(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC
本発明は、分子生理学の分野に関する。具体的には、本発明は、呼吸器の急性炎症、特に急性肺損傷(ALI)または急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の予防および/または治療に関する。そのような状態を患っている患者およびそのような状態の動物モデルにおいては、CCL7レベルが増加することが示されている。CCL7および/またはPAR1−CCL7系の他のメンバー、またはCCL2のアンタゴニストを用いてこれらの状態を予防および/または治療することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
CCL7のブロッキング
本発明のCCL7アンタゴニストは、CCL7の機能をブロックする。CCL7のブロッキングは、その活性または機能における、ALI/ARDSの治療および/または予防に有利な効果をもたらす任意の減少を含む。
【0018】
典型的に、CCL7のブロッキングは、好中球増加の低減、好中球浸潤の低減、好中球蓄積の低減、および/または、肺内の、特に肺胞スペース内の、好中球の合計数の低減をもたらす。好ましくは、この低減は、好中球の遊走または好中球の化学走性を低減させるCCL7の阻害により仲介される。好中球の遊走は、Ly6G+好中球の数を定量化する分析により測定され得る。また、CCL7のブロッキングは、好中球がCXCL8などの古典的な化学誘引物質に応答する能力も低減し得る。
【0019】
ブロッキングは、CCL7の活性または機能の全体的および部分的の両方の低減を含み、例えば、CCL7/CCR1、CCL7/CCR2、CCL7/CCR3の相互作用の全体的または部分的な予防を含む。例えば、本発明のブロッキングアンタゴニストは、CCL7の活性を10〜50%、少なくとも50%、または少なくとも70%、80%、90%、95%または99%低減し得る。
【0020】
CCL7活性または機能のブロッキングは、任意の適切な方法で測定することができる。例えば、CCL7/CCR1、CCL7/CCR2、CCL7/CCR3の相互作用の阻害は、CCRのリン酸化、それらの関連するG結合タンパク質のリン酸化、または、ERK1またはERK2のリン酸化に対する効果を測定することにより判定することができる。CCR活性化もまた、Ca
2+動員により測定することができる。好中球の活性化もまた、例えば、好中球活性化の尺度としてのミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性、エラスターゼ、または、好中球活性化の尺度としてのマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP、例えばMMP1〜9のいずれか)の放出、形状変化アッセイ、または、好中球活性化の尺度としての活性酸素種(ROS)の放出により測定することができる。
【0021】
また、CCL7のブロッキングは、遊走または化学走性を測定する分析、例えば、Bowden chamberアッセイまたはChemoTXアッセイなどの、好中球の化学走性の分析を介して測定することができる。
【0022】
また、CCL7のブロッキングは、肺胞毛管バリアに対するCCL7の効果を測定する分析、例えば、気管支肺胞洗浄(BAL)液中の血清アルブミンのレベルを測定する分析を介して測定することができる。好ましくは、CCL7のブロッキングは、肺胞毛管バリアの崩壊を低減し、したがって、BAL液中の血清アルブミンのレベルを低下させる。
【0023】
ブロッキングは、例えば、用いられるアンタゴニストの特性(以下参照)、例えば、CCL7/CCR1、CCL7/CCR2、CCL7/CCR3の相互作用の直接的または間接的のいずれでの立体障害、またはCCL7発現のノックダウンに依存して、任意の適切なメカニズムを介して行われ得る。
【0024】
PAR1および/またはPAR1−CCL7系の他のメンバーのブロッキング
PAR
1および/またはPAR
1−CCL7系の他のメンバーもまた、CCL7に関して上述した様式でブロックすることができる。適切なPAR
1−CCL7系メンバーのターゲットは、CCR1、CCR2およびCCR3を含む。
【0025】
PAR
1のブロッキングは、好ましくは、特定のサイトカインまたはケモカインの存在またはレベルを測定する分析を介して測定することもできる。典型的に、PAR
1のブロッキングは、CCL7(タンパク質またはmRNA)の発現を低減させるが、CXCL1発現に対して影響を及ぼさない。CXCL10またはCXC3CL1のいずれのブロッキングも好中球の遊走に影響を及ぼさないが、PAR
1のブロッキングは、CXCL10および/またはCXC3CL1発現における低減によって測定してもよい。
【0026】
また、PAR
1のブロッキングは、マクロファージの数を測定する分析によって測定してもよい。典型的に、PAR
1のブロッキングは、組織へのマクロファージの流入を減少させる。
【0027】
また、PAR
1のブロッキングは、トロンビン−抗−トロンビン(TAT)の存在またはレベルを測定する分析によって測定してもよい。
【0028】
CCL2のブロッキング
CCL2もまた、CCL7に関して上述した様式でブロックすることができる。CCL2のブロッキングは、その活性または機能における、ALI/ARDSの治療および/または予防に有利な効果をもたらす任意の低減を含む。
【0029】
典型的に、CCL2のブロッキングは、好中球増加の低減、好中球浸潤の低減、好中球蓄積の低減、および/または、肺内、特に肺胞スペース内の好中球の合計数の低減をもたらす。好ましくは、この低減は、好中球の遊走または好中球の化学走性を低減させるCCL2のブロッキングにより仲介される。
【0030】
CCL2のブロッキングの測定は、本明細書中でCCL7拮抗作用に関して記載される任意の技術を用いて達成され得る。任意の適切なCCL2アンタゴニストを用いてよい。CCL2アンタゴニストは、本明細書中に記載の任意のタイプであってよい。例えば、本発明のCCL2アンタゴニストは、ペプチドおよびペプチド模倣物;抗体;低分子阻害剤;二本鎖RNA;アンチセンスRNA;アプタマー;およびリボザイムから選択してよい。好ましいアンタゴニストは、抗体を含む。
【0031】
アンタゴニスト
任意の適切なアンタゴニスト、例えば、ペプチドおよびペプチド模倣物;抗体;低分子阻害剤;二本鎖RNA;アンチセンスRNA;アプタマー;およびリボザイムを、本発明に従って用いてよい。好ましいアンタゴニストは、CCL7、他のPAR
1−CCL7系メンバーのターゲット(PAR
1、CCR1、CCR2およびCCR3および/またはCCL2など)のペプチドフラグメント;アンチセンスRNA、アプタマーおよび抗体を含む。
【0032】
ペプチド
CCL7のペプチドアンタゴニストは、典型的に、CCR1、CCR2および/またはCCR3に対する結合に関してCCL7全長と競合し、したがってCCL7に拮抗する、CCL7のフラグメントである。同様に、CCL2のペプチドアンタゴニストは、典型的に、CCR1、CCR2および/またはCCR3を含むその受容体に対する結合に関してCCL2全長と競合し、したがってCCL2に拮抗する、CCL2のフラグメントである。そのようなペプチドは、線状または環状であってよい。ペプチドアンタゴニストは、典型的に、5〜50、好ましくは10〜40、10〜30または15〜25のアミノ酸長であり、通常、CCL7またはCCL2内からの連続する配列と同一であるが、CCL7ブロッキングまたはCCL2ブロッキングの特性を保持する限り、100%未満、例えば95%以上、90%以上、または80%以上の同一性を有してよい。ブロッキングペプチドは、任意の適切な様式で、例えば、CCL7またはCCL2配列のスパニング部分または全体の、連続またはオーバーラップするペプチドの体系的なスクリーニングにより、決定することができる。また、ペプチド模倣物は、そのようなブロッキングペプチドを模倣するように設計され得る。PAR
1および他のPAR
1−CCL7系メンバーのターゲットに関するブロッキングペプチドおよびペプチド模倣物もまた同様に設計することができる。
【0033】
二本鎖RNA
公知技術を用い、CCL7、別のPAR
1−CCL7系メンバーのターゲット、またはCCL2の配列の知識に基づき、ターゲットに拮抗するように、そのRNAのシーケンスホモロジーに基づくターゲッティングにより、二本鎖RNA(dsRNA)分子を設計することができる。そのようなdsRNAは、典型的に、通常はステムループ(「ヘアピン」)立体配置での低分子干渉RNA(siRNA)、または、ミクロ−RNA(miRNA)である。そのようなdsRNAの配列は、ターゲットをコードするmRNAの部分の配列に一致する部分を含む。この部分は、通常、ターゲットmRNA内のターゲット部分に100%相補であるが、より低いレベルの相補性(例えば90%以上、または95%以上)もまた用いてよい。
【0034】
アンチセンスRNA
公知技術を用い、ターゲットの配列の知識に基づき、ターゲットに拮抗するように、それらのRNAのシーケンスホモロジーに基づくターゲッティングにより、一本鎖アンチセンスRNA分子を設計することができる。そのようなアンチセンスの配列は、ターゲットをコードするmRNAの部分の配列に一致する部分を含む。この部分は、通常、ターゲットmRNA内のターゲット部分に100%相補であるが、より低いレベルの相補性(例えば90%以上、または95%以上)もまた用いてよい。
【0035】
アプタマー
アプタマーは、一般に、特異的なターゲット分子に結合する核酸分子である。アプタマーは、インビトロで完全に改変することができ、化学合成により容易に製造され、望ましい保管特性を有し、治療的適用において免疫原性をほとんど誘発しないか、または全く誘発しない。これらの特徴は、それらを調剤用途および治療用途において特に有用にする。
【0036】
本明細書において用いられる「アプタマー」は、一般に、一本鎖または二本鎖のオリゴヌクレオチド、またはそのようなオリゴヌクレオチドの混合物を指し、ここで、オリゴヌクレオチドまたは混合物は、ターゲットに対して特異的に結合することが可能である。オリゴヌクレオチドアプタマーについて本明細書に記載するが、これを読む当業者は、ペプチドアプタマーなどの、同等の結合特性を有する他のアプタマーもまた用いることができることを理解するであろう。
【0037】
一般に、アプタマーは、少なくとも5、少なくとも10、または少なくとも15ヌクレオチドの長さのオリゴヌクレオチドを含んでよい。アプタマーは、最大で40の、最大で60の、または最大で100以上のヌクレオチドの長さの配列を含んでよい。例えば、アプタマーは、5〜100のヌクレオチド、10〜40のヌクレオチド、または15〜40のヌクレオチドの長さであってよい。可能であれば、より短い長さのアプタマーは、大抵他の分子または物質によるより低い干渉をもたらすので、好ましい。
【0038】
無改変のアプタマーは、主にヌクレアーゼ分解および腎臓による体からの除去により、数分から数時間の半減期で血流から急速に除去される。そのような無改変のアプタマーは、一過的な状態の処置において、例えば血液凝固の刺激において、有用である。あるいは、アプタマーは、それらの半減期を改善するために改変をしてよい。2’フッ素置換ピリミジン類の付加またはポリエチレングリコール(PEG)結合など、様々なそのような改変が利用可能である。
【0039】
アプタマーは、Systematic Evolution of Ligands by Exponential enrichment(SELEX)の方法のような、常法を用いて製造してよい。SELEXは、ターゲット分子に対して特異的結合が高い核酸分子のインビトロ展開のための方法である。例えば、US5,654,151、US5,503,978、US5,567,588、およびWO96/38579に記載されている。
【0040】
SELEX法は、オリゴヌクレオチドのコレクションからの、核酸アプタマーおよび特に所望のターゲットに結合することが可能な一本鎖核酸の選択を含む。一本鎖核酸のコレクション(例えば、DNA、RNA、またはそれらの変異体)は、結合に好ましい条件下でターゲットと接触させられ、混合物中のターゲットに結合したこれらの核酸は、結合しないものから分離され、核酸−ターゲットの複合体が分離され、ターゲットに対して結合を有したこれらの核酸が増幅され、所望の結合活性を有する核酸が濃縮されたコレクションまたはライブラリーを生じ、それから、この一連のステップが必要に応じて繰り返されて、関連のあるターゲットに特異的な結合親和性を有する核酸(アプタマー)のライブラリーが製造される。
【0041】
抗体
本明細書で言及する用語「抗体」は、抗体全体および任意の抗原結合フラグメント(すなわち、「抗原結合部位」)またはそれらの単鎖を含む。抗体は、ジスルフィド結合により内部結合された少なくとも2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖、またはそれらの抗原結合部位を含む、糖タンパク質を指す。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書中でV
Hと省略される)および重鎖定常領域からなる。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書中でV
Lと省略される)および軽鎖定常領域からなる。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。V
HおよびV
L領域は、より保存された領域(フレームワーク領域(FR)と呼ばれる)が散在する相補性決定領域領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域にさらに細分化することができる。
【0042】
抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えば、エフェクター細胞)および古典的な補体系の第一構成要素(Clq)を含む、宿主の組織または因子に対する免疫グロブリンの結合を仲介し得る。
【0043】
本発明の抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体であってよく、好ましくはモノクローナル抗体である。本発明の抗体は、キメラ抗体、CDR移植抗体、ナノボディ、ヒト抗体またはヒト化抗体、または、それらのいずれかの抗原結合部位であってよい。モノクローナルおよびポリクローナル抗体の両方の製造に関して、実験動物は、典型的に非ヒトの哺乳類、例えばヤギ、ウサギ、ラットまたはマウスであるが、ラクダ科などの他の種が挙げられてもよい。
【0044】
ポリクローナル抗体は、目的の抗原を用いた適切な動物の免疫化などの常法により製造してよい。続いて動物から血液を採取してIgG画分を精製してよい。
【0045】
本発明のモノクローナル抗体(mAb)は、KohlerおよびMilsteinの標準的な体細胞ハイブリダイゼーション技術のような従来のモノクローナル抗体の方法を含む、様々な技術により製造することができる。ハイブリドーマを製造する好ましい動物系はミューリン系である。マウスでのハイブリドーマ製造は非常によく実証された方法であり、当技術分野でよく知られている技術を用いて達成することができる。
【0046】
本発明による抗体は、CCL7、別のPAR
1−CCL7系メンバーのターゲット、またはCCL2の全長、CCL7、別のPAR
1−CCL7系メンバーのターゲット、またはCCL2のペプチドフラグメント、または、CCL7内、別のPAR
1−CCL7系メンバーのターゲット内、またはCCL2内のエピトープを含む免疫原を用いて、非ヒトの哺乳類を免疫化するステップ;前記哺乳類から調製された抗体を取得するステップ;および、そこから、前記エピトープを特異的に認識するモノクローナル抗体を得るステップを含む方法により製造してよい。
【0047】
抗体の「抗原結合部位」という用語は、抗原に特異的に結合する能力を保持する抗体の1つまたは複数のフラグメントを指す。抗体の抗原結合機能は、抗体全長のフラグメントにより発揮することができることが示されている。抗体の「抗原結合部位」という用語の範囲に包含される結合フラグメントの例は、Fabフラグメント、F(ab’)
2フラグメント、Fab’フラグメント、Fdフラグメント、Fvフラグメント、dAbフラグメント、および分離された相補性決定領域領域(CDR)を含む。scFv抗体などの単鎖抗体もまた、抗体の「抗原結合部位」という用語の範囲に包含されることが意図される。これらの抗体フラグメントは、当業者に公知の従来技術を用いて得てよく、そのフラグメントは、完全な抗体と同じ様式で有用性に関してスクリーニングしてよい。
【0048】
本発明の抗体は、(a)目的の免疫グロブリン遺伝子についてのトランスジェニックまたはトランスクロモソームの動物(例えばマウス)から分離した抗体、または、それから調製されたハイブリドーマ、(b)目的の抗体を発現するために形質転換された宿主細胞から、例えば、トランスフェクトーマから、分離された抗体、(c)組み換え、組み合わせ抗体ライブラリーから分離した抗体、および、(d)他のDNA配列への免疫グロブリン遺伝子配列のスプライシングを含む任意の他の手段により、調製され、発現され、作製され、または、分離された抗体など、組み換え手段により調製され、発現され、作製され、または分離されてよい。
【0049】
本発明の抗体は、ヒト抗体またはヒト化抗体であってよい。本明細書において用いられる用語「ヒト抗体」は、フレームワークおよびCDR領域の両方ともがヒト生殖細胞系の免疫グロブリン配列に由来する可変領域を有する抗体を含むことが意図される。さらに、抗体が定常領域を含む場合、定常領域もまた、ヒト生殖細胞系の免疫グロブリン配列に由来する。本発明のヒト抗体は、ヒト生殖細胞系の免疫グロブリン配列によりコードされないアミノ酸残基(例えば、ランダムまたは部位特異的なインビトロでの突然変異誘発により、または、インビボでの体細胞突然変異により、導入された変異)を含んでよい。しかしながら、本明細書において用いられる用語「ヒト抗体」は、マウスなどの別の哺乳類の種の生殖細胞系に由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列上に融合された抗体を含むことを意図しない。
【0050】
そのようなヒト抗体は、ヒトモノクローナル抗体であってよい。そのようなヒトモノクローナル抗体は、不死化細胞に融合されたヒト重鎖トランスジーンおよび軽鎖トランスジーンを含むゲノムを有する、トランスジェニック非ヒト動物(例えばトランスジェニックマウス)から得られたB細胞を含むハイブリドーマにより生産され得る。
【0051】
ヒト抗体は、ヒトリンパ球のインビトロでの免疫化の後に、エプスタイン・バーウイルスを用いてリンパ球を形質転換することにより、製造され得る。
【0052】
用語「ヒト抗体誘導体」は、ヒト抗体の任意の改変体、例えば、抗体と別の因子または抗体とのコンジュゲートを指す。
【0053】
用語「ヒト化抗体」は、マウスなど別の哺乳類の種の生殖細胞系に由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列上に融合された抗体を指すことが意図される。さらなるフレームワーク領域の改変が、ヒトフレームワーク配列内にされてよい。
【0054】
本明細書中に記載されるスクリーニング方法を用いて、CCL7、別のPAR
1−CCL7系メンバーのターゲット、またはCCL2に結合することが可能な適切な抗体を同定してよい。したがって、本明細書中に記載のスクリーニング方法は、目的の抗体を試験化合物として用いて実施してよい。
【0055】
本発明の抗体は、例えば、標準的なELISAまたはウェスタンブロッティングにより、CCL7、別のPAR
1−CCL7系メンバーのターゲット、またはCCL2に対する結合について試験することができる。また、ELISAアッセイを用いて、ターゲットタンパク質とポジティブの反応性を示すハイブリドーマをスクリーニングすることもできる。また、抗体の結合特異性は、例えばフローサイトメトリーによって、ターゲットタンパク質を発現している細胞に対する抗体の結合をモニターすることにより判定してよい。したがって、本発明のスクリーニング方法は、ELISAまたはウエスタンブロットを行なうことにより、またはフローサイトメトリーにより、CCL7または別のPAR
1−CCL7系メンバーのターゲットに結合することが可能な抗体を同定するステップを含んでよい。それから、さらに上述されるように、必要とされる結合特性を有する抗体をさらに試験して、CCL7、別のPAR
1−CCL7系メンバーのターゲット、またはCCL2の活性に対するそれらの効果を判定してよい。
【0056】
本発明の抗−CCL7抗体は、上述したように、CCL7拮抗(ブロッキング)特性を有する。一実施態様では、モノクローナル抗体は、CCL7内のエピトープを特異的に認識して、CCL7の活性をブロックする。一実施態様では、モノクローナル抗体は、CCL7内のエピトープを特異的に認識して、CCR1、CCR2および/またはCCR3およびCCl7との間の相互作用をブロックする。
【0057】
本発明の抗−CCL2抗体は、上述したように、CCL2拮抗(ブロッキング)特性を有する。一実施態様では、モノクローナル抗体は、CCL2内のエピトープを特異的に認識して、CCL2の活性をブロックする。一実施態様では、モノクローナル抗体は、CCL2内のエピトープを特異的に認識して、CCR1、CCR2および/またはCCR3およびCCl7との間の相互作用をブロックする。
【0058】
本発明の抗体は、CCL7、別のPAR
1−CCL7系メンバーのターゲット、またはCCL2を、すなわち、CCL7内または別のPAR
1−CCL7系メンバーのターゲット内またはCCL2内のエピトープを、特異的に認識する。抗体または他の化合物は、選択的または高親和力でタンパク質に結合し、そのタンパク質には特異的であるが、他のタンパク質には実質的に結合しないか低親和力で結合する場合に、タンパク質に「特異的に結合」または「特異的に認識」する。ターゲットタンパク質に関する本発明の抗体の特異性は、上述の他の関係あるタンパク質に抗体が結合するか否か、または、それらの間で区別されるかを判定することにより、さらに試験してよい。例えば、本発明の抗−CCL7抗体は、ヒトCCL7に結合し得るが、マウスまたは他の哺乳類のCCL7には結合しない。
【0059】
本発明の抗体は、CCL7、別のPAR
1−CCL7系メンバーのターゲット、またはCCL2に、高親和力で、好ましくはピコモル範囲で、例えば、表面プラズモン共鳴または任意の他の適切な技術により測定して、10nM以下、1nM以下、500pM以下、または100pM以下の親和定数(K
D)で、好適に結合する。
【0060】
適切な抗体を同定および選択したら、抗体のアミノ酸配列を、当技術分野で知られている方法により同定してよい。抗体をコードする遺伝子は、縮重プライマーを用いてクローン化することができる。抗体は、常法により組み換えで製造してよい。
【0061】
CCL7内、他のPAR
1−CCL7系メンバーのターゲット内、およびCCL2内のエピトープは、当技術分野で知られていて本明細書中に述べられる方法により、とりわけ、「PEPSCAN」法を介した連続またはオーバーラップするペプチドの体系的なスクリーニングにより、または、CCL7を阻害することが示されたペプチドフラグメント(上記参照)に対する抗体を形成することにより、同定することができる。エピトープ含有ペプチドは、抗体産生のための免疫原として用いることができる。抗体を生じさせるために好ましいエピトープは、CCL7がその受容体に結合する際に介するものを含む。CCL受容体の結合のための推定配列は、パラロガスCC−ケモカインの受容体結合に基づく。したがって、好ましいエピトープは、N末領域に、Nループ内に、30sループ内に、および、ジスルフィド結合に隣接して、およびαへリックス領域内に、位置することを予想することができる。
【0062】
PAR1のアンタゴニスト
本発明により用いることのできる公知のPAR
1アンタゴニストは、voropaxarおよびatopaxarを含む。他の公知のPAR
1アンタゴニストもまた、用いることができる。
【0063】
CCL2のアンタゴニスト
本発明により用いることのできる公知のCCL2アンタゴニストは、改変されたケモカインMCP−1(9−76)(JEM vol.186 no.1 131−137)およびSR16951(CCL2の低分子アンタゴニストである(The Journal of Immunology,2009,182,50.13))を含む。他の公知のCCL2アンタゴニストは、C243(これも低分子アンタゴニストである)、およびmNOX−E36を含む(Gut.2012 Mar;61(3):416−26)。抗−CCL2中和抗体は市販もされている。他の公知のCCL2アンタゴニストもまた、用いることができる。
【0064】
また、CCL2の活性は、CCR2阻害剤を用いて阻害され得る。公知のCCR2阻害剤を、以下の表に挙げる。
【表1】
表1 CCR2阻害剤の実験および臨床の状態の概要(Expert Opin Investig Drugs.2011 Jun;20(6):745−56)
【0065】
治療適応症
本発明のアンタゴニストは、特に、急性肺損傷(ALI)および急性呼吸窮迫症候群(ARDS)として知られる状態における、呼吸器における好中球の蓄積と関連する急性炎症を治療および/または予防するために用いてよい。
【0066】
ALIは、肺に悪影響を及ぼすが、必ずしも気道には悪影響を及ぼさない、急性疾患である。ALIは、肺胞上皮および毛管内皮における崩壊により特徴付けられ、まとめて毛管−肺胞バリアと呼ばれる。ALIの2つの主な特徴は、肺胞空間における流体の蓄積および好中球の遊走である。ALIは、IL−1βおよびTNFなどの炎症促進性サイトカインおよびトロンビンなどの凝固系の構成要素の放出を含む、急速な疾患の発症と関連する。ALIは、適応免疫よりむしろ先天性免疫の構成要素の活性化を伴うと考えられる。ARDSは、より重度の形態のALIである。
【0067】
臨床状況では、ALI/ARDSは、低酸素血症、肺水腫および放射線学的異常により特徴付けられ、公知の臨床的損傷に続き、または、新規の/悪化する呼吸性症状に続き、急速な発症を有する。ALI/ARDSの最新の推奨される定義は以下のとおりである:低酸素血測定のPaO
2/FiO
2が201〜300(軽度)、200以下(中度)、100以下(重度);心不全または水分過負荷により説明されない呼吸不全を有し;放射線学的異常があり;および、重症のさらなる生理学的障害がある。この定義は、米国胸部学会からの情報提供により2012年のESICM年次会議で提案された。しかしながら、1996年の合意定義が、おそらく今でもなお、最も広く用いられていて、それは以下のとおりである:肺動脈楔入圧が18mmHg未満;心不全の臨床的証拠がなく;および、低酸素血測定がALIではPaO
2/FiO
2<300であり、ARDSでは<200である。これらのいずれかを用いて、本発明の目的に関してALI/ARDSを定義してよい。
【0068】
好ましくは、本発明のアンタゴニストは、免疫機能を完全に消滅させることなく、過剰な好中球蓄積を減少させる。さらに好ましくは、CCL7、別のPAR
1−CCL7系メンバーのターゲット、またはCCL2の阻害は、過剰な好中球増加により生じるバイスタンダー組織の損傷を低減させ、同時に、宿主防御のための十分な免疫を保持し、内皮−上皮バリアの完全性を維持し、それにより、不要な組織損傷の減少と防御免疫応答の維持との間のバランスを達成する。
【0069】
したがって、本発明は、呼吸器における好中球の蓄積と関連する急性炎症の治療および/または予防に関する。そのような急性炎症は、肺空間、気管支、気管支壁または間質空間に見られ得る。
【0070】
また、本発明は、任意の原因から生じるALI/ARDSの治療および/または予防に関する。これらは、間接的および直接的の両方の原因を含む。間接的な原因は、敗血症(敗血症、内毒血症)、膵炎および肺遠位の組織外傷を含む。直接的な原因は、肺への外傷、細菌感染(市中肺炎が最も一般的であり、肺炎連鎖球菌がその最も一般的な病原学的因子であるが、ALI/ARDSは、インフルエンザ菌または肺炎クラミジアなどの他の細菌による感染に起因し得る)、ウイルス感染(最も一般的な病原学的因子は、インフルエンザウイルス、コロナウイルス、例えば重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS−CoV)、およびサイトメガロウイルスであり、免疫不全に特有の問題である)、および、他の呼吸性疾患、例えば、新生児呼吸窮迫症候群(IRDS)、気管支拡張症(その根底にある原因、例えば、スタフィロコッカス種、クレブシエラ種、および百日咳菌による感染を含む)、特に急性憎悪に関連する慢性閉塞性肺疾患(COPD)を含む。
【0071】
医薬組成物、用量および投与計画
本発明のアンタゴニストは、典型的に、薬学的に許容できる担体とともに、医薬組成物に製剤化される。
本明細書において用いられる「薬学的に許容できる担体」は、任意かつ全ての、溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤など、生理的に適合するものを含む。担体は、非経口投与、例えば静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、眼球内投与または硝子体内投与(例えば、注射または注入による)に適切である。好ましくは、担体は、鼻腔内投与または吸入投与に適切である。投与経路に応じて、化合物を不活性化し得る酸および他の自然条件の作用から化合物を保護するために、物質内にモジュレーターをコーティングしてよい。
【0072】
本発明の医薬化合物は、1つまたは複数の薬学的に許容できる塩を含んでよい。「薬学的に許容できる塩」は、元の化合物の所望の生物学的活性を保ち、いかなる望ましくない毒性作用も与えない塩を指す。そのような塩の例は、酸付加塩および塩基付加塩を含む。
【0073】
好ましい薬学的に許容できる担体は、水性担体または希釈剤を含む。本発明の医薬組成物に用いられ得る適切な水性担体の例は、水、緩衝水、および生理食塩水を含む。他の担体の例は、エタノール、ポリオール類(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、および、それらの適切な混合物、植物油、例えばオリーブ油、および、注射可能な有機エステル、例えばオレイン酸エチルを含む。多くの場合、等張剤、例えば、糖類、ポリアルコール類、例えばマンニトール、ソルビトール、または塩化ナトリウムを、組成物中に含むことが好ましい。
【0074】
治療組成物は、典型的に、滅菌され、製造および保管の条件下で安定でなければならない。組成物は、溶液、マイクロエマルション、リポソーム、または、高濃度の薬に適切な他の秩序構造として、製剤化することができる。
【0075】
本発明の医薬組成物は、本明細書中に述べられる、さらなる活性成分を含んでよい。
【0076】
本発明のアンタゴニストおよび使用のための説明書を含むキットもまた、本発明の範囲内である。キットは、1つまたは複数のさらなる試薬、例えば、上述のさらなる治療的または予防的薬剤をさらに含んでよい。
【0077】
本発明のアンタゴニストおよび組成物は、予防的および/または治療的な処置のために投与してよい。
【0078】
治療用途では、モジュレーターまたは組成物は、上述の障害または状態を既に患っている対象に、状態または1つまたは複数のその症状を、治療する、緩和する、または部分的に抑止するのに十分な量で投与される。そのような治療的処置は、疾患症状の重症度の低下、または、症状のない期間の頻度または持続時間の増加をもたらし得る。これを達成するのに十分な量を、「治療的有効量」と定義する。
【0079】
予防用途では、製剤は、上述の障害または状態のリスクがある対象に、状態または1つまたは複数のその症状の、その後の影響を予防または減少させるのに十分な量で投与される。これを達成するのに十分な量を、「予防的有効量」と定義する。それぞれの目的のための有効量は、疾患または損傷の重症度、および、対象の体重および全身状態に依存する。
【0080】
本発明のアンタゴニストの投与のための対象は、ヒトまたは非ヒト動物であってよい。用語「非ヒト動物」は、全ての脊椎動物、例えば、哺乳類および非哺乳類、例えば非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ニワトリ、両生類、爬虫類などを含む。ヒトへの投与が好ましい。
【0081】
本発明のアンタゴニストは、当技術分野で知られている様々な方法のうちの1つまたは複数を用いて、1つまたは複数の投与経路を介して投与してよい。熟練した技術者に理解されるように、投与経路および/または投与方法は、要求される結果に応じて変化する。本発明のモジュレーターのための投与経路は、静脈内投与、筋肉内投与、皮内投与、眼球内投与、腹腔内投与、皮下投与、脊椎投与、または、他の非経口投与の経路、例えば、注入または点滴による投与を含む。本明細書において用いられる語句「非経口投与」は、通常は注入による、腸内および局所投与以外の投与方法を意味する。あるいは、本発明のアンタゴニストは、非経口でない経路、例えば、局所投与、上皮投与または粘膜投与の経路を介して投与することができる。好ましくは、本発明のアンタゴニストは、鼻腔内または吸入の経路により投与される。
【0082】
本発明のモジュレーターの適切な用量は、熟練医師により決定され得る。本発明の医薬組成物中の活性成分の実際の用量レベルは、特定の患者に対して所望の治療応答を達成するのに効果的な活性成分の量、組成物、および投与方法を、患者に対して毒性にならずに得るように変更し得る。選択される用量レベルは、用いられる本発明の特定の組成物の活性、投与経路、投与時間、用いられる特定の化合物の排泄率、治療の持続時間、用いられる特定の組成物と組み合わせて用いられる他の薬剤、化合物および/または物質を含む様々な薬物動態因子、治療される患者の年齢、性別、体重、状態、健康全般および以前の病歴、および、医療分野においてよく知られる同様の因子に依存する。
【0083】
適切な用量は、例えば、治療される患者の約0.1μg/kg〜約100mg/kg体重の範囲であってよい。例えば、適切な用量は、1日あたり約1μg/kg〜約10mg/kg体重、または、1日あたり約10g/kg〜約5mg/kg体重であってよい。
【0084】
投与計画は、最適な所望の応答(例えば治療応答)を提供するように調節してよい。例えば、単回量を投与してよく、数回の分割量を時間をかけて投与してよく、または、治療状況の緊急性に示されるとおりに投与量を比例的に減少または増加させてよい。本明細書において用いられる投与単位の形態は、治療される対象のための、単位としての投与として適した物理的に不連続の単位を指し;各単位は、必要とされる調剤担体を伴って所望の治療効果を生じるように計算された所定量の活性化合物を含む。
【0085】
投与は、単回または多数回での投与量であってよい。多数回の投与量は、同一または異なる経路を介して、同一または異なる部位に投与してよい。あるいは、投与は、徐放性製剤を介することができ、その場合、必要とされる投与頻度がより少ない。投与量および頻度は、患者におけるアンタゴニストの半減期および要求される治療の持続時間に応じて変化し得る。
【0086】
上述のように、本発明のモジュレーターは、1または他のより多くの他の治療薬とともに投与してよい。例えば、他の薬剤は、鎮痛剤、麻酔薬、免疫抑制剤、または抗炎症性剤であってよい。
【0087】
2以上の薬剤を組み合わせた投与が、多くの異なる方法で達成され得る。両方を単一の組成物で一緒に投与してよく、または、それらを別々の組成物で併用療法の一部として投与してよい。例えば片方をもう片方の前に、後に、または同時に、投与してよい。
【0088】
併用療法
上記のように、本発明のアンタゴニストは、任意の他の適切な活性化合物と組み合わせて投与してよい。
【0089】
特に、PAR
1−CCL7系の異なるメンバーのアンタゴニストを組み合わせて投与してよく、例えば、CCL7のアンタゴニストは、PAR
1および/またはCCR1、および/またはCCR2および/またはCCR3のアンタゴニストと組み合わせて投与することができる。同様に、PAR
1のアンタゴニストは、CCL7および/またはCCR1、および/またはCCR2および/またはCCR3のアンタゴニストと組み合わせて投与することができる。CCR1のアンタゴニストは、CCL7および/またはPAR
1、および/またはCCR2および/またはCCR3のアンタゴニストと組み合わせて投与することができる。CCR2のアンタゴニストは、CCL7および/またはPAR
1、および/またはCCR1および/またはCCR3のアンタゴニストと組み合わせて投与することができる。CCR3のアンタゴニストは、CCL7および/またはPAR
1、および/またはCCR2および/またはCCR1のアンタゴニストと組み合わせて投与することができる。
【0090】
CCL7アンタゴニスト、PAR
1アンタゴニストおよび/またはPAR
1−CCL7系の他のアンタゴニストは、本発明のCCL2アンタゴニストと組み合わせて用いてよい。例えば、CCL2のアンタゴニストは、CCL7、PAR
1および/またはCCR1、および/またはCCR2および/またはCCR3のアンタゴニストと組み合わせて投与することができる。
【0091】
また、本発明のアンタゴニストは、炎症促進性ケモカインCXCL8(インターロイキン−8;IL−8)のアンタゴニストと組み合わせて投与してよい。また、本発明のアンタゴニストは、IL−8受容体、CXCR1(インターロイキン8受容体α、IL8RA、CD181としても知られる)に関するアンタゴニストと組み合わせて投与してよい。CXCL8は、内皮および上皮表面を通じて好中球を溢出するのための公知の化学誘引物質である(Grommes,J.& Soehnlein,O.Mol.Med.17,293−307(2011))。CXCL8またはCXCR1アンタゴニストは、例えば、CCL7、他のPAR
1−CCL7系メンバーのターゲットおよびCCL2に関して本明細書中で述べた、ペプチドおよびペプチド模倣物;抗体、好ましくはモノクローナル抗体;低分子阻害剤;二本鎖RNA;アンチセンスRNA;アプタマーおよびリボザイムから選択してよい。CCL7およびCXCL8および/またはCXCR1のアンタゴニストの組み合わせの使用による、CCL7およびCXCL8および/またはCXCR1の阻害の、例えば好中球の遊走または化学走性などに対する効果は、CCL7およびCXCL8および/またはCXCR1の単独の阻害の効果と比較して、相加的または相乗的であり得る。同様に、CXCL8および/またはCXCR1のアンタゴニストは、本発明のCCL2アンタゴニストと、同じようにして組み合わせて用いてよい。
【0092】
以下の実施例により本発明は説明される。
【実施例】
【0093】
1.PAR1は急性肺炎に寄与する。
PAR
1は、凝固因子トロンビンの主な受容体であり、凝固と炎症との間の相互作用を編成するのに必須である(Chambers,R.C.Br.J.Pharmacol.153 Suppl 1,S367−S378(2008))。また、PAR
1活性化は、肺への好中球動員を仲介する様々な炎症促進性遺伝子の上方制御を導く(Mercer,P.F.et al Ann.N.Y.Acad.Sci.1096,86−88(2007))。
【0094】
急性肺炎におけるPAR
1の役割を同定するために、LPS(125μg/kg)による鼻腔内チャレンジの後に、特異的なPAR
1アンタゴニスト(5mg/kg、米国Johnston and Johnson Pharmaceutical Research & DevelopmentのClaudia Derianからの寄贈品)でマウスを処置した。実験は、英国内務省に従った現地の倫理承認の下で行なった。BALB/c雌マウス(6〜8週;英国Charles River)を麻酔し(5%イソフルラン(isofluorane))、滅菌生理食塩水中のLPSでチャレンジした(125μg/kg、50μl i.n.(鼻腔内投与);Escherichia coli 0127:B8;Sigma、UK)。LPSは、肺胞空間への、全細胞および好中球の動員の有意な増加を引き起こした(
図1a、
図1b)。それらは初期の急性炎症を示す事象である(Summers,C.et al Trends Immunol.31,318−324(2010))。全体的および差次的な数を、サイトスピンの後に定量化した。
【0095】
マウスに、LPS投与の30分後に、PAR
1アンタゴニストRWJ−58259をi.p(腹腔内)注入した。急性肺炎の発症直後のPAR
1の拮抗作用は、空間における全細胞および好中球の数を有意に減少させ(
図1b)、急性肺炎の誘導においてPAR
1が中心的な役割を果たすことを示した。空間の好中球増加の低減がフローサイトメトリーにより確認され、BAL液から回収された、および全肺調製物中の、Gr−1+(F4/80−)好中球の減少を示した(
図1d)。肺ホモジネートにおいて検出されるように、PAR
1拮抗作用はLPSが誘導する好中球ミエロペルオキシダーゼ活性を減少させた(
図1c)。
【0096】
BAL液中のマクロファージの数は、全ての処置群において変化しないままであり、PAR
1拮抗作用がBAL液への初期のマクロファージ動員に影響を及ぼさないことを示した(
図1e)。LPSにより誘導される肺胞−毛管バリアの崩壊に対するPAR
1拮抗作用の効果を試験するために、生理食塩水およびLPSでチャレンジされたマウスから回収したBAL液における血清アルブミンレベルを測定した。血清アルブミンレベルは、LPSでチャレンジしたマウスのBAL液において増加し、PAR
1拮抗作用の後に有意に(p=0.004)減少した(
図1f)。したがって、これらのデータは、PAR
1シグナリングが、急性肺炎モデルにおいて、初期の好中球性炎症および肺胞−毛管バリアの崩壊に影響を及ぼすことを示す。
【0097】
同様の結果が、異なるPAR
1であるSCH530348を用いた場合に見られた。LPSチャレンジの直後に特異的なPAR
1アンタゴニストSCH530348(10mg/kg)をi.p(腹腔内投与)で治療的に投与して、および、投与せずに、LPS(125μg/kg i.n.(鼻腔内投与))のチャレンジの3時間後にマウスを屠殺した。肺を洗浄し、血球計算器およびサイトスピン装置を用いて、全細胞および好中球をカウントした。データを、Neuman−Keuls Post Hoc検定での一方向ANOVAにより解析した:
*p<0.05。再び、急性肺炎の発症直後のPAR
1の拮抗作用は、空間における全細胞(
図2A)および好中球(
図2B)の数を有意に減少させた。
【0098】
さらにまた、RWJ−58259によるPAR
1拮抗作用は、LPSチャレンジの6時間後および24時間後に、好中球の動員を減少させた(
図3)。
【0099】
細菌により誘導されるALIのモデルにおける、宿主防御の間のPAR
1の影響を試験するために、マウスを、ALIの原因となる最も一般的な感染因子である肺炎連鎖球菌でチャレンジした(5×10
6CFU/マウス、i.n.(鼻腔内投与))。マウスに、50μlの肺炎連鎖球菌(血清型19、5×10
6CFU/マウス i.n.(鼻腔内投与))を接種した。3時間後、動物を屠殺し(ウレタン i.p(腹腔内投与)20g/kg)、気管内にカニューレ挿入し、気管支肺胞洗浄を行なった(1.5ml、PBS)。サイトスピンの後に全体的および差次的な数を定量化し、アルブミンレベルをELISAにより測定した(Bethyl Laboratories Inc,USA)。
【0100】
肺炎連鎖球菌による感染は、全白血球の増加および空間内における好中球の蓄積を引き起こした。それらは全て、初期の肺の細菌感染および細菌により誘導されるALIの特徴である。PAR
1アンタゴニストで処置されたマウスでは、全細胞の浸潤および好中球の蓄積が減少した(
図4a、
図4b)。そのような、好中球増加の有意な低減は、特に、ALIの間に同時に起きることの多い細菌感染に対して、宿主防御に関する有害な結果を有するということもあり得る。しかしながら、肺全体から回収された肺炎連鎖球菌のコロニー数はPAR
1アンタゴニストの治療により影響を受けなかったので(
図4c)、PAR
1拮抗作用は宿主防御を損なわなかった。
【0101】
同様の結果が、30分後にPAR
1アンタゴニストRWJ−58259(5mg/kg)をi.p(腹腔内投与)で治療的に投与して、および投与せずに、異なる株の肺炎連鎖球菌(血清型2、臨床株D39、50μl/マウス、5×10
6CFU/マウス i.n.(鼻腔内投与))を用いて観察された(
図5a、
図5c)。また、PAR
1拮抗作用は、BALのマクロファージの数を減少させることが見いだされた(
図5b)。気管支肺胞洗浄液を回収し、トロンビン−抗−トロンビン(TAT)および血清アルブミンのレベルをELISAにより定量化した(
図4d、
図4e)。PAR
1拮抗作用は、PAR
1により仲介される肺胞−毛管バリアの崩壊を減少させることが見いだされた。パネルは、2回の独立した実験によるn=5/群に関する平均値を示す。データを、Neuman−Keuls Post Hoc検定での一方向ANOVAにより解析した:
***p<0.0001、
*p<0.05。
【0102】
3時間後(
図6a)および24時間後(
図6b)に得られた、BALFから回収した肺炎連鎖球菌のコロニー数がPAR
1アンタゴニストの治療により影響を受けなかったので、この2つ目の肺炎連鎖球菌株を用いて得られた結果もまた、PAR
1拮抗作用が宿主防御を損なわないことを示した。細菌性浸潤性疾患を、24時間後の肺(
図6c)および脾臓(
図6d)におけるcfuにより測定した。データを、Neuman−Keuls Post Hoc検定での一方向ANOVAにより解析した:n.s.有意差なし。再び、PAR1アンタゴニストの処置によりカウントは影響を受けず、PAR
1拮抗作用は、肺炎連鎖球菌感染に対する免疫応答に悪影響を及ぼさないことが示された。
【0103】
2.PAR1シグナリングは、CCL7発現を仲介する。
PAR
1シグナリングが急性肺炎に影響を及ぼすメカニズムを調べるために、LPSチャレンジの効果およびその後の肺ホモジネートにおける好中球に特異的なケモカインのレベルに対するPAR
1拮抗作用を調べた。CXCR2リガンド、CXCL1(ケラチノサイト由来のケモカイン、KC)およびCXCL2/CXCL3(マクロファージ炎症性タンパク質−2、MIP−2α/β)は、ヒトCXCL8(IL−8)およびCXCL2/CXCL3(増殖関連がん遺伝子GRO−β/GRO−γ)の機能性ホモログであり、炎症組織への好中球の動員の一次メディエーターとして関与している。
【0104】
本研究では、LPSチャレンジは、以前に示されるように(Huber,A.R.et al Science 254,99−102(1991))、これらのケモカインのレベルを有意に増加させた。しかしながら、CXCL1およびCXCL2のレベルはPAR
1拮抗作用により影響を受けず(
図7a、
図7b)、これらのケモカインはPAR
1により制御されていないことが示された。同様に、PAR
1拮抗作用は、炎症促進性サイトカインであるTNFおよびIL−6(
図7c、
図7d)の発現を減少させなかった(これは特質上、急性炎症と関連する)。サイトカインおよびケモカインのレベルは、ELISAにより測定した。
【0105】
これらのデータにより、我々は、PAR
1が仲介する急性炎症性応答は、古典的な好中球化学誘引物質または炎症促進性サイトカインの誘導とは関連しないと結論付けた。
【0106】
LPSが誘導するALIに関与する、PAR
1が制御するサイトカイン/ケモカインの潜在的な候補を同定するために、151個の炎症性メディエーターをプロファイルするように設計した低密度アレイ(LDA)を用いた(
図7a、
図9)。粉状化された冷凍粉状肺から、TRIzolを用いて(メーカーのプロトコル参照(Invitrogen))全RNAを抽出し、DNAフリーキット(Ambion)を用いてDNase処理し、そして、Superscriptキット(Invitrogen)を用いて、サンプルあたり1μgのRNAからcDNAを合成した。公知の炎症性メディエーターの発現レベルを、Taqman低密度アレイqPCRチップを用いてcDNAにおいて分析し、18sにノーマライズした。Gene Expression Similarity Suite(Genesis)Softwere
51を用いて転写データを解析し、log
2変換およびノーマライズの後に、データをヒートマップとして表した。キャリブレーター参照として、発現における相対的な倍差(fold−difference)を、ΔΔT方法を用いて生理食塩水の処置群で計算した。LPSでのチャレンジ後、51個の遺伝子が肺組織において差次的に発現されることが見いだされた(
図7b、
図9)。LPSチャレンジ後、32個の遺伝子が有意に上方制御されることが示された(
図7b、
図9)(様々なケモカインが含まれる)。差次的な遺伝子発現プロファイルは、TNF、インターロイキン、CXCケモカイン、および、CCL2、CCL3、CCL4、CCL7、CCL22、CXCL1、CXCL2、CXCL10、CXCL13およびCX3CL1を含むCCケモカインなど、炎症性応答を生じさせるために重要であることが知られる様々な遺伝子の上方制御を含んだ。さらなる分析により、PAR
1拮抗作用の後に、25個の遺伝子の発現が減少することが明らかとなった(
図7c)。
【0107】
以前のタンパク質データと合致して、LPS損傷後に、好中球に特異的なケモカインであるCXCL1およびCXCL2、および、サイトカインであるTNFおよびIL−6の発現が増加したが、PAR
1拮抗作用による影響は受けず(
図7d)、LPSにより誘導される肺炎症の本モデルにおいて、これらのサイトカイン/ケモカインがPAR
1シグナリングの下流により制御されないことが示された。LPSによるチャレンジ後に上方制御されることが分かった32個の遺伝子について、PAR
1拮抗作用は、好中球動員と従来関連しない2つの密接に関連するCC−ケモカインCCL2(MCP−1)およびCCL7(MCP−3)の発現を減少させた(
図7d)。その代わり、これらのケモカインは、骨髄からの単球放出を誘導し、炎症組織内に単球/マクロファージを動員することが知られる。
【0108】
mRNA発現のLDA分析を確認するために、肺ホモジネートにおけるタンパク質レベルを測定した。LPSによる処理は、TNF、IL−6、CXCL1およびCXCL2の発現を有意に増大させた(
図8a、
図8b、
図8c、
図8d)。これはLDA分析後の知見と一致するが、これらのタンパク質発現はPAR
1アンタゴニストの処置により影響を受けなかった。同様に、LPSチャレンジは、CCL2およびCCL7の発現を増加させ(
図8e、
図8f)、そしてまた、LDA分析で見られたように、PAR
1アンタゴニストの処置は、これらのケモカインの発現をタンパク質レベルで減少させた。これらのデータは、PAR
1シグナリングが、LPSにより誘導される肺炎症の後にCCL2およびCCL7発現を制御するのに重要な役割を果たすということ、および、これらのケモカインが好中球の遊走に直接的に影響を及ぼし得るということに対し、強い支持を与える。
【0109】
3.急性好中球性炎症は、CCL7依存性である。
LPSにより誘導される肺炎症における、CCL2およびCCL7の潜在的な役割を調べるために、我々は、これらのケモカインを阻害する特異的な中和抗体を用いた。中和抗体をLPSチャレンジ量の範囲内で投与し、3時間後に肺ホモジネートを分析した。CCL2またはCCL7の中和抗体による処理は、それぞれのケモカインを基礎レベルまで減少させ(
図10B、
図11A、
図11D)、したがって、効果的なターゲットの結合が確認された。抗−CCL2抗体の投与は、LPSでのチャレンジ後にBAL液から分離される全細胞の数および好中球の数の両方を有意に減少させた(
図10A、11B、11C)。同様に、抗−CCL7抗体の投与もまた、全細胞および好中球の空間内への蓄積を有意に減少させた(
図11E、11F)。まとめると、これらのデータにより、我々は、CCL2およびCCL7の両方が、炎症を起こした肺内への、全白血球および好中球の初期の蓄積に影響を及ぼすと結論付けた。
【0110】
LPSにより誘導されるケモカインCXCL10およびCX3CL1がPAR
1アンタゴニストによる処置に応答性であり得ることをLDA分析が示したので、インビボでの中和実験もまた、CXCL10またはCX3CL1に対する抗体を用いて行なった。CXCL10またはCX3CL1の中和の後に、好中球蓄積の減少は見られず(
図12)、これらのケモカインは、LPSにより炎症を起こした肺内への好中球遊走に直接関与しないことが示された。
【0111】
LPSチャレンジによるよりもむしろ、肺炎連鎖球菌(血清型2、臨床株D39、50μl/マウス、5×10
6CFU/マウス i.n.(鼻腔内投与))による感染により炎症が引き起こされた場合に、同様の結果が得られた。CCL7に対する特異的な中和抗体をと共に(チャレンジ量の範囲内で、10μg/マウス i.n.(鼻腔内投与))、およびなしに、肺炎連鎖球菌をマウスに接種した。肺を洗浄し(合計1.5mlのPBS)、BAL液の全白血球(A)、および好中球(B)を定量化した。BALFから回収した細菌(cfu)もカウントした(C)。データを、Neuman−Keuls Post Hoc検定での一方向ANOVAにより解析した:
**p<0.001、
*p<0.05。CCL7中和抗体による処置は、全細胞および空間内への好中球蓄積を有意に減少させ(
図13a、
図13b)、肺内への好中球の動員において、CCL7が重要な役割を果たすことが示された。cfu数はCCL7中和抗体で処置されたマウスと無処置のマウスとの間で有意な差が無かったので、PAR
1拮抗作用と同様に、CCL7中和抗体は、肺炎連鎖球菌感染に対する試験マウスの免疫応答に悪影響を及ぼさなかった。
【0112】
LDA分析により、LPSが誘導するケモカインCXCL10およびCX3CL1もまたPAR
1アンタゴニストによる処置に応答性であり得ることが示されたので、インビボでの中和実験もまた、CXCL10またはCX3CR1に対する抗体を用いて行なった。CXCL10、CX3CR1、または関連するCC−ケモカインCCL12(
図14および
図13)の中和の後に、好中球蓄積の減少は見られなかった。このことは、これらのケモカインが、炎症を起こした肺内への好中球遊走に直接関与しないことを強く示唆する。
【0113】
CCR2の役割をさらに除外するために、マウスをCCL2受容体CCR2に対するブロッキング抗体も用いて処置した(Bruhl,H.et al Arthritis Rheum.56,2975−2985(2007))。この抗体によるマウスの処置は、LPSにより誘導される好中球蓄積に対して効果がなかった(
図10C)。このことは、CCR2が、好中球の動員に必須ではないことをさらに示唆する。効果的なターゲットの結合は、CCR2を発現することが知られる全身性の循環中のGr−1+/CD11b+単球(Bruhl,H.et al Arthritis Rheum.56,2975−2985(2007))が、好適に使い尽くされることを示すことにより確認された(
図10d)。したがって、これらのデータは、好中球の動員が、CCR2または循環する単球の存在に依存しないことを示す。
【0114】
CCL2およびCCL7が白血球を肺内に直接的に動員することが可能であるか否かを決定するために、組み換えCCL2または組み換えCCL7を、ナイーブマウスの肺内へ投与し、3時間後にBAL液をサンプリングした。rCCL2またはrCCL7のいずれかの直接的な点滴は、生理食塩水で処置したコントロールと比較して、BAL液から回収された全細胞数を増加させた(
図15A)。rCCL2の投与は、rCCL7と比較して、より多い数の白血球の動員を誘導した(
図15A)。さらに、rCCL2またはrCCL7の投与は、肺空間内への好中球の動員ももたらした(
図15B)。BAL液から回収した全細胞のパーセンテージとして表すと、rCCL7は、rCCL2と比較して、合計の好中球の数は同程度だが、好中球の選択的な蓄積を促進することがデータから明らかであった(
図15C)。生理食塩水(
図15D)、rCCL2(
図15E)、またはrCCL7(
図15F)の投与後に、サイトスピン装置で、差次的な細胞のカウントを行なった。これらのデータは、CCL2およびCCL7の両方が、いかなる根底となる炎症も存在せずに、肺内へ好中球を引き寄せることが可能であることを明らかにする。
【0115】
CC−ケモカイン受容体CCR1が、CCL7依存性の好中球性の肺炎を仲介するか否か評価するために、LPSチャレンジの後に、CCR1に対するアンタゴニストでマウスを処置した(
図10e)。CCR1処置後に、空間における好中球増加の低減が見られた。
【0116】
まとめると、これらのデータは、CCL7は、急性肺炎の間の、空間内への好中球の遊走のための重要なケモカインであること、さらに、好中球遊走は、少なくとも部分的に、CCR1に依存することを示す。
【0117】
4.CCL7は、気管支上皮細胞から放出される。
PAR
1活性化の下流の好中球遊走が、非古典的な好中球ケモカインCCL7により仲介されるという知見は、予想に反した。CCL7の細胞源を決定するために、生理食塩水で処置した、および、LPSをチャレンジしたマウス由来の、一連の肺断面における、CCL7およびGr−1+好中球の免疫的局在性を調べた。生理食塩水で処置したコントロールの肺では、主に気管支上皮に限定された弱いCCL7染色が見られた(
図16a)。LPS損傷に応答してCCL7免疫染色は著しく増加し、また、主に気管支上皮と関連した(
図16b)。肺胞上皮では、弱い免疫的局在性のみ検出された。とりわけ、LPSで誘導したCCL7の免疫反応性は、PAR
1アンタゴニストで処置したマウスにおいて減少した(
図16c)。次に、一連の肺断面において好中球を検出するために、Gr−1特異的な免疫染色を行なった。生理食塩水で処置したコントロールでは、Gr−1染色は検出することはできなかった(
図16d)。LPSによるチャレンジの後に、Gr−1+細胞は、特に、強いCCL7免疫反応性を示す領域において増加した(
図16e)。予想どおり、PAR
1拮抗作用は、LPSをチャレンジしたマウスの肺において、Gr−1免疫反応性を減少させた(
図16f)。
【0118】
まとめると、これらの試験は、炎症を起こした肺内への好中球蓄積をLPS損傷が促進するのに続いて、CCL7が気管支上皮により産生および放出されるという知見を強く支持する。PAR
1アンタゴニストで処置されたマウスにおける、CCL7およびGr−1陽性の減衰は、炎症を起こした肺内への好中球動員の制御において重要な役割を果たすPAR
1−CCL7系とも合致する。
【0119】
LPSにより誘導される上皮−内皮バリアの崩壊に対する、PAR
1拮抗作用の効果を調べるために、LPSをチャレンジしたマウスから回収したBAL液中の血清アルブミンを測定した。血清アルブミンは通常、肺血管系および全身性循環においてのみ検出され、健康な空間内には検出されない。LPSは、チャレンジしたマウスのBAL液中の血清アルブミンの増加を誘導した(バリア破壊を示す)。しかしながら、PAR
1拮抗作用は、BAL液の血清アルブミンを有意に減少させ(p=
***)、したがって、上皮−内皮崩壊を減少させた(
図16g)。
【0120】
上皮/内皮バリアの完全性に対してPAR
1が与える影響をさらに評価するために、肺炎連鎖球菌チャレンジの後に、BAL液中の血清アルブミンレベルを測定した(
図16h)。PAR
1アンタゴニストによる処置は、肺炎連鎖球菌によるチャレンジの後のBAL液の血清アルブミンを減少させ、PAR
1が、細菌により誘導される肺胞−毛管バリアの崩壊の重要なメディエーターであることを示した。
【0121】
まとめると、これらのデータは、PAR
1シグナリングが、直接的な肺損傷の後の炎症性応答に寄与すること、および、この受容体の拮抗作用が、宿主防御を損なわずに過剰な炎症および組織損傷を低減させることの、説得力のある証拠を提供する。
【0122】
5.CCL7は、ALIの間のヒト好中球の化学走性を制御する。
CXCL8(IL−8)がヒト好中球性肺疾患における重要なケモカインであるということは広く認められているが(Miller,E.J.et al Am.Rev.Respir.Dis.146,427−432(1992))、他のケモカインが疾患病因と関連するか否かは確かでない。ヒト疾患に対するこれらの知見の潜在的意義を調べるために、次に、LPSにより誘導されるALIのヒトモデルにおいて、CCL7が増加するか否か調べた。これらの試験のために、前述のとおり、LPS(50μg)をチャレンジしてから6時間の健常なボランティア由来のBAL液中のCCL7を、ELISAにより測定した(Shyamsundar,M.et al Am.J.Respir.Crit Care Med.179,1107−1114(2009))。LPSをチャレンジした個体の肺では、コントロールの生理食塩水を与えられたボランティアと比較して、CCL7レベルが有意に増加する(p=0.01)ことが分かった(
図17a)。CCL7は直接的な好中球化学誘引物質であるとは考えられていないが(Gouwy,M.et al J.Leukoc.Biol.76,185−194(2004))、古典的な化学誘引物質に応答してCCL7がヒト好中球の遊走を促進する可能性を調べた。この目的を達成するために、ヒトボランティアの末梢血から単離されたばかりの好中球を用いて、広範囲の化学走性試験を行なった。ヒト好中球は、健常なボランティアの血液から分離した(英国Human Tissue Actの下で同意書を得た)。好中球を、二重のHistopaqueグラジエント(Histopaque 1119,Histopaque 1088,Sigma)により精製した。細胞の数および純度を、顕微鏡により評価した。ウェルあたり5×104の好中球をChemoTXプレート(Neuro Probe)にわたって(96ウェルプレート中、3μmのポア)用いた。組み換えヒトCXCL8(IL−8)およびCCL7(Peprotech)を、50ng/mlで用いた。好中球を5%CO2中で37℃でインキュベートし、下のチャンバー内に遊走した細胞を、血球計算器を用いて45分後にカウントした。予想どおり、これらの実験により、CXCL8(50ng/ml)は、培地単独と比較して、好中球の遊走を増加させる(p=0.024)ことが明らかとなった。対照的に、CCL7(50ng/ml)単独では、好中球の遊走に影響を及ぼさなかった(
図17b)。しかしながら、好中球遊走は、CXCL8単独と比較して、CXCL8およびCCL7の両方に応答して有意に増加し(p=0.001)、これらの2つのケモカインは、相乗的に好中球の化学走性を高めることを示唆した。
【0123】
ケモカイン特異的な中和抗体を用いて、LPSで処置したボランティアから得られたBAL液の好中球の化学走性活性に対するこれらのケモカインの寄与を調べた。この洗浄液は、単離されたばかりのヒト好中球に関して非常に化学走性であった。また、分離されたヒト好中球の化学走性を、10μg/mlの抗−ヒトCCL7中和抗体(抗−ヒトCCL7 AF−282−NA,R7D Systems)または10μg/mlの抗−ヒトIL−8中和抗体(抗−ヒトIL−8 AB−208−NA,R&D Systems)を含む、または含まない、ヒトBAL液(上述)に応答させて測定した。ウェルあたり5×104の好中球を添加する前に、BAL液を各中和抗体とともに10分間インキュベートした。特異的な抗体によるCXCL8の中和は、LPSでチャレンジしたボランティアから得られた洗浄液に応答する好中球の化学走性を減少させた(
図17c)。重要なことに、CCL7の中和もまた、好中球の化学走性を有意に減少させ(p=0.036)、CXCL8の中和よりも、好中球の化学走性を防止するのに効果的であった(p=0.017)。CXCL8およびCCL7に対する中和抗体の組み合わせは、CCL7単独と同程度まで好中球の化学走性を有意に減少させ(p=0.015)、したがって、CCL7の機能性重要性が示された。
【0124】
それから、集中治療室環境内で確実にALIと診断された患者から得られたBAL液中のCCL7およびCCL2のレベルを測定した。ALIを有する患者から得られたBAL液中のCCL7およびCCL2のレベルは、それぞれ、健常者と比較して有意に増加し(
図17dおよび
図17f)、CCL7およびCCL2が、ALI/ARDSの間に重要な役割を果たし得ることを示した。CCL7のレベルは、LPSをチャレンジしたボランティア由来のBALF中のレベル(8.6+/−2.1pg/ml)と比較して、ALI患者のBAL液中では10倍高く(87.7+/−17.7pg/ml)、CCL7のレベルが疾患の重症度と関連し得ることを示した。LPSをチャレンジしたボランティアから得られたBAL液で見られたように、ALI患者由来のBAL液は、好中球に関して非常に化学走性であった。驚くことに、CXCL8単独の中和は、全てのALIのBAL液に応答した好中球の化学走性を有意に減少させず(p=0.09)(
図17e)、他の好中球化学走性メディエーターがBALF中に存在し得ることを示した。しかしながら、CCL7の中和は、このBAL液に応答したヒト好中球の化学走性を有意に減少させ(p=0.007)、一方で、CXCL8およびCCL7の両方の中和は、化学走性をさらに減少させた(p=0.0007)。まとめると、これらのデータにより、ALIの状況でのヒト好中球の化学走性の調節におけるCCL7およびCCL2の機能性の重要性が確証され、および、CXCL8のみの阻害は、この疾患の状況において好中球の動員を阻害するのに不十分であり得ることが示唆される。
【0125】
6.好中球は、炎症を起こした肺において、CC−ケモカイン受容体を発現する。
CC−ケモカインに応答する好中球の能力を評価するために、血液、ナイーブ肺およびLPSチャレンジした肺から分離した好中球上の、公知のCC−ケモカイン受容体であるCCR1、CCR2およびCCR3の発現を評価し、フローサイトメトリーにより、主な好中球化学誘引物質CXCL1(KC)受容体CXCR2と比較した。血液から分離した好中球上のCCR1またはCCR2の発現が最少であることが観察され(
図18A)、一方で、ごく少ないパーセンテージの血液の好中球がCCR3を発現した(LPSチャレンジは血液の好中球上のCRR発現に影響を及ぼさなかったので、明確にする目的のために、LPSチャレンジした動物由来の血液のフローサイトメトリープロットのみ示す)。比較すると、血液から分離されたほとんど全ての好中球が、CXCR2を発現した(
図18A、
図18D)。ナイーブ肺から分離された好中球は、95%よりも多くがCXCR2を発現したのに対し(
図18B、
図18D)、CCR1、CCR2およびCCR3を発現した好中球のパーセンテージは低かった(
図18B)。しかしながら、LPSチャレンジの後に肺組織から分離された好中球は、有意により高いパーセンテージがCCR1を発現し、特にCCR2を発現した(
図18C、
図18D)。CCR2を発現する好中球のパーセンテージは、LPSチャレンジの後は35%よりも高いのに比較して、ナイーブ肺では約10%だけであった(
図18D)。炎症を起こした肺組織から分離されたCCR3を発現する好中球は、パーセンテージが増加しなかった(
図18D)。興味深いことに、炎症を起こした肺組織から分離されたCXCR2を発現する好中球のパーセンテージ(>95%)は、LPSによるチャレンジの後、ナイーブ肺と比較して減少し(<60%)(
図18D)、炎症性応答中に肺組織内へ遊走するときに、好中球は新規のケモカイン受容体を獲得することを示した。