(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2020年7月23日
【発行日】2021年12月2日
(54)【発明の名称】網膜疾患の予防および進行抑制、視覚認知行動機能の改善、および視覚機能強化
(51)【国際特許分類】
A61K 48/00 20060101AFI20211105BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20211105BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20211105BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20211105BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20211105BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20211105BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20211105BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20211105BHJP
C07K 14/705 20060101ALI20211105BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20211105BHJP
C07K 14/195 20060101ALN20211105BHJP
C07K 14/405 20060101ALN20211105BHJP
【FI】
A61K48/00
A61K31/7088
A61K38/17
A61P27/02
A61P43/00 111
C12N15/12ZNA
C12N15/62 Z
C07K19/00
C07K14/705
C12N15/31
C07K14/195
C07K14/405
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】39
【出願番号】特願2020-566094(P2020-566094)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2019年1月18日
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 刊行物等1:Institute for Protein Research,Osaka University Seminar:Frontiers of Sensory research in Retina(大阪大学蛋白質研究所セミナー網膜感覚研究のフロンティア)「キメラロドプシンを用いた視覚再建技術の確立」・スライドプレゼンテーション、公開日:2018年1月20日 刊行物等2:Nippon Ganka Gakkai Zasshi. 2018 March: Vol. 122 Special Issue: 259(日本眼科学会雑誌(0029−0203)122巻臨増Page259(2018.03))、公開日:2018年3月9日 刊行物等3:The 122nd Annual Meeting of the Japanese Ophthalmological Society(第122回日本眼科学会総会)の抄録・オンライン配信、https://www.micenavi.jp/122jos/search/detail_session/id:125、公開日:2018年4月6日 刊行物等4:The 122nd Annual Meeting of the Japanese Ophthalmological Society(第122回日本眼科学会総会)「キメラロドプシンを用いた視覚再建効果の検討」・ポスター、公開日:2018年4月19日 刊行物等5:The 122nd Annual Meeting of the Japanese Ophthalmological Society(第122回日本眼科学会総会)のショートタイトル一覧4月19日(木)・オンライン配信、https://convention.jtbcom.co.jp/122jos/program/index.html、公開日:2018年3月1日 刊行物等6:The 72nd ANNUAL CONGRESS OF JAPAN CLINICAL OPHTHALMOLOGY(第72回日本臨床眼科学会)「藻からヒトへ:進化を超えた網膜治療への挑戦」・スライドプレゼンテーション、公開日:2018年10月12日
(71)【出願人】
【識別番号】519334513
【氏名又は名称】株式会社レストアビジョン
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【弁理士】
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(72)【発明者】
【氏名】栗原 俊英
(72)【発明者】
【氏名】堅田 侑作
(72)【発明者】
【氏名】坪田 一男
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA13
4C084CA53
4C084DC50
4C084NA14
4C084ZA33
4C084ZC41
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA33
4C086ZC41
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA41
4H045CA11
4H045CA40
4H045DA50
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
網膜疾患の予防および進行抑制、視覚認知行動機能(例えば、明暗判定機能の改善、明所忌避機能の改善および/または危機回避機能)、および視覚機能増強(例えば、視力改善)のための、イオン輸送型ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンという2種類のロドプシンのキメラタンパク質およびこれをコードする核酸が提供される。本発明はまた、被験体において網膜の疾患、障害または症状を予防またはその進行を抑制するか、視覚認知行動機能(例えば、明暗判定機能の改善、明所忌避機能の改善および/または危機回避機能)を改善するか、視覚機能強化(例えば、視力改善)するための方法を提供し、この方法は、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質をコードする核酸の有効量を該被験体に投与する工程を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質をコードする核酸を含む、網膜の疾患、障害または症状を予防またはその進行を抑制するための組成物。
【請求項2】
イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質をコードする核酸を含む、視覚認知行動機能の改善のための組成物。
【請求項3】
イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質をコードする核酸を含む、視覚機能を強化するための組成物。
【請求項4】
前記疾患、障害または症状は、網膜変性疾患を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記疾患、障害または症状は、網膜色素変性症である、請求項1または4に記載の組成物。
【請求項6】
前記疾患、障害または症状は、常染色体優性遺伝性である、請求項1、4または5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物は、網膜色素変性症の予防または進行抑制をするためのものである、請求項1、または4〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物は、前記疾患、障害または症状の発症前または発症直後に被験体に投与されることを特徴とする、請求項1、または4〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物は、1回投与されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
0.1×1011〜10×1011vg/眼の単位用量で投与されることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記イオン輸送型受容体ロドプシンをコードする塩基配列のうち、細胞質側の第2ループおよび/または細胞質側の第3ループをコードする塩基配列が、前記Gタンパク質共役型受容体ロドプシンの細胞質側の第2ループおよび/または細胞質側の第3ループをコードする塩基配列に置換される、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記イオン輸送型受容体ロドプシンが、シアノバクテリア(藍色細菌)由来である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記Gタンパク質共役型受容体ロドプシンが、哺乳動物由来である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
前記キメラタンパク質は、配列番号8のアミノ酸配列の132番目に相当するグルタミン酸がグルタミンに置換されたアミノ酸配列を有する、請求項1〜13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
前記キメラタンパク質が、
(a)配列番号1〜4のいずれかに記載のアミノ酸配列またはそのフラグメント;
(b)(a)に対して少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列;
(c)(a)または(b)に対して1または複数のアミノ酸が置換、付加および/または欠失を有するアミノ酸配列;
のうちの1つを有し、かつ、生物学的活性を有するか、あるいは、
前記キメラタンパク質をコードする核酸が、
(A)配列番号1〜4のいずれかに記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列もしくは配列番号10に記載の塩基配列またはそのフラグメントを有する核酸;
(B)(A)に対して少なくとも80%の同一性を有する核酸;
(C)(A)または(B)に対して1または複数のヌクレオチドが置換、付加および/または欠失を有する核酸;
(D)(A)〜(C)のいずれかに対してストリンジェント条件下でハイブリダイズする核酸、
のうちの1つを有し、かつ、該キメラタンパク質が生物学的活性を有する、
請求項1〜14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
前記塩基配列が、ベクターに含まれる、請求項1〜15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質を含む、網膜の疾患、障害または症状を予防またはその進行を抑制するための組成物。
【請求項18】
イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質を含む、視覚認知行動機能の改善のための組成物。
【請求項19】
イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質を含む、視覚機能強化のための組成物。
【請求項20】
請求項4〜16のいずれか一項または複数に記載の特徴をさらに有する、請求項17〜19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
網膜の疾患、障害または症状を予防またはその進行を抑制するための、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質をコードする核酸。
【請求項22】
視覚認知行動機能の改善のための、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質をコードする核酸。
【請求項23】
視覚機能強化のための、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質をコードする核酸。
【請求項24】
網膜の疾患、障害または症状を予防またはその進行を抑制するための、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質。
【請求項25】
視覚認知行動機能の改善のための、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質。
【請求項26】
視覚機能強化のための、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質。
【請求項27】
請求項4〜16のいずれか一項または複数に記載の特徴をさらに有する、請求項21〜26のいずれか一項に記載の核酸またはタンパク質。
【請求項28】
被験体において網膜の疾患、障害または症状を予防またはその進行を抑制する方法であって、該方法は、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質をコードする核酸の有効量を該被験体に投与する工程を含む、方法。
【請求項29】
被験体において視覚認知行動機能の改善するための方法であって、該方法は、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質をコードする核酸の有効量を該被験体に投与する工程を含む、方法。
【請求項30】
被験体において視覚機能を強化するための方法であって、該方法は、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質をコードする核酸の有効量を該被験体に投与する工程を含む、方法。
【請求項31】
被験体において網膜の疾患、障害または症状を予防またはその進行を抑制するための方法であって、該方法は、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質の有効量を該被験体に投与する工程を含む、方法。
【請求項32】
被験体において視覚認知行動機能の改善をするための方法であって、該方法は、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質の有効量を該被験体に投与する工程を含む、方法。
【請求項33】
被験体において視覚機能を強化するための方法であって、該方法は、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質の有効量を該被験体に投与する工程を含む、方法。
【請求項34】
請求項4〜16のいずれか一項または複数に記載の特徴をさらに有する、請求項28〜33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
網膜の疾患、障害または症状を予防またはその進行を抑制するための医薬の製造における、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質をコードする核酸の使用。
【請求項36】
視覚認知行動機能の改善のための医薬の製造における、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質をコードする核酸の使用。
【請求項37】
視覚機能強化のための医薬の製造における、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質をコードする核酸の使用。
【請求項38】
網膜の疾患、障害または症状を予防またはその進行を抑制するための医薬の製造における、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質の使用。
【請求項39】
視覚認知行動機能の改善のための医薬の製造における、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質の使用。
【請求項40】
視覚機能強化のための医薬の製造における、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質の使用。
【請求項41】
請求項4〜16のいずれか一項または複数に記載の特徴をさらに有する、請求項35〜40のいずれか一項に記載の使用。
【請求項42】
(a)配列番号10に記載の塩基配列またはそのフラグメントを有する核酸;
(b)(a)に対して少なくとも80%の同一性を有する核酸;
(c)(a)または(b)に対して1または複数のヌクレオチドが置換、付加および/または欠失を有する核酸;
(d)(a)〜(c)のいずれかに対してストリンジェント条件下でハイブリダイズする核酸、
のうちの1つを有する核酸であって、該核酸がコードするタンパク質が生物学的活性を有する、核酸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、網膜疾患の予防および進行抑制、視覚認知行動機能の改善、および視覚機能強化に関する。
【背景技術】
【0002】
ロドプシンは、ヒトの動物の網膜中に7回膜貫通型構造を有する光感受性の受容体であり、医療にも応用がされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明者らは、イオン輸送型ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンという2種類のロドプシンのキメラタンパク質が、網膜疾患の予防および進行抑制、視覚認知行動機能の改善、および視覚機能強化の効果を有することを見出し、本発明を完成した。
【0004】
本発明は例えば、以下を提供する。
(項目1)イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質をコードする核酸を含む、網膜の疾患、障害または症状を予防またはその進行を抑制するための組成物。
(項目2)イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質をコードする核酸を含む、視覚認知行動機能(例えば、明暗判定機能の改善、明所忌避機能の改善および/または危機回避機能)の改善のための組成物。
(項目3)イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質をコードする核酸を含む、視覚機能強化(例えば、視力改善)のための組成物。
(項目4)前記疾患、障害または症状は、網膜変性疾患を含む、項目1に記載の組成物。
(項目5)前記疾患、障害または症状は、網膜色素変性症である、項目1または4に記載の組成物。
(項目6)前記疾患、障害または症状は、常染色体優性遺伝性である、項目1、4または5のいずれか一項に記載の組成物。
(項目7)前記組成物は、網膜色素変性症の予防または進行抑制をするためのものである、項目1、または4〜6のいずれか一項に記載の組成物。
(項目8)前記組成物は、前記疾患、障害または症状の発症前または発症直後に被験体に投与されることを特徴とする、項目1、または4〜7のいずれか一項に記載の組成物。
(項目9)前記組成物は、1回投与されることを特徴とする、項目1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
(項目10)0.1×10
11〜10×10
11vg/眼の単位用量で投与されることを特徴とする、項目1〜9のいずれか一項に記載の組成物。
(項目11)前記イオン輸送型受容体ロドプシンをコードする塩基配列のうち、細胞質側の第2ループおよび/または細胞質側の第3ループをコードする塩基配列が、前記Gタンパク質共役型受容体ロドプシンの細胞質側の第2ループおよび/または細胞質側の第3ループをコードする塩基配列に置換される、項目1〜10のいずれか一項に記載の組成物。
(項目12)前記イオン輸送型受容体ロドプシンが、シアノバクテリア(藍色細菌)由来である、項目1〜11のいずれか一項に記載の組成物。
(項目13)前記Gタンパク質共役型受容体ロドプシンが、哺乳動物由来である、項目1〜12のいずれか一項に記載の組成物。
(項目14)前記キメラタンパク質は、配列番号8のアミノ酸配列の132番目に相当するグルタミン酸がグルタミンに置換されたアミノ酸配列を有する、項目1〜13のいずれか一項に記載の組成物。
(項目15)前記キメラタンパク質が、
(a)配列番号1〜4のいずれかに記載のアミノ酸配列またはそのフラグメント;
(b)(a)に対して少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列;
(c)(a)または(b)に対して1または複数のアミノ酸が置換、付加および/または欠失を有するアミノ酸配列;
のうちの1つを有し、かつ、生物学的活性を有するか、あるいは、
前記キメラタンパク質をコードする核酸が、
(A)配列番号1〜4のいずれかに記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列もしくは配列番号10に記載の塩基配列またはそのフラグメントを有する核酸;
(B)(A)に対して少なくとも80%の同一性を有する核酸;
(C)(A)または(B)に対して1または複数のヌクレオチドが置換、付加および/または欠失を有する核酸;
(D)(A)〜(C)のいずれかに対してストリンジェント条件下でハイブリダイズする核酸、
のうちの1つを有し、かつ、該キメラタンパク質が生物学的活性を有する、
項目1〜14のいずれか一項に記載の組成物。
(項目16)前記塩基配列が、ベクターに含まれる、項目1〜15のいずれか一項に記載の組成物。
(項目17)イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質を含む、網膜の疾患、障害または症状を予防またはその進行を抑制するための組成物。
(項目18)イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質を含む、視覚認知行動機能(例えば、明暗判定機能の改善、明所忌避機能の改善および/または危機回避機能)の改善のための組成物。
(項目19)イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質を含む、視覚機能強化(例えば、視力改善)のための組成物。
(項目20)項目4〜16のいずれか一項または複数に記載の特徴をさらに有する、項目17〜19のいずれか一項に記載の組成物。
(項目21)網膜の疾患、障害または症状を予防またはその進行を抑制するための、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質をコードする核酸。
(項目22)視覚認知行動機能(例えば、明暗判定機能の改善、明所忌避機能の改善および/または危機回避機能)の改善のための、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質をコードする核酸。
(項目23)視覚機能強化(例えば、視力改善)のための、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質をコードする核酸。
(項目24)網膜の疾患、障害または症状を予防またはその進行を抑制するための、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質。
(項目25)視覚認知行動機能(例えば、明暗判定機能の改善、明所忌避機能の改善および/または危機回避機能)の改善のための、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質。
(項目26)視覚機能強化(例えば、視力改善)のための、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質。
(項目27)項目4〜16のいずれか一項または複数に記載の特徴をさらに有する、項目21〜26のいずれか一項に記載の核酸またはタンパク質。
(項目28)被験体において網膜の疾患、障害または症状を予防またはその進行を抑制する方法であって、該方法は、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質をコードする核酸の有効量を該被験体に投与する工程を含む、方法。
(項目29)被験体において視覚認知行動機能(例えば、明暗判定機能の改善、明所忌避機能の改善および/または危機回避機能)の改善するための方法であって、該方法は、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質をコードする核酸の有効量を該被験体に投与する工程を含む、方法。
(項目30)被験体において視覚機能強化(例えば、視力改善)するための方法であって、該方法は、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質をコードする核酸の有効量を該被験体に投与する工程を含む、方法。
(項目31)被験体において網膜の疾患、障害または症状を予防またはその進行を抑制するための方法であって、該方法は、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質の有効量を該被験体に投与する工程を含む、方法。
(項目32)被験体において視覚認知行動機能(例えば、明暗判定機能の改善、明所忌避機能の改善および/または危機回避機能)の改善をするための方法であって、該方法は、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質の有効量を該被験体に投与する工程を含む、方法。
(項目33)被験体において視覚機能強化(例えば、視力改善)するための方法であって、該方法は、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質の有効量を該被験体に投与する工程を含む、方法。
(項目34)項目4〜16のいずれか一項または複数に記載の特徴をさらに有する、項目28〜33のいずれか一項に記載の方法。
(項目35)網膜の疾患、障害または症状を予防またはその進行を抑制するための医薬の製造における、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質をコードする核酸の使用。
(項目36)視覚認知行動機能(例えば、明暗判定機能の改善、明所忌避機能の改善および/または危機回避機能)の改善のための医薬の製造における、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質をコードする核酸の使用。
(項目37)視覚機能強化(例えば、視力改善)のための医薬の製造における、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質をコードする核酸の使用。
(項目38)網膜の疾患、障害または症状を予防またはその進行を抑制するための医薬の製造における、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質の使用。
(項目39)視覚認知行動機能(例えば、明暗判定機能の改善、明所忌避機能の改善および/または危機回避機能)の改善のための医薬の製造における、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質の使用。
(項目40)視覚機能強化(例えば、視力改善)のための医薬の製造における、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質の使用。
(項目41)項目4〜16のいずれか一項または複数に記載の特徴をさらに有する、項目35〜40のいずれか一項に記載の使用。
(項目42)(a)配列番号10に記載の塩基配列またはそのフラグメントを有する核酸;
(b)(a)に対して少なくとも80%の同一性を有する核酸;
(c)(a)または(b)に対して1または複数のヌクレオチドが置換、付加および/または欠失を有する核酸;
(d)(a)〜(c)のいずれかに対してストリンジェント条件下でハイブリダイズする核酸、
のうちの1つを有する核酸であって、該核酸がコードするタンパク質が生物学的活性を有する、核酸。
【0005】
本発明において、上記1または複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供されうることが意図される。本発明のなおさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、網膜の疾患、障害または症状の予防および進行抑制効果を提供する。本発明はまた、視覚認知行動機能(例えば、明暗判定機能の改善、明所忌避機能の改善および/または危機回避機能)の改善効果を提供する。本発明はさらに、視力改善などの視覚機能の増強効果も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、視細胞の菲薄化実験結果を示す。上パネルに網膜の断層写真を示し、矢印は視細胞層を示す。Scale bar:50μm。下パネルに、OCTによる視細胞層厚の定量比較の結果を示す。左上が24日目の断層写真、右上が31日目の断層写真である。左下は、24日目のコントロールとキメラの対比を示し、右下は31日目のコントロールとキメラの対比を示す。
【
図2】
図2は、キメラロドプシンの導入後の進行抑制効果を示す。左上パネルにキメラロドプシン遺伝子導入治療眼とコントロールについての混合ERGの代表波形を示す。左下、右上および右下は、それぞれ混合応答、桿体応答、錐体応答のb波の振幅の定量比較を示す。
【
図3】
図3は、明暗識別反応の試験(明暗選択箱テスト=LDT)の結果を示す。上パネルが模式図である。下は、明区画におけるマウスの滞在時間の比較を示す。左から健常なマウス(B6)、失明しているマウス(rd1)および処置マウスを示す。*は統計学的有意(p<0.01)を示す。
【
図4】
図4は、視覚機能強化の実証の結果を示す。左上は模式的写真である。したパネルに視覚誘発電位(VEP)を示す。左がコントロール、真ん中が処置群を示す。右下は、電位の対比を示し、コントロール(35.12±3.90μV)に対して、キメラ治療マウス(50.0±3.49μV)では有意な振幅の増加を認めた。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0009】
(定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義および/または基本的技術内容を適宜説明する。
【0010】
本明細書において、「ロドプシン」は、レチナールという色素を内部に有するタンパク質であり、これが光を受けることで活性化して、視覚シグナルが脳へと伝えられる。微生物由来に代表されるイオン輸送型受容体ロドプシンは、光を照射してもレチナールが外れることがないため、光を吸収することで繰り返し活性化させることができるが、動物由来に代表されるGタンパク質共役型受容体ロドプシンのように、Gタンパク質を活性化することができない。これに対し、本開示で提供される、イオン輸送型受容体ロドプシンとGタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラロドプシンは、従来型のロドプシンに比べて機能が亢進しているものと考えられ、特に、イオン輸送型受容体ロドプシンとして、好ましくは、微生物由来のものであり得、繰り返し使用できることができるものを利用し、また、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとして、動物由来、好ましくは哺乳動物由来のものを利用する場合、繰り返し活性化する機能を保持しつつ、内在性のGタンパク質を介した高い活性を得ることができる。理論に束縛されることは望まないが、本発明で利用されるキメラタンパク質は、動物モデルで実証されるように、げっ歯類、霊長類などの哺乳動物において十分に活性を保持して発現されることから、網膜の疾患、障害または症状の予防および進行抑制効果、特に、網膜色素変性症の予防または進行抑制を達成でき、あるいは視覚認知行動機能(例えば、明暗判定機能の改善、明所忌避機能の改善および/または危機回避機能)の改善がもたらされ、あるいは、視力改善などの視覚機能の増強効果が奏される。このように、全く機能の異なるタイプの受容体を組み合わせたキメラタンパク質が、これらの種々の用途で機能することを現実に見出した。また、本明細書では、発症速度が遅く、予防効果や進行抑制を観察できるモデル系において、実際に失明する前の状態で投与することで、疾患の発症や進行を抑制することができることが確認され、網膜色素変性症等の網膜疾患の進行抑制が達成された。
【0011】
本明細書において「イオン輸送型受容体ロドプシン」とは、イオンを輸送する機能を有する任意のロドプシンを指し、イオンポンプ型受容体ロドプシン、イオンチャネル型受容体ロドプシンを挙げることができる。
【0012】
イオン輸送型受容体ロドプシンについて、Gタンパク質活性化ループとの立体構造的相性と膜移行効率が重要であると考えられ、特に、微生物由来のイオン輸送型受容体ロドプシンは、Gタンパク質活性化ループとの立体構造的相性と膜移行効率が良好であり、その中でもグロエオバクター(Gloeobacter)属のものが好ましい。特に、グロエオバクター(Gloeobacter)属に属する微生物のうち、グロエオバクター・ビオラセウスが好ましい。また、グロエオバクター属に属する微生物のロドプシン(例えば、配列番号8)は、動物由来のGタンパク質共役型受容体ロドプシンのうち、哺乳動物由来のGタンパク質共役型受容体ロドプシン、好ましくは、ウシ等の偶蹄類(例えば、配列番号9)、ヒトなど(例えば、配列番号14および配列番号15)の霊長類のGタンパク質共役型受容体ロドプシンと組み合わせて利用されることが好ましい。また、グロエオバクター(Gloeobacter)属は、真正細菌である大腸菌でも真核生物であるヒトの細胞でもよく発現するという重要な性質を有する点においても好ましい。
【0013】
本明細書において「Gタンパク質共役型受容体ロドプシン」とは、真核細胞の細胞質膜上もしくは、細胞内部の構成膜上に存在する受容体の一種であるGタンパク質共役型受容体に分類されるロドプシンを指す。Gタンパク質共役型受容体は細胞質膜を貫通する7つのαへリックス構造をもち、N末端側が細胞外にC末端側が細胞内に存在し、3つの細胞外ループ(Extracellularloop; ECL1/2/3)と3つの細胞内ループ(Intracellular loop; ICL1/2/3)を持つといわれている。ロドプシンはアポタンパク質と発色団レチナールより構成されており、レチナールが光を吸収することによって異性化しタンパク質部分の構造変化を起こし、Gタンパク質を介して細胞内シグナル伝達系を駆動する。
【0014】
本明細書において、「網膜の疾患、障害または症状」とは、網膜に関する任意の疾患、障害または症状をいい、網膜変性疾患(網膜色素変性症、加齢黄斑変性など)や、網膜症(例えば、糖尿病網膜症、増殖網膜症、単純網膜症など)、飛蚊症、網膜裂孔、網膜剥離(例えば、裂孔原性網膜剥離、非裂孔原性網膜剥離など)等を挙げることができ、網膜色素変性症、加齢黄斑変性、近視性黄斑症、黄斑ジストロフィ、糖尿病網膜症、ぶどう膜炎、網膜剥離等を予防、治療または進行抑制を行うことができる。障害、または症状には、視力、コントラスト感度、明暗順応、色覚等の障害およびそれらに関連する症状を挙げることができる。
【0015】
本明細書において「視覚認知行動機能」とは、視覚器官(眼など)によって認知された視覚情報が、対象となる生物の行動となって機能することをいい、例えば、明暗判定機能、明所忌避機能、危機回避機能などの実際の行動となって表れることをいう。光感受性の確認のみならず、実際に動物モデル(実施例2参照)などで検証することによって確認することができる機能である。
【0016】
本明細書において、「明暗判定機能」とは、明暗を判定することができる能力または機能をいう。その改善とは、明暗判定機能に何らかの改善があればよく、例えば、明暗判定ができなかったものができるようになることの他、ようやく明暗を弁ずることができる程度のものが、改善することなども包含される。
【0017】
本明細書において「明所忌避機能」とは、光源から遠ざかったり、明るい光を避けることができる能力または機能をいう。その改善とは、明所を忌避する能力が回復することまたは高まることをいう。
【0018】
本明細書において、「危機回避機能」とは、視覚機能に基づき、危機を回避する機能または能力を言う。その改善とは、危機回避能力が再生することのほか、レベルが高くなることも包含される。
【0019】
本明細書において「視覚機能」の「強化」または「増強」は、任意の視覚機能(例えば、視力、色覚、コントラスト感度、明暗順応等)の改善、強化または増強を指す。
【0020】
本明細書において、「視力改善」とは、視力が改善または回復することをいう。視力は、例えば、ヒトであればランドルト環を用いた視力検査の他、スネレン視標やEチャートで測定し、小数視力や分数視力で表すことができる。これらは、logMAR視力でも表示することができる。マウスの場合は、明暗縞模様の空間周波数を操作した視覚刺激を用いて測定することができる。実験的には、視覚誘発電位を測定することで判定することもできる。
【0021】
本明細書において、「網膜変性疾患」は、網膜が変性することによって生じる任意の疾患をいい、例えば、網膜色素変性症、加齢黄斑変性などを挙げることができる。
【0022】
本明細書において「網膜色素変性症」は、網膜に異常がみられる遺伝性疾患であり、網膜の視細胞および色素上皮細胞が広範に変性する疾患である。夜盲(暗いところでものが見えにくい)、視野狭窄(視野が狭い)、視力低下の3つの症状が現れる。視細胞のうち桿体細胞のみの変性を桿体ジストロフィ、桿体細胞と錐体細胞両者の変性を桿体錐体ジストロフィと称する。遺伝子治療、人工網膜、網膜再生、視細胞保護治療などについて研究が推進されているが治療法が確立されていない。両眼性進行性で、早いものでは40代に社会的失明状態になることも多いことから、進行抑制が実現することは、非常に意義が高い。
【0023】
本明細書において「網膜色素変性症」は、常染色体劣性遺伝性のもののほか、常染色体優性遺伝性やX染色体劣性遺伝性のものもある。最も多いのは常染色体劣性遺伝を示すタイプでこれが全体の35%程度、次に多いのが常染色体優性遺伝を示すタイプでこれが全体の10%、最も少ないのがX連鎖性遺伝(X染色体劣性遺伝)を示すタイプでこれが全体の5%程度となっている。特に、ロドプシンの常染色体優性網膜色素変性症も進行抑制できたことは顕著な点として注目されるべきである。常染色体優性網膜色素変性症は、ロドプシンの異常のほか、ペリフェリン(PRPH2・別名RDS)が主なものとされている。常染色体劣性遺伝性としては、EYS、桿体cGMP−フォスフォジエステラーゼαおよびβサブユニット、桿体サイクリックヌクレオチド感受性陽イオンチャンネル、網膜グアニルシクラーゼ、RPE65、細胞性レチニルアルデヒド結合タンパク質、アレスチン、アッシャリン(USH2)などの遺伝子が知られている。X連鎖性網膜色素変性症としては、網膜色素変性症GTPase調節因子(RPGR)とRP2等が挙げられる。
【0024】
本明細書において「進行抑制」はある疾患(例えば、網膜色素変性症)の進行が抑制されることを言い、抑制には、治療がなかった場合との比較で悪化の速度が減少していることのほか、疾患レベルが維持されることや改善されることも包含される。ある疾患が発症していない場合は、「発症予防」に該当することとなる。本明細書において「発症」とは、疾患の自覚症状が現れていない状態から自覚症状が現れることをいい、例えば、夜盲、視野狭窄、羞明、視力の低下や色覚異常などの症状が自覚症状として挙げることができる。
【0025】
本明細書において「発症」「直後」とは、患者に自覚症状が現れた時点から、一定程度の期間以内を指し、例えば、1年以内、6カ月以内、3カ月以内等を指すが、これらに限定されない。
【0026】
本明細書において「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーをいう。このポリマーは、直鎖であっても分岐していてもよく、環状であってもよい。アミノ酸は、天然のものであっても非天然のものであってもよく、改変されたアミノ酸であってもよい。この用語はまた、複数のポリペプチド鎖の複合体へとアセンブルされたものを包含し得る。この用語はまた、天然または人工的に改変されたアミノ酸ポリマーも包含する。そのような改変としては、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化または任意の他の操作もしくは改変(例えば、標識成分との結合体化)が包含される。この定義にはまた、例えば、アミノ酸の1または2以上のアナログを含むポリペプチド(例えば、非天然アミノ酸などを含む)、ペプチド様化合物(例えば、ペプトイド)および当該分野において公知の他の改変が包含される。本明細書において、「アミノ酸」は、アミノ基とカルボキシル基を持つ有機化合物の総称である。本発明の実施形態に係る抗体が「特定のアミノ酸配列」を含むとき、そのアミノ酸配列中のいずれかのアミノ酸が化学修飾を受けていてもよい。また、そのアミノ酸配列中のいずれかのアミノ酸が塩、または溶媒和物を形成していてもよい。また、そのアミノ酸配列中のいずれかのアミノ酸がL型、またはD型であってもよい。それらのような場合でも、本発明の実施形態に係るタンパク質は、上記「特定のアミノ酸配列」を含むといえる。タンパク質に含まれるアミノ酸が生体内で受ける化学修飾としては、例えば、N末端修飾(例えば、アセチル化、ミリストイル化等)、C末端修飾(例えば、アミド化、グリコシルホスファチジルイノシトール付加等)、または側鎖修飾(例えば、リン酸化、糖鎖付加等)等が知られている。本発明の目的を満たす限り、天然のものでも非天然のものでもよい。
【0027】
本明細書において「キメラ」(タンパク質、ロドプシン)とは、同一の実体(この場合タンパク質、ロドプシンなど)において、異なる生物に由来する遺伝情報が混合している状態のものをいう。キメラタンパク質は、例えば、2つ、あるいは3つ以上の生物に由来する遺伝子配列が混在している。キメラタンパク質に含まれる配列情報は、混合する生物に由来する配列以外の別の配列を含んでいてもよい。
【0028】
本明細書において「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのヌクレオチドのポリマーをいう。この用語はまた、「オリゴヌクレオチド誘導体」または「ポリヌクレオチド誘導体」を含む。「オリゴヌクレオチド誘導体」または「ポリヌクレオチド誘導体」とは、ヌクレオチドの誘導体を含むか、またはヌクレオチド間の結合が通常とは異なるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドをいい、互換的に使用される。そのようなオリゴヌクレオチドとして具体的には、例えば、2’−O−メチル−リボヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がホスホロチオエート結合に変換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がN3’−P5’ホスホロアミデート結合に変換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のリボースとリン酸ジエステル結合とがペプチド核酸結合に変換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5プロピニルウラシルで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5チアゾールウラシルで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のシトシンがC−5プロピニルシトシンで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のシトシンがフェノキサジン修飾シトシン(phenoxazine−modified cytosine)で置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、DNA中のリボースが2’−O−プロピルリボースで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体およびオリゴヌクレオチド中のリボースが2’−メトキシエトキシリボースで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体などが例示される。他にそうではないと示されなければ、特定の塩基配列はまた、明示的に示された配列と同様に、その保存的に改変された改変体(例えば、縮重コドン置換体)および相補配列を包含することが企図される。なお、核酸の配列は、塩基配列というほか、核酸配列、ヌクレオチド配列などとも称するが、いずれも同じ意味である。具体的には、縮重コドン置換体は、1またはそれ以上の選択された(または、すべての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作成することにより達成され得る(Batzer et al., Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsuka et al.,J.Biol.Chem.260:2605−2608(1985);Rossolini et al., Mol.Cell.Probes 8:91−98(1994))。文脈に応じて本明細書において「核酸」はまた、遺伝子、cDNAなどのDNA、mRNAなどのRNA、オリゴヌクレオチド、およびポリヌクレオチドと互換可能に使用される。本明細書において「ヌクレオチド」は、天然のものでも非天然のものでもよい。本明細書において核酸はDNAまたはRNAであり得る。
【0029】
本明細書において「遺伝子」とは、遺伝形質を規定する因子をいい、「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」をさすことがある。
【0030】
本明細書において遺伝子の「相同性」とは、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいい、一般に「相同性」を有するとは、同一性または類似性の程度が高いことをいう。「同一性」は、同一のアミノ酸の配列の相当する程度をいい、「類似性」は、同一のアミノ酸のほか、性質が類似するアミノ酸を含め、配列の相当する程度をいう。従って、ある2つの遺伝子の相同性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。2種類の遺伝子が相同性を有するか否かは、配列の直接の比較、または核酸の場合ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。2つの遺伝子配列を直接比較する場合、その遺伝子配列間でDNA配列が、代表的には少なくとも50%同一である場合、好ましくは少なくとも70%同一である場合、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である場合、それらの遺伝子は相同性を有する。従って本明細書において「相同体」または「相同遺伝子産物」は、本明細書にさらに記載する複合体のタンパク質構成要素と同じ生物学的機能を発揮する、別の種、好ましくは哺乳動物におけるタンパク質を意味する。こうような相同体はまた、「オルソログ遺伝子産物」とも称されることもある。本発明の目的に合致する限り、このような相同体、相同遺伝子産物、オルソログ遺伝子産物等も用いることができることが理解される。
【0031】
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に認知された1文字コードにより言及され得る。本明細書では、アミノ酸配列および塩基配列の類似性、同一性および相同性の比較は、配列分析用ツールであるBLASTを用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。同一性の検索は例えば、NCBIのBLAST2.2.28(2013.4.2発行)を用いて行うことができる(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873−5877,1993)。本明細書における同一性の値は通常は上記BLASTを用い、デフォルトの条件でアラインした際の値をいう。ただし、パラメータの変更により、より高い値が出る場合は、最も高い値を同一性の値とする。複数の領域で同一性が評価される場合はそのうちの最も高い値を同一性の値とする。類似性は、同一性に加え、類似のアミノ酸についても計算に入れた数値である。BLASTでアミノ酸配列を比較するときのアルゴリズムには、Blastpをデフォルト設定で使用できる。測定結果はPositivesまたはIdentitiesとして数値化される。アミノ酸配列や塩基配列の相同性は、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLASTによって決定することができる。このアルゴリズムに基づいて、BLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul et al.J.Mol.Biol. 215:403−410,1990)。BLASTに基づいてBLASTNによって塩基配列を解析する場合には、パラメータは例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTに基づいてBLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメータは例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメータを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov.)。
【0032】
本発明で使用される核酸またはタンパク質は、対象となるアミノ酸または塩基配列において1もしくは複数のアミノ酸またはヌクレオチドが置換、欠失および/または付加された配列を含み得る。ここで、キメラタンパク質全長アミノ酸配列の配列番号1〜4において「1もしくは複数」とは、通常、50アミノ酸以内であり、好ましくは30アミノ酸以内であり、更に好ましくは10アミノ酸以内(例えば、5アミノ酸以内、3アミノ酸以内、1アミノ酸)である。また、配列番号5〜7などのドメインのアミノ酸配列において、「1もしくは複数」とは、通常、6アミノ酸以内であり、好ましくは5アミノ酸以内であり、更に好ましくは4アミノ酸以内(例えば、3アミノ酸以内、2アミノ酸以内、1アミノ酸)である。キメラタンパク質の本発明の生物学的活性を維持する場合、変異するアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸およびアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ離(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。これらは本明細書において「保存的置換」ともいう。なお、あるアミノ酸配列に対する1または複数個のアミノ酸残基の欠失、付加および/または他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するタンパク質がその生物学的活性を維持することは公知である(Mark,D.F.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1984)81,5662−5666、Zoller,M.J.& Smith,M.Nucleic Acids Research(1982)10,6487−6500、Wang,A.et al.,Science 224,1431−1433、Dalbadie−McFarland,G.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1982)79,6409−6413)。したがって、本発明の一実施形態において「数個」は、例えば、10、8、6、5、4、3、または2個であってもよく、それらいずれかの値以下であってもよい。欠失等がなされたキメラタンパク質は、例えば、部位特異的変異導入法、ランダム変異導入法、または抗体ファージライブラリを用いたバイオパニング等によって作製できる。部位特異的変異導入法としては、例えばKOD−Plus− Mutagenesis Kit (TOYOBO CO., LTD.)を使用できる。欠失等を導入した変異型抗体から、野生型と同様の活性のある抗体を選択することは、FACS解析やELISA等の各種キャラクタリゼーションを行うことで可能である。
【0033】
本発明の一実施形態において、本発明のキメラタンパク質のアミノ酸配列および核酸配列は、基準となる配列の、70%以上、80%以上、または90%以上の同一性または類似性を有していてもよい。本明細書において、アミノ酸配列または塩基配列について、「70%以上」は、例えば、70、75、80、85、90、95、96、97、98、99%以上などであってもよく「80%以上」は、例えば、80、85、90、95、96、97、98、99%以上であってもよく「90%以上」は、例えば、90、95、96、97、98、99%以上であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。「相同性」は、2つもしくは複数間のアミノ酸配列において相同なアミノ酸数の割合を、当該技術分野で公知の方法に従って算定してもよい。割合を算定する前には、比較するアミノ酸配列群のアミノ酸配列を整列させ、同一アミノ酸の割合を最大にするために必要である場合はアミノ酸配列の一部に間隙を導入する。整列のための方法、割合の算定方法、比較方法、およびそれらに関連するコンピュータプログラムは、当該技術分野で従来からよく知られている(例えば、BLAST、GENETYX等)。「同一性」の場合は、同一のアミノ酸の割合、「類似性」の場合は、類似するアミノ酸の割合を算出する。類似なアミノ酸としては、保存的置換が可能なアミノ酸を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0034】
本明細書において「ストリンジェント(な)条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド」とは、当該分野で慣用される周知の条件をいう。本発明のポリヌクレオチド中から選択されたポリヌクレオチドをプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法などを用いることにより、そのようなポリヌクレオチドを得ることができる。具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC(saline−sodiumcitrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウムである)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるポリヌクレオチドを意味する。「ストリンジェントな条件」は、例えば、以下の条件を採用することができる。(1)洗浄のために低イオン強度および高温度を用いる(例えば、50℃で、0.015Mの塩化ナトリウム/0.0015Mのクエン酸ナトリウム/0.1%のドデシル硫酸ナトリウム)、(2)ハイブリダイゼーション中にホルムアミド等の変性剤を用いる(例えば、42℃で、50%(v/v)ホルムアミドと0.1%ウシ血清アルブミン/0.1%フィコール/0.1%のポリビニルピロリドン/50mMのpH6.5のリン酸ナトリウムバッファー、および750mMの塩化ナトリウム、75mMクエン酸ナトリウム)、または(3)20%ホルムアミド、5×SSC、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハード液、10%硫酸デキストラン、および20mg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む溶液中で、37℃で一晩インキュベーションし、次に約37−50℃で1×SSCでフィルターを洗浄する。なお、ホルムアミド濃度は50%またはそれ以上であってもよい。洗浄時間は、5、15、30、60、もしくは120分、またはそれら以上であってもよい。ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーに影響する要素としては温度、塩濃度など複数の要素が考えられ、詳細はAusubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Wiley Interscience Publishers,(1995)を参照することができる。「高度にストリンジェントな条件」の例は、0.0015M塩化ナトリウム、0.0015Mクエン酸ナトリウム、65〜68℃、または0.015M塩化ナトリウム、0.0015Mクエン酸ナトリウム、および50%ホルムアミド、42℃である。ハイブリダイゼーション、Molecular Cloning 2nd ed.,Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1−38, DNA Cloning 1:Core Techniques, A Practical Approach, Second Edition, Oxford University Press(1995)などの実験書に記載されている方法に準じて行うことができる。ここで、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列からは、好ましくは、A配列のみまたはT配列のみを含む配列が除外される。中程度のストリンジェントな条件は、例えば、DNAの長さに基づき、当業者によって、容易に決定することができ、Sambrookら、Molecular Cloning:ALaboratory Manual、第3番、Vol.1、7.42−7.45 Cold Spring Harbor Laboratory Press,2001に示され、そしてニトロセルロースフィルターに関し、5×SSC、0.5% SDS、1.0mM EDTA(pH8.0)の前洗浄溶液、約40−50°Cでの、約50%ホルムアミド、2×SSC−6×SSC(または約42°Cでの約50%ホルムアミド中の、スターク溶液(Stark’s solution)などの他の同様のハイブリダイゼーション溶液)のハイブリダイゼーション条件、および約60°C、0.5×SSC、0.1% SDSの洗浄条件の使用が含まれる。従って、本発明において使用されるポリペプチドには、本発明で特に記載されたポリペプチドをコードする核酸分子に対して、高度または中程度でストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸分子によってコードされるポリペプチドも包含される。
【0035】
本明細書において「精製された」物質または生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その物質または生物学的因子に天然に随伴する因子の少なくとも一部が除去されたものをいう。従って、通常、精製された生物学的因子におけるその生物学的因子の純度は、その生物学的因子が通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)。本明細書中で使用される用語「精製された」は、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、よりさらに好ましくは少なくとも95重量%、そして最も好ましくは少なくとも98重量%の、同型の生物学的因子が存在することを意味する。本発明で用いられる物質または生物学的因子は、好ましくは「精製された」物質である。本明細書で使用される「単離された」物質または生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その物質または生物学的因子に天然に随伴する因子が実質的に除去されたものをいう。本明細書中で使用される用語「単離された」は、その目的に応じて変動するため、必ずしも純度で表示される必要はないが、必要な場合、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、よりさらに好ましくは少なくとも95重量%、そして最も好ましくは少なくとも98重量%の、同型の生物学的因子が存在することを意味する。本発明で用いられる物質は、好ましくは「単離された」物質または生物学的因子である。
【0036】
本明細書において「対応する」アミノ酸または核酸あるいは部分とは、あるポリペプチド分子またはポリヌクレオチド分子(例えば、ロドプシン)において、比較の基準となるポリペプチドまたはポリヌクレオチドにおける所定のアミノ酸またはヌクレオチドあるいは部分と同様の作用を有するか、または有することが予測されるアミノ酸またはヌクレオチドをいい、特に酵素分子にあっては、活性部位中の同様の位置に存在し触媒活性に同様の寄与をするアミノ酸をいい、複合分子にあっては対応する部分(例えば、ヘパラン硫酸等)をいう。例えば、アンチセンス分子であれば、そのアンチセンス分子の特定の部分に対応するオルソログにおける同様の部分であり得る。対応するアミノ酸は、例えば、システイン化、グルタチオン化、S−S結合形成、酸化(例えば、メチオニン側鎖の酸化)、ホルミル化、アセチル化、リン酸化、糖鎖付加、ミリスチル化などがされる特定のアミノ酸であり得る。あるいは、対応するアミノ酸は、二量体化を担うアミノ酸であり得る。このような「対応する」アミノ酸または核酸は、一定範囲にわたる領域またはドメインであってもよい。従って、そのような場合、本明細書において「対応する」領域またはドメインと称される。このような対応する領域またはドメインは、本発明において複合分子を設計する場合に有用である。
【0037】
本明細書において「対応する」遺伝子(例えば、ポリヌクレオチド配列または分子)とは、ある種において、比較の基準となる種における所定の遺伝子と同様の作用を有するか、または有することが予測される遺伝子(例えば、ポリヌクレオチド配列または分子)をいい、そのような作用を有する遺伝子が複数存在する場合、進化学的に同じ起源を有するものをいう。従って、ある遺伝子に対応する遺伝子は、その遺伝子のオルソログであり得る。従って、ヒトのロドプシンは、それぞれ、他の動物(特に哺乳動物)において、対応するロドプシンを見出すことができる。そのような対応する遺伝子は、当該分野において周知の技術を用いて同定することができる。従って、例えば、ある動物(例えば、マウス)における対応する遺伝子は、対応する遺伝子の基準となる遺伝子(例えば、ロドプシン等)は、配列番号1〜17等の配列をクエリ配列として用いてその動物の配列を含むデータベースを検索することによって見出すことができる。
【0038】
本明細書において「フラグメント」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1〜n−1までの配列長さを有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50、75、100およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。本明細書において、このようなフラグメントは、例えば、全長のものがマーカーまたは標的分子として機能する場合、そのフラグメント自体もまたマーカーまたは標的分子としての機能を有する限り、本発明の範囲内に入ることが理解される。
【0039】
本発明に従って、用語「活性」は、本明細書において、最も広い意味での分子の機能を指す。活性は、限定を意図するものではないが、概して、分子の生物学的機能、生化学的機能、物理的機能または化学的機能を含む。活性は、例えば、酵素活性、他の分子と相互作用する能力、および他の分子の機能を活性化するか、促進するか、安定化するか、阻害するか、抑制するか、または不安定化する能力、安定性、特定の細胞内位置に局在する能力を含む。適用可能な場合、この用語はまた、最も広い意味でのタンパク質複合体の機能にも関する。本明細書では、「生物学的活性」は、光反応の活性化などを含む。
【0040】
本明細書において「機能的等価物」とは、対象となるもとの実体に対して、目的となる機能が同じであるが構造が異なる任意のものをいう。従って、「ロドプシン」またはそのキメラの機能的等価物は、ロドプシンまたはそのキメラ自体ではないが、ロドプシンまたはそのキメラの変異体または改変体(例えば、アミノ酸配列改変体等)であって、ロドプシンまたはそのキメラの持つ生物学的作用を有するもの、ならびに、作用する時点において、ロドプシンまたはその抗体自体またはこのロドプシンまたはそのキメラの変異体もしくは改変体に変化することができるもの(例えば、ロドプシンまたはそのキメラまたはロドプシンまたはそのキメラ変異体もしくは改変体をコードする核酸、およびその核酸を含むベクター、細胞等を含む)が包含されることが理解される。本発明の機能的等価物としては、アミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸の挿入、置換および/もしくは欠失、またはその一方もしくは両末端への付加されたものを用いることができる。本明細書において、「アミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸の挿入、置換および/もしくは欠失、またはその一方もしくは両末端への付加」とは、部位特異的突然変異誘発法等の周知の技術的方法により、あるいは天然の変異により、天然に生じ得る程度の複数個の数のアミノ酸の置換等により改変がなされていることを意味する。改変アミノ酸配列は、例えば1〜30個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜9個、さらに好ましくは1〜5個、特に好ましくは1〜2個のアミノ酸の挿入、置換、もしくは欠失、またはその一方もしくは両末端への付加がなされたものであることができる。改変アミノ酸配列は、好ましくは、そのアミノ酸配列が、ロドプシンのアミノ酸配列において1または複数個(好ましくは1もしくは数個または1、2、3、もしくは4個)の保存的置換を有するアミノ酸配列であってもよい。
【0041】
本明細書において「薬剤」、「剤」または「因子」(いずれも英語ではagentに相当する)は、広義には、交換可能に使用され、意図する目的を達成することができる限りどのような物質または他の要素(例えば、光、放射能、熱、電気などのエネルギー)でもあってもよい。そのような物質としては、例えば、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸(例えば、cDNA、ゲノムDNAのようなDNA、mRNAのようなRNAを含む)、ポリサッカリド、オリゴサッカリド、脂質、有機低分子(例えば、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、有機低分子、コンビナトリアルケミストリで合成された分子、医薬品として利用され得る低分子(例えば、低分子リガンドなど)など)、これらの複合分子が挙げられるがそれらに限定されない。
【0042】
経口投与の場合、錠剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、カプセル剤等の種々の形状に製剤化して用いてもよく、製剤中に一般に使用される結合剤、包含剤、賦形剤、滑沢剤、崩壊剤、湿潤剤のような添加剤を含有させてもよい。また、これらのほか、経口投与の場合における製剤は、内用水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤等の液体状態として製剤化してもよく、使用時に再溶解される乾燥状態のものとして製剤化してもよい。
【0043】
非経口投与の場合、単位投与量アンプルもしくは多投与量容器またはチューブ内に収容された状態に製剤化してもよく、また、安定剤、緩衝剤、保存剤、等張化剤等の添加剤も含有させてもよい。また、非経口投与の場合における製剤は、使用時に、適当な担体(滅菌水等)で再溶解可能な粉体に製剤化されてもよい。
【0044】
非経口投与としては、硝子体内投与、結膜下投与、前房内投与、点眼投与等が挙げられ、硝子体内投与であることが好ましい。本発明の組成物などは、上記で述べたような方法で、ヒトに投与することにより、治療、予防、進行抑制などに用いることができる。
【0045】
本明細書において「治療」とは、ある疾患または障害(例えば、網膜変性疾患)について、そのような状態になった場合に、そのような疾患または障害の悪化を防止、好ましくは、現状維持、より好ましくは、軽減、さらに好ましくは消退させることをいい、患者の疾患、もしくは疾患に伴う1つ以上の症状の、症状改善効果あるいは予防効果を発揮しうることを含む。事前に診断を行って適切な治療を行うことは「コンパニオン治療」といい、そのための診断薬を「コンパニオン診断薬」ということがある。本発明は、遺伝子疾患を対象とするため、事前に遺伝子を検査して、患者を治療してもよい。
【0046】
本明細書において「治療薬(剤)」とは、広義には、目的の状態(例えば、網膜変性疾患など)を治療できるあらゆる薬剤をいう。本発明の一実施形態において「治療薬」は、有効成分と、薬理学的に許容される1つもしくはそれ以上の担体とを含む医薬組成物であってもよい。医薬組成物は、例えば有効成分と上記担体とを混合し、製剤学の技術分野において知られる任意の方法により製造できる。また治療薬は、治療のために用いられる物であれば使用形態は限定されず、有効成分単独であってもよいし、有効成分と任意の成分との混合物であってもよい。また上記担体の形状は特に限定されず、例えば、固体または液体(例えば、緩衝液)であってもよい。
【0047】
本明細書において「予防」とは、ある疾患または障害(例えば、網膜変性疾患)について、そのような状態になる前に、そのような状態にならないようにすることをいう。本発明の薬剤を用いて、診断を行い、必要に応じて本発明の薬剤を用いて例えば、網膜変性疾患等の予防をするか、あるいは予防のための対策を講じることができる。本明細書において「予防薬(剤)」とは、広義には、目的の状態(例えば、網膜変性疾患等の疾患など)を予防できるあらゆる薬剤をいう。
【0048】
本明細書において「キット」とは、通常2つ以上の区画に分けて、提供されるべき部分(例えば、検査薬、診断薬、治療薬、抗体、標識、説明書など)が提供されるユニットをいう。安定性等のため、混合されて提供されるべきでなく、使用直前に混合して使用することが好ましいような組成物の提供を目的とするときに、このキットの形態は好ましい。そのようなキットは、好ましくは、提供される部分(例えば、検査薬、診断薬、治療薬をどのように使用するか、あるいは、試薬をどのように処理すべきかを記載する指示書または説明書を備えていることが有利である。本明細書においてキットが試薬キットとして使用される場合、キットには、通常、検査薬、診断薬、治療薬、抗体等の使い方などを記載した指示書などが含まれる。
【0049】
本明細書における「有効成分」は、本発明の組成物などが目的とする治療、予防または進行抑制などの効果を得るために必要な量で含有される成分を指し、効果が所望のレベル未満にまで損なわれない限りにおいて、他の成分も含有されてよい。また、本発明の医薬、組成物などは製剤化されたものであってもよい。また、本発明の医薬、組成物などの投与経路は、経口または非経口のいずれであってもよく、製剤の形態等に応じて適宜設定することができる。
【0050】
本明細書において「指示書」(添付文書や米国FDAが利用するラベルなどを含む)は、本発明を使用する方法を医師または他の使用者に対する説明を記載したものである。この指示書は、本発明の検出方法、診断薬の使い方、または医薬などを投与することを指示する文言が記載されている。また、指示書には、投与部位として、経口、網膜への投与(例えば、注射などによる)することを指示する文言が記載されていてもよい。この指示書は、本発明が実施される国の監督官庁(例えば、日本であれば厚生労働省、米国であれば食品医薬品局(FDA)など)が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記される。指示書は、いわゆる添付文書(package insert)やラベル(label)であり、通常は紙媒体で提供されるが、それに限定されず、例えば、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ、電子メール)のような形態でも提供され得る。
【0051】
(好ましい実施形態)
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、本発明の以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができることが理解される。
【0052】
(キメラロドプシン)
一つの局面において、本発明は、キメラロドプシンの新規用途および核酸分子を提供する。本発明で用いられるキメラロドプシンは、本発明の目的を達成することができる限り、どのようなものでもよい。本発明で用いられるキメラロドプシンは、代表的には、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質である。代表的な例を説明すると、繰り返し使用できる微生物由来のイオン輸送型受容体ロドプシンに、動物由来のGタンパク質共役型受容体ロドプシンを融合することで、微生物由来のイオン輸送型受容体イオンチャネル型受容体ロドプシンが持つ繰り返し活性化する機能を保持しつつ、Gタンパク質共役型受容体による内在性のGタンパク質を介した高い活性を得ることができ、優れた網膜の疾患、障害および症状に対する治療、改善、および予防、進行抑制効果を達成することができる。
【0053】
1つの実施形態では、本発明のキメラタンパク質において用いられるイオン輸送型受容体ロドプシンとしては、イオンポンプ型受容体ロドプシン、イオンチャネル型受容体ロドプシンを使用することができる。好ましい実施形態では、イオン輸送型受容体ロドプシンとしては微生物由来のものが好ましく、例えば、例えば、シアノバクテリア(藍色細菌)のものが代表的であり、例えば、グロエオバクター(Gloeobacter)属等の真正細菌、ボルボックス(Volvox)属、クラミドモナス(Chlamydomonas)属、グィラルディア(Guillardia)属等の真核生物等に属する微生物由来のロドプシンが挙げられる。グロエオバクター(Gloeobacter)属としては、グロエオバクター・ビオラセウス(Gloeobacter violaceus)等が挙げられる。ボルボックス(Volvox)属としては、ボルボックス・カルテリ(Volvox carteri)等が挙げられる。クラミドモナス(Chlamydomonas)属としては、クラミドモナス・ラインハーティ(Chlamydomonas reinhardtii)等が挙げられる。グィラルディア(Guillardia)属としては、グィラルディア・セータ(Guillardia theta)等が挙げられる。
【0054】
1つの実施形態では、本発明のキメラタンパク質において用いられるGタンパク質共役型受容体ロドプシンとしては、動物由来のものが代表的であり、げっ歯類、偶蹄類、奇蹄類、霊長類、食肉類などに由来するロドプシンが好ましく、より好ましくは偶蹄類または霊長類が好ましくさらに好ましくは霊長類のロドプシンが好ましい。また、好ましいGタンパク質共役型受容体ロドプシンとしては、例えば、ウシ、ヒト、マウス、ラット、ネコ、イヌ、ブタ、ヒツジ、ウマ等由来のロドプシンが挙げられる。これらのうち、ウシまたはヒト由来のロドプシンが、特に好ましい。
【0055】
特定の実施形態では、本発明のキメラタンパク質は、イオン輸送型受容体ロドプシンとGタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質であり、7回膜貫通型構造を有する。本発明において、イオン輸送型受容体ロドプシンとGタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質は、イオン輸送型受容体ロドプシンを繰り返し活性化させる機能とGタンパク質共役型受容体ロドプシンによるGタンパク活性の両方を高く有するように設計されることが好ましい。この観点で、両者の活性を高く維持し、特に、高い視覚機能再生能を奏することから、本発明のキメラタンパク質は、イオン輸送型受容体ロドプシンのアミノ酸配列のうち、細胞質側の第2ループおよび/または細胞質側の第3ループのアミノ酸配列が、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンの細胞質側の第2ループおよび/または細胞質側の第3ループのアミノ酸配列に置き換えられたものであることが好ましい。なお、「細胞質側の第2ループ」、「細胞質側の第3ループ」とは、それぞれが7つのループのうちN末端側から2番目、N末端側から3番目に位置するループのことを指す。
【0056】
1つの実施形態では、本発明のキメラタンパク質は、配列番号8(GR)のアミノ酸配列の132番目に相当するグルタミン酸がグルタミンに置換されたアミノ酸配列を有することが有利である。グルタミン置換されたアミノ酸配列の例は、配列番号1、2および配列番号10がコードするアミノ酸配列等を挙げることができるがそれらに限定されない。
【0057】
本発明のDNA等の核酸を取得する方法としては、特に限定されないが、mRNAから逆転写することでcDNAを得る方法(例えば、RT−PCR法)、ゲノムDNAから調製する方法、化学合成により合成する方法、ゲノムDNAライブラリーやcDNAライブラリーから単離する方法等の公知の方法(例えば、特開平11−29599号公報参照)が挙げられる。
【0058】
本明細書において、キメラタンパク質の調製は、例えば、前述のキメラタンパク質をコードするDNA等の核酸を含む発現ベクターが導入された形質転換体を使用することで行うことができる。例えば、まず、この形質転換体を適宜の条件で培養し、このDNA等の核酸がコードするキメラタンパク質を合成させる。そして、合成されたタンパク質を形質転換体または培養液から回収することにより、本発明のキメラタンパク質を得ることができる。
【0059】
より具体的に説明すると、適当な発現ベクターに上述のキメラタンパク質をコードするDNAを挿入することにより、作製できる。「適当なベクター」とは、原核生物および/または真核生物の各種の宿主内で複製保持または自己増殖できるものであればよく、使用の目的に応じて適宜選択できるものである。例えば、DNA等の核酸を大量に取得したい場合には高コピーベクターを選択でき、ポリペプチド(キメラタンパク質)を取得したい場合には発現ベクターを選択できる。その具体例としては、特に限定されず、例えば、特開平11−29599号公報に記載された公知のベクターが挙げられる。
【0060】
また、発現ベクターは、キメラタンパク質を合成するのみならず、本発明の組成物などにおいても利用することができる。すなわち、本発明の組成物などは、上述のキメラタンパク質のアミノ酸配列をコードする核酸が組み込まれた発現ベクターを有効成分として含有するものであってもよい。かかる発現ベクターをヒトに直接導入することで、網膜の疾患、障害または症状の治療、予防および進行抑制などに用いることができる。この場合におけるベクターは、ヒトの細胞内に導入可能なベクターを用いる。かかるベクターとしては、例えば、アデノ随伴ウイルスベクター(AAVベクター)、レンチウイルスベクターが好適である。
【0061】
ベクターの導入方法は、ベクターや宿主の種類等に応じて適宜選択できる。その具体例としては、特に限定されないが、例えば、細菌を宿主とした場合、プロトプラスト法、コンピテント法等の公知の方法(例えば、特開平11−29599号公報参照)が挙げられる。また、発現ベクターを本発明の視覚機能再生剤または視覚機能低下予防剤の有効成分として用いる場合、例えば、上述のAAVベクター等を眼内に注射することで導入することができる。
【0062】
発現ベクターを導入する宿主は、発現ベクターに適合し形質転換され得るものであればよく、その具体例としては、特に限定されないが、細菌、酵母、動物細胞、昆虫細胞等の、公知の天然細胞もしくは人工的に樹立された細胞(特開平11−29599号公報参照)、あるいは、ヒト、マウス等の動物が挙げられる。形質転換体の培養は、キメラタンパク質が大量にかつ容易に取得できるように、形質転換体の種類等に応じて、公知の栄養培地から適宜選択し、温度、栄養培地のpH、培養時間等を適宜調整して行うことができる(例えば、特開平11−29599号公報参照)。
【0063】
キメラタンパク質の単離方法および精製方法としては、特に限定されず、溶解度を利用する方法、分子量の差を利用する方法、荷電を利用する方法等の公知の方法(例えば、特開平11−29599号公報参照)が挙げられる。
【0064】
具体的な実施形態では、本発明のキメラタンパク質は、以下のいずれかのアミノ酸配列:
(a)配列番号1〜4に記載のアミノ酸配列またはそのフラグメント;
(b)(a)に対して少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列;
(c)(a)または(b)に対して1または複数のアミノ酸が置換、付加および/または欠失を有するアミノ酸配列;
を有し、かつ、生物学的活性を有するか、あるいは、本発明のキメラタンパク質は、以下のいずれかに記載の核酸がコードするアミノ酸配列を有するものが好ましい:
(aa)配列番号1〜4のいずれかに記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列または配列番号10に記載される塩基配列を有する核酸
(bb)配列番号1〜4のいずれかに記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列または配列番号10に記載される塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有する核酸
(cc)配列番号1〜4のいずれかに記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失および/または付加されたアミノ酸配列をコードする塩基配列を有し、かつ、生物学的活性を有する、核酸
(dd)配列番号1〜4のいずれかに記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列からなり、かつ、生物学的活性を有する核酸;あるいは
(aaa)配列番号10に記載の塩基配列またはそのフラグメント;
(bbb)(aaa)に対して少なくとも80%の同一性を有する核酸;
(ccc)(aaa)または(bbb)に対して1または複数のヌクレオチドが置換、付加および/または欠失を有する塩基配列;
(ddd)(aaa)〜(ccc)のいずれかに対してストリンジェント条件下でハイブリダイズする塩基配列、
を有し、かつ、該キメラタンパク質が生物学的活性を有する核酸。
【0065】
1つの実施形態では、本発明のキメラタンパク質をコードする核酸は、以下の何れかであることが好ましい:
(aaa)配列番号10に記載の塩基配列またはそのフラグメント;
(bbb)(aaa)に対して少なくとも80%の同一性を有する核酸;
(ccc)(aaa)または(bbb)に対して1または複数のヌクレオチドが置換、付加および/または欠失を有する塩基配列;
(ddd)(aaa)〜(ccc)のいずれかに対してストリンジェント条件下でハイブリダイズする塩基配列、
を有し、かつ、該キメラタンパク質が生物学的活性を有する。
【0066】
あるいは、上述のGタンパク質共役型受容体ロドプシンの細胞質側の第2ループとしては、以下に記載の核酸がコードするアミノ酸配列を有するものが好ましい。
【0067】
(i)配列番号5または6に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する核酸;
(ii)配列番号5または6に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有する核酸;
(iii)配列番号5または6に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失および/または付加されたアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する核酸;
(iv)配列番号5または6に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる核酸;
あるいは、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンの細胞質側の第2ループをコードする核酸が、以下の何れかであることが好ましい。
【0068】
(i)配列番号5または6に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する核酸
(ii)配列番号5または6に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有する核酸
(iii)配列番号5または6に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失および/または付加されたアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する核酸
(iv)配列番号5または6に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる核酸
(x)配列番号11または配列番号12に記載の塩基配列またはそのフラグメントを有する核酸;
(y)(x)に対して少なくとも80%の同一性を有する核酸;
(z)(x)または(y)に対して1または複数のヌクレオチドが置換、付加および/または欠失を有する核酸;
(w)(x)〜(z)のいずれかに対してストリンジェント条件下でハイブリダイズする核酸、
を有し、かつ、該ループが生物学的活性を有する。
【0069】
上述のGタンパク質共役型受容体ロドプシンの細胞質側の第3ループとしては、以下のいずれかに記載の核酸がコードするアミノ酸配列を有するものが好ましい:
(l)配列番号7に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する核酸;
(k)配列番号7に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有する核酸;
(m)配列番号7に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失および/または付加されたアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する核酸;
(n)配列番号7に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる核酸。
【0070】
あるいは、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンの細胞質側の第3ループをコードする核酸が、以下の何れかであることが好ましい:
(l)配列番号7に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する核酸;
(k)配列番号7に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有する核酸;
(m)配列番号7に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失および/または付加されたアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する核酸;
(n)配列番号7に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる核酸;
(xx)配列番号13に記載の塩基配列またはそのフラグメントを有する核酸;
(yy)(xx)に対して少なくとも80%の同一性を有する核酸;
(zz)(xx)または(yy)に対して1または複数のヌクレオチドが置換、付加および/または欠失を有する核酸;あるいは
(ww)(xx)〜(zz)のいずれかに対してストリンジェント条件下でハイブリダイズする核酸、
を有し、かつ、該ループが生物学的活性を有する。
【0071】
本発明はまた、以下:
(a)配列番号10に記載の塩基配列またはそのフラグメントを有する核酸;
(b)(a)に対して少なくとも80%の同一性を有する核酸;
(c)(a)または(b)に対して1または複数のヌクレオチドが置換、付加および/または欠失を有する核酸;
(d)(a)〜(c)のいずれかに対してストリンジェント条件下でハイブリダイズする核酸、
のうちの1つを有する核酸であって、該核酸がコードするタンパク質が生物学的活性を有する、核酸をも提供する。
【0072】
本明細書において「生物学的活性」の代表例としては、そのループが持つGタンパク質共役型受容体の機能(例えば、膜移行効率)を挙げることができ、このほか、網膜疾患(例えば、網膜色素変性症)の予防および進行抑制、視覚認知行動機能(例えば、明暗判定機能の改善、明所忌避機能の改善および/または危機回避機能)、および視力増強の効果を発揮することができる機能を挙げることができる。ループの場合の生物学的活性は、立体構造的相性および膜移行効率などの機能を挙げることができるがそれらに限定されない。あるいは、ループの機能は、組み込まれたタンパク質全体(ここではロドプシン)の機能で評価してもよい。
【0073】
本発明において、本発明のキメラタンパク質およびそれをコードする核酸に、網膜の疾患、障害または症状を予防またはその進行を抑制する用途、視覚認知行動機能(例えば、明暗判定機能の改善、明所忌避機能の改善および/または危機回避機能)の改善する用途、および視力改善などの視覚機能増強効果をもたらすための用途が見いだされた。
【0074】
現在に至るまで治療法がない眼疾患の一つとして、網膜色素変性症・萎縮型加齢黄斑変性をはじめとする網膜変性疾患があるが、これらの根本治療が本発明によって提供される可能性がある。世界的には患者数は合計で1億3千万人超といわれ、我が国では網膜色素変性症は中途失明原因の第3位、加齢黄斑変性は第4位を占めており、その患者数の多さや視覚障害の重さから治療法の開発が大きく望まれていたが、本発明により解決される可能性がある。
【0075】
視覚の1次ニューロンである視細胞は中枢神経と同様、一度失われてしまうと再生することができないが、網膜色素変性症や萎縮型加齢黄斑変性では視覚の2次・3次ニューロンに当たる双極細胞や網膜神経節細胞は保たれているため、本発明が奏効する一因になるものと考えられる。本発明は、少ない侵襲で安全かつ長期的な視覚再生効果が期待できるオプトジェネティクスを利用した遺伝子導入治療である。従来の光活性化イオンチャネルを導入する手法とは全く異なり、内在性のGタンパク質シグナルカスケードとチャネルを利用する本来のより生理的な光伝達経路を使うことで、効率が高く安全な視覚再生が可能となった。従来の光活性化イオンチャネルを導入する手法は網膜変性の既に進行してしまった患者を対象とした再生であったが、本法は通常の光伝達に必要なVisualCycleというレチナールの代謝再生系を必要としないため、網膜変性の進行抑制効果も期待できる。これによって、既に網膜変性の進行した患者だけでなく、初期段階の患者の進行予防にも応用できることが実証された。
【0076】
(網膜疾患、障害または症状の予防または進行抑制)
1つの局面において、本発明は、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質をコードする核酸を含む、網膜の疾患、障害または症状を予防またはその進行を抑制するための組成物を提供する。本発明のこの局面で用いられるキメラタンパク質は、(キメラロドプシン)に記載の任意の実施形態を利用することができる。本発明において、網膜変性色素症の進行抑制に代表される、網膜の疾患、障害または症状を予防またはその進行を抑制については、実施例1、
図1および2に示す視細胞の菲薄化実験によって実証したことによって確認されたものである。
【0077】
別の局面において、本発明は、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質を含む、網膜の疾患、障害または症状を予防またはその進行を抑制するための組成物を提供する。本発明のこの局面で用いられるキメラタンパク質は、(キメラロドプシン)に記載の任意の実施形態を利用することができる。
【0078】
さらに別の局面において、網膜の疾患、障害または症状を予防またはその進行を抑制するための、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質をコードする核酸、あるいは、網膜の疾患、障害または症状を予防またはその進行を抑制するための、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質を提供する。本発明のこの局面で用いられるキメラタンパク質は、(キメラロドプシン)に記載の任意の実施形態を利用することができる。
【0079】
さらに別の局面において、本発明は、被験体において網膜の疾患、障害または症状を予防またはその進行を抑制する方法であって、該方法は、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質をコードする核酸の有効量を該被験体に投与する工程を含む、方法、あるいは、被験体において網膜の疾患、障害または症状を予防またはその進行を抑制するための方法であって、該方法は、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質の有効量を該被験体に投与する工程を含む、方法を提供する。本発明のこの局面で用いられるキメラタンパク質は、(キメラロドプシン)に記載の任意の実施形態を利用することができる。
【0080】
さらに別の局面において、本発明は、網膜の疾患、障害または症状を予防またはその進行を抑制するための医薬の製造における、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質をコードする核酸の使用または網膜の疾患、障害または症状を予防またはその進行を抑制するための医薬の製造における、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質の使用を提供する。
【0081】
1つの実施形態では、前記疾患、障害または症状は、網膜変性疾患であり、網膜変性疾患としては、例えば、網膜色素変性症や加齢性黄斑変性などが好ましく、より好ましくは、網膜色素変性症が有利である。
【0082】
好ましい実施形態では、本発明が対象とする網膜色素変性症は、常染色体優性遺伝性であり、好ましくはRHO常染色体優先遺伝性である。
【0083】
好ましい実施形態では、本発明は網膜色素変性症の予防または進行抑制をする用途に用いられる。
【0084】
好ましい実施形態では、本発明は、疾患、障害または症状の発症前または発症直後、例えば、発症(例えば、自覚症状が現れる)から、1年以内、好ましくは、6カ月以内、3カ月以内、1カ月以内に被験体に投与されることが好ましいがこれらに限定されるものではない。
【0085】
1つの特定の実施形態では、本発明の組成物またはベクターは、1回投与される。本発明は1回投与することで、効果を奏することが確認されており、患者に対するコンプライアンスもよいと考えられる。
【0086】
1つの特定の実施形態では、本発明のベクターの使用量は、0.1×10
11〜10×10
11vg/眼の単位用量であり、例えば、下限は、0.01×10
11vg/眼、0.02×10
11vg/眼、0.03×10
11vg/眼、0.04×10
11vg/眼、0.05×10
11vg/眼、0.06×10
11vg/眼、0.07×10
11vg/眼、0.08×10
11vg/眼、0.09×10
11vg/眼、0.1×10
11vg/眼、0.2×10
11vg/眼、0.3×10
11vg/眼、0.4×10
11vg/眼、0.5×10
11vg/眼などであり得、上限は、2×10
11vg/眼、3×10
11vg/眼、4×10
11vg/眼、5×10
11vg/眼、6×10
11vg/眼、7×10
11vg/眼、8×10
11vg/眼、9×10
11vg/眼、10×10
11vg/眼、15×10
11vg/眼、20×10
11vg/眼、30×10
11vg/眼、40×10
11vg/眼、50×10
11vg/眼、などであり得る。
【0087】
(視覚認知行動機能の改善)
1つの局面では、本発明は、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質をコードする核酸を含む、視覚認知行動機能(例えば、明暗判定機能の改善、明所忌避機能の改善および/または危機回避機能)の改善のための組成物を提供する。この局面において使用されるキメラタンパク質は、(キメラロドプシン)の項に記載される任意の実施形態を用いることができる。また、この局面で用いられる治療形態は、(網膜疾患、障害または症状の予防または進行抑制)の項に記載される任意の実施形態が応用可能であることが理解される。視覚認知行動機能(例えば、明暗判定機能の改善、明所忌避機能の改善および/または危機回避機能)の改善などの機能は、本発明において実験モデルを以て検証されており、顕著な効果を奏するといえる。視覚認知行動機能(例えば、明暗判定機能の改善、明所忌避機能の改善および/または危機回避機能)の効果は、実施例2(
図3参照)で実証した、明暗箱選択試験(LDT)による試験の結果、実証されたものである。視覚認知行動機能は、視覚器官の光感受性の確認のみならず、実際に動物モデルなどで行動として現れるかを検証することによって確認することができる機能である。実施例2(
図3参照)のような実験での検証ができたことが本発明の成果の一つであるといえる。視覚認知行動機能の改善は、視力、コントラスト感度、明暗順応、色覚等の改善、強化または増強等を含む。
【0088】
別の局面では、本発明は、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質を含む、視覚認知行動機能(例えば、明暗判定機能の改善、明所忌避機能の改善および/または危機回避機能)の改善のための組成物を提供する。この局面において使用されるキメラタンパク質は、(キメラロドプシン)の項に記載される任意の実施形態を用いることができる。また、この局面で用いられる治療形態は、(網膜疾患、障害または症状の予防または進行抑制)の項に記載される任意の実施形態が応用可能であることが理解される。
【0089】
別の局面では、本発明は、視覚認知行動機能(例えば、明暗判定機能の改善、明所忌避機能の改善および/または危機回避機能)の改善のための、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質をコードする核酸を提供する。この局面において使用されるキメラタンパク質は、(キメラロドプシン)の項に記載される任意の実施形態を用いることができる。また、この局面で用いられる治療形態は、(網膜疾患、障害または症状の予防または進行抑制)の項に記載される任意の実施形態が応用可能であることが理解される。
【0090】
さらに別の局面では、本発明は、視覚認知行動機能(例えば、明暗判定機能の改善、明所忌避機能の改善および/または危機回避機能)の改善のための、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質を提供する。この局面において使用されるキメラタンパク質は、(キメラロドプシン)の項に記載される任意の実施形態を用いることができる。また、この局面で用いられる治療形態は、(網膜疾患、障害または症状の予防または進行抑制)の項に記載される任意の実施形態が応用可能であることが理解される。
【0091】
別の局面では、本発明は、被験体において視覚認知行動機能(例えば、明暗判定機能の改善、明所忌避機能の改善および/または危機回避機能)の改善するための方法であって、該方法は、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質をコードする核酸の有効量を該被験体に投与する工程を含む、方法を提供する。この局面において使用されるキメラタンパク質は、(キメラロドプシン)の項に記載される任意の実施形態を用いることができる。また、この局面で用いられる治療形態は、(網膜疾患、障害または症状の予防または進行抑制)の項に記載される任意の実施形態が応用可能であることが理解される。
【0092】
さらに別の局面では、本発明は、被験体において視覚認知行動機能(例えば、明暗判定機能の改善、明所忌避機能の改善および/または危機回避機能)の改善をするための方法であって、該方法は、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質の有効量を該被験体に投与する工程を含む、方法を提供する。この局面において使用されるキメラタンパク質は、(キメラロドプシン)の項に記載される任意の実施形態を用いることができる。また、この局面で用いられる治療形態は、(網膜疾患、障害または症状の予防または進行抑制)の項に記載される任意の実施形態が応用可能であることが理解される。
【0093】
さらに別の局面では、本発明は、視覚認知行動機能(例えば、明暗判定機能の改善、明所忌避機能の改善および/または危機回避機能)の改善のための医薬の製造における、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質をコードする核酸の使用を提供する。この局面において使用されるキメラタンパク質は、(キメラロドプシン)の項に記載される任意の実施形態を用いることができる。また、この局面で用いられる治療形態は、(網膜疾患、障害または症状の予防または進行抑制)の項に記載される任意の実施形態が応用可能であることが理解される。
【0094】
さらに別の局面では、本発明は、視覚認知行動機能(例えば、明暗判定機能の改善、明所忌避機能の改善および/または危機回避機能)の改善のための医薬の製造における、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質の使用を提供する。この局面において使用されるキメラタンパク質は、(キメラロドプシン)の項に記載される任意の実施形態を用いることができる。また、この局面で用いられる治療形態は、(網膜疾患、障害または症状の予防または進行抑制)の項に記載される任意の実施形態が応用可能であることが理解される。
【0095】
(視覚機能強化および視力改善)
また一つの局面では、本発明は、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質をコードする核酸を含む、視力改善のための組成物を提供する。この局面において使用されるキメラタンパク質は、(キメラロドプシン)の項に記載される任意の実施形態を用いることができる。また、この局面で用いられる治療形態は、(網膜疾患、障害または症状の予防または進行抑制)の項に記載される任意の実施形態が応用可能であることが理解される。視力改善の機能は、本発明において実験モデルを以て検証されており、顕著な効果を奏するといえる。視力改善などの視覚機能強化については、実施例3および
図4に代表される視覚誘発電位VEPの実験により実証されたことにより確認されたものである。
【0096】
別の局面において、本発明は、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質を含む、視覚機能強化(例えば、視力改善)のための組成物を提供する。この局面において使用されるキメラタンパク質は、(キメラロドプシン)の項に記載される任意の実施形態を用いることができる。また、この局面で用いられる治療形態は、(網膜疾患、障害または症状の予防または進行抑制)の項に記載される任意の実施形態が応用可能であることが理解される。
【0097】
さらに別の局面では、本発明は、視覚機能強化(例えば、視力改善)のための、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質をコードする核酸を提供する。この局面において使用されるキメラタンパク質は、(キメラロドプシン)の項に記載される任意の実施形態を用いることができる。また、この局面で用いられる治療形態は、(網膜疾患、障害または症状の予防または進行抑制)の項に記載される任意の実施形態が応用可能であることが理解される。
【0098】
さらに別の局面では、本発明は、視覚機能強化(例えば、視力改善)のための、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質を提供する。この局面において使用されるキメラタンパク質は、(キメラロドプシン)の項に記載される任意の実施形態を用いることができる。また、この局面で用いられる治療形態は、(網膜疾患、障害または症状の予防または進行抑制)の項に記載される任意の実施形態が応用可能であることが理解される。
【0099】
さらに別の局面では、本発明は、被験体において視覚機能強化(例えば、視力改善)するための方法であって、該方法は、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質をコードする核酸の有効量を該被験体に投与する工程を含む、方法を提供する。この局面において使用されるキメラタンパク質は、(キメラロドプシン)の項に記載される任意の実施形態を用いることができる。また、この局面で用いられる治療形態は、(網膜疾患、障害または症状の予防または進行抑制)の項に記載される任意の実施形態が応用可能であることが理解される。
【0100】
さらに別の局面では、本発明は、被験体において視覚機能強化(例えば、視力改善)するための方法であって、該方法は、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質の有効量を該被験体に投与する工程を含む、方法を提供する。この局面において使用されるキメラタンパク質は、(キメラロドプシン)の項に記載される任意の実施形態を用いることができる。また、この局面で用いられる治療形態は、(網膜疾患、障害または症状の予防または進行抑制)の項に記載される任意の実施形態が応用可能であることが理解される。
【0101】
さらに別の局面では、本発明は、視覚機能強化(例えば、視力改善)のための医薬の製造における、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質をコードする核酸の使用を提供する。この局面において使用されるキメラタンパク質は、(キメラロドプシン)の項に記載される任意の実施形態を用いることができる。また、この局面で用いられる治療形態は、(網膜疾患、障害または症状の予防または進行抑制)の項に記載される任意の実施形態が応用可能であることが理解される。
【0102】
さらに別の局面では、本発明は、視覚機能強化(例えば、視力改善)のための医薬の製造における、イオン輸送型受容体ロドプシンと、Gタンパク質共役型受容体ロドプシンとのキメラタンパク質の使用を提供する。この局面において使用されるキメラタンパク質は、(キメラロドプシン)の項に記載される任意の実施形態を用いることができる。また、この局面で用いられる治療形態は、(網膜疾患、障害または症状の予防または進行抑制)の項に記載される任意の実施形態が応用可能であることが理解される。
【0103】
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値の範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
【0104】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0105】
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0106】
以下に実施例を記載する。必要な場合、以下の実施例で用いる動物の取り扱いは、必要な場合、慶應義塾大学その他において規定される基準および他の関連する倫理基準やガイドラインを遵守し、ヘルシンキ宣言に基づいて行った。試薬類は具体的には実施例中に記載した製品を使用したが、他メーカー(Sigma−Aldrich、和光純薬、ナカライ、R&D Systems、USCN Life Science INC等)の同等品でも代用可能である。
【0107】
(ベクター調製)
キメラタンパク(GR/BvRh)をコードするDNAは以下のように作製した。Gloeobacter violaceus Rhodopsin(GR)(配列番号8)の細胞質側の第2ループに相当するN末端より137−145番目のアミノ酸に相当する配列を、ウシロドプシン(BvRh)(配列番号9)の137−145番目のアミノ酸相当配列に置換し、また、GRの細胞質側の第3ループに相当するN末端より198−206番目のアミノ酸に相当する配列を、ウシロドプシンの225−252番目のアミノ酸相当配列に置換し、さらにGRの132番目のアミノ酸であるグルタミン酸をグルタミンに置換したキメラタンパク質をコードするDNAをpCDNA3.1ベクターに挿入した。あるいは、配列番号10に記載の塩基配列を有する核酸を生成し、これをキメラタンパク質をコードするDNAとして、pCDNA3.1ベクターHindIII/XbaIサイトに挿入した。配列番号10に記載の塩基配列は、以下のようにして生成された:Gloeobacter violaceus Rhodopsin(GR)(配列番号8)の細胞質側の第2ループに相当するN末端より137−145番目のアミノ酸に相当する配列を、ウシロドプシン(BvRh)(配列番号9)の第2ループに相当する配列番号12に示す塩基配列(配列番号6に示すアミノ酸配列をコードする)に置換し、また、GRの細胞質側の第3ループに相当するN末端より198−206番目のアミノ酸に相当する配列を、ウシロドプシンの第3ループに相当する配列番号13に示す塩基配列(配列番号7に示すアミノ酸配列をコードする)に置換して作成した。変異体の作製はクイックチェンジ法により行った。なお、ウシロドプシンにおいて採用した配列部分は、ヒトロドプシンのアミノ酸配列と完全一致するため、ヒトロドプシンと称しても問題ない。
【0108】
AAV2シャトルプラスミドに、EGFP、又はGR/BvRh遺伝子をサブクローニングし、ウイルス発現コンストラクトとして、AAV2−CAGGS−EGFP−WPRE−pA(EGFPの発現用のベクター)、及び、AAV2−CAGGS−GR/BvRh−WPRE−pA(キメラタンパク質発現用のベクター)を作製した。ウイルスベクターのパッケージングはHEK293細胞にベクタープラスミド、AAVベクタープラスミド、アデノウイルスヘルパープラスミドの3種類のプラスミドをトランスフェクションすることにより行い、ウイルスベクターの精製には塩化セシウム法を用いた。なお、ベクター中、「ITR」は、「Inverted Terminal Repeat」の略である。「CAGGS」は、CAGプロモーターの領域の配列である。「WPRE」は、「woodchuck hepatitis virus post−transcriptional regulatory element」の略である。「pA」は、ペプチド・タグを意味する。「EGFP」は、「enhanced green fluorescent protein」の略である。
【0109】
なお、実施例における数値はすべて平均±SEMを示す。
【0110】
以下、キメラロドプシン遺伝子を組み込んだアデノ随伴ウイルスベクター(AAV)(2型もしくはDJ型)を使用して、網膜色素変性症モデルマウス(rd1マウスもしくはP23Hマウス)に対して麻酔下に硝子体内注射もしくは網膜下注射を行い、網膜神経節細胞もしくは視細胞においてキメラロドプシンを発現誘導し、網膜電図(ERG)、光干渉断層像(OCT)を用いて視覚再生・予防効果の確認を行った。
【0111】
(実施例1: 視細胞の菲薄化実験)
本実施例では、視細胞の菲薄化実験を行うことにより、網膜色素変性症などの網膜変性疾患における発症予防や進行抑制効果が奏されるかを検証した。
【0112】
(方法)
(動物)
網膜色素変性症モデルとして確立されているP23Hマウス(Rho
P23H/+)を使用した。具体的には、Jackson Laboratory (Bar Harbor, ME, USA)から購入したRho
P23H/P23HマウスをC57BL/6J(日本クレア株式会社より購入)と交配させて作製した。本モデルは、網膜色素変性症の進行抑制を観察するのに適切なマウスである。
【0113】
(ベクター投与)
新生0−3日で、AAV DJ−CAGGS− Chimeric rhodopsin (GR/BvRh)−WPRE−pAベクター(キメラロドプシンのアミノ酸配列は、配列番号1であり、塩基配列は配列番号10などで表される)を1.0×10
9vg/μl濃度(ヒト換算で1.0×10
11vg/μl、)で0.5μlを網膜下注射で投与した。コントロール群には、AAV DJ−CAGGS− EGFP−WPRE−pAベクターを同量投与した。
【0114】
24日齢、31日齢で、SD−OCT(spectral domain−optical coherence tomography) system (Envisu R4310; Leica, Wetzlar, Germany.)を用いて網膜断層像を撮影した。マウスは3種混合麻酔(midazolam, medetomidine, butorphanol tartrate をそれぞれ4 mg/kg, 0.75 mg/kg and 5 mg/kg body weightで投与)で鎮静化した。
視神経乳頭から150μmの網膜視細胞層の厚みを上下耳鼻側の4方向測定し、比較した。
【0115】
同様に30日齢、42日齢において網膜電図(Electroretinogram)を測定した。
【0116】
8時間以上の暗順応の後、マウスは3種混合麻酔(midazolam, medetomidine, butorphanol tartrate をそれぞれ4 mg/kg, 0.75 mg/kg and 5 mg/kg body weightで投与)で鎮静化した。刺激はWhite LEDで桿体応答(Rod response)(0.01 cd・s・m
−2)、混合応答(Mixed response) (3.0 cd・s・m
−2)、錐体応答(Cone response)(3.0 cd・s・m
−2)3段階測定した。(各n=6)。測定機器としてはPuREC acquisition system (Mayo, Inazawa, Japan)を使用した。
【0117】
(結果)
OCTの結果:
24日齢ではコントロール群(49.6±12.4μm)、治療群(61.25±4.44μm)と両群に有意差は認められなかったが、傾向は認められた(
図1)。31日齢ではコントロール群(31.8±5.15μm)に対しキメラロドプシン遺伝子が導入マウス(50.7±2.87μm)の方が有意に視細胞層が保たれた(
図1上パネル)。
【0118】
ERGの結果:
30日齢ではすべて、キメラロドプシン遺伝子導入治療眼が振幅が大きい傾向があり(
図2、左上)、桿体応答(無治療24.5±13.2μV、治療124±43・0μV)、混合応答(無治療24.5±13.2μV、治療233±77.3μV)、錐体応答(無治療24.5±13.2μV、治療176±56.9μV)と桿体応答では有意差が認められた(
図2、左下、右上、右下)。
【0119】
42日齢になると、すべての刺激で振幅の有意差が認められた(
図2、左上)。また、桿体応答(無治療49.8±16.6μV、治療172±19.6μV)、混合応答(無治療118±28.5μV、治療295±36.2μV)、錐体応答(無治療92.6±29.2μV、治療258±24.1μV)では有意差が認められた(
図2、左下、右上、右下)。
【0120】
(考察)
本発明の例示的に使用されたキメラロドプシン遺伝子の発現によって、網膜変性の進行抑制効果が生じたものと考えられる。
【0121】
網膜電図の結果(
図1上パネル)で、桿体応答のみ30日齢から有意差が認められたのは、網膜色素変性症が桿体優位に障害が生じることを反映している可能性が考えられる。また、治療眼では30日齢より変性が進んでいるはずの42日齢の方が振幅が大きいのは、キメラロドプシン発現による光応答が加算されているためと考えられる。
【0122】
以上から、本実施例により、網膜色素変性症などの網膜変性の疾患予防または進行抑制(特に発症前、発症直後や発症初期におけるもの)が可能であることが実証された。このような効果は、臨床的に非常に顕著なものである。
【0123】
(実施例2:明暗判定機能測定)
次に、本発明が明暗判定機能に与える影響を測定した。以下に説明する。
【0124】
(材料および方法)
(動物)
別の網膜色素変性症モデルであるrd1マウス(Pde6b
rd1/rd1)を使用した。上記変異を持つ、C3H/HeJ Jclマウスを日本クレア株式会社より購入した。
【0125】
(ベクター投与)
生後10週齢以降の失明したrd1マウスに調製例で作製したAAV DJ−CAGGS− Chimeric rhodopsin (GR/BvRh)−WPRE−pAベクターを1.0×10
9vg/μl濃度(ヒト換算で1.0×10
11 vg/μl)で1μlを硝子体内注射にて投与。コントロール群には、AAV DJ−CAGGS− EGFP−WPRE−pAベクター(EGFPの発現用のベクター)を同量投与した。
【0126】
(測定)
遺伝子発現がピークを迎える注射後4週以降に測定した。明暗箱(アクリルケース 幅:415mm 高さ:300mm 奥行:250mmが仕切りで2分割されており、片方は20luxの光が入り、片方は暗室となっており5x5mmの窓で接続されている。)にマウスを入れ10分間の行動をビデオで撮影した。明所暗所の滞在時間比を測定比較した。通常マウスは光を避け、暗がりに長く滞在するが網膜変性マウスは明暗ほぼ同じ滞在時間となる。
【0127】
(結果)
健常なマウス(B6)では、明所を忌避するため、明所滞在時間は短くなる(0.137±0.062)、一方失明しているマウス(rd1)では滞在時間比はおよそ半々の0.5(0.48±0.052)となる。それに対して、治療を行ったマウスでは有意に明所での滞在時間の短縮(0.24±0.049)が認められた(
図3)。
【0128】
(考察)
本実施例で行った治療により行動実験において明暗判定機能、明所忌避機能の再生が認められた。危機回避行動能力が回復または付与されることが分かった。以上から、本実施例により、本発明が、明暗判定機能の改善、明所忌避機能の改善および/または危機回避機能などに代表される視覚認知行動機能を改善または回復することが実証された。
【0129】
(実施例3:視覚機能強化の実証)
次に、本発明が視覚機能強化(例えば、視力改善)に与える影響を視覚誘発電位VEPにより測定した。以下に説明する。
【0130】
(材料および方法)
(動物)
別の網膜色素変性症モデルであるrd1マウス(Pde6b
rd1/rd1)を使用した。上記変異を持つ、C3H/HeJ Jclマウスを日本クレア株式会社より購入した。
【0131】
(ベクター投与)
生後10週齢以降の失明したrd1マウスにAAV DJ−CAGGS− Chimeric rhodopsin (GR/BvRh)−WPRE−pAベクターを1.0×10
9 vg/μl濃度(ヒト換算で1.0×10
11 vg/μl)で1μlを硝子体内注射にて投与。コントロール群には、AAV DJ−CAGGS− EGFP−WPRE−pAベクターを同量投与した。
【0132】
(測定)
視覚誘発電位(Visual Evoked Potential :VEP)は、遺伝子発現がピークを迎える注射後4週以降に測定した。測定の1週間前にマウスに上記3種混合麻酔のうえ、測定電極を視覚野付近の頭蓋骨(ラムダ縫合より1.5mm前方かつ1.5mm側方)に埋入した。
【0133】
測定は再度3種混合麻酔で鎮静したのち、眼前3cmに設置したWhite LEDより0.1cds/m
2のフラッシュ刺激に対する誘発電位を測定した。測定機器としてはPuREC acquisition system (Mayo, Inazawa, Japan)を使用した。
【0134】
(結果)
コントロール(35.12±3.90μV)に対して、キメラ治療マウス(50.0±3.49μV)では有意な振幅の増加を認めた(
図4)。
【0135】
(考察)
治療により中枢レベルでの視覚再生効果も認められた。本実施例により、視覚機能強化(視力改善)効果が実証されたといえる。
【0136】
(注記)
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される
【産業上の利用可能性】
【0137】
網膜疾患の予防および進行抑制、視覚認知行動機能(例えば、明暗判定機能の改善、明所忌避機能の改善および/または危機回避機能)、および視力増強のための医薬が提供された。このような技術に基づく産業(製薬等)において利用可能な技術が提供される。
【配列表フリーテキスト】
【0138】
配列番号1:本発明のキメラロドプシンのアミノ酸配列の一例
配列番号2:本発明のキメラロドプシンのアミノ酸配列の一例
配列番号3:本発明のキメラロドプシンのアミノ酸配列の一例
配列番号4:本発明のキメラロドプシンのアミノ酸配列の一例
配列番号5:本発明のGタンパク質共役型受容体ロドプシンの細胞質側の第2ループのアミノ酸配列の一例
配列番号6:本発明のGタンパク質共役型受容体ロドプシンの細胞質側の第2ループのアミノ酸配列の一例
配列番号7:本発明のGタンパク質共役型受容体ロドプシンの細胞質側の第3ループのアミノ酸配列の一例
配列番号8:Gloeobacter violaceus Rhodopsin(GR)のアミノ酸配列
配列番号9:ウシロドプシン(BvRh)のアミノ酸配列
配列番号10:本発明のキメラロドプシンの塩基配列の例(配列番号1に対応する)。開始コドンは、ヌクレオチド43−45に相当し、終止コドンはヌクレオチド994−996に相当する。
配列番号11:Gタンパク質共役型受容体ロドプシンの細胞質側の第2ループに対応する塩基配列の例(配列番号5に対応する)
配列番号12:Gタンパク質共役型受容体ロドプシンの細胞質側の第2ループに対応する塩基配列の別の例(配列番号6に対応する)
配列番号13:Gタンパク質共役型受容体ロドプシンの細胞質側の第3ループに対応する塩基配列の例
配列番号14:ヒトロドプシン(huRh)のアミノ酸配列
配列番号15:ヒトロドプシン(huRh)の塩基配列
配列番号16:ウシロドプシン(BvRh)の塩基配列
配列番号17:Gloeobacter violaceus Rhodopsin(GR)の塩基配列
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]
【国際調査報告】