(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-506706(P2015-506706A)
(43)【公表日】2015年3月5日
(54)【発明の名称】腫瘍発生、転移または余命のインビトロ評価のための方法および使用される人工ヌクレオチド
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20150206BHJP
C12Q 1/68 20060101ALI20150206BHJP
【FI】
C12N15/00 A
C12Q1/68 A
C12Q1/68ZNA
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2014-555908(P2014-555908)
(86)(22)【出願日】2012年2月13日
(85)【翻訳文提出日】2014年9月17日
(86)【国際出願番号】CN2012000169
(87)【国際公開番号】WO2013120222
(87)【国際公開日】20130822
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,MD,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC,VN
(71)【出願人】
【識別番号】514203568
【氏名又は名称】ベイジン インスティチュート フォー キャンサー リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100122389
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 栄一
(74)【代理人】
【識別番号】100111741
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 夏夫
(74)【代理人】
【識別番号】100169971
【弁理士】
【氏名又は名称】菊田 尚子
(74)【代理人】
【識別番号】100182992
【弁理士】
【氏名又は名称】江島 孝毅
(72)【発明者】
【氏名】デン,ダジュン
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ジュン
(72)【発明者】
【氏名】リウ,チャオジュン
(72)【発明者】
【氏名】チョウ,ジン
(72)【発明者】
【氏名】グ,リャンクン
(72)【発明者】
【氏名】チャン,バオチェン
【テーマコード(参考)】
4B024
4B063
【Fターム(参考)】
4B024AA12
4B024CA01
4B024CA09
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(57)【要約】
腫瘍発生および腫瘍転移のリスクまたは術後余命を評価するためにGFRa1 CpGアイランドのメチル化または脱メチル化の含量のin vitro測定を使用する方法ならびに使用されるヌクレオチド配列を本発明において提供する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程、すなわち、
a)ある数の癌患者および非癌患者から、それぞれ、組織DNAまたは血漿非含有DNAを得、
b)メチル化または脱メチル化GFRa1 CpGアイランドの比率を検出し、計算し、該メチル化または脱メチル化GFRa1比率を用いて癌の検出のためのカットオフ値を設定し、
c)被験者から生体外(in vitro)で組織DNAまたは血漿非含有DNAサンプルを得、該DNAサンプルにおけるメチル化または脱メチル化GFRa1 CpGアイランドの比率を検出し、計算し、
d)工程c)において決定されたメチル化または脱メチル化GFRa1比率を、工程b)において設定されたカットオフ値と比較し、
e)工程c)において決定されたメチル化GFRa1の比率が、工程b)において設定されたカットオフ値より小さい又はそれに等しい場合には、癌の発生を考慮し、そうでない場合には、癌の発生を考慮せず、あるいは、工程c)において決定された脱メチル化GFRa1の比率が、工程b)において設定されたカットオフ値より大きい又はそれに等しい場合には、癌の発生を考慮し、そうでない場合には、癌の発生を考慮しないことを含むことを特徴とする、癌の発生の生体外検出の方法。
【請求項2】
非メチル化シトシンを化学修飾し、それらの修飾配列に基づいてプライマーセットを設計し、合成し、メチル化または脱メチル化GFRa1 CpGアイランドを増幅し、メチル化または脱メチル化GFRa1 CpGアイランドの比率をメチル化の定量分析により決定し、計算することにより、工程b)およびc)に記載のメチル化または脱メチル化GFRa1対立遺伝子の比率を決定し、計算する、請求項1記載の癌の発生の生体外検出の方法。
【請求項3】
工程b)において設定されるメチル化または脱メチル化GFRa1のカットオフ値を、癌の発生の検出のためのROC曲線を用いることにより計算する、請求項1または2記載の癌の発生の生体外検出の方法。
【請求項4】
工程b)およびc)に記載のGFRa1 CpGアイランドの修飾配列が配列番号1、配列番号2、配列番号3または配列番号4に示されているとおりである、請求項2記載の癌の発生の生体外検出の方法。
【請求項5】
工程b)およびc)に記載のメチル化または脱メチル化GFRa1対立遺伝子の比率を、以下のアッセイ、すなわち、DHPLC、ビスルフィット配列決定または蛍光プローブに基づく定量的メチル化特異的PCR(MethyLight)を用いることにより決定し、計算する、請求項2記載の癌の発生の生体外検出の方法。
【請求項6】
以下のプライマーセット、すなわち、
a)配列番号5および配列番号6に示されているプライマーセットのヌクレオチド配列、または
b)配列番号7および配列番号8に示されているプライマーセットのヌクレオチド配列を使用するDHPLCまたはビスルフィット配列決定により、該メチル化または脱メチル化GFRa1対立遺伝子の比率を決定し、計算する、請求項5記載の癌の発生の生体外検出の方法。
【請求項7】
以下のオリゴヌクレオチド群、すなわち、
a)配列番号9および配列番号10に示されているプライマーセットのヌクレオチド配列ならびに配列番号11に示されているプローブのヌクレオチド配列、または
b)配列番号12および配列番号13に示されているプライマーセットのヌクレオチド配列ならびに配列番号14に示されているプローブのヌクレオチド配列を使用する、蛍光プローブに基づく定量的メチル化特異的PCR(MethyLight)により、該メチル化または脱メチル化GFRa1対立遺伝子の比率を決定し、計算する、請求項5記載の癌の発生の生体外検出の方法。
【請求項8】
代表的な癌が胃、結腸または肝臓における癌を含む、請求項1記載の癌の発生の生体外検出の方法。
【請求項9】
以下の工程、すなわち、
a)ある数の転移癌患者および非転移癌患者から生体外で組織DNAサンプルを得、
b)メチル化または脱メチル化GFRa1 CpGアイランドの比率を検出し、計算し、該メチル化または脱メチル化GFRa1比率を用いて癌転移の検出のための脱メチル化-高および-低のカットオフ値を設定し、
c)被験者から生体外で組織DNAサンプルを得、該DNAサンプルにおけるメチル化または脱メチル化GFRa1の比率を検出し、計算し、
d)工程c)において決定されたメチル化または脱メチル化GFRa1比率を、工程b)において設定されたカットオフ値と比較し、
e)工程c)において決定されたメチル化GFRa1の比率が、工程b)において設定されたカットオフ値より小さい又はそれに等しい場合には、癌の転移および短い術後生存期間を考慮し、そうでない場合には、癌の転移および短い生存期間を考慮せず、あるいは、工程c)において決定された脱メチル化GFRa1の比率が、工程b)において設定されたカットオフ値より大きい又はそれに等しい場合には、癌の転移および短い生存期間を考慮し、そうでない場合には、癌の転移および短い生存期間を考慮しないことを含むことを特徴とする、癌の転移および患者の術後生存期間の検出の方法。
【請求項10】
以下のアッセイにより、すなわち、非メチル化シトシンを化学修飾し、それらの修飾配列に基づいてメチル化または脱メチル化GFRa1 CpGアイランドのPCR増幅のためのプライマーセットを設計し、合成し、メチル化または脱メチル化GFRa1 CpGアイランドの比率をメチル化の定量分析により決定し、計算することにより、工程b)およびc)に記載のメチル化または脱メチル化GFRa1対立遺伝子の比率を決定し、計算する、請求項9記載の癌の転移および患者の術後生存期間の生体外検出の方法。
【請求項11】
工程b)において設定されるメチル化または脱メチル化GFRa1のカットオフ値を、ROC曲線を用いることにより計算する、請求項9または10記載の癌の転移および患者の術後生存期間の生体外検出の方法。
【請求項12】
工程b)およびc)に記載のGFRa1 CpGアイランドの修飾配列が配列番号1、配列番号2、配列番号3または配列番号4に示されているとおりである、請求項10記載の癌の転移および患者の術後生存期間の生体外検出の方法。
【請求項13】
工程b)およびc)に記載のメチル化または脱メチル化GFRa1対立遺伝子の比率を、以下のアッセイ、すなわち、DHPLC、ビスルフィット配列決定または蛍光プローブに基づく定量的メチル化特異的PCR(MethyLight)を用いることにより決定し、計算する、請求項10記載の癌の転移および患者の術後生存期間の生体外検出の方法。
【請求項14】
以下のプライマーセット、すなわち、
a)配列番号5および配列番号6に示されているプライマーセットのヌクレオチド配列、または
b)配列番号7および配列番号8に示されているプライマーセットのヌクレオチド配列を使用するDHPLCまたはビスルフィット配列決定により、該メチル化または脱メチル化GFRa1対立遺伝子の比率を決定し、計算する、請求項13記載の癌の転移および患者の術後生存期間の生体外検出の方法。
【請求項15】
以下のオリゴヌクレオチド群、すなわち、
a)配列番号9および配列番号10に示されているプライマーセットのヌクレオチド配列ならびに配列番号11に示されているプローブのヌクレオチド配列、または
b)配列番号12および配列番号13に示されているプライマーセットのヌクレオチド配列ならびに配列番号14に示されているプローブのヌクレオチド配列を使用する、蛍光プローブに基づく定量的メチル化特異的PCR(MethyLight)により、該メチル化GFRa1対立遺伝子の比率を決定し、計算する、請求項13記載の癌の転移および患者の術後生存期間の生体外検出の方法。
【請求項16】
代表的な癌が胃、結腸または肝臓における癌を含む、請求項9記載の癌の転移および患者の術後生存期間の生体外検出の方法。
【請求項17】
配列番号1、配列番号2、配列番号3または配列番号4として挙げられている人工ヌクレオチド配列。
【請求項18】
配列番号5および配列番号6として挙げられているプライマーセットの配列。
【請求項19】
配列番号7および配列番号8として挙げられているプライマーセットの配列。
【請求項20】
プライマーに関しては配列番号9および配列番号10として、ならびにプローブに関しては配列番号11として挙げられているオリゴヌクレオチド群およびプローブの配列。
【請求項21】
プライマーに関しては配列番号12および配列番号13として、ならびにプローブに関しては配列番号14として挙げられているオリゴヌクレオチド群およびプローブの配列。
【請求項22】
転写開始部位周辺の完全脱メチル化CpG部位を決定し、GFRa1再活性化を表すことを特徴とする、GFRa1遺伝子の異常再活性化の検出方法。
【請求項23】
請求項22記載のGFRa1遺伝子の異常再活性化の検出による、癌の発生、転移および患者の術後生存期間の検出の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、悪性腫瘍の浸潤、転移の能力および患者の生存時間の長さを生体外(in vitro)で予測する方法に関する。本発明はまた、該方法において使用されるヌクレオチド断片に関する。
【背景技術】
【0002】
浸潤および転移は癌の予後不良の主要原因である。癌の浸潤および転移による隣接および遠隔器官の破壊は外科的切除の機会を逸することにつながり、治療後の再発を招く。浸潤および転移の可能性の検出のための高感度バイオマーカーは癌患者に対する個別化臨床処置を著しく改善するであろう。したがって、癌の浸潤および転移の可能性を予測することが切望されている。
【0003】
組織病理学的根拠のみに基づいて癌の転移可能性を確認することは実質的に不可能であることが十分に認識されている。したがって、分子生物学的方法を用いて分子サブタイピングを行うことが期待される。過去数十年間で、タンパク質およびRNAの発現変化に関して、大きな進歩がもたらされている。癌の生物学に関する多数の研究がなされているが、癌細胞の転移能を正確に認識するための有効な方法は尚も存在しない。
【0004】
分子生物学の急速な発展に伴い、発癌のメカニズムに関する包括的な理解が得られてきている。腫瘍関連遺伝子(p53、APCおよびRasなどを含む)の遺伝的不活性化または活性化に加えて、過剰メチル化による腫瘍抑制遺伝子(p15、p16およびhMLH1などを含む)のエピジェネティック不活性化およびCpGアイランドの過剰メチル化による癌原遺伝子の再活性化は癌における他の種類の頻繁事象である。組織サンプル内の少数の異常細胞における遺伝子のタンパク質レベルおよびmRNAレベルの変化の検出は、通常の遺伝子発現アッセイを用いては非常に困難であることがよく知られている。なぜなら、遺伝子発現が変化していない主細胞集団の共存により、それらの可視性が著しく低減するからである。これとは対照的に、メチル化および脱メチル化CpGアイランドは、それぞれ、メチル化および脱メチル化特異的アッセイにより分析されうる。これはCpGアイランドのメチル化状態の検出を非常に高感度にするため、試験組織における少数の細胞内で生じたメチル化変化が明らかに示されうる。これは、DNAのメチル化を、癌の分子的層別のための最適なバイオマーカーにする。
【0005】
受容体GFRa1はグリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)と合体して、SRC、MAPK、AKTおよびRhoなどのようなシグナリング経路を活性化しうる癌遺伝子RETのホスホチロシンキナーゼ[Cell 1996, 85(7):1113-1124]を形成する。それは該細胞の増殖、分化および遊走に密接に関連している[Nature Reviews Neuroscience 2002, 3(5):383-394]。GFRa1の発現は幾つかの癌(例えば、膵癌、乳癌、嗅細胞癌およびグリア細胞腫瘍)の組織において上昇することが見出されている。この遺伝子の発現の上昇はこれらの癌の発生、発達および転移を促進させる[Cancer Research 2005, 65(24):11536-11541; Cancer Research 2007, 67(24): 11733-11741]。GFRa1のリガンドであるGDNFのメチル化-不活性化が胃癌の発生に関連していることも報告されている[Gastroenterology 2009; 136:2149-2158]。しかし、腫瘍の発生、転移および生存を評価するためにGFRa1 CpGアイランドのメチル化および脱メチル化を用いる方法に関する報告はない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Cell 1996, 85(7):1113-1124
【非特許文献2】Nature Reviews Neuroscience 2002, 3(5):383-394
【非特許文献3】Cancer Research 2005, 65(24):11536-11541; Cancer Research 2007, 67(24): 11733-11741
【非特許文献4】Gastroenterology 2009; 136:2149-2158
【発明の概要】
【0007】
発明の詳細な説明
1つの側面においては、本発明は腫瘍の発生、転移および生存時間に関するin vitro検出アッセイ、ならびに該方法において使用される人工ヌクレオチドを提供する。それは腫瘍の早期発見および明確な診断、腫瘍の転移能および患者の術後生存時間の正確な評価を補助し、腫瘍の診断および治療の助けとなるであろう。
【0008】
前記の効果を得るために、本発明は以下の技術的提示を提供する。
【0009】
本発明においては、以下の工程を含む、腫瘍の発生に関するin vitro検出アッセイを開示する。
【0010】
a)癌患者および正常患者から、それぞれ、ゲノムDNAまたは血漿(プラズマ)非含有DNAサンプルを得る(抽出する)。
【0011】
b)GFRa1 CpGアイランドのメチル化(または脱メチル化)の比率を検出し、計算して、腫瘍に関するメチル化(または脱メチル化)のカットオフ値を決定する。
【0012】
c)被験患者からゲノムDNAまたは血漿非含有DNAを得(抽出し)、GFRa1 CpGアイランドのメチル化(または脱メチル化)比率を検出し、計算する。
【0013】
d)工程c)において決定された該メチル化(または脱メチル化)比率を、工程b)において決定されたメチル化(または脱メチル化)のカットオフ値と比較する。
【0014】
e)工程c)において決定されたメチル化(または脱メチル化)比率が、工程b)において決定されたメチル化(または脱メチル化)のカットオフ値より小さい(または大きい)またはそれに等しい場合には、腫瘍の発生を考慮すべきであり、あるいは、工程c)において決定されたメチル化(または脱メチル化)比率が、工程b)において決定されたメチル化(または脱メチル化)のカットオフ値より大きい(または小さい)場合には、腫瘍の発生を考慮しない。
【0015】
更に、工程b)およびc)におけるGFRa1 CpGアイランドのメチル化(または脱メチル化)比率の検出および計算の方法は以下のとおりである:非メチル化シトシンの化学修飾;修飾GFRa1配列のメチル化(または脱メチル化)CpGアイランドにマッチしうるPCRプライマーの設計および合成;これらのプライマーを使用するメチル化(または脱メチル化)GFRa1 CpGアイランドの増幅;定量的メチル化アッセイを用いる、GFRa1 CpGアイランドのメチル化(脱メチル化)比率の検出および計算。GFRa1メチル化レベルを分析するためには、当技術分野における他の方法、例えば、メチル化DNA富化に基づく配列決定および他の技術との組合せも用いられうる。
【0016】
更に、工程b)においては、GFRa1 CpGアイランドのメチル化(または脱メチル化)比率のカットオフ値はROC曲線の方法により決定される。
【0017】
本発明は更に、工程b)および工程c)に挙げられているGFRa1 CpGアイランドの修飾DNA配列を含み、それらは配列番号1、配列番号2、配列番号3および配列番号4に示されている。
【0018】
更に、工程b)および工程c)におけるGFRa1メチル化(脱メチル化)比率はDHPLC、ビスルフィット-配列決定またはプローブに基づく定量的メチル化特異的PCR(MethyLight)により定量される。
【0019】
好ましくは、DHPLCまたはビスルフィット-配列決定において使用される定量的メチル化分析におけるプライマーセットは、
a)配列番号5および配列番号6に示されている塩基配列を有するプライマーセット、または
b)配列番号7および配列番号8に示されている塩基配列を有するプライマーセットである。
【0020】
好ましくは、MethyLight(メチライト)分析におけるプライマーセットおよびプローブは、
a)配列番号9および配列番号10に示されている塩基配列を有するプライマーセットから構成されるオリゴヌクレオチド群、ならびに配列番号11に示されている塩基配列を有するプローブ、または
b)配列番号12および配列番号13に示されている塩基配列を有するプライマーセットから構成されるオリゴヌクレオチド群、ならびに配列番号14に示されている塩基配列を有するプローブである。
【0021】
更に、本発明において挙げられている腫瘍は、結腸癌、胃癌または肝癌から選択される。
【0022】
本発明はまた、以下の工程を含む、癌の転移のリスクおよび術後生存時間に関するin vitro検出アッセイの方法を提供する。
【0023】
a)転移癌を有する患者の腫瘍組織および非転移癌を有する患者の腫瘍組織からDNAを得る(抽出する)。
【0024】
b)GFRa1 CpGアイランドのメチル化(または脱メチル化)比率を検出し、計算し、癌転移の予測に関するカットオフ値を決定する。
【0025】
c)被験癌患者の腫瘍DNAを得(抽出し)、腫瘍組織におけるGFRa1 CpGアイランドのメチル化(または脱メチル化)比率を検出し、計算する。
【0026】
d)工程c)において決定されたGFRa1メチル化(または脱メチル化)比率と、工程b)において決定されたメチル化(または脱メチル化)のカットオフ値とを比較する。
【0027】
e)工程c)において決定されたメチル化(または脱メチル化)比率が、工程b)において決定されたカットオフ値より小さい(または大きい)またはそれに等しい場合には、該患者は腫瘍転移の高いリスクおよび短い術後生存を有すると評価され、あるいは、工程c)において決定されたメチル化(または脱メチル化)比率が、工程b)において決定されたカットオフ値より大きい(または小さい)場合には、該患者は腫瘍転移の低いリスクおよび長い術後生存を有すると評価される。逆の場合には、患者は腫瘍転移の高いリスクおよび短い術後生存を有すると評価される。
【0028】
更に、工程b)および工程c)において決定されるメチル化(または脱メチル化)比率の検出および計算の方法は以下のとおりである:非メチル化シトシンの化学修飾;修飾GFRa1配列のメチル化(または脱メチル化)CpGアイランドにマッチしうるPCRプライマーの設計および合成;これらのプライマーを使用するメチル化(または脱メチル化)GFRa1 CpGアイランドの増幅;定量的メチル化アッセイを用いる、GFRa1 CpGアイランドのメチル化(脱メチル化)比率の検出および計算。GFRa1メチル化レベルを分析するためには、当技術分野における他の方法、例えば、メチル化DNA富化に基づく配列決定および他の技術との組合せも用いられうる。
【0029】
更に、工程b)において計算されるメチル化(または脱メチル化)GFRa1比率のカットオフ値はROC曲線の方法により決定される。
【0030】
更に、工程b)および工程c)におけるGFRa1 CpGアイランドの修飾配列のオリゴ配列が配列番号1、配列番号2、配列番号3および配列番号4に示されている。
【0031】
更に、工程b)および工程c)におけるGFRa1メチル化含量の定量分析は、DHPLC、ビスルフィット-配列決定またはMethyLight(メチライト)(プローブに基づく定量的メチル化特異的PCR)により定量される。
【0032】
更に、DHPLCまたはビスルフィット-配列決定アッセイにおけるメチル化の定量分析において、本発明で挙げられるプライマーセットは、
a)配列番号5および配列番号6に示されている塩基配列を有するオリゴヌクレオチドから構成されるプライマーセット、または
b)配列番号7および配列番号8に示されている塩基配列を有するオリゴヌクレオチドから構成されるプライマーセットである。
【0033】
更に、MethyLightアッセイにおけるメチル化の定量分析の方法において、本発明で挙げられるオリゴヌクレオチド群は、
a)配列番号9および配列番号10に示されている塩基配列を有するプライマーセットから構成されるオリゴヌクレオチド群、ならびに配列番号11に示されている塩基配列を有するプローブ、または
b)配列番号12および配列番号13に示されている塩基配列を有するプライマーセットから構成されるオリゴヌクレオチド群、ならびに配列番号14に示されている塩基配列を有するプローブである。
【0034】
更に、本発明において挙げられている腫瘍は胃癌、結腸癌または肝癌を意味する。
【0035】
本発明はまた、配列番号1、配列番号2、配列番号3または配列番号4に示されている塩基配列を有する、ある種類のDNA分子を提供する。
【0036】
本発明はまた、配列番号5および配列番号6に示されている塩基配列を有する、ある種類のプライマーセットを提供する。
【0037】
本発明はまた、配列番号7および配列番号8に示されている塩基配列を有する、別の種類のプライマーセットを提供する。
【0038】
本発明はまた、配列番号9および配列番号10に示されている塩基配列を有するプライマーセットを含む、ある種類のオリゴヌクレオチド群、ならびに配列番号11に示されている塩基配列を有するプローブを提供する。
【0039】
本発明はまた、配列番号12および配列番号13に示されている塩基配列を有するプライマーセットを含む、ある種類のオリゴヌクレオチド群、ならびに配列番号14に示されている塩基配列を有するプローブを提供する。
【0040】
本発明はまた、GFRa1発現の異常な再活性化を検出するための方法を提供する。該方法の特徴は、GFRa1遺伝子の転写開始部位周辺のCpG部位の完全脱メチル化の分析である。これは、本発明者により世界で最初に認識されたものである。更に、本発明は、癌の発生および転移ならびに患者の術後生存の判定のためにGFRa1の異常再活性化を検出するためのアッセイのセット(組合せ)を提供する。
【0041】
前記の目的を達成するために、以下の研究結果に基づいて、これらの方法が推進される。
【0042】
仮説
腫瘍の発生および進行は多要因、多経路および多段階の過程である。癌細胞のエピジェネティック・シグネチャ(signature)および生物学的特徴は経路依存的である可能性があり、これは、異なる予後につながるであろう。例えば、マイクロサテライト高不安定性(MSI-H;MLH1のようなミスマッチ修復遺伝子の不活性化に関連している)を伴う結腸直腸癌の予後は、マイクロサテライト低不安定性(MSI-低)を伴うものより良好であり、メチル化によるDNA修復遺伝子MGMTの不活性化を伴うグリオーマの予後は、MGMTメチル化を伴わないものより良好である。GFRa1遺伝子の転写開始部位の周辺にはCpGアイランドが存在する。ほとんどの正常成体組織においては、GFRa1はメチル化により不活性化される。しかし、その発現は、多数の癌において、明らかにアップレギュレーションされる。GFRa1は癌の発生および進行を促進させる。本発明者らは、GFRa1が癌組織において脱メチル化され、該脱メチル化が癌におけるGFRa1のアップレギュレーションにつながることを、本発明において初めて見出した。これらに従い、本発明者らは、メチル化(または脱メチル化)GFRa1含量の検出が癌の発生の判定、癌の転移および患者の生存の予測に利用可能であると仮定している。この仮説は、後記のとおり、多数の癌において実証されている。
【0043】
実証
1.
端緒: 本発明者らのゲノムワイドDNAメチロームデータは、マイクロアレイプローブで検出されたGFRa1プロモーターのメチル化シグナル比[胃癌(GC)対外科的マージン(surgical margin)(SM)]が、転移GCにおいては、非転移GCの場合より有意に低いことを示している(
図1)。このことは、DNA脱メチル化によるGFRa1の再活性化が潜在的腫瘍バイオマーカーでありうることを示唆している。したがって、この仮説を詳細に確認するために、以下の実験を行う。
【0044】
2.
GFRa1メチル化および脱メチル化を定量的に検出するための方法の確立: ゲノムDNAサンプルにおける非メチル化シトシン残基を亜硫酸水素ナトリウムでウラシル残基に変換する。CpG非含有プライマーセットを使用して、GFRa1 CpGアイランドのメチル化および非メチル化標的DNA断片(522bp)の両方を増幅する。変性高速液体クロマトグラフィー(DHPLC)を用いて、該PCR産物におけるメチル化および非メチル化GFRa1分子を分離し、それらの量を定量する(
図2)。半定量的アッセイであるビスルフィット(亜硫酸水素塩)クローン配列決定の結果はDHPLC分析と合致している(
図3)。これらのことは、非メチル化GFRa1対立遺伝子に対するメチル化GFRa1対立遺伝子の比の定量分析のためにDHPLCアッセイが利用可能であることを示している。高分子DNAが小分子DNAへと破壊されているパラフィン包埋組織からのDNAサンプルにおいてGFRa1メチル化を検出するために、プローブに基づく定量的メチル化特異的PCRアッセイ(MethyLight)を準備して、該遺伝子のコアCpGアイランド内の158bpの断片においてメチル化レベルを決定する。参照遺伝子COL2A1(Widschwendterら, Cancer Res 2004, 64:3807-3813)におけるCpG非含有領域を使用して投入DNAに関して標準化した後、MethyLight分析の結果はDHPLC分析と非常に合致している(r=0.5; P=0.000;
図4)。GFRa1メチル化と癌の特徴との間の同様の関連性がDHPLCおよびMethyLight分析の両方において観察されうるであろう。
【0045】
3.
CpGアイランドの脱メチル化によるGFRa1発現の再活性化: 種々のGFRa1メチル化状態を有する細胞系および組織サンプルにおいて、蛍光プローブに基づく定量RT-PCRでGFRa1遺伝子のmRNAレベルを分析する。結果は、GFRa1 mRNAが4個のGFRa1脱メチル化陽性細胞系においては検出されるが、15個の脱メチル化陰性細胞系においては検出されないことを示している(P<0.001;
図5A)。同様に、胃組織サンプルにおいては、GFRa1 mRNAレベルはGFRa1メチル化レベルと逆相関することが認められる(P=0.041;
図5B)。結腸組織においても、同じ現象が観察される。総合すると、これらの結果は、プロモーターDNAの脱メチル化がGFRa1の発現を再活性化しうることを示している。
【0046】
4.
胃組織におけるGFRa1脱メチル化は胃癌のスクリーニングのための潜在的バイオマーカーである: 48名の非癌対照患者(10名の健常者および38名の慢性胃炎患者)からの正常/胃炎生検、98個の胃癌および対応外科的マージン「正常」組織サンプルにおけるGFRa1脱メチル化レベルを、DHPLCを用いることにより分析する。その結果は、正常/胃炎生検におけるメチル化:脱メチル化GFRa1比(中央値, 60.4%)が、GCサンプルにおけるもの(51.0%, P=0.043)またはSMサンプルにおけるもの(14.5%; P<0.01)より有意に高いことを示している。それは、GFRa1が胃癌の発生において脱メチル化されていること、ならびに該脱メチル化がフィールド効果として胃癌組織および隣接非癌組織の両方において生じることを示している。したがって、それは、癌細胞がサンプル採取できない場合もある、胃生検を使用する早期の胃癌のスクリーニングに、非常に有用である。
【0047】
GFRa1をバイオマーカーとして使用する胃癌のスクリーニングの実施可能性を調べるために、GFRa1メチル化:脱メチル化比のカットオフ値を、受診者動作特性曲線(ROC)を使用して計算する。胃癌および非癌患者に関する前記GFRa1メチル化結果によれば、ROC下面積は67.3%(P <0.001,
図6B)である。該カットオフ値を22.8%(脱メチル化陽性に関しては<22.8%および脱メチル化陰性に関しては>22.8%)に設定した場合、正常/胃炎サンプルにおける脱メチル化陽性比(15/48=31.2%)は外科的マージン(77/98=78.5%)および胃癌組織(60/98=61.2%)より遥かに低い(P<0.001)。胃癌のスクリーニングのための外科的マージン組織におけるGFRa1脱メチル化陽性の感度および特異性は、それぞれ、79%および69%である。
【0048】
5.
GFRa1脱メチル化は胃癌の転移および患者の全生存期間の予測のための潜在的バイオマーカーである: GFRa1脱メチル化と胃癌転移または患者の全生存期間との間の関連性の分析において、49個の非転移胃癌におけるメチル化GFRa1の比率が49個の転移癌の場合より有意に高いことが判明している(中央値, 60.6%対22.8%, P=0.044)。したがって、癌転移の予測のための分類指標としてGFRa1メチル化を用いる効率を評価するために、ROC曲線を計算するためのゴールデン・スタンダードとして胃癌の転移状態を用いる。ROC曲線下面積(AUC)は65.6%(P=0.004;
図7)である。メチル化GFRa1の比率のカットオフ値を16.4%(GFRa1脱メチル化-高に関しては<16.4%および脱メチル化-低に関しては>16.4%)に設定した場合、転移胃癌における脱メチル化-高の比である71%(35/49)は非転移胃癌の場合の49%(24/49; P=0.038)より有意に高い(71%の感度および51%の特異性)。カプラン・マイヤー分析は、GFRa1脱メチル化-高の患者の全生存期間が脱メチル化-低の患者より短いことを示している(5年生存率, 32.8%対62.2%; ログランク検定, P=0.001; 多変量解析, P=0.002;
図8)。
【0049】
前記知見を、遠隔転移を伴わない胃癌を有する120名の別の患者において更に実証する。この場合もまた、47個の非転移癌組織におけるメチル化GFRa1の比率は73個のリンパ節転移症例の場合より有意に高いことが判明している(中央値, 49.0%対30.6%, P<0.001)。同じカットオフ値(16.4%)を用いた場合、転移症例におけるGFRa1脱メチル化-高の比(46/73)は非転移症例の場合(19/47)より有意に高い(63.1%対40.4%, P=0.024; 63%の感度および60%の特異性)。また、カプラン・マイヤー分析は、脱メチル化-高の患者が脱メチル化-低の患者より有意に短い全生存期間を有することを示している(5年生存率, 47.7%対71.7%; ログランク検定, P=0.015; 多変量解析, P=0.025;
図9)。該発見および実証研究における結果は、胃癌におけるGFRa1 CpGアイランドの脱メチル化レベルが癌の転移および患者の全生存期間と密接に相関していることを示している。これらの結果は、GFRa1脱メチル化が癌転移の予測のための有用なバイオマーカーでありうることを示している。
【0050】
6.
GFRa1脱メチル化は、結腸癌の発生および転移ならびに患者の生存を予測するためのバイオマーカーである: 他の癌の進行とGFRa1脱メチル化との間の関連性を調べるために、21名の非癌患者からの結腸粘膜生検サンプル、97個の結腸癌およびそれらの対応外科的マージン組織におけるGFRa1脱メチル化レベルをDHPLCアッセイで分析する。該結果は、結腸生検におけるメチル化GFRa1の比率(中央値, 64.1%)が結腸癌(31.6%; P=0.001)および外科的マージン組織(26.6%; P<0.001;
図10)より有意に高いことを示している。癌組織および非癌患者からの対照生検を使用するメチル化分析の結果によれば、ROC曲線下面積は74.1%である(P<0.001;
図11)。カットオフ値を34.5%(脱メチル化陽性に関しては<34.5%および脱メチル化陰性に関しては>34.5%)に設定した場合、非癌患者からの7/21個の対照生検におけるGFRa1脱メチル化陽性率(33.3%)は93/97個の外科的マージンサンプルの場合(95.8%; P<0.001)および60/97個の癌サンプルの場合(61.9%; P<0.001)より有意に低い。結腸癌のスクリーニングのためのバイオマーカーとして該非癌生検または外科的マージンサンプルにおけるGFRa1脱メチル化陽性を用いた場合、感度および特異性は、それぞれ、95.8%および66.7%である。
【0051】
更に、これらの97名の結腸癌患者(49名の非転移癌患者および48名の転移癌患者)において、GFRa1脱メチル化と結腸癌転移との間の関連性をも分析する。49個の非転移症例におけるメチル化GFRa1の比率は48個の転移症例の場合より有意に高い(中央値, 45.6%対25.0%, P=0.016)。ROC曲線下面積(AUC)は62.6%(P=0.033;
図12)である。カットオフ値を27.6%(GFRa1脱メチル化-高に関しては<27.6%および脱メチル化-低に関しては>27.6%)に設定した場合、48個の転移癌におけるGFRa1脱メチル化-高の陽性比率(33/48=68.8%)は49個の非転移癌の場合(22/49=44.9%; P=0.024; 69%の感度および55%の特異性)より有意に高い。カプラン・マイヤー分析は、GFRa1脱メチル化-高の癌患者が脱メチル化-低の患者より有意に短い全生存期間を有することを示した(3年生存率, 41.8%対66.7%; ログランク検定, P=0.019; 多変量解析, P=0.031;
図13)。
【0052】
これらの組織においてGFRa1脱メチル化レベルを検出するためにメチル化特異的蛍光定量PCRを用いた場合にも、同様の結果が認められる。ROC曲線下面積(AUC)は61.7%である(P<0.05;
図14)。カットオフ値を22.3%(GFRa1脱メチル化-高に関しては<22.3%および脱メチル化-低に関しては>22.3%)に設定した場合、48個の転移癌におけるGFRa1脱メチル化-高の陽性比率(40/48)は49個の非転移癌の場合(31/49)より有意に高い(83.3%対63.3%; P=0.038; 83%の感度および37%の特異性)。カプラン・マイヤー分析は、GFRa1脱メチル化-高の癌患者が脱メチル化-低の患者より有意に短い全生存期間を有することを示している(3年生存率, 46.5%対69.2%;
図15)。
【0053】
7.
GFRa1脱メチル化は、他の癌の発生および転移ならびに患者の生存を予測するためのバイオマーカーである: GFRa1脱メチル化と肝細胞癌(HCC)の予後との間の関連性も分析する。結果は、20個の非転移HCCにおけるメチル化GFRa1対立遺伝子の比率が17個の転移HCCの場合より高いことを示している(中央値, 55.6%対41.4%, P=0.065)。ROC曲線下面積(AUC)は68.4%である(
図16)。カットオフ値を49.3%(GFRa1脱メチル化-高に関しては<49.3%および脱メチル化-低に関しては>49.3%)に設定した場合、17個の転移HCCにおけるGFRa1脱メチル化-高の陽性比率(12/17)は20個の非転移HCCの場合(11/20)より有意に高い(70.5%対55%; P=0.024; 70%の感度および45%の特異性)。カプラン・マイヤー分析はまた、GFRa1脱メチル化-高の癌患者がGFRa1脱メチル化-低の患者より短い全生存期間を有することを示している(
図17)。
【0054】
また、肺癌細胞A549および前立腺癌細胞PC-3においては、GFRa1 CpGアイランドが完全に脱メチル化されることが判明している。前記の結果は、GFRa1脱メチル化が複数の癌の発生に関連していることを示している。
【0055】
総合すると、本データは、GFRa1 CpGアイランドの脱メチル化が種々の癌のスクリーニングのための潜在的バイオマーカーであり、高レベルのGFRa1脱メチル化が、複数の癌の転移および患者の全生存時間を予測するために用いられうることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【
図1】
図1は胃癌および外科的マージン組織のDNAメチロームのデータベースにおけるGFRa1 CpGアイランド内の種々の部分におけるDNAメチル化シグナルの強度の比較を示す。
図1Aは、522bpのアンプリコン(黒色太線)、およびGFRa1 CpGアイランドのメチル化の検出のためのマイクロアレイプローブ(黒色正方形)の位置である。
図1BはDNAメチロームデータベースにおけるGFRa1 CpGアイランドの種々の部分におけるDNAメチル化シグナルの強度の比較である。転移胃癌(M+)と非転移胃癌(M-)との間でプロモーター領域におけるディファレンシャルメチル化が観察される。
【
図2】
図2はビスルフィット-DHPLC分析におけるメチル化および脱メチル化GFRa1 CpGアイランドの522bpのアンプリコンのクロマトグラムである。
図2Aはヒト細胞系の脱メチル化GFRa1の結果を示し、
図2Bは胃組織に関するものである。末梢白血球のゲノムDNAが陰性対照として使用されている。M.sssI-メチル化血液DNAが陽性対照として使用されている。
【
図3】
図3はヒト細胞系におけるGFRa1 CpGアイランドからの522bpのPCRクローンのビスルフィット配列決定の結果である。濃黒色の点はメチル化CpG部位を表し、Du145、MKN45およびBGC823細胞においてはGFRa1は完全にメチル化されており、MKN74細胞においては部分的にメチル化されており、GES-1細胞においては脱メチル化されている。
【
図4】
図4は、DHPLCおよび蛍光プローブに基づく定量的メチル化特異的PCR(MethyLight)分析で検出されたGFRa1メチル化レベルの相関分析である。
【
図5】
図5はGFRa1脱メチル化とGFRa1転写レベルとの間の関連性を示す。
図5Aは、19個のヒト細胞系を使用する相関分析である。
図5Bは、胃癌および外科的マージン組織を使用する相関分析である。
【
図6】
図6は非癌患者からの正常/または胃炎生検および胃癌および外科的マージンサンプルの間のGFRa1メチル化レベルの比較を示す。
図6Aは種々の病態の胃組織におけるメチル化GFRa1の百分率を示す。
図6Bは、癌および非癌患者からの胃組織におけるGFRa1メチル化含量を用いる胃癌の検出のROC曲線のカットオフ値を示す。
【
図7】
図7は、分類指標としてGFRa1脱メチル化含量を用いることによる胃癌転移の検出のROC曲線である。
【
図8】
図8は発見コホートにおける98名のGFRa1脱メチル化-高または脱メチル化-低の胃癌患者の術後全生存時間のカプラン・マイヤー曲線を示す。
【
図9】
図9は実証コホートにおける120名のGFRa1脱メチル化-高または脱メチル化-低の胃癌患者の術後全生存時間のカプラン・マイヤー曲線を示す。
【
図10】
図10は非癌患者からの結腸生検、結腸癌および外科的マージンサンプルの間のGFRa1メチル化レベルの比較である。
【
図11】
図11は、非癌患者からの結腸生検および結腸癌患者からの外科的マージン組織サンプルにおけるGFRa1メチル化含量を用いる結腸癌の検出のROC曲線のカットオフ値である。
【
図12】
図12は、GFRa1脱メチル化の度合を用いる結腸癌の転移および非転移の検出のROC曲線である。
【
図13】
図13は97名のGFRa1脱メチル化-高または脱メチル化-低の結腸癌患者の術後全生存時間のカプラン・マイヤー曲線である。
【
図14】
図14は、プローブに基づく定量的メチル化特異的PCR(MethyLight)アッセイを用いることにより決定されたGFRa1脱メチル化-高または脱メチル化-低を分類指標として用いる結腸癌の転移および非転移の検出のROC曲線である。
【
図15】
図15は、プローブに基づく定量的メチル化特異的PCR(MethyLight)アッセイにおいてGFRa1脱メチル化-高または脱メチル化-低を示す結腸癌を有する97名の患者の術後全生存時間のカプラン・マイヤー曲線である。
【
図16】
図16は、GFRa1脱メチル化-高または脱メチル化-低を用いることによるHCCの転移および非転移の検出のROC曲線である。
【
図17】
図17は、種々のGFRa1脱メチル化の度合を示す37名の患者の術後全生存時間のカプラン・マイヤー曲線である。
【
図18】
図18は胃組織サンプルにおけるGFRa1 CpGアイランドの522bpのPCR産物のビスルフィット配列決定の結果である。濃黒色の点はメチル化CpG部位を表し、サンプルF1309およびF1311においてGFRa1は完全に脱メチル化されているが、他の代表的サンプルにおいては脱メチル化されていない。
【0057】
(実施例)
次に、実施例により本発明の詳細な例示を記載する。特に示されていない限り、材料、方法および装置は全て、当技術分野における通常の材料、方法および装置である。
【0058】
最良の実施形態
実施例1:
DHPLCを用いることによる胃組織におけるGFRa1 CpGアイランドの脱メチル化の検出による胃癌のスクリーニング
1. 被験体: 48名(胃における病的変化が認められない10個の症例および慢性胃炎を示す38個の症例)の非癌患者からの胃粘膜生検、胃癌および対になった外科的マージン凍結組織サンプル(98名の患者からのもの)。
【0059】
2. 組織タンパク質を、プロテイナーゼKを使用して常法により消化し、ついで、通常のエタノール沈殿法を用いてゲノムDNA(約10μg)を抽出する。
【0060】
3. 以下の工程を含む方法により、5M 亜硫酸水素ナトリウムを使用して、DNAサンプルにおける非メチル化シトシン残基を修飾する。
【0061】
1)工程2において調製された2μgのゲノムDNAを18μlの蒸留無菌水に加え、溶解し、95℃の湯浴内でチューブを20分間インキュベートし、ついで氷浴内でインキュベートする。
【0062】
2)2μlの3M NaOHを加え、混合し、42℃で20分間インキュベートして、二本鎖DNAを変性させる。
【0063】
3)5M 亜硫酸水素ナトリウム溶液(NaHSO
3, 4ml)を準備し、1.9gのNa
2S
2O
5を2.5mlの蒸留無菌水中に加え、0.7mlの2M NaOH溶液および0.5mlの1M ヒドロキノンを加え、完全に溶解するまで繰返し反転させ混合しながら50℃の水浴内でインキュベートする。
【0064】
4)380μlの新鮮な5M NaHSO
3溶液を加え、混合する。反応液の上面を200μlの液体パラフィンで覆って、反応液の蒸発を防ぐ。水浴内で50℃で一晩インキュベートして、非メチル化シトシン残基をウラシル残基に変換する。
【0065】
5)液体パラフィンを除去する。該修飾DNAをキットの説明に従いWizard DNA Clean-Up System(Promega A7280)で精製する: 樹脂の混合物の1mlを加え、混合後、5分間静置し、該樹脂-DNA混合物を、マイクロカラムフィルターに接続されたインジェクタチューブ内に移し、液相を取り出し、真空状態を用いて該マイクロカラムフィルターにおいて該DNAサンプルを固相上に移し、2mlの80%イソプロピルアルコールを加え、真空状態を用いてインジェクタ-フィルター内の液体を取り出し、該インジェクタチューブを外し、該マイクロカラムフィルターを別の遠心チューブ(1.5ml)内にセットし、高速(10,000g、20秒間)で遠心分離して、該カラムフィルター内の残留液体を取り出し、該マイクロカラムフィルターを別の遠心チューブにセットする。
【0066】
6)50μlの蒸留無菌水(予め80℃で加温)を該マイクロカラム内に加え、15分間静置し、高速(10,000g、20秒間)で遠心分離して、溶出物を集める。この洗浄過程を再び繰返す。溶出溶液をプールする。
【0067】
7)11μlの3M NaOH溶液を加え、混合し、水浴内で37℃で15分間インキュベートして、更なる修飾を終結させる。
【0068】
8)166μlの5M NaOAcおよび750μlの100%冷エタノールを加え、混合し、-20℃で4時間貯蔵してDNAを沈殿させる。10,000gで30分間遠心分離し、溶液を廃棄する。200μlの80%冷エタノールを加えてDNAを洗浄する。再び遠心分離し、溶液を廃棄する。
【0069】
9)DNAを3〜6μlの無菌水またはTEバッファーに再懸濁させる。直ちに使用するか、または-20℃で貯蔵する。
【0070】
4. PCRプライマーセットの設計。修飾GFRa1センス鎖配列(配列番号1および配列番号2)に従い、CpG非含有汎用プライマーセット(配列番号5、配列番号6または配列番号7、配列番号8)を設計し、合成する。
【0071】
5. PCR増幅。該修飾DNAサンプルにおけるGFRa1対立遺伝子内のメチル化断片および脱メチル化断片(522bpまたは463bp)の両方を、ホットスタートPCRを用いることにより増幅する。
【0072】
6. DHPLCの使用による、PCR産物におけるメチル化および脱メチル化GFRa1 CpGアイランドの検出。脱メチル化GFRa1に関してピーク面積比率を計算する:
脱メチル化GFRa1の比率 = [脱メチル化GFRa1に関するピーク面積]/[脱メチル化およびメチル化GFRa1 PCR産物の両方に関する全ピーク面積]×100%。
【0073】
あるいは、メチル化GFRa1を計算する:
メチル化GFRa1の比率 = [メチル化GFRa1に関するピーク面積]/[脱メチル化およびメチル化GFRa1 PCR産物の両方に関する全ピーク面積]×100%、または
メチル化GFRa1の比率 = 1 - (脱メチル化GFRa1に関するピーク面積比率)。
【0074】
7. 結果: 正常胃生検におけるメチル化GFRa1に関する平均ピーク面積比率は胃炎生検におけるものに類似しており、これらの正常/胃炎サンプルにおけるメチル化GFRa1の平均比率は60.4%(中央値)であり、これは、それぞれ、胃癌および外科的マージンサンプルの場合より有意に高い(51.0%, P=0.043; および14.5%, P=0.000;
図6A)。したがって、GFRa1メチル化比率をバイオマーカーとして用いる胃癌のスクリーニングに関する受診者動作特性曲線(ROC)を計算する。該カットオフ値を22.8%(脱メチル化陽性に関しては<22.8%および脱メチル化陰性に関しては>22.8%)に設定した場合、正常/胃炎サンプルにおける脱メチル化陽性比(15/48=31.2%)は外科的マージン(77/98=78.5%)および胃癌組織(60/98=61.2%)より遥かに低い(P<0.001)。胃癌のスクリーニングのための外科的マージン組織におけるGFRa1脱メチル化陽性の感度および特異性は、それぞれ、79%および69%である(
図2B)。
【0075】
実施例2:
DHPLCによるGFRa1 CpGアイランドの脱メチル化の検出による胃癌の転移および患者の生存期間の検出
1. 被験体: 発見コホートにおける98名の患者(リンパまたは遠隔部位への転移および塞栓を伴う胃癌を有する49名の患者ならびに非転移胃癌を有する49名の患者を含む)からの胃癌凍結組織サンプル。実証コホートにおける120名(遠隔転移はしていないがリンパには転移している73例の胃癌および47例の非転移胃癌を含む)の患者からの胃癌凍結組織サンプル。臨床病理学的および追跡データがこれらの被験体の全てに関して入手可能である。
【0076】
2. 実施例1における工程2〜5と同じである。
【0077】
3. 実施例1における工程6と同じである。
【0078】
4. 結果:
49個の非転移胃癌サンプルにおけるメチル化GFRa1に関する平均ピーク面積比率は49個の転移胃癌サンプルの場合より有意に高い(中央値, 60.6%対22.8%, P=0.044)。分類指標としてGFRa1メチル化を用いる胃癌転移の検出のためのROC曲線によれば、ROC曲線下面積(AUC)は65.6%である(P=0.004,
図7)。カットオフ値を16.4%(GFRa1脱メチル化-高に関しては<16.4%および脱メチル化-低に関しては>16.4%)に設定した場合、転移胃癌における脱メチル化-高の比率(35/49=71%)は非転移胃癌の場合(24/49=49%)より有意に高い(P=0.038; 71%の感度および51%の特異性)。カプラン・マイヤー分析は、GFRa1脱メチル化-高の患者の全生存期間が脱メチル化-低の患者より短いことを示した(5年生存率, 32.8%対62.2%; ログランク検定, P=0.001; 多変量解析, P=0.002;
図8)。
【0079】
該実証コホートにおいては、47個の非転移癌組織におけるメチル化GFRa1に関する平均ピーク面積比率は73個の転移症例の場合より有意に高い(中央値, 49.0%対30.6%, P<0.001)。前記発見コホートにおいて用いたのと同じカットオフ値(16.4%)を用いた場合、転移症例におけるGFRa1脱メチル化-高の比率(46/73=63.1%)は非転移症例の場合(19/47=40.4%)より有意に高い(P=0.024; 63%の感度および60%の特異性)。また、カプラン・マイヤー分析は、脱メチル化-高の患者が脱メチル化-低の患者より有意に短い全生存期間を有することを示している(5年生存率, 47.7%対71.7%; ログランク検定, P=0.015; 多変量解析, P=0.025;
図9)。
【0080】
実施例3:
ビスルフィット配列決定を用いる胃組織におけるGFRa1 CpGアイランドの脱メチル化の検出による胃癌のスクリーニング
1. 実施例1における工程1〜5と同じである。
【0081】
2. PCR産物を、AT-Cloneキットを使用してクローニングし、配列決定する(
図18)。
【0082】
3. 結果: 実施例1と同じ結果が得られる。
【0083】
実施例4:
ビスルフィット配列決定を用いるGFRa1 CpGアイランドの脱メチル化の検出による胃癌の転移および患者の生存期間の検出
1. 実施例2における工程1〜2と同じである。
【0084】
2. 実施例3における工程2と同じである。
【0085】
3. 結果: 実施例2と同じ結果が得られる。
【0086】
実施例5:
DHPLCを用いることによる結腸組織におけるGFRa1 CpGアイランドの脱メチル化の検出による結腸癌のスクリーニング
1. 被験体: 21名の非癌患者からの結腸粘膜生検サンプルならびに97名の患者からの結腸癌および外科的マージンサンプル。
【0087】
2. 実施例1における工程2〜6と同じである。
【0088】
3. 結果:
非癌患者からの結腸生検におけるメチル化GFRa1の平均比率(中央値, 64.1%)は結腸癌(31.6%; P<0.001)および外科的マージン組織(26.6%; P=0.001;
図10)より有意に高いことを示している。癌組織および非癌患者からの対照生検を使用するメチル化分析の結果によれば、ROC曲線下面積は74.1%である(P<0.001;
図11)。カットオフ値を34.5%(脱メチル化陽性に関しては<34.5%および脱メチル化陰性に関しては>34.5%)に設定した場合、非癌患者からの21個の対照生検におけるGFRa1脱メチル化陽性率(7/21=33.3%)は97個の外科的マージンサンプルの場合(93/97=95.8%; P<0.001)および97個の癌サンプルの場合(60/97=61.9%; P<0.001)より有意に低い。結腸癌のスクリーニングのためのバイオマーカーとして該非癌生検または外科的マージンサンプルにおけるGFRa1脱メチル化陽性を用いた場合、感度および特異性は、それぞれ、95.8%および66.7%である。
【0089】
実施例6:
DHPLCを用いることによるGFRa1 CpGアイランドの脱メチル化の検出による結腸癌の転移および患者の生存期間の検出
1. 被験体: 転移を伴わない49名の患者からの結腸癌組織、および48名の対照患者からの転移結腸癌組織。臨床病理学的および追跡データが前記被験体の全てに関して入手可能である。
【0090】
2. 実施例1における工程2〜6と同じである。
【0091】
3. 結果: 49個の非転移結腸癌におけるメチル化GFRa1の平均比率は48個の転移癌の場合より有意に高い(中央値, 45.6%対25.0%, P=0.016)。ROC曲線下面積(AUC)は62.6%(P=0.033;
図12)である。カットオフ値を27.6%(GFRa1脱メチル化-高に関しては<27.6%および脱メチル化-低に関しては>27.6%)に設定した場合、48個の転移癌におけるGFRa1脱メチル化-高の陽性比率(33/48)は49個の非転移癌の場合(22/49)より有意に高い(68.8%対44.9%; P=0.024; 69%の感度および55%の特異性)。カプラン・マイヤー分析は、GFRa1脱メチル化-高の癌患者が脱メチル化-低の患者より有意に短い全生存期間を有することを示した(3年生存率, 41.8%対66.7%; ログランク検定, P=0.019; 多変量解析, P=0.031;
図13)。
【0092】
実施例7:
プローブに基づく定量的メチル化特異的PCR(MethyLight)を用いる結腸組織におけるGFRa1 CpGアイランドの脱メチル化の検出による結腸癌のスクリーニング
1. 被験体: 実施例5における工程1と同じである。
【0093】
2. DNAサンプルの処理: 実施例1における工程2〜3と同じである。
【0094】
3. ビスルフィット修飾GFRa1センス鎖配列(配列番号1)またはアンチセンス鎖配列(配列番号3)に従い、フォワードおよびリバースPCRプライマー(配列番号9および配列番号10)、ならびにアンチセンス鎖配列に対する配列特異的蛍光プローブ(配列番号11)を設計し、合成し、あるいは、フォワードおよびリバースPCRプライマー(配列番号12、配列番号13)ならびにセンス鎖配列に対する配列特異的蛍光プローブ(配列番号14)を設計し、合成する。
【0095】
4. 蛍光プローブに基づく定量的PCR増幅: メチル化および脱メチル化GFRa1対立遺伝子の両方における158bpのビスルフィット修飾鋳型を、蛍光定量PCR増幅を用いて増幅する。
【0096】
5. 文献(Widschwendterら, Cancer Res 2004,64:3807-3813)に報告されているとおり、投入ビスルフィット修飾DNA鋳型の量を標準化するための参照遺伝子としてのCpGアイランド非含有遺伝子COL2A(しかし、該遺伝子に限定されない)を、対応するプライマーセット(配列番号15および配列番号16)および蛍光プローブ(TaqMan; 配列番号17; 6FAM-Col2a
probe-BHQ1)を使用して増幅する。
【0097】
6. GFRa1およびCOL2A1に関するCt値に基づいてメチル化GFRa1鋳型の比率を計算し、メチル化GFRa1の相対コピー数を、式[2
-(CtGFRA1-CtCOL2A)]を用いて計算する。
【0098】
7. 結果: 正常結腸生検におけるメチル化GFRa1の平均比率(中央値, 46.8%)は結腸癌サンプルの場合(12.6%, P<0.01)またはそれらの対応外科的マージン組織の場合(0.0005%, P<0.01)より有意に高い。ROC曲線下面積(AUC)は69.7%(P<0.05)である。カットオフ値を1.3%(脱メチル化陽性に関しては<1.3%および脱メチル化陰性に関しては>1.3%)に設定した場合、非癌患者からの結腸生検における脱メチル化陽性率(8/20=40%)は97個の外科的マージン組織の場合(16/20=80%)および結腸癌組織の場合(97/97=100%; P<0.001)より有意に低い。脱メチル化-高を用いる結腸癌の検出に関する感度および特異性は、それぞれ、80〜100%および60%である。
【0099】
実施例8:
プローブに基づく定量的メチル化特異的PCR(MethyLight)を用いるGFRa1 CpGアイランドの脱メチル化の検出による結腸癌の転移および患者の生存期間の検出
1. 被験体: 実施例6における工程1と同じである。
【0100】
2. DNAサンプルの処理およびメチル化GFRa1の定量: 実施例7における工程2〜6と同じである。
【0101】
3. カットオフ値を設定する。49個の非転移結腸癌におけるメチル化GFRa1の平均相対コピー数は48個の転移結腸癌サンプルの場合より有意に高い(中央値, 13.6%対9.7%, P=0.047)。ROC曲線下面積(AUC)は61.7%である(P=0.047;
図14)。カットオフ値を22.3%(GFRa1脱メチル化-高に関しては<22.3%および脱メチル化-低に関しては>22.3%)に設定した場合、48個の転移癌におけるGFRa1脱メチル化-高の陽性比率(40/48)は49個の非転移癌の場合(31/49)より有意に高い(83.3%対63.3%; P=0.038; 83%の感度および37%の特異性)。カプラン・マイヤー分析は、GFRa1脱メチル化-高の癌患者が脱メチル化-低の患者より有意に短い全生存期間を有することを示した(3年生存率, 46.5%対69.2%; P=0.056;
図15)。
【0102】
実施例9:
プローブに基づく定量的メチル化特異的PCR(MethyLight)を用いる血漿非含有DNAにおけるGFRa1 CpGアイランドの脱メチル化の検出による癌のスクリーニング
1. 被験体: 実施例1および実施例5と同じである。これらの絶食被験者から0.3mlの抗凝固静脈血漿を調製する。
【0103】
2. 血液DNA抽出キット(Blood DNA Extraction Kit)(QIAGEN, Germany)説明マニュアルに従い、遊離DNAサンプルを癌および非癌対照被験者からの0.3mlの血漿サンプルから抽出する。
【0104】
3. 実施例1における工程3と同じである。
【0105】
4. 実施例7における工程3〜6と同じである。
【0106】
5. 結果: 非癌対照被験者からの血漿非含有DNAサンプルにおけるメチル化GFRa1の平均比率は結腸癌被験者の場合より有意に高い(中央値, 66.5%対10.2%, P<0.01)。ROC曲線下面積(AUC)は79.5%である(P<0.01)。カットオフ値を2.3%(GFRa1脱メチル化陽性に関しては<2.3%および脱メチル化陰性に関しては>2.3%)に設定した場合、非癌被験者からの血漿サンプルにおけるGFRa1脱メチル化陽性率(4/20=20%)は結腸癌患者からの場合(97/97=100%)より有意に低い。血漿中のGFRa1脱メチル化をバイオマーカーとして用いる結腸癌のスクリーニングに関する感度および特異性は、それぞれ、100%および80%である。
【0107】
実施例10:
DHPLCを用いることによるGFRa1 CpGアイランドの脱メチル化の検出による肝細胞癌の転移および患者の生存期間の検出
1. 被験体: 転移/再発を伴う17例、転移/再発を伴わない20例を含む37名の患者からの肝細胞癌サンプル。臨床病理学的および追跡データがこれらの被験体の全てに関して入手可能である。
【0108】
2. DNAの処理およびメチル化GFRa1の分析: 実施例1における工程2〜6と同じである。
【0109】
3. 結果: 20個の非転移肝細胞癌におけるメチル化GFRa1の平均比率は17個の転移症例の場合より有意に高い(中央値, 55.6%対41.4%, P=0.065)。ROC曲線下面積(AUC)は68.4%である(P=0.060;
図16)。カットオフ値を49.3%(GFRa1脱メチル化-高に関しては<49.3%および脱メチル化-低に関しては>49.3%)に設定した場合、GFRa1脱メチル化-高の陽性比率(40/48)は転移癌の場合(12/17=70.5%)には非転移癌の場合(11/20=55.0%)より有意に高い(P=0.067)。GFRa1脱メチル化-高をバイオマーカーとして用いる肝癌転移の検出の感度および特異性は、それぞれ、70%および45%である。カプラン・マイヤー分析は、GFRa1脱メチル化-高の肝癌を有する患者が、GFRa1脱メチル化-低の肝癌を有する患者より短い全生存期間を有することを示した(
図17)。
【国際調査報告】