特表2015-512247(P2015-512247A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2015-512247光線力学的療法に使用するための新規光免疫複合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-512247(P2015-512247A)
(43)【公表日】2015年4月27日
(54)【発明の名称】光線力学的療法に使用するための新規光免疫複合体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20150331BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20150331BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20150331BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20150331BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20150331BHJP
   A61K 41/00 20060101ALI20150331BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20150331BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20150331BHJP
   A61K 47/48 20060101ALI20150331BHJP
   A61K 47/42 20060101ALI20150331BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C07K16/28
   C12P21/08
   C12P21/02 C
   C07K19/00
   A61K41/00
   A61P35/00
   A61K39/395 C
   A61K47/48
   A61K47/42
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2015-500780(P2015-500780)
(86)(22)【出願日】2012年3月21日
(85)【翻訳文提出日】2014年9月18日
(86)【国際出願番号】EP2012055022
(87)【国際公開番号】WO2013139391
(87)【国際公開日】20130926
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,MD,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC,VN
(71)【出願人】
【識別番号】500253069
【氏名又は名称】フラウンホーファ−ゲゼルシャフト ツァー フォルデルング デア アンゲバンデン フォルシュンク エー. ファオ.
【氏名又は名称原語表記】FRAUNHOFER−GESELLSCHAFT ZUR FORDERUNG DER ANGEWANDTEN FORSCHUNG E. V.
(71)【出願人】
【識別番号】514237828
【氏名又は名称】ライニッシュ−ヴェストファリシェ テクニシェ ホッホシューレ アーヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100085279
【弁理士】
【氏名又は名称】西元 勝一
(72)【発明者】
【氏名】バース ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ツール メーメット ケマル
(72)【発明者】
【氏名】ハサイン アハマド
【テーマコード(参考)】
4B024
4B064
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B024AA01
4B024BA44
4B024CA01
4B024CA11
4B024DA03
4B024EA04
4B024GA11
4B024HA01
4B064AG27
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA03
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4C084AA11
4C084NA05
4C084ZB262
4C085AA21
4C085AA24
4C085BB11
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG01
4H045AA11
4H045BA41
4H045BA70
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
抗体またはその誘導体もしくはその断片、scFvなどの合成ペプチド、ミモトープからなる群より選択され、CD抗原、サイトカイン受容体、インターロイキン受容体、ホルモン受容体、成長因子受容体、特にErbBファミリーのチロシンキナーゼ成長因子受容体、と結合したタンパク質と共有結合した光増感剤を含み、該光増感剤が修飾ヒトDNA修復タンパク質であるO6−アルキルグアニン−DNAアルキルトランスフェラーゼ(hAGTm)を介して該結合タンパク質と結合している化合物。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体またはその誘導体もしくはその断片、scFvなどの合成ペプチド、ミモトープからなる群より選択され、CD抗原、サイトカイン受容体、インターロイキン受容体、ホルモン受容体、成長因子受容体、特にErbBファミリーのチロシンキナーゼ成長因子受容体、と結合したタンパク質と共有結合した光増感剤を含み、
該光増感剤が修飾ヒトDNA修復タンパク質であるO6−アルキルグアニン−DNAアルキルトランスフェラーゼ(hAGTm)を介して該結合タンパク質と結合している化合物。
【請求項2】
内部移行性且つ疾患特異的な細胞表面受容体を特異的に標的とする、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記チロシンキナーゼ成長因子受容体に結合するタンパク質がscFv抗体断片、特に配列番号2のポリヌクレオチド配列によりコードされる配列番号1のscFv抗体断片である、請求項1または請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
配列番号4のポリヌクレオチド配列によりコードされる配列番号3のアミノ酸配列を有する、請求項1〜請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
前記光増感剤がO6−アルキルグアニン−DNAアルキルトランスフェラーゼの活性部位と結合している、請求項1〜請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
前記光増感剤がポルフィリン、クロロフィル、および色素からなる群から選択される、請求項1〜請求項4に記載の化合物。
【請求項7】
抗体またはその誘導体もしくはその断片、scFvなどの合成ペプチド、ミモトープからなる群から選択される結合タンパク質を含み、該結合タンパク質が、CD抗原、サイトカイン受容体、インターロイキン受容体、ホルモン受容体、成長因子受容体、特にErbBファミリーのチロシンキナーゼ成長因子受容体、と結合し、O6−アルキルグアニン−DNAアルキルトランスフェラーゼ(hAGTm)と称される修飾ヒトDNA修復タンパク質と共有結合している化合物。
【請求項8】
前記結合タンパク質がscFv抗体断片、特に配列番号1および/または配列番号3のscFV抗体断片である、請求項7に記載の化合物。
【請求項9】
特に配列番号2および/または配列番号4を含む、請求項7に記載の化合物をコードするポリヌクレオチド配列。
【請求項10】
請求項1に記載の化合物をコードする、配列番号5のヌクレオチド配列のポリヌクレオチド。
【請求項11】
O6−アルキルグアニン−DNAアルキルトランスフェラーゼ(hAGTm)を、抗体またはその誘導体もしくはその断片、scFvなどの合成ペプチド、ミモトープからなる群から選択される結合タンパク質と融合するステップを含み、該結合タンパク質が、CD抗原、サイトカイン受容体、インターロイキン受容体、ホルモン受容体、成長因子受容体、特にErbBファミリーのチロシンキナーゼ成長因子受容体、と結合する、請求項7に記載の化合物を製造する方法。
【請求項12】
真核生物発現ベクターpMS−SNAPのSifIおよびNotIによる消化部位にscFv−425配列が挿入されて、N末端結合リガンド(scFv−425)およびC末端SNAPタグ配列を与える、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記scFv−425−SNAP融合タンパク質が、ヒト胎児腎臓細胞株、特にHEK−293T細胞(ATCC:CRL−11268)で発現する、請求項11または請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記scFv−425−SNAP融合タンパク質がアフィニティークロマトグラフィー、特にNi−NTAアフィニティークロマトグラフィーにより無細胞上清から精製される、請求項11〜請求項13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
請求項7の化合物と結合した、以下の式のポルフィリン誘導体。
【化1】
【請求項16】
クロリンe6などのポルフィリン光増感剤のカルボキシ基の少なくとも一部を、活性化エステルへと、またはカップリング剤により、反応させ、続いてO6−ベンジルグアニン、O2−ベンジルシトシン、またはコエンザイムA(CoA)と反応させる、請求項15に記載の化合物の製造方法。
【請求項17】
O6−ベンジルグアニン、O2−ベンジルシトシン、またはコエンザイムA(CoA)が、PEG−24−NHなどのリンカー分子と結合しており、および/または、前記活性化エステルが、NHSなどのスクシンイミドから形成されるか、または前記カップリング剤がEDC、EDAC、およびDCCなどのカルボジイミドからなる群から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項1〜請求項8の少なくとも1項に記載の化合物と、光免疫療法と関連した薬学的効果を改善または可能にする薬学的に許容可能なアジュバントと、を含む医薬。
【請求項19】
光免疫療法により癌を治療するための、請求項1〜請求項8の少なくとも1項に記載の化合物の使用。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
光線力学的療法(PDT)は、癌治療に対する有望で低侵襲な方法である。改良された光増感剤および臨床応用プロトコルの導入に続き、FDAに認可されたいくつかのPDT薬が利用可能となり、種々の前臨床段階および臨床開発段階にあるものもある。光感作性薬剤は、無害な光により活性化された場合、細胞障害性を示すことにより直接的に、または有毒なフリーラジカルもしくは活性酸素種(ROS)のin situでの産生を開始することにより間接的に、その効果を発揮する。これらの処理により細胞に損傷が生じ、最終的にアポトーシスまたはネクローシスによる細胞死が誘導される。細胞の損傷部位は、光増感剤の種類、インキュベーション期間、および送達方法に依存している。疎水性光増感剤は細胞膜を損傷する傾向があるが、カチオン性光増感剤はミトコンドリアなどの膜小胞内に蓄積して局所的損傷を引き起こす
【0002】
PDTにおける最大の課題の一つは、標的特異性がないことである。光増感剤は、光による活性化の後、癌組織だけでなく正常組織にも損傷を与え、これにより長期の皮膚光過敏がもたらされる場合がある。PDTの特異性を高めるため、光増感剤を癌特異的なモノクローナル抗体または一本鎖抗体断片(scFv)と結合して、光増感剤を直接的に癌組織に送達するいわゆる光免疫複合体が得られている。この方法は、光免疫療法(PIT)として知られている。抗体−光増感剤複合体の最適な理論混合比での産生を保証する確実な方法が存在しないため、標準的なカップリング反応は光増感剤と抗体の結合には適していない。さらに、光増感剤の化学的特性(例えば、疎水性、ならびに荷電基の数および位置)により、抗体の薬物動態特性および生体内分布が変化する場合があり、最終的に非特異的結合および内部移行反応が引き起こされる。ランダム結合によって光増感剤励起状態の自己消光が引き起こされて光線力学的活性が減少する場合もある。したがって、これらの制限を克服するためには、より制御された結合反応が必要とされる。
【0003】
PDTの主な欠点の一つは、活性化光増感剤の非選択的効果であり、これにより癌細胞だけでなく正常細胞にも損傷が与えられる傾向がある。抗体を用いた標的療法は癌治療に大きな変化をもたらし、癌細胞抗原に結合するいくつかの抗体が画期的新薬となっている。治療用抗体の有効性は、追加的なエフェクター分子(例えば、放射性核種、薬剤、または毒素)との共有結合により改善されることがあり、これにより選択的送達が実現され、従来低分子薬剤に付随していた全身毒性が低減されるはずである。同様の原理は光増感剤にも適用され得る。エフェクター分子は一般に、システイン残基の還元スルフヒドリル基またはリジン側鎖中のアミノ基のいずれかを用いて抗体に結合される。しかし、いずれの方法によっても、様々な部位にエフェクターが結合した複合体化抗体の混合物を含む不均一な産物が生じ、各抗体に結合したエフェクターの数が変動するため、様々なモル比、ならびに全く異なる薬物動態、有効性、および安全性プロファイルがもたらされる。
【0004】
Hamblettらは、不均一な抗体−薬剤複合体の毒性、薬物動態特性、および治療有効性を、2分子、4分子、または8分子のモノメチル−オーリスタチンE(MMAE)を複合体化した分子を含む、3つの抗体画分に精製することにより検討した。MMAE基を8個有する画分は、他の画分と比較して耐性に乏しく素早く除去され、有効性が最も低かった。このことから、抗体−薬剤複合体に対する主要な設計パラメータは、抗体に結合した薬剤分子の数であることが示唆される。しかし、同じ数の薬剤分子を有する精製抗体であっても、多数の異なった結合部位により、複雑な混合物を構成する。例えば、典型的な抗体には約40個のリジン残基が存在するため、100万種類以上の異なった複合体化抗体が生じる可能性がある。同様に、1〜8個のシステイン残基が存在し、典型的に約100の異なった複合体化変種が生じる。抗体−薬剤複合体の各バージョンは、典型的には固有の予測不可能な薬物動態プロファイルを示す
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
癌細胞は、無害な光を当てた場合に毒性作用を誘導する光感作性薬剤により死滅し得るが、これにより周囲の正常細胞にも深刻な損傷が与えられる。光線力学的療法の特異性は、光感作性薬剤を癌関連細胞表面抗原と特異的に結合する抗体および抗体断片と結合させることにより増大させることが可能である。しかし、標準的な結合反応では不均一な産物が産生され、その標的特異性と分光学的特性が損なわれることがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、SNAPタグ融合体の使用を改良された結合方法として調べるためのモデルとして、上皮成長因子受容体(EGFR)と結合する抗体断片(scFv−425)を用いた。scFv−425−SNAPタグ融合タンパク質により、O(6)−ベンジルグアニン修飾クロリンe6などの光増感剤の特異的結合が可能となり、EGFR癌細胞に特異的に送達されて顕著な癌細胞特異的細胞毒性をもたらす、均一な産物が生じた。光線力学的療法の発展に対する本発明の結果の影響について説明する。
【0007】
本発明は、抗体またはその誘導体もしくはその断片、scFvなどの合成ペプチド、ミモトープからなる群から選択される結合構造と共有結合した光増感剤を含み、該結合構造がCD抗原、サイトカイン受容体、インターロイキン受容体、ホルモン受容体、成長因子受容体、特にErbBファミリーのチロシンキナーゼ成長因子受容体、と結合し、該光増感剤が修飾ヒトDNA修復タンパク質であるO6−アルキルグアニン−DNAアルキルトランスフェラーゼ(hAGTm)を介して内部移行性を有する受容体に結合するタンパク質(internalizing receptor binding protein)と結合している化合物を提供する。
【0008】
本発明のある態様では、上皮成長因子受容体結合タンパク質はscFV抗体断片、特に配列番号2のポリヌクレオチド配列によりコードされる配列番号1のscFV抗体断片である。
【0009】
本発明の別の態様では、本発明の化合物は、配列番号4のポリヌクレオチド配列によりコードされる配列番号3のアミノ酸を含むか、またはこれを有する。
【0010】
本発明の化合物の別の態様では、光増感剤は、O6−アルキルグアニン−DNAアルキルトランスフェラーゼの活性部位と結合している。
【0011】
本発明の化合物において、光増感剤は、ポルフィリン、クロロフィル、および光増感能を有する色素からなる群から選択される。
【0012】
光増感剤を欠く化合物もまた本発明の対象である。該化合物は、抗体またはその誘導体もしくはその断片、scFvなどの合成ペプチド、ミモトープからなる群から選択される結合タンパク質を含み、該結合タンパク質がCD抗原、サイトカイン受容体、インターロイキン受容体、ホルモン受容体、成長因子受容体、特にErbBファミリーのチロシンキナーゼ成長因子受容体、と結合し、O6−アルキルグアニン−DNAアルキルトランスフェラーゼ(hAGTm)と称される修飾ヒトDNA修復タンパク質と共有結合している。
【0013】
具体的には、結合タンパク質はscFv抗体断片、特に配列番号1および/または配列番号3のscFV抗体断片である。この化合物は、配列番号2および/または配列番号4の配列を有するポリヌクレオチドによりコードされることがある。特定の態様ではErbBファミリーのチロシンキナーゼ成長因子受容体と結合する。
【0014】
特定の態様の化合物は、配列番号5のヌクレオチド配列のポリヌクレオチドにコードされる。
【0015】
本発明の他の対象は、O6−アルキルグアニン−DNAアルキルトランスフェラーゼ(hAGTm)を、抗体またはその誘導体もしくはその断片、scFvなどの合成ペプチド、ミモトープからなる群から選択される結合タンパク質と融合するステップを含み、該結合タンパク質がCD抗原、サイトカイン受容体、インターロイキン受容体、ホルモン受容体、成長因子受容体、特にErbBファミリーのチロシンキナーゼ成長因子受容体、と結合する、本発明の化合物の製造方法である。具体的には、scFv−425のDNA配列を、N末端結合リガンド(scFv−425)およびC末端SNAPタグ配列を与える、真核生物発現ベクターpMS−SNAPのSifIおよびNotIによる消化部位に挿入する。
【0016】
具体的には、Hisタグもまたタンパク質に融合される。融合タンパク質はヒト細胞、特にHEK−293T細胞(ATCC:CRL−11268)などの胎児腎臓細胞株で発現させて、例えばNi−NTA修飾樹脂などのタグに対する親和性樹脂を用いて精製することが可能である。
【0017】
本発明の他の対象は、以下の式のポルフィリン誘導体である。
【0018】
【化1】


クロリンe6(C3436
【0019】
ここで、クロリンe6などのポルフィリン光増感剤のカルボキシ基の少なくとも一部は、活性化エステルに、またはカップリング剤により、反応し、続いてO6−ベンジルグアニン、O2−ベンジルシトシン、またはコエンザイムA(CoA)と反応する。
【0020】
本発明の方法において、O6−ベンジルグアニン、O2−ベンジルシトシン、またはコエンザイムA(CoA)が、PEG−24−NHなどのリンカー分子と結合し、および/または、活性化エステルがNHSなどのスクシンイミドにより、もしくはEDC、EDAC、およびDCCなどのカルボジイミドからなる群から選択されるカップリング剤により形成される。
【0021】
本発明の他の対象はまた、本発明の化合物および光免疫療法と関連した薬学的効果を改善または可能にする薬学的に許容可能なアジュバントを含む医薬である。
【0022】
本発明はまた、光免疫療法により癌を治療するための本発明の化合物の使用を提供する。
【0023】
当業者は、本明細書の内容を超える新規事項を導入することなく、用語「〜を含む」が「〜からなる」と置換可能であることを理解している。
【0024】
以下に本発明の化合物の効果を、具体例により実証しより詳細に説明する。チロシンキナーゼ成長因子受容体のErbBファミリーの4つのメンバーの1つである上皮成長因子受容体(EGFR、erbB1、HER1)は、約30%の上皮癌において過剰発現しており、そのため癌免疫療法の魅力的な標的となっている10。組み換え抗EGFR抗体断片scFv−425は、EGFRと癌細胞表面上で結合し効率的に受容体内部移行(receptor internalization)を誘導する11。scFv−425は、PITの特異性および有効性を改善するための新しい複合体化方法の開発のためのモデルとして使用される。これらの目的を達成するため、当初、光学活性分子で抗体を部位特的に標識するために開発されたO6−アルキルグアニン−DNAアルキルトランスフェラーゼ(hAGTm)と呼ばれる20kDの修飾ヒトDNA修復タンパク質に基づく、SNAPタグ技術が用いられてきた11。SNAPタグにより、受容基であるO(6)−ベンジルグアニン(BG)で修飾された任意の基質に対する効率的な共有結合が可能となる。SNAPタグは、求核置換反応により活性部位に置換ベンジル基を転移して遊離グアニンを放出することにより、パラ置換されたBG誘導体と反応する11
【0025】
本発明によれば、scFv−425−SNAPタグ融合タンパク質を設計および合成した。BG修飾クロリンe6(Ce6)光増感剤をEGFR癌細胞に送達した。コンストラクトには、光増感剤とタンパク質の距離を増大するためのリンカー領域および24個のポリエチレングリコール(PEG)鎖も含まれる。BG修飾Ce6を、抗体の結合活性および内部移行活性に有害な影響を及ぼすことなく、特異的かつ共有結合的にscFv−425−SNAPタグ融合タンパク質と結合した。Ce6を4系統のEGFR癌細胞株(A431、MDA−MB−231、MDA−MB−468、およびSiHa)に特異的に送達し、顕著な癌細胞特異的細胞毒性がもたらされた。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】SNAPタグ融合タンパク質のコンストラクト、発現、および結合。(a)組み換えSNAPタグ融合タンパク質のためのバイシストロニック真核生物発現カセットの模式図。pMS−scFV−425−SNAPベクターは、CMVプロモーターの転写制御下に結合リガンド(scFV−425)、およびインフレームで連結されたSNAPタグをコードする。免疫グロブリンκリーダー配列(Ig−κ−L)によりタンパク質の分泌が容易になり、TGA終止コドンがC末端のHisタグの直下に位置している。コントロールベクターのための発現カセットは、PMS−scFV−425−SNAPと同様であるが、結合リガンドとしてscFV−425の代わりにscFV−Ki4を含む。(b)scFV−425−SNAPタンパク質の精製画分をSDS−PAGEで分離し、次にクーマシーブリリアントブルーで染色した。(c)scFV−425−SNAPをBG−Vista greenとインキュベートし、UV光でタンパク質を可視化した。M:タンパク質マーカー、1:250mMイミダゾールで溶出した3μlのscFV−425−SNAP、2:250mMイミダゾールで溶出した1.5μlのscFV−425−SNAP、3:40mMイミダゾールで溶出した10μlのscFV−425−SNAP、4:10mMイミダゾールで溶出したタンパク質、5:通過画分、6:HEK−293T細胞上清。scFV−425−SNAPおよびscFV−Ki4−SNAPの結合解析は、(d)EGFRA431細胞および(e)EGFRL540細胞を用いて、フローサイトメトリーにより評価した。灰色で塗りつぶされた曲線は未処理細胞を表す。細胞を0.5μg/mlの精製融合タンパク質であるscFV−425−SNAP(薄灰色の曲線)およびKi4−SNAP(黒色の曲線)とインキュベートした。二次抗体として、Penta His Alexa Fluor 488複合体(1/500希釈)(キアゲン社)を用いた。抗−His Alexa Fluor 488検出抗体の非特異的染色を排除するために、Hisタグ融合タンパク質を除いたものをコントロールとした(黒い点線の曲線)。
図2】ベンジルグアニン(BG)による修飾の前後におけるCe6光増感剤の質量分析による解析。(a)Ce6、BG−PEG24−NH、およびBG−PEG24−Ce6のESI質量スペクトル。一番上の図はCe6(597.215Da)を表し、真ん中の図はBG−PEG24−NH(1398.761Da)を表し、一番下の図はBG−PEG24−Ce6(1979.004Da)を表す。(b)BG−PEG24−Ce6のscFV−425−SNAPとの結合。M:タンパク質マーカー、1:1.5倍モル過剰量のBG−VistaGreenとインキュベートしたscFV−425−SNAP、2:3倍モル過剰過剰量のブロモテニルプテリジン(BTP)で阻害し、BG−Ce6と2時間インキュベートし、最後にBG−VistaGreenと混合したscFV−425−SNAP、3:1.5倍モル過剰量のBG−Ce6と2時間インキュベートした後、1.5倍モル過剰量のBG−VistaGreenとインキュベートしたscFV−425−SNAP。結合したタンパク質はSDS−PAGEにより分離し、CRi Maestro Imaging Systemで可視化した。(c)異なった色素のスペクトルをMaestroソフトウエアを用いて分解し、相当するゲルをクーマシーブリリアントブルーで染色した。
図3】EGFR細胞を特異的に認識するscFV−425−SNAP−VistaGreenおよびscFV−425−SNAP−Ce6の結合活性。フローサイトメトリー分析は、4×10個の細胞を各融合タンパク質とともにPBS中、37℃で20分間インキュベーションした後に行った。(a)scFV−425−SNAP−VistaGreen(薄灰色の曲線)を、A431細胞、MDA−MB−468細胞、MDA−MB−231細胞、SiHa細胞、L540細胞、およびCHO−K1細胞について試験した(灰色で塗りつぶされた曲線)。コントロールとして、scFv−Ki4−SNAPをBG−VistaGreenで標識し(黒色の曲線)、その結合活性をA431細胞、L540細胞、およびCHO−K1細胞について試験した(灰色で塗りつぶされた曲線)。(b)scFV−425−SNAP−Ce6の結合能を、A431細胞、MDA−MB−468細胞、MDA−MB−231細胞、SiHa細胞、L540細胞、およびCHO−K1細胞について試験した(灰色で塗りつぶされた曲線)。コントロールとして、BG−Ce6で標識したscFv−Ki4−SNAP(黒色の曲線)を、A431細胞、L540細胞、およびCHO−K1細胞について試験した(灰色で塗りつぶされた曲線)。
図4】共焦点顕微鏡で分析した融合タンパク質の内部移行。0.5μgのscFV−425−SNAP−Ce6と(a)4℃で30分間、または(b)37℃で60分間インキュベートした、EGFR細胞株であるA431細胞、MDA−MB−468細胞、MDA−MB−231細胞、およびSiHa細胞、ならびにEGFR細胞株であるL540細胞およびCHO−K1細胞について、共焦点画像を得た。(1)Ce6蛍光シグナル、(2)透過光、(3)蛍光シグナルと透過光のオーバーレイ。
図5】光線力学的療法の効果の評価。細胞増殖アッセイおよびアポトーシスアッセイは、scFV−425−SNAP−Ce6を用いて行った。scFV−425−BG−Ce6の細胞毒性は、A431細胞株(■)、MDA−MB−468細胞株(▲)、MDA−MB−231細胞株(◆)、SiHa細胞株(●)、およびCHO−K1細胞株(▼)に対して、(a)照射細胞または(b)未照射細胞についてのXTT解析を用いて測定した。scFV−Ki4−SNAP−Ce6のA431細胞株(x)に対する細胞毒性をコントロールとして試験した。同じ細胞を種々の濃度のBG−Ce6で処置し、細胞生存率を(c)光活性化して分析、および(d)光活性化せずに分析した。(e)アポトーシスは、Apo−ONE(登録商標)Homogeneous Caspase−3/7 Assayを、50nMのBG−Ce6、200nMのscFV−SNAP−Ce6、および200nMのscFV−Ki4−SNAP−Ce6で用いて評価した。(f)ジクロロフルオレセイン誘導体であるカルボキシ−HDCFDAを用いて検出した、光増感されたA431細胞の照射による活性酸素種の発生。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明を、光増感剤としてCe6を用い、結合としてErbBファミリーのチロシンキナーゼ成長因子受容体を用いて、より詳細にさらに例示的に説明する。
【0028】
光線力学的療法(PDT)は、非毒性光増感剤および無害な可視光を酸素と組み合わせて用いて、悪性細胞をアポトーシスおよび/またはネクローシスにより死滅させる細胞毒性活性酸素種を産生させる、低侵襲な治療である12。多くの異なった光増感剤が開発されてきたが、Ce6はPDT研究において詳細に評価されてきており物理的特性および化学的特性において有利であるため、モデルとして選択されてきた。Ce6の吸収極大は、光量子効率と細胞透過との良好なバランスが得られる664nmであり13、カルボキシ基が存在することによりさらに機能付与が可能である
【0029】
本発明のSNAPタグ技術により抗体上に固有の結合部位が提供され、均一な複合体製剤の産生が可能になる。EGFRと特異的に結合するscFV抗体のコード配列がhAGTカセットと遺伝子融合されている本発明のコンストラクトは、抗体にSNAPタグを与えることにより、BG修飾基質、とくにCe6との部位特異的結合を可能にする。この結合方法は、抗体がSNAPタグを有し基質がBG基で修飾されている限り、任意の抗体と光増感剤の組み合わせに適用可能である。
【0030】
結合反応は効率的であり、scFV−425−SNAP−Ce6およびscFV−Ki4−SNAP−Ce6の均一サンプルの調製が可能となる。癌細胞を特異的に死滅させる能力についてこれらの調製物を試験した。scFV−425−SNAP−Ce6が、上皮癌、乳癌、および頸部癌を示す4系統のヒト癌細胞株(A431、MDA−MB−231、MDA−MB468、およびSiHa)において、光照射後にEGFR細胞を選択的に死滅させることが分かった。scFV−425−SNAP−Ce6の光毒性は、EGFRおよび光の存在に依存しており、受容体を最も多く発現する(1〜1.3×10個の受容体/細胞)A431細胞およびMDA−MB468細胞において最も顕著であった14、15。他の細胞株はより少ないEGFRを発現し(MDA−MB−231細胞において1.3×10個の受容体/細胞、およびSiHa細胞において2×10〜2×10個の受容体/細胞)15、16、これに付随して、融合タンパク質が治療的に無効果であるポイントまでではないが、scFV−425−SNAP−Ce6の毒性は減少した。このことは、scFV−425−SNAP−Ce6が、発現レベルの最も高いEGFR細胞のみならず、広い範囲のEGFR細胞を標的にすることができることを意味する。EGFR細胞(CHO−K1)がscFV−425−SNAP−Ce6に暴露された場合には、毒性は観察されなかった。
【0031】
scFV−425−SNAPは注射後にマウス腎臓に直接蓄積し、次に膀胱で検出されることが以前に示されており、腎臓濾過によるクリアランスが示唆される10。迅速なクリアランスにもかかわらず、癌細胞におけるscFV−425−SNAPの蓄積および滞留は、注射10時間後に非常に高い癌細胞対バックグラウンド比をもたらすのに明らかに十分である。
【0032】
scFV/SNAPタグ融合タンパク質の発現、精製、および機能分析
EGFR特異的scFV−425抗体断片10、および異なった抗原(CD30)と結合するコントロール断片(scFV−Ki4)17をコードする配列をpMS−SNAPバイシストロニックベクターに導入して、(図1a)に示すように完全なscFV−425−SNAPカセットおよびscFV−Ki4−SNAPカセットを作製した。これらのコンストラクトをHEK−293T細胞に形質導入により導入して、安定的に形質転換された細胞をゼオシン選択および緑色蛍光タンパク質(GFP)活性のモニタリングにより同定した。融合タンパク質を(C末端Hisタグを用いた)アフィニティークロマトグラフィーにより培養上清から分離して最終純度約90%とし、最終収量は上清中のタンパク質が18mg/Lであった(図1b)。
【0033】
SNAPタグの活性は、各融合タンパク質において、未処理の培養上清、通過画分、およびクロマトグラフィーステップからの溶出液を、BG修飾VistaGreenと混合することにより確認した(図1c)。scFV−425−SNAPタンパク質の結合活性は、EGFR発現標的細胞株(A431)を1系統と、この抗原を欠くがCD30を発現するコントロール細胞株(L540)と、を1系統用いたフローサイトメトリーにより確認した。結合は、二次抗体である抗His Alexa488抗体を用いて検出した。フローサイトメトリーのデータにより、scFV−425−SNAPはEGFR標的細胞に特異的に迅速かつ効果的に結合する(図1d)が、scFV−Ki4/SNAPはCD30L540細胞にのみ結合する(図1e)ことが確認された。
【0034】
光増感剤クロリンe6のベンジルグアニンによる修飾
光増感剤クロリンe6(Ce6)を、N−(3−ジメチルアミノプロピル)−N’−エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)、ヒドロキシスルホスクシンイミドのナトリウム塩(sulfo−NHS)、およびBG−PEG24−NHリンカーを用いて修飾することに成功した。Ce6のカルボキシ基をBG基に修飾し、反応効率をHPLCにより決定した(データ示さず)。高純度のBG−PEG24−Ce6は質量分析により確認した。Ce6、BG−PEG24−NH、およびBG−PEG24−Ce6の正確な質量は、Micromass QTOFII質量分析器で検出し、連結されたCe6とBG−PEG24−NHについて計算された理論質量と同じ質量を精製BG−PEG24−Ce6が有することを確認した(図2a)。
【0035】
BG修飾蛍光色素分子団およびCe6によるタンパク質標識化
SNAPタグの機能性をBG修飾蛍光色素とカップリングすることにより調査し、室温で2時間インキュベーション後の標識化効率が85〜90%であることが明らかになった(データ示さず)。反応は、BG修飾Ce6を用いて繰り返した。光増感剤は融合タンパク質中の活性SNAPタグとのみ反応し、反応は、1.5倍モル過剰量のBG−Vista Greenとの後インキュベーションによって示されるように、ブロモテニルプテリジン(BTP)で不可逆的に阻害することができた。CRi Maestroイメージングシステムを用いた分析では、予め阻害された融合タンパク質と関連した蛍光は示されなかった(図2b、c)。
【0036】
フローサイトメトリーおよび共焦点顕微鏡
標識化scFV−425−SNAP融合タンパク質の活性を決定するために、BG−Vista GreenまたはBG−Ce6のいずれかで標識化したタンパク質を用いてフローサイトメトリー分析を行った。全ての標識化タンパク質は、氷上で30分間のインキュベーション後、相当する標的細胞株(A431、MDA−MB−231、MDA−MB−468、およびSiHa)上で強い蛍光シグナルを示したが、コントロール細胞(L540およびCHO−K1)上では示さなかった。予想通り、標識化scFV−Ki4−SNAPはL540上で強い蛍光シグナルを示したが、A431細胞およびCHO−K1細胞上では示さなかった(図3)。
【0037】
共焦点顕微鏡では、scFV−425−SNAP−Ce6とインキュベートしたA431細胞、MDA−MB−231細胞、MDA−MB468細胞、およびSiHa細胞上で特異的で均一な強い膜染色が見られた(図4a)。標識化融合タンパク質は、37℃で30分間インキュベートした後のA431細胞、MDA−MB−231細胞、MDA−MB468細胞、およびSiHa細胞に、特異的に且つ効率的に吸収されたが、4℃でのインキュベーションでは吸収されなかった(図4b)。一方、EGFR細胞株であるL540およびCHO−K1をscFV−425−SNAP−Ce6と同じ条件下でインキュベートした場合、シグナルは検出されなかった(図4a、b)。
【0038】
scFV−425−SNAP−Ce6の光細胞毒性
scFV−425−SNAP−Ce6および複合体化していないBG−Ce6の濃度依存的細胞毒性効果を、4系統のEGFR細胞株およびネガティブコントロールとしてCHO−K1を用いて、XTTに基づいた比色細胞増殖アッセイにより評価した。scFV−425−SNAP−Ce6で処理したA431細胞、MDA−MB−231細胞、MDA−MB−468細胞、およびSiHa細胞の生存率は、光活性化に続く24時間のインキュベーション後、濃度依存的に著しく減少した。IC50値は、48nM(A431)、220nM(MDA−MB−231)、38nM(MDA−MB−468)、および218nM(SiHa)であった。CHO−K1細胞は800nMの複合体化融合タンパク質に暴露した場合であっても影響されないままであり、コントロールコンストラクトであるscFV−Ki4−SNAP−Ce6はA431細胞およびCHO−K1細胞のいずれにおいてもほとんど影響を及ぼさなかった。対照的に、複合体化していないCe6はすべての細胞株に対して有毒であり、IC50値は、16nM(A431)、22nM(MDA−MB−231)、22nM(MDA−MB−468)、26nM(SiHa)、および18nM(CHO−K1)であった。これらのデータを(図5a、c)に示す。
【0039】
光活性化ステップを含まない平行実験を行うことにより確認されたように、複合体化型Ce6および非複合体化型Ce6はいずれも光活性化後にのみ有毒であった。いずれの細胞株においても、生存率の顕著な減少は見られなかった(図5b、d)。
【0040】
scFV−425−SNAP−Ce6がアポトーシス経路を誘発することにより標的細胞において選択的にプログラム細胞死を誘導するか否かを調べるため、カスパーゼ3およびカスパーゼ7の活性を、光活性化の24時間後のA431細胞、MDA−MB−231細胞、MDA−MB468細胞、SiHa細胞、およびCHO−K1細胞において解析した。scFV−425−SNAP−Ce6(200nM)および非複合体化Ce6(50nM)はいずれも、カスパーゼ3およびカスパーゼ7のレベルを上昇させたが、200nMのscFV−Ki4−SNAP−Ce6で処理したA431細胞においては顕著な上昇は見られなかった(図5e)。
【0041】
光活性化されたA431細胞におけるROSの産生を、6−カルボキシ−20,70−ジクロロジヒドロフルオレセインジアセタートジ−(アセトキシ−メチル)エステル(HDCFDA)の酸化および脱アセチル化により産生されるDCFの485/535nm蛍光を測定することにより調べた。200nMの複合体化Ce6および50nMの非複合体化Ce6の存在下で、光活性化に続いてROSが爆発的に合成されるが、非照射細胞においてはROSレベルの増加は非常に小さく、光増感剤で処理していない細胞において観察されるバックグラウンドレベルをほとんど上回らないことが分かった(図5f)。
【実施例】
【0042】
方法
細胞培養
EGFR細胞であるA431細胞、MDA−MB−231細胞、MDA−MB468細胞、およびSiHa細胞、ならびにEGFR細胞であるL540細胞、CHO−K1細胞、およびHEK−293T細胞を含む全ての細胞株は、ヒト由来であった。A431細胞、L540細胞、CHO−K1細胞、およびHEK−293T細胞は、2mMのL−グルタミン、10%(v/v)のウシ胎児血清(FBS)、および100U/mlのペニシリン−ストレプトマイシンを添加したRPMI−1640培地中で培養した。MDA−MB−231細胞、MDA−MB468細胞、およびSiHa細胞は、10%(v/v)のウシ胎児血清(FBS)および100U/mlのペニシリン−ストレプトマイシンを添加したDMEM培地中で培養した。全ての細胞は、5%CO雰囲気中、37℃で培養した。全ての培地および添加物は、インビトロジェン社(ドイツ、ダルムシュタット)から入手した。
【0043】
タンパク質の発現および精製
各scFvの配列を、N末端の結合リガンド(scFv−425またはscFv−Ki4)およびC末端のO6−アルキルグアニン−DNAアルキルトランスフェラーゼ(SNAPタグ)配列を与える発現カセット中に挿入した。TGA終止コドンはHisタグ配列の直下に作成した。Hisタグ標識された融合タンパク質は、無細胞上清からNi−NTA金属アフィニティークロマトグラフィーにより精製した。より多くの容量は、Akta FLPCシステム上で、4×緩衝液(200mM NaHPO、1.2M NaCl、40mM イミダゾール、pH8)で平衡化後に5mLのNi−NTA Superflowカートリッジ(キアゲン社、ドイツ、ヒルデン)を用いて精製した。結合したHisタグ標識化タンパク質は、50mM NaHPO、300mM NaCl、250mM イミダゾール、pH8)中に溶出した。溶出後、タンパク質を1mM ジチオエリスリイトール(Carl Roth社、ドイツ、カールスルーエ)を含むリン酸緩衝食塩水(PBS)に対して4℃で一晩透析した。エクトイン凍結保存材を50mMの最終濃度になるよう添加し、アリコートを−20℃で保存した。
【0044】
Ce6のベンジルグアニンによる修飾
ジメチルホルムアミド中で2mgのCe6を5倍モル過剰量のEDCおよびsulfo−NHS(シグマアッルドリッチ社、ミズーリ州、セントルイス)と室温で30分間混合することにより、Ce6(Porphyrin Products社、ユタ州、ローガン)のカルボキシ基をベンジルグアニンで修飾した。次に活性化混合物を4倍モル過剰量のベンジルグアニンリンカーであるBG−PEG24−NH(Covalys Biosciences社、スイス、ヴィッタースヴィル)と暗所にて室温で一晩混合した。修飾Ce6は、Shimadzu Prominence HPLCシステム、および2.5μm(4.6×50mm)のWater XBridge(登録商標) OSTC18カラム(Waters社、マサチューセッツ、ミルフォード)を用いたHPLCにより、流速1mL/分で精製した。分離は、100%の0.1M TEAAから100%のアセトニトリルまで20分の勾配で行い、280nmおよび410nmでモニタリングした。Ce6、BG−PEG24−NH、およびBG−PEG24−Ce6の質量は、Micromass QTOFII質量分析器を、エレクトロスプレーイオン源であるAdvion Nanomate(Advion社、米国、ニューヨーク州、イサカ)を用い、7μlのサンプル容量、1.4kVで確認した。正確な質量は、MaxEnt3(登録商標)アルゴリズム(Micromass社)を400〜2000Daの範囲で用いた300〜2500m/zの範囲における質量スペクトルから得た。
【0045】
タンパク質の標識化
精製SNAPタグ融合タンパク質は、BG修飾色素(covalys Biosciences社、スイス、ヴィッタースヴィル)またはBG修飾Ce6と、暗所で1.5〜3倍モル過剰量の色素と室温で2時間インキュベーションすることにより複合体化した。残存する色素をzeba spin脱塩カラム7K MWCO(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、イリノイ州、ロックフォード)を用いたゲル濾過クロマトグラフィーにより除去した。結合効率は、相当する色素の吸光係数および融合タンパク質の理論上の吸光係数を用いて測光的に決定した。標識化タンパク質はSDS−PAGEで分離後に、UVトランスイルミネーターGel Doc XRゲルドキュメンテーション(バイオラッドラボラトリー社、ドイツ、ミュンヘン)または青色および黄色のフィルターセットを用いたCRi Maestroイメージングシステム(CRi社、米国、マサチューセッツ、ウォバーン)のいずれかで可視化した。
【0046】
フローサイトメトリー
標識化融合タンパク質および未標識融合タンパク質の結合効果は、FACSCalibur(ベクトン・ディッキンソン社、ドイツ、ハイデルベルク)およびCellQuestソフトウエアを用いたフローサイトメトリーにより決定した。EGFR細胞株であるA431、MDA−MB−231、MDA−MB468、およびSiHaを用いてscFv−425−SNAPの結合効果を試験し、EGFR細胞株であるL540およびCHO−K1をネガティブコントロールとして用いた。コントロール融合タンパク質であるscFv−Ki4−SNAPは抗原であるCD30を認識するため、L540細胞に結合するが他の細胞株には結合しないはずである。約4×10細胞を、0.5μgの標識化タンパク質を含む200μLのPBS中で、氷上、20分間インキュベーションした。その後、細胞を1.8mLのPBSを用いて通常の細胞洗浄器で2回洗浄し、フローサイトメトリーで分析した。
【0047】
共焦点顕微鏡
画像はTCS SP5共焦点顕微鏡(ライカマイクロシステムズ社、ドイツ、ウェッツラー)で可視化した。細胞はフローサイトメトリー用に記載した ように調製した。結合効率は、細胞を標識化融合タンパク質と氷上で30分間インキュベートすることにより決定した。内部移行は、細胞を標識化融合タンパク質と37℃で30分間インキュベートすることによりモニタリングした。
【0048】
scFv−425−SNAP−Ce6の光毒性
上記のようにインキュベートしたA431細胞、MDA−MB−231細胞、MDA−MB468細胞、SiHa細胞、およびCHO−K1細胞のアリコート(2×10個)をPBS中で2回洗浄した後、Ce6、scFv−425−SNAP−Ce6、またはKi4−scFv/SNAP−Ce6のいずれかの濃度を増加させて処理して37℃で3時間インキュベートした。コントロールのインキュベート物は、光増感剤の代わりに500μg/mLのゼオシンとともにインキュベートした。その後、7mmの水キュベットおよびオレンジフィルターOG590、580〜1400nmの範囲のスペクトルでHydrosunタイプ505(Hydrosun Medizintechnik社、ドイツ、ミュールハイム)を用いて24J/cmの広帯域の可視/近赤外光を細胞に照射し、5%CO雰囲気中、37℃でさらに24時間インキュベートした。
【0049】
細胞生存率は、XTT細胞増殖キットII(ロシュ社、ドイツ、マンハイム)を用いて、光活性化の24時間後に測定した。細胞を2,3−ビス(2−メトキシ−4−ニトロ−5スルホニル)−5[(フェニル−アミノ)カルボニル]−2H−テトラゾリウム塩酸塩試薬(1mg/ml)とインキュベートし、37℃で2時間インキュベートした。生存癌細胞によるXTTのホルマザンへの還元は、吸収波長450nmおよび参照波長630nmにおいて、ELISAプレートリーダーElisareader ELx808(Bio−TEK社、ドイツ、バート・フリードリヒスハル)を用いて比色分析によりモニタリングした。
【0050】
細胞溶解物におけるカスパーゼ3/7活性は、Apo−ONE Caspase−3/7アッセイ(プロメガ社、ドイツ、マンハイム)を用いて光活性化の24時間後に測定した。すなわち、100μlのApo−ONE試薬を細胞に添加して6時間インキュベートした後、ELISAプレートリーダーElisareader ELx808(Bio−TEK社、ドイツ、バート・フリードリヒスハル)を用いて、励起波長485nmおよび発光波長535nmで蛍光を測定した。ROS濃度は、HDCFDA(インビトロジェン社、ドイツ、ダルムシュタット)の485/535nm蛍光比を測定することにより決定した。すなわち、2×10個の細胞を50nMのCe6または200nMのscFv−425−SNAP−Ce6と10μMのHDCFDAの存在下で、1%FCSを含むPBS中で30分間インキュベーションした。2.5%FCSを含む温PBSで細胞を2回洗浄し、RPMI−160培地中で2時間インキュベートして上記のように照射した。蛍光測定は照射直後に行った。空のプローブ(細胞および培地)の測定値はバックグラウンドとして使用し、すべてのサンプルの測定値から差し引いた。
【0051】
データ分析
統計学的分析および曲線近似はGraphPad Prismソフトウエア(GraphPad社、カリフォルニア州、サンディエゴ)を用いて行った。データは平均±MESで示す。スチューデントt−検定および二元分散分析を用いて、独立実験の有意性を評価した。基準p<0.05を用いて統計的有意性を決定した。
【0052】
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図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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【国際調査報告】