(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2021年4月8日
【発行日】2021年11月25日
(54)【発明の名称】量子回路システム
(51)【国際特許分類】
H01L 27/18 20060101AFI20211029BHJP
H01L 39/00 20060101ALI20211029BHJP
H01L 39/04 20060101ALI20211029BHJP
F25B 9/12 20060101ALI20211029BHJP
【FI】
H01L27/18ZAA
H01L39/00
H01L39/04
F25B9/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】17
【出願番号】特願2020-535677(P2020-535677)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2019年10月3日
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】321011251
【氏名又は名称】才田 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】才田 大輔
【テーマコード(参考)】
4M113
4M114
【Fターム(参考)】
4M113AC06
4M113AC45
4M113AD03
4M113AD04
4M113CA13
4M114AA40
4M114BB02
4M114CC09
4M114CC16
4M114CC17
4M114DA03
(57)【要約】
2つの量子回路を動作させるコストを低減することができる量子回路システムを提供する。量子回路システム100は、第1温度に調整される第1ステージ24及び第1温度より低い第2温度に調整される第2ステージ26を有する冷凍機20と、第1ステージに設置され、超伝導状態で量子効果又は熱的効果を用いた演算を行う第1回路21と、第2ステージに設置され、超伝導状態で量子効果を用いた演算を行う第2回路22と、第1回路及び第2回路を制御する制御装置10と、を備える。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1温度に調整される第1ステージ及び前記第1温度より低い第2温度に調整される第2ステージを有する冷凍機と、
前記第1ステージに設置され、超伝導状態で量子効果又は熱的効果を用いた演算を行う第1回路と、
前記第2ステージに設置され、超伝導状態で量子効果を用いた演算を行う第2回路と、
前記第1回路及び前記第2回路を制御する制御装置と、
を備える量子回路システム。
【請求項2】
前記制御装置は、
与えられた問題を識別し、古典計算アルゴリズム及び量子計算アルゴリズムを含む複数のアルゴリズムのいずれを用いて前記問題を解くか選択する選択部と、
選択されたアルゴリズムに応じて、前記第1回路又は前記第2回路による演算を制御する制御部と、を有する、
請求項1に記載の量子回路システム。
【請求項3】
古典計算を行う第3回路を備える古典計算装置をさらに備え、
前記制御部は、選択されたアルゴリズムに応じて、前記第1回路、前記第2回路又は前記第3回路による演算を制御する、
請求項2に記載の量子回路システム。
【請求項4】
前記第1回路は、前記第1温度が前記所定温度以下である場合に量子アニーリングを用いた演算を行う量子回路を含む、
請求項1から3のいずれか一項に記載の量子回路システム。
【請求項5】
前記第2回路は、量子ゲートを組み合わせて量子計算を行う量子回路を含む、
請求項1から4のいずれか一項に記載の量子回路システム。
【請求項6】
前記制御部は、前記第2回路による演算を行う場合に、前記第1回路によりエラー検出を行い、エラーが検出された箇所に対応する前記第2回路の量子状態をエラー訂正するように制御する、
請求項1から5のいずれか一項に記載の量子回路システム。
【請求項7】
前記第1ステージに設置され、前記第2回路を制御する制御パルスを出力するパルス源をさらに備える、
請求項1から6のいずれか一項に記載の量子回路システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子回路システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、量子コンピュータの実用化に向けて研究が進められている。例えば、下記非特許文献1では、クライオスタットのmK領域に量子アレイを設置し、量子アレイを制御する制御パルスを出力するユニットを3K領域に設置することが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】R. McDermott et al., "Quantum Classical Interface Based on Single Flux Quantum Digital Logic," Quantum Science and Technology, vol 3, 2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、非特許文献1に記載のような量子ゲート型の量子回路の他、量子アニーリング型の量子回路も用いられている。量子ゲート型の量子回路と、量子アニーリング型の量子回路とは、いずれも極低温で動作するため、それぞれ冷凍機内に設置される。冷凍機内で最低温度に達するステージの面積は限られている。マイクロ波を用いて動作させる量子ゲート型の量子回路と、dcからMHz帯域の交流周波数を用いて動作させる量子アニーリング型の量子回路は、それぞれ異なる冷凍機に設置される。
【0005】
そのため、2つの量子回路を動作させる場合、冷凍機を極低温に維持するためのコストがそれぞれ発生してしまい、コストが増大してしまう。
【0006】
そこで、本発明は、2つの量子回路を動作させるコストを低減することができる量子回路システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る量子回路システムは、第1温度に調整される第1ステージ及び第1温度より低い第2温度に調整される第2ステージを有する冷凍機と、第1ステージに設置され、超伝導状態で量子効果又は熱的効果を用いた演算を行う第1回路と、第2ステージに設置され、超伝導状態で量子効果を用いた演算を行う第2回路と、第1回路及び第2回路を制御する制御装置と、を備える。
【0008】
この態様によれば、単一の冷凍機が有する異なるステージに第1回路及び第2回路を設置することで、2つの量子回路を動作させるコストを低減することができる。
【0009】
上記態様において、制御装置は、与えられた問題を識別し、古典計算アルゴリズム及び量子計算アルゴリズムを含む複数のアルゴリズムのいずれを用いて問題を解くか選択する選択部と、選択されたアルゴリズムに応じて、第1回路又は第2回路による演算を制御する制御部と、を有してもよい。
【0010】
この態様によれば、与えられた問題に応じて適切なアルゴリズムを選択し、そのアルゴリズムの実行に適した回路を用いて効率的に問題を解くことができる。
【0011】
上記態様において、古典計算を行う第3回路を備える古典計算装置をさらに備え、制御部は、選択されたアルゴリズムに応じて、第1回路、第2回路又は第3回路による演算を制御してもよい。
【0012】
この態様によれば、与えられた問題に応じて、古典計算機を用いるか、量子アニーリングマシンを用いるか、汎用のゲート型量子計算機を用いるかを選択することができ、効率的に問題を解くことができる。
【0013】
上記態様において、第1回路は、第1温度が所定温度以下である場合に量子アニーリングを用いた演算を行う量子回路を含んでもよい。
【0014】
上記態様において、第2回路は、量子ゲートを組み合わせて量子計算を行う量子回路を含んでもよい。
【0015】
上記態様において、制御部は、第2回路による演算を行う場合に、第1回路によりエラー検出を行い、エラーが検出された箇所に対応する第2回路の量子状態をエラー訂正するように制御してもよい。
【0016】
この態様によれば、適切なエラー訂正を行い、第2回路の演算におけるエラー率を低下させることができる。
【0017】
上記態様において、第1ステージに設置され、第2回路を制御する制御パルスを出力するパルス源をさらに備えてもよい。
【0018】
この態様によれば、パルス源を第1ステージに設置することで、制御パルスのノイズを低減し、第2回路の演算におけるエラー率をより低減させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、2つの量子回路を動作させるコストを低減することができる量子回路システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る量子回路システムの構成を示す図である。
【
図2】第1実施形態に係る冷凍機の構成を示す図である。
【
図3】第1実施形態に係る第1回路の回路図である。
【
図4】第1実施形態に係る第2回路の回路図である。
【
図5】第1実施形態に係る量子回路システムにより実行されるアルゴリズム選択処理のフローチャートである。
【
図6】第1実施形態に係る量子回路システムによるエラー訂正を模式的に示す図である。
【
図7】第1実施形態の変形例に係る第1回路の回路図である。
【
図8】本発明の第2実施形態に係る冷凍機の構成を示す図である。
【
図9】本発明の第3実施形態に係る冷凍機の構成を示す図である。
【
図10】本発明の第4実施形態に係る冷凍機の構成を示す図である。
【
図11】本発明の第5実施形態に係る量子回路システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。
【0022】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る量子回路システム100の構成を示す図である。量子回路システム100は、制御装置10と、冷凍機20と、古典計算装置であるFPGA(Field-Programmable Gate Array)31と、古典計算装置であるASIC(Application Specific Integrated Circuit)32とを備える。また、量子回路システム100は、冷凍機20の内部に、第1回路21及び第2回路を備える。
【0023】
制御装置10は、古典計算を行う第3回路に相当するCPU(Central Processing Unit)10aと、記憶部に相当するRAM(Random Access Memory)10bと、記憶部に相当するROM(Read only Memory)10cと、通信部10dと、入力部10eと、表示部10fと、コントローラ10gと、インターフェース10hと、を有する。これらの各構成は、バスを介して相互にデータ送受信可能に接続される。なお、本例では制御装置10が一台のコンピュータで構成される場合について説明するが、制御装置10は、複数のコンピュータが組み合わされて実現されてもよい。また、
図1で示す構成は一例であり、制御装置10はこれら以外の構成を有してもよいし、これらの構成のうち一部を有さなくてもよい。
【0024】
CPU10aは、RAM10b又はROM10cに記憶されたプログラムの実行に関する制御やデータの演算、加工を行い、第1回路21及び第2回路を制御するプログラムを実行する演算部である。CPU10aは、入力部10eや通信部10dから種々のデータを受け取り、データの演算結果を表示部10fに表示したり、RAM10bに格納したりする。
【0025】
RAM10bは、記憶部のうちデータの書き換えが可能なものであり、例えば半導体記憶素子で構成されてよい。RAM10bは、CPU10aが実行するプログラム、冷凍機20の制御スケジュールといったデータを記憶してよい。なお、これらは例示であって、RAM10bには、これら以外のデータが記憶されていてもよいし、これらの一部が記憶されていなくてもよい。
【0026】
ROM10cは、記憶部のうちデータの読み出しが可能なものであり、例えば半導体記憶素子で構成されてよい。ROM10cは、例えばCPU10aが実行するプログラムや、書き換えが行われないデータを記憶してよい。
【0027】
通信部10dは、制御装置10を他の機器に接続するインターフェースである。通信部10dは、インターネット等の通信ネットワークに接続されてよい。
【0028】
入力部10eは、ユーザからデータの入力を受け付けるものであり、例えば、キーボード及びタッチパネルを含んでよい。
【0029】
表示部10fは、CPU10aによる演算結果を視覚的に表示するものであり、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)により構成されてよい。表示部10fは、第1回路21、第2回路22、FPGA31及びASIC32による演算結果を表示してよい。
【0030】
コントローラ10gは、インターフェース10hを介して、第1回路21、第2回路22、FPGA31及びASIC32に対して制御信号を送信したり、演算結果を受信したりする。
【0031】
CPU10aが実行するプログラムは、RAM10bやROM10c等のコンピュータによって読み取り可能な記憶媒体に記憶されて提供されてもよいし、通信部10dにより接続される通信ネットワークを介して提供されてもよい。制御装置10では、CPU10aが当該プログラムを実行することにより、後述する選択部及び制御部の動作が実現される。なお、これらの物理的な構成は例示であって、必ずしも独立した構成でなくてもよい。例えば、制御装置10は、CPU10aとRAM10bやROM10cが一体化したLSI(Large-Scale Integration)を備えていてもよい。
【0032】
図2は、第1実施形態に係る冷凍機20の構成を示す図である。冷凍機20は、mK程度の低温を実現できる冷凍機であり、例えば
3He−
4He希釈冷凍法を用いた冷凍機であってよい。冷凍機20は、第1温度に調整される第1ステージ24及び第1温度より低い第2温度に調整される第2ステージ26を有する。本例では、第1温度は4K(より正確には、大気圧化での
4He液体の沸点である4.2K)であり、第2温度は、
3He−
4He希釈冷凍法により実現される数mK〜数十mKである。本実施形態に係る冷凍機20は、中間ステージ25を有し、その温度は0.1K程度となる。
【0033】
第1回路21は、第1ステージ24に設置され、超伝導状態で量子効果又は熱的効果を用いた演算を行う。より具体的には、第1回路21は、第1温度が第1回路21を構成する超伝導材料の超伝導転移温度以下である場合に、量子アニーリング又は熱的アニーリングを用いた演算を行う回路を含む。第1回路21を構成する超伝導材料は、例えばニオブであり、その超伝導転移温度は9.2Kである。そのため、第1回路21を構成する超伝導材料がニオブであり、第1温度が4Kである場合、第1回路21は、超伝導状態で量子効果を用いた量子アニーリング又は熱的効果を用いた古典的アニーリングによる計算を行う。
【0034】
第1回路21を構成する超伝導材料がニオブであり、第1回路21を中間ステージ25に設置する場合、第1温度は0.1Kであり、第1回路21は、超伝導状態で量子アニーリングを用いた演算を行う。また、第1回路21を構成する超伝導材料の超伝導転移温度が4.2K以下である場合、第1回路を第1ステージ24に設置する場合であっても、第1回路21は、量子アニーリングを用いた演算を行うことがある。
【0035】
第2回路22は、第2ステージ26に設置され、超伝導状態で演算を行う。第2回路22は、量子効果を用いた演算を行う。より具体的には、第2回路22は、量子ゲートを組み合わせて量子計算を行う量子回路を含む。第2回路22は、汎用量子計算機であり、第1回路21は、特定の問題(例えば組み合わせ最適化問題)を解くことに特化した専用量子計算機である。
【0036】
第1回路21及び第2回路22は、冷凍機20の外部に繋がる同軸ケーブル23によって制御装置10から高周波制御信号を受け取り、演算結果を制御装置10に伝送する。また、第1回路21は、磁気シールド27で覆われ、第2回路22は、磁気シールド28で覆われる。磁気シールド27は設けなくてもよい。また、磁気シールド28は設けなくてもよい。同軸ケーブル23は、ノイズを避けるために信号線とグランド線が周期的に交差された構造(ツイステッド・ペア)であってもよい。
【0037】
このように、本実施形態に係る量子回路システム100によれば、単一の冷凍機20が有する異なるステージに第1回路21及び第2回路22を設置することで、2つの量子回路を動作させるコストを低減することができる。
【0038】
図3は、第1実施形態に係る第1回路21の回路図である。第1回路21は、量子ビット(Tunable qubit)を構成する回路と、読出回路(Read-out)とを含み、全体が磁気シールド27で覆われている。量子ビットを構成する回路及び読み出し回路には、同軸ケーブル23がフィルタ23aを介して電磁気的に接続され、DC/AC入力(DC/AC in)が量子ビットを構成する回路及び読み出し回路に入力される。また、読出回路の出力は、アンプ23bによる増幅を経てDC/AC出力(DC/AC out)として同軸ケーブル23に出力される。なお、
図3において、同軸ケーブル23は差動線路で記載している。同軸ケーブル23は、コイルに磁束を印加する部分をこえた後、ケーブルが折り返す表現として図示している。
【0039】
図4は、第1実施形態に係る第2回路22の回路図である。第2回路22は、読出回路に相当するJPA(Josephson Parametric Amplifier)と共振器(Cavity)と,量子ビット(Qubit)を構成するトランズモンとを含み、共振器及びトランズモンが磁気シールド28で覆われている。JPAには、複数のフィルタ23aを介してDC入力(DC in)による誘導磁場(DC magnetic field)が印加され、RF入力(RF in)が入力される。なお、線路にグランドを記載したが、差動線路としてもよい。トランズモンの量子状態をJPAで増幅して読み出し、複数のサーキュレータ23c及びアンプ23bを介してRF出力(RF out)を同軸ケーブル23に出力する。JPAではなく、別のアンプを用いて信号の増幅を行ってもよい。例えば、HEMT(High Electron Mobility Transistor:高電子移動度トランジスタ)の低ノイズアンプが0.1Kのステージに置かれる場合があってもよい。また、磁気シールド28に覆われた共振器及びトランズモンには、複数のフィルタ23a及びサーキュレータ23cを介してRF入力(RF in)が入力される。
【0040】
図5は、第1実施形態に係る量子回路システム100により実行されるアルゴリズム選択処理のフローチャートである。本実施形態に係る制御装置10は、与えられた問題を識別し、古典計算アルゴリズム及び量子計算アルゴリズムを含む複数のアルゴリズムのいずれを用いて問題を解くか選択する選択部と、選択されたアルゴリズムに応じて、第1回路21又は第2回路22による演算を制御する制御部と、を有する。さらに、本実施形態に係る量子回路システム100は、古典計算を行う第3回路を備える古典計算装置(本実施形態ではFPGA31及びASIC32)をさらに備え、制御装置10の制御部は、選択されたアルゴリズムに応じて、第1回路21、第2回路22又は第3回路による演算を制御する。制御装置10の選択部及び制御部は、CPU10aによって所定のプログラムを実行することにより実現される。
【0041】
はじめに、制御装置10は、問題を読み込み(S10)、ラベリングされたデータがある場合(S11:YES)、制御装置10のCPU10a、FPGA31及びASIC32の少なくともいずれかを含む第3回路によって機械学習を実行する(S12)。ここで、機械学習は、データのラベルを用いた教師あり学習であってよい。
【0042】
一方、ラベリングされたデータがなく(S11:NO)、評価関数を作成する場合(S13:YES)、制御装置10のCPU10a、FPGA31及びASIC32の少なくともいずれかを含む第3回路によって遺伝的アルゴリズムを実行する(S14)。なお、この場合、第3回路によって、リザーバーコンピューティングや強化学習を実行してもよい。
【0043】
また、評価関数を作成せず(S13:NO)、ハミルトニアンを作成して古典計算を行う場合(S15:YES)、制御装置10のCPU10a、FPGA31及びASIC32の少なくともいずれかを含む第3回路によって量子シミュレーション又はシミュレーテッドアニーリングを実行する(S16)。
【0044】
一方、ハミルトニアンを作成して古典計算を行わないが(S15:NO)、問題が所定のハミルトニアンで表現できる場合(S17:YES)、第1回路21によって量子アニーリングを実行する(S18)。なお、第1回路21が設置される環境が第1回路21を構成する超伝導材料の超伝導転移温度以下でない場合、第1回路21によって古典的アニーリングを実行する。また、所定のハミルトニアンは、例えば、A. Lucas, "Ising formulations of many NP problems," Front. Physics 2:5, 2014に列挙されたハミルトニアンであってよい。イジングモデルでハミルトニアンが記載される場合、第1回路21によって処理することが好ましい。
【0045】
最後に、問題が所定のハミルトニアンで表現できない場合(S17:NO)、第2回路22によって量子ゲート型の量子計算を実行する(S19)。なお、以上のフローチャートは例示であり、量子回路システム100は、異なる判定基準を用いてアルゴリズムを選択し、第1回路21、第2回路22又は第3回路による演算を制御してよい。
【0046】
本実施形態に係る量子回路システム100によれば、与えられた問題に応じて適切なアルゴリズムを選択し、そのアルゴリズムの実行に適した回路を用いて効率的に問題を解くことができる。また、量子回路システム100は、与えられた問題に応じて、古典計算機を用いるか、量子アニーリングマシンを用いるか、汎用のゲート型量子計算機を用いるかを選択することができ、効率的に問題を解くことができる。
【0047】
図6は、第1実施形態に係る量子回路システム100によるエラー訂正を模式的に示す図である。制御装置10の制御部は、第2回路22による演算を行う場合に、第1回路21によりエラー検出を行い、エラーが検出された箇所に対応する第2回路22の量子状態をエラー訂正するように制御する。
【0048】
図6に示すように、宇宙線が冷凍機20を透過して第1回路21及び第2回路22を通過すると、通過経路に位置する量子ビットの量子状態が破壊又は擾乱されることがある。そこで、制御装置10の制御部は、第2回路22による演算を行う場合に、第1回路21の複数の量子ビットの量子状態を所定の状態に揃えておき、定期的にその量子状態が変化していないか観測する。第1回路21の複数の量子ビットいずれかの量子状態が変化した場合、第1回路21においてエラーが生じた位置とタイミングに基づいて、第2回路22の量子ビットについてエラー訂正処理を行う。このようにして、適切なエラー訂正を行い、第2回路22の演算におけるエラー率を低下させることができる。なお、量子アニーリングを用いる第1回路21の量子ビットの密度(単位面積あたりの量子ビット数)は、量子ゲート型の第2回路22の量子ビットの密度より高い場合が多く、第1回路21においてエラーが生じた位置は、比較的正確に特定することができる。
【0049】
図7は、第1実施形態の変形例に係る第1回路21の回路図である。変形例に係る第1回路21は、量子ビット(Qubit)を構成する回路と、QFP(Quantum Flux Parametron)と、読出回路に相当するReadout SQUID(Superconducting Quantum Interference Device)とを含む。なお、本変形例は例示であり、第1回路21は他の構成を有してもよい。
【0050】
[第2実施形態]
図8は、本発明の第2実施形態に係る冷凍機20の構成を示す図である。本実施形態に係る冷凍機20には、第1回路21a及び第2回路22aが設置される。冷凍機20の第1ステージ24には、第1温度が第1回路21aを構成する超伝導材料の超伝導転移温度以下である場合に、超伝導状態で量子アニーリング又は古典的アニーリングを用いた演算を行う第1回路21aが設置される。また、冷凍機20の第2ステージ26には、第2温度が第2回路22aを構成する超伝導材料の超伝導転移温度以下である場合に、超伝導状態で量子アニーリング又は古典的アニーリングを用いた演算を行う第2回路22aが設置される。すなわち、本実施形態に係る冷凍機20の第2ステージ26には、量子ゲートを組み合わせて量子計算を行う量子回路ではなく、量子アニーリングを用いた演算を行う第2回路22aが設置される。
【0051】
本実施形態に係る量子回路システム100によれば、単一の冷凍機が有する異なるステージに2つの量子アニーリング回路を設置することで、2つの量子アニーリング回路を動作させるコストを低減することができる。
【0052】
[第3実施形態]
図9は、本発明の第3実施形態に係る冷凍機20の構成を示す図である。本実施形態に係る冷凍機20には、第1回路21b及び第2回路22bが設置される。冷凍機20の第1ステージ24には、量子ゲートを組み合わせて量子計算を行う第1回路21bが設置される。また、冷凍機20の第2ステージ26には、量子ゲートを組み合わせて量子計算を行う第2回路22bが設置される。すなわち、本実施形態に係る冷凍機20の第1ステージ24には、量子アニーリングを用いた演算を行う量子回路ではなく、量子ゲートを組み合わせて量子計算を行う第2回路22bが設置される。
【0053】
本実施形態に係る量子回路システム100によれば、単一の冷凍機が有する異なるステージに2つの量子ゲート型量子回路を設置することで、2つの量子ゲート型量子回路を動作させるコストを低減することができる。
【0054】
[第4実施形態]
図10は、本発明の第4実施形態に係る冷凍機20の構成を示す図である。本実施形態に係る冷凍機20には、第1回路21及び第2回路22が設置される。ここで、第1回路21は、量子アニーリング回路であってもよいし、量子ゲート型量子回路であってもよい。また、第2回路22は、量子アニーリング回路であってもよいし、量子ゲート型量子回路であってもよい。本実施形態の冷凍機20の第1ステージ24には、第2回路22を制御する制御パルスを出力するパルス源29が設置される。第1ステージ24に量子アニーリング回路を置くと共に、パルス源を設置する場合、アニーリング回路とパルス源はそれぞれ異なるチップで形成してもよい。一方で、量子アニーリング回路とパルス源は、同一のプロセスで作製することができるため、同一チップに形成することもできる。この場合、チップ内の実装面積を有効に活用することができる。また、パルス源と量子アニーリング回路をプロセスで形成した線路でつなぐことができるため、異なるチップで形成した時に生じるような接続による損失を防ぐことができる。パルス源からの制御パルスは第2回路22の駆動に用いることもできる。
【0055】
本実施形態に係る量子回路システム100によれば、パルス源29を第1ステージ24に設置することで、制御パルスのノイズを低減し、第2回路22の演算におけるエラー率をより低減させることができる。なお、パルス源29は、中間ステージ25に設置してもよい。また、第1回路21を中間ステージ25に設置し、パルス源29を第1ステージ24に設置してもよい。
【0056】
[第5実施形態]
図11は、本発明の第5実施形態に係る量子回路システム100の構成を示す図である。量子回路システム100は、ユーザ端末40を含む点で第1実施形態に係る量子回路システム100と相違する。その他の点について、第5実施形態に係る量子回路システム100は、第1実施形態に係る量子回路システム100と同様の構成を有する。
【0057】
本実施形態において、制御装置10及びユーザ端末40は、インターネット、ローカルネットワーク又は有線ケーブル等の通信ネットワークNを介して互いに通信可能に接続される。量子回路システム100のユーザは、汎用の古典コンピュータで構成されるユーザ端末40を用いて制御装置10にデータを入力したり、第1回路21、第2回路22、FPGA31及びASIC32によって行われた古典計算又は量子計算の結果を、制御装置10を介して取得したりする。
【0058】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、異なる実施形態で示した構成同士を部分的に置換し又は組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0059】
10…制御装置、10a…CPU、10b…RAM、10c…ROM、10d…通信部、10e…入力部、10f…表示部、10g…コントローラ、10h…インターフェース、20…冷凍機、21,21a,21b…第1回路、22,22a,22b…第2回路、23…同軸ケーブル、23a…フィルタ、23b…アンプ、23c…サーキュレータ、24…第1ステージ、25…中間ステージ、26…第2ステージ、27…磁気シールド、28…磁気シールド、29…パルス源、31…FPGA、32…ASIC、40…ユーザ端末、100…量子回路システム
【国際調査報告】