特表-20096043IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2020年5月14日
【発行日】2021年9月24日
(54)【発明の名称】ウィルス性肝癌の検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/574 20060101AFI20210827BHJP
   G01N 33/576 20060101ALI20210827BHJP
【FI】
   G01N33/574 A
   G01N33/574 C
   G01N33/576
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】20
【出願番号】特願2020-555626(P2020-555626)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2019年11月8日
(31)【優先権主張番号】特願2018-211673(P2018-211673)
(32)【優先日】2018年11月9日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】390037327
【氏名又は名称】積水メディカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】511288304
【氏名又は名称】宮崎 徹
(71)【出願人】
【識別番号】515099241
【氏名又は名称】社会福祉法人恩賜財団済生会
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 徹
(72)【発明者】
【氏名】山崎 智子
(72)【発明者】
【氏名】岡上 武
(72)【発明者】
【氏名】浅井 智英
(72)【発明者】
【氏名】鐘築 由香
(72)【発明者】
【氏名】廣田 次郎
(57)【要約】
優れた感度及び特異性を有するウィルス性肝癌の検出方法及び診断薬キットを提供する。
対象からの生物学的試料中の遊離AIM量を測定することと測定した遊離AIM量を基準値と比較することとを含む、ウィルス性肝癌の検出方法により、前記課題を解決することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象からの生物学的試料中の遊離AIM量を測定することと
測定した遊離AIM量を基準値と比較することと
を含む、ウィルス性肝癌の検出方法。
【請求項2】
ウィルス性肝癌が、B型肝炎ウィルス及び/又はC型肝炎ウィルス由来のウィルス性肝癌である、請求項1に記載のウィルス性肝癌の検出方法。
【請求項3】
ウィルス性肝炎又はウィルス性肝硬変とウィルス性肝癌とを判別する、請求項1又は2に記載のウィルス性肝癌の検出方法。
【請求項4】
前記生物学的試料が、体液試料である、請求項1〜3のいずれかに記載のウィルス性肝癌の検出方法。
【請求項5】
前記生物学的試料が、血液、血清、血漿又は尿である、請求項4に記載のウィルス性肝癌の検出方法。
【請求項6】
対象からの生物学的試料中の遊離AIM量の測定を、生物学的試料と遊離AIMに特異的に結合する抗体とを接触させることにより行う、請求項1〜5のいずれかに記載のウィルス性肝癌の検出方法。
【請求項7】
ウィルス性肝癌を検出するための診断薬キットであって、遊離AIM量を測定するための試薬を含む診断薬キット。
【請求項8】
ウィルス性肝癌が、HBV及び/又はHCV由来のウィルス性肝癌である、請求項7に記載の診断薬キット。
【請求項9】
ウィルス性肝炎又はウィルス性肝硬変とウィルス性肝癌とを判別する、請求項7又は8に記載の診断薬キット。
【請求項10】
体液試料中の遊離AIM量を測定するためのものである、請求項7〜9のいずれかに記載の診断薬キット。
【請求項11】
前記体液試料が、血液、血清、血漿又は尿である、請求項10に記載の診断薬キット。
【請求項12】
遊離AIMに特異的に結合する抗体を含む、請求項7〜11のいずれかに記載の診断薬キット。
【請求項13】
遊離AIMに特異的に結合する抗体を固定化した固相、及び
標識物質で標識した、抗AIM抗体
を含む、請求項7〜12のいずれかに記載の診断薬キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はウィルス性肝癌の検出方法に関する。また、本発明は、ウィルス性肝癌を検出するための診断薬キットに関する。
【背景技術】
【0002】
肝癌は、肝臓に発生した悪性腫瘍を意味する。肝癌は予後不良の疾患であり、世界的には悪性新生物の中では死因の第2位となっている。肝癌の原因としては、肝炎ウィルス、アルコール性肝疾患、及び非アルコール性肝疾患などがある。日本の肝癌患者の70〜80%が、肝炎ウィルスの持続感染が原因とも言われており、肝炎ウィルスに起因する肝癌を診断するためのバイオマーカーが望まれている。
【0003】
AIM(apoptosis inhibitor of macrophage)は組織マクロファージにより産生される、分子量約50kDa分泌型の血中タンパク質である。AIMは、システイン残基を多く含む特異的な配列であるscavenger receptor cysteine−rich(SRCR)ドメインをタンデムに3つつなげた構造をしており、それぞれのシステイン残基は各ドメイン内で互いにジスルフィド結合することで、コンパクトな球状の立体構造をしていると考えられている。
【0004】
AIMは、リポ多糖、IgM、補体制御因子、及び脂肪酸合成酵素など,さまざまな分子と結合するという特徴を持つことが知られている。中でも、AIMは、血中においてIgMとの複合体の形態で存在することが知られている。IgMは500kDaをこえる巨大なタンパク質複合体であるため、IgMに結合しているかぎりAIMも糸球体を通過して尿へと移行することはなく高い血中濃度が保たれる。IgMから解離するとAIMはすみやかに尿へと排泄される。したがって、大部分のAIMは血液中においてIgMと複合体を形成しており、結合体ではなく遊離状態で血中に存在することはほとんどない。
【0005】
近年、AIMが、インスリン抵抗性又は動脈硬化などのさまざまな疾患における病態の進行に関与することが明らかにされている。特許文献1は、被験体に由来する生物学的試料中の遊離AIMを検出または定量する工程を含む、肝癌の検出方法を開示する。しかしながら、特許文献1において試験されているのは、全て非アルコール性肝疾患に起因する肝癌であり、現在までに、遊離AIMと肝炎ウィルスに起因する肝癌との関連性は、報告されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2017/043617号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Pierangelo Fasani et al,HEPATOLOGY Vol.29,No.6,1999
【非特許文献2】Takeshi Okanoue et al,Rinsho Byori. 2016 May;64(4):472−479
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、優れた感度及び特異性を有するウィルス性肝癌の検出方法、並びに優れた感度及び特異性を有するウィルス性肝癌の診断薬キットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、生物学的試料中の、他の物質と結合していない遊離AIM量を測定し、基準値と比較することで、優れた感度及び特異性でウィルス性肝癌の検出が可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。特定のバイオマーカーと肝癌との関連性は、アルコール性、脂肪性、又はウィルス性等の肝癌の原因に応じて異なることが知られている(非特許文献1)。C型及びB型ウィルス性肝癌のバイオマーカーとなるAFPが、NASHに由来する肝癌の診断において高い価値が見いだされることがないことも報告されている(非特許文献2)。生物学的試料における遊離AIM量と肝炎ウィルスに起因する肝癌との関連性が見いだされたことは驚きである。
具体的に、本発明は以下のとおりである。
<1>対象からの生物学的試料中の遊離AIM量を測定することと
測定した遊離AIM量を基準値と比較することと
を含む、ウィルス性肝癌の検出方法、
<2>ウィルス性肝癌が、B型肝炎ウィルス及び/又はC型肝炎ウィルス由来のウィルス性肝癌である、<1>に記載のウィルス性肝癌の検出方法、
<3>ウィルス性肝炎又はウィルス性肝硬変とウィルス性肝癌とを判別する、<1>又は<2>に記載のウィルス性肝癌の検出方法、
<4>前記生物学的試料が、体液試料である、<1>〜<3>のいずれかに記載のウィルス性肝癌の検出方法、
<5>前記生物学的試料が、血液、血清、血漿又は尿である、<4>に記載のウィルス性肝癌の検出方法。
<6>対象からの生物学的試料中の遊離AIM量の測定を、生物学的試料と遊離AIMに特異的に結合する抗体とを接触させることにより行う、<1>〜<5>のいずれかに記載のウィルス性肝癌の検出方法、
<7>ウィルス性肝癌を検出するための診断薬キットであって、遊離AIM量を測定するための試薬を含む診断薬キット、
<8>ウィルス性肝癌が、B型肝炎ウィルス及び/又はC型肝炎ウィルス由来のウィルス性肝癌である、<7>に記載の診断薬キット、
<9>ウィルス性肝炎又はウィルス性肝硬変とウィルス性肝癌とを判別する、<7>又は<8>に記載の診断薬キット、
<10>体液試料中の遊離AIM量を測定するためのものである、<7>〜<9>のいずれかに記載の診断薬キット、
<11>前記体液試料が、血液、血清、血漿又は尿である、<10>に記載の診断薬キット、
<12>遊離AIMに特異的に結合する抗体を含む、<7>〜<11>のいずれかに記載の診断薬キット、並びに
<13>遊離AIMに特異的に結合する抗体を固定化した固相、及び
標識物質で標識した、抗AIM抗体を含む、<7>〜<12>のいずれかに記載の診断薬キット。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた感度及び特異性でウィルス性肝癌の検出を行うことができる。本発明によれば、優れた感度及び特異性を有するウィルス性肝癌の診断薬キットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】B型肝炎ウィルス性肝炎患者及びB型肝炎ウィルス性肝癌患者における、血清中遊離AIM量の比較を表すグラフである。
図2】C型肝炎ウィルス性肝炎患者及びC型肝炎ウィルス性肝癌患者における、血清中遊離AIM量の比較を表すグラフである。
図3】AFP、PIVKA−II、及び遊離AIMの各々のB型肝炎ウィルス性肝癌バイオマーカーとしての能力の比較を表すグラフである。
図4】AFP、PIVKA−II、及び遊離AIMの各々のC型肝炎ウィルス性肝癌バイオマーカーとしての能力の比較を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[1]ウィルス性肝癌の検出方法
(対象からの生物学的試料)
本発明において分析可能な生物学的試料としては、主に生体(生物)由来の固形組織及び体液試料を挙げることができ、体液試料を用いることが好ましい。本発明において分析可能な生物学的試料は、より好ましくは、血液、血清、血漿、尿、唾液、喀痰、涙液、耳漏、又は前立腺液等の体液試料であり、さらに好ましくは血液、血清、血漿又は尿であり、さらに好ましくはウィルス性肝癌に罹患している可能性のある対象の血液、血清、血漿又は尿である。生体又は対象は、ヒト又は動物(例えば、マウス、モルモット、ラット、サル、イヌ、ネコ、ハムスター、ウマ、ウシ、及びブタ)を含み、好ましくはヒトである。対象からの生物学的試料は、本発明の実施時に採取または調製されたものでもよく、予め採取または調製され保存されたものであってもよい。試料を調製する者と試料中の遊離AIM量を測定する者とは別の者であってもよい。生物学的試料は、インビボ又はインビトロの試料であることができる。生物学的試料は、ウィルス性肝癌に罹患している可能性のある対象の生物学的試料であることができる。
【0013】
(AIM)
AIM(apoptosis inhibitor of macrophage)は組織マクロファージにより産生される、分子量約50kDa分泌型の血中タンパク質である。AIMは、システイン残基を多く含む特異的な配列であるscavenger receptor cysteine−rich(SRCR)ドメインをタンデムに3つつなげた構造をしており、それぞれのシステイン残基は各ドメイン内で互いにジスルフィド結合することで、コンパクトな球状の立体構造をしていると考えられている。
【0014】
(遊離AIM)
本明細書において、「遊離AIM」とは、リポ多糖又はIgM等の他の物質と結合していない、遊離状態で存在するAIMを意味する。これに対し、本明細書において、リポ多糖又はIgM等の他の物質と結合しており、複合体の状態で存在するAIMを複合体AIMと称することがある。遊離AIMは、ヒトの遊離AIMであることができる。
【0015】
(遊離AIMの測定方法)
遊離AIMの測定または定量方法は、遊離AIMと複合体AIMとを区別して検出できる方法であれば特に制限はなく、通常用いられるタンパク質検出方法を適用することができる。そのような方法として、これに限定されるものではないが、抗AIM抗体を用いる免疫学的分析方法、分子ふるいクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、質量分析等を挙げることができる。なお、用語「抗AIM抗体」は、遊離AIM及び複合体AIMの両方に反応することができる抗体を意味する。
【0016】
抗AIM抗体を用いる免疫学的分析方法としては、電気化学発光免疫測定法(ECL法)、ELISA、酵素免疫測定法、免疫組織染色法、表面プラズモン共鳴法、ラテックス凝集免疫測定法、化学発光免疫測定法、蛍光抗体法、放射免疫測定法、免疫沈降法、ウエスタンブロット法、イムノクロマトグラフ法、及び高速液体クロマトグラフィー法(HPLC法)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
抗AIM抗体は、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体のいずれも公知の方法に従って作製することができる。モノクローナル抗体は、例えば、遊離AIMまたは遊離AIMフラグメントで免疫した非ヒト哺乳動物から抗体産生細胞である脾臓細胞あるいはリンパ節細胞を単離し、これを高い増殖能を有する骨髄腫由来の細胞株等と融合させてハイブリドーマを作製し、このハイブリドーマが産生した抗体を精製することによって得ることができる。また、ポリクローナル抗体は、遊離AIMまたは遊離AIMフラグメントで免疫した動物の血清から得ることができる。遊離AIMフラグメントは遊離AIMの部分ペプチドであり、遊離AIMフラグメントに結合する抗体は、遊離AIMを認識する。また、免疫原としては、例えば、ヒトやサルなどの霊長類、ラットやマウスなどのげっ歯類、イヌ、ネコ、ウマ、ヒツジ、ブタなどの遊離AIMまたは遊離AIMフラグメントが挙げられるが、これらに限定されない。
【0018】
抗AIM抗体としては、抗体分子全体のほかに抗原抗体反応活性を有する抗体のフラグメントを使用することも可能であり、前記のように動物への免疫工程を経て得られたもののほか、遺伝子組み換え技術を使用して得られるものやキメラ抗体を用いることも可能である。抗体の断片としては機能性の断片であることが好ましく、例えば、F(ab’)、Fab’、scFvなどが挙げられ、これらのフラグメントは前記のようにして得られる抗体をタンパク質分解酵素(例えば、ペプシンやパパインなど)で処理すること、あるいは該抗体のDNAをクローニングして大腸菌や酵母を用いた培養系で発現させることにより製造できる。
【0019】
抗AIM抗体とは、AIMと反応する抗体を意味する。抗AIM抗体としては、遊離AIMと特異的に反応する抗体を使用することが好ましい。「遊離AIMと特異的に反応する」とは、遊離AIMとは反応するが、他の物質、特に複合体AIMとは実質的に反応しないことを意味する。「実質的に反応しない」の意味は後述する。本発明において使用される、抗AIM抗体又は遊離AIMと特異的に反応する抗体は、モノクローナル抗体であることが好ましい。
【0020】
本明細書において、遊離AIMと「反応する」、遊離AIMを「認識する」、遊離AIMと「結合する」は、同義で用いられるが、これらの例示に限定されることはなく、最も広義に解釈する必要がある。抗体が遊離AIMなどの抗原(化合物)と「反応する」か否かの確認は、抗原固相化ELISA法、競合ELISA法、サンドイッチELISA法などにより行うことができるほか、表面プラズモン共鳴(surface plasmon resonance)の原理を利用した方法(SPR法)などにより行うことができる。SPR法は、Biacore(登録商標)の名称で市販されている、装置、センサー、試薬類を使用して行うことができる。
【0021】
使用される抗体と、ある化合物が「反応しない」とは、本発明に使用される抗体がある化合物と実質的に反応しないことをいい、「実質的に反応しない」とは、例えば、上記SPR法に基づき、Biacore(登録商標)T100やT200を使用し、本発明に使用される抗体を固定化して測定を行った場合に、本発明に使用される抗体の反応性の増強が認められないことをいう。詳細には、抗体と化合物との反応性が、コントロール(化合物非添加)の反応性と比べて有意な差がないことをいう。上記SPR法以外の当業者に周知の方法又は手段によっても「実質的に反応しない」ことを確認できるのはいうまでもない。
【0022】
本明細書において、「不溶性担体」を「固相」、抗原や抗体を不溶性担体に物理的あるいは化学的に担持させることあるいは担持させた状態を「固定」、「固定化」、又は「固相化」と表現することがある。また、「分析」、「検出」、又は「測定」という用語は、遊離AIMの存在の証明及び/又は定量などを含めて最も広義に解釈する必要があり、いかなる意味においても限定的に解釈してはならない。
【0023】
使用される抗体と結合可能な標識抗体(二次抗体)を用いることにより、遊離AIMに結合した抗体の量を測定することができ、それにより生物学的試料中の遊離AIMを検出することができる。標識抗体を製造するための標識物質としては、例えば酵素、蛍光物質、化学発光物質、ビオチン、アビジン、放射性同位体、金コロイド粒子、又は着色ラテックスなどが挙げられる。当業者であれば、使用される抗体と標識物質に応じて、免疫学的分析方法を適宜選択することができるが、実験系構築が簡便であることから、電気化学発光免疫測定法(ECL法)を用いることが好ましい。
【0024】
電気化学発光免疫測定法(ECL法)とは、標識物質を電気化学的刺激により発光させ,その発光量を検出することで被検出物質量を算出する方法を意味する。電気化学発光免疫測定法(ECL法)では、標識物質として、ルテニウム錯体を用いることができる。固相(マイクロプレート又はビーズ等)に電極を設置してこの電極上で電気化学的刺激を起こすことにより、このルテニウム錯体の発光量を検出することができる。
抗AIM抗体を固相抗体として用い、遊離AIMに結合する別の抗体を検出抗体(標識抗体)として用いて電気化学発光免疫測定法(ECL法)を行うことができる。固相抗体及び/又は標識抗体として、遊離AIMに特異的に結合する抗体を用いることが好ましく、固相抗体として遊離AIMに特異的に結合する抗体を用いることがより好ましい。固相抗体及び標識抗体を用い、そして、固相としてビーズ、標識としてルテニウム錯体をそれぞれ用いた際の測定原理は、以下のとおりである。下記は本発明の一実施態様における測定原理を示すものであり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
1.抗AIM抗体が結合したビーズと試料とを反応させると、試料中の遊離AIMがビーズに結合した抗体と結合する。
2.ビーズを洗浄後、ビーズに結合した遊離AIMに、ルテニウム標識抗体(1.とは認識エピトープが異なる抗体)を反応させると、サンドイッチ状に結合する。
3.ビーズを洗浄後、電極上にて電気エネルギーを加えると、遊離AIMを介してビーズに結合したルテニウム標識抗体量に応じて、ルテニウム錯体が発光する。この発光量を計測することにより、検体中の遊離AIMを正確に測定することができる。
【0025】
免疫学的分析方法の中で、酵素標識を用いるELISA法も、簡便且つ迅速に標的を測定することができて好ましい。サンドイッチELISAの場合、抗AIM抗体を固定化した不溶性担体と、標識物質で標識された、固定抗体とはエピトープが異なる抗AIM抗体とを使用することができる。この場合、不溶性担体はプレート(イムノプレート)が好ましく、標識物質は、適宜選択して使用できる。不溶性担体に結合させる抗体及び/又は標識物質で標識された抗体は、遊離AIMに特異的に結合する抗体であることが好ましく、固相抗体として遊離AIMに特異的に結合する抗体を用いることがより好ましい。
不溶性担体に固定化された抗体は、試料中の遊離AIMを捕捉し、不溶性担体上で抗体−遊離AIM複合体を形成する。標識物質で標識された抗体は、前記捕捉された遊離AIMに結合して前述の抗体−遊離AIM複合体とサンドイッチを形成する。標識物質に応じた方法により標識物質の量を測定することにより、試料中の遊離AIMを測定することができる。抗体の不溶性担体への固定化の方法、抗体と標識物質との結合方法等、具体的な方法は、当業者に周知の方法を特に制限なく使用することができる。
また、高速液体クロマトグラフィー法(HPLC法)あるいはEATA法:Electrokinetic Analyte Transport Assayを用いれば、遊離AIMに特異的に結合する抗体を用いなくとも本発明のウィルス性肝癌の検出方法を行うことが可能である。すなわち、蛍光標識した抗AIM抗体と生物学的試料とを接触させることにより、抗AIM抗体と遊離AIM及び複合体AIMとを結合させる。その後、HPLCにより遊離AIMと結合している抗AIM抗体のみを分離することにより、本発明のウィルス性肝癌の検出方法を行うことが可能である。
【0026】
免疫学的分析方法としては、代表的な粒子凝集免疫測定法であるラテックス免疫凝集法(以下、LTIA法ということがある)も好ましい。LTIA法では、目的成分に対する抗体を担持させたラテックス粒子を用い、目的成分である抗原と抗体担持ラテックス粒子とが抗原抗体複合物を形成して結合することによって生じるラテックス粒子の凝集(濁り)の程度を光学的手段(例えば、透過光を測定する比濁法、散乱光を測定する比朧法など)などにより検出し、目的成分を分析することができる。本発明の免疫学的分析方法では、抗AIM抗体を担持させたラテックス粒子を用い、目的成分である遊離AIMと抗体担持ラテックス粒子とが抗原抗体複合物を形成して結合することによって生じるラテックス粒子の凝集の程度を光学的手段により検出することができる。免疫学的分析方法としてLTIAを用いる場合、遊離AIMに特異的に結合する抗体を少なくとも1つ用いることが好ましい。
【0027】
本発明では、遊離AIM量の測定のために、遊離AIMを特異的に検出可能な市販のキットを用いてもよい。遊離AIMを特異的に検出可能な市販のキットとしては、これに限定されるものではないが、Human AIM ELISA kit(CY−8080;Circulex社)等を挙げることができる。
【0028】
本発明では、総AIM量(遊離AIM量と複合体AIMとの合計量)から複合体AIMを減算することにより、遊離AIM量を測定することもできる。総AIM量及び複合体AIMの測定は、当業者に公知の手法を用いることができる。
【0029】
(ウィルス性肝癌)
本明細書においてウィルス性肝癌とは、肝炎ウィルスによる持続感染による慢性肝炎及び肝硬変を発生母地として生じる原発性の肝細胞癌を意味する。肝炎ウィルスとしては、A型肝炎ウィルス(HAV)、B型肝炎ウィルス(HBV)、C型肝炎ウィルス(HCV)、D型肝炎ウィルス(HDV)、及びE型肝炎ウィルス(HEV)などが挙げられるが、本発明により検出されるウィルス性肝癌は、HBV(hepatitis B virus)及び/又はHCV(hepatitis C virus)由来のウィルス性肝癌であることが好ましい。
【0030】
(基準値)
本発明のウィルス性肝癌の検出方法は、測定した遊離AIM量を基準値と比較することを含む。本発明のウィルス性肝癌の検出方法では、対象における遊離AIM量が、健常人群の遊離AIM量よりも高いことを指標としてウィルス性肝癌の検出を行うことができる。具体的には、例えば、対象の遊離AIM量が健常人群との判定用閾値(基準値)以上となった場合に、ウィルス性肝癌を検出することができる。
【0031】
数値の範囲を基準値とすることもできる。ウィルス性肝癌に罹患しているか否かを診断する際には、予め、ウィルス性肝癌に罹患していると診断された対象、および、ウィルス性肝癌ではないと診断された対象の生物学的試料中の遊離AIM量の範囲を計測しておき、対象の生物学的試料中の遊離AIM量が、健常な対象の生物学的試料料中の遊離AIM量の範囲に入る場合は、この対象はウィルス性肝癌に罹患していない可能性が高く、ウィルス性肝癌に罹患している対象の生物学的試料中の遊離AIM量の範囲に入る場合は、ウィルス性肝癌に罹患している可能性が高い。
【0032】
判定用閾値(基準値)は、種々条件、例えば、基礎疾患、性別、年齢などにより変化することが予想されるが、当業者であれば、対象に対応する適当な母集団を適宜選択して、その集団から得られたデータを統計学的処理を行うことにより、正常値範囲又は判定用閾値を決定することができる。基準値は、例えば、ヒト血清中の値において0.1μg/mL、0.2μg/mL、0.3μg/mL、0.4μg/mL、0.5μg/mL、0.6μg/mL、0.7μg/mL、0.8μg/mL、0.9μg/mL、1.0μg/mL、1.1μg/mL、1.2μg/mL、1.3μg/mL、1.4μg/mL、1.5μg/mL、1.6μg/mL、1.7μg/mL、1.8μg/mL、19μg/mL、2.0μg/mL、2.1μg/mL、2.2μg/mL、2.3μg/mL、2.4μg/mL、2.5μg/mL、2.6μg/mL、2.7μg/mL、2.8μg/mL、2.9μg/mL、3.0μg/mL、3.1μg/mL、3.2μg/mL、3.3μg/mL、3.4μg/mL、又は3.5μg/mLとすることができる。基準値は、例えば、後述の実施例に示すように、ヒト血清中の値において2.2μg/mLとすることができる。
【0033】
本発明のウィルス性肝癌の検出方法は、対象からの生物学的試料中の遊離AIM量を測定することと測定した遊離AIM量を基準値と比較することとを含む、ウィルス性肝癌の診断補助方法であることができる。また、本発明の検出方法は、必要に応じて、結果に基づき、他のウィルス性肝癌の検出方法を患者に実施すること、及び/又はウィルス性肝癌を治療することをさらに含むことができる。
【0034】
本発明のウィルス性肝癌の検出方法は、ウィルス性肝炎又は肝硬変を有する対象が、ウィルス性肝癌に進行したか否かを判定することもできる。この場合、特定の時点での対象の遊離AIM量を、判定用閾値(基準値)として使用することができる。一定期間後(例えば、1、3、6、又は12か月後)に再度この対象の遊離AIM量を測定し、以前の測定値と比較して遊離AIM量が顕著に多ければ、ウィルス性肝炎又は肝硬変からウィルス性肝癌に進行していると判断することができる。逆に、以前の測定値と比較して遊離AIM量に変化がなければ、ウィルス性肝炎又は肝硬変からウィルス性肝癌に進行していないと判断することができる。
【0035】
[2]ウィルス性肝癌を検出するための診断薬キット
本発明のウィルス性肝癌を検出するための診断薬キットは、遊離AIM量を測定するための試薬を含む。前記試薬は、遊離AIM量のみを測定する試薬であってもよく、遊離AIM量を測定するために、総AIM量及び複合体AIM量を測定する試薬であってもよい。本発明の診断薬キットには、ほかに、他の検査試薬、検体希釈液、及び/又は使用説明書などを含むこともできる。
【0036】
本発明のウィルス性肝癌を検出するための診断薬キットは、好ましくは、第一抗AIM抗体を固定化した固相、及び標識物質で標識した第二抗AIM抗体を含む。第一抗AIM抗体と第二抗AIM抗体とは異なるエピトープを認識する。ECL法を使用する場合、本発明の診断薬キットは、抗AIM抗体を固定化した固相とルテニウム錯体等の電気化学発光物質で標識した、抗AIM抗体とを含むことができる。固相に固定化される抗体及び/又は標識物質で標識した抗体は、遊離AIMに特異的に結合する抗体であることが好ましく、固相に固定化される抗体として遊離AIMに特異的に結合する抗体を用いることがより好ましい。例えば、固相としてマイクロビーズを用いたキットでは、抗AIM抗体を固相化したマイクロビーズに、生物学的試料を添加して反応させた後、試料を除去して洗浄する。続いて、電気化学発光物質を標識した別のエピトープを認識する抗AIM抗体を添加して反応させる。マイクロビーズを洗浄後、電気エネルギーを加えて発光させ標識物質の発光量を測定することにより、遊離AIM濃度を求めることができる。
【0037】
サンドイッチELISA法を使用する場合、診断薬キットは少なくとも、第一抗AIM抗体(固相抗体)を固定化した不溶性担体と標識物質で標識された、遊離AIMに結合する第二抗AIM抗体(標識抗体)とを含む。第一抗AIM抗体と第二抗AIM抗体とは異なるエピトープを認識する。このようなキットでは、まず、第一抗AIM抗体を固定化した不溶性担体に生物学的試料を添加した後インキュベートし、試料を除去して洗浄する。次に、標識抗体を添加した後インキュベートし、基質を加えて発色させる。プレートリーダー等を用いて発色を測定することにより、遊離AIM濃度を求めることができる。不溶性担体に固定化される抗体及び/又は標識物質で標識した抗体は、遊離AIMに特異的に結合する抗体であることが好ましく、不溶性担体に固定化される抗体として遊離AIMに特異的に結合する抗体を用いることがより好ましい。
また、高速液体クロマトグラフィー法(HPLC法)あるいはEATA法:Electrokinetic Analyte Transport Assayを用いれば、遊離AIMに特異的に結合する抗体を用いなくとも、本発明の診断薬キットを用いてウィルス性肝癌の診断を行うことが可能である。すなわち、蛍光標識した抗AIM抗体と生物学的試料とを接触させることにより、抗AIM抗体と遊離AIM及び複合体AIMとを結合させる。その後、HPLCにより遊離AIMと結合している抗AIM抗体のみを分離することにより、本発明診断薬キットを用いてウィルス性肝癌の診断を行うことが可能である。
【0038】
LTIA法を使用する場合、診断薬キットは少なくとも、以下の(1)及び(2)を含む。
(1)第一抗AIM抗体を固定化したラテックス粒子、及び
(2)第一抗AIM抗体とは異なるエピトープを認識する第二抗AIM抗体を固定化したラテックス粒子。
このようなキットでは、遊離AIMを介して第一抗AIM抗体と第二抗AIM抗体とが凝集する。凝集の程度を光学的手段を用いて検出することにより、生物学的試料中における遊離AIM濃度を求めることができる。第一抗AIM抗体及び第二抗AIM抗体の少なくとも1つが、遊離AIMに特異的に結合する抗体であることが好ましい。
【0039】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0040】
1.マウス抗ヒトAIMモノクローナル抗体の作製
以下の手順により、マウス抗ヒトAIMモノクローナル抗体であるNo.11抗体及びNo.12抗体を得た。
抗原として全長ヒトrAIM(2mg/ml)を等量のTiterMaxGold(G−1フナコシ)と混合しエマルジョンを作製した。免疫動物にはBalb/cマウス(チャールズリバー(株)8週齢のメス2匹を用い、後ろ足底部へ抗原溶液50μLを投与した。2週間後に同様の投与を行い、更に2週間以上をおいて抗原溶液50μgを後ろ足底部へ投与し3日後の細胞融合に備えた。
ミエローマ細胞にはマウスP3U1を用い、増殖培養には、RPMI1640(11875−119 GIBCO)に、グルタミンとピルビン酸を加え、FBS(S1560 BWT社)を10%になるように添加した培地を用いた。抗生物質としてはペニシリン、ストレプトマイシンを適量加えた。
麻酔下にて心臓採血を行ったマウスから、無菌的に膝窩リンパ節を摘出し、#200メッシュ付ビーカーにのせ、シリコン棒で押しながら、細胞浮遊液を調製した。細胞はRPMI1640にて2回の遠心洗浄を行った後、細胞数をカウントした。対数増殖期の状態のミエローマ細胞を遠心により集め、洗浄後、リンパ細胞とミエローマ細胞の比率が5対1となるように調製し、混合遠心を行った。細胞融合はPEG1500(783641 ロシュ)を用いて行った。すなわち、細胞ペレットへ1mLのPEG液を3分間かけて反応させ、その後段階的に希釈を行い、遠心にて洗浄した後、培地を加え96ウェルプレート15枚へ200μLずつ入れ、1週間の培養を行った。培地にはミエローマ細胞用培地にHATサプリメント(21060−017 GIBCO)を加え、FBS濃度を15%にしたものを用いた。
凍結保存された細胞を解凍し、増殖培養を行った後、1週間以上前に0.5mlのプリスタン(42−002 コスモバイオ)を腹腔内投与したヌードマウス(BALB/cAJcl−nu/nu 日本クレア)の腹腔へ、1×10個を投与し、およそ2週間後に4〜12mlの腹水を得た。遠心処理にて固形物を除去した後、凍結保存を行った。その後、凍結保存した腹水から抗体を精製し、No.11抗体及びNo.12抗体を得た。
【0041】
2.抗体結合磁気ビーズの作製
1)150mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.8)で透析したNo.12抗体の吸光度を測定し、同緩衝液を用いてAbs 0.5に調製した。
2)Dynal Biotech 社製 Dynabeads M−450 Epoxy 1mL(30 mg/mL)を上記緩衝液で3回洗浄し、1)の抗体液を1mL添加した。25℃にて回転攪拌を18時間以上実施した。
3)ビーズブロッキングバッファー[50mM Tris,150mM NaCl,0.1%BSA(脂肪酸不含),0.1% NaN,pH7.8]でビーズを2回洗浄した。洗浄により緩衝液を取り除くことで溶液中に残存していたビーズ未結合の抗体を除去した。その後ビーズブロッキングバッファーを1mL加え攪拌し25℃にて回転攪拌を18時間以上実施した。
4)ビーズブロッキングバッファーでビーズを2回洗浄後、ビーズブロッキングバッファーを1mL加え攪拌した。これを抗AIM抗体結合磁気ビーズとし、使用時まで4℃で保存した。
【0042】
3.ルテニウム標識抗体の作製
1)150mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.8)で透析済みNo.11抗体液312.5μLに10mg/mLのルテニウム錯体(IGEN社製 Origin Tag−NHS ESTER)を14.1μL加え、30分間攪拌した。その後、2M グリシンを50μL添加し、20分間攪拌した。
2)直径1cm、高さ30cmのガラス管に充填したゲルろ過カラムクロマトグラフィー(GEヘルスケア バイオサイエンス社製 Sephadex G−25)にルテニウム錯体標識抗体をアプライし、未標識のルテニウム錯体とルテニウム錯体標識抗体を単離精製した。溶出は、10mM リン酸カリウム緩衝液(pH6.0)にて行った。
【0043】
4.血清中遊離AIMの定量
1)各患者血清検体(B型ウィルス性肝炎19検体、B型ウィルス性肝がん27検体、C型ウィルス性肝炎55検体、C型ウィルス性肝がん45検体)を反応用溶液[50mM HEPES,50mM NaCl,0.05% Tween20,1mM EDT−4Na,0.5% BSA,0.1% NaN,100μg/mL マウスIgG,pH7.8]を用いて1/10に希釈し、検体希釈液を作製した。次に、反応管に100μLの反応用溶液を入れ、検体希釈液2μLを添加した。
2)そこにビーズ希釈液[50mM HEPES,100mM NaCl,0.1% Tween20,1mM EDT−4Na,0.5% BSA(脂肪酸不含),0.1% NaN,pH7.8]で0.5mg/mL濃度に希釈したNo.12抗体結合磁気ビーズを25μLずつ添加し、30℃で9分間反応させた(第一反応)。
その後、磁気ビーズを磁石でトラップし、反応管内の液体を抜き取り、洗浄液[50mmol/L Tris HCl,0.01%(W/V)Tween20,0.15mol/L NaCl,pH7,5]350μLで2回磁気ビーズを洗浄し、抗原抗体反応以外の非特異結合物質を除去した(BF分離)。
3)次にルテニウム用希釈溶液[50mM HEPES,50mM NaCl,0.05% Tween20,1mM EDT−4Na,0.5% BSA,0.1% NaN,100μg/mL マウスIgG,pH7.8]で0.6μg/mL濃度に希釈したルテニウム標識No.11抗体を200μL加えて30℃で9分間反応させた(第二反応)。
反応後の磁気ビーズを磁石でトラップし反応管内の液体を抜き取り、洗浄液350μLで2回磁気ビーズを洗浄し、抗原抗体反応以外の非特異結合物質を除去した(BF分離)。
4)その後、反応管に300μLのトリプロピルアミンを入れ、磁気ビーズと混合した。
この状態で電気エネルギーを与えることでルテニウム錯体が発光し、その発光強度を検出機で検出した。
なお、上記反応管への磁気ビーズ添加操作以降は、ルテニウム錯体発光自動測定機であるピコルミIII上で実施した。
【0044】
5.ウィルス性肝炎患者と肝がん患者における遊離AIM値の分布とROC解析
1)B型ウィルス性肝炎19検体とB型ウィルス性肝がん27検体における遊離AIM値の分布、またC型ウィルス性肝炎55検体とC型ウィルス性肝がん45検体における遊離AIM値の分布を確認した。結果を図1及び2に示す。
2)図1に示すように、HBV肝炎患者とHBV肝癌患者との間で、遊離AIM量において有意差が認められた。したがって、遊離AIM量を測定することで、B型ウィルス性肝炎患者とB型ウィルス性肝がん患者とを判別できることがわかった。また、図2に示すように、HCV肝炎患者とHCV肝癌患者との間で、遊離AIM量において有意差が認められた。したがって、遊離AIM量を測定することで、C型ウィルス性肝炎患者とC型ウィルス性肝がん患者とを判別できることがわかった。
3)上記、肝炎と肝がん検体の遊離AIM値を対象に、IBM SPSSStatistics ver.24を用いてROC解析を実施しAUCを算出した。また既存腫瘍マーカー(AFP,PIVKA−II)についてもROC解析を実施し遊離AIMと比較した。結果を図3及び4に示す。
4)HBVの検出において、遊離AIMは、AFP及びPIVKA−IIのいずれよりもAUC、感度、正診率において優れていた。特異度に関しては、遊離AIMは、PIVKA−IIと同じ値であったが、AFPより優れていた。
HCVの検出において、遊離AIMは、AFP及びPIVKA−IIのいずれよりもAUC、感度、正診率において優れていた。特異度に関しては、遊離AIMは、PIVKA−II及びAFPよりも低かった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、優れた感度及び特異性でウィルス性肝癌の検出を行うことができる。本発明によれば、優れた感度及び特異性を有するウィルス性肝癌の診断薬キットを提供することができる。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】