特表2015-508812(P2015-508812A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2015-508812非自己免疫性糖尿病を抑制および処置するためのHSP60由来ペプチドおよびペプチド類似体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-508812(P2015-508812A)
(43)【公表日】2015年3月23日
(54)【発明の名称】非自己免疫性糖尿病を抑制および処置するためのHSP60由来ペプチドおよびペプチド類似体
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/00 20060101AFI20150224BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20150224BHJP
   A61K 39/39 20060101ALI20150224BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20150224BHJP
   A61K 38/28 20060101ALI20150224BHJP
   A61K 31/155 20060101ALI20150224BHJP
   A61K 31/195 20060101ALI20150224BHJP
   A61K 31/426 20060101ALI20150224BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20150224BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20150224BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20150224BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20150224BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20150224BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20150224BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20150224BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20150224BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20150224BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20150224BHJP
【FI】
   A61K37/02
   A61P3/10
   A61K39/39
   A61K45/00
   A61K37/26
   A61K31/155
   A61K31/195
   A61K31/426
   A61P43/00 121
   A61K9/127
   A61K9/06
   A61K9/48
   A61P3/00
   A61P3/06
   A61P1/18
   A61P9/00
   A61P25/00
   A61P35/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2014-559346(P2014-559346)
(86)(22)【出願日】2013年2月28日
(85)【翻訳文提出日】2014年8月28日
(86)【国際出願番号】IL2013050174
(87)【国際公開番号】WO2013128450
(87)【国際公開日】20130906
(31)【優先権主張番号】61/605,262
(32)【優先日】2012年3月1日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC
(71)【出願人】
【識別番号】503202608
【氏名又は名称】イエダ リサーチ アンド ディベロプメント カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】コーエン,イラン,アール.
(72)【発明者】
【氏名】マルガリット,ラーナン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076AA20
4C076AA53
4C076BB01
4C076BB11
4C076BB13
4C076BB14
4C076BB16
4C076BB21
4C076BB31
4C076BB32
4C076CC01
4C076CC11
4C076CC16
4C076CC21
4C076CC27
4C076CC29
4C076FF70
4C084AA02
4C084AA19
4C084BA01
4C084BA18
4C084BA19
4C084CA59
4C084DB34
4C084MA24
4C084MA28
4C084MA37
4C084MA56
4C084MA63
4C084MA66
4C084MA67
4C084NA14
4C084ZA02
4C084ZA75
4C084ZB26
4C084ZC21
4C084ZC33
4C084ZC35
4C084ZC75
4C085AA38
4C085EE01
4C085EE03
4C085FF24
4C085GG02
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG05
4C085GG06
4C085GG08
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC82
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA24
4C086MA28
4C086MA37
4C086MA52
4C086MA56
4C086MA63
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA36
4C086ZA75
4C086ZB26
4C086ZC21
4C086ZC33
4C086ZC35
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206GA07
4C206GA36
4C206HA31
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA44
4C206MA48
4C206MA57
4C206MA72
4C206MA76
4C206MA83
4C206MA86
4C206NA14
4C206ZA02
4C206ZA36
4C206ZA75
4C206ZB26
4C206ZC33
4C206ZC35
4C206ZC75
(57)【要約】
本発明は、熱ショックタンパク質60(hsp60)のペプチドおよび類似体を用いた2型糖尿病(T2D)の予防および処置の方法、ならびにT2Dに関連する合併症の抑制、予防および処置の方法を提供する。本発明は、ヒトhsp60のペプチド類似体であるDiaPep277(商標)を用いて例示される。本発明は更に、T2Dの抑制、予防または処置に有用な処置レジメンに関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
hsp60に由来するペプチドまたはそのペプチド類似体を含む組成物を、必要とする対象に投与することを含む、2型糖尿病(T2D)を処置または緩和するための方法。
【請求項2】
前記ペプチド類似体が、配列:Val−Leu−Gly−Gly−Gly−X−Ala−Leu−Leu−Arg−X−Ile−Pro−Ala−Leu−Asp−Ser−Leu−X−Pro−Ala−Asn−Glu−Asp(配列番号1を有するヒトhsp60のアミノ酸残基437〜460に対応する配列を含み、Xは、CysまたはVal残基であり、Xは、CysまたはVal残基であり、Xは、ThrまたはLys残基である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ペプチド類似体が、本明細書ではDiaPep277で表される配列番号2:
1 6
Val−Leu−Gly−Gly−Gly−Val−Ala−Leu−Leu−Arg−
11
Val−Ile−Pro−Ala−Leu−Asp−Ser−Leu−Thr−Pro−
24
Ala−Asn−Glu−Asp(配列番号2)内に示された通り、hsp60の残基437〜460のVal,Val11類似体である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記hsp60断片ペプチドが、
ヒトhsp60の残基31〜50:Lys−Phe−Gly−Ala−Asp−Ala−Arg−Ala−Leu−Met−Leu−Gln−Gly−Val−Asp−Leu−Leu−Ala−Asp−Ala(配列番号3);
ヒトhsp60の残基136〜155:Asn−Pro−Val−Glu−Ile−Arg−Arg−Gly−Val−Met−Leu−Ala−Val−Asp−Ala−Val−Ile−Ala−Glu−Leu(配列番号4);
ヒトhsp60の残基151〜170:Val−Ile−Ala−Glu−Leu−Lys−Lys−Gln−Ser−Lys−Pro−Val−Thr−Thr−Pro−Glu−Glu−Ile−Ala−Gln(配列番号5);
ヒトhsp60の残基166〜185:Glu−Glu−Ile−Ala−Gln−Val−Ala−Thr−Ile−Ser−Ala−Asn−Gly−Asp−Lys−Glu−Ile−Gly−Asn−Ile(配列番号6);
ヒトhsp60の残基195〜214:Arg−Lys−Gly−Val−Ile−Thr−Val−Lys−Asp−Gly−Lys−Thr−Leu−Asn−Asp−Glu−Leu−Glu−Ile−Ile(配列番号7);
ヒトhsp60の残基255〜274:Gln−Ser−Ile−Val−Pro−Ala−Leu−Glu−Ile−Ala−Asn−Ala−His−Arg−Lys−Pro−Leu−Val−Ile−Ile(配列番号8);
ヒトhsp60の残基286〜305:Leu−Val−Leu−Asn−Arg−Leu−Lys−Val−Gly−Leu−Gln−Val−Val−Ala−Val−Lys−Ala−Pro−Gly−Phe(配列番号9);
ヒトhsp60の残基346〜365:Gly−Glu−Val−Ile−Val−Thr−Lys−Asp−Asp−Ala−Met−Leu−Leu−Lys−Gly−Lys−Gly−Asp−Lys−Ala(配列番号10);
ヒトhsp60の残基421〜440:Val−Thr−Asp−Ala−Leu−Asn−Ala−Thr−Arg−Ala−Ala−Val−Glu−Glu−Gly−Ile−Val−Leu−Gly−Gly(配列番号11);
ヒトhsp60の残基436〜455:Ile−Val−Leu−Gly−Gly−Gly−Cys−Ala−Leu−Leu−Arg−Cys−Ile−Pro−Ala−Leu−Asp−Ser−Leu−Thr(配列番号12);
ヒトhsp60の残基466〜485:Glu−Ile−Ile−Lys−Arg−Thr−Leu−Lys−Ile−Pro−Ala−Met−Thr−Ile−Ala−Lys−Asn−Ala−Gly−Val(配列番号13);
ヒトhsp60の残基511〜530:Val−Asn−Met−Val−Glu−Lys−Gly−Ile−Ile−Asp−Pro−Thr−Lys−Val−Val−Arg−Thr−Ala−Leu−Leu(配列番号14);
ヒトhsp60の残基343〜366:Gly−Lys−Val−Gly−Glu−Val−Ile−Val−Thr−Lys−Asp−Asp−Ala−Met(配列番号15)
からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記投与が、筋肉内、静脈内、経口、腹腔内、皮下、局所、皮内または経皮送達からなる群より選択される経路による、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記投与が、皮下注射、腹腔内(IP)注射、筋肉内(IM)注射および静脈内(IV)注射からなる群より選択される経路による、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記組成物が、経口(PO)投与される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
脂質エマルジョン、サブミクロン水中油エマルジョン、油中水エマルジョン、およびリポソームからなる群より選択される少なくとも1種のアジュバントを更に含む、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記組成物が、少なくとも2mgの前記hsp60由来ペプチドまたはペプチド類似体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記組成物が、少なくとも5mgの前記hsp60由来ペプチドまたはペプチド類似体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記組成物が、10mgの前記hsp60由来ペプチドまたはペプチド類似体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記組成物が、2〜50mgの前記hsp60由来ペプチドまたはペプチド類似体を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記hsp60由来ペプチドまたはペプチド類似体が、1ヶ月に2〜24回、必要とする対象に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記hsp60由来ペプチドまたはペプチド類似体が、1週間に2〜5回、必要とする対象に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
2〜10mgの前記hsp60由来ペプチドまたはペプチド類似体を含む組成物が、皮下注射、腹腔内(IP)注射、筋肉内(IM)注射および静脈内(IV)注射からなる群より選択される経路により1週間に少なくとも1回投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
50〜500mgのhsp60由来ペプチドまたはペプチド類似体を含む組成物が、1ヶ月に1〜4回経口投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記hsp60由来ペプチドまたはペプチド類似体が、インスリンを患者に投与することを含む処置レジメンの一部として投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記対象が、処置の一部としてインスリンを投与されない、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
少なくとも1種のhsp60由来ペプチドまたはその類似体を含む医薬組成物を、そのような処置を必要とする患者に投与することを含む、T2Dの少なくとも1つの合併症を抑制、予防または処置するための方法。
【請求項20】
前記ペプチド類似体が、DiaPep277である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
T2Dの前記合併症が、代謝症候群、脂肪肝、ニューロパチー、ネフロパチー、心臓疾患、末梢血管疾患および癌からなる群より選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
少なくとも1種の追加的な抗糖尿病薬の投与を更に含む、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記少なくとも1種の追加的な抗糖尿病薬が、インスリン、スルホニル尿素、α−グルコシダーゼ阻害剤、ビグアニド、メグリチニド、およびチアゾリジンジオンからなる群より選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記hsp60由来ペプチドまたは類似体が、抗糖尿病薬の投与を含まない処置レジメンの一部として、必要とする対象に投与される、請求項19に記載の方法。
【請求項25】
hsp60由来ペプチドまたはペプチド類似体を投与することを含む、明白な自己免疫性成分を有さない患者およびT2Dの遺伝的素因を有する患者のT2Dの発症を遅延させるための方法。
【請求項26】
前記hsp60ペプチド類似体が、DiaPep277である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
T2Dの発症または処置を予防、遅延する薬剤を調製するためのhsp60由来ペプチドまたはペプチド類似体の使用。
【請求項28】
具体的にはT2Dの発症または処置を予防、遅延する際に使用するために配合される、hsp60ペプチドまたはペプチド類似体を含む医薬組成物。
【請求項29】
前記hsp60ペプチド類似体が、DiaPep277である、請求項28に記載の医薬組成物。
【請求項30】
具体的には2〜6日間、1週間、2週間またはより長期間から選択される期間にわたり前記治療有効量のペプチドを提供するように配合された、DiaPep277または薬学的に許容可能なその塩を含む長時間作用型医薬組成物。
【請求項31】
T2Dの処置に使用するための、請求項30に記載の長時間作用型医薬組成物。
【請求項32】
必要とする対象における、薬剤として許容し得る位置での注射または移植に適したデポ剤の形態の、請求項30に記載の長時間作用型医薬組成物。
【請求項33】
薬学的に許容可能な生分解性または非生分解性担体を更に含む、請求項30に記載の医薬組成物。
【請求項34】
1週間に1回〜6ヶ月に1回の投与計画に適する、請求項30に記載の医薬組成物。
【請求項35】
2週間に1回〜1ヶ月に1回の投与計画に適する、請求項30に記載の医薬組成物。
【請求項36】
生分解性ミクロスフェア、非生分解性ミクロスフェア、任意の適切な幾何学的形状のインプラント、移植可能なロッド(rods)、移植可能なカプセル、移植可能なリング、または長期放出性ゲルもしくは浸食性マトリックスの形態の、請求項30〜35のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱ショックタンパク質60(hsp60)に由来するペプチド、またはその類似体の投与を含む、非自己免疫性糖尿病を予防、抑制および処置するための方法に関する。本発明は、2型糖尿病(T2D)の処置のためのDiaPep277DiaPep277と表されるhsp60ペプチド類似体の使用により例示される。本発明は更に、T2Dの抑制または処置のためのDiaPep277ならびに他のhsp60ペプチドおよび類似体の投与に適合された処置レジメンおよび配合剤に関する。
【背景技術】
【0002】
2型糖尿病(T2D、非インスリン依存性糖尿病、NIDDM、または成人発症型糖尿病とも称される)は、糖尿病の症例の90%を占める、糖尿病の最も一般的な形態である。それは、相対的な抹消組織のインスリン抵抗性およびインスリン欠乏に関連する高血糖を特徴とする代謝障害である。45〜64歳のヒトの糖尿病罹患率は7%であるが、65歳以上のヒトでは罹患率が有意に上昇する。1型糖尿病(T1D、インスリン依存性糖尿病、IDDMとも称される)は、糖尿病症例の約10%を占め、膵臓のβ細胞の破壊により生じる自己免疫性疾患である。
【0003】
肥満または代謝症候群は、該疾患の遺伝的素因を有するヒトにおけるT2Dの主因である。2型糖尿病は、最初は運動増加および食事改善により管理される。血糖値がこれらの方策により低下されない場合、メトホルミンまたはインスリンなどの薬剤が必要となる場合がある。
【0004】
糖尿病の割合は、肥満と並んで、この50年の間に著しく増加してきた。糖尿病人口は、1985年はおよそ3千万人であるのに対し、2010年ではおよそ2億8500万人であった。2型糖尿病は、典型的には平均寿命を10年短縮させる慢性疾患である。これは、一部には、心臓疾患および卒中のリスクが2〜4倍、下肢切断の20倍増加、および入院率上昇をはじめとし、関連する多数の合併症が原因である。T2Dは、先進国で、他の地域でも次第に、非外傷性の盲目および腎不全の最大の原因となっている。T2Dは、アルツハイマー病および血管性認知症などの疾患過程を通して認知機能不全および認知症のリスク上昇に関連づけられている。他の合併症としては、黒色表皮腫、性機能不全、および感染の頻発が挙げられる。
【0005】
熱ショックタンパク質(HSP)は、原核細胞および真核細胞の全てにおいて発現される保存性の高いタンパク質である。HSPは、新たに合成されたタンパク質の正しいフォールディングおよびサブユニットの構築などの多くの重要な細胞過程に関与し、そのため分子シャペロンと呼ばれる(Bukau,B.,et al.2000,Cell 101,119−122)。 高温、紫外線、ウイルスまたは細菌感染などの非生理学的条件下では、細胞内HSP発現がアップレギュレートされる。HSPは、変性タンパク質の凝集を予防し、変性タンパク質のリフォールディングまたはタンパク質分解を開始するなど、細胞保護機能を発揮する。HSPは、それらの分子量に従って、小HSP、HSP40、HSP60、HSP70、HSP90およびHSP100の6種のサブファミリーに分類される。それらは、細胞基質内(HSP70、HSP90、HSP100)、小胞体内(HSP70、HSP90)またはミトコンドリア内(HSP60)に存在する。
【0006】
HSP60、HSP70、およびHSP90サブファミリーは、免疫学的に関連する過程での潜在的役割のために、益々注目を集めることとなった。複数の試験で、HSPが細菌感染の際の免疫反応のターゲットとして同定された(Zugel,U.,and Kaufmann,S.H.,1999,Immunobiology 201,22−35)。細菌内HSPと、損傷またはストレスを受けた組織に由来する内在性HSPとの間で配列相同性が高いことから、免疫学的交差反応が、関節リウマチおよび糖尿病をはじめとする自己免疫性疾患の発病に寄与することが示唆されている(Holoshitz,J.,et al.1986,Lancet2,305−309;Elias,D.,et al.,1991,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A 88,3088−3091;Abulafia−Lapid,R.,et al.,1999,J.Autoimmun.12,121−129)。
【0007】
自己免疫性疾患の診断、処置または予防における免疫モジュレーターとしての熱ショックタンパク質またはその断片の使用が、多くの刊行物に開示されている。これらの開示のほとんどが、hsp60またはこのタンパク質の断片に関係する。バクテリアhsp65と高度の相同性を有するヒトhsp60に対する抗体が、ヒトおよび糖尿病前症NODマウスのT1D発症時の循環内で見出された。Eliasら(Diabetes 1997,46,758−64)は、自己免疫性糖尿病における免疫優性エピトープの1つであるp277と称されるヒトhsp60の特異的ペプチドを実証した。それに従い、p277に対するT細胞の反応性が、NODマウスの糖尿病発症時に報告された。p277の皮下投与により、β細胞抗原に対するT細胞反応性がダウンレギュレートし、NODマウスの糖尿病発病が予防された。同じく処置により誘導されたp277特異性IgG1抗体は、p277特異性IL−4およびIL−10分泌を増加させ、γインターフェロン分泌を減少させることから、Th2サイトカイン経路のアップレギュレーションが示唆される。膵臓のランゲルハンス島の破壊が、Th1の応答であると考えられることから、p277により誘導されたTh1からTh2への応答の切り替えが、T1D軽快の原因である可能性がある。
【0008】
米国特許第5,114,844号;同第5,671,848号;同第5,578,303号および同第5,780,034号に、T1Dの診断および処置におけるhsp60の使用が開示されている。更に、このhsp60タンパク質の断片およびペプチド類似体が、T1Dおよび移植片対宿主病を予防または緩和する際の治療上有用な物質とした作用し得ることが開示されている(米国特許第6,180,103号および同第5,993,803号、ならびに国際公開第96/19236号、国際公開第97/01959号および国際公開第98/08536号)。
【0009】
米国特許第6,180,103号および国際公開第96/19236A号にp277(Val,Val11)として開示された、本明細書でDiaPep277として表されるヒトhsp60p277のペプチド類似体は、本来6位および11位に存在する2つのシステイン残基がバリン残基に置換された合成類似体である。
【0010】
国際公開第03/070761号には、T細胞のTCRを必ずしも活性化せずに、T細胞上のToll様受容体2(Tlr2)を介して反応させることが可能なペプチドp277の最小エピトープを含むペプチド由来の抗炎症性hsp60が開示されている。
【0011】
国際公開第2005/072056号には、自己免疫性疾患、特に1型糖尿病の発症を遅延させるための、抗原性の低い食事を併せたDiaPep277の使用、およびDiaPep277の経口投与を利用した自己免疫性疾患を予防、遅延、抑制または処置するために有用な方法が開示されている。
【0012】
国際公開第2006/072946号には、免疫反応および炎症性疾患のモジュレーション、具体的には肝臓障害の処置または予防におけるp277およびその類似体の使用が開示されている。
【0013】
DiaPep277では、T1Dが新規に発症した対象の処置のための第III相臨床試験が、成功裏に完了している。この治験の結果から、DiaPep277がβ細胞の自己免疫性破壊をモジュレートおよび停止させることによりT1Dにおいて残留するβ細胞を保護することが示されている。
【0014】
DiaPep277は、身体組織(肝臓、筋肉、脂肪など)のインスリンに抵抗性を有する疾患であり自己免疫性の病因に関連しないT2Dを処置し得ることは教示も示唆もされていない。
【0015】
非自己免疫性糖尿病、即ちT2Dの予防、遅延、抑制および処置のための有効かつ安全な組成物を提供するという要望が、依然として対処されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、DiaPep277(配列番号2)および他のhsp60由来ペプチドおよびペプチド類似体を含む医薬組成物、非自己免疫性糖尿病の抑制および処置の配合剤および方法、ならびに2型糖尿病(T2D)に関連する合併症の予防および緩和のためのそれらの使用を提供する。
【0017】
意外にも、β細胞の自己免疫性破壊をモジュレートおよび停止することによりT1Dの処置に効果的となるDiaPep277が、自己免疫性の病因を有さない疾患であるT2Dにも治療上の利益があることが見出された。更に、DiaPep277によるT1Dの処置に用いられる計画が、T2Dには無効であることが見出され、それゆえ新規な処置計画および配合剤が、本明細書において示される。本発明によれば、新規な糖尿病患者集団が、hsp60ペプチド類似体であるDiaPep277のターゲットとして提示される。つまり本発明は、T2Dを有するが明白な自己免疫性成分を有さない患者および該疾患の遺伝的素因を有する患者の処置を開示する。
【0018】
本発明は、一態様によれば、hsp60に由来するペプチドまたはそのペプチド類似体を含む組成物を、必要とする患者に投与することを含む、T2Dを処置または緩和するための方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0019】
一部の実施形態によれば、ペプチド類似体は、配列:Val−Leu−Gly−Gly−Gly−X−Ala−Leu−Leu−Arg−X−Ile−Pro−Ala−Leu−Asp−Ser−Leu−X−Pro−Ala−Asn−Glu−Asp(配列番号1を有するヒトhsp60のアミノ酸残基437〜460に対応する配列からなり、X1は、CysまたはVal残基であり、Xは、CysまたはVal残基であり、Xは、ThrまたはLys残基である。
【0020】
特定の実施形態によれば、XおよびXは、Valであり、Xは、Thrであり、ペプチド類似体は、24〜30アミノ酸長である。
【0021】
特定の実施形態によれば、ペプチド類似体は、本明細書ではDiaPep277で表された配列番号2:
1 6
Val−Leu−Gly−Gly−Gly−Val−Ala−Leu−Leu−Arg−
11
Val−Ile−Pro−Ala−Leu−Asp−Ser−Leu−Thr−Pro−
24
Ala−Asn−Glu−Asp(配列番号2)内に示された通り、hsp60の残基437〜460のVal,Val11類似体である。
【0022】
別の実施形態によれば、hsp60断片ペプチドは、
ヒトhsp60の残基31〜50:Lys−Phe−Gly−Ala−Asp−Ala−Arg−Ala−Leu−Met−Leu−Gln−Gly−Val−Asp−Leu−Leu−Ala−Asp−Ala(配列番号3);
ヒトhsp60の残基136〜155:Asn−Pro−Val−Glu−Ile−Arg−Arg−Gly−Val−Met−Leu−Ala−Val−Asp−Ala−Val−Ile−Ala−Glu−Leu(配列番号4);
ヒトhsp60の残基151〜170:Val−Ile−Ala−Glu−Leu−Lys−Lys−Gln−Ser−Lys−Pro−Val−Thr−Thr−Pro−Glu−Glu−Ile−Ala−Gln(配列番号5);
ヒトhsp60の残基166〜185:Glu−Glu−Ile−Ala−Gln−Val−Ala−Thr−Ile−Ser−Ala−Asn−Gly−Asp−Lys−Glu−Ile−Gly−Asn−Ile(配列番号6);
ヒトhsp60の残基195〜214:Arg−Lys−Gly−Val−Ile−Thr−Val−Lys−Asp−Gly−Lys−Thr−Leu−Asn−Asp−Glu−Leu−Glu−Ile−Ile(配列番号7);
ヒトhsp60の残基255〜274:Gln−Ser−Ile−Val−Pro−Ala−Leu−Glu−Ile−Ala−Asn−Ala−His−Arg−Lys−Pro−Leu−Val−Ile−Ile(配列番号8);
ヒトhsp60の残基286〜305:Leu−Val−Leu−Asn−Arg−Leu−Lys−Val−Gly−Leu−Gln−Val−Val−Ala−Val−Lys−Ala−Pro−Gly−Phe(配列番号9);
ヒトhsp60の残基346〜365:Gly−Glu−Val−Ile−Val−Thr−Lys−Asp−Asp−Ala−Met−Leu−Leu−Lys−Gly−Lys−Gly−Asp−Lys−Ala(配列番号10);
ヒトhsp60の残基421〜440:Val−Thr−Asp−Ala−Leu−Asn−Ala−Thr−Arg−Ala−Ala−Val−Glu−Glu−Gly−Ile−Val−Leu−Gly−Gly(配列番号11);
ヒトhsp60の残基436〜455:Ile−Val−Leu−Gly−Gly−Gly−Cys−Ala−Leu−Leu−Arg−Cys−Ile−Pro−Ala−Leu−Asp−Ser−Leu−Thr(配列番号12);
ヒトhsp60の残基466〜485:Glu−Ile−Ile−Lys−Arg−Thr−Leu−Lys−Ile−Pro−Ala−Met−Thr−Ile−Ala−Lys−Asn−Ala−Gly−Val(配列番号13);
ヒトhsp60の残基511〜530:Val−Asn−Met−Val−Glu−Lys−Gly−Ile−Ile−Asp−Pro−Thr−Lys−Val−Val−Arg−Thr−Ala−Leu−Leu(配列番号14);
ヒトhsp60の残基343〜366:Gly−Lys−Val−Gly−Glu−Val−Ile−Val−Thr−Lys−Asp−Asp−Ala−Met(配列番号15)
からなる群より選択される。
【0023】
hsp60ペプチドまたはペプチド類似体は、本発明によれば、少なくとも1種の薬学的に許容可能な賦形剤、希釈剤、アジュバントまたは塩を含む医薬組成物に含有させて投与される。
【0024】
該医薬組成物は、非限定的に、筋肉内、静脈内、経口、腹腔内、皮下、局所、皮内または経皮送達をはじめとする任意の投与経路により、必要とする対象に投与され得る。
【0025】
一部の実施形態によれば、該組成物は、皮下注射(SC)、腹腔内(IP)注射、筋肉内(IM)注射および静脈内(IV)注射からなる群より選択される経路により投与される。特定の実施形態によれば、該組成物は、経口(PO)投与される。
【0026】
更に別の実施形態によれば、該医薬組成物は、非限定的に生理食塩水、PBSおよび水をはじめとする水溶液中に、hsp60由来ペプチドまたはペプチド類似体を含む。可能な選択肢はそれぞれ、本発明の別個の実施形態である。
【0027】
一部の実施形態によれば、該組成物は、アジュバントを含む。薬学的に許容可能なアジュバントとしては、非限定的に、油中水エマルジョン、脂質エマルジョン、またはサブミクロン水中油エマルジョンおよびリポソームが挙げられる。具体的な実施形態によれば、アジュバントは、Intralipid(登録商標)またはLipofundin(登録商標)である。
【0028】
一部の実施形態によれば、該組成物は、筋肉内、静脈内、経口、腹腔内、皮下、局所、皮内または経皮送達のために配合される。
【0029】
一部の実施形態によれば、hsp60由来ペプチドまたはペプチド類似体の少なくとも2mgの週用量が与えられる。別の実施形態によれば、少なくとも5mgのhsp60由来ペプチドまたはペプチド類似体を含む個々の用量が、提供される。具体的実施形態によれば、10mgのhsp60由来ペプチドまたはペプチド類似体を含む個々の用量が、提供される。特定の実施形態によれば、2〜50mgのhsp60由来ペプチドまたはペプチド類似体が、1週間に1〜5回投与される。可能な選択肢はそれぞれ、本発明の別個の実施形態である。
【0030】
一部の実施形態によれば、hsp60由来ペプチドまたはペプチド類似体は、1ヶ月に1〜24回必要とする対象に投与される。更に別の実施形態によれば、hsp60由来ペプチドまたはペプチド類似体は、1週間に少なくとも1回、必要とする対象に投与される。一部の特定の実施形態によれば、hsp60由来ペプチドまたはペプチド類似体は、1週間に2〜5回、必要とする対象に投与される。更に別の実施形態によれば、1日1回の投与が、提供される。可能な選択肢はそれぞれ、本発明の別個の実施形態である。
【0031】
一部の特定の実施形態によれば、2〜10mgのhsp60由来ペプチドまたはペプチド類似体を含む組成物が、皮下(SC)注射、腹腔内(IP)注射、筋肉内(IM)注射および静脈内(IV)注射からなる群より選択される経路により1週間に少なくとも1回、必要とする対象に投与される。特定の実施形態によれば、皮下注射により投与される医薬組成物は、脂肪エマルジョンを含む。可能な選択肢はそれぞれ、本発明の別個の実施形態である。
【0032】
別の実施形態によれば、50〜500mgのhsp60ペプチドまたは類似体を含む組成物が、1ヶ月に4〜30回の計画で、必要とする対象への経口投与のために提供される。一部の実施形態によれば、経口投与は、1週間に少なくとも1回である。別の実施形態によれば、経口投与は、1週間に少なくとも2〜5回である。更に別の実施形態によれば、経口投与は、1日1回である。可能な選択肢はそれぞれ、本発明の別個の実施形態である。
【0033】
一部の実施形態によれば、hsp60由来ペプチドまたはペプチド類似体は、インスリンを患者に投与することを含む処置レジメンの一部として投与される。更に別の実施形態によれば、対象は、処置の一部としてインスリンを投与されない。
【0034】
本発明は、少なくとも1種のhsp60由来ペプチドまたはその類似体を含む医薬組成物を、そのような処置を必要とする患者に投与することを含む、T2Dの合併症を抑制、予防または処置するための方法を更に提供する。
【0035】
特定の実施形態によれば、ペプチド類似体はDiaPep277である。
【0036】
本発明により予防、抑制または処置され得るT2D合併症としては、非限定的に、代謝症候群、脂肪肝、インスリン抵抗性、癌、微小血管性合併症、例えばニューロパチー(神経の損傷)、ネフロパチー(腎臓疾患)および視覚障害(例えば、網膜症、緑内障、白内障および角膜疾患)、大血管性合併症、例えば心臓疾患、卒中および末梢血管疾患(潰瘍、壊疽および切断につながる可能性がある)が挙げられる。
【0037】
糖尿病の他の合併症としては、感染、代謝困難、勃起障害、自律神経障害、および妊娠の問題が挙げられる。
【0038】
一部の実施形態によれば、該方法は、少なくとも1種の追加的な抗糖尿病薬の投与を更に含む。
【0039】
一部の実施形態によれば、少なくとも1種の追加的な抗糖尿病薬は、インスリン、スルホニル尿素、α−グルコシダーゼ阻害剤、ビグアニド、メグリチニド、およびチアゾリジンジオンからなる群より選択される。
【0040】
別の実施形態によれば、少なくとも1種の追加的な抗糖尿病薬は、増感剤(ビグアニドおよびチアゾリジンジオンなど);分泌促進物質(スルホニル尿素および非スルホニル尿素系分泌促進物質);α−グルコシダーゼ阻害剤;ペプチド類似体(注射用インクレチンミメティックスおよび注射用アミリン類似体など)からなる群より選択される。
【0041】
一部の特定の実施形態によれば、抗糖尿病薬は、メトホルミン;ロシグリタゾン(Avandia);ピオグリタゾン(Actos);トルブタミド(Orinase);アセトヘキサミド(Dymelor);トラザミド(Tolinase);クロルプロパミド(Diabinese);第二世代薬;グリピジド(Glucotrol);グリブリド(Diabeta、Micronase、Glynase);グリメピリド(Amaryl);グリクラジド(Diamicron);レパグリニド(Prandin);ナテグリニド(Starlix);ミグリトール(Glyset);アカルボーズ(Precose/Glucobay);エキセナチド;リラグルチド;ビルダグリプチン(Galvus);シタグリプチン(Januvia);サキサグリプチン(Onglyza);リナグリプチン(Tradjenta)からなる群より選択される。
【0042】
特定の実施形態によれば、hsp60由来ペプチドまたはペプチド類似体は、他の抗糖尿病薬の投与を含まない処置レジメンの一部として、必要とする対象に投与される。
【0043】
本発明の別の態様によれば、本発明は、hsp60由来ペプチドまたはペプチド類似体を投与することを含む、明白な自己免疫性成分を有さない患者およびT2Dの遺伝的素因を有する患者のT2Dの発症を遅延させるための方法を提供する。
【0044】
一部の特定の実施形態によれば、hsp60ペプチド類似体は、DiaPep277である。
【0045】
本発明は、T2Dの発症または処置を予防、遅延する際に使用するためのhsp60由来ペプチドまたはペプチド類似体も開示する。
【0046】
同じく、T2Dの発症または処置を予防、遅延する薬剤を調製するためのhsp60由来ペプチドまたは類似体の使用も開示される。
【0047】
一部の実施形態によれば、hsp60ペプチド類似体は、T2Dを処置するためのDiaPep277である。
【0048】
具体的にはT2Dの発症または処置を予防、遅延する際に使用するために配合される、hsp60ペプチドまたは類似体を含む医薬組成物も、本発明の範囲内である。
【0049】
一部の実施形態によれば、別の抗糖尿病薬を更に含むhsp60ペプチドまたは類似体を含む医薬組成物が、提供される。
【0050】
特定の実施形態によれば、該医薬組成物は、別の抗糖尿病薬に加えて、hsp60ペプチド類似体DiaPep277を含む。
【0051】
本発明は、別の態様によれば、具体的には2〜6日間、1週間、2週間またはより長期間から選択される期間にわたり治療有効量のペプチドを提供するように配合された、DiaPep277または薬学的に許容可能なその塩を含む長時間作用型医薬組成物を提供する。
【0052】
一部の実施形態によれば、該長時間作用型医薬組成物は、T2Dの処置に使用するためのものである。
【0053】
幾つかの具体的実施形態によれば、該長時間作用型医薬組成物は、必要とする対象において、薬剤として許容し得る位置で、注射または移植に適したデポ剤の形態で提供される。
【0054】
一部の実施形態によれば、該長時間作用型医薬組成物は、1週間に1回〜6ヶ月に1回の投与計画に適する。
【0055】
特定の実施形態によれば、該組成物は、2週間に1回〜1ヶ月に1回の投与計画に適する。可能な選択肢はそれぞれ、本発明の別個の実施形態である。
【0056】
該長時間作用型医薬組成物の具体的例としては、生分解性または非生分解性ミクロスフェア、任意の適切な幾何学的形状のインプラント、移植可能なロッド(rods)、移植可能なカプセル、移植可能なリング、長期放出性ゲルおよび浸食性マトリックスが挙げられる。可能な選択肢はそれぞれ、本発明の別個の実施形態である。
【0057】
本発明は、DiaPep277の薬学的に許容可能な塩の治療有効量を含む組成物の投与または移植を含む、T2Dを処置する方法を更に提供する。
【0058】
本発明の基本原理による長時間作用型医薬組成物は、局部および/または全身レベルでの副作用の発症率および/または重症度を低下させながら、市販の注射用投与剤型と同等またはそれを凌ぐ治療有効性を提供する。
【0059】
特定の実施形態によれば、移植可能なデポ剤は、皮下移植または筋肉内移植に適する。
【0060】
代わりの実施形態によれば、該長時間作用型非経口医薬組成物は、DiaPep277用の薬学的に許容可能な生分解性または非生分解性担体を含む。
【0061】
別の態様によれば、本発明は、T2Dを有する患者に投与するために配合された少なくとも2mgの投与剤型のDiaPep277を含むキットを提供する。別の実施形態によれば、キットは、DiaPep277 5mgを含む。キットは、該組成物の投与のための使用説明書を更に含んでいてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
図1】DiaPep277投与または対照の様々な計画の後の、時間経過に対するマウスの体重を表す。
図2】DiaPep277投与または対照の様々な計画の後の、時間経過に対する血糖レベルを表す。
【発明を実施するための形態】
【0063】
hsp60由来ペプチドおよびペプチド類似体、特にペプチド類似体DiaPep277は、T1Dの処置に有効であることが公知である。意外にも、それらが非自己免疫性糖尿病、即ちT2Dにも有効であることが、ここに見出された。治療薬は、T2Dおいて効果的にするために、リンパ器官を越えて脂肪組織を透過し、組織内の慢性炎症に影響を及ぼす必要がある。それゆえ、T2Dでは、T1Dで用いられたものとは異なる用量および処置計画が、用いられなければならない。
【0064】
当該技術分野で公知の、DiaPep277によるT1Dの効果的処置は、典型的には皮下注射による3ヶ月ごとの1mg投与である。
【0065】
皮下注射、腹腔内(IP)注射、筋肉内(IM)注射または静脈内(IV)注射により投与される、T2Dのための少なくとも2mg用量のDiaPep277が、T2D動物の血糖レベルを低下させるのに有効であることが、ここに初めて開示される。
【0066】
典型的には、皮下注射の場合、DiaPep277は、脂肪エマルジョンなどのアジュバントと共に配合され、IPおよびIVの注射経路は、アジュバントを含まないが、本発明によれば他の配合および計画が可能である。典型的にはアジュバントを含まないDiaPep277が、100mg以上の用量で経口(PO)投与されてもよい。投与頻度は、本発明の一部の実施形態によれば、1ヶ月に1回〜1ヶ月に4回である。
【0067】
hsp60由来ペプチドおよび類似体を含む医薬組成物が、本発明において、T2D合併症の予防、抑制または処置における使用のために、新規な配合および処置計画と共に開示される。そのような合併症としては、非限定的に、代謝症候群、脂肪肝、ニューロパチー、ネフロパチー、網膜症、心臓疾患、末梢血管疾患および癌が挙げられる。
【0068】
加えて、明白な自己免疫性成分を有さない患者およびT2Dの遺伝的素因を有する患者においてT2Dの発症を予防、または遅延するために、DiaPep277、ならびに他のhsp60由来ペプチドおよび類似体を用いることができることが、本明細書において初めて開示される。
【0069】
T2Dにおけるhsp60ペプチドおよびペプチド類似体の効能を評価するために、インビボ動物モデルが本発明により用いられる。これらの動物モデルは、レプチンに対して抵抗性のマウスの遺伝子修飾系統(dp/dpまたはob/obマウスなど)、またはその他の方法で健常なマウスに誘導された高脂肪食モデルを用いている。処置の効能は、耐糖能、空腹時血糖および空腹時インスリンレベルにより測定され、処置されたマウスは、対照動物よりも有意に低い血糖値、空腹時値を有し、耐糖能試験では絶食させる。
【0070】
用語および定義:
本明細書で用いられる本発明のペプチドの「機能的誘導体」は、当該技術分野で公知の手段により、残基またはN−もしくはC−末端基の側鎖として生じる官能基から調製され得る誘導体を含み、それらが依然として薬学的に許容可能な限り、即ちペプチドの活性を破壊せず、ペプチドを含む組成物に毒性を付与せず、その抗原性に有害な影響を及ぼさない限り、本発明に包含される。
【0071】
これらの誘導体は、例えばアンモニアまたは第一級もしくは第二級アミンとの反応により生成されたカルボキシル基の脂肪族エステル、そのカルボキシル基のアミド、アシル部分(例えば、アルカノイルまたは炭素環アロイル基)との反応により形成されたアミノ酸残基の遊離アミノ基のN−アシル誘導体、またはアシル部分との反応により形成された遊離ヒドロキシル基(例えば、セリルまたはトレオニル残基のもの)のO−アシル誘導体を含んでいてもよい。
【0072】
用語「類似体」は更に、1つ以上のアミノ酸変化を除き本発明に係るアミノ酸配列を有する分子を示す。本発明に係る類似体は、ペプチド模倣薬も含み得る。「ペプチド模倣薬」は、本発明に係るペプチドが少なくとも1つの非コード化残基または非ペプチド結合を含むように修飾されていることを意味する。そのような修飾としては、例えば1つ以上の残基のアルキル化、より具体的にはメチル化、天然アミノ酸の、非天然アミノ酸による挿入または置換、アミド結合の、他の共有結合での置換が挙げられる。本発明に係るペプチド模倣薬は場合により、尿素結合、カルバミン酸結合、スルホンアミド結合、ヒドラジン結合、または任意の他の共有結合など、アミド置換結合である少なくとも1つの結合を含み得る。適切な「類似体」の設計に、コンピュータの支援を借りてもよい。
【0073】
「効果的ペプチド」は、サイトカイン阻害または誘導などの所望の結果を実現するための活性を有する。あるいは効果的ペプチドは、特異的メディエーターの放出の誘導など、有益効果または治療効果を細胞にもたらす。つまり特定のペプチドまたは「類似体」を参照する場合、天然由来ペプチド配列、または天然由来配列と実質的に同じ活性を有するペプチドを含む。本発明の「効果的ペプチド」は、野生型または非修飾ペプチドと同じ活性を有する修飾ペプチド(保存的および非保存的の両方のアミノ酸置換を有する)も包含する。本発明により企図される本発明のペプチドの「塩」は、生理学的に許容可能な有機塩および無機塩である。
【0074】
本明細書および特許請求の範囲で用いられる語句「治療有効量」は、本明細書で開示された指示に関して所望の結果を実現するために宿主に投与するペプチドもしくはペプチド類似体またはそれを含む組成物の量を意味する。
【0075】
本発明で用いられるアミノ酸は、市販されるもの、または日常的な合成方法により入手可能なものである。特定の残基は、ペプチド内に組み入れるための特別な方法を必要とする場合があり、ペプチド配列の連続的、分岐的または収束的合成アプローチが、本発明において有用である。天然のコード化アミノ酸およびそれらの誘導体は、IUPAC命名法に従って3文字コードにより表される。指示が示されていなければ、L異性体が用いられている。D異性体は、残基の略語の前に「D」が示されている。
【0076】
当業者に公知のアミノ酸の保存的置換は、本発明の範囲内である。保存的アミノ酸置換としては、アミノ酸の、同じタイプの官能基または側鎖、例えば脂肪族、芳香族、正電荷、負電荷を有する別のアミノ酸での置換が挙げられる。これらの置換は、経口生物学的利用度、中枢神経系への透過性、特異的細胞集団への標的化などを高めることができる。当業者は、コード化配列内の単一アミノ酸または少しの割合のアミノ酸を変化、付加もしくは欠失させるペプチド、ポリペプチドもしくはタンパク質配列への個々の置換、欠失もしくは付加が、変化によってアミノ酸を化学的に類似のアミノ酸で置換させる「保存的に修飾された変異体」であることを認識している。機能的に類似したアミノ酸を示す保存的置換表は、当該技術分野で周知である。
【0077】
以下の6つの群はそれぞれ、互いに保存的置換である以下のアミノ酸を含む。
1)アラニン(A)、セリン(S)、トレオニン(T)
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q)
4)アルギニン(R)、リシン(K)
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V)
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)
【0078】
薬理学的性質
他の判断材料とは別に、本発明の新規な有効成分がペプチド、ペプチド類似体またはペプチド模倣薬であるという事実は、配合がこれらのタイプの化合物の送達に適することを必要とする。一般にペプチドは、胃酸または腸の酵素による消化を受け難いことから経口投与にあまり適さないが、本発明に係る組成物が経口投与にも適することが、ここに開示される。本発明に係る他の投与経路は、動脈内、静脈内、筋肉内、皮下、皮内、または髄腔内である。
【0079】
本発明の医薬組成物は、当業者に周知の過程、例えば従来の混合、溶解、造粒、摩砕、粉砕、糖衣錠製造(dragee−making)、水ひ、乳化、カプセル化、封入、凍結乾燥またはリポソーム捕捉過程(liposome capturing process)により製造してもよい。
【0080】
つまり、本発明により使用されるための医薬組成物は、活性化合物から薬学的に使用することができる調製剤への加工を容易にする賦形剤および助剤を含む1種以上の生理学的に許容可能な担体を用いて従来の手法で配合されてもよい。適切な配合は、選択された投与経路に依存する。
【0081】
注射の場合、本発明の化合物は、水溶液中で、好ましくはハンクス液、リンガー液、または生理学的食塩水の緩衝液などの生理学的に適合性のある緩衝液中で配合され得る。経粘膜投与の場合、浸透されるバリアに適する透過剤が、配合剤中で用いられる。そのような透過剤、例えばポリエチレングリコールは、当該技術分野で一般に公知である。
【0082】
糖衣錠コアには、適切なコーティングが施される。この目的で、濃縮糖溶液が用いられてもよく、それは場合によりアラビアガム、タルク、ポリビニルピロリドン、カルボポールゲル、ポリエチレングリコール、二酸化チタン、ラッカー溶液、および適切な有機溶媒または溶媒混合物を含んでいてもよい。同定のため、または活性化合物の用量の異なる組み合わせを特徴づけるために、染料または顔料が、錠剤または糖衣錠コーティングに添加されてもよい。
【0083】
経口で用いられる医薬組成物としては、ゼラチンで製造されたプッシュフィット式カプセル、ならびにゼラチンおよび可塑化剤、例えばグリセロールまたはソルビトールで製造された軟質の密閉カプセルが挙げられる。プッシュフィット式カプセルは、ラクトースなどの充填剤、デンプンなどの結合剤、タルクまたはステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤、場合により安定化剤との混合物中に有効成分を含んでいてもよい。軟カプセルにおいて、活性化合物は、脂肪油、液状パラフィン、または液状ポリエチレングリコールなどの適切な液体に溶解または懸濁されていてもよい。加えて安定化剤が、添加されていてもよい。経口投与用の配合剤は全て、選択された投与経路に適した投与量でなければならない。口腔投与の場合、組成物は、従来の手法で配合された錠剤またはトローチの形態であってもよい。
【0084】
吸入による投与の場合、本発明に係る使用のための変形例は、適切な高圧ガス、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタンまたは二酸化炭素を使用して、加圧パックまたはネブライザーからエアロゾルスプレーの操作で簡便に送達される。加圧されたエアロゾルの場合、投与単位は、計測された量を送達するためのバルブを提供することにより決定されてもよい。吸入器または注入器中で使用する、例えばゼラチンの、カプセルまたはカートリッジが、ペプチドと適切な粉末ベース、例えばラクトースまたはデンプンとの粉末混合物を含んで配合されていてもよい
【0085】
非経口投与用の医薬組成物は、水溶性形態の有効成分の水溶液を含む。加えて活性化合物の懸濁液が、適切な油性注射用懸濁液として調製されてもよい。適切な天然または合成担体は、当該技術分野で周知である(Pillai et al.,Curr.Opin.Chem.Biol.5,447,2001)。場合により懸濁液は、化合物の溶解度を上昇させる適切な安定化剤または薬剤を含み、高度濃縮溶液の調製を可能にしてもよい。あるいは有効成分が、使用前に適切なベヒクル、例えば滅菌パイロジェンフリー水で再構成される、粉末形状であってもよい。
【0086】
本発明の化合物は、例えばココアバターまたは他のグリセリドなどの従来の坐剤ベースを用いて、坐剤または停留浣腸などの直腸用組成物中に配合されてもよい。
【0087】
本発明に関連した使用に適する医薬組成物は、意図する目的を実現するのに効果的な量で有効成分が含まれる組成物を包含する。より具体的には治療有効量は、処置される対象の疾患の症状を予防、遅延、緩和または寛解するのに効果的な化合物量を意味する。治療有効量の決定は、当業者の能力の範囲内で十分に行われる。
【0088】
本明細書に記載された断片および類似体の毒性および治療有効性は、細胞培養物または実験動物において標準的医薬手順により、例えば表題化合物のIC50(50%阻害を与える濃度)およびLD50(被験動物の50%を死亡させる致死用量)を決定することにより、決定することができる。これらの細胞培養アッセイおよび動物試験から得られたデータは、ヒトにおいて使用するための投与量範囲を配合する際に用いることができる。投与量は、用いられる投与剤型および利用される投与経路に応じて変動してもよい。厳密な配合、投与経路および投与量は、患者の状態を考慮して個々の医師により選択することができる(例えば、Fingl,et al.,1975,”The Pharmacological Basis of Therapeutics”,Ch.1 p.1)。
【0089】
処置される状態の重症度および応答性に応じて、投与は、徐放性組成物の単回投与であってもよく、処置過程は、数日から数週間、または治癒が達成されるまで、または疾患状況の低減が実現されるまで、継続する。投与される組成物の量は、当然、処置される対象、苦痛の重度、投与の手法、処方する医師の判断、および全ての他の関連要因に依存する。
【0090】
本発明に係る特に好ましい一実施形態において、ペプチドは、(例えば、シロップ、カプセル、または錠剤として)経口投与される。
【0091】
特定の実施形態において、保護賦形剤の使用により、ペプチド送達が向上され得る。これは典型的には、ペプチドを、酸性加水分解もしくは酵素性加水分解に抵抗性にする組成物と複合体化することにより、またはポリペプチドをリポソームなどの適宜、抵抗性の担体中に包装することにより、遂行される。経口送達のためにポリペプチドを保護する試みが、発表された(例えば、米国特許第8,093,207号、同第7,666,446号および同第7,316,819号)。
【0092】
高い血清中半減期は、持続放出性タンパク質「包装」システムの使用により維持することができる。そのような持続放出性システムは、当業者に周知である。好ましい一実施形態において、タンパク質およびペプチド用のProLease生分解性ミクロスフェア送達システム(Tracy,1998,Biotechnol.Prog.14,108;Johnson et al.,1996,Nature Med.2,795;Herbert et al.,1998,Pharmaceut.Res.15,357)は、他の薬剤を含むまたは含まない乾燥配合剤として調合され得るポリマーマトリックス中にタンパク質を含む生分解性ポリマーミクロスフェアで構成された乾燥粉末である。
【0093】
前述の配合および投与方法は、例示であり限定ではない。本明細書に示された教示を利用して、他の適切な配合および投与様式を容易に発案し得ることが認識されよう。
【0094】
経口投与に適した本発明の配合剤は、風味ベース、通常はスクロースおよびアカシアおよびトラガカントの中にペプチドを含むカプセル、カシェ剤、錠剤、ロゼンジ;ゼラチンおよびグリセリン、またはスクロースとアカシアなどの不活性ベース中に有効成分を含む香錠;ならびに適切な液体担体中に有効成分を含むマウスウォッシュなどの個別単位として提供されてもよい。各配合剤は一般に、所定の量の活性ペプチドを、粉末もしくは顆粒として、またはシロップ、エリキシル、エマルジョンもしくは水薬などの水性もしくは非水性液中の溶液もしくは懸濁液として含む。
【0095】
錠剤は、場合により1種以上の補助成分と共に、圧縮または成形することにより生成されてもよい。圧縮された錠剤は、適切な機器で、粉末または顆粒などの自由流動性形態の活性ペプチドを、場合により結合剤(例えば、ポビドン、ゼラチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、滑沢剤、不活性希釈剤、防腐剤、崩壊剤(例えば、デンプングリコール酸ナトリウム、架橋されたポビドン、架橋されたカルボキシメチルセルロースナトリウム)、表面活性剤または分散剤と混合して、圧縮することにより調製されてもよい。成形された錠剤は、適切な機器で、不活性液体希釈剤で加湿された粉末ペプチドの混合物を成形することにより生成されてもよい。錠剤は場合により、コーティングするか、または刻み目を入れられてもよく、所望の放出プロファイルを提供するために、例えば様々な割合でヒドロキシプロピルメチルセルロースを用いて、内部の有効成分の遅延放出性または制御放出性を提供するように配合されてもよい。
【0096】
シロップは、糖、例えばスクロースの濃縮水溶液に活性ペプチドを添加することにより生成されてもよく、それに任意の必須成分が添加されてもよい。そのような補助成分としては、着香剤、糖の結晶化を遅延させる薬剤、または多価アルコール、例えばグリセロールまたはソルビトールなどの任意の他の成分の溶解度を上昇させる薬剤を挙げることができる。
【0097】
前述の成分に加えて、本発明の配合剤は、希釈剤、緩衝剤、着香剤、結合剤、表面活性剤、増粘剤、滑沢剤、防腐剤(抗酸化剤を含む)などから選択される1種以上の補助成分を更に含んでいてもよい。
【0098】
本発明の一部の実施形態によれば、hsp断片または類似体の治療有効量は、約0.02mg/kg〜約10mg/kgの範囲内の投与量である。好ましくは本発明に係るhsp断片または類似体の投与量は、約0.05mg/kg〜約2mg/kgの範囲内であり、より好ましくはhsp断片または類似体の投与量は、約0.1mg/kg〜約1mg/kgの範囲内である。最初に低投与量で投与され、続いて適切な応答に達するまで高投与量が投与され得るように、投与量を増加投与量にしてもよいことは、理解されよう。同じく、投与量の一部が各投与時に投与されるように、組成物の投与量が、処置期間の過程で複数回の投与で対象に投与されてもよい。
【0099】
デポ剤システム
静脈内(IV)、筋肉内(IM)、または皮下(SC)注射による非経口経路は、低分子量および高分子量薬用の送達の最も一般的で効果的な形態である。しかし、針刺しによる疼痛、不快感、および不便さのために、この薬物送達様式は、患者に最も好まれない方法である。それゆえ、少なくとも、注射の全回数を減少させることが可能な任意の薬物送達技術が、好ましい。実践における薬物投与回数のそのような減少は、緩やかであるが予測可能な手法で薬物を放出することが可能な注射用デポ配合剤の使用により実現され、結果的に服薬遵守を改善することができる。ほとんどの薬物の場合、用量に応じて、注射頻度を1日1回から1ヶ月またはより長期(6ヶ月)のうちに1もしくは2回に減少させることが可能となる場合がある。患者の快適さを改善することに加えて、デポ配合剤の形態の薬物の、より少ない頻度での注射が、血漿濃度−時間プロファイルの山と谷を無くして平滑化する。血漿プロファイルのそのような平滑化は、ほとんどの例で治療上の利益を増大させるだけでなく、高分子量薬に関連することの多い免疫原性などの任意の望まない事象を減少させる可能性を有する。
【0100】
微粒子、移植片およびゲルは、体内での薬物放出を延長するために実際に用いられる生体分解性ポリマーデバイスの最も一般的な形態である。微粒子は、注射の直前に水性媒体に懸濁され、懸濁液中に40%もの多量の固体を加えることができる。移植片/ロッド配合剤は、水性媒体を必要とせずに乾燥状態で特別な針の支援を借りてSC/IM組織に送達される。このロッド/移植片の特性により、より多量の配合剤および薬物量を送達させることができる。更に、ロッド/移植片において、移植片では微粒子に比較してかなり小さな面積であるため、初期バーストの問題が最小限に抑えられる。生分解性システムの他に、体外で装着され得る非生分解性移植片および輸注ポンプがある。非生分解性移植片は、デバイスをSC/IM組織に移植するためだけでなく、薬物放出期間の後に移植片を抜去するために、医者の診察を必要とする。
【0101】
微粒子調製物を含む注射用組成物は、問題を特に受け易い。微粒子懸濁液は、他のタイプの注射用懸濁液での0.5〜5%固体と比べ、40%もの多量の固体を含有し得る。更に注射用デポ剤製品中で用いられる微粒子は、IMまたはSC投与に推奨される5μm未満の粒子径と比較して、最大約250μm(平均60〜100μm)のサイズ範囲である。より高濃度の固体およびより大きな固体粒子径は、より大きな注射針サイズ(およそ18〜21ゲージ)を必要とする。総合的に言えば、より大きく不快な針の使用はまれであるが、患者は、小さな針での連日薬物注射よりも投与頻度の少ない投与剤型を好む。
【0102】
ポリ(乳酸)(PLA)およびポリ(ラクチド−co−グリコリド)(PLGA)と称されるラクチドとグリコリドとの共重合体である生分解性ポリエステルは、生分解性投与剤型で用いられる最も一般的なポリマーである。PLAは、疎水性分子であり、PLGAは、より親水性のグリコリド基の存在により、PLAよりも急速に分解する。これらの生体適合性ポリマーは、エステル結合の無作為で非酵素的な加水分解性切断を受けて、体内の正常な代謝化合物である乳酸およびグリコール酸を形成する。再吸収性縫合糸、クリップおよび移植片は、これらのポリマーの最も初期の適用例である。Southern Research Instituteは、1970年に最初の合成再吸収性縫合糸(Dexon(登録商標))を開発した。持続性放出投与形態のPLGAポリマーの使用を記載している最初の特許は、1973年に発表された(米国特許第3,773,919号)。
【0103】
今日、PLGAポリマーは、Alkermes(Medisorb polymers)、Absorbable Polymers International[正式にはBirmingham Polymers(Division of Durect)]、PuracおよびBoehringer Ingelheimの複数の供給業者から市販される。PLGAおよびPLAの他に、デンプン、デンプン誘導体、デキストランおよび非PLGA合成ポリマーなどの天然セルロース系ポリマーも、そのようなシステムにおいて生分解性ポリマーとして調査されている。
【0104】
以下の実施例は、本発明の化合物および方法をどのように生成および使用するかを例示するためのものであり、限定であると解釈すべきではない。本発明を具体的実施形態と共にここに記載するが、多くの改良および変更が当業者に明らかになることが明らかである。したがって、補正された特許請求の範囲の趣旨および広範囲に含まれるそのような改良および変更などの全てを包含するものとする。
【0105】
実施例
実施例1:T2Dのための実験動物モデル
遺伝的にT2Dを発症する傾向のあるマウス(dp/dpまたはob/ob系統、レプチン抵抗性)、および/または高脂肪食によりT2Dを発症するように誘導された健常なC57BL/6マウスをインビボで使用して、T2Dの防御または処置におけるhsp60ペプチドおよび類似体の活性を評価する。dp/dpモデルは、例えばDray et al.,Am.J.Physiol.Endocrinol Metab 2010,298,E1161−E1169に記載される。脂肪食モデルにおいて、摂餌(例えば、それぞれ21%および34.9%の脂肪を含有するHarlan(商標)のTD.0811、またはResearch Diets Inc.のD12492)を離乳後に開始し、マウスは10週齢までにT2Dを発現する。これらのT2Dの動物モデルおよび他の動物モデルは、SrinivasanおよびRamarao(Indian J Med Res 2007,125,451−472)により総括されている。
【0106】
典型的な試験では、T2Dマウスの群(1群あたり10匹)は、疾患過程の早期(約7〜10週齢)に処置される。陰性対照マウスは、健常マウスからなり、陽性対照マウスは、プラセボで処置されたT2Dである。
【0107】
DiaPep277または他のhsp60ペプチドまたは類似体での処置を、皮下(Intralipidなどのアジュバントを含む)、またはIP、IMもしくはIV(アジュバントを含まず)で注射された100〜500マイクログラム用量で1週間に1〜数回実施する。耐糖能、空腹時血糖および空腹時インスリンレベルを、処置発症後1〜2ヶ月間測定する。
【0108】
1つの具体的なインビボ試験において、雄C57BL/Nマウス 70匹を体重測定し、血糖レベルを測定して、以下の10匹/群の7群に分けた。
1.通常食、未処置
2.高脂肪(60%)食
3.高脂肪(60%)食+週1回のIntralipid SC
4.高脂肪(60%)食+処置あたり1回のIntralipid中のDiaPep277 100μg SC
5.高脂肪(60%)食+週1回のIntralipid中のDiaPep277 200μg SC
6.高脂肪(60%)食+週1回のIntralipid中のDiaPep277 500μg SC
7.高脂肪(60%)食+週3回のPBS中のDiaPep277 100μg IP
【0109】
第2〜7群の動物には、5週齢から試験終了までに60%脂肪食を与えた。空腹時血糖レベルは、週1回検査した。約16週後に、試験を終了して、ヘモグロビンA1CおよびC−ペプチドレベルを、当該技術分野で公知の方法を利用して測定した。
【0110】
動物の食欲および体重は、DiaPep277処置のいずれへの応答でも変動しなかったが(図1)、空腹時血糖レベルは、処置レジメンの一部に応答して低下することが実証された。血糖レベルの低下は、未処置群に対して、週3回のPBS中のDiaPep277 100μg IPでの処置群において特に有意であった(p=0.0178)。
【0111】
本発明を詳細に記載したが、当業者は、多くの変更および修正を行うことができることを認識するであろう。それゆえ本発明は、具体的に記載された実施形態を限定するものと解釈すべきではなく、むしろ本発明の範囲、趣旨および概念は、以下の特許請求の範囲を参照することでより容易に理解されよう。
図1
図2
【国際調査報告】