を挟持して、試験用単セルA1を完成させた。なお、セパレータのガス拡散層と当接する側の面には、ガス流路が形成されている。
【0099】
<評価>
実施例1の単セルA1を用いて、セル温度が80℃、ガス利用率が50%、相対湿度が100%の条件でI−V特性の測定を行い、最大出力密度を測定した。なお、最大出力密度は、比較例1の単セルB1の最大出力密度を100とした指数として表す。
【0100】
[実施例2]
繊維状導電部材に平均繊維長が5μmのCNTを用いた以外、実施例1と同様に単セルA2を作製し、評価した。既述の方法により求められた繊維状導電部材の長さLは5μm、カソード触媒層の厚みTは6μmであった。これによりL/Tは5/6であることが算出された。
【0101】
既述の方法により求められた直線率Lpが0.6以上であることから、繊維状導電部材の直線性が確保されていることが確認された。既述の方法により求められたカソード触媒層の面方向に対する繊維状導電部材の傾斜角度θは45°であり、繊維状導電部材は倒伏していないことが確認された。SEM画像から、繊維状導電部材は電解質膜やガス拡散層に突き刺さっていないことも確認された。
【0102】
[実施例3]
同様に、繊維状導電部材に平均繊維長が15μmのCNTを用いた以外、実施例1と同様に単セルA3を作製し、評価した。既述の方法により求められた繊維状導電部材の長さLは100μmであり、触媒層の厚みTは5μmであった。これによりL/Tは15/5(L/T=3)であることが算出された。
【0103】
既述の方法により求められた直線率Lpが0.6以上であることから、繊維状導電部材の直線性が確保されていることが確認された。既述の方法により求められたカソード触媒層の面方向に対する繊維状導電部材の傾斜角度θは28°であり、繊維状導電部材は倒伏していないことが確認された。SEM画像から、繊維状導電部材は電解質膜やガス拡散層に突き刺さっていないことも確認された。
【0104】
[比較例1]
繊維状導電部材に平均繊維長が100μmのCNTを用いた以外、実施例1と同様に単セルB1を作製し、評価した。既述の方法により求められた繊維状導電部材の長さLは100μmであり、触媒層の厚みTは6μmであった。これによりL/Tは100/6であることが算出された。
【0105】
既述の方法に求められた直線率Lが0.6未満であり、繊維状導電部材の屈曲が確認されたため、傾斜角度θは求められなかった。SEM画像により、繊維状導電部材の倒伏も確認された。繊維状導電部材の屈曲や倒伏は、触媒層の厚みTに対して繊維状導電部材の長さLが過度に大きいことによるものと考えられる。これにより、カソード触媒層内の空隙の減少や偏在が確認された。
【0106】
評価結果を表1に示す。
【0107】
【表1】
【0108】
実施例1〜3の単セルA1〜A3では、比較例1の単セルB1と比べて、触媒層のガス拡散性が向上するため、高い最大出力密度が得られた。L/Tが1以下である実施例2のA2は、L/Tが1超3以下の実施例1のA1よりも、さらに高い出力特性を示した。
【0109】
(第2の実施形態)
本開示の、第2の実施形態に係る膜電極接合体は、電解質膜と、電解質膜を挟む一対の電極と、を備え、一対の電極は、それぞれ、電解質膜側から順に、触媒層およびガス拡散層を備える。一対の電極の少なくとも一方の触媒層は、第1繊維状導電部材と触媒粒子とを含み、第1繊維状導電部材は、触媒層の面方向(電解質膜の面方向)に対して傾斜している。一対の電極の少なくとも一方のガス拡散層は、導電性材料と高分子樹脂とを含む多孔質層で構成されている。一対の電極の一方がアノードであり、その他方がカソードである。また、本発明の実施形態に係る燃料電池は、膜電極接合体と、膜電極接合体を挟む一対のセパレータと、を備える。以下、触媒層の面方向および電解質膜の面方向をXY方向とも称する。また、触媒層の厚さ方向および電解質膜の厚さ方向をZ方向とも称する。
【0110】
第1繊維状導電部材がXY方向に対して傾斜しているとは、第1繊維状導電部材がXY方向に対して平行ではなく、かつ垂直でもないことを意味する。つまり、第1繊維状導電部材は、XY方向に対して傾斜すると同時に、Z方向に対しても傾斜しているといえる。
【0111】
第1繊維状導電部材がXY方向に対して傾斜していることにより、膜電極接合体(触媒層)のZ方向への外力付与による第1繊維状導電部材の屈曲や電解質膜等の突き刺さりが抑制される。よって、上記の第1繊維状導電部材の屈曲や電解質膜等への突き刺さりに伴う触媒層の一部におけるガス拡散性の低下が抑制され、触媒層全体において良好なガス拡散性が得られる。さらに、上記の第1繊維状導電部材の屈曲や電解質膜等への突き刺さりにより第1繊維状導電部材の導電性に影響を及ぼす可能性も排除される。埋め込み防止層を設けなくても、触媒層の電解質膜への転写時の第1繊維状導電部材端部の電解質膜への埋め込みが抑制される。
【0112】
第1繊維状導電部材が傾斜しているとは、触媒層内において、第1繊維状導電部材が、その直線性が確保された状態で、XY方向に対して傾いて存在していることを意味する。なお、第1繊維状導電部材の直線性が確保されているとは、第1繊維状導電部材が大きく屈曲していないことであり、後述の方法により求められる直線率L(平均値)が0.6以上であることを意味する。ガス拡散性の更なる向上の観点から、直線率L(平均値)は0.7以上が好ましい。
【0113】
触媒層内で第1繊維状導電部材が傾斜する方向は特に限定されない。触媒層に含まれる複数の第1繊維状導電部材は、互いに異なる方向に傾斜してもよく、互いに同じ方向に傾斜してもよい。
【0114】
ガス拡散層は、上記多孔質層で構成されているため、良好な柔軟性を有する。よって、上記触媒層と上記ガス拡散層とを併用することにより、触媒層上へのガス拡散層の配置の際に、ガス拡散層が触媒層の表面に十分に追従することができ、触媒層とガス拡散層との密着性が大幅に向上する。これにより、ガス拡散層から触媒層への反応ガスの供給および触媒層からガス拡散層への生成水の排出が円滑に行われる。なお、生成水は、触媒層内で触媒反応および結露の少なくとも一方により生じた水を含む。
【0115】
膜電極接合体は、例えば、両面に触媒層が形成された電解質膜を一対のガス拡散層で挟んで積層体を構成し、積層体を熱プレスすることにより得られる。触媒層の面方向に対して傾斜している第1繊維状導電部材を含む触媒層と、柔軟性が良好なガス拡散層とを併用することにより、低い圧力での熱プレスにより触媒層とガス拡散層とを十分に密着させることができる。これにより、膜電極接合体の作製時における第1繊維状導電部材の屈曲やガス拡散層等への突き刺さりが抑制され、触媒層のガス拡散性が高められる。
【0116】
第1繊維状導電部材を触媒層の面方向に対して傾斜させる場合、第1繊維状導電部材の傾斜度合いや、膜電極接合体を積層方向から見たときの第1繊維状導電部材の長さ方向の向きによっては、触媒層からガス拡散層への排水性の面で少し不利な場合がある。このような場合でも、触媒層とガス拡散層との密着性が大幅に向上することで、触媒層からガス拡散層への排水性は十分に高められる。
【0117】
触媒層全体において良好なガス拡散性が得られるとともに、触媒層とガス拡散層との密着性が向上することにより、燃料電池の発電性能(出力特性等)が向上する。
【0118】
(触媒層)
第1繊維状導電部材の長さLと、触媒層の厚さTとが、関係式:L/T≦3を満たすことが好ましい。L/Tが3以下である場合、第1繊維状導電部材の直線性を相当程度に確保しつつ、XY方向に対して傾斜する第1繊維状導電部材が得られ易い。これにより、触媒層内において空隙(ガス経路)を十分に形成することができ、触媒層全体において、効果的にガスを拡散させることができる。
【0119】
触媒層のガス拡散性の更なる向上の観点から、L/Tは、好ましくは0.25以上2.0以下であり、より好ましくは0.25以上1.0以下である。この場合、後述する傾斜角度θの好ましい範囲内に第1繊維状導電部材を傾斜させ易い。
【0120】
第1繊維状導電部材の長さLは、平均繊維長さであり、触媒層から第1繊維状導電部材を任意に10本取り出し、これらの第1繊維状導電部材の繊維長さを平均化することにより、求められる。なお、上記の第1繊維状導電部材の繊維長さとは、第1繊維状導電部材の一端と、その他端とを直線で結んだときのその直線の長さを意味する。
【0121】
第1繊維状導電部材の長さLは、好ましくは0.2μm以上20μm以下であり、より好ましくは0.5μm以上10μm以下である。この場合、薄い触媒層(例えば厚さTが10μm以下)でも、第1繊維状導電部材をXY方向に対して容易に傾斜させることができる。また、上記範囲の短い第1繊維状導電部材を用いることにより、触媒層内で第1繊維状導電部材の両端が、それぞれ電解質膜およびガス拡散層に接触することが抑制される。これにより、触媒層の電解質膜への転写時の第1繊維状導電部材端部の電解質膜への埋め込みが、さらに抑制される。また、膜電極接合体へのZ方向の外力付与時の第1繊維状導電部材の電解質膜等への突き刺さりが、さらに抑制される。
【0122】
触媒層の厚さTは、平均厚さであり、触媒層の断面における任意の10箇所について、一方の主面から他方の主面まで、触媒層の厚さ方向に沿った直線を引いたときの距離を平均化することにより、求められる。
【0123】
触媒層の厚さTは、燃料電池の小型化を考慮すると、薄いことが望ましい一方で、強度の観点から、過度に薄くないことが好ましい。触媒層の厚さTは、例えば1μm以上50μm以下であり、好ましくは2μm以上20μm以下である。
【0124】
XY方向に対する第1繊維状導電部材の傾斜角度θは、好ましくは80°以下であり、より好ましくは70°以下である。傾斜角度θが80°以下の場合、Z方向に加え、XY方向におけるガス拡散性が、さらに向上する。傾斜角度θが70°以下の場合、膜電極接合体へのZ方向の外力付与による第1繊維状導電部材の屈曲や電解質膜等への突き刺さりが、さらに抑制される。
【0125】
また、XY方向に対する第1繊維状導電部材の傾斜角度θは、好ましくは25°以上である。傾斜角度θが25°以上の場合、XY方向に加え、Z方向におけるガス拡散性が、さらに向上する。
【0126】
傾斜角度θは、さらに好ましくは25°以上65°以下である。
【0127】
第1繊維状導電部材の直線率Lおよび傾斜角度θは、図5を用いて、以下のようにして求められる。図5は、第1繊維状導電部材の直線率Lの算出法および傾斜角度θの算出法を、触媒層120の断面を用いて説明する説明図である。図5には、一部の第1繊維状導電部材121Aのみを示している。
【0128】
まず、触媒層120の厚さ方向に沿った断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影する。触媒層120は、第1繊維状導電部材121Aおよび触媒粒子(図示せず)を含み、ガス拡散層側の第1主面120Xと電解質膜側の第2主面120Yとを有する。
【0129】
得られたSEM画像から、例えば20本以上の第1繊維状導電部材121Aが確認できる領域であって、触媒層120の厚さTを一辺とする正方形の領域(以下、指定領域R)を決める。指定領域Rは、以下のようにして決定できる。まず、触媒層120の厚さ方向に沿った直線を引く。この直線と第2主面120Yとの交点を、指定領域Rを示す正方形の頂点の一つとする。次に、この頂点から、長さがTであって、互いに垂直に交わる2辺を引き、さらに、この2辺を含む正方形が形成されるように、残りの2辺を引く。
【0130】
次に、指定領域R内の確認可能な第1繊維状導電部材121Aを任意に10本選び出す。10本の第1繊維状導電部材121Aに対して、観察できる長さ部分の一端と他端とを直線で結び、その直線の長さLを求める。また、観察できる長さ部分の実際の長さLを求める。Lに対するLの比:L/Lを直線率Lとする。
【0131】
上記において、3つの指定領域Rを互いに重複しないように決めて、3つの指定領域Rに対してそれぞれ10本の第1繊維状導電部材121Aの直線率Lを求め、合計30本の第1繊維状導電部材121Aの直線率Lの平均値を求める。直線率L(平均値)が0.6以上である場合、第1繊維状導電部材121Aの直線性が確保されていると判断する。一方、直線率L(平均値)が0.6未満である場合、第1繊維状導電部材121Aは屈曲しており、後述の傾斜角度θは求められないとする。
【0132】
上記の直線率により第1繊維状導電部材の直線性が確保されていることを確認した上で、第1繊維状導電部材の傾斜角度θは、図を用いて、以下のようにして求められる。
【0133】
上記の3つの指定領域R内でそれぞれ選び出した10本の第1繊維状導電部材121Aに対して、観察できる長さ部分の中間地点Cにおける接線TLを引く。この接線TLと第1主面120Xとが成す角度(90°以下)を、その第1繊維状導電部材121Aの傾斜角度θとし、合計30本の第1繊維状導電部材121Aの傾斜角度θの平均値を求める。なお、第1主面120Xが凹凸を有する場合、触媒層120の厚さ方向に垂直な面、あるいは、平滑な第2主面120Yを、傾斜角度θを決定する際の基準としてもよい。
【0134】
第1繊維状導電部材の直径Dは、好ましくは200nm以下であり、より好ましくは5nm以上かつ200nm以下であり、さらに好ましくは8nm以上かつ100nm以下である。この場合、触媒層中に占める第1繊維状導電部材の体積割合を小さくして、ガス経路を十分に確保することができ、ガス拡散性をさらに高めることができる。
【0135】
第1繊維状導電部材の直径Dは、触媒層から第1繊維状導電部材を任意に10本取り出し、これらの直径を平均化することにより、求められる。直径は、第1繊維状導電部材の長さ方向に垂直な方向の長さである。
【0136】
第1繊維状導電部材の長さLと、第1繊維状導電部材の直径Dとが、関係式:D/L<1を満たすことが好ましい。この場合、触媒層全体で良好なガス拡散性が十分に得られる。
【0137】
導電性向上の観点から、D/Lは0.002以上1未満がより好ましい。
【0138】
触媒層のガス拡散性向上の観点から、第1繊維状導電部材のBET比表面積は、50m/g以上であることが好ましい。この場合、第1繊維状導電部材上に存在する触媒粒子の間隔が一定以上確保されるため、触媒粒子近傍のガス拡散性を確保できる。
【0139】
第1繊維状導電部材のBET比表面積は、以下のようにして求められる。
【0140】
作製した触媒層の一部を切り出し、切り出したサンプルから触媒粒子およびプロトン伝導性樹脂を取り除き、第1繊維状導電部材を抽出する。第1繊維状導電部材の比表面積を、ガス吸着法による比表面積測定装置を用いて、一般的な比表面積の測定法であるBET法により求める。
【0141】
第1繊維状導電部材としては、例えば、気相成長法炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー等の炭素繊維が挙げられる。
【0142】
触媒粒子の少なくとも一部は、第1繊維状導電部材に担持されている。触媒粒子は、第1繊維状導電部材に加えて、後述する粒子状導電部材に担持されていることが好ましい。触媒粒子がガスに接触し易くなり、ガスの酸化反応あるいは還元反応の効率が高まるためである。
【0143】
触媒粒子としては特に限定されないが、Sc、Y、Ti、Zr、V、Nb、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Pt、Os、Ir、ランタノイド系列元素やアクチノイド系列の元素の中から選ばれる合金や単体といった触媒金属が挙げられる。例えば、アノードに用いられる触媒粒子としては、Pt、Pt−Ru合金等が挙げられる。カソードに用いられる触媒金属としては、Pt、Pt−Co合金等が挙げられる。
【0144】
導電パスを短くして導電性をさらに高める観点から、触媒層は、さらに、粒子状導電部材を含むことが好ましい。粒子状導電部材としては特に限定されないが、導電性に優れる点で、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。その粒径(あるいは、複数の連結した一次粒子で構成されたストラクチャーの長さ)は特に限定されず、従来、燃料電池の触媒層に用いられるものを使用することができる。
【0145】
触媒層中の粒子状導電部材の含有量は、第1繊維状導電部材および粒子状導電部材の合計が100質量部あたり、好ましくは40質量部以下であり、より好ましくは5質量部以上35質量部以下であり、さらに好ましくは10質量部以上30質量部以下である。この場合、触媒層全体の良好なガス拡散性を確保しつつ、導電性を高めることができる。
【0146】
触媒層の反応性向上の観点から、触媒層は、さらに、プロトン伝導性樹脂を含むことが好ましい。この場合、プロトン伝導性樹脂は、第1繊維状導電部材および触媒粒子の少なくとも一部を被覆している。第1繊維状導電部材がXY方向に対して傾斜しているため、膜電極接合体へのZ方向の外力付与による第1繊維状導電部材の屈曲に伴う触媒層の反応性(プロトン伝導性)への影響が抑制される。
【0147】
プロトン伝導性樹脂としては特に限定されないが、パーフルオロカーボンスルホン酸系高分子、炭化水素系高分子等が例示される。なかでも、耐熱性と化学的安定性に優れる点で、パーフルオロカーボンスルホン酸系高分子等が好ましい。パーフルオロカーボンスルホン酸系高分子としては、例えばNafion(登録商標)が挙げられる。プロトン伝導性樹脂は、さらに粒子状導電部材の少なくとも一部を被覆していてもよい。
【0148】
触媒層中の第1繊維状導電部材の含有量は、触媒粒子、粒子状炭素材料およびプロトン伝導性樹脂の合計である100質量部に対して、好ましくは15質量部以上65質量部以下であり、より好ましくは20質量部以上55質量部以下である。第1繊維状導電部材が所望の状態に配置され易くなって、ガス拡散性および電気化学反応の効率が高まり易いためである。
【0149】
触媒層の空隙率Pは、好ましくは30%以上70%以下であり、より好ましくは40%以上65%以下である。この場合、触媒層中のガス拡散性および排水性のいずれも高まり易い。
【0150】
触媒層の空隙率Pは、以下のようにして求められる。
【0151】
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて触媒層の断面の画像を撮影する。得られた画像を用いて、空隙の部分と空隙以外の部分との区別ができるように画像処理(2値化処理)を行う。処理後の画像より所定の面積Aの領域を任意に選定し、当該領域内に存在する空隙の面積Ap1を求め、領域の面積Aに対する空隙の面積Ap1の比率(%)を算出し、空隙率Pとする。複数の領域に対して、それぞれ複数の空隙率を求め、それらを平均化してもよい。
【0152】
(触媒層の形成)
触媒層は、例えば、第1繊維状導電部材および触媒粒子を含む触媒インクを電解質膜の表面に塗布し、乾燥させて形成することができる。また、触媒インクを転写用基材シートに塗布し、乾燥させて、触媒層を形成し、基材シートに形成された触媒層を電解質膜に転写してもよい。基材シートとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン等の平滑表面を有するシートを用いることが好ましい。
【0153】
触媒インクは、第1繊維状導電部材および触媒粒子以外に、分散媒を含む。分散媒には、例えば、水、エタノール、プロパノール等が用いられる。触媒インクは、さらに、粒子状導電部材、プロトン伝導性樹脂等を含んでもよい。
【0154】
塗布法としては、例えば、スプレー法、スクリーン印刷法、および、ブレードコーター、ナイフコーター、グラビアコーター等の各種コーターを利用するコーティング法が挙げられる。コーターを用いる場合、第1繊維状導電部材が傾斜する方向を制御し易い。
【0155】
XY方向に対して傾斜している第1繊維状導電部材が得られ易いことから、触媒インクの塗布による触媒層の形成において、L/Tが3以下を満たすように第1繊維状導電部材の長さおよび触媒層の厚さを調節することが好ましい。第1繊維状導電部材の長さは、第1繊維状導電部材に用いる材料の長さを適宜選定することで調節できる。触媒層の厚さは、触媒インクの塗布量等を変えることで調節できる。
【0156】
第1繊維状導電部材の傾斜角度θは、例えば、触媒インクについて、組成、粘度、塗布量、塗布速度、乾燥速度等を変えることで調節できる。
【0157】
(ガス拡散層)
ガス拡散層は、導電性材料と高分子樹脂とを主成分とする多孔質層で構成されている。多孔質層は、導電性材料および高分子樹脂の混合物を含む。多孔質層(導電性材料)は、カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素繊維を含む織布または不織布や、金属メッシュ、エキスパンドメタル等の多孔質金属シートのようなシート状の多孔質基材を含まない。ガス拡散性および導電性の確保の観点から、ガス拡散層(多孔質層)中の導電性材料の含有量は、50質量%以上90質量%以下であることが好ましい。
【0158】
導電性材料としては、例えば、繊維状材料(第2繊維状導電部材)、粒子状材料、板状材料が挙げられる。中でも、導電性材料は第2繊維状導電部材を含むことが好ましい。ガス拡散層内で第2繊維状導電部材により形成される空隙が、触媒層内で第1繊維状導電部材により形成される空隙と連通することにより、触媒層からガス拡散層への生成水の排出が効率良く行われる。第2繊維状導電部材としては、第1繊維状導電部材で例示するものを用いることができる。全導電性材料に占める第2繊維状導電部材の割合は、好ましくは10質量%以上80質量%以下であり、より好ましくは20質量%以上75質量%以下である。
【0159】
触媒層からガス拡散層への生成水の排出性向上の観点から、第1繊維状導電部材の長さLに対する第2繊維状導電部材の長さLの比:L/Lは、好ましくは0.5以上であり、より好ましくは1.0以上であり、さらに好ましくは1.0超である。また、L/Lは、好ましくは200以下であり、より好ましくは10以下である。
【0160】
第2繊維状導電部材の長さLは、平均繊維長さであり、ガス拡散層から第2繊維状導電部材を任意に10本取り出し、これらの第2繊維状導電部材の繊維長さを平均化することにより、求められる。なお、上記の第2繊維状導電部材の繊維長さとは、第2繊維状導電部材の一端と、その他端とを直線で結んだときのその直線の長さを意味する。
【0161】
第2繊維状導電部材の長さLは、好ましくは0.5μm以上かつ100μm以下であり、より好ましくは1.0μm以上20μm以下である。この場合、薄いガス拡散層(例えば厚さTが150μm以下)を形成し易く、燃料電池の小型化に有利である。また、ガス拡散層内で第2繊維状導電部材により形成される空隙が、触媒層内で第1繊維状導電部材により形成される空隙と連通し易く、触媒層からガス拡散層への生成水の排出が効率良く行われる。
【0162】
触媒層からガス拡散層への生成水の排出が効率良く行われることから、第1繊維状導電部材の直径Dに対する第2繊維状導電部材の直径Dの比:D/Dは、好ましくは0.5以上であり、より好ましくは1.0以上であり、さらに好ましくは1.0超である。また、D/Dは、好ましくは30以下であり、より好ましくは20以下である。
【0163】
第2繊維状導電部材の直径Dは、ガス拡散層から第2繊維状導電部材を任意に10本取り出し、これらの直径を平均化することにより、求められる。直径は、第2繊維状導電部材の長さ方向に垂直な方向の長さである。
【0164】
第2繊維状導電部材の直径Dは、好ましくは200nm以下であり、より好ましくは10nm以上180nm以下である。この場合、ガス拡散層中に占める第2繊維状導電部材の体積割合を小さくして、ガス経路を十分に確保することができ、ガス拡散性をさらに高めることができる。
【0165】
粒子状材料は、微視的に見ると、球状粒子または不定形粒子で構成されている。ただし球状粒子も、通常は完全に方向性を有さない球体として存在するものではなく、長径と短径とを有している。球状粒子または不定形粒子の最大径(長径)Lと、最大径に直交する最大径(短径)Wとは、L≧Wを満たす。粒子状材料のアスペクト比:L/Wは、1≦L/W≦5を満たすことが好ましく、1≦L/W<2を満たすことがより好ましい。
【0166】
粒子状材料としては、カーボンブラック、球状黒鉛、活性炭等が挙げられる。中でも、導電性が高く、細孔容積が大きい点で、カーボンブラックを使用することが好ましい。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック等が使用できる。
【0167】
板状材料は、巨視的に見ると粒子状であるが、微視的に見ると板状粒子で構成されている。板状粒子の最小幅(厚さ)をTとするとき、厚さTの方向と平行な方向から見た板状粒子の最大径(長径)Lと、最大径に直交する最大径(短径)Wとは、L≧Wを満たし、TはWよりも十分小さい。板状材料のアスペクト比:L/Tは、10<L/Tを満たすことが好ましく、20≦L/Tを満たすことがより好ましい。
【0168】
板状材料の具体例としては、鱗片状黒鉛、黒鉛化ポリイミドフィルム粉砕物、グラフェン等が挙げられる。中でも、黒鉛化ポリイミドフィルム粉砕物やグラフェンは、ガス拡散層の面方向に配向しやすく、ガス拡散層を薄く形成するのに有利である。
【0169】
高分子樹脂は、導電性材料同士を結着するバインダとしての機能を有する。ガス拡散層内の細孔での水の滞留を抑制する観点から、高分子樹脂の50質量%以上、更には90質量%以上が撥水性を有するフッ素樹脂であることが好ましい。フッ素樹脂としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PVdF(ポリビニリデンフルオライド)、ETFE(テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、PFA(ポリフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)等が挙げられる。中でも、耐熱性、撥水性、耐薬品性の観点から、フッ素樹脂はPTFEであることが好ましい。
【0170】
高分子樹脂は、ガス拡散層に含まれる導電性材料の100質量部に対して、2質量部以上70質量部以下が好ましく、10質量部以上60質量部以下がより好ましい。
【0171】
触媒層の厚さTに対するガス拡散層の厚さTの比:T/Tは、好ましくは1.0以上75以下であり、より好ましくは1.5以上50以下である。この場合、ガス拡散層から触媒層への反応ガスの供給および触媒層からガス拡散層への生成水の排出が効率良く行われる。
【0172】
ガス拡散層の厚さTは、600μm以下が好ましく、150μm以下がより好ましく、30μm以上150μm以下が更に好ましい。上記のように設計されたガス拡散層は、その平均厚さが大きすぎると、厚さ方向におけるガス拡散の経路長が長くなり、発電性能が向上しにくい傾向がある。ガス拡散層の厚さが30μm以上である場合、厚さ方向および面方向におけるガス拡散の経路長をバランスよく確保しやすい。
【0173】
ガス拡散層の第1主面およびその反対側の第2主面が、切削やプレス加工による凹凸を有さず、目視で平坦である場合、ガス拡散層の厚さTは、任意の10箇所でガス拡散層の厚さを測定し、これらの厚さを平均化して求められる。一方、ガス拡散層が凹凸のパターンを有する場合には、ガス拡散層の最大厚さおよび最小厚さを求め、その面積割合を乗じて加算すればよい。ガス拡散層の最大厚さは、凸部の任意の10箇所の最も厚い部分の厚さの平均値として求められ、ガス拡散層の最小厚さは、凹部の任意の10箇所の最も薄い部分の厚さの平均値として求められる。ガス拡散層の厚さTが150μm以下、更には100μm以下である場合には、ガス拡散層の2つの主面は、上記のような凹凸を有さず、目視では平坦であることが好ましい。
【0174】
ガス拡散性および排水性の観点から、ガス拡散層の空隙率Pは、60%以上90%以下が好ましく、65%以上88%以下がより好ましい。
【0175】
ガス拡散層から触媒層への反応ガスの供給および触媒層からガス拡散層への生成水の排出が効率良く行われる観点から、触媒層の空隙率Pに対するガス拡散層の空隙率Pの比:P/Pは、例えば0.7以上であり、好ましくは1超である。P/Pが1超である場合、排水性をさらに高めることができる。また、P/Pは、例えば3.0以下である。
【0176】
ガス拡散層の空隙率Pは、以下のようにして求められる。
【0177】
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてガス拡散層の断面の画像を撮影する。得られた画像を用いて、空隙の部分と空隙以外の部分との区別ができるように画像処理(2値化処理)を行う。処理後の画像より所定の面積Aの領域を任意に選定し、当該領域内に存在する空隙の面積Ap2を求め、領域の面積Aに対する空隙の面積Ap2の比率(%)を算出し、空隙率Pとする。複数の領域に対して、それぞれ複数の空隙率を求め、それらを平均化してもよい。
【0178】
(ガス拡散層の形成)
ガス拡散層に用いられる多孔質層の形成工程は、例えば、導電性材料と、高分子樹脂と、界面活性剤と、分散媒とを含む混合物を調製する第1工程と、混合物を成形してシートを得る第2工程と、成形シートを焼成する第3工程と、焼成シートを圧延する第4工程と、を含む。
【0179】
第1工程では、混合装置に、混練機もしくはミキサーを用いればよい。このとき、混合装置に、導電性材料、界面活性剤および分散媒を投入して導電性材料を分散媒に均一に分散させた後、高分子樹脂を添加して更に分散させることが好ましい。高分子樹脂には、適度なせん断力を付与して、高分子樹脂をフィブリル化させることが好ましい。分散媒としては、例えば、水、アルコール、グリコール類が挙げられる。界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキルアミンオキシド等が挙げられる。
【0180】
第2工程では、例えば、混合物を押し出し成形する。得られた成形シートを更に圧延してもよい。圧延には、ロールプレス機を使用することができる。ロールプレスの条件は、特に限定されないが、線圧0.001ton/cm〜4ton/cmで圧延することで強度の高いガス拡散層を得やすくなる。
【0181】
第3工程では、シートを焼成して界面活性剤および分散媒を除去する。焼成温度は、高分子樹脂が劣化せず、かつ界面活性剤や分散媒が分解もしくは揮発する温度であればよい。高分子樹脂としてPTFEを用いる場合、焼成温度は310〜340℃が好ましい。焼成雰囲気は、不活性雰囲気であればよく、例えば窒素、アルゴン等の雰囲気や、減圧雰囲気が好ましい。界面活性剤および分散媒は、その大半がシートから除去されればよく、必ずしも完全に除去する必要はない。
【0182】
第4工程では、焼成シートを圧延してその厚さを調節する。また、圧延に用いる金型に、所定のガス流路パターンのリブを設けておくことにより、焼成シートの2つの主面の少なくとも一方に、ガス流路となる溝を形成してもよい。また、ガス流路を形成する方法は、上記のようなプレス加工に限らず、圧延されたシートの主面の切削加工等によってガス流路を形成してもよい。
【0183】
以下、本実施形態に係る燃料電池の構造の一例を、図6を参照しながら説明する。図6は、本発明の実施形態に係る燃料電池に配置される単セルの構造を模式的に示す断面図である。通常、複数の単セルは積層されて、セルスタックとして燃料電池に配置される。図6では、便宜上、1つの単セルを示している。
【0184】
燃料電池200の単セルは、電解質膜110と、電解質膜110を挟むように配置された第1触媒層120Aおよび第2触媒層120Bと、第1触媒層120Aおよび第2触媒層120Bをそれぞれ介して、電解質膜110を挟むように配置された第1ガス拡散層130Aおよび第2ガス拡散層130Bと、を有する膜電極接合体100を備える。また、燃料電池200の単セルは、膜電極接合体100を挟む第1セパレータ240Aおよび第2セパレータ240Bを備える。第1触媒層120Aおよび第2触媒層120Bのうちの一方はアノードとして機能し、他方は、カソードとして機能する。電解質膜110は、第1触媒層120Aおよび第2触媒層120Bより一回り大きいため、電解質膜110の周縁部は、第1触媒層120Aおよび第2触媒層120Bからはみ出している。電解質膜110の周縁部は、一対のシール部材250A、250Bで挟持されている。
【0185】
第1触媒層120Aおよび第2触媒層120Bの少なくとも一方は、図7に示す触媒層120である。図7は、触媒層の内部を模式的に示す図であり、触媒層内部を面方向からみた図である。繊維状導電部材が傾斜していることを示すため、便宜上、電解質膜110も示す。図7に示すように、触媒層120は、第1繊維状導電部材121Aと、触媒粒子122と、を備える。第1繊維状導電部材121Aは、電解質膜110の面方向(XY方向)に対して傾斜している。第1触媒層120Aまたは第2触媒層120Bが上記触媒層120でない場合、触媒層としては、公知の材質および公知の構成が採用できる。
【0186】
第1ガス拡散層130Aおよび第2ガス拡散層130Bの少なくとも一方は、上記の多孔質層で構成されている。第1ガス拡散層130Aまたは第2ガス拡散層130Bが多孔質層で構成されていない場合、ガス拡散層としては、公知の材質および公知の構成が採用できる。
【0187】
電解質膜110として、高分子電解質膜が好ましく用いられる。高分子電解質膜の材料としては、プロトン伝導性樹脂として例示した高分子電解質が挙げられる。電解質膜110の厚さは、例えば5〜30μmである。
【0188】
第1セパレータ240Aおよび第2セパレータ240Bは、気密性、電子伝導性および電気化学的安定性を有すればよく、その材質は特に限定されない。このような材質としては、炭素材料、金属材料等が好ましい。金属材料には、カーボンを被覆してもよい。例えば、金属板を所定形状に打ち抜き、表面処理を施すことにより、第1セパレータ240Aおよび第2セパレータ240Bが得られる。
【0189】
本実施形態においては、第1セパレータ240Aの第1ガス拡散層130Aと当接する側の面には、ガス流路260Aが形成されている。一方、第2セパレータ240Bの第2ガス拡散層130Bと当接する側の面には、ガス流路260Bが形成されている。ガス流路の形状は特に限定されず、パラレル型、サーペンタイン型、ストレート型等に形成すればよい。
【0190】
シール部材250A、250Bは、弾性を有する材料であり、ガス流路260A、260Bから燃料および/または酸化剤がリークすることを防止している。シール部材250A、250Bは、例えば、第1触媒層120Aおよび第2触媒層120Bの周縁部をループ状に取り囲むような枠状の形状を有する。シール部材250A、250Bとしては、それぞれ、公知の材質および公知の構成が採用できる。
【産業上の利用可能性】
【0191】
本開示に係る燃料電池は、定置型の家庭用コジェネレーションシステム用電源や、車両用電源として、好適に用いることができる。本開示は、高分子電解質型燃料電池への適用に好適であるが、これに限定されるものではなく、燃料電池一般に適用することができる。
【符号の説明】
【0192】
100 膜電極接合体
110 電解質膜
120 触媒層
120A 第1触媒層
120B 第2触媒層
120X 第1主面
120Y 第2主面
121 繊維状導電部材
121A 第1繊維状導電部材
122 触媒粒子
122A 第1粒子
122B コア部
122C シェル部
130A 第1ガス拡散層
130B 第2ガス拡散層
200 燃料電池
240A 第1セパレータ
240B 第2セパレータ
250A,250B シール部材
260A,260B ガス流路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】