特表2015-503577(P2015-503577A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エルブイエムエイチ レシェルシェの特許一覧

特表2015-503577クニフォフィア・ウバリア種子の抽出物、それを含有する化粧用又は皮膚用組成物、並びにそれらの使用
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-503577(P2015-503577A)
(43)【公表日】2015年2月2日
(54)【発明の名称】クニフォフィア・ウバリア種子の抽出物、それを含有する化粧用又は皮膚用組成物、並びにそれらの使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/97 20060101AFI20150106BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20150106BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20150106BHJP
   A61K 36/896 20060101ALI20150106BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20150106BHJP
   A61P 17/18 20060101ALI20150106BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20150106BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20150106BHJP
【FI】
   A61K8/97
   A61Q19/00
   A61Q19/08
   A61K35/78 V
   A61P17/16
   A61P17/18
   A61P29/00
   A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2014-550745(P2014-550745)
(86)(22)【出願日】2013年1月2日
(85)【翻訳文提出日】2014年8月27日
(86)【国際出願番号】FR2013050001
(87)【国際公開番号】WO2013102727
(87)【国際公開日】20130711
(31)【優先権主張番号】1250077
(32)【優先日】2012年1月4日
(33)【優先権主張国】FR
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC
(71)【出願人】
【識別番号】502189579
【氏名又は名称】エルブイエムエイチ レシェルシェ
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(74)【代理人】
【識別番号】100148596
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 和弘
(72)【発明者】
【氏名】ペシェル, ヴァージニー
(72)【発明者】
【氏名】ルプランク, ヴァージニー
(72)【発明者】
【氏名】コリン, アン−ソフィ
(72)【発明者】
【氏名】フランチ, ジョセリン
(72)【発明者】
【氏名】レニメル, イサベル
(72)【発明者】
【氏名】ラズ, クリステル
【テーマコード(参考)】
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4C083AA082
4C083AA111
4C083AA112
4C083AB032
4C083AC022
4C083AC072
4C083AC112
4C083AC172
4C083AC332
4C083AC402
4C083AC422
4C083AC532
4C083AD022
4C083AD092
4C083AD152
4C083AD352
4C083BB01
4C083BB21
4C083BB41
4C083BB44
4C083BB47
4C083BB48
4C083CC05
4C083DD31
4C083EE12
4C083EE13
4C083FF01
4C083FF05
4C088AB85
4C088AC04
4C088BA08
4C088CA02
4C088CA09
4C088CA10
4C088MA28
4C088MA63
4C088NA14
4C088ZA89
4C088ZB11
4C088ZC02
(57)【要約】
本発明は、特に、クニフォフィア・ウバリア植物の種子の新規抽出物であって、好ましくは、少なくとも1種の化粧学的に許容される非極性溶媒(特に超臨界条件下のCO)と接触させることによって又は機械的圧搾によって得られる抽出物に関する。本発明はまた、前記抽出物を含む化粧用又は皮膚用組成物に関する。本発明はまた、皮膚老化の徴候の出現を阻止する若しくは遅延させるため、又は敏感肌の反応性を調節するため、又は皮膚のバリア機能を維持するための化粧学的又は皮膚科学的ケア方法であって、前記組成物を塗布するステップを含む方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クニフォフィア・ウバリア(Kniphofia uvaria)植物の種子の抽出物であって、前記種子の機械的圧搾によって、或いは前記種子を少なくとも1種の化粧学的又は皮膚科学的に有利に許容される非極性溶媒と接触させ、その後、前記溶媒を除去することによって得られる、抽出物。
【請求項2】
非極性溶媒は、無置換又は1個若しくは複数の塩素原子で置換された直鎖状、分岐鎖状又は環状の飽和アルカン、有利にはC又はCアルカンから選ばれる、請求項1に記載の抽出物。
【請求項3】
非極性溶媒は、35℃〜80℃の温度及び7.4×10Paを上回る圧力の超臨界状態の二酸化炭素である、請求項1に記載の抽出物。
【請求項4】
機械的圧搾は、予備粉砕されていない種子の全体に対して低温条件下で行われる、請求項1に記載の抽出物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の抽出物と、顔料、染料、ポリマー、界面活性剤、レオロジー剤、香料、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、及びそれらの任意の混合物から選ばれる少なくとも1種の化粧学的又は皮膚科学的に許容される添加剤と、を含む化粧用又は皮膚用組成物。
【請求項6】
組成物の総重量に対して乾燥重量で0.0001%〜10%、好ましくは乾燥重量で0.01%〜5%の抽出物を含む、請求項5に記載の化粧用又は皮膚用組成物。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の少なくとも1種の抽出物の化粧用又は皮膚用組成物であって、
(特に紫外線により惹起又は加速される)皮膚老化の徴候の出現を阻止する又は遅延させるための薬剤として、及び/又は
抗炎症剤として、及び/又は
皮膚の弾力性又はハリを改善するための薬剤として、及び/又は
保湿剤として
使用するための組成物。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の少なくとも1種の抽出物の化粧用又は皮膚用組成物であって、
メタロプロテイナーゼ及びPro−MMP1の分泌を阻害するための薬剤として、及び/又は
ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)アゴニストとして
使用するための組成物。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の少なくとも1種の抽出物の化粧用又は皮膚用組成物であって、
(特に紫外線照射により加速される)分解から細胞外マトリックスを保護するための薬剤として、
(特に表皮脂質の合成を刺激することによって)角質層を強化するための薬剤として、
内因性フリーラジカル若しくは紫外線照射により生成されたフリーラジカルによりストレスを与えられた細胞及び/又は老化細胞による分泌物に関連する、皮膚に有害な慢性炎症のプロセスを制限するための薬剤として、
皮膚のバリア機能の崩壊に寄与する、脂質の産生の減少を伴う(老化に関連する可能性がある)皮膚障害(特に皮膚の乾燥の問題)を処置するために、
(特に剥脱又は剥離の際に)(例えば紫外線照射又はアルファ−ヒドロキシ酸の使用の影響で)ヒリヒリする皮膚を鎮静させるために
使用するための組成物。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の少なくとも1種の抽出物の化粧用又は皮膚用組成物であって、皮膚の内因性又は外因性老化の徴候の処置において、及び/又はストレスを与えられた細胞及び/又は老化した細胞による分泌物に関連する、皮膚に有害な慢性炎症のプロセスの処置において使用するための組成物。
【請求項11】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の少なくとも1種の抽出物の化粧用又は皮膚用組成物であって、患者の敏感肌の皮膚反応性及び/又は皮膚のヒリヒリ感の処置において使用するための組成物。
【請求項12】
皮膚老化を遅延させる又はその効果を低減させるための化粧学的ケア方法であって、老化の徴候(例えば皺又はたるみ)を示す顔又は身体の皮膚の少なくとも一部に有効量の請求項5又は6に記載の組成物を塗布するステップを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クニフォフィア・ウバリア(Kniphofia uvaria)植物の種子の抽出物、前記抽出物を含む化粧用又は皮膚用組成物、並びに(特に抗老化剤又は抗炎症剤としての)それらの使用に関する。
【先行技術】
【0002】
クニフォフィア・ウバリア植物は、ユリ科(Liliacea)(従来の分類)及びツルボラン科(Asphodelaceae)(系統学的分類)の、根茎を有する多年生の種である。この耐寒性の種は、1メートルの長さに達することもある細く折れ曲がった葉を有する。花序は、炎のような鮮やかな色を有する多数の管状の花で構成された穂状花序を形成する。
【0003】
1年のうちの2か月間、花は、基本的に水、アミノ酸、グルコース、フルクトース、無機塩及び微量元素を含有する大量の花蜜を産生する。この花蜜は、それ故、細胞の栄養に必要とされるすべての基本的要素を含有し、その上、フリーラジカルにより引き起こされる脂質過酸化に対抗する酵素であるスーパーオキシドジスムターゼも含有する。
【0004】
その組成を考慮すると、クニフォフィア・ウバリアの花の花蜜は皮膚に深く栄養を与えて再活性化するため、乾燥肌のケアに特に適しており、既に、再生及び再活性化用の化粧学的ケア製品に取り入れられている。他の化粧学的ケア製品では、抗老化活性物質と組み合わせてその作用を補うことも提案されている。
【0005】
本出願人は、驚くべきことに、クニフォフィア・ウバリア植物の種子の抽出物それ自体が抗老化活性を有し、そのため、皮膚老化に対抗するためのケア製品を提供するためにこの特定の抽出物に他の抗老化活性物質を加える必要がないことを実証した。
【0006】
現在のところ、クニフォフィア・ウバリア植物の種子を用いた抽出プロセスに関する記載はない。それ故、そのような抽出物が化粧学的活性を示すことを実証したことは特に驚くべきことである。
【0007】
本発明の発明者らは、第1に、クニフォフィア・ウバリア植物の種子の抽出物、特にこの種子の親油性抽出物が、細胞外マトリックス分解(これは、UV(紫外線)照射により特に加速される。)の原因となる主要酵素であるプロマトリックスメタロプロテアーゼ1型(pro−MMP1)の産生を減少させることを実証した。
【0008】
同様に、本発明の抽出物による線維芽細胞のin vitro処理が、細胞外マトリックスタンパク質分解の原因となる酵素であるメタロプロテイナーゼ、特にMMP−2及びMMP−9の発現の強い阻害をもたらすことが示された。
【0009】
本発明の抽出物はペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)(表皮ではβ/δが優勢である。)のアゴニストであることも実証された。アゴニストとPPAR受容体とのこのような相互作用は、特にケラチノサイト分化に関与する標的遺伝子の転写の活性化をもたらす。すなわち、このプロセスは、特に、表皮脂質の合成を刺激することによって、或いは層状体の形成及び分泌を増加させることによって、或いは角質層における脂質の細胞外分泌の機序に関与する酵素の活性を増加させることによって角質層を形成させる(Schmuth M.et al., J.Lipids Res.,2008, 49, 499−509)。
【0010】
PPARはその抗炎症活性(Man M.et al. 2008,J.Invest.Dermatol.,128, 370−377)でも知られており、特に好中球−内皮細胞相互作用を標的とする(Piqueras L.et al. 2009,J. Leucocyte Biol.,86, 115−122)ことで知られている。
【0011】
さらに、老化細胞の炎症誘発性表現型は組織恒常性を崩壊させることから、老化した組織の微小炎症状態(又は無菌性(sterile)炎症の概念)はますます認識されている。MMPは、周囲の細胞及び組織に有害な慢性炎症の供給源として老化細胞によって分泌される因子である(Freund A.et al., 2010,Trends Mol.Med.,16, 238−246)。
【0012】
最後に、本抽出物は、皮膚老化、皮膚及び組織の水分補給状態、或いは皮膚のハリ(firmness)及び/又は弾力性のレベルに関連する複数の生物学的プロセスに関与するいくつかのタンパク質をコードする遺伝子の発現を調節する性質を有することが本発明者らにより示された。
【0013】
これらの標的に対する活性により、そのような抽出物は、特に、皮膚老化に対抗するため、ハリの維持に寄与するため、及び/又は皮膚のバリア機能を維持するための化粧用又は皮膚用組成物における活性物質としての使用に関して関心対象となる。
【0014】
さらに、本発明の抽出物が、油様の稠度(consistency)を有する場合、これを化粧料用添加剤、特に化粧用組成物の脂肪相の質感改良剤(texturing agent)として使用することが特に有利である。
【発明の目的】
【0015】
本発明の主たる目的は、植物起源の新規抽出物を提供することである。特に、化粧用又は皮膚用組成物(特に、皮膚老化の徴候の出現を阻止する若しくは遅延させるため又はその効果を遅延若しくは低減させるための化粧用又は皮膚用組成物)における活性物質及び/又は添加剤として使用可能な、植物起源の新規抽出物を提供することである。
【0016】
本発明の目的はまた、UVへの皮膚細胞の曝露により誘導される効果(例えば細胞外マトリックス分解)、及び/又は最終的な有害微小炎症状態の定着に対抗するため、或いは皮膚のハリ及び/又はバリア機能の維持に寄与するための植物起源の新規抽出物を提供することである。
【0017】
本発明の目的はまた、上記新規抽出物を含有する化粧用組成物、及び上記組成物を用いた化粧学的ケア方法を提供することである。本発明はまた、上記新規抽出物を含有する皮膚用組成物を提供する。
【0018】
最後に、本発明の目的は、特に化粧品産業における産業規模で使用可能な単純かつ比較的安価な解決手段によってすべての技術的課題を解決することである。
【発明の説明】
【0019】
すなわち、第1の態様において、本発明は、クニフォフィア・ウバリア植物の種子の抽出物に関する。本抽出物は、前記種子を少なくとも1種の非極性溶媒、好ましくは化粧学的又は皮膚科学的に許容される溶媒と接触させることによって、或いは前記種子の機械的圧搾によって得ることができる。
【0020】
「非極性溶媒」とは、その分子構造における、電気双極子を形成する極性基の非存在により、或いは極性基の存在下において双極子モーメントが互いを無効化するその分子構造によりその双極子モーメントがゼロである、液体状態の化合物を意味する。
【0021】
種子抽出物は好ましくは親油性抽出物である。「親油性抽出物」とは、種子を非極性溶媒と接触させることによって、又は種子の機械的圧搾によって得られる抽出物を意味する。好ましい一実施形態において、種子抽出物は、外界温度(25℃)において液体の油である。
【0022】
溶媒抽出ステップ又は機械的圧搾に先立ち、収穫された種子は乾燥及び/又は粉砕され得る。
【0023】
そのような抽出プロセスにおいて使用可能な非極性溶媒は、有利には、二酸化炭素(CO)、及び無置換又は1個若しくは複数の塩素原子で置換された化粧学的又は皮膚科学的に許容される直鎖状、分岐鎖状又は環状の飽和アルカン、有利にはC又はCアルカンから選ばれ得る。
【0024】
本発明の対象はまた、抽出溶媒が亜臨界又は超臨界状態の二酸化炭素である抽出プロセスによって得られる、クニフォフィア・ウバリア植物の親油性植物抽出物である。使用される植物の部分は好ましくは種子である。
【0025】
流体の超臨界状態は、加えられる温度が臨界温度(Tc)を上回り、加えられる圧力が臨界圧(Pc)を上回る温度及び圧力条件に付された場合の該流体の状態として定義され、上述の臨界値は各流体に特異的である。
【0026】
二酸化炭素に関して、臨界温度Tcは31℃に等しく、臨界圧Pcは7.38×10Paに等しい。
【0027】
一実施形態において、二酸化炭素は、35℃〜80℃の温度及び7.4×10Paを上回る圧力の超臨界状態にある。
【0028】
亜臨界状態は、流体に付される温度が臨界温度(Tc)(二酸化炭素はTc=31℃)を下回る(重要ではないが、圧力は臨界圧(二酸化炭素はPc=7.38×10Pa)を下回っても上回ってもよい)場合の流体の状態として定義される。
【0029】
温度及び圧力条件は、二酸化炭素を所望の状態に置くよう調整される。しかし、圧力は、気圧(1atm=0.101×10Pa)の最大300倍の値を示し得るが、超臨界状態の二酸化炭素による抽出には好ましくは8×10Pa〜30×10Paの圧力が使用され、亜臨界状態の抽出には好ましくは6.5×10Pa〜10×10Paの圧力が使用される。
【0030】
有利には、二酸化炭素は、7.4×10Paを上回る、好ましくは18×10Pa以上の、特に好ましくは25×10Pa以上の圧力に圧縮される。
【0031】
より有利には、抽出は35℃〜80℃の温度で行われる。
【0032】
好ましくは、抽出は、超臨界状態の二酸化炭素による抽出である。
【0033】
そのような抽出プロセスにおける任意選択の及び/又は追加的な手段として、二酸化炭素とともに生成された混合物の極性を改変するための、及び/又は超臨界若しくは亜臨界状態の二酸化炭素にごく僅かに可溶性である若しくは不溶性である特定の分子に関する溶解能を強化するための、及び/又は生成された混合物のエントレインメントを容易にするための共溶媒又はエントレインメント剤として有機溶媒が使用され得る。
【0034】
例えば、二酸化炭素とともに生成された混合物の極性を改変するために使用可能な共溶媒としてエタノールが挙げられ、或いはエントレインメント剤として使用可能な溶媒として、脂肪酸エステル(例えば、炭酸ジカプリリル(Cetiol CC(登録商標),Cognis GmbH)、イソノナン酸セテアリル(Cetiol SN(登録商標),Cognis GmbH)、又はトリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル(caprylic/capric triglyceride)(Mygliol 812(登録商標),Huls AG))が挙げられる。
【0035】
抽出プロセスにおいてこれら溶媒のうちのいずれかが使用される場合、その濃度は、有利には、抽出に使用される二酸化炭素の重量に対して重量で5%以下である。
【0036】
実際の抽出ステップの終了時において、圧力及び任意選択で温度を低下させることによる拡張期は、二酸化炭素を亜臨界又は超臨界状態から気体状態へと移行させる。それにより、得られた抽出物から二酸化炭素を完全に除去することが可能となる。エントレインメント剤又は共溶媒として任意選択で使用された有機溶媒もこのステップにおいて除去される。
【0037】
抽出プロセスは、抽出溶媒の部分的又は完全除去のステップにより完了させてもよい。
【0038】
この乾燥ステップは、好ましくは、(有利には減圧下、)得られた抽出物を凍結乾燥する操作を行う又は加熱を行うステップからなる。
【0039】
抽出物の官能的側面を改善するため、抽出物を得るためのプロセスは、有利には、水蒸気蒸留による又は分子蒸留による又は活性炭での脱色による脱臭及び/又は脱色ステップを含み得る。
【0040】
好ましい抽出物は、(好ましくは共溶媒の非存在下、)クニフォフィア・ウバリア植物の種子を亜臨界又は超臨界状態の二酸化炭素と接触させることによって得られる。
【0041】
好ましい一実施形態において、予備乾燥された種子が使用される。
【0042】
一実施形態において、抽出は、35℃〜80℃の温度で、特に好ましくは60℃で行われる。有利には、植物の種子の抽出は、60℃の温度及び290bar(29×10Pa)の圧力で行われる。
【0043】
非極性溶媒を用いた抽出プロセスの一代替法において、本発明の抽出物は、植物の種子を機械的圧搾に付すことによって得ることができる。この圧搾は、有利には低温条件下、好ましくは未粉砕の種子(これは予備乾燥されていてもよい。)に対して行われる。
【0044】
本発明の別の対象は、化粧用又は皮膚用組成物における活性物質及び/又は添加剤としての、クニフォフィア・ウバリア植物の種子の植物抽出物、好ましくは種子の油抽出物の使用に関する。
【0045】
この抽出物は化粧用途に特に適しており、特に、少なくとも1種の脂肪相を含む化粧用組成物における使用に適している。その稠度は、この抽出物を、化粧用組成物、特に、少なくとも1種の脂肪相を含む又は脂肪相からなる化粧用組成物における添加剤としての使用に関してより大きな関心の対象とする。
【0046】
第2の態様において、本発明は、前述の抽出物と、少なくとも1種の化粧学的又は皮膚科学的に許容される添加剤と、を含む化粧用又は皮膚用組成物に関する。
【0047】
組成物は、好ましくは、所望の効果を得るための有効量の抽出物を含む。すなわち、組成物は、好ましくは、組成物の総重量に対して乾燥重量で0.0001%〜10%、好ましくは0.01%〜5%の抽出物を含む。乾燥重量によるパーセンテージは、抽出溶媒を含まない又は微量の抽出溶媒を含む抽出物の重量に基づいて表される。
【0048】
例として、親油性植物抽出物は、水中油型エマルション(例えばスキンケアクリーム)の脂肪相に、又は仕上げ用組成物(例えばリップスティック又はマスカラ)の脂肪相に含有され得る。
【0049】
これら組成物は水相を含み得、或いは実質的に無水であり得る(すなわち、ごく微量の残渣的な水を含有し得る)。
【0050】
本発明の抽出物は、化粧用又は皮膚用組成物において、本発明の前記抽出物の効果と類似の及び/又はそれに相補的な化粧学的効果を有する、精製分子及び/又は抽出物(特に植物抽出物)の形態の他の化粧学的に許容される活性物質と組み合わせることができる。
【0051】
そのような活性物質は、皮膚美白活性を有する物質;痩身活性を有する物質;保湿活性を有する物質;鎮静又はリラクゼーション活性を有する物質;肌(特に顔)の輝きを改善するための、皮膚微小循環刺激活性を有する物質;油性肌のケアのための、皮脂調節活性を有する物質;皮膚を洗浄又は浄化するための物質;フリーラジカル捕捉活性を有する物質;皮膚の構造の維持を促進すること、及び/又は真皮及び表皮の表層の細胞外マトリックスの分解を制限すること、及び/又は皮膚に対する保護、修復若しくは再構築効果を得ることを目的とする活性によって皮膚老化の効果(特に皺の形成)を低減又は遅延させるための物質;抗炎症活性を有する物質から選ばれ得る。
【0052】
有利には、本発明の組成物は、顔料(pigment)、染料(dye)、ポリマー、界面活性剤、レオロジー剤、香料、電解質、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、及びそれらの任意の混合物から選ばれ得る少なくとも1種の化粧学的又は皮膚科学的に許容される添加剤も含む。
【0053】
組成物は、例えば、セラム、ローション、クリーム、ハイドロゲル、マスク、又は水中油型エマルションとなり得、或いはスティック、パッチ、又はリップスティック、マスカラ若しくはファンデーション型の仕上げ用化粧品の形態となり得る。
【0054】
本発明の抽出物及び組成物は、皮膚老化の徴候の出現を阻止する若しくは遅延させるため又はその効果を遅延若しくは低減させるために特に望まれる効果を示す。
【0055】
すなわち、本発明の第3の態様は、化粧用又は皮膚用組成物における、
(特にUVにより惹起又は加速される)皮膚老化の徴候の出現を阻止する又は遅延させるための薬剤としての、及び/又は
抗炎症剤としての、及び/又は
皮膚の弾力性又はハリを改善するための薬剤としての、及び/又は
保湿剤としての、
本発明の少なくとも1種の植物抽出物の使用を対象とする。
【0056】
化粧用又は皮膚用組成物は有利には前述のものである。
【0057】
抽出物は、化粧用又は皮膚用組成物において、
メタロプロテイナーゼ及びPro−MMP1の分泌を阻害するための薬剤として、及び/又は
ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)アゴニストとして、
使用することもできる。
【0058】
抽出物は、化粧用又は皮膚用組成物において、
(特にUV照射により加速される)分解から細胞外マトリックスを保護するための薬剤として、
(特に表皮脂質の合成を刺激することによって)角質層を強化するための薬剤として、
内因性フリーラジカル若しくはUV照射により生成されたフリーラジカルによりストレスを与えられた細胞及び/又は老化細胞の分泌物に関連する、皮膚に有害な慢性炎症のプロセスを制限するための薬剤として、
皮膚のバリア機能の崩壊に寄与する、脂質の産生の減少を伴う(老化に関連する可能性がある)皮膚障害(特に皮膚の乾燥の問題)を処置するための薬剤として、
(特に剥脱又は剥離の際に)(例えばUV照射又はアルファ−ヒドロキシ酸の使用の影響で)ヒリヒリする皮膚を鎮静させるための薬剤として、
さらに使用することができる。
【0059】
最後に、本発明の第4の態様は、皮膚老化を遅延させる又はその効果を低減させるための化粧学的ケア方法であって、老化の徴候(例えば皺又はたるみ)を示す顔又は身体の皮膚の少なくとも一部に有効量の前述の組成物又は抽出物を塗布するステップを含む方法を対象とする。
【0060】
本発明の対象はまた、患者の敏感肌の皮膚反応性及び/又は皮膚のヒリヒリ感の処置において使用するための組成物である。
【0061】
本発明はまた、皮膚の内因性又は外因性老化の徴候の処置において、及び/又はストレスを与えられた細胞及び/又は老化した細胞による分泌物に関連する、皮膚に有害な慢性炎症のプロセスの処置において使用するための、前述の皮膚用組成物に関する。
【0062】
有利には、化粧用又は皮膚用組成物は、老化の目に見える徴候、例えば、皺又は小皺の存在、ヒリヒリ感、炎症徴候、肌の輝きの損失、皮膚のハリ及び/又は弾力性の損失、又は他の徴候(例えば、皮膚の厚さの減少、又は皮膚の乾燥若しくは粗さの増加)を示す、身体又は顔の皮膚の領域に塗布される。
【0063】
有利には、化粧用組成物は、不快感又は過敏症の目に見える徴候を示さない、身体又は顔の皮膚の領域に塗布される。
【0064】
本発明の他の目的、特徴及び利点は、抽出物調製及び抽出物の特性を実証する試験の実施例並びにそのような抽出物を用いた化粧用組成物の実施例を参照しつつ示される以下の説明を考慮すれば、より明らかとなるであろう。以下の実施例は、本発明を例証するものとして示されているが、その範囲を制限するものではない。
【0065】
実施例では、特に断らない限り、パーセンテージはすべて重量で示されており、温度は摂氏度、圧力は気圧で示されている。
【実施例】
【0066】
実施例1(クニフォフィア・ウバリア種子の抽出物の調製):
非極性溶媒を用いた本発明の抽出物の調製:
クニフォフィア・ウバリア種の植物から採取された種子を乾燥させ、次いで粉砕した。
この粉砕から得られた植物性物質を、共溶媒の非存在下、超臨界状態のCOを用いて抽出した。
抽出プロセスの条件は次の通りであった。
圧力=29×10Pa(290bar)/温度=60℃(このような圧力及び温度条件下において、二酸化炭素は超臨界状態にある。)
得られた抽出物を、エタノール(抽出物に対して5重量%)の存在下、減圧下50℃で、ロータリエバポレータでの蒸留によって乾燥させた。
乾燥後の得られた抽出物(抽出物1)は清澄な橙色の油状物であった。抽出収率は、使用された植物性物質に対して25重量%であった。
【0067】
低温圧搾による本発明の抽出物の調製:
予備乾燥された種子をそのまま、この目的に適したプレスを用いて機械的に低温圧搾する。
採取した油を濾過する。
油の官能特性を改善するために、これを蒸気脱臭ステップに付す。
【0068】
以下の実施例において、単独で使用される用語「抽出物」は、上記手段の一方又は他方を用いて本実施例に従って調製された本発明の抽出物を指す。
【0069】
実施例2(本発明の抽出物の活性のin vitro試験):
1)MMP−2、MMP−9、pro−MMP−1マーカー
1.1)生物活性
処理に先立ち、溶媒1ml当たり6.25及び12.5mgの抽出物の濃度となるようDMSOに溶解した実施例1の抽出物又は対照の原液を調製した。
本発明の抽出物による細胞の処理の際に、所望の濃度になるように培養培地に原液を1/1000希釈する。
アノゲイスス・レイオカルプス(Anogeissus leiocarpus)の抽出物及びレスベラトロール(これらは、培養下の線維芽細胞による上記タンパク質の合成を阻害する能力が知られている。)を陽性対照として使用する。
正常ヒト線維芽細胞(NHF)に対して試験を行う。
96ウェルマイクロプレート(Flacon)において、グルタミン(Gibco Invitrogen)(終濃度2mM)及び10%のFCS(ウシ胎仔血清)が添加された200μl/ウェルのMEM培養培地(Gibco Invitrogen)に、5000細胞/ウェルの密度でNHFを播種する。インキュベータ内に培養プレートを24時間置いて80%細胞コンフルエンスを得る。
細胞を25μg/mlのアノゲイスス・レイオカルプス及び溶媒対照(DMSO)で処理する。線維芽細胞をUV−B照射に付すことによってUV−B対照も調製して、この因子の影響下の細胞によるMMPの分泌の刺激を検証する。
種々の濃度の抽出物、陽性対照及び溶媒対照をそれぞれ、4ウェルのNHFについて評価する。
48時間の処理後、培養上清を取り出し、−20℃で貯蔵する。サンドイッチ型酵素免疫測定法(これは、それぞれの量のMMP−2、MMP−9及びpro−MMP−1を450nmでの分光光度測定により上清中でアッセイすることを可能にする。)を使用する。クワンティキン(Quantikine)キット(R&D Systems)に記載のプロトコールに従ってMMP−2、MMP−9及びpro−MMP−1アッセイを行う。
【0070】
1.2)結果
結果を下表に示す。
【表1】

表の説明:
T DMSO = 溶解溶媒対照(DMSO)
T+UVB = MMP−9レベルの増加を生じるUVB照射による刺激の陽性対照
T+ = 試験用陽性対照(アノゲリン(anogelline))
【表2】

【表3】
【0071】
1.2)結論
MMP−2は、組織発生及び再生の際に線維芽細胞により発現される。MMP−9により、このタンパク質は、基底膜及びゼラチン(変性コラーゲン)の主要化合物であるIV型コラーゲンを分解する。これは、エラスチン及びフィブロネクチンと同様に他のコラーゲン型(V、VII及びX)を分解することもできる。MMP−9の基質は、天然型IV、V、VII、X及びXIコラーゲン並びにフィブロネクチンとなり得る。MMP−1は、細胞外マトリックス分解に関与する主要酵素である。MMP−2とは異なり、MMP−1の産生は、皮膚老化を加速する環境ストレス(例えばUV照射)に直接的に影響されるAP−1転写因子に支配される。
【0072】
クニフォフィア・ウバリア種子の抽出物の溶液による細胞の処理は、メタロプロテイナーゼ及びpro−MMP−1の分泌を顕著に阻害することを可能にする。
【0073】
この活性により、本発明の抽出物は、(特にUVにより惹起又は加速される)皮膚老化の効果を制限し、それによって、ストレスを与えられた細胞及び/又は老化した細胞による分泌物に関連する、組織に有害な慢性炎症のプロセスの制限に寄与するための化粧用組成物において使用するのが有利である。
【0074】
2)PPARリガンド
2.1)プロトコール
酵母転写因子GAL−4のDNA結合ドメイン(DBD)と融合したヒトPPARβ/δのリガンド結合ドメインを含有するキメラタンパク質を発現する、PPARβ/δレポーター系を有する安定的な遺伝子導入細胞株(Seimandi et al., Analytical Biochemistry,2005, 344, 8−15)に対して試験を行った。
【0075】
ルシフェラーゼレポーター遺伝子は、β−グロブリンプロモーターの前に位置するGAL−4認識配列の五量体の制御下に置かれた(Normand et al., Proceedings MipTec − The 9th International Conference and Exhibition on Drug Discovery, 08.05.2006 − 11.05.2006, P105)。
【0076】
細胞を播種した96ウェルプレートにおいて化合物を試験した。被験活性物質とともに細胞を24時間インキュベートした。細胞を、80%を超えるコンフルエンスまで培養した。実施例1の抽出物をDMSOに溶解し、次いで、所望の濃度になるよう培養培地に希釈した。発光によりルシフェラーゼ活性を測定した。参照及び陰性対照(0.1%DMSO)との比較によって、PPAR受容体に対する化合物の選択性を決定する。
【0077】
PPAR受容体サブタイプに対する本発明の抽出物の活性を決定するため、PPARβ/δの活性化に相当する発光によってルシフェラーゼの活性をモニターした。得られた値は、100%で結合した参照薬理学的アゴニスト(L16541 1μM,TEBU−BIO)の活性と比較した被験リガンドの%ルシフェラーゼ活性として表した。
【0078】
2.2)結果
実施例1のクニフォフィア・ウバリア抽出物に関して、試験で得られた活性値は下記の通りである。
・10μg/ml(培養培地中)において、応答は陽性対照(100%アゴニスト)の効果の14%である。
・30μg/ml(培養培地中)において、応答は陽性対照の効果の37%である。
・50μg/ml(培養培地中)において、応答は陽性対照(100%アゴニスト)の効果の43%である。
【0079】
2.3)結論
ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)は、核受容体スーパーファミリーに属する転写因子である。PPARは、主に脂質代謝に関与する標的遺伝子の調節領域に位置するDNAの特定の領域に結合する。PPARβ/δは、ヒト表皮における優勢なアイソタイプを表し、ケラチノサイトにおいて高レベルで存在する(Girroir et al., Biochem.Biophys.Res.Comm.,2008, 371, 456−461)。
【0080】
導入部において説明されている通り、PPARは、表皮の生理において、(特に、そのバリア機能の質、及び炎症状態に関するその調節的な役割に関して)不可欠の役割を果たす。そのため、この受容体のアゴニストを同定することは非常に有利である。
【0081】
クニフォフィア油は、用量依存的効果を有する、植物起源の強力なPPARβ/δアゴニストである。
【0082】
PPAR受容体に関するこのような活性により、本抽出物は、化粧品産業において、皮膚のバリア機能の崩壊に寄与する、脂質産生の減少を伴う(老化に関連する可能性がある)皮膚障害(特に皮膚の乾燥の問題)の処置を目的とする用途に使用可能となる(Ghadially R.et al, J.Clin.Invest.,1995, 95, 2281−2290; Seyfarth F.et al., Clinics Dermatol.,2011, 29, 31−36)。
【0083】
PPARβ/δアンタゴニストである本抽出物の潜在的な抗炎症能力により、特に、敏感肌の皮膚反応性を調節するため、又は(例えばUV照射の影響で)ヒリヒリする皮膚を鎮静させるため、又は老化した皮膚において老化細胞が惹起する慢性微小炎症の有害サイクルを制限するための活性物質としてのその使用を想定することも可能となる。
【0084】
実施例3(本発明の抽出物での正常ヒト線維芽細胞の処理の、遺伝子発現に対する効果):
本試験の目的は、単層で培養した正常ヒト線維芽細胞(NHF)の培養物における、皮膚老化又は皮膚の保湿状態に関連する生物学的プロセスに関与するタンパク質をコードする遺伝子の発現に対する本発明の抽出物の生物活性について検討することであった。
【0085】
TLDA(タックマン低密度アレイ(Taqman Low density Array))法は、実施例1で得られた抽出物(抽出物1)による24時間持続する処理に応答した、線維芽細胞に関連する生物学的経路に特異的なタンパク質をコードする遺伝子パネルの発現の調節について検討することを可能にする。
【0086】
1.材料と方法
細胞培養:
コーカサス人種の成人ドナー由来の正常ヒト線維芽細胞(NHF)を、6ウェルプレートにおいて、下記組成の培地1中、2.5×10細胞/ウェルの比率で播種した。
培地1:
サプライヤー 終濃度
FCS Biowest 10%
DMEM Fisher qs
培養条件毎に3ウェルのNHFを播種した。
処理前の24時間、コンフルエンス状態で下記組成を用いて細胞からウシ胎仔血清を枯渇させた(培地2)。
培地2:
サプライヤー
DMEM Fisher
【0087】
2.処理
ウシ胎仔血清なしの24時間の培養後、培地2中、0.1重量%の本発明の抽出物1で細胞を処理した。24時間の処理後、細胞を回収し、細胞から全RNAを抽出した。
無処理対照についても同一条件で試験した。
【0088】
3.PCRタックマン低密度アレイ
3.1 全RNAの取得
細胞培養培地を除去し、250μlの溶解バッファーRLT(ヌクレオスピン(Nucleospin)RNAトレースキットに含まれている。)を添加した。細胞スクレーパーを用いて細胞を擦り取り、次いで、1.2mlディープウェル(キットに含まれている。)に細胞溶解物を回収した。ヌクレオスピンRNAトレースキット(Macherey Nagel)によるエピモーション(Epimotion)5075(Eppendorf)を用いて全RNAを抽出した。
【0089】
得られた全RNA溶液をアッセイし、バイオアナライザー(bioanalyzer)2100(Agilent Technologies)を用いてその質を検証した。この装置は、特別な結果解析ソフトウェア(2100エキスパートソフトウェア)を有するコンピュータに連結されていた。この方法は、真核生物全RNAのアッセイに特有の12ウェルマイクロプレート(RNA 6000 NanoChips)及び試薬キット(RNA 6000 Nano Reagents & Supplies)を必要とする。
【0090】
3.2 相補的DNAの合成
使用した逆転写(RT)キットは大容量cDNA逆転写キット(Applied Biosytems)であった。100ngの全RNAを、最終容量50μlとなるよう水に希釈した。次に、この希釈物を25℃で10分間インキュベートし、次いで、予め調製した下記の50μlの2×大容量逆転写キット反応ミックスとともに37℃で2時間インキュベートした。
反応物 容量
RTバッファー 10μl
dNTPバッファー 4μl
ランダムプライマー 10μl
RNAse out 1μl
RT 5μl
O 20μl
【0091】
3.3 PCRタックマン低密度アレイ
50μlの各RTをサンプリングし、50μlの「タックマン遺伝子発現マスターミックス」と混合した。ホモジナイゼーション後、100μlをマイクロ流体カードに置き、これを遠心分離し、次いで密封した。
【0092】
対照遺伝子を用いて結果を標準化した。ABIプリズム(Prism)7900HT配列検出系装置において、アプライドバイオシステムズ(Applied Biosystems)により供給されたプロトコールに従ってPCRを行った。qPCRステップは、50℃で2分間、94.5℃で10分間、97℃で30秒間、及び59.7℃で1分間のサイクルを40サイクル行った。
【0093】
3.4 結果の解析
RT−PCR TLDA法において、ΔCt比較法を用いて定量化を行う。この方法は、遺伝子毎のバックグラウンドノイズを考慮するRQマネージャー(Manager)ソフトウェアを用いて、カードの各遺伝子のサイクル数(Ct)を決定する。このサイクル数(Ct)を、細胞において変動しないハウスキーピング遺伝子、GAPDHのCtに関して標準化した。
【0094】
4.結果
皮膚老化、皮膚の保湿或いは皮膚の弾力性及びハリの維持に関連するプロセスに関与する種々の遺伝子に対して行った解析について、下記の方法を用いて検討した。
【0095】
メタロプロテイナーゼ1(MMP−1):
メタロプロテイナーゼ1(MMP−1)は、コラーゲン、特にコラーゲン1及び3の分解において作用する。これは、皮膚老化の際に、また、UV曝露に応答して特に誘導される。それ故、このタンパク質の発現を阻害して、真皮細胞外マトリックスの分解を制御することは重要である。得られた結果は、本発明の抽出物によるNHFの処理が、対照と比較して、24時間の処理後、MMP−1の発現を顕著に低下させる(−84%)ことを可能にすることを示す。
このメタロプロテイナーゼの発現に対する本発明の抽出物の効果は、ECM分解を制限することによって皮膚老化を阻止する又は遅延させるために特に有利である。
【0096】
低密度タンパク質受容体関連タンパク質−1(LRP−1):
本発明の抽出物によるNHFの処理は、対照と比較して、LRP−1遺伝子によりコードされるタンパク質の発現を顕著に増加させる(+190%)ことを可能にする。
このLRP−1遺伝子はLDL受容体をコードする。LDL受容体は、細胞周囲空間における過剰なMMPの「エンドサイトーシス」において作用を有するとされている。
この遺伝子の発現に対する本発明の抽出物の効果は、ECM分解に正に作用することによって皮膚老化を阻止する又は遅延させるために特に有利である。
【0097】
エラスチン(ELN):
本発明の抽出物によるNHFの処理は、対照と比較して、ELN遺伝子にコードされるトロポエラスチンの発現を顕著に増加させる(+135%)ことを可能にする。
この遺伝子の発現に対する本発明の抽出物の効果は、エラスチン合成に正に作用することによって皮膚老化を阻止する又は遅延させるために特に有利である。
【0098】
コラーゲン1A1:
本発明の抽出物による処理は、COL A1A遺伝子の刺激によるコラーゲン1A1の発現を顕著に増加させる(+103%)ことを可能にする。
この遺伝子の発現に対する本発明の抽出物の効果は、細胞外マトリックスにおけるコラーゲン合成に正に作用することによって皮膚老化を阻止する又は遅延させるために特に有利である。
【0099】
実施例4(本発明の抽出物での正常ヒトケラチノサイトの処理の、遺伝子発現に対する効果):
本試験の目的は、皮膚の老化又は保湿に関連するプロセスに関与するタンパク質をコードする遺伝子の発現に対する本発明の抽出物の効果を評価することであった。
【0100】
1.細胞培養
コーカサス人種の成人ドナー由来の正常ヒトケラチノサイト(NHK)を、6ウェルプレートにおいて、培地1中、2.5×10細胞/ウェルの比率で播種した。8時間の処理のために、培養条件毎に3ウェルのNHKを播種した。
【0101】
2.処理
80%コンフルエンスにおいて、下記培地1中、0.1重量%の実施例1の本発明の抽出物で細胞を処理した。
サプライヤー
エピライフ(Epilife) Fisher
添加剤 Fisher
24時間の処理後、細胞を回収し、細胞から全RNAを抽出した。
【0102】
3.PCRタックマン低密度アレイ
プロトコールは、先の実施例に記載のプロトコールと同一である。
【0103】
4.結果
先の実施例と同様に、皮膚老化、皮膚の保湿或いは皮膚の弾力性及びハリの維持に関連するプロセスに関与するタンパク質の発現に関与する遺伝子に対して解析を行う。
【0104】
TIMP−2:
得られた結果は、本発明の抽出物によるNHKの処理が、対照と比較して、24時間の処理後、メタロプロテイナーゼ2型を阻害するタンパク質の発現を顕著に増加させる(+30%)ことを可能にすることを示す。
このタンパク質は、基本的にメタロプロテイナーゼMMP−2及びMMP−9を阻害する。このメタロプロテイナーゼの発現に対する本発明の抽出物の効果は、細胞外マトリックス(ECM)の弾性線維の分解を制限することによって皮膚老化を阻止する又は遅延させるために特に有利である。
【0105】
コラーゲン4A1:
得られた結果は、本発明の抽出物によるNHKの処理が4型コラーゲンの発現を顕著に増加させる(+39%)ことを可能にすることを示す。このコラーゲンは、真皮表皮接合部の統合性の維持において必須の役割を果たす。
このコラーゲンの発現に対する本発明の抽出物の効果は、細胞外マトリックス(ECM)の統合性を維持し、それによって皮膚老化の効果に対抗するために特に有利である。
【0106】
アクアポリン−3:
得られた結果は、本発明の抽出物によるNHKの処理がアクアポリン3型の発現を顕著に増加させる(+160%)ことを可能にすることを示す。このコラーゲンは、真皮−表皮接合部の統合性の維持において必須の役割を果たす。
ケラチノサイトにおけるこのアクアポリンの発現に対する本発明の抽出物の効果は、細胞水の移動を促進し、皮膚表層の保湿状態を改善することを可能にする。
【0107】
ヒアルロン酸合成酵素−3:
得られた結果は、本発明の抽出物によるNHKの処理が、HAS3遺伝子にコードされるタンパク質の発現を顕著に増加させる(+240%)ことを可能にすることを示す。この酵素は、皮膚細胞の保湿状態の維持において重要な役割を果たすヒアルロン酸の合成に関与する。
【0108】
CD−44:
得られた結果は、本発明の抽出物によるNHKの処理がこのヒアルロン酸受容体の発現を顕著に増加させる(+45%)ことを可能にすることを示す。この顕著な効果は、本発明の抽出物で処理された皮膚細胞の保湿状態を改善又は維持することを可能にする。
【0109】
実施例5(顔用クリーム):
実施例1のプロセスを再現することによってクニフォフィア・ウバリア種子の抽出物を得た。下記化粧用組成物において使用される抽出物の官能特性を改善するために、抽出物1に対して水蒸気蒸留による追加的な脱臭ステップも行った。
【0110】
下記化粧用組成物(組成は最終組成物に対する重量%で表される。)の調製のための活性物質として抽出物の溶液を使用した。
相A:
フェノキシエタノール: 0.5
キサンタンガム: 0.2
アクリレート/C20〜30アルキルアクリレートクロスポリマー: 0.2
EDTA四ナトリウム: 0.1
水: qs
qs = 相Aの化合物を溶解するのに十分な量
相B:
本発明のクニフォフィア・ウバリア抽出物: 1
水素化ポリイソブテン: 4
スクアラン: 3
トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル: 3
ペンチレングリコール: 3
ステアリン酸グリセリル: 3
ステアリン酸PEG−100: 2.5
蜜ろう: 1.5
炭酸ジカプリリル: 1.5
セチルアルコール: 1
ステアリルアルコール: 1
ジメチコン: 1
相C:
水酸化ナトリウム: 0.04
水: qs100
qs100 = 最終組成物の100%に十分な量
【0111】
相Aの添加剤を水に分散させ、次いで、この混合物を80℃に加熱した。
均一な相を形成するために、クニフォフィア・ウバリア抽出物を含む相Bの化合物を85℃に加熱した。
イストラル(Ystral)撹拌機を用いて相A中に相Bを乳化させた。
得られた水中油型エマルションを0.04%w/w水酸化ナトリウム水溶液(相C)で最後に中和し、次いで冷却した。
【0112】
得られた組成物は、顔の全体又は部分に塗布されることが意図されたクリームとして使用することができる。
このクリームは、皮膚老化を阻止する又は遅延させる効果を得ることを可能にするが、皮膚に炎症効果を生じる実体に関して皮膚に対する緩和効果ももたらす。
【0113】
抽出物1を圧搾により得られた抽出物2に置き換えて上記調製を行う。この組成物は、先に調製された組成物と同様の外観を有する。
【手続補正書】
【提出日】2014年9月11日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クニフォフィア・ウバリア(Kniphofia uvaria)種子の抽出物であって、
前記種子を機械的手段で圧搾することによって、或いは
前記種子を少なくとも1種の化粧学的又は皮膚科学的に許容される非極性溶媒と接触させ、その後、前記溶媒を除去することによって
得られる抽出物。
【請求項2】
非極性溶媒は、無置換又は1個若しくは複数の塩素原子で置換された直鎖状、分岐鎖状又は環状の飽和アルカンからなる群から選ばれる、請求項1に記載の抽出物。
【請求項3】
非極性溶媒は、35℃〜80℃の温度及び7.4×10Paを上回る圧力を有する超臨界状態の二酸化炭素である、請求項1に記載の抽出物。
【請求項4】
圧搾は、先行するステップで粉砕されていない種子の全体を低温条件下で圧搾することによって行われる、請求項1に記載の抽出物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の抽出物と、顔料、染料、ポリマー、界面活性剤、レオロジー剤、香料、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、及びそれらの任意の混合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化粧学的又は皮膚科学的に許容される添加剤と、を含む化粧用又は皮膚用組成物。
【請求項6】
組成物の総重量に対して乾燥重量で0.0001%〜10%の抽出物を含む、請求項5に記載の化粧用又は皮膚用組成物。
【請求項7】
クニフォフィア・ウバリア(Kniphofia uvaria)種子の抽出物を含む化粧用又は皮膚用組成物であって、
皮膚老化の徴候の出現を阻止する又は遅延させるための薬剤として、或いは
抗炎症剤として、或いは
皮膚の弾力性又はハリを改善するための薬剤として、或いは
保湿剤として
使用するための組成物。
【請求項8】
クニフォフィア・ウバリア(Kniphofia uvaria)種子の抽出物を含む化粧用又は皮膚用組成物であって、
メタロプロテイナーゼ及びPro−MMP1の分泌を阻害するための薬剤として、或いは
ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)アゴニストとして
使用するための組成物。
【請求項9】
クニフォフィア・ウバリア(Kniphofia uvaria)種子の抽出物を含む化粧用又は皮膚用組成物であって、
細胞外マトリックスを分解から保護するための薬剤として、或いは
表皮脂質の合成を刺激することによって角質層を強化するための薬剤として、或いは
内因性フリーラジカル又は紫外線照射により生成されたフリーラジカルによりストレスを与えられた細胞の分泌物に関連する、皮膚に有害な慢性炎症のプロセスを制限するための薬剤として、或いは
脂質の産生の減少を伴い、皮膚のバリア機能の崩壊に寄与する皮膚の乾燥を処置するための薬剤として、或いは
紫外線の照射又はアルファ−ヒドロキシ酸の使用によりヒリヒリする皮膚を鎮静させるための薬剤として
使用するための組成物。
【請求項10】
皮膚老化を遅延させる又はその効果を低減させるための化粧学的ケア方法であって、老化の徴候を示すヒトの皮膚の少なくとも一部に有効量の請求項5又は6に記載の組成物を塗布するステップを含む方法。
【国際調査報告】