特表2015-512122(P2015-512122A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2015-512122電子放出に関するデバイスおよび方法並びにこの電子放出系を有するデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-512122(P2015-512122A)
(43)【公表日】2015年4月23日
(54)【発明の名称】電子放出に関するデバイスおよび方法並びにこの電子放出系を有するデバイス
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/073 20060101AFI20150327BHJP
【FI】
   H01J37/073
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2014-557060(P2014-557060)
(86)(22)【出願日】2013年2月15日
(85)【翻訳文提出日】2014年9月12日
(86)【国際出願番号】EP2013053127
(87)【国際公開番号】WO2013121021
(87)【国際公開日】20130822
(31)【優先権主張番号】1251450
(32)【優先日】2012年2月16日
(33)【優先権主張国】FR
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC
(71)【出願人】
【識別番号】501089863
【氏名又は名称】サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェサイアンティフィク(セエヌエールエス)
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100108383
【弁理士】
【氏名又は名称】下道 晶久
(74)【代理人】
【識別番号】100141162
【弁理士】
【氏名又は名称】森 啓
(72)【発明者】
【氏名】アルノー アルブエ
(72)【発明者】
【氏名】フロラン ウーデリエ
【テーマコード(参考)】
5C030
【Fターム(参考)】
5C030BB17
5C030CC10
(57)【要約】
【課題】サブピコ秒のパルス幅で非常に高い電圧で加速される電子パルスを放出するのに適した電子放出デバイスを提供する。
【解決手段】本発明は、電界効果によって電子を放出するデバイスおよび方法に関する。このデバイス(10)は、−端部(18)を有し冷陰極を形成するチップ(14)と、引き出し陽極(16)と、チップ(14)と陽極(16)との間に電位差を生成するよう適応したコンポーネントと、を有する真空チャンバ(12)と、−チャンバ(12)の外部の電磁波源(22)と、−電磁波源によって放出された電磁波を、チャンバの外部から内部へチップ(14)の近傍まで転送する系(24)と、−チャンバ(12)の内部に置かれ、電磁波を集束する系(26)と、−チャンバの外部に置かれ、集束系によってチップの端部上に集束される電磁波の位置合わせを行えるよう適応した、電磁波の位置合わせを行う系(28)と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
−端部を有し冷陰極を形成するチップと、引き出し陽極と、前記チップと前記陽極との間に電位差を生成するよう適応したコンポーネントと、を有する真空チャンバと、
−前記チャンバの外部の電磁波源と、
−前記電磁波源によって放出された電磁波を、前記チャンバの外部から内部へ前記チップの近傍まで転送する系と、
−前記チャンバの内部に置かれ、前記電磁波を集束する系と、
−前記チャンバの外部に置かれ、前記集束系によって前記チップの端部上に集束される前記電磁波の位置合わせを行えるよう適応した、前記電磁波の位置合わせを行う系と、を有する電界効果電子放出デバイス。
【請求項2】
前記電磁波源、前記転送系、前記集束系および前記位置合わせ系によって形成されたアセンブリは、前記電磁波が、前記チップの端部に、例えば前記チップの軸に対して45°と135°との間の角度を有する、前記チップの軸に対して0°または180°と異なる角度で到達するよう、前記電磁波を伝搬するよう適応する、請求項1に記載の電子放出デバイス。
【請求項3】
前記電磁波源、前記転送系、前記集束系および前記位置合わせ系によって形成されたアセンブリは、前記電磁波が、前記チップの端部に、前記チップの軸に対して実質的に垂直で到達するよう、前記電磁波を伝搬するよう適応する、請求項1または2に記載の電子放出デバイス。
【請求項4】
前記転送系は、
前記チャンバの外部から前記内部に前記電磁波を透過するよう適応したエントリウィンドウと、
前記チャンバの内部において前記チップの端部の近傍まで前記電磁波を伝搬するよう適応した中空チューブであって、該中空チューブは、実質的に10kV/mmと40kV/mmとの間の誘電係数を有する材料からなる中空チューブと、を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電子放出デバイス。
【請求項5】
前記エントリウィンドウは、前記電磁波源によって放出された電磁波の波長に対して透過なセラミックスからなる、請求項4に記載の電子放出デバイス。
【請求項6】
前記電磁波を集束する系は、前記チップの一方の側部に位置付けられた平面鏡と前記チップの他方の側部に位置付けられた放物線状または球状ミラーとを有し、それぞれのミラーは前記チップと同じ電位に接続される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の電子放出デバイス。
【請求項7】
前記位置合わせ系は、少なくとも2面の走査ミラーと、例えばテレスコピックまたはテレセントリック系などの光学系と、を有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の電子放出デバイス。
【請求項8】
前記位置合わせ系は、前記チップの周囲の3次元のそれぞれにおける少なくとも0.5mmに亙って、前記集束される電磁波による走査を実現するよう適応する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の電子放出デバイス。
【請求項9】
前記チップは、
−異なる結晶軸に沿って方向付けられたタングステンチップと、
−炭素を有する材料からなる円錐形チップと、
−金チップと、を有するリストから選択される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の電子放出デバイス。
【請求項10】
前記電磁波源は、レーザであり、特にフェムト秒レーザである、請求項1〜9のいずれか一項に記載の電子放出デバイス。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の少なくとも1つの電子放出デバイスを有し、
−透過型または走査型電子顕微鏡と、
−超高速電子線回折デバイスと、
−電子線リソグラフィシステムと、を有するリストから選択される、システム。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の電子放出デバイスと、
電子光学コンポーネントを有する鏡筒と、
前記電子放出デバイスによって放出される電子を加速する手段と、を有する、電子顕微鏡。
【請求項13】
前記電子を加速する手段は、数kVと数MVとの間の加速電圧を生成するよう適応する、請求項12に記載の電子顕微鏡。
【請求項14】
−請求項1〜10のいずれか一項に記載の電子放出デバイスを提供するステップと、
−前記電子放出デバイスの前記電磁波源によって前記電磁波を前記チャンバの外部に放出するステップと、
−前記放出された電磁波を前記チャンバの内部の方向へ前記チップの近傍まで伝搬するステップと、
−前記電磁波を前記チャンバの内部で前記チップ上に集束するステップと、
−前記チップ上に集束される電磁波の位置合わせを行うステップであって、該ステップは前記チャンバの外部から実行される、位置合わせステップと、を有する電界効果によって電子を放出する方法。
【請求項15】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の電子放出デバイス、または、請求項14に記載の電子放出方法を使用して、前記電磁波源によって制御する方式で電子を放出する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子放出に関するデバイスと、これに対応する方法と、電子顕微鏡などの、放出デバイスを有するシステムと、この電子放出に関するデバイスまたは方法の使用方法と、に関する。
【0002】
詳細には、本発明は、特に透過型または走査型電子顕微鏡法を対象とする加速高電圧電子源の分野に適用される。
【背景技術】
【0003】
周知の方式において、透過型電子顕微鏡法の原理は、光学顕微鏡法で用いられる光線の代わりに電子ビームを用いることである。電子顕微鏡法では、電子ビームに関連付けられた波長によって、光学顕微鏡法で得られる分解能より遥かに高い分解能を得ることができる。
【0004】
しかしながら、電子の利用に関して様々な制約がある。特に、電子顕微鏡内で高真空が実現されなければならない。
【0005】
さらに、透過型電子顕微鏡法を実行するのに、使用されるサンプルは、電子に対して可能な限り透過になるよう極度に薄くなければならない。この場合、電子ビームは、電磁レンズを介して観測するサンプル上で集束する。
【0006】
透過型電子顕微鏡法の場合、サンプルを通過する電子のみが分析される。この場合、次の3種類の電子に分けられる。すなわち、透過されたがサンプルと反応していない電子と、サンプルの原子との相互作用に続いて、いかなるエネルギ損失も伴わずに拡散された電子と、入射電子とサンプルの原子の電子配列との相互作用に続いて、エネルギ損失を伴って拡散された電子と、である。透過された電子ビームおよび拡散された電子ビームを用いて、TEMとして知られる透過型電子顕微鏡法(Transmission Electron Microscopy;TEM)で得られるイメージのコントラストを生成することができる。
【0007】
電子銃には、2つの主要なファミリがある。すなわち、熱陰極電子銃と冷陰極電子銃とである。
【0008】
いわゆる「冷陰極電子銃」そして「冷電界放出銃」とも呼ばれる(単に誤って「電界放出銃」と呼ばれることもある)2番目の電子銃ファミリにおいて、電子は、一般にタングステンなどの細い金属チップからトンネル効果によって遊離する(arrache's)。この金属チップは、GV/mクラスの高電界を受ける。この金属チップは加熱されず、このチップを介して電流は全く流れない。そして、チップは、例えば高電圧から浮遊接地(la masse flottante de la haute tension)に接続される。この結果は、チップが実質的に室温で維持されるということである。これにより、遊離した電子は、陰極と陽極との間に適用された加速電圧によって加速される。この加速電圧は100kVクラスである。高分解能電子顕微鏡において、この加速電圧は300kVに達することがある。同様に、「冷陰極」は、このデバイスの陰極を形成するチップの端部を意味する。
【0009】
一般に、この冷陰極電子源は、エネルギ分散が低く、電子はトンネル効果によって遊離する。さらに、この冷電界放出源は、ほぼ点のようである。この場合、冷陰極電子源の強度および空間コヒーレンスは、熱陰極電子源より非常に高い。
【0010】
しかしながら、これらの冷陰極電子源には、極高真空が必要である。この真空が存在しなければ、銃のチップは酸化し、放出効果は減衰する。
【0011】
また、電子銃の様々な変形例が存在するが、例えば、熱電界放出電子銃(canon a` e'mission de champ thermo-assiste')および電界効果銃(canons a` effet de champ)、いわゆる、酸化ジルコニウムタンクを有するタングステン陰極を用いたショットキー電子銃(canons Schottky)などがある。後者のタイプの銃は、インコヒーレント熱電子源(sources incohe'rentes thermoi:oniques)とコヒーレント冷電界放出源(sources cohe'rentes a` e'mission de champ froide)との間で巧く歩み寄っているが、冷陰極電子銃のすべての利点を有するわけではない。
【0012】
独国特許出願公開第196 04 272号および米国特許出願公開第2004/0124365号には、熱電界放出電子銃または電界効果銃、いわゆるショットキー銃の実施形態が開示されている。光子ビームは、電子の放出を支援する。これらのデバイスでは、金属チップが加熱され、放出電子のかなりの部分は、この熱効果から生じる。したがって、これらのデバイスは、冷陰極電子銃を形成しない。また、これらのデバイスを用いて、冷陰極電子銃を用いて得られるのと同程度の輝度および同程度に良好な空間コヒーレンスを有する電子源を得ることはできないことに留意されたい。
【0013】
電子ホログラフィ、特に暗視野ホログラフィの分野において、特に輝度およびコヒーレンスという観点での性能が要求される。これに関しては、冷電界放出電子源が最適である。
【0014】
今日まで、電子顕微鏡法による動的プロセスの観察に異なるストラテジが用いられた。従来、調査されるプロセスの時間的尺度に従って、次の2つの手法に分けられる。すなわち、原位置のままの電子顕微鏡法および動的電子顕微鏡法である。
【0015】
電子顕微鏡のビデオカメラとのインターフェイスに基づいて、原位置のままの顕微鏡法によって、一定の露光時間で連続する画像間の間隔がミリ秒クラスの画像を得ることができる。
【0016】
今日、物理学、材料科学、化学および生物学における多くのプロセスは、ビデオ取得速度と互換でない特有の時間を有する。
【0017】
具体的には、これらの超高速現象の観察専用の動的透過型電子顕微鏡(Dynamic Transmission Electron Microscope;DTEM)技術は、1970年代以来、いくつかの開発段階を経ている。1980年代の始めに、パルスレーザに結合された光電陰極を有する電子源を用いた超高速電子線回折技術が開発された。パルス光電陰極(photocathode pulse'e)の原理は、光電効果によって極度に短い電子パルスを放出することである。この場合、電磁波によって、少なくとも光電陰極を形成する材料の出力仕事量に等しいエネルギを有する電子が提供される。1980年代の終わりに、透過型電子顕微鏡におけるパルス光電陰極の実装が実演された。これらの開発によって、時間分解能がナノ秒クラスで空間分解能が約百ナノmクラスの機器がもたらされた。
【0018】
動的電子顕微鏡法は、2つの明確に区別可能な取得モードに分けられる。ワンショットモードまたはストロボモードである。
【0019】
「ワンショット」手法において、TEM観察は、サンプルの励起と同期して単一パケットの電子によって行われる。この作動モードにおける空間分解能は、実際、画像を作成するのに必要な電子がかなりの数であることと、空間電荷およびクーロン反発の影響とによって限定される。
【0020】
ストロボ手法は、時間の経過に伴い定期的に移動する対象物を、各期間内の特定の瞬間に観察することから構成される。最近、この2番目のDTEM手法は、フェムト秒化学における超高速光分光法の実験に関するA. Zewail他著「4次元電子断層撮影法(Four Dimensional Electron Tomography)」サイエンス、2010年、第328号、第187〜193頁)において改善されている。これにより、観察対象物は、高繰り返し周波数のフェムト秒レーザ(MHz−GHz)のパルス列から獲得された超短レーザパルス、いわゆる「ポンピング(pompe)」パルスによって循環的に励起される。このパルス列の他の部分を光電陰極上で集束することによって、TEMによるサンプルの観測(撮像、電子線回折またはエネルギ損失)を可能にする超短「プローブ」電子パケットの放出が誘発される。電子パルスのそれぞれは、調査されるサンプルにおける少数の電子(1−1000)を含むのみである。したがって、十分なSN比(signal-to-noise ratio)が得られるよう多数のパルスが検出器上で集積される。遅延線によってポンピングパルスとプローブパルスとの間の時間間隔を制御することによって、サイクルの異なる瞬間で対象物を調査することができる。この解決法によって、今日、光電陰極上に集束された高強度フェムト秒レーザパルスによる電子放出の誘発に基づいて、DTEMにおいてサブピコ秒の時間分解能が得られる。
【0021】
しかしながら、空間および時間コヒーレンスが低いこと、並びに、輝度が非常に減少することなどのパルス光電陰極の本質的欠陥により、TEMでは、これらを用いて得ることができる空間およびエネルギ分解能は限定される。さらに、これらの限定により、電子干渉測定またはコヒーレント電子線回折実験に関して、これらの使用が断定的に防除される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明の目的は、上述した欠点を少なくとも一部解消する電子放出デバイスを提供することである。
【0023】
より詳細には、本発明は、特に電子顕微鏡法および干渉測定の分野に関し、サブピコ秒のパルス幅(dure'e)で非常に高い電圧で加速される電子パルスを放出するのに適した電子放出デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
この目的のため、最初の態様によれば、本発明は、
−端部を有し冷陰極を形成するチップと、引き出し陽極と、チップと陽極との間に電位差を生成するのに適したコンポーネントと、を有する真空チャンバと、
−チャンバの外部の電磁波源と、
−電磁波源によって放出された電磁波を、チャンバの外部から内部へチップの近傍まで転送する系と、
−チャンバの内部に置かれ、電磁波を集束する系と、
−チャンバの外部に置かれ、集束系によってチップの端部上に集束される電磁波の位置合わせを可能にするのに適した、電磁波の位置合わせを行う系と、を有する電界効果電子放出デバイスを提案する。
【0025】
この電子放出デバイスは、冷陰極電子銃デバイスのファミリに属する、すなわち、電子がトンネル効果によって遊離し、超高速パルス電界効果電子放出を確実に行うことができる。
【0026】
好ましい実施例によれば、本発明に係る電子放出デバイスは、以下の特徴の1つまたは複数を、別々にまたは組み合わせて有する。
−電磁波源、転送系、集束系および位置合わせ系によって形成されたアセンブリは、電磁波が、チップの端部に、陰極の軸に対して0°または180°と異なる角度で到達するよう、電磁波を伝搬するのに適する。
−電磁波源、転送系、集束系および位置合わせ系によって形成されたアセンブリは、電磁波が、チップの端部に、例えば陰極の軸に対して45°と135°との間の角度で到達するよう、電磁波を伝搬するのに適する。
−電磁波源、転送系、集束系および位置合わせ系によって形成されたアセンブリは、電磁波が、チップの端部に、陰極の軸に対して実質的に垂直で到達するよう、電磁波を伝搬するのに適する。
−転送系は、チャンバの外部から内部に電磁波を透過するのに適したエントリウィンドウと、チャンバの内部においてチップの端部の近傍まで電磁波を伝搬するのに適した中空チューブであって、該中空チューブは、実質的に10kV/mmと40kV/mmとの間の誘電係数を有する材料からなる中空チューブと、を有する。
−エントリウィンドウは、電磁波源によって放出された電磁波の波長に対して透過なセラミックスからなる。
−電磁波を集束する系は、チップの一方の側部に位置付けられた平面鏡とチップの他方の側部に位置付けられた放物線状または球状ミラーとを有し、それぞれのミラーはチップと同じ電位に接続される。
−位置合わせ系は、少なくとも2面の走査ミラーと、例えばテレスコピックまたはテレセントリック系などの光学系と、を有する。
−位置合わせ系は、チップの周囲の3次元のそれぞれにおける少なくとも0.5mmに亙って、集束される電磁波による走査を実現するのに適する。
−チップは、
・異なる結晶軸に沿って方向付けられたタングステンチップと、
・炭素を有する材料からなる円錐形チップと、
・金チップと、を有するリストから選択される。
−電磁波源は、レーザであり、特にフェムト秒レーザである。
−電磁波源によって放出される電磁波の波長は、0.1μmと8μmとの間である。
【0027】
また、第2の態様によれば、本発明は、先に記載した少なくとも1つの電子放出デバイスを有するシステムに関する。このシステムは、
・透過型または走査型電子顕微鏡と、
・超高速電子線回折デバイスと、
・電子線リソグラフィシステムと、を有するリストから選択される。
【0028】
さらに、第3の態様によれば、本発明は、先に記載した電子放出デバイスと、電子光学コンポーネントを有する鏡筒と、電子放出デバイスによって放出された電子を加速する手段と、を有する電子顕微鏡に関する。
【0029】
好ましい実施例によれば、電子を加速する手段は、数kVと数MVとの間の加速電圧を生成するよう適応する。
【0030】
また、第4の態様によれば、本発明は、電界効果によって電子を放出する方法に関する。この方法は、
・先に記載した電子放出デバイスを提供するステップと、
・電子放出デバイスの電磁波源によって電磁波をチャンバの外部に放出するステップと、
・放出された電磁波を、チャンバの内部の方向へチップの近傍まで伝搬するステップと、
・電磁波をチャンバの内部でチップ上に集束するステップと、
・チップ上に集束される電磁波の位置合わせを行うステップであって、該ステップはチャンバの外部から実行される、位置合わせステップと、を有する。
【0031】
また、第5の態様によれば、本発明によって、先に記載した電子放出デバイスまたは電子放出方法を使用して、電磁波源によって制御する方式で電子を放出する方法が提案される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明に係る電子放出デバイスのブロック図である。
図2図1の電子放出デバイスの電磁波の転送系の一実施形態の断面透視概略図である。
図3図1の電子放出デバイスの電磁波の集束系の一実施形態の透視概略図である。
図4図3の集束系が作動するときの断面概略図である。
図5】本発明に係る電子放出デバイスを有する電子顕微鏡の電子源の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の他の特徴および利点は、一例として挙げられる本発明の好ましい実施例に従った以下の記載を、添付図面を参照しながら読むことによって明らかになるであろう。
【0034】
これらの異なる図において、同様の構成要素は同一の参照符号で示される。さらに、これらの異なる構成要素は、本発明の理解を容易にする図を示すことを目的とし、必ずしも等比で図示されるものではない。
【0035】
図1は、本発明に係る冷電界効果電子放出デバイス10を例示する。この電子放出デバイス10は、チップ14および引き出し陽極(anode extractrice)16を有する真空チャンバ12を有する。
【0036】
この引き出し陽極16は、例えば正にバイアスされた金属プレートである。
【0037】
冷陰極を形成するチップ14は、先端と呼ばれる端部18を有する。これは、金属であり、非常に細いチップ形状で用意される。
【0038】
例えば、チップ14は、異なる結晶軸に沿って方向付けられたタングステンチップ、炭素を有する材料からなる円錐形チップ、金チップである。
【0039】
冷陰極を形成するチップの先端の曲率半径は、チップの効果によって十分な電界を得ることができる50nm以下であることが好ましい。
【0040】
冷電界効果電子放出デバイス10とは、チップ14が作動するとき加熱されないことを意味する。
【0041】
周知の方式において、陰極の先端は、引き出し陽極16から1mmと15mmとの間の最適化された距離で配置される。
【0042】
さらに、電子放出デバイス10は、チャンバ12に接続され、このチャンバ12の内部で、例えば圧力が10-9Paに実質的に等しい超高真空などの真空を生成するのに適したポンプ系(syste`m de pompage)20を有する。勿論、チャンバ12は、この真空を支持するのに適した材料である。
【0043】
例えば、ポンプ系20は、陰極14の近くに配置された1つもしくは複数のイオンポンプ並びに/または1つもしくは複数の溜め込み式ポンプを有する。周知の方式において、一般に(「非蒸発型ゲッタ(Non Evaporate Getter)」の頭文字によって)NEGポンプと呼ばれる溜め込み式ポンプは、本明細書に記載する特別な場合に電子放出デバイス10が作動しているとき動的ポンプを改善するよう適応したいわゆる「ゲッタ(getter)」の非蒸発性材料(non-evaporable materials)を有する。
【0044】
さらに、電子放出デバイス10は、図1に図示されないが、チップ14と引き出し陽極16との間に電位差を生成するのに適したコンポーネントをさらに有する。
【0045】
さらに、電子放出デバイス10は、一般に「フラッシュ」と呼ばれ、チップ14において弱電流を生成して流すのに適した陰極を洗浄する系を有してもよい。この洗浄系は、特に陰極の不純物を低減することができる。
【0046】
さらに、電子放出デバイス10は、電子放出デバイス10を完全に乾燥する(e'tuvage complet)間にチップの近傍に配置された、例えば引き出し陽極の脱気を行う系などの引き出し陽極16を洗浄する系を有してもよい。例えば、この脱気系は、加熱抵抗、ハロゲンランプまたはタングステンフィラメントさえ有し、これらによってチップに対面する引き出し陽極の面の方向にかなりの量の電子が放出される。
【0047】
電子放出デバイス10は、チャンバ12の外部に電磁波源22をさらに有する。電磁波源22は、超高速である、すなわち、パルス幅が実質的に1ピコ秒未満である超短電磁波パルスを生成するのに適する。
【0048】
電磁波源22によって放出された電磁波は、0.1μmと8μmのとの間の波長を有することが好ましい。
【0049】
例えば、電磁波源22は、レーザであり、特に、放出波長が赤外線と紫外線との間のフェムト秒レーザなどのフェムト秒レーザである。
【0050】
さらに、電磁波源22は、チャンバ12の外部に置かれた、電磁波源22によって放出された電磁ビームの分極(polarisation)を調整する手段を有する。
【0051】
電子放出デバイス10は、電磁波源22によって放出された電磁波を、チャンバ12の外部から内部の方向へチップ14の近傍まで転送する系24をさらに有する。
【0052】
チャンバの外部から内部へ電磁波を転送する系24は、チップ14の後方、すなわち引き出し陽極16の反対側から、チップ14の先端18の近傍まで、電磁波を転送するのに用いることができることが好ましい。
【0053】
このチップの後方から転送する系によって、引き出し陽極、電子を集束するのに適した陽極、いわゆる「銃レンズ」、放出電子を加速する手段、鏡筒および検出器などのチップのもとに配置された標準的な透過型電子顕微鏡の構成要素を変更しなくてよく、このため、その卓越した光学的性質を変えないまま保つことができる。
【0054】
さらに、電子放出デバイス10は、チャンバ12の内部に置かれチップ14の端部18上に電磁波を集束する系26と、チャンバ12の外部に置かれ集束系26によってチップ14の端部上に集束される電磁波の位置合わせ(alignement)を可能にするのに適した電磁波の位置合わせ系28と、を有する。
【0055】
電磁波源22、転送系24、集束系26および位置合わせ系28によって形成されたアセンブリは、電磁波が陰極14の軸に垂直にチップ14の端部18に到達することができるよう電磁波を伝搬するのに適する。
【0056】
このアセンブリによって、電子が放出される方向すなわちチップの軸に平行にチップ上に到達する電磁波の分極が可能になる。
【0057】
上記アセンブリの幾何学的配置が特に有利な実施形態に対応する場合、上記アセンブリの異なる幾何学的配置で本発明を適用可能であることに留意されたい。この場合、電磁波源22、転送系24、集束系26および位置合わせ系28によって形成されたアセンブリは、電磁波がチップ14の軸に対して0°または180°と異なる角度でチップの端部18に到達できるよう電磁波を伝搬するのに適する。これらの場合、チップ上に到達する電磁波の分極は、チップの軸に対して垂直でない。得られる効果は、チップ上に到達する電磁波の分極とチップの軸との間の角度のコサインの2乗に比例する。当業者は、求められる効果に応じて適した角度を選択してもよい。一実施形態によれば、電磁波源22、転送系24、集束系26および位置合わせ系28によって形成されたアセンブリは、電磁波がチップ14の軸に対して45°と135°との間の角度でチップの端部18に到達できるよう電磁波を伝搬するのに適する。
【0058】
この目的のため、転送系、集束系および位置合わせ系について以下で詳細に記載する。
【0059】
図2は、図1の電子放出デバイスの電磁波を転送する系24の一実施形態をより詳細に例示する図である。
【0060】
転送系24は、第1のウィンドウ30と、中空チューブ32と、以降エントリウィンドウ36と呼ばれる第2のウィンドウ36と、を有する。中空チューブ32は、第1のウィンドウ30とエントリウィンドウ36との間に置かれる。
【0061】
第1のウィンドウ30は、電磁波源22によって放出された電磁波をチューブ32の外部から内部に透過するよう適応する。これは、電磁波源22によって放出された電磁波の波長に対して透過な従来のガラスからなる。
【0062】
中空チューブ32は、チャンバ12内で電磁波をチップ14の端部18の近傍まで伝搬するよう適応する。
【0063】
中空チューブ32は、誘電係数が実質的に10kV/mmと40kV/mmとの間である材料からなることが好ましい。特に、このチューブは、超純粋アルミナからなる。この材料の選択によって、中空チューブ32の上流に配置され電位が地電位である放出デバイス10の構成要素を、中空チューブ32の下流に配置され平均電位が負の高加速電圧(−HV)で浮遊するチップ14の周囲の領域から電気的に絶縁することができる。上流および下流という用語は、電磁波源22によって放出された電磁波がチップ14まで伝搬される方向に対する意味で用いられる。
【0064】
さらに、チューブの材料および形状は、チューブの長さを最小にするのに適するよう選択される。例えば、200kVで作動する電子源に関して、長さを大きくせずに絶縁領域表面を大きくするよう適応した漏洩線を有する超純粋カットアルミナセラミックチューブによって、チューブの長さを10cmまで小さくしてかさ高性を最小にできることは、有利である。
【0065】
転送系24は、中空チューブ32に接続され、中空チューブ32の内部に(10-7Paクラスの)標準的真空を生成して維持するのに適したポンプデバイス(図示せず)をさらに有する。
【0066】
チューブの内部が真空に(in vacuo)維持されるこの転送系によって、電磁ビームを自在に伝搬することができる。これにより、物質媒体を通過することによって電磁パルスの特性上に与えられる影響(分散、自己位相変調)を最小にし、したがって電磁パルスの時間延長を最小にすることができる。
【0067】
絶縁セラミックスを有し、電磁波源22によって放出された電磁波の波長に対して透過なこの転送系によって、超高速電磁ビームは、超高真空(UHV)領域においてチャンバ12の外部からチャンバ12の内部へ通過することができると同時に、チップ14と引き出し陽極16との間と、−HVの浮遊領域と接地領域との間とにおける電気絶縁性を維持することができる。
【0068】
エントリウィンドウ36は、UHV環境において中空チューブ32を介してチップ14へ、特にチャンバ12の外部から内部へ、転送された電磁波を透過するよう適応する。このウィンドウは、電磁波源22によって放出された電磁波の波長に対して透過な材料からなる。これは、セラミックス、特にアルミナに基づくセラミックスからなることによって、チップ14と引き出し陽極16との間で維持される引き出し電圧を絶縁できることが好ましい。
【0069】
中空チューブ32の下流の端部にこのエントリウィンドウ36を配置することによって、標準的真空(10-7Pa)に維持された領域の電磁ビームを、電界放出源の適切な作動に必要な超高真空領域(10-9Pa)に移送することができる。
【0070】
転送系24のこの実施形態によって、電磁波を真空内でチャンバの外部から高加速電圧を有する浮遊領域へ自在に伝搬することができる。
【0071】
転送系のより簡易な代替案として、走査型電子顕微鏡法、リソグラフィ、…などの適用が想定されてもよい。この代替案によれば、転送系は、中空チューブを有せず、前に記載した本実施例のエントリウィンドウ36と同一の透過セラミックスからなる単一のウィンドウを有する。
【0072】
図3および図4を考慮すると、電磁波を集束する系26は、チップ14のいずれかの側部に位置付けられた平面鏡50と放物線状または球状ミラー52とを有する。放物線状または球状ミラー52は、チップ14の端部18から実質的に焦点距離に等しい距離だけ離して置かれる。これにより、焦点スポット(tache focale)のサイズを調整することができ、したがって電子放出を誘発するのに使用可能な電力密度を調整することができる。
【0073】
それぞれのミラー50、52は、チップ14と同じ誘電電位(−HV)に接続される。これにより、特に、破裂放電および真空に関する問題を回避することができる。
【0074】
さらに、それぞれのミラーは、機械的にチップ14に結合され、すなわちチップ14に固定された支持具(support)に取り付けられ、引き出し陽極16の中心に対するチップ14の位置合わせ(alignement)中に事前に調整されたチップ14に対するミラー50、52の位置合わせを保持することができる。
【0075】
さらに、それぞれのミラー50、52は、低脱気材料で処理され、電磁波源22によって放出された電磁ビームの波長において反射係数が最大となる反射面を有する。
【0076】
作動するとき、符号53が付され転送系24によって転送された電磁ビームは、平面鏡50によって放物線状または球状ミラー52の方向へ反射され、今度は、このミラーによって、電磁ビームは、チップの端部の方向へ反射されチップ14の端部上で集束する。
【0077】
無論、例えばカセグレン(Cassegrain)タイプなどの反射光学部品を有する他の集束系が使用されてもよい。
【0078】
図5は、本発明に係る電子放出デバイス10を有する電子顕微鏡の電子源70を例示する図である。
【0079】
図5を考慮すると、位置合わせ系28は、2つの走査ミラー54、56と、例えばテレスコピック(telescopic)またはテレセントリック(telecentric)系などの光学系58と、それぞれがチャンバの外部に置かれた2つの平面鏡60、62と、を有する。
【0080】
例えばテレスコピックまたはテレセントリック系などの光学系58は、2つの走査ミラー54、56によって形成されたアセンブリと2つの平面鏡60、62によって形成されたアセンブリとの間に置かれる。
【0081】
位置合わせ系28は、チップの周囲の3次元のそれぞれにおける少なくとも0.5mmに亙って、集束される電磁波による走査を実現する(re'aliser un balayage de l'onde e'lectromagne'tique focalise'e d'au moins 0,5 mm dans chacune des trois dimensions autour de la pointe)のに適する。
【0082】
この目的のため、平面鏡60、62は、電磁ビームを粗く位置合わせするよう適応し、一方、走査ミラー54、56は、電磁ビームの位置合わせを正確に調整するよう適応する。
【0083】
例えばテレスコピックまたはテレセントリック系などの光学系58のレンズと、平面鏡60、62とは、正確で機械的な位置合わせの支持具によって、相互に対する位置を調整することができる。
【0084】
さらに、例えばテレスコピックまたはテレセントリック系などの光学系58のレンズの1つは、平行移動ステージに配置される。走査ミラー54、56は、(相互に垂直な第1および第2の方向によって規定される)電磁ビームに対して垂直な面でチップ上に集束する電磁ビームのスポットを移動するよう置かれ、平行移動ステージに配置されたレンズは、最初の2つの方向に垂直な第3の方向に沿ってスポットを移動するよう置かれる。
【0085】
この位置合わせ系28を用いて、電磁ビームの光路上に配置された異なる光学コンポーネント54、56、58、60、62、50、52の位置および方向を調整することによって、チップの端部上に電磁ビームを集束する一方、チップを有するチャンバの外部からビームの3次元走査を行うことができる。
【0086】
さらに、電子放出デバイスを作動しながら(UHV、高加速電圧、引き出し電圧)、チップの端部上に集束されるビームの位置のこの調整を実現することができる。このため、この位置合わせ系28によって、電子に関する放出条件の最適化における柔軟性が提供される。
【0087】
このため、この電子放出デバイスの実施形態によって、電子放出電流を、焦点スポットの位置、すなわち位置合わせ系28の異なる光学素子の位置に従わせることができ、これにより、放出量を最大にすることができる。
【0088】
さらに、集束系26は、それぞれのミラー50、52の方向および位置を調整する系(図示せず)を有してもよい。例えば、調整系は、スティックスリップタイプの平行移動に従って作動する機械的調心系またはピエゾチューブである。この場合、調整系は、電子放出デバイスを作動し始めるとき、高加速電圧の同じ浮遊電位でなければならない。
【0089】
作動するとき、電磁波源22は、チャンバ12の外部に伝搬する電磁波を、一方では位置合わせ系28を介して、そして他方では転送系24を介して放出する。転送系によって、電磁波は、中空チューブ32における標準真空領域中へ、チップ14の近辺における超真空領域へと順次貫通することによって、チャンバ12の外部から内部へ通過する。
【0090】
次に、電磁ビームは、集束系によって冷陰極を形成するチップの端部上に集束される。さらに、電磁ビームの分極は、電子の放出方向に対して、すなわちチップに対して平行である。
【0091】
高強度電界は、引き出し陽極16から最適化された距離に配置された陰極14の先端上に適用される。引き出し電圧と呼ばれる陽極16のバイアス電圧が大きければ大きいほど、この電界はより高強度になる。同様に、陰極14の先端が細ければ細いほど、この電界は、より高強度である。後者が十分であるとき、電子は、この特定の場合において電界効果と呼ばれるトンネル効果によって金属チップ14から外部に引き出される(extraits)。
【0092】
本発明によれば、電子の引き出しは、陰極14の先端18上に集束された電磁ビームによって誘発される。電界効果による電子の放出は準瞬時に起こるので、本発明によって、誘発に使用される電磁パルスのパルス幅に匹敵するかまたはより良いパルス幅を有する電子パルスを得ることができる。
【0093】
実際、電子の引き出しは、チップ上に集束され電子の放出方向と平行に分極された電磁界によって促進される。このため、電界放出は、1つまたは複数の光子の吸収によって支援される電界放出によって、または、チップ14の先端18における電磁波の電力密度とチップ14を構成する材料のタイプとに応じた光場放出(e'mission de champ optique)によって達成される。
【0094】
電子の放出は、先端上に集束された電磁界によって誘発される一方、電子放出領域が小さいため標準冷電界放出陰極の例外的強度特性を保つ。
【0095】
このため、本発明に係る電子放出デバイスは、超高速電磁波によって支援される電界放出によって超短パルスを伝達する。
【0096】
上記電子放出デバイスは、電子放出方法の適用と、特に以下で記載する本発明に係る電子放出方法とに適応する。
【0097】
本発明に係る電子を放出する方法は、先に記載した本発明に係る電子放出デバイスを提供するステップを有する。
【0098】
さらに、この電子放出方法は、電子放出デバイスの電磁波源によってチャンバの外部に電磁波を放出するステップを有する。放出された電磁波の分極をチャンバ12の外部から調整することによって、チップに対する方向付けが制御される。
【0099】
この場合、放出された電磁波は、チャンバの外部から内部へチップの近傍まで伝搬される。
【0100】
そして、電磁波は、チャンバの内部でチップ上に集束される。
【0101】
さらに、この方法は、チップ上に集束された電磁波の位置合わせを行うステップであって、チャンバの外部から実現される位置合わせステップを有する。
【0102】
この位置合わせステップは、例えば、機械的調心系、または、スティックスリップで作動するピエゾチューブによって、高電圧を適用せずに陰極の周囲に搭載された集束系を調整することによって、加速器の電圧が上がったときこれらをバイアスされたままにしない準備ステップを有する。
【0103】
一旦、チップの近くに配置された、平面鏡50と放物線状または球状ミラー52とが粗く調心されると、チップはチャンバ内に配置される。
【0104】
さらに、位置合わせステップは、2つの平面鏡60、62によって電子ビームの位置合わせを粗く行うステップと、それから、陰極のチップ上に集束された電磁ビームの位置を正確に調整するステップであって、該ステップは、例えばテレスコピックまたはテレセントリック系などの光学系58と走査ミラー54、56とを組み合わせて用いることによってチャンバ12の外部から実現されるステップと、を有する。さらに、先に記載した位置合わせ系は、電磁ビームの走査を陰極によって放出される電子の強度で制御することによって位置合わせステップを自動化して、放出量を最大にできるようにしてもよい。
【0105】
図5を考慮すると、電子顕微鏡の電子源70は、他のチャンバ71をさらに有する。
【0106】
UHVおよび高電圧下のチャンバ12は、引き続き外部チャンバ71と呼ばれるこの他のチャンバ71の内部に置かれる。
【0107】
外部チャンバ71は、UHVおよび高電圧下のチャンバ12を他のチャンバ71の外部から電気的に絶縁するよう適合する。この目的のため、例えば、外部チャンバ71は、特にSF6などの加圧絶縁ガスで満たされる。
【0108】
このため、外部チャンバ71の外部に置かれ電位が接地である電子放出デバイス10の構成要素は、平均電位が負の高加速電圧(−HV)で浮遊する(flottant)チップ14の周囲の領域から電気的に絶縁される。
【0109】
さらに、転送系24は、中空チューブ32とエントリウィンドウ36に固定して取り付けられたチップ14との間にフレキシブル連結34を有する。
【0110】
図2を考慮すると、フレキシブル連結34は、ベローズ、特に一緒に溶接されたウエハで形成されるベローズを有し、陰極14が外部チャンバ71および中空チューブ32によって形成されたアセンブリに対して自由に動くことができるよう適応する。
【0111】
さらに、フレキシブル連結34は、中空チューブ32とエントリウィンドウ36との間に置かれる。
【0112】
転送系24および外部チャンバ71のこの配置によって、電磁ビームは、加圧絶縁ガスを含む領域をビームの特性を変更せずに横断することができる一方、チップ14は、外部チャンバ71に対して自由に動くことができる。
【0113】
他の態様によれば、本発明は、前に述べた少なくとも1つの電子放出デバイス10を有する任意のシステムに関する。
【0114】
特に、このシステムは、透過型または走査型電子顕微鏡、超高速電子線回折デバイスまたは電子線リソグラフィシステムである。
【0115】
図5を参照すると、システムが透過型電子顕微鏡の電子源である場合について記載されている。
【0116】
システムが電子顕微鏡である場合、後者は、図5に例示される電子源70、鏡筒および例えばカメラなどの検出器を有する。
【0117】
周知の方式において、鏡筒は、特に画像を形成するのに適した電子光学コンポーネントを有する。
【0118】
特に、この鏡筒は、集光レンズ、対物レンズ、観察対象、中間レンズおよび投影レンズを有する。
【0119】
図5を考慮すると、透過型電子顕微鏡の電子源70は、電子放出デバイス10によって放出された電子ビームを集束するデバイスを有する。この集束デバイスは、チャンバ12の内部で引き出し陽極16の下流に置かれる。これは、電子を集束するよう適応し現在「銃レンズ」と呼ばれる陽極73を有する。
【0120】
さらに、透過型電子顕微鏡の電子源70は、外部チャンバ71内部で集束デバイスの下流に置かれ電子放出デバイス10によって放出される電子を加速する手段74を有する。この場合、下流という用語は、チップ14から引き出された電子の伝搬方向に対する意味である。
【0121】
電子を加速する手段74は、数kVと数MVとの間の加速電圧を生成するよう適応する。これらは、絶縁セラミックスによって分離されバイアスされた複数の陽極76を有する。加速手段74は、鏡筒72の内部で、電子の伝搬方向においていわゆる「銃レンズ」の陽極の後に置かれる。
【0122】
作動するとき、電子放出デバイス10は、例えば先に記載した方法に従って電子を放出する。
【0123】
次に、放出された電子は、銃レンズと呼ばれる第2の陽極を用いて集束され、そして、絶縁セラミックスによって分離された一連のバイアスされた陽極によって加速される。加速電圧は、一般に、100kVのクラスである。
【0124】
電子を加速することによってこれらの波長を低減し、これにより、関連付けられた光学システム、この場合は透過型電子顕微鏡の分解能を増大させることができる。
【0125】
本発明に係る電子放出デバイスは、電磁波源と電子顕微鏡などのシステムの高電圧冷電界放出電子源との結合に基づく。
【0126】
まず、本発明に係る電子放出デバイスによって、超高速電磁波源、すなわち本明細書に記載した本実施例ではフェムト秒レーザ光源によって支援された超短電界効果パルスを伝達することができる。
【0127】
このため、本発明に係る電子放出デバイスおよび電子放出方法を用いて、電磁波源によって制御する方式で電子を放出することができる。電磁波源によって、電子が放出される瞬間および/または放出される電子の個数を制御することができる。
【0128】
このため、高電圧によって加速され超短電子パルスを伝達するこの電子放出デバイスによって、1ピコ秒より小さい時間分解能を用いた電子顕微鏡法および時間分解電子干渉法による観察が可能になる。実際、コヒーレント透過型電子顕微鏡検査技術を、本発明に係るこの電界効果電子放出デバイスに直接置き換えることによって、動的現象をサブピコ秒時間分解能まで観察することができる。
【0129】
さらに、この電子源を用いて透過型電子顕微鏡(microscope e'lectronique en transmission:MET、または英語でTransmission Electron Microscope:TEM)から回折パターンを生成することができる。このタイプの技術は、周知であり、超高速動特性に従ってナノ対象物の時間に応じた構造的変化を観察するのによく用いられ、TEMの技術的な複雑さからくる欠点を伴わない。さらに、本発明に係る電界効果電子放出デバイスを用いることによって、これらの回折技術を干渉測定技術と組み合わせ、このためコヒーレント電子線回折を実現することができる。
【0130】
勿論、本発明は、記載および例示された実施例および実施形態に限定されないが、当業者によって利用可能な多くの代替が可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】