【実施例】
【0142】
実施例1:標的(抗原性ポリペプチド)の同定
【0143】
1.1 材料
【0144】
特に断わらない限り、試薬は分析品質であり、認定された供給者、主にSigma-Aldrich社(ブックス、スイス国)から入手した。
【0145】
1.1.1 細菌培地
【0146】
ルリア-ベルタニ・ブロス(Luria-Bertani broth)(LB)は、1%(w/v)のトリプトン(Fluka/Sigma-Aldrich社、スイス国)と、0.5%(w/v)の酵母抽出物(Fluka社)と、1%(w/v)のNaClで構成した。LBは、調製した直後にオートクレーブし(121℃で20分間)、室温で3ヶ月後まで殺菌状態を維持した。LB-寒天(LBA)プレートに関しては、0.75(w/v)の寒天をLBに添加した後、培地をオートクレーブした。その後、熱いLBAをプラスチック製ペトリ皿(Sterlin社、ケンブリッジ、イギリス国)に分布させた後、培地を50℃未満に冷却した。ペトリ皿の中のLBAが固化すると、そのLBAプレートを3ヶ月後まで4℃に維持した。BHI-寒天プレートは、Becton Dickinson社(ハイデルベルク、ドイツ国)に注文した。
【0147】
1.1.2 細菌株
【0148】
いくつかの細菌株を使用した。データを得るのに使用した最も重要な細菌株と実験手続きを表6に掲載する。それに加え、A.バウマニのいくつかの臨床単離体をSeifert教授(医療微生物衛生研究所、ケルン大学、ドイツ国)、Dijkshoorn教授(ライデン大学医学センター、ライデン、オランダ国)、Nordmann教授(ビセートル大学病院センター、細菌学-ウイルス学部門、ル・クレムラン-ビセートル・セデックス、フランス国)から受け取った。
【0149】
【表6】
【0150】
標的の同定と、同定された標的の特徴づけに用いた公開されているいくつかのゲノムを表7にまとめてある。
【0151】
【表7】
【0152】
1.1.3 患者の血清
【0153】
さまざまな病院で患者の血清を回収した。20人の患者からの血清が以前の研究に記載されており(Pantophlet, R.他、Clin. Diagn. Lab. Immunol.、第7巻(2)、293〜295ページ(2000年))、それをSeifert教授(医療微生物衛生研究所、ケルン大学、ドイツ国)から受け取った。
【0154】
アテネ(ギリシャ国)、セビージャ(スペイン国)、ピッツバーグ(ペンシルヴェニア州、米国)、エルサレム(イスラエル国)の病院からさらに57人の患者の血清を回収した。以下の内部基準を適用した:
1.患者は、A.バウマニ血流感染、肺炎、重傷感染であることが確認されている。
2.患者は、採血できる健康状態である。
3.患者は、85歳未満の成人である。ウイルス感染(例えばA型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、HIV)、貧血、免疫系抑制が確認された患者は除外した。すべての患者がインフォームド・コンセントに署名した。健康なドナーからの血清は、ベルン(スイス国)にあるスイス赤十字献血センターから回収した。
【0155】
1.2 適切な標的を同定する方法
【0156】
1.2.1 “シェドーム (Shedome)”分析
【0157】
この方法の考え方は、ポリペプチドには抗体などの大きい分子がアクセスできるため、アシネトバクター膜の表面にあるポリペプチドを同定するというものである。そこでA.バウマニ細菌に23kDaのプロテアーゼであるトリプシンを注ぎ、質量分析(MS)によって分析した。同定されたペプチドから、公開されているデータベースを用いてタンパク質を特定した。消化産物は、非常に豊富なタンパク質と溶解した細菌という汚染物以外に、細菌膜の細胞外の側に存在するタンパク質に由来するペプチドを含んでいることが予想される。
【0158】
1.2.1.1 細菌培養物の調製
【0159】
A.バウマニ株ATCC19606をLBAプレートの表面に塗布し、37℃で一晩(16時間〜24時間)インキュベートした。細菌コロニーを目視できるそのLBAプレートを1ヶ月後まで4℃に維持した。出発培養物として、LBAプレートからのA.バウマニのコロニーを用いて25mlのLBに接種し、1分間に200回転(rpm)で震盪させながら37℃にて一晩インキュベートした。一晩培養物の600nmでの光学密度(OD
600)を測定した。開始時のOD
600が0.05の一晩培養物をLB(0.4リットル)に接種し、200rpmで震盪しながら37℃で3.5時間インキュベートすると、OD
600が0.68になった。
【0160】
1.2.1.2 生きている細菌のトリプシンによる消化
【0161】
Rodriguez-Ortegaら(Nature Biotechnology、第24巻、191〜197ページ、2006年)が、グラム陽性菌をトリプシンで消化させる方法を以前に記載している。この方法を利用してグラム陰性A.バウマニに関する以下のプロトコルを確立した。この細菌を4℃にて3500gで10分間遠心分離した。ペレットを4℃の40mlのPBS(8%(w/v)のNaCl、2%(w/v)のKCl、1.1%(w/v)のNa
2HPO
4、0.2%(w/v)のKH
2PO
4、pH=7.4)の中に再懸濁させることによって3回洗浄し、遠心分離した。ペレットを2mlのスクロース緩衝液(40%(w/v)のスクロース、5mMのDTT(ジチオトレイトール)を含むPBS)の中で1回洗浄し、最後にペレットを、20μgのシークエンシング品質のトリプシン(Promega社、V5113)を含む2mlのスクロース緩衝液に再懸濁させた。この懸濁液を37℃で30分間インキュベートした後、4℃にて3500rcfで10分間遠心分離した。上清を取り出し、4℃にて14000rcfで5分間再び遠心分離した。再び上清を取り出し、注射器用無菌フィルタ(0.2μm、Nalgene社#194-2520)で濾過した。0.75mlの濾液に0.75μlのギ酸を添加して混合し、MSによって分析するまで-70℃で保管した。
【0162】
1.2.1.3 トリプシン消化産物のMS分析
【0163】
ペプチドは、Manfred Heller教授のグループが、ベルン大学の臨床研究部門(スイス国)において、質量分析(データに依存した衝突によって誘導される断片化を伴うナノLC-MS/MS)によって同定した。フィルミクテスと大腸菌からの入力事項がないUniprotKBデータベース(The UniProt Consorcium、Nucleic Acids Res.、第39巻:D214〜D219ページ、2011年)を用いてペプチドからタンパク質を特定した。
【0164】
簡単に述べると、3μlまたは6μlの体積を約5μl/分の流速にして溶媒A(0.1%のギ酸を含む水/アセトニトリル(98:2))とともにプレ-カラム(Magic C18、5μm、300Å、内径0.15mm×長さ30mm)に装填した。装填後、アセトニトリルの勾配が60分間で5%から40%になる溶媒B(0.1%のギ酸を含む水/アセトニトリル(4.9:95))を流速約400nl/分で使用し、ペプチドをバックフラッシュ・モードで分析用ナノ-カラム(Magic C18、5μm、300Å、内径0.075mm×長さ75mm)に溶離させた。1,700kVで運転しているナノスプレーESI源を通じ、カラムの溶離液をLTQ-orbitrap XL質量分析器(Thermo Fisher Scientific社、マサチューセッツ州、米国)に直接カップルさせた。データ取得は、データ依存モードで前駆イオンを走査して行ない、(m/z=400での)解像度60,000でフーリエ変換検出器(FT)に記録するとともに、線形イオン・トラップで最も強い前駆イオンの5フラグメント・スペクトル(CID)も記録した。CIDモードの設定状態は、広帯域活性化をオン;m/zの範囲が360〜1400での前駆イオン選択;強度閾値が500;15秒間は前駆体を除外するというものであった。UniprotKB 、SwissProt、TrEMBLというデータベースを使用し、Linux(登録商標)を走らせた局所二重クワッド・コア.プロセッサ・サーバ上でPHENYXを用いてCIDスペクトルを解釈した。許容されるさまざまな修飾は、メチオニン酸化(2個まで)、アスパラギン/グルタミン脱アミド化(2)、N末端のグルタミン酸上のピロリドンカルボン酸(1)であった。親とフラグメントの質量の許容範囲は、それぞれ20ppmと0.5Daに設定した。少なくとも2種類の異なるペプチドが同定されてタンパク質スコアが10.0以上になった場合に、タンパク質の同定を真の陽性であると認めた。
【0165】
1.2.1.4 データ分析と標的の選択
【0166】
同定されたいくつかのタンパク質は、非常に豊富なタンパク質である細胞内タンパク質(例えばリボソーム・タンパク質)であった。そのような汚染物と仮想的な膜標的を区別するため、同定されたタンパク質の細菌内での位置を公開されているオンライン・ツール(http://bp.nuap.nagoya-u.ac.jp/sosui/sosuigramn/sosuigramn_submit.html、Imai他、Bioinfomation、第2巻(9)、417〜421ページ(2008年))を用いて分析した。細胞外タンパク質または外膜タンパク質として特定されたタンパク質を選択してさらに分析した。それに加え、UniprotKBデータベースによって既知の細胞外タンパク質または外膜タンパク質のホモログであるという注釈を付けられたタンパク質も選択した。
【0167】
1.2.2 比較プロテオミクス
【0168】
この方法の考え方は、異なるさまざまなアシネトバクター株での発現が実験的に確認されているポリペプチドに焦点を絞るというものである。そこで5種類のA.バウマニ株の全プロテオームを質量分析によって求めた。その5つの株は、異なる供給源から単離されたという理由で選択した。細胞外表面に存在する仮想的標的を豊富にするため、タンパク質調製物の外膜タンパク質を豊富にした後、その親水特性と疎水特性に従って質量分析を行なった。質量分析によって同定されたペプチドについて、公開されているデータベースを用いてタンパク質を特定するとともに、IT予測と文献検索に従って選別を行なった。
【0169】
1.2.2.1 細菌培養物の調製
【0170】
A.バウマニ株ATCC19606、BMBF65、SDF、ACICU、AYE(上記の表6参照)をBHI-寒天プレートに塗布し、37℃で一晩(16時間〜24時間)インキュベートした。目視できる細菌コロニーを含むその寒天プレートを75mlのLBに接種し、培養物を200rpmで震盪しながら37℃で25時間インキュベートした。培養物のOD
600を測定し、開始時のOD
600が0.02の一晩培養物をLB(0.5リットル)に接種した。この0.5リットルの培養物を200rpmで震盪しながら37℃で一晩インキュベートした。OD
600を測定し、各培養物の900 OD/mlを用いてタンパク質を調製した。
【0171】
1.2.2.2 外膜(OM)タンパク質の調製
【0172】
OMタンパク質は、本質的にArnoldとLinke(Curr. Protoc. Protein Sci.;第4章:4.8.1項〜4.8.30項、2008年)が以前に記載しているようにして調製したが、わずかに改変してさらに下流分析を行なうためのOMタンパク質を調製した。900 OD/mlを4℃にて20分間かけて4000gでペレットにした。以下の全ステップは、氷の上で冷やした溶液と装置を用いて0℃〜4℃で実施した。細菌を7mlの再懸濁緩衝液(0.1MのNaCl、10mMのMgCl
2、50mMのトリス-HCl、pH=8.0、10mg/lのDNアーゼI(Sigma-Aldrich社))の中に再懸濁させ、0.1mlのプロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma-Aldrich社)を添加した。Sonifier B-12(Branson Sonic Power Company社、コネティカット州、米国)をレベル5にして用い、氷の上でこの懸濁液を10秒間ずつ1分間隔で5回超音波処理した。ライセートを氷の上で30分間インキュベートした後、2000gで15分間遠心分離することによって完全な細菌を除去した。超遠心分離が可能な遠心分離管に上清を移し、再懸濁緩衝液を添加して最終体積を12mlにした。この溶液を4℃にて100,000gで1時間遠心分離した。上清を廃棄し、0.1mlのプロテアーゼ阻害剤カクテルを含む12mlの再懸濁緩衝液にペレットを再懸濁させた。超遠心分離を繰り返し、ペレットを12mlのCM緩衝液(0.1MのNaCl、50mMのトリス-HCl、pH=8.0、1%(w/v)のN-ラウロイルサルコシン酸ナトリウム(Fluka社))に再懸濁させた。0.1mlのプロテアーゼ阻害剤カクテルを懸濁液に添加し、得られた混合物を、角度90°、分速25回転に設定したインテリ-ミキサー(LTF Labortechnik社、ドイツ国)上で管を回転させながら室温で30分間インキュベートした。上記のような再懸濁と超遠心分離により、溶液を超遠心分離した後、ペレットを12mlの冷たいddH
2Oの中で3回洗浄した。この段階で、のちの使用のためにペレットを-20℃で凍結させた。OMタンパク質調製物をクロロホルム/メタノールで沈殿させ(Wessel D.とFlugge U.、Anal. Biochem.、第138巻、141〜143ページ、1984年)、そのOMタンパク質調製物を、45%を含む2つのアリコートと、残りの10%を含む1つのアリコートに分割した。ペレットを-20℃で保管した。タンパク質を定量するため、クロロホルム/メタノールで沈殿させた10%のアリコートを0.1mlの水に再懸濁させた。そのうちの50μlを、50μlの1M NaOHを用いて室温で2分間加水分解させ、0.1mlの0.5M HClを用いて中和した。加水分解したサンプルを滴定し、ブラッドフォード・タンパク質試薬(Biorad社、カリフォルニア州;米国)を製造者の指示に従って用いてタンパク質を定量した。滴定したウシ血清アルブミンをサンプルと同様に加水分解し、定量の基準として使用した。
【0173】
1.2.2.3 OMプロテオームの決定 - LC-MSとデータ分析
【0174】
タンパク質を8Mの尿素溶液に溶かし、1mMのDTTを用い、37℃にて30分間にわたって還元し、25℃にて暗所で55mMのヨードアセトアミドを用いて30分間アルキル化した。次に、サンプルを0.1Mの炭酸水素アンモニウム緩衝液で希釈して尿素の最終濃度を1Mにした。タンパク質をシークエンシング品質の改変されたトリプシン(1/100;w/w、Promega社、マディソン、ウィスコンシン州)とともに37℃で一晩インキュベートすることによって消化させた。ペプチドをC18逆相スピン・カラムで製造者(Microspin、Harvard Apparatus社)の指示に従って脱塩し、真空下で乾燥させ、のちの使用のために-80℃で保管した。
【0175】
線形四重極イオン-トラップとOrbitrap(LTQ-Orbitrap XL、Thermo Fisher Scientific社)からなるハイブリッド質量分析器で高分解能ナノLC-MSを利用してペプチド混合物を分析した。線形四重極イオン-トラップとOrbitrap(LTQ-Orbitrap XL、Thermo Fisher Scientific社)からなるハイブリッド質量分析器に接続したEksigentナノLCシステム(Eksigent Technologies社)でペプチドを2回分析した。このハイブリッド質量分析器にはナノエレクトロスプレー・イオン源(Thermo Scientific社)を取り付けた。60分間かけて95%溶媒A(水、0.1%のギ酸、2%のアセトニトリル)+5%溶媒B(水、0.1%のギ酸、98%のアセトニトリル)から72%溶媒A+28%溶媒Bになる線形勾配を流速0.3μl/分で使用し、C18樹脂(Magic C18 AQ 3μm;Michrom Bioresources社)を自社内で詰めたRP-HPLCカラム(内径75μm、長さ10cm)でペプチドを分離した。LTQ-Orbitrapは、Xcaliburソフトウエアを用いてデータ依存取得モードで作動させた。解像度を60,000の値に設定したOrbitraにおいてサーベイ走査MSスペクトルを350〜2000 m/zの範囲で取得した。1回のサーベイ走査ごとに強度が最も大きい5つのイオンを選択して衝突誘導解離(CID)断片化を実施し、得られたフラグメントを線形トラップ(LTQ)において分析した。30秒以内にダイナミックな除外を利用して同じペプチドが繰り返して選択されることを防止した。単一電荷のイオンと、電荷状態が特定されないイオンをMS/MS走査のトリガーから除外した。
【0176】
ReAdWを用いてMS装置からの生データ・ファイルをmzXMLファイルに変換した後、Sorcerer-SEQUEST(Eng他、J. Am. Soc. Mass Spectrom.、1994年;第5巻(11):976〜989ページ)を用い、3453個のタンパク質入力(UniprotKB/Swiss-Protの中の292個+UniprotKB/TrEMBLの中の3161個)を含むUniprotKB/Swiss-Protタンパク質知識ベース(バージョン56.9)からのアシネトバクター.バウマニ・タンパク質データベース(ACIB3)を対象としてそのmzXMLファイルを検索した。PeptideProphet(Keller A.他、Anal. Chem.、2002年;第74巻(20):5383〜5392ページ)とProteinProphet(Nesvizhskii他、Anal. Chem.、2003年;第75巻(17):4646〜4658ページ)を含むTrans-Proteomic Pipeline TPP(Keller他、Mol. Syst. Biol.、2005年;第1巻:2005.0017):バージョン4.0 JETSTREAM rev 2を用い、それぞれのLC-MS分析に関する各検索結果を統計的に分析した。ProteinProphetの確率スコアは0.9に設定した。その結果、タンパク質とペプチドが誤って発見される平均の割合が、ProteinProphetとPeptideProphetによって推定されるすべての検索結果について1%未満になった。
【0177】
データベース検索基準に含まれていたは、前駆イオンについて50ppmの質量許容範囲、メチオニンについて15.994920Daだけ変動する可能性(酸化されたメチオニンを表わす)、システインについて静的修飾としてのカルバミドメチル化の57.021465Da、ペプチドごとに少なくとも1つのトリプシン性末端、2個までの開裂部位の見落としであった。
【0178】
1.2.2.4 データ分析と標的の選択
【0179】
OMプロテオームから仮想的な標的を選択するため、異なる5つの株の同定されたタンパク質(上の表6参照)を公開されているオンライン・ツール(PSORTb バージョン3.0、Yu他、Bioinformatics、第26巻(13):1608〜1615ページ、2010年)で分析して細菌内における位置を求めた。合計で5つの株のOMプロテオームに存在していて細胞外または外膜に位置することが予想されたタンパク質を個別に詳しく分析した。そこには、公開されている14種類の基準ゲノムの中のゲノム保存(遺伝子の存在/不在と、アミノ酸一致の割合)と、公開されているオンライン・ツールHHpred(Soding他、Nucleic Acids Res.、2005年7月1日;第33巻(ウェブ・サーバー号):W244〜248ページ)を用いて外膜内で予想されるタンパク質のトポロジーが含まれていた。アシネトバクターの同定されたタンパク質、または他の種のホモログに関する入手可能な文献も考慮した。
【0180】
(1)アミノ酸保存が90%以上の条件で分析した14種類のゲノムのうちの少なくとも13種類によってコードされていて、(2)タンパク質配列の一部を外膜の細胞外の側に提示することが予想されたタンパク質を仮想的な抗体標的と見なした。そのような仮想的抗体標的のホモログが抗生物質耐性A.バウマニ株では下方調節されるか存在しないことが文献で予想されるケースについては、標的をそれ以上追跡しなかった。例えば外膜タンパク質CarOは、カルバペネム耐性A.バウマニ株において下方調節されることが以前に示されている(Mussi他、Antimicrob. Agents Chemother.、第49巻(4):1432〜1440ページ、2005年4月)。標的が比較プロテオミクスと具体的標的選択によって同定されたにもかかわらず、CarOは臨床的にほとんど重要でない標的と見なされたため、それ以上調べなかった。
【0181】
1.2.3. 具体的標的の同定
【0182】
この方法は、回復期のA.バウマニ患者の血清に存在する抗体によって認識される具体的な標的に焦点を当てている。そこで外膜タンパク質を豊富にしたOMタンパク質調製物を2次元ゲル電気泳動(2DE)によって分離した。2DEは、等電フォーカシング(IEF)の後にSDS-ポリアクリルアミド・ゲル電気泳動(PAGE)工程を実施してOMタンパク質を分離することからなる。患者の血清によって認識されたタンパク質をイムノブロット分析によって明らかにした。さまざまな株が発現するタンパク質を同定できる可能性を大きくするため、少なくとも2つのA.バウマニ株のイムノブロットを比較し、分析したすべての株に存在するタンパク質を選択して質量分析によりタンパク質を同定した。それらタンパク質の特徴を個別に明らかにし、IT予測と文献検索によって選別を行なった。
【0183】
1.2.3.1 細菌培養物とOMタンパク質調製物の調製
【0184】
A.バウマニ株ATCC19606、BMBF-65、Berlin-95(表6参照)を用い、1.2.2.2.に記載されているようにしてOMタンパク質調製物を作った。
【0185】
1.2.3.2 二次元ゲル電気泳動(2DE)
【0186】
Ettan(登録商標)IPGphor(登録商標)3 IEFシステム(GE Healthcare社、イギリス国)を使用し、製造者の指示(GE Healthcare社)に従って等電フォーカシング(IEF)を実施した。簡単に述べると、125μlの再水和溶液(8Mの尿素(Sigma-Aldrich社)、2%のCHAPS(Sigma-Aldrich社)、40mMのDTT(Fluka社)、0.5%のIPG緩衝液(GE Healthcare社)、0.002%のブロモフェノール・ブルー)の中でImmobiline pH3-10 NL 7cm DryStrips(GE Healthcare社)を室温にて一晩再水和させた。OM調製物(20〜30μg)を50〜100μlの再水和溶液に溶かし、30秒間撹拌し、室温で数分間インキュベートした。次にサンプルを14000g超で2分間遠心分離し、上清を用いてIEFを実施した。デュープリケートでは、カップ装填システムを用いてサンプルを再水和されたImmobiline DryStripsに装填し、その上に鉱物油を載せた。300Vで1時間、300Vから1000Vまで線形勾配で30分間、1000Vから5000Vまで線形勾配で1時間30分間、5000Vで36分間という作業条件でタンパク質を分離した。ストリップをただちに-20℃で凍結させた。
【0187】
NuPAGE(登録商標)Novex 4-12% Bis-Tris ZOOM(登録商標)Gel(Invitrogen社、米国)と、10μlのNovex(登録商標)Sharp染色前タンパク質基準(Invitrogen社)を用い、製造者の指示(Invitrogen社)に従い、第2の次元を記載通りに正確に実施した。ゲルの1つのデュープリケートを用い、トリス-グリシン・ゲル(Invitrogen社)に関する製造者の指示に記載されているようにして、30Vで80分間という作業条件でニトロセルロース膜(Invitrogen社)にブロットした。ニトロセルロース膜をポンソーS溶液(Sigma-Aldrich社)で染色し、画像を記録した。この膜をブロッキング緩衝液(5%のスキムミルク(Fluka社)を含むPBS-T(0.05%のトゥイーン20(登録商標)(Sigma-Aldrich社)を含むPBS))の中で室温にて1時間インキュベートした。個々の患者の血清または混合物をブロッキング緩衝液の中で1:500に希釈し、膜とともに4℃で一晩インキュベートした。膜をPBS-Tの中で5分間ずつ3回洗浄し、ブロッキング緩衝液の中で1:1000に希釈したヒトIgG特異的二次抗体(Invitrogen社)とともに室温で1時間インキュベートした。膜を再び3回洗浄し、結合した抗体をTMB基質(Promega社)で検出した。試験したすべてのA.バウマニ株の中で所与の患者の血清によって検出されたタンパク質を選択してタンパク質を同定した。したがって2DEゲルの第2のデュープリケートの中のタンパク質がインスタント・ブルー(登録商標)(Expedeon社、ケンブリッジシャー、イギリス国)を用いて可視化された。ゲルのタンパク質パターンをポンソーSで染色した膜およびイムノブロット信号と比較することにより、イムノブロット中で陽性のタンパク質がゲル・デュープリケートの中でどこに位置するかを明らかにした。タンパク質のスポットを切除し、MS分析によってタンパク質を同定するまで-80℃で保管した。
【0188】
1.2.3.3. トリプシン消化物のMS分析
【0189】
機能ゲノミクス・センター(チューリッヒ、スイス国)のタンパク質分析グループが、標準的な手続きに従い、LC/ESI/MS/MSにより、切除したゲル断片からタンパク質を同定した。簡単に述べると、ゲルの断片を100μlの100mM NH
4HCO
3/50%アセトニトリルで2回洗浄し、次いで50μlのアセトニトリルで洗浄した。3つの上清をすべて廃棄し、10μlのトリプシン(10mMのトリス/2mMのCaCl
2、pH 8.2の中に100ng)と20μlの緩衝液(10mMのトリス/2mMのCaCl
2、pH 8.2)を添加し、37℃で一晩インキュベートした。上清を取り出し、ゲルの断片を100μlの0.1%TFA/50%アセトニトリルで2回抽出した。3つの上清を全部1つにまとめ、乾燥させた。サンプルを25μlの0.1%ギ酸に溶かし、オートサンプラー・バイアルに移してLC/MS/MSを実施した。次に5μlを注入してペプチドを同定した。ProteinLynx Global Server(スイスプロット、全種)とMascot(NCBInr、全種)という検索プログラムを用いてデータベース検索を実施した。
【0190】
1.2.3.4. データ分析と標的の選択
【0191】
A.バウマニのタンパク質であると同定され、外膜タンパク質であると予想されるかそう注釈づけられたタンパク質を仮想的な標的として選択した。そのような仮想的抗体標的のホモログが抗生物質耐性A.バウマニ株において下方調節されるか存在しないことが文献から予想される場合には、標的をそれ以上追跡しなかった。
【0192】
実施例2:IT予測
【0193】
タンパク質の構造をITで予測するため、チュービンゲンにある発生生物学のためのマックス-プランク研究所からのバイオインフォマティクス・ツールキットを使用した(Biegert他、Nucleic Acids Res.、第34巻、W335〜339ページ)。HHpredというツール(Soding他、Bioinformatics、2005年、第21巻、951〜960ページ)を用いて三次構造を予測した。このツールはクエリ(問い合わせ)配列の隠れマルコフ・モデル(HMM)を構築し、それを、注釈付きタンパク質ファミリー(例えばPFAM、SMART、CDD、COG、KOG)、または構造が既知のドメイン(PDB、SCOP)を表わすHMMのデータベースと比較する。オンライン予測のための設定として、HMMのデータベースpdb70_3Sep11を使用し、HHblitsをMSA生成法にセットして最大で3回の繰り返しと局所アラインメント・モードにした。真に陽性である確率が大きく(90%超)、クエリ配列の大半をカバーするホモロジーがある場合に、予想される構造を大きな確率で真であると見なした。多数のヒットが条件を満たす場合には、最も確率が大きい2つのヒットとE値およびP値が最も小さいものを三次構造の代表として用いた。配列番号2、4、6、8、10、12、14、16で予想される三次構造の代表例を表4に示してあり、それらはPubmedのオンライン・サーバー(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/(Wang Y.他、Nucleic Acids Res.、2007年1月;第35巻(データベース号):D298〜300ページ))からダウンロードすることができる。
【0194】
N末端リーダー配列の予測:
【0195】
隠れマルコフ・モデルと神経ネットワークを用いたグラム陰性細菌のためのSignalP 3.0サーバー(http://www/cbs.dtu.dk/services/SignalP、Bendtsen J.D.他、J. Mol. Biol.、第340巻:783〜795ページ、2004年)を利用してN末端リーダー配列を求めた。
【0196】
細胞以下タンパク質の位置の予測
【0197】
公開されているオンライン・ツールPsortb バージョン3.0(http://www.psort.org/psortb/、Yu他、2010年、Bioinformatics、第26巻(13):1608〜1615ページ)を用いて細胞以下の位置を予測した。“細菌”と“グラム陰性株”を予測の設定として選択した。タンパク質配列は、1文字アミノ酸コードとして入力した。
【0198】
シェドーム分析のため、公開されているオンライン・ツールSOSUI
GramN(http://bp.nuap.nagoya-u.ac.jp/sosui/sosuigramn/sosuigramn_submit.html;Imai他、Bioinfomation、第2巻(9)、417〜421ページ(2008年))を使用した。そのときタンパク質配列は1文字アミノ酸コードとして入力した。
【0199】
アミノ酸保存と遺伝子優勢度の判断:
【0200】
遺伝子優勢度とアミノ酸保存を調べるため、分析するアミノ酸配列をゲノムblastオンライン・ツール“tblastn”(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sutils/genom_table.cgi、Cummings L.他、FEMS Microbiol. Lett.、2002年11月5日;第216巻(2):133〜138ページ;Altschul他、Nucl. Acid Res.、第25巻:3389〜3402ページ(1997年))に入力した。そのときクエリ配列としてアミノ酸1文字コードを用いた。A.バウマニの全ゲノム・データベースを選択した。デフォルトのBlastPパラメータを選択した(BLOSUM62 Matrix、ギャップをあけるコスト=11、ギャップを延長するコスト=1、複雑性の低いフィルタと組成に基づく統計を利用)。許容される期待値をデフォルトの設定である10に維持した。結果から、基準ゲノム(表4)の中での優勢度とアミノ酸一致の割合を標的の選択に使用した。
【0201】
クエリ配列としてDNA配列を用いる場合には、blastnを代わりに使用し、デフォルトの設定(BLOSUM62 Matrix、ギャップをあけるコスト=5、ギャップを延長するコスト=2、一致スコア=2、不一致スコア=-3)にした。プログラムでは、配列の長さに応じて複雑性の低いフィルタまたは複雑性の強いフィルタを使用した。
【0202】
実施例3:組み換え抗原を生成させるための発現ベクターの生成
【0203】
クローニングのための適切な制限部位を含むプライマを用い、A.バウマニ(ATCC19606)のゲノムDNAから、本発明のポリペプチドをコードしている核酸配列をPCRによって増幅した。PCR産物をフレーム内でクローニングし、発現ベクターpET-28a(+)(Novagen社、;ドイツ国)に入れると、N末端にヒスチジン・タグを有する組み換えタンパク質が得られた。すべてのオリゴヌクレオチドをMicrosynth社(バルガッハ、スイス国)で作製した。AB023、AB024、AB025、AB030、FimA、CsuAB、OmpAについては、N末端のシグナル・ペプチドのないコード配列(cds)全体をクローニングした。N末端リーダー配列を明らかにし、クローニングと組み換えタンパク質の発現のために除去した。AB031については、78個のアミノ酸からなる細胞外ループをクローニングした。なぜならそれが、この分子内にあって細胞外の側にあることが予測されているため抗体が近づくことのできる3個以上のアミノ酸からなる唯一の領域だったからである。発現プラスミドをMicrosynth社でシークエンシングし、PCRアーチファクトを除去した。配列番号33と34は、それぞれ、シークエンシング用プライマT7とT7 termのヌクレオチド配列を示している。実施例3.4に記載されているAB030の発現ベクターでは、配列番号35として表わされるヌクレオチド配列からなる別のシークエンシング用プライマを使用した。
【0204】
3.1 AB023のための発現ベクター(配列番号1)
【0205】
SignalP 3.0サーバーは、配列番号2の位置1〜26にN末端シグナル配列を予測した。配列番号1の位置76〜95と1241〜1254にそれぞれ結合するようにオリゴヌクレオチドoAB023wee GGCA
GGATCCGCTGCTGCATTTGACCC(配列番号17)とoAB023as CGGAAT
GTCGACTTAGAATGCAGTTG(配列番号18)を設計した。クローニングのためオリゴヌクレオチドoAB023weeとoAB023asに付加した制限部位に下線を引いてある。Pfxポリメラーゼ(Invitrogen社)とオリゴヌクレオチドのペアoAB023wee/oAB023asを用い、配列番号1の位置76〜1254と相同なcdsをATCC19606のゲノムDNAからPCRによって増幅した。反応物50μlにつき、50ngのゲノムDNA、1UのPfxポリメラーゼ、1mMのMgSO
4、2×pfx緩衝液、0.3mMのdNTP(それぞれ)、0.3μMのオリゴヌクレオチド(それぞれ)を使用した。PCR熱サイクル・プログラムは、(94℃、4分間)、35×(94℃、15秒間;55℃、30秒間;65℃、2分間)、(65℃、5分間)であった。QIAquickゲル抽出キット(QIAGEN社、28704)を製造者の指示に従って使用してPCR産物を精製した。精製したPCR産物と100ngのベクターpET-28a(+)を制限酵素BamHIとSalI(Fermentas社、ER0051、ER0641)を用いて消化させた後、QIAquick PCR精製キット(QIAGEN社、28104)を製造者の指示に従って使用してその消化産物を精製した。その後、50ngのベクターをPCR産物と1:2のモル比で室温にて2時間にわたって連結させた。そのとき、2単位のリガーゼ(Fermentas社、カナダ国)を合計で20μlと1×リガーゼ緩衝液(リガーゼを補足)を用いた。連結反応によって形質転換されたケミコンピテント大腸菌(DH5α)を、50μg/mlのカナマイシン(Applicem社)を含むLPA-プレートで標準的な手続き(Maniatis)を利用して選択した。耐性コロニーを選択し、市販されているキット(Promega社、ウィスコンシン州、米国、またはQIAGEN社、ドイツ国)を用いてプラスミドDNAを精製し、精製されたプラスミドをMicrosynth社(バルガッハ、スイス国)でシークエンシングした。そのときPCR産物の正しい組み込みを確認するため、標準的なシークエンシング用プライマT7(TAATACGACTCACTATAGG)とT7 term(TGCTAGTTATTG CTCAGCGG)を用いた。AB023に関する発現ベクターは、ベクターからのヒスチジン-タグで置換されたシグナル・ペプチド(アミノ酸1〜26)を除き、ATCC19606(D0CDE3)のアシネトバクターのゲノム配列から予想されるのと同じアミノ酸配列をコードしていた。
【0206】
3.2 AB024のための発現ベクター(配列番号3)
【0207】
SignalP 3.0サーバーは、配列番号4の位置1〜29にN末端シグナル配列を予測した。配列番号3の位置88〜105と1287〜1305にそれぞれ結合するようにオリゴヌクレオチドoAB024wee GGCA
GGATCCGCAACTTCTGATAAAGAG(配列番号19)とoAB024as CAAA
GTCGACTTAGAAGCTATATTTAGCC(配列番号20)を設計した。クローニングのためオリゴヌクレオチドoAB024weeとoAB024asに付加した制限部位に下線を引いてある。配列番号3の位置88〜1305と相同なcdsを、AB023の発現ベクターについて記載したのとまったく同様にしてPCRによって増幅し、クローニングしてpET-28a(+)に入れた。
【0208】
AB024のための発現ベクターは、ベクターからのヒスチジン-タグで置換したシグナル・ペプチド(アミノ酸1〜29)を除き、ATCC19606(D0CDN5)のアシネトバクターのゲノム配列から予想されるのと同じアミノ酸配列をコードしていた。
【0209】
3.3 AB025のための発現ベクター(配列番号5)
【0210】
SignalIP 3.0は、配列番号6の位置1〜21にN末端シグナル配列を予測した。配列番号5の位置67〜88と1422〜1446にそれぞれ結合するオリゴヌクレオチドoAB025wss TCGC
GGATCCCAAGGTTTAGTGCTTAATAATGATG(配列番号21)とoAB025as CGAC
AA GCTTAGAAACCAAACATTTTACGCTC(配列番号22)を設計した。クローニングのためoAB025wssとoAB025asに付加した制限部位に下線を引いてある。制限酵素HindIII(Fermentas社、ER0501)をSalIの代わりに用いたという変更以外はAB023の発現ベクターについて説明したのとまったく同様にして配列番号5の位置67〜1446と相同なcdsをPCRによって増幅し、クローニングしてpET-28a(+)に入れた。
【0211】
AB025のための発現ベクターは、ベクターからのヒスチジン-タグで置換したシグナル・ペプチド(アミノ酸1〜21)を除き、ATCC19606(D0C8X7)のアシネトバクターのゲノム配列から予想されるのと同じアミノ酸配列をコードしていた。
【0212】
3.4 AB030のための発現ベクター(配列番号7)
【0213】
SignalIP 3.0は、配列番号8の位置1〜44にN末端シグナル配列を予測した。配列番号7の位置133〜150と2695〜2721にそれぞれ結合するオリゴヌクレオチドoAB030wss CTTGT
GGATCCCAAAGTTCGGCTGAGACC(配列番号23)とoAB030as AAA
GTCGACTT AAAGTTGTGGACCAATAAAGAAATG(配列番号24)を設計した。クローニングのためoAB030wssとoAB030asに付加した制限部位に下線を引いてある。PCRの伸長時間を長くして2分30秒にし、サイクル数を30回に減らしたという変更以外はAB023の発現ベクターについて説明したのとまったく同様にして配列番号7の位置133〜2721と相同なcdsをPCRによって増幅し、クローニングしてpET-28a(+)に入れた。
【0214】
AB030のための発現ベクターは、シグナル・ペプチド(アミノ酸1〜44)と、セリンの代わりにトレオニンをコードしている位置58のアミノ酸を除き、ATCC19606(D0C629)のアシネトバクターのゲノム配列から予想されるのと同じアミノ酸配列をコードしていた。他のアシネトバクター・バウマニ株(例えばAB307 - B7H123)におけるAB030のホモログはこの位置にトレオニンを含んでいるため、予想される配列からのこの違いは許容された。
【0215】
3.5 AB031Lのための発現ベクター(配列番号9)
【0216】
相同性検出と構造予測用のソフトウエアHHPred(http://toolkit.tuebingen.mpg.de/hhpred:Soding他、Nucleic Acids Res.、第33巻(ウェブ・サーバー号):W244〜248ページ、2005年7月1日)を用いてAB031の構造を予測した。AB031の構造相同体(Pubmedタンパク質ID 1ek9 - 外膜タンパク質TOLC)が、最大の確率(100%)と、最大の統計的有意性を持つE値(0)で予想された。アラインメントから、配列番号10の位置87〜164の78個のアミノ酸が細菌の細胞外の側に位置することが予測された。
【0217】
PCRによって78個のアミノ酸ループを増幅するため、オリゴヌクレオチドoAB031L1wss AAA
GGATCCAGAGCATATGCTTTTCATAGTG(配列番号25)とoAB031L1as AAA
GTCGA CTTAAGATGGTCGGACTACTTGGTCTTCT(配列番号26)を設計した。クローニングのためoAB031L1wssとoAB031L1asに付加した制限部位に下線を引いてある。Dream-Taqポリメラーゼ(Fermentas社、EP0701)とオリゴヌクレオチドのペアoAB031L1wss/oAB031L1asを使用し、78個のアミノ酸配列に相同なcdsをPCRによってATCC19606のゲノムDNAから増幅した。反応物50μlにつき、50ngのゲノムDNA、0.5Uのtaqポリメラーゼ、1×taq 緩衝液、0.2mMのdNTP(それぞれ)、0.2μMのオリゴヌクレオチド(それぞれ)を使用した。PCR熱サイクル・プログラムは、(94℃、3分間)、5×(94℃、15秒間;50℃、15秒間;72℃、2分間)、25×(94℃、15秒間;55℃、15秒間;72℃、2分間)、(72℃、5分間)であった。AB023の発現ベクターに関して説明したようにしてPCR産物をクローニングしてpET-28a(+)に入れた。AB031L1のための発現ベクターは、配列番号10の78個のアミノ酸配列から予想されるのと同じアミノ酸配列をコードしていた。
【0218】
3.6 FimAのための発現ベクター(配列番号11)
【0219】
SignalIP 3.0は、配列番号12の位置1〜20にN末端シグナル配列を予測した。配列番号11の位置61〜78と392〜407にそれぞれ結合するオリゴヌクレオチドoFimAwss GGACGA
GGATCCGCTGATGGTACAATTACA(配列番号27)とoFimAas AACT
AAGCTTT CAACCCATTGATTGAGCAC(配列番号28)を設計した。クローニングのためオリゴヌクレオチドに付加した制限部位に下線を引いてある。AB025の発現ベクターに関して記載したのとまったく同じようにして配列番号11の位置61〜407と相同なcdsをPCRによって増幅し、クローニングしてpET-28a(+)に入れた。
【0220】
FimAのための発現ベクターは、ベクターからのヒスチジン-タグで置換したシグナル・ペプチド(アミノ酸1〜20)を除き、ATCC19606(D0C767)のアシネトバクターのゲノム配列から予想されるのと同じアミノ酸配列をコードしていた。
【0221】
3.7 CsuABのための発現ベクター(配列番号13)
【0222】
SignalIP 3.0は、配列番号14の位置1〜23にN末端シグナル配列を予測した。配列番号13の位置70〜84と512〜537にそれぞれ結合するオリゴヌクレオチドoCsuABwss AATACT
GGATCCGCTGTTACTGGTCAG(配列番号29)とoCsuABas AACT
AAGCTTTTAG AAATTTACAGTGACTAATAGAG(配列番号30)を設計した。クローニングのためオリゴヌクレオチドoCsuABwssとoCsuABasに付加した制限部位に下線を引いてある。AB025の発現ベクターに関して記載してあるようにして配列番号13の位置70〜537と相同なcdsをPCRによって増幅し、クローニングしてpET-28a(+)に入れた。
【0223】
CsuABのための発現ベクターは、ベクターからのヒスチジン-タグで置換したシグナル・ペプチド(アミノ酸1〜23)を除き、ATCC19606(D0C5S9)のアシネトバクターのゲノム配列から予想されるのと同じアミノ酸配列をコードしていた。
【0224】
3.8 OmpAのための発現ベクター(配列番号15)
【0225】
SignalIP 3.0は、配列番号16の位置1〜22にN末端シグナル配列を予測した。配列番号15の位置67〜83と1064〜1071にそれぞれ結合するオリゴヌクレオチドoOmpAwss CTGCT
GAATTCGGCGTAACAGTTACTCC(配列番号31)とoOmpAas CAAGA
AAGCTTA TTATTGAG(配列番号32)を設計した。クローニングのためオリゴヌクレオチドoOmpAwssとoOmpAasに付加した制限部位に下線を引いてある。制限酵素EcoR1とHindIII(Fermantas社、ER0271、ER0501)を代わりに用いたという変更以外はAB023の発現ベクターに関して記載したのとまったく同様にして配列番号15の位置67〜1071と相同なcdsをPCRによって増幅し、クローニングしてpET-28a(+)に入れた。
【0226】
OmpAのための発現ベクターは、ベクターからの付加されたヒスチジン-タグで置換したシグナル・ペプチド(アミノ酸1〜22)を除き、ATCC19606(D0CDF2)のアシネトバクターのゲノム配列から予想されるのと同じアミノ酸配列をコードしていた。
【0227】
実施例4:組み換えタンパク質の発現と精製
【0228】
4.1 大腸菌における組み換えタンパク質の発現
【0229】
ヒスチジン・タグを有するタンパク質を組み換え発現させるため、上記の各発現ベクターを用いてケミコンピテント大腸菌BL-21(DE3)を形質転換し、50μg/mlのカナマイシン(Applicem社)を含むLPA-プレートで標準的な手続きを利用して選択した。50μg/mlのカナマイシンを含むLBの中で耐性コロニーを一晩培養したものを用い、50μg/mlのカナマイシンを含む0.5リットルのLBでの培養を0.2以下のOD
600で開始した。OD
600が0.5〜1になるまで、この培養物を37℃にて200rpmでインキュベートした。IPTG(Sigma-Aldrich社)を1mMの濃度で添加し、細菌を37℃にて200rpmでさらに3〜4時間インキュベートした。細菌を遠心分離(3500g、10分間)し、ペレットを-20℃で凍結させた。
【0230】
4.2 大腸菌細菌ペレットからの組み換えタンパク質の抽出
【0231】
細菌細胞ペレットを10mlの細胞破壊緩衝液(0.15MのNaCl、10mMのMgCl
2、10mMのMnCl
2、20mMのトリス-HCl、pH=8.0、10mg/lのDNアーゼ)に再懸濁させ、この懸濁液を1.2.2.2に記載したようにして氷の上で超音波処理し、氷の上で30分間インキュベートした。この懸濁液を遠心分離し(4℃にて4000g、10分間)、上清を廃棄し、力学的な力によってペレットを10mlの洗浄用緩衝液(0.15MのNaCl、20mMのトリス-HCl、pH=8.0、1%のトリトンX100)の中に再懸濁させた。この懸濁液を4℃にて8000gで10分間遠心分離した。ヒスチジン・タグ付きAB031L1の場合、上清に5mMのDTTを補足してAB031L1用結合緩衝液にし、その直後にNi-NTAアフィニティ精製で使用した。他のあらゆる組み換えタンパク質に関しては、上清を廃棄し、ペレットを20mlの冷たい脱イオン水の中に再懸濁させることによって2回洗浄し、遠心分離を繰り返した。洗浄したペレットは-20℃で凍結させ、将来使用するまで保管した。
【0232】
再懸濁させたペレットを室温で30分間回転させながらインキュベートすることにより、組み換えタンパク質を10〜20mlの結合緩衝液の中に抽出した。ヒスチジン・タグ付きFimAに関しては、結合緩衝液G(6MのGuHCl、0.5MのNaCl、20mMのイミダゾール(Merck社、ドイツ国)、5mMのDTT、20mMのトリス-HCl、pH=9.0)を用いてペレットを抽出したのに対し、ヒスチジン・タグ付きAB023、AB024、AB025、AB030、CsuAB、OmpAに関しては、結合緩衝液U(8Mの尿素、0.5MのNaCl、20mMのイミダゾール、5mMのDTT、20mMのトリス-HCl、pH=8.0)を用いてペレットを抽出した。
【0233】
4.3 組み換えヒスチジン・タグ付きタンパク質のNi-NTA精製
【0234】
HisTrap(登録商標)HPカラム(GE Healthcare社、17-5247-01)を用いてヒスチジン・タグ付きタンパク質をアフィニティ精製した。Aktaアヴァント装置(GE Healthcare社)を、システムの流速1ml/分、0.5MPaプレと0.3MPaデルタというカラム圧力限界で作動させて精製操作を実施した。カラムは、5カラム分の体積(CV)のランニング緩衝液で平衡させた。ランニング緩衝液は、DTTが存在しないこと以外は、各抗原のための結合緩衝液と同じ諸成分で構成した。抽出された組み換えタンパク質を含む結合緩衝液をカラムに適用し、記録されるUV 280nmの信号が安定するまでカラムをランニング緩衝液で洗浄した。20mM〜500mMの線形勾配のイミダゾールを含む10CVのランニング緩衝液を用い、結合したタンパク質をカラムから溶離させた。0.5mlの分画を回収し、SDS-PAGEとクーマシー染料によって組み換えタンパク質の存在、純度、量をそれぞれ分析した。組み換えタンパク質の純度と濃度が最大の分画をプールし、クーマシーで染色したSDS-PAGEゲル上で、滴定された組み換えタンパク質を滴定されたBSA基準(レーンごとに0.5、1、2、4、6μg)と比較することによって定量した。
【0235】
エタノールを90%(v/v)まで添加してFimAを沈殿させ、-80℃まで冷却し、14,000rcf超で4℃にて30分間遠心分離し、Speed Vacによって乾燥させた。FimAはペレットとして保管するか、-20℃で結合緩衝液Uに1mg/mlの濃度で溶かした。他のすべてのタンパク質は、ランニング緩衝液の中に1mg/mlまたは3mg/mlに希釈して-20℃で保管した。
【0236】
4.4 OmpAの構造復元
【0237】
McConnellら(McConnell, Michael J.;Pachon, Jeronimo(2011年):Protein Expression and Purification、第77巻(1)、S.98〜103ページ)に従ってOmpAの構造を復元した。簡単に述べると、ヒスチジン・タグ付きOmpA(1〜2mg/mlのものを1ml)を50mlの構造復元用緩衝液(10mg/mlのn-オクチル-β-D-グルコピラノシド、20mMのNaPi、pH 7.4)の中で50倍に希釈し、42℃で一晩インキュベートした。カットオフ値が10kDaのAmplicon Ultra-15遠心分離装置(Millipore社、マサチューセッツ州、米国)を使用してこの体積を濃縮して1mg/mlのOmpAにした。
【0238】
実施例5:ポリクローナル・ウサギ血清の生成と、ウサギIgGの精製
【0239】
抗原を個別に調製し、ウサギ免疫血清を生成させた。AB030をエタノールで沈殿させ、1Mの尿素緩衝液(1Mの尿素、10mMのトリス-HCl、pH=8.0、0.1%のSDS)の中に1.2mg/mlの濃度で再懸濁させた。AB031-L1を沈殿させ、ペレットを1Mの尿素緩衝液の中に2.5mg/mlの濃度で溶かした。抗原(それぞれ1.5mg)をBiogenes社(ベルリン、ドイツ国)に送り、そこでウサギ抗血清を生成させた。免疫化の前にそれぞれのウサギ免疫前血清を採取した。各抗原について2羽のウサギを免疫化し、免疫化の7日後と14日後に追加免疫化した。28日目にウサギを追加免疫化し、20mlの血清を調製し、組み換えタンパク質を用いてELISAとイムノブロットによって分析した。全血清は免疫化の42日後から56日後の間に調製した。血清は、保存剤として0.02%のチメロサールを含んでいた。
【0240】
標準的なプロトコルを利用し、プロテインAアフィニティ精製によって血清から全IgGを精製した。精製した全IgGは、トリス-グリシン緩衝液(pH=7.5)、250mMのNaCl、0.02%のチメロサールの中、またはトリス-グリシン緩衝液(pH=7.5)の中にあった。
【0241】
透析によってチメロサールを除去した後、生きた細菌で実験を行なった。簡単に述べると、10kDaのカットオフ値を持つSlide-A-Lyzer透析カセット(Thermo Fisher Scientific社、マサチューセッツ州、米国)を使用して血清と全IgGを1〜2 I PBSに対して室温で30分間にわたって2回透析し、4℃で一晩1回透析した。
【0242】
実施例6:イムノブロット分析
【0243】
基準株(大腸菌、緑膿菌、A.バウマニ)またはA.バウマニの臨床単離体をLB培地の中で増殖させて(特に断わらない限り)定常期または対数増殖期にし(OD
600が0.3〜1.2)、4000gで5〜10分間遠心分離した。細菌細胞ペレットを水の中に再懸濁させ、同体積の2×SDSサンプル緩衝液(0.1Mのトリス-HCl、pH=6.8、4%(w/v)のSDS、0.2%(w/v)のブロモフェノール・ブルー、20%のグリセロール、0.2MのDTT)または2×Novex(登録商標)トリス-グリシンSDSサンプル緩衝液と最終濃度が12 OD
600/mlに等しい還元剤(LC2676、Invitrogen社)を用いて溶解させ、10分間にわたって98℃に加熱した。精製したタンパク質をSDSサンプル緩衝液の中に希釈し、濃度を10μlにつき1〜2μgまたはそれと同等なOD
600/mlにした。Novex(登録商標)4〜20%トリス-グリシン・ゲル(Invitrogen社)のレーンごとに10μlの細菌懸濁液または精製した抗原を装填した。5〜10μlの分子量基準(SeeBlue(登録商標)染色前タンパク質基準、またはNovex(登録商標)Sharp染色前タンパク質基準、Invitrogen社)を別のレーンに装填した。タンパク質の分離は、SDS-PAGEを製造者の支持に従って用い、運転条件を140Vで90分間(Invitrogen社)にして実施した。精製した抗原だけを分離する場合、NuPAGE(登録商標)4%〜20%ビス-トリス・ゲル(NP0322BOX、Invitrogen社)を代わりに使用し、製造者による変性し還元されたサンプルのための指示に従ってMESランニング緩衝液(Invitrogen社)を用いて分離した。
【0244】
ゲルは、上記のようにしてクーマシーで染色するか、2DEに関して上に説明したようにニトロセルロース膜にブロットしてポンソーS染色とイムノブロット分析によって分析した。ウサギ抗血清は1:500〜1:1000に希釈し、ヒト血清は1:500に希釈した。二次抗体であるHRP-ヤギ抗ウサギIgG(Sigma-Aldrich社)とHRP-ヤギ抗ヒトIgG(Invitrogen社)は1:2000に希釈して用いた。
【0245】
イムノブロット分析の結果を
図3、
図4、
図5、
図6C、
図9Cに示す。
【0246】
実施例7:ELISA
【0247】
各抗原性ポリペプチドをコーティング用緩衝液の中で1μg/mlに希釈し、ウエル1つにつき0.1mlの割合で入れた96ウエルのELISA用プレート(Nun社、439454)を4℃で一晩、または室温で2時間コーティングした。ヒスチジン・タグ付きAB023、AB024、AB025、AB030、FimA、CsuABでは尿素ランニング緩衝液(8Mの尿素、0.5MのNaCl、20mMのイミダゾール、20mMのトリス-HCl、pH 8.0)をコーティング用緩衝液として用いた。構造が復元されたOmpAとAB031 L1ではPBSをコーティング用緩衝液として用いた。
【0248】
被覆されたELISA用プレートをPBS-T(ウエルごとに0.35ml)で3回洗浄した(Skan washer 400、Skatran社を使用)。ヒト血清またはウサギ血清を一次抗体として用いた。一次抗体はPBS-Tの中に希釈し、0.1mlを各ウエルに添加した。一次抗体として用いる前に、ヒト血清は1:200の希釈度から滴定を開始し、ウサギ抗血清は1:100または1:200の希釈度から滴定を開始した。ELISAプレートを一次抗体とともに室温で1時間インキュベートした後、PBS-Tの中で3回洗浄した。HRP-ヤギ抗ヒトIgG(Invitrogen社)またはHRP-ヤギ抗ウサギIgG(Sigma-Aldrich社)を二次抗体としてそれぞれ1:2000、1:5000の希釈度で用いた。ELISAプレートを再びPBS-Tの中で3回洗浄し、結合したHRPを、O-フェニレンジアミン(Fluka社)の色彩変化によって検出した。1MのHClを用いて反応を停止させ、490nmでODを測定することによって定量した。
【0249】
一次抗体としてヒト血清を使用すると標的を検出できるのに対し、ウサギ血清の使用によって標的の免疫原性が証明される。
【0250】
ELISAの結果を
図1と
図2に示す。
【0251】
実施例8:細菌のFACS分析
【0252】
定常期または対数増殖期の細菌のOD
600を測定した。0.5%(w/v)のBSAを含むブロッキング剤としてのPBSの中に細菌を希釈してOD
600を0.1にした。丸底の96ウエル細胞培養皿(Corning社、ニューヨーク州、米国)の中で反応ごとに0.05mlの細菌懸濁液を使用し、0.05mlの一次抗体と組み合わせた。0.2mlのブロッキング剤の中に細菌を再懸濁させ、1700gで10分間遠心分離し、上清を除去することからなる2回の洗浄サイクルにより、結合しなかった抗体を除去した。必要に応じてこの段階で、氷の上の4%(w/v)ホルムアミド/PBSの中で10分間インキュベートすることにより、結合した抗体を固定した。固定剤を使用した場合には、細菌を2回洗浄した。二次抗体であるヤギ抗ヒトIgG-Alexa Fluor 488、ヤギ抗ヒトIgm-Alexa Fluor 488、ヤギ抗ウサギIgG-FITC(Invitrogen社)のいずれかを1:1000の希釈度にしてウエル1つにつき0.1ml添加し、30分間インキュベートした。細菌を再び洗浄し、FACS Caliburを用いて分析した。細菌の集団をゴミから、そして弱い蛍光信号を強い蛍光信号から最適に識別できるように装置の設定を調節した(前方散乱;電圧E01、増幅利得:7.0, log。側方散乱:電圧659、増幅利得:1.0, log。Fl-1:電圧767、増幅利得:1.0, log)。陰性対照として洗浄用緩衝液だけを使用し、一次抗体または免疫前血清は使用しなかった。患者の血清またはウサギ免疫血清を陽性対照(強い信号)として使用した。すべての溶液(細菌溶液は除く)を殺菌濾過してFACSのアーチファクトを減らした。
【0253】
結果を
図6A、
図6B、
図7に示す。
【0254】
実施例9:免疫蛍光分析(IFA)
【0255】
さまざまな方法を用いてIFAのための細菌を調製した。LBAプレートまたはBHIプレートからの細菌のコロニーを50μlの水の中に高密度(OD
600>1)で再懸濁させ、10ウエルのガラス・スライド(MP Biomedicals社、米国)のウエルに塗布した。液体細菌培養物をスライドに直接塗布した。塗布物を空中で乾燥させ、4%(w/v)のホルムアルデヒドを含むPBSを用いて10分間固定した後、PBSを用いた3つの洗浄ステップを実施した。あるいは細菌は-20℃のアセトンの中で10分間固定し、空中で乾燥させた。IFAのための細菌を調製する別の方法は、液体細菌培養物をガラス・スライド(BD Biosciences社、ニュージャージー州、米国)上で直接増殖させてバイオフィルムの形成を可能にするというものであった。培養物を取り出し、ガラス・スライドに付着させた細菌を上記のようにして固定した。
【0256】
IFAは以下のようにして実施した。固定した細菌をブロッキング剤(1%(w/v)のBSAを含むPBS)とともに少なくとも30分間インキュベートした。緩衝液を、ブロッキング剤の中に希釈した一次抗体で置き換えた。ウサギ免疫血清を1:50〜1:500に希釈した。細菌を1時間インキュベートした後、PBSで3〜4回洗浄した。ブロッキング剤の中に1:200〜1:400の希釈度で希釈した二次抗体(ヤギ抗ウサギIgG-FITC(F2765、Invitrogen社))を45分間インキュベートし、PBSで3〜4回洗浄した。DAPIを含むVectashield(H-1200、Vector Labs社)をスライドの上に載せてカバー・スライドとマニキュア液で封止した。ベルン大学の解剖学研究所(スイス国)でスライドを分析し、Nikonの蛍光顕微鏡“fluonik”の100倍油浸漬対物レンズを用いて写真を撮影した。すべてのステップを室温で実施した。
【0257】
結果を
図8Bに示す。
【0258】
実施例10:凝集アッセイ
【0259】
定常期の細菌をPBSの中に希釈してOD
600を約3にした。対数増殖期の細菌を遠心分離によって濃縮し、PBSに再懸濁させてOD
600を約3にした。ウサギ血清から精製した全IgGについては、マルチウエル・ガラス・スライド上で10μlの細菌懸濁液を、濃度が0.2〜1.5mg/mlの同体積の抗体と混合した。濃度は、個々の抗体の性質によって異なっていた。モノクローナル抗体とアフィニティ精製したポリクローナル抗体は、必要とされる濃度が免疫血清から精製した全IgGと比べてはるかに低い。スライドをやさしくゆすり、室温で10分間インキュベートした。Moticシステム顕微鏡(B1シリーズ)を10〜40倍の倍率で用いて凝集を観察した。
【0260】
結果を
図8Aに示す。
【0261】
実施例11:直接FimAプルダウン・アッセイ
【0262】
床の体積が20μlのプロテインAビーズ(POROS(登録商標)MabCapture(登録商標)、Applied Biosystems(登録商標)社、カリフォルニア州、米国)を遠心分離(300g、1分間)によって1mlのPBSの中で2回洗浄し、上清を除去した。ビーズを室温にて0.2mlのPBSの中で10μgの抗体とともに30分間、30rpmでインキュベートすることにより、ビーズを抗体で被覆した。ビーズを1mlのPBSの中で再び洗浄し、A.バウマニのLB一晩培養物の上清0.4mlの中に入れた。細菌培養物を4000g超で5分間遠心分離することによって上清を調製し、その上清を注射器のための0.2μmのフィルタ(Nalgene社、#194-2520)で濾過した。混合物を室温にて30rpmで1時間インキュベートした。ビーズを1mlのPBSの中で再び2回洗浄した。最後に、ビーズをNuPAGE(登録商標)4%〜20%ビス-トリス・ゲル(NP0322BOX、Invitron社)のための30μlの溶解緩衝液に再懸濁させ、98℃で5分間インキュベートした。上記のように製造者による変性し還元された4%〜20%ビス-トリス・ゲルのための指示に従ってMESランニング緩衝液(IM-8042 Version H、Invitron社)を用いてサンプルをイムノブロットで分析し、ナイーブFimAの存在を調べた。FimAに対するウサギ免疫血清を使用してFimAを検出した。
【0263】
結果を
図11に示す。
【0264】
実施例12:動物における能動的免疫化と受動的免疫化
【0265】
Eveillardら(2010年、Journal of Infection、第60巻(2)、S.154〜161ページ)が以前に開発した能動的免疫化と受動的免疫化の研究を、マウスのアシネトバクター肺炎モデルを用いて実施した。そのとき、生存率、臨床スコア、体重を読み取り値として使用した。
【0266】
12.1 能動的免疫化
【0267】
0日目、14日目、28日目、42日目に、10μgの抗原を含む0.1mlの50%(v/v)のゲルブ・助剤(GERBU Biotechnik GmbH社、ドイツ国)/PBSを腹腔内に注射して各マウス(135 C3H/HeNマウス、18〜20g、週齢6週間、Elevage Janvier社、サルト、フランス国)を免疫化した。陰性対照として、50%(v/v)のゲルブ・助剤/PBSを用いて、またはPBSだけを用いてマウスを免疫化した。
【0268】
49日目に、Marie Laure Joly-GuillouとMathieu Eveillardの実験室で確立されたプロトコル(Eveillard他、Journal of Infection、第60巻(2)、S.154〜161ページ、2010年)に従って肺炎モデルを開始した。簡単に述べると、A.バウマニを接種する4日前または3日前にシクロホスファミド(Baxter社、イリノイ州、米国)を腹腔内注射して(体重1kgにつき150mgが含まれた0.15ml)マウスを一時的に好中球が減少した状態にした。イソフルランを純粋な酸素と組み合わせてこのマウスを麻酔した。以前に報告されているようにして(Joly-Guillou他、Antimicrob. Agents Chemother.;第41巻(2):345〜351ページ、1997年2月)A.バウマニを気道内に点滴した。簡単に述べると、気道に絎針を挿入し、10
8cfu/mlを含む50μlの細菌懸濁液を注入した。接種原のサイズを定量的培養によって確認した。
【0269】
接種原を気道内に点滴した後、マウスをケージに戻し(0日目)、自発的な経過を評価するために観察した。この経過は毎日評価し(0日目を含む)、死亡率と、マウスの体重変化と、臨床スコアに注意した。臨床スコアは、マウスの運動(自発的運動がスコア=0、刺激したときだけ運動する場合にはスコア=1、運動しない場合にはスコア=2)と、結膜炎の進展(結膜炎がないとスコア=0、結膜炎があるときにはスコア=1)と、毛の外観(毛が正常だとスコア=0、毛が乱れているとスコア=1)に基づいて構成されている。結局のところ、臨床スコアは、正常なマウスの0から深刻な病気の4まで変化する。
【0270】
結果を
図12に示す。
【0271】
12.2 受動的免疫化
【0272】
Marie Laure Joly-GuillouとMathieu Eveillardの実験室で確立されたプロトコル(Eveillard他、Journal of Infection、第60巻(2)、S.154〜161ページ、2010年)に従って肺炎モデルを開始した。簡単に述べると、A.バウマニを接種する4日前または3日前にシクロホスファミド(Baxter社、イリノイ州、米国)を腹腔内注射して(体重1kgにつき150mgが含まれた0.15ml)マウスを一時的に好中球が減少した状態にした。0日目、A.バウマニを接種する3時間前に0.15mlのウサギ抗血清、ナイーブ・ウサギ血清、PBSのいずれかをマウスの腹腔内に受動的に接種した。マウスに麻酔することから始め、能動的免疫化プロトコルと同様にして肺炎を誘導した。同様に、死亡率と、臨床スコアと、マウスの体重変化をモニタした。結果を
図11と
図13に示す。
【0273】
実施例13:mAbの生成
【0274】
フィコール-パック勾配遠心分離によって40mlの全血サンプルから精製した末梢血リンパ球を、細胞培地(IMDM/ハムのF12 50:50;10%FCS)3mlと、EBV分泌B-95-8マーモセット細胞の細胞培養物の上清3mlの中に再懸濁させた。37℃かつ6.5%のCO
2の条件で3〜15時間インキュベートし、HANKS緩衝液の中で洗浄/遠心分離ステップを1回実施した後、くっついていない細胞とくっついている細胞を、1μg/mlのシクロスポリンA±補足物を含む18mlの細胞培地に移した。細胞をウエル1つにつき200μlの体積で96ウエルの丸底プレートに入れ、迅速に成長するコロニーであるリンパ芽球様細胞系(LCL)を同定できて、pHがずれることで培地が黄色になるまで、1〜3週間培養した。細胞の上清をELISAによって分析し、抗原特異的抗体を探した。その後、抗体産生細胞を、次の融合手続きに十分な細胞数になるまで継代培養した。2.5×10
5個または1.25×10
5個のLCLと、同量の融合パートナー細胞(例えばマウス-ヒト異種骨髄腫LA55)を用いて1回電気細胞融合させる。指数関数的に増殖しているときに細胞を回収し、PBSで1回洗浄した後、電気細胞融合用緩衝液で洗浄する。LCLの上清を4℃で保管し、あとでスクリーニングELISAにおいて陽性対照として使用する。2種類の細胞をまとめた後、細胞を遠心脱水し、出現したペレットを200μlの電気融合用緩衝液の中に注意深く再懸濁させる。融合のため、細胞混合物をMultiporator(Eppendorf社)のHelix-Fusion室に移し、細胞融合プログラム(アラインメント:5ボルト、30秒間;パルス:30ボルト、30秒間、パルス数:3;アラインメント後:5ボルト、30秒間)を実施する。その後、細胞を室温で5〜10分間インキュベートし、FCSを含まない4mlの細胞培地に再懸濁させ、24ウエルのプレートの4つのウエルに分配した。37℃かつ6.5%のCO
2の条件で3時間インキュベートした後、細胞懸濁液をプールし、4mlの選択培地と混合し、96ウエルの丸底プレートに移した(200μl/ウエル)。1週間後、培地を、選択試薬を含まない細胞培地と交換する。その後、迅速に増殖するハイブリドーマのコロニーを同定できるまで、細胞を培養する。次に、上清をELISAによって分析し、特異的抗体の存在を調べる。同定されたハイブリドーマを増殖させ、単一の細胞を2回培養することによって再クローニングし、増殖のため低温で保管する。
【0275】
実施例14:殺菌アッセイ
【0276】
CO
2が6%の細胞培養インキュベータの中で、HL-60細胞(ATCC CCL-240)をIMDM(Sigma-Aldrich社)またはRPMI-1640(Sigma-Aldrich社)の中で37℃にて培養した。それぞれの培地は、熱で不活性化した(56℃で40分間)20%(v/v)のウシ胎仔血清(FCS)(Biochem社、ベルリン、ドイツ国)と2mMのGlutaMAX-I(Gibco/Invitrogen社、米国)を含んでいる。細胞を3〜4日ごとに継代培養して新鮮な細胞培養フラスコに入れ、細胞培養物の80%〜90%を新鮮な培地で置き換えることにより、細胞を10
5〜10
6個/mlの細胞密度に維持した。HL-60細胞を4ヶ月以上培養することはなかった。
【0277】
殺菌アッセイの4日前に、40mlの培地中の8×10
6個のHL-60細胞に310μlのジメチルホルムアミド(Sigma-Aldrich社、ドイツ国)を添加することによってHL-60細胞を分化させた。細胞を37℃で4日間インキュベートした。
【0278】
殺菌アッセイの当日、LBに含まれるA.バウマニの一晩培養物を3mlの新鮮なLB培地の中で1:150に希釈し、37℃かつ200rpmで3時間インキュベートすると、OD
600が0.5〜1.5になった。0.1(w/v)%のBSAを含むあらかじめ室温に温めたIMDMの中でこの培養物を希釈してOD
600を3.8×10
-6にした。抗体または血清と、それに対応する対照を同様にしてPBSの中で希釈した。96ウエル細胞培養プレートの1つのウエルの中で、希釈した各抗体(20μl)を80μlの細菌懸濁液とまとめた。抗体の濃度は、使用したA.バウマニ株、血清、抗体によって異なっていた。ウサギ免疫血清(αCsuAB)またはナイーブ・ウサギ血清からの全IgGの抗体(ATCC1960とCsuE KO6については0.5μg/ウエル、Ruh134については5μg/ウエル)を使用した。
【0279】
抗体と細菌を37℃にて130rpmで20分間インキュベートした。分化したHL-60細胞(60μl)または培地と、補体としての20μlの子ウサギ血清(BSR)(Charles River Wiga GMBH社、ドイツ国)、または56℃で40分間インキュベートすることによって以前に熱で不活性化したBRS(HBRS)を添加し、ウエルを37℃かつ130rpmで120分間インキュベートした。コロニー形成単位(cfu)を以下のようにして求めた。各ウエルを完全に再懸濁させ、10μlの希釈していない懸濁液と、1:5に希釈した懸濁液をLBA上でプレーティングした。LBA-プレートを37℃インキュベートし、16〜20時間後にcfuをカウントした。
【0280】
結果を
図9Aと
図9Bに示す。
【0281】
実施例15:ペプチド/エピトープのマッピング
【0282】
ウサギ免疫血清と対応する免疫前血清のペプチド・マッピングは、Pepperprint GmbH社(ハイデルベルク、ドイツ国)がマイクロアレイ分析によって実施した。配列番号2、4、6、8、10、12、14、16から、5個、8個、15個のアミノ酸からなる可能なあらゆる直線状ペプチド断片が合成された。PEGMAコポリマー・フィルム上で断片をβ-アラニンとアスパラギン酸のリンカーで被覆した。配列番号2、4、6、8、10、12、14、16からのペプチド断片のデュープリケートからなるマイクロアレイを、ウサギ免疫前血清と、対応する組み換えタンパク質に対する特異的免疫血清で染色した(例えば配列番号12のペプチド断片で覆われたマイクロアレイを、配列番号2の組み換えタンパク質で免疫化したウサギの免疫前血清と免疫血清で染色した)。組み換えタンパク質の作製は実施例3と4に記載されている。免疫血清の作製は実施例5に記載されている。抗体染色手続きは以下のようにして実施した。ペプチド断片で覆われたペプチド・マイクロアレイを基準緩衝液(PBS、pH 7.4+0.05%のトゥイーン20)の中で30分間あらかじめ膨潤させ、ブロッキング緩衝液(Rocklandブロッキング緩衝液B-070)の中に30分間入れた後、1:1000に希釈したウサギ免疫前血清とともに500rpmで震盪させながら4℃で16時間インキュベートした。基準緩衝液の中で1分間ずつ2回洗浄した後、マイクロアレイを、1:5000に希釈した二次ヤギ抗ウサギIgG(H+L)DyLight680抗体で室温にて30分間染色した。ペプチド・マイクロアレイを基準緩衝液で1分間ずつ2回洗浄し、蒸留水でリンスし、空気流の中で乾燥させた。Odysseyイメージング・システムを21μmの解像度かつ緑/赤の強度を7/7にして用いて読み取りを実施した。読み取り後、対応する免疫血清を用いて事前膨潤ステップから始めて染色手続きを繰り返した。ブロッキング緩衝液の中でのインキュベーションは省略した。対応する免疫前血清と免疫血清の信号強度を比較した。PepSlide(登録商標)Analyzerからのソフトウエア・アルゴリズムを用いて各ペプチドの染色強度の中央値を計算し、デュープリケートを平均し、標準偏差を計算した。平均強度に基づいて強度マップを作成し、ペプチド・マップ中の特異的バインダを同定した。ペプチド・マップと強度マップは、ウサギ免疫血清と特異的に相互作用したコンセンサス・モチーフと顕著なペプチドを同定するためのマイクロアレイ走査の目視検査結果と相関していた。
【0283】
実施例15の結果
【0284】
ペプチド断片の免疫原性を確認するため、実施例15に記載されているようにしてマイクロアレイ分析を実施した。配列番号2、4、6、8、10、12、14、16を、5個、8個、15個のアミノ酸からなる線形ペプチド断片にし、特異的ウサギ免疫血清を用いて相互作用を分析した。すべてのウサギ免疫血清に対するこの方法により、さまざまな長さの抗体エピトープが同定された。大半のコンセンサス・モチーフは5個のアミノ酸で構成されていたが、他のものは長さがアミノ酸6個、または7個、または8個であった。対照として使用した免疫前血清は、無視できるバックグラウンドしか示さなかった。8個のアミノ酸からなる断片に基づくと、配列番号14に特異的な免疫血清は、単一エピトープ・コンセンサス・モチーフPVDFTVAI(配列番号36)を示したため、モノクローナル反応性を示す。