特表-20090745IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 再表WO2020090745-密封用摺動部材およびシール装置 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2020年5月7日
【発行日】2021年9月30日
(54)【発明の名称】密封用摺動部材およびシール装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/34 20060101AFI20210903BHJP
   C04B 35/52 20060101ALI20210903BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20210903BHJP
【FI】
   F16J15/34 F
   C04B35/52
   C09K3/10 Q
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】12
【出願番号】特願2020-553895(P2020-553895)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2019年10月28日
(31)【優先権主張番号】特願2018-207369(P2018-207369)
(32)【優先日】2018年11月2日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】荒井 峰洋
(72)【発明者】
【氏名】塔本 英樹
【テーマコード(参考)】
3J041
4H017
【Fターム(参考)】
3J041AA01
3J041BC02
3J041DA20
4H017AA29
4H017AD01
4H017AE05
(57)【要約】
【課題】シリコン酸化物が堆積され易い環境下で使用されても、密封性能に優れた密封用摺動部材およびシール装置を提供すること。
【解決手段】1.0〜12.5wt%のセリウム酸化物と、20〜50wt%の黒鉛と易黒鉛化性炭素を足し合わせたものと、残部の難黒鉛化性炭素と、から成る焼成体を有する密封用摺動部材である。この密封用摺動部材は、たとえば回転シールリング2または静止シールリング4として用いられる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.0〜12.5wt%のセリウム酸化物と、20〜50wt%の黒鉛と易黒鉛化性炭素を足し合わせたものと、残部の難黒鉛化性炭素と、から成る焼成体を有する密封用摺動部材。
【請求項2】
前記セリウム酸化物の平均粒径が1.0〜6.0μmである請求項1に記載の密封用摺動部材。
【請求項3】
リング状に成形してある請求項1または2に記載の密封用摺動部材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の密封用摺動部材を有するシール装置。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封用摺動部材およびシール装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば下記の特許文献1または特許文献2に示すメカニカルシール用の摺動部材が知られている。この種の摺動部材は、カーボン製フィラーと、バインダ用樹脂と、シリコン酸化物とを混合して成形し、焼成することにより製造される。
【0003】
この種の摺動部材は、シリケート系防錆成分を含むLLC(ロングライフクーラント)等の水系の密封流体に曝されることがある。このような使用環境においては、LLCに含まれるSiがOと反応してSiOが生成され、摺動部材の表面に、SiOの堆積物が形成され易い。摺動部材にSiOの堆積物が形成されると、摺動隙間が広がるおそれがあり、密封性能を阻害してしまうおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−014278号公報
【特許文献2】WO2015/108107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、シリコン酸化物が堆積され易い環境下で使用されても、密封性能に優れた密封用摺動部材およびシール装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る密封用摺動部材は、1.0〜12.5wt%のセリウム酸化物と、20〜50wt%の黒鉛と易黒鉛化性炭素を足し合わせたものと、残部の難黒鉛化性炭素と、から成る焼成体を有する。
【0007】
本発明に係る密封用摺動部材では、セリウム酸化物(CeOまたはCeなど)が、黒鉛と易黒鉛化性炭素を足し合わせたものと難黒鉛化炭素と共に所定の割合で含まれる。本発明に係る密封用摺動部材では、セリウム酸化物が所定割合で含まれることから、成形性を損なうことなく、たとえばシリケート系成分を含む水溶液に曝される環境下においても、摺動部材の表面にシリコン酸化物が生成されることを抑制することができる。
【0008】
さらに本発明に係る密封用摺動部材では、ハードカーボン(HC)などの難黒鉛化性炭素を所定割合で含むことから、仮に堆積物が摺動面に生成されたとしても、堆積物は研磨され、これらの表面に堆積物が形成されることを抑制する。
【0009】
さらにまた本発明に係る密封用摺動部材では、黒鉛と易黒鉛化性炭素を足し合わせたものが所定割合で含有されていることから、摺動部材の摺動面での発熱が抑制され、シリコン酸化物の生成を抑制する。
【0010】
前記セリウム酸化物の平均粒径は、1.0〜6.0μmであってもよい。このような範囲の粒径のセリウム酸化物が密封用摺動部材に含まれることで、密封性能が向上することが確認されている。
【0011】
密封用摺動部材は、リング状に成形してあってもよい。このような形状に成形してあることで、メカニカルシール装置の密封用リングとして好ましく用いられることができる。
【0012】
本発明に係るシール装置は、上記のいずれかに記載の密封用摺動部材を有する。本発明に係るシール装置は、シリケート成分を含む水系の密封流体に密封用摺動部材が曝される場合に特に有益である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は本発明の一実施形態に係るメカニカルシール装置の要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0015】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る密封用摺動部材は、たとえばリング状に成形してある回転シールリング2として、たとえばウォーターポンプ用メカニカルシール装置10の内部に組み込まれて用いられる。
【0016】
メカニカルシール装置10は、回転軸20とハウジング30との間の取付空間に取り付けられ、ハウジング30の内側に位置する密封流体側空間50と、ハウジング30の外側空間に連通する大気側空間40との間をシールする。密封流体側空間50には、シリケートが含まれる密封流体が封入してある。
【0017】
摺動部材としての回転シールリング2は、回転軸20に軸方向移動自在に装着してあり、回転軸20と共に回転可能になっている。回転シールリング2の軸方向の先端側(静止シールリング4に近い側)には、摺動面2aが形成してある。また、静止シールリング4の軸方向の先端側(回転シールリング2に近い側)には、摺動面4aが形成してある。これらの摺動面2a,4aは、相対的に回転しながら摺動し、シールリング2,4の内周側空間と外周側空間との間を密封する。
【0018】
摺動面4aは、本実施形態では、静止シールリング4の先端側に形成してあるリング状凸部4bの先端面に形成してある。リング状凸部4bの径方向厚みは、静止シールリング4の本体部4cの径方向厚みよりも小さくしてある。また、摺動面4aの径方向幅は、摺動面2aの径方向幅よりも小さくなるように、リング状凸部4bの内径は、摺動面2aの内径よりも大きく、リング状凸部4bの外径は、摺動面2aの外径よりも小さくしてある。
【0019】
静止シールリング4の外周部は、ハウジング30の大気側内径部32に形成してある段差部にOリング33を介して取り付けられる。ハウジング30の大気側内径部32は、ハウジング30の外部空間に連通してあり、本実施形態では、大気側空間40に連通してある。大気側空間40は、静止シールリング4と回転軸20との間の内径側隙間と、回転シールリング2の先端部と回転軸20との間の内径側隙間とに連通している。
【0020】
ハウジング30の大気側内径部32に隣接して、ハウジング30には、密封側内径部34が形成してある。本実施形態では、密封側内径部34の内径が、大気側内径部32の内径よりも大きい。密封側内径部34と大気側内径部32との間の境界部分に、静止シールリング4が取り付けられ、Oリング33により、静止シールリング4とハウジング30との間の隙間を通して大気側空間40と密封側空間50とが連通することを抑制している。
【0021】
静止シールリング4が回転シールリング2と共に回転しないように、本体部4cの外周部には、回り止め用凸部4dが形成してあり、その凸部4dがケーシング30の係合溝に係合して回り止めが成されている。
【0022】
回転シールリング2の軸方向の後端側(静止シールリング4から離れる側)には、Oリング押さえ12がOリング11を軸方向に押し付けるように回転軸20に対して軸方向移動自在に装着してある。Oリング押さえ12は、Oリング11を介して、回転シールリング2を静止シールリング4の方向に押し付けるようになっている。Oリング押さえ12と回転シールリング2は、たとえば回り止めピン14などを用いて回り止めがなされ、これらは、回転軸20と共に、その軸芯回りに回転可能になっている。
【0023】
Oリング押さえ12の軸方向の後端側(静止シールリング4から離れる側)には、スプリング押さえ16が回転軸20に固定してあり、回転軸20と共に回転するようになっている。スプリング押さえ16は、リング状であり、その円周方向の複数箇所に、スプリング保持穴が形成してあり、各スプリング保持穴に保持されたスプリング18の圧縮力で、Oリング押さえ12を回転シールリング2の方向に軸方向に押圧するようになっている。また、スプリング押さえ16とOリング押さえ12とは、たとえば回り止めピン19により回り止めがなされ、これらは、回転軸20と共に軸芯回りに一緒に回転するようになっている。
【0024】
スプリング18のスプリング力は、Oリング押さえ12およびOリング11を通して、回転シールリング2に伝わり、回転シールリング2の先端部の摺動面2aを、静止シールリング4の摺動面4aに押し付ける。その結果、摺動面2aと摺動面4aとは、スプリング18によるスプリング力と、Oリング押さえ12の軸方向の後端面に加わる空間50内の流体圧により、軸方向に押し付けられながら、回転軸20の軸芯回りに相対回転する。その結果、これらのリング2,4の内周面に位置する大気側空間40と、これらのリング2,4の外周側に位置する密封流体側空間50との間をシールする。
【0025】
本実施形態では、このように構成してあるメカニカルシール装置10において、回転シールリング2を本実施形態に係る密封用摺動部材で構成し、その摺動の相手側となるメイティングリングとしての静止シールリング4は、シールリング2と同じ材質で構成することもできるが、本実施形態では、シールリング2よりも硬い材質で構成する。たとえばシールリング4は、炭化珪素、炭化チタン、炭化タングステン等の従来用いられる摺動材により形成されている。
【0026】
本実施形態に係る静止シールリング4を構成する密封用摺動部材は、1.0〜12.5wt%のセリウム酸化物と、20〜50wt%の黒鉛と易黒鉛化性炭素を足し合わせたものと、残部の難黒鉛化性炭素と、から成る焼成体で構成してある。好ましくは、セリウム酸化物は、1.1〜12.1wt%、さらに好ましくは2〜11wt%で密封用摺動部材に含まれる。好ましくは、黒鉛と易黒鉛化性炭素を足し合わせたものは、23.1〜49.6wt%、さらに好ましくは36.9〜41.3wt%で密封用摺動部材に含まれる。
【0027】
セリウム酸化物は、CeO、或いは、Ce等として摺動部材に含まれ、その粒径は、好ましくは、1.0〜6.0μmである。このような範囲の粒径のセリウム酸化物が密封用摺動部材に含まれることで、密封性能が向上することが確認されている。
【0028】
黒鉛としては、天然黒鉛または人造黒鉛のどちらかが用いられてもよい。また、易黒鉛化性炭素とは、(002)面の面間隔が、0.34nm〜0.360nmの炭素材料として定義されることができる。
【0029】
また、難黒鉛化性炭素とは、(002)面の面間隔が、0.360nmより大きい炭素材料として定義されることができ、ガラス状炭素あるいはハードカーボン(HC)として称されることもある。難黒鉛化炭素の形状としては、特に限定されないが、繊維状、粒状などが例示される。
【0030】
摺動部材を分析して、セリウム酸化物と黒鉛と易黒鉛化性炭素を足し合わせたものと難黒鉛化性炭素とのそれぞれの重量割合を求めるための方法としては、特に限定されないが、熱分析、蛍光X線分析などが例示される。
【0031】
本実施形態に係る密封用摺動部材から成る回転シールリング2は、粒径が所定範囲内のセリウム酸化物と、黒鉛と易黒鉛化性炭素を足し合わせたものと、難黒鉛化性炭素と、バインダ樹脂とを、混練してリング状に成形し、800°C〜1500°Cの温度で焼成することにより得られる。バインダ樹脂としては、特に限定されないが、たとえばフェノール樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、フラン樹脂などが用いられ、好ましくはフェノール樹脂が用いられる。
【0032】
本実施形態に係る密封用摺動部材では、CeOが、黒鉛と易黒鉛化性炭素を足し合わせたものと難黒鉛化炭素と共に所定の割合で含まれる。セリウム酸化物は、カーボンフィラーなどの難黒鉛化炭素の粒界に分散していると考えられる。
【0033】
本実施形態に係る密封用摺動部材では、シリコン酸化物を実質的に含まない。「シリコン酸化物を実質的に含まない」とは、不可避のものを含む、と言う趣旨である。
【0034】
シリコン酸化物は、シリコン酸化物に吸着しやすい性質があるが、本実施形態に係る密封用摺動部材では、シリコン酸化物を実質的に含まないため、シリコン酸化物が摺動部材に堆積しにくい。
【0035】
また、本実施形態に係る密封用摺動部材では、セリウム酸化物が所定割合で含まれることから、成形性を損なうことなく、たとえばシリケート系成分を含むLLCに曝される環境下においても、摺動部材の表面にシリコン酸化物が生成されることを抑制することができる。その理由は、必ずしも明らかではないが、以下に示す理由が考えられる。
【0036】
すなわち、従来の密封用摺動部材では、摺動による熱によりLLCのシリケートが影響を受け、摺動表面に堆積物を形成し、密封性能を低下させるおそれがあった。これに対して、本実施形態の密封用摺動部材では、セリウム酸化物が所定割合で含まれることから、セリウム酸化物のセリウムイオンが、H2Oと共に、SiとOの結合を弱めて分断させる機能を有し、摺動部材へのシリコン酸化物の堆積を阻害すると考えられる。
【0037】
さらに本実施形態に係る密封用摺動部材では、ハードカーボン(HC)などの難黒鉛化性炭素を所定割合で含むことから、これらの表面に堆積物が形成されることを抑制することができる。
【0038】
さらにまた本実施形態に係る密封用摺動部材では、黒鉛と易黒鉛化性炭素を足し合わせたものが所定割合で含有されていることから、摺動部材の摺動面での発熱が抑制され、シリコン酸化物の生成を抑制する。
【0039】
本実施形態に係るメカニカルシール装置10は、上述した密封用摺動部材から成る回転シールリング2を有する。そのため、たとえばシリケート成分を含む水系の密封流体が密封流体側空間50に封入してある場合でも、回転シールリング2の摺動面2aやその他の表面にシリコン酸化物が堆積することを有効に防止することができる。そのため、摺動面
2a,4aの相互間が不均一に開くことを有効に抑制し、密封性能が向上する。
【0040】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0041】
たとえば、上述した実施形態では、本実施形態に係る密封用摺動部材を、回転シールリング2として用いたが、静止シールリング4として用いることも可能である。本実施形態に係る密封用摺動部材を、静止シールリング4として用いる場合には、相手側の回転シールリング2の材質としては、前述した実施形態において、静止シールリング4として例示した材質であってもよい。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0043】
実施例1
図1に示す回転シールリング2を密封用摺動部材により製造した。密封用摺動部材の製造に際しては、平均粒径が3.5μmのセリウム酸化物と、鱗片状黒鉛(黒鉛化されなかった易黒鉛化性炭素を含む)と、平均粒径が40μm難黒鉛化性炭素と、バインダ樹脂としてのフェノール樹脂とを、表1に示す重量割合で混練してリング状に成形した。得られた成形体を、1000°Cの温度で焼成した。
【0044】
焼成後のシールリング2における難黒鉛化性炭素と、黒鉛(黒鉛化されなかった易黒鉛化性炭素を含む)と、セリウム酸化物との重量割合を調べた結果を、表2に示す。これらの重量割合は、難黒鉛化性炭素と、黒鉛と、セリウム酸化物との合計重量を100wt%として算出した。これらの重量割合は、シールリング2を任意の断面で切断し、その切断面を分析し、難黒鉛化性炭素と、黒鉛と、セリウム酸化物との面積割合を算出し、それぞれの比重から重量割合に換算して算出した。
【0045】
原料として用いたフェノール樹脂の一部は、難黒鉛化性炭素に変化したと考えることで、原料の重量割合と、焼成後のシールリング2の重量割合の整合性が確認できた。また、セリウム酸化物の平均粒径は、焼成後も変化しないことが確認できた。
【0046】
また、静止シールリング4としては、常温焼結SiCから成る市販のシールリングを用いた。回転シールリング2と静止シールリング4とを、図1に示すメカニカルシール装置10に組み込み、試験装置に取り付けた。試験装置は、縦型密封装置であった。試験条件は、次の通りであった。
【0047】
回転軸の回転数は2000rpm、試験時間は24時間、密封流体としてはシリケート系成分配合のLLC50%水溶液を用い、摺動面の相互間の面圧は、0.2MPaであった。その面圧は、ウォーターポンプ用メカニカルシール装置での実際の使用面圧と略同じであった。メカニカルシール装置10での漏れ量を調べた。試験の結果の漏れ量が0.1mL/1h以下(1時間あたりの漏れ量が0.1ミリリットル以下)である場合を、評価Bとし、0.05mL/1h以下である場合を、評価A、0.1mL/1hより大きい場合を×とし、結果を表2に示した。なお、表2の漏れ試験の項目において、「−」は、試験ができなかったことを示す。
【0048】
また、シールリング2の製作性も調べた。シールリング2の製作性に関しては、(製品として成立しなかった(成形性が悪い、焼成割れ等))の理由により製作できなかった場合を、評価×とし、製作はできたが、製作しにくかった場合を評価Bとし、問題なく製作
できた場合を評価Aとし、結果を表2に示した。
【0049】
実施例2〜9
【0050】
原料段階における難黒鉛化性炭素と黒鉛とセリウム酸化物との重量割合と、セリウム酸化物の粒径を、表1に示すように変化させた以外は、実施例1と同様にして摺動部材から成るシールリング2を製造し、実施例1と同様にして、測定および評価を行った。結果を表2に示す。
【0051】
比較例10〜11
原料段階における難黒鉛化性炭素と黒鉛とセリウム酸化物との重量割合と、セリウム酸化物の粒径を、表1に示すように変化させた以外は、実施例1と同様にして摺動部材から成るシールリング2を製造し、実施例1と同様にして、測定および評価を行った。結果を表2に示す。
【0052】
比較例12
原料段階において、セリウム酸化物を添加せず、難黒鉛化性炭素と黒鉛との重量割合を、表1に示すように変化させた以外は、実施例1と同様にして摺動部材から成るシールリング2を製造し、実施例1と同様にして、測定および評価を行った。結果を表2に示す。
【0053】
評価
表2に示すように、セリウム酸化物(CeO)が黒鉛と難黒鉛化炭素と共に所定の割合で含まれるシールリングを、シリケートLLC中にて摺動させたとしても、密封性能が向上することが確認できた。これは、シリコン酸化物の体積を抑制できたからであると考えられ、特にセリウム酸化物(CeO)の重量割合が増して、表面でのセリウム酸化物の比表面積が増すほど、シリコン酸化物の堆積抑制効果は大きいと考えられる。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【符号の説明】
【0056】
2… 回転シールリング
2a… 摺動面
4… 静止シールリング
4a… 摺動面
4b… リング状凸部
4c… 本体部
4d… 回り止め用凸部
10… メカニカルシール装置
11… Oリング
12… Oリング押され得
14… 回り止めピン
16… スプリング押さえ
18… スプリング
19… 回り止めピン
20… 回転軸
30… ハウジング
32… 大気側内径部
33… Oリング
34… 密封側内径部
40… 大気側空間
50… 密封流体側空間

図1
【国際調査報告】