(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2021年6月17日
【発行日】2021年12月9日
(54)【発明の名称】電子ペンに含まれた共振回路の共振周波数を調整する方法、電子ペン、及び電子ペンを生産する方法
(51)【国際特許分類】
G06F 3/03 20060101AFI20211112BHJP
【FI】
G06F3/03 400Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】28
【出願番号】特願2020-530534(P2020-530534)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2019年12月13日
(11)【特許番号】特許第6741901号(P6741901)
(45)【特許公報発行日】2020年8月19日
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】000139403
【氏名又は名称】株式会社ワコム
(74)【代理人】
【識別番号】100130982
【弁理士】
【氏名又は名称】黒瀬 泰之
(72)【発明者】
【氏名】山下 滋
(72)【発明者】
【氏名】堀江 利彦
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅充
(57)【要約】
【課題】基準共振周波数の調整を好適に行えるようにする。
【解決手段】本発明による方法は、電子ペンに含まれた共振回路の共振周波数を調整する方法であって、内部コンデンサアレイの容量を調整する調整手段、及び、共振回路が発生する交番磁界を測定する測定手段とを用いて、(1)内部コンデンサアレイを構成する複数の容量素子のうち事前に定められた一部の容量素子の状態を変更するステップS2と、(2)変更により変化した共振回路の基準共振周波数の変化量に応じて、内部コンデンサアレイを構成する複数の容量素子のうち上記一部の容量素子以外の1以上の容量素子の一部又は全部の状態を変更するステップS6と、を含む。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ペンに含まれた共振回路の共振周波数を調整する方法であって、
前記電子ペンは、
コイルと、
外部コンデンサと、
複数の容量素子が並列に接続されて構成された内部コンデンサアレイを含む集積回路と、を含み、
前記コイル、前記外部コンデンサ、及び前記内部コンデンサアレイにより前記共振回路を構成するものであり、
前記内部コンデンサアレイの容量を調整する調整手段、及び、前記共振回路が発生する交番磁界を測定する測定手段とを用いて、
(1)前記内部コンデンサアレイを構成する前記複数の容量素子のうち事前に定められた一部の容量素子の状態を変更する状態変更ステップと、
(2)前記変更により変化した前記共振回路の状態変更前後の基準共振周波数に応じて、前記内部コンデンサアレイを構成する前記複数の容量素子のうち前記一部の容量素子以外の1以上の容量素子の一部又は全部の状態を変更する調整ステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記調整ステップは、前記状態変更前後の基準共振周波数の違いが相対的に大きい場合に、該違いが相対的に少ない場合に比して状態を変更する1以上の前記容量素子の容量変化量の定格値の合計が小さくなるよう、状態変更の対象となる1以上の前記容量素子を選択する、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記調整ステップは、前記状態変更前後の基準共振周波数に基づいて前記複数の容量素子に共通の製造誤差を算出し、算出した前記製造誤差に基づき、前記1以上の容量素子の一部又は全部の状態を変更する、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記調整手段は前記集積回路の内部に設けられ、
前記測定手段は、前記電子ペンを所定の位置に固定する固定部を備えた、前記電子ペンとは異なる装置である、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記複数の容量素子のそれぞれに含まれる前記コンデンサは、基板の上方に形成されたフローティングゲートを含み、
前記状態変更ステップは、前記一部の容量素子に含まれる前記コンデンサの前記フローティングゲートに電荷を注入して該コンデンサの容量値を変化させることにより、該一部の容量素子の状態を変更する、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記複数の容量素子のそれぞれに含まれる前記コンデンサは、基板の上方に形成されたチャージトラップ絶縁膜を含み、
前記状態変更ステップは、前記一部の容量素子に含まれる前記コンデンサの前記チャージトラップ絶縁膜に電荷を注入して該コンデンサの容量値を変化させることにより、該一部の容量素子の状態を変更する、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記複数の容量素子はそれぞれ、対応する前記コンデンサと直列に接続されたヒューズ素子を含み、
前記状態変更ステップは、前記一部の容量素子に含まれる前記ヒューズ素子を切断することにより、該一部の容量素子の状態を変更する、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記複数の容量素子はそれぞれ、対応する前記コンデンサと直列に接続されたアンチヒューズ素子を含み、
前記状態変更ステップは、前記一部の容量素子に含まれる前記アンチヒューズ素子を導通させることにより、該一部の容量素子の状態を変更する、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記複数の容量素子はそれぞれ、対応する前記コンデンサと直列に接続されたMEMSスイッチを含み、
前記状態変更ステップは、前記一部の容量素子に含まれる前記MEMSスイッチのオンオフを切り替えることにより、該一部の容量素子の状態を変更する、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
コイルと、
外部コンデンサと、
複数の容量素子が並列に接続されて構成された内部コンデンサアレイを含む集積回路と、を含み、
前記内部コンデンサアレイは、所定の処理によって状態が変更された一部の容量素子と状態が変更されていない残りの容量素子とが混在して構成され、
前記電子ペンは、前記コイル、前記外部コンデンサ、及び、前記残りの容量素子により構成される共振回路を用いて信号を送信するよう構成される、
電子ペン。
【請求項11】
前記集積回路は、前記内部コンデンサアレイの容量を調整するための外部調整手段から電圧、電流、信号、コマンドの入力を受け付けるためのピンを備える、
請求項10に記載の電子ペン。
【請求項12】
前記所定の処理による前記複数の容量素子それぞれの容量変化量は互いに異なり、
前記複数の容量素子はそれぞれ、前記所定の処理による状態変更を制御する単位である、
請求項10の電子ペン。
【請求項13】
前記一部の容量素子は、前記複数の容量素子のうち前記所定の処理による容量変化量が最小でない容量素子を含む、
請求項12に記載の電子ペン。
【請求項14】
前記複数の容量素子はそれぞれ、基板の上方に形成されたフローティングゲートを有するコンデンサを含み、
前記所定の処理は、処理対象の前記容量素子に含まれる前記コンデンサの前記フローティングゲートに電荷を注入することにより該コンデンサの容量値を変化させる処理である、
請求項10乃至13のいずれか一項に記載の電子ペン。
【請求項15】
前記複数の容量素子はそれぞれ、基板の上方に形成されたチャージトラップ絶縁膜を有するコンデンサを含み、
前記所定の処理は、処理対象の前記容量素子に含まれる前記コンデンサの前記チャージトラップ絶縁膜に電荷を注入することにより該コンデンサの容量値を変化させる処理である、
請求項10乃至13のいずれか一項に記載の電子ペン。
【請求項16】
前記複数の容量素子はそれぞれ、直列に接続されたコンデンサ及びヒューズ素子を含み、
前記所定の処理は、処理対象の前記容量素子に含まれる前記ヒューズ素子を切断する処理である、
請求項10乃至13のいずれか一項に記載の電子ペン。
【請求項17】
前記複数の容量素子はそれぞれ、直列に接続されたコンデンサ及びアンチヒューズ素子を含み、
前記所定の処理は、処理対象の前記容量素子に含まれる前記アンチヒューズ素子を導通させる処理である、
請求項10乃至13のいずれか一項に記載の電子ペン。
【請求項18】
前記複数の容量素子はそれぞれ、直列に接続されたコンデンサ及びMEMSスイッチを含み、
前記所定の処理は、処理対象の前記容量素子に含まれる前記MEMSスイッチのオンオフを切り替える処理である、
請求項10乃至13のいずれか一項に記載の電子ペン。
【請求項19】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の方法を実行することにより、請求項10乃至18のいずれか一項に記載の電子ペンを生産する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ペンに含まれた共振回路の共振周波数を調整する方法、電子ペン、及び電子ペンを生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁共鳴(EMR)方式の入力システムで用いられる電子ペンには、位置検出装置のセンサコイルから送信された磁界により励磁されるコイルと、このコイルと並列に接続されるコンデンサとによって構成されるLC共振回路が備えられる(例えば、特許文献1,2を参照)。この共振回路が磁界の中に入ると、コイルに誘導起電力が生じ、これによって共振回路に電力が蓄積される。電子ペンは、この電力を利用して、筆圧情報やサイドスイッチ情報などを含むペン情報の送信を行うよう構成される。
【0003】
ペン情報の具体的な送信方法としては、ペン情報の内容に応じて共振回路への信号の供給をオンオフすることによりデジタル情報としてペン情報を送信する方法や、ペン情報の内容に応じて共振回路の共振周波数を変化させることにより共振周波数の変位としてペン情報を送信する方法などが知られている。以下、前者の場合の共振回路の共振周波数と、後者の場合に変位の基準となる共振周波数とをまとめて「基準共振周波数」と称する。
【0004】
電子ペンが送信したペン情報を位置検出装置が正しく受信するためには、共振回路の基準共振周波数が予め定められた規格値に等しくなっている必要がある。しかし、コイルのインダクタンスやコンデンサの容量には製造上の誤差が発生するため、共振回路を組み立てた直後の段階では、基準共振周波数にバラつきの発生が避けられない。そこで電子ペンの製造工程では、予め複数のコンデンサを並列に配置しておき、共振回路を組み立てた後に基準共振周波数を測定し、その結果に応じてレーザーにより配線をカットし、それによっていくつかのコンデンサを回路から切り離すことにより、事後的に基準共振周波数を上記規格値に合わせ込む処理が行われる。特許文献1には、このような基準共振周波数の合わせ込みを行えるように構成された電子ペンの例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6320231号
【特許文献2】国際公開第2016/056299号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、基準共振周波数の合わせ込みは、従来、共振回路内に配置した複数のコンデンサそれぞれの容量値の定格値を前提として行われる。すなわち、配線をカットした後の基準共振周波数を各コンデンサの容量値の定格値に基づいて予測し、この予測の結果に基づいて、切り離し対象のコンデンサが選択される。
【0007】
しかしながら、実際のコンデンサの容量値には製造上の誤差があり、定格値と同一の値になっているとは限らない。その結果、上記のように定格値を前提として切り離し対象のコンデンサを選択すると、切り離しすぎて基準共振周波数の調整に失敗する場合や、コンデンサの選択と配線のカットを何度も繰り返さなければならなくなるなど、調整作業の効率が悪化してしまう場合があった。
【0008】
したがって、本発明の目的の一つは、基準共振周波数の調整を好適に行える電子ペンに含まれた共振回路の共振周波数を調整する方法、電子ペン、及び電子ペンを生産する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による方法は、電子ペンに含まれた共振回路の共振周波数を調整する方法であって、前記電子ペンは、コイルと、外部コンデンサと、複数の容量素子が並列に接続されて構成された内部コンデンサアレイを含む集積回路と、を含み、前記コイル、前記外部コンデンサ、及び前記内部コンデンサアレイにより前記共振回路を構成するものであり、前記内部コンデンサアレイの容量を調整する調整手段、及び、前記共振回路が発生する交番磁界を測定する測定手段とを用いて、(1)前記内部コンデンサアレイを構成する前記複数の容量素子のうち事前に定められた一部の容量素子の状態を変更する状態変更ステップと、(2)前記変更により変化した前記共振回路の基準共振周波数の変化量に応じて、前記内部コンデンサアレイを構成する前記複数の容量素子のうち前記一部の容量素子以外の1以上の容量素子の一部又は全部の状態を変更する調整ステップと、を含む方法である。
【0010】
本発明による電子ペンは、コイルと、外部コンデンサと、複数の容量素子が並列に接続されて構成された内部コンデンサアレイを含む集積回路と、を含み、前記内部コンデンサアレイは、所定の処理によって状態が変更された一部の容量素子と状態が変更されていない残りの容量素子とが混在して構成され、前記電子ペンは、前記コイル、前記外部コンデンサ、及び、前記残りの容量素子により構成される共振回路を用いて信号を送信するよう構成される、電子ペンである。
【0011】
本発明による電子ペンを生産する方法は、上記の方法を実行することにより、上記の電子ペンを生産する方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、複数の容量素子それぞれの容量変化量を推定したうえで基準共振周波数を調整できるので、基準共振周波数の調整を好適に行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1の実施の形態による電子ペン1の外観を示す図である。
【
図2】
図1に示した筐体2の中に配置される構造を示す上面図である。
【
図3】本発明の第1の実施の形態による電子ペン1及び集積回路6の回路構成を示す図である。
【
図4】最小容量セルC
MINの模式的な断面図である。
【
図5】(a)は、コンデンサアレイC
1ARRAYの構成の具体的な例を示す図であり、(b)は、(a)に示したコンデンサC
aTB、C
a1〜C
a9のそれぞれについて、電位Vcの印加による容量変化量(=|C
1−C
0|)の定格値、最大値、最小値、及び製造誤差の一例を示す図である。
【
図6】(a)は、各コンデンサC
aの電位Vcの印加による容量変化量の定格値と、電位Vcの印加による実際の容量変化量との関係を示す図であり、(b)は、(a)の原点付近を拡大してなる図である。
【
図7】外部装置30が行う第1の共振回路の基準共振周波数の調整処理を示すフロー図である。
【
図8】
図7のステップS6で実行される基準共振周波数調整処理の詳細を示すフロー図である。
【
図9】本発明の第1の実施の形態の変形例による最小容量セルC
MINの模式的な断面図である。
【
図10】本発明の第2の実施の形態による電子ペン1及び集積回路6の回路構成を示す図である。
【
図11】本発明の第3の実施の形態による電子ペン1及び集積回路6の回路構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明の第1の実施の形態による電子ペン1の外観を示す図である。同図に示すように、電子ペン1は、筒状の筐体2と、筐体2の長手方向の一端に配置されたペン先部材3と、筐体2の表面に設けられた操作スイッチ4とを有して構成される。このうち操作スイッチ4は、筐体2の側面に設けられる場合にはサイドスイッチなどと呼ばれ、筐体2の端部に設けられる場合にはテイルスイッチなどと呼ばれる。
【0016】
電子ペン1を利用するユーザは、片方の手で筐体2を保持し、図示しない位置検出装置のタッチ面にペン先部材3を当接させた状態で電子ペン1を移動させることにより、位置検出装置への入力を行う。入力の際、電子ペン1と位置検出装置とは、上述した電磁共鳴(EMR)方式による通信を行うよう構成される。電子ペン1は、この通信により、ペン先部材3に加わる圧力(筆圧)を示す筆圧情報と、操作スイッチ4のオンオフ状態を示すスイッチ情報とを含むペン情報を送信可能に構成される。詳しくは後述するが、電子ペン1は、ペン情報の内容に応じて共振回路の共振周波数を変化させることにより、共振周波数の変位としてペン情報を送信するように構成される。
【0017】
図2は、
図1に示した筐体2の中に配置される構造を示す上面図である。同図には、電子ペン1の共振回路の基準共振周波数を調整するための使用する外部装置30についても図示している。また、
図3は、
図3は、電子ペン1及び集積回路6の回路構成を示す図である。
【0018】
図2に示すように、筐体2の中には基板5が配置され、その上面には、
図1にも示した操作スイッチ4の他、集積回路6、可変容量コンデンサVC、固定容量コンデンサC
B1,C
B2、及び複数のパッド7が配置される。また、基板5とペン先部材3の間には、コイルLが配置される。図示していないが、これらは基板5上に配置される配線等により、電気的に接続される。可変容量コンデンサVC、固定容量コンデンサC
B1,C
B2は、集積回路6の外側に配置されるという意味で、外部コンデンサである。
【0019】
図3から理解されるように、可変容量コンデンサVC及び固定容量コンデンサC
B1,C
B2は、コイルLとともに電子ペン1の共振回路(LC共振回路)を構成する。なお、固定容量コンデンサC
B1,C
B2を設けているのは集積回路6内に設けるコンデンサアレイC
1ARRAY,C
2ARRAY(後述)の容量だけでは共振回路の容量が不足するためであり、将来、コンデンサアレイC
1ARRAY,C
2ARRAYの容量を大容量化できるようになった場合には、固定容量コンデンサC
B1,C
B2を設けないこととしてもよい。
【0020】
外部装置30は、電子ペン1のペン先に発生する交番磁界(電子ペン1内の共振回路が発生する項番磁界)を測定する測定装置31(測定手段)と、コンデンサアレイC
1ARRAY,C
2ARRAYの容量を調整する調整装置32(調整手段)と、複数のパッド7を介して集積回路6に接続するプローブ33とを含んで構成される。外部装置30は、電子ペン1の製造工程の一部において、コンデンサアレイC
1ARRAY,C
2ARRAYの容量調整を行うために電子ペン1に取り付けられ、調整の終了後には電子ペン1から取り外される。
【0021】
測定装置31は、典型的には、CPU、メモリ、並びに、電子ペン1の位置検出を行うタッチセンサ及びセンサコントローラを含むタブレット端末である。このような測定装置31による交番磁界の測定は、次のようにして実行される。すなわち、まず測定装置31が、タッチセンサに所定の電流を流すことによって、タッチセンサの上面に磁界を生成する。コイルLがこの磁界の中に入るとコイルLに誘導電流が発生し、電子ペン1内の共振回路が共振する。これにより交番磁界が発生し、この交番磁界の大きさに応じた電流がタッチセンサに発生する。測定装置31は、この電流を測定することによって交番磁界を測定する。なお、詳しくは後述するが、電子ペン1内には基準共振周波数の異なる2つの共振回路(後述する第1及び第2の共振回路)が排他的に設けられており、操作スイッチ4の操作により有効な共振回路が切り替えられる。したがって、基準共振周波数の測定を行う際には、2つの共振回路のうちのいずれを測定対象とするかに応じて、適宜、操作スイッチ4の操作を行うことが好ましい。
【0022】
測定装置31はまた、メモリに記憶されるプログラムをCPUが読み出して実行することにより、電子ペン1の設定を行うために必要となる各種の処理を実行可能に構成される。こうして実行される処理には、交番磁界の測定結果に基づいて電子ペン1内の共振回路の基準共振周波数の現在値を取得し、取得した現在値と規格値とに基づき、調整装置32及び集積回路6を介してコンデンサアレイC
1ARRAY,C
2ARRAYの容量を調整し、それによって電子ペン1内の共振回路の基準共振周波数を調整する処理が含まれる。その詳細については、後ほど
図5〜
図8を参照して詳しく説明する。
【0023】
調整装置32は、プリント回路アッセンブリ(PCA)ボードに含まれる電子部品によって構成される装置であり、プローブ33を介して集積回路6に接続される。調整装置32は、コンデンサアレイC
1ARRAY,C
2ARRAYの容量の具体的な刃調整内容を含む指示(容量調整設定指示)を測定装置31から受け付け、この指示に従って集積回路6内のコンデンサビット領域(後述)への書き込みを行うことにより、コンデンサアレイC
1ARRAY,C
2ARRAYの容量調整を行う。
【0024】
再び電子ペン1の内部に着目すると、可変容量コンデンサVCは、ペン先部材3に加わる筆圧に応じて容量が変化するよう構成されたコンデンサである。また、固定容量コンデンサC
B1,C
B2はそれぞれ可変容量コンデンサVCと並列に接続され、電子ペン1の共振回路の基準共振周波数を設計の段階で調整する役割を果たす。
【0025】
集積回路6は、メモリ11を含む制御回路10と、スイッチ12と、2つのコンデンサアレイC
1ARRAY,C
2ARRAY(内部コンデンサアレイ)と、共振回路に接続される端子C1P,C1M,C2P,C2Mと、外部装置30(外部調整手段)から電圧、電流、信号、コマンドの入力を受け付けるための各種のピンとを有して構成される。各種のピンは、
図2に示した複数のパッド7と一対一に接続されており、典型的には、外部装置30から電位VPPの供給を受ける電源端子VPPと、外部装置30から電位VDD(<VPP)の供給を受ける電源端子VDDと、外部装置30から接地電位GND(<VDD)の供給を受ける接地端子GNDと、外部装置30からコマンドを含む任意のデータSDAT(電流)の供給を受けるデータ端子SDATと、外部装置30から動作クロック信号SCLKの供給を受けるクロック端子SCLKと、予備端子PIOとを含む。なお、予備端子PIOは、外部装置30に接続されていてもよいし、図示しない他の装置に接続されていてもよい。また、集積回路6に設けられる各端子(ピンを含む)は、シリアルバスの規格であるI
2Cに準拠したものとすることが好ましい。
【0026】
端子C1Pは、集積回路6の外側で、可変容量コンデンサVCの一端、固定容量コンデンサC
B1,C
B2それぞれの一端、及びコイルLの一端と共通に接続される。また、端子C2Pは、集積回路6の外側で端子C1Pと短絡されている。端子C1Mは、集積回路6の外側で、可変容量コンデンサVCの他端、固定容量コンデンサC
B1の他端、コイルLの他端、及び操作スイッチ4の一端と共通に接続される。端子C2Mは、集積回路6の外側で、固定容量コンデンサC
B2の他端及び操作スイッチ4の他端と共通に接続される。
【0027】
説明のため、集積回路6内において端子C1P,C1Mの間、端子C2P,C2Mの間がそれぞれオープンであると仮定すると、操作スイッチ4がオフである場合、可変容量コンデンサVC及び固定容量コンデンサC
B1がコイルLに対して並列に接続された状態となり、これらの合成容量とコイルLとで共振回路が構成される。以下、この共振回路を「第1の共振回路」という場合がある。可変容量コンデンサVCを含むことから、第1の共振回路の共振周波数は筆圧に応じて変化する。したがって、第1の共振回路を用いることにより、共振周波数の変位として筆圧を送信することが実現される。
【0028】
一方、操作スイッチ4がオンである場合、可変容量コンデンサVC、固定容量コンデンサC
B1、及び固定容量コンデンサC
B2がコイルLに対して並列に接続された状態となり、これらの合成容量とコイルLとで共振回路が構成される。以下、この共振回路を「第2の共振回路」という場合がある。可変容量コンデンサVCを含むことから、第2の共振回路の共振周波数も筆圧に応じて変化する。したがって、第2の共振回路を用いることによっても、共振周波数の変位として筆圧を送信することが実現される。
【0029】
加えて、第2の共振回路は第1の共振回路に固定容量コンデンサC
B2を追加した構成となっていることから、第2の共振回路と第1の共振回路とでは、筆圧に応じた共振周波数の変位範囲が異なる。したがって、操作スイッチ4のオンオフ状態に応じて第1及び第2の共振回路を切り替えることにより、共振周波数の変位としてスイッチ情報を送信することも実現される。
【0030】
コンデンサアレイC
1ARRAYは、それぞれスイッチS
a、コンデンサC
a、及びスイッチS
bがこの順で直列に接続されてなる複数の容量素子CDが端子C1P,C1Mの間に並列に接続されてなる構成を有している。各コンデンサC
aが端子C1P,C1Mの間に並列に接続された構成となっていることから、コンデンサアレイC
1ARRAYは、第1及び第2の共振回路それぞれの一部を構成している。
【0031】
また、コンデンサアレイC
2ARRAYは、それぞれスイッチS
a、コンデンサC
a、及びスイッチS
bがこの順で直列に接続されてなる複数の容量素子CDが端子C2P,C2Mの間に並列に接続されてなる構成を有している。各コンデンサC
aが端子C2P,C2Mの間に並列に接続された構成となっていることから、コンデンサアレイC
2ARRAYは、第2の共振回路の一部を構成している。
【0032】
コンデンサアレイC
1ARRAY,C
2ARRAYを構成する各コンデンサC
aは、より細かく見ると、それぞれ所定容量の多数のコンデンサ(以下、「最小容量セルC
MIN」と称する)のうちの1つ以上を並列に接続することによって構成されている。したがって、各コンデンサC
aの容量値は、最小容量セルC
MINの容量値の整数倍となっている。各最小容量セルC
MINは同一の基板上に同一のプロセスで形成されており、したがって同一の物理的特性を有しているとみなし得る。
【0033】
図4は、最小容量セルC
MINの模式的な断面図である。同図に示すように、最小容量セルC
MINは、基板20上に、絶縁膜21と、フローティングゲート22と、ゲート電極23とがこの順で積層された構造を有している。この構造はフローティングゲートタイプのフラッシュメモリに類似するものであるが、ソース及びドレインを有してもよいし有しなくてもよい点で、フラッシュメモリとは異なっている。
【0034】
基板20は、例えばn型の不純物がドープされたシリコン基板などのn型半導体によって構成される。絶縁膜21は、例えば酸化シリコン又は窒化シリコンなどの絶縁材料によって構成される。ゲート電極23は、例えば導電性の金属などの導電材料によって構成される。
【0035】
フローティングゲート22は、例えば、n型の不純物がドープされたポリシリコンなどのn型半導体によって構成される。ただし、共振周波数を調整する前の段階では、空乏化によりフローティングゲート22は電荷が注入されていない状態(初期状態)とする。したがって、基準共振周波数を調整する前の段階における最小容量セルC
MINの静電容量をC
0とすると、C
0は次の式(1)で表される。ただし、C
OXは、絶縁膜21の静電容量である。
【0037】
また、スイッチS
aは、対応するコンデンサC
aを構成する1以上の最小容量セルC
MINそれぞれのゲート電極23に共通に接続された共通端子と、端子C1P又は端子C2Pに接続された第1の選択端子と、電位Vcが供給される第2の選択端子とを有して構成される。同様に、スイッチS
bは、対応するコンデンサC
aを構成する1以上の最小容量セルC
MINそれぞれの基板20(いわゆるバックゲート)に共通に接続された共通端子と、端子C1M又は端子C2Mに接続された第1の選択端子と、接地電位GNDが供給される第2の選択端子とを有して構成される。本実施の形態においては、電位Vcは接地電位GNDより高い電位となっている。各スイッチS
a,S
bはいずれも、初期状態では共通端子と第1の選択端子とが接続された状態とされている。
【0038】
図3に戻る。制御回路10は、外部装置30からの指示に従い、コンデンサアレイC
1ARRAY,C
2ARRAYの容量を調整する。具体的には、外部装置30からの指示に従い、制御信号BC1によりコンデンサアレイC
1ARRAY内の各容量素子CDの状態を変更することによってコンデンサアレイC
1ARRAYの容量を調整し、それによって第1及び第2の共振回路の基準共振周波数を調整するとともに、外部装置30からの指示に従い、制御信号BC2によりコンデンサアレイC
2ARRAY内の内の各容量素子CDの状態を変更することによってコンデンサアレイC
2ARRAYの容量を調整し、それによって第2の共振回路の基準共振周波数を調整する。容量素子CDは、制御回路10による状態変更の制御単位であり、各容量素子CDの状態の変更は、本実施の形態においては、その容量素子CDを構成する1以上の最小容量セルC
MINそれぞれの静電容量を上記C
0(初期状態)から後述するC
1(変更済状態)に変更することによって行われる。変更済状態の詳細については、後述する。
【0039】
制御回路10のメモリ11内には、容量素子CDごとに、その状態を変更するか否かを示す値を記憶するコンデンサビット領域が設けられる。この値は、外部装置30により、上述したデータSDATを用いてコンデンサビット領域内に書き込まれる。制御回路10は、コンデンサビット領域に記憶される値に基づいて制御信号BC1,BC2を生成し、コンデンサアレイC
1ARRAY,C
2ARRAYに供給するよう構成される。
【0040】
また、制御回路10は、外部装置30から供給される電位VPP又は電位VDDに基づいて電位Vcを生成する機能を有して構成される。制御回路10は、基準共振周波数の変更を開始するにあたり、こうして生成した電位Vcの各スイッチS
aの第2の選択端子への供給を開始するとともに、各スイッチS
bの第2の選択端子に対し、外部装置30から供給される接地電位GNDの供給を開始する。
【0041】
基準共振周波数の変更においては、制御回路10は、コンデンサアレイC
1ARRAYに含まれる複数の容量素子CDのうち、状態を変更することを示す値がコンデンサビット領域内に記憶されているものについて、対応するスイッチS
a,S
bのそれぞれを第2の選択端子側に切り替えるための制御信号BC1を生成し、対応するスイッチS
a,S
bに供給する。そして、所定時間後に、対応するスイッチS
a,S
bのそれぞれを第1の選択端子側に切り替えるための制御信号BC1を生成し、対応するスイッチS
a,S
bに供給する。
【0042】
また、制御回路10は、コンデンサアレイC
2ARRAYに含まれる複数の容量素子CDのうち、状態を変更することを示す値がコンデンサビット領域内に記憶されているものについて、対応するスイッチS
a,S
bのそれぞれを第2の選択端子側に切り替えるための制御信号BC2を生成し、対応するスイッチS
a,S
bに供給する。そして、所定時間後に、対応するスイッチS
a,S
bのそれぞれを第1の選択端子側に切り替えるための制御信号BC2を生成し、対応するスイッチS
a,S
bに供給する。
【0043】
制御回路10が以上のような制御信号BC1,BC2の生成及び供給を行うことにより、状態を変更することを示す値がコンデンサビット領域内に記憶されている容量素子CD内のコンデンサC
aに対し、所定時間にわたって電位Vcが印加されることになる。
【0044】
ここで再度
図4を参照すると、電位Vcが印加されているとき、基板20内に存在する電子が絶縁膜21との境界近傍に引き寄せられ、そのうちの一部がトンネル効果によってフローティングゲート22内に移動する。こうしてフローティングゲート22内に蓄積した電子は、電位Vcの印加が終了した後もフローティングゲート22内に残存する。すなわち、フローティングゲート22は電荷が注入された状態となる。その結果、フローティングゲート22内に空乏層が形成されるので、この空乏層の静電容量をC
Dとすると、最小容量セルC
MINの容量は次の式(2)で表される値C
1に変化する。こうして、容量素子CDの状態変更が実現される。
【0046】
式(2)から理解されるように、値C
1は、絶縁膜21の静電容量C
OXと空乏層の静電容量C
Dの直列接続に対応する値である。なお、空乏層の静電容量C
Dは空乏層幅の変化に応じて変化するが、十分に電荷を注入することによってフローティングゲート22を完全空乏化させることによって、最終的に一定値に安定させることができる。したがって、電位Vcの印加は、フローティングゲート22が完全空乏化する程度まで継続することが好ましい。
【0047】
コンデンサアレイC
1ARRAYは、上述したように、第1及び第2の共振回路それぞれの一部を構成している。したがって、上記のようにしてコンデンサアレイC
1ARRAY内の各コンデンサC
aを構成する1以上の最小容量セルC
MINそれぞれのフローティングゲート22に個別に電子を注入し、それによって各容量素子CDの状態を上記した初期状態から上記した変更済状態に個別に切り替えることにより、第1及び第2の共振回路の基準共振周波数が変更されることになる。
【0048】
また、コンデンサアレイC
2ARRAYは、上述したように、第2の共振回路の一部を構成している。したがって、第2の共振回路の基準共振周波数は、上記のようにしてコンデンサアレイC
2ARRAY内の各コンデンサC
aを構成する1以上の最小容量セルC
MINそれぞれのフローティングゲート22に個別に電子を注入し、それによって各容量素子CDの状態を上記した初期状態から上記した変更済状態に個別に切り替えることによっても、変更されることになる。
【0049】
制御回路10が行うその他の処理について説明する。制御回路10は、上述したデータSDATを用いて供給される外部装置30からの指示に応じて、操作スイッチ4の有効/無効を制御する機能も有する。具体的に説明すると、まずスイッチ12は、端子C1Mと端子C2Mとの間に接続されている。制御回路10は、操作スイッチ4の無効化を指示された場合に、スイッチ12をオンにするイネーブル信号SSWENを生成し、スイッチ12に供給する。これにより、集積回路6の内部で端子C1Mと端子C2Mとが短絡されるので、操作スイッチ4が無効になる。また、制御回路10は、操作スイッチ4の有効化が指示された場合に、スイッチ12をオフにするイネーブル信号SSWENを生成し、スイッチ12に供給する。これにより、集積回路6の内部で端子C1Mと端子C2Mとが切り離されるので、操作スイッチ4が有効になる。
【0050】
また、メモリ11内のフリー領域は、電子ペン1を他の電子ペンから区別するためのペンIDその他の情報を記憶する領域である。フリー領域内に記憶される情報も、外部装置30により、上述したデータSDATを用いて書き込まれる。なお、電子ペン1は、メモリ11内のフリー領域に記憶されるペンIDを、ペン情報の一部として位置検出装置に向けて送信することとしてもよい。こうすることで、位置検出装置は、電子ペン1ごとに異なる処理(例えば、電子ペン1ごとに描画色を変える処理)を実行することが可能になる。
【0051】
次に、第1及び第2の共振回路の基準共振周波数を調整するために外部装置30が実行する処理について、
図5〜
図8を参照しながら詳しく説明する。以下では、コンデンサアレイC
1ARRAYの容量値の調整によって第1の共振回路の基準共振周波数を調整する場合を取り上げて説明する。
【0052】
図5(a)は、コンデンサアレイC
1ARRAYの構成の具体的な例を示す図である。同図に示すコンデンサアレイC
1ARRAYは、コンデンサC
aとして10個のコンデンサC
aTB、C
a1〜C
a9を有して構成される。なお、
図5(a)には、
図3に示した電子ペン1の構成のうちコンデンサアレイC
1ARRAYに関する部分のみを抜き出して示しているが、実際の構成は
図3に示したとおりである。
【0053】
図5(b)は、コンデンサC
aTB、C
a1〜C
a9のそれぞれについて、電位Vcの印加による容量変化量(=|C
1−C
0|)の定格値、最大値、最小値、及び製造誤差の一例を示す図である。同図の例においては、上述した最小容量セルC
MINの容量変化量の定格値を0.5pFに設定しており、したがってコンデンサC
aTB、C
a1〜C
a9の容量変化量の定格値はいずれも、0.5pFの整数倍となっている。また、コンデンサC
aTB、C
a1〜C
a9それぞれの容量変化量は、互いに異なる値に設定される。
【0054】
より具体的には、コンデンサC
a(9−k)(kは0〜8の整数)の容量変化量の定格値は、
図5(b)に示すように、最小容量セルC
MINの容量変化量の定格値0.5pFをおおよそ2のk乗倍してなる値に設定される。これは、コンデンサアレイC
1ARRAYの容量の調整を、広い範囲で、かつ、できるだけ効率的に行えるようにするためである。一方、コンデンサC
aTBの容量変化量の定格値は、コンデンサC
a1〜C
a9の容量変化量の最大値と最小値の間の中間値(例えば、10pF)に設定される。詳しくはこれから説明するが、コンデンサC
aTBはコンデンサC
a1〜C
a9の容量変化量に生じている製造誤差を推定するために使用するものであり、コンデンサC
aTBの定格値をこのような値に設定しておくことで、推定の精度を高めることが可能になる。
【0055】
図6(a)は、各コンデンサC
aの電位Vcの印加による容量変化量の定格値と、電位Vcの印加による実際の容量変化量との関係を示す図であり、
図6(b)は、
図6(a)の原点付近を拡大してなる図である。上述したように、コンデンサC
aTB、C
a1〜C
a9はそれぞれ、同一の基板20上に同一のプロセスで形成された1以上の最小容量セルC
MINによって構成されているため、コンデンサC
aTB、C
a1〜C
a9のそれぞれに発生する製造誤差は実質的に同一の値となる。例えば、コンデンサC
aTBに+15%の製造誤差が発生しているのであれば、コンデンサC
a1〜C
a9のそれぞれにも+15%の製造誤差が発生している。また、例えばコンデンサC
aTBに−15%の製造誤差が発生しているのであれば、コンデンサC
a1〜C
a9のそれぞれにも−15%の製造誤差が発生している。したがって、
図6(a)及び
図6(b)にも示すように、各コンデンサC
aの電位Vcの印加による容量変化量の定格値と、電位Vcの印加による実際の容量変化量との関係は、製造誤差の大きさに応じた傾きを有する直線上にプロットされることになる。以下、この直線の傾きを「容量変化勾配」と称する。
【0056】
外部装置30は、このようなコンデンサC
aTB、C
a1〜C
a9の性質を利用してコンデンサC
a1〜C
a9の容量変化量を高精度に推定し、推定した容量変化量を前提として、第1の共振回路の基準共振周波数の調整を行う。以下、処理フロー図を参照しながら、外部装置30が行う処理について、具体的に説明する。
【0057】
図7は、外部装置30が行う第1の共振回路の基準共振周波数の調整処理を示すフロー図である。この処理は、電子ペン1の製造工程の一部として実行されるものである。なお、以下の説明では、コンデンサC
aTBを含む容量素子CDを「テストビット」と称し、それぞれコンデンサC
a1〜C
a9を含む複数の容量素子CDのそれぞれを「調整ビット」と称する場合がある。
【0058】
初めに
図7に示すように、外部装置30は、第1の共振回路の基準共振周波数を測定する(ステップS1。第1の測定ステップ)。次に外部装置30は、上述したコンデンサビット領域に書き込みを行い制御回路10に所定の処理を行わせることによって、テストビット(事前に定められた一部の容量素子CD)の状態を変更する(ステップS2。状態変更ステップ)。この所定の処理は、本実施の形態においては、電位Vcの印加によって容量素子CDに含まれるコンデンサC
aのフローティングゲート22(
図4を参照)に電荷を注入することにより、該コンデンサC
aの容量値を変化させる処理である。そして再度、第1の共振回路の基準共振周波数を測定し(ステップS3。第2の測定ステップ)、ステップS1,S3のそれぞれで測定された基準共振周波数(テストビットの状態変更前後の基準共振周波数)に基づき、テストビットの実際の容量変化量を推定する(ステップS4。第1の推定ステップ)。具体的には、以下の式(3)に基づき、テストビットの実際の容量変化量C
aTBrを算出する。ただし、式(3)中のLは、
図3に示したコイルLのインダクタンスである。また、f
1はステップS1で測定された基準共振周波数であり、f
2はステップS3で測定された基準共振周波数である。
【0060】
次に外部装置30は、推定したテストビットの容量変化量と、テストビットの容量変化量の定格値とに基づき、
図6を参照して説明した容量変化勾配(すなわち、テストビット及び複数の調整ビットに共通の製造誤差)を算出する。例えば、推定したテストビットの容量変化量がテストビットの容量変化量の定格値より15%大きければ、容量変化勾配は1.15と算出される。そして、算出した容量変化勾配に基づき、各調整ビットの実際の容量変化量を推定する(ステップS5。第2の推定ステップ)。例えば、算出した容量変化勾配が1.15であれば、容量変化量の定格値が30pFであるコンデンサC
a3を含む容量素子(
図5(b)を参照)の実際の容量変化量は、30×1.15=34.5pFであると推定される。その後、外部装置30は、ステップS6により推定した各調整ビットの実際の容量変化量に基づき、第1の共振回路の基準共振周波数を調整する基準共振周波数調整処理を行う(ステップS6。調整ステップ)
【0061】
図8は、
図7のステップS6で実行される基準共振周波数調整処理の詳細を示すフロー図である。この処理では、外部装置30により、テストビットの状態変更前後の基準共振周波数の違いが相対的に大きい場合に、該違いが相対的に少ない場合に比して状態を変更する1以上の容量素子CDの容量変化量の定格値の合計が小さくなるよう、状態変更の対象となる1以上の容量素子CDを選択し、選択した1以上の容量素子CD(調整ビットの一部又は全部)の状態を変更する処理が行われる。具体的に説明すると、
図8に示すように、外部装置30はまず、最後に測定した基準共振周波数が調整目標範囲内に収まっているか否かを判定する(ステップS10)。なお、調整目標範囲は、位置検出装置との間で正常な通信を行うために必要な基準共振周波数の値の範囲であり、電子ペンの規格によって定められる。外部装置30は、ステップS10の判定結果が肯定であれば、調整OKを返して処理を終了する。
【0062】
一方、ステップS10の判定結果が否定であれば、外部装置30は、調整目標範囲に収まるように基準共振周波数を調整可能か否かを判定する(ステップS11)。具体的には、ステップS6で推定した各調整ビットの容量変化量を用い、すべての調整ビットに電位Vcを印加した場合に得られる基準共振周波数を推定する。そして、ステップS3で測定された基準共振周波数と推定した基準共振周波数との間に調整目標範囲が一部でも含まれていれば調整可能と判定し、そうでなければ調整不可能と判定する。調整不可能との判定結果を得た場合、外部装置30は、調整NGを返して処理を終了する。この場合、処理対象の電子ペン1は不良品として廃棄の対象になる。
【0063】
ステップS11で調整可能との判定結果を得た外部装置30は、各調整ビットの容量変化量(ステップS6で推定した値)と、最後に測定した基準共振周波数と調整目標(例えば、調整目標範囲に含まれる値のうち、最後に測定した基準共振周波数に最も近い値)の間の差とに基づき、粗調整のために状態を変更する調整ビットを選択する(ステップS12)。この選択は、例えば、比較的容量変化量の大きい調整ビット(例えば、それぞれコンデンサC
a1〜C
a4を含む4つの容量素子CD)のみを選択の対象とし、基準共振周波数が調整目標を超えない範囲でできるだけ調整目標に近づくように実行される。
【0064】
続いて外部装置30は、ステップS12において状態を変更する調整ビットを1つ以上選択したか否かを判定する(ステップS13)。その結果、1つ以上選択したと判定した外部装置30は、上述したコンデンサビット領域への書き込みを行うことによって制御回路10に上記所定の処理を行わせ、それによって、選択した調整ビットの状態を変更する(ステップS14)。そして再度、第1の共振回路の基準共振周波数を測定する(ステップS15)。
【0065】
ステップS15を終了した場合、又は、1つも選択されていないとステップS13にて判定した場合、外部装置30は、各調整ビットの容量変化量(ステップS6で推定した値)と、最後に測定した基準共振周波数と調整目標の間の差とに基づき、詳細調整のために状態を変更する調整ビットを選択する(ステップS16)。この選択は、例えば、比較的容量変化量の小さい調整ビット(例えば、それぞれコンデンサC
a5〜C
a9を含む5つの容量素子CD)のみを選択の対象とし、できるだけ調整目標に近づくように実行される。なお、ステップS12〜S14の粗調整とステップS16〜S18の詳細調整とを分けて実行するのは、容量素子の状態を実際に変更する前の段階で、変更の結果として得られる基準共振周波数を正確に予測することが難しいからである。
【0066】
続いて外部装置30は、ステップS16において状態を変更する調整ビットを1つ以上選択したか否かを判定する(ステップS17)。その結果、1つ以上選択したと判定した外部装置30は、上述したコンデンサビット領域への書き込みを行うことによって制御回路10に上記所定の処理を行わせ、それによって、選択した調整ビットの状態を変更する(ステップS18)。そして再度、第1の共振回路の基準共振周波数を測定する(ステップS19)。
【0067】
ステップS19を終了した場合、又は、1つも選択されていないとステップS17にて判定した場合、外部装置30は、ステップS10に処理を戻す。これにより、上記の処理が繰り返され、最終的には、調整OK又は調整NGのいずれかを結果として、処理が終了することになる。
【0068】
ここで、ここまでの説明では、コンデンサアレイC
1ARRAYの容量値の調整によって第1の共振回路の基準共振周波数を調整する場合を取り上げたが、第1の共振回路の基準共振周波数の調整が完了した後、コンデンサアレイC
2ARRAYの容量値の調整によって第2の共振回路の基準共振周波数を調整する場合についても同様である。ただし、コンデンサアレイC
2ARRAYを構成する複数の最小容量セルC
MINはコンデンサアレイC
1ARRAYを構成する複数の最小容量セルC
MINと同一基板上に同一プロセスで形成されたものであるので、
図7のステップS1〜S5を繰り返す必要はなく、第1の共振回路の基準共振周波数の調整の際に
図7のステップS5で算出した容量変化勾配を用い、コンデンサアレイC
2ARRAY内の各容量素子CDを対象として
図8に示した基準共振周波数調整処理を行えばよい。コンデンサアレイC
2ARRAY内にテストビットを設ける必要もない。ただし、コンデンサアレイC
2ARRAY内にテストビットを設け、第2の共振回路の基準共振周波数の調整のために、第1の共振回路の基準共振周波数の調整のときとは別に
図7のステップS1〜S5を行ってもよいのは勿論である。
【0069】
以上説明したように、本実施の形態による電子ペン1の製造方法によれば、フローティングゲートを有するコンデンサC
aを用いて各容量素子CDを構成する場合に、テストビットを利用し、複数の調整ビットそれぞれの容量変化量を推定したうえで基準共振周波数を調整できるので、第1及び第2の共振回路の基準共振周波数の調整を好適に行うことが可能になる。
【0070】
また、本実施の形態による集積回路6によれば、コンデンサアレイC
1ARRAY,C
2ARRAYを構成する複数の容量素子CDの中に、製造段階で必ず変更済状態に切り替えられるテスト用の容量素子CDを含むので、複数の調整ビットそれぞれの容量変化量を推定することが可能になる。
【0071】
なお、本実施の形態においては、フローティングゲート22をn型半導体によって構成する例を説明したが、p型の不純物がドープされたポリシリコンなどのp型半導体によってフローティングゲート22を構成することも可能である。以下、
図9を参照して説明する。
【0072】
図9は、本発明の第1の実施の形態の変形例による最小容量セルC
MINの模式的な断面図である。同図に示す例は、基板20がp型の不純物がドープされたシリコン基板(p型半導体)によって構成される点、フローティングゲート22がp型の不純物がドープされたポリシリコン(p型半導体)によって構成される点、及び、電位Vcが接地電位GNDより低い電位となっている点で、
図4に示した例と異なっている。
【0073】
図9の例による最小容量セルC
MINにおいては、上述したようにして所定時間にわたり電位Vcが印加された場合、基板20内に存在するホール(正孔)が絶縁膜21との境界近傍に引き寄せられ、そのうちの一部がトンネル効果によってフローティングゲート22内に移動する。そして、フローティングゲート22内に蓄積したホールは、電位Vcの印加が終了した後もフローティングゲート22内に残存する。したがって、フローティングゲート22が空乏化するので、
図4の例による最小容量セルC
MINと同様、制御回路10により最小容量セルC
MINの容量を変更することができる。この場合も、上述した所定の処理は、電位Vcの印加によって容量素子CDに含まれるコンデンサC
aのフローティングゲート22に電荷を注入することにより、該コンデンサC
aの容量値を変化させる処理である。なお、
図9の例においても、電位Vcの印加はフローティングゲート22が完全空乏化する程度まで電位Vcの印加を継続し、空乏層の静電容量を安定させることが好ましい。
【0074】
また、フローティングゲートタイプのフラッシュメモリではなく、チャージトラップタイプのフラッシュメモリに類似する構造を用いて、最小容量セルC
MINを構成することも可能である。この場合、上述した所定の処理は、所定電位の印加によって容量素子CDに含まれるコンデンサのチャージトラップ絶縁膜に電荷を注入することにより、該コンデンサの容量値を変化させる処理となる。
【0075】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。本実施の形態は、各容量素子CDがスイッチS
a,S
bに代えてヒューズ素子Hを含む点で第1の実施の形態と相違し、その他の点では第1の実施の形態と同様であるので、同一の構成には同一の符号を付し、以下では第1の実施の形態との相違点に着目して説明する。
【0076】
図10は、本実施の形態による電子ペン1及び集積回路6の回路構成を示す図である。同図に示すように、本実施の形態による容量素子CDは、コンデンサC
b及びヒューズ素子Hがこの順で直列に接続されてなる構成を有している。コンデンサC
bの具体的な種類は特に限定されず、MIM(Metal-Insulator-Metal)やMOM(Metal-Oxide-Metal)など、半導体製造プロセスで生成される各種のコンデンサをコンデンサC
bとして用いることができる。
【0077】
本実施の形態においては、容量素子CDの状態の変更は、その容量素子CDに含まれるヒューズ素子Hに所定の電圧を印加することにより、該ヒューズ素子Hを切断されていない状態(初期状態)から切断した状態(変更済状態)に変更することによって行われる。すなわち、本実施の形態における上記所定の処理は、処理対象の容量素子CDに含まれるヒューズ素子Hを切断する処理である。
【0078】
具体的に説明すると、外部装置30は、
図7のステップS2、又は、
図8のステップS14,S18において特定の容量素子CDの状態を変更しようとする場合、その容量素子CD内のヒューズ素子Hに対し、ヒューズ素子Hを切断するための制御信号BC1を供給するよう制御回路10を制御する。これにより、このヒューズ素子Hが切断され、対応するコンデンサC
bが回路から切り離されるので、対応する容量素子CDの状態が変更されることになる。ヒューズ素子Hの切断による容量素子CDの容量変化量は、コンデンサC
bの静電容量そのものとなる。
【0079】
本実施の形態においても、コンデンサアレイC
1ARRAY,C
2ARRAYの中のいずれか1つ以上の容量素子CDがテストビットとして実装される。したがって、本実施の形態による電子ペン1の製造方法によれば、コンデンサC
bと直列に接続されたヒューズ素子Hを含むように各容量素子CDを構成する場合に、テストビットを利用し、複数の調整ビットそれぞれの容量変化量を推定したうえで基準共振周波数を調整できるので、第1及び第2の共振回路の基準共振周波数の調整を好適に行うことが可能になる。
【0080】
また、本実施の形態による集積回路6によっても、コンデンサアレイC
1ARRAY,C
2ARRAYを構成する複数の容量素子CDの中に、製造段階で必ず変更済状態に切り替えられるテスト用の容量素子CDを含むので、複数の調整ビットそれぞれの容量変化量を推定することが可能になる。
【0081】
なお、本実施の形態では、各コンデンサC
bと直列にヒューズ素子Hを接続する例を説明したが、他の種類の素子を使用することも可能である。例えば、各コンデンサC
bと直列にアンチヒューズ素子を接続してもよいし、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)カンチレバーなどのMEMSスイッチを用いてもよい。
【0082】
アンチヒューズ素子は、ヒューズ素子Hとは逆に、初期状態では導通していないが、所定値以上の電圧を印加することによって導通状態(変更済状態)となる素子である。したがって制御回路10は、各容量素子CD内のアンチヒューズ素子を導通させることにより、各容量素子CDの状態を変更することができる。この場合、上記所定の処理は、処理対象の容量素子CDに含まれるアンチヒューズ素子を導通させる処理となる。
【0083】
また、MEMSスイッチは、電圧をかけることでオンオフを切り替えることができる素子である。MEMSスイッチがオンである状態とオフである状態のいずれを初期状態と用いてもよく、制御回路10は、各容量素子CD内のMEMSスイッチのオンオフ状態を切り替えることにより、各容量素子CDの状態を変更することができる。この場合、上記所定の処理は、処理対象の容量素子CDに含まれるMEMSスイッチのオンオフを切り替える処理となる。
【0084】
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。本実施の形態は、電子ペン1内の共振回路の共振周波数そのものではなく、その差分によりペン情報が送信される点、及び、可変容量コンデンサの容量が変更可能である点で第1の実施の形態と相違し、その他の点については、コンデンサアレイC
1ARRAY,C
2ARRAYの中に1つ以上のテストビットを含む点を含めて第1の実施の形態と同様である。そこで以下では、同一の構成には同一の符号を付し、第1の実施の形態との相違点に着目して説明する。
【0085】
図11は、本実施の形態による電子ペン1及び集積回路6の回路構成を示す図である。同図に示すように、本実施の形態による電子ペン1は、可変容量コンデンサVC
DPHをさらに有して構成される。可変容量コンデンサVC
DPHは、可変容量コンデンサVCと同様に、ペン先部材3(
図1を参照)に加わる筆圧に応じて容量が変化するよう構成されたコンデンサである。また、集積回路6は、スイッチ13,14と、固定容量コンデンサC
MDと、共振回路に接続される端子DPHC,DPHIとをさらに有して構成される。
【0086】
初めに集積回路6の外側に着目すると、本実施の形態による可変容量コンデンサVCの他端は、端子C1Mではなく、端子DPHCに接続される。また、可変容量コンデンサVC
DPHは、端子DPHC,DPHIの間に接続される。
【0087】
次に集積回路6の内側に着目すると、スイッチ13は、端子C1Mとスイッチ14の共通端子との間に設けられる。また、スイッチ14は、スイッチ13の一端に接続された共通端子と、端子DPHCに接続された第1の選択端子と、固定容量コンデンサC
MDを介して端子DPHIに接続された第2の選択端子とを有して構成される。
【0088】
制御回路10は、位置検出装置からの指示に従い、制御信号DPHEN1によりスイッチ13のオンオフ状態を制御する機能と、位置検出装置からの指示に従い、制御信号DPHEN2によりスイッチ14の選択状態を制御する機能とを有して構成される。
【0089】
本実施の形態による電子ペン1に対応する位置検出装置は、可変容量コンデンサVCを含む共振回路(上述した第1及び第2の共振回路)の共振周波数(以下、「第1の共振周波数」と称する)と、可変容量コンデンサVCを含まない共振回路(第1及び第2の共振回路から可変容量コンデンサVCを取り除いたもの)の共振周波数(以下、「第2の共振周波数」と称する)との差分により、電子ペン1が送信したペン情報を受信するよう構成される。
【0090】
具体的に説明すると、位置検出装置は、まずスイッチ13をオン、スイッチ14の接続を第1の選択端子側とするように、電子ペン1に対して指示を行う。この指示は、例えば図示しないセンサコイルから送信する磁界の送信継続時間を変更することによって行ってもよいし(詳しくは特許文献2を参照)、電子ペン1及び位置検出装置が他の通信手段(例えば、ブルートゥース(登録商標)などの近距離無線通信)に対応している場合には、その通信手段を用いて行ってもよい。この点は、後述する他の指示についても同様である。この指示を行った後で位置検出装置が検出する共振周波数は、筆圧及び操作スイッチ4の状態が反映された第1の共振周波数となる。
【0091】
次に位置検出装置は、スイッチ13をオフとするように、電子ペン1に対して指示を行う。この指示を行った後で位置検出装置が検出する共振周波数は、筆圧が反映されない第2の共振周波数となる。
【0092】
位置検出装置は、こうして検出した第1及び第2の共振周波数の差分を取得し、取得した差分に基づいて、ペン情報を取得する。このようにしてペン情報を取得することにより、出荷時点では規格値に等しい値となっていた第1及び第2の共振回路の基準共振周波数が金属の接近、温度変化、経年変化などによって変動した場合であっても、差分の取得によって変動分が相殺されるので、位置検出装置は正しくペン情報を検出することが可能になる。
【0093】
また、本実施の形態による電子ペン1に対応する位置検出装置は、ユーザ操作に基づいて、電子ペン1の筆圧カーブ(ペン先部材3に加わる筆圧と共振周波数の変化量との関係を示す曲線)を変更するよう構成される。
【0094】
具体的に説明すると、本実施の形態による電子ペン1は、第1及び第2の共振回路から可変容量コンデンサVC
DPH及び固定容量コンデンサC
MDが切り離されている状態に対応する第1の筆圧カーブと、可変容量コンデンサVCに可変容量コンデンサVC
DPH及び固定容量コンデンサC
MDが直列に接続されている状態に対応する第2の筆圧カーブとの二種類の筆圧カーブに対応している。位置検出装置は、これら第1及び第2の筆圧カーブのいずれか一方をユーザ操作に基づいて選択し、第1の筆圧カーブを選択した場合には、スイッチ13をオン、スイッチ14の接続を第1の選択端子側とするよう電子ペン1に指示する一方、第2の筆圧カーブを選択した場合には、スイッチ13をオン、スイッチ14の接続を第2の選択端子側とするよう電子ペン1に指示するよう構成される。電子ペン1は、この指示に従い、スイッチ13,14の各状態を制御する。これにより、ユーザ操作に応じて電子ペン1の筆圧カーブを変更することが可能になり、その結果として、電子ペン1の書き味(描き味)を2段階で変更することが可能になる。
【0095】
以上説明したように、本実施の形態による集積回路6及び電子ペン1によれば、第1及び第2の実施の形態と同様の効果に加えて、基準共振周波数の調整後に金属の接近、温度変化、経年変化などによる基準共振周波数の変動があっても、位置検出装置側で正しくペン情報を検出することができるという効果が得られる。また、その結果として筆圧の精度が向上するので、位置検出装置は、電子ペン1がタッチ面に接触しているか否かを判定するための筆圧のしきい値(ON荷重)を、より小さな値に設定することが可能になる。
【0096】
また、本実施の形態による集積回路6及び電子ペン1によれば、ユーザ操作に応じて、電子ペン1の書き味(描き味)を2段階で変更することが可能になる。
【0097】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、本発明が、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施され得ることは勿論である。
【0098】
例えば、上記各実施の形態では、共振周波数の変位によりペン情報を送信する場合を取り上げたが、本発明は、ペン情報の内容に応じて共振回路への信号の供給をオンオフすることによりデジタル情報としてペン情報を送信する場合にも適用できる。すなわち、この場合においても、共振回路を構成するコンデンサと並列に接続された複数の容量素子を集積回路内に用意しておき、各容量素子の状態を個別に変更することによって、共振回路の基準共振周波数を変えることが可能である。
【0099】
また、上記各実施の形態では、測定装置31としてタブレット端末を用いる例を説明したが、オシロスコープ又はインピーダンスアナライザーとパーソナルコンピュータなど、他の1以上の装置によって測定装置31を構成することとしてもよい。
【0100】
また、上記各実施の形態では、電磁共鳴(EMR)方式の入力システムで用いられる電子ペンに本発明を適用する例を説明したが、近距離無線通信(NFC)用のカードや、電力受信を行わず、自己の保持する電源を用いて共振回路を動作させるタイプのEMペンにも適用可能である。EMペンに本発明を適用する場合、磁界を生成する機能を有しない測定装置31を用いることができる。
【符号の説明】
【0101】
1 電子ペン
2 筐体
3 ペン先部材
4 操作スイッチ
5,20 基板
6 集積回路
7 パッド
10 制御回路
11 メモリ
12,13,14 スイッチ
21 絶縁膜
22 フローティングゲート
23 ゲート電極
30 外部装置
31 測定装置
32 調整装置
33 プローブ
BC1,BC2 制御信号
C
1ARRAY,C
2ARRAY コンデンサアレイ
C1P,C1M,C2P,C2M 端子
C
a,C
aTB,C
a1〜C
a9,C
b コンデンサ
C
aTBr 容量変化量
C
B1,C
B2,C
MD 固定容量コンデンサ
CD 容量素子
C
MIN 最小容量セル
DPHC,DPHI 端子
DPHEN1,DPHEN2 制御信号
GND 接地端子,接地電位
H ヒューズ素子
L コイル,インダクタンス
PIO 予備端子
S
a,S
b スイッチ
SCLK クロック端子,動作クロック信号
SDAT データ端子,データ
SSWEN イネーブル信号
VC,VC
DPH 可変容量コンデンサ
Vc 電位
VDD 電源端子,電位
VPP 電源端子,電位
【手続補正書】
【提出日】2020年6月3日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項10
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項10】
コイルと、
外部コンデンサと、
複数の容量素子が並列に接続されて構成された内部コンデンサアレイを含む集積回路と、を含み、
前記内部コンデンサアレイは、所定の処理によって状態が変更された一部の容量素子と状態が変更されていない残りの容量素子とが混在して構成され、
電子ペンは、前記コイル、前記外部コンデンサ、及び、前記残りの容量素子により構成される共振回路を用いて信号を送信するよう構成される、
電子ペン。
【国際調査報告】