特表-19044753IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2019年3月7日
【発行日】2020年10月1日
(54)【発明の名称】線維化抑制作用を有する細胞シート
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0775 20100101AFI20200904BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20200904BHJP
【FI】
   C12N5/0775
   C12N5/071
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】19
【出願番号】特願2019-539482(P2019-539482)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2018年8月27日
(31)【優先権主張番号】特願2017-168118(P2017-168118)
(32)【優先日】2017年9月1日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
(71)【出願人】
【識別番号】517060247
【氏名又は名称】カノンキュア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100151448
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 孝博
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100203035
【弁理士】
【氏名又は名称】五味渕 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【弁理士】
【氏名又は名称】今藤 敏和
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】汐田 剛史
(72)【発明者】
【氏名】板場 則子
(72)【発明者】
【氏名】河野 洋平
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BB13
4B065CA44
(57)【要約】
【発明を解決するための課題】
骨髄単核球細胞からなる細胞シートにおいて線維化抑制作用を高めるための細胞シートおよびその製造法を提供する。
【解決手段】
骨髄単核細胞からなる細胞シートであって、該細胞シートは骨髄単核細胞懸濁液から骨髄単核細胞をシート化し、縮小させた後、浮遊培養してなる細胞シート。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨髄単核細胞からなる細胞シートであって、該細胞シートは骨髄単核細胞懸濁液から骨髄単核細胞をシート化し、縮小させた後、浮遊培養してなる細胞シート。
【請求項2】
前記骨髄単核細胞が接着性骨髄単核細胞である、請求項1の細胞シート。
【請求項3】
前記骨髄単核細胞が間葉系幹細胞である、請求項1の細胞シート。
【請求項4】
前記骨髄単核細胞をシート化するときに、Wnt/β−カテニンシグナル抑制作用のある化合物に曝すことを含む、請求項1の細胞シート。
【請求項5】
前記Wnt/β−カテニンシグナル抑制作用のある化合物がIC−2である、請求項1の細胞シート。
【請求項6】
線維化抑制効果が高い、請求項1の細胞シート。
【請求項7】
得られた細胞シートが、各種組織に適用可能である、請求項1の細胞シート。
【請求項8】
肝疾患治療用細胞シートである、請求項1の細胞シート。
【請求項9】
マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)活性が高い、請求項1の細胞シート。
【請求項10】
請求項1の細胞シートを積層してなる線維化治療用積層細胞シート。
【請求項11】
線維化抑制作用のある細胞シートの作製方法において、
骨髄単核細胞を得る工程、
骨髄単核細胞を培養液に懸濁する工程、
骨髄単核細胞の懸濁液を温度応答性培養皿に播種し、インキュベートする工程、
培養された骨髄単核細胞が、コンフルエントになったことを確認して、温度応答性培養皿を20℃の環境下に移動させて、細胞シートを得る工程、
得られた細胞シートを浮遊培養する工程、からなる、細胞シートの製造方法。
【請求項12】
前記骨髄単核細胞が接着性骨髄単核細胞である、請求項9の細胞シートの製造方法。
【請求項13】
前記骨髄単核細胞が間葉系幹細胞である、請求項9の細胞シートの製造方法。
【請求項14】
前記骨髄単核細胞の懸濁液を温度応答性培養皿に播種し、インキュベートする工程において、培養液がWnt/β−カテニンシグナル抑制作用のある化合物を含む、求項9の細胞シートの製造方法。
【請求項15】
前記Wnt/β−カテニンシグナル抑制作用のある化合物がIC−2である、請求項9の細胞シートの製造方法。
【請求項16】
得られた細胞シートが、各種組織に適用可能である、請求項9の細胞シートの製造方法。
【請求項17】
得られた細胞シートが、肝疾患治療用細胞シートである、請求項9の細胞シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、再生医療に用いる細胞シートに関する。具体的には、本開示は、線維化抑制活性を高めた細胞シートに関する。
【背景技術】
【0002】
「再生医療」は、培養などして増やした細胞を利用して、機能のみならず体の構造も元の状態、あるいはできるだけそれに近い状態に戻す治療を可能にする。細胞を増やすためには、細胞そのものを注射する方法がある。しかしながら、所定の組織において、細胞が持っている修復機能を働かせるためには、移植した細胞を組織に一体化させて定着させる必要がある。
細胞シートは、患者の組織または確立された細胞株から採取した細胞を培養し、シート状にしたものである。培養して増やした一定量の細胞がそれぞれ結合して単層のシートになっている。細胞シートの下部には細胞外マトリックスなどの接着タンパク質が維持されているため、外科的な縫合をすることなく細胞シートが移植組織に生着する。生着した細胞シートは液性因子を放出し再生治癒を促進する。これまでに角膜・心臓・食道などへのヒト移植・再生治療が実施されており、今後ますます応用範囲が拡大していくものと期待される。
本願発明者らは、Wnt/β−カテニンシグナル抑制作用のある化合物を用いて、間葉系幹細胞および患者骨髄由来間葉系幹細胞を肝機能を有する細胞に分化させ、該分化させた細胞をシート化し、該シートを複数枚重ねて、マウスにて肝障害を抑制したことを報告している(特許文献1)。
肝障害の一症状として、組織の線維化が挙げられる。肝臓において線維化が進むと、肝硬変、肝癌になる。そのほか、線維化は肺、腎臓、心臓、皮膚などにも生じる。非特許文献1には、線維化治療に関するものとして、ピルフェニドンの臨床試験の結果が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2012/141038 A1
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Nobel et al., Lancet. May 21; 377(9779): 1760−9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
線維化治療に関する研究成果が徐々に行われてきている一方で、線維化の治療に有効な治療薬は依然として少なく、また上記のような化合物による治療においては、患者によっては副作用が問題となることもある。そのため、従来の線維化抑制剤だけでは十分ではなく、副作用の問題とならない再生医療での治療法、特に細胞シートでの治療法の確立が必要とされている。
発明者らによる前述の細胞シートはヒトにおいて所定の治療効果を得るために、直径15cmの培養皿で培養してなる細胞シートを2もしくは3枚重ねたものを、複数個所適用することが必要であると推定されている。
また、上記文献では間葉系幹細胞から分化させた肝細胞を用いている。分化させた細胞シートにおいて分化細胞数を全ての試料において厳密に管理・把握することは難しく、ゆえに上記のような細胞シートを製品としての管理することは労力が必要とされる。
上記のような事情から、再生医療においては、対象検体あたりのコストが嵩む傾向にあり、このことが再生医療等製品の実現及び普及の足かせとなっている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者らは、上記のような課題を解決するために鋭意検討した結果、骨髄単核球細胞からなる細胞シートにおいて線維化抑制作用を高めることが可能となる手段を発見した。
該方法は、骨髄単核球細胞をWnt/β−カテニンシグナル抑制効果のある化合物で処理した場合にも同様の傾向を示し、この場合更に線維化抑制効果は強固になることを発見し、本願発明に至った。
即ち、本開示の一態様によれば、:
骨髄単核細胞からなる細胞シートであって、該細胞シートは骨髄単核細胞の懸濁液から骨髄単核細胞をシート化し、縮小させた後、浮遊培養してなる細胞シートが提供される。
該細胞シートにおいて、骨髄単核細胞は接着性骨髄単核細胞でもよい。
該細胞シートにおいて、骨髄単核細胞は間葉系幹細胞でもよい。
該細胞シートにおいて、骨髄単核細胞をシート化するときに、Wnt/β−カテニンシグナル抑制作用のある化合物に曝してもよく、該化合物はIC−2でもよい。
該細胞シートは、線維化抑制効果が高く、各種組織に適用可能である。
該細胞シートは、MMP活性が高く、肝疾患治療用細胞シートとして有用である。
本開示において、該細胞シートを積層してなる線維化治療用積層細胞シートも提供される。
【0007】
また、本開示において、線維化抑制作用のある細胞シートの作製方法も提供される。該方法は、骨髄単核細胞を得る工程、骨髄単核細胞を培養液に懸濁する工程、骨髄単核細胞の懸濁液を温度応答性培養皿に播種し、インキュベートする工程、培養された骨髄単核細胞が、コンフルエントになったことを確認して、温度応答性培養皿を32℃以下の環境下に移動させて、細胞シートを得る工程、得られた細胞シートを浮遊培養する工程を含む。
該方法において、骨髄単核細胞は、接着性骨髄単核細胞でもよく、間葉系幹細胞でもよい。また、該方法の骨髄単核細胞の懸濁液を温度応答性培養皿に播種し、インキュベートする工程において、培養液がWnt/β−カテニンシグナル抑制作用のある化合物を含んでいてもよい。
該方法において、Wnt/β−カテニンシグナル抑制作用のある化合物はIC−2でもよい。
該方法において、得られた細胞シートは、各種組織に適用可能である。
該方法において得られた細胞シートは、肝疾患治療用細胞シートとして有用である。
理論により拘束されることを意図するものではないが、本開示の細胞シートは、シート化した後に単層のコンフルエント状態を維持して、縮小させることにより、細胞膜間のギャップジャンクションが強固になった上に、一定期間浮遊培養することで、細胞シートを構成する細胞間の小分子代謝産物やイオン等を共有させることにより細胞間の活動を強調させているものと考えられる。
ここにおいて、浮遊培養期間における細胞シートの変質・劣化が問題となる。例えば、骨格筋芽細胞からなる虚血性心疾患治療用細胞シートは、調整後15℃から25℃で保存した場合、10時間以内に患者に適用することが求められている。本願発明者らは、骨髄単核細胞から細胞シートを本開示に記載のように作製した場合、作製後少なくとも8時間、あるいは24時間まで、20℃、5%CO環境下で静置させた場合も、高いMMP活性を示す細胞シートを確認している。
【発明の効果】
【0008】
本開示により、細胞シートにおいて線維化抑制効果を高めた細胞シートが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A図1Aの結果は、細胞あたりのMMP−1(図1A)の結果を示したものである。トリプシン処理した細胞懸濁液よりもシート化後浮遊培養を行った細胞シートにてMMP−1が、高い播種密度において高くなっていることが明らかとなった。更に、胞播種密度を高くして本開示の細胞シートを作った場合、細胞あたりのMMP−1の活性が高くなることも明らかとなった。播種密度を高くすることで、細胞あたりのMMP−1活性が高くなったことは驚くべき結果であった。更には、播種密度を4倍にしたところトリプシン処理した細胞懸濁液では4倍程度活性が上昇していたのに対し、本開示の細胞シートでは6倍程度活性が上昇していた。また、細胞播種密度の高い細胞シートは物理的な強度にも優れていた。
図1B】トリプシン処理した細胞懸濁液よりもシート化後浮遊培養を行った細胞シートにてMMP−14が、高い播種密度において高くなっていることが明らかとなった。更に、胞播種密度を高くして本開示の細胞シートを作った場合、細胞あたりのMMP−14の活性が高くなることも明らかとなった。播種密度を高くすることで、細胞あたりのMMP−14活性が高くなったことは驚くべき結果であった。更には、播種密度を4倍にしたところトリプシン処理した細胞懸濁液では4倍程度活性が上昇していたのに対し、本開示の細胞シートでは5倍程度活性が上昇していた。また、細胞播種密度の高い細胞シートは物理的な強度にも優れていた。
図2図2は接着性骨髄単核細胞を用いて、浮遊培養工程を一晩(8時間)行った細胞シートのMMP−1の結果を示す。一晩浮遊培養を行うことで、DMSO処理においてもIC−2処理においてもMMP−1活性が高くなっている。図として示してはいないが、MMP−14においても同様の結果を示した。また、播種密度を高くすることでタンパク質あたりの活性も高くなることも実施例1に引き続き明らかとなった。更に、この傾向はDMSOよりもIC−2で処理した細胞シートにて顕著であった。
図3図3は本開示の方法に従って、骨髄由来間葉系幹細胞から細胞シートを得ることによりMMP−1およびMMP−14活性が高められることを示す図である。Day0はIC−2およびDMSO処理前のサンプルでMMP−1およびMMP−14活性を測定したものである。このとき細胞は、シート状とはなっていない。DMSOおよびIC−2をシート化工程に用いると更にこれらの活性が高められ、DMSOよりもIC−2処理の細胞シートでよりMMP−1およびMMP−14活性が高くなることを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<骨髄単核細胞>
本開示の細胞シートは骨髄単核細胞から作製することができる。骨髄には血管内皮細胞、心筋細胞、平滑筋細胞などに分化可能とされる造血系・間葉系由来の幹細胞が含まれている。
骨髄細胞を特定の条件で培養すると、接着性細胞の間質細胞層が基材に付着し、増殖する。間質細胞層は、線維芽細胞、間葉系幹細胞、脂肪細胞、内皮細胞、およびマクロファージなどの多様な細胞型から構成されている。本開示において、骨髄単核細胞とは、骨髄液から密度勾配遠心分離法により分離した分画中にある細胞群を意味する。骨髄単核細胞を継代培養することにより間質細胞層の細胞を増やして細胞シートを作成することも可能である。
骨髄単核細胞は、ヒトまたは動物骨髄から採取するほか、ロンザジャパン株式会社等から入手可能である。
【0011】
<細胞シート>
本開示の一実施形態は、上記のようにして作製された、骨髄単核細胞からなる細胞シートである。この細胞シートは後述する実施例で説明されるように、線維化抑制活性が高い。
また、本開示の一実施形態は、骨髄単核細胞からなる細胞シートをWnt/β−カテニンシグナル抑制作用を有する化合物で処理してなる細胞シートにも関する。該シートは線維化抑制活性が更に高められていることを特徴とする。
【0012】
この細胞シートは肝表面移植用であってもよいが、拒絶反応のでない限りあらゆる組織の線維化抑制に適用可能である。
【0013】
この細胞シートを移植する場合、1層または複数層を移植してもよい。また、移植する部位は、1か所または複数個所であってもよい。なお、複数は例えば、2、3、4、5、または6であってもよく、それら以上、またはそれらの範囲内であってもよい。
【0014】
本開示における細胞シートは従来技術に比して、線維化抑制効果が高められている。線維化抑制効果は、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)活性が高められていること、ヒドロキシプロリン量、組織学的所見により判断することが可能である。生体組織の線維化の進行については、活性化した線維芽細胞(肝臓では肝星細胞)が線維化部位に集積し、I型コラーゲンを大量に産生することが明らかになっている。開示の細胞シートはこのI型コラーゲンを分解するMMP−1およびMMP−14の活性が高められている。
また、本開示の一態様において、細胞シートは骨髄単核細胞からなる細胞シートである。該シートは拒絶反応の起こらない限り、各種組織における線維化抑制に用いることが可能である。
【0015】
<細胞シートの作製>
培地を含む温度応答性反応皿に骨髄単核細胞を播種する。培地の例としては、bFGFを含むDMEM/20%FBSがある。播種する細胞の数は、例えば、1.3×10 cell/cmである。これらはフラスコの大きさ、培養環境に応じて適宜変更することができ、それらは当業者の知識の範囲内である。培地は4日毎に交換しながら、細胞がコンフルエントになるまで37℃、5%COにて培養する。
本開示において、コンフルエントとは、播種した細胞がシャーレ一面に隙間なく密接して状態を言う。本開示において、コンフルエントのパーセンテージは重要ではないが、目視にてシャーレ表面の70%から90%が細胞で密に覆われた状態をコンフルエントであるとする。なお、直径6 cmのシャーレにて1.3×10cell/cmの細胞を播種し、37℃、5%COにて培養した場合、およそ8日でコンフルエントとなる。培地交換は原則として4日毎に行う。
【0016】
コンフルエントになった培養シャーレを、32℃以下に維持された、5%COインキュベータ内に移すことで細胞をシート化する。「シート化」するとは、37℃、5%COで8日間温度応答性培養皿で培養された細胞シートを32℃以下に維持された、5%COインキュベータ中へ移動させたときに、温度応答性培養皿の細胞接着表面が疎水性から親水性に変化することにより細胞が剥離し、シート状構造の細胞が回収できることを意味する。該細胞シートの下部には細胞外マトリクスなどの接着性タンパク質が維持されているため、回収された細胞シートは組織に生着することができる。
本開示において、「32℃以下に維持された」とは、インキュベータが32℃より高くならないように設定されている事を意味する。シート化する時の温度は播種した細胞により異なり、接着性骨髄単核細胞あるいは間葉系幹細胞をシート化する際には、32℃にすればよいが、Wnt/β−カテニンシグナル抑制作用を有する化合物で処理した場合には、シート化に時間がかかるため、なるべく高温を避ける意味から20℃で行うことが好ましい。
本開示の細胞シートの作製工程において、シート化した細胞は収縮する。例えば直径6 cmの温度応答性培養皿でシート化した細胞シートは1 cm程度の直径となる。縮小することで、患部に適用する細胞数が調整しやすくなる。本開示において、収縮の割合は重要ではなく、本開示の一態様である細胞シートを複数重ねる時に積層を阻害する程度の大きさの違いがなければ問題はない。
【0017】
本開示の一つの態様は、細胞シートにおける細胞あたりのMMP活性を高めるために、播種密度をコントロールすることである。平板培養において、播種細胞数は播種する細胞の増えやすさや、容器などの培養条件により適宜選択される。例えば、間葉系幹細胞を分化させてなる肝細胞シートにおいては、6 cmの培養皿で9.0×10 cells/cmとなるように播種細胞数を選んでいる(特許文献1)。本開示のような再生医療用細胞シートにおいては、精確な単層シートを得ることが重要であり、適宜これらを積層して治療に用いる。適切に立証されている播種細胞数を超えて播種を行うことは、この精確な単層細胞シートを得るとの観点からはリスクが伴うものと考えられてきた。しかしながら、本願発明者らは、播種細胞数を高くした細胞シートにおいて、MMP活性が顕著に高くなることを発見した。
【0018】
本開示の他の態様において、温度応答性培養皿での培養中に、骨髄単核細胞をWnt/β−カテニンシグナル抑制効果のある化合物に曝してもよい。この場合には、播種翌日、所定量のWnt/β−カテニンシグナル抑制効果のある化合物を含む培地(DMEM/10%FBS)で培地交換することにより行う。一例として、後述するようにIC−2であれば、30μMの濃度が好ましい。播種5日目にも同様にWnt/β−カテニンシグナル抑制効果のある化合物を含む培地で培地交換を行った後、播種8日後に、Wnt/β−カテニンシグナル抑制化合物を含まない培地で培地交換を行い、32℃以下に維持された、5%COインキュベータに移動させてシート化する。
【0019】
本開示の他の態様において、骨髄単核細胞は温度応答性培養皿でシート化を行う前に接着性細胞分画として増やすことも可能である。該分画を得る例としては、20 ng/mlのbFGFを含む培地(DMEM/20%FBS)でコンフルエントになるまで平板培養を行った後に、シャーレをPBSで洗浄し、トリプシンにより細胞を培地フラスコにより剥離して回収し、遠心分離により上清を除去して得ることができる。骨髄単核細胞の場合と同様の培地に懸濁し、新しい培養皿に細胞を播種する。播種の後、4日毎に同様の組成の培地にて培地交換を行う。コンフルエントになったら、PBSにて洗浄し、トリプシンにより細胞を培養皿より剥離して回収し、所定の細胞数を温度応答性培養皿に播種して、細胞シートを得る。必要に応じて、温度応答性培養皿にてシート化する前の接着細胞分画は、適宜継代してもよいが、3継代までが本開示においては好適な範囲である。
【0020】
更に、本開示の他の態様において、継代培養された接着性細胞は、温度応答性培養皿にて培養中にWnt/β−カテニンシグナル抑制化合物に曝してもよい。この場合には、播種翌日、所定量のWnt/β−カテニンシグナル抑制効果のある化合物を含む培地(DMEM/10%FBS)で培地交換する。一例として、後述するIC−2であれば、30μMの濃度が好ましい。播種5日目にも同様にWnt/β−カテニンシグナル抑制効果のある化合物を含む培地で培地交換を行った後、播種8日後に、Wnt/β−カテニンシグナル抑制化合物を含まない培地で培地交換を行い、32℃以下に維持された、5%COインキュベータに移動させてシート化する。
【0021】
<Wnt/β−カテニンシグナル抑制化合物>
本開示において、Wnt/β−カテニンシグナル抑制化合物は、特開2011−219435、WO2012/141038A1、WO2015/147107A1、WO2017/047762A1に記載されている化合物を含む。これらの文献に記載の化合物を引用により本願明細書に援用する。
好適な化合物としては、WO2012/141038A1に記載のIC−2およびその誘導体がある。好適な例としては、
式(1)及び式(2)に示す化合物群から選ばれる1種以上の化合物、その塩またはそれらの溶媒和物である。
【化1】
【化2】
(式中、
R1、R2、R4、R5、及びR6は、同一又は互いに異なって、H、ハロゲン、ニトロ、シアノ、OH、置換されていてもよいC1〜C6アルキル、置換されていてもよいC2〜C6アルケニル、置換されていてもよいC1〜C6アルコキシ、アリール、又はヘテロアリール;
R3、及びR7は、H、置換されていてもよいC1〜C6アルキル、置換されていてもよいC2〜C6アルケニル;
環Aは、置換されていてもよいアリール、又は置換されていてもよいヘテロアリール;
m、及びqは、1〜4いずれかの整数;
nは、1〜3いずれかの整数;
p及びrは、1〜5いずれかの整数である。
但し、N−[(5−メチル−2−フリル)メチリデンアミノ]−2−フェノキシ−ベンザミドを除く。)
更なる好適なWnt/β−カテニンシグナル抑制化合物の例としては、式(1)及び式(2)に示す化合物群から選ばれる1種以上の化合物、その塩またはそれらの溶媒和物を含む分化誘導剤が提供される。または、式(8)に示す化合物、その塩もしくはそれらの溶媒和物を含む分化誘導剤が提供される。
【化3】
(式中、
R8、及びR9は、同一又は互いに異なって、置換されていてもよいC1〜C6アルキル、又は置換されていてもよいC2〜C6アルケニルである。)
上記化合物は一例であって、これらの化合物の誘導体であり、Wnt/β−カテニンシグナル抑制効果を有する化合物である限り、本開示にて意図するWnt/β−カテニンシグナル抑制化合物である。化合物がWnt/β−カテニンシグナル抑制効果を有するか否かについては、各種手段により決定することができ、例えば、培養された細胞中のルシフェラーゼ活性を基準とすることができる。
【0022】
<浮遊培養>
本開示において、前述のようにして温度応答性培養皿から回収された細胞シートを、浮遊培養する。浮遊培養を行う時間は縮小した細胞シートにおいてMMP活性が十分高く且つ細胞シートの安定性に問題のない範囲で適宜変更することができる。一例としては、8時間から24時間の間で適宜選択可能である。本開示における浮遊培養とは、回収した細胞シートを、再び容器に接着させずに、培養液中に浮遊した状態で静置することを意味する。該工程に用いる培養液はシート化工程にて用いた培養液が好ましい。浮遊培養に供した細胞シートは、シート化直後の細胞シートと同様に細胞外マトリクスが維持されており、別の細胞シート、基材、あるいは疾患対象組織に生着することが可能である。
本願発明者らは、細胞シート作製時に、得られた細胞シートを浮遊培養させることにより、細胞シートにおいてMMP活性が有意に高くなることを発見し本願発明に至った。本開示にて説明するように、MMP活性が高くなることは骨髄単核細胞から細胞シートを作製した場合と、細胞シート化工程において、Wnt/β−カテニンシグナル抑制作用を有する化合物に曝した場合と同様の傾向にあったが、Wn/β−カテニンシグナル抑制化合物に曝して作製した細胞シートは骨髄単核細胞から作製した細胞シートよりもMMP活性が高かった。
【0023】
<線維化抑制効果の測定>
<MMP活性>
本願発明者らは、IC−2化合物により分化させた肝細胞シートを用いて、慢性肝障害モデルマウスの肝星細胞の活性化を抑制したことを報告している(特許文献1)。このことから、本願発明者らは肝線維化抑制の主要成分となるI型コラーゲンの分解に関わるマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)群に着目し、MMP−1およびMMP−14が慢性および急性の肝疾患の線維化に強く関与していることを発見し、報告している(肝臓フォーラム 2017年3月)。
本開示において、MMP活性は、MMPによる切断で蛍光を生じるFRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer)ペプチドを使用して酵素活性を測定することにより決定することができる。
【0024】
<ヒドロキシプロリンの測定>
凍結肝組織片(細胞シート)をホモジナイザーにより破砕し、破砕液を得る。該破砕液を窒素で一度凍結し、室温で融解した後、超音波細胞破砕装置BioRuptur(コスモバイオ、東京、日本)を用いて超音波処理を行う。この破砕溶液に等量の12N濃塩酸を加えて加水分解処理を行う。残った破砕液は溶液中のタンパク質量の測定に用いる。加水分解処理後、室温にて冷却した後にピペッティングにより加水分解産物を細かく砕き、室温、3000 rpmで5分間の遠心操作を行い、上清を1.5 mLチューブに入れ、冷却エバポレーター(佐久間製作所、東京、日本)にて塩酸を除去する。ヒドロキシプロリンの測定はHydroxyproline quantification kit(BioVision、California、USA)を用いてを実施する。
破砕溶液中のタンパク質量はプロテインアッセイ濃縮色素試薬(Bio−Rad、California、USA)を用いてBradford法により測定する。
【0025】
<組織学的検討>
線維化の抑制効果の組織学的検討はシリウスレッド染色およびアザン染色にて行う。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない
【実施例1】
【0027】
トリプシン処理した細胞懸濁液と細胞シートのMMP活性および播種細胞数による相乗効果
骨髄由来間葉系幹細胞(UE7T−13細胞株)をDMED/10%FBSに懸濁し、温度応答性培養皿ならびに通常細胞培養皿にそれぞれ細胞播種密度が3.6×10cells/cm、5.4×10cells/cm、7.2×10cells/cmとなるよう各々播種した。4日後、温度応答性培養皿を32℃、5%COインキュベータ中に移動させ、シート化を行った。得られた細胞シートはPBSにて3回洗浄後、MMP活性測定用キット(SensoLyte(R) 520 MMP−1 Assay Kit Fluorimetric,(ANASPEC社:Cat#:AS−71150)およびSensoLyte(R) 520 MMP − 14 Assay Kit Fluorimetric(ANASPEC社:Cat#:AS−72025))の緩衝液中でホモジナイズした。通常の細胞培養皿に播種された細胞はそれぞれ、0.025%トリプシン/0.1 mM EDTAにて分散し、遠心にて回収後、PBSにて3回洗浄し、MMP活性測定用の緩衝液にてホモジナイズした。測定したMMP活性の結果を表1および図1A及び図1Bに示す。図1の結果は、細胞あたりのMMP−1(図1A)およびMMP−14(図1B)の結果を示したものである。トリプシン処理した細胞懸濁液よりもシート化後浮遊培養を行った細胞シートにてMMP−1およびMMP−14が、高い播種密度において高くなっていることが明らかとなった。更に、胞播種密度を高くして本開示の細胞シートを作った場合、細胞あたりのMMP−1の活性が高くなることも明らかとなった。播種密度を高くすることで、細胞あたりのMMP−1活性が高くなったことは驚くべき結果であった。更には、播種密度を4倍にしたところトリプシン処理した細胞懸濁液では4倍程度活性が上昇していたのに対し、本開示の細胞シートでは5〜6倍活性が上昇していた。また、細胞播種密度の高い細胞シートは物理的な強度にも優れていた。
【表1】
【実施例2】
【0028】
接着性骨髄単核細胞(ロンザジャパン株式会社)をDMED/20%FBSに懸濁し、温度応答性培養皿にそれぞれ細胞播種密度が1.8×10cells/cm、3.6×10cells/cm、5.4×10cells/cmとなるよう各々播種した。播種翌日、30μMのIC−2を含むDMEM/10% FBSに培地交換した。IC−2化合物の代わりにDMSOを添加した培地を用いた態様も実施した。IC−2およびDMSOを添加して4日後に、再度30μMのIC−2を含む培地もしくはDMSOを含む培地にてそれぞれ培地交換を行い、7日後、温度応答性培養皿を20℃、5%COインキュベータ中に移動させ、シート化を行った。シート化された細胞は、同じ培養液を含むシャーレにて、20℃、5%CO条件下で一晩静置することで浮遊培養を行った。浮遊細胞後の細胞シートはPBSにて3回洗浄後、MMP活性測定用キット(SensoLyte(R) 520 MMP−1 Assay Kit Fluorimetric,(ANASPEC社:Cat#:AS−71150)およびSensoLyte(R) 520 MMP − 14 Assay Kit Fluorimetric(ANASPEC社:Cat#:AS−72025))の緩衝液中でホモジナイズした。それぞれ一定量のタンパク量にそろえ、MMP−1およびMMP−14を測定した。DMSOおよびIC−2処理の細胞シートはいずれも浮遊培養を行った場合MMP−1およびMMP−14にて活性が高くなった(図示さず)。MMP−1の結果を図2に示す。この結果から、播種密度を高くすることでタンパク質あたりの活性も高くなることも明らかとなった。更に、この傾向はDMSOよりもIC−2で処理した細胞シートにて顕著であった。
【実施例3】
【0029】
骨髄由来間葉系幹細胞株(UE7T−13細胞株)をDMED/10%FBSに懸濁し、温度応答性培養皿に細胞播種密度が3.6×10cells/cmとなるよう播種した。播種翌日、15μMのIC−2を含むDMEM/10% FBSに培地交換し、C−2化合物の代わりにDMSOを添加した培地を用いて培地交換も行った。播種4日後、再度15μMのIC−2を含む培地もしくはDMSOを含む培地にてそれぞれ培地交換を行い、8日後、温度応答性培養皿を20℃、5%COインキュベータ中に移動させ、シート化を行った。得られた細胞シートはPBSにて3回洗浄後、MMP活性測定用キット(SensoLyte(R) 520 MMP−1 Assay Kit Fluorimetric,(ANASPEC社:Cat#:AS−71150)およびSensoLyte(R) 520 MMP−14 Assay Kit Fluorimetric(ANASPEC社:Cat#:AS−72025))の緩衝液中でホモジナイズし、MMP−1およびMMP−14活性を測定した。Day0としてIC−2およびDMSO処理前の細胞のMMP−1およびMMP−14活性を測定した。なお、Day0では細胞はシート状になってはいなかった。それぞれ一定量のタンパク量にそろえ、測定したMMP活性の結果を図3に示す。
図3より、細胞がシート化されることにより細胞中のMMP−1およびMMP−14活性が数倍高められ、さらにDMSOよりもIC−2化合物がこれらの活性を更に高めることが明らかとなった。

図1A
図1B
図2
図3
【国際調査報告】