特表2015-501811(P2015-501811A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特表2015501811-リステリアの生物的防除方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-501811(P2015-501811A)
(43)【公表日】2015年1月19日
(54)【発明の名称】リステリアの生物的防除方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 63/00 20060101AFI20141216BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20141216BHJP
   A01N 25/04 20060101ALI20141216BHJP
   C02F 3/32 20060101ALI20141216BHJP
   A61L 2/16 20060101ALI20141216BHJP
   C12N 1/10 20060101ALN20141216BHJP
【FI】
   A01N63/00 F
   A01P3/00
   A01N25/04 102
   C02F3/32
   A61L2/16 Z
   C12N1/10
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-543933(P2014-543933)
(86)(22)【出願日】2012年12月3日
(85)【翻訳文提出日】2014年6月6日
(86)【国際出願番号】EP2012074248
(87)【国際公開番号】WO2013079722
(87)【国際公開日】20130606
(31)【優先権主張番号】1161111
(32)【優先日】2011年12月2日
(33)【優先権主張国】FR
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC
(71)【出願人】
【識別番号】514126153
【氏名又は名称】アモエバ
【氏名又は名称原語表記】AMOEBA
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(72)【発明者】
【氏名】プラッソン、ファブリース
(72)【発明者】
【氏名】ボデネック、セレーナ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C058
4D040
4H011
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA86X
4B065CA47
4C058AA19
4C058AA23
4C058AA24
4C058JJ02
4C058JJ21
4D040CC11
4H011AA02
4H011BA01
4H011BB21
4H011BC08
4H011BC18
4H011BC20
4H011BC21
4H011DA15
4H011DD01
4H011DE15
(57)【要約】
本発明は、ウィラーティアマグナ(Willaertia magna)種の原生動物を用いることを特徴とし、ヒト又は動物の体に適用される治療方法を除く、リステリア(Listeria)の増殖を抑制する方法に関し、また、そのような原生動物を含む消毒剤に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウィラーティア(Willaertia)属の原生動物を用いることを特徴とし、ヒト又は動物の体に適用される治療方法を除く、リステリアモノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)の増殖を抑制する方法。
【請求項2】
気体若しくは液体の流れ、又は固体表面が、ウィラーティア(Willaertia)属、特にウィラーティアマグナ(willaertia magna)種の原生動物を用いて処理されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記原生動物がATCCに寄託番号PTA7824で寄託された株、又はATCCに寄託番号PTA 7825で寄託された株に相当することを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
下水若しくは工業用水の配水管網、工業プラントの冷却回路、空調ネットワーク、又は工業製品の表面の消毒のために行われることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
水管内、又はヒト若しくは動物の食品に接触する可能性がある表面におけるバイオフィルムの形成を抑制するために行われることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ヒト又は動物の体に適用される治療に使用することを除き、リステリア(Listeria)の殺菌のためのウィラーティア(Willaertia)属、特にウィラーティアマグナ(willaertia magna)種の原生動物を含む消毒剤の使用。
【請求項7】
前記原生動物がATCCに寄託番号PTA7824で寄託された株、又はATCCに寄託番号PTA 7825で寄託された株に相当することを特徴とする請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記消毒剤が水溶液又は懸濁液の形態であることを特徴とする請求項6又は7に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リステリア(Listeria)、特にリステリアモノサイトゲネス(Listeriamonocytogenes)の生物的防除のための新規の方法に関し、また、リステリアモノサイトゲネスの増殖を抑制するための新規の組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
リステリアモノサイトゲネスは、リステリア属に属するグラム陽性菌である。ヒトにおいて、この細菌は、度々、致命的な予後となるリステリア症の原因となる(10)。生存者においては、深刻な後遺症が度々見られる。病原細菌は、腸関門及び胎盤関門を通過でき、胎児若しくは新生児の感染症、又は早産を引き起こし得る。リステリアモノサイトゲネスは、過去数年にわたって有病率が増加している神経浸潤性の感染症の主な原因である(5)(10)。従って、リステリア症の監視及び予防は、ますます重要な関心事となる。
【0003】
リステリアモノサイトゲネスは、広範に散在/分布する細菌であり、例えば土壌中、水中に存在し、また、植物に着生している。その細菌は、洗浄−消毒処理に対して優れた抵抗性を有し、食品加工産業の生産ユニット、又は例えば空調若しくは配水管網等で生存できる。
【0004】
一般に、この細菌の医学的重要性にもかかわらず、リステリアの生態に関する知見は相対的に限られたままである(1)。しかしながら、リステリアモノサイトゲネスは土壌、汚水又は工業排水から単離されたので(4)、自然環境下においてこの細菌は広範に分布する(15)こと、及び自由生活アメーバと共生する特性を有することが知られている。さらに、ヒトのマクロファージによる破壊に抵抗するためのリステリアモノサイトゲネスの能力は、寄生細菌とアメーバ性宿主との間の関係に関して得られた知見(6)の類推によって、その病原細菌が自然環境下で自由生活アメーバに抵抗し得るといった仮説を特定の科学者に提唱させ得る。従って、LyとMullerは、リステリアが自由生活アメーバに抵抗し得ることを提案した(6,9)。これらの仮説は、これらの著者が、リステリアモノサイトゲネスがアカントアメーバ属に属する自由生活アメーバの存在下で増殖できることを証明した際に立証された(9)(6)。さらに、アカントアメーバが病原細菌と共培養されると、アカントアメーバの被嚢が見られるので、アメーバ性宿主におけるリステリアモノサイトゲネスの細胞毒性効果が証明されていた(6,9)。Zhou等は、リステリアモノサイトゲネスが自由生活アカントアメーバカステラーニに抵抗する能力を有することを示すことができた(16)。リステリアモノサイトゲネスは、アメーバの被嚢形成又はアメーバの溶解の際にアメーバにより放出された生物物質の存在下で増殖できることが証明された(1)。この知見に関しての著者等は、それらの因子が、自然環境下でのリステリアの維持及び/又は増殖に有利な条件をリステリアに提供することを提唱した(1)。Pushkareva及びErmolaevaにより行われた他の実験では、他の自由生活原生動物(テトラヒメナピリフォルミス(tetrahymena pyriformis))にリステリアモノサイトゲネスが実際に内部移行することが証明された(11)。リステリアモノサイトゲネスによるテトラヒメナピリフォルミスへの寄生は、原生動物の被嚢形成を誘導する(11)。
これらの研究者等により得られたデータは、これらの原生動物の被嚢内に内部移行されたリステリアモノサイトゲネスが生存を維持し、それらの病原性を保持し、動物モデルへの感染を引き起こし得ることを示した(11)。
【0005】
従って、自由生活原生動物及びアメーバは、リステリアモノサイトゲネスのメンテナンス及び自然環境下でのその増殖を促進し、細菌病原性の発現を促進することにより、リステリアモノサイトゲネスの生態の重要な要素を構成することが明らかである。さらに、原生動物に感染し、それらの被嚢形態内で生存するリステリアの能力(11)は、原生動物が一般に用いられる殺菌処理に対するリステリアの抵抗性を増進する因子であることの強いインジケータとなる。アメーバの被嚢は実際に、一般に用いられる化学的及び/又は物理的殺菌処理に対する極めて強い抵抗性を示す(7,8,14)。細菌自体に本来備わっている抵抗性の発生(12,13)に加えて、原生動物の内部及びバイオフィルム内に存在する細菌(2)は、比較的に保護されており、それらの環境で増殖/コロニー形成を続け得るため、リステリアのリスクを防止するために一般に用いられる殺菌処理は十分でない。
【発明の概要】
【0006】
これに関連して、本発明者らは、アメーバ属のウィラーティアマグナ(Willaertia magna)がリステリアモノサイトゲネス細菌を根絶することを全く予想外に証明した。この殺菌効果は、リステリアモノサイトゲネスの媒介動物となり得る他のアメーバを捕食するウィラーティアマグナの既に証明された能力(3)に付加される。
【0007】
従って、本発明の対象は、まず、ウィラーティアマグナ属の原生動物を用いて、リステリア、特にリステリアモノサイトゲネスの増殖を抑制する方法である。本発明に係る方法は、ヒト又は動物の体に適用される治療方法を含まない。本発明に係る方法において、気体又は液体の流れに対して、ウィラーティアマグナ属の原生動物、特にウィラーティアマグナ種を用いて処理することが最も一般的である。
【0008】
本発明の目的のために、「リステリア」の用語は、リステリアのいずれかの種、特にリステリアモノサイトゲネスを意味する。
【0009】
本発明に係る方法は、特に、下水若しくは工業用水の配水管網、工業プラントの冷却回路、又は空調ネットワークの消毒に用いられ得る、又は表面消毒として用いられ得る。原生動物は、処理されるための管又はネットワークを循環する水又は液体に直接に加えられ得る。消毒されるための工業ネットワーク、煙突及びプラント、並びに工業製品の表面に、例えば、エアロゾルとしての水溶液の形態でそれらを噴霧できる。
【0010】
本発明において用いられる原生動物は、ATCCに寄託番号PTA7824として2006年8月26日に寄託された株、又はATCCに寄託番号PTA 7825として2006年8月26日に寄託された株と同一であることが有利であり、これらの2つの株は、フランス国立科学研究センター(CNRS;3 rue Michel Ange - 75794 Paris Cedex 16 / France)及びクロード・ベルナール・リヨン第1大学(43 Boulevard du 11 Novembre 1918 - 69622 Villeurbanne Cedex / France)の名義で寄託された。
【0011】
ATCCに寄託番号PTA7824で寄託された株、又はATCCに寄託番号PTA 7825で寄託された株に相当するウィラーティア属に属する原生動物は、本発明の不可欠な部分である。当該寄託された株であるPTA7824及びPTA 7825は、PCT国際出願公開WO2008/043969にも記載されている。
【0012】
そのような原生動物は、リステリア、特にリステリアモノサイトゲネス細菌を排除するために、また、リステリアの増殖及び汚染を抑制するために、消毒剤に用いられ得る。
【0013】
本発明の対象は、他の態様において、ウィラーティア属の原生動物、特にウィラーティアマグナ種を含む消毒剤である。ATCCに寄託番号PTA7824で寄託された株、又はATCCに寄託番号PTA 7825で寄託された株に相当する原生動物が好ましい。本発明に係る消毒剤は、例えば、蒸留水を用いた水溶液又は水性懸濁液の形態であることが有利である。消毒剤は、例えばエアロゾル又は他の適用方法といった噴霧可能な形態であってもよい。
【0014】
ウィラーティア属、特にウィラーティアマグナ種の原生動物におけるリステリアモノサイトゲネス増殖阻害活性は、アメーバモデルとして用いられたアカントアメーバ属及びハルトマンネラ属におけるリステリアモノサイトゲネスの複製をウィラーティアアメーバ属の場合と比較することにより、発明者らによって確認された。
【0015】
ヒト間での伝染が無いのでリステリア症の疫学の要件となる外部環境において、リステリア、特にリステリアモノサイトゲネスの増殖及び維持に対してアメーバに重要な役割を与える本発明に係る方法及び消毒剤は、特にコスト、有効性及び環境配慮の面で多くの利点を有する。
【0016】
以下の実施例は、本発明を詳説できるようにするものであり、特性を限定するものでない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、最初のアメーバ/細菌の比率を10としてリステリアモノサイトゲネスと共培養した後の、ハルトマンネラ、アカントアメーバ及びウィラーティアアメーバのそれぞれの数の自然な増殖を示す。材料及び方法の項で説明するように、種々の自由生活アメーバがリステリアモノサイトゲネスと比率10(10細菌/1アメーバ)で共培養される(0時間)。細胞懸濁液のアリコートは、共培養されてから3時間毎に取られ、生存しているアメーバの割合はトリパンブルー色素排除試験及びMalassezセルを用いた顕微鏡観察により測定された。そのデータは、トリパンブルー色素排除試験の陰性である生存細胞の%として表される。
図2図2は、ウィラーティア属を含む種々のアメーバ属との共培養で得られたリステリアモノサイトゲネスの増殖の速度の比較を示す。種々の自由生活アメーバがリステリアモノサイトゲネスと比率10(10細菌/1アメーバ)で共培養される(0時間)。細胞懸濁液のアリコートは、共培養されてから3時間毎に取られ、リステリアモノサイトゲネスの濃度が材料及び方法の項で示されるように測定される。
図3図3は、リステリアモノサイトゲネスにより形成されたバイオフィルム上のウィラーティアマグナの殺菌効果を示す。また、この図は、自由生活アカントアメーバカステラーニ及びハルトマネラベルミフォーミス(Hartmanella vermiformis)アメーバの効果が無いことを示す。リステリアモノサイトゲネスは、TSA寒天培地上に播種され、その寒天培地上で細菌の高密度のバイオフィルムの形成を確実にするために30℃で48時間培養された。その後、100μlの無菌脱イオン水に再懸濁された1×10のアメーバ(アカントアメーバカステラーニ;パネルA、ハルトマネラベルミフォーミス;パネルB、ウィラーティアマグナ;パネルC及びD)が寒天培地の中央に播種される。30℃で24時間後、その寒天培地は、アメーバの外形、及びバイオフィルム上におけるその感染を測定するために顕微鏡で観察された。A:白い矢印はリステリアモノサイトゲネス(L.m.)の存在下でアカントアメーバカステラーニにより形成された被嚢の群の外形を示す。アメーバの被嚢の群の周辺に細菌層の溶解プラークが無いことに着目されるべきである。B:ハルトマネラベルミフォーミスの多くの被嚢形状の存在が見られ、そのいくつかの例が白い矢印により示されている。また、ハルトマネラベルミフォーミスの被嚢の周辺に高密度のリステリアモノサイトゲネスが見られ、細菌のバイオフィルム溶解プラークが見られない。C:リステリアモノサイトゲネスにより形成された生体膜上のウィラーティアマグナの効果を示す。白い矢印はバイオフィルム溶解プラークの前に位置されたウィラーティアマグナ栄養体の群を示す。ウィラーティアマグナの群の上流に細菌膜(顕微鏡写真の左下の白い円で囲まれた領域)が無く、アメーバの群の下流(顕微鏡写真の右上)に高密度の細菌膜(L.m.で示される)が見られる。D:もう一つの顕微鏡写真は、リステリアモノサイトゲネスにより形成されたバイオフィルムの溶解プラークの形成を示す。ウィラーティアの群及び細菌のバイオフィルム溶解プラーク面(白いポイントで示す)が見られる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.材料及び方法
1.1.用いた株
リステリアモノサイトゲネス(Listeria monocytogenes):用いられた菌株はCL3970菌株(Oxoid,France)である。
【0019】
その菌株は、TSA(Tryptone Soya Agar) (ref PO 5012, Oxoid, France)で維持され、1週間に一度、継代培養される。その菌株は、TSA上に広い縞状に播種され、30℃で2日間培養される。
【0020】
アメーバ:以下の3つの異なるアメーバ種に属する株が用いられる:
・ハルトマンネラベルミフォーミス(Hartomannella vermiformis)
・アカントアメーバカステラーニ(Acanthamoeba castellanii)(ATCCに30010番で寄託されている株)
・ウィラーティアマグナ(Willaeriamagna)(ATCCに寄託番号PTA 7824及びPTA 7825で寄託されている株)。
【0021】
これらの3つの株は、Falcon(登録商標)チューブ(3033)に3mlずつ分注された10%ウシ胎児血清を含むSCGYEM培地(Serum Casein Glucose Yeast Extract Medium)により無菌状態で培養される。その維持において、増殖型は8〜9日毎に継代維持される。共培養のために、対数増殖期において適切に栄養体が存在するように3〜4日の継代維持が用いられる。
【0022】
SCGYEM培地は以下の材料で得られる:
カゼイン(Merck 1.02244.010) 10g
NaHPO1.325g
KHPO 0.8g
グルコース 2.5g
酵母エキス(Difco 0127-17-9) 5g
蒸留水 900ml
ウシ胎児血清 100ml。
【0023】
2.5mlのNaOH(1N)、NaHPO及びKHPOは900mlの蒸留水に加えられる。その混合液は、ホットプレート上で少し温められ、マグネチックスターラーを用いながらカゼインが徐々に加えられる。カゼインが溶解した後に、酵母エキスが加えられる。
【0024】
完全に溶解した後に、混合液は、グラスファイバ(Sartorius SM 6513400)、その後に1μmメンブレン(Whatman7190 004)を用いて連続的に濾過される。その後、その培地はガラス瓶にアリコートされる。その瓶は、120℃で20分間のオートクレーブにより滅菌される。培地の最終的な使用及び分配の前に、クリーンベンチ内で血清の割合が10%となるように、ウシ胎児血清が無菌的に加えられる。
【0025】
1.2.リステリアモノサイトゲネスの単一アメーバとの共培養
1.2.1.接種菌の調製
無菌蒸留水とリステリアモノサイトゲネスとの懸濁液は、550nmにおいて吸光度単位が1である、すなわち10CFU(colony-forming units)/mlとなるように、TSAで2日間培養されたものから調製される。
【0026】
1.2.2.単一アメーバとの共培養の実施
共培養は、オートクレーブによる無菌水を3ml含む細胞培養チューブで行われる(Falcon3033)。予めMalassez血球計算盤でカウントされた無菌のアメーバ懸濁液から、1×10アメーバ/mlの割合でそのチューブへの播種が行われる。リステリアモノサイトゲネスによるアメーバへの寄生は、リステリアモノサイトゲネス/アメーバ比が10となる、すなわち培養培地において1×10細菌/mlとなるようにして行われる。寄生後すぐに、共培養チューブは、アメーバと細菌との接触を促進するために低速(760gで10分)で遠心機にかけられる。10分後、そのチューブは、手動で再懸濁され、30℃のインキュベータ内において傾けられた状態で培養される。
【0027】
共培養されたアメーバ及びリステリアモノサイトゲネスの結果は、以下の方法により決定される。
【0028】
共培養は、細菌の播種後に9時間観察される。それぞれの期間(3時間毎)において、共培養チューブは、壁からアメーバを脱離するためのボルテックスによる激しい攪拌後に、アメーバの観点及び細菌の観点の両方からサンプリング及び試験がなされる。各チューブにおいて以下のことが行われる。アメーバは、Malassezセルで直接にカウントされる。リステリアモノサイトゲネス濃度は、エッペンドルフマイクロチューブにおいて、無菌蒸留水で10倍段階希釈後に、TSAの培養培地に直接に播種することにより測定される。各希釈液は、1プレート毎に100μlの割合でTSAにトリプリケートで播種される。そのプレートは、30℃で最低48時間インキュベートされる。TSAの最初の測定は、播種後24時間にコロニーをカウントすることにより行われ、確認のために2日目に第2測定がなされる。リステリアモノサイトゲネスの濃度は、希釈係数を考慮し、各コロニーが希釈懸濁液中に最初に存在する1つの細菌に対応すると想定して、培養培地のCFU/mlで表される。
【0029】
各アメーバ属と共生するリステリアモノサイトゲネスの増殖曲線は、時間の関数として表される。
【0030】
さらに、種々のアメーバ種におけるリステリアモノサイトゲネスの考えられる細胞毒性は、以下の方法で測定される。トリパンブルー色素排除試験において陽性であるアメーバの割合をカウントする。この試験は、トリパンブルー陽性細胞/細胞総数の数を、顕微鏡を用いてMalassezセルでカウントすることにより行われる。また、リステリアモノサイトゲネスの存在下で被嚢形成されるアメーバの傾向を判定する。
【0031】
1.3.リステリアモノサイトゲネスのバイオフィルムにおけるウィラーティアの効果
リステリアモノサイトゲネスのバイオフィルムは、以下の方法で形成される。100μlの無菌水に含まれた所定量のリステリアモノサイトゲネスは、TSA上に置かれ、播種される。その寒天培地は、寒天培地の表面全体に密集した均一の細菌の膜が生じるように、30℃で48時間置かれる。その後、1×10のアメーバ(アカントアメーバカステラーニ、ハルトマネラベルミフォーミス又はウィラーティアマグナ)は、寒天培地の中央に播かれ、30℃で24時間置かれる。その後、寒天培地は、そこで生じ得る細菌層溶解プラークの形成を検出するために光学顕微鏡(倍率×400)で観察される。
【0032】
2.結果
2.1.ウィラーティアマグナはリステリアモノサイトゲネス抵抗性を示す
試験された種々のアメーバ種の生存におけるリステリアモノサイトゲネスの影響は、トリパンブルー色素排除試験により測定された。アカントアメーバカステラーニを細菌と共培養した後、このアメーバ種において、共培養の3時間後の生存率が50%にまで低下するといった大きい細胞毒性効果が見られる(図1参照)。逆に、この現象は、ウィラーティアマグナをリステリアモノサイトゲネスと共培養したときには見られず、9時間培養しても100%に近い生存率が維持されている(図1)。ウィラーティアマグナと同様に、自由生活ハルトマネラベルミフォーミスアメーバでは、トリパンブルー色素排除試験により測定された生存率に関して減少が見られない(図1)。しかしながら、アメーバとリステリアモノサイトゲネスとの共培養における顕微鏡観察では、ハルトマネラベルミフォーミス及びアカントアメーバカステラーニの生存体に被嚢形成の強い傾向があることが見られる(表1を参照)。この被嚢形成現象は、ウィラーティアマグナを病原細菌と共培養した場合では見られない(表1)。
【0033】
【表1】
【0034】
自由生活アメーバは、材料及び方法の項に記載されているように、比率を10として(10バクテリア/1アメーバ)、リステリアモノサイトゲネスと共培養される。その細胞懸濁液のアリコートは、上記表に示されるように共培養後3時間毎に取られる。アメーバの被嚢密度は、以下の方法で表される:
ND:被嚢は検出されず; +:被嚢が存在する(生存体の10%未満の割合); ++:被嚢が存在する(生存体の10%〜30%の割合); +++:被嚢が存在する(生存体の30%を超える割合)。
【0035】
これら全ての観察(リステリアモノサイトゲネスにより誘導される被嚢形成及び細胞毒性が無い)は、ウィラーティアマグナが他のアメーバ種とは反対に、リステリアモノサイトゲネスに抵抗する能力を示すことを証明する。
【0036】
2.2.ウィラーティアマグナによるリステリアモノサイトゲネスの捕食
ハルトマンネラ及びアカントアメーバ属に属するアメーバの存在下で行われるリステリアモノサイトゲネスの共培養の結果は、9時間後において細菌濃度が3log程度の増加が見られるため(図2参照)、それら2つのアメーバ属の存在下における細菌のかなりの増殖を証明する。反対に、全く同一の条件で行われるにもかかわらず、ウィラーティアマグナアメーバの存在下において、検出可能なリステリアモノサイトゲネスの完全な消失が見られる(図2参照)。測定されるリステリアモノサイトゲネスの濃度の減少は、3時間で6Logであり、リステリアモノサイトゲネスに対するウィラーティアマグナの強力な捕食効果を証明する。
【0037】
このリステリアモノサイトゲネスに対するウィラーティアマグナの効果は、さらに図3に示される。ウィラーティアマグナの存在下で24時間後に、細菌層が消失した寒天培地の表面が明確に見られる(これらの領域は、細菌層/バイオフィルム溶解プラークを示す)。また、顕微鏡検査は、ウィラーティアマグナがこの溶解プラークの境界に集中されることを示す;この効果は図3のパネルCに示される。ウィラーティアマグナによる細菌層の破壊は、図3のパネルDに示され、破壊された又は破壊される途中にある細菌層により囲まれたアメーバの群は、明確に区別される。逆に、アカントアメーバカステラーニ又はハルトマネラベルミフォーミスの存在下において、この現象は全く見られなかった。寒天培地の顕微鏡検査は、アカントアメーバカステラーニ及びハルトマネラベルミフォーミスアメーバがリステリアモノサイトゲネスのバイオフィルムに堆積するとすぐに被嚢形成することを示す。この現象は、図3のパネルA及びBに示される。ウィラーティアマグナでは観察された現象とは逆に、アカントアメーバカステラーニ及びハルトマネラベルミフォーミスの被嚢の周辺に細菌層の溶解プラークが全く無いことが確認される。これらの全てのデータ及び結果は、病原細菌であるリステリアモノサイトゲネスに対するウィラーティアマグナの捕食効果を明確に示す。
【0038】
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図1
図2
図3
【国際調査報告】