(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-509290(P2015-509290A)
(43)【公表日】2015年3月26日
(54)【発明の名称】ナトリウムドープ五元化合物半導体CZTSSeの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 31/0749 20120101AFI20150227BHJP
H01L 31/0216 20140101ALI20150227BHJP
H01L 31/18 20060101ALI20150227BHJP
【FI】
H01L31/06 460
H01L31/04 240
H01L31/04 440
H01L31/04 420
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2014-555268(P2014-555268)
(86)(22)【出願日】2013年4月25日
(85)【翻訳文提出日】2014年7月30日
(86)【国際出願番号】EP2013058670
(87)【国際公開番号】WO2013160421
(87)【国際公開日】20131031
(31)【優先権主張番号】12166090.6
(32)【優先日】2012年4月27日
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC
(71)【出願人】
【識別番号】512212885
【氏名又は名称】サン−ゴバン グラス フランス
【氏名又は名称原語表記】Saint−Gobain Glass France
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ローベアト レヒナー
(72)【発明者】
【氏名】ガウサム マノハラン
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン ヨースト
【テーマコード(参考)】
5F151
【Fターム(参考)】
5F151AA10
5F151CB14
5F151CB15
5F151CB20
5F151CB24
5F151DA20
5F151FA02
5F151FA06
5F151GA03
(57)【要約】
Cu
2ZnSn(S,Se)
4型化合物半導体を含む薄膜太陽電池の製造のための積層体の製造方法であって、該方法は、基板上にアルカリ金属の拡散を阻止するよう適合された材料からなるバリヤ層を堆積させるステップと、バリヤ層上に電極層を堆積させるステップと、電極層上に前駆体層を堆積させるステップと、前駆体層をアニールするステップと、単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物を、(i)前駆体層のアニールの前に、前駆体層上および/または電極層上に、(ii)前駆体層のアニールの間に、前駆体層上に、および/あるいは、(iii)前駆体層のアニールの後に、前駆体層上に、堆積させるステップとを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu2ZnSn(S,Se)4型化合物半導体(6)を含む薄膜太陽電池(1)の製造のための積層体(3)の製造方法であって、
−基板(2)を用意するステップと、
−前記基板(2)上にアルカリ金属の拡散を阻止するよう適合された材料からなるバリヤ層(4)を堆積させるステップと、
−前記バリヤ層(4)上に電極層(5)を堆積させるステップと、
−銅、亜鉛およびスズの金属を含む第1前駆体層を堆積させるステップと、
−硫黄およびセレンから選択される少なくとも1種のカルコゲンを含む第2前駆体層を前記第1前駆体層上に堆積させるステップと、
−前記化合物半導体(6)を結晶化させるために、前記第1および前記第2前駆体層をアニールするステップと、
−前記第1および前記第2前駆体層のアニールの間に、少なくとも1種の処理ガスを供給するステップと、但し、
(i)前記第2前駆体層中に硫黄またはセレンの一方が含まれている場合、他方のカルコゲンおよび/または他方のカルコゲンを含む化合物が前記処理ガスに含まれており、あるいは、
(ii)前記第2前駆体層中に硫黄およびセレンの両方が含まれている場合、硫黄および/もしくはセレン、および/または、硫黄を含む化合物および/もしくはセレンを含む化合物が前記処理ガス中に含まれており、
−単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物を、
(i)前記前駆体層のアニールの前に、前記前駆体層上および/または前記電極層上に、
(ii)前記前駆体層のアニールの間に、前記前駆体層上に、および/あるいは、
(iii)前記前駆体層のアニールの後に、前記前駆体層上に、
堆積させるステップと、
を含んでおり、
前記化合物半導体(6)の第2境界面(12)と、前記基板(2)から前記第2境界面(12)よりも離間した第1境界面(11)との間に、以下のナトリウム深さ分布のうちの1つ、すなわち、
(i)ナトリウム濃度が、前記第1境界面(11)で最大であり、前記第2境界面(12)に向かって連続的に低下して前記第2境界面(12)で最小となる、
(ii)ナトリウム濃度が、前記第1境界面(11)で最小であり、前記第2境界面(12)に向かって連続的に増大して前記第2境界面(12)で最大となる、
(iii)ナトリウム濃度が、前記第1境界面(11)で第1の極大を有し、前記第2境界面(12)に向かって低下して最小となり、前記第2境界面(12)に向かって増大して第2の極大を有する、
(iv)ナトリウム濃度が、前記第1境界面(11)で第1の極小を有し、前記第2境界面(12)に向かって増大して最大となり、前記第2境界面(12)に向かって低下して第2の極小を有する、
ナトリウム深さ分布のうちの1つが得られるように、前記化合物半導体(6)を形成し、
さらに、
前記化合物半導体(6)の前記第1境界面(11)と前記第2境界面(12)との間に、以下の硫黄深さ分布のうちの1つ、すなわち、
(i)硫黄濃度が、前記第1境界面(11)で最大であり、前記第2境界面(12)に向かって連続的に低下して前記第2境界面(12)で最小となる、
(ii)硫黄濃度が、前記第1境界面(11)で最小であり、前記第2境界面(12)に向かって連続的に増大して前記第2境界面(12)で最大となる、
(iii)硫黄濃度が、前記第1境界面(11)で第1の極大を有し、前記第2境界面(12)に向かって低下して最小となり、前記第2境界面(12)に向かって増大して第2の極大を有する、
(iv)硫黄濃度が、前記第1境界面(11)で第1の極小を有し、前記第2境界面(12)に向かって増大して最大となり、前記第2境界面(12)に向かって低下して第2の極小を有する、
硫黄深さ分布のうちの1つが得られるように、前記化合物半導体(6)を形成する、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記前駆体層のアニールの後に単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物を前記化合物半導体(6)上に堆積させるステップに続いて、前記化合物半導体(6)中のドーパントとしてのナトリウムの化学的活性化のために、前記化合物半導体(6)を熱処理するステップを行う、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記化合物半導体(6)中のドーパントとしてのナトリウムの化学的活性化のために前記化合物半導体(6)を熱処理するステップを、前記化合物半導体(6)を結晶化するための前記前駆体層のアニールのための温度よりも低い温度に前記化合物半導体(6)を加熱することにより行う、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記化合物半導体(6)中のドーパントとしてのナトリウムの化学的活性化のために、前記化合物半導体を、100℃乃至400℃、有利には100℃乃至300℃、さらに有利には100℃乃至200℃の温度に加熱する、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記前駆体層のアニールの後に単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物を前記化合物半導体(6)上に堆積させ、この際、前記前駆体層のアニールによって、前記化合物半導体(6)は前記化合物半導体(6)中のドーパントとしてのナトリウムの化学的活性化のために十分な高さの温度を有する、請求項1から4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物の堆積を開始する際、前記化合物半導体は、100℃乃至400℃、有利には100℃乃至300℃、さらに有利には100℃乃至200℃の温度を有する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
気体ナトリウムおよび/または気体のナトリウム含有化合物を、少なくとも1種の原料物質の熱蒸発によって生成し、前記前駆体層のアニールの間に反応ガスとして供給する、請求項1から6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記化合物半導体中のナトリウムの質量分率が、前記化合物半導体(6)に含まれる金属の銅、亜鉛およびスズの質量分率に対して、0.01%乃至0.5%であるように前記化合物半導体(6)を形成する、請求項1から7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記硫黄深さ分布にわたる硫黄濃度の相対変化が10%以上となるように前記化合物半導体(6)を形成する、請求項1から8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記硫黄深さ分布が、前記ナトリウム深さ分布に特に適合しているように前記化合物半導体(6)を形成する、請求項1から9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
−以下のナトリウム深さ分布、すなわち、ナトリウム濃度が前記第1境界面(11)で第1の極大を有し、前記第2境界面(12)に向かって低下して最小となり、前記第2境界面(12)に向かって増大して第2の極大を有するナトリウム深さ分布が得られるように、かつ、
−以下の硫黄深さ分布、すなわち、硫黄濃度が第1境界面(11)で第1の極大を有し、前記第2境界面(12)に向かって低下して最小となり、前記第2境界面(12)に向かって増大して第2の極大を有する硫黄深さ分布が得られるように、
前記化合物半導体を形成する、請求項10記載の方法。
【請求項12】
単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物を前記電極層上に堆積させるステップと、単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物を前記前駆体層上に堆積させるステップと、を含む、請求項1から11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか1項記載の方法を含む、薄膜太陽電池(1)の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜太陽電池の製造の分野におけるものであり、詳細には、CZTSSe型のナトリウムドープ五元(pentanary)化合物半導体からなる吸収体を含む薄膜太陽電池を製造するための積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光を電気エネルギーに変換する太陽電池の使用の増大が見られている。比較的高い変換効率とコスト効率的な製造処理のため、薄膜太陽電池には特別な関心が寄せられている。薄膜太陽電池は、数ミクロンの薄さの機能層を有し、すなわち、十分な機械的安定性を実現するため、ガラスプレート、金属プレートまたはプラスチック箔などの基板を必要とする。
【0003】
Cu(In,Ga)(S,Se)
2型の多結晶化合物半導体ベースの薄膜太陽電池は、加工性および変換効率に関して有利であることがわかっている。製造コストをさらに低減するため、そして、用いる材料の長期可用性の観点から、Cu(In,Ga)(S,Se)
2ベースの化合物半導体の代替物を見つけるために大きな努力がなされている。最近、有望な代替物が、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)、硫黄(S)およびセレン(Se)からなるCu
2ZnSn(S,Se)
4型の五元化合物(通常「CZTSSe」と略される)において見いだされている。可視光において、CZTSSeベースの半導体薄膜は、典型的には、10
4cm
−1程度の吸収係数を有し、約1.5eVの直接バンドギャップを有している。
【0004】
通常、薄膜太陽電池の光吸収材料の特定の性質が、光変換効率に関して決定的である。吸収体を製造するための2つの異なる方法が広く受け容れられている。一つの方法は、高温の基板上への単体物質の共蒸着である。もう1つの方法は、低温の基板上に前駆体材料を連続的に堆積させ、その後、アニール処理(RTP(高速温度処理)=Rapid Thermal Processing)を行って前駆体材料を化合物半導体に結晶化させるものである。このような方法は、たとえば、J. Palm et al., "CIS module pilot processing applying concurrent rapid selenization and sulfurization of large area thin film precursors", Thin Solid Films 431-432, S. 414-522 (2003)に記載されている。
【0005】
US特許出願公開2007/0193623A1には、CIGSからなる光吸収材料を含む太陽電池の背面電極上にナトリウムを堆積させることが開示されている。これにはさらに、溶液として塗布された光吸収材料の熱処理の間のナトリウムの供給、および、冷却された基板上への光吸収材料の熱処理後のナトリウムの堆積が開示されている。
【0006】
ドイツ国特許DE4442824C1には、太陽電池の背面電極上へのナトリウムの堆積と、CIGSからなる光吸収材料の前駆体材料とナトリウムの共スパッタリングが記載されている。
【0007】
国際特許出願公開WO2011/090728A2には、ナトリウムと光吸収材料との共蒸着が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】"CIS module pilot processing applying concurrent rapid selenization and sulfurization of large area thin film precursors", Thin Solid Films 431-432, S. 414-522 (2003)
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】US2007/0193623A1
【特許文献2】DE4442824C1
【特許文献3】WO2011/090728A2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記を鑑みて、本発明の課題は、薄膜太陽電池の光変換効率の改善に容易に用いることができる薄膜太陽電池を製造するための積層体を製造するための新規な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記および他の課題は、独立請求項に記載の方法によって解決される。本発明の好ましい実施形態は、従属請求項に記載されている。
【0012】
本明細書中、「基板」の語は、2つの対向する面を有し、その一方の面上に層の並びが堆積可能なすべての平面体をいう。この語の意味での基板には、硬質または軟質の基板、たとえば、ガラスプレート、金属シート、プラスチックシート、プラスチック箔が挙げられるが、これらのものに限られない。「化合物半導体」の語は、複数種の金属からなる半導体材料(合金)、および、相互に結晶化して化合物半導体が得られるカルコゲン(前駆体材料)をいう。したがって、前駆体材料とは、結晶化によって化合物半導体を得る物質である。「前駆体層」の語は、少なくとも1種の前駆体材料からなる層をいう。「並び」の語は、複数層の積層された配置をいう。さらに、本明細書中に用いられるとき、物理蒸着法(PVD法)の語は、固体または液体材料がエネルギー供給によって気相に変化し、次いで、表面上で凝縮する方法をいう。本明細書中で用いられるとき、「第1境界面」および「第2境界面」とは、化合物半導体の2つの境界面をいい、第1境界面は、第2境界面よりも基板からより離間している。したがって、第1境界面は、第2境界面よりも、積層体および太陽電池の表面により近い。
【0013】
本発明によれば、化合物半導体からなる吸収体を有する薄膜太陽電池を製造するための積層体を製造するための新規な方法が提供される。
【0014】
一実施形態では、請求項にかかる方法は、Cu
2ZnSn(S,Se)
4型(CZTSSeと略す)化合物半導体を含む薄膜太陽電池の製造のための積層体の製造方法に関する。したがって、化合物半導体は銅(Cu)、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)、硫黄(S)およびセレン(Se)を含む。化合物半導体Cu
2ZnSn(S,Se)
4は、Cu/(Zn+Sn)<1かつZn/Sn>1を意味する、オフストイキオメトリックな挙動を示しうる。Cu/(Zn+Sn)の値は、たとえば、0.4から1の範囲であり、Zn/Snは、たとえば、0.5から2.0の範囲である。
【0015】
一実施形態では、本方法は、基板を用意するステップを含む。
【0016】
一実施形態では、本方法は、基板上にアルカリ金属、特にナトリウムイオンの拡散を阻止するよう適合された材料からなるバリヤ層を堆積させるステップを含む。
【0017】
一実施形態では、本方法は、導電性材料からなる、バリヤ層上に電極層を堆積させるステップを含む。したがって、アルカリ金属、特に、ナトリウムイオンの、基板と電極層との間の拡散は、バリヤ層によって阻止される。
【0018】
一実施形態では、本方法は、それぞれが化合物半導体の少なくとも1種の前駆体材料からなる複数の前駆体層を電極層上に堆積させ、さらに、化合物半導体を結晶化させるために前駆体層をアニール(熱処理)するステップ(アニール処理)を含む。
【0019】
一実施形態では、前駆体層を堆積させる上記ステップは、
−銅、亜鉛およびスズの金属を含む第1前駆体層を堆積させるステップと、
−硫黄およびセレンから選択される少なくとも1種のカルコゲンを含む第2前駆体層を第1前駆体層上に堆積させるステップと、
−第1および第2前駆体層のアニール(熱処理)の間に、少なくとも1種の処理ガスを供給するステップと、を含み、但し、
(i)第2前駆体層中に硫黄または(代替的に)セレンの一方が含まれている場合、他方のカルコゲンおよび/または他方のカルコゲンを含む化合物が処理ガスに含まれており、あるいは、
(ii)硫黄およびセレンの両方が第2前駆体層中に含まれている場合、硫黄および/もしくはセレン、および/または、硫黄を含む化合物および/もしくはセレンを含む化合物が処理ガス中に含まれている。
【0020】
上述のように、2段階処理で前駆体材料を堆積させることにより、化合物半導体が容易に形成でき、化合物半導体は優れた電子特性を示す。さらに、硫黄深さ分布は高度に制御されたやり方で調整可能である。
【0021】
一実施形態では、本方法は、単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物を電極層上に堆積させるステップ、ならびに/あるいは、単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物を、前駆体層のアニールの前に、前駆体層上に堆積させるステップを含む。一実施形態では、たとえば、単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物は前記体層の上面上に堆積される。そうでなければ、一実施形態では、単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物は前駆体層の間に堆積される。
【0022】
一実施形態では、本方法は、単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物を、前駆体層のアニールの間に、前駆体層上に堆積させるステップを含む。好適には、一実施形態では、気体ナトリウムおよび/または気体ナトリウムを含有する化合物が、1種以上の原料材料の熱蒸発によって形成され、前駆体層のアニールの間に反応ガスとして供給される。結果として、特に純粋な半導体を高度に時間およびコストにおいて効率的なやり方で得ることができる。詳細には、ナトリウム溶液を吸収体材料上に塗布する既知の処理と異なり、吸収体材料への溶媒の導入を有利に避けることができる。さらに、すべての湿式化学処理は通常高コストである(たとえば、廃棄物の処理に関して)ため、太陽電池の製造コストは反応ガスとしてナトリウムの使用により、有利に低減できる。
【0023】
一実施形態では、本方法は、前駆体層のアニール処理の後に、単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物をすでに結晶化した化合物半導体上に堆積させるステップを含む。
【0024】
一実施形態では、化合物半導体の第2境界面と、基板から第2境界面よりも離間した第1境界面との間に、以下のナトリウム深さ分布のうちの1つ、すなわち、
(i)ナトリウム濃度が、第1境界面で最大であり、第2境界面に向かって連続的に低下し、第2境界面で最低となる、
(ii)ナトリウム濃度が、第1境界面で最小であり、第2境界面に向かって連続的に増大し、第2境界面で最大となり、
(iii)ナトリウム濃度が第1境界面で第1の極大を有し、第2境界面に向かって低下して最小となり、第2境界面に向かって増大して第2の極大を有する、
(iv)ナトリウム濃度が、第1境界面で第1の極小を有し、第2境界面に向かって増大して最大となり、第2境界面に向かって低下して第2の極小を有する、
ナトリウム深さ分布のうちの1つが得られるように、化合物半導体は形成される。
【0025】
したがって、化合物半導体は、ユーザの特定の需要に従って、種々の細かく、高度に制御されたナトリウム深さ分布を有し、その結果、所望の使用の場合に対して化合物半導体の電子特性を詳細に適合させることができる。
【0026】
一実施形態では、化合物半導体の第1境界面と第2境界面との間に、以下の硫黄深さ分布のうちの1つ、すなわち、
(i)硫黄濃度が、第1境界面で最大であり、第2境界面に向かって連続的に低下して第2境界面で最小となる、
(ii)硫黄濃度が、第1境界面で最小であり、第2境界面に向かって連続的に増大して第2境界面で最大となる、
(iii)硫黄濃度が、第1境界面で第1の極大を有し、第2境界面に向かって低下して最小となり、第2境界面に向かって増大して第2の極大を有する、
(iv)硫黄濃度が、第1境界面で第1の極小を有し、第2境界面に向かって増大して最大となり、第2境界面に向かって低下して第2の極小を有する、
硫黄深さ分布のうちの1つが得られるように、化合物半導体は形成される。
【0027】
したがって、化合物半導体は、ユーザの特定の需要に応じた、種々の細かく、高度に制御された硫黄深さ分布を有し、その結果、所望の使用の場合に対して化合物半導体の電子特性を詳細に適合させることができる。
【0028】
本明細書中に記載された五元半導体CZTSSeにおいて、半導体の深さ方向の硫黄濃度の変化は、半導体の厚さ方向のバンドギャップの変化を意味する。したがって、CZTSSeにおけるセレンおよび硫黄を変えることにより、CZTSSe薄膜におけるバンドギャップ厚さ分布を得ることができる。結果として、化合物半導体の電子特性を所望の使用に詳細に適合させることができる。
【0029】
一実施形態では、化合物半導体は、硫黄深さ分布にわたる硫黄濃度の相対変化が10%以上となるように形成される。結果として、製造された太陽電池の電力損失および光変換効率に関する好ましい効果を得るために、半導体の厚さ方向の比較的大きなバンドギャップの差が実現できる。
【0030】
一般的に、上述のナトリウム分布(i)〜(iv)のいずれかを、製造された太陽電池の光変換効率を最適化するため、上述の硫黄分布(i)〜(iv)のいずれかと組み合わせることができる。したがって、化合物半導体が上述の硫黄深さ分布(i)〜(iv)のいずれかを有する場合、ナトリウム深さ分布(i)〜(iv)のいずれかが存在しうる。
【0031】
一実施形態では、以下のナトリウム深さ分布すなわち、ナトリウム濃度が第1境界面で第1の極大値を有し、第2の境界面に向かって低下して最小となり、次いで、第2の境界面に向かって増大して第2の境界面において第2の極大値を有するナトリウム深さ分布を有し、かつ、以下の硫黄深さ分布、すなわち、硫黄濃度が第1の境界面で第1の極大値を有し、第2の境界面に向かって低下して最小となり、次いで第2の境界面に向かって増大して第2の境界面において第2の極大値を有する硫黄深さ分布を有するように、化合物半導体は形成される。
【0032】
したがって、2つの境界面の間に挟まれた半導体の内部領域におけるより低い硫黄濃度によってより低いバンドギャップとなることから、太陽電池の吸収率は、低エネルギー光も使用可能なことから、有利に向上する。すなわち、太陽電池の光変換効率が向上可能である。さらに、内部領域と比較して半導体の第1境界面においてより高い硫黄濃度であり、より高いバンドギャップとなることから、太陽電池の光変換効率がさらに向上するよう、太陽電池のオフロード電圧は有利に高められる。さらに、内部領域と比較して半導体の第2境界面においてより硫黄濃度が高く、より高いバンドギャップとなることから、電荷キャリアの再結合によって生じる太陽電池の不所望の電力損失は、有利に低減され、太陽電池の光変換効率がさらに向上される。したがって、この硫黄深さ分布は、太陽電池の特に高い光変換効率となる。
【0033】
さらに、第1境界面と第2境界面でより高いナトリウム濃度となることから、ナトリウムは結晶形成に好ましく影響しうるので、化合物半導体を、境界面において特に高い結晶品質を有して製造できる。結果として、太陽電池の光変換効率の向上に関する上述の物理効果は、硫黄深さ分布に類似したナトリウム深さ分布を有することによりさらに向上可能である。したがって、特に低い電力損失と高い光変換効率を有する太陽電池を有利に得ることができる。これは、2段階処理で形成されるCu
2ZnSn(S,Se)
4型化合物半導体からなる五元吸収体材料に特に当てはまり、この化合物半導体は硫黄およびナトリウムの深さ分布を正確に制御することにより優れた電子特性を示す。したがって、ナトリウムおよび硫黄の深さ分布の上述の相乗効果はCu
2ZnSn(S,Se)
4型五元吸収体材料でもって得られる。
【0034】
このようなナトリウム深さ分布を得るため、一実施形態では、本方法は、単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物を電極層上に堆積させるステップと、たとえば前駆体層のアニールの前に、単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物を前駆体層上に堆積させるステップとを含む。結果として、第1および第2境界面でのナトリウム濃度を化合物半導体の内部領域に対して容易に高めることができ、この際、所望のナトリウムおよび硫黄の深さ分布が高コストかつ時間のかかるやり方で形成される。
【0035】
従って、本発明の方法によれば、光の電気エネルギーへの変換に関する向上された効率を有する薄膜太陽電池の形成が可能となる。ドーパントナトリウムは前駆体材料のアニール処理の前および/または間および/または後で容易に堆積可能である。より詳細には、ドーパントナトリウムは、アニール処理の前にのみ、または、アニール処理の間にのみ、または、アニール処理の後にのみ、または、アニール処理の前と間に、または、アニール処理の前および後に、または、アニール処理の前、間および後に、堆積されうる。用いられる特定の堆積処理によって、化合物半導体の専用のナトリウム深さ分布が容易に得られ、ユーザの需要に対して化合物半導体の電子特性を詳細に適合させることができる。
【0036】
一実施形態では、前駆体層のアニールの後に単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物を化合物半導体上に堆積させるステップに続いて、化合物半導体中のドーパントとしてのナトリウムの化学的活性化のために、化合物半導体を熱処理するステップを行う。したがって、太陽電池の光変換効率を容易に向上できる。
【0037】
好ましくは、一実施形態では、ドーパントの活性化のため、化合物半導体は、化合物半導体を結晶化させる前駆体材料のアニールのための前駆体層の加熱のための温度よりも低い温度に加熱される。一実施形態では、化合物半導体は、100℃乃至400℃の温度に加熱される。一実施形態では、化合物半導体は、100℃乃至300℃の温度に加熱される。一実施形態では、化合物半導体は、100℃乃至200℃の温度に加熱される。すなわち、太陽電池は高度にコスト効率的に製造可能であり、コスト効率は、温度が低いほど向上する。
【0038】
一実施形態では、前駆体層のアニールの後に単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物を化合物半導体上に堆積させる。詳細には、ナトリウムの堆積の間の前駆体層のアニールによって、化合物半導体が化合物半導体中のドーパントとしてのナトリウムの化学的活性化のために十分な高さの温度を未だ有するように、ナトリウムを堆積させる。一実施形態では、ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物の堆積を開始する際、化合物半導体は、100℃乃至400℃の温度を有する。一実施形態では、ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物の堆積を開始する際、化合物半導体は、100℃乃至300℃の温度を有する。一実施形態では、ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物の堆積を開始する際、化合物半導体は、100℃乃至200℃の温度を有する。
【0039】
すなわち、化合物半導体は、高度に時間およびコスト効率的にドープできる。好ましくは、結晶化した化合物半導体は、単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物の源を通され、アニール処理によって未だ高温の化合物半導体上に堆積され、特に高度にコストおよび時間効率的に単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物を容易に堆積させることができる。
【0040】
一実施形態では、特に高い変換効率を得るように、化合物半導体中のナトリウムの質量分率が、化合物半導体に含まれる金属の銅、亜鉛およびスズの質量分率に対して、0.01%乃至0.5%であるように化合物半導体が形成される。
【0041】
本発明にかかる、薄膜太陽電池の製造のための積層体を製造するための方法の上述の種々の実施形態は、本発明の範囲を逸脱すること無く、単独でまたは組み合わせて用いることができる。
【0042】
本発明は、さらに、積層体を製造するための上述の方法を含む、薄膜太陽電池の製造方法に関する。
【0043】
本発明の、他のおよびさらなる課題、特徴および利点は、以下の詳細な説明からより十分に明らかとなる。添付図面は、本発明の好ましい実施形態を示しており、上述の概略的記載および以下に示される詳細な説明とともに、本発明の基礎を説明するために用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】本発明の例示的実施形態にかかる薄膜太陽電池の概略断面図である。
【
図2】
図1の薄膜太陽電池の光変換効率に対するドーパントナトリウムの影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明を現在実施可能な特定の実施形態が例示されている。まず、本発明の例示的実施形態にかかる封入された薄膜太陽電池の断面図を示す
図1が参照される。
【0046】
全体として参照番号1で示されている薄膜太陽電池は、ラミネートされたガラス構造を示している。すなわち、これは、無機ガラスやプラスチック(ポリマー)など(但しこれらのものに限定されない)の電気絶縁材料からなる底面側基板2を有する。詳細には、基板2は、ユーザの特定の需要に応じて、硬いプレートまたは弾性の箔として構成されていても良い。本実施形態では、基板2は、比較的低い光透過性を有するソーダ石灰ガラス(SLG)からなる硬いガラスプレートである。基板2は、たとえば、1乃至5mm、有利には、2乃至3mmの厚さを有する。本実施形態では、SLGからなる基板2は、2.1mmの厚さを有し、太陽電池1としての使用に十分な安定性と硬さを提供する。
【0047】
太陽電池1において、基板2には、基板2の光入射側に、互いの上に積層された種々の層からなる積層体3が設けられている。詳細には、積層体3は、基板2上に堆積されたバリヤ層4を有し、バリヤ層は、シリコン窒化物(Si
3N
4)、シリコン酸窒化物(SiON)、シリコンオキシカーバイド(SiOC)、シリコンカルボニトリル(SiCN)および酸化アルミニウム(Al
2O
3)など(但しこれらのものに限定されない)の、アルカリ金属、特にナトリウム(イオン)の拡散を阻止するよう構成された材料からなる。より詳細には、バリヤ層は、たとえば、アルカリ金属(特にナトリウム)の拡散を、バリヤ層4が無い場合と比較して、1%未満に低減するよう適合されている。バリヤ層4は、物理蒸着法(PVD)、たとえば、熱蒸発と陰極スパッタリング(但しこれに限定されない)によって基板2上に堆積されている。本実施形態では、バリヤ層4は、たとえば、140nmの層厚さを有し、ナトリウムイオンの拡散を少なくともほぼ完全に阻止する。
【0048】
積層体3は、さらに、PVD法、たとえば、熱蒸発と陰極スパッタリング(これに限定されない)によりバリヤ層4上に堆積された背面電極層5を有する。背面電極層5は、導電性材料、典型的には、不透明材料、たとえば、モリブデン(Mo)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、チタン(Ti)(但しこれらのものに限定されない)からなり、このような金属、例えばモリブデン(Mo)を含む多層構造からなる。背面電極層5は、たとえば、300nm乃至600nmの層厚さを有する。本実施形態では、背面電極層5は、Moからなり、450nmの層厚さを有する。背面電極層5は、太陽電池1の背面電極として機能する。
【0049】
図1を引き続いて参照して、太陽電池1の積層体3は、さらに、背面電極層5上に堆積された、太陽電池1の光吸収材料または光吸収体として機能する化合物半導体6を含む。すなわち、化合物半導体6は、光を電気エネルギーに変換するよう構成されており、たとえば、Cu
2ZnSn(S,Se)
4型のナトリウムドープ化合物半導体である(但しこれに限定されない)。「Cu
2ZnSn(S,Se)
4」の表現は、カルコゲンの硫黄(S)およびセレン(Se)が化合物半導体6中に共に存在することを意味している。化合物半導体6は、たとえば、0.5μm乃至5μmの層厚さを有する。本実施形態では、化合物半導体6は、ナトリウムドープCu
2ZnSn(S,Se)
4からなり、1乃至2μmの層厚さを有する。
【0050】
太陽電池1において、化合物半導体6は、熱アニール処理(RTP)が行われて化合物半導体に結晶化される前駆体材料から形成される。導入部において説明したように、このような方法は当業者にはよく知られている。
【0051】
詳細には、太陽電池1において、化合物半導体6の前駆体材料は、2段階の堆積処理で堆積される。より詳細には、第1の堆積段階では、金属からなる第1前駆体層(図示せず)が背面電極層5上に堆積される。本実施形態では、第1の堆積段階では、金属の銅(Cu)、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)を含む第1前駆体層が背面電極層5上に堆積される。以下のPVD法の少なくとも1つを前駆体金属の堆積に用いることができる:
−前駆体金属であるCu、Zn、Snを単体形態で含む単体ターゲットからのこれらの金属のスパッタリング;
−前駆体金属であるCu、Zn、Snの二元または三元合金、たとえば、Cu−Sn、Cu−Zn、Zn−SnもしくはCu−Zn−Snおよび/またはこれらの組み合わせを含む二元または三元合金ターゲットからのこれらの金属のスパッタリング;
−前駆体金属であるCu、Zn、Snが単体形態で含まれている源(単体源)からのこれらの金属の熱蒸発、電子ビーム蒸発および/またはレーザアブレーション;
−前駆体金属であるCu、Zn、Snの二元または三元合金、たとえば、Cu−Sn、Cu−Zn、Zn−SnもしくはCu−Zn−Snおよび/またはこれらの組み合わせを含む源からのこれらの金属の熱蒸発、電子ビーム蒸発および/またはレーザアブレーション。
【0052】
任意選択的に、化合物半導体のストイキオメトリに詳細に適合させるために、単体源からの付加的な堆積を用いることができる。
【0053】
詳細には、単体ターゲットまたは単体源から前駆体金属を堆積させる場合、上記第1前駆体層は、各層が1種の単体金属、たとえば、金属のCu、ZnまたはSnのいずれかからなる、単一の金属層の並びからなる。たとえば、第1前駆体層は、Cu/Zn/Snの並びで堆積された、3つの単一層からなる。ユーザの特定の需要に応じて任意の他の単一層の並びが可能であることは当業者には理解されるであろう。好ましい一実施形態では、それぞれが3つの単一層からなる、このような複数の並びが繰り返して(連続的に)堆積されて、その結果、第1前駆体層は、各並びが3つの単一金属層からなる、n個(たとえばn=2乃至20)の同様のまたは異なる単一層の並びからなる。
【0054】
そうでなく、合金ターゲットまたは合金源から前駆体金属を堆積させる場合、上記第1前駆体層は、それぞれが金属Cu/Zn/Snの二元または三元合金からなる1つまたは複数の単一金属層からなる。単体ターゲットまたは単体源から前駆体金属をさらに堆積させる場合、1つまたは複数の単一の層は単体のCu、ZnまたはSnを含んで良い。単一層は好適には、それぞれが、金属Cu/Zn/Snの二元または三元合金、および、(任意選択的)単体のCu、Zn−Snからなる、予め定められた並びで堆積される。好ましい一実施形態では、複数のこのような並びが、繰り返して(連続的に)堆積され、その結果、第1前駆体層は、単一金属層の同様のまたは異なるn個(たとえばn=2乃至20)の並びの積層体から構成される。
【0055】
2段階堆積処理の第2の堆積段階では、少なくとも1種のカルコゲンを含む第2の前駆体層(図示せず)が、第1前駆体層上に堆積される。本実施形態では、第2の堆積段階で、硫黄(S)および/またはセレン(S)を含む第2前駆体層が第1前駆体層上に堆積される。1種以上のカルコゲンが金属を含まずにまたは二元ないしは三元合金を含まずに堆積される。硫黄(S)および/またはセレン(Se)を堆積させる際、基板2は、カルコゲンと第1前駆体層の金属とが部分的に反応することを防ぐために、100℃未満の温度を有することが好ましい。
【0056】
カルコゲンの堆積に、1つ以上の以下のPVD法を用いることができる:
−単体の形態のカルコゲンSおよび/またはSeを含む単体ターゲットからのカルコゲンのスパッタリング;
−カルコゲンSまたはSeを単体でまたは組み合わせで含む源からのカルコゲンの熱蒸発。
【0057】
第1および第2前駆体層は共に1つの前駆体層積層体を形成する。一実施形態では、このような前駆体積層体は、繰り返し積層され(複数の並び)、これは、得られる化合物半導体中の硫黄深さ分布および/または結晶化の観点から好ましい。
【0058】
続いて、第1および第2前駆体層、すなわち、前駆体層積層体は、金属Cu、Zn、SnとSおよび/またはSeを五元化合物半導体CZTSSeに反応によって変えるために、熱処理(RTP)される。詳細には、一実施形態では、前駆体材料の熱処理(アニール)の間、五元化合物半導体CZTSSeを得るために、残留するカルコゲン(SまたはSe)を少なくとも含む少なくとも1種の処理ガスが、層積層体3に供給される。詳細には、硫黄および/またはセレンおよび/または硫化水素(H
2S)および/または水素化セレン(H
2Se)あるいはこれらの組み合わせが制御されて処理領域に供給される。熱処理の際、たとえば、各処理ガスは、予め定めた間隔の間供給され、この間隔はたとえば前駆体材料のアニールの期間以下である。そうでなければ、単位時間当たりに供給される処理ガスの量は、一定であるか、または、ユーザの特定の要求に従って変わる。特に、前駆体材料のアニールの間のカルコゲン含有雰囲気の特定の組成は、たとえば、一定であるか、または、ユーザの特定の需要に応じて変わる。
【0059】
化合物半導体を結晶化するための前駆体の高速熱処理は、通常以下を必要とする:
−数K/秒の範囲の高速な加熱速度、
−400℃超、好ましくは500℃超の最大温度、
−基板温度の高い均一性、
−前駆体材料の熱処理の間の、処理ガス中のカルコゲンの十分に高い分圧、
−処理ガスの制御された供給。
【0060】
前駆体材料の熱処理は好ましくは、前駆体材料の処理に使用可能な処理空間を減少させる処理ボックス内で行われる。詳細には、カルコゲンの分圧は、処理ボックスを用いて、容易に一定に維持することができる。処理ボックスの使用は、たとえば、DE102008022784A1において当業者に知られており、ここではさらに詳細に説明する必要は無い。
【0061】
五元化合物半導体CZTSSeを製造するため、前駆体材料の熱処理は、好ましくは、比率S/(Se+S)、すなわち、硫黄とセレン(S+Se)の濃度の合計に対する硫黄(S)の濃度の(予め)定められた深さ分布を得るため、基板温度、および、少なくとも1種の処理ガスの組成と分圧の制御された分布を用いて行われる。
【0062】
「硫黄深さ分布」の語は、積層体3の積層方向における吸収体6の第1境界面11から第2境界面12へと向かう、吸収体6の線寸法にわたる硫黄(S)の濃度と、比率S/(Se+S)の経過を示す。
【0063】
第1の態様では、熱処理は、硫黄深さ分布が第1境界面11から第2境界面12に向かって連続的に低下し、その結果、硫黄深さ分布が第1境界面11において最大となり、第2境界面において最小となるように行われる。
【0064】
第2の態様では、熱処理は、硫黄深さ分布が第1境界面11から第2境界面12に向かって連続的に増大し、その結果、硫黄深さ分布が第1境界面11で最小となり、第2境界面12で最大となるように行われる。
【0065】
第3の態様では、熱処理は、硫黄深さ分布が低下し次いで増大し、その結果、硫黄深さ分布が第1の境界面11において第1の極大値を有して第1境界面11と第2境界面12との間で最小値を有し、次いで、第2境界面12において第2の極大値を有するように行われる。
【0066】
第4の態様では、熱処理は、硫黄深さ分布が増大し次いで低下し、その結果、硫黄深さ分布が第1の境界面11において第1の極小値を有し、第1境界面11と第2境界面12との間で最大値を有し、第2境界面12において第2極小値を有するように行われる。
【0067】
太陽電池1において、吸収体6の五元化合物半導体CZTSSeは、ナトリウム(Na)でドープされている。このために、PVD法たとえば熱蒸発(但しこれに限られない)による前駆体材料の熱処理の前および/または間および/または後に、単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物が化合物半導体に供給される。化合物半導体6のドープにより、光の電気エネルギーへの変換効率は大きく向上される(
図2参照)。
【0068】
より詳細には、一実施形態では、1種以上の前駆体材料の熱蒸発により形成される気体ナトリウム(Na)および/または気体ナトリウム含有化合物が、前駆体材料の高速熱処理(RTP)の間、すなわち、アニール処理の間に、反応ガスとして供給される。原料材料は、たとえば、硫化ナトリウム(Na
2S)、フッ化ナトリウム(NaF)、Na含有金属ターゲットその他であってよい。したがって、気体ナトリウム(Na)または気体ナトリウム含有化合物は、気体に変えられ、次いで、前駆体材料上で凝縮し、CZTSSe型の化合物半導体に結晶化する。気体ナトリウム(Na)および/または気体ナトリウム含有化合物は前駆体の熱処理の際、予め定めた間隔で供給され、この期間は前駆体材料の熱処理の期間以下であってよい。そうでなければ、単位時間当たりに供給される処理ガス中の単体ナトリウムまたはナトリウム含有化合物の量は、一定であるか、または、ユーザの特定の需要に応じて変わる。
【0069】
一実施形態では、単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物は、化合物半導体6の結晶化のための前駆体材料の熱処理の後に供給される。一般に、すべてのPVD法、たとえば、スパッタリング、熱蒸発、電子ビーム蒸発および/またはレーザアブレーション(但しこれらのものに限られない)は、RTPの後に、結晶化した化合物半導体上に単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物を堆積させる。原料材料は、たとえば、硫化ナトリウム(Na
2S)、フッ化ナトリウム(NaF)、ナトリウム含有ターゲットなどであってよい。この実施形態の大きな利点は、ドーパントが結晶化後に添加されるため、化合物半導体の結晶化がドーパントナトリウム(Na)の影響を受けず、その結果、アニール処理において生じうるドーパントの悪影響が完全に避けられることである。
【0070】
RTP後の単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物の堆積は、高温のまたは低温の基板2上に行われる。より詳細には、単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物はアニール処理後のすでに冷却された低温の基板2上に堆積されても良い。この場合、アニール後の加熱ステップが、例えば、基板およびその上の積層体3を、化合物半導体の結晶化のための前駆体材料のアニールのための温度(たとえば>500℃)よりも低い温度(たとえば<200℃)に加熱することにより、化合物半導体上に堆積されたドーパントを化学的に活性化するために行われてもよい。
【0071】
代わりに、単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物は、熱アニール処理のためにまだ高温の、加熱された基板2上に堆積されても良い。詳細には、単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物は、アニール処理後の基板2の冷却段階の間に堆積される。この場合、化合物半導体上に堆積されたドーパントの化学的活性化は高温の基板2によってすでに実現可能であるため、太陽電池1の製造の時間およびコストを節約するため、アニール後の加熱ステップは省くことができる。
【0072】
(アニール処理後の)単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物のRTP後の堆積は、前駆体材料の熱処理の間の単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物の堆積と組み合わせることもできる。
【0073】
さらに、(アニール処理後の)前駆体材料のRTP後の単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物の堆積、および/または、アニール処理の間の前駆体材料のアニール処理の間のRTP後の単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物の堆積は、前駆体材料(金属およびカルコゲン)の堆積のための(2段階)堆積処理の一部として、前駆体材料のアニールの前の単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物の堆積と組み合わされても良い。一般に、任意のPVD法、たとえば、スパッタリング、熱蒸発、電子ビーム蒸発および/またはレーザアブレーション(但しこれらのものに限られない)を、RTP前の単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物の堆積に用いることができる。原料材料は、たとえば、硫化ナトリウム(Na
2S)、フッ化ナトリウム(NaF)および/またはナトリウム含有金属ターゲットなどである。単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物は、たとえば、背面電極層5、前駆体材料を含む第1前駆体層および/または前駆体カルコゲンを含む第2前駆体層上に堆積される。
【0074】
単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物の堆積は、好ましくは、比率Na/(Cu+Zn+Sn)、すなわち、銅(Cu)、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の合計濃度に対するナトリウム(Na)の濃度の(予め)定められた深さ分布が得られるように、制御して行われる。「ナトリウム深さ分布」の語は、積層体3の積層方向における化合物半導体6の第1境界面11から第2境界面12へと向かう、化合物半導体6の線寸法にわたる化合物半導体6中の、ナトリウム(Na)の濃度と、比率Na/(Cu+Zn+Sn)の経過を示す。
【0075】
第1の態様では、Naドープは、ナトリウム深さ分布が第1境界面11から第2境界面12に向かって連続的に低下し、ナトリウム深さ分布が第1境界面11で最大となり、第2境界面12で最小となるように行われる。
【0076】
第2の態様では、Naドープはナトリウム深さ分布が第1境界面11から第2境界面12に向かって連続的に増大し、ナトリウム深さ分布が第1境界面11で最小となり、第2境界面12で最大となるように行われる。
【0077】
第3の態様では、Naドープは、ナトリウム深さ分布が低下し、次いで増大し、ナトリウム深さ分布が第1境界面11で第1の極大値を有し、第1境界面11と第2境界面12との間で最小値を有し、第2境界面12で第2の極大値を有するように行われる。
【0078】
第4の態様では、Naドープは、ナトリウム深さ分布が増大し、次いで低下し、ナトリウム深さ分布が第1境界面11で第1の極小値を有し、第1の境界面11と第2境界面12との間で最大値を有し、第2境界面12で第2の極小値を有するように行われる。
【0079】
本明細書に記載される五元化合物半導体CZTSSeにおいて、半導体の深さにわたる硫黄濃度の変化は、厚さにわたるバンドギャップの変化を意味する。したがって、CZTSSeにおいてセレンおよび硫黄を変えることにより、CZTSSe薄膜においてバンドギャップ厚さ分布を実現することができる。上記のナトリウム深さ分布の任意の態様を、上記の硫黄分布の任意の態様と組み合わせることができる。これは、製造された太陽電池1の効率を最適化するために効率的に用いることができる。硫黄およびNaの分布は、最終製品において、たとえば、飛行時間二次イオン質量分析法によって検出できる。
【0080】
一実施形態では、本方法は、背面電極層5上に単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物を堆積させるステップと、たとえば前駆体層のアニールの前に、化合物半導体6の上に単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物を堆積させるステップとを有する。結果的に、化合物半導体6は、ナトリウム濃度が第1の境界面11で第1の極大となり、第2境界面12に向かって低下して最小となり、第2境界面12に向かって増大して、第2境界面12で第2の極大となるように形成される。これは、硫黄濃度が第1境界面11で第1の極大となり、第2境界面12に向かって低下して最小となり、第2境界面12に向かって増大し、第2境界面12で第2の極大となる硫黄深さ分布と組み合わされる。結果として、上記の硫黄深さ分布とナトリウム深さ分布とを組み合わせた2段階処理で五元化合物半導体を形成することにより、優れた光変換能力を有する太陽電池1が製造可能である。
【0081】
太陽電池1の積層体3は、まださらに、任意のPVD法、たとえば真空蒸着または陰極スパッタリング(但しこれらのものに限られない)によって化合物半導体上6上に堆積された少なくとも1つのバッファ層を有する。バッファ層7は、たとえば、任意選択的に純粋i−ZnOと組み合わされた、CdS,In
xS
y、(In,Ga,Al)
x(S,Se)
y、ZnS、Zn(O,S)、An(Mg,O)からなる。
【0082】
太陽電池1の積層体3は、またさらに、任意のPVD法、たとえば真空蒸着または陰極スパッタリング(但しこれらのものに限られない)によってバッファ上6上に堆積された前面電極層8を有する。前面電極層8は化合物半導体6によって電気エネルギーに変換される光(たとえば可視光)に対して透過性の導電性材料からなる。典型的には、前面電極層8は、金属酸化物(TCO=Transparent Conductive Oxide)たとえばアルミニウム(Al)ドープ酸化亜鉛(ZnO)、ホウ素(B)ドープ酸化亜鉛(ZnO)、または、ガリウム(Ga)ドープ酸化亜鉛(ZnO)からなる(但しこれらのものに限られない)。前面電極層8はたとえば、300乃至1500nmの層厚さを有する。本実施形態では、前面電極層8は、TCOからなり、500nmの層厚さを有する。前面電極層8は太陽電池1の前面電極として機能する。
【0083】
前面電極層8、バッファ層7および化合物半導体6は、ともにヘテロ接合、すなわち、反対電荷キャリアを含む複数層の並びを形成する。詳細には、バッファ層7は、半導体材料を前面電極層8に電気的に適合するために用いられる。
【0084】
積層体3を環境影響から保護するため、太陽電池1において、基板2は、たとえば吸収体6により変換される光(たとえば太陽光)に対して透過性となるように低濃度の鉄(Fe)を含むガラスからなるカバープレート10でラミネートされている。カバープレート10または前面ガラスは、たとえば、1乃至4mmの厚さを有する。
【0085】
前面電極層8上に堆積されたラミネート箔9は、基板2およびカバープレート10のラミネートのために用いられる。ラミネート箔9は、基板2およびカバープレート10の熱固定に適した材料、たとえば、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレンビニルアセテート(EVA)またはDNP(但しこれらのものに限られない)からなる。
【0086】
図1と関連して記載される、ドーパントナトリウムの薄膜太陽電池1の効率への影響を示す
図2を参照する。詳細には、
図2は、ドーパントとしてナトリウムを含むまたは含まないCu
2ZnSn(S,Se)
4型の吸収体6を含む太陽電池1の電池効率(%)または光変換効率を示す。すなわち、約6%以下の電池効率の大きな改善が、ナトリウムを用いて化合物半導体をドープすることにより実現可能である。この例では、銅、亜鉛およびスズ(Cu+Zn+Sn)の合計質量分率に対するナトリウムの質量分率は約0.1%であった。銅、亜鉛およびスズ(Cu+Zn+Sn)の合計質量/面積比は、約0.6mg/cm
2であった。銅、亜鉛およびスズ(Cu+Zn+Sn)の合計質量分率に対するナトリウムの質量分率を約0.12%とすることにより、同等の結果が得られる。銅、亜鉛およびスズ(Cu+Zn+Sn)の合計質量分率に対するナトリウムの質量分率が約0.14%の場合、4.6%の効率が得られた。
【0087】
上述のように、本発明は、光の電気エネルギーへの変換に関して向上された効率を有する太陽電池の製造のための新たな方法を提供するものである。詳細には、単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物が、前駆体材料の熱アニールの前および/または間および/または後に、供給される。
【0088】
本発明の他の特徴は、以下に記載されている。
【0089】
薄膜太陽電池の製造のための積層体の製造方法であって、該方法は、基板を用意するステップと、基板上にアルカリ金属の拡散を阻止するよう適合された材料からなるバリヤ層を堆積させるステップと、バリヤ層上に電極層を堆積させるステップと、電極層上に化合物半導体の複数の前駆体層を堆積させるステップと、化合物半導体を結晶化させるために、前駆体層をアニールするステップと、単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物を、(i)前駆体層のアニールの前に、前駆体層上および/または電極層上に、(ii)前駆体層のアニールの間に、前駆体層上に、および/または、(iii)前駆体層のアニールの後に、化合物半導体(6)上に堆積させるステップと、を含む。
【0090】
一実施形態では、前駆体層のアニール後の、化合物半導体上に単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物を堆積するステップに続いて、化合物半導体中のドーパントとしてのナトリウムの化学的活性化のために化合物半導体を熱処理するステップが行われる。
【0091】
一実施形態では、化合物半導体の熱処理は、化合物半導体を結晶化するための前駆体のアニールのための温度よりも低い温度に化合物半導体を加熱することにより行われる。
【0092】
一実施形態では、単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物は、前駆体層のアニールの後に化合物半導体上に堆積され、前駆体層のアニールの結果として、化合物半導体は、化合物半導体中のドーパントとしてのナトリウムを化学的に活性化するのに十分高い温度を有する。
【0093】
一実施形態では、化合物半導体の第2境界面と、基板から第2境界面よりも離間した第1境界面との間に、以下のナトリウム深さ分布のうちの1つ、すなわち、(i)ナトリウム濃度が、第1境界面で最大であり、第2境界面に向かって連続的に低下し、第2境界面で最低となる、(ii)ナトリウム濃度が、第1境界面で最小であり、第2境界面に向かって連続的に増大し、第2境界面で最大となり、(iii)ナトリウム濃度が第1境界面で第1の極大を有し、第2境界面に向かって低下して最小となり、第2境界面に向かって増大して第2の極大を有する、(iv)ナトリウム濃度が、第1境界面で第1の極小を有し、第2境界面に向かって増大して最大となり、第2境界面に向かって低下して第2の極小を有する、ナトリウム深さ分布のうちの1つが得られるように、化合物半導体を形成する。
【0094】
一実施形態では、本方法は、Cu
2ZnSn(S,Se)
4型の化合物半導体を含む薄膜太陽電池を製造するためのものであり、ここで、前駆体層を堆積するステップは、以下のステップ、すなわち、金属の銅、亜鉛およびスズを含む第1前駆体層を堆積するステップと;第1前駆体層上に硫黄およびセレンから選択される少なくとも1種のカルコゲンを含む第2前駆体層を堆積するステップと;第1前駆体層および第2前駆体層のアニールの間に少なくとも1種の処理ガスを供給するステップとを含み、但し、(i)第2前駆体層中に硫黄またはセレンのいずれか一方が含まれる場合、他方のカルコゲンおよび/または他方のカルコゲンを含む化合物が処理ガスに含まれ、または、(ii)第2前駆体層中に硫黄とセレンが含まれる場合、硫黄および/またはセレンおよび/または硫黄を含む化合物および/またはセレンを含む化合物が処理ガス中に含まれる。
【0095】
一実施形態では、化合物半導体中のナトリウムの質量分率が、化合物半導体に含まれる金属の銅、亜鉛およびスズの質量分率に対して、0.01%乃至0.5%であるように化合物半導体が形成される。
【0096】
一実施形態では、化合物半導体の第1境界面と第2境界面との間に、以下の硫黄深さ分布のうちの1つ、すなわち、(i)硫黄濃度が、第1境界面で最大であり、第2境界面に向かって連続的に低下して第2境界面で最小となる、(ii)硫黄濃度が、第1境界面で最小であり、第2境界面に向かって連続的に増大して第2境界面で最大となる、(iii)硫黄濃度が、第1境界面で第1の極大を有し、第2境界面に向かって低下して最小となり、第2境界面に向かって増大して第2の極大を有する、(iv)硫黄濃度が、第1境界面で第1の極小を有し、第2境界面に向かって増大して最大となり、第2境界面に向かって低下して第2の極小を有する、硫黄深さ分布のうちの1つが得られるように、化合物半導体が形成される。
【0097】
一実施形態では、硫黄深さ分布にわたる硫黄濃度の相対変化が10%以上となるように化合物半導体が形成される。
【0098】
一実施形態では、化合物半導体は、硫黄深さ分布がナトリウム深さ分布に特に適合するように形成される。
【0099】
薄膜太陽電池を製造するための積層体を製造するための方法の上述の種々の実施形態は、本発明の範囲を逸脱すること無く、単独でまたは組み合わせて用いることができる。
【0100】
本発明にかかる薄膜太陽電池を製造するための方法は、薄膜太陽電池を製造するための積層体を製造するための上述の方法を含む。
【0101】
例示的実施形態について上記では説明したが、これらの実施形態は例に過ぎず、本発明の範囲、適用可能性または構成をどのようにも限定するものではない。明らかに、本発明の多くの修正および変形が上述の実施形態に基づいてなしうる。したがって、添付の特許請求の範囲に記載の範囲内で、本発明は、詳細に記載されたよりも以外のやり方で実施可能である。
【符号の説明】
【0102】
1 太陽電池
2 基板
3 積層体
4 バリヤ層
5 背面電極層
6 化合物半導体
7 バッファ層
8 前面電極層
9 ラミネート箔
10 カバープレート
11 第1境界面
12 第2境界面
【手続補正書】
【提出日】2014年10月7日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu2ZnSn(S,Se)4型化合物半導体(6)を含む薄膜太陽電池(1)の製造のための積層体(3)の製造方法であって、
−基板(2)を用意するステップと、
−前記基板(2)上にアルカリ金属の拡散を阻止するよう適合された材料からなるバリヤ層(4)を堆積させるステップと、
−前記バリヤ層(4)上に電極層(5)を堆積させるステップと、
−銅、亜鉛およびスズの金属を含む第1前駆体層を堆積させるステップと、
−硫黄およびセレンから選択される少なくとも1種のカルコゲンを含む第2前駆体層を前記第1前駆体層上に堆積させるステップと、
−前記化合物半導体(6)を結晶化させるために、前記第1および前記第2前駆体層をアニールするステップと、
−前記第1および前記第2前駆体層のアニールの間に、少なくとも1種の処理ガスを供給するステップと、但し、
(i)前記第2前駆体層中に硫黄またはセレンの一方が含まれている場合、他方のカルコゲンおよび/または他方のカルコゲンを含む化合物が前記処理ガスに含まれており、あるいは、
(ii)前記第2前駆体層中に硫黄およびセレンの両方が含まれている場合、硫黄および/もしくはセレン、および/または、硫黄を含む化合物および/もしくはセレンを含む化合物が前記処理ガス中に含まれており、
−単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物を、
(i)前記第1および前記第2前駆体層のアニールの前に、前記第1および前記第2前駆体層上および/または前記電極層(5)上に、
(ii)前記第1および前記第2前駆体層のアニールの間に、前記第1および前記第2前駆体層上に、および/あるいは、
(iii)前記第1および前記第2前駆体層のアニールの後に、前記第1および前記第2前駆体層上に、
堆積させるステップと、
を含んでおり、
前記化合物半導体(6)の第2境界面(12)と、前記基板(2)から前記第2境界面(12)よりも離間した第1境界面(11)との間に、以下のナトリウム深さ分布のうちの1つ、すなわち、
(i)ナトリウム濃度が、前記第1境界面(11)で最大であり、前記第2境界面(12)に向かって連続的に低下して前記第2境界面(12)で最小となる、
(ii)ナトリウム濃度が、前記第1境界面(11)で最小であり、前記第2境界面(12)に向かって連続的に増大して前記第2境界面(12)で最大となる、
(iii)ナトリウム濃度が、前記第1境界面(11)で第1の極大を有し、前記第2境界面(12)に向かって低下して最小となり、前記第2境界面(12)に向かって増大して第2の極大を有する、
(iv)ナトリウム濃度が、前記第1境界面(11)で第1の極小を有し、前記第2境界面(12)に向かって増大して最大となり、前記第2境界面(12)に向かって低下して第2の極小を有する、
ナトリウム深さ分布のうちの1つが得られるように、前記化合物半導体(6)を形成し、
さらに、
前記化合物半導体(6)の前記第1境界面(11)と前記第2境界面(12)との間に、以下の硫黄深さ分布のうちの1つ、すなわち、
(i)硫黄濃度が、前記第1境界面(11)で最大であり、前記第2境界面(12)に向かって連続的に低下して前記第2境界面(12)で最小となる、
(ii)硫黄濃度が、前記第1境界面(11)で最小であり、前記第2境界面(12)に向かって連続的に増大して前記第2境界面(12)で最大となる、
(iii)硫黄濃度が、前記第1境界面(11)で第1の極大を有し、前記第2境界面(12)に向かって低下して最小となり、前記第2境界面(12)に向かって増大して第2の極大を有する、
(iv)硫黄濃度が、前記第1境界面(11)で第1の極小を有し、前記第2境界面(12)に向かって増大して最大となり、前記第2境界面(12)に向かって低下して第2の極小を有する、
硫黄深さ分布のうちの1つが得られるように、前記化合物半導体(6)を形成する、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第1および前記第2前駆体層のアニールの後に単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物を前記化合物半導体(6)上に堆積させるステップに続いて、前記化合物半導体(6)中のドーパントとしてのナトリウムの化学的活性化のために、前記化合物半導体(6)を熱処理するステップを行う、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記化合物半導体(6)中のドーパントとしてのナトリウムの化学的活性化のために前記化合物半導体(6)を熱処理するステップを、前記化合物半導体(6)を結晶化するための前記第1および前記第2前駆体層のアニールのための温度よりも低い温度に前記化合物半導体(6)を加熱することにより行う、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記化合物半導体(6)中のドーパントとしてのナトリウムの化学的活性化のために、前記化合物半導体(6)を、100℃乃至400℃の温度に加熱する、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記第1および前記第2前駆体層のアニールの後に単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物を前記化合物半導体(6)上に堆積させ、この際、前記第1および前記第2前駆体層のアニールによって、前記化合物半導体(6)は前記化合物半導体(6)中のドーパントとしてのナトリウムの化学的活性化のために十分な高さの温度を有する、請求項1から4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物の堆積を開始する際、前記化合物半導体(6)は、100℃乃至400℃の温度を有する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
気体ナトリウムおよび/または気体のナトリウム含有化合物を、少なくとも1種の原料物質の熱蒸発によって生成し、前記第1および前記第2前駆体層のアニールの間に反応ガスとして供給する、請求項1から6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記化合物半導体(6)中のナトリウムの質量分率が、前記化合物半導体(6)に含まれる金属の銅、亜鉛およびスズの質量分率に対して、0.01%乃至0.5%であるように前記化合物半導体(6)を形成する、請求項1から7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記硫黄深さ分布にわたる硫黄濃度の相対変化が10%以上となるように前記化合物半導体(6)を形成する、請求項1から8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記硫黄深さ分布が、前記ナトリウム深さ分布に特に適合しているように前記化合物半導体(6)を形成する、請求項1から9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
−以下のナトリウム深さ分布、すなわち、ナトリウム濃度が前記第1境界面(11)で第1の極大を有し、前記第2境界面(12)に向かって低下して最小となり、前記第2境界面(12)に向かって増大して第2の極大を有するナトリウム深さ分布が得られるように、かつ、
−以下の硫黄深さ分布、すなわち、硫黄濃度が第1境界面(11)で第1の極大を有し、前記第2境界面(12)に向かって低下して最小となり、前記第2境界面(12)に向かって増大して第2の極大を有する硫黄深さ分布が得られるように、
前記化合物半導体(6)を形成する、請求項10記載の方法。
【請求項12】
単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物を前記電極層(5)上に堆積させるステップと、単体ナトリウムおよび/またはナトリウム含有化合物を前記第1および前記第2前駆体層上に堆積させるステップと、を含む、請求項1から11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか1項記載の方法を含む、薄膜太陽電池(1)の製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【国際調査報告】