(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2020年5月28日
【発行日】2021年10月14日
(54)【発明の名称】単結晶X線構造解析装置および試料ホルダ
(51)【国際特許分類】
G01N 23/20016 20180101AFI20210917BHJP
G01N 23/207 20180101ALI20210917BHJP
G01N 23/205 20180101ALI20210917BHJP
G01N 23/20025 20180101ALI20210917BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20210917BHJP
【FI】
G01N23/20016
G01N23/207
G01N23/205
G01N23/20025
G01N1/28 W
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】25
【出願番号】特願2020-557648(P2020-557648)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2019年11月21日
(31)【優先権主張番号】特願2018-219810(P2018-219810)
(32)【優先日】2018年11月23日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孝
【テーマコード(参考)】
2G001
2G052
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA18
2G001CA01
2G001DA09
2G001KA08
2G001QA02
2G001QA03
2G001RA10
2G001SA07
2G052AD52
2G052CA04
2G052CA39
2G052GA19
(57)【要約】
単結晶を吸蔵させた細孔性錯体結晶を保持した試料ホルダを、比較的容易に、かつ、再現性良く確実にゴニオメータヘッドに装着することを可能にする。物質の構造解析を行う単結晶X線構造解析装置であって、X線を発生するX線源と、試料を吸蔵した細孔性錯体結晶を保持した試料ホルダ310を装着するゴニオメータヘッド514を備えたゴニオメータと、前記ゴニオメータヘッド514で位置が調整された前記細孔性錯体結晶にX線を照射するX線照射部と、前記試料により回折又は散乱したX線を検出して測定するX線検出測定部と、前記X線検出測定部に検出された回折又は散乱X線に基づいて前記試料の構造解析を行う構造解析部と、を備え、前記ゴニオメータヘッド514の前記試料ホルダ310を装着する面には、前記試料ホルダ310を装着する位置を決める位置決め部が形成されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物質の構造解析を行う単結晶X線構造解析装置であって、
X線を発生するX線源と、
試料を吸蔵した細孔性錯体結晶を保持した試料ホルダを装着するゴニオメータヘッドを備えたゴニオメータと、
前記ゴニオメータヘッドで位置が調整された前記細孔性錯体結晶にX線を照射するX線照射部と、
前記試料により回折又は散乱したX線を検出して測定するX線検出測定部と、
前記X線検出測定部に検出された回折又は散乱X線に基づいて前記試料の構造解析を行う構造解析部と、を備え、
前記ゴニオメータヘッドの前記試料ホルダを装着する面には、前記試料ホルダを装着する位置を決める位置決め部が形成されていることを特徴とする単結晶X線構造解析装置。
【請求項2】
請求項1記載の単結晶X線構造解析装置であって、
前記位置決め部は、前記試料ホルダと嵌合する嵌合構造を有していることを特徴とする単結晶X線構造解析装置。
【請求項3】
請求項2記載の単結晶X線構造解析装置であって、
前記嵌合構造は、前記ゴニオメータヘッドの先端部に形成されていることを特徴とする単結晶X線構造解析装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の単結晶X線構造解析装置であって、
前記試料ホルダは、前記ゴニオメータヘッドに装着される面にテーパ部が形成された貫通孔を有し、
前記嵌合構造は、前記テーパ部の内部に収まる大きさであることを特徴とする単結晶X線構造解析装置。
【請求項5】
請求項2〜4の何れか1項に記載の単結晶X線構造解析装置であって、
前記嵌合構造は、半球状または頂部が丸まった円錐形状をしていることを特徴とする単結晶X線構造解析装置。
【請求項6】
請求項2〜5の何れか1項に記載の単結晶X線構造解析装置であって、
前記嵌合構造は、前記ゴニオメータヘッドの前記試料ホルダを装着する部分で複数の位置に形成されていることを特徴とする単結晶X線構造解析装置。
【請求項7】
単結晶X線構造解析装置において使用する試料ホルダであって、
前記単結晶X線構造解析装置のゴニオメータのゴニオメータヘッドに装着される基台部と、
前記基台部に形成され、内部に形成された複数の微細孔に試料を吸蔵可能な細孔性錯体結晶を保持する保持部と、を備え、
前記基台部は、前記ゴニオメータヘッドと嵌合する嵌合構造が形成されることを特徴とする試料ホルダ。
【請求項8】
請求項7記載の試料ホルダであって、
前記嵌合構造は、テーパ部を有し、
前記基台部は、前記試料を前記細孔性錯体結晶に導入するための試料導入構造が形成され、
前記テーパ部は、前記試料導入構造のゴニオメータヘッドに装着される側に形成されることを特徴とする試料ホルダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶X線構造解析装置に係り、特に、試料を吸蔵した試料ホルダを装着して単結晶X線構造解析装置で解析するに適した単結晶X線結晶構造解析装置および試料ホルダに関する。
【背景技術】
【0002】
新たなデバイスや材料の研究開発では、日常的に材料の合成、材料の評価、それに基づいた次の研究方針の決定が行なわれている。短期間に材料開発を行うためのX線回折を用いた物質の構造解析では、目的の材料の機能・物性を実現する物質構造を効率良く探索するために、構造解析を効率的に行うことを可能とする物質の構造解析を中心とした物質構造の探索方法とそれに用いるX線構造解析は必要不可欠である。
【0003】
しかし、当該手法で得られた結果に基づいて構造解析を行うことは、X線の専門家でなければ難しかった。そのため、X線の専門家でなくても構造解析を行うことができるX線構造解析システムが求められていた。その中でも、特に、以下の特許文献1にも知られるように、単結晶X線構造解析は、正確で精度の高い分子の立体構造を得ることができる手法として注目されている。
【0004】
他方、この単結晶X線構造解析には、試料を結晶化して単結晶を用意しなければならないという大きな制約があった。しかしながら、以下の非特許文献1や2にも知られるように、「結晶スポンジ」と呼ばれる材料(例えば、直径0.5nmから1nmの細孔が無数に開いた細孔性錯体結晶)の開発によって、結晶化しない液体状化合物や結晶化を行うに足る量を確保できない試料なども含め、単結晶X線構造解析を広く適用することが可能となっている。
【0005】
単結晶X線構造解析の分野において、単結晶サンプルを単結晶X線構造解析装置で解析して単結晶の結晶構造を求める場合、分析対象の単結晶サンプルを作成することが難しく、さらに、この分析対象の単結晶サンプルを単結晶X線構造解析装置で解析して得られたデータから単結晶の結晶構造を求めるには経験と勘などの熟練度が必要になり、ごく限られた人しか操作することができなかった。
【0006】
一方、近年、単結晶X線構造解析装置の技術開発が進み、単結晶サンプルさえ手に入れられれば、結晶構造解析技術に熟練していない人でも単結晶サンプルを単結晶X線構造解析装置で解析できて、単結晶サンプルの結晶構造を比較的容易に求めることができるようになってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4,792,219号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Makoto Fujita; X-ray analysis on the nanogram to microgram scale using porous complexes; Nature 495, 461-466; 28 March 2013
【非特許文献2】レビュー「結晶スポンジ法〜結晶化のいらない単結晶X線構造解析法」、リガクジャーナル48(2)2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来技術では、非特許文献1に記載されているように、微細な孔が多数形成されている極微小で脆弱(fragile)な結晶スポンジを形成して、この結晶スポンジの微細な孔の内部に試料を吸蔵し、これを単結晶X線構造解析装置で解析することにより、単結晶の結晶構造を比較的容易に求めることができる。
【0010】
この結晶スポンジを用いて単結晶X線構造解析装置で解析するには、結晶スポンジの微細な孔の内部に吸蔵させて形成した単結晶化した試料を、単結晶X線構造解析装置で分析するために使用される試料用ホルダの一部(ゴニオヘッドピンの先端)に確実に装着させることが必要になる。更に、この単結晶化した試料を吸蔵した極微小で脆弱(fragile)な結晶スポンジを保持している試料用ホルダを単結晶X線構造解析装置に比較的容易に、かつ、確実に装着できることが必要になる。
【0011】
非特許文献1には、結晶スポンジの微細な孔の内部に吸蔵させて形成した単結晶を、単結晶X線構造解析装置で分析するための試料用ホルダで保持すること、および、この単結晶を吸蔵した結晶スポンジを保持している試料用ホルダを単結晶X線構造解析装置に比較的容易に、かつ、確実に装着できるような構成については開示されていない。
【0012】
本発明は、上記した従来技術の課題を解決して、単結晶X線構造解析装置用の吸蔵装置で試料を吸蔵させた極微小で脆弱(fragile)な結晶スポンジを付着させた試料ホルダを、比較的容易に、かつ、再現性良く確実にゴニオメータヘッドに装着することを可能にする単結晶X線構造解析装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の単結晶X線構造解析装置は、物質の構造解析を行う単結晶X線構造解析装置であって、X線を発生するX線源と、試料を吸蔵した細孔性錯体結晶を保持した試料ホルダを装着するゴニオメータヘッドを備えたゴニオメータと、前記ゴニオメータヘッドで位置が調整された前記細孔性錯体結晶にX線を照射するX線照射部と、前記試料により回折又は散乱したX線を検出して測定するX線検出測定部と、前記X線検出測定部に検出された回折又は散乱X線に基づいて前記試料の構造解析を行う構造解析部と、を備え、前記ゴニオメータヘッドの前記試料ホルダを装着する面には、前記試料ホルダを装着する位置を決める位置決め部が形成されていることを特徴としている。
【0014】
(2)また、本発明の単結晶X線構造解析装置において、前記位置決め部は、前記試料ホルダと嵌合する嵌合構造を有していることを特徴としている。
【0015】
(3)また、本発明の単結晶X線構造解析装置において、前記嵌合構造は、前記ゴニオメータヘッドの先端部に形成されていることを特徴としている。
【0016】
(4)また、本発明の単結晶X線構造解析装置において、前記試料ホルダは、前記ゴニオメータヘッドに装着される面にテーパ部が形成された貫通孔を有し、前記嵌合構造は、前記テーパ部の内部に収まる大きさであることを特徴としている。
【0017】
(5)また、本発明の単結晶X線構造解析装置において、前記嵌合構造は、半球状または頂部が丸まった円錐形状をしていることを特徴としている。
【0018】
(6)また、本発明の単結晶X線構造解析装置において、前記嵌合構造は、前記ゴニオメータヘッドの前記試料ホルダを装着する部分で複数の位置に形成されていることを特徴としている。
【0019】
(7)また、本発明の試料ホルダは、単結晶X線構造解析装置において使用する試料ホルダであって、前記単結晶X線構造解析装置のゴニオメータのゴニオメータヘッドに装着される基台部と、前記基台部に形成され、内部に形成された複数の微細孔に試料を吸蔵可能な細孔性錯体結晶を保持する保持部と、を備え、前記基台部は、前記ゴニオメータヘッドと嵌合する嵌合構造が形成されることを特徴としている。
【0020】
(8)また、本発明の試料ホルダにおいて、前記嵌合構造は、テーパ部を有し、前記基台部は、前記試料を前記細孔性錯体結晶に導入するための試料導入構造が形成され、前記テーパ部は、前記試料導入構造のゴニオメータヘッドに装着される側に形成されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0021】
本発明の単結晶X線構造解析装置によれば、試料を吸蔵した極微小で脆弱(fragile)な結晶スポンジである細孔性錯体結晶を保持している試料ホルダを、単結晶X線構造解析装置に比較的容易に、かつ、確実に装着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の第一の実施例に係る単結晶X線構造解析装置を含んだ単結晶X線構造解析システム全体の概略の構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の第一の実施例に係る単結晶X線構造解析装置の外観構成を示す斜視図である。
【
図3】本発明の単結晶X線構造解析装置の測定部の構成を示す斜視図である。
【
図4】(a)は、本発明の単結晶X線構造解析装置の電気的な内部構成の詳細の一例を示すブロック図、(b)は、本発明の単結晶X線構造解析装置の電気的な内部構成のデータファイルの構成の一例を示すブロック図である。
【
図5】本発明の単結晶X線構造解析装置で観察するXRDSパターンのイメージを示す正面図である。
【
図6】(a)は、本発明の単結晶X線構造解析装置の測定用アプリケーションソフトの実行画面の正面図、(b)は、本発明の単結晶X線構造解析装置の測定用アプリケーションソフトの別の実行画面の正面図である。
【
図7】本発明の単結晶X線構造解析装置の構造解析プログラムを用いて作成した分子モデルを表示した画面の正面図である。
【
図8】本発明の第一の実施例に係る吸蔵装置の構成を示すブロック図である。
【
図9】上記吸蔵装置における供給側のセンサの出力波形の一例を示すグラフである。
【
図10】上記吸蔵装置における排出側のセンサの出力波形の一例を示すグラフである。
【
図11】上記吸蔵装置において試料の吸蔵が行われる試料ホルダの断面図である。
【
図12】上記試料ホルダを収納するアプリケータの断面図である。
【
図13】上記試料ホルダをアプリケータに収納した状態を示す断面図である。
【
図14】上記試料ホルダを取り付ける単結晶X線構造解析装置のゴニオメータヘッドの斜視図である。
【
図15】単結晶X線構造解析装置のゴニオメータヘッドに上記試料ホルダを装着した状態を示す一部断面を含む正面図である。
【
図16】本発明の第二の実施例に係る吸蔵装置の試料ホルダの断面図である。
【
図17】上記第二の実施例に係る試料ホルダが取り付けられる単結晶X線構造解析装置のゴニオメータヘッドの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、単結晶X線構造解析装置に関するもので、単結晶X線構造解析装置のゴニオメータヘッドに、試料ホルダに形成された複数の凹部に合わせた微小な突起部を複数形成して、ゴニオメータヘッドのこの微小な突起部に試料ホルダに形成された凹部を重ね合わせることにより、吸蔵装置で試料を吸蔵した極微小で脆弱(fragile)な結晶スポンジである細孔性錯体結晶を保持している試料ホルダを、比較的容易に、かつ、再現性良く確実にゴニオメータヘッドに装着することを可能にしたものである。
【0024】
本発明の一実施の形態になる試料を吸蔵した細孔性錯体結晶を保持している試料ホルダを利用した単結晶X線構造解析装置を備えた単結晶X線構造解析システムについて、図面を参照しながら、詳細に説明する。なお、本出願において「AまたはB」の表現は、「AおよびBの少なくとも一方」を意味し、AおよびBがありえないという特段の事情がない限り「AおよびB」を含む。
【0025】
図1に、本実施例に係る単結晶X線構造解析装置を備えた単結晶X線構造解析システム100全体の概略構成を示す。本実施例に係る単結晶X線構造解析システム100は、気体や液体などの試料の中から分析対象の試料を抽出するクロマトグラフィ装置200、クロマトグラフィ装置200で抽出した試料から単結晶X線構造解析用の試料を作成する単結晶X線構造解析装置用吸蔵装置300(以下、単に吸蔵装置300とも記す)、吸蔵装置300で作成した単結晶X線構造解析用の試料を収納するサンプルトレイ410、サンプルトレイ410に収納された試料を、X線を用いて分析する単結晶X線構造解析装置500を備えて構成されている。
【0026】
なお、サンプルトレイ410を用いずに、試料を単品で吸蔵装置300から単結晶X線構造解析装置500へ移動させるようにしてもよい。
【0027】
添付の
図2には、本発明の一実施の形態になる、単結晶X線回折装置を含む単結晶X線構造解析装置の全体外観構成が示されており、図からも明らかなように、単結晶X線構造解析装置500は、冷却装置やX線発生電源部を格納した基台504と、その基台504の上に載置された防X線カバー506とを有する。
【0028】
防X線カバー506は、単結晶X線回折装置509を包囲するケーシング507及びそのケーシング507の前面に設けられた扉等を有する。ケーシング507の前面に設けられた扉は開くことができ、この開いた状態で内部の単結晶X線回折装置509に対して種々の操作を行うことができる。なお、図に示す本実施形態は、後にも述べる結晶スポンジを利用して物質の構造解析を行う単結晶X線回折装置509を含んだ単結晶X線構造解析装置500である。
【0029】
単結晶X線回折装置509は、
図3にも示すように、X線管511及びゴニオメータ512を有する。X線管511は、ここでは図示しないが、フィラメントと、フィラメントに対向して配置されたターゲット(「対陰極」とも言う)と、それらを気密に格納するケーシングとを有し、このフィラメントは、
図2の基台504に格納されたX線発生電源部によって通電されて発熱して熱電子を放出する。
【0030】
また、フィラメントとターゲットとの間にはX線発生電源部によって高電圧が印加され、フィラメントから放出された熱電子が高電圧によって加速されてターゲットに衝突する。この衝突領域がX線焦点を形成し、このX線焦点からX線が発生して発散する。より詳細には、このX線管511は、ここでは図示しないが、マイクロフォーカス管と多層膜集光ミラー等の光学素子を含んで構成されており、より高い輝度のビームを照射することが可能であり、また、Cu、MoやAgなどの線源から選択可能となっている。上記に例示するように、フィラメントと、フィラメントに対向して配置されたターゲットと、それらを気密に格納するケーシングが、X線源として機能し、マイクロフォーカス管と多層膜集光ミラー等の光学素子を含むX線照射のための構成がX線照射部として機能する。
【0031】
また、ゴニオメータ512は、解析すべき試料Sを支持すると共に、試料SのX線入射点を通る試料軸線ωを中心として回転可能とするθ回転台516と、θ回転台のまわりに配置されて試料軸線ωを中心として回転可能な2θ回転台517とを有する。ゴニオメータ512には、試料Sを搭載するゴニオメータヘッド514を備えている。なお、試料Sは、本実施形態の場合、後にも詳述する試料ホルダ513の一部に予め取り付けられた結晶スポンジの内部に吸蔵されている。
【0032】
ゴニオメータ512の基台518の内部には、上述したθ回転台516及び2θ回転台517を駆動するための駆動装置(図示せず)が格納されており、これらの駆動装置によって駆動されてθ回転台516は所定の角速度で間欠的又は連続的に回転し、いわゆるθ回転する。また、これらの駆動装置によって駆動されて2θ回転台517は間欠的又は連続的に回転し、いわゆる2θ回転する。上記の駆動装置は任意の構造によって構成できるが、例えば、ウォームとウォームホイールとを含んで構成される動力伝達構造によって構成できる。
【0033】
ゴニオメータ512の外周の一部にはX線検出器522が載置されており、このX線検出器522は、例えば、CCD型やCMOS型の2次元ピクセル検出器、ハイブリッド型ピクセル検出器などによって構成される。なお、X線検出測定部は、試料により回折又は散乱されたX線を検出して測定する構成を指し、X線検出器22およびこれを制御する制御部を含む。
【0034】
単結晶X線回折装置509は、以上のように構成されているので、試料Sは、ゴニオメータ512のθ回転台516のθ回転によって試料軸線ωを中心としてθ回転する。この試料Sがθ回転する間、X線管511内のX線焦点から発生して試料Sへ向けられるX線は所定の角度で試料Sに入射して回折・発散する。即ち、試料Sへ入射するX線の入射角度は試料Sのθ回転に応じて変化する。
【0035】
試料Sに入射するX線の入射角度と結晶格子面との間でブラッグの回折条件が満足されると、その試料Sから回折X線が発生する。この回折X線はX線検出器522に受光されてそのX線強度が測定される。以上により、入射X線に対するX線検出器522の角度、すなわち回折角度に対応する回折X線の強度が測定され、この測定結果から試料Sに関する結晶構造等が解析される。
【0036】
続いて、
図4(a)は、上記単結晶X線構造解析装置500における制御部550を構成する電気的な内部構成の詳細の一例を示す。なお、本発明が以下に述べる実施形態に限定されるものでないことは、もちろんである。
【0037】
この単結晶X線構造解析装置500は、上述した内部構成を含んでおり、更に、適宜の物質を試料として測定を行う測定装置562と、キーボード、マウス等によって構成される入力装置563と、表示手段としての画像表示装置564と、解析結果を印刷して出力するための手段としてのプリンタ566と、CPU(Central Processing Unit)557と、RAM(Random Access Memory)558と、ROM(Read Only Memory)559と、外部記憶媒体としてのハードディスクなどを有する。これらの要素はバス552によって相互につながれている。
【0038】
画像表示装置564は、CRTディスプレイ、液晶ディスプレイ等といった画像表示機器によって構成されており、画像制御回路553によって生成される画像信号に従って画面上に画像を表示する。画像制御回路553はこれに入力される画像データに基づいて画像信号を生成する。画像制御回路553に入力される画像データは、CPU557、RAM558、ROM559及びハードディスクを備えた解析部551を含んで構成されるコンピュータによって実現される各種の演算手段の働きによって形成される。
【0039】
プリンタ566は、インクプロッタ、ドットプリンタ、インクジェットプリンタ、静電転写プリンタ、その他任意の構造の印刷用機器を用いることができる。なお、解析部551は、ハードディスクのほかに、光磁気ディスク、半導体メモリ、その他、任意の構造の記憶媒体によって構成することもできる。
【0040】
ハードディスクを備えて単結晶の構造解析処理を行う解析部551の内部には、単結晶X線構造解析装置500の全般的な動作を司る分析用アプリケーションソフト5511と、測定装置562を用いた測定処理の動作を司る測定用アプリケーションソフト5512と、画像表示装置564を用いた表示処理の動作を司る表示用アプリケーションソフト5513とが格納されている。これらのアプリケーションソフトは、必要に応じて解析部551のハードディスクから読み出されてRAM558へ転送された後に所定の機能を実現する。
【0041】
この単結晶X線構造解析装置500は、更に、上記測定装置562によって得られた測定データを含めた各種の測定結果を記憶するための、例えば、クラウド領域に置かれたデータベースも含んでいる。図の例では、後にも説明するが、上記の測定装置562によって得られたXRDSイメージデータを格納するXRDS情報データベース571、顕微鏡により得られた実測イメージを格納する顕微鏡イメージデータベース572、更には、例えば、XRFやラマン光線等、X線以外の分析により得られた測定結果や、物性情報を格納するその他分析データベース573が示されている。なお、これらのデータベースは、必ずしも、単結晶X線構造解析装置500の内部に搭載される必要はなく、例えば、外部に設けられてネットワーク580等を介して相互に通信可能に接続されてもよい。
【0042】
データファイル内に複数の測定データを記憶するためのファイル管理方法としては、個々の測定データを個別のファイル内に格納する方法も考えられるが、本実施形態では、
図4(b)に示すように、複数の測定データを1つのデータファイル内に連続して格納することとしている。なお、
図4(b)において「条件」と記載された記憶領域は、測定データが得られたときの装置情報および測定条件を含む各種の情報を記憶するための領域である。
【0043】
このような測定条件としては、(1)測定対象物質名、(2)測定装置の種類、(3)測定温度範囲、(4)測定開始時刻、(5)測定終了時刻、(6)測定角度範囲、(7)走査移動系の移動速度、(8)走査条件、(9)試料に入射するX線の種類、(10)試料高温装置等といったアタッチメントを使ったか否か、その他、各種の条件が考えられる。
【0044】
XRDS(X-ray Diffraction and Scattering)パターン又はイメージ(
図5を参照)は、上記測定装置562を構成するX線検出器522の2次元空間である平面上で受け取られたX線を、当該検出器を構成する平面状に配列された画素毎(例えば、CCD等)に受光/蓄積して、その強度を測定することにより得られるものである。例えば、X線検出器522の各画素毎に、積分によって受光したX線の強度を検出することによれば、rとθの2次元空間上のパターン又はイメージが得られる。
【0045】
<測定用アプリケーションソフト>
照射されるX線に対する対象材料によるX線の回折や散乱によって得られる観測空間上のXRDSパターン又はイメージは、対象材料の実空間における電子密度分布の情報を反映している。しかしながら、XRDSパターンは、rとθの2次元空間であり、3次元空間である対象材料の実空間における対称性を直接的に表現するものではない。そのため、一般的に、現存のXRDSイメージだけでは、材料を構成する原子や分子の(空間)配列を特定することは困難であり、X線構造解析の専門知識を必要とする。そのため、本実施例では、上述した測定用アプリケーションソフトを採用して自動化を図っている。このようにして、単結晶X線構造解析装置500は、X線検出測定部により、測定装置562を用いた測定処理の動作を制御するとともに、試料により回折又は散乱されたX線を検出することで得られた測定データを含めた各種の測定結果を受け取り、管理する。また、構造解析部により、試料により回折又は散乱されたX線を検出することで得られた測定データを含めた各種の測定結果に基づいて試料の構造解析を行なう。
【0046】
その一例として、
図6(a)及び(b)にその実行画面を示すように、単結晶構造解析のためのプラットフォームである「CrysAlis
Pro」と呼ばれるX線回折データ測定・処理ソフトウェアを搭載し、予備測定、測定条件の設定、本測定、データ処理などを実行する。更には、「AutoChem」と呼ばれる自動構造解析プラグインを搭載することにより、X線回折データ収集と並行して、構造解析および構造の精密化を実行する。そして、
図7にも示す「Olex
2」と呼ばれる構造解析プログラムにより、空間群決定から位相決定、分子モデルの構築と修正、構造の精密化、最終レポート、CIFファイルの作成を行う。
【0047】
以上、単結晶X線構造解析装置500の全体構造やその機能について述べたが、以下には、特に、本発明に係る結晶スポンジと、それに関連する装置や器具について、添付の図面を参照しながら詳細に述べる。
【0048】
<結晶スポンジ>
上述したように、内部に直径0.5nmから1nmの細孔が無数に開いた、寸法が数10μm〜数100μm程度の極微小で脆弱(fragile)な細孔性錯体結晶である「結晶スポンジ」と呼ばれる材料の開発によって、単結晶X線構造解析は、結晶化しない液体状化合物や、或いは、結晶化を行うに足る量が確保できない数ng〜数μgの極微量の試料なども含め、広く適用することが可能となっている。
【0049】
しかしながら、現状においては、上述した結晶スポンジの骨格内への試料の結晶化である吸蔵(post-crystallization)を行うためには、各種の前処理(分離)装置によって分離された数ng〜数μg程度の極微量の試料を、既に述べたように、容器内において、シクロヘキサン等の保存溶媒(キャリア)に含浸して提供される外径100μm程度の極微小で脆弱(fragile)な結晶スポンジの骨格内に吸蔵させる工程が必要となる。保存溶媒(キャリア)には、液体と、気体(ガス)と、その中間にあたる超臨界流体が含まれる。更には、その後、この試料を吸蔵した極微小で脆弱(fragile)な取り扱い難い結晶スポンジを、迅速に(結晶スポンジが乾燥により破壊されない程度の短い時間で)、容器から取り出し、回折装置内のX線照射位置に、より具体的には、ゴニオメータ512の試料軸(所謂、ゴニオヘッドピン)の先端部に、センタリングを行いながら正確に搭載する工程を必要とする。
【0050】
これらの工程は、X線構造解析の専門知識の有無に関わらず、作業者に非常に緻密な作業を要求する繊細で、かつ、迅速性をも要求される作業であり、結晶スポンジに吸蔵した後の試料の測定結果に多大な影響を及ぼすこととなる。即ち、これらの作業が極微小な結晶スポンジを利用した単結晶X線構造解析を歩留まりの悪いものとしており、このことが、結晶スポンジを利用した単結晶X線構造解析が広く利用されることから阻害されることの一因ともなっている。
【0051】
本発明は、上述したような発明者の知見に基づいて達成されたものであり、極微小で脆弱(fragile)な結晶スポンジによる単結晶X線構造解析を、以下に述べる結晶スポンジ用試料ホルダ(単に、試料ホルダともいう)を用いることにより、確実にかつ容易に行うことを可能とするものであり、換言すれば、歩留まり良くかつ効率的で、汎用性に優れ、かつ、ユーザーフレンドリな単結晶X線構造解析装置を実現するものである。
【0052】
即ち、本発明に係る次世代の単結晶X線構造解析装置では、極微量な試料Sを吸蔵した極微小で脆弱(fragile)な結晶スポンジを用意すると共に、更には、当該試料S(結晶スポンジ)を吸蔵容器から取り出して、ゴニオータの先端部の所定位置に、正確かつ迅速に取り付けなければならないという、大きな制約があるが、特に、汎用性に優れたユーザーフレンドリな装置を実現するためには、かかる作業を、高度な専門知識や作業の精密(緻密)性を必要とせずに、迅速かつ容易に実行可能なものとする必要がある。
【0053】
本発明は、かかる課題を解消し、即ち、極微小で脆弱(fragile)な取り扱い難い結晶スポンジを使用しながらも、誰でも、迅速かつ確実かつ容易に、歩留まり良く効率的で、ユーザーフレンドリに行うことが可能で、かつ、汎用性にも優れた単結晶X線構造解析を行うための装置や方法、更には、そのための器具である試料ホルダを提供するものであり、以下に詳述する。
【実施例1】
【0054】
図1に示した本発明の第一の実施例に係る単結晶X線構造解析装置500を備えた単結晶X線構造解析システム100の構成における、結晶スポンジに分析対象試料を吸蔵させる吸蔵装置300の構成を、
図8乃至
図14を用いて説明する。
【0055】
図8は、本発明の第1の実施例に係る単結晶X線構造解析装置500用の吸蔵装置300の構成を示すブロック図である。本実施例に係る吸蔵装置300は、供給側配管301、供給側第1アクチュエータ302、供給側分析部303、供給側第2アクチュエータ304、供給側配管305、注入針(注入パイプ)306、試料ホルダ310(
図3の試料ホルダ513に相当)を装着したアプリケータ311、温度調節器(調温器)320、排出針(排出パイプ)331、排出管332、排出側第1アクチュエータ333、排出側分析部334、排出側第2アクチュエータ335、排出側配管336、制御部340および読取部350を備えている。
【0056】
吸蔵装置300は、分離装置(例えばガスクロマトグラフィ又は液体クロマトグラフィなど)200から供給された分析対象の試料(気体、液体または超臨界流体など)を含む担体又は溶媒(以下、これらを含めて試料と記す)が供給側配管301を通して供給され、供給側第1アクチュエータ302で試料の流量や圧力などが調整される。
【0057】
次に、分析対象試料は、供給側分析部303に送られ、そこで、圧力、濃度、温度が調整された試料の成分が分析される。
図9にその分析した結果の一例を示す。
図9のグラフでは、分離装置200から送られてきた試料が、ある特定の成分での信号強度にピーク901を持っていることを示している。
【0058】
供給側分析部303で分析された試料は、供給側配管305から、先端部分がアプリケータ311に装着された試料ホルダ310の内部に差し込まれている注入針306に送られ、注入針306の先端部分からアプリケータ311の内部の試料ホルダ310に供給される。注入針306は、図示していない駆動手段で駆動されて、アプリケータ311の内部に装着された試料ホルダ310の内部へ差し込まれる。
【0059】
この状態で、温度調節器320は、制御部340で制御されて、試料ホルダ310を含むアプリケータ311が所望の温度になるように、アプリケータ311を加熱または冷却する。
【0060】
温度調節器320により温度がコントロールされたアプリケータ311内に装着された試料ホルダ310の内部に注入針306から試料が注入された状態で所定の時間が経過した後、排出側第1アクチュエータ333が作動して、先端部分がアプリケータ311に装着された試料ホルダ310の内部に差し込まれた排出針331から、排出管332を介してアプリケータ311の内部に供給された試料のうち過剰な試料が排出される。すなわち、過剰な試料とは、排出針331の長さに応じて排出される試料を指す。排出針331は、図示していない駆動手段で駆動されて試料ホルダ310の内部へ差し込まれる。
【0061】
このように試料は、供給側配管から供給側の注入針306に送られ、供給側の注入針306の先端部分からアプリケータ311の内部の試料ホルダ310に供給される。試料のみ、または試料と保存溶媒(キャリア)とが混合された溶液が、供給側の注入針306内を流れ供給される。このことにより、導入された当該極微量の試料Sは、アプリケータ300の収納空間301内において、試料ホルダ310のピン状の保持部の先端に取り付けた結晶スポンジに接触して試料の吸蔵が行われる。なお、ここでの電気泳動装置は、キャピラリー電気泳動や等電点電気泳動等、種々の電気泳動装置を含む。吸蔵装置300を用いる場合、試料が注入された状態で所定の時間が経過した後、排出側の排出針331から過剰な試料、または試料と保存溶媒(キャリア)とが混合された溶液が排出される。吸蔵装置300を用いない場合、不要な保存溶媒(キャリア)または溶液が排出側の排出針331内を流れ排出される。したがって、排出側の排出針331には、試料が流れない場合がありうる。なお、気体や超臨界流体をキャリアとした場合には、試料を含んだキャリアが排出される。
【0062】
排出側第1アクチュエータ333によりアプリケータ311の内部から排出された試料は、排出側分析部334で成分が分析される。
図10に、その分析した結果の一例を示す。排出側分析部334で成分が分析されたアプリケータ311の内部から排出された試料は、排出側第2アクチュエータ335で圧力、流量、又は濃度が調整されて、排出側配管336から質量分析装置600へ送られて、その質量成分が分析される。
【0063】
ここで、排出側分析部334で分析して得られた
図10のグラフを、供給側分析部303で分析して得られた
図9のグラフと比較すると、
図9で強度のピーク901を示していた成分の信号に対応する
図10のグラフにおける成分のピーク1001のレベルが低下していることがわかる。これは、
図9でピークを示した成分の一部が、アプリケータ311の内部で消費されたことを示している。
【0064】
この
図9に示したようなデータと
図10に示したようなデータとを制御部340で比較して、両者のピーク値の差又は比率が予め設定した値になった時点で、アプリケータ311の内部に装着された試料ホルダ310の先端部分に取り付けた結晶スポンジに、分析対象の試料が吸蔵されたと判定し、一連の操作を終了する。
【0065】
図11には、試料ホルダ310を正面から見た断面図を示す。試料ホルダ310は、取り扱う作業者が把持する根元部分3101の一方の端部に平坦な面3102が形成されている。この平坦な面3102の先端には、外径が根元部分3101よりも細い胴体部3103が形成されており、胴体部3103の先端にはテーパ状に加工された案内面310Dが形成され、その先端部に細いピン3104が形成されている。
【0066】
根元部分3101の他方の端面である図の上面310Aには、当該試料ホルダを単結晶X線構造解析装置500のゴニオメータヘッド514に装着するための位置決め部材である凹部3105が形成されている。また、試料ホルダ310には、根元部分3101から胴体部3103にかけて貫通する注入針用孔3106と排出針用孔3107が形成されている。注入針用孔3106と排出針用孔3107には、それぞれその凹部3105側の端面に、テーパ状に加工されたテーパ部310Bと310Cが形成されている。テーパ部310Bと310Cとは、注入針306および排出針331を挿入するときのガイド面となる。
【0067】
試料ホルダ310の全体、または、その一部である根元部分3101の凹部3105は、ゴニオメータヘッド514の先端部分の磁性体と磁気的に結合させるため、磁性体で形成されている。
【0068】
ピン3104の先端部分には、分析する試料を吸蔵するための結晶スポンジ380が付着(接着)されている。この結晶スポンジ380は、分析する対象試料の種類に応じて異なる成分で形成される。
【0069】
図12に、試料ホルダ310を装着するためのアプリケータ311の断面を示す。アプリケータ311の外観は直方体の形状をしている。アプリケータ311には、試料ホルダ310の根元部分3101を挿入する円筒部分3111と、試料ホルダ310の胴体部3103が挿入される円筒部分3112と、および、試料をため込む円錐部分3113が形成されている。また、円筒部分3111と円筒部分3112との間の段差面3114には、Oリング用の溝3115が形成されている。
【0070】
また、アプリケータ311は樹脂で形成され、内部に装着する試料ホルダ310のピン3104の先端部分に付着させる結晶スポンジ380の種類に応じて、色分けされている。これにより、アプリケータ311に試料ホルダ310を装着した状態で、試料ホルダ310のピン3104の先端に付着させた結晶スポンジ380の種類を、アプリケータ311の色から判断することができる。
【0071】
図13に、試料ホルダ310をアプリケータ311に装着し、さらに、吸蔵装置300の注入針306と排出針331とがアプリケータ311の内部に挿入された状態で、試料ホルダ310のピン3104の先端部分に付着した結晶スポンジ380が試料を吸蔵する様子を示す。注入針306は、ピン3104の先端部分の結晶スポンジ380の近傍に試料を供給するので、排出針331よりも深くアプリケータ311の内部に挿入されている。
【0072】
この状態において、試料ホルダ310は、図示していない押圧手段によりアプリケータ311に押し付けられ、試料ホルダ310の根元部分3101の平坦な面3102がアプリケータ311の段差面3114に形成されたOリングの溝3115に装着されたOリング3116を押圧してOリング3116を変形させる。
【0073】
また、吸蔵装置300の注入針306と注入針用孔3106との間、及び、排出針331と排出針用孔3107との間は、それぞれ図示していないシール手段によりシールされている。このような構成とすることにより、試料ホルダ310が装着されたアプリケータ311の円筒部分3112と円錐部分3113とは、外部に対して気密な状態を保つことができる。
【0074】
なお、
図13に示した状態は、上記の
図8に示した注入針306及び排出針331が試料ホルダ310及びアプリケータ311に差し込まれて状態を示している。ただし、
図8においては、押圧手段の表示を省略している。
【0075】
なお、
図8に示した構成においては、質量分析装置600を、吸蔵装置300とは別の構成として説明したが、質量分析装置600を吸蔵装置300と一体化して、吸蔵装置300の一部としてもよい。
【0076】
図14に、ゴニオメータヘッド514の概略の構成を斜視図で示す。ゴニオメータヘッド514は、
図3に示したように、ゴニオメータ512に取り付けられる。ゴニオメータヘッド514は、ゴニオメータ512に取り付けて固定するための取り付け部5141、XYZ方向移動機構部5142、試料ホルダ310を装着する試料装着部5143を備えている。
【0077】
試料装着部5143の先端部分5144は平面状に形成されており、この平面状の部分には、試料ホルダ310を装着した状態で、試料ホルダ310の注入針用孔3106の入り口に形成された注入針ガイド用のテーパ部310Bに対応する位置には、突起部5145が形成されている。また、試料ホルダ310の排出針用孔3107の入り口に形成された排出針ガイド用のテーパ部310Cに対応する位置に、突起部5146が形成されている。
【0078】
突起部5145および5146は、試料ホルダ310を装着したときに、それぞれ試料ホルダ310のテーパ部310Bおよび310Cと嵌合して、テーパ部310B及び310Cの内部に収まる程度のサイズに形成されている。また、突起部5145および5146は、半球状または頂部が丸まった円錐形状をしている。
【0079】
図15に、ゴニオメータヘッド514の試料装着部5143に試料ホルダ310を装着した状態を正面から見た時の、部分断面を含む正面図を示し、図中に丸で囲んだ部分の拡大図をその右側に示す。拡大図に示すように、試料装着部5143の先端部分5144に形成した突起部5145は、注入針ガイド用のテーパ部310Bに嵌合している。試料装着部5143の先端部分5144に形成した突起部5146も同様に、排出針ガイド用のテーパ部310Cに嵌合している。
【0080】
このように、ゴニオメータヘッド514の試料装着部5143の先端部分5144に試料ホルダ310を装着した状態で、先端部分5144に形成した突起部5145と5146とが、それぞれ試料ホルダ310に形成されたテーパ部310Bと310Cとに嵌合することによれば、ゴニオメータヘッド514の試料装着部5143に対する試料ホルダ310の位置が自動的に定まるので、単結晶X線構造解析装置500で試料を解析するときに、試料ホルダ310のピン3104の先端部分に付着させた結晶スポンジ380(即ち、結晶スポンジ内に吸蔵した試料)の位置決めが容易になる。また、結晶スポンジ380の位置決めの再現性が向上する。
【0081】
また、微小な突起部5145と5146を半球状または頂部が丸まった円錐形状に形成されているので、試料ホルダ310に形成されたテーパ部310Bおよび310Cに対して多少位置がずれてもテーパ部310Bと310Cとにガイドされて、容易に正確な位置や方向に装着することができる。
【0082】
以上に説明したように、本実施例によれば、結晶スポンジ380に試料を吸蔵させた試料ホルダ310を単結晶X線構造解析装置500のゴニオメータヘッド514に装着するときに、ゴニオメータヘッド514に形成した微小な突起部5145と5146とが試料ホルダ310に形成されたテーパ部310Bと310Cとにそれぞれ嵌合してゴニオメータヘッド514に対する試料ホルダ310の位置(向き)が定まるので、X線管511に対する極微小で脆弱(fragile)な結晶スポンジ380の位置出しを容易に、かつ再現性良く確実に行うことができる。なお、ここでは、複数の微小な突起部5145と5146とを形成した例について説明したが、形成する微小な突起部は,ゴニオメータヘッド514の中心からずれた位置にあれば、突起部5145又は5146の何れか1つであってもよい。
【実施例2】
【0083】
第1の実施例においては、試料ホルダ310のピン3104の先端部分に結晶スポンジ380を付着させた構成について説明したが、本実施例においては、
図16に示すような構成の試料ホルダ710を用いた場合について説明する。
【0084】
本実施例において、試料ホルダ710以外の構成においては、実施例1において
図8に示した構成と同じであり、アプリケータ311の構成も実施例1において
図12及び
図13を用いて説明したアプリケータ311の形状と同じであるので、詳しい説明を省略する。
【0085】
本実施例で用いる試料ホルダ710は、
図16にその断面形状を示すように、試料ホルダ710の胴体部7103の先のテーパ状に加工された案内面710Dの先端部分に形成された凹部710Eに、新たに、パイプ7104が装着され固定されている。パイプ7104の内部には、試料ホルダ710に形成された注入針用孔7106に接続する孔7108が形成されている。このパイプ7104の孔7108の内部には、試料を吸蔵するための結晶スポンジ780が形成(又は、取り付け)されている。
【0086】
試料ホルダ710本体は磁性体の金属で形成されているが、このパイプ7104は、例えば硼珪酸ガラス、石英、カプトンなどのX線を透過する材料で形成されており、案内面710Dの先端部分に形成された凹部710Eに挿入され、更には、接着剤等で固定されている。
【0087】
試料ホルダ710の根元部分7101、根元部分7101の下面7102、根元部分7101の上面710Aの内側の凹部7105については、それぞれ、実施例1で説明した試料ホルダ310の対応する部分の構成と同じであり、その詳細な説明は省略する。
【0088】
本実施例では、このような構成の試料ホルダ710を、実施例1で
図12を用いて説明したアプリケータ311に装着して、注入針用孔7106に注入針306を挿入し、排出針用孔7107に排出針331を挿入する。注入針用孔7106の上側の端部には、注入針306を挿入するときのガイド面となるテーパ部710Bが形成されている。
【0089】
上端部にテーパ部710Bが形成された注入針用孔7106に挿入した注入針306から試料を結晶スポンジ780に供給して、排出針331でアプリケータ311の内部の気体または液体を排出する構成については実施例1の場合と同じであるので、説明を省略する。
【0090】
なお、
図16に示した構成においては、パイプ7104に形成した孔7108の径が上から下まで同一な場合について示したが、孔7108は、
図16において下側に行くほど径が大きくなるようなテーパ形状でもよく、あるいは、上側に比べて途中で径が大きくなる段差形状に形成してもよい。
【0091】
本実施例によれば、試料ホルダ710をアプリケータ311に装着した状態で、試料ホルダ710の中心部分でパイプ7104を貫通して形成された注入針用の孔7108の内部に取り付けられた極微小で脆弱(fragile)な結晶スポンジ780の内部に、試料をより安全に吸蔵させることができる。
【0092】
また、本実施例によれば、実施例1の場合と同様に、制御部340では、供給側第1アクチュエータ302、供給側分析部303を、更には、供給側第2アクチュエータ304、および、排出側第1アクチュエータ333、排出側分析部334、排出側第2アクチュエータ335、更に温度調節器320を制御して、極微小で脆弱(fragile)な結晶スポンジ780に試料を吸蔵させるので、従来の手作業で試料を結晶スポンジに吸蔵させていた場合と比べて、試料吸蔵の条件の設定が容易になる。
【0093】
更に、本実施例によれば、実施例1の場合と同様に、制御部340において、供給側分析部303で分析して得られたデータと、排出側分析部334で分析して得られたデータとを比較することにより、結晶スポンジ780の内部に試料が確実に吸蔵されたことを、容易に確認することができる。
【0094】
図17には、上述した第2の実施例における試料ホルダ710を装着するためのゴニオメータヘッド714の外観の概略の構成を示す。
図14に示したゴニオメータヘッド514と同じ構成部分については、同じ番号を付してある。この第2の実施例の試料ホルダ710が
図14に示した実施例1におけるゴニオメータヘッド514と異なるのは、試料装着部5143の先端部分7144に形成した突起部7145と7146である。
【0095】
突起部7145は、試料ホルダ710をゴニオメータヘッド714に装着したときに、試料ホルダ710のテーパ部710Bに対応する位置、即ちゴニオメータヘッド714の先端部分7144の中心部に形成されている。他方、突起部7146は、実施例1と同様に、試料ホルダ710のテーパ部710Cに対応する位置に形成されている。
【0096】
この実施例では、ここでは図示しないが、ゴニオメータヘッド714の試料装着部7143の先端部分7144に、試料ホルダ710を装着した状態において、試料装着部7143の先端部分7144に形成した突起部7145は、試料ホルダ710の注入針ガイド用のテーパ部710Bに嵌合、他方、試料装着部7143の先端部分7144に形成した突起部5146は、上記の例と同様に、試料ホルダ710の排出針ガイド用のテーパ部310Cに嵌合している。
【0097】
このように、ゴニオメータヘッド714の試料装着部7143の先端部分7144に試料ホルダ710を装着した状態で、先端部分7144に形成した突起部7145と7146とが、それぞれ試料ホルダ710のテーパ部710Bと710Cとに嵌合することにより、ゴニオメータヘッド714の試料装着部7143に対する試料ホルダ710の位置が定まるので、単結晶X線構造解析装置500で試料を解析するときに、試料ホルダ710の中心部分を貫通して形成された注入針用孔7106と接続するパイプ7104の孔7108の内部に形成した試料を吸蔵している極微小で脆弱(fragile)な結晶スポンジ780の位置決めが容易になる。また、結晶スポンジ780の位置決めの再現性が向上する。
【0098】
なお、ここでは、複数の微小な突起部7145と7146とを形成した例について説明したが、形成する微小な突起部は,ゴニオメータヘッド514の中心位置に対応する微小な突起部7145は必ずしも必要ではなく、ゴニオメータヘッド514の中心からずれた位置にある、突起部5146だけであってもよい。
【0099】
以上に説明したように、本実施例によれば、極微小で脆弱(fragile)な結晶スポンジ780に試料を吸蔵させた試料ホルダ710を単結晶X線構造解析装置500のゴニオメータヘッド714に装着するときに、ゴニオメータヘッド714に形成した微小な突起部7146と7147とが試料ホルダ710に形成されたテーパ部710Bおよび710Cとにそれぞれ嵌合してゴニオメータヘッド714に対する試料ホルダ710の位置(向き)が自動的に定まる。これにより、X線管511に対する極微小で脆弱(fragile)な結晶スポンジ780の位置出しを容易に、かつ再現性良く確実に行うことができる。
【0100】
なお、以上には本発明の種々の実施例を説明したが、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、またある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能であり、また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能であろう。
【0101】
本発明は、物質構造の探索方法やそれに用いるX線構造解析装置等において広く利用可能である。
【0102】
なお、本国際出願は、2018年11月23日に出願した日本国特許出願第2018−219810号に基づく優先権を主張するものであり、日本国特許出願第2018−219810号の全内容を本国際出願に援用する。
【符号の説明】
【0103】
100…単結晶X線構造解析システム、200…クロマトグラフィ装置、300…単結晶X線構造解析装置用吸蔵装置、302…供給側第1アクチュエータ、303…供給側分析部、304…供給側第2アクチュエータ、306…注入針、310、710…試料ホルダ、311…アプリケータ、320…温度調節器、333…排出側第1アクチュエータ、334…排出側分析部、335…排出側第2アクチュエータ、340…制御部、5145、5146、7145、7146…突起部、714…ゴニオメータヘッド、3106、7106…注入針用孔、3107…排出針用孔、310B、310C、710B、710C…テーパ部。
【国際調査報告】