(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
操舵力を補助するモータを駆動制御することにより、車両の操舵系をアシスト制御する車両用操向装置。モータの目標操舵トルクTrefを生成する目標操舵トルク生成部200を備える。目標操舵トルク生成部200は、操舵角及び車速に応じたトルク信号Tref_a0と、タイヤのスリップによって発生する物理量に所定の比例係数を乗じた値との差分値に応じた目標操舵トルクTrefを生成する。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、発明を実施するための形態(以下、実施形態という)につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の実施形態により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0030】
(実施形態1)
図1は、電動パワーステアリング装置の一般的な構成を示した図である。車両用操向装置の1つである電動パワーステアリング装置(EPS)は、操舵者から与えられる力が伝達する順に、ハンドル1のコラム軸(ステアリングシャフト、ハンドル軸)2、減速機構3、ユニバーサルジョイント4a,4b、ピニオンラック機構5、タイロッド6a,6bを経て、更にハブユニット7a,7bを介して操向車輪8L,8Rに連結されている。また、トーションバーを有するコラム軸2には、ハンドル1の操舵トルクTsを検出するトルクセンサ10及び操舵角θhを検出する舵角センサ14が設けられており、ハンドル1の操舵力を補助するモータ20が減速機構3を介してコラム軸2に連結されている。電動パワーステアリング装置を制御するコントロールユニット(ECU)30には、バッテリ13から電力が供給されると共に、イグニションキー11を経てイグニションキー信号が入力される。コントロールユニット30は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクTsと車速センサ12で検出された車速Vsとに基づいてアシスト(操舵補助)指令の電流指令値の演算を行い、電流指令値に補償等を施した電圧制御指令値Vrefによって、モータ20に供給する電流を制御する。
【0031】
コントロールユニット30には、車両の各種情報を授受するCAN(Controller Area Network)40等の車載ネットワークが接続されている。また、コントロールユニット30には、CAN40以外の通信、アナログ/ディジタル信号、電波等を授受する非CAN41も接続可能である。
【0032】
コントロールユニット30は、主としてCPU(MCU、MPU等も含む)で構成される。
図2は、電動パワーステアリング装置を制御するコントロールユニットのハードウェア構成を示す模式図である。
【0033】
コントロールユニット30を構成する制御用コンピュータ1100は、CPU(Central Processing Unit)1001、ROM(Read Only Memory)1002、RAM(Random Access Memory)1003、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)1004、インターフェース(I/F)1005、A/D(Analog/Digital)変換器1006、PWM(Pulse Width Modulation)コントローラ1007等を備え、これらがバスに接続されている。
【0034】
CPU1001は、電動パワーステアリング装置の制御用コンピュータプログラム(以下、制御プログラムという)を実行して、電動パワーステアリング装置を制御する処理装置である。
【0035】
ROM1002は、電動パワーステアリング装置を制御するための制御プログラムを格納する。また、RAM1003は、制御プログラムを動作させるためのワークメモリとして使用される。EEPROM1004には、制御プログラムが入出力する制御データ等が格納されている。制御データは、コントロールユニット30に電源が投入された後にRAM1003に展開された制御用コンピュータプログラム上で使用され、所定のタイミングでEEPROM1004に上書きされる。
【0036】
ROM1002、RAM1003、及びEEPROM1004等は情報を格納する記憶装置であって、CPU1001が直接アクセスできる記憶装置(一次記憶装置)である。
【0037】
A/D変換器1006は、操舵トルクTs、モータ20の電流検出値Im、及び操舵角θhの信号等を入力し、ディジタル信号に変換する。
【0038】
インターフェース1005は、CAN40に接続されている。インターフェース1005は、車速センサ12からの車速Vの信号(車速パルス)を受け付けるためのものである。
【0039】
PWMコントローラ1007は、モータ20に対する電流指令値に基づいてUVW各相のPWM制御信号を出力する。
【0040】
図3は、電動パワーステアリング装置におけるコントロールユニットの内部ブロック構成の一例を示す図である。操舵トルクTs及び車速Vsは、電流指令値演算部31に入力される。電流指令値演算部31は、操舵トルクTs及び車速Vsに基づき、予め記憶しているルックアップテーブル(アシストマップ等)を参照し、モータ20に供給する電流の制御目標値である電流指令値Iref1を演算する。
【0041】
補償信号生成部34は、補償信号CMを生成する。補償信号生成部34は、収れん性推定部341、慣性推定部342、セルフアライニングトルク(SAT:Self Aligning Torque)推定部343を備える。収れん性推定部341は、モータ20の角速度に基づいて車両のヨーレートを推定し、ハンドル1が振れ回る動作を制動することで、車両のヨーの収れん性を改善する補償値を推定する。慣性推定部342は、モータ20の角加速度に基づいて、モータ20の慣性力を推定し、応答性を高めるためにモータ20の慣性力を補償する補償値を推定する。SAT推定部343は、操舵トルクTs、アシストトルク、モータ20の角速度及び角加速度に基づいてセルフアライニングトルクT
SATを推定し、そのセルフアライニングトルクを反力としてアシストトルクを補償する補償値を推定する。補償信号生成部34は、収れん性推定部341、慣性推定部342、SAT推定部343に加え、他の補償値を推定する推定部を備えてもよい。補償信号CMは、加算部344において慣性推定部342の補償値と、SAT推定部343の補償値とが加算され、この加算値と収れん性推定部341の補償値とが加算部345において加算された加算値である。なお、本開示において、SAT推定部343によって推定されるセルフアライニングトルクT
SATは、後述する目標操舵トルク生成部200にも出力される。
【0042】
加算部32Aにおいて、補償信号生成部34からの補償信号CMが電流指令値Iref1に加算されており、補償信号CMの加算によって、電流指令値Iref1に操舵システム系の特性補償がされ、収れん性や慣性特性等を改善するようになっている。そして、電流指令値Iref1は加算部32Aを経て、特性補償された電流指令値Iref2となり、電流指令値Iref2が電流制限部33に入力されている。電流制限部33において、電流指令値Iref2の最大電流が制限され、電流指令値Irefmが生成される。電流指令値Irefmが減算部32Bに入力され、モータ20側からフィードバックされている電流検出値Imとの偏差I(Irefm−Im)が減算部32Bで演算される。偏差Iが操舵動作の特性改善のためのPI制御部35に入力される。そうすると、PI制御部35で特性改善された電圧制御指令値VrefがPWM制御部36に入力され、さらにモータ駆動部としてのインバータ回路37を介してモータ20がPWM駆動される。モータ20の電流検出値Imは、電流検出器38で検出され、減算部32Bにフィードバックされる。また、インバータ回路37は、駆動素子として電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor:(以下、FETという。))が用いられ、FETのブリッジ回路で構成されている。
【0043】
従来の電動パワーステアリング装置でのアシスト制御では、運転者の手入力にて加えられた操舵トルクをトーションバーの捩れトルクとしてトルクセンサで検出し、主にそのトルクに応じたアシスト電流としてモータ電流を制御している。しかしながら、この方法で制御を行なう場合、路面の状態(例えば傾斜)の違いにより、操舵角によって異なる操舵トルクとなってしまうことがある。モータ出力特性の経年使用によるバラツキによっても、操舵トルクに影響を与えることがある。
【0044】
図4は、舵角センサの設置例を示す構造図である。
【0045】
コラム軸2には、トーションバー2Aが備えられている。操向車輪8L,8Rには、路面反力Rr及び路面情報(路面の摩擦抵抗μ)が作用する。トーションバー2Aを挟み、コラム軸2のハンドル側には、上側角度センサが設けられている。トーションバー2Aを挟み、コラム軸2の操向車輪側には、下側角度センサが設けられている。上側角度センサは、ハンドル角θ
1を検出し、下側角度センサは、コラム角θ
2を検出する。操舵角θhは、コラム軸2の上部に設けられた舵角センサで検出される。トーションバーの捩れ角Δθは、ハンドル角θ
1及びコラム角θ
2の偏差から、下記(1)式で表される。また、トーションバートルクTtは、(1)式で表されるトーションバーの捩れ角Δθ用いて、下記(2)式で表される。なお、Ktは、トーションバー2Aのバネ定数である。
【0048】
トーションバートルクTtは、トルクセンサを用いて検出することも可能である。本実施形態では、トーションバートルクTtを操舵トルクTsとしても扱うこととする。
【0049】
図5は、実施形態1に係るコントロールユニットの内部ブロック構成の一例を示す図である。
【0050】
コントロールユニット30は、内部ブロック構成として、目標操舵トルク生成部200、捩れ角制御部300、操舵方向判定部400、及び変換部500を備えている。
【0051】
本実施形態において、運転者のハンドル操舵は、EPS操舵系/車両系100のモータ20でアシスト制御される。EPS操舵系/車両系100は、モータ20の他に、角度センサ、角速度演算部等を含む。
【0052】
目標操舵トルク生成部200は、本開示において車両の操舵系をアシスト制御する際の操舵トルクの目標値である目標操舵トルクTrefを生成する。変換部500は、目標操舵トルクTrefを目標捩れ角Δθrefに変換する。捩れ角制御部300は、モータ20に供給する電流の制御目標値であるモータ電流指令値Irefを生成する。
【0053】
捩れ角制御部300は、捩れ角Δθが目標捩れ角Δθrefとなるようなモータ電流指令値Irefを演算する。モータ20は、モータ電流指令値Irefにより駆動される。
【0054】
操舵方向判定部400は、EPS操舵系/車両系100から出力されるモータ角速度ωmに基づき、操舵方向が右切りか左切りかを判定し、判定結果を操舵状態信号STsとして出力する。
図6は、操舵方向の説明図である。
【0055】
操舵方向が右切りか左切りかを示す操舵状態は、例えば
図6に示すような操舵角θh及びモータ角速度ωmの関係で求めることができる。すなわち、モータ角速度ωmが正の値の場合は「右切り」と判定し、負の値の場合は「左切り」と判定する。なお、モータ角速度ωmの代わりに、操舵角θh、ハンドル角θ
1又はコラム角θ
2に対して速度演算を行って算出される角速度を用いても良い。
【0056】
変換部500は、上記(2)式の関係を用いて、目標操舵トルク生成部200で生成された目標操舵トルクTrefを目標捩れ角Δθrefに変換する。
【0057】
次に、実施形態1のコントロールユニットにおける基本的な動作例について説明する。
図7は、実施形態1に係るコントロールユニットの動作例を示すフローチャートである。
【0058】
操舵方向判定部400は、EPS操舵系/車両系100から出力されるモータ角速度ωmの符号に基づき、操舵方向が右切りか左切りかを判定し、判定結果を操舵状態信号STsとして、目標操舵トルク生成部200に出力する(ステップS10)。
【0059】
目標操舵トルク生成部200は、車速Vs、車速判定信号Vfail、操舵状態信号STs、操舵角θh、及び実ヨーレートγreに基づき、目標操舵トルクTrefを生成する(ステップS20)。
【0060】
変換部500は、目標操舵トルク生成部200で生成された目標操舵トルクTrefを目標捩れ角Δθrefに変換する(ステップS20)。目標捩れ角Δθrefは、捩れ角制御部300に出力される。
【0061】
捩れ角制御部300は、目標捩れ角Δθref、操舵角θh、捩れ角Δθ、及びモータ角速度ωmに基づき、モータ電流指令値Irefを演算する(ステップS30)。
【0062】
そして、捩れ角制御部300から出力されたモータ電流指令値Irefに基づいて電流制御が実施され、モータ20が駆動される(ステップS40)。
【0063】
図8は、実施形態1の目標操舵トルク生成部の一構成例を示すブロック図である。
図8に示すように、目標操舵トルク生成部200は、基本マップ部210、乗算部211、符号抽出部213、微分部220、ダンパゲインマップ部230、ヒステリシス補正部240、SAT情報補正部250、乗算部260、加算部261,262,263、及び低μ路トルク補正値演算部280を備える。
図9は、基本マップ部が保持する基本マップの特性例を示す図である。
図10は、ダンパゲインマップ部が保持するダンパゲインマップの特性例を示す図である。
【0064】
基本マップ部210には、操舵角θh及び車速Vsが入力される。基本マップ部210は、
図9に示す基本マップを用いて、車速Vsをパラメータとするトルク信号Tref_a0を出力する。すなわち、基本マップ部210は、車速Vsに応じたトルク信号Tref_a0を出力する。
【0065】
図9に示すように、トルク信号Tref_a0は、操舵角θhの大きさ(絶対値)|θh|の増加に伴い増加する特性を有する。また、トルク信号Tref_aは、車速Vsの増加に伴い増加する特性を有する。なお、
図9では操舵角θhの大きさ|θh|に応じたマップを構成しているが、正負の操舵角θhに応じたマップを構成しても良い。この場合、トルク信号Tref_a0の値は、正負の値を取り得る。このため、トルク信号Tref_a0に対する補正値を演算する低μ路トルク補正値演算部の構成についても適宜変更する必要がある。以下の説明では、
図9に示す操舵角θhの大きさ|θh|に応じた正の値であるトルク信号Tref_a0を出力する態様について説明する。
【0066】
符号抽出部213は、操舵角θhの符号を抽出する。具体的には、例えば、操舵角θhの値を、操舵角θhの絶対値で除算する。これにより、符号抽出部213は、操舵角θhの符号が「+」の場合には「1」を出力し、操舵角θhの符号が「−」の場合には「−1」を出力する。
【0067】
微分部220には、操舵角θhが入力される。微分部220は、操舵角θhを微分して、角速度情報である舵角速度ωhを算出する。微分部220は、算出した舵角速度ωhを乗算部260に出力する。
【0068】
ダンパゲインマップ部230には、車速Vsが入力される。ダンパゲインマップ部230は、
図10に示す車速感応型のダンパゲインマップを用いて、車速Vsに応じたダンパゲインD
Gを出力する。
【0069】
図10に示すように、ダンパゲインD
Gは、車速Vsが高くなるに従い徐々に大きくなる特性を有する。ダンパゲインD
Gは、操舵角θhに応じて可変する態様としても良い。
【0070】
乗算部260は、微分部220から出力される舵角速度ωhに対して、ダンパゲインマップ部230から出力されるダンパゲインD
Gを乗算し、トルク信号Tref_bとして加算部262に出力する。
【0071】
操舵方向判定部400は、例えば
図6に示すような判定を行う。ヒステリシス補正部240には、操舵角θh、車速Vs、及び、
図6に示す判定結果である操舵状態信号STsが入力される。ヒステリシス補正部240は、操舵角θh及び操舵状態信号STsに基づき、下記(3)式及び(4)式を用いてトルク信号Tref_cを演算する。なお、下記(3)式及び(4)式において、xは操舵角θh、y
R=Tref_c及びy
L=Tref_cはトルク信号Tref_cとする。また、係数aは1よりも大きい値であり、係数cは0よりも大きい値である。係数Ahysは、ヒステリシス特性の出力幅を示し、係数cは、ヒステリシス特性の丸みを表す係数である。
【0072】
y
R=Ahys{1−a
−c(x−b)}・・・(3)
【0073】
y
L=−Ahys{1−a
c(x−b’)}・・・(4)
【0074】
右切り操舵の際には、上記(3)式を用いて、トルク信号Tref_c(y
R)を算出する。左切り操舵の際には、上記(4)式を用いて、トルク信号Tref_c(y
L)を算出する。なお、右切り操舵から左切り操舵へ切り替える際、又は、左切り操舵から右切り操舵へ切り替える際には、操舵角θh及びトルク信号Tref_cの前回値であるの最終座標(x
1,y
1)の値に基づき、操舵切り替え後の上記(3)式及び(4)式に対し、下記(5)式又は(6)式に示す係数b又はb’を代入する。これにより、操舵切り替え前後の連続性が保たれる。
【0075】
b=x
1+(1/c)log
a{1−(y
1/Ahys)}・・・(5)
【0076】
b’=x
1−(1/c)log
a{1−(y
1/Ahys)}・・・(6)
【0077】
上記(5)式及び(6)式は、上記(3)式及び(4)式において、xにx
1を代入し、y
R及びy
Lにy
1を代入することにより導出することができる。
【0078】
係数aとして、例えば、ネイピア数eを用いた場合、上記(3)式、(4)式、(5)式、(6)式は、それぞれ下記(7)式、(8)式、(9)式、(10)式で表せる。
【0079】
y
R=Ahys[1−exp{−c(x−b)}]・・・(7)
【0080】
y
L=−Ahys[{1−exp{c(x−b’)}]・・・(8)
【0081】
b=x
1+(1/c)log
e{1−(y
1/Ahys)}・・・(9)
【0082】
b’=x
1−(1/c)log
e{1−(y
1/Ahys)}・・・(10)
【0083】
図11は、ヒステリシス補正部の特性例を示す図である。
図11に示す例では、上記(9)式及び(10)式において、Ahys=1[Nm]、c=0.3と設定し、0[deg]から開始し、+50[deg]、−50[deg]の操舵をした場合の、ヒステリシス補正されたトルク信号Tref_cの特性例を示している。
図11に示すように、ヒステリシス補正部240から出力されるトルク信号Tref_cは、0の原点→L1(細線)→L2(破線)→L3(太線)のようなヒステリシス特性を有している。
【0084】
なお、ヒステリシス特性の出力幅を表す係数であるAhys及び丸みを表す係数であるcを、車速Vs及び操舵角θhの一方又は双方に応じて可変としても良い。
【0085】
また、舵角速度ωhは、操舵角θhに対する微分演算により求めているが、高域のノイズの影響を低減するために適度にローパスフィルタ(LPF)処理を実施している。また、ハイパスフィルタ(HPF)とゲインにより、微分演算とLPFの処理を実施しても良い。更に、舵角速度ωhは、操舵角θhではなく、上側角度センサが検出するハンドル角θ1又は下側角度センサが検出するコラム角θ2に対して微分演算とLPFの処理を行って算出しても良い。舵角速度ωhの代わりにモータ角速度ωmを角速度情報として使用しても良く、この場合、微分部220は不要となる。
【0086】
図12は、実施形態1の低μ路トルク補正値演算部の一構成例を示すブロック図である。
【0087】
図12に示すように、低μ路トルク補正値演算部280には、基本マップ部210(
図8参照)から出力されるトルク信号Tref_a0、及びSAT推定部343(
図3参照)から出力されるセルフアライニングトルクT
SATが入力される。
【0088】
図13は、低μ路における実セルフアライニングトルクの変化を示す図である。
【0089】
タイヤの実セルフアライニングトルク(SAT値とも称する)は、操舵角θhの大きさ(絶対値)|θh|の上昇に応じて上昇する。このSAT値は、通常の走行状態において、基本マップ部210から出力されるトルク信号Tref_a0に略比例する。以下、トルク信号Tref_a0に対するSAT値の比例係数を「k」とする。また、本開示において、「通常の走行状態」とは、タイヤが路面にグリップした状態を示す。
【0090】
一方、
図13に示すように、SAT値は、例えばアイスバーンや水溜りにおけるハイドロプレーニング現象等によって路面の摩擦抵抗が著しく減少すると、タイヤがスリップしてSAT値が減少する。
図13に示す例では、路面の摩擦抵抗μが1.0であるとき、操舵角θb以上の領域でSAT値が減少し、路面の摩擦抵抗μが0.1であるとき、操舵角θa以上の領域でSAT値が減少する例を示している。このように、路面の摩擦抵抗μが減少してタイヤがスリップした場合、基本マップ部210から出力されるトルク信号Tref_a0とSAT値に比例係数kを乗じた値とが乖離する。すなわち、タイヤのグリップが失われているにも拘らず、ハンドルの操舵力を通常の走行状態と同様に制御すると、タイヤのグリップ力が失われていることに運転者が気付かず、緊急回避操作が遅れる可能性がある。
【0091】
本実施形態では、タイヤのスリップによって発生する物理量に基づき、タイヤのグリップ力が失われたことを運転者にフィードバックすることにより、運転者が緊急回避操作を行えるようにする。以下、タイヤのスリップによって発生する物理量としてSAT推定部343(
図3参照)によって推定されるセルフアライニングトルクT
SATを用いることで、タイヤのグリップ力が失われたことを運転者にフィードバックすることを可能とする構成について説明する。
【0092】
図12に示すように、実施形態1の低μ路トルク補正値演算部280は、比例係数乗算部281と、減算部282と、トルク調整係数値マップ部283と、絶対値演算部284と、を含む。
【0093】
絶対値演算部284には、セルフアライニングトルクT
SATが入力される。絶対値演算部284は、入力されたセルフアライニングトルクT
SATの絶対値|T
SAT|を演算する。比例係数乗算部281は、入力されたセルフアライニングトルクの絶対値|T
SAT|に対して、所定の比例係数kを乗じた値k(|T
SAT|)を減算部282に出力する。比例係数kの値は、トルク信号Tref_a0と比例係数乗算部281の出力値k(|T
SAT|)とが通常の走行状態で略一致するような値に設定される。
【0094】
減算部282は、トルク信号Tref_a0から比例係数乗算部281の出力値k(|T
SAT|)を減算した値Tref_a0−k(|T
SAT|)をトルク調整係数値マップ部283に出力する。
【0095】
トルク調整係数値マップ部283は、減算部282の出力値Tref_a0−k(|T
SAT|)とトルク調整係数値Gとの関係を示すトルク調整係数値マップを保持している。
図14は、実施形態1のトルク調整係数値マップ部が保持するトルク調整係数値マップの特性例を示す図である。
【0096】
本開示において、トルク調整係数値Gは、1以下の正の値を取り得る。
図14に示すように、トルク調整係数値マップは、減算部282の出力値Tref_a0−k(|T
SAT|)が0以上A未満の領域ではトルク調整係数値Gを「1.0」、減算部282の出力値Tref_a0−k(|T
SAT|)がAよりも大きいB以上の領域ではトルク調整係数値Gを「0.1」とした例を示している。また、トルク調整係数値マップは、減算部282の出力値Tref_a0−k(|T
SAT|)がA以上B未満の領域において、トルク調整係数値Gが「1.0」から「0.1」まで徐々に減少する特性を有している。
【0097】
なお、減算部282の出力値Tref_a0−k(|T
SAT|)のA値及びB値は適宜設定される。また、減算部282の出力値Tref_a0−k(|T
SAT|)のB値以上におけるトルク調整係数値Gの値は一例であって、この「0.1」に限定されない。これらの値は、運転者による操舵感に違和感を与えないような値であることが望ましい。また、トルク調整係数値マップは、
図14に示されるような直線的な特性ではなく、曲線的な特性でも良い。
【0098】
トルク調整係数値マップ部283は、
図14に示すトルク調整係数値マップを用いて、減算部282の出力値Tref_a0−k(|T
SAT|)に応じたトルク調整係数値Gを導出して出力する。なお、減算部282の出力値Tref_a0−k(|T
SAT|)とトルク調整係数値Gとの関係を示す数式を用いて、トルク調整係数値Gを算出する態様であっても良い。
【0099】
図8に戻り、乗算部211は、基本マップ部210から出力されるトルク信号Tref_a0に対して、符号抽出部213から出力される操舵角θhの符号と、低μ路トルク補正値演算部280から出力されるトルク調整係数値Gを乗算し、トルク信号Tref_aとして加算部261に出力する。これにより、正負の操舵角θhに応じたトルク信号Tref_aが得られる。
【0100】
図15は、低μ路トルク補正値演算部から出力されるトルク調整係数値による作用例を示す図である。
図15に示す例では、時刻tまでは通常の走行状態、すなわちタイヤが路面にグリップした状態であることを示し、時刻tを超えるとタイヤのグリップ力が徐々に失われていることを示している。
【0101】
図15において、時刻tまでは、図中の実線で示すように、トルク信号Tref_a0と比例係数乗算部281の出力値k(|T
SAT|)とが略一致している(図中の実線)。このとき、減算部282の出力値Tref_a0−k(|T
SAT|)はA以下であり、このときのトルク調整係数値Gは「1.0」となる(
図14参照)。
【0102】
一方、
図15において、時刻tを超えると、図中の実線で示すトルク信号Tref_a0と図中の一点鎖線で示す比例係数乗算部281の出力値k(|T
SAT|)との差が徐々に大きくなる。このとき、減算部282の出力値Tref_a0−k(|T
SAT|)がAから徐々に大きくなる。このときのトルク調整係数値Gは「1.0」から徐々に減少する(
図14参照)。このため、図中の破線で示すように、トルク信号Tref_aが通常の走行状態(図中の実線)よりも小さくなる。これにより、通常の走行状態よりも操舵感が軽くなり、運転者は、タイヤのグリップ力が失われたことを認識することができ、適切な緊急回避操作を行うことができる。
【0103】
以下、実施形態1の捩れ角制御部300(
図5参照)について、
図16を参照して説明する。
【0104】
図16は、実施形態1の捩れ角制御部の一構成例を示すブロック図である。捩れ角制御部300は、目標捩れ角Δθref、捩れ角Δθ、操舵角θh及びモータ角速度ωmに基づいてモータ電流指令値Irefを演算する。捩れ角制御部300は、捩れ角フィードバック(FB)補償部310、速度制御部330、安定化補償部340、出力制限部350、舵角外乱補償部360、減算部361、加算部363、及び減速比部370を備えている。
【0105】
変換部500から出力される目標捩れ角Δθrefは、減算部361に加算入力される。捩れ角Δθは、減算部361に減算入力される。操舵角θhは、舵角外乱補償部360に入力される。モータ角速度ωmは、安定化補償部340に入力される。
【0106】
捩れ角FB補償部310は、減算部361で算出される目標捩れ角Δθrefと捩れ角Δθの偏差Δθ0に対して補償値CFB(伝達関数)を乗算し、目標捩れ角Δθrefに捩れ角Δθが追従するような目標コラム角速度ωref1を出力する。目標コラム角速度ωref1は、加算部363に加算出力される。補償値CFBは、単純なゲインKppでも、PI制御の補償値など一般的に用いられている補償値でも良い。
【0107】
舵角外乱補償部360は、操舵角θhに対して補償値Ch(伝達関数)を乗算し、目標コラム角速度ωref2を出力する。目標コラム角速度ωref2は、加算部363に加算出力される。
【0108】
加算部363は、目標コラム角速度ωref1と目標コラム角速度ωref2とを加算し、目標コラム角速度ωrefとして速度制御部330に出力する。これにより、運転者から入力される操舵角θhの変化による、トーションバー捩れ角Δθへの影響を抑制し、急操舵に対する目標捩れ角Δθrefへの捩れ角Δθの追従性を向上することができる。
【0109】
運転者の操舵により操舵角θhが変化すると、操舵角θhの変化が外乱として捩れ角Δθに影響してしまい、目標捩れ角Δθrefに対してずれが発生する。特に、急な操舵に対しては、操舵角θhの変化による目標捩れ角Δθrefに対するずれが顕著に出てしまう。舵角外乱補償部360の基本的な目的は、この外乱としての操舵角θhの影響を低減させることである。
【0110】
速度制御部330は、I−P制御(比例先行型PI制御)により、目標コラム角速度ωrefにコラム角速度ωcが追従するようなモータ電流指令値Isを算出する。コラム角速度ωcは、
図16のように、モータ角速度ωmに減速機構である減速比部370の減速比1/Nを乗算した値としても良い。
【0111】
減算部333は、目標コラム角速度ωrefとコラム角速度ωcとの差分(ωref−ωc)を算出する。積分部331は、目標コラム角速度ωrefとコラム角速度ωcとの差分(ωref−ωc)を積分し、積分結果を減算部334に加算入力する。
【0112】
捩れ角速度ωtは、比例部332にも出力される。比例部332は、コラム角速度ωcに対してゲインKvpによる比例処理を行い、比例処理結果を減算部334に減算入力する。減算部334での減算結果は、モータ電流指令値Isとして出力される。なお、速度制御部330は、I−P制御ではなく、PI制御、P(比例)制御、PID(比例積分微分)制御、PI−D制御(微分先行型PID制御)、モデルマッチング制御、モデル規範制御等の一般的に用いられている制御方法でモータ電流指令値Isを算出しても良い。
【0113】
出力制限部350は、モータ電流指令値Isに対する上限値及び下限値が予め設定されている。モータ電流指令値Isの上下限値を制限して、モータ電流指令値Irefを出力する。
【0114】
なお、本実施形態における捩れ角制御部300の構成は一例であり、
図16に示す構成とは異なる態様であっても良い。例えば、捩れ角制御部300は、舵角外乱補償部360及び加算部363や、減速比部370を具備しない構成であっても良い。
【0115】
(変形例1)
図17は、実施形態1の変形例1の目標操舵トルク生成部の一構成例を示すブロック図である。
図18は、実施形態1の変形例1の低μ路トルク補正値演算部の一構成例を示すブロック図である。なお、上述した実施形態1の構成と同じ構成部には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0116】
図17に示すように、目標操舵トルク生成部200aは、乗算部211に代えて、減算部212を備える。また、目標操舵トルク生成部200aは、乗算部214を備える。
【0117】
図17及び
図18に示すように、低μ路トルク補正値演算部280aには、基本マップ部210から出力されるトルク信号Tref_a0、及びSAT推定部343(
図3参照)から出力されるセルフアライニングトルクT
SATに加え、車速Vsが入力される。
【0118】
図18に示すように、実施形態1の変形例1の低μ路トルク補正値演算部280aは、比例係数乗算部281aと、減算部282aと、トルク調整減算値マップ部283aと、絶対値演算部284aと、を含む。
【0119】
絶対値演算部284aには、セルフアライニングトルクT
SATが入力される。絶対値演算部284aは、入力されたセルフアライニングトルクT
SATの絶対値|T
SAT|を演算する。比例係数乗算部281aは、入力されたセルフアライニングトルクT
SATの絶対値|T
SAT|に対して、所定の比例係数kを乗じた値k(|T
SAT|)を減算部282aに出力する。比例係数kの値は、トルク信号Tref_a0と比例係数乗算部281aの出力値k(|T
SAT|)とが通常の走行状態で略一致するような値に設定される。
【0120】
減算部282aは、トルク信号Tref_a0から比例係数乗算部281aの出力値k(|T
SAT|)を減算した値Tref_a0−k(|T
SAT|)をトルク調整減算値マップ部283aに出力する。
【0121】
トルク調整減算値マップ部283aは、減算部282aの出力値Tref_a0−k(|T
SAT|)とトルク調整減算値Sと車速Vsとの関係を示すトルク調整減算値マップを保持している。
図19は、実施形態1の変形例1のトルク調整減算値マップ部が保持するトルク調整減算値マップの特性例を示す図である。
【0122】
図19に示すように、トルク調整減算値マップは、減算部282aの出力値Tref_a0−k(|T
SAT|)が0以上A未満の領域ではトルク調整減算値Sを「0」、減算部282の出力値Tref_a0−k(|T
SAT|)がAよりも大きいB以上の領域では、トルク調整減算値Sを車速Vsに応じた一定値とした例を示している。また、トルク調整減算値マップは、減算部282aの出力値Tref_a0−k(|T
SAT|)がA以上B未満の領域において、トルク調整減算値Sが「0」から徐々に上昇する特性を有している。
【0123】
なお、減算部282aの出力値Tref_a0−k(|T
SAT|)のA値及びB値は適宜設定される。また、減算部282aの出力値Tref_a0−k(|T
SAT|)のA値以上におけるトルク調整減算値Sの値は、車速Vsに応じて変化するトルク信号Tref_a0の大きさを超えない値に設定される。これらの値は、運転者による操舵感に違和感を与えないような値であることが望ましい。また、トルク調整減算値マップは、
図19に示されるような直線的な特性ではなく、曲線的な特性でも良い。
【0124】
トルク調整減算値マップ部283aは、
図19に示すトルク調整減算値マップを用いて、減算部282aの出力値Tref_a0−k(|T
SAT|)に応じたトルク調整減算値Sを導出して出力する。なお、減算部282aの出力値Tref_a0−k(|T
SAT|)とトルク調整減算値Sと車速Vsとの関係を示す数式を用いて、トルク調整減算値Sを算出する態様であっても良い。
【0125】
図17に戻り、減算部212は、基本マップ部210から出力されるトルク信号Tref_a0から、低μ路トルク補正値演算部280aから出力されるトルク調整減算値Sを減算する。乗算部214は、減算部212の出力値に対して符号抽出部213から出力される操舵角θhの符号を乗算し、トルク信号Tref_aとして加算部261に出力する。これにより、正負の操舵角θhに応じたトルク信号Tref_aが得られる。
【0126】
図17及び
図18に示す実施形態1の変形例1の構成においても、上述した実施形態1に係る構成と同様に、タイヤのグリップ力が失われた状態において、トルク信号Tref_aを通常の走行状態(
図15中の実線)よりも小さくすることができる(
図15中の破線)。これにより、通常の走行状態よりも操舵感が軽くなり、運転者は、タイヤのグリップ力が失われたことを認識することができ、適切な緊急回避操作を行うことができる。
【0127】
(変形例2)
図20は、実施形態1の変形例2に係るコントロールユニットの内部ブロック構成の一例を示す図である。
図21は、実施形態1の変形例2の目標操舵トルク生成部の一構成例を示すブロック図である。
図22は、実施形態1の変形例2の低μ路トルク補正値演算部の一構成例を示すブロック図である。なお、上述した実施形態1の構成と同じ構成部には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0128】
実施形態1の変形例2の構成では、
図20に示すように、目標操舵トルク生成部200bには、ヨーレートセンサ15(
図1参照)によって検出される実ヨーレートγが入力される。実施形態1の変形例2では、タイヤのスリップによって発生する物理量として実ヨーレートγを用いることで、タイヤのグリップ力が失われたことを運転者にフィードバックすることを可能とする構成について説明する。
【0129】
図21及び
図22に示すように、低μ路トルク補正値演算部280bには、基本マップ部210から出力されるトルク信号Tref_a0、及びSAT推定部343(
図3参照)から出力されるセルフアライニングトルクT
SATに代えて、実ヨーレートγが入力される。
【0130】
図22に示すように、実施形態1の変形例2の低μ路トルク補正値演算部280bは、比例係数乗算部281bと、減算部282bと、トルク調整係数値マップ部283bと、絶対値演算部284bと、を含む。
【0131】
絶対値演算部284bには、実ヨーレートγが入力される。絶対値演算部284bは、入力された実ヨーレートγの絶対値|γ|を演算する。比例係数乗算部281bは、入力された実ヨーレートの絶対値|γ|に対して、所定の比例係数k’を乗じた値k’|γ|を減算部282bに出力する。比例係数k’の値は、トルク信号Tref_a0と比例係数乗算部281bの出力値k’|γ|とが通常の走行状態で略一致するような値に設定される。
【0132】
減算部282bは、トルク信号Tref_a0から比例係数乗算部281bの出力値k’|γ|を減算した値Tref_a0−k|γ|をトルク調整係数値マップ部283bに出力する。
【0133】
トルク調整係数値マップ部283bは、減算部282bの出力値Tref_a0−k’|γ|とトルク調整係数値Gとの関係を示すトルク調整係数値マップを保持している。実施形態1の変形例2に係るトルク調整係数値マップの特性は、
図14に示す実施形態1のトルク調整係数値マップ部283が保持するトルク調整係数値マップと同様であり、減算部282の出力値Tref_a0−k(|T
SAT|)を減算部282bの出力値Tref_a0−k’|γ|に読み替えることで対応可能である。
【0134】
トルク調整係数値マップ部283bは、上述したトルク調整係数値マップを用いて、減算部282bの出力値Tref_a0−k’|γ|に応じたトルク調整係数値Gを導出して出力する。なお、減算部282bの出力値Tref_a0−k’|γ|とトルク調整係数値Gとの関係を示す数式を用いて、トルク調整係数値Gを算出する態様であっても良い。
【0135】
図21に戻り、乗算部211は、基本マップ部210から出力されるトルク信号Tref_a0に対して、符号抽出部213から出力される操舵角θhの符号と、低μ路トルク補正値演算部280bから出力されるトルク調整係数値Gを乗算し、トルク信号Tref_aとして加算部261に出力する。これにより、正負の操舵角θhに応じたトルク信号Tref_aが得られる。
【0136】
図20から
図22に示す実施形態1の変形例2の構成においても、上述した実施形態1に係る構成と同様に、タイヤのグリップ力が失われた状態において、トルク信号Tref_aを通常の走行状態(
図15中の実線)よりも小さくすることができる(
図15中の破線)。これにより、通常の走行状態よりも操舵感が軽くなり、運転者は、タイヤのグリップ力が失われたことを認識することができ、適切な緊急回避操作を行うことができる。
【0137】
(変形例3)
図23は、実施形態1の変形例3の目標操舵トルク生成部の一構成例を示すブロック図である。
図24は、実施形態1の変形例3の低μ路トルク補正値演算部の一構成例を示すブロック図である。なお、上述した実施形態1の変形例2の構成と同じ構成部には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0138】
図23に示すように、目標操舵トルク生成部200cは、乗算部211に代えて、減算部212を備える。
【0139】
図23及び
図24に示すように、低μ路トルク補正値演算部280cには、基本マップ部210から出力されるトルク信号Tref_a0、及びヨーレートセンサ15(
図1参照)によって検出される実ヨーレートγに加え、車速Vsが入力される。
【0140】
図24に示すように、実施形態1の変形例1の低μ路トルク補正値演算部280cは、比例係数乗算部281cと、減算部282cと、トルク調整減算値マップ部283cと、絶対値演算部284cと、を含む。
【0141】
絶対値演算部284cには、実ヨーレートγが入力される。絶対値演算部284cは、入力された実ヨーレートγの絶対値|γ|を演算する。比例係数乗算部281cは、入力された実ヨーレートの絶対値|γ|に対して、所定の比例係数k’を乗じた値k’|γ|を減算部282cに出力する。比例係数k’の値は、トルク信号Tref_a0と比例係数乗算部281cの出力値k’|γ|とが通常の走行状態で略一致するような値に設定される。
【0142】
減算部282cは、トルク信号Tref_a0から比例係数乗算部281cの出力値k’γを減算した値Tref_a0−k’|γ|をトルク調整減算値マップ部283cに出力する。
【0143】
トルク調整減算値マップ部283cは、減算部282cの出力値Tref_a0−k’|γ|とトルク調整減算値Sと車速Vsとの関係を示すトルク調整減算値マップを保持している。実施形態1の変形例3に係るトルク調整減算値マップの特性は、
図24に示す実施形態1の変形例1のトルク調整減算値マップ部283aが保持するトルク調整減算値マップと同様であり、減算部282aの出力値Tref_a0−k(|T
SAT|)を減算部282cの出力値Tref_a0−k’|γ|に読み替えることで対応可能である。
【0144】
トルク調整減算値マップ部283cは、上述したトルク調整減算値マップを用いて、減算部282cの出力値Tref_a0−k’|γ|に応じたトルク調整減算値Sを導出して出力する。なお、減算部282cの出力値Tref_a0−k’|γ|とトルク調整減算値Sと車速Vsとの関係を示す数式を用いて、トルク調整減算値Sを算出する態様であっても良い。
【0145】
図23に戻り、減算部212は、基本マップ部210から出力されるトルク信号Tref_a0から、低μ路トルク補正値演算部280cから出力されるトルク調整減算値Sを減算する。乗算部214は、減算部212の出力値に対して符号抽出部213から出力される操舵角θhの符号を乗算し、トルク信号Tref_aとして加算部261に出力する。これにより、正負の操舵角θhに応じたトルク信号Tref_aが得られる。
【0146】
図23及び
図24に示す実施形態1の変形例3の構成においても、上述した実施形態1に係る構成と同様に、タイヤのグリップ力が失われた状態において、トルク信号Tref_aを通常の走行状態(
図15中の実線)よりも小さくすることができる(
図15中の破線)。これにより、通常の走行状態よりも操舵感が軽くなり、運転者は、タイヤのグリップ力が失われたことを認識することができ、適切な緊急回避操作を行うことができる。
【0147】
なお、上述した実施形態1及びその変形例1から3では、タイヤのスリップによって発生する物理量として、SAT推定部343(
図3参照)によって推定されるセルフアライニングトルクT
SATや、ヨーレートセンサ15(
図1参照)によって検出される実ヨーレートγを用いる構成を例示したが、例えば、タイヤのスリップによって発生する物理量として、横加速度センサ16(
図1参照)によって検出される実横加速度を用いる構成としても、上述した実施形態1及びその変形例1から3と同様の効果を得ることができる。
【0148】
(実施形態2)
図25は、実施形態2に係るコントロールユニットの内部ブロック構成の一例を示す図である。なお、上述した実施形態1で説明した構成と同じ構成部には同一の符号を付して重複する説明は省略する。実施形態2に係るコントロールユニット(ECU)30aは、目標操舵トルク生成部201及び捩れ角制御部300aの構成が実施形態1とは異なる。
【0149】
目標操舵トルク生成部201には、操舵角θh、車速Vs、車速判定信号Vfailに加え、操舵トルクTs及びモータ角θmが入力される。
【0150】
捩れ角制御部300aは、捩れ角Δθが目標捩れ角Δθrefとなるようなモータ電流指令値Imcを演算する。モータ20は、モータ電流指令値Imcにより駆動される。
【0151】
図26は、実施形態2の目標操舵トルク生成部の一構成例を示すブロック図である。
図26に示すように、実施形態2の目標操舵トルク生成部201は、実施形態1において説明した構成に加え、SAT情報補正部250及び加算部263を備える。
【0152】
SAT情報補正部250には、操舵角θh、車速Vs、操舵トルクTs、モータ角θm及びモータ電流指令値Imcが入力される。SAT情報補正部250は、操舵トルクTs、モータ角θm及びモータ電流指令値Imcに基づいてセルフアライニングトルク(SAT)を算出し、更にフィルタ処理、ゲイン乗算及び制限処理を施して、トルク信号(第1トルク信号)Tref_dを演算する。
【0153】
図27は、SAT情報補正部の一構成例を示すブロック図である。SAT情報補正部250は、SAT算出部251、フィルタ部252、操舵トルク感応ゲイン部253、車速感応ゲイン部254、舵角感応ゲイン部255、及び制限部256を備える。
【0154】
ここで、路面からステアリングまでの間に発生するトルクの様子について、
図28を参照して説明する。
図28は、路面からステアリングまでの間に発生するトルクの様子を示すイメージ図である。
【0155】
運転者がハンドルを操舵することによって操舵トルクTsが発生し、その操舵トルクTsに従ってモータ20がアシストトルク(モータトルク)Tmを発生する。その結果、車輪が転舵され、反力としてセルフアライニングトルクT
SATが発生する。その際、コラム軸換算慣性(モータ20(のロータ)、減速機構等によりコラム軸に作用する慣性)J及び摩擦(静摩擦)Frによってハンドル操舵の抵抗となるトルクが生じる。更に、モータ20の回転速度により、ダンパ項(ダンパ係数D
M)として表現される物理的なトルク(粘性トルク)が発生する。これらの力の釣り合いから、下記(12)式に示す運動方程式が得られる。
【0156】
J×α
M+Fr×sign(ω
M)+D
M×ω
M=Tm+Ts+T
SAT・・・(12)
【0157】
上記(12)式において、ω
Mはコラム軸換算(コラム軸に対する値に変換)されたモータ角速度であり、α
Mはコラム軸換算されたモータ角加速度である。そして、上記(12)式をT
SATについて解くと、下記(13)式が得られる。
【0158】
T
SAT=−Tm−Ts+J×α
M+Fr×sign(ω
M)+D
M×ω
M・・・(13)
【0159】
上記(13)式からわかるように、コラム軸換算慣性J、静摩擦Fr及びダンパ係数DMを定数として予め求めておくことで、モータ角速度ω
M、モータ角加速度α
M、アシストトルクTm及び操舵トルクTsよりセルフアライニングトルクT
SATを算出することができる。なお、コラム軸換算慣性Jは、簡易的にモータ慣性と減速比の関係式を用いてコラム軸に換算した値でも良い。
【0160】
SAT算出部251には、操舵トルクTs、モータ角θm、及びモータ電流指令値Imcが入力される。SAT算出部251は、上記(13)式を用いて、セルフアライニングトルクT
SATを算出する。SAT算出部251は、換算部251A、角速度演算部251B、角加速度演算部251C、ブロック251D、ブロック251E、ブロック251F、ブロック251G、及び加算器251H,251I,251Jを備える。
【0161】
換算部251Aには、モータ電流指令値Imcが入力される。換算部251Aは、予め定められたギア比及びトルク定数を乗算することにより、コラム軸換算されたアシストトルクTmを算出する。
【0162】
角速度演算部251Bには、モータ角θmが入力される。角速度演算部251Bは、微分処理及びギア比の乗算により、コラム軸換算されたモータ角速度ω
Mが算出される。
【0163】
角加速度演算部251Cには、モータ角速度ω
Mが入力される。角加速度演算部251Cは、モータ角速度ω
Mを微分し、コラム軸換算されたモータ角加速度α
Mを算出する。
【0164】
そして、入力された操舵トルクTs並びに算出された上記アシストトルクTm、モータ角速度ω
M及びモータ角加速度α
Mを用いて、ブロック251D、ブロック251E、ブロック251F、ブロック251G、及び加算器251H,251I,251Jにより、数8に基づいて、
図27に示されるような構成によりセルフアライニングトルクT
SATが算出される。
【0165】
ブロック251Dには、角速度演算部251Bから出力されたモータ角速度ω
Mが入力される。ブロック251Dは、符号関数として機能し、入力データの符号を出力する。
【0166】
ブロック251Eには、角速度演算部251Bから出力されたモータ角速度ω
Mが入力される。ブロック251Eは、入力データにダンパ係数D
Mを乗算して出力する。
【0167】
ブロック251Fは、ブロック251Dからの入力データに静摩擦Frを乗算して出力する。
【0168】
ブロック251Gには、角加速度演算部251Cから出力されたモータ角加速度α
Mが入力される。ブロック251Gは、入力データにコラム軸換算慣性Jを乗算して出力する。
【0169】
加算器251Hは、操舵トルクTsと換算部251Aから出力されるアシストトルクTmとを加算する。
【0170】
加算器251Iは、加算器251Hの出力からブロック251Gの出力を減算する。
【0171】
加算器251Jは、ブロック251Eの出力とブロック251Fの出力とを加算し、加算器251Iの出力を減算する。
【0172】
上記構成により、上記(13)式を実現することができる。すなわち、
図27に示すSAT算出部251の構成により、セルフアライニングトルクT
SATが算出される。
【0173】
なお、コラム角が直接検出可能な場合は、モータ角θmの代わりにコラム角を角度情報として使用しても良い。この場合、コラム軸換算は不要となる。また、モータ角θmではなく、EPS操舵系/車両系100からのモータ角速度ωmをコラム軸換算した信号をモータ角速度ω
Mとして入力し、モータ角θmに対する微分処理を省略しても良い。更に、セルフアライニングトルクT
SATは、上記以外の方法で算出しても良く、算出値ではなく、測定値を使用しても良い。
【0174】
SAT算出部251にて算出されたセルフアライニングトルクT
SATを活用し運転者に操舵感として適切に伝えるために、フィルタ部252により、伝えたい情報をセルフアライニングトルクT
SATから抽出し、操舵トルク感応ゲイン部253、車速感応ゲイン部254及び舵角感応ゲイン部255により伝える量を調整し、更に、制限部256により上下限値を調整する。なお、本開示において、SAT算出部251にて算出されるセルフアライニングトルクT
SATは、目標操舵トルク生成部201にも出力される。
【0175】
フィルタ部252には、SAT算出部251からセルフアライニングトルクT
SATが入力される。フィルタ部252は、例えばバンドバスフィルタにより、セルフアライニングトルクT
SATに対してフィルタ処理を行い、SAT情報T
ST1を出力する。
【0176】
操舵トルク感応ゲイン部253には、フィルタ部252から出力されるSAT情報T
ST1及び操舵トルクTsが入力される。操舵トルク感応ゲイン部253は、操舵トルク感応ゲインを設定する。
【0177】
図29は、操舵トルク感応ゲインの特性例を示す図である。
図29に示されるように、操舵トルク感応ゲイン部253は、直進走行状態であるオンセンタ近辺で感度が高くなるように、操舵トルク感応ゲインを設定する。操舵トルク感応ゲイン部253は、操舵トルクTsに応じて設定される操舵トルク感応ゲインをSAT情報T
ST1に乗算し、SAT情報T
ST2を出力する。
【0178】
図29において、操舵トルク感応ゲインは、操舵トルクTsがTs1(例えば2Nm)以下では1.0で固定とし、操舵トルクTsがTs2(>Ts1)(例えば4Nm)以上では1.0より小さい値で固定とし、操舵トルクTsがTs1とTs2の間では一定の割合で減少するように設定した例を示している。
【0179】
車速感応ゲイン部254には、操舵トルク感応ゲイン部253から出力されるSAT情報T
ST2及び車速Vsが入力される。車速感応ゲイン部254は、車速感応ゲインを設定する。
【0180】
図30は、車速感応ゲインの特性例を示す図である。
図30に示されるように、車速感応ゲイン部254は、高速走行時の感度が高くなるように、車速感応ゲインを設定する。車速感応ゲイン部254は、車速Vsに応じて設定される車速感応ゲインをSAT情報T
ST2に乗算し、SAT情報T
ST3を出力する。
【0181】
図30において、車速感応ゲインは、車速VsがVs2(例えば70km/h)以上では1.0で固定とし、車速VsがVs1(<Vs2)(例えば50km/h)以下では1.0より小さい値で固定とし、車速VsがVs1とVs2の間では一定の割合で増加するように設定した例を示している。
【0182】
舵角感応ゲイン部255には、車速感応ゲイン部254から出力されるSAT情報T
ST3及び操舵角θhが入力される。舵角感応ゲイン部255は、舵角感応ゲインを設定する。
【0183】
図31は、舵角感応ゲインの特性例を示す図である。
図31に示されるように、舵角感応ゲイン部255は、所定の操舵角から作用し始め、操舵角が大きい時の感度が高くなるように、舵角感応ゲインを設定する。舵角感応ゲイン部255は、操舵角θhに応じて設定される舵角感応ゲインをSAT情報T
ST3に乗算し、トルク信号Tref_d0を出力する。
【0184】
図31において、舵角感応ゲインは、操舵角θhがθh1(例えば10deg)以下では所定のゲイン値Gαで、操舵角θhがθh2(例えば30deg)以上では1.0で固定とし、操舵角θhがθh1とθh2の間では一定の割合で増加するように設定した例を示している。操舵角θhが大きいときの感度を高くしたい場合は、Gαを0≦Gα<1の範囲に設定すれば良い。操舵角θhが小さいときの感度を高くしたい場合は、図示していないが、Gαを1<Gαの範囲に設定すれば良い。操舵角θhによる感度を変えたくない場合は、Gα=1として設定すれば良い。
【0185】
制限部256には、舵角感応ゲイン部255から出力されるトルク信号Tref_d0が入力される。制限部256は、トルク信号Tref_d0の上限値及び下限値が設定されている。
【0186】
図32は、制限部におけるトルク信号の上限値及び下限値の設定例を示す図である。
図32に示されるように、制限部256は、トルク信号Tref_d0に対する上限値及び下限値が予め設定され、入力するトルク信号Tref_d0が、上限値以上の場合は上限値を、下限値以下の場合は下限値を、それ以外の場合はトルク信号Tref_d0を、トルク信号Tref_dとして出力する。
【0187】
なお、操舵トルク感応ゲイン、車速感応ゲイン、及び舵角感応ゲインは、
図29、
図30、及び
図31に示されるような直線的な特性ではなく、曲線的な特性でも良い。また、操舵トルク感応ゲイン、車速感応ゲイン、及び舵角感応ゲインは、操舵フィーリングに応じて設定を適宜調整しても良い。また、トルク信号の大きさが増大するおそれがない場合や他の手段で抑制する場合等では、制限部256を削除しても良い。操舵トルク感応ゲイン部253、車速感応ゲイン部254、及び舵角感応ゲイン部255についても、適宜、省略可能である。また、操舵トルク感応ゲイン、車速感応ゲイン、及び舵角感応ゲインの設置位置を入れ替えても良い。また、例えば、操舵トルク感応ゲイン、車速感応ゲイン、及び舵角感応ゲインを並列に求め、1つの構成部でSAT情報T
ST1に乗算する態様であっても良い。
【0188】
すなわち、本実施形態におけるSAT情報補正部250の構成は一例であり、
図27に示す構成とは異なる態様であっても良い。
【0189】
本実施形態においても、上述した実施形態1において説明した低μ路トルク補正値演算部280を目標操舵トルク生成部201に備えた構成とすることで、実施形態1と同様の効果を得ることができる。具体的に、SAT算出部251(
図27参照)にて算出されるセルフアライニングトルクT
SATを、
図11に示す低μ路トルク補正値演算部280に入力する構成とすれば良い。
【0190】
以下、実施形態2の捩れ角制御部300aについて、
図33を参照して説明する。
【0191】
図33は、実施形態2の捩れ角制御部の一構成例を示すブロック図である。捩れ角制御部300aは、目標捩れ角Δθref、捩れ角Δθ及びモータ角速度ωmに基づいてモータ電流指令値Imcを演算する。捩れ角制御部300aは、捩れ角フィードバック(FB)補償部310、捩れ角速度演算部320、速度制御部330、安定化補償部340、出力制限部350、減算部361及び加算部362を備えている。
【0192】
変換部500から出力される目標捩れ角Δθrefは、減算部361に加算入力される。捩れ角Δθは、減算部361に減算入力されると共に、捩れ角速度演算部320に入力される。モータ角速度ωmは、安定化補償部340に入力される。
【0193】
捩れ角FB補償部310は、減算部361で算出される目標捩れ角Δθrefと捩れ角Δθの偏差Δθ0に対して補償値CFB(伝達関数)を乗算し、目標捩れ角Δθrefに捩れ角Δθが追従するような目標捩れ角速度ωrefを出力する。補償値CFBは、単純なゲインKppでも、PI制御の補償値など一般的に用いられている補償値でも良い。
【0194】
目標捩れ角速度ωrefは、速度制御部330に入力される。捩れ角FB補償部310及び速度制御部330により、目標捩れ角Δθrefに捩れ角Δθを追従させ、所望の操舵トルクを実現することが可能となる。
【0195】
捩れ角速度演算部320は、捩れ角Δθに対して微分演算処理を行い、捩れ角速度ωtを算出する。捩れ角速度ωtは、速度制御部330に出力される。捩れ角速度演算部320は、微分演算として、HPFとゲインによる擬似微分を行なっても良い。また、捩れ角速度演算部320は、捩れ角速度ωtを別の手段や捩れ角Δθ以外から算出し、速度制御部330に出力するようにしても良い。
【0196】
速度制御部330は、I−P制御(比例先行型PI制御)により、目標捩れ角速度ωrefに捩れ角速度ωtが追従するようなモータ電流指令値Imca1を算出する。
【0197】
減算部333は、目標捩れ角速度ωrefと捩れ角速度ωtとの差分(ωref−ωt)を算出する。積分部331は、目標捩れ角速度ωrefと捩れ角速度ωtとの差分(ωref−ωt)を積分し、積分結果を減算部334に加算入力する。
【0198】
捩れ角速度ωtは、比例部332にも出力される。比例部332は、捩れ角速度ωtに対してゲインKvpによる比例処理を行い、比例処理結果を減算部334に減算入力する。減算部334での減算結果は、モータ電流指令値Imca1として出力される。なお、速度制御部330は、I−P制御ではなく、PI制御、P(比例)制御、PID(比例積分微分)制御、PI−D制御(微分先行型PID制御)、モデルマッチング制御、モデル規範制御等の一般的に用いられている制御方法でモータ電流指令値Imca1を算出しても良い。
【0199】
安定化補償部340は、補償値Cs(伝達関数)を有しており、モータ角速度ωmからモータ電流指令値Imca2を算出する。追従性及び外乱特性を向上させるために、捩れ角FB補償部310及び速度制御部330のゲインを上げると、高域の制御的な発振現象が発生してしまう。この対策として、モータ角速度ωmに対し、安定化するために必要な伝達関数(Cs)を安定化補償部340に設定する。これにより、EPS制御システム全体の安定化を実現することができる。
【0200】
加算部362は、速度制御部330からのモータ電流指令値Imca1と安定化補償部340からのモータ電流指令値Imca2とを加算し、モータ電流指令値Imcbとして出力する。
【0201】
出力制限部350は、モータ電流指令値Imcbに対する上限値及び下限値が予め設定されている。出力制限部350は、モータ電流指令値Imcbの上下限値を制限して、モータ電流指令値Imcを出力する。
【0202】
なお、本実施形態における捩れ角制御部300aの構成は一例であり、
図33に示す構成とは異なる態様であっても良い。例えば、捩れ角制御部300aは、安定化補償部340を具備しない構成であっても良い。
【0203】
(変形例)
図34は、実施形態2の変形例の目標操舵トルク生成部の一構成例を示すブロック図である。なお、上述した実施形態2の構成と同じ構成部には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0204】
図34に示すように、実施形態2の変形例においても、上述した実施形態1の変形例1において説明した低μ路トルク補正値演算部280aを目標操舵トルク生成部201aに備えた構成とすることで、実施形態1の変形例1と同様の効果を得ることができる。具体的に、SAT算出部251(
図27参照)にて算出されるセルフアライニングトルクT
SATを、
図17に示す低μ路トルク補正値演算部280aに入力する構成とすれば良い。
【0205】
なお、上述した実施形態2及びその変形例では、タイヤのスリップによって発生する物理量として、SAT算出部251(
図27参照)にて算出されるセルフアライニングトルクT
SATを用いる構成を例示したが、本実施形態においても、実施形態1の変形例2,3と同様に、タイヤのスリップによって発生する物理量として、ヨーレートセンサ15(
図1参照)によって検出される実ヨーレートγを用いる構成とすることも可能である。また、本実施形態においても、例えば、タイヤのスリップによって発生する物理量として、横加速度センサ16(
図1参照)によって検出される実横加速度を用いる構成としても、上述した実施形態1,2と同様の効果を得ることができる。
【0206】
(実施形態3)
実施形態1,2では、車両用操向装置の1つとして、本開示をコラム型EPSに適用しているが、本開示はコラム型等の上流型に限られず、ラック&ピニオン等の下流型EPSにも適用可能である。更に、目標捩れ角に基づくフィードバック制御を行うということでは、トーションバー(バネ定数任意)及び捩れ角検出用のセンサを少なくとも備えるステアバイワイヤ(SBW)反力装置等にも適用可能である。本開示を、トーションバーを備えたSBW反力装置に適用した場合の実施形態(実施形態3)について説明する。
【0207】
まずは、SBW反力装置を含むSBWシステム全体について説明する。
図35は、SBWシステムの構成例を、
図1に示される電動パワーステアリング装置の一般的な構成に対応させて示した図である。なお、上述した実施形態1,2で説明した構成と同一構成には同一符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0208】
SBWシステムは、
図1におけるユニバーサルジョイント4aにてコラム軸2と機械的に結合されるインターミディエイトシャフトがなく、ハンドル1の操作を電気信号によって操向車輪8L,8R等からなる転舵機構に伝えるシステムである。
図35に示されるように、SBWシステムは反力装置60及び駆動装置70を備え、コントロールユニット(ECU)50が両装置の制御を行う。反力装置60は、舵角センサ14にて操舵角θhの検出を行うと同時に、操向車輪8L,8Rから伝わる車両の運動状態を反力トルクとして運転者に伝達する。反力トルクは、反力用モータ61により生成される。なお、SBWシステムの中には反力装置内にトーションバーを有さないタイプもあるが、本開示を適用するSBWシステムはトーションバーを有するタイプであり、トルクセンサ10にて操舵トルクTsを検出する。また、角度センサ74が、反力用モータ61のモータ角θmを検出する。駆動装置70は、運転者によるハンドル1の操舵に合わせて、駆動用モータ71を駆動し、その駆動力を、ギア72を介してピニオンラック機構5に付与し、タイロッド6a,6bを経て、操向車輪8L,8Rを転舵する。ピニオンラック機構5の近傍には角度センサ73が配置されており、操向車輪8L,8Rの転舵角θtを検出する。ECU50は、反力装置60及び駆動装置70を協調制御するために、両装置から出力される操舵角θhや転舵角θt等の情報に加え、車速センサ12からの車速Vs等を基に、反力用モータ61を駆動制御する電圧制御指令値Vref1及び駆動用モータ71を駆動制御する電圧制御指令値Vref2を生成する。
【0209】
このようなSBWシステムに本開示を適用した実施形態3の構成について説明する。
【0210】
図36は、実施形態3の構成を示すブロック図である。実施形態3は、捩れ角Δθに対する制御(以下、「捩れ角制御」とする)と、転舵角θtに対する制御(以下、「転舵角制御」とする)を行い、反力装置を捩れ角制御で制御し、駆動装置を転舵角制御で制御する。なお、駆動装置は他の制御方法で制御しても良い。
【0211】
捩れ角制御では、実施形態2と同様の構成及び動作により、捩れ角Δθが、操舵角θh等を用いて目標操舵トルク生成部202及び変換部500を経て算出される目標捩れ角Δθrefに追従するような制御を行う。モータ角θmは角度センサ74で検出され、モータ角速度ωmは、角速度演算部951にてモータ角θmを微分することにより算出される。転舵角θtは角度センサ73で検出される。また、実施形態1ではEPS操舵系/車両系100内の処理として詳細な説明は行われていないが、電流制御部130は、
図3に示される減算部32B、PI制御部35、PWM制御部36及びインバータ回路37と同様の構成及び動作により、捩れ角制御部300aから出力されるモータ電流指令値Imc及びモータ電流検出器140で検出される反力用モータ61の電流値Imrに基づいて、反力用モータ61を駆動して、電流制御を行う。
【0212】
転舵角制御では、目標転舵角生成部910にて操舵角θhに基づいて目標転舵角θtrefが生成され、目標転舵角θtrefは転舵角θtと共に転舵角制御部920に入力され、転舵角制御部920にて、転舵角θtが目標転舵角θtrefとなるようなモータ電流指令値Imctが演算される。そして、モータ電流指令値Imct及びモータ電流検出器940で検出される駆動用モータ71の電流値Imdに基づいて、電流制御部930が、電流制御部130と同様の構成及び動作により、駆動用モータ71を駆動して、電流制御を行う。なお、本開示において、転舵角制御部920にて算出されるモータ電流指令値Imctは、目標操舵トルク生成部202にも出力される。
【0213】
図37は、目標転舵角生成部の構成例示す図である。目標転舵角生成部910は、制限部931、レート制限部932及び補正部933を備える。
【0214】
制限部931は、操舵角θhの上下限値を制限して、操舵角θh1を出力する。
図33に示す捩れ角制御部300a内の出力制限部350と同様に、操舵角θhに対する上限値及び下限値を予め設定して制限をかける。
【0215】
レート制限部932は、操舵角の急変を回避するために、操舵角θh1の変化量に対して制限値を設定して制限をかけ、操舵角θh2を出力する。例えば、1サンプル前の操舵角θh1からの差分を変化量とし、その変化量の絶対値が所定の値(制限値)より大きい場合、変化量の絶対値が制限値となるように、操舵角θh1を加減算し、操舵角θh2として出力し、制限値以下の場合は、操舵角θh1をそのまま操舵角θh2として出力する。なお、変化量の絶対値に対して制限値を設定するのではなく、変化量に対して上限値及び下限値を設定して制限をかけるようにしても良く、変化量ではなく変化率や差分率に対して制限をかけるようにしても良い。
【0216】
補正部933は、操舵角θh2を補正して、目標転舵角θtrefを出力する。例えば、操舵角θh2の大きさ|θh2|に対する目標転舵角θtrefの特性を定義したマップを用いて、操舵角θh2より目標転舵角θtrefを求める。或いは、単純に、操舵角θh2に所定のゲインを乗算することにより、目標転舵角θtrefを求めるようにしても良い。
【0217】
図38は、転舵角制御部の構成例を示す図である。転舵角制御部920は、
図33に示される捩れ角制御部300aの構成例において安定化補償部340及び加算部362を除いた構成と同様の構成をしており、目標捩れ角Δθref及び捩れ角Δθの代わりに目標転舵角θtref及び転舵角θtを入力し、転舵角フィードバック(FB)補償部921、転舵角速度演算部922、速度制御部923、出力制限部926及び減算部927が、それぞれ捩れ角FB補償部310、捩れ角速度演算部320、速度制御部330、出力制限部350及び減算部361と同様の構成で同様の動作を行う。
【0218】
このような構成において、実施形態3の動作例を、
図39のフローチャートを参照して説明する。
図39は、実施形態3の動作例を示すフローチャートである。
【0219】
動作を開始すると、角度センサ73は転舵角θtを検出し、角度センサ74はモータ角θmを検出し(ステップS110)、転舵角θtは転舵角制御部920に、モータ角θmは角速度演算部951にそれぞれ入力される。
【0220】
角速度演算部951は、モータ角θmを微分してモータ角速度ωmを算出し、捩れ角制御部300aに出力する(ステップS120)。
【0221】
その後、目標操舵トルク生成部202において、
図7に示されるステップS10〜S40と同様の動作を実行し、反力用モータ61を駆動し、電流制御を実施する(ステップS130〜S160)。
【0222】
一方、転舵角制御においては、目標転舵角生成部910が操舵角θhを入力し、操舵角θhは制限部931に入力される。制限部931は、予め設定された上限値及び下限値により操舵角θhの上下限値を制限し(ステップS170)、操舵角θh1としてレート制限部932に出力する。レート制限部932は、予め設定された制限値により操舵角θh1の変化量に対して制限をかけ(ステップS180)、操舵角θh2として補正部933に出力する。補正部933は、操舵角θh2を補正して目標転舵角θtrefを求め(ステップS190)、転舵角制御部920に出力する。
【0223】
転舵角θt及び目標転舵角θtrefを入力した転舵角制御部920は、減算部927にて目標転舵角θtrefから転舵角θtを減算することにより、偏差Δθt0を算出する(ステップS200)。偏差Δθt0は転舵角FB補償部921に入力され、転舵角FB補償部921は、偏差Δθt0に補償値を乗算することにより偏差Δθt0を補償し(ステップS210)、目標転舵角速度ωtrefを速度制御部923に出力する。転舵角速度演算部922は転舵角θtを入力し、転舵角θtに対する微分演算により転舵角速度ωttを算出し(ステップS220)、速度制御部923に出力する。速度制御部923は、速度制御部330と同様にI−P制御によりモータ電流指令値Imctaを算出し(ステップS230)、出力制限部926に出力する。出力制限部926は、予め設定された上限値及び下限値によりモータ電流指令値Imctaの上下限値を制限し(ステップS240)、モータ電流指令値Imctとして出力する(ステップS250)。
【0224】
モータ電流指令値Imctは電流制御部930に入力され、電流制御部930は、モータ電流指令値Imct及びモータ電流検出器940で検出された駆動用モータ71の電流値Imdに基づいて、駆動用モータ71を駆動し、電流制御を実施する(ステップS260)。
【0225】
なお、
図39におけるデータ入力及び演算等の順番は適宜変更可能である。また、転舵角制御部920内の速度制御部923は、捩れ角制御部300a内の速度制御部330と同様に、I−P制御ではなく、PI制御、P制御、PID制御、PI−D制御等、実現可能で、P、I及びDのいずれかの制御を用いていれば良く、更に、転舵角制御部920及び捩れ角制御部300aでの追従制御は、一般的に用いられている制御構造で行っても良い。転舵角制御部920については、目標角度(ここでは目標転舵角θtref)に対して実角度(ここでは転舵角θt)が追従する制御構成であれば、車両用装置に用いられている制御構成に限定されず、例えば、産業用位置決め装置や産業用ロボット等に用いられている制御構成を適用しても良い。
【0226】
実施形態3では、
図35に示されるように、1つのECU50で反力装置60及び駆動装置70の制御を行っているが、反力装置60用のECUと駆動装置70用のECUをそれぞれ設けても良い。この場合、ECU同士は通信によりデータの送受信を行うことになる。また、
図35に示されるSBWシステムは反力装置60と駆動装置70の間には機械的な結合を持たないが、システムに異常が発生した場合に、コラム軸2と転舵機構をクラッチ等で機械的に結合する機械的トルク伝達機構を備えるSBWシステムにも、本開示は適用可能である。このようなSBWシステムでは、システム正常時はクラッチをオフにして機械的トルク伝達を開放状態とし、システム異常時はクラッチをオンにして機械的トルク伝達を可能状態とする。
【0227】
上述の実施形態1から3での捩れ角制御部300,300aは、直接的にモータ電流指令値Imc及びアシスト電流指令値Iacを演算しているが、それらを演算する前に、先ず出力したいモータトルク(目標トルク)を演算してから、モータ電流指令値及びアシスト電流指令値を演算するようにしても良い。この場合、モータトルクからモータ電流指令値及びアシスト電流指令値を求めるには、一般的に用いられている、モータ電流とモータトルクの関係を使用する。
【0228】
図40は、実施形態3の低μ路トルク補正値演算部の一構成例を示すブロック図である。上述した実施形態1,2では、タイヤのスリップによって発生する物理量として、SAT推定部343(
図3参照)によって推定されるセルフアライニングトルクT
SAT、ヨーレートセンサ15(
図1参照)によって検出される実ヨーレートγ、又は横加速度センサ16(
図1参照)によって検出される実横加速度を用いる例について説明したが、本実施形態では、タイヤのスリップによって発生する物理量として、
図40に示すように、転舵角制御部920(
図36参照)にて算出されるモータ電流指令値Imctを用いる構成について説明する。
【0229】
図40に示すように、実施形態3の低μ路トルク補正値演算部280dは、比例係数乗算部281dと、減算部282dと、トルク調整係数値マップ部283dと、絶対値演算部284dと、を含む。
【0230】
絶対値演算部284dには、モータ電流指令値Imctが入力される。絶対値演算部284dは、入力されたモータ電流指令値Imctの絶対値|Imct|を演算する。比例係数乗算部281dは、入力されたモータ電流指令値の絶対値|Imct|に対して、所定の比例係数k”を乗じた値k”(|Imct|)を減算部282dに出力する。比例係数k”の値は、トルク信号Tref_a0と比例係数乗算部281dの出力値k”(|Imct|)とが通常の走行状態で略一致するような値に設定される。
【0231】
減算部282dは、トルク信号Tref_a0から比例係数乗算部281dの出力値k”(|Imct|)を減算した値Tref_a0−k”(|Imct|)をトルク調整係数値マップ部283dに出力する。
【0232】
トルク調整係数値マップ部283dは、減算部282dの出力値Tref_a0−k”(|Imct|)とトルク調整係数値Gとの関係を示すトルク調整係数値マップを保持している。実施形態3に係るトルク調整係数値マップの特性は、
図14に示す実施形態1のトルク調整係数値マップ部283が保持するトルク調整係数値マップと同様であり、減算部282の出力値Tref_a0−k(|T
SAT|)を減算部282dの出力値Tref_a0−k”(|Imct|)に読み替えることで対応可能である。
【0233】
トルク調整係数値マップ部283dは、上述したトルク調整係数値マップを用いて、減算部282dの出力値Tref_a0−k”(|Imct|)に応じたトルク調整係数値Gを導出して出力する。なお、減算部282dの出力値Tref_a0−k”(|Imct|)とトルク調整係数値Gとの関係を示す数式を用いて、トルク調整係数値Gを算出する態様であっても良い。
【0234】
図40に示す実施形態3の構成においても、上述した実施形態1,2に係る構成と同様に、タイヤのグリップ力が失われた状態において、トルク信号Tref_aを通常の走行状態(
図15中の実線)よりも小さくすることができる(
図15中の破線)。これにより、通常の走行状態よりも操舵感が軽くなり、運転者は、タイヤのグリップ力が失われたことを認識することができ、適切な緊急回避操作を行うことができる。
【0235】
(変形例)
図41は、実施形態3の変形例の低μ路トルク補正値演算部の一構成例を示すブロック図である。なお、上述した実施形態3の構成と同じ構成部には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0236】
図41に示すように、低μ路トルク補正値演算部280eには、基本マップ部210から出力されるトルク信号Tref_a0、及び転舵角制御部920(
図39参照)にて算出されるモータ電流指令値Imctに加え、車速Vsが入力される。
【0237】
図41に示すように、実施形態3の変形例の低μ路トルク補正値演算部280eは、比例係数乗算部281eと、減算部282eと、トルク調整減算値マップ部283eと、絶対値演算部284eと、を含む。
【0238】
絶対値演算部284eには、モータ電流指令値Imctが入力される。絶対値演算部284eは、入力されたモータ電流指令値Imctの絶対値|Imct|を演算する。比例係数乗算部281eは、入力されたモータ電流指令値の絶対値|Imct|に対して、所定の比例係数k”を乗じた値k”(|Imct|)を減算部282eに出力する。比例係数k”の値は、トルク信号Tref_a0と比例係数乗算部281eの出力値k”(|Imct|)とが通常の走行状態で略一致するような値に設定される。
【0239】
減算部282eは、トルク信号Tref_a0から比例係数乗算部281eの出力値k”(|Imct|)を減算した値Tref_a0−k”(|Imct|)をトルク調整減算値マップ部283eに出力する。
【0240】
トルク調整減算値マップ部283eは、減算部282eの出力値Tref_a0−k”(|Imct|)とトルク調整減算値Sと車速Vsとの関係を示すトルク調整減算値マップを保持している。実施形態3の変形例に係るトルク調整減算値マップの特性は、
図24に示す実施形態1の変形例1のトルク調整減算値マップ部283aが保持するトルク調整減算値マップと同様であり、減算部282aの出力値Tref_a0−k(|T
SAT|)を減算部282eの出力値Tref_a0−k”(|Imct|)に読み替えることで対応可能である。
【0241】
トルク調整減算値マップ部283eは、上述したトルク調整減算値マップを用いて、減算部282eの出力値Tref_a0−k”(|Imct|)に応じたトルク調整減算値Sを導出して出力する。なお、減算部282eの出力値Tref_a0−k”(|Imct|)とトルク調整減算値Sと車速Vsとの関係を示す数式を用いて、トルク調整減算値Sを算出する態様であっても良い。
【0242】
図41に示す実施形態3の変形例の構成においても、上述した実施形態1に係る構成と同様に、タイヤのグリップ力が失われた状態において、トルク信号Tref_aを通常の走行状態(
図15中の実線)よりも小さくすることができる(
図15中の破線)。これにより、通常の走行状態よりも操舵感が軽くなり、運転者は、タイヤのグリップ力が失われたことを認識することができ、適切な緊急回避操作を行うことができる。
【0243】
なお、上述した実施形態3及びその変形例では、タイヤのスリップによって発生する物理量として、転舵角制御部920(
図39参照)にて算出されるモータ電流指令値Imctを用いる構成を例示したが、本実施形態においても、実施形態1の変形例2,3と同様に、タイヤのスリップによって発生する物理量として、ヨーレートセンサ15(
図1参照)によって検出される実ヨーレートγを用いる構成とすることも可能である。また、本実施形態においても、例えば、タイヤのスリップによって発生する物理量として、横加速度センサ16(
図1参照)によって検出される実横加速度を用いる構成としても、上述した実施形態1,2と同様の効果を得ることができる。
【0244】
さらには、上述した実施形態1において、タイヤのスリップによって発生する物理量として、捩れ角制御部300(
図5参照)にて生成されるモータ電流指令値Irefを用いる構成としても良いし、上述した実施形態2において、タイヤのスリップによって発生する物理量として、捩れ角制御部300a(
図25参照)により演算されたモータ電流指令値Imcを用いる構成としても良い。
【0245】
なお、上述で使用した図は、本開示に関して定性的な説明を行うための概念図であり、これらに限定されるものではない。また、上述の実施形態は本開示の好適な実施の一例ではあるが、これに限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。また、ハンドルと、モータ又は反力モータの間に任意のバネ定数を有する機構であれば、トーションバーに限定しなくても良い。