(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-500008(P2015-500008A)
(43)【公表日】2015年1月5日
(54)【発明の名称】HEC1活性のモジュレーターに応答性の癌のバイオマーカー
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/68 20060101AFI20141202BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20141202BHJP
A61K 31/4439 20060101ALI20141202BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20141202BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20141202BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20141202BHJP
A61K 31/497 20060101ALI20141202BHJP
A61K 31/337 20060101ALI20141202BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20141202BHJP
A61K 31/4745 20060101ALI20141202BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20141202BHJP
【FI】
C12Q1/68 AZNA
C12Q1/68 Z
G01N33/574 A
A61K31/4439
A61K45/00
A61P35/00
A61P43/00 111
A61K31/497
A61K31/337
A61K31/704
A61K31/4745
A61P43/00 121
C12N15/00 A
【審査請求】有
【予備審査請求】有
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2014-543524(P2014-543524)
(86)(22)【出願日】2012年11月19日
(85)【翻訳文提出日】2014年7月17日
(86)【国際出願番号】US2012065923
(87)【国際公開番号】WO2013078145
(87)【国際公開日】20130530
(31)【優先権主張番号】61/562,177
(32)【優先日】2011年11月21日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC
(71)【出願人】
【識別番号】514127459
【氏名又は名称】タイヴェックス・セラピューティクス・コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】TAIVEX THERAPEUTICS CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】ファン,ユ‐リン
(72)【発明者】
【氏名】ラウ,ジョンソン
【テーマコード(参考)】
4B024
4B063
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4B024AA01
4B024CA09
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4B024HA12
4B024HA14
4B024HA15
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4C086GA08
4C086GA10
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4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZC20
4C086ZC75
(57)【要約】
Hec1阻害剤を用いた新生物性疾患の治療に関連するバイオマーカーおよび方法のために企図された組成物および方法に関する。Hec1(HEC)、Rb(RB1)および/またはp53(TP53)の遺伝子状態および/または発現レベルは、Hec1阻害剤を用いた治療に対する感受性のバイオマーカーとして有用な可能性がある。さらに、Hec1阻害剤は、細胞毒性剤と併用された場合に相乗作用を示すことができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
新生物細胞のHec1阻害剤に対する感受性を決定する方法であって、
患者から1の新生物細胞または複数の新生物細胞を含むサンプルを得る工程、
Hec1、Rbおよびp53の内の少なくとも1つの検出可能な複合体を形成する工程であって、ここで、前記Hec1、Rbおよびp53の内の少なくとも1つは前記サンプルに由来する工程、
試験結果を得るために前記Hec1、Rbおよびp53の内の少なくとも1つの発現レベルおよび状態の内の少なくとも1つを決定するために前記検出可能な複合体を使用する工程、および、
前記試験結果を、非新生物細胞の前記Hec1、Rbおよびp53の内の少なくとも1つの発現レベルおよび状態の内の少なくとも1つを含む前記非新生物細胞の参照結果と比較し、それにより前記Hec1阻害剤に対する前記新生物細胞の感受性を予測する工程、を含む方法。
【請求項2】
Hec1阻害剤を用いた潜在的治療のために新生物性疾患を有する患者を評価する方法であって、
1の新生物細胞または複数の新生物細胞を含む患者サンプルを入手する工程、
Hec1、Rbおよびp53の内の少なくとも1つの検出可能な複合体を形成する工程、
試験結果を得るために前記Hec1、Rbおよびp53の内の少なくとも1つの発現レベルおよび状態の内の少なくとも1つを決定するために前記検出可能な複合体を使用する工程、
前記試験結果を、非新生物参照細胞の前記Hec1、Rbおよびp53の内の少なくとも1つの発現レベルおよび状態の内の少なくとも1つを含む前記参照結果と比較し、それにより前記Hec1阻害剤に対する前記新生物細胞の感受性を予測する工程、および
前記患者を、Hec1阻害剤を用いた治療を受ける治療群に含める工程、を含む方法。
【請求項3】
前記決定する工程は、Hec1の発現レベルを決定する工程を含む請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
対応する参照結果と比較して増加した発現レベルは、前記Hec1阻害剤に対する前記新生物細胞の感受性の指標である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記決定する工程は、Rbおよびp53の内の少なくとも1つの状態を決定する工程を含む請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
対応する参照結果と比較して前記Rbおよびp53の内の少なくとも1つの変異または欠失型は、前記Hec1阻害剤に対する前記新生物細胞の感受性の指標である請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
前記決定する工程は、Hec1、Rbおよびp53をコードする核酸の定量を含む請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
前記決定する工程は、Hec1、Rbおよびp53をコードする核酸のシークエンシングまたはハイブリダイゼーション、若しくは両方の組み合わせを含む請求項1または2に記載の方法。
【請求項9】
前記決定する工程は、Hec1タンパク質、Rbタンパク質およびp53タンパク質の定量を含む請求項1または2に記載の方法。
【請求項10】
Hec1阻害剤を用いた潜在的治療のために新生物性疾患を有する患者を評価する方法であって、
患者サンプルから前記新生物性疾患の分子タイプを決定する工程、
Hec1、Rbおよびp53の内の少なくとも1つの検出可能な複合体を形成する工程、
分子タイプについて前記Hec1、Rbおよびp53の内の少なくとも1つの発現レベルおよび状態の内の少なくとも1つを決定するために前記検出可能な複合体を使用する工程、
それにより評価結果を提供するために前記Hec1、Rbおよびp53の内の少なくとも1つの前記発現レベルおよび状態の内の少なくとも1つを使用する工程、そして、
ここで、対応する参照結果に比較したHec1の増加した発現レベルおよび/または対応する参照結果に比較したRbおよびp53の内の少なくとも1つの変異型または欠失型の存在は、Hec1阻害剤を用いた前記新生物性疾患の治療の適合性の予測である方法。
【請求項11】
前記新生物性疾患は、乳癌である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記新生物性疾患は、肺癌である請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記新生物性疾患は、結腸癌である請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記新生物性疾患は、肝臓癌である請求項10に記載の方法。
【請求項15】
Hec1阻害剤を用いた治療に感受性である新生物細胞を治療する方法であって、前記新生物細胞を、Hec1阻害剤および第2化学療法剤と前記新生物細胞の増殖阻害に関する相乗結果を達成するために有効な用量で接触させる工程を含み、前記Hec1阻害剤は、チアゾール−2−イル−イソニコチンアミド化合物である方法。
【請求項16】
前記Hec1阻害剤は、N−(4−(4−イソプロポキシ−2,6−ジメチルフェニル)チアゾール−2−イル)イソニコチンアミド(100951)、N−(4−(4−(4−メトキシフェノキシ)−2,6−ジメチルフェニル)チアゾール−2−イル)イソニコチンアミド(101001)、2−フルオロ−N−(4−(4−(4−メトキシフェノキシ)−2,6−ジメチルフェニル)チアゾール−2−イル)イソニコチンアミド(101015)、N−(4−(4−(5−(2−メトキシエトキシ)ピラジン−2−イルオキシ)−2,6−ジメチルフェニル)チアゾール−2−イル)イソニコチンアミド(Hec110091)、N−(4−(4−(5−(2−メトキシエトキシ)ピラジン−2−イルチオ)−2,6−ジメチルフェニル)チアゾール−2−イル)イソニコチンアミド(110095)、およびN−(4−(4−(5−(2−(ジメチルアミノ)エトキシ)ピラジン−2−イルチオ)−2,6−ジメチルフェニル)チアゾール−2−イル)イソニコチンアミドならびにそれらの塩の形態からなる群から選択される請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記第2化学療法剤は、タキソール、ドキソルビシンおよびトポテカンからなる群から選択される請求項16に記載の方法。
【請求項18】
多剤耐性またはイマニチブを用いた治療に耐性である新生物細胞を治療する方法であって、前記新生物細胞をHec1阻害剤および任意に第2化学療法剤に、前記新生物細胞の増殖阻害を達成するために有効な用量で接触させる工程を含む方法。
【請求項19】
前記Hec1阻害剤は、N−(4−(4−イソプロポキシ−2,6−ジメチルフェニル)チアゾール−2−イル)イソニコチンアミド(Hec100951)、N−(4−(4−(4−メトキシフェノキシ)−2,6−ジメチルフェニル)チアゾール−2−イル)イソニコチンアミド(Hec101001)、2−フルオロ−N−(4−(4−(4−メトキシフェノキシ)−2,6−ジメチルフェニル)チアゾール−2−イル)イソニコチンアミド(Hec101015)、N−(4−(4−(5−(2−メトキシエトキシ)ピラジン−2−イルオキシ)−2,6−ジメチルフェニル)チアゾール−2−イル)イソニコチンアミド(Hec110091)、N−(4−(4−(5−(2−メトキシエトキシ)ピラジン−2−イルチオ)−2,6−ジメチルフェニル)チアゾール−2−イル)イソニコチンアミド(Hec110095)、およびN−(4−(4−(5−(2−(ジメチルアミノ)エトキシ)ピラジン−2−イルチオ)−2,6−ジメチルフェニル)チアゾール−2−イル)イソニコチンアミド並びに塩の形態からなる群から選択される請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2011年11月21日に出願された同時係属の米国仮特許出願第61/562,177号明細書に対する優先権を主張するものである。
【0002】
技術分野
本発明の分野は、分子標的治療薬、および特に細胞毒性剤と組み合わせたHEC1阻害剤に対する増殖性疾患の感受性を決定するためのバイオマーカーの同定および使用である。
【背景技術】
【0003】
合衆国内では、2012年に160万例を超える新規の癌診断および約58万例の癌を原因とする死亡が発生すると予想されている。癌は現在、米国内の死亡の主要原因である心疾患に続いて2番目に多い一般的死因である。過去10年間、様々な新規の癌療法が開発されてきたが、1999年〜2006年に診断された全ての癌についての5年間相対生存率は68%であり、肺癌の推定死亡率は男女各々28%および26%であり、女性における乳癌の推定死亡率は15%および前立腺癌の推定死亡率は11%である。そのような統計結果は、利用できる治療におけるさらなる前進の必要性が極めて高いことを反映している。
【0004】
オーダーメイド医療は、現代医療の試行錯誤の過程に革命的変化を起こし、患者の薬剤に対する応答をより効果的に予測するため、そして疾患の進行を容認する効果のない治療に費やされる時間を減少させるためにバイオマーカプロファイルを利用することによって患者の応答率を向上させてきた。少なくとも所定の場合には、そのようなアプローチは、治療の成功率を上げるために患者の治療レジメンのカスタマイズにおけるバイオマーカーの使用の潜在的利点を際立たせ、より標的化された、したがってより効率的な治療を可能にしてきた。
【0005】
例えば、米臨床腫瘍学会の第47回年次会議(2011年6月)では、MD Anderson Cancer CenterのTsimberidouらが1つの遺伝子異常を備える患者175例におけるPIK3CA、mTOR、BRAF、MEK、多標的キナーゼ、KITもしくはEGFRを標的とする治療レジメンで成功した研究を発表した。この試験は、適合した標的化療法を用いた場合の応答率が、適合しない療法を用いて治療された患者の応答率5%に比して27%であることを示した。オーダーメイド医療において使用するために治療転帰における改善の少なくとも一部の成功をもたらすその他のマーカは、Duffy and Crownによって報告された(非特許文献1(Clinical Chemistry, 2008, 54(11):1770−1779))。本明細書で考察するこれやその他全ての資料は、開示内容全体が参考として本明細書で援用される。援用される参考文献における用語の定義もしくは使用が本明細書に提供したその用語の定義と矛盾する場合、または反対である場合、本明細書に提供したその用語の定義が適用され、参考文献内のその用語の定義は適用されない。
【0006】
不完全な染色体分離および無制御の有糸分裂増殖は、新生物性疾患の顕著な特徴である。しかし、利用可能な癌マーカーは増加しているにもかかわらず、紡錘体および動原体の調節もしくは有糸分裂チェックポイントの制御を標的とする薬剤に対する感受性を示すマーカーは依然として欠乏している。例えばHec1は、癌において高度に発現し、細胞分裂中の正確な染色体分離を保証する紡錘体チェックポイントシグナル伝達における極めて重要な成分である。近年、数種の強力であり得るHec1阻害剤が報告されている(例えば、特許文献1(Lau and Huangの国際公開第2011/115998号パンフレット)、非特許文献2(Qiu et al. in J, Med. Chem., 2009, 52(6):1757−1767)、非特許文献3(Wu et al. in Cancer Res., 2008 Oct 15, 68(20):8393−9)を参照)。少なくとも一部の化合物は前途有望な結果を証明してきたが、そのような化合物を用いた治療成功の増加を示すであろういずれかのバイオマーカーに関する指針は存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2011/115998号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】非特許文献1:Clinical Chemistry, 2008, 54(11):1770−1779
【非特許文献2】Qiu et al. in J, Med. Chem., 2009, 52(6):1757−1767
【非特許文献3】Wu et al. in Cancer Res., 2008 Oct 15, 68(20):8393−9
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、Hec1活性のモジュレーターに応答性の癌のバイオマーカーが依然必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明の概要
本発明の主題は、新生物性疾患の治療に関連するバイオマーカーおよび方法に関し、前記疾患は、Hec1阻害剤を用いて治療される。より詳細には、本発明者らは今では、様々な疾患状態を治療するための予測バイオマーカーとしてHec1(HEC)、Rb(RB1)および/またはp53(TP53)の状態および/または発現レベルを使用できることを見いだしているが、ここで、前記疾患はHec1阻害剤を用いて治療され、前記状態は野生型対変異型の遺伝子型および/または欠損性および/または不在性遺伝子発現に関する。
【0011】
このため、本発明の主題の一実施形態では、バイオマーカープロファイルの同定は、増殖性疾患、例えば癌のHec1阻害剤またはさもなければHec1を標的とする化合物に対する感受性を決定するために使用される。このため、被験者における増殖性疾患および/または新生物性細胞のHec1阻害剤を用いた治療に対する感受性を決定する方法であって、前記被験者由来のサンプル中でのHec1(HEC)、Rb(RB1)およびp53(TP53)の内の1つ以上の状態および/または発現レベルを決定する工程を含む方法が企図されている。そのような決定は、試験結果を提供する検出可能な複合体を形成する工程を含むことができる。一部の実施形態では、前記試験結果は、Hec1(HEC)、Rb(RB1)およびp53(TP53)の内の1つ以上の状態および/または発現レベルに関連する参照結果と比較することができる。
【0012】
本発明の概念のまた別の実施形態では、Hec1阻害剤を用いた治療のために増殖性もしくは新生物性疾患に罹患している被験者を選択する、および/または患者を評価する方法であって、前記被験者由来のサンプル中でのHec1(HEC)、Rb(RB1)およびp53(TP53)の内の1つ以上の状態および/または発現レベルを決定する工程を含む方法が企図されている。そのような決定は、検出可能な複合体を形成する工程を含むことができ、試験結果を提供できる。一部の実施形態では、前記試験結果は、感受性を決定するために、参照細胞から得られたHec1(HEC)、Rb(RB1)およびp53(TP53)の内の1つ以上の状態および/または発現レベルに関連する参照結果と比較することができる。そのような感受性を使用して、評価もしくは選択結果を提供できる。
【0013】
本発明の概念の一部の実施形態では、Hec1の発現レベルを決定できる。そのような実施形態では、発現レベルの増加は、Hec1阻害剤に対する新生物性もしくは増殖性細胞の感受性を示すことがある。本発明の概念の他の実施形態では、Rbおよびp53の内の少なくとも1つの状態を決定できる。そのような実施形態では、Rbおよび/またはp53の欠失、または変異Rbおよび/またはp53の存在がHec1阻害剤に対する新生物性もしくは増殖性細胞の感受性を示す場合がある。Hec1、Rbおよび/またはp53の状態および/または発現は、Hec1、Rbおよび/またはp53をコードする核酸の定量によって、Hec1、Rbおよび/またはp53をコードする核酸のシーケンシングによって、Hec1、Rbおよび/またはp53をコードする核酸のハイブリダイゼーションによって、またはこれらの組み合わせによって特徴付けることができる。若しくは、Hec1、Rbおよび/またはp53の状態および/または発現は、Hec1タンパク質、Rbタンパク質およびp53タンパク質の定量および/または配列特性解析によって特徴付けることができる。本発明の概念の一部の実施形態では、Hec1、Rbおよび/またはp53に関連する核酸およびタンパク質の両方を特徴付けることができる。
【0014】
本発明の主題のさらにまた別の実施形態では、新生物性疾患に罹患している患者をHec1阻害剤で治療するための方法であって、前記被験者に由来するサンプルから前記新生物性疾患の分子タイプを決定する工程、および前記分子タイプについてHec1、Rbおよびp53の内の少なくとも1つの発現レベルを決定する工程を含む方法が企図されている。そのような決定は、検出可能な複合体を形成する工程を含むことができ、評価結果を提供できる。そのような実施形態では、対応する参照値もしくは結果に比較したHec1発現レベルの増加および/または、Rbおよび/またはp53の欠失もしくは変異型の存在を、患者の新生物性疾患のHec1阻害剤との適合性の指標とすることができる。そのような実施形態の新生物性疾患には、乳癌、肺癌、結腸癌および肝臓癌が含まれるがそれらに限定されない。
【0015】
本発明の主題のまた別の実施形態は、Hec1阻害剤に感受性である新生物細胞を治療するための方法であって、前記新生物細胞をHec1阻害剤および第2化学療法剤/細胞毒性剤と接触させる工程による方法である。そのような方法は、そのような新生物細胞の増殖阻害への相乗作用的結果を達成するのに有効な用量を利用することができる。適切なHec1阻害剤には、N−(4−(4−イソプロポキシ−2,6−ジメチルフェニル)チアゾール−2−イル)イソニコチンアミド(100951)、N−(4−(4−(4−メトキシフェノキシ)−2,6−ジメチルフェニル)チアゾール−2−イル)イソニコチンアミド(101001)、2−フルオロ−N−(4−(4−(4−メトキシフェノキシ)−2,6−ジメチルフェニル)チアゾール−2−イル)イソニコチンアミド(101015)、N−(4−(4−(5−(2−メトキシエトキシ)ピラジン−2−イルオキシ)−2,6−ジメチルフェニル)チアゾール−2−イル)イソニコチンアミド(Hec110091)、N−(4−(4−(5−(2−メトキシエトキシ)ピラジン−2−イルチオ)−2,6−ジメチルフェニル)チアゾール−2−イル)イソニコチンアミド(110095)、およびN−(4−(4−(5−(2−(ジメチルアミノ)エトキシ)ピラジン−2−イルチオ)−2,6−ジメチルフェニル)チアゾール−2−イル)イソニコチンアミドが含まれるがそれらに限定されない。そのようなHec1阻害剤は、遊離塩基の形態または塩の形態にあってよい。そのような実施形態は、細胞毒性剤および/または化学療法剤、例えばタキソール、ドキソルビシンおよびトポテカンを利用でき、任意の適切な細胞毒性剤および/または化学療法剤の使用が企図されている。
【0016】
本発明の主題のさらにまた別の実施形態は、多剤耐性(もしくはイマニチブ治療に対する耐性)である新生物細胞を治療するための方法であって、前記新生物細胞をHec1阻害剤と増殖阻害を達成するために有効な用量で接触させる工程による方法である。本発明の概念の一部の実施形態では、Hec1阻害剤は、第2化学療法剤または細胞毒性剤と組み合わせて使用できる。適切なHec1阻害剤には、N−(4−(4−イソプロポキシ−2,6−ジメチルフェニル)チアゾール−2−イル)イソニコチンアミド(100951)、N−(4−(4−(4−メトキシフェノキシ)−2,6−ジメチルフェニル)チアゾール−2−イル)イソニコチンアミド(101001)、2−フルオロ−N−(4−(4−(4−メトキシフェノキシ)−2,6−ジメチルフェニル)チアゾール−2−イル)イソニコチンアミド(101015)、N−(4−(4−(5−(2−メトキシエトキシ)ピラジン−2−イルオキシ)−2,6−ジメチルフェニル)チアゾール−2−イル)イソニコチンアミド(Hec110091)、N−(4−(4−(5−(2−メトキシエトキシ)ピラジン−2−イルチオ)−2,6−ジメチルフェニル)チアゾール−2−イル)イソニコチンアミド(110095)、およびN−(4−(4−(5−(2−(ジメチルアミノ)エトキシ)ピラジン−2−イルチオ)−2,6−ジメチルフェニル)チアゾール−2−イル)イソニコチンアミドが含まれるがそれらに限定されない。そのようなHec1阻害剤は、遊離塩基の形態または塩の形態にあってよい。そのような実施形態は、細胞毒性剤および/または化学療法剤、例えばタキソール、ドキソルビシンおよびトポテカンを利用でき、任意の適切な細胞毒性剤および/または化学療法剤の使用が企図されている。
【0017】
本発明の主題の様々な目的、特徴、態様および利点は、その中で同様の数字が同様の成分を表す添付の図面とともに、好ましい実施形態についての下記の説明からより明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1A】Hec1阻害性化合物のGI50とHec1発現との関係を示す図である。
図1Aは、非同期的に維持した細胞系由来の全タンパク質中のHec1タンパク質の発現レベルを示している。Hec1タンパク質の発現レベルを定量し、HeLaの発現レベルと比較して%で表示し、Hec1阻害剤に対して高感受性(GI50<50nM)、中感受性(50nm<GI50<100nm)、低感受性(100nm<GI50<1μM)または耐性(GI50>10μM)であると分類した。
【
図1B】Hec1阻害性化合物のGI50とHec1発現との関係を示す図である。
図1Bは、全RNA中のHec1 RNA発現レベルを示している。Hec1 RNA発現を定量し、HeLaの発現レベルに比較して%で表示し、相関のためにタンパク質発現と対照してグラフ表示した。
【
図1C】Hec1阻害性化合物のGI50とHec1発現との関係を示す図である。
図1Cは、様々なHec1阻害剤に対する応答において感受性(GI50<300μM)もしくは耐性(GI50>300μM)であると分類した癌細胞系におけるHec1タンパク質の発現についての集積データを示している。
【
図1D】Hec1阻害性化合物のGI50とHec1発現との関係を示す図である。
図1D−1および
図1D−2は、Hec1タンパク質の発現レベルに対してプロットした4種のHec1化合物アナログ(100951、101001、101015および110095)を利用した細胞系スクリーニングアッセイから収集したGI50のlog10を示している。有意性は、両側T検定で決定した(試験した全薬剤についてのP値は、4.3×10
−17であった)。
【
図1E】Hec1阻害性化合物のGI50とHec1発現との関係を示す図である。
図1Eは、全RNAに比したHec1 RNA発現レベル(%)と全タンパク質に比したHec1タンパク質の発現レベル(%)との相関を示している。
【
図2A】様々な癌細胞系ならびにヒト患者サンプル由来の肺癌および乳癌のサブタイプにおけるHec1発現を示す図である。
図2Aおよび
図2Bは、発現強度の対数として表示したヒト肺癌腫瘍についてのGEOデータベースGSE8894およびGSE14814各々から入手したHec1(NDC80)発現データを示している。結果は、扁平上皮細胞癌における高度のHec1発現を示している。
【
図2B】様々な癌細胞系ならびにヒト患者サンプル由来の肺癌および乳癌のサブタイプにおけるHec1発現を示す図である。
図2Aおよび
図2Bは、発現強度の対数として表示したヒト肺癌腫瘍についてのGEOデータベースGSE8894およびGSE14814各々から入手したHec1(NDC80)発現データを示している。結果は、扁平上皮細胞癌における高度のHec1発現を示している。
【
図2C】様々な癌細胞系ならびにヒト患者サンプル由来の肺癌および乳癌のサブタイプにおけるHec1発現を示す図である。
図2Cは、発現強度の対数として表示した乳癌腫瘍サンプルについてのGEOデータベースGSE20685から得られたHec1(NDC80)発現データを示している。結果は、I型における高度のHec1発現を示している。
【
図3A】RbのsiRNAノックダウンがHec1阻害性化合物に対する癌細胞感受性に及ぼす作用を示している。
図3Aは、コントロールsiRNAもしくはsiRNA標的化Rb(siRb)のいずれかを用いてトランスフェクトした野生型Rb MDA−MB−231細胞のトランスフェクションによるノックダウンがHec1阻害性化合物101001に対する(GI50に関する)感受性に及ぼす作用を示している。トランスフェクト細胞におけるRb RNA発現も示されている。
【
図3B】RbのsiRNAノックダウンがHec1阻害性化合物に対する癌細胞感受性に及ぼす作用を示している。
図3Bは、非薬剤処理細胞に比較した増殖阻害率として表示した、Rbに向けた2つのSiRNAの1つを用いてトランスフェクトし、
図3Aにおけるように処理した野生型Rb(231、MDA−MB−231、K562、ZR−75−1、T47D、A549、HCT116)または変異Rb(HeLa)を備える選択された細胞系の細胞感受性を示している。Rbに対して試験したトランスフェクト細胞由来の細胞溶解物の免疫ブロットは、対応する阻害グラフの下方に示した。
【
図4A】p53のsiRNAノックダウンがHec1阻害性化合物に対する癌細胞感受性に及ぼす作用を示している。
図4Aは、コントロールsiRNAもしくはsiRNA標的化p53(sip53)のいずれかを用いてトランスフェクトした野生型p53細胞(A549、HCT116)のトランスフェクションによるノックダウンがHec1阻害性化合物101001に対する(GI50に関する)感受性に及ぼす作用を示している。細胞感受性は、GI50(nM)で表示した。トランスフェクト細胞由来のp53 RNAの発現も示した。
【
図4B】p53のsiRNAノックダウンがHec1阻害性化合物に対する癌細胞感受性に及ぼす作用を示している。
図4Bは、非薬剤処理細胞に比較した増殖阻害率として表示した、p53に向けた2つの相違するSiRNAの1つを用いてトランスフェクトし、
図4Aにおけるように処理した野生型p53(A549、HCT116、ZR−75−1、U2OS)もしくは変異変異p53(HeLa)を備える選択された細胞系の細胞感受性を示している。p53に対して試験したトランスフェクト細胞由来の細胞溶解物の免疫ブロットは、対応する阻害グラフの下方に示した。
【
図5A】薬剤応答性細胞(GI50<10μM)および非薬剤応答性細胞(GI50>10μM)の間のHec1阻害剤によるp73のリン酸化の誘導、アポトーシスマーカーの活性化および抗アポトーシスマーカーのダウンレギュレーションにおける差を示す図である。コントロールとしてアクチンも示した。
図5Aは、Hec1阻害性化合物(200nM)が様々な時点に選択したHec1阻害性化合物を200nM用いて処理した薬剤応答性HeLa細胞および非薬剤応答性A549細胞におけるリン酸化p73(P−p73)発現に及ぼす作用を示している免疫ブロットを示す図である。
【
図5B】薬剤応答性細胞(GI50<10μM)および非薬剤応答性細胞(GI50>10μM)の間のHec1阻害剤によるp73のリン酸化の誘導、アポトーシスマーカーの活性化および抗アポトーシスマーカーのダウンレギュレーションにおける差を示す図である。コントロールとしてアクチンも示した。
図5Bは、Hec1阻害性化合物(1μM)が薬剤応答性HeLa細胞におけるアポトーシスマーカーであるカスパーゼ3、PARPおよび抗アポトーシスマーカーであるMcl−1、XIAP、Bcl−2の発現に及ぼす作用を示す免疫ブロットを示している。
【
図5C】薬剤応答性細胞(GI50<10μM)および非薬剤応答性細胞(GI50>10μM)の間のHec1阻害剤によるp73のリン酸化の誘導、アポトーシスマーカーの活性化および抗アポトーシスマーカーのダウンレギュレーションにおける差を示す図である。コントロールとしてアクチンも示した。
図5Cは、選択的Hec1阻害性化合物およびタキソールが非薬剤応答性A549細胞におけるアポトーシスマーカーであるカスパーゼ3、PARPおよび抗アポトーシスマーカーであるMcl−1、XIAP、Bcl−2の発現に及ぼす作用を示す免疫ブロットを示している。
【
図5D】薬剤応答性細胞(GI50<10μM)および非薬剤応答性細胞(GI50>10μM)の間のHec1阻害剤によるp73のリン酸化の誘導、アポトーシスマーカーの活性化および抗アポトーシスマーカーのダウンレギュレーションにおける差を示す図である。コントロールとしてアクチンも示した。
図5Dは、Hec1阻害性化合物101001が薬剤応答性HeLa細胞および非薬剤応答性A549細胞におけるアポトーシスマーカーであるカスパーゼ3、PARPおよび抗アポトーシスマーカーであるMcl−1、XIAP、Bcl−2の発現に及ぼす作用を示す免疫ブロットを示している。
【
図6A】薬剤応答性細胞(GI50<10μM)および非薬剤応答性細胞(GI50>10μM)におけるHec1阻害剤によるHec1およびNek2タンパク質発現の示差的細胞周期調節およびNek2タンパク質の示差的ダウンレギュレーションを示す図である。
図6Aは、様々な時点における同期化薬剤応答性細胞(HeLa、MDA−MB−468、HCT116)および非薬剤応答性細胞(A549)由来のHec1およびNek2の免疫ブロットを示している。ローディングコントロールとしてアクチンを含めた。
【
図6B】薬剤応答性細胞(GI50<10μM)および非薬剤応答性細胞(GI50>10μM)におけるHec1阻害剤によるHec1およびNek2タンパク質発現の示差的細胞周期調節およびNek2タンパク質の示差的ダウンレギュレーションを示す図である。
図6Bは、DMSOコントロールおよび様々な濃度でHec1阻害性化合物を用いて処理した薬剤応答性細胞(HeLa、HCT116)および非薬剤応答性細胞(A549)由来のNek2の免疫ブロットを示している。
【
図6C】薬剤応答性細胞(GI50<10μM)および非薬剤応答性細胞(GI50>10μM)におけるHec1阻害剤によるHec1およびNek2タンパク質発現の示差的細胞周期調節およびNek2タンパク質の示差的ダウンレギュレーションを示す図である。
図6Cは、様々な期間にわたってDMSOコントロールまたはHec1阻害性化合物のいずれかを用いて処理したHeLa細胞についてのサイクリンB1およびサイクリンD1の免疫ブロットを示している。ローディングコントロールとしてアクチンを含めた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図面に規定した実施形態は例示的なものであり、特許請求の範囲によって規定される本発明を限定することは企図されていない。さらに、図面および本発明の個々の特徴は、下記の詳細な説明に照らせばより明白になる。
【0020】
詳細な説明
Hec1/Nek2経路を選択的および/または特異的に標的とすることができる低分子に関する最近の発見に基づいて、本発明者らは、ヒトの様々な癌において過剰発現する動原体成分であるHec1を標的とする様々な改良されたHec1阻害剤を開発してきた。これらの化合物に導かれて、本発明者らは、癌細胞におけるHec1阻害剤薬剤感受性においてHec1、Rbおよびp53が果たす役割を調査した。
【0021】
細胞は規則正しい細胞周期調節に依存して、有糸分裂の最初から終わりまで適正に機能する。癌細胞において観察される無秩序な有糸分裂過程は、例えば異常紡錘体形成および染色体分離などの過程を含んでいる。Hec1は、急速に分裂する細胞内で最も豊富に発現するが、最終的に分化した細胞内では発現しない。Hec1は、脳腫瘍、肝臓癌、乳癌および肺腫瘍細胞内ではゲノム規模のプロファイルでアップレギュレートされ、子宮頸癌、結腸直腸癌、乳癌および肺癌細胞系ならびに結腸直腸癌および胃癌組織内では過剰発現することが証明されている。そこで急速に分化した細胞、形質転換細胞系および癌性組織内でのHec1の示差的発現は、Hec1がヒトの癌の標的化療法における優れた候補薬である可能性を示唆している。同様に、癌療法の標的としてのHec1の可能性は、Hec1発現とIC50とを相関付ける統計的分析によって支持することができる。
【0022】
Hec1は、細胞周期のG2−M期において重要な役割を果たす網膜芽細胞腫遺伝子(Rb)と関連している。より詳細には、G2−M期には、Rbは動原体機能に不可欠であることが証明されたタンパク質であるタンパク質ホスファターゼ1αと相互作用する。細胞周期のG1−S期におけるRbのリン酸化は、G2−M期におけるサイクリンの誘導および分解により調整される。Rbはさらに、染色体分離を直接的に調節し、G2−M期にHec1と相互作用する。機能的Rbが欠乏する細胞は、有糸分裂を適正に完了することができず、そのような細胞の有糸分裂は高倍数性を生じさせる。これらの関係は、RbがHec1と関係する有糸分裂段階において役割を有する可能性があることを示唆している。
【0023】
P53は、DNA、RNA、タンパク質および細胞代謝産物との特異的で複雑な相互作用に関係する様々な構造ドメインを含む多機能タンパク質である。p53遺伝子は、癌においては変異することが多く、主としてミスセンス変異を伴い、結果として単一アミノ酸残基置換を生じさせる。そのような変異p53タンパク質は、様々な構造グループに分類されている。例えば、DNA結合ドメイン内で発生する「ホットスポット」変異を備えるp53タンパク質は、DNA接触変異体もしくは立体配座変異体であると特徴付けることができる。変異p53は、腫瘍進行(進行性および遠隔性転移を含む)を通して高度に発現することが多いが、これは機能獲得(GOF)特性を有する可能性を暗示している。そのようなGOF特性により、変異p53が野生型p53と相互作用するクロマチン部位とは異なるクロマチン上の部位と、例えば多剤耐性1遺伝子もしくはカスパーゼ3などの遺伝子を各々アップレギュレートもしくは抑制できる様々な転写因子との相互作用が可能となる。野生型p53の不活性化は、シスプラチン、カルボプラチンおよびタキソールを含む複数の化学療法剤に対する感受性を強化することも証明されている。
【0024】
上記の考察および他の要素に基づいて、本発明者らは、現在、Hec1阻害剤に対する細胞の感受性をHec1(HEC)、Rb(RB1)および/またはp53(TP53)の状態および/または発現レベルによって正確に確実に予測できることを見いだした。これにより有益にも、Hec1阻害剤療法で効果のある癌患者の早期の同定が可能であり、ひいてはまだ初期段階にある間に前記患者らの疾患のより効果的な治療を導くことができる。
【0025】
より詳細には、本発明者らは、Hec1発現レベルがHec1阻害剤を用いた治療に対する新生物細胞の感受性と正に相関すること、およびRbおよび/またはp53の欠失、異常調節または機能不全もHec1阻害剤を用いた治療に対する新生物細胞の感受性と正に相関することを見いだした。このため、当然のことながら、そのような相関が新生物細胞および組織に対するHec1阻害剤を用いた治療の成功だけではなく、所定の癌のタイプがHec1阻害剤を用いた治療に対して優先的感受性である、または耐性であるとの予測を可能にする。
【0026】
例えば、以下でより詳細に示すように、Hec1の相当に高発現を備える所定の新生物細胞系および新生物細胞(例えば、Hep3B/肝細胞癌、HeLa/子宮頸癌、T47D/転移性、胸膜性、浸潤性、腺管癌)は、Hec1阻害剤を用いた治療に対して高度に感受性であるが、実質的にHec1発現が低い、または全く示さない他の細胞系(例えば、MOLT−4/急性リンパ芽球性白血病、N87/胃癌)は、Hec1阻害剤を用いた治療に対して有意に低感受性(または耐性)である可能性がある。
【0027】
そのような示差的感受性は、癌の単一のタイプもしくはカテゴリーの分類および/または治療においても有用であり得る。例えば、乳癌の分子サブタイプは、I〜VI型に分類されるが、IおよびIV型だけが有意なレベルのHec1発現を示すので、Hec1阻害剤治療に感受性である可能性が高い。同様に、患者における癌の特定のタイプもしくはカテゴリーの同定は、Hec1阻害剤に対する可能性の高い感受性を示すことができ、治療を最適化するために利用できる。
【0028】
そこで、本発明の概念の一実施形態は、増殖性疾患に罹患している被験者をHec1阻害剤を用いた(場合により細胞毒性剤を併用して)治療のために選択する方法であって、そのような選択はHec1発現および/または状態の事前の決定に基づく方法である。本発明の主題の1つの特に好ましい態様では、Hec1の発現および/または状態は、野生型Hec1(HEC)遺伝子の発現レベルの定量、変異Hec1(HEC)遺伝子の存在、またはHec1(HEC)遺伝子の非存在、(健常コントロールに比較した)欠損または欠失の決定によって決定される。同様に当然のことながら、そのような定量は、被験者から得られたサンプル中のHec1の発現および/または翻訳後修飾のレベルの決定をさらに含んでよい。例えば、そのような決定は、被験者における野生型Hec1の発現レベルを決定する工程およびそれを健常コントロール被験者における野生型Hec1(HEC)遺伝子の発現レベルと比較する工程によって実施することができる。代替的に、または追加的に、コントロール被験者が特定の療法、最も典型的にはHec1阻害剤を用いた療法に応答性である腫瘍応答性または非応答性を表してもよい。コントロールが前記療法に応答性の腫瘍を表す場合、前記個人における前記コントロールに比較して高い野生型Hec1(HEC)遺伝子の発現は、前記療法に対する応答性が高いと予測できる。これとは反対に、コントロールが前記療法に耐性の腫瘍を表す場合、前記個人における前記コントロールに比較して低レベルのHec1の発現は、前記療法に対する耐性が高いと予測できる。
【0029】
本発明の主題のまた別の実施形態では(および特に、必ずではないが、コントロールに比較してHec1(HEC)発現レベルが高い被験者においては)、患者がHec1阻害剤を用いた治療のために選択される方法であって、前記患者がHec1阻害剤を用いた治療に適合する増殖性疾患に罹患しており、そのような患者の選択が(少なくとも一部には)Rb状態を特徴付ける、または決定することに依存する方法が企図されている。Rb状態は、前記被験者由来のサンプル中での野生型Rb(RB1)遺伝子の存在、変異Rb(RB1)遺伝子の存在、Rb(RB1)遺伝子の非存在、欠損もしくは欠失、および/またはRbの発現および/または翻訳後修飾のレベルを決定する工程によって特徴付けることができる。上述のように当然のことながら、Rbの発現の減少もしくは欠乏、またはRb(RB1)の異常調節および/または機能不全を有することは、Hec1阻害剤を用いた治療に対する新生物細胞の応答性の指標となる可能性がある。そこで、Hec1阻害剤を用いた治療の患者集団は、不十分な/変異した/欠失したRb(RB1)状態を示す患者に基づいて選択できる。
【0030】
同様に、およびさらに本発明の概念のまた別の実施形態では、(場合により細胞毒性剤を併用する)Hec1阻害剤を用いた治療のために増殖性疾患を罹患している被験者を選択する方法であって、前記被験者における増殖性疾患のHec1阻害剤を用いた治療に対する感受性を決定する工程であって、前記感受性がp53状態を特徴付ける、または決定することによって決定される工程を含む方法が企図されている。例えば、そのような方法は、前記被験者由来のサンプル中における野生型p53(TP53)遺伝子、変異p53(TP53)遺伝子の同定および/または定量、またはp53(TP53)遺伝子の非存在、欠損もしくは欠失および/またはp53の発現および/または翻訳後修飾のレベルによりp53状態を決定する工程を含むことができる。そこで、Hec1阻害剤を用いた治療の患者集団は、不十分な/変異した/欠失したp53(TP53)状態を示す患者に基づいて選択できる。
【0031】
当然のことながら、Hec1、Rbおよびp53遺伝子の状態および発現は、個別指標としての有用性を超えて、Hec1阻害剤を用いた治療の患者集団を選択するための基礎として組み合わせて使用できる。例えば、Hec1遺伝子型、Hec1発現、Rb遺伝子型、Rb発現、p53遺伝子型および/またはp53発現は、Hec1阻害性化合物に対する新生物性疾患もしくは細胞系の感受性の指標として個別に、または組み合わせて利用できる。
【0032】
当然のことながら、遺伝子および遺伝子産物、例えば、Hec1、Rbおよびp53に関連する遺伝子および遺伝子産物の検出、定量および/または特性解析は、遺伝子もしくは遺伝子産物の標識化もしくはタグ付けおよび/または検出可能複合体の形成を含むことができる。そのような標識化は、直接的もしくは間接的であってよい。例えば、遺伝子もしくは遺伝子産物(例えば、RNAもしくはタンパク質)は、例えば、検出可能複合体を形成すると特徴付け可能な前記遺伝子および遺伝子産物に検出可能成分を付着させることによってそれを検出可能にするようその組成を修飾することによって直接的に標識化できる。同様に、遺伝子もしくは遺伝子産物は、検出可能複合体を形成する検出可能成分を有する結合パートナー(例えば、相補的核酸配列、相補的核酸アナログ配列、アプタマーもしくは抗体)と相互作用させることによって間接的に標識化できる。または、遺伝子もしくは遺伝子産物(例えば、患者サンプル由来)は、検出可能成分を有する遺伝子アナログもしくは結合パートナー(例えば、相補的核酸配列、相補的核酸アナログ配列、アプタマーもしくは抗体)由来の検出可能成分を有する遺伝子産物アナログをディスプレイさせる、およびそれにより検出可能複合体の形成を調節する能力によって標識することができる。適切な検出可能成分には、蛍光分子、燐光分子、発光分子、酵素、金属、ビオチンおよび/またはビオチンアナログ、量子ドット、微粒子、放射性核種、核酸および/または核酸アナログ、同位体質量標識、スピン標識、正もしくは負の電荷またはこれらの組み合わせが含まれるがそれらに限定されない。
【0033】
なお、これに関連して、Hec1、Rbおよび/またはp53核酸およびタンパク質産物の遺伝子型の決定および定量の公知の方法は全て、本明細書で使用するのに適切であると見なされる。特に適切な方法には、DNAシーケンシング、コピー数の決定、ハプロタイプの決定、RNAシーケンシング、qPCR、RT−PCR、q−RT−PCR、デジタルPCR、サザンおよび/またはノーザンハイブリダイゼーション、FISH、マイクロアレイ分析、液相ハイブリダイゼーション/定量、アンペロメトリックおよび/または蛍光定量、免疫測定、および/または遺伝子および/または遺伝子産物を特徴付けるために適合する任意の方法が含まれる(がそれらに限定されない)。代替的に、または追加的に、細胞学的もしくは組織病理学的分析がHec1、Rbおよび/またはp53の特定状態の指標である場合、別個の定量的分析を完全に除くことができる。
【0034】
Hec1阻害剤を用いた治療に関して、全ての公知のHec1阻害剤が本明細書で使用するのに適合し、および好ましいHec1阻害剤には国際公開第2011/115998号パンフレットおよび同時係属の米国仮特許出願第64/564,773号明細書に記載されたHec1阻害剤が含まれる。このため、および特に他の企図された化合物のうち、特に好ましいHec1阻害剤には、N−(4−(4−イソプロポキシ−2,6−ジメチルフェニル)チアゾール−2−イル)イソニコチンアミド(100951)、N−(4−(4−(4−メトキシフェノキシ)−2,6−ジメチルフェニル)チアゾール−2−イル)イソニコチンアミド(101001)、2−フルオロ−N−(4−(4−(4−メトキシフェノキシ)−2,6−ジメチルフェニル)チアゾール−2−イル)イソニコチンアミド(101015)、N−(4−(4−(5−(2−メトキシエトキシ)ピラジン−2−イルオキシ)−2,6−ジメチルフェニル)チアゾール−2−イル)イソニコチンアミド(110091)、N−(4−(4−(5−(2−メトキシエトキシ)ピラジン−2−イルチオ)−2,6−ジメチルフェニル)チアゾール−2−イル)イソニコチンアミド(110095)、およびN−(4−(4−(5−(2−(ジメチルアミノ)エトキシ)ピラジン−2−イルチオ)−2,6−ジメチルフェニル)チアゾール−2−イル)イソニコチンアミド(110096)が含まれる。
【0035】
さらに、前記Hec1阻害剤は、1つ以上の細胞毒性剤と、例えば抗新生物性代謝産物、トポイソメラーゼIもしくはII阻害剤および/または微小管活性剤と共投与できると企図されている。そのような公知の作用物質は全て、本明細書で使用するのに適合すると見なされる。そのような作用物質の用量に関連して、そのような作用物質は、現在公知の用量で、またはそのような公知の用量よりいくらか低い用量で投与することができる。
【0036】
驚くべきことに、企図されたHec1阻害剤が1つ以上の細胞毒性剤と共投与された場合、以下でより詳細に記載するように、選択された化合物との相乗活性が観察される。極めて有益には、相乗性応答は、Hec1阻害剤とタキソール、ドキソルビシンおよびトポテカンとの併用で見られる。本発明の主題に限定しなくても、相乗作用は細胞および/または組織中において観察することができ、このとき前記細胞および/または組織は100nM以下の濃度でHec1阻害剤に対して感受性であることが企図されている(表9〜表11)。
【0037】
同等に注目すべき、企図されたHec1阻害剤は、薬剤耐性であると考えられる様々な細胞系に対して有意な活性も示すので、さもなければ難治性の細胞および組織を治療するための追加の論拠を提供する(表8)。さらに、本発明者らは、本明細書で企図されたHec1阻害剤が応答性細胞においては活性を示してアポトーシス応答を誘発し(GI50<1μM)、非応答性細胞においてはアポトーシス応答の誘導を誘発しない(GI50>1μM)ことも観察した(
図5)。
【実施例】
【0038】
材料および方法
細胞培養:
A549、MDA−MB231、K562、HCT116癌細胞系は、Dr. Y.S. Lee(Development Center for Biotechnology、台湾国新台北市)より提供された。T47D、ZR−75−1細胞系は、BCRC(Bioresource Collection and Research Center、台湾国)から入手した。細胞系は、最初は推奨された培地中で維持し、5%CO
2を含有する37℃の空気中で10%ウシ胎仔血清、低グルコース(1g/L)ダルベッコ変法イーグル(DME)培地を含有する培地中で維持するように適応させた。
【0039】
薬剤感受性:
細胞系は、10%のFBSとともに低グルコースDMEを含有する96ウエルプレート内に適切な播種数で播種した24時間後に、規定薬を用いた処理によって薬剤感受性についてスクリーニングした。この薬剤をプレートの3連ウエルで加え、細胞を薬剤処理培地中で96時間にわたりインキュベートし、その後細胞生存性をMTSアッセイによってCellTiter96(登録商標)水性非放射性細胞増殖アッセイシステム(Promega社、米国ウィスコンシン州53711、マディソン)を用いて決定した。MTSアッセイは、製造業者の取扱説明書にしたがって実施した。光学密度は、Bio−Tek340分光光度計(Bio−Tek社、バーモント州05404、ウィヌースキ)を用いて測定し、次に光学示度をExcel(Microsoft社、ワシントン州98052−7329、レドモンド)およびGraphPad Prism5線形回帰ソフトウエア(GraphPad Software社、カリフォルニア州92037、ラ・ホーヤ)で処理して濃度反応曲線を決定し、相対GI50を計算した。GI50値は、50%の増殖阻害を誘発する濃度を意味する。細胞上での試験薬の増殖阻害率(%)は、[1−(試験値)/(コントロール値)]×100で計算した。これらの数値を使用して濃度反応曲線をプロットし、次に線形回帰ソフトウエアを用いて分析した。
【0040】
相乗作用:
選択した薬剤についてのGI50を決定し、それを用いてHec1阻害剤を用いた相乗作用アッセイに使用するための濃度比を計算した。細胞は、10%のFBSとともに低グルコースDMEを含有する96ウエルプレート内に適切な播種数で播種した24時間後、薬剤を用いて処理した。Hec1阻害剤および選択薬をプレートに3連ウエルで、決定したGI50濃度比で加え、細胞を薬剤処理培地内で96時間にわたりインキュベートし、その後に細胞生存性を決定した。細胞生存性は、MTSアッセイによってCellTiter96(登録商標)水性非放射性細胞増殖アッセイシステム(Promega社、米国ウィスコンシン州53711、マディソン)を使用して製造業者の取扱説明書にしたがい実施した。光学密度は、Bio−Tek340分光光度計(Bio−Tek社、バーモント州05404、ウィヌースキ)を用いて測定し、次にExcel(Microsoft社、ワシントン州98052−7329、レドモンド)およびGraphPad Prism5線形回帰ソフトウエア(GraphPad Software社、カリフォルニア州92037、ラ・ホーヤ)で処理して濃度反応曲線を決定し、相対GI50を計算した。相乗作用は、式CI(組み合わせ指数)=(CA、X/ICx、A)+(CB、X/ICx、B)(式中、CA、XおよびCB、Xはx%の薬剤作用を達成するために組み合わせて使用された薬剤Aおよび薬剤Bの濃度である)を用いて組み合わせ指数値を計算し決定した。ICx、AおよびICx,Bは、単一作用物質が同一作用を達成するための濃度である。
【0041】
遺伝子サイレンシング:
細胞は適切な細胞数で96ウエルプレートのウエル内にプレーティングし、siPort NeoFxトランスフェクション法(Life Technologies社、カリフォルニア州92008、カールズバッド)によって製造業者の取扱説明書にしたがいトランスフェクトし、24時間維持し、薬剤を用いて処理した。細胞は48時間にわたり薬剤処理培地中でインキュベートし、MTSアッセイによって分析した。コントロールsiRNA(Life Technologies社、カリフォルニア州92008、カールズバッド、Cell Signaling Technology社、米国マサチューセッツ州デンバー;およびSanta Cruz Biotechnology社、米国カリフォルニア州95060、サンタクルーズ)、Rb siRNA(#1:Life Technologies社、カリフォルニア州92008、カールズバッド;#2:Santa Cruz Biotechnology社、カリフォルニア州95060、サンタクルーズ)およびp53 siRNA(#1:Cell Signaling Technology社、マサチューセッツ州01923、デンバー、#2:Cell Signaling Technology社、マサチューセッツ州01923、デンバー)を使用した。細胞は、播種24時間後に薬剤を用いて処理し、48時間にわたり前記薬剤とともにインキュベートし、MTSアッセイを実施した。MTSアッセイは、製造業者(Promega社、ウィスコンシン州53711、マディソン)の取扱説明書にしたがって実施した。
【0042】
免疫ブロット:
細胞溶解液は、ラジオイムノ沈降アッセイ(RIPA)バッファ(50mMのTris−HCl(pH7.4)、150mMのNaCl、1%のNP40、0.25%のDOC、0.1%のSDS、1mMのNaVO4、1mMのEDTA、1μg/mLのロイペプチン、1μg/mLのペプスタチン)または2.5Xサンプルバッファ(50mMのTris−HCl(pH6.8)、1%のSDS、2.5%のBME、7.5%のグリセロール、ブロモフェノールブルー)中での細胞のインキュベーションにより処理した。組織サンプルをRIPAバッファ中に浸漬し、ホモジナイザを用いて破砕させ、遠心して透明化した。サンプルを次にSDS−PAGEにかけ、免疫ブロット膜上にブロッティングし、3%のBSA−TBST中の一次抗体とともにインキュベートした。ホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ共役二次抗体を強化化学ルミネセンス(Millipore社、米国マサチューセッツ州01821、ビルリカ)によるタンパク質検出に使用した。ウェスタンブロッティングのために以下の抗体を使用した。抗Rbモノクローナル抗体1F8(Abcam社、米国マサチューセッツ州02139−1517、ケンブリッジ)、抗p53モノクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology社、米国カリフォルニア州95060、サンタクルーズ)、抗β−アクチンモノクローナル抗体AC−15(Sigma Aldrich社、米国ミズーリ州セントルイス)。
【0043】
リアルタイム定量PCR:
全RNAは、Quick−RNA miniPrepキット(Zymo Research社、米国カリフォルニア州92614、アービン)を用いて単離した。逆転写および定量リアルタイムPCRは、ABI Prism 7500(Life Technologies社、米国カリフォルニア州92008、カールズバッド)上でOne Step SYBR ExTaq qRT−PCRキット(Takara−Bio社、日本国滋賀県)を製造業者の取扱説明書にしたがって使用し実施した。GAPDHに使用したプライマー配列は、5’−GGTTTACATGTTCCAATATGATTCCA−3’(フォワード)、5’−ATGGGATTTCCATTGATGACAAG−3’(リバース)であった。Rbに使用したプライマー配列は、5’−GCAGTATGCTTCCACCAGGC−3’(フォワード)、5’−AAGGGCTTCGAGGAATGTGAG−3’(リバース)であった。p53に使用したプライマー配列は、5’−GCCCCCAGGGAGCACTA−3’(フォワード)、5’−GGGAGAGGAGCTGGTGTTG−3’(リバース)であった。
【0044】
臨床サンプル中の遺伝子発現:
HEC遺伝子発現データは、GSEデータベースから入手し、分析し、base2における遺伝子発現強度の対数として表示した。
【0045】
下記の考察は、本発明の主題の多くの典型的な実施形態を提供する。各実施形態は本発明の要素の単一の組み合わせを表すが、本発明の主題は、開示した要素のあらゆる可能性のある組み合わせを含むと見なされる。一実施形態が要素A、BおよびCを含み、第二実施形態が要素BおよびDを含む場合は、本発明の主題は、さらに明示的に開示されない場合でさえ、A、B、CまたはDの他の残りの組み合わせも含むと見なされる。さらに、文脈上別の解釈が求められる場合を除き、本明細書に規定の全ての範囲はそれらの終点を含むと解釈すべきであり、限度が設定されていない範囲は工業的実際的数値のみ含むと解釈すべきである。同様に、数値の全リストは、文脈上別の解釈が求められる場合を除き、中間の数値を含むと見なすべきである。
【0046】
Hec1発現とHec1阻害剤に対する細胞感受性との相関:
様々な癌細胞系をHec1阻害剤に対する感受性について特性解析した結果を表1に示した。すぐに分かるように、そのような細胞はHec1阻害剤に対する感受性が相違する。このとき、指示した細胞系をHec1阻害剤(101001)で処理し、それらの増殖活性および代謝活性について分析した。表1は、スクリーニングした細胞系をGI50の昇順で列挙し、Hec1阻害剤に対する感受性にしたがって分類している。
【0047】
【表1】
【0048】
Hec1阻害剤耐性細胞系における薬剤耐性について考えられる機序を特性解析するために、Hec1阻害剤101001感受性および耐性細胞系中でのHec1タンパク質およびRNAの発現レベルを決定した。類似の試験を実施して、第2Hec1阻害剤110095に対して感受性(GI50<300nM)および耐性(GI50>300nM)であると同定された細胞系内でのHec1タンパク質の発現レベルを特徴付けた。非同期的に維持した細胞系を溶解させ、それらの全タンパク質をHec1の発現レベルについて免疫ブロットした。Hec1タンパク質の発現レベルを定量し、HeLaの発現レベルに比較して%で表示した(
図1A)。同様に、非同期的に維持した細胞系を収集し、それらの全RNAを定量的リアルタイムPCRによってHeLaと比較したHec1の発現レベルについて分析した(
図1B)。Hec1阻害剤101001耐性細胞系(GI50>10μM)A549およびMDA−MB−361は低Hec1発現レベルを有すると言及されたが、高感受性の細胞系(GI50<50nM)9例中7例は、最低GI50を備える細胞系K562より高いHec1レベルを有していた。同様に、Hec1阻害剤110095に感受性の細胞系は、耐性細胞系(
図1C)と比較してHec1タンパク質の発現レベルの統計的有意な(p値<0.0001)上昇を示した。
図1D−1および
図1D−2は、4種の相違するHec1阻害剤を用いた試験の同様の結果を示している。4種のHec1化合物アナログ(100951、101001、101015および110095)からの細胞系スクリーニングアッセイから収集したGI50データの対数を、定量化Hec1タンパク質の発現レベルに対してプロットし、両側t検定によりp値における有意性を決定した。P値は4.32914×10
−17で、これはHec1発現レベルがHec1阻害剤についての臨床試験のための設計におけるバイオマーカーとして効果的に使用できることを強力に暗示していた。全体として、Hec1の発現は、細胞感受性とHec1阻害剤との正の相関を示した。HeLa細胞における追加の試験は、Hec1タンパク質とRNA発現との関係(各々全タンパク質および全RNAの関数として)が、
図1Eに示したように、ほぼ線形であることを証明した。これは、有益にも、Hec1タンパク質の発現またはHec1 RNA発現のいずれかをHec1阻害剤のための臨床試験の設計におけるバイオマーカーとして効果的に利用できることを示唆している。
【0049】
臨床的癌サンプルのタイプおよびサブタイプにおけるHec1発現:
ゲノム規模の発現プロファイルは、Hec1が乳癌、肺、肝臓および脳細胞内ではアップレギュレートされること、およびHec1発現が腫瘍の悪性度および予後と相関することを証明している。臨床的癌患者組織サンプルを収集し、Hec1発現レベルについて分析した。データは、所定の癌のタイプおよびサブタイプにおける有意に高いHec1発現レベルを明らかにしている。
図2Aおよび
図2Bは、腺癌および扁平上皮細胞癌を表す肺癌腫瘍サンプルについてのGEOデータベースGSE8894(
図2A)およびGSE14814(
図2B)から入手し、分析し、正常組織に比較した発現強度のbase2の対数として表示したHEC(NDC80)発現データを描出している。どちらのデータベースにおいても、HEC(NDC80)遺伝子の平均発現は、扁平上皮細胞癌細胞内で上昇する。Hec1発現の類似の上昇は、結腸癌細胞内で見いだされた(図示していない)。同様に、HEC(NDC80)発現データは、様々な分子サブタイプの乳癌腫瘍サンプルについてのGEOデータベースGSE20685から入手し、分析し、正常組織に比較した発現強度のbase2の対数として表示した。HECは、その遺伝子発現プロファイルに示されたように、乳癌分子サブタイプI内では過剰発現する(
図2C)。患者から単離した乳癌腫瘍サンプル内のHec1タンパク質の発現も特徴付けし、乳癌の分子サブタイプと同様に、表2に要約した。分子サブタイプIおよびIVは、上昇したHec1タンパク質の発現を示す。様々に分類した乳癌分子サブタイプの特性も表1に列挙したが、この表は、スクリーニングした細胞系における網膜芽細胞腫(Rb)およびp53の遺伝子およびタンパク質の状態をGI50の昇順で列挙している。これらの結果は、腫瘍もしくは腫瘍細胞系のタイプおよび/または分子サブタイプがHec1阻害剤についての臨床試験中の適正な患者選択のための臨床的指標となることを強力に指示している。
【0050】
【表2】
【0051】
Rbおよびp53の状態とHec1阻害剤に対する細胞感受性との相関:
Hec1は、網膜芽細胞腫タンパク質Rbと相互作用することで見いだされた。これは、現在の薬剤スクリーニングシステム内の癌細胞系のRb状態(表1)とHec1阻害剤に対する感受性との関係が存在する可能性を示唆している。驚くべきことに、本細胞系内のRbおよびp53の状態のパターンは、Rbの変異型および/またはp53の変異型の存在の要件を示すことができる。表3に示したように、単一バイオマーカーとしての変異/異常Rbは、変異/異常p53より有意性が低く、P値は各々0.3および<0.005である。
【0052】
【表3】
【0053】
類似の結果を表4に示した。単一バイオマーカーとしての変異体RbはP値>0.6を有するが、変異p53のP値は<0.007である。
【0054】
【表4】
【0055】
Hec1阻害剤に対する細胞感受性においてこれらの腫瘍抑制剤が果たす役割をさらに解明するために、siRNAを使用して選択細胞系におけるRbおよびp53の発現を選択的にノックダウンもしくは低下させ、Hec1阻害剤に対するそれらの感受性に及ぼす作用を特性解析した。驚くべきことに、Rbのノックダウンは野生型Rbを有する数種の癌細胞系(MDA−MB−231、K562、ZR−75−1、T47D、HCT116)においてはHec1阻害剤感受性の増加を誘導したが、変異Rbを備える細胞系(HeLa)には作用を示さなかった(
図3A〜3B)。
図3Aは、Rb(siRb)に向けられたsiRNAおよびコントロールsiRNAを用いてトランスフェクトし、Hec1阻害剤101001を用いて処理した野生型Rb MDA−MB−231細胞の生存性試験の結果を示している。細胞感受性はGI50(μM)で表示した。リアルタイムPCRによるトランスフェクト細胞由来の
Rb RNAの定量の結果も示したが、これはsiRNA処理細胞におけるRb RNAの有意な低下を示している。
図3Bは、野生型Rb(MDA−MB−231、K562、ZR−75−1、T47D、A549、HCT116)または変異Rb(HeLa)を備え
図3Aと同様に処理した、選択した細胞系のsiRbトランスフェクションの結果を示している。細胞感受性は、非薬剤処理細胞に比較した増殖阻害率として表示した。トランスフェクト細胞由来の細胞溶解液を収集し、免疫ブロッティングによってRbタンパク質について分析した;ブロットは対応する阻害グラフの下方に示した。アクチンをローディングコントロールとして含めた。
【0056】
p53のサイレンシングは、
図4A〜4Bに示したように、野生型p53を有する細胞(A549、HCT116、ZR−75−1、U20S)においては同様に感作作用を誘導したが、驚くべきことに変異p53を有する細胞(MDA−MB−231、HeLa)には全く作用を及ぼさなかった。
図4Aは、p53に向けられたsiRNA(sip53)を用いてトランスフェクトし、次にHec1阻害性化合物101001を用いて処理した野生型p53細胞(A549、HCT116)および変異体(MDA−MB−231)の結果を示している。細胞を生存性について分析し、細胞感受性をGI50(nM)で表示した。トランスフェクト細胞由来のRNAは、定量的リアルタイムPCRによってp53 RNAのレベルについても分析した。sip53処理細胞の増加した感受性は、野生型p53を用いて処理したsip53細胞の減少したGI50によって証明されたが、これは変異p53を備える細胞では観察されなかった。同様に、
図4Bは、野生型p53(A549、HCT116、ZR−75−1、U2OS)または変異p53(HeLa)を備える選択された細胞系のp53に向けられたsiRNAを用いてのトランスフェクションおよび
図4Aにおけるように処理した結果を示している。細胞感受性は、非薬剤処理細胞に比較した増殖阻害率として表示した。p53についてのトランスフェクト細胞由来の細胞溶解物の免疫ブロットの結果、対応するブロットは、対応する阻害グラフの下方に示した。総合すると、これらの結果は、損傷したRbおよびp53を備える癌細胞は、未知の経路を通してHec1阻害剤に対してより感受性であることを示唆しており、これは臨床的Hec1阻害剤療法の患者選択の指針に有用な追加のバイオマーカーを提供できる。
【0057】
このため当然のことながら、本発明の主題によると、Hec1阻害剤に対する感受性について感受性の細胞系および臨床患者を選択するための3種のバイオマーカーが提示されている。Hec1、変異Rbおよび/または変異p53の発現の増加は、Hec1阻害剤に感受性である可能性が高い腫瘍および細胞系の指標である。これらの因子は、個別的に、または任意の組み合わせで予測的である。驚くべきことに、全3種のバイオマーカーについての組み合わせたP値は、<0.0001である(表3)。これらはHec1阻害剤療法により応答性であり得る患者を選択する臨床試験の設計の選択指針を提供する。
【0058】
現行の細胞毒性剤と比較したHec1阻害剤の有効性:
Hec1阻害剤に対する腫瘍由来細胞の感受性および癌治療において現在使用されている一連の細胞毒性剤を(GI50に関して)表5〜7に示した。表5は、Hec1阻害剤101001と数種の細胞毒性剤(パクリタキセル、ドキソルビシン、トポテカンおよびソラフェニブ)に対する多数の乳癌由来細胞系のGI50を要約している。表6は、多数の肝癌細胞由来細胞系についての同様のデータを示している。同様に、表7は、Hec1阻害剤101001ならびにパクリタキセル、ドキソルビシンおよびトポテカンに対する他の癌由来細胞系のGI50を要約している。ほとんどの場合、Hec1阻害剤は、選択細胞系において選択細胞毒性剤より強力であった(つまり、低いGI50を有していた)。驚くべきことに、Hec1阻害剤は、表8に示したように、タキソール耐性細胞系であるMex−SA/Dx5およびNCI/ADR−Resならびにグリベック(Gleevec)耐性細胞系であるK562Rを含む数種の薬剤耐性細胞系にも効果的であった。これらの結果は、細胞毒性剤、例えばタキソール、ドキソルビシン、トポテカンおよびグリベックなどの代替薬としての、または併用した場合のHec1阻害剤の使用についての根拠を提供する。
【0059】
【表5】
【0060】
【表6】
【0061】
【表7】
【0062】
【表8】
【0063】
Hec1阻害剤と細胞毒性剤との相乗作用:
併用療法は、癌患者のより効果的な治療にとって前途有望なアプローチである。他の現行の抗癌剤が達しなかった経路を標的とすることができる薬剤は、現行の治療レジメンに組み込むことのできるいっそう優れた臨床的可能性を有している。上述のように、単剤試験の結果は、Hec1阻害剤がそのような併用療法において有効である可能性を強力に示唆している。Hec1阻害剤についての可能性のある臨床併用治療アプローチを調査するために、Hec1阻害剤と癌療法において使用される現在利用可能な数種の細胞毒性剤との相乗作用を特性解析した。スクリーニングのために使用されたHec1阻害剤応答性癌細胞をHec1阻害剤と適切な濃度比にある選択抗癌剤の組み合わせで処理し、細胞生存性について評価した。併用指数(CI)は、相加(CI=約1)、相乗(CI<1)または拮抗(CI>1)作用を提示するために、上述したように得たGI50から計算した。表9は、細胞毒性剤と組み合わせてHec1阻害剤110001を用いて処理した多数の癌由来細胞系上での相乗作用試験の結果を要約している。表10は、Hec1阻害剤110095を用いて実施した類似の試験の結果を要約している。同様に、表11は、白血病、子宮頸癌、乳癌および肝癌細胞系についてのHec1阻害剤100951(0951)、101001(1001)、101015(1015)および110095(0095)ならびに細胞毒性剤について得られた併用指数(CI)を要約している。Hec1阻害剤(つまり、CI<1)の有意な相乗作用は、試験した細胞系の多数において、タキソール、ドキソルビシンおよびトポテカンを用いて確認した。これは、Hec1阻害剤が、現行の細胞毒性剤レジメンに加えられると、新生物性疾患の治療または癌細胞系の増殖阻害のために追加の治療様式を提供できることを示唆している。
【0064】
Hec1阻害剤誘導性細胞死の機序:
P53は、G1およびG2期における細胞周期の重要な調節因子として公知であり、異常増殖性シグナルおよびストレスに応答してアポトーシスを制御する。本発明者らが見いだした大部分のHec1阻害剤感受性細胞系は変異p53を有するので、p53非依存性アポトーシス経路がHec1阻害剤誘導性細胞死に関係すると推測することができた。P73は、p53欠損細胞内でアポトーシスを媒介してP53機能に置換するP53ファミリーのメンバーである。このためP73は、Hec1阻害剤誘導性細胞死をもたらすアポトーシスを媒介する分子の潜在的候補である。これを調査するために、薬剤応答性細胞(HeLa)および薬剤耐性細胞(A549)、変異p53タンパク質を有する、を様々な期間にわたってHec1阻害剤110095で処理した。リン酸化p73についての免疫ブロットの結果は、Hec1阻害剤が処理細胞においてp73の時間依存性リン酸化を誘導し、薬剤処理の48時間後にピークに達することを証明している(
図5A)。そのようなリン酸化は、Hec1阻害剤が、少なくとも一部にはp73活性を調節することによって細胞死を誘導するように作用できることを示唆している。
【0065】
同様に、HeLa(
図5B)細胞を、24もしくは48時間にわたり選択Hec1阻害剤110091(91)、110093(93)、110095(95)を1μMで用いて処理し、溶解液をアポトーシスマーカーであるカスパーゼ3およびPARPならびに抗アポトーシスマーカーであるMcl−1、XIAPおよびBcl−2について免疫ブロットした。アクチンをローディングコントロールとして示した。A549細胞は、同様にHec1阻害剤の100951(0951)、101001(1001)、101015(1015)、110078(0078)および110079(0079)を用いて処理し、結果は
図5Cにまとめた。
【0066】
【表9】
【0067】
異なるHec1阻害剤を利用した類似の試験は
図5Dに示し、同図は、HeLaおよびA549細胞系のHec1阻害剤101001を用いた処理の結果を例示している。Hec1阻害剤処理は薬剤応答性細胞(HeLa)におけるアポトーシス性カスパーゼの活性化をもたらした(
図5B、
図5D)。耐性細胞系(A549)の類似の処理は、類似の応答を示さなかった(
図5C、
図5D)。これは、変異p53細胞(HeLa)において、Hec1阻害剤が薬剤誘導性細胞死をもたらすp73依存性アポトーシスを誘発するp73活性化を誘導できることを示唆している。
【0068】
【表10】
【0069】
Hec1阻害剤に対する示差的応答の機序:
Hec1およびNek2は細胞周期調節され、G2/M期中にそれらの最高発現レベルに達することが見いだされている。一部の細胞系はHec1阻害剤処理に低感受性であるので、そのようなHec1/Nek2経路の示差的調節は、Hec1阻害剤に対する示差的細胞応答における因子である可能性がある。
【0070】
【表11】
【0071】
この可能性を調査するために、薬剤応答性細胞(HeLa、MDA−MB−468、HCT116)および耐性細胞(A549)を飢餓によって同期化し、1(G1)、27(G27)、32(G32)および48(G48)時間後にHec1およびNek2の発現を特性解析した。Hec1とNek2との示差的発現パターンは明白であり、Hec1/Nek2経路の調節における差を示している(
図6A)。細胞を48時間にわたって指示した濃度でHec1化合物110095を用いて処理し、Nek2発現を免疫ブロッティングによって特性解析した(
図6B)。Hec1阻害剤処理は感受性細胞系におけるNek2の分解をもたらした。しかしこの作用は、耐性細胞系(A549)では見られない(
図6B)。これは、Hec1阻害剤感受性およびHec1阻害剤耐性細胞系がHec/Nek2経路を様々に調節(または利用)できることを示唆している。さらに、薬剤応答性細胞(HeLa)を様々な期間にわたりHec1阻害剤110095(095)を用いて処理し、サイクリンB1およびサイクリンD1含量を免疫ブロッティングによって特性解析した(
図6C)。サイクリンB1およびサイクリンD1のレベルは、Hec1阻害剤を用いて処理した薬剤応答性細胞ではダウンレギュレートされた。これは、様々な細胞状況を備える細胞系が、選択細胞がHec1化合物誘導性細胞死を免れ得るようにする示差的細胞周期経路を有することを示唆している。特徴的な調節経路もしくは細胞周期経路の同定(例えば、Hec1/Nek2経路および/またはサイクリンB1およびサイクリンD1の調節の特性解析)は、Hec1阻害剤に感受性である新生物性疾患および/または細胞系を同定できる。
【0072】
Hec1発現は、腫瘍の悪性度および予後と相関することも証明されている。例えば、Hec1は、不良な治療転帰の乳癌予後予測因子の一部であり、単変量分析における有意な予後予測因子はサイクリンB1、BUB1、HECおよび11−遺伝子特徴であった。これは、乳癌患者における強力なHec1小分子阻害剤の使用が重要であることを際立たせている。癌の型およびサブタイプは、上昇したHec1遺伝子発現を備える癌のタイプおよびサブタイプが(上記の乳癌分子サブタイプIおよびIVによって示されるように)Hec1阻害剤により感受性である可能性があるので、Hec1阻害剤療法により応答性である可能性が高い患者を選択するための選択指針を提供できる。
【0073】
機能的には、Hec1は、多数の癌において過剰発現し腫瘍表現型をもたらす有糸分裂動原体の1成分である。細胞周期中のHec1発現は正常細胞および形質変換細胞のどちらにおいても緊密に調節されるが、Hec1の動原体動員は癌細胞系において増加する。公知のように、網膜芽細胞腫遺伝子(Rb)のサイレンシングは、Hec1 mRNAおよびタンパク質の発現を増加させた。RbのノックダウンおよびRB/E2F標的遺伝子のダウンレギュレーションは、乳癌細胞系であるMCF7、T47DおよびZR−75−1における治療用量のDNA損傷剤に対する感受性を増加させることも公知である。このためRB欠損癌細胞における増加したHec1発現に起因する増加した異数性および染色体不安定性は、変異Rb遺伝子型を備える癌細胞におけるHec1阻害剤に対する感受性の観察された増加に寄与する可能性がある。Rbおよび/または関連遺伝子の遺伝子型決定は、Hec1阻害剤療法に応答性である可能性が高い患者および/または細胞系を選択するための臨床試験の設計の選択指針を提供できる。
【0074】
薬剤スクリーニングした細胞系のRBおよびp53発現プロファイルならびにHec1阻害剤GI50は、変異RBまたは変異p53がHec1阻害剤感受性における増強因子であることを示唆しているが、それがp53の固有の欠乏または細胞を感作する変異体の機能獲得であることは明白ではない。例えば、MDA−MB−361細胞はp53タンパク質を発現しないが、それでもHec1阻害剤に対して非応答性であることが見いだされた(即ち、GI50>10μM)。野生型p53は、異常な増殖から細胞を保護する腫瘍抑制因子である。初期の試験は変異p53形を備える細胞を誤って同定し、p53を癌遺伝子であると誤って説明したが、後の研究は、変異p53タンパク質の広大な過剰産が癌の特徴であり、腫瘍進行とともに悪化することを証明した。このような場合における変異p53の過剰発現は、高度の腫瘍原性細胞を生じさせた。同様に、ヒトホットスポット変異p53のマウス同等物の発現は、異数性、異常中心体増幅および不可逆性染色体転座が付随するゲノム不安定性の増加を伴う腫瘍を生成した。これは、変異p53型自体がHec1阻害剤の阻害性機序において積極的役割を有する可能性があることを示唆している。p53および/または関連遺伝子の遺伝子型決定は、Hec1阻害剤療法に応答性である可能性が高い患者および/または細胞系を選択するための臨床試験の設計の選択指針を提供できる。
【0075】
上述のように、変異p53の存在には、機能獲得(GOF)作用である腫瘍進行が関連している。変異p53の多数のGOF作用は、それがp53ファミリーのタンパク質、例えばp63およびp73に結合する、および/またはそれらを不活性化する能力と関連している。P73は、p53欠損細胞においてp53ゲノム維持機能を替わって行うことができる。上述のように、感受性細胞系を同定するためのHec1阻害剤を用いたスクリーニングは、大多数の感受性細胞系が変異p53を有することを証明した。これは、Hec1剤誘導性細胞死が1つ以上のp53非依存性経路を介して発生する可能性を示唆している。変異p53細胞が、損傷したp73/p63媒介性アポトーシスを有することは公知である。変異p53腫瘍細胞中では、p73およびp63はそれらの標的遺伝子を動員することができない。変異p53、p73および/またはp63のタンパク質複合体の存在は、癌細胞の化学感受性にマイナスの影響を与える可能性がある。本発明者らは、Hec1阻害剤構成における薬剤誘導性細胞死がp73依存性アポトーシスを通して発生する可能性があると推測している。これに関連して、本発明者らは、Hec1阻害剤誘導性細胞死における1つの機序は、p73の活性化を促進してp73依存性アポトーシスをもたらす変異p53とp73との1つ以上の相互作用の崩壊を含む可能性があるとさらに推測している。興味深いことに、Hec1阻害剤を用いた細胞の処理は、アポトーシス性カスパーゼマーカーおよびp73のリン酸化の両方を誘導したが、これはp73依存性アポトーシス経路の活性化を強力に示唆している。しかし、p53の複雑な機能は様々な細胞状況において相違する可能性があり、Hec1、Hec1阻害剤およびp53の関係は依然として充分には解明されていない。参考として本明細書で援用される国際公開第2011/115998号パンフレットには、また別の化合物、組成物および実験が提供されている。
【0076】
当然のことながら、本明細書に記載の本発明の概念から逸脱せずに本明細書に記載した以外のより多数の修飾が可能であることは、当業者には明白である。このため本発明の主題は、添付の特許請求の範囲の精神を除いて制限されるべきではない。さらに本明細書および特許請求の範囲の両方を解釈する際、全ての用語は状況に一致する最も広範囲の考えられる方法で解釈すべきであり、特に、用語「含む」および「含んでいる」は、本明細書で言及した要素、成分もしくは工程が明示的には言及されない他の要素、成分または工程とともに存在してよい、または利用できる、または結合できることを示す非排他的方法で要素、成分または工程を意味すると解釈すべきである。本明細書がA、B、C....およびNからなる群から選択される何かの少なくとも1つについて言及する場合は、本文は、A+B、またはB+Cなどではない前記群からの唯一の要素を要求していると解釈すべきである。
【国際調査報告】