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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2020年3月19日
【発行日】2021年8月30日
(54)【発明の名称】急須
(51)【国際特許分類】
   A47J 31/56 20060101AFI20210802BHJP
   A47J 31/00 20060101ALI20210802BHJP
   A47J 31/20 20060101ALI20210802BHJP
   A47G 19/14 20060101ALI20210802BHJP
   A47G 19/00 20060101ALI20210802BHJP
【FI】
   A47J31/56
   A47J31/00 101
   A47J31/20
   A47G19/14
   A47G19/00 C
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】28
【出願番号】特願2020-546751(P2020-546751)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2019年8月5日
(31)【優先権主張番号】特願2018-168414(P2018-168414)
(32)【優先日】2018年9月10日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】518322388
【氏名又は名称】株式会社IPM研究社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 亮
(72)【発明者】
【氏名】鶴藤 友義
【テーマコード(参考)】
3B001
4B104
【Fターム(参考)】
3B001AA21
3B001CC03
3B001CC11
4B104BA82
4B104BA86
4B104DA11
4B104DA23
4B104EA30
(57)【要約】
本発明は、開口1aを介して水を収容可能な収容部1Bと、収容部内で茶葉の成分が浸出した状態の水の濁りを視認可能な視認部1bと、収容部内の水を直接的に加熱する加熱体2と、を備えた容器1と、容器1を所定位置に載置した状態で収容部1B内の水を設定温度に加熱すると共に、設定温度に温度管理する加熱温度管理手段と、を備えた基台50と、収容部内の水の温度を表示する表示部91と、茶葉を投入した後、その茶葉の成分が浸出する成分浸出時間を報知可能な報知手段と、加熱された水と茶葉を分離可能にする分離手段と、を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口を介して水を収容可能な収容部と、収容部内で植物素材の成分が浸出した状態の水の濁りを視認可能な視認部と、前記収容部内の水を直接的に加熱する加熱体と、を備えた容器と、
前記容器を所定位置に載置した状態で前記収容部内の水を設定温度に加熱すると共に、設定温度に温度管理する加熱温度管理手段と、を備えた基台と、
前記収容部内の水の温度を表示する表示部と、
水分未吸収の植物素材を、前記収容部内で設定温度に温度管理された状態にある水の中に投入してから、前記植物素材の成分が浸出する成分浸出時間を報知する報知手段と、
前記加熱された水から前記植物素材を前記容器の外側に分離可能にする分離手段と、
を有することを特徴とする急須。
【請求項2】
前記容器は、収容された水の温度を検知可能な温度センサを備え、
前記分離手段は、前記開口に設置可能で、植物素材を設定温度に管理した水の中で浸した状態で保持する網部を具備した茶漉しを備え、
前記温度センサは、その先端位置が、前記開口に茶漉しが設置された状態の網部の最下端位置より上方に位置すると共に前記加熱体の表面から15mm以下となるように配設されていることを特徴とする請求項1に記載の急須。
【請求項3】
前記加熱温度管理手段は、前記収容部内の水を設定温度に加熱する際、水の温度の時系列データ又は水の量のデータから、前記加熱体の余熱によって到達する最大温度が前記設定温度よりも若干高い温度になるタイミングで加熱体に対する加熱をOFF制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の急須。
【請求項4】
前記加熱温度管理手段は、同じ水量の条件下で、設定温度が低く設定された場合と設定温度が高く設定された場合とで、前記水温が設定温度に至るまで温度上昇率が異なるように、前記加熱体を加熱制御することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の急須。
【請求項5】
前記報知手段は、前記成分浸出時間を継続的に前記表示部に表示する、及び/又は、成分浸出時間になったことを報音する、ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の急須。
【請求項6】
前記加熱体に対して接触する部材と、前記加熱体との間に防熱手段を配設したことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の急須。
【請求項7】
前記容器は、下部側が明度V=8〜10となるように表面処理されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の急須。
【請求項8】
容器に収容した水を温度管理し、植物素材の成分を浸出する急須を用いた植物素材の成分浸出方法であって、
前記容器の中に収容した水を設定温度に加熱し、その設定温度を維持、管理する温度管理工程と、
前記設定温度に維持、管理された状態の湯に、水分未吸収の植物素材を投入し、前記植物素材の成分を浸出すると共に、成分浸出された植物素材又は成分浸出液を容器外に分離する成分浸出工程と、
前記成分浸出工程中、成分浸出時間を継続的に報知する報知工程と、
を有することを特徴とする急須を用いた植物素材の成分浸出方法。
【請求項9】
請求項8に記載の急須を用いた植物素材の成分浸出方法において、
前記温度管理工程は、容器内に収容した水の量によって、設定温度に加熱するまでの加熱状態を、以下の(1)(2)の少なくともいずれか一方を有する制御であることを特徴とする。
(1)同一の設定温度では、水の量が多い場合の温度上昇率を、水の量が少ない場合の温度上昇率に対して高くする
(2)同一の水の量では、設定温度が高い場合の温度上昇率を、設定温度が低い場合の温度上昇率に対して高くする
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、茶葉(緑茶、紅茶等)、花、果実、根など、各種の植物素材からエキスを浸出するのに用いられる急須に関し、詳細には、エキスを浸出する水(水溶液)の温度管理、及び、植物素材の成分の浸出状態を視認可能な急須に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、植物素材としての緑茶を淹れる道具として急須が知られている。この急須は、陶器、磁器、鉄等の材料で作られており、茶葉を投入した後、電気ポット、やかん、茶釜などで沸かした湯を注ぎ、茶葉の成分を浸出することでお茶を淹れることができる。
【0003】
また、お茶を自動的に淹れる装置として、水を加熱するヒータと、茶葉用ネットを抽出容器内に昇降させる機構とを備えた茶飲料抽出装置(特許文献1)や、湯沸かし容器で加熱した湯を給湯部からティー抽出器に注いでお茶を淹れる家庭用ティーメーカ(特許文献2)が知られている。また、特許文献3には、水の温度を計測するセンサと、センサで検出された温度を表示する表示部と、湯の設定温度及び設定時間を入力して設定温度又は設定時間になると報知する報知部と、を本体に設けた急須が開示されている。
【0004】
さらに、特許文献4には、フレンチプレス型の茶葉抽出装置が開示されている。この茶葉抽出装置は、水が加熱されるシェル容器の上方に、茶葉が収容された食品容器を保持する構成であり、加熱された水で茶葉のエキスを抽出する前段階で茶葉を予熱で蒸し、これにより、茶葉の抽出時間を短くすることを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−98008号
【特許文献2】特開2005−230048号
【特許文献3】特開2002−65467号
【特許文献4】特表2006−517834号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の急須は、茶葉の特性、湯の温度、浸出時間などの条件を全て人の感覚で行なうため、美味しいお茶を淹れるためには、相当の熟練が必要であり、熟練度の低い人は、美味しいお茶の味を出すことは困難であった。また、特許文献1及び2に開示されているような、自動的にお茶を淹れる装置が知られているが、成分の浸出温度、浸出時間など、茶葉の特徴に合った条件設定をしない限り、たとえ良い茶葉を購入しても、本当に淹れたいお茶の味を出すことはできない。例えば、茶葉を扱う専門店や茶園で、熟練者が淹れた緑茶を試飲して美味しいことを確認して購入した茶葉であっても、自宅に帰って自分で淹れてみると、試飲したお茶の味を出せないことはよくあることであり、たとえ、特許文献1,2に開示されているような装置で茶葉を機械的・自動的に処理しても、美味しいお茶や飲みたい味のお茶を淹れることは困難である。
【0007】
これは、従来の装置は、茶葉の成分を浸出するときに適正温度になっておらず、また、成分の浸出時に温度変化が生じており、温度が一定に管理されていないことによるものである。具体的には、温度センサで水の温度を計測し、温度センサで所定値が検出されたときに、熱源をOFFに制御するような温度管理が一般的であるが、このような方式では、熱源がOFFになったときの温度、及び、そこからしばらく時間が経過したときの温度の管理を考慮していないため、適正な温度でお茶を淹れたり、お湯の温度を一定値に管理することを厳密に行なうことはできない。
【0008】
さらに、従来の急須のように、茶葉とお湯を入れて所定時間後に湯呑に注ぐ方法では、お茶の成分の浸出状態を把握することはできず、お茶を淹れた結果で味を確かめるしかない。
【0009】
上記の特許文献3に開示されている急須は、水を注ぐ急須そのもの(急須の本体)に水の温度を計測するセンサ、このセンサで検出された温度を表示する表示部、湯の設定温度及び設定時間を入力する入力部、設定温度又は設定時間になると報知する報知部などの制御ユニットを組み込んだ構成であるため取扱性が悪く、また、内部でのお茶の浸出状態を把握することができないことから美味しいお茶を淹れることはできない。さらに、温度センサで所定値が検出されたときに熱源をOFFにして報知する方式は、お湯の温度を一定値に管理するものではなく、適正な温度でお茶を淹れることはできない。すなわち、温度センサで所定の温度を検知した時に電源OFFにしても、その後の余熱によって温度上昇しており、実際に茶葉を投入するときは、美味しい温度条件に対して高温の状態になっている。
【0010】
上記の特許文献4に開示されている茶葉抽出装置は、加熱される水の上方で茶葉を蒸らした後、その茶葉を加熱した水に浸漬させ、この浸漬している時間を測定して、お茶の抽出を報知する構成である。このような構成では、茶葉のエキスを早く抽出することはできるものの、成分浸出について正確な時間のコントロールができない。美味しいお茶は、その茶葉が、最も適した温度で水分を吸収し始めてからエキスが抽出されるまでの全ての時間を測定することが重要である。特許文献4に開示されている茶葉抽出装置は、お茶を淹れる時間の短縮化を図るだけに過ぎず、茶葉が適した水の温度で水分を吸収し始めてからエキスが抽出されるまでの時間を考慮していないため、美味しいお茶を淹れることはできない。特に、次第に加熱される水の上方で茶葉を蒸らすため、水が低温状態から加熱されるまでの間、茶葉は水分を吸収し続けることとなり、茶葉の量、水の量によって水分吸収量が変化し、その後、加熱された水に蒸された状態の茶葉を浸漬しても、安定して美味しいお茶を淹れることはできない。すなわち、特許文献4に開示されている茶葉抽出装置は、素早く茶葉のエキスを抽出することを特徴とするものであって、美味しいお茶を淹れることについては考慮されていない。
【0011】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、茶葉(緑茶、紅茶等)、花、果実、根など、各種の植物素材からエキスを浸出するのに用いられる急須において、熟練者でなくても、美味しく植物素材の成分の浸出を可能にする急須を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した目的を達成するために、本発明の急須は、開口を介して水を収容可能な収容部と、収容部内で植物素材の成分が浸出した状態の水の濁りを視認可能な視認部と、前記収容部内の水を直接的に加熱する加熱体と、を備えた容器と、前記容器を所定位置に載置した状態で前記収容部内の水を設定温度に加熱すると共に、設定温度に温度管理する加熱温度管理手段と、を備えた基台と、前記収容部内の水の温度を表示する表示部と、水分未吸収の植物素材を、前記収容部内で設定温度に温度管理された状態にある水の中に投入してから、前記植物素材の成分が浸出する成分浸出時間を報知する報知手段と、前記加熱された水から前記植物素材を前記容器の外側に分離可能にする分離手段と、を有することを特徴とする。
【0013】
上記した構成の急須を用いて、例えば、お茶を淹れる場合、容器の収容部に入れた水を加熱温度管理手段によってその茶葉にとって最適な温度にすることができる。収容部に入れた水が最適な温度状態(ユーザによって設定された温度)になったとき、容器内に、水分未吸収の茶葉を投入すると、その浸出状態は、視認部を介して目視できることから、その色合い(濁りや濃さ)を見て、最も美味しく飲める状態を把握することが可能となる。この場合、お茶は、最適な温度条件が維持された状態(温度が管理範囲外に変化していない状態)で成分を浸出することができ、かつ、成分浸出時間が報知手段によって報知されることから、美味しいお茶を淹れるための熟練した技術(従来の急須を用いてお茶を淹れる際の温度の感覚や茶葉の浸出状態の感覚)がなくても、誰でも美味しいお茶を淹れることが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、茶葉(緑茶、紅茶等)、花、果実、根など、各種の植物素材からエキスを浸出するのに用いられる急須において、熟練者でなくても、美味しく植物素材の成分の浸出を可能にする急須が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る急須の第1の実施形態の概略構成を示す側断面図。
図2図1に示す急須に配設される温度センサ付近の拡大図。
図3】容器の収容部の収容空間の大きさを示す概念図。
図4】急須に入れた水の温度管理を行なう加熱温度管理手段の一構成例を示すブロック図。
図5】加熱温度管理手段における温度管理の手法の一例を示すグラフ。
図6】加熱温度管理手段において、目標温度へ到達させる制御フローの一例を示すフローチャート。
図7】加熱温度管理手段において、目標温度を維持する制御フローの一例を示すフローチャート。
図8】加熱温度管理手段において、水の加熱温度の管理制御の別の例を説明するグラフ。
図9】本発明に係る急須の第2の実施形態の概略構成を示す側断面図。
図10】加熱体に対して接触する部材と、加熱体との間に配設される防熱手段(熱伝導率低減手段)の一例を示す図。
図11】防熱手段の別の構成例を示す図。
図12】防熱手段の更に別の構成例を示す図。
図13】分離手段の別の構成例を示す図。
図14】容器の開口に装着される蓋体の構成を示す図であり、(a)は平面図、(b)は図(a)のA−A線に沿った断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る急須の実施形態について、添付図面を参照しながら具体的に説明する。
本発明は、上述したように、茶葉(緑茶、紅茶等)、花、果実、根など、各種の植物素材からエキスを浸出するのに用いられる急須に関するものであり、エキスを浸出する水(真水に限定されることはなく、炭酸水なども含まれる;水溶液)の温度管理、特に、植物素材毎に最適な温度(目標温度)に加熱すると共に、その目標温度を正確に維持し、その目標温度で、水分未吸収状態の植物素材からエキスを浸出することに特徴がある。
【0017】
最初に、以下の説明において用いられる本発明の用語について説明する。
植物素材の「成分が浸出(成分浸出)」とは、水分未吸収(乾燥状態)にある植物素材が水分を吸収すると共に、植物素材の成分が水の中に出てくる状態のことを意味する。
「成分浸出時間」とは、植物素材が水分を吸収し始めてから、水の中に成分が浸出することを止めるまでの一連の時間を意味する。
「成分浸出時間の報知」とは、上記した「成分浸出時間」の間、継続的に時間を知らせること(例えば、その時間に至るまでを、表示部でカウントアップ又はカウントダウンで知らせること、その時間になったことを音や光等によって知らせること)を意味する。したがって、報知手段が成分の浸出時間を報知すると、使用する植物素材にとって、最も適した温度、及び、抽出時間でエキスの抽出が成される。この成分浸出時間については、使用する植物素材の種類、量、及び、水の量に応じてあらかじめ特定されたものである。
「加熱温度管理」とは、使用する植物素材に応じて最適な温度(目標温度)に加熱し、かつ、その目標温度を所定の範囲内に維持、管理することを意味する。
【0018】
以下、本発明に係る急須の実施形態について説明する。
図1及び図2は、本発明に係る急須の第1の実施形態を示す図であり、図1は概略構成を示す側断面図、図2は、図1に示す急須(容器)に配設される温度センサ付近の拡大図である。
なお、以下に説明する実施形態では、急須に用いられる植物素材として、茶葉(緑茶)を例示して説明する。
【0019】
本実施形態に係る急須100は、従来の陶器製の急須と同様な機能を果たす容器1と、この容器を所定位置に載置して温度管理を実行する基台50とを備えている。
前記容器1は、従来の陶器製の急須のように、使用者が茶葉を投入してお湯を入れるのではなく、水を目標温度(設定温度とも称する)に温め、目標温度になったときに、水分未吸収の茶葉を投入可能な構成となっている。目標温度は、投入する茶葉の種類と飲みたい味によって最適な温度条件及び成分浸出時間があり、使用者は、使用する茶葉の種類、飲みたい味(薄い味、濃い味など)によって、温度、及び、浸出時間を設定する。
【0020】
前記基台50は、容器1に入れた水が、目標温度になったときに報知を行ない、使用者は、その状態で容器1に茶葉を投入する。この場合、基台50に設けられている加熱温度管理手段は、容器内で目標温度になった水を、茶葉が投入される前段階、及び、茶葉が投入された後でも、その温度が変動することはなく管理する(加熱温度の管理の手法については後述する)。
【0021】
前記容器1の構成について説明する。
容器1の容器本体1Aは、例えば、ガラス素材(耐熱強化ガラス)、透明樹脂素材によって一体形成されており、その底には、磁性体で構成された加熱体2が設けられている。加熱体2は、収容された水に直接接触するように容器本体に取り付けられており、本実施形態では、直接接触して水を温める方式としている。具体的には、電磁誘導加熱方式(induction heating;IH方式)を採用している。このため、後述する基台50には、磁界を発生させるIHコイル等が配設されている。
なお、水を温めるための電磁誘導加熱方式については、周知技術であるため、詳細な説明については省略する。
【0022】
容器本体1Aは、底(本実施形態では加熱体2で構成される)と対向する位置に設けられた開口1aを介して水が収容される収容部1Bを備えており、加熱体2と、その周囲から立ち上がる筒状壁(側壁)1bで囲まれた領域によって収容部1Bが形成される。この収容部1Bは、仕様値として最大で500ml程度の水が収容できるように形成されており、前記側壁1bは、その厚さが2.0〜3.0mmの範囲で形成されている。
【0023】
本実施形態における容器1及び基台50の大きさ(急須100の大きさ)は、全体の高さ(開口1a部分には、図示しない蓋体が設置され、蓋体が設置されていない高さ)Hが140〜150mm程度に設定され、水の容量を450〜500mlにすると、容器本体1Aの高さ(加熱体2の表面から後述する茶漉し10のリング部が当て付く当て付け部1eまでの高さ)H1が75〜80mm程度に設定される。また、容器本体1Aの最大内径は、110〜120mm程度に設定される。さらに、基台50については、高さH3が30〜50mm程度に設定される。
【0024】
本実施形態では、容器本体1Aをガラス素材で形成することから、側壁1bは透明の視認部を構成しており、収容部1B内に投入した茶葉の成分浸出状態は、全ての方向から視認することが可能となっている。なお、このような視認部は、茶葉の成分浸出状態が視認できれば良いため、側壁の一部が透明になっている素材で容器本体を形成しても良い。視認部の透明度又は透明度と背景は、茶葉の成分が浸出した状態の色、色の濃さ、濁りや澱が分かるようにしている。前記視認部、或いは、容器本体は、上記したようなガラス素材(高透明度のガラス)、又は、それと同等の合成樹脂、例えばアクリルやポリエチレン等によって構成することが可能であり、前記視認部、或いは、容器本体の内面には、視認性が向上するように、曇り止め被膜を形成(例えば、界面活性塗料をコーティングする等、界面活性層を形成)しておくことが好ましい。
【0025】
前記開口1aの一部には、前記収容部1Bから水を注ぎ出すことが可能な注出口1cが形成されている。注出口1cは、収容部内で茶葉の成分が浸出された湯を安定して注出できるように形成されていれば良く、例えば、開口1aの縁の一部を嘴状に屈曲して形成される。なお、注出口は、開口部分に形成するのではなく、従来の陶器製の急須のように、側壁1bから上方に向けて突出する注出管部として構成されたものであっても良い。
【0026】
前記加熱体2は、収容部1B内に収容された水に直接接触して、水を温める機能を備えており、本実施形態では、効率的に温めることができるように、加熱体2は、厚さが0.3〜3.0mmで略円形の平面状に形成されている。加熱体2と容器本体の側壁1bとは結合部4によってシールされた状態で結合されている。具体的には、図2に示すように、加熱体2の周縁部2aに円周壁2bを形成するとともに、その上端面に環状の溝部2cを有する受け部2dを形成し、溝部2cに側壁1bの下端1b´を圧入して、内側にシリコンリング3を周設することでシール状態を維持した状態で結合されている。
【0027】
本実施形態では、加熱体2の周縁部2aに、収容部1B内に露出する温度センサ5を設置している。周縁部2aに温度センサ5が設置できるように、加熱体2の周縁の少なくとも一部には、加熱体の平坦面から立ち上がるように屈曲段部2eが形成されており、この部分に温度センサ5を設置している。前記温度センサ5の配線5aは、屈曲段部2e内の隙間を通り、後述する取手の内面に沿って基台50側に設けられた接点51と接触して、加熱温度管理手段側に温度信号を送信する。この場合、接点51は、後述するテーブル53の表面に沿って環状に配設されており、容器1を基台のどの位置に設置しても検知信号を送信できるようになっている。
【0028】
前記温度センサ5の設置個所は任意であり、加熱体2の底以外にも、周囲に立ち上げられた前記円周壁2b又は側壁の下部に設けても良い。また、温度センサ5は、容器内側の複数個所に設けても良い。さらに、収容部内に収容された水の温度が正確に測定できれば、温度センサの構成や測定方法等については、特定の形態に限定されることはない。
【0029】
上記した構成では、収容部1B内における加熱効率を最大化するとともに、放熱による温度低下を最小化するように構成することが好ましい。
具体的には、図3に示すように、加熱体2の平面状部(結合部4を除いた部分)の直径Dは、容器本体(容器)の最大内径D1の80%以上に設定し、容器本体は、加熱体2の中心Cから垂直方向で、かつ、平面状部の直径Dの1/2の位置(C1)までの最大内径に囲まれた範囲R1と、加熱体2の中心Cから垂直方向に、平面状部の直径Dの1/2となる位置C1を中心として、前記最大内径D1の半径(D1/2)で描かれる半球状の範囲R2とで囲まれた領域内に前記収容部1Bを有するように形成される。
【0030】
前記加熱体2の直径は、上記したように結合部4が存在しており、容器本体は、上部に開口が形成されるため、理想的には、上記した領域R1,R2内に、水が収容される収容部1Bを形成することで、加熱効率が良く、温度低下が少ない構成にすることが可能となる。すなわち、加熱体2の加熱面積を大きくすると同時に水の収容部の形状を球に近づけることで、加熱効率の向上と温度低下を抑えて、効率よく温度管理することができる。
【0031】
前記容器本体1Aの側壁1bの下端には、下方に延びる円筒状のカバー部材7を設けておくことが好ましい。カバー部材7の上端には、内側に向けて環状フランジ7aが形成されており、側壁1bを前記受け部2dに圧入し、環状フランジ7aに受け部2dを当て付けることで、カバー部材7を容器本体1Aに一体化することが可能となる。この場合、カバー部材7の下端7bから加熱体2の裏面までの距離H2は、20mm以上確保しておくことが好ましい。ただし、距離H2が長くなり過ぎると、操作性が低下するため、40mm以下にすることが好ましい。
【0032】
このようなカバー部材7を設けることで、容器本体1Aを、後述する取手9を摘まんで持ち上げてお茶を湯呑に注ぐ際、指が加熱体2に接触することを防止することが可能となる。また、前記加熱体2に対して接触する部材と、加熱体2との間に防熱手段(熱伝導率低減手段)を設置することが好ましい。
【0033】
図10は、そのような防熱手段の一例を示す図である。防熱手段8は、加熱体2とカバー部材7との間の接触面部分に配設することが可能であり、特に、手が接触する部材となるカバー部材7と加熱体2との間で熱の伝導を抑制するように配設される。具体的には、例えば、カバー部材7に形成された環状フランジ部7aと加熱体2の受け部2dとの間の接触領域に、環状の隙間8aを形成して熱伝導を低減する構造、受け部2dの下面に対して、周方向に沿って断続的に開口(通気部)8bを形成することで点接触状態、或いは、線接触状態にして熱伝導を低減する構造、環状フランジ部7aに、周方向に沿って断続的に開口(通気部)8cを形成して熱伝導を低減する構造等にすることが可能である。或いは、加熱体2とカバー部材7との間の接触部分に、両部材よりも熱伝導効率の小さい部材(断熱部材)を配設しても良い。
【0034】
また、図10に示す防熱手段は、容器本体の側壁1bの下端1b´の内側と外側に、シリコン8dを充填しており、このシリコンも防熱手段8を構成している。具体的に、前記シリコン8dは、加熱体2の受け部2dの径方向内方に内リング(環状の保護リング)2gを設けておき、この内リング2gと側壁1bとの間、及び、加熱体2の受け部2dの径方向外方の外周に形成された環状壁2hと側壁1bとの間に充填されている。このシリコン8dを充填して容器本体1Aと加熱体2を固定することで、熱による容器本体1Aへの影響を低減することが可能となる。
【0035】
なお、シリコン8dを側壁1bの両面側に充填する場合、その幅は、外側よりも高熱側となる内側を厚くすることが好ましい。また、上記した内リング2gは、容器本体1Aがガラスである場合、その熱膨張率と同程度以下の材料(例えば、ガラス繊維強化樹脂、カーボン繊維強化樹脂、熱伝導率が低い金属など)を使用することが好ましい。また、加熱体2の環状壁2hとカバー部材7との間に隙間8hを形成することで防熱手段8を構成することが可能である。
【0036】
図11は、防熱手段の別の例を示す図である。この実施例では、カバー部材7の内面に環状の溝7gを形成しておき、この部分に、加熱体2の環状壁2hに形成された延長部(鍔部)2h´を嵌合させることで、カバー部材7と容器本体の側壁1bとの間の適所に隙間8hを形成するようにしている。この場合、延長部2h´の肉厚を1.0mm以下にすることで、小さい接触面積で加熱体とカバー部材が固定でき、上下方向(垂直方向)、径方向、円周方向に効率的に隙間8h(防熱部分)を形成することが可能となる。また、環状の溝7gの嵌合部分は、部分接触するようにしても良いし、上記したように形成される隙間には、シリコンなどを充填しても良い。
【0037】
図12は、防熱手段の更に別の例を示す図である。この実施例は、容器本体の側壁1bの下端側を覆うように、樹脂カバー9gを配設している。樹脂カバー9gの内面には、環状の凹溝9g´が形成されており、この部分に容器本体の側壁1bの下端に形成された環状フランジ1gを配設している。この場合、環状フランジ1gには、環状フランジ1gを上下方向で挟持するように、防熱手段を構成する環状のシリコン8fを配設している。シリコン8fの下側は、加熱体2の受け部2dに当て付いており、加熱体2の熱が樹脂カバー9gに直接伝わらないようにしている。
【0038】
また、加熱体2の受け部2dの下面側には、樹脂製の環状支持部材2kが取り付けられている。環状支持部材2kには、周方向に一定間隔を置いて、係止爪(フック)2k´が形成されており、これが樹脂カバー9gに形成された開口9hと係合することで、加熱体2、容器(側壁1b)、樹脂カバー9gは一体化される。この場合、樹脂カバー9gは、円筒状のカバー部材7´と一体化されており、後述する取手9は、前記樹脂カバー9g及びカバー部材7´に対して、ネジ止め等によって一体化される。
【0039】
なお、前記加熱体2から取手側に伝わる熱は、熱伝導によるものと、加熱体の輻射熱がある。熱伝導対策(防熱手段)については、加熱体2とカバー(樹脂カバー9gやカバー部材7,7´)との間に空間を設置したり、点接触構造にすることで達成することが可能である。また、加熱体からの輻射熱に関しては、前記カバーの内側に防熱フィルムを取着したり、防熱機能を有する防熱層を形成することで構成することが可能である。また、上記したような防熱手段8については、カバー部材7,7´に、以下のような取手9を形成する場合、取手9の部分にも設けておくことが好ましい。
【0040】
さらに、上記した構成では、容器の開口を介して容器の内面を視認すると、上記した樹脂カバー9gが目立ってしまい、成分浸出中のお茶の濁り状態(色)が把握し難くなってしまう。このため、容器の下部側(図12では、容器の下端から高さHaの範囲)は、その内面1hの明度がV=8〜10の高明度となるように表面処理を施しておくことが好ましい。すなわち、樹脂カバーが配設される部分に対応する容器の下部側の明度を、V=8〜10の高明度にすることで、茶葉の成分浸出状態の色との間でコントラストが明確になり、成分浸出状況を容易に把握することができる。
【0041】
前記容器本体1Aの側壁1bには、図1に示すように、収容部からお茶を注出する際に把持される取手9が設けられている。この取手9は、上部9a、側部9b、下部9cを具備し、容器本体の側壁1bとの間で指を挿入できる開口9Aを有するように形成されている。取手9は、お茶を注出する際に把持される部位であり、取手9を把持した状態で加熱体2に指が当たることなく、更には、操作性が良く、安定して注出操作が行えるように形成されていることが好ましい。
【0042】
具体的には、取手9の下部9cの下端位置9dは、容器の下端(本実施形態では、カバー部材7の下端7b)からの高さH4が15〜40mmの範囲にあるように形成されることが好ましい。また、取手9の下部9cについては、上下方向の厚さT1を10〜25mm、左右方向の幅を15〜40mmに形成することで、例えば、側部9bから下部9cに移行する領域を人差し指と親指で摘まみ、下部9cの下側に中指、薬指、小指を重ねて当て付けることができ、手首の回転動作を行なうことで注出操作を容易かつ安定して行なうことが可能となる。特に、取手9を、下部9cの中心位置(下端位置9dの表面形状の中心となる位置)9mを支点として容器を吊り下げたときのバランスが、容器内の底面(加熱体2の底面)が垂直方向に対して15度程度に傾斜する(図1において、注出口1cが反時計回り方向に傾斜する)ように構成することで、容器を取手9の下側から把持した状態で、手首を回転するだけで水をコップなどに注出することができる。さらに、このような取手9は、中空状に形成することで軽量化が図れるようになり、容器本体1Aの側壁1bの表面の上端側に亘って固定されていても良い。
【0043】
本実施形態では、茶葉の収容部1Bに対する投入は、収容部内に出し入れ自在に設置される茶漉し10を介して行なうように構成されている。茶漉し10は、収容部内の水(設定温度に加熱された水)から茶葉を容器の外側に分離可能にする分離手段を構成するものであり、更に、加熱された水と茶葉の相対位置を、回転方向及び上下方向に動かすことを可能にする機能を備えている。
【0044】
本実施形態の茶漉し10は、前記容器本体の開口1aの縁部に設置可能な略円形状のリング部10aと、リング部10aを前記開口1aの縁部に設置した状態で、リング部から下方に垂下し、水分未吸収の茶葉を加熱された水の中に浸した状態で保持する円筒状の網部10bと、リング部10aの一部に取り付けられ、前記開口1aの縁部から径方向外方に突出し、前記網部10bを回転方向及び上下方向に移動操作可能にする操作部10cを備えている。
【0045】
具体的に、前記容器本体1Aの側壁1bは、上端に移行するに従い、縮径化するように湾曲形成されており、上端側において、前記茶漉しのリング部10aが当て付いて落下しないように環状の当て付け部(縁部)1eが形成されており、さらに、当て付け部1eから上方は、次第に拡径しながら前記開口1aが形成されている。このため、リング部10aを開口1a部分に設置すると、網部10aの位置が固定されるとともに、操作部10cは、開口1aから径方向外方に突出した状態となり、操作部10cを摘まんで操作することで、茶葉が収容された網部10bを回転方向及び上下方向に動かすことが可能となる。
【0046】
また、容器本体に設置される茶漉し10と温度センサ5の位置関係については、温度センサ5の先端位置5cが、加熱体2の表面からの高さH5が15mm以下、好ましくは10mm以下となるように設置され、かつ、茶漉し10については、リング部10aが開口1a部分に設置されたときの最下部(網部10bの最下部10b´)が、加熱体2の表面に対して、高さH6が0〜10mmの範囲(10mm以下)に位置付けられることが好ましい。また、100mlの水(小コップ一杯分の水)を容器に入れたとき、温度センサ5の温度感知部分の長さの70%以上が水の中に沈むようにすることが好ましい。
【0047】
なお、前記温度センサ5は、加熱体2の温度の影響を受けないように、加熱体から離れた位置、例えば、容器本体の側壁側、或いは、加熱体の外周側で、容器本体の側壁に非接触状態で設置しても良い。例えば、温度センサ5を、容器の側壁1b、或いは、上方から配置する場合、温度センサの先端(温度計測部の先端)は、上記したように、加熱体2の表面から15mm以下、好ましくは、13mm以下、より好ましくは10mm以下になるように配置し、且つ、1〜2人前の場合150ml、より少ない量にする場合100mlの水(さらには70mlの水)で、温度センサの先端が水に浸される状態に配置するのが良い。
【0048】
上記した茶漉し10と温度センサ5の位置関係によれば、水分を吸収してない茶葉を茶漉しの網部10bに投入すると、茶葉は次第に水分を吸収して沈むことから、加熱体2の近くで茶葉が溜まった状態となる。このため、図1に示すように、高さ方向で網部10bの下部領域に温度センサ5の位置が重なる状態にして温度が測定できるようになり、効率の良い茶葉の浸出を行なうことができるとともに、最も適切な温度管理を行なうことが可能となる。すなわち、成分浸出時に、茶葉の集まる位置(茶漉しの底部付近)と温度センサの位置を同じか略同じにすることにより、実際の浸出温度と、温度センサで検知された温度の表示を一致させることが可能となり、精度の高い成分浸出が行なえるようになる。また、前記収容部内の最大内径位置と茶漉しの網部の最大寸法位置との間隔については、12〜22mmの範囲にすることが好ましく、これにより茶葉の浸出状態が視認し易くなる。
【0049】
なお、前記温度センサ5については、容器1に対して着脱自在な構成であっても良い。例えば、容器本体1Aの開口1a部分に装着される蓋や、前記茶漉し10等に設置されるものであっても良く、温度表示する表示部を備えた構成であっても良い。また、温度センサ5は、少なくとも一つが加熱体の表面から15mm以下、好ましくは13mm以下、更には10mm以下に位置していれば良く、複数の温度センサを容器の任意の位置に配置しても良い。また、温度センサによって検出される温度については、容器の外側、或いは、取手9の部分に温度表示部を設置して表示させても良い。さらに、温度センサの配置位置には、ヒータの加熱う温度の影響を防止するために、ヒータを配置しないことが好ましい。
【0050】
上記した容器1を基台50の所定位置(予め定められた位置)に載置して加熱指示を与えると、前記加熱体2を介して収容部内の水は、設定温度(目標温度)に加熱され、その温度を維持するように温度管理が成される。このため、前記基台50は、前記加熱体2に面接し、電磁誘導を生じさせるテーブル53と、テーブル53内に設置されたIHコイルの磁界を制御(IHコイルに印加する電力を供給するインバータ回路を制御)する加熱温度管理手段(図4参照)60と、収容部内の水の目標温度となる設定温度を特定するとともに、水の温度を表示する表示部91を備えた操作パネル90と、を備えており、前記加熱温度管理手段60は、所定のプログラムに従って、温度センサ5で検知された温度信号に基づいて、収容部内の水の温度管理制御を行なう。
【0051】
前記テーブル53は、略円錐台形状となっており、このテーブル53に対して、前記容器本体1Aが、カバー部材7部分を覆うようにして設置される。すなわち、容器1は、基台50のテーブル53を覆うようにして所定位置に設置することができ、この状態でテーブル53の表面に、容器の加熱体2が面接して位置決めされ、加熱体2は、テーブル53内に設けられたIHコイルによって誘導加熱される。この場合、テーブル53は略円錐台形状となっているため、カバー部材7の上端側との間で隙間(10mm程度形成されるのが好ましい)が形成され、この部分に温度センサ5のリード5aを配設することが可能になるとともに、容器を基台に対して設置し易くすることができる。また、容器1と基台50は、凹凸関係で水平方向に対し滑り止めして載置されるので、安定的に載置することができる。
【0052】
図4は、容器1内の水を温度管理する加熱温度管理手段60の一構成例を示すブロック図である。
基台50に組み込まれる加熱温度管理手段60は、一般の家庭用の交流電源から供給される電源を直流に変換する電源ユニット61、電源ユニット61からの電力を加熱体2に供給する加熱体駆動部(インバータ回路、これを駆動する制御回路等が含まれる)63、加熱体駆動部63を所定の動作プログラムにしたがって制御する制御部65、前記動作プログラムを格納したROM66、操作パネル90から入力された操作信号情報を一時的に記憶し、プログラムの処理を実行する上で各種情報を一時的に記憶するRAM67、及び、タイマ68等を備えている。
【0053】
前記操作パネル90は、基台50の側面に設置されており、少なくとも現在の水の温度を表示する表示部91と、使用者によって目標温度などが入力(操作)される入力部(操作部)92とを備えている。操作部92は、例えば、各種の情報が表示されるタッチパネルとして構成したり、操作ボタンとして構成することが可能である。また、表示部91は、成分浸出時間について、カウントアップ表示、又は、カウントダウン表示可能となっている。
【0054】
なお、操作パネル90の機能(主に操作部や表示部としての機能)については、基台50以外の操作部材で行えるようにしても良い。例えば、基台50内に送受信ユニット(通信ユニット)を組み込んでおき、WiFi、Bluetooth(登録商標)等の既存の通信網を利用して、スマートフォンのような携帯端末との間で、操作信号や情報信号を送受信するようにして、外部操作できるようにしても良い。すなわち、利用者が所有する携帯端末に、操作部や表示部としての機能を持たせたり、茶葉の成分浸出時間を知らせる報知手段(音、光、振動など)としての機能を持たせても良い。
【0055】
本発明における加熱温度管理の方法は、収容部に収容された水を温めて正確に目標温度にすると共に、その目標温度を高精度に維持することに特徴がある。また、収容部に収容される水の量は、お茶を飲む人数に応じて異なり、それに応じて加温する時間も異なってくる。
以下、本実施形態における加熱温度管理の方法について説明する。
【0056】
本実施形態では、収容部に入れた水の量に関係なく、その水の温度を正確に制御(温度管理)するようにしている。具体的に、図5を参照して、そのような制御方法について説明する。
図5は、加熱体2による加熱時間を横軸、温度センサ5によって検知される温度を縦軸にしており、一定の加熱電力によって水を温める際の、温度の経時変化を示したグラフである。この場合、100ccの水では、温度の経時変化は急こう配(傾きが大きい)になるのに対して、水の量が増える(200cc〜500cc)に従って、経時変化は緩くなる。このため、単位時間当たりの温度の上昇率(水の温度の時系列データ)を検出することで、収容部の水の量を検出することが可能となる。
【0057】
例えば、ROMの制御データとして、一定の電力で加熱した際の水の温度の時系列データのテーブルを格納していれば、温度センサからの検知温度の変化量とそのときの時間によって、収容部内の水の量を特定することができる。また、制御データは、水の量、及び、現在の検知温度から、あと何秒加熱を維持して加熱通電をOFFにすると、その余熱(ヒータの蓄熱)によって目標温度(図5では、目標温度を70℃としている)に到達するかの制御テーブルを備えている。すなわち、目標温度毎にOFFライン情報(OFFラインを特定する制御テーブル)を格納しており、実際の温度センサ5による検知温度がOFFラインに到達したときに加熱通電をOFF制御するようにしている。
【0058】
本実施形態では、目標温度になったときに加熱通電をOFF制御するのではなく、加熱通電をOFFにしてからの余熱によって目標温度をオーバーシュートするように加熱をOFF制御(加熱体の余熱による温度上昇分を差し引いた温度で加熱をOFF制御)するようにしている。すなわち、加熱温度管理手段60は、加熱体2による加熱が始まった後、水の温度の時系列データから水の量を特定し、特定した水の量では、あとどの程度の時間、加熱を維持すれば、余熱(ヒータの蓄熱)を考慮して目標温度をオーバーシュートさせるかを特定し、その時間になったときに加熱をOFF制御する。
【0059】
加熱体の余熱による温度上昇は、水の量が大きく変化すると、温度上昇もそれにつれて大きく変化する。例えば、水の量が少ないと、余熱による温度上昇が大きく、目標温度を適切に管理できない可能性が生じる。上記したように、加熱体の余熱による温度上昇を、水量に応じて加熱をOFFにするタイミングを調整することで、水の量に関係なく、正確に目標温度に管理することが可能となる。
【0060】
なお、上記の加熱温度管理において、収容部内の水の量については、実際の水の量のデータを用いても良い。この水の量のデータの取り方については、例えば、温度設定する際に、使用者が操作パネルから水の量を入力又は選択できるようにしたり、容器本体に水の量を検出するセンサを配設し、このセンサから得たデータを使用したり、或いは、基台に重量計を配設し、容器に水を入れるときに重量計をON(ゼロ設定)にして、水を容器に注入してから水の量を計測したデータを使用する等を用いることが可能である。水の量のデータ(収容部内の水の量)が予め特定されていれば、実際の温度センサ5による検知温度がOFFラインに到達したときに加熱通電をOFF制御すれば良い。
【0061】
上記したように、本実施形態では、目標温度に達した後の温度の下降を考慮して、最大温度が目標温度よりも若干高くなる(+α℃;目標温度に対してオーバーシュートする)ようにOFF制御している。例えば、図5において、300ccの水(上記したように、水の温度の時系列データ又は実際の水の量によって特定される)を、70℃を目標温度に設定して温めたときに、加熱体をOFFにした後の余熱を考慮して、70℃+α℃が最大温度となるようにOFF制御している。これは、最大温度を目標温度と一致させると、加熱通電がOFFになった後、直ぐに実際の温度が目標温度を下回ってしまうことを考慮したものであり、温度維持制御に移行するまでに、一定の時間的な猶予を持たせるためである。特に、茶漉しを収容部に入れると短時間で温度低下するので、オーバーシュートさせない制御と比較すると、目標温度に温度管理し易くなる。
【0062】
以上のように、収容部に収容した水を目標温度に加熱する制御については、収容部内の水の温度の時系列データ(実際の温度上昇率/下降率)、又は、実際の水の量のデータを、加熱条件(加熱体2の余熱を考慮した加熱時間)に用いるか、或いは、加熱のON/OFFのタイミング制御に用いることで正確な温度管理を実現することが可能となる。
すなわち、最初はフルパワーで加熱し、設定温度に近づくと余熱による温度上昇を計算し、設定温度又はそれよりも高い温度になるタイミングで加熱をOFFにする(最初に強く加熱した後、設定温度より低い温度から加熱体の余熱で水の温度を上げ、加熱量調整しながら設定温度となるように制御を行なう)。ことで、収容部に入れた水の量に関係なく、最短時間で、その水を目標温度まで上昇させることが可能となる。
【0063】
なお、加熱のOFF制御は、例えば、設定温度よりも低い温度から単位時間当たりの加熱割合を小さくしながら設定温度に管理しても良いし、設定温度よりも低い温度から加熱をON/OFFしてON時間を短くしながら設定温度に管理するようにしても良い。すなわち、設定温度に近づいた後は、上記したように、電源をOFFして加熱体の余熱で設定温度にしても良いし、加熱時間に長短を設けて段階的に加熱をしても良いし、単位時間あたりに加える電力(加熱率)を調整して、段階的に加熱しても良いのであり、加熱体に対するON/OFF動作、比例(Proportional)動作、PID動作等から選択すれば良い。
【0064】
水の加熱温度の管理制御については、さらに以下のような手法を用いることが可能である。
例えば、同一水量で加熱する場合、設定温度が低ければ、目標温度に達する時間が短く、設定温度が高ければ、目標温度に達する時間が長い。また、同一設定温度で加熱する場合、水量が少ないと目標温度に達する時間が短く、水量が多ければ、目標温度に達する時間が長い。このため、前記加熱温度管理手段は、同じ水量の条件下において、設定温度が低く設定された場合と設定温度が高く設定された場合とで、温度上昇率が異なるように加熱体を加熱制御することが好ましい。
【0065】
図8を参照して、具体的に説明する。
同一の水量で、目標温度を80℃にする場合と60℃にする場合を考慮する。加熱体に対する加熱条件が同一であれば、目標温度が80℃の場合、目標温度に達するまでの時間が、目標温度が60℃の場合と比較すると長くなる。そこで、両者の温度上昇率が異なるように加熱体を加熱制御する。具体的には、目標温度が80℃に設定された場合(高く設定された場合)の温度上昇率a1が、目標温度が60℃に設定された場合(低く設定された場合)の温度上昇率a2よりも高くなるように、加熱体を加熱制御することで、設定温度に関係なく、略同一の時間でお茶を淹れることが可能となる。
【0066】
このような加熱温度の可変制御は、水温が初期加熱温度(安定した加熱温度であり、図8では、30℃としている)に達した後に行なうことが好ましく、初期加熱温度に至るまでは、同一の加熱状態で加熱を行ない、30℃に達した後は、目標温度に応じて、上昇率が異なるように加熱制御を行なう。この温度上昇率に関する制御テーブルは、同一の水量において、目標温度毎に予め設定されており、目標温度が高くなるに連れて上昇率が高くなるように設定されている。図8に示す例では、目標温度が80℃の場合、30℃以降は、フルパワーで加熱し、余熱で80℃(オーバーシュートさせても良い)になるときに電源をOFFするように制御し(温度上昇率は高い)、目標温度が60℃の場合、40℃〜60℃までは徐々に加熱するように制御(温度上昇率は低い)して、使用者に対して、目標温度に関係なく、加熱時間の差に違和感を生じさせないように制御している。
【0067】
このような加熱温度の管理制御によれば、水の量が少なくても設定温度に精度良く管理することが可能となり、また、水の量や設定温度に関係なく、略同じ時間が経過したときにお茶を淹れることが可能となる。すなわち、目標温度にする時間を、概ね1分台〜2分台の比較的短時間とし、同じ感覚で操作できるようにしている。
【0068】
なお、同一の設定温度において、水の量が多い場合の温度上昇率を、水の量が少ない場合の温度上昇率に対して高くするように設定しても良い。すなわち、温度上昇率に関する制御テーブルは、同一の設定温度において、水の量毎に予め設定されており、水の量が多い場合の温度上昇率を、水の量が少ない場合の温度上昇率に対して高くなるように設定しても良い。
【0069】
そして、加熱によって水が設定温度(多少、オーバシュートした温度も含む)に達した後は、その目標温度を維持する温度管理制御が行われる。
上記したように、加熱通電がOFFされると、一定時間後に最大温度((70+α)℃)となり、その後、温度は下降するが、目標温度から一定温度下降((70−β)℃)したときに、再び加熱通電を一定時間ON制御して、水の温度を最大温度((70+α)℃)に戻すようにしている。
【0070】
すなわち、本実施形態の温度管理制御では、設定温度を含んだ上下幅の範囲で管理範囲を設定しており、管理範囲の上限(70+α)℃まで上昇させた後に温度の維持管理を行なうようにしている。
この場合、湯の量はそのままか、或いは注出によって一定量使用されていることがあり得るが、単位時間当たりの温度の下降率(水の温度の時系列データ)を検出することにより、収容部の湯の量を把握することが可能であるため、その時系列データから、ON時間を制御する(ONしてからOFFにするまでのタイミング)ことが可能となる。また、加熱時のデータを使用することもできる。
【0071】
この結果、図5のグラフで示すように、最初の加熱から時間が経過しても、目標温度付近で温度が所定の範囲(目標温度+α℃〜目標温度−β℃)内に維持することができ、収容部内のお湯は、略目標温度を維持することが可能となる。例えば、αを1℃又は2℃、βを−1℃又は−2℃に設定することで、使用者は、常に70℃付近のお湯(68℃から72℃)で茶葉のエキスを浸出させることが可能となる。特に、温度管理の幅は、設定温度±2℃、好ましくは、設定温度±1℃にすることで、より最適な温度でお茶を淹れることが可能となる。
【0072】
なお、上記したように、最初の加熱時に、管理範囲よりも高い温度に設定する(オーバーシュートさせる)ことで、設定温度に向けて早く加熱することができ、かつ、容器に茶漉しを入れたり、茶葉を入れて混ぜることで温度低下が生じても、目標温度付近にすることが可能となる。
【0073】
また、水の温度を設定温度に維持管理する制御については、上記した最初の設定温度に向けて温度管理する制御と同様に行なうことができ、収容部内の水の温度の時系列データ(実際の温度上昇率/下降率)、又は、実際の水の量のデータを、温度維持管理する際の加熱条件に用いたり、或いは、加熱のON/OFFのタイミング制御に用いることで正確な温度管理を実現することが可能となる。
【0074】
上記した構成では、加熱温度管理手段60が収容部内の水を設定温度に加熱し、温度管理する間、容器内の水の温度を継続的(断続的であっても良い)に表示部91に表示させても良いし、一定時間毎(秒単位)に表示させても良い。「継続的に」とは、加熱開始後にON,OFF操作しなくても容器内の実際の水の温度を表示可能にすることを意味しており、これにより、加熱時の温度データを温度管理に使用可能となる。また、使用者は温度の時系列的な変化や温度の維持状態を正確に把握することができる。このように継続的に温度が表示されているため、使用者は、温度が最適な状態で、水分未吸収の茶葉を茶漉しに投入し、成分浸出された植物素材、又は、成分浸出液を容器外に分離する(成分浸出液を容器本体から注ぎ出す)ことでお茶を抽出することが可能となる。すなわち、植物素材の成分を浸出する工程中、温度が一定に維持管理されており、また、その時間を報知し続けることで、美味しいお茶を淹れることが可能となる。
【0075】
図6は、前記加熱温度管理手段60の制御部65において、制御プログラムにしたがって温度の加熱制御を実行する制御フローの一例を示すフローチャートである。
最初、使用者が操作パネル90の操作部92を操作して目標温度を設定する。この目標温度は投入する茶葉の種類や産地等によって、最も美味しく浸出できる温度として予め特定されており、使用者がその目標温度を入力すると、制御部は目標温度値を取得すると共に(S1)、引き続き、ON操作される(湯沸し操作信号の入力)のを待つ(S2)。
【0076】
ON操作があった場合(S2;Yes)、温度センサ5によって検知される温度信号と、タイマから得られる時間情報に基づいて単位時間の温度上昇率を取得する(S3)。この温度上昇率から、収容部内の水の量が特定されることから、図5に示すように、予め特定されているOFFライン制御テーブルと、現在の検知温度に基づいて加熱通電OFFのタイミングを設定する(S4)。そして、OFFタイミングになったときに、加熱通電をOFF制御する(S5,S6)。この加熱通電のOFFによって、収容部内の水は、OFFしてから一定時間後には、目標温度よりも僅かに高い温度(目標温度+α℃)となっており、この状態は表示部91に表示される。この場合、報知手段を設置しておき、目標温度になったことを、報知手段によって報知するようにしても良い。
【0077】
報知手段としては、基台50に設置された表示部91に対する数値表示の他、音、光、音声によって行なうことが可能である。なお、この報知手段は、後述するように、使用者が水分未吸収の茶葉を茶漉し10に入れて、容器の水中に投入してから、時間計測をスタートし、成分浸出時間を報知する機能を有する。
【0078】
前記報知手段については、前記基台50、又は、容器1に設置することが可能であり、それ以外にも、上記したように、基台50に通信ユニットを組み込んでおき、既存の通信網を介して利用者が所持する携帯端末に対して、目標温度になったことを知らせる通知信号を送信し、携帯端末側で、音、光、音声、振動等で報知するようにしても良い。
そして、上記した報知手段による報知が行われた後は、引き続き、温度の維持制御が行われる(S7)。この温度の維持制御は、茶葉の投入に関係なく、装置のスイッチがOFFされるまで実行される。
【0079】
図7は、前記加熱温度管理手段60の制御部等において、目標温度を維持する制御フローの一例を示すフローチャートである。
本実施形態の温度管理は、上記したように、(目標温度+α℃)〜(目標温度−β℃)の範囲で行われる。目標温度の維持管理は、収容部内のお湯の温度を温度センサ5によって取得し(S11)、温度が一定温度(−β℃)下降した際(S12;Yes)、それまでの単位時間当たりの温度下降率を取得する。この温度下降率から現在の水の量を特定できることから、(目標温度+α℃)になるまでの加熱通電のON時間を特定し、加熱通電をONにする(S13,S14)。
【0080】
そして、加熱通電のON時間が経過したときに加熱通電をOFFすることで(S16)、収容部内のお湯の温度は、一定時間後には、上記した(目標温度+α℃)に上昇する。その後、温度維持管理が必要か否か判断され(S17)、温度維持管理が必要な場合(S17;Yes)、上記したS11に戻って再び同じ制御が繰り返され、温度維持管理が不要な場合(S17;No)、目標温度維持制御フローは終了する。
なお、ここでの温度維持管理が不要な場合とは、例えば、温度維持管理が開始されてから一定時間経過したとき、お湯が全て注出される等、温度センサ5の検出温度が降下したとき、使用者が操作パネルで電源をOFF操作したとき等が挙げられる。
【0081】
また、本実施形態のように、加熱手段として、IH方式を採用する場合、上記した加熱温度管理手段は、温度センサで温度計測するときに瞬間的に加熱をOFFにすることが好ましい。これは、IH方式では、加熱時にノイズが発生し、温度センサに影響を及ぼす(加熱時に正確に温度計測することができない)可能性があることを考慮したためである。この場合、加熱をOFFにすると、加熱効率が悪くなり、設定温度に加熱するのに時間がかかって効率が悪くなるため、以下のように、加熱OFF制御することが好ましい。
【0082】
加熱の初期段階では、温度センサの使用頻度を少なくし(例えば、2〜5秒に1回温度計測する)、加熱体の余熱で水を加熱する段階では温度センサの使用頻度を上げ(例えば、1秒に1回温度計測する)、所定温度に管理する段階では、更に温度センサの使用頻度を上げて、単位時間当たりの温度センサの使用状態と加熱状態とをバランスさせる(例えば、1秒間の内、0.1〜0.3秒を温度計測に、残りの時間を加熱に配分する)ことで、加熱効率を上げると共に、ノイズ対策することが可能となる。
なお、ノイズの影響を無くす手法として、ノイズフィルタ(EMI除去フィルタ)を使用することも可能である。
【0083】
また、上記した構成では、茶葉の成分浸出時間を知らせるタイマ等の報知手段(時間報知手段)が設けられている。これは投入する茶葉によって、最適な浸出時間が予め特定されているため、使用者が実際に茶葉を茶漉し10に投入した後、報知手段をONにして、その一定時間を報知するようにしておくことで、より最適な茶葉の浸出状態を得ることが可能となる。この場合、報知手段は、経過時間を継続的に表示することが好ましく、前記表示部91に対して減算表示(カウントダウン表示)するようにしても良いし、加算表示(カウントアップ表示)するようにしても良い。
【0084】
このような時間報知手段は、基台50又は容器1に設けておけば良く、これにより、より美味しいお茶を淹れやすくすることができる。また、報知手段については、上記した加熱時における報知手段と同様、表示部91に対する数値表示の他、音、光、音声によって報音したり、視認させることができ、それ以外にも、通信機能(無線、WiFi等)によって、スマートフォンのような携帯端末にするなど、任意位置に設置することが可能である。このため、使用者は、成分浸出時間になったとき、前記分離手段によって、茶葉を容器外に分離することができる。
【0085】
以上のような急須によれば、容器内に水を収容した後、茶葉毎に最適な温度に素早く加熱することができ、その水の温度を確認しながら管理範囲内で安定した温度で茶葉の成分浸出を行なうことができると共に、加熱された水は、管理されたオーバーシュートによって、茶葉投入時の温度低下条件を見越した温度管理を行なうため、管理範囲内の安定した温度で成分浸出することができる。また、成分浸出時間については、茶葉によって最適な時間があり、この成分浸出時間を報知手段によって報知するため、使用者は、収容部に入れた水が最適な温度になるように維持された状態で茶葉を投入することができ、茶葉投入後もその温度が管理され、更には、報知手段によって、最適な成分浸出状態が報知されるため、熟練した技術が無くても、茶葉にとって最適な条件でお茶を淹れることができる。
【0086】
この場合、容器の視認部を介して、その茶葉の浸出状態(色やにごり)を視認することができるため、感覚的に渋い状態(濃い状態)、マイルドな状態(薄い状態)を把握し易くなり、使用者の好みの状態で茶葉からエキスを浸出させることも可能となる。なお、視認部を介して茶葉を視認するに際しては、水の温度、成分浸出時間、成分浸出状態を同じ方向から同時に視認できるような配置態様にすることで、温度、時間、濃さを同時に把握することが可能となる。
【0087】
また、上記した急須の構成では、分離手段である茶漉し10に、容器の収容部内の水(湯)と、茶葉の相対位置を回転方向及び上下方向に動かす操作部を設けたことで、茶葉の浸出を促進することが可能となる。この場合、茶葉同士が激しく接触すると、澱(おり)が発生したり、雑味が出ることもあるため、分離手段を構成する網部10b及び操作部10cについては、茶葉同士の接触をできるだけ軽減できるように、収容部内の水と茶葉が円周方向で撹拌作用を受けるようにすることが好ましい。
【0088】
上記したように、容器本体の開口1aの縁部から径方向外方に突出する操作部10cを設けたことで、この部分が摘まみ易くなり、操作部10cを回動操作することで、収容部内の水と、茶葉の相対位置を周方向に沿って動かすことが可能となる。また、操作部10cを摘まんで上下方向に動かすことで、収容部内の水と、茶葉の相対位置を上下方向に沿って動かすことができる。前記操作部10cについては、容器に250mlの水を入れた状態で先端を把持して上下動、及び、回動しても破損や欠陥が生じない高強度部材で形成するのが好ましい。
【0089】
前記加熱された水から茶葉を容器の外側に分離可能にする分離手段については、本実施形態のような茶漉しにするのではなく、ティーバッグのお茶を淹れたいのであれば、棒状に構成することが可能である。例えば、図13に示すように、分離手段は、撹拌棒110として構成することができ、棒状の本体110aと、本体110aの一端側に設けられる把持部111と、本体110aの他端に設けられ、ティーバッグを把持可能な挟持部112と、を備えた構成にすることが可能である。前記挟持部112は、バネ部材113によって先端側が閉じるように付勢されており、先端の平面部115にティーバッグの紐の端部を挟持することが可能となっている。
【0090】
このような構成では、撹拌棒110を、容器の開口に沿って回動させたり、上下動させることで、上記した茶漉し10と同様、水と茶葉の相対位置を動かして、浸出状態を視認しながらお茶を淹れることが可能となる。この場合、挟持部112の先端部分112aを湾曲状に形成しておくことで、容器に対する当たりを軽減することが可能となる。
【0091】
上記した水と茶葉の相対位置を動かす手法としては、スクリューで容器内の水を周方向に動かす構成としても良い。このようなスクリューは、茶漉し網に配設したり、容器の底の周縁部分に設置することが可能である。或いは、撹拌子を容器の底に設置し、基台又は容器の下部(中央部分)にマグネチックスターラを配設し、このマグネチックスターラで撹拌子を回転させて水を円周方向に回転させても良い。
【0092】
図9は、急須の第2実施形態を示す図である。
本発明では、容器1内に収容した水を加熱する方式については、上記したIH方式に限定されることはなく、例えば、加熱ヒータ方式で構成することも可能である。加熱ヒータ方式についても、一般的に公知であるため、詳細な構造については説明を省略するが、容器1の加熱体2Aの下面の周方向外側に環状(略C字状)のヒータ2Bが配設され、その中央部分に電気接続端子(受け側端子)2cを設けた構造となっている。
【0093】
また、この方式では、公知のように、基台50側の中央位置に、前記受け側端子2cと係合される電気接続端子(差し込み側端子)70が配設されており、容器1を基台50の所定位置にセットすることで、電気接続端子2c,70が接続され、ヒータ2Bを介して加熱体2Aを加熱し、収容部内の水を温めることが可能となる。
なお、この方式では、容器1の配線部分(通電部分)、特に、金属露出部分に対して防水構造(被覆、テープ等による密封構造)を設けておくことが好ましく、これにより、容器について水洗いすることが可能となる。
【0094】
このように、水の加熱方式については、特別な構造に限定されることはなく、種々変形することが可能であり、上記した加熱温度管理手段についてもそのまま適用することが可能である。また、加熱体は、水に直接接触して温めるようにすることが好ましい。例えば、容器の底をガラス素材で形成し、ガラス素材に加熱体を一体に形成しても良い。また、間接的に接触して温めるようにしても良い。
【0095】
上述した実施形態の急須では、前記容器1内に水が収容されていない状態で加熱を防止する水なし加熱防止手段を設けておくことが好ましい。この水なし加熱防止手段は、容器1内に水が無いときに、水が無いことを報知するか、又は、加熱OFF状態を維持するように構成したものであれば良い。例えば、上記した容器に、空焚き防止のための検知手段を設けておくことが好ましく、収容部内の水の有無を感知するセンサや、水の有無を画像によって検知するものであっても良い。前記水の有無を感知するセンサは、ヒータがある程度の温度になったときに切れるものではなく、水が無い状態を報知することから、空焚きを確実に防止することが可能となる。また、このようなセンサは、上述した温度センサ5と一緒にセットにして配置することが好ましいが、別々の位置に設置するものであっても良い。特に、水の有無を検知することから、容器の底部近く(底部から15mm以下の高さ、好ましくは10mm以下の高さ)に設置すると良い。さらに、容器に対する加熱をON操作するときに容器内に水が無いときは、加熱をOFFにしたまま、空焚きになることを、ライトの点滅、文字表示、音声などによって報知することが好ましい。
【0096】
このように、水なし加熱防止手段を設けることで、空焚き防止(火災予防)や、容器の破損防止はもとより、加熱体の変色、茶カスの焼き付きを防止して、成分浸出状態(色や濁り状態)の視認性を向上することが可能となる。
【0097】
また、上記した実施形態の急須は、図1で示す容器1の開口1aを閉塞する蓋体を備えていることが好ましい。図14に示すように、蓋体120は、上面側に一対の長円形状の開口121が形成された略円形状でドーム側の本体120aと、本体120aの裏面側に設けられ、環状の凹所(受け部)121aを備えた載置部121とを備えている。
【0098】
前記載置部121は、容器1の開口1aに嵌ることが可能な大きさに形成されており、例えば、シリコンなどの柔軟部材で形成することで、異音の発生を防止することができ、容器に対する滑りを防止することが可能となる。また、図14(b)に示すように、蓋体120をひっくり返すことで、凹所121aに茶漉し10の網部を載置したり、茶カスを載置しておくことが可能となり、2煎目・3煎目の待ち時間に利用することが可能となる。
【0099】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記した実施形態に限定されることはなく、種々変形することが可能である。
例えば、容器の下部(加熱体)と基台(テーブル)に関する凹凸係合(容器側と基台側の凹凸関係)は、いずれを凸部にしても凹部にしても良い。また、収容部に収容された水を加熱するに当たって、空焚きを防止する空焚きセンサを配設しても良い。また、LED等を用いて、加熱時と温度管理時を異なる表示で報知するようにしても良い。さらに、音声報知では、単なる音ではなく、言葉などで報知するようにしても良い。
また、上記した第2の実施形態については、第1の実施形態の全ての構成を矛盾の無い限り任意に組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0100】
1 容器
1A 容器本体
1B 収容部
1a 開口
1b 側壁(視認部)
1c 注出口
2 加熱体
5 温度センサ
8 防熱手段
10 茶漉し
50 基台
60 加熱温度管理手段
90 操作パネル
100 急須
110 撹拌棒
120 蓋体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【国際調査報告】