特表2015-508410(P2015-508410A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2015-508410エチレン性不飽和カルボン酸またはエステルを製造するためのプロセスおよびそのための触媒
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-508410(P2015-508410A)
(43)【公表日】2015年3月19日
(54)【発明の名称】エチレン性不飽和カルボン酸またはエステルを製造するためのプロセスおよびそのための触媒
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/343 20060101AFI20150220BHJP
   C07C 69/54 20060101ALI20150220BHJP
   B01J 27/18 20060101ALI20150220BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20150220BHJP
【FI】
   C07C67/343
   C07C69/54 Z
   B01J27/18 Z
   C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2014-551678(P2014-551678)
(86)(22)【出願日】2013年1月14日
(85)【翻訳文提出日】2014年7月23日
(86)【国際出願番号】GB2013050062
(87)【国際公開番号】WO2013104924
(87)【国際公開日】20130718
(31)【優先権主張番号】1200551.8
(32)【優先日】2012年1月13日
(33)【優先権主張国】GB
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC
(71)【出願人】
【識別番号】500460209
【氏名又は名称】ルーサイト インターナショナル ユーケー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ヨーク、イアン アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】ジーミアン、サビーナ
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169BA36A
4G169BB08A
4G169BB14A
4G169BB14B
4G169BC02A
4G169BC03A
4G169BC04A
4G169BC05A
4G169BC06A
4G169BC10A
4G169BC13A
4G169BC13B
4G169BC21A
4G169BC22A
4G169BC23A
4G169BC31A
4G169BC32A
4G169BC35A
4G169BC36A
4G169BC42A
4G169BC43A
4G169BC44A
4G169BC50A
4G169BC51A
4G169BC52A
4G169BC67A
4G169BC68A
4G169BD01A
4G169BD05A
4G169BD12A
4G169BD15A
4G169CB25
4G169CB74
4G169CB75
4G169EB15X
4G169EB18X
4G169EC02Y
4G169EC22X
4G169EC22Y
4G169EC27
4H006AA02
4H006AC29
4H006BA06
4H006BA30
4H006BA35
4H006BC13
4H006BC32
4H006KA31
4H006KC14
4H039CA29
(57)【要約】
エチレン性不飽和カルボン酸またはエステル、典型的にはα,βエチレン性不飽和カルボン酸またはエステルの製造方法を記載する。この方法は、触媒の存在下かつ場合によりアルコールの存在下に、ホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒドの供給源を、カルボン酸またはエステルと接触させるステップを含む。この触媒は、リン酸バリウムの葉形状/葉状または板形状/板状の結晶またはその供給源を含む。触媒系も記載する。この触媒系は、結晶性リン酸バリウム触媒および場合により触媒担体を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン性不飽和カルボン酸またはエステル、好ましくはα,βエチレン性不飽和カルボン酸またはエステルの製造方法であって、触媒の存在下かつ場合によりアルコールの存在下に、ホルムアルデヒドまたはその好適な供給源をカルボン酸またはエステルと接触させるステップを含み、前記触媒が、葉形状もしくは葉状または、板形状もしくは板状のリン酸バリウム結晶またはその好適な供給源を含む、方法。
【請求項2】
前記リン酸塩が、ピロリン酸塩、オルトリン酸塩(PO2−)、リン酸水素塩およびこれらの混合物から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記触媒が、リン酸バリウムを少なくとも50%w/w含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
エチレン性不飽和カルボン酸またはエステル生成物、好ましくはα,βエチレン性不飽和カルボン酸またはエステル生成物、特に(アルク)アクリル酸または(アルク)アクリル酸アルキルエステル生成物に対する前記反応の選択性が少なくとも40モル%である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記触媒中におけるリン酸バリウム全体の少なくとも10%mol/molが結晶形態にある、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記リン酸バリウム結晶の平均結晶サイズ(最長方向の寸法)が0.002〜50μmの範囲にある、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記板状体全体の厚みの平均値が0.002〜2μmである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記触媒中に、ドープ元素が前記金属Mの20mol%までの量で存在する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ドープ元素が、Cs、K、Rb、Na、Li、Zn、Ti、Si、Ln、Ce、Eu、Mg、Pb、Cd、Ag、Co、Cu、Ni、Sn、Ge、HfおよびZrから選択される陽イオンである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記触媒中に、ドープ陰イオンがリン酸イオンの20mol%までの量で存在する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記ドープ陰イオンが塩化物イオンおよびフッ化物イオンから選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
本発明の前記カルボン酸またはエステル反応体が、式R−CH−COOR(式中、Rは、水素またはアルキル基のいずれかであり、Rは、水素、アルキル基またはアリール基のいずれかである)を有する、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
ホルムアルデヒドの好適な供給源が、式I:
【化1】
(式中、RおよびRは、C〜C12炭化水素またはHから独立に選択され、XはOであり、nは1〜100の整数であり、mは1である)の化合物である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
本発明の前記プロセスにより製造される前記エチレン性不飽和酸またはエステルが、アクリル酸、アルクアクリル酸、2−ブテン酸、シクロヘキセン酸、マレイン酸、イタコン酸およびフマル酸ならびにこれらのアルキルエステルならびにメチレン置換ラクトンから選択される、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
結晶性リン酸バリウム触媒および場合により触媒担体を含み、前記リン酸バリウムが、葉形状もしくは葉状または、板形状もしくは板状の結晶またはその好適な供給源の形態にある、触媒系。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン性不飽和カルボン酸またはエステル、詳細には、α,β不飽和カルボン酸またはエステル、より詳細には、アルク(alk)アクリル酸または(アルク)アクリル酸アルキルエステル等のアクリル酸またはエステル、詳細には、(メタ)アクリル酸またはメタクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを製造するためのプロセスであって、触媒の存在下に、カルボン酸またはエステルをホルムアルデヒドまたはその供給源(ジメトキシメタン等)と縮合させることによるプロセス、特に、この種の触媒系の存在下に、プロピオン酸またはそのアルキルエステルをホルムアルデヒドまたはその供給源と縮合させることによるプロセスに関する。したがって、特に本発明は、メタクリル酸(MAA)およびメタクリル酸メチル(MMA)の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
上述したように、この種の不飽和酸またはエステルは、カルボン酸またはエステルを反応させることによって製造することができ、これに適したカルボン酸またはエステルは、式R−CH−COOR(式中、RおよびRは、それぞれ独立に、当該技術分野において知られているアクリル系化合物に適した置換基、例えば、水素またはアルキル基、特に低級アルキル基(例えば、1〜4個の炭素原子を含むもの))のアルカン酸またはエステルである。したがって、例えば、反応順序1に従い、プロピオン酸または対応するアルキルエステル、例えばプロピオン酸メチルをメチレン供給源としてのホルムアルデヒドと接触反応させることにより、メタクリル酸またはそのアルキルエステル、特にメタクリル酸メチルを製造することができる。
−CH−COOR + HCHO−−−−−−−> R−CH(CHOH)−COOR
および
−CH(CHOH)−COOR−−−−−−> R−C(:CH)−COOR + H
順序1

反応順序1の例が反応順序2である。
CH−CH−COOR + HCHO−−−−−−−> CH−CH(CHOH)−COOR
CH−CH(CHOH)−COOR−−−−−−> CH−C(:CH)−COOR + H
順序2

他の反応順序としては、アセタールを使用するものがある。
−CH−COOR + R’OCHOR”−−−−−−−> R−C(:CH)−COOR + R’OH + R”OH
順序3

反応順序3の理論上の例としては、ジメトキシメタンを使用する反応順序4がある。
CH−CH−COOR + CHOCHOCH−−−−−−−> CH−C(:CH)−COOR + 2CHOH
順序4

このようにジメトキシメタンを使用することによって、理論上は水を含まない系が得ら
れ、それによって、後段で水を分離する問題および/または後段で生成物が加水分解を起こす問題が回避される。その上、ジメトキシメタンを使用することによって遊離ホルムアルデヒドの使用も回避されることになるが、それでもジメトキシメタンは広義のホルムアルデヒド供給源として作用する。水および遊離ホルムアルデヒドが存在しないことにより、生成物流れからのMMAの分離を大幅に簡素化することができるであろう。
【0003】
ところが実際は、順序4には、メタノールが脱水してジメチルエーテルおよび水になるという問題がある。その上、ジメトキシメタンは接触条件下で分解してジメチルエーテルおよびホルムアルデヒドになる。このような反応で水が生成すると、エステル供給原料または生成物が加水分解して、望ましくない場合がある対応する酸になる可能性がある。
【0004】
米国特許第4560790号明細書には、メチラール(ジメトキシメタン)を、カルボン酸またはエステルと、一般式M/M/P/O(式中、Mは、第IIIb族金属、好ましくはアルミニウムであり、Mは、第IVb族金属、好ましくはケイ素である)の触媒を用いて縮合させることによる、α,β不飽和カルボン酸およびエステルの製造が記載されている。
【0005】
上述したように、MMAの周知の製造方法は、ホルムアルデヒドを用いてプロピオン酸メチル(MEP)を接触転化させることによりMMAにするものである。これに用いられる周知の触媒は、担体(例えばシリカ)上に担持させたセシウム触媒である。
【0006】
米国特許第4118588号明細書には、プロピオン酸またはプロピオン酸メチルとジメトキシメタンとを、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、ジルコニウム、トリウムおよび/またはチタンのリン酸塩および/またはケイ酸塩をベースとする触媒の存在下かつアセタール1モル当たり0〜0.5モルの水の存在下に反応させることによる、メタクリル酸メチルおよびメタクリル酸の製造が開示されている。好ましいリン酸塩は、アルミニウム、ジルコニウム、トリウムおよびチタンのリン酸塩である。この触媒は、通常、触媒活性を向上させるための酸化物改質剤を含んでいる。リン酸マグネシウムは例示されておらず、リン酸カルシウムは単独では例示されていないが、酸化物改質剤を併用した例が1つ示されている。結果は、他のリン酸塩、特にアルミニウムよりも劣っている。
【0007】
英国特許第865379号明細書からは、第II属金属のリン酸塩、特にリン酸バリウムが斜方晶系結晶または立方晶系結晶の結晶形で存在することができることと、これらが、クロロプロピオン酸を気相で直接接触脱塩化水素(direct catalytic
vapour phase dehydrochlorination)することによるアクリル酸または低級アルキルエステルの製造において触媒活性を示すこととが知られている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここで本発明者らは、リン酸バリウムがオルトリン酸バリウム、リン酸水素バリウムまたはピロリン酸バリウムとして存在する場合に、板状(plate like)または葉状(leaf like)の結晶を形成することを見出した。
【0009】
本発明者らはまた、これらの板状/葉状の晶癖を有するリン酸バリウムの結晶が、メチレン供給源(ホルムアルデヒド等)とカルボン酸またはアルキルエステル(プロピオン酸メチル等)との縮合において高い選択性を示すことも見出した。
【0010】
したがって、驚くべきことに、板形状または葉形状を有する金属バリウムのリン酸塩の
結晶が、対応する酸またはエステルとメチレン供給源(ホルムアルデヒドやジメトキシメタン等)とを縮合させることによるα,βエチレン性不飽和カルボン酸またはエステルの製造において、選択性が高くかつジメチルエーテル(DME)を少量しか生成させない、非常に有効な触媒となることをここに見出した。とりわけこの触媒は、α,βエチレン性不飽和カルボン酸エステルの製造に特に適しており、その理由は、この種の反応で水がほとんど生成せず、したがって望ましくない副反応が回避されることにある。
【0011】
本発明の第1の態様によれば、エチレン性不飽和カルボン酸またはエステル、好ましくは、α,βエチレン性不飽和カルボン酸またはエステルの製造方法であって、触媒の存在下かつ場合によりアルコールの存在下に、ホルムアルデヒドまたはその好適な供給源をカルボン酸またはエステルと接触させるステップを含み、この触媒が、葉形状または板形状のリン酸バリウム結晶またはその好適な供給源を含む、方法を提供する。
【0012】
リン酸塩結晶に関する「その好適な供給源」という語は、そのリン酸塩供給源が、反応条件下においてその場で結晶を生成することができることを意味している。葉形状/葉状または板形状/板状の結晶とは、一般に、晶癖が板状/葉状であることと理解されている。 本発明によるリン酸塩の好適な例としては、ピロリン酸塩、オルトリン酸塩(PO3−)、リン酸水素塩およびこれらの混合物、より好ましくは、オルトリン酸塩、ピロリン酸塩およびこれらの混合物が挙げられる。
【0013】
特に好ましい触媒は、いずれも葉状または板状結晶の形態をとるピロリン酸バリウムおよびオルトリン酸(PO3−)バリウムである。
好ましくは、本触媒は、少なくとも50%w/wがリン酸バリウム、より好ましくは、少なくとも70%がリン酸バリウム、最も好ましくは、少なくとも80%がリン酸バリウムである。リン酸バリウムは、好ましくは、結晶性リン酸バリウムが大部分を占めるが、その残分として非晶性物質も含むことができる。リン酸バリウム結晶に関しては、棒(rod)状/針状または板状/葉状の晶癖が知られている。驚くべきことに、本発明者らは、少なくとも一部に板状/葉状結晶を有する結晶性リン酸バリウムが、本発明において、α,βエチレン性不飽和カルボン酸またはエステルに対し、特に、他の形態である棒状/針状の晶癖よりも驚くほど高い生成物選択性を示すことを見出した。
【0014】
リン酸バリウムの晶癖は、当業者に知られている技法、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)または走査型電子顕微鏡(SEM)により決定することができる。好ましくは、板状/葉状の結晶は、リン酸塩を平均して見た場合に、数的に優勢(dominant)な晶癖である。板状/葉状には、少なくとも葉片(blade)、薄板状(platy)または平板状(tabular)と表現される晶癖が含まれるが、板の幅が広い方が好ましいので、これらは、より典型的には、薄板状または平板状を包含し、板は薄肉である方が好ましいので、最も典型的には、薄板状の晶癖を包含する。好ましくは、板状/葉状結晶は、リン酸塩を平均して見た場合に、TEM像を占める面積の量的平均が優勢な晶癖である。優勢とは、その晶癖が結晶の最大群であることを意味する。しかしながら、本発明の効果を得るためには、板状/葉状の晶癖が優勢であることが必ずしも必要なわけではない。たとえ板状または葉状の晶癖が優勢ではないリン酸バリウム結晶であっても、触媒は依然として効果を発揮するであろう。したがって、板状または葉状の晶癖を有するリン酸バリウム結晶またはその好適な供給源は、当該反応を十分な選択性(次に説明する選択性等)で触媒するのに有効な量で存在するかまたは存在するようになりさえすればよい。
好ましくは、この反応のエチレン性不飽和カルボン酸またはエステル、好ましくはα,βエチレン性不飽和カルボン酸またはエステル生成物、特に(アルク)アクリル酸または(アルク)アクリル酸アルキルエステル生成物に対する選択性は、少なくとも40モル%、より好ましくは、少なくとも60モル%、最も好ましくは、少なくとも70モル%、特に、少なくとも80または90モル%、その中でも特に94モル%である。
【0015】
有利には、本発明者らは、板状/葉状の晶癖を有するリン酸バリウムが95モル%超までの選択性を達成することができ、好ましくは、少なくとも90モル%超を維持できることを見出した。
【0016】
上に説明した選択性の範囲は、典型的には45〜100モル%、より好ましくは65〜100モル%、最も好ましくは75〜100モル%、特に85または90〜100モル%である。このモル%はガスクロマトグラフィーによって求めることができる。モル%に基づく選択性は、出発物質であるカルボン酸またはエステルから転化した生成物全体を基準とする。例えば、プロピオン酸メチル100gを反応させることによってプロピオン酸メチル90gおよびプロピオン酸エステルから誘導された生成物10g(うち9gがメタクリル酸メチル)となった場合、この反応のメタクリル酸メチルに対する選択性は重量基準で90%であり、対応する分子量を用いて、生成物に転化したプロピオン酸メチルのモル数および生成したメタクリル酸メチルのモル数を求め、そこからメタクリル酸メチルのモル%を計算することにより、モル%選択性に換算することができる。同様に、メタクリル酸等の他の成分に関しても同じように分析することができる。好適なガスクロマトグラフィー装置は、RTX1701カラム(Thames Restek UK Ltd提供)および水素炎イオン化検出器(FID)を取付けた島津製作所製GCであるGC2010である。
【0017】
反応器供給原料の組成および接触反応器から排出される縮合物流れの試料はすべてガスクロマトグラフィーで分析することができる。好適な装置は上に詳述した島津製作所製GCである。各分析ごとに、結果として得られたクロマトグラフを島津製作所製ソフト「GC Solutions」で処理することによって個々の成分のピーク面積を得ることができる。標準物質から得られた個々の成分に関するFID感度係数(response factor)を適用して、試料中の検出可能な物質のピーク面積を、まず最初に重量%、次いでモル%に換算する。
【0018】
接触反応の生成物中の含水量はカール・フィッシャー滴定により測定することができる(Mettler Toledo DL38、電極DM143−SC、ハイドラナール(Hydranal)ミディアムK(Working Medium K)およびコンポジットK(Composite K))。
【0019】
好ましくは、板状形状を有する結晶は、十分な触媒作用を供するように、その表面に到達するのに十分に開放された配置を有している。結晶が凝結によって塊になると、接触反応に利用できる板状結晶の表面積が減少する可能性があり、それによって、効果を失ってしまうことはないものの、触媒の効果は低下する。したがって、本発明のリン酸バリウム結晶は、好ましくは、実質的に凝集も凝結もしていない。
【0020】
好ましくは、触媒中の金属リン酸バリウム全体の少なくとも10%mol/mol、より好ましくは少なくとも30%mol/mol、最も好ましくは少なくとも50%mol/molは結晶形態にある。通常、非晶性物質(または結晶相の割合)をXRDの結果に基づき次式で見積もることができる:
Xc=(1−v112/300)/I300
(式中、I300は、(300)回折ピークの強度であり、v112/300は、(112)回折ピークおよび(300)回折ピークの間の窪みの強度であり、Xcは結晶度である)。
【0021】
一般に、リン酸バリウム結晶の結晶サイズ(最長方向の寸法)の平均値は、0.002〜50μmの範囲にある。特に、概してこの板状体は、厚みの平均値が0.002〜2μ
m、より典型的には0.01〜1.0μm、最も好ましくは0.05〜0.5μmであり、長さの平均値が0.002〜20μm、より好ましくは0.1〜10μm、最も好ましくは0.5〜2μmであり、好ましくは、本明細書に定義するアスペクト比を有する。したがって、このような文脈において、本発明の結晶の形状は、マイクロプレートと称することができる。 有利には、本発明のプロセスにおいてリン酸バリウム触媒を使用すると、気化した反応器供給原料組成物中のホルムアルデヒド系成分がホルムアルデヒドまたはジメトキシメタンのどちらをベースとするものであっても、生成物流れ中のジメチルエーテルの量が驚くほど少なくなるという結果も得られる。
【0022】
本発明の触媒は、結晶表面層のBa:Pのモル比がオルトリン酸塩に最適な値、すなわち1.5付近で変化した場合は効果を維持していることも見出された。本明細書における表面の比とは、X線光電子分光法(XPS)により求められる比を指す。 本発明に従うピロリン酸バリウムの一般式は、式Iで与えることができる。
Ba
本発明に従うオルトリン酸バリウムの一般式は、式IIで与えることができる
Ba(PO
本発明に従うリン酸水素バリウムの一般式は、式IIIで与えることができる。
Ba(HPO
純粋なリン酸バリウムのBa:Pモル比は、例えば、オルトリン酸バリウムの最適比である3:2またはピロリン酸塩もしくはリン酸水素塩の最適比である1:1付近で変化させることができることが理解されるであろう。葉形状または板形状のリン酸バリウム結晶のBa:Pモル比は0.5〜2.0の間で変化させることができるが、XPSにより求められる典型的な表面Ba:Pは、オルトリン酸塩の場合は1.0〜1.8の範囲、特に1.1〜1.7の範囲、その中でも特に1.2〜1.6の範囲にあり、一方、蛍光X線分光法(XRF)により求められるバルクのBa:Pモル比は、1.1〜1.5、より典型的には1.2〜1.4の間で変化させることができる。他方、XPSにより求められるピロリン酸塩およびリン酸水素塩の表面のBa:Pは、典型的には0.6〜1.4の範囲、特に0.7〜1.3の範囲、その中でも特に0.8〜1.25の範囲にあり、一方、蛍光X線分光法(XRF)により求められるバルクのBa:Pモル比は、0.6〜1.1、より典型的には0.8〜1.0の間で変化する。XPSによる表面Ba:P比の測定に適した機器は、Kratos「Axis Ultra」X−ray Photoelectron Spectrometerである。XRFによるバルクのBa:P比の測定に適した機器は、Oxford Instruments X−Supreme 8000であり、これは、エネルギー分散型蛍光X線分析(EDXRF)に基づくものである。
【0023】
前駆体のBa:P比ならびに/または溶液のpHおよび/もしくは温度(湿式製造法の場合)を変化させることによって、最終的な結晶のBa:P比を変化させることができる。
【0024】
一般に、本発明の板状または葉状形状を有する結晶の製造は、既に説明したように、当業者に周知の適切な方法により達成される。
本発明によるオルトリン酸バリウムの板状結晶を製造するための好ましい製造方法は、バリウムおよびリンの前駆体として、それぞれ、硝酸バリウム、塩化バリウムまたは水酸化バリウムおよびリン酸水素二アンモニウムを水溶液中で混合することにより沈殿を生成させる単純な湿式方法を用いるものである。連続的に撹拌を行うことによって生成物を懸濁状態に維持することができる。熟成後、生成物を好ましくは100〜140℃で乾燥させた後、200〜600℃、より好ましくは300〜500℃、最も好ましくは350〜450℃で焼成する。
【0025】
上述した方法または他の方法における湿式触媒合成溶液の温度は、0〜150℃、典型
的には25〜130℃、より典型的には70〜110℃とすることができる。
典型的には、上述した方法または他の好適な方法における触媒合成のpHは、7〜14、より典型的には、9〜13.5、最も典型的には、10〜13.2とすることができる。
【0026】
さらなる他の技法としては、500℃を超える炉内で熱分解を行うことが挙げられる。熱分解による調製を行う場合、熱的に不安定なバリウム化合物およびリン化合物(例えば、硝酸バリウム、水酸化バリウム、炭酸バリウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸)の物理的混合物を、空気流中、500〜2000℃の温度で加熱する。
【0027】
オルトリン酸バリウムの晶癖はTEMまたはXRDにより決定することができる。好ましくは、これは、TEMによる調査で決定され、場合によりXRDで確認される。結晶性の存在の有無は、好ましくはXRDにより判断される。XRD分析に適した機器はSiemens Bruker D5000 Diffractometer D6である。TEM分析に適した機器はPhilips CM12 Transmission Electron Microscopeである。
【0028】
結晶性オルトリン酸バリウムは、角度2θ:28.0、31.9、38.5および47.1に特徴的なXRDピークを有している。結晶性ピロリン酸バリウムは、24.9、27.2、31.9、42.4および46.8に特徴的なXRDピークを有している。
【0029】
本発明の第2の態様によれば、結晶性リン酸バリウム触媒および場合により触媒担体を含む触媒系であって、リン酸バリウムが葉形状もしくは板形状を有する結晶形態にある触媒系またはその好適な供給源が提供される。
【0030】
有利には、葉状/板状形状を有する結晶は、本発明の第1の態様による触媒反応において、エチレン性不飽和酸生成物またはエステル生成物に対し驚くほど高い選択性を示す。
葉状または板状形状を有するリン酸バリウム結晶の意味は当業者に自明であるが、疑わしい場合は、主要な2つの方向(z軸およびy軸)に優先的に成長し、第3の方向(x軸)の成長がこれよりも実質的に少ない結晶を指すと理解することができる。より具体的には、葉状/板状形状を有する結晶は、長さ、幅および厚みを有する。z軸およびy軸は、互換的に長さおよび幅と定義することができる。x軸は厚みと定義することができる。幅対長さの比は等しくなくてもよい。あるいは、幅:長さの比は実質的に等しくてもよく、例えば1:4〜4:1の間、より典型的には1:3〜3:1の間、最も典型的には1:2〜2:1の間、特に2:3〜3:2の間、その中でも特に3:4〜4:3の間とすることができる。どの場合においても、長さおよび幅は常に厚みを大幅に上回ることになり、長さおよび/または幅(zおよびy軸):厚み(x軸)のアスペクト比は>5、典型的には>10、より典型的には>20、特に>40である。
【0031】
本発明に定義する葉状/板状形状は、上述の寸法を有する任意の結晶、つまり、巨視的または微視的な外観が薄くて平らな晶癖を有する、板または葉に似た任意の結晶を包含することを意図している。したがって、板状または葉状形状には、葉状の板状の外観を呈することが可能な任意の周知の結晶形態が包含される。しかしながら、本発明のリン酸バリウムの特定の結晶構造および結晶形態が本発明の特徴的な結晶の晶癖を生じさせることができ、また、この晶癖の存在が、特定の結晶構造および結晶形態の存在を示唆していると考えられている。錯誤回避のために詳述すると、本明細書における晶癖は、結晶の外観を意味する。この点に関し、全ての結晶が完璧に形成されるわけではないことと、どのような場合においても、結晶は塊になりやすいこととが理解されるであろう。それでも尚、晶癖は依然として、例えばTEMまたはSEMによる簡単な検査で見分けることができるはずである。
【0032】
場合により、触媒性能および/または板状/葉状結晶の量を、触媒合成条件(pH、温度、圧力、Ba:P比等)を変化させたり、他の元素、特に金属をドープすることによって修正することができる。
【0033】
結晶合成反応のpHおよび温度に関する概要を上述してきた。反応圧力も重要ではなく、触媒は減圧下でも高圧下でも調製することができる。しかしながら、通常は、触媒は、大気圧付近で合成される。
【0034】
触媒中には、好適なドープ元素を金属Mの20mol%までの量で存在させることができる。好適なドープ金属陽イオンはCs、K、Rb、Na、Li、Zn、Ti、Si、Ln、Ce、Eu、Mg、Pb、Cd、Ag、Co、Cu、Ni、Sn、Ge、HfおよびZrである。好ましいドーパントは、上の一覧の第I族アルカリ金属および第II族アルカリ土類金属であり、より好ましくは、第I族金属、特にCsである。
【0035】
好適には、ドープ元素は、触媒中に金属の50mol%を超えて存在しない。
このドープ陽イオンは、上式のバリウムと置き換わることができる。
好適なドープ陰イオンは、リン酸イオンの20mol%までの量で存在させることができる。好適なドープ陰イオンは、塩化物イオンおよびフッ化物イオンである。これらは、本明細書に記載した式中のリン酸イオンまたはリンの一部と適切な形で置き換わっていると推測することができる。
【0036】
好ましくは、本発明のカルボン酸またはエステル反応体は、式R−CH−COOR(式中、Rは、水素またはアルキル基のいずれかであり、Rは、水素、アルキル基またはアリール基のいずれかである)を有するものである。
【0037】
(ホルムアルデヒドおよびその供給源)
本発明の第1の態様のホルムアルデヒドに関する「その好適な供給源」という語は、その供給源が反応条件下においてその場で遊離ホルムアルデヒドを生成することができるかまたはその供給源が反応条件下において遊離ホルムアルデヒドの等価体として作用することができる(例えば、ホルムアルデヒドの場合と同じ反応性中間体を生成することができ、それによって等価な反応が起こる)かのいずれかであることを意味する。
【0038】
ホルムアルデヒドの好適な供給源としては、式I:
【0039】
【化1】
【0040】
(式中、RおよびRは、独立に、C〜C12炭化水素またはHから選択され、Xは、Oであり、nは、1〜100の整数であり、mは、1である)の化合物を用いることができる。
【0041】
好ましくは、RおよびRは、独立に、本明細書に定義したC〜C12アルキル、アルケニルもしくはアリールまたはH、より好ましくはC〜C10アルキルまたはH、最も好ましくはC〜CアルキルまたはH、特にメチルまたはHから選択される。好ま
しくは、nは、1〜10、より好ましくは1〜5、特に1〜3の整数である。
【0042】
しかしながら、トリオキサン等の他のホルムアルデヒドの供給源を使用することもできる。
したがって、ホルムアルデヒドの好適な供給源としては、ホルムアルデヒドの供給源を供与することができる任意の平衡化組成物が挙げられる。この種のものの例としては、これらに限定されるものではないが、ジメトキシメタン、トリオキサン、ポリオキシメチレンR−O−(CH−O)−R(式中、Rおよび/またはRは、アルキル基または水素であり、i=1〜100である)、パラホルムアルデヒド、ホルマリン(ホルムアルデヒド、メタノール、水)および他の平衡化組成物(ホルムアルデヒド、メタノールおよびプロピオン酸メチルの混合物等)が挙げられる。
【0043】
通常、ポリオキシメチレンは、ホルムアルデヒドおよびメタノールの高級ホルマールまたはヘミホルマールCH−O−(CH−O)−CH(「ホルマール−i」)またはCH−O−(CH−O)−H(「ヘミホルマール−i」)(式中、i=1〜100、好ましくは1〜5、特に1〜3)または少なくとも1個のメチル以外の末端基を有する他のポリオキシメチレンである。したがって、ホルムアルデヒドの供給源は、式R31−O−(CH2−O−)32のポリオキシメチレン(R31およびR32は、同一であっても異なっていてもよい基であり、少なくとも一方はC〜C10アルキル基から選択され、例えば、R31がイソブチルであり、R32がメチルである)とすることもできる。
【0044】
好ましくは、ホルムアルデヒドの好適な供給源は、ジメトキシメタン、ホルムアルデヒドおよびメタノールの高級ヘミホルマールCH−O−(CH−O)−H(i=2)、ホルマリンまたはホルムアルデヒドとメタノールとプロピオン酸メチルとを含む混合物から選択される。
【0045】
ジメトキシメタンを本発明のホルムアルデヒドの供給源として使用できることは特に有利である。このことによって、有利には、ジメトキシメタンをプロピオン酸メチルと反応させて、水を生成させることなくMMAおよびメタノールを生成させることが可能になる。このことにより、水を含まない可能性のある系、すなわち、水を含むかまたは水を生成する他のホルムアルデヒド供給源を使用する系よりも水の副反応および水分離の必要性が低減された系が得られる。その上、ジメトキシメタンは、他のホルムアルデヒド供給源(これらは、後段の反応および生成物の分離において考慮しなければならない水およびメタノールを必要とする)とは異なり、安定である。本発明のさらなる利点は、本発明においては、ジメトキシメタンからジメチルエーテルおよびホルムアルデヒドへの分解が起こりにくいことにある。
【0046】
好ましくは、ホルマリンという語は、ホルムアルデヒド:メタノール:水を25〜65重量%:0.01〜25重量%:25〜70重量%の比率で混合した混合物を意味する。より好ましくは、ホルマリンという語は、30〜60重量%:0.03〜20重量%:35〜60重量%の比率のホルムアルデヒド:メタノール:水の混合物を意味する。最も好ましくは、ホルマリンという語は、35〜55重量%:0.05〜18重量%:42〜53重量%の比率のホルムアルデヒド:メタノール:水の混合物を意味する。
【0047】
好ましくは、ホルムアルデヒド、メタノールおよびプロピオン酸メチルを含む混合物は、水の含有率が5重量%未満である。より好ましくは、ホルムアルデヒド、メタノールおよびプロピオン酸メチルを含む混合物は、水の含有率が1重量%未満である。最も好ましくは、ホルムアルデヒド、メタノールおよびプロピオン酸メチルエステルを含む混合物は、水の含有率が0.1〜0.5重量%である。
【0048】
好ましくは、本発明のプロセスにより製造されるエチレン性不飽和酸またはエステルは、メタクリル酸、アクリル酸、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチルまたはアクリル酸ブチルから選択され、より好ましくはエチレン性不飽和エステルであり、最も好ましくはメタクリル酸メチルである。
【0049】
本発明のプロセスは、特に、アクリル酸、アルクアクリル酸、2−ブテン酸、シクロヘキセン酸、マレイン酸、イタコン酸およびフマル酸ならびにこれらのアルキルエステルの製造に加えて、メチレン置換ラクトンの製造にも特に好適である。好適なアルクアクリル酸およびそのエステルは、(C0〜8アルク)アクリル酸または(C0〜8アルク)アクリル酸アルキルエステル、典型的には、対応するアルカン酸またはそのエステルとメチレン供給源(ホルムアルデヒド)等とを触媒の存在下に反応させることにより得られる(C0〜8アルク)アクリル酸または(C0〜8アルク)アクリル酸アルキルエステル、好ましくは、それぞれプロパン酸またはプロピオン酸メチルから得られるメタクリル酸または特にメタクリル酸メチル(MMA)である。好適なメチレン置換ラクトンとしては、それぞれバレロラクトンおよびブチロラクトンから得られる2−メチレンバレロラクトンおよび2−メチレンブチロラクトンが挙げられる。
【0050】
本発明の反応は、回分式反応であっても連続式反応であってもよい。
本明細書において用いられる「アルキル」という語は、特段の指定がない限り、C〜C12アルキル(メチル、エチル、エテニル、プロピル、プロペニルブチル、ブテニル、ペンチル、ペンテニル、ヘキシル、ヘキセニルおよびヘプチル基を含む)を意味し、好ましくは、アルキル基は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチルおよびヘキシルから選択され、より好ましくは、メチルである。特段の指定がない限り、アルキル基は、十分な数の炭素原子が存在する場合、直鎖または分岐であっても、環式、非環式または一部環式/非環式であってもよく、無置換であってもよいし、ハロ、シアノ、ニトロ、−OR19、−OC(O)R20、−C(O)R21、−C(O)OR22、−NR2324、−C(O)NR2526、−SR29、−C(O)SR30、−C(S)NR2728、無置換もしくは置換アリールもしくは無置換もしくは置換Het(式中、R19〜R30は、ここにおいて、および本明細書全体において、それぞれ独立に、水素、ハロ、無置換もしくは置換アリールまたは無置換もしくは置換アルキルを表し、R21に関しては、ハロ、ニトロ、シアノおよびアミノを表す)から選択される1つもしくは複数の置換基で置換もしくは末端封止されていてもよいし、かつ/または1つもしくは複数(好ましくは4つ未満)の酸素、硫黄、ケイ素原子もしくはシラノもしくはジアルキルケイ素基もしくはこれらの混合物が挿入されていてもよい。好ましくは、アルキル基は無置換であり、好ましくは、直鎖であり、好ましくは飽和である。
【0051】
「アルケニル」という語は、その中に含まれる少なくとも1個の炭素炭素結合が不飽和であることのみが異なる上述の「アルキル」であると理解すべきであり、したがって、この語はC〜C12アルケニル基に関連する。
【0052】
「アルク」またはこれに類する語は、矛盾する情報が記載されていない限り、上述の「アルキル」の定義に従うものと解釈すべきである。但し、「Cアルク」はアルキルで置換されていないことを意味する。
【0053】
本明細書において用いられる「アリール」という語は、5〜10員環、好ましくは5〜8員環の、フェニル、シクロペンタジエニルおよびインデニル陰イオンならびにナフチル等の炭素環式芳香族または擬似芳香族基を含み、この基は、無置換であってもよいし、無置換もしくは置換アリール、アルキル(この基は、それ自体が、本明細書に定義したように無置換であっても置換されていても末端基を有していてもよい)、Het(この基は、
それ自体が、本明細書に定義したように無置換であっても置換されていても末端基を有していてもよい)、ハロ、シアノ、ニトロ、OR19、OC(O)R20、C(O)R21、C(O)OR22、NR2324、C(O)NR2526、SR29、C(O)SR30またはC(S)NR2728(式中、R19〜R30は、それぞれ独立に、水素、無置換もしくは置換アリールまたはアルキル(このアルキル基は、それ自体が、本明細書に定義したように無置換であっても置換されていても末端基を有していてもよい)を表し、R21は、ハロ、ニトロ、シアノまたはアミノを表す)から選択される1つまたは複数の置換基で置換されていてもよい。
【0054】
本明細書において用いられる「ハロ」という語は、クロロ基、ブロモ基、ヨード基またはフルオロ基、好ましくは、クロロまたはフルオロを意味する。
本明細書において用いられる「Het」という語は、4〜12員環、好ましくは4〜10員環系を含み、この環は、窒素、酸素、硫黄およびこれらの混合物から選択される1つまたは複数のヘテロ原子を含み、この環は、二重結合を含まないか、または1つもしくは複数の二重結合を含むか、または非芳香族、部分芳香族もしくは全芳香族の特徴を有することができる。この環系は、単環、二環または縮合環であってもよい。本明細書において特定される各「Het」基は、無置換であってもよいし、ハロ、シアノ、ニトロ、オキソ、アルキル(このアルキル基は、それ自体が、本明細書に定義したように無置換であっても置換されていても末端基を有していてもよい)、−OR19、−OC(O)R20、−C(O)R21、−C(O)OR22、−N(R23)R24、−C(O)N(R25)R26、−SR29、−C(O)SR30または−C(S)N(R27)R28(式中、R19〜R30は、それぞれ独立に、水素、無置換もしくは置換アリールまたはアルキル(このアルキル基は、それ自体が、本明細書に定義したように無置換であっても置換されていても末端基を有していてもよい)を表し、R21は、ハロ、ニトロ、アミノまたはシアノを表す)から選択される1つまたは複数の置換基で置換されていてもよい。したがって、「Het」という語は、場合により置換された、アゼチジニル、ピロリジニル、イミダゾリル、インドリル、フラニル、オキサゾリル、イソキサゾリル、オキサジアゾリル、チアゾリル、チアジアゾリル、トリアゾリル、オキサトリアゾリル、チアトリアゾリル、ピリダジニル、モルホリニル、ピリミジニル、ピラジニル、キノリニル、イソキノリニル、ピペリジニル、ピラゾリルおよびピペラジニル等の基を含む。Hetの置換は、Het環の炭素原子上であってもよいし、適切な場合は、1つまたは複数のヘテロ原子上であってもよい。
【0055】
「Het」基は、Nオキシドの形態にあってもよい。
本発明の接触反応に使用するのに好適な任意選択的なアルコールは、アルキル、アリール、Het、ハロ、シアノ、ニトロ、本明細書に定義したOR19、OC(O)R20、C(O)R21、C(O)OR22、NR2324、C(O)NR2526、C(S)NR2728、SR29またはC(O)SR30から選択される1つまたは複数の置換基で場合により置換されていてもよい、C〜C30アルカノール(アリールアルコールを含む)から選択することができる。非常に好ましいアルカノールは、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、t−ブチルアルコール、フェノール、n−ブタノールおよびクロロカプリルアルコール等のC〜Cアルカノール、特にメタノールである。モノアルカノールが最も好ましいが、ポリアルカノール(好ましくは、ジオール、トリオール、テトラオール等のジ〜オクタオールから選択される)および糖類も利用することができる。通常、この種のポリアルカノールは、1,2−エタンジオール、1,3−プロパンジオール、グリセロール、1,2,4ブタントリオール、2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール、1,2,6トリヒドロキシヘキサン、ペンタエリスリトール、1,1,1トリ(ヒドロキシメチル)エタン、ナンノース(nannose)、ソルベース(sorbase)、ガラクトースおよび他の糖類から選択される。好ましい糖類としては、スクロース、フルクトースおよびグルコースが挙げ
られる。特に好ましいアルカノールは、メタノールおよびエタノールである。最も好ましいアルカノールはメタノールである。
【0056】
アルコールの量は重要ではない。一般には、被エステル化基質の量を超える量で使用される。したがって、アルコールは反応溶媒の役割も果たすこともできるが、所望により、別の溶媒を使用することも、さらなる溶媒を使用することもできる。 本発明の第1の態様のプロセスにおける典型的な温度および圧力の条件は、100℃〜400℃、より好ましくは、200℃〜375℃、最も好ましくは、300℃〜360℃;0.001MPa〜1MPa、より好ましくは0.03MPa〜0.5MPa、最も好ましくは0.03MPa〜0.3MPaである。触媒の存在下における反応体の典型的な滞留時間は、0.1〜300秒間、より好ましくは1〜100秒間、最も好ましくは2〜50秒間、特に3〜30秒間である。
【0057】
有利には、エチレン性不飽和カルボン酸またはエステルを生成するためのホルムアルデヒドまたはその好適な供給源とカルボン酸またはエステルとの反応に本発明の触媒を使用すると、望ましくない副生成物の量が大幅に低下することが見出された。特に、リン酸アルミニウム等の従来の触媒と比較すると、ジメチルエーテル(DME)の生成量が大幅に低下する。さらに、この触媒は、極めて優れた選択性および活性を示す。
【0058】
本発明のプロセスに使用される触媒の量は必ずしも重要なわけではなく、それを用いるプロセスの実用性に応じて決まるであろう。しかしながら、一般に、触媒の量は、最適な選択性および収率が得られるように選択されるであろう。とは言え、触媒は、接触時間中に反応体と触媒表面とが有効に接触する最小量で十分なはずであることを当業者は理解するであろう。さらに、実際は反応体に対する触媒の量に上限はないものであるが、やはり実施上は、必要な接触時間および/または経済上考慮すべき事項に応じて決定される可能性を当業者は理解するであろう。
【0059】
本発明のプロセスにおける試剤の相対量は幅広い範囲内で変化させることができるが、一般に、ホルムアルデヒドまたはその好適な供給源対カルボン酸またはエステルのモル比は、20:1〜1:20、より好ましくは5:1〜1:15の範囲内にある。最も好ましい比は、ホルムアルデヒドの形態および触媒がホルムアルデヒド系化学種からホルムアルデヒドを遊離させる能力に応じて異なるであろう。したがって、R31O−(CH−O−)32中のR31およびR32の一方または両方がHである非常に反応性の高いホルムアルデヒド系物質は比率を比較的低くすることが必要であり、この場合は、通常、ホルムアルデヒドまたはその好適な供給源対カルボン酸またはエステルのモル比は、1:1〜1:9の範囲内にある。例えば、CHO−CH−OCHのように、R31もR32もHではない場合やトリオキサンの場合は、比率をより高くし、通常は3:1〜1:3とすることが最も好ましい。
【0060】
上述したように、ホルムアルデヒド供給源に起因して、水も反応混合物中に存在する可能性がある。ホルムアルデヒド供給源に応じて、接触反応を行う前に、水の一部または全部をそこから除去することが必要となる可能性がある。水をホルムアルデヒド供給源中よりも少量に維持することは触媒の効果および/または後段の生成物の精製に有利となる可能性がある。反応器内の水が10モル%未満であることが好ましく、より好ましくは、5モル%未満、最も好ましくは2モル%未満である。
【0061】
アルコール対酸またはエステルのモル比は、通常は20:1〜1:20、好ましくは10:1〜1:10、最も好ましくは5:1〜1:5の範囲内にあり、例えば1:1である。しかしながら、最も好ましい比は、反応体中の触媒に供給される水の量と反応により生成する水の量との合計に応じて異なるであろう。したがって、この反応におけるアルコー
ル対水全体の好ましいモル比は、少なくとも1:1、より好ましくは少なくとも3:1であろう。
【0062】
試剤は反応器に別々に供給するかまたは事前に混合した後に供給することができ、反応プロセスは連続式または回分式とすることができる。しかしながら、好ましくは連続式プロセスが用いられる。
【0063】
通常、本発明による反応は気相で行われる。したがって、通常、好適な縮合設備では、反応後の生成物流れを凝縮することが必要である。同様に、触媒床の手前で反応体の温度を昇温するために気化器が用いられる場合もある。好ましくは、気化器は、反応条件±150℃の範囲内、より好ましくは反応条件±100℃の範囲内、最も好ましくは反応条件±75℃の範囲内の温度で作動する。
【0064】
好ましくは、リン酸バリウムは、結晶性の有無に拘わらず、触媒の50〜100重量%、より好ましくは55〜100重量%、最も好ましくは60〜100重量%、特に70〜100重量%、その中でも特に75〜100重量%、その中でも特に、触媒の80〜100重量%を構成する。触媒の残分は、不純物、結合剤または不活性物質から構成される。一般に、リン酸バリウムは、触媒の約80〜90%を構成する。結晶性リン酸バリウムの定義には、本明細書に定義したBa:P比および晶癖を有する、金属またはリン酸イオンが不足したリン酸バリウムも含まれる。
【0065】
本発明に結合剤を使用した場合、結合剤は触媒の50重量%までを構成することができる。あるいは、結合剤は、触媒担体と併用して触媒を担体に結合させることができる。後者の場合、結合剤は、触媒そのものの一部を構成するものではない。
【0066】
本発明の触媒に好適な結合剤は当業者に周知であろう。好適な結合剤の非限定的な例としては、シリカ(コロイダルシリカを含む)、シリカ−アルミナ(従来のシリカ−アルミナ、シリカ被覆アルミナ、アルミナ被覆シリカ等)およびアルミナ((擬)ベーマイト、ギブサイト等)、チタニア、チタニア被覆アルミナ、ジルコニア、カチオン性クレーまたはアニオン性クレー(サポナイト、ベントナイト、カオリン、セピオライト、ハイドロタルサイト等)またはこれらの混合物が挙げられる。好ましい結合剤は、シリカ、アルミナおよびジルコニアまたはこれらの混合物である。
【0067】
リン酸バリウム粒子は結合剤に埋め込むことができ、その逆も可能である。一般に、結合剤は、触媒の一部として使用される場合、粒子をまとめる接着剤として機能する。好ましくは、粒子は結合剤の中に均一に分布しているか、またはその逆である。一般に、結合剤が存在すると、最終的な触媒の機械的強度が向上する。
【0068】
リン酸バリウム触媒の表面積(Micromeritics TriStar 3000 Surface Area and porosity Analyserを用いてB.E.T多点法で測定)の平均値は、通常は0.1〜500m−1の範囲、より好ましくは1〜200m−1の範囲、最も好ましくは1〜50m−1の範囲にある。機器の性能を確認するために使用される基準物質は、Micromeriticsにより提供される表面積が30.6m/g(±0.75m/g)であるカーボンブラックパウダー(品番004−16833−00)である。
【0069】
触媒粒子の典型的な平均粒度(NIST標準物質を使用し、動的光散乱を用いて、Malvern Zetasizer Nano Sで測定)は、0.01〜50μmの範囲、より好ましくは0.05〜20μmの範囲、最も好ましくは0.1〜5μmの範囲にある。
【0070】
この物質が多孔質である場合は、平均細孔径が2〜50nmの間にあるメソポーラス体が好ましい。細孔径は、NIST標準物質を用いて、水銀圧入法(mercury intrusion porosimetry)で測定することができる。
【0071】
触媒粒子の窒素吸着測定による平均細孔容積は0.01cm/g未満とすることもできるが、一般には0.01〜5cm/gの範囲とする。しかしながら、ミクロポーラス触媒は、触媒内での試剤の動きを妨げる可能性があるため、最も好ましいものではない。より好ましい平均細孔容積は0.02〜1.2cm/gである(ISO 15901−2:2006に準拠する窒素吸着を用いたBET多点法により測定)。細孔容積の測定には、表面積測定の場合と同様に、Micromeritics TriStar Surface Area and Porosity Analyserを使用し、同じ標準物質を使用する。
【0072】
非担持触媒の場合、リン酸バリウムは、自由流動性触媒粒子の形態、または所望の形状および/もしくは寸法の固体を生成するのに適した結合剤を合わせた触媒粒子の形態のいずれかで、そのまま使用することができる。粒子は任意の好適な寸法とすることができ、したがって、結合剤を使用するかまたは使用せずに、粉末、顆粒またはビーズ形態とすることもできる。典型的には、触媒は固定床形態で使用され、この目的のためには単独であっても担持されていてもよく、後者の場合は担体に結合させるのに適した触媒結合剤を含むことができる。
【0073】
上述したように、触媒は担体上で使用することができる。この場合、リン酸バリウム触媒は、触媒に適した担体上で好適な表面被覆を形成することができる。
本発明においては、担体は、触媒の一部を構成するものではない。
【0074】
本発明のリン酸バリウムは、非担持であるかまたは好適な担体(例えば、アルミナ、シリカ、窒化ケイ素、炭化ケイ素、コロイダルシリカ、チタニア、ジルコニアまたはリン酸アルミニウム)上に担持されているかのいずれかである。
【0075】
本発明の触媒を任意の好適な手段により担体に添加することができることは当業者に理解されるであろう。好ましくは、好適な塩を好適な溶媒中で使用して好適な担体上にこの化合物を沈着させた後、表面被覆された担体を乾燥させ、その後に焼成を行うことによって、担体上に触媒を固定することができる。あるいは、触媒または好適な触媒塩前駆体を、担体またはシリカゾル等の好適な担体前駆体と一緒に、好適な溶媒から共沈させることができる。好ましくは、酸化物担体、より好ましくは、本明細書に述べた酸化物担体が使用される。
【0076】
本発明の触媒を、好適な結合剤を併用するかまたは併用せずに、本発明による他の触媒との混合物で、またはそれ以外の形で使用することも可能である。
一般に、本発明のリン酸バリウムは中性分子であり、したがって、負に帯電したリン酸イオンおよびリン酸水素イオンまたはピロリン酸イオンおよび他の任意の非金属が、存在する正に帯電したバリウムと均衡を保っている。 リン酸バリウム化合物は、シリカ、窒化ケイ素、炭化ケイ素、コロイダルシリカ、アルミナ、チタニア、リン酸アルミニウム等の好適な担体に担持されていてもよい。担体には、アルカリ金属がドープされていてもされていなくてもよい。担体にアルカリ金属がドープされている場合、アルカリ金属ドープ剤は、セシウム、カリウム、ナトリウムまたはリチウムから1種または複数種を選択することができ、好ましくは、セシウムまたはカリウムであり、より好ましくはセシウムである。あるいは、リン酸バリウム自体を、1種または複数種の上述した任意のドープ金属と一緒にドープすることができる。
【0077】
好ましくは、第1または第2の態様の触媒に、触媒とは別の担体が使用される場合、触媒:担体の重量比は10:1〜1:50、より好ましくは1:1〜1:20、最も好ましくは2:3〜1:10の範囲にある。 ここで本発明の実施形態を次に示す非限定的な実施例および図面を参照しながら説明するが、これは例示のみを目的とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0078】
図1】実施例1の結晶のマイクロメートルスケールのSEM像である。
図2】実施例1の結晶のマイクロメートルスケールのSEM像である。
図3】実施例1の結晶のマイクロメートルスケールのTEM像である。
図4】実施例1の結晶のナノメートルスケールのTEM像である。
図5】実施例2の結晶のマイクロメートルスケールのTEM像である。
図6】実施例2の結晶のナノメートルスケールのTEM像である。
図7】比較例3の結晶のナノメートルスケールのTEM像である。
図8】比較例4の結晶のナノメートルスケールのTEM像である。
図9】比較例5の結晶のマイクロメートルスケールのSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0079】
実験
(分析方法)
(XRD実験)
試料は、乾燥圧縮粉末の薄層試験片として調製し、単結晶シリコンディスク上に装着した。次の装置および設定を使用した。
装置:Siemens Bruker D5000 Diffractometer D6
X線管球:Cu LFF
線源:CaKα
発生器管電圧:40kV
発生器電流:40mA回折測定系:反射法(ブラッグ・ブレンターノ)
可変発散スリット:12mm照射幅(12mm irradiated length)可変散乱防止スリット:12mm照射幅
受光スリット:0.2mm
一次ソーラスリット:2.3°
検出器:Si/Liエネルギー分散型(単色化)
モノクロメータ/検出器(Kα)
ステップ幅:0.02°
1ステップ当たりの時間:3秒(「Sr pH7_1.67」:6秒)
走査開始角度:1.5
走査終了角度:90
試料形態:バルク
試料の装填:圧縮粉末(シリコンディスク上)
試料の回転:あり
温度:周囲温度
データは、角度2θ°に対する反射強度(1秒当たりのカウント数)を示す回折図の形で出力される。結晶相の同定は、基準となるICDD(正式名称JCPDS)の回折図と比較することによって行う。ピーク強度またはピークの広がりを分析することにより、結晶相の構造パラメータを定量化する。
【0080】
(XRF実験)
粉末試料を粉砕し、粒度が100μm未満(メッシュ)になるように篩別した。粉末約
1グラムを、透過性を有する薄いフィルムを底面に備えた第1試料カップの中に軽く押し付けた。装置内で、同じく透過性を有する薄いフィルムを底面に備えた固定用第2カップで第1カップを固定した。次の装置および条件を使用した。
装置:Oxford Instruments X−Supreme 8000 (EDXRF)
X線源:タングステン
線源エネルギー:6keV
管電流:10μA
チャンバーパージガス:ヘリウム
検出器:シリコンドリフト検出器(Silicon Drift proportional detector)(SDD)
1次カップの底部:Poly4フィルム(厚さ4μm)
2次カップの底部:Poly4フィルム(厚さ4μm)
試料の回転:あり
温度:周囲温度
繰り返し測定回数:3
BaKαおよびPKα線の蛍光強度(1秒当たりのカウント数)を記録した。化学量論量の基準物質のBaKαおよびPKαシグナルから得られた補正係数(calibration scale)を用いて、対象の材料のピーク強度比をBa:P比に換算した。
【0081】
(XPS実験)
装置の試料ホルダーに貼り付けたシリコンフリーテープ片にマイクロスパチュラ1杯分の粉末試料を載せ、固まりのない粉末をマイクロスパチュラの先端で優しく平らにならした。次の装置および設定を使用した。
装置:Kratos 「Axis Ultra」X−ray Photoelectron Spectrometer
X線源:AlKα
モノクロメータ:あり
パスエネルギー:160eV(サーベイスキャン)、40eVおよび10eV(高分解能スキャン)
スポットサイズ:楕円形、約300μm×約700μm
繰り返し測定回数:2
既に確立されている化学分析用電子分光(ESCA)法を利用して、元素比(elemental atomic percentage)による表面組成の定性化を行った。酸化物材料の場合のシグナルの深さは約3〜5nmであり、検出限界は原子1000個当たり約1個(すなわち0.1原子%すなわち1000ppm)であった。実験により得られた元素比からBa:P比をまず最初に求め、次いで表面に存在する炭素を含む化学種に関し補正を行った。
【0082】
(TEM実験)
材料の粉末試料を水中に懸濁させ、レース状カーボンサポートフィルムを有する銅グリッドに塗布した。これを乾燥させた後、Philips CM12 TEMを用いて加速電圧120kVで観察した。
【0083】
適切な倍率/管球長で顕微鏡写真および電子回折パターンを収集した。これに対応するNORAN Vantage EDXシステムで選択範囲を解析した。観察された様々な形態、組成および結晶の種類を画像として記録した。次の装置および設定を使用した。
装置:Philips CM12 Transmission Electron Microscope
加速電圧:120kV
様々な本発明の実施例および比較例を調製して2組の実験を行った。第1の一連の実験は、供給原料流れとしてホルムアルデヒドを用いて行い、第2の一連の実験は、供給原料流れとしてジメトキシメタンを用いて行った。分析はガスクロマトグラフィー、ホルムアルデヒド滴定およびカール・フィッシャー装置を用いて行った。分析データからMMA+MAAの収率および選択性を求めた。MMA+MAAのモル%に対する、副生成物であるジエチルケトン(DEK)、ジメチルエーテル(DME)およびトルエンの選択性(モル%)も次に示す触媒試験結果の表に記載した。
【0084】
(SEM実験)
粉末試料1マイクログラムを試料台上の丸型カーボンシールに付着させ、白金をスパッタすることにより導電性材料の非常に薄い層を得た。装着した試料をFEI Quanta−250 FEG SEMシステムを使用し、従来のSEMモード(高真空、高電圧)にて、一定範囲の加速電圧で観察した。形状を示す二次電子顕微鏡像を8ビットのtifフォーマットで読み込んだ。
【0085】
【表1】
【0086】
調製例1
硝酸バリウムBa(NOを13.09gを脱塩水200mlに溶解し、水酸化アンモニウムでpHを13に調整した。リン酸水素二アンモニウム(NHHPOを3.96gを脱塩水50mlに溶解し、これをpH13の硝酸バリウム溶液に80℃の温度で撹拌しながら滴下した。リン酸塩を硝酸塩溶液に加えることにより懸濁液が生成する。この懸濁液の母液の撹拌を、滴下完了から3時間継続し、その間ずっと、水酸化アンモニウムでpHを13に維持した。その後、懸濁液を濾過し、脱塩水で洗浄した。次いで110℃で一夜乾燥させた後、400℃の空気中で1時間焼成した。
【0087】
この物質のBET表面積は6.9m/gであった。この試料は(Ba(PO)型の結晶性オルトリン酸バリウムであることがXRD分析により同定された。SEM像から板状の晶癖を有していることが分かった。
触媒試験:調製例1で調製した触媒3gを、気化器に接続されたステンレス鋼製管状反応器に装入した。反応器を350℃に、気化器を300℃に加熱した。プロピオン酸メチル56.2モル%、メタノール33.7モル%、ホルムアルデヒド9.6モル%および水0.5モル%の混合物を上に示した接触時間で通過させた。縮合した反応混合物をDB1701カラムおよび水素炎イオン化検出器を備えたShimadzu GCを用いてガスクロマトグラフィーにより分析した。各分析ごとに得られたクロマトグラフをShimadzu製ソフトGC solutionで処理し、各成分のピーク面積を求める。試料中の検出可能な物質について、各成分のFID応答係数を適用して、ピーク面積をまず最初に重量%に変換し、次いでモル%に変換する。
【0088】
生成した成分のモル量(出口におけるモル含有率、供給原料のモル含有率を差し引いたもの)から、MAAまたはMAA+MMAに対する選択性を、生成物に転化したプロピオン酸エステルのモル量に対する百分率として求めた。
調製例2
硝酸バリウムBa(NOを13.09gを脱塩水200mlに溶解し、水酸化アンモニウムでpHを11に調整した。リン酸水素二アンモニウム(NHHPOを3.96gを脱塩水50mlに溶解し、これをpH11の硝酸バリウム溶液に80℃の温度で撹拌しながら滴下した。リン酸塩を硝酸塩溶液に加えると懸濁液が生成する。この懸濁液の母液の撹拌を、滴下完了から3時間継続し、その間ずっと水酸化アンモニウムを用いてpHを11に維持した。その後、懸濁液を濾過して脱塩水で洗浄した。次いで110℃で一夜乾燥させた後、400℃の空気中で1時間焼成した。
【0089】
この物質のBET表面積は12.6m/gであった。この試料は(Ba(PO)型の結晶性オルトリン酸バリウムであることがXRD分析により同定された。
調製例2の触媒について実施例1に記載したように試験を行った。
調製例3
硝酸バリウムBa(NOを20.91gを脱塩水200mlに溶解し、水酸化アンモニウムでpHを13に調整した。リン酸水素二アンモニウム(NHHPOを5.28gを脱塩水100mlに溶解し、pH13の硝酸バリウム溶液に100℃の温度で撹拌しながら滴下した。リン酸塩を硝酸塩溶液に加えることにより懸濁液が生成する。この懸濁液の母液の撹拌を、滴下完了から3時間継続し、その間ずっと水酸化アンモニウムでpHを13に維持した。その後、懸濁液を濾過して脱塩水で洗浄した。次いで110℃で一夜乾燥させた後、400℃の空気中で1時間焼成した。
【0090】
この物質のBET表面積は7.0m/gであった。この試料は(Ba(PO)型の結晶性オルトリン酸バリウムであることがXRD分析により同定された。
調製例3の触媒について実施例1に記載したように試験を行った。
比較調製例1
米国特許第4118588号明細書の実施例4に開示されている調製方法に従い触媒を合成した。
【0091】
二酸化チタンTiO(Aldrichカタログ番号634662)3g、リン酸アルミニウム2.3g(比較例2に従い調製)およびホウ酸HBOを0.75gを混合した。脱塩水5ml中の尿素0.25gを加えるとペーストが生成した。このペーストを120℃で2時間乾燥させた後、600℃で4時間加熱した。
【0092】
この触媒について実施例1に記載したように試験を行った。比較調製例2
硝酸アルミニウム九水和物Al(NO・9HOを37.5gおよびリン酸水素二アンモニウム(NHHPOを13.2gを一緒に、硝酸HNOで酸性化した脱塩水160mlに溶解した。水酸化アンモニウム溶液をpHが7に到達するまで加えた。生成したヒドロゲルをさらに1時間混合した後、濾過して水洗した。80℃で一夜乾燥させた後、600℃の空気中で1時間焼成した。この物質のBET表面積は181m/gであった。
【0093】
この触媒について実施例1に記載したように試験を行った。比較調製例3
市販のCaヒドロキシアパタイトを使用した(Aldrich、カタログ番号289396)。この試料は結晶性ヒドロキシアパタイト型であることがXRD分析により確認された。一部に非晶性物質が見られた。TEMにより、凝集した不規則な球状粒子が存在することが分かった。
【0094】
この触媒について実施例1に記載したように試験を行った。比較調製例4
市販のCaヒドロキシアパタイトを使用した(Aldrich、カタログ番号677418)。この試料が結晶性ヒドロキシアパタイト型であることがXRD分析により確認された。TEMにより、典型的な直径が50〜100nmの均一な形状を有するナノ球体が見られた(但し、単体で直径300〜800nmを有する球体を一部含む)が、非球状の晶癖が存在する証拠は認められなかった。
【0095】
この触媒について実施例1に記載したように試験を行った。比較調製例5
硝酸バリウムBa(NOを13.07gを脱塩水200mlに溶解し、脱塩水100ml中のピロリン酸Hを4.94gに50℃で撹拌しながら滴下した。次いでアンモニア水溶液を滴下することにより溶液のpHを8に調整し、沈殿を得た。この懸濁液を濾過して脱塩水で洗浄した。次いで110℃で一夜乾燥させた後、400℃の空気中で1時間焼成した。
【0096】
この物質のBET表面積は2.0m/gであった。主要な相は結晶性ピロリン酸バリウム(Ba)であることがXRDにより同定された。非主要相としてリン酸水素バリウム(BaHPO)が認められた。SEM像から優勢な形状が球体であることが分かった。
【0097】
比較調製例5の触媒について実施例1に記載したように試験を行った。
本明細書と同時にまたは先に提出された本出願に関連する全ての論文および文献ならびに公衆の閲覧に付された本明細書に関する全ての論文および文献が考慮されるが、この種の論文および文献全ての記載内容を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【0098】
本明細書に開示された全ての特徴(添付の特許請求の範囲、要約および図面を含む)および/またはそのように開示された任意の方法もしくはプロセスの全てのステップは、少
なくとも一部が互いに排他的であるものを除いて、この種の特徴および/またはステップを任意の組合せで組み合わせることができる。
【0099】
本明細書(添付の特許請求の範囲、要約および図面を含む)に開示された各特徴は、特に明記されていない限り、同一、均等または類似の役割を果たす代替的な特徴と置き換えることができる。したがって、特に明記されていない限り、開示された各特徴は、一連の均等または類似の特徴の上位概念の一例に過ぎない。
【0100】
本発明は、上述の実施形態の詳細に限定されない。本発明は、本明細書(添付の特許請求の範囲、要約および図面を含む)に開示された、本発明の、好ましい、典型的なまたは任意選択的な特徴のうちの任意の新規な1つの特徴または任意の新規な組合せにまで、あるいは、そのように開示された本発明の任意の方法またはプロセスの、好ましい、典型的なまたは任意選択的なステップのうちの任意の新規な1ステップまたは任意の新規な組合せにまで拡張される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】