特表-19043842IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 中国電力株式会社の特許一覧
<>
  • 再表WO2019043842-鋳鋼部材の保守管理方法 図000003
  • 再表WO2019043842-鋳鋼部材の保守管理方法 図000004
  • 再表WO2019043842-鋳鋼部材の保守管理方法 図000005
  • 再表WO2019043842-鋳鋼部材の保守管理方法 図000006
  • 再表WO2019043842-鋳鋼部材の保守管理方法 図000007
  • 再表WO2019043842-鋳鋼部材の保守管理方法 図000008
  • 再表WO2019043842-鋳鋼部材の保守管理方法 図000009
  • 再表WO2019043842-鋳鋼部材の保守管理方法 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2019年3月7日
【発行日】2019年11月7日
(54)【発明の名称】鋳鋼部材の保守管理方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 31/00 20060101AFI20191011BHJP
   B23K 9/00 20060101ALI20191011BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20191011BHJP
【FI】
   B23K31/00 D
   B23K9/00 501G
   F01D25/00 X
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】17
【出願番号】特願2018-500810(P2018-500810)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2017年8月30日
(11)【特許番号】特許第6384632号(P6384632)
(45)【特許公報発行日】2018年9月5日
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】西田 秀高
【テーマコード(参考)】
4E081
【Fターム(参考)】
4E081YG02
(57)【要約】
予熱や後熱処理が必要でない上、高温高圧環境下での延性、耐酸化性に優れた溶接材料を用いた亀裂(12)の溶接が可能な、鋳鋼部材(10)の保守管理方法及び保守管理装置(100)を提供する。
亀裂進展予測ステップ(S3)において、亀裂(12)が、発電設備の次回の点検予定時に、鋳鋼部材(10)の必要最小肉厚(TSR)の深さに達することが予測される場合には、鋳鋼部材(10)と同じ材質の溶接材料を選択し、鋳鋼部材(10)の必要最小肉厚(TSR)の深さに達しないことが予測される場合には、ニッケルを主成分とする溶接材料(20)を選択する溶接材料選択ステップ(S5)と、溶接材料選択ステップ(S5)において選択された溶接材料を用いて、亀裂(12)をアーク溶接する溶接ステップ(S7,S8)と、を有する保守管理方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電設備で用いられる鋳鋼部材の保守管理方法であって、
前記鋳鋼部材に発生した亀裂の深さを検知する亀裂検知ステップと、
少なくとも前記深さを用いて、前記亀裂の進展を予測する亀裂進展予測ステップと、
前記亀裂進展予測ステップにおいて、前記亀裂が、前記発電設備の次回の点検予定時に、前記鋳鋼部材の必要最小肉厚(TSR)の深さに達することが予測される場合には、前記鋳鋼部材と同じ材質の溶接材料を選択し、前記鋳鋼部材の必要最小肉厚(TSR)の深さに達しないことが予測される場合には、ニッケルを主成分とする溶接材料を選択する溶接材料選択ステップと、
前記溶接材料選択ステップにおいて選択された前記溶接材料を用いて、前記亀裂をアーク溶接する溶接ステップと、を有する保守管理方法。
【請求項2】
前記亀裂検知ステップにおいて検知された亀裂の深さが、前記鋳鋼部材の肉厚の所定割合以上である場合には、前記亀裂進展予測ステップにおいて、発電設備の次回の点検予定時に、前記鋳鋼部材に発生した亀裂が、鋳鋼部材の必要最小肉厚(TSR)の深さに達することが予測されたか否かに関わらず、前記溶接材料選択ステップにおいて、前記鋳鋼部材と同じ材料の溶接材料を選択する、請求項1に記載の保守管理方法。
【請求項3】
前記所定割合は、前記鋳鋼部材の肉厚の3分の1である、請求項2に記載の保守管理方法。
【請求項4】
前記亀裂進展予測ステップにおいて、次回の点検予定時に、前記亀裂の深さが、前記鋳鋼部材の必要最小肉厚(TSR)に所定の閾値を加算した量以上となることが予測される場合には、前記鋳鋼部材を交換する、鋳鋼部材交換ステップを更に有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の保守管理方法。
【請求項5】
発電設備で用いられる鋳鋼部材の保守管理装置であって、
前記鋳鋼部材に発生した亀裂の深さを検知する亀裂検知部と、
少なくとも前記深さを用いて、前記亀裂の進展を予測する亀裂進展予測部と、
前記亀裂進展予測部によって、前記亀裂が、前記発電設備の次回の点検予定時に、前記鋳鋼部材の必要最小肉厚(TSR)の深さに達することが予測される場合には、前記鋳鋼部材と同じ材質の溶接材料を選択し、前記鋳鋼部材の必要最小肉厚(TSR)の深さに達しないことが予測される場合には、ニッケルを主成分とする溶接材料を選択する、溶接材料選択部と、
前記溶接材料選択部によって選択された前記溶接材料を用いて、前記亀裂をアーク溶接する溶接部と、を備える保守管理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電設備で用いられる鋳鋼部材の保守管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電所に設置される蒸気タービン装置、及び、蒸気タービン装置のケーシングである車室や、蒸気流を制御する弁装置等の部材は、高温高圧下に晒されるため、主として、鋳鋼を用いて製造される。
【0003】
これらの鋳鋼部材には、例えば、蒸気タービン装置の起動停止時における急激な温度変化に伴う熱応力や、長時間作用する引張力に由来して、表面に亀裂が発生することがある。
【0004】
鋳鋼部材の亀裂を補修する方法としては、例えば特許文献1に記載されるように、亀裂を削って、溶接前に予熱を行い、鋳鋼部材と同じ材質の鋳鋼、すなわち、例えば、クロム−モリブデン(CrMo)鋳鋼、又はクロム−モリブデン−バナジウム(CrMoV)鋳鋼等の共材を用いて亀裂部分を溶接し、その後、熱処理する方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−107101号公報
【特許文献2】特開2014−048196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、蒸気タービン装置、車室、弁装置は大型であり、補修のために、これらを発電設備から取り外して、補修工場に持ち帰ることができないので、現場で補修するしかなかった。これにより、熱処理が完全にできないため、逆に、亀裂周辺部が脆化して、割れやすくなることがあった。
【0007】
また、鋳鋼部材ではなく、鋳鉄部材においては、共材を用いるのではなく、ニッケルを主成分とする溶接材を用いることで、予熱や熱処理が不要な、ニッケル溶接が行われることがある。しかし、ニッケル溶接は、鋳鋼同士の溶接に比べてコストは低いものの、高温疲労強度が半分近くに落ちるため、高温高圧環境下で用いられる鋳鋼に発生した亀裂の溶接では、これまでニッケル溶接は実施されていなかった。
【0008】
本発明は、予熱や後熱処理が必要でない上、高温高圧環境下での延性、耐酸化性に優れた溶接材料を用いた亀裂の溶接が可能な、鋳鋼部材の保守管理方法及び保守管理装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明は、次に記載する構成を備えている。
【0010】
(1) 発電設備で用いられる鋳鋼部材の保守管理方法であって、前記鋳鋼部材に発生した亀裂の深さを検知する亀裂検知ステップと、少なくとも前記深さを用いて、前記亀裂の進展を予測する亀裂進展予測ステップと、前記亀裂進展予測ステップにおいて、前記亀裂が、前記発電設備の次回の点検予定時に、前記鋳鋼部材の必要最小肉厚(TSR)の深さに達することが予測される場合には、前記鋳鋼部材と同じ材質の溶接材料を選択し、前記鋳鋼部材の必要最小肉厚(TSR)の深さに達しないことが予測される場合には、ニッケルを主成分とする溶接材料を選択する、溶接材料選択ステップと、前記溶接材料選択ステップにおいて選択された前記溶接材料を用いて、前記亀裂をアーク溶接する溶接ステップと、を有する保守管理方法。
【0011】
(1)によれば、とりわけ、鋳鋼部材に発生した亀裂が、発電設備の次回の点検予定時に、鋳鋼部材の必要最小肉厚(TSR)の深さに達しないことが予想される場合には、ニッケルを主成分とする溶接材料を用いることにより、予熱や後熱処理が必要でない上、高温高圧環境下での延性、耐酸化性に優れた亀裂の溶接が可能となる。
【0012】
(2) (1)において、前記亀裂検知ステップにおいて検知された亀裂の深さが、前記鋳鋼部材の肉厚の所定割合以上である場合には、前記亀裂進展予測ステップにおいて、発電設備の次回の点検予定時に、前記鋳鋼部材に発生した亀裂が、鋳鋼部材の必要最小肉厚(TSR)の深さに達することが予測されたか否かに関わらず、前記溶接材料選択ステップにおいて、前記鋳鋼部材と同じ材料の溶接材料を選択することが好ましい。
【0013】
(2)によれば、鋳鋼部材に発生した亀裂の深さが、鋳鋼部材の肉厚の所定の割合以上の場合には、高温疲労強度の高い共材を用いて溶接することが可能となる。
【0014】
(3) (2)において、前記所定割合は、前記鋳鋼部材の肉厚の3分の1であることが好ましい。
【0015】
(3)によれば、鋳鋼部材に発生した亀裂の深さが、鋳鋼部材の肉厚の3分の1を超えている場合には、高温疲労強度の高い共材を用いて溶接することが可能となる。
【0016】
(4) (1)〜(3)において、前記亀裂進展予測ステップにおいて、次回の点検予定時に、前記亀裂の深さが、前記鋳鋼部材の必要最小肉厚(TSR)に所定の閾値を加算した量以上となることが予測される場合には、前記鋳鋼部材を交換する、鋳鋼部材交換ステップを更に有することが好ましい。
【0017】
(4)によれば、鋳鋼部材を補修する上で、鋳鋼部材に発生した亀裂を溶接するのか、又は、鋳鋼部材自体を交換するのかについての明確な判断基準に基づいて、鋳鋼部材を保守管理することが可能となる。
【0018】
(5) 発電設備で用いられる鋳鋼部材の保守管理装置であって、前記鋳鋼部材に発生した亀裂の深さを検知する亀裂検知部と、少なくとも前記深さを用いて、前記亀裂の進展を予測する亀裂進展予測部と、前記亀裂進展予測部によって、前記亀裂が、前記発電設備の次回の点検予定時に、前記鋳鋼部材の必要最小肉厚(TSR)の深さに達することが予測される場合には、前記鋳鋼部材と同じ材質の溶接材料を選択し、前記鋳鋼部材の必要最小肉厚(TSR)の深さに達しないことが予測される場合には、ニッケルを主成分とする溶接材料を選択する、溶接材料選択部と、前記溶接材料選択部によって選択された前記溶接材料を用いて、前記亀裂をアーク溶接する溶接部と、を備える保守管理装置。
【0019】
(5)によれば、とりわけ、鋳鋼部材に発生した亀裂が、発電設備の次回の点検予定時に、鋳鋼部材の必要最小肉厚(TSR)の深さに達しないことが予想される場合には、ニッケルを主成分とする溶接材料を用いることにより、予熱や後熱処理が必要でない上、高温高圧環境下での延性、耐酸化性に優れた亀裂の溶接が可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、予熱や後熱処理が必要でない上、高温高圧環境下での延性、耐酸化性に優れた溶接材料を用いた、亀裂の溶接が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1A】本発明の実施箇所の例である発電所主弁の図である。
図1B】本発明の実施箇所の例である発電所主弁の図である。
図2】本発明の一実施形態に係る保守管理方法のフローを示すフローチャートである。
図3】本発明において用いられる亀裂進展予測方法により予測される亀裂進展の予測例である。
図4A】本発明において実施されるニッケル溶接方法の説明図である。
図4B】本発明において実施されるニッケル溶接方法の説明図である。
図4C】本発明において実施されるニッケル溶接方法の説明図である。
図5】本発明の位置実施形態に係る保守管理装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について各図面を参照しながら詳述する。
図1A及び図1Bは、発電設備で用いられる鋳鋼部材の一例としての、主蒸気止め弁の主弁50を示す。図1Aは、主弁を鉛直方向上方から見た図であり、図1Bは主弁を水平方向から見た断面図である。主蒸気止め弁は、高温高圧の蒸気に晒される圧力容器であるため、主として鋳鋼を用いて製造される。しかし、主弁50のとりわけ弁シートには、蒸気タービン装置の起動停止時における急激な温度変化に伴う熱応力に由来して、図1Aのハッチング部52に示す箇所に亀裂が発生することが多い。
【0023】
そこで、本発明においては、後述のように、現在の亀裂が肉厚の3分の1に達することなく、更に、例えば特許文献2が開示する方法により、現時点での亀裂の深さや繰り返し応力の発生回数等を用いて亀裂の進展を予測した結果、次回の検査時において、亀裂の深さが必要最小肉厚(TSR)に達しない場合には、亀裂周辺部を研削すると共に、研削箇所を、ニッケルを主成分とする溶接材料を用いて溶接する。例えば、図1Bにおけるハッチング部54を研削・溶接する。
【0024】
ニッケルを主成分とする溶接材料を用いた溶接においては、共材として鋳鋼を用いた溶接に比較して、溶接時の熱影響により、亀裂近傍、とりわけ母材と溶接箇所との境界において、新たな亀裂が2倍前後の速さで発生する。しかし、ニッケルを主成分とする溶接材料を用いた溶接は、共材として鋳鋼を用いた溶接に比較して、コストが低い。そこで、現時点において亀裂の進展量が小さい場合には、溶接材料の違いによる新たな亀裂の生じやすさへの影響が、さほど変わらないため、ニッケルを主成分とする溶接材料を用いた溶接を実施する。一方で、現時点における亀裂の進展量が大きく、溶接材料による亀裂の速度への影響が無視できない場合には、共材として鋳鋼を用いた溶接を実施する。
【0025】
図2は、本発明に係る保守管理方法の具体的な動作フローを示す。
ステップS1において、保守管理者は、現時点において鋳鋼部材に生じている亀裂の深さを調査する。現時点の亀裂の深さが、鋳鋼部材の肉厚の3分の1以上の場合には、処理はステップS2に移行する。現時点の亀裂の深さが、鋳鋼部材の肉厚の3分の1に満たない場合には、処理はステップS3に移行する。
【0026】
ステップS2において、例えば特許文献2が開示する方法を用いることにより、次回の点検時に亀裂がどの程度進展しているかを予測する。その後、処理は、ステップS4に移行する。なお、ここで言う「次回の点検時」とは、発電設備の定期点検時に限定されない。例えば、保守管理員が、車室を開けた上で、鋳鋼部材の亀裂を目視により点検する点検時であってもよい。
【0027】
ステップS3において、例えば特許文献2が開示する方法を用いることにより、次回の点検時に亀裂がどの程度進展しているかを予測する。その後、処理は、ステップS5に移行する。なお、ここで言う「次回の点検時」とは、発電設備の定期点検時に限定されない。例えば、保守管理員が、車室を開けた上で、鋳鋼部材の亀裂を目視により点検する点検時であってもよい。
【0028】
ステップS4において、次回の点検時に、亀裂の深さが、鋳鋼部材の必要最小肉厚(TSR)+閾値以上に達し、鋳鋼部材が壊れることが予想される場合(S4:YES)には、処理はステップS6に移行する。次回の点検時に、亀裂の深さが、鋳鋼部材の必要最小肉厚(TSR)+閾値に達しないことが予想される場合(S4:NO)には、処理はステップS7に移行する。繰り返しとなるが、ここで言う「閾値」とは、次回の点検時における亀裂の深さが、当該閾値を鋳鋼部材の必要最小肉厚(TSR)に加算した量に達していた場合に、鋳鋼部材が壊れることが予想される値である。
【0029】
ステップS5において、次回の点検時に、亀裂の深さが、鋳鋼部材の必要最小肉厚(TSR)以上に達することが予想される場合(S5:YES)には、処理はステップS7に移行する。次回の点検時に、亀裂の深さが、鋳鋼部材の必要最小肉厚(TSR)以上に達しないことが予想される場合(S5:NO)には、処理はステップS8に移行する。
【0030】
ステップS6において、保守管理員は、亀裂の発生した鋳鋼部材を、新たな鋳鋼部材に交換し、動作フローは終了する。
【0031】
ステップS7において、保守管理員は、鋳鋼部材に発生した亀裂を、共材、すなわち鋳鋼部材と同一の溶接材料を用いて溶接し、動作フローは終了する。
【0032】
ステップS8において、保守管理員は、鋳鋼部材に発生した亀裂を、ニッケルを主成分とする溶接材料を用いて溶接し、動作フローは終了する。なお、ここで、「ニッケルを主成分とする溶接材料」とは、例えば、ニッケルを重量比70%程度含み、更に、耐酸化元素として、ケイ素(Si)を0.3%程度、マンガン(Mn)を3%程度、クロム(Cr)を15%程度含むと共に、結晶粒界及びクリープ強度の強化元素として、ニオブ(Nb)、一酸化炭素(CO)が添加されていてもよい。
【0033】
上記の動作フローにより、強度は比較的高い一方で、コストも比較的高い溶接材料と、強度は比較的低い一方で、コストも比較的低い溶接材料との間での溶接材料の選択を最適化することが可能となる。
【0034】
上記のように、ステップS2及びステップS3においては、例えば特許文献2が開示する方法により、亀裂の深さ、繰り返し応力の発生回数の実測値、応力の時系列的な変化、クリープ破断特性等を用いて、亀裂の進展を予測するが、その予測例を図3に示す。
【0035】
図3のグラフの横軸は、発電設備の累積起動停止回数を示す。また、縦軸は、鋳鋼部材に発生した亀裂の深さと、後述の方法により亀裂の周辺部を研削する研削量との合計値を示す。また、実線が実測値を、点線が予測値を示す。図3のグラフで、亀裂の進展予測が示される鋳鋼部材は、材質が2.25Cr−1Moであり、566℃の温度下で使用されることを前提としている。また、必要最小肉厚(TSR)は50mmであることを前提としている。
累積起動停止回数が1400回以降は、亀裂の補修がない場合と、亀裂を溶接した場合との亀裂進展予測のグラフを示す。亀裂の補修がない場合のグラフは間隔の長い点線で示し、亀裂部分を10mm肉盛溶接した場合のグラフは間隔の短い点線で示す。
【0036】
図3のグラフにおいて、累積起動停止回数が430回前後となった段階で亀裂が発生し、起動停止回数が増加するに連れて、亀裂は進展する。累積起動停止回数が850回前後の時点で、亀裂深さの増加の度合いは緩くなる。
【0037】
累積起動停止回数が1400回以降の時点において、亀裂の補修がない場合のグラフは、累積起動停止回数が850回になった時点以降と同じ傾きを保ったまま、亀裂深さが増加していき、累積起動停止回数が1950回程度になった時点で、亀裂の深さが必要最小肉厚(TSR)に達することが予測される。
【0038】
一方、亀裂部分を10mm肉盛溶接した場合のグラフは、累積起動停止回数が1400回に達した時点で、10mm肉盛溶接したために、10mm分グラフが下方にシフトする。それ以降は、亀裂の補修がない場合のグラフと同様の傾きで、亀裂深さが増加していくものの、累積起動停止回数が2200回を超えてもなお、亀裂の深さは、必要最小肉厚(TSR)に達しないことが予測される。
【0039】
発電設備の点検から点検までの間の、蒸気タービンの起動停止回数は、ほぼ決まっているため、ステップS2及びステップS3において、図3のグラフに基づいて、現在発生している亀裂が、次回の点検予定時までにどの程度進展しているのかについて、予測することが可能となる。
【0040】
上記のように、ステップS8において、保守管理員は、鋳鋼部材に発生した亀裂を、ニッケルを主成分とする溶接材料を用いて溶接するが、その具体的な方法を、図4A図4Cを参照して詳述する。
【0041】
図4Aは、鋳鋼部材10に亀裂12が発生した状態を示す。なお、ここでは、亀裂12は、鋳鋼部材10を貫通していないものとする。
【0042】
図4Aのような亀裂12が鋳鋼部材10に発生した場合、保守管理員は、図4Bの斜線部に示すような、亀裂12の周辺領域14を切削する。なお、周辺領域14の広さは、亀裂12自体の幅や深さに応じて異なる。また、周辺領域14の深さは、亀裂12の最深部の深さに達しない。これは、発電設備の寿命に限りがあることを考えた場合、亀裂12全体を含むように切削して、亀裂12が全く残らないように溶接する必要性がないためである。
【0043】
保守管理員は、図4Bの斜線部に示すような、亀裂12の周辺領域14を切削した後、図4Cに示すように、溶接棒20を用いて切削箇所をアーク溶接する。これは、アーク溶接であれば、現場で簡単に作業ができるからであると共に、大きな熱影響部を作りにくいためである。また、溶接棒20は、例えば、銘柄NI−70A等の、ニッケル(Ni)ベースの溶接棒であり、ニッケルを重量比70%程度含む。更に、溶接棒20は、耐酸化元素として、ケイ素(Si)を0.3%程度、マンガン(Mn)を3%程度、クロム(Cr)を15%程度含むと共に、また、結晶粒界及びクリープ強度の強化元素として、溶接棒20には、上記のクロム(Cr)に加え、ニオブ(Nb)、一酸化炭素(CO)が添加されている。
【0044】
図5は、上記の保守管理方法を実行する保守管理装置100の機能ブロック図を示す。保守管理装置100は、亀裂検知部110と、亀裂進展予測部120と、溶接材料選択部130と、溶接部140とを備える。
【0045】
亀裂検知部110は、鋳鋼部材に発生した亀裂の深さを検知する。すなわち、亀裂検知部110は、図2のフローチャート中のステップS1における、亀裂の深さの検知を実行する。
【0046】
亀裂進展予測部120は、少なくとも、亀裂検知部110が検知した亀裂の深さを用いて、亀裂の進展を予測する。すなわち、亀裂進展予測部120は、図2のフローチャート中のステップS2及びS3における亀裂進展予測を実行する。
【0047】
亀裂進展予測部120によって、亀裂が、発電設備の次回の点検予定時に、鋳鋼部材の必要最小肉厚(TSR)の深さに達することが予測される場合には、溶接材料選択部130は、鋳鋼部材と同じ材質の溶接材料を選択する。亀裂進展予測部120によって、亀裂が、発電設備の次回の点検予定時に、鋳鋼部材の必要最小肉厚(TSR)の深さに達しないことが予測される場合には、溶接材料選択部130は、ニッケルを主成分とする溶接材料を選択する。すなわち、溶接材料選択部130は、図2のフローチャート中のステップS5における、溶接材料の選択を実行する。
【0048】
溶接部140は、溶接材料選択部130によって選択された溶接材料を用いて、亀裂をアーク溶接する。すなわち、溶接部140は、図2のフローチャート中のステップS7及びS8におけるアーク溶接を実行する。
【0049】
なお、保守管理装置100は、亀裂進展予測部120によって、次回の点検予定時に、亀裂の深さが、鋳鋼部材の必要最小肉厚(TSR)を所定の閾値以上超えることが予測される場合には、鋳鋼部材を交換する、鋳鋼部材交換部を更に備えてもよい。
【0050】
また、亀裂検知部110が検知した亀裂の深さが、鋳鋼部材の肉厚の1/3以上である場合には、溶接材料選択部130は、無条件で鋳鋼部材と同じ材料の溶接材料を選択してもよい。具体的には、発電設備の次回の点検予定時に、鋳鋼部材に発生した亀裂が鋳鋼部材の必要最小肉厚(TSR)の深さに達することを、亀裂進展予測部120が予測したか否かに関わらず、溶接材料選択部130は、鋳鋼部材と同じ材料の溶接材料を選択してもよい。
【0051】
上記の保守管理装置100により、1台の装置で、図2のフローチャートに記載の動作を実行することが可能となる。
【0052】
〔実施形態が奏する効果〕
本実施形態によれば、亀裂進展予測の結果、発電設備の次回の点検予定時に、鋳鋼部材の必要最小肉厚(TSR)の深さに達することが予測される場合には、鋳鋼部材と同じ材質の溶接材料を用いて亀裂をアーク溶接し、鋳鋼部材の計算必要厚さの深さに達しないことが予測される場合には、ニッケルを主成分とする溶接材料を用いて前記亀裂をアーク溶接する。
これにより、予熱や後熱処理が必要でない上、高温高圧環境下での延性、耐酸化性に優れた溶接材料を用いた亀裂の溶接が可能となる。とりわけ、通常の溶接と異なり、熱影響がほとんどなく、現場で簡単に施工することが可能となる。また、仮に、鋳鋼部材に亀裂が新たに発生しても、当該鋳鋼部材を長期間に渡って保守管理することが可能となる。
【0053】
また、本実施形態によれば、亀裂の深さが、鋳鋼部材の肉厚の所定割合以上、例えば、鋳鋼部材の肉厚の3分の1以上の場合には、鋳鋼部材と同じ材料の溶接材料を用いて亀裂をアーク溶接する。
これにより、鋳鋼部材に発生した亀裂が深い場合には、高温疲労強度の高い共材を用いて溶接することが可能となる。
【0054】
また、本実施形態によれば、亀裂進展予測の結果、次回の点検予定時に、亀裂の深さが、鋳鋼部材の必要最小肉厚(TSR)を所定の閾値以上超えることが予想される場合には、鋳鋼部材を交換する。
これにより、鋳鋼部材に発生した亀裂を溶接するのか、又は、鋳鋼部材自体を交換するのかについての明確な判断基準に基づいて、鋳鋼部材を保守管理することが可能となる。
【0055】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前述した実施形態に限るものではない。また、本実施形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0056】
10 鋳鋼部材
12 亀裂
14 周辺領域
20 溶接棒
50 主弁
100 保守管理装置
110 亀裂検知部
120 亀裂進展予測部
130 溶接材料選択部
140 溶接部
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5

【手続補正書】
【提出日】2018年4月11日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電設備で用いられる鋳鋼部材の、保守管理装置による保守管理方法であって
前記保守管理装置に備わる亀裂進展予測部が、少なくとも前記鋳鋼部材に発生した亀裂の深さを用いて、前記亀裂の進展を予測する亀裂進展予測ステップと、
前記亀裂進展予測ステップにおいて、前記亀裂が、前記発電設備の次回の点検予定時に、前記鋳鋼部材の必要最小肉厚(TSR)の深さに達することが予測される場合には、前記保守管理装置に備わる溶接材料選択部が、前記鋳鋼部材と同じ材質の溶接材料を選択し、前記鋳鋼部材の必要最小肉厚(TSR)の深さに達しないことが予測される場合には、前記保守管理装置に備わる溶接材料選択部が、ニッケルを主成分とする溶接材料を選択する溶接材料選択ステップと、
前記溶接材料選択ステップにおいて選択された前記溶接材料を用いて、前記亀裂をアーク溶接する溶接ステップと、を有する保守管理方法。
【請求項2】
前記亀裂検知ステップにおいて検知された亀裂の深さが、前記鋳鋼部材の肉厚の所定割合以上である場合には、前記亀裂進展予測ステップにおいて、発電設備の次回の点検予定時に、前記鋳鋼部材に発生した亀裂が、鋳鋼部材の必要最小肉厚(TSR)の深さに達することが予測されたか否かに関わらず、前記溶接材料選択ステップにおいて、前記鋳鋼部材と同じ材料の溶接材料を選択する、請求項1に記載の保守管理方法。
【請求項3】
前記所定割合は、前記鋳鋼部材の肉厚の3分の1である、請求項2に記載の保守管理方法。
【請求項4】
前記亀裂進展予測ステップにおいて、次回の点検予定時に、前記亀裂の深さが、前記鋳鋼部材の必要最小肉厚(TSR)に所定の閾値を加算した量以上となることが予測される場合には、前記保守管理装置に備わる鋳鋼部材交換部が、前記鋳鋼部材を交換する、鋳鋼部材交換ステップを更に有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の保守管理方法。
【請求項5】
発電設備で用いられる鋳鋼部材の保守管理装置であって
なくとも前記鋳鋼部材に発生した亀裂の深さを用いて、前記亀裂の進展を予測する亀裂進展予測部と、
前記亀裂進展予測部によって、前記亀裂が、前記発電設備の次回の点検予定時に、前記鋳鋼部材の必要最小肉厚(TSR)の深さに達することが予測される場合には、前記鋳鋼部材と同じ材質の溶接材料を選択し、前記鋳鋼部材の必要最小肉厚(TSR)の深さに達しないことが予測される場合には、ニッケルを主成分とする溶接材料を選択する、溶接材料選択部と、
前記溶接材料選択部によって選択された前記溶接材料を用いて、前記亀裂をアーク溶接する溶接部と、を備える保守管理装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
(1) 発電設備で用いられる鋳鋼部材の、保守管理装置による保守管理方法であって、前記保守管理装置に備わる亀裂進展予測部が、少なくとも前記鋳鋼部材に発生した亀裂の深さを用いて、前記亀裂の進展を予測する亀裂進展予測ステップと、前記亀裂進展予測ステップにおいて、前記亀裂が、前記発電設備の次回の点検予定時に、前記鋳鋼部材の必要最小肉厚(TSR)の深さに達することが予測される場合には、前記保守管理装置に備わる溶接材料選択部が、前記鋳鋼部材と同じ材質の溶接材料を選択し、前記鋳鋼部材の必要最小肉厚(TSR)の深さに達しないことが予測される場合には、前記保守管理装置に備わる溶接材料選択部が、ニッケルを主成分とする溶接材料を選択する、溶接材料選択ステップと、前記溶接材料選択ステップにおいて選択された前記溶接材料を用いて、前記亀裂をアーク溶接する溶接ステップと、を有する保守管理方法。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0016
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0016】
(4) (1)〜(3)において、前記亀裂進展予測ステップにおいて、次回の点検予定時に、前記亀裂の深さが、前記鋳鋼部材の必要最小肉厚(TSR)に所定の閾値を加算した量以上となることが予測される場合には、前記保守管理装置に備わる鋳鋼部材交換部が、前記鋳鋼部材を交換する、鋳鋼部材交換ステップを更に有することが好ましい。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0018
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0018】
(5) 発電設備で用いられる鋳鋼部材の保守管理装置であって、少なくとも前記鋳鋼部材に発生した亀裂の深さを用いて、前記亀裂の進展を予測する亀裂進展予測部と、前記亀裂進展予測部によって、前記亀裂が、前記発電設備の次回の点検予定時に、前記鋳鋼部材の必要最小肉厚(TSR)の深さに達することが予測される場合には、前記鋳鋼部材と同じ材質の溶接材料を選択し、前記鋳鋼部材の必要最小肉厚(TSR)の深さに達しないことが予測される場合には、ニッケルを主成分とする溶接材料を選択する、溶接材料選択部と、前記溶接材料選択部によって選択された前記溶接材料を用いて、前記亀裂をアーク溶接する溶接部と、を備える保守管理装置。
【国際調査報告】