特表2015-512460(P2015-512460A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2015-512460重合性組成物の活性化方法、重合系およびこれにより形成される製品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-512460(P2015-512460A)
(43)【公表日】2015年4月27日
(54)【発明の名称】重合性組成物の活性化方法、重合系およびこれにより形成される製品
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/38 20060101AFI20150331BHJP
【FI】
   C08F2/38
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2015-503648(P2015-503648)
(86)(22)【出願日】2013年3月29日
(85)【翻訳文提出日】2014年11月26日
(86)【国際出願番号】US2013034636
(87)【国際公開番号】WO2013149165
(87)【国際公開日】20131003
(31)【優先権主張番号】61/618,147
(32)【優先日】2012年3月30日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC
(71)【出願人】
【識別番号】513099186
【氏名又は名称】シラス・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マロフスキー,バーナード・マイルス
(72)【発明者】
【氏名】マロフスキー,アダム・グレッグ
(72)【発明者】
【氏名】エリソン,マシュー・マクブレイヤー
(72)【発明者】
【氏名】ウォージャク,スタンリー・シー
【テーマコード(参考)】
4J011
【Fターム(参考)】
4J011NA00
4J011NA13
4J011NA20
4J011NA29
4J011NA39
4J011NA40
4J011NB03
4J011NB06
4J011NC04
4J011NC07
4J011QA08
4J011QA19
4J011QA33
4J011UA01
4J011WA02
4J011WA05
4J011WA06
(57)【要約】
本明細書に開示した例示的実施形態は、メチレンマロネートおよび他の重合性組成物の重合の開始のための活性化方法に関するものである。該重合は、アニオン機構またはフリーラジカル機構によって活性化され得る。該重合は、活性化剤と重合性組成物が接触すると非常に急速に起こり得るため、本明細書では、かかる反応が所望されるまで活性化剤を分離するか、または別の方法で活性化剤を重合の開始に有効でないようにする方法を提供する。該分離は物理的(別個のパッケージング、別個の塗布工程、封入)であってもよく、潜在性活性化方法(活性化前駆体、UV活性化)に基づいたものであってもよい。本明細書に開示した方法により形成される製品としては、インク、接着剤、コーティング、シーラント、反応性成型体、繊維、フィルム、シート、医療用ポリマー、複合材、ラミネートなどが挙げられ得る。例示的重合性組成物およびこれにより形成される製品は環境上持続可能である、環境にやさしいおよび/または生体にやさしいものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性組成物;および
重合性組成物中に不活性係合状態で担持された重合活性剤
を含み;
該重合性組成物は二重活性化ビニル化合物を含み、該重合活性剤は、相変化が起こると利用可能となって該重合性組成物を重合する、
重合系。
【請求項2】
相変化が、系の温度変化、重合活性剤の溶解、可溶化可塑剤の添加、物理的分離手段からの重合活性剤の放出、または重合活性剤の不活性状態から活性状態への変換によって可能になる、請求項1に記載の重合系。
【請求項3】
重合性組成物がメチレンマロネート、メチレンベータ−ケトエステルまたはメチレンベータ−ジケトンを含み、重合活性剤が、UV放射線によって活性化されると不活性状態から活性状態に変換される、請求項2に記載の重合系。
【請求項4】
重合活性剤が、塩基、塩基向上体、塩基創出体または塩基前駆体のうちの少なくとも1種類である、請求項1に記載の重合系。
【請求項5】
重合性組成物が、メチレンマロネート、メチレンベータ−ケトエステル、メチレンベータ−ジケトン、ジアルキル二置換ビニル、ジハロアルキル二置換ビニルの単官能性、二官能性または多官能性のいずれかの形態のうちの少なくとも1種類である、請求項1に記載の重合系。
【請求項6】
重合活性剤が、強塩基(9より高いpH)、中程度の強塩基(8から9のpH)もしくは弱塩基(7より大きく8までのpH)またはこの組合せから選択される塩基性材料を含む、請求項1に記載の重合系。
【請求項7】
重合活性剤が、有機材料、無機材料もしくは有機金属材料またはこの組合せから選択される塩基性材料を含む、請求項1に記載の重合系。
【請求項8】
重合活性剤が、酢酸ナトリウム;酢酸カリウム;ナトリウム、カリウム、リチウム、銅およびコバルトの酸の塩;テトラブチルアンモニウムフルオリド、クロリドおよびヒドロキシド;第1級、第2級または第3級のいずれかのアミン;アミド;ポリマー結合型酸の塩;安息香酸塩;2,4−ペンタン二酸塩;ソルビン酸塩;プロピオン酸塩;第2級脂肪族アミン;ピペリデン、ピペラジン、N−メチルピペラジン、ジブチルアミン、モルホリン、ジエチルアミン、ピリジン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリエチレンジアミン、N,N−ジメチルピペラジン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン;アミンと有機モノカルボン酸との塩;ピペリジンアセテート;低級モノカルボン酸の金属塩;酢酸銅(II)、酢酸第二銅一水和物、酢酸カリウム、酢酸亜鉛、クロロ酢酸亜鉛、クロロ酢酸マグネシウム、酢酸マグネシウム;酸含有ポリマーの塩;ポリアクリル酸コポリマーの塩から選択される少なくとも1つの構成員である、請求項7に記載の重合系。
【請求項9】
重合活性剤が、重合性組成物中に、該重合性組成物の重量基準で約2%未満、好ましくは1%未満、より好ましくは約0.5%未満、さらにより好ましくは0.1%未満の量で存在している、請求項1に記載の重合系。
【請求項10】
重合性組成物が、環境上持続可能な方法によって得られる、請求項1に記載の重合系。
【請求項11】
重合性組成物が、環境にやさしい、生体にやさしい、またはこの両方のものである、請求項1に記載の重合系。
【請求項12】
重合性組成物が、周囲温度で硬化可能である、請求項1に記載の重合系。
【請求項13】
重合性組成物が、周囲温度で貯蔵可能ある、請求項1に記載の重合系。
【請求項14】
重合活性剤が、ワックス中に封入されている、請求項1に記載の重合系。
【請求項15】
活性化剤が、化学的不活性化によって重合性組成物と不活性係合状態で準備される、請求項1に記載の重合系。
【請求項16】
インク、一般的な接着剤、反応性感圧接着剤、反応性ホットメルト接着剤、コーティング、複合材ポリマーマトリックスおよびこの組合せから選択される製品における使用のための、請求項1に記載の重合系。
【請求項17】
重合性組成物;および
該重合性組成物から物理的に分離された重合活性剤
を含み;
該重合性組成物が、二重活性化ビニル化合物を含み、該重合活性剤が、実質的な混合なしで、該重合性組成物と接触すると重合を開始することができる、
重合系。
【請求項18】
物理的分離が、活性化剤と重合性組成物をアプリケータ手段内部の別個の場所に収納することによりなされる、請求項17に記載の重合系。
【請求項19】
アプリケータ手段が、エーロゾルスプレーデバイスである、請求項18に記載の重合系。
【請求項20】
物理的分離が、最初に重合活性剤を基材の少なくとも一部分に塗布し、続いて重合性組成物を基材の該一部分に塗布することによりなされる、請求項17に記載の重合系。
【請求項21】
物理的分離が、重合活性剤を基材の少なくとも一部分内または該一部分上に供給することによりなされる、請求項17に記載の重合系。
【請求項22】
重合活性剤が、不活性状態であり、重合系が、さらに、該重合活性剤をこの不活性状態から活性状態に変換させることができる変換剤を含む、請求項21に記載の重合系。
【請求項23】
変換剤が、塩基向上体または塩基創出体である、請求項22に記載の重合系。
【請求項24】
重合活性剤が、重合性組成物を実質的に硬化させるのに有効な量で供給される、請求項17に記載の重合系。
【請求項25】
重合性組成物を実質的に硬化させるのに有効な量が、該重合性組成物の重量基準で、以下:2%未満、1%未満、0.5%未満および0.1%未満のうちの少なくとも1つである、請求項24に記載の重合系。
【請求項26】
重合活性剤が、分散液、懸濁液として、溶剤中の溶質として、封入体として供給される、請求項17に記載の重合系。
【請求項27】
重合性組成物を重合活性剤と、実質的な混合なしで、加熱なしで、放射線への曝露なしで、またはこの任意の組合せで接触させることを含み、該重合性組成物が二重活性化ビニル化合物を含む、重合性組成物の重合の開始方法。
【請求項28】
該重合性活性剤を重合性組成物と、基材上に分配される直前に分配器内部で接触させる、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
該重合性活性剤が、分配器から第1経路により排出され、重合性組成物が該分配器から第2経路により排出され、該重合性活性剤を重合性組成物と、該分配器から排出された直後に接触させる、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
重合性組成物を基材の少なくとも一部分に、重合活性剤を基材の該一部分に塗布するのと実質的に同時に塗布し、該重合性組成物が重合活性剤と充分に接触および混合して重合を開始させる、請求項27に記載の方法。
【請求項31】
重合活性剤が、強塩基(9より高いpH)、中程度の強塩基(8から9のpH)もしくは弱塩基(7より大きく8までのpH)またはこの組合せから選択される塩基性材料を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項32】
重合活性剤が、有機材料、無機材料もしくは有機金属材料またはこの組合せから選択される塩基性材料を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項33】
重合活性剤が、酢酸ナトリウム;酢酸カリウム;ナトリウム、カリウム、リチウム、銅およびコバルトの酸の塩;テトラブチルアンモニウムフルオリド、クロリドおよびヒドロキシド;第1級、第2級または第3級のいずれかのアミン;アミド;ポリマー結合型酸の塩;安息香酸塩;2,4−ペンタン二酸塩;ソルビン酸塩;プロピオン酸塩;第2級脂肪族アミン;ピペリデン、ピペラジン、N−メチルピペラジン、ジブチルアミン、モルホリン、ジエチルアミン、ピリジン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリエチレンジアミン、N,N−ジメチルピペラジン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン;アミンと有機モノカルボン酸との塩;ピペリジンアセテート;低級モノカルボン酸の金属塩;酢酸銅(II)、酢酸第二銅一水和物、酢酸カリウム、酢酸亜鉛、クロロ酢酸亜鉛、クロロ酢酸マグネシウム、酢酸マグネシウム;酸含有ポリマーの塩;ポリアクリル酸コポリマーの塩から選択される少なくとも1つの構成員である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
重合活性剤が、重合性組成物を実質的に硬化させるのに有効な量で供給される、請求項27に記載の方法。
【請求項35】
重合性組成物を実質的に硬化させるのに有効な量が、該重合性組成物の重量基準で、以下:2%未満、1%未満、0.5%未満および0.1%未満のうちの少なくとも1つである、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
重合活性剤が、アニオンによる攻撃機構によって重合性組成物の重合を開始させる、請求項27に記載の方法。
【請求項37】
重合活性剤が、フリーラジカル機構によって重合性組成物の重合を開始させる、請求項27に記載の方法。
【請求項38】
重合活性剤が、前駆体の形態である、請求項27に記載の方法。
【請求項39】
さらに、前駆体を重合活性剤に変換させることを含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
重合性組成物が、メチレンマロネート、メチレンβ−ケトエステル、メチレンβ−ジ−ケトン、ジアルキル二置換ビニル、ジハロアルキル二置換ビニル、この単官能性、二官能性または多官能性の形態およびこの任意の組合せからなる群より選択される、請求項27に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2012年3月30日出願に出願された、発明の名称が重合性組成物の活性化方法、重合系およびこれにより形成される製品である米国特許仮出願第61/618,147号の優先権を主張する。この仮出願の内容は、引用によりこの全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
引用による組み込み
本明細書において言及もしくは引用したすべての文献、および本明細書において言及した文献中に言及もしくは引用されたすべての文献、ならびに本明細書に記載した製品の製造業者の使用説明書、説明書、製品仕様書およびプロダクトシートまたは引用により本明細書に組み込まれる文献中に言及もしくは引用されたすべての文献は引用により本明細書に組み込まれ、本発明の実施において使用され得る。
【0003】
本明細書に開示した例示的実施形態は、モノマー、オリゴマーおよび/またはポリマーの特定の連鎖生長性架橋性重合性組成物の活性化剤の導入による硬化を活性化させるための改善された方法、ならびにこの商品および組成物としての、例えば、モノマー系製品(例えば、インク、接着剤、コーティング、シーラントまたは反応性成型体)ならびにポリマー系製品(例えば、繊維、フィルム、シート、医療用ポリマー、複合材ポリマーおよび界面活性剤)としての使用および/または用途に関するものである。
【背景技術】
【0004】
メチレンマロネートは、一般式(I):
【0005】
【化1】
(式中、RおよびR’は同じであっても異なっていてもよく、ほぼあらゆる置換基または側鎖を表すものであり得る。)
を有する化合物である。かかる化合物は1886年以降から知られており、このとき、ジエチルメチレンマロネートの形成が、W.H.Perkin,Jr.(Perkin,Ber.19,1053(1886))によって最初に示された。
【0006】
しかしながら、メチレンマロネートを作製するための初期の方法は、商業的に実現可能なモノマーを得る際の使用に支障があるという大きな欠点を有する。かかる欠点としては、合成時のモノマーの不要な重合、望ましくない副生成物の形成、生成物の分解、不充分なおよび/または低い収率、ならびに有効でないおよび/または機能性が不充分なモノマー生成物が挙げられる。これらの問題は、市販品および工業製品の生産における実用化に悪影響を及ぼしている。
【0007】
本出願の一部の共同発明者らは、最近、メチレンマロネートの合成の改善された方法に関する特許出願、即ち、第PCT/US11/056903号(実質的に不純物を含有していないメチレンマロネートの合成)および第PCT/US11/056926号(熱伝導剤の存在下での迅速回収を用いたメチレンマロネートの合成)を出願した。これらに示された合成手順により、これまででは得がたい高品質のメチレンマロネートおよび他の重合性組成物の改善された収率がもたらされる。
【0008】
メチレンマロネートなどの二置換ビニルモノマーの改善された合成方法の出現に伴い、当該技術分野において、所望する結果、例えば、新たな類型の商業的に実現可能な製品を得るために重合を活性化させるのに適した方法の必要性が存在している。
【0009】
該重合性組成物は、アニオン開始またはフリーラジカル開始による連鎖構築および/または架橋性重合に適しており、新たな化学製品、例えば、インク、接着剤、コーティング、シーラント、成型体、繊維、フィルム、シート、医療用ポリマー、複合材、界面活性剤などの化学合成および配合のための非常に有益で大規模基盤の基礎が構築される可能性を有する。
【0010】
例えば、付加重合の分野では、主にアクリレートおよびメタクリレートが使用され、活性化のための従来の系は、比較的高レベルの触媒、ほとんどの触媒、促進剤および/または活性剤成分で典型的には2重量%以上伴うものであった。このため、相当な混合事象(多くの場合、基材のプライマー処理と対で)が適切な重合(即ち、速度、重合度など)を助長するために必要とされた。かかる要件は、例えば、結合不活性表面に使用される系においてみられ得る。従って、当該技術分野において、より容易な重合開始および管理ツールの必要性が存在している。かかる改善は、先行技術の技術水準を考慮すると容易に自明ではない。
【0011】
当該技術分野で知られているように、シアノアクリレートなどの材料は、かかる高レベルの触媒、促進剤または活性剤が必要とされない場合もあり得る。しかしながら、かかる系で示される特性は不充分であるため、当該技術分野において、特に不活性基材に対して、例えばカリックスアレーン、クラウンエーテルなどの添加剤を含めずに、不活性基材表面上でアニオン開始剤の強化または創出を助長するための活性化の改善された方法が開発される刺激となるものが存在していない。実際、性能を改善するために多くの場合でプライマーが使用されている。このような系では、重合を開始させるために、特に、開始事象(例えば、プライマー処理表面)からの大きな間隔に及ぶため、10ミル以上の大きなギャップ充填、製陶用途または成型部品のために、実質的に完璧な化学量論的混合が必要とされることがわかった。この場合も、一連の物理的および化学的特性に関して当該技術分野における性能の改善が所望されている。
【0012】
当該技術分野の水準を考慮すると、所望する結果を得るために、特に、周囲温度で長期貯蔵寿命を有する一貫して反応性の配合物の即座に自明ではない新たな解決策が必要とされている。さらに、当該技術分野において、低レベルで供給され、完璧または化学量論的な混合の必要のない付加重合性組成物と適した開始成分(1種類または複数種)を含む重合系が提供される必要性が存在している。
【0013】
さらに、当該技術分野において、一貫した反応性が得られ、周囲条件下で貯蔵可能であり、反応性および貯蔵寿命に影響を及ぼす不純物が実質的に含有されていない重合系の必要性が存在している。
【0014】
既に記載のように、一貫して反応性の周囲条件で貯蔵可能な一連の反応性配合物は、このような前述の製品、この使用および関連物品への組み込みに重要である。これに応じて、該製品は、一貫した高速反応性ならびに長期の周囲条件での保存寿命および貯蔵寿命に支障をきたし得る不純物をなんら実質的に含有していないものになるはずである。
【0015】
従って、ここに、オンデマンド式で高速の100%またはほぼ100%固形分であり、必要触媒が少なく、完全または実質的にエネルギー不要な硬化、周囲条件硬化をもたらし得る重合系、場合により、明白でこれまでに満たされていない必要性が満たされるように環境的、生物学的および/または代謝的に適合性の設計によるものであり得る架橋性の重合系を提供する。
【0016】
本明細書に記載の発明をどのようにして作製し、使用するかを、主題の発明が関する技術分野の当業者に、より容易に理解されるように、好ましい実施形態を、図面を参照しながら以下に詳細に説明する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】国際出願第PCT/US2011/056903号
【特許文献2】国際出願第PCT/US2011/056926号
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】W.H.Perkin,Jr.(Perkin,Ber.19,1053(1886))
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0019】
本明細書に開示した例示的実施形態は広範な潜在的用途を有する。本明細書に開示した例示的実施形態では、二重活性化ビニルモノマーおよびこの重合の活性化方法により、先行技術では示されない利点がもたらされる。
【0020】
本明細書に開示した一部の特定の例示的実施形態により、重合性組成物の重合を開始させるための種々の活性化方法を提供する。一部の特定の例示的実施形態では、活性化剤は重合性組成物となんらかの様式で分離されている。活性化剤は物理的に分離され、エネルギー付与されるまで一時的に不活性にされ、活性化剤前駆体などが作用を受けると利用可能となり得る。重合性組成物の重合は、活性化剤の重合性組成物との係合が活性化されると即座に開始され得る。または、硬化時間を所望する結果に応じて個別調整してもよい。
【0021】
本明細書に開示した例示的実施形態により、さらに、本明細書に開示した方法によって形成される製品、例えば限定されないが、インク、接着剤、反応性感圧接着剤、反応性ホットメルト接着剤、コーティング、シーラント、成型体、繊維、フィルム、シート、医療用ポリマー、複合材、界面活性剤などを提供する。
【0022】
一態様において、本発明は、
重合性組成物;および
重合性組成物中に不活性係合状態で担持された重合活性剤
を含み;
該重合性組成物は二重活性化ビニル化合物を含み、該重合活性剤は、相変化が起こると利用可能となって該重合性組成物を重合する、
重合系を提供する。
【0023】
本発明による重合系の一部の特定の実施形態では、相変化が、系の温度変化、重合活性剤の溶解、可溶化可塑剤の添加、物理的分離手段からの重合活性剤の放出、または重合活性剤の不活性状態から活性状態への変換によって可能になる。
【0024】
本発明による重合系の他の実施形態では、重合性組成物がメチレンマロネート、メチレンベータ−ケトエステルまたはメチレンベータ−ジケトンを含むものであり、重合活性剤が、UV放射線によって活性化されると不活性状態から活性状態に変換されるものである。さらに他の実施形態では、重合性組成物が、メチレンマロネート、メチレンベータ−ケトエステル、メチレンベータ−ジケトン、ジアルキル二置換ビニル、ジハロアルキル二置換ビニルの単官能性、二官能性または多官能性のいずれかの形態のうちの少なくとも1種類である。
【0025】
本発明による重合系のさらに他の実施形態では、重合活性剤が、塩基、塩基向上体、塩基創出体または塩基前駆体のうちの少なくとも1種類である。一部の特定の実施形態では、重合活性剤が、強塩基(9より高いpH)、中程度の強塩基(8から9のpH)もしくは弱塩基(7より大きく8までのpH)またはこの組合せから選択される塩基性材料を含む。他の実施形態では、重合活性剤が:酢酸ナトリウム;酢酸カリウム;ナトリウム、カリウム、リチウム、銅およびコバルトの酸の塩;テトラブチルアンモニウムフルオリド、クロリドおよびヒドロキシド;第1級、第2級または第3級のいずれかのアミン;アミド;ポリマー結合型酸の塩;安息香酸塩;2,4−ペンタン二酸塩;ソルビン酸塩;プロピオン酸塩;第2級脂肪族アミン;ピペリデン、ピペラジン、N−メチルピペラジン、ジブチルアミン、モルホリン、ジエチルアミン、ピリジン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリエチレンジアミン、N,N−ジメチルピペラジン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン;アミンと有機モノカルボン酸との塩;ピペリジンアセテート;低級モノカルボン酸の金属塩;酢酸銅(II)、酢酸第二銅一水和物、酢酸カリウム、酢酸亜鉛、クロロ酢酸亜鉛、クロロ酢酸マグネシウム、酢酸マグネシウム;酸含有ポリマーの塩;ポリアクリル酸コポリマーの塩から選択される少なくとも1つの構成員である。一部の特定の実施形態では、重合活性剤がワックス中に封入されるか、または化学的不活性化によって重合性組成物と不活性係合状態で準備される。
【0026】
本発明による重合系の一部の特定の実施形態では、重合活性剤が重合性組成物中に、該重合性組成物の重量基準で約2%未満、好ましくは1%未満、より好ましくは約0.5%未満、さらにより好ましくは0.1%未満の量で存在している。
【0027】
本発明による重合系の一部の実施形態では、重合性組成物が、環境上持続可能な方法によって得られるものである。他の実施形態では、重合性組成物が環境にやさしい、生体にやさしい、またはこの両方のものである。
【0028】
本発明による重合系のさらに他の実施形態では、重合性組成物が周囲温度で硬化可能である。一部の特定の実施形態では、重合性組成物が周囲温度で貯蔵可能なものである。
【0029】
別の態様において、本発明は、
重合性組成物;および
該重合性組成物から物理的に分離された重合活性剤
を含み;
該重合性組成物が二重活性化ビニル化合物を含み、該重合活性剤が、実質的な混合なしで、該重合性組成物と接触すると重合を開始することができる
重合系を提供する。
【0030】
重合活性剤が重合性組成物から物理的に分離された重合系の一部の特定の実施形態では、物理的分離が、活性化剤と重合性組成物をアプリケータ手段内部の別個の場所に収納することによりなされる。例示的実施形態では、アプリケータ手段がエーロゾルスプレーデバイスである。他の実施形態では、物理的分離が、最初に重合活性剤を基材の少なくとも一部分に塗布し、続いて重合性組成物を基材の該一部分に塗布することによりなされる。さらに他の実施形態では、物理的分離が、重合活性剤を基材の少なくとも一部分内または該一部分上に供給することによりなされる。
【0031】
重合活性剤が重合性組成物から物理的に分離された重合系の一部の特定の他の実施形態では、重合活性剤が不活性状態であり、重合系が、さらに、該重合活性剤をこの不活性状態から活性状態に変換させることができる変換剤を含む。
【0032】
一部の特定の実施形態では、変換剤が塩基向上体または塩基創出体である。
【0033】
他の実施形態では、重合活性剤が、重合性組成物を実質的に硬化させるのに有効な量で供給される。一部の特定の実施形態では、重合性組成物を実質的に硬化させるのに有効な量が、該重合性組成物の重量基準で、以下:2%未満、1%未満、0.5%未満および0.1%未満のうちの少なくとも1つである。
【0034】
さらに他の実施形態では、重合活性剤が、分散液、懸濁液として、溶剤中の溶質として、封入体として供給される。
【0035】
また別の態様において、本発明は、重合性組成物を重合活性剤と、実質的な混合なしで、加熱なしで、放射線への曝露なしで、またはこの任意の組合せで接触させることを含み、該重合性組成物が二重活性化ビニル化合物を含み、重合性組成物の重合の開始方法を提供する。
【0036】
本発明の方法の一部の特定の実施形態では、重合性活性剤を重合性組成物と、基材上に分配される直前に分配器内部で接触させる。一部の実施形態では、重合性活性剤が分配器から第1経路により排出され、重合性組成物が該分配器から第2経路により排出され、該重合性活性剤を重合性組成物と、該分配器から排出された直後に接触させる。さらに他の実施形態では、重合性組成物を基材の少なくとも一部分に、重合活性剤を基材の該一部分に塗布するのと実質的に同時に塗布し、該重合性組成物が重合活性剤と充分に接触および混合して重合を開始させる。
【0037】
本発明の方法の一部の特定の実施形態では、重合活性剤が、強塩基(9より高いpH)、中程度の強塩基(8から9のpH)もしくは弱塩基(7より大きく8までのpH)またはこの組合せから選択される塩基性材料を含む。一部の実施形態では、重合活性剤が、有機材料、無機材料もしくは有機金属材料またはこの組合せから選択される。他の実施形態では、重合活性剤が:酢酸ナトリウム;酢酸カリウム;ナトリウム、カリウム、リチウム、銅およびコバルトの酸の塩;テトラブチルアンモニウムフルオリド、クロリドおよびヒドロキシド;第1級、第2級または第3級のいずれかのアミン;アミド;ポリマー結合型酸の塩;安息香酸塩;2,4−ペンタン二酸塩;ソルビン酸塩;プロピオン酸塩;第2級脂肪族アミン;ピペリデン、ピペラジン、N−メチルピペラジン、ジブチルアミン、モルホリン、ジエチルアミン、ピリジン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリエチレンジアミン、N,N−ジメチルピペラジン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン;アミンと有機モノカルボン酸との塩;ピペリジンアセテート;低級モノカルボン酸の金属塩;酢酸銅(II)、酢酸第二銅一水和物、酢酸カリウム、酢酸亜鉛、クロロ酢酸亜鉛、クロロ酢酸マグネシウム、酢酸マグネシウム;酸含有ポリマーの塩;ポリアクリル酸コポリマーの塩から選択される少なくとも1つの構成員である。
【0038】
本発明の方法の一部の特定の実施形態では、重合活性剤が、重合性組成物を実質的に硬化させるのに有効な量で供給される。他の実施形態では、重合性組成物を実質的に硬化させるのに有効な量が、該重合性組成物の重量基準で、以下:2%未満、1%未満、0.5%未満および0.1%未満のうちの少なくとも1つである。具体的な実施形態では、重合活性剤が、アニオンによる攻撃機構またはフリーラジカル機構によって重合性組成物の重合を開始させるものである。
【0039】
本発明の方法の一部の特定の実施形態では、重合活性剤が前駆体の形態である。具体的な実施形態では、本発明の方法は、さらに、前駆体を重合活性剤に変換させる工程を含む。
【0040】
本発明の方法の他の実施形態では、重合性組成物が、メチレンマロネート、メチレンb−ケトエステル、メチレンβ−ジ−ケトン、ジアルキル二置換ビニル、ジハロアルキル二置換ビニル、この単官能性、二官能性または多官能性の形態およびこの任意の組合せからなる群より選択される。
【0041】
本発明のこれらのおよび他の目的および利点は、以下の説明に示しており、該説明から自明である。本発明のさらなる利点は、記載の説明およびこの特許請求の範囲に具体的に示した方法および系によって認識および達成されよう。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1A】97℃で時間=0のときの開始剤なしのDEMMとワックスのNMRスペクトルを示す。
図1B】97℃で時間=30分のときの開始剤なしのDEMMとワックスのNMRスペクトルを示す。
図2A】時間=70秒のときの開始剤を用いたDEMMとワックスのNMRスペクトルを示す。
図2B】時間=350秒のときの開始剤を用いたDEMMとワックスのNMRスペクトルを示す。
図2C】時間=490秒のときの開始剤を用いたDEMMとワックスのNMRスペクトルを示す。
図2D】時間=630秒のときの開始剤を用いたDEMMとワックスのNMRスペクトルを示す。
図3】DEMMのDSC図を示す。
図4】開始剤なしのDEMMとワックスのDSC図を示す。
図5】開始剤を用いたDEMMとワックスのDSC図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
略号および頭文字
当業者である有機化学者によって使用される略号の包括的一覧は、The ACS Style Guide(第3版)またはGuidelines for Authors for the Journal of Organic Chemistryに示されている。前記一覧に示された略号および当業者である有機化学者によって使用されるすべての略号は、引用により本明細書に組み込まれる。本発明の解釈上、化学元素は、Elements,CAS version,Handbook of Chemistry and Physics,第67版,1986−87の周期表に従って特定されるものである。
【0044】
定義
特に定義していない限り、本明細書で用いる科学技術用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者に一般的に理解されている意味を有する。以下の参考文献は、当業者に、本発明において用いている用語の多くの一般的な定義を示すものである:Singleton et al.,Dictionary of Microbiology and Molecular Biology(第2版 1994);The Cambridge Dictionary of Science and Technology(Walker編,1988);The Glossary of Genetics,第5版,R.Rieger et al.(編),Springer Verlag(1991);およびHale &Marham,The Harper Collins Dictionary of Biology(1991)。本明細書で用いる場合、以下の用語は、特に指定のない限り、以下のものに帰属する意味を有する。
【0045】
本明細書で用いる場合、用語「メチレンマロネート」は、式−O−C(O)−C(=CH)−C(O)−O−のコアを有する化合物をいう。ジエチルメチレンマロネートモノマーはエチル末端基を2つ有するメチレンマロネートであり、本明細書においてDEMMと表示する。ジメチルメチレンマロネートモノマーはメチル末端基を2つ有するものであり、本明細書においてDMMMまたはD3Mと表示する。
【0046】
本明細書で用いる場合、用語「重合性組成物」は、鎖伸長、架橋または両方によって重合可能な分子を含むモノマー型、オリゴマー型またはポリマー型の組成物または混合物をいう。
【0047】
本明細書で用いる場合、用語「単官能性」は、付加モノマー(例えば、メチレンマロネート)が付加重合性基を1つだけ有していることをいう。
【0048】
本明細書で用いる場合、用語「二官能性」は、付加重合性官能部を含有しているモノマー、オリゴマー、樹脂またはポリマーが、かかる付加重合性基を2つ(例えば、2つのメチレンマロネート基)有しており、官能部の架橋が可能であることをいう。
【0049】
本明細書で用いる場合、用語「多官能性」は、付加重合性官能部を含有しているモノマー、オリゴマー、樹脂またはポリマーが、かかる付加重合性基を2つ以上(例えば、メチレンマロネート基を3つ以上)有していることをいう。従って、「二官能性」は「多官能性」の下位類型である。
【0050】
本明細書で用いる場合、用語「活性化剤」は、形態または組成に関係なく重合性組成物の重合の開始に適した任意の薬剤をいう。
【0051】
本明細書で用いる場合、活性化剤に関する用語「別個の」または「分離されている」とは、活性化剤が、重合を開始させる様式で重合性組成物に作用することができないことを意味する。活性化剤は、重合性組成物に対して物理的に分離されるか、または化学的に不活性にされるか、またはなんらかの様式で障害され得る。
【0052】
本明細書で用いる場合、用語「活性化剤前駆体」は、この重合開始能は限定的であるが、本明細書に開示した活性化剤に直接または間接的に変換され得る任意の薬剤をいう。
【0053】
本明細書で用いる場合、用語「係合を不活化する」とは、活性化剤が重合性組成物の重合を「活性化する」または「開始する」のを不能にすることを意味する。係合の不活化は、任意の適した手段によって、例えば、活性化剤の重合性組成物との物理的分離によって、または活性化剤を、前駆体形態が活性化剤に変換されるまで(例えば、有効量の紫外線の照射または放射の施与により)重合の活性化が不能である前駆体の形態で準備することにより行われ得る。
【0054】
本明細書で用いる場合、用語「重合系」または「配合系」は、重合性組成物と適した活性化剤を、他の配合添加剤とともに、またはなしで合わせたものをいう。
【0055】
本明細書で用いる場合、用語「配合添加剤」は、この物理的または化学的特性を向上させるためおよび所望の結果を得るために配合系に含められる添加剤をいう。かかる配合添加剤としては、限定されないが、染料、顔料、靱性付与剤、耐衝撃性改良剤、レオロジー調整剤、可塑化剤、チキソトロープ剤、天然または合成ゴム、充填剤、強化剤、増粘剤、乳濁剤、禁止剤、蛍光マーカー、熱分解低減剤、耐熱性付与剤、界面活性剤、湿潤剤および安定剤が挙げられる。
【0056】
本明細書で用いる場合、用語「塩基」は、アニオン重合を開始させ得る少なくとも1つの電気陰性基を有する成分をいう。
【0057】
本明細書で用いる場合、用語「塩基前駆体」は、なんらかの様式で、例えば、加熱、化学反応またはUV活性化によって作用を受けると塩基に変換され得る成分をいう。
【0058】
本明細書で用いる場合、用語「塩基変換体」は、活性塩基を生成させるため、または別の成分を活性塩基に変換させるために、なんらかの様式で作用し得る薬剤をいう。
【0059】
本明細書で用いる場合、用語「塩基向上体」は、薬剤の塩基性を改善または向上させるためになんらかの様式で作用し得る薬剤をいう。
【0060】
本明細書で用いる場合、用語「二重活性化ビニル化合物」または「二置換ビニル化合物」は、−EWG−C(=CH2)−EWG−で表される二重活性化ビニル基を有する少なくとも1つの基を有する分子をいい;式中、EWGはシアノアクリレート以外の電子求引基である。
【0061】
特に特定していない限り、パーセンテージ(%)はすべて「重量パーセント」である。
【0062】
熱分析
TGAについて:実験はすべてTA Q50 TGAを用いて行った。TGAは熱重量分析を表す。これは、非常に高感度の計器であり、サンプルが加熱されるにつれてどれだけ重量が変化するかを測定する。この実験では、サンプルを600℃まで10℃/分の速度で500℃まで窒素中で加熱した。より多くの材料が燃焼するのを補助するため、500℃で計器を空気に切り替えた。次いで、収集されたデータを温度に対して重量パーセントとしてプロットし、5%質量減損時の温度を記録した。この温度を分解温度(Td5%)とみなす。
【0063】
DSCポリマーサンプルについて:実験はすべて、RCS 90冷却システムを備えたTA Q2000 DSCを用いて行った。DSCは示差走査熱量測定法を表し、参照およびサンプルの温度を同じ速度で上昇させるのに要する熱量を測定する。次いで、サンプルと参照の熱フローを比較すると、放出された、または必要とされたエネルギーによるサンプルの相変化が観察される。この実験では、サンプルを10℃/分でこの分解温度(TGAによる測定時)の直前まで加熱し、次いで、20℃/分で−60℃まで冷却し、次いで、この分解温度の直前まで再度加熱した。最初の加熱は材料の熱履歴を消去するために必要とされ、2回目の加熱は、ガラス転移温度(Tg)、結晶化温度(Tc)および融点(Tm)などの熱特性を測定するために使用されるものである。
【0064】
例示的実施形態
本明細書に記載の構造体、材料、組成物および方法は本発明の代表例であることを意図し、本発明の範囲は実施例の範囲によって限定されないことは理解されよう当業者には、本発明は、開示した構造体、材料、組成物および方法に対する変形例を用いて実施され得、かかる変形例は本発明の範囲に含まれるとみなされることが認識されよう。
【0065】
本明細書に開示した例示的実施形態により、二重活性化ビニル化合物、例えば、メチレンマロネートモノマーならびに他の重合性組成物(例えば、モノマー、オリゴマーおよび/またはポリマー)の使用における新規で非自明性の改善を提供する。特に重要なものは、重合性で二置換型の二重活性化ビニル化合物、例えば限定されないが、メチレンマロネート、メチレンβ−ケトエステル、メチレンβ−ジ−ケトン、ジアルキル二置換ビニル、ジハロアルキル二置換ビニルの単官能性、二官能性または多官能性のモノマー、オリゴマーまたはポリマーのいずれかであるものである。かかる重合性組成物ならびにこの関連モノマー系およびポリマー系生成物は、工業用途(家庭用を含む。)および医療用途のどちらにも有用であり得る。さらに、多くの他のモノマーとは異なり、一部の特定の例示的モノマーおよびこの生成物は、持続的な経路によって作製され得るとともに、環境および/または生体にやさしいように設計され得、そのため、生成物の多くは、一般的に「グリーン」とみなされるものであり得る。
【0066】
本発明の実施における使用に適した活性化剤は広くさまざまである。具体的な活性化剤の選択は、重合性組成物の化学的性質、使用される硬化機構の性質、重合が行われる方法および/または条件、最終使用用途および/または本発明の実施において使用される任意の基材の性質に依存する。活性化剤としては、1種類以上の重合性モノマー、プレポリマーおよび/または低分子量ポリマーもしくはオリゴマーの重合に関与するもの、例えば、活性剤、共活性剤、促進剤、共促進剤、触媒、共触媒、開始剤および共開始剤などが挙げられ得る。メチレンマロネートなどの二置換ビニルモノマーに一般的に重要なものは、塩基、塩基前駆体、塩基変換体および塩基向上体である。便宜上、本明細書において特に記載のない限り、用語「活性化剤」は、本明細書において、かかる任意のすべての薬剤を意味するために用いている。
【0067】
例示的実施形態では、活性化剤の必要量は、重合性組成物の約2重量%以下、好ましくは約1重量%未満、好ましくは重合性組成物の約0.5重量%未満、さらにより好ましくは重合性組成物の約0.1重量%未満であり得る。他の例示的実施形態では、活性化剤の所望量は、所望の用途において有効な重合が行われるのに必要な最小量、本明細書では「活性化量」と定義され得る。特定の例示的実施形態では、重合の開始に必要とされる活性化剤の量は、既知の反応性の系、例えば、エポキシ、ポリウレタンなどと比較すると大きく低減される。
【0068】
例示的活性化剤としては、特定の塩基性化合物が挙げられ得る。かかる塩基性活性化剤は、主にアニオンによる攻撃によって重合を開始することができる。他の例示的活性化剤は、主にフリーラジカル機構によって重合を開始することができる。
【0069】
例示的活性化剤には、重合性組成物の硬化を開始および/または硬化速度を加速し得る任意の材料が包含される。一部の特定の実施形態では、活性化剤には、重合性組成物に容量によって硬化を加速し得る、または可能にする材料が包含される。例示的活性化剤としては、限定されないが、酢酸ナトリウムもしくは酢酸カリウム;ナトリウム、カリウム、リチウム、銅、コバルトもしくは他の金属カチオンのアクリル酸、マレイン酸もしくは他の酸の塩;テトラブチルアンモニウムフルオリド、クロリド、ブロミド、ヨージドもしくはヒドロキシドなどの塩;または化学的に塩基性の材料、例えば、アミンおよびアミド;またはポリマー結合型酸の塩;安息香酸塩;2,4−ペンタン二酸塩;ソルビン酸塩;もしくはプロピオン酸塩が挙げられる。
【0070】
一部の特定の活性化剤は、一部の特定の重合性組成物と接触すると周囲温度で、外力(例えば、撹拌、混合)またはエネルギー(例えば、熱、UV)の導入なしで実質的に即時に重合を開始する。さらに、例示的実施形態では、重合の開始に厳密な化学量論量は必要とされない。本明細書に開示した例示的実施形態では、活性化剤は、重合が誘導されるように設計された様式で重合性組成物と「活性化係合」状態になる。一部の特定の用途では、活性化剤と重合性組成物間のかかる活性化係合が、かかる重合が所望されるまで防止されることが望ましい。
【0071】
例示的実施形態では、本明細書に開示した系の重合は、重合性組成物と活性化剤との接触時または後の時点のいずれかで起こるように制御され得る。他の例示的実施形態では、該系は、基材との接触前またはかかる接触後に重合が完了するように設計され得る。
【0072】
従って、本明細書に開示した一部の特定の例示的実施形態により、早期重合を防止するための重合性組成物との活性化剤の「分離」を提供する。他の場合では、重合性組成物との活性化剤の分離により、商品の容易な配送が可能になる。一部の特定の例示的実施形態では、重合性組成物と適した活性化剤は、事前にパッケージングされた系として入手可能なものであり得、この場合、該反応性成分はなんらかの様式で分離されている。活性化剤を重合性組成物と分離するさらに他の手段は、以下により詳細に論考する。
【0073】
一部の例示的実施形態では、活性化剤は、最初は、本明細書において定義する「活性化剤前駆体」として供給され得る。他の例示的実施形態では、活性化剤は、重合性組成物と接触させる表面上に固有に存在するものであってもよく、該表面に塗布されるものであってもよい。他の例示的実施形態では、活性化剤は、重合性組成物と接触させる表面上にプライマーとして供給され得る。
【0074】
本明細書に開示した例示的実施形態において、活性化剤は、潜在的活性化剤前駆体から誘導されるものであってもよい。他の実施形態では、活性化剤は重合性組成物と、重合系の一部として物理的に分離され得る。他の実施形態では、活性化剤は重合性組成物と、不活性または不適合な状態または相で接触しているものであり得る。活性化剤のこれらの実施形態は一例として示しているにすぎず、本発明の限定を意図するものではない。
【0075】
また、例示的重合性組成物が使用された配合系に、所望の結果を得るために必要に応じて、以下:染料、顔料、靱性付与剤、耐衝撃性改良剤、レオロジー調整剤、可塑化剤、チキソトロープ剤、天然または合成ゴム、充填剤、強化剤、増粘剤、乳濁剤、禁止剤、蛍光マーカー、熱分解低減剤、耐熱性付与剤、界面活性剤、湿潤剤、安定剤および他の添加剤のいずれかを含めてもよい。
【0076】
当業者には、所望の結果を得るために、系の一部として配合添加剤を活性化剤、重合性組成物またはこの任意の組合せの内部に、またはこれらとともに担持させてもよいことが認識されよう。
【0077】
メチレンマロネートおよび他の重合性組成物を主体とする重合性組成物は、任意の数の組成物および生成物、例えば限定されないが、モノマー系組成物、オリゴマー系組成物およびポリマー系組成物に組み込まれ得る。
【0078】
例示的な一実施形態において、重合系(例えば、配合生成物)は、重合性組成物中に担持されているが活性化係合状態でない活性化剤を含むものであり得る。しかしながら、エンドユーザーにとっては、該系は「単一部分構成」の系としての外観を有するものである。この外観は、必要とされる活性化剤が少量であることによって容易になる。例えば、ある具体的な系に0.1重量%の量の活性化剤が必要とされるならば、1グラムの活性化剤では、1000グラムの重合性組成物が経時的に活性化され得る。従って、例示的な一実施形態により、内部に活性化剤が収容されており、使用時は、該系が1種類の成分(即ち、重合性組成物)のみを内包しているようにみえるように本質的に隠されている使い捨てのスプレー、ゲルまたは液体の分配デバイスを提供する。
【0079】
なおさらには、自動、半自動または専門的取引環境では、該系は実質的に隠されたままとなり得、供給元により低頻度ベースのメンテナンスとなる。また、たとえ隠されていなくても、必要なメンテナンスが低頻度である系は非常に有用である。
【0080】
さらに、熱もしくはエネルギー多消費要件、または化学薬品取り扱いの工程もしくは設備が排除される系により、より高速で行われ得るエネルギー効率のよい製造方法が容易になる。
【0081】
本明細書に開示した例示的実施形態との関連において開示した原理は、他の反応性の系にも同様に拡張され得る。例えば、本明細書に開示した重合性組成物および活性化剤および方法の使用は、射出成型、複合材の引抜き成型などにも適用可能である。他の例としては、ホットメルト接着剤ならびに異形押出成形品(profile)、繊維、フィルムおよびシート商品のためのインラインポリマー形成が挙げられる。さらに他の例としては、コーティングおよびインクの塗布システムが挙げられる。
【0082】
以下の実施例は、重合性組成物、重合系および配合生成物の活性化の種々の方法の概念実証を示すものである。
【実施例】
【0083】
1.封入系
例示的な一実施形態において、重合系は、重合性組成物(例えば、単官能性、二官能性または多官能性のメチレンマロネート、例えば、DEMM、DMMM、ジ−n−プロピルメチレンマロネート、ジ−イソプロピルメチレンマロネート、ジベンジルメチレンマロネート、メチレンβ−ケトエステルおよびメチレンβ−ジ−ケトン)中に具体的には2重量%以下の濃度で担持されているが不活性化係合状態である活性化剤を含むものであり得る。重合を開始させるか、または発端となるのに充分な活性化剤だけで、有効な重合が助長されるのに充分であることがわかった。例示的系は、例えばワックス中への活性化剤の封入を使用したものである。もちろん、多くの他の封入剤が、重合性組成物から活性化剤の所望の分離を行うために使用され得る。
【0084】
例えば、活性化剤(例えば、安息香酸カリウム,適した溶剤中の1%溶液)はワックス(例えば、Carbowax 8000)中に封入され得る。すると、封入された活性化剤は、硬化を開始することなく重合性組成物中に担持され得る。従って、封入された活性化剤は、重合性組成物に対して不活性または非反応性にされる。ワックスが融解するのに充分な軽い加熱を行うと、活性化剤が放出され、即座に重合が開始される。活性化剤は重合性組成物中に、重合性組成物の重量基準で約2%未満、より好ましくは重合性組成物の重量基準で約0.5%未満、さらにより好ましくは、重合性組成物の重量基準で約0.1%未満のレベルで存在させ得る。該重合系は、インク、一般的な接着剤、反応性感圧接着剤、反応性ホットメルト接着剤、コーティング、複合材ポリマーマトリックスなどとして使用され得る。当業者には、かかる系に前述の配合添加剤を配合してもよいことが認識されよう。
【0085】
択一的な実施形態では、活性化剤(例えば、安息香酸カリウム,適した溶剤中の1%溶液)はワックス(例えば、Carbowax 8000)などの担体中に包埋され、次いで別のワックス層内に再封入され、活性化剤の隔離が確実にされ得る。この場合も、活性化剤は、重合性組成物(例えば、単官能性、二官能性または多官能性のメチレンマロネート、例えば、DEMM、DMMM、ジ−n−プロピルメチレンマロネート、ジ−イソプロピルメチレンマロネート、ジベンジルメチレンマロネート、メチレンβ−ケトエステルおよびメチレンβ−ジ−ケトン)中に、重合性組成物の重量基準で約2%未満、より好ましくは重合性組成物の重量基準で約0.5%未満、およびさらにより好ましくは、重合性組成物の重量基準で約0.1%未満のレベルで存在させ得る。また、二官能性または多官能性を有するモノマーまたはオリゴマー成分を含む重合性組成物は、重合反応中に架橋し、最終製品に改善された特性が付与される。
【0086】
他の択一的な実施形態では、活性化剤は、最初は活性化剤を重合性組成物と分離するマイクロスフィアまたは他の構造体に封入され得る。重合は、該構造体の完全性が破壊されて活性化剤と重合性組成物間の係合の活性化が可能になることにより開始され得る。
【0087】
上記の安息香酸カリウムに加え、活性化剤は、重合性組成物の硬化を開始させるための本明細書において定義した任意の薬剤であり得る。
【0088】
例示的実施形態では、活性化剤は、該反応を触媒し、さらなる混合または投入エネルギーなしで重合を非常に急速に起こすものである。
【0089】
例示的な一実施形態において、重合系(例えば、配合生成物)は、重合性組成物中に具体的には2%未満の濃度で担持されているが活性化係合状態でない活性化剤を含むものであり得る。特に重要なのは、必要とされるのが有効な重合を開始させるのに充分な活性化剤だけであることである。従って、系全体を加熱する必要はなく、まさにこの充分な活性化剤を放出させるのに必要とされる部分だけ加熱する。一例として、温風流をもたらして該組成物の流れまたは該組成物を霧化した流れを覆ってもよく、この場合、加熱の必要があるのは表面だけである。これにより、エネルギー使用量ならびに該組成物が基材と接触するときの最終的な温度が劇的に低減される。従って、その他の方法では容易ではないであろう非感熱性の基材が製造における使用に可能となる。
【0090】
NMRとDSCを使用してDEMMとワックス封入開始剤の反応をモニタリングする実験を行った。実験の結果は、封入ワックスをこの融点より上で加熱すると、開始剤が放出されて重合が起こることを示す。
【0091】
重合性組成物はDEMM(95%純粋)とした。開始剤は、Carbowax 8000中に封入した安息香酸カリウムとした。対照は、開始剤の存在なしのCarbowax含有DEMMを用いて行った。
【0092】
NMRデータを取得して反応をモニタリングした。溶媒が重合速度に影響するかもしれないため、このままのサンプルで実験した。そのため、シミングはおおまかにしか行わなかった。また、ワックス粒子は液面に浮遊する傾向があるため、実験をワックスの融点より下でセットアップし、サンプルを取り出し、プローブを該融点より上までで加熱し、振盪したばかりのサンプルを挿入し、条件を最適化するために時間を費やすことなく即座にデータを取得することが必要であった。液体状態NMRでは、材料が重合して固形になるにつれて、シグナルは広くなって「消失」する。
【0093】
図1は、97℃で時間=0および30分のときの開始剤なしのDEMMとワックスのNMRスペクトルを示す。反応は観察されず、開始剤なしのワックスは硬化に対して影響しないことを示す。
【0094】
図2は、時間=70秒、350秒、490秒および630秒のときの開始剤を用いたDEMMとワックスのNMRスペクトルを示す。モノマーの二重結合は6.3ppmに出現し、経時的に消失していることおよびエトキシ基によるシグナルのブロードニングがみえられる。硬化した材料は固形であるため液体状態NMRでは観察可能でないが、小さなシグナルが2.7ppmに確認でき、これは、生成したポリマー主鎖のCHによるものである。
【0095】
図3は、DEMM単独のDSCの結果を示す。DEMMは219℃で発熱し、DEMMは自己重合し得るが、非常に高温でのみであることを示す。
【0096】
図4は、開始剤なしのDEMMとワックスのDSCの結果を示す。発熱はみえられず、硬化は起こらなかったことを示す。しかしながら、78℃にワックスの融解による吸熱がみとめられる。
【0097】
図5は、開始剤を用いたDEMMとワックスのDSCの結果を示す。83℃にDEMMの硬化による大きな発熱が確認できる。おそらく、発熱が非常に大きかったため、ワックスの融解による吸熱(あれば)は隠れてしまっている。
【0098】
NMR
NMRプローブの温度は純粋なエチレングリコールを用いて較正した。サンプルの温度は、以下の等式:T(K)=(4.637−デルタ)/0.009967(式中、デルタ=エチレングリコールのCH2とOH間の分裂(単位:ppm))によって求めた。
【0099】
DEMMとワックスまたはワックス封入開始剤をNMRチューブに添加した。サンプルを70℃のプローブ内に入れた。ロック溶剤は使用しなかったため、サンプルは重水素ロックなしで実験した。スペクトルに対するシミングは手作業で行った。データの取得には2度のパルスを使用した。サンプルをプローブから取り出した。次いで、プローブを空の状態で97℃まで加熱した。プローブが温度に達したら、サンプルを挿入し、データを取得した。シングルスキャンのデータファイルを7秒毎に取得した。
【0100】
DSC
DSC実験は、RCS 90冷却システムを備えたTA Q2000 DSCを用いて行った。DSCは示差走査熱量測定法を表し、参照およびサンプルの温度を同じ速度で上昇させるのに要する熱量を測定する。次いで、サンプルと参照の熱フローを比較すると、放出された、または必要とされたエネルギーによるサンプルの相変化がみえられ得る。DEMMとワックスを合わせ、次いで、密封アルミニウムパン内で熱漸増プログラムを用いて実験する。サンプルはすべて、10℃/分の速度で所望のエンドポイントまで加熱した。この漸増データの解析の場合、吸熱はワックスの融解を示し、発熱はDEMMの重合の開始を示す。
【0101】
この概念実証実験は、活性化剤の封入による重合性組成物との分離の例示である。かかる系は、所望する結果が得られるように個別調整され得る。例えば、異なる融点を有するワックス、または異なる開始剤または開始剤濃度の供給により個別調整された結果が得られ得る。
【0102】
2.噴霧システム
例示的な一実施形態において、重合系(例えば、配合生成物)は、物理的に分離されており、従って、重合性組成物と活性化係合状態でない活性化剤を含むものであり得る。しかしながら、エンドユーザーにとっては、この系は単一部分構成の系の外観を有する。例示的な一実施形態において、該重合系は基材に、噴霧機構(例えば、手持ち型スプレーガン)によって送達される。例示的な一実施形態において、スプレーガンは、重合性組成物と活性化剤を別々に内包するための別個のカートリッジを含むものであり得る。例示的な一実施形態では、ポータルの1つが重合性組成物の送達に使用され、別のポータルが活性化剤の送達に使用される。これらのポータルはノズル内に、重合性組成物と活性化剤が、気中または基材表面上に存在するまでなんら有意な様式で互いに接触しないように配列され得る。該重合系は、重合が所望により接触時、または後の時点で開始するように設計され得る。該系は、重合が基材との接触の前または後のいずれかで開始または完了するように設計され得る。
【0103】
例示的な一実施形態では、活性化剤の充分な混合および厳密な添加が必要とされないため、気中混合で充分に重合が開始される。重合が気中で完了するように設計される系では、種々のサイズのポリマー粒子が製造され得る。
【0104】
他の例示的実施形態では、噴霧機構は手持ち型スプレーガンでなくてもよいが、重合系が連続的な方法で、例えば、ロボットインライン供給によって送達される方法の一部であるのがよい。この場合も、該系は基材に、重合性組成物と活性化剤が、両者の接触が所望されるまで分離された状態で維持される様式で送達される。当業者には、本明細書に開示した原理を用いて使用され得るさまざまな送達方法が存在し、これらの例は例示にすぎず、本発明を限定するために示したものでないことが認識されよう。
【0105】
a.液−液
試験用のスチールパネル(基材)はACT Test Panels LLC製のものとした。試験の際、活性化剤(開始剤)は、2−ブタノールに溶解させて1重量%のプロピオン酸ナトリウムの溶液にした。重合性組成物はジエチルメチレンマロネート(DEMM,99%純粋)とした。2−ブタノールは、単独ではDEMMの重合に影響しないため開始剤の溶媒として選択した。
【0106】
ポリマーの開発方法は、最初に、開始剤と重合性組成物を2つの別々の家庭用スプレーボトルに入れることを伴った。この溶液をスチール基材上に異なる様式で噴霧し、種々の混合方法による開始の適合性を試験した。
【0107】
第1試用では、開始剤をスチール基材上に噴霧し、次いで、DEMMをスチール基材上の開始剤の上面に噴霧した。第2試用は逆の方法にし、まず、DEMMをスチール基材上に噴霧し、続いて開始剤を噴霧した。第3試用は、開始剤とDEMMの両方をスチール基材上に同時に噴霧し、そのためこれらが気中および表面上で混合されることを伴うものとした。3つの試用ではすべて、DEMMの重合がもたらされた。
【0108】
各サンプルを硬化させ、ポリマーをスチール基材表面から取り出し、熱重量分析(TGA)によって解析し、各ポリマーの分解温度を調べた。
【0109】
第1試用(開始剤を噴霧した後、重合性組成物を噴霧)の結果は、得られたポリマーの分解温度が184℃であった。第2試用(重合性組成物を噴霧した後、開始剤を噴霧)の結果は、得られたポリマーの分解温度が160℃であった。第3試用(重合性組成物と開始剤を表面上に同時に噴霧)の結果は、得られたポリマーの分解温度が159℃であった。
【0110】
b.液−ガスまたは気相
例示的実施形態では、成分の少なくとも一方をガス状または霧化状態にすることにより同様またはさらに良好な結果が得られ得る。例えば、手持ち型スプレーガンまたは他の送達システムは、重合の開始に必要な触媒の量が非常に少なく、完全な混合が必要とされないため、この型の系用に容易に構築され得る。
【0111】
単一部分構成の系のようにみえるこの二部構成の系は、本明細書に開示した原理を用いて多くの他の用途が可能である。例えば、ノズル、ポンプまたはシリンジによって送達される多くの接着剤用途が存在する。活性化剤と重合性組成物は、活性化剤が重合性組成物と接触すると急速重合反応が起こるためエンドユーザーには単一部分構成の系にみえるが実際には二部(またはこれより多くの)構成の系である様式で送達され得る。
【0112】
3.UV活性化型の系
重合性組成物、即ち97%純度のDEMMを放射線硬化性成分フェロセン/n−ブチルフェロセン/チタノセンとともに、Irgacure 819(光開始剤−ホスフィンオキシド型)と合わせてUV放射線に曝露すると、重合は全く示されないことがわかった。しかしながら、特定の重合性シアノアクリレート(CA)を配合した組成物の重合はUV手法によって開始され得る。例えば、Wojciakに対する米国特許第5,922,783号を参照のこと。さらに、特定のCA配合組成物は、DEMM組成物と適合性(安定)であることがわかった。従って、DEMM重合性組成物にCA配合組成物が有効にドープされた反応性(重合性)の系が配合され得る。UV放射線によって作動させると、CA配合組成物は重合し始め、DEMMの重合を有効に開始させる。なんら特定の理論に拘束されることを望まないが、DEMMの重合はフリーラジカル機構によって起こると考えられる。従って、該CA配合組成物は、充分なUV放射線源に曝露されるまではやさしいまたは不活性な薬剤としての機能を果たす。例示的な一実施形態において、DEMM中の該CA配合組成物の活性化量は25%以上である。この手法のさらなる最適化により、該活性化量の低減がもたらされ得る。
【0113】
[実施例1]
光開始剤(例えば、Irgacure 819,ビスアシルホスフィン(bisacylphospine)オキシド)およびメタロセン(1種類または複数種)(フェロセン/n−ブチルフェロセン)を含有するCA配合物は、UV硬化機構に非常に良好に応答する。UV開始型硬化は、DEMM組成物をCA配合物と1:1の比で合わせた場合に観察された。
【0114】
[実施例2]
3種類のマスターバッチを作製した:
1.1%のIrgacure 819および500ppmのフェロセンを含むDEMM
2.上記と同じものにn−ブチルフェロセンを含める
3.(1)と同じものにチタノセンジクロリドを含める
各マスターバッチ配合物とCAモノマーを、小型ピペットにより、CAモノマーに対してマスターバッチ配合物を2:1の滴下比率でガラススライド上に添加し、ベルト速度設定2のFusion光源(D電球)に曝露した。およそ10から20秒間のUV曝露後、サンプルは、ある程度の重合を示したが、わずかに粘着性であった。
【0115】
この手順を、いくらかのGenocure CPK(ヒドロキシルシクロフェニルケトン)(300から500ppm)の添加を伴って繰り返した。同じUV曝露を試行した。組成物は、認識可能な粘着性なく硬化した。
【0116】
この手順を、3:1の比および同じUV曝露を用いて繰り返した。組成物はいくぶん硬化したが、粘着性であった。
【0117】
当業者には、Fusion UVチャンバ以外の放射線源が使用され得ることが認識されよう。例えば、ブラックライトおよび日光でさえも所望の放射線が供給され得る。この例示的実施形態は一例として示しているにすぎず、本発明の限定を意図するものではない。
【0118】
4.布地/繊維/紙への塗布
本明細書に開示した重合系は、種々の布地、繊維、紙または他のかかる基材の結合および/またはコーティングに使用され得る。例えば、活性化剤を、基材上にサイジング剤または他の前処理剤として存在させ得る。
【0119】
本明細書に開示したものなどの重合系は、重合し、繊維ガラスおよびカーボン繊維の基材上に結合することがわかった。従って、この概念実証により、活性化剤を基材上に担持させ得、重合が所望されると、重合性組成物を基材に導入させ得ることが想定される。以下の実施例は、繊維ガラスおよびカーボン繊維/布地での成功裡の重合の例示である。
【0120】
a.繊維ガラス布
試験の際に使用した繊維ガラス材は、2.5オンスの繊維ガラスクロスとした。最終複合材生成物がこの繊維ガラスクロス材の複合材マットになることを意図した。
【0121】
繊維ガラスクロスをまず切断し、2インチ×2インチのサイズの正方形に準備した。これらの層を、結合の準備のために個々に研究室の作業台の上に並べた。接着剤結合に使用した活性化剤(開始剤)は、3重量%の1,8−ジアザビシクロウンデス−7−エン(DBU)を含有するアセトン溶液とした。複合材の作製に使用した重合性組成物(接着性結合剤)は99%純粋なDEMMとした。
【0122】
3mL容スポイトを使用し、繊維ガラスシートの半分を開始剤溶液で飽和させ、繊維ガラスシートの残りの半分をDEMMで飽和させた。次いで、この繊維ガラスマット複合材を、繊維ガラス材の個々の正方形を積層することにより準備した。積層の順序は系が交互に含まれるようにし、この場合、繊維ガラス材のサンドイッチを、開始剤で飽和させた繊維ガラスの層、続いて、接着性結合剤で飽和させた層、この次に続いて開始剤で飽和させた層、・・・のようにして構成した。すべての層を所定の位置に配置した後、ゴムローラーを用いて複合材サンドイッチを圧縮した。
【0123】
硬化方法中、複合材生成物から少量の発熱が示された。硬化速度は非常に急速であり、取り扱いが可能な複合材がおおよそ2分以内に作製された。初期硬化後、サンプルを24時間状態調節し、剛性の繊維ガラス複合材を得た。
【0124】
b.カーボン繊維/布
試験の際に使用したカーボン材は織布のカーボン繊維クロスとした。最終複合材生成物がこのカーボン繊維クロス材の複合材マットになることを意図した。
【0125】
カーボン繊維クロスをまず切断し、2インチ×2インチのサイズの正方形に準備した。これらの層を、結合の準備のために個々に研究室の作業台の上に並べた。使用した活性化剤(開始剤)は、3重量%の1,8−ジアザビシクロウンデス−7−エン(DBU)を含有するアセトン溶液とした。複合材の作製に使用した重合性組成物はDEMM(99%純粋)とした。
【0126】
3mL容スポイトを使用し、カーボン繊維シートの半分を開始剤溶液で飽和させ、カーボン繊維シートの残りの半分を重合性組成物で飽和させた。次いで、このカーボン繊維マット複合材を、カーボン繊維材の個々の正方形を積層することにより準備した。積層の順序は系が交互に含まれるようにし、この場合、カーボン繊維材のサンドイッチを、開始剤で飽和させたカーボン繊維の層、続いて、重合性組成物で飽和させた層、この次に続いて開始剤で飽和させた層、・・・のようにして構成した。すべての層を所定の位置に配置した後、ゴムローラーを用いて複合材サンドイッチを圧縮した。
【0127】
硬化方法中、複合材生成物から少量の発熱が示された。硬化速度は非常に急速であり、取り扱いが可能な複合材がおおよそ2分以内に作製された。初期硬化後、サンプルを24時間状態調節し、剛性のカーボン繊維複合材を得た。
【0128】
5.フリーラジカル開始剤による重合
実施例:AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)を2グラムのDEMMに0.6モル%の濃度で、フラスコ内で磁気撹拌機を用いて溶解させた。この溶液を窒素で脱気し、窒素ブランケット下に維持した。溶液を撹拌し、60℃まで加熱した。わずかに黄色に着色した粘性の流れが60℃で2時間後に観察された。撹拌バーを止めて4.5時間で重合を終了させた。
【0129】
この粗製物質を、ポリマーをアセトン中で一晩撹拌することによって精製し、濾過および乾燥させて1.65gの白色塊状物を得た。窒素下での熱分解分析は、50%減損が299℃であった。
【0130】
対照実験は、フリーラジカル開始剤なしでこの手順を繰り返すことにより行った;実験中、着色または粘性の流れはみられなかった。
【0131】
6.DEMMの活性化:
手順:
Q−Labs製の1インチ×4インチのアンモニウム試験片をイソプロピルアルコールですすぎ洗浄し、キムワイプで拭いてきれいにし、再度すすぎ洗浄して風乾した。
【0132】
テトラブチルアンモニウムフルオリド(ロット番号C08T046,Sigma Aldrich)、テトラブチルアンモニウムクロリド(ロット番号BCBJ7890V,Sigma Aldrich)、テトラブチルアンモニウムブロミド(ロット番号MKBK8505V,Sigma Aldrich)、テトラブチルアンモニウムヨージド(ロット番号BCBJ2990V,Sigma Aldrich)、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム(ロット番号MKBJ8668V,Sigma Aldrich)、酢酸カリウム(ロット番号SLB02551V,Sigma Aldrich)、4,N,N−トリメチルアニリン(ロット番号MKBH7547V,Sigma Aldrich)、1,1,3,3−テトラメチルグアニジン(ロット番号SHBL3556V,Sigma Aldrich)、1−アリル−3−メチルイミダゾリウムクロリド(ロット番号BCBF0130V,Sigma Aldrich)およびインデン(ロット番号MKBH4027V,Sigma Aldrich)のプライマー溶液をエタノールに溶解させて調製。一方、アルミン酸ナトリウム(The Shepherd Chemical Company(シンシナティ,オハイオ州)製)を脱イオン水に溶解させた。プライマー溶液の調製は、50℃で加熱して最大24時間撹拌しながらの両成分の混合を伴った。
【0133】
プライマーをアルミニウム試験片上に流延し、周囲条件;70から75F、30から35%RHで2時間乾燥させた。アルミン酸ナトリウムの流延では、水分除去のために82℃の炉の補助を伴って流延膜を乾燥させた。
【0134】
およそ100mgのDEMM(95%純粋)をプライマー処理表面上に配した。重合物は、モノマー添加後、3時間以内に完全に乾燥した。
【0135】
24時間後、ポリマー膜を清浄なカミソリ刃によって剥がし、窒素下での熱分解分析または分子量測定に供した。サンプルに使用した活性剤は、重合の開始に有用な多種多様な有機/無機塩基および塩、中性塩基および超塩基、イオン液体、ならびに反応性の炭化水素の例示である。結果を表1から5にまとめる。
【0136】
【表1】
【0137】
【表2】
【0138】
【表3】
【0139】
【表4】
【0140】
【表5】
【0141】
7.種々のメチレンマロネートの重合:
上記に示した手順に従い、一群のメチレンマロネートを、1,2,3,3−テトラメチルグアニジンの1.0%プライマー溶液を用いて重合させた。重合は周囲条件:22℃、31%相対湿度で5時間以内に完了した。サンプルを窒素下での熱分解分析に供した。結果を表6にまとめる。
【0142】
メチレンマロネートの一般構造式はR1−O−C(O)−C(CH2)−C(O)−O−R2である。表6は、種々のR1基とR2基を有する一群のメチレンマロネートを示す。
【0143】
さらに、表6には架橋性の多官能性ブレンドを含めている。多官能性モノマー(二官能性モノマーなど)および重合性組成物は、発明の名称が多官能性モノマー、多官能性モノマーの作製方法、重合性組成物およびこれにより形成される製品である同時係属の特許出願第PCT/US12/60830号(この全体が本明細書に組み込まれる。)に開示している。例示的な一実施形態において、多官能性モノマーは、ジエチルメチレンマロネート(DEMM)と1,6−ヘキサンジオール(HD):
【0144】
【化2】
のエステル交換によって得られるものであり、本明細書では「多官能性(DEMM/HD)生成物」と称する。
【0145】
この具体的な多官能性の(DEMM/HD)生成物は例示の目的で示しているにすぎず、限定を意図するものでない。例示的な多官能性重合性組成物は:およそ85重量%のDEMM、およそ10重量%の多官能性(DEMM/HD)生成物およびおよそ5重量%の他の(例えば、マロン酸ジエチル(DEM))を含むものであり、本明細書では「多官能性ブレンド」と称する。
【0146】
【表6】
【0147】
表6に示したメチレンマロネート化合物は例示にすぎず、他の二重活性化ビニル化合物(例えば、メチレンβケトエステル、メチレンβジ−ケトンなど)および他の二官能性/多官能性材料でも同様の重合反応が予測され得る。
【0148】
従って、本明細書に開示した例示的実施形態により、重合性組成物、適した開始剤および種々の重合活性化方法を提供する。重合は、例えば、基材に塗布された、もしくは固有に存在する開始剤、スプレーシステムでの気中、UV機構、分離システム(例えば、封入)の除去もしくは破壊、気相相互作用、またはフリーラジカルの放出によって活性化され得る。
【0149】
本明細書に開示した系は、限定されないが、一般的な接着剤、反応性感圧接着剤、反応性ホットメルト接着剤、シーラント、コーティング、インク、複合材のポリマーマトリックスなどとして塗布可能である。さらに、本明細書に開示した例示的実施形態により、熱または他のエネルギー多消費型の活性化手段が低減または排除される。本明細書に開示した例示的実施形態により、製造処理量が改善され得る非常に急速または瞬間的な硬化速度がもたらされる。本明細書に開示した例示的実施形態により、逸散性触媒の使用が低レベルであるという環境的にやさしい側面がもたらされる。また、本明細書に開示した例示的系は、生体にやさしい、堆肥化可能、消化可能、代謝的に適合性および/またはリサイクル可能であるように設計することが可能である。
【0150】
均等物
当業者には、常套的な範囲内の実験手法を用いて、本明細書に記載の発明の具体的な実施形態の多くの均等物が認識され、または確認することができよう。かかる均等物は本発明に包含されることを意図する。
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4
図5
【国際調査報告】