(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-506411(P2015-506411A)
(43)【公表日】2015年3月2日
(54)【発明の名称】リング型プルトップの製造方法およびリング型プルトップのための保護層が提供された鋼板の利用
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20150203BHJP
C22C 38/18 20060101ALI20150203BHJP
C22C 38/54 20060101ALI20150203BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20150203BHJP
【FI】
C22C38/00 301T
C22C38/18
C22C38/54
C21D9/46 H
【審査請求】有
【予備審査請求】有
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-547777(P2014-547777)
(86)(22)【出願日】2012年10月2日
(85)【翻訳文提出日】2014年7月16日
(86)【国際出願番号】EP2012069464
(87)【国際公開番号】WO2013091922
(87)【国際公開日】20130627
(31)【優先権主張番号】102011056846.8
(32)【優先日】2011年12月22日
(33)【優先権主張国】DE
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC
(71)【出願人】
【識別番号】513213841
【氏名又は名称】ティッセンクルップ ラッセルシュタイン ゲー エム ベー ハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フリードリッヒ,カール アーンスト
(72)【発明者】
【氏名】マツシェ,ダーク
(72)【発明者】
【氏名】カウプ,バークハード
(72)【発明者】
【氏名】サウワー,ライナー
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA04
4K037EA05
4K037EA11
4K037EA13
4K037EA15
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA20
4K037EA23
4K037EA27
4K037EA31
4K037EA32
4K037EB08
4K037EB12
4K037FG00
4K037FH00
4K037FJ01
4K037FJ05
4K037FK03
4K037FM01
4K037GA05
4K037JA06
(57)【要約】
本発明は、リング型プルトップまたはリング型プルトップを備えた缶を製造するための保護層が提供されている鋼板の利用に関する。鋼板は、炭素含有量が0.1質量%未満である非合金または低合金鋼材および関連プロセスにより製造される。保護層を備えた従来の鋼板を利用する課題、すなわち、ノッチ線の一定の残留壁厚のために弱い引き剥がし力を有するリング型プルトップを製造させる鋼板を提供する課題は、75K/s以上の加熱速度にて再結晶焼鈍熱処理され、その再結晶熱処理後に少なくとも100K/sの冷却速度で冷却され、続いて保護層でコーティングされた鋼板によって達成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リング型プルトップまたはリング型プルトップを備えた缶を製造するための保護層が提供された鋼板の利用であって、
前記鋼板は、炭素含有量が0.1質量%未満である非合金または低合金鋼材から製造され、
前記鋼板は、75K/s以上の加熱速度で再結晶焼鈍処理され、
前記再結晶焼鈍処理後に少なくとも100K/sの冷却速度で冷却され、
続いて保護層によりコーティングされる、
ことを特徴とする利用。
【請求項2】
保護層が提供され、炭素含有量が0.1質量%未満の非合金または低合金鋼材で成る鋼板からリング型プルトップを製造する方法であって、
未コーティング状態の鋼板がまず75K/s以上の加熱速度で再結晶焼鈍処理され、
前記再結晶焼鈍処理後に少なくとも100K/sの冷却速度で冷却され、
続いて保護層によりコーティングされ、さらにリング型プルトップの製造のために加工処理される、
ことを特徴とする方法。
【請求項3】
前記鋼板は電磁誘導による加熱によって再結晶焼鈍処理される、
ことを特徴とする請求項1または2記載の利用または方法。
【請求項4】
前記再結晶焼鈍処理と前記冷却処理の後、前記鋼板は多相構造を有し、前記多相構造は、フェライトと、構造構成成分であるマルテンサイト、ベイナイト及び/又は残留オーステナイトのうちの少なくとも1つと、を含んでいる、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の利用または方法。
【請求項5】
前記多相構造の80%以上、好適には少なくとも95%が、構造構成成分であるフェライト、マルテンサイト、ベイナイト、及び/又は残留オーステナイトで成る、
ことを特徴とする請求項4記載の利用または方法。
【請求項6】
前記鋼板は、B及び/又はNb及び/又はTiを含有する低合金鋼材で製造される、
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の利用または方法。
【請求項7】
前記鋼板は、冷間圧延した薄鋼板または超薄鋼板で成る、
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の利用または方法。
【請求項8】
前記再結晶焼鈍処理および前記冷却処理の後に、前記鋼板はSn、Cr、Al、ZnまたはZn/Niの保護層でコーティングされる、
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の利用または方法。
【請求項9】
前記再結晶焼鈍処理および前記冷却処理の後に、前記鋼板は少なくとも500MPa、好適には650MPa以上の引張強度と、5%以上、好適には10%以上の破断点伸びとを有する、
ことを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の利用または方法。
【請求項10】
前記再結晶焼鈍処理後に前記鋼板が冷却される冷却速度は、100K/s以上、好適には500K/s以上である、
ことを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の利用または方法。
【請求項11】
前記鋼板は以下の上限の質量百分率の合金成分を含んだ低合金鋼材で製造されることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の利用または方法:
N : 0.02%
Mn : 0.4%
Si : 0.04%
Al : 0.1%
Cr : 0.1%
P : 0.03%
Cu : 0.1%
Ni : 0.1%
Sn : 0.04%
Mo : 0.04%
V : 0.04%
Ti : 0.05%、好適には0.02%未満
Nb : 0.05%、好適には0.02%未満
B : 0.005%
他の合金成分: 0.05%
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部分によるリング型(形態)プルトップまたはリング型プルトップを備えた缶を製造するための保護層が提供された鋼板の利用に関する。本発明はさらに、請求項2の前提部分による保護層が提供された鋼板のリング型プルトップの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
器具を必要とせずに簡単に開けることができる缶は、食品および飲料の包装のために非常に人気がある。このような缶は、指で引き上げ可能なタブにより缶の材料に設けられたノッチ線に沿って引き剥がすことができるリング型プルトップを特徴とする。プルタブによってノッチ線に沿って引き開けることができるリング型プルトップを備えた金属製の飲料缶は、例えば、EP0381888Aに記載されている。
【0003】
リング型プルトップを備えたこのような缶は、通常では耐食性保護層が提供されたアルミ板または鋼板で製造される。比較して安価であるため、コーティング(被覆)された鋼板はアルミに勝るいくつかの利点を有する。しかし、鋼板のリング型プルトップはアルミ板のリング型プルトップよりも、それを引き開けるのに大きな力を必要とする。
【0004】
DE3512687C2は、容易に開けることができる缶トップ(上蓋)のための鋼板の製造方法を開示する。これによって、ノッチ線領域の残留金属壁厚を過剰に減らすことなく缶を容易に開けることが可能なリング型プルトップを備えた缶が製造できる。この目的で、DE3512687C2は、C(炭素)含有量が0.01質量%から0.051質量%、合金成分のSi(ケイ素)含有量が0.01質量%から0.02質量%、Mn(マンガン)含有量が0.32質量%から0.35質量%、P(リン)含有量が0.018質量%から0.022質量%、Al(アルミニウム)含有量が0.07質量%から0.09質量%の鋼材の使用を提案する。この鋼材はまず熱間圧延され、続いて冷間圧延後に焼鈍処理され、さらに第2の冷間圧延ステップが施される。その冷間圧延後に鋼材は洗浄され、溶融錫浴で錫メッキされ、続いてリング型プルトップの製造のために仕上げ加工される。
【0005】
鋼板からリング型プルトップを製造する他の方法は、DE2010631とDE4240373A1に記載されている。そこでは、鋼板または鋼帯に複数のリング型プルトップのための線がまず切り欠かれ、続いてスコアが入れられた鋼板または鋼帯が保護層によってコーティングされ、さらにリング型プルトップが切り込まれる。鋼板のラッカーコーティング、錫メッキ若しくはクロムメッキ、またはDE4240371A1が提案するような鋼板または鋼帯に積層されるプラスチックフィルムが保護層として考慮できる。このような保護層は、鋼板または鋼帯の片面または両面に提供でき、それから製造される缶が侵襲的な食品または飲料を包装するためにも使用できるように鋼帯または鋼板に高腐食安定性が提供される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】EP0381888A
【特許文献2】DE3512687C2
【特許文献3】DE2010631
【特許文献4】DE4240373A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ノッチ線の残留壁厚が一定である場合、従来技術で知られる鋼板のリング型プルトップの場合よりも小さな引き剥がし力で済むリング型プルトップを製造するための鋼板を利用可能にすることを目的とする。
【0008】
この目的は、請求項1によるリング型プルトップの製造に利用される保護層が提供された鋼板の使用、および、請求項2によるリング型プルトップの製造方法によって達成される。請求項1と請求項2の使用と方法の好適な実施例は従属項で開示されている。
【0009】
本発明は、リング型プルトップの製造のために保護層が提供された鋼板の使用を提案する。そこでは、鋼板は0.1質量%未満の炭素含有量の非合金鋼材または低合金鋼材で製造され、保護層の提供に先立って鋼板には熱処理が施され、その熱処理において、鋼板は75K/s(ケルビン/秒)以上、好適には200K/s以上の加熱速度で再結晶(およびオーステナイト化)焼鈍処理され、その後に、少なくとも100K/sの冷却速度で冷却される。この熱処理の後に、鋼板は保護層でコーティングされ、続いて従来式のリング型プルトップの製造のため、またはリング型プルトップを備えた缶の製造のために加工される。以下において鋼板とは鋼材の板状物あるいは帯状物(特にコイル状に巻き上げられたもの)のことである。
【0010】
本発明のリング型プルトップの製造に最も適した鋼材は、好適には、0.5質量%未満、特には0.4質量%未満のMn(マンガン)、0.04質量%未満のSi(ケイ素)、0.1質量%未満のAl(アルミニウム)、および0.1質量%未満のCr(クロム)を含んでいる。この鋼材は強度を増加させるためにB(ホウ素)及び/又はNb(ニオブ)及び/又はTi(チタン)の合金添加元素を含むことができる。Bの添加は好適には0.001質量%から0.005質量%の範囲であり、NbまたはTiの添加は好適には0.005質量%から0.05質量%の範囲である。
【0011】
鋼板の再結晶焼鈍処理には電磁誘導手段による鋼板の熱処理が特に適していることが判明している。比較試験は、続くリンプ型プルトップの製造において、引き剥がし力に関して、電磁誘導手段によって熱処理された鋼板が最良の結果をもたらすこと、すなわち、最小の引き剥がし力で済むことを証明した。熱処理された鋼板の分析において、冷却処理後に電磁誘導手段による再結晶焼鈍処理された鋼板が、フェライトと、構造成分であるマルテンサイトまたはベイナイトのうち少なくとも1つと、を含んだ多相構造を有することが確認された。構造構成成分の少なくとも80%、好適には95%以上がフェライト、マルテンサイト、ベイナイト及び/又は残留オーステナイトで成る本発明に従って処理された鋼板は、容易に開けられるリング型プルトップの製造にための特に適した材料であることが証明された。
【0012】
リング型プルトップを製造するための本発明の方法を実行するために使用される好適な開始材料は、冷間圧延された薄鋼板または超薄鋼板であり、合金構成成分の質量割合は好適には以下の上限を有する。
C(炭素) : 0.1%
N(窒素) : 0.02%
Mn(マンガン) : 0.5%
Si(ケイ素) : 0.04%
Al(アルミニウム): 0.1%
Cr(クロム) : 0.1%
P(リン) : 0.03%
Cu(銅) : 0.1%
Ni(ニッケル) : 0.1%
Sn(錫) : 0.04%
Mo(モリブデン) : 0.04%
他の合金成分 : 0.05%
残部 : Fe(鉄)
【0013】
この点に関して、薄鋼板とは厚みが3mm未満のものであり、超薄鋼板とは厚みが0.5mm未満のものである。低含有量のMn、Si、Al及び/又はCrにも拘わらず、そのような合金組成を備えた鋼板は、本発明の熱処理後には、少なくとも500MPaの非常に高い引張強度を有し、同時に6%以上、通常は10%以上の破断点伸びを有する。本発明の熱処理後、そのような組成を備えた鋼板は、トップ(上蓋)を比較的小さな引き剥がし力によって容易に開くことができるリング型プルトップの製造に非常に適している。
【0014】
本発明の例示的1実施例は添付図面を利用して以下で詳細に説明されている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】
図1のリング型プルトップのA−A線に沿った断面図である。
【
図3】ノッチ線に沿ってリング型プルトップを引き開けるのに要する引き剥がし力の典型的な曲線を示す概略図である。
【
図4】使用されている鋼板の引張強度に対するリング型プルトップの引き開けに要する引き剥がし力を示す。
【
図5】本発明のリング型プルトップのために使用される鋼板の再結晶熱処理のための典型的な熱処理曲線(時間t秒に対する鋼板の温度T)を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
連続的に鋳込みされてコイル状に巻き上げられ、以下の組成の鋼材で成る熱間圧延鋼帯が、本発明に従ってリング型プルトップを製造できる鋼板の製造に使用された。
C(炭素) : 最大0.1%
N(窒素) : 最大0.02%
Mn(マンガン) : 最大0.5%、好適には0.4%未満
Si(ケイ素) : 最大0.04%、好適には0.02%未満
Al(アルミニウム) : 最大0.1%、好適には0.05%未満
Cr(クロム) : 最大0.1%、好適には0.05%未満
P(リン) : 最大0.03%
Cu(銅) : 最大0.1%
Ni(ニッケル) : 最大0.1%
Sn(錫) : 最大0.04%
Mo(モリブデン) : 最大0.04%
V(バナジウム) : 最大0.04%
Ti(チタン) : 最大0.05%、好適には0.02%未満
Nb(ニオブ) : 最大0.05%、好適には0.02%未満
B(ホウ素) : 最大0.005%
他の合金成分および不純物: 最大0.05%
残部 : Fe(鉄)
【0017】
この種の鋼板は当初に冷間圧延処理によって50%から96%の厚み減少率(圧延率)により最終厚を約0.5mmにされ、続いて誘導炉内で誘導加熱手段によって再結晶焼鈍処理された。
【0018】
この場合、f=200kHzの周波数で50kWの電力である誘導コイルが、例えば、サンプルサイズ20×30に対して使用された。典型的な熱処理曲線は
図5に図示されている。
図5の熱処理曲線によれば、鋼帯は、典型的には約0.5秒から10秒である非常に短い加熱時間t
A内に、A
1温度(T(A
1)=約725℃)を超える最高温度T
maxにまで加熱された。最高温度T
maxは強磁性相転移(T
f=約770℃)の相転移温度T
f以下である。続いて鋼帯の温度は、約0.75秒から1秒の焼鈍処理時間t
Gの間、A
1温度以上に維持された。この焼鈍処理時間t
Gの間、鋼帯は最高温度T
max、例えば750℃からA
1温度(約725℃)にまで少々冷却された。続いて、鋼帯は、例えば水冷システムまたは空冷システムの助けによる流体冷却プロセスによって、冷却時間約0.25秒間で室温(約23℃)にまで冷却された。必要であれば40%まで厚みを減少させる追加の冷間圧延ステップが冷却プロセス後に実行できる。
【0019】
そのように処理された鋼板は、その後、強度と破断点伸びに関して検査された。比較試験は、破断点伸びの百分率が全ての場合に6%を超え、一般的には10%以上であり、引張強度は少なくとも500MPaであり、多くの場合に650MPaさえも超えたことを示した。
【0020】
クレム(Klemm)によるカラーエッチングは、本発明により処理された鋼板が、軟質相としてフェライト、硬質相としてマルテンサイトおよび利用可能ならベイナイトを特徴とする合金構造を有することを確認した。
【0021】
比較試験では、再結晶誘導焼鈍処理において、加熱速度が200K/sから1200K/sであり、再結晶焼鈍処理された鋼帯が100K/s以上の冷却速度で冷却されるならば、強度と延性に関する最良の結果が達成されることがさらに判明した。冷却システムに関しては、350K/sから1000K/sの冷却速度が有利である。なぜなら、この場合には精巧な水冷システムは不要であり、冷却プロセスは空気のような冷却ガスで実施できるからである。しかし物性に関する最良の結果は、1000K/sを超える冷却速度を備えた水冷システムを使用することで達成された。
【0022】
本発明の鋼板は包装用鋼材としての使用に非常に適している。例えばリング型プルトップを備えた保存食品缶または飲料缶用のリング型プルトップは、熱処理した鋼板から製造できる。包装体の耐食性に関する条件は食品産業において特に厳格であるため、例えば、熱処理後および可能であれば冷間圧延工程後に、電解錫メッキまたはクロムメッキによる金属および耐食性コーティングされた本発明に従って製造された鋼板を使用するのが有利である。しかし、他のコーティングプロセス、例えば、亜鉛メッキまたはラッカー処理、あるいはプラスチックフィルムによる積層を利用することも可能である。この場合には、必要に応じてコーティングは鋼板の片面または両面に適用できる。
【0023】
強度と延性に関して、本発明のリング型プルトップの製造に使用される鋼板は自動車産業で知られる複相鋼材に比肩する。しかし、自動車産業で知られる複相鋼材と比較して、本発明のリング型プルトップの製造に使用される鋼板は、特に大きく減少した製造コスト並びに大きく減少した合金濃度および大きく減少した合金成分数を特徴としており、その結果、合金成分の拡散による包装食品の汚染が効果的に防止できる。
【0024】
保存食品缶や飲料缶のリング型プルトップは、上述の形態で製造され、熱処理された鋼帯または板状鋼板から製造された。続いて、鋼帯または鋼板は片面または両面が保護表面層でコーティングされた。保護層は、例えばラッカー処理または亜鉛メッキの手段で提供できる。保護層は、例えば電解コーティングプロセスで提供できる例えば錫またはクロムなどの金属コーティングで成る。しかし、積層プロセスよって片面または両面において鋼板の表面に提供されるラッカーまたはプラスチックフィルムの1以上のコーティングであってもよい。
【0025】
保護層の提供後に
図1と
図2で図示するタイプのトップ(上蓋)を得るために、上蓋が鋼板から切り出され、スコア(切欠き)が提供される(すなわちスコア線が提供される)。
【0026】
図1および
図2で図示された円形トップ1は、ロックシーミング(抱え継ぎ)の手段で缶の円筒体にトップを固定させるフランジ縁部領域2を含む。フランジ縁部領域2は、本質的に水平に延出する環状遷移領域3に隣接し、垂直下方に曲げられた部分4に隣接する。部分4は、略水平に延出する中央領域6に隣接する溝形押縁部5で終結する。中央領域6は全周にわたって連続的に延びているスコア線7によって包囲されている。スコア線は、有利には直線または傾斜ノッチ線底部と、50μmから100μmの残留壁厚と、を有した三角形状断面または台形断面で材料壁が薄くなったノッチ線で成る。スコア線7は、スコア線7に沿ってトップ1の外側領域2、3、4から中央領域6を分離させることでリング型プルトップを引き剥がさせる。
【0027】
プルリング12を備えたプルタブ8はリベット9によって中央領域6に固定されている。リベットはトップから形成されている(すなわちトップの材料で形成されている)。プルタブ8を保持するために凹部10が中央領域6に提供されている。プルタブ8は、そのプルリング12によって引き上げることができ、プルリング12の反対側に位置するプルタブ8の尖った端部11は、まずノッチ線に局所的開口を提供するように、ノッチ線7を押し開ける。ノッチ線7は、リング型プルトップの中央領域6が外側領域から分離され、開口部がリング型プルトップに提供されるように、プルタブ8のプルリング12を指で引っ張ることで円形周囲全体に沿って最終的に開かれる。
【0028】
図3は、リング型プルトップ全体を引き剥がすための前述の力F(ニュートン)の典型的な曲線を示す。この力はノッチ線に沿った引き剥がし距離Dの関数として示されている。プルタブ8がまず引き上げられたときノッチ線7を局所的に破断するのに必要な力は、スコア破壊力または開口力A(スコア破壊)と呼ばれる。プルタブ8を引くことでノッチ線7を完全に開くのに必要な力は破断力またはスコア破断力B(スコア破断)と呼ばれる。中央領域6を引き剥がすことでリング型プルトップに開口部を完全に空けるように中央領域6を外側縁部領域から分離するため、引き剥がし力C(引き剥がし)と呼ばれる作用力も最終的には必要である。
【0029】
現在まで、ノッチ線の領域の残留壁厚が一定であるなら、引張強度が増加するとリング型プルトップを開くのに要する力は減少すると考えられてきた。
図4は、直径73mmのカバーと、厚み0.22mmの鋼板の、2つの異なる残留壁厚SR(SR=75μmおよびSR=60μm)のリング型プルトップの製造に使用される鋼板の引張強度に対する(最大)スコア破断力B(最大スコア破断)の典型的な曲線を示す。
【0030】
本発明により製造されたリング型プルトップで実施された比較試験の過程で、スコア破断力には他の影響を及ぼす変動因子も存在することが判明した。例えば、スコア破断力は使用される鋼板の炭素含有量にも大きく依存する。使用される鋼板の炭素含有量が少なければ少ないほど、スコア破断力は大きくなる。さらに、本発明に従って熱処理された鋼板がリング型プルトップを製造するのに使用されると、リング型プルトップを開くのに要する力、特に最大スコア破断力は小さいことが判明した。本発明に従ってリング型プルトップを製造するのに使用される鋼板は、硬質構造相として少なくともマルテンサイトを含む多相構造を有する。リング型プルトップが開かれるときこの硬質マルテンサイト相が初期の材料破壊を引き起こすことでスコア破断力を大きく減少させると考えられる。残留壁厚が60μmで、鋼板の引張強度が500MPaであるとき、本発明に従って製造されたリング型プルトップは最大スコア破断力を、例えば40N未満の範囲で有する。
【0031】
本発明は図面で示す実施例に限定されることはない。それらは単に本発明の詳細な説明のために提供されている。本発明に従ったリング型プルトップの製造に提案されている鋼板は、異なる意匠のリング型プルトップの製造にも同様に適しており、リング型プルトップを有する缶の製造にも適している。例えば引き剥がし部分がトップから完全に外れず、プルタブと共に缶の内部に単に押し込まれる形態のリング型プルトップを本発明に従って製造することも可能である。さらに、リング型プルトップは異なる形状を有することもでき、例えば楕円形でもよく、ノッチ線も同様に異なる形状、例えば、楕円形または螺旋形や渦巻き状であってもよい。
【手続補正書】
【提出日】2014年4月8日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
C含有量が0.1質量%未満、
Mn含有量が0.4質量%未満、
Si含有量が0.04質量%未満、
Al含有量が0.1質量%未満、および、
Cr含有量が0.1質量%未満、である非合金または低合金鋼材製の冷間圧延された鋼板で成る缶用リング型プルトップであって、
前記鋼板は、電磁誘導による加熱によって75K/s以上の加熱速度で再結晶焼鈍処理され、
前記再結晶焼鈍処理後に少なくとも100K/sの冷却速度で冷却され、
続いて保護層によりコーティングされる、
ことを特徴とする缶用リング型プルトップ。
【請求項2】
C含有量が0.1質量%未満、
Mn含有量が0.4質量%未満、
Si含有量が0.04質量%未満、
Al含有量が0.1質量%未満、および、
Cr含有量が0.1質量%未満、である非合金または低合金鋼材製の冷間圧延された鋼板からリング型プルトップを製造する方法であって、
未コーティング状態の前記鋼板がまず電磁誘導により75K/s以上の加熱速度で再結晶焼鈍処理され、
前記再結晶焼鈍処理後に少なくとも100K/sの冷却速度で冷却され、
続いて保護層によりコーティングされ、さらに前記リング型プルトップの製造のために加工処理される、
ことを特徴とする方法。
【請求項3】
前記再結晶焼鈍処理および前記冷却処理の後、前記鋼板は多相構造を有し、前記多相構造は、フェライトと、構造構成成分であるマルテンサイト、ベイナイト及び/又は残留オーステナイトのうちの少なくとも1つと、を含んでいる、
ことを特徴とする請求項1記載のリング型プルトップ。
【請求項4】
前記多相構造の80%以上、好適には少なくとも95%が、構造構成成分であるフェライト、マルテンサイト、ベイナイト、及び/又は残留オーステナイトで成る、
ことを特徴とする請求項3記載のリング型プルトップ。
【請求項5】
前記鋼板は、B及び/又はNb及び/又はTiを含有する低合金鋼材で製造される、
ことを特徴とする請求項1、3または4に記載のリング型プルトップ。
【請求項6】
前記鋼板は、薄鋼板または超薄鋼板で成る、
ことを特徴とする請求項1または3から5のいずれか1項に記載のリング型プルトップ。
【請求項7】
前記再結晶焼鈍処理および前記冷却処理の後に、前記鋼板はSn、Cr、Al、ZnまたはZn/Niの保護層でコーティングされる、
ことを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項8】
前記再結晶焼鈍処理および前記冷却処理の後に、前記鋼板は少なくとも500MPa、好適には650MPa以上の引張強度と、5%以上、好適には10%以上の破断点伸びと、を有する、
ことを特徴とする請求項1または3から6のいずれか1項に記載のリング型プルトップ。
【請求項9】
前記再結晶焼鈍処理後に前記鋼板が冷却される冷却速度は、500K/s以上である、
ことを特徴とする請求項2または7記載の方法。
【請求項10】
前記鋼板は以下の上限の質量百分率の合金成分を含んだ低合金鋼材で製造されることを特徴とする請求項1、3から6のいずれか1項または8に記載のリング型プルトップ:
N : 0.02%
Mn : 0.4%
Si : 0.04%
Al : 0.1%
Cr : 0.1%
P : 0.03%
Cu : 0.1%
Ni : 0.1%
Sn : 0.04%
Mo : 0.04%
V : 0.04%
Ti : 0.05%、好適には0.02%未満
Nb : 0.05%、好適には0.02%未満
B : 0.005%
他の合金成分: 0.05%
【請求項11】
前記鋼板は以下の上限の質量百分率の合金成分を含んだ低合金鋼材で製造されることを特徴とする請求項2、7または9に記載の方法:
N : 0.02%
Mn : 0.4%
Si : 0.04%
Al : 0.1%
Cr : 0.1%
P : 0.03%
Cu : 0.1%
Ni : 0.1%
Sn : 0.04%
Mo : 0.04%
V : 0.04%
Ti : 0.05%、好適には0.02%未満
Nb : 0.05%、好適には0.02%未満
B : 0.005%
他の合金成分: 0.05%
【国際調査報告】