(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2021年7月1日
【発行日】2021年12月23日
(54)【発明の名称】流体撹拌要素を具える熱分解管
(51)【国際特許分類】
F28F 1/40 20060101AFI20211126BHJP
F28F 13/02 20060101ALI20211126BHJP
F28F 13/12 20060101ALI20211126BHJP
【FI】
F28F1/40 D
F28F13/02 Z
F28F13/12 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】19
【出願番号】特願2021-525593(P2021-525593)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2020年12月23日
(31)【優先権主張番号】特願2019-237855(P2019-237855)
(32)【優先日】2019年12月27日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,IT,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】特許業務法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松原 基行
(72)【発明者】
【氏名】橋本 国秀
(57)【要約】
本発明は、管内流体の撹拌効果を具備し、層流発生による過加熱も防止することのできる熱分解管を提供する。
本発明の撹拌要素20を具える熱分解管10は、管の内面に1又は複数の流体の撹拌要素を内向きに突出形成してなる熱分解管であって、前記撹拌要素は、前記管の内面に沿って延びる突条21と、前記突条の周辺部に、前記管の内面から内向きに突出する突起24と、を含む。前記突条の周辺部とは、前記突条の管内流体流通方向上流側及び/又は下流側を含むことが望ましい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
管の内面に1又は複数の流体の撹拌要素を内向きに突出形成してなる熱分解管であって、
前記撹拌要素は、
前記管の内面に沿って延びる突条と、
前記突条の周辺部に、前記管の内面から内向きに突出する突起と、
を含む、
撹拌要素を具える熱分解管。
【請求項2】
前記突条の周辺部とは、前記突条の流体流通方向の上流側及び/又は下流側を含む、
請求項1に記載の撹拌要素を具える熱分解管。
【請求項3】
前記突起は、高さ及び/又は大きさが一定ではない、
請求項1又は請求項2に記載の撹拌要素を具える熱分解管。
【請求項4】
前記突条の高さH1は、前記突起の高さH2よりも高い、
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の撹拌要素を具える熱分解管。
【請求項5】
前記突条は、前記管の内面に間隔Iを存して複数条形成されており、
前記突起は、少なくとも前記突条の上流側及び/又は下流側I/2までの領域に形成されている、
請求項4に記載の撹拌要素を具える熱分解管。
【請求項6】
前記突起が形成される領域の面積Sは、前記突起の占める面積S’よりも2倍以上大きい、
請求項1乃至請求項5の何れかに記載の撹拌要素を具える熱分解管。
【請求項7】
前記突起は、前記管の内面から内向きに突出する点状突起である
請求項1乃至請求項6の何れかに記載の撹拌要素を具える熱分解管。
【請求項8】
前記突起は、少なくとも前記突条の下流側に形成されている、
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の撹拌要素を具える熱分解管。
【請求項9】
前記突条は、管軸に対してらせん状に形成される、
請求項1乃至請求項6の何れかに記載の撹拌要素を具える熱分解管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン等製造用の熱分解反応炉に用いられる熱分解管に関するものであり、より具体的には、管内流体の撹拌作用を高める撹拌要素が管内面から突設された熱分解管に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エチレン、プロピレン等のオレフィンは、炭化水素(ナフサ、天然ガス、エタンなど)を含む原料流体を外部から加熱された熱分解管に高速流通させ、原料流体を反応温度域まで加熱して熱分解することにより生成される。
【0003】
熱分解反応を効率良く行なうには、高速流通する原料流体を短時間で管路の径方向中心部まで熱分解反応温度域に加熱昇温させ、且つ、過加熱をできるだけ回避することが重要である。原料流体の過加熱は、炭化水素類の過度の軽質化(メタン、遊離炭素等の生成)や分解生成物の重縮合反応を招き、目的製品の収率低下が大きくなる。また、コーキング(遊離炭素の管内面への沈積)が助長され、管体の熱伝達係数の低下を招くから、デコーキング作業の実施を頻繁に行なう必要が生じ、操業時間が低下してしまう。
【0004】
そこで、熱分解管の内面に流通流体の撹拌要素として突条を設けることが行なわれている(たとえば、特許文献1参照)。特許文献1では、突条は管軸に対してらせん状に旋回するよう形成されている。そして、高速流通する流体は突条による撹拌を受けて熱伝達が促進され、急速に昇温加熱されて熱分解は短時間で完結する。これにより、過加熱による過分解やコーキングの発生を抑え、また、熱分解管の熱伝達効率の向上により、熱分解管の加熱温度を低くすることが可能となり、熱分解管の耐用寿命向上の効果がもたらされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−249249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
熱分解管には、熱伝達効率の向上が求められている。しかしながら、流体は、突条部分では撹拌作用を受けるが、突条の形成されていない部分では、管内面に沿って流通し、管内面の近傍に境膜が形成される可能性がある。この境膜部分では、内径側を流通する流体との入れ替わりが少ない層流が発生し、過加熱を招くことがある。
【0007】
本発明は、管内流体の撹拌効果を具備し、層流発生による過加熱も防止することのできる熱分解管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の撹拌要素を具える熱分解管は、
管の内面に1又は複数の流体の撹拌要素を内向きに突出形成してなる熱分解管であって、
前記撹拌要素は、
前記管の内面に沿って延びる突条と、
前記突条の周辺部に、前記管の内面から内向きに突出する突起と、
を含む。
【0009】
前記突条の周辺部とは、前記突条の流体流通方向の上流側及び/又は下流側を含むことが望ましい。
【0010】
前記突起は、高さ及び/又は大きさが一定ではないランダムなものとすることが望ましい。
【0011】
前記突条の高さH1は、前記突起の高さH2よりも高くすることが望ましい。
【0012】
前記突条は、前記管の内面に間隔Iを存して複数条形成されており、
前記突起は、少なくとも前記突条の上流側及び/又は下流側I/2までの領域に形成されていることが望ましい。
【0013】
前記突起が形成される領域の面積Sは、前記突起の占める面積S’よりも2倍以上大きくすることが望ましい。
【0014】
前記突起は、前記管の内面から内向きに突出する点状突起とすることができる。
【0015】
前記突起は、少なくとも前記突条の下流側に形成することが望ましい。
【0016】
前記突条は、管軸に対してらせん状に形成することが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の熱分解管によれば、流体は、突条により撹拌を受ける。一方、管内面に形成された突起により、管内面の近傍を流通する流体も撹拌を受け、管内面近傍に層流が発生することを抑制できる。これにより、撹拌効果を具備しつつ、過加熱を防止し、熱伝達効率を高めることができるから、オレフィンの収率の向上を図り、過分解によるコーキングの発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態による撹拌要素を形成した熱分解管の展開図である。
【
図3】
図3は、異なる形態の突条を形成した熱分解管の展開図である。
【
図4】
図4は、実施例に用いた供試熱分解管の説明図である。
【
図6】
図6は、第2実施例に用いた熱分解管の断面図であって、(a)〜(f)は発明例、(g)は比較例を示している。
【
図7】
図7は、第2実施例の圧力損失と熱伝達率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の熱分解管10について、図面を参照しながら説明を行なう。なお、図示の熱分解管10は、直管であるが、一般的には、直管からなる熱分解管10同士を屈曲したベンド管で接続し、蛇行した形状として熱分解炉に配備し、管外部から加熱を受けて、内部を流通する流体の熱分解を行なう。
【0020】
図1は、本発明の熱分解管10の一実施例を示す展開図、
図2は、
図1の線II−IIに沿う拡大断面図である。説明の都合上、
図1の紙面左側を流体の流通方向の上流側、右側を下流側としている。
【0021】
熱分解管10は、耐熱合金材料から形成することができ、25Cr−Ni(SCH22)、25Cr−35Ni(SCH24)、インコロイ(商標名)、或いは、Al:6.0質量%を上限として含有する合金を例示できる。もちろん、熱分解管10の材料はこれらに限定されず、高温の使用環境に耐え、要求される性能を具備する種々の耐熱合金材料を使用できる。
【0022】
熱分解管10には、管内面から内向きに突出する撹拌要素20が形成されている。より詳細には、撹拌要素20は、突条21と、その周辺部に同じく内向きに突出する突起24とすることができる。
【0023】
撹拌要素20を構成する突条21として、
図1ではらせん状に連続する形態としている。突条21は、管軸と直交する面に対して上流側から下流側に向けて傾斜する角度をθとして規定した場合、熱分解管10の上流側から下流側まで同じ傾斜角度θとすることができるし、角度θを変えて設けることもできる。たとえば、突条21の傾斜角度θは、85°以下とすることが好適であり、30°以下とすることが望ましい。突条21の傾斜角度θは、15°以上とすることが望ましい。突条21は、θ=0°として、管軸に直交する形態としても構わない。傾斜角度θが小さ過ぎると突条21の下流側に淀みが発生し易くなる一方で、小さい程、管軸に対して突条21の傾きは大きいから、流通する流体の撹拌、乱流発生効果を高めることができる。
【0024】
なお、突条21は、
図3に示すように、断続的な形態とすることもできる。
【0025】
突条21同士の間隔Iは、管内径が30−150mmの場合、約20−400mmとすることができる。
図1や
図3の突条21は、1条のらせん形態であるが、複数条のらせん形態を平行又は傾斜角度を変えて設けることもできる。
【0026】
突条21の高さH1は、管内径の約1/60−1/10とすることが望ましい。突条21の高さH1が、管内径の1/60よりも低いと、流体の撹拌、乱流発生効果を十分に発揮できない虞がある。また、突条21の高さH1が、管内径の1/10よりも高いと、突条21が流体の流通を阻害し、圧力損失が大きくなり、さらには、突条21の下流側で流体が滞留して過分解やコークが堆積し易くなる虞がある。故に、突条21の高さH1を上記のとおり規定した。
【0027】
突条21は、上記した熱分解管10と同種の耐熱合金材料から形成することができるが、これに限定されるものではない。
【0028】
突条21は、たとえば、粉体プラズマ溶接(PTA溶接)、MIG溶接、TIG溶接、レーザー溶接などの肉盛溶接法により、肉盛ビードとして効率的に形成することができる。もちろん、押出加工により熱分解管10と突条21を一体に作製することもできる。
【0029】
突起24は、突条21の周辺部に形成される。突条21の周辺部とは、突条21の上流側、下流側を含む。たとえば、
図1に示すように、突起24は、管内面の全体に均等に設けるのではなく、突条21の上流側及び下流側から所定距離離れた帯状の領域に集中して形成することができる。もちろん、
図3に示すように、突起24は管内面に略均等に設けることもでき、当該図のように、突条21が断続的な形態22,22である場合には、突起24の形成される周辺部には、突条22と突条22の間も含む。
【0030】
突起24を突条21の上流側及び/又は下流側に設ける場合、前記突条21同士の間隔Iに対して、突条21から上流側I/2、下流側I/2までの領域、望ましくは上流側I/3、下流側I/3の領域に形成する。突条21に向かう流体が層流を形成することを防止し、また、突条21により撹拌された流体が再度層流を形成しないためである。
【0031】
さらに、突起24は、突起24が形成される領域の面積S(管内面の面積の内、突条21を除く面積)が、突起24が占める面積S’よりも2倍以上大きい、言い換えれば、突起24が占める面積S’は、突起24が形成される領域の面積Sの1/2以下とすることが好適である。突起24を管内面に密に形成するのではなく、ある程度間隔を存し、疎な態様に形成することで、効果的に撹拌を行なうことができ、突起24,24間に生ずる流体の滞留を抑え、コークの堆積を低減できる。S’/Sは20%以下とすることが望ましく、10%以下がより望ましく、6%以下が最も望ましい。
【0032】
突起24は、
図2に断面形状の例を示すような粒状に隆起した形態25、熱分解管10の内面から半球状に隆起した形態26、熱分解管10の内面から滑らかな山状に隆起した形態27とすることができる。突起24を、符号25で示す粒状に隆起した形態とした場合、
図2に示すように、突起24と管内面との接触幅W1に比べて、突起24の最大径W2は大きくなる。これにより、突起24の表面積を大きく採れるから、熱交換効率を向上できる。また、管軸側から見た形状は、点状、円状、楕円状、角状等、種々の形状を採用できる。もちろん、これら形状を組み合わせた形態とすることもできる。さらには、突起24の形状は一定でなく、ランダムな形状とすることで、流体がぶつかったときに各突起24により生じる流れが複雑なものになるから、境膜を破壊し、層流の形成を妨げる効果を高めることができる。
【0033】
突起24の高さH2は、
図2に示すように、突条21の高さH1に対して、H1>H2、すなわち、突条21の高さH1の方が、突起24の高さH2よりも高くなることが好適である。突条21の高さH1は、突起24の高さH2の2倍以上(H1≧2×H2)がより望ましい。これは、基本的には、流体の撹拌は突条21により行ない、突起24により管内面に層流が形成されることを防止するためである。また、各突起24の高さH2をランダムにすることで、各突起24により生じる流れが複雑なものになるから、境膜を破壊し、層流の形成を妨げる効果を高めることができる。
【0034】
突起24も、上記した熱分解管10や突条21と同種の耐熱合金材料から形成することができるが、これに限定されるものではない。
【0035】
突起24は、たとえば、スパッタリングにより管内面に形成することができる。また、TIG溶接、MIG溶接、レーザー溶接等により管内面に点状に形成してもよい。さらには、突条21を粉体プラズマ溶接(PTA溶接)などの肉盛溶接法により形成する際に、管内面や肉盛溶接粉末の溶融金属が酸化することを防止するために噴射されるシールドガス、たとえば、アルゴンガスの流速や流量を多くして、肉盛溶融粉末の一部を管内面に飛散させることにより点状又は粒状の突起24を形成することができる。同様に、肉盛溶接の際に供給される肉盛溶接粉末の送りガスの流速や流量を多くして、ノズルから噴出される肉盛溶融粉末の一部を管内面に飛散させることにより点状又は粒状の突起24を形成してもよい。
【0036】
上記の如く撹拌要素20として突条21及びその周辺部に突起24を形成した熱分解管10に流体を流通させると、
図1及び
図2に矢印Aで示すように、流体は、突条21により撹拌作用を受け、突条21に沿いらせん状に旋回する流れ、或いは、突条21を超える流れ等となる。これにより流体は、管路の径方向は、管路の径方向中心部まで撹拌されて速やかに加熱昇温することができる。また、管内面を流通する流体は、矢印Bで示すように、突起24にぶつかって流れが内径側或いは突起24の左右に乱れ、管内面に層流の形成を防止して境膜を破壊するから、管外面から管内面の原料流体に供給される熱の伝達効率を高め、流体の過加熱も防止することができる。
【0037】
すなわち、本発明の熱分解管10によれば、原料流体を管路の径方向中心部まで熱分解反応温度域に速やかに加熱昇温しつつ、過加熱を回避でき、目的製品の収率向上を達成できる。また、過加熱の防止によりコーキングも抑制されるからデコーキング作業を削減でき、操業日数の増加による収量増大を達成できる。
【0038】
上記実施例の説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或は範囲を減縮するように解すべきものではない。又、本発明の各部構成は上記一実施形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【実施例】
【0039】
<第1実施例>
図4に示すように、上流側に1.6mの助走区間31を有し、下流側に
図1に示す長さ0.6mの発明例の熱分解管10、又は、
図5に示す長さ0.6mの比較例の熱分解管40を接続した供試熱分解管30を作製し、流体を流通させて出口温度(℃)及び熱交換量(kW)を測定、比較した。熱分解管10、40の内径は40mmである。
【0040】
発明例の熱分解管10は、
図1に示すように、内部に撹拌要素としてらせん状の連続する1条の突条21とその周辺部に複数の突起24を形成した。また、比較例の熱分解管40は、
図5に示すように、内部にらせん状の連続する1条の突条21のみを形成した。発明例及び比較例のらせん状の突条21は、何れも傾斜角度θが30°、高さ2.1mm、幅7.0mmである。発明例は、直径2.0mm、高さ1.0mmの半球状の突起24をスパッタリングにより形成した。発明例は、突起24の形成位置は、突条21の上流側50%と下流側50%の領域、すなわち突起が形成される領域の面積S(管内面の面積の内、突条21を除く面積)の全面であり、面積Sに占める突起24の面積S’が全体の3%となるように突起24を形成した実施例である。
【0041】
供試熱分解管30の上流側の助走区間31の長さは1.6mであり、壁面断熱を施している。発明例の熱分解管10と接続される助走区間31には、熱分解管10と同じくらせん状の突条21と突起24が形成されており、比較例の熱分解管40に接続される助走区間31には、熱分解管40と同じくらせん状の突条21が形成されている。また、熱分解管10又は40の長さは0.6mであり、壁面が1000℃一定となるように加熱している。
【0042】
上記構成の供試熱分解管30を壁面が1000℃一定となるように加熱しつつ、エタン70重量%、水蒸気30重量%からなる流体を、700℃に昇温し、流入する質量流量が0.2104kg/sとなるように供給した。結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
表1を参照すると、発明例は、比較例に比べて出口温度及び熱交換量が共に向上している。これは、撹拌要素20として突条21を設けたことによる撹拌効果(
図1及び
図2の矢印A)に加え、
図1及び
図2に矢印Bで示すように、管内面に設けた突起24にぶつかって流れが乱れ、管内面に層流の形成を防止して境膜を破壊したことで、熱伝達効率が向上したためと考えられる。熱伝達効率の向上により、発明例の熱分解管10は、比較例の熱分解管40に比べて収率向上を達成できる。
【0045】
<第2実施例>
内径が40mm、長さ0.6mmの熱分解管の内面に、
図6(a)〜(f)に示すように突条21と、突起24を形成した発明例1〜6と、
図6(g)に示す突条21のみを形成した比較例1、2を作製し、内部に空気を流通させて、流体の出口温度(℃)、圧力損失(Pa)及び熱伝達率(W/m
2K)を測定した。
【0046】
発明例、比較例には、何れも傾斜角度θが30°幅7.0mmのらせん状の突条21を形成した。発明例1〜6及び比較例1の突条21の高さは2.1mm、比較例2の突条21の高さは1.5mmである。
【0047】
発明例には、直径2.0mm、高さ1.0mmの半球状の突起24をスパッタリングにより形成した。表2中、突起24が形成される領域の位置とその面積%を「突起の形成領域」に示す。また、同じ表2中、面積S(管内面の面積の内、突条21を除く面積)に対する突起24の面積S’を「S’/S」に、管内面に形成された突起24の個数を「突起個数」、対応する断面図を「図」に示す。なお、
図6は、熱分解管の一部区間の断面である。
【0048】
【表2】
【0049】
第2実施例では、発明例と比較例の各熱分解管の壁面が156℃となるように加熱しつつ、32.54℃の空気を流体とし、流体の流入する質量流量が00.055kg/sとなるように供給した。結果を表3、また、圧力損失を横軸、熱伝達率を縦軸として発明例と比較例の結果をプロットしたグラフを
図7に示す。
【0050】
【表3】
【0051】
表3を参照すると、第1実施例と同様、発明例は何れも比較例よりも流体の出口温度を高くできたことがわかる。また、
図7を参照すると、比較例1と比較例2を結ぶ直線に対して、発明例は何れも上側にプロットされており、発明例の近似線は比較例の直線よりも傾きが大きい。これは、圧力損失の増加に比べて熱伝達率が向上できたことを意味する。
【0052】
また、発明例同士を比較すると、管内面に突起24を全面にランダムに分散させた発明例1が最も熱伝達率を向上でき、流体の出口温度を高くできたことがわかる。発明例2は発明例1よりも突起24を密に形成しているが、出口温度を高くできなかった。発明例4は、突起24により乱流が発生した可能性がある。
【0053】
さらに、発明例3と4は、突条21の間隔I(
図1参照)に対して、夫々下流側と上流側のI/2の領域に突起24を形成した実施例である。発明例3と4を比較すると、突条21の上流側に突起24を形成した発明例4の方が、出口温度及び熱伝達率を高められた。これは、突起24を上流側に設けたことで、突条21に向かう流体を撹拌でき、突条21の近傍での層流の発生を抑制できたためと考えられる。
【0054】
また、発明例5と6は、突条21の間隔Iに対して、上流側と下流側の両範囲のI/10、I/20の範囲に突起24を形成した実施例である。発明例5は、突起24の形成領域が発明例6の2倍である一方、突起24の個数はほぼ同じとしている。すなわち、突起24の形成密度は発明例6が約2倍高い実施例である。これらを比較すると、発明例6の方が出口温度が高い。この結果から、突条21の上流側と下流側に同じ個数の突起24を設ける場合、突起24の近傍に多く形成した方が出口温度を高められることがわかる。
【符号の説明】
【0055】
10 熱分解管
20 撹拌要素
21 突条
24 突起
【手続補正書】
【提出日】2021年5月11日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
管の内面に1又は複数の流体の撹拌要素を内向きに突出形成してなる熱分解管であって、
前記撹拌要素は、
前記管の内面に沿って延びる突条と、
前記突条の周辺部にランダムに分散して配置され、前記管の内面から内向きに突出する突起と、
を含む、
撹拌要素を具える熱分解管。
【請求項2】
前記突条の周辺部とは、前記突条の流体流通方向の上流側及び/又は下流側を含む、
請求項1に記載の撹拌要素を具える熱分解管。
【請求項3】
前記突起は、高さ及び/又は大きさが一定ではない、
請求項1又は請求項2に記載の撹拌要素を具える熱分解管。
【請求項4】
前記突起は、形状がランダムである、
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の撹拌要素を具える熱分解管。
【請求項5】
前記突条の高さH1は、前記突起の高さH2よりも高い、
請求項1乃至請求項4の何れかに記載の撹拌要素を具える熱分解管。
【請求項6】
前記突条は、前記管の内面に間隔Iを存して複数条形成されており、
前記突起は、少なくとも前記突条の上流側及び/又は下流側I/2までの領域に形成されている、
請求項1乃至請求項5の何れかに記載の撹拌要素を具える熱分解管。
【請求項7】
前記突起が形成される領域の面積Sは、前記突起の占める面積S’よりも2倍以上大きい、
請求項1乃至請求項6の何れかに記載の撹拌要素を具える熱分解管。
【請求項8】
前記突起は、前記管の内面から内向きに突出する点状突起である
請求項1乃至請求項7の何れかに記載の撹拌要素を具える熱分解管。
【請求項9】
前記突起は、少なくとも前記突条の下流側に形成されている、
請求項1乃至請求項4の何れかに記載の撹拌要素を具える熱分解管。
【請求項10】
前記突条は、管軸に対してらせん状に形成される、
請求項1乃至請求項7の何れかに記載の撹拌要素を具える熱分解管。
【手続補正書】
【提出日】2021年10月18日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
管の内面に1又は複数の流体の撹拌要素を内向きに突出形成してなる熱分解管であって、
前記撹拌要素は、
前記管の内面に沿って管軸方向に間隔Iを存して複数条形成された突条と、
前記突条の上流I/2までの領域、または、下流I/2までの領域に形成され、前記管の内面から内向きに突出する複数の突起と、
を含む、
撹拌要素を具える熱分解管。
【請求項2】
管の内面に1又は複数の流体の撹拌要素を内向きに突出形成してなる熱分解管であって、
前記撹拌要素は、
前記管の内面に沿って管軸方向に間隔Iを存して複数条形成された突条と、
前記突条の上流側のI/3までの領域、及び/又は、下流I/3までの領域に形成され、前記管の内面から内向きに突出する複数の突起と、
を含む、
撹拌要素を具える熱分解管。
【請求項3】
前記突起は、前記領域にランダムに分散して配置される、
請求項1又は請求項2に記載の熱分解管。
【請求項4】
前記突起は、高さ及び/又は大きさが一定ではない、
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の撹拌要素を具える熱分解管。
【請求項5】
前記突起は、形状がランダムである、
請求項1乃至請求項4の何れかに記載の撹拌要素を具える熱分解管。
【請求項6】
前記突条の高さH1は、前記突起の高さH2よりも高い、
請求項1乃至請求項5の何れかに記載の撹拌要素を具える熱分解管。
【請求項7】
前記突起が形成される領域の面積Sは、前記突起の占める面積S’よりも2倍以上大きい、
請求項1乃至請求項6の何れかに記載の撹拌要素を具える熱分解管。
【請求項8】
前記突起は、前記管の内面から内向きに突出する点状突起である
請求項1乃至請求項7の何れかに記載の撹拌要素を具える熱分解管。
【請求項9】
前記突条は、管軸に対してらせん状に形成される、
請求項1乃至請求項8の何れかに記載の撹拌要素を具える熱分解管。
【国際調査報告】