(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-513918(P2015-513918A)
(43)【公表日】2015年5月18日
(54)【発明の名称】幹細胞の破砕及び凝集防止方法及び組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 1/00 20060101AFI20150421BHJP
C12N 5/0775 20100101ALI20150421BHJP
C12N 5/074 20100101ALI20150421BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20150421BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20150421BHJP
【FI】
C12N1/00 G
C12N5/00 202H
C12N5/00 202D
A61K35/12
A61K47/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-505655(P2015-505655)
(86)(22)【出願日】2013年4月15日
(85)【翻訳文提出日】2014年12月15日
(86)【国際出願番号】KR2013003141
(87)【国際公開番号】WO2013154404
(87)【国際公開日】20131017
(31)【優先権主張番号】10-2012-0038828
(32)【優先日】2012年4月13日
(33)【優先権主張国】KR
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC,VN
(71)【出願人】
【識別番号】508033465
【氏名又は名称】ケー−ステムセル カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】K−STEMCELL CO., LTD.
(71)【出願人】
【識別番号】511197659
【氏名又は名称】ラ ジョンチャン
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【弁理士】
【氏名又は名称】長山 弘典
(74)【代理人】
【識別番号】100194973
【弁理士】
【氏名又は名称】尾崎 祐朗
(72)【発明者】
【氏名】ラ ジョンチャン
(72)【発明者】
【氏名】カン ソングン
(72)【発明者】
【氏名】シン イルソプ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AB06
4B065AC17
4B065BB36
4B065CA44
4C076AA22
4C076BB12
4C076CC50
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4C076FF63
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB64
4C087MA23
4C087NA03
(57)【要約】
本発明は、幹細胞の破砕及び凝集防止方法に関する。本発明はさらに、幹細胞がアスピリン含有溶液に浮遊されていることを特徴とする血管投与用幹細胞組成物に関する。本発明はまた、幹細胞がアスピリン含有溶液に浮遊されていることを特徴とする幹細胞の破砕または凝集防止用組成物に関するものである。本発明によると、移送や保管中細胞の破砕及び凝集を防止できて、投与された幹細胞が安定的に標的組織に到達して活性を示す効能をより効率的に高めることができるので、幹細胞を利用した細胞治療効能を画期的に増進させることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
幹細胞をアスピリン含有溶液に浮遊させる工程を含む、幹細胞の破砕及び凝集防止方法。
【請求項2】
前記アスピリンは、イソソルビド基剤アスピリン、またはニコチン酸基剤アスピリン化合物の中から選択されることを特徴とする請求項1に記載の幹細胞の破砕及び凝集防止方法。
【請求項3】
前記アスピリン含有溶液は、生理食塩水、ハートマンD液、及びPBSで構成された群から選択される溶液をさらに含有することを特徴とする請求項1に記載の幹細胞の破砕及び凝集防止方法。
【請求項4】
前記アスピリンの含有量は0.0001〜0.01mg/mLであることを特徴とする請求項1に記載の幹細胞の破砕及び凝集防止方法。
【請求項5】
前記幹細胞は、成体幹細胞であることを特徴とする請求項1に記載の幹細胞の破砕及び凝集防止方法。
【請求項6】
前記幹細胞は、脂肪組織由来中間葉幹細胞であることを特徴とする請求項5に記載の幹細胞の破砕及び凝集防止方法。
【請求項7】
幹細胞がアスピリン含有溶液に浮遊されていることを特徴とする血管投与用幹細胞組成物。
【請求項8】
前記アスピリン含有溶液は、生理食塩水、ハートマンD液、及びPBSで構成された群から選択される溶液をさらに含有することを特徴とする請求項7に記載の血管投与用幹細胞組成物。
【請求項9】
前記幹細胞は、成体幹細胞であることを特徴とする請求項7に記載の血管投与用幹細胞組成物。
【請求項10】
前記幹細胞は、脂肪組織由来中間葉幹細胞であることを特徴とする請求項9に記載の血管投与用幹細胞組成物。
【請求項11】
幹細胞がアスピリン含有溶液に浮遊されていることを特徴とする幹細胞の破砕または凝集防止用組成物。
【請求項12】
前記アスピリン含有溶液は、生理食塩水、ハートマンD液、及びPBSで構成された群から選択される溶液をさらに含有することを特徴とする請求項11に記載の幹細胞の破砕または凝集防止用組成物。
【請求項13】
前記幹細胞は、成体幹細胞であることを特徴とする請求項11に記載の幹細胞の破砕または凝集防止用組成物。
【請求項14】
前記幹細胞は、脂肪組織由来中間葉幹細胞であることを特徴とする請求項13に記載の幹細胞の破砕または凝集防止用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幹細胞の破砕及び凝集防止方法に関し、より詳しくは移送/保管中細胞が壊れたり細胞間凝集(aggregation)を形成しないようにする幹細胞の破砕及び凝集を防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞(stem cell)とは、自己複製能力を有すると共に、二つ以上の細胞に分化する能力を有する細胞をいい、万能幹細胞(totipotent stem cell)、分化万能性幹細胞(pluripotent stem cell)、多能性幹細胞(multipotent stem cell)に分類できる。万能幹細胞は、一つの完全な個体に発生していくことができる万能性を有する細胞で、卵子と精子の受精以後8細胞期までの細胞がこのような性質を有し、この細胞を分離して子宮に移植すると一つの完全な個体に発生していくことができる。分化万能性幹細胞は、外胚葉、中胚葉、内胚葉層由来の多様な細胞と組織から発生できる細胞であり、受精4〜5日後現れる胚盤胞(blastocyst)の内側に位置した内部細胞塊(inner cell mass)から由来し、これを胚芽幹細胞といい、多様な他の組織細胞に分化するが新しい生命体を形成することはできない。多能性幹細胞は、この細胞が含まれている組織及び器官に特異的な細胞だけに分化できる幹細胞で、胎児期、新生児期及び成体期の各組織及び臓器の成長と発達のみならず成体組織の恒常性維持と組織損傷時再生を誘導する機能に関与しており、組織特異的多能性細胞を総称して成体幹細胞という。
【0003】
成体幹細胞は、人体の各臓器に既に存在する細胞を採取、幹細胞を発展させたもので、特定組織だけに分化する特徴がある。しかし、最近では成体幹細胞を利用して、肝細胞等各種の多様な組織に分化させる実験が成功しており注目される。特に、病気や事故による機能障害や不調和に陥った生体組織及び臓器の再生及び機能回復のために細胞を積極的に活用して実施する治療法である再生医療において、患者本人から幹細胞、血液由来単核細胞或いは骨髄由来単核細胞を収集する工程、試験管培養で細胞増殖及び/または、分化を誘導する工程、及び選択された未分化(幹細胞及び/または、前駆細胞)及び/または、分化細胞を着床によって患者自身の体に導入する工程を含む方法が多く利用されている。このように、既存の古典的な薬品処置や手術的方法を介した病気治療が、損傷した細胞・組織・臓器を健康体に変える細胞・組織代替治療法に代替されると予測されるため、幹細胞の活用度はより一層高まることになる。
【0004】
そこで、現在の幹細胞の多様な機能が研究されており、その中でも中間葉幹細胞(mesenchymal stem cells)を利用した細胞治療技術が脚光を浴び始め、人体から分離した中間葉幹細胞を治療に適するように改善するための技術が開発されている(国際公開2006/019357号、韓国登録特許第0795708号公報、韓国登録特許第0818214号公報)。
【0005】
しかし、体内投与に適した安全性が優れた幹細胞を製造する方法に対する技術はまだ研究が不十分であるのが現状である。
そこで、本発明者らは、幹細胞をアスピリン含有溶液に浮遊させる場合、幹細胞の破砕及び凝集防止が可能であることを確認して本発明を完成するようになった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、幹細胞の破砕及び凝集防止方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、血管投与用幹細胞組成物を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、幹細胞の破砕または凝集防止用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明は、幹細胞をアスピリン含有溶液に浮遊させる工程を含む、幹細胞の破砕及び凝集防止方法を提供する。
本発明はまた、幹細胞がアスピリン含有溶液に浮遊されていることを特徴とする血管投与用幹細胞組成物を提供する。本発明はさらに、幹細胞がアスピリン含有溶液に浮遊されていることを特徴とする幹細胞の破砕または凝集防止用組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】種々の濃度のアスピリンに24時間露出させた幹細胞の凝集程度を観察した写真である。
【
図2】種々の濃度のアスピリンに72時間露出させた幹細胞の凝集程度を観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
他の方式で定義されない限り、本明細書において使用されたあらゆる技術的・科学的用語は、本発明が属する技術分野に熟練した専門家によって通常理解されるものと同じ意味を有する。通常、本明細書において使用された命名法及び以下で詳述する実験方法は、本技術分野において周知であり、しかも汎用されるものである。
【0010】
本発明で用いる用語「幹細胞」は、自己複製能力を有すると共に、二つ以上の細胞に分化する能力を有する細胞をいう。また、「成体幹細胞」は、発生過程が進んで胚芽の各臓器が形成される工程或いは成体工程に現れる幹細胞を意味する。
【0011】
本発明で用いる用語「中間葉幹細胞」は、ヒト又は哺乳類の組織から分離された未分化の幹細胞をいい、そして様々な組織に由来することができる。特に、前記中間葉幹細胞は、臍帯由来中間葉幹細胞、臍帯血由来中間葉幹細胞、骨髄由来中間葉幹細胞、脂肪由来中間葉幹細胞、筋肉由来中間葉幹細胞、神経由来中間葉幹細胞、皮膚由来中間葉幹細胞、羊膜由来中間葉幹細胞、及び胎盤由来中間葉幹細胞であることができ、そして各々の組織から幹細胞を分離する技術は、当該技術分野において公知である。
【0012】
本発明で用いられる用語「脂肪組織由来中間葉幹細胞」とは、脂肪組織から分離した未分化成体幹細胞であり、本明細書では略して「脂肪由来成体幹細胞」、「脂肪幹細胞」または「脂肪由来幹細胞」とも称する。これは当業界に公示された通常の方法を介して収得できるが、その分離方法は、例えば次のとおりである。即ち、脂肪吸入術から得られる生理食塩水に浮遊された脂肪含有懸濁液(suspension)を培養した後、フラスコなど培養容器に付着した幹細胞層をトリプシンで処理した後回収したり、スクレーパーで掻いて少量の生理食塩水に浮遊されるものを直接回収したりする方法等を介して脂肪由来中間葉幹細胞を分離することができる。
【0013】
本発明で、「移送」とは、幹細胞自体または幹細胞を含有する溶液を入れる容器などを自動車などの交通手段によって運送することを意味し、「保管」は、室温で保管する他、冷蔵での保管も含む。
【0014】
本発明で、「幹細胞の破砕及び凝集防止」とは、単細胞形態の幹細胞が壊れたり凝集することなくその形態を維持することを意味するもので、例えば、移送や保管中幹細胞の細胞膜が壊れたり細胞間凝集が形成されず、単細胞(single cell)形態を維持することを意味する。
【0015】
幹細胞は、種々の方法、例えば、静脈内、動脈内、または腹腔内投与などの方法で体内に投与されるが、その中でも静脈内投与は、外科的手術をしなくとも手軽ながら安全に疾病を治療できて有用である。しかし、静脈内に投与された幹細胞が実際に標的部位に安定的に到達して目的する治療効果を示すためには、種々の要件が満たされなければならない。先ず、幹細胞は、単細胞形態で血管内に投与されなければならない。体内投与のために幹細胞にトリプシンなどを処理して単細胞形態で製造できるが、単細胞形態で製造された幹細胞であっても移送や保管中細胞膜が壊れたり細胞間凝集が形成される問題点がある。単細胞形態でない凝集した幹細胞または壊れた細胞は、静脈内投与などの方法で体に投与される場合、血管内皮細胞や血小板などに付着して、血流速度を減少させたり血液の循環を妨げることがあり、さらに微細枝管や血管などの閉塞を招くこともある(D.Furlani et al.Microvasular Research 77(2009)370−376)。血管内に投与される前細胞の破砕や凝集が形成されてはならず、血管内に投与された後にも単一細胞として細胞の破壊や凝集を形成することなく標的部位に安定的に到達しなければならない。また、血管内に投与された幹細胞が、血流内速度を減少させたり血栓を形成しないように血管内投与に適した大きさでなければならない。それだけでなく、標的部位に到達した幹細胞が目的する治療効果を示すように、前提として一定濃度以上の細胞投与しなければならない。前記種々の要件のうち、本発明は、血管内に投与される前に幹細胞の破砕及び凝集を防止して体内投与に適した安全性が優れた幹細胞を提供するためのものである。
【0016】
一観点において、本発明は、幹細胞をアスピリン含有溶液に浮遊させる工程を含む、幹細胞の破砕及び凝集防止方法に関する。
【0017】
本発明で「アスピリン含有溶液」とは、アスピリン化合物を含有する溶液を意味し、溶媒としては、好ましくは生理食塩水が用いられるが、その他にもハートマンD液、PBS(Phosphate Buffered Saline)等当業界で一般に用いる基剤を制限なしに用いることができる。前記アスピリンは、通常市販されているアスピリン製剤だけでなくアスピリン類似化合物を用いてもよい。本発明の一実施例では、アセチルサリチル酸(Sigma、A5376)、アルタジルジュ(Arthalgyl Injection)またはアスピリンリシン(Shinpoong製薬)を生理食塩水に添加して、アスピリン含有溶液を製造した。この時、添加されるアスピリンの含有量は0.0001〜0.01mg/mLであることが好ましい。添加されるアスピリンの量がそれより多ければ細胞の生存率が減少することがあり、それより少なければ細胞破壊や凝集抑制の効果がたりないことがある。
【0018】
幹細胞を前記アスピリン含有溶液に浮遊させると、移送や保管中幹細胞の破砕及び凝集が現れないので、このような幹細胞は体内投与にすぐに適用できるので、有用である。従って、好ましくは血管投与時に用いられる幹細胞は、アスピリン含有生理食塩水に浮遊させた後、利用する。
【0019】
他の観点において、本発明は、幹細胞がアスピリン含有溶液に浮遊されていることを特徴とする血管投与用幹細胞組成物に関する。
【0020】
また他の観点において、本発明は、幹細胞がアスピリン含有溶液に浮遊されていることを特徴とする幹細胞の破砕または凝集防止用組成物に関する。
【0021】
本発明で用いられる幹細胞は、好ましくは成体幹細胞、その中でも脂肪組織、または、毛嚢、羊膜など上皮組織から得られる成体幹細胞を利用する。最も好ましくは、脂肪組織由来成体幹細胞を用いる。中間葉幹細胞(MSCs)を用いることができ、特に脂肪組織由来中間葉幹細胞(Adipose tissue−derived mesencymal stem cell、AdMSCs)でありうる。
【0022】
前記脂肪または上皮組織は、哺乳類由来であることが好ましく、その中でもヒト由来であることがより好ましい。本発明の一実施例では、ヒト脂肪組織由来中間葉幹細胞(Human adipose tissue−derived mesenchymal stem cell、hAdMSCs)を用いた。
【0023】
前記幹細胞の獲得に用いられる基本培地としては、当業界で幹細胞の培養に適しているとされている通常の培地が用いられるが、例えば、MEM(Minimal Essential Medium)、DMEM(Dulbecco modified Eagle Medium)、RPMI(Roswell Park Memorial Institute Medium)、K−SFM(Keratinocyte Serum Free Medium)があり、この他にも当業界で利用される培地であればよい。好ましくは、M199/F12(mixture)(GIBCO)、MEM−alpha培地(GIBCO)、低濃度グルコース含有DMEM培地(Welgene)、MCDB131倍地(Welgene)、IMEM培地(GIBCO)、K−SFMで構成された群から選択されたものが用いられる。特に、この中でも好ましくはK−SFM培地が用いられる。
【0024】
前記中間葉幹細胞培養物の獲得に用いられる基本培地は、当業界に公示された、中間葉幹細胞の未分化された表現型の増殖を促すが分化は抑制する添加剤で補充され得る。また、培地は等張液中の中性緩衝剤(例えば、リン酸塩及び/または、高濃度重炭酸塩)及び蛋白質栄養分(例えば、血清、例えば、FBS、FCS(fetal calf serum)、horse serum、血清代替物、アルブミン、または、必須アミノ酸及び非必須アミノ酸、例えば、グルタミン、L−グルタミン)を含有してもよい。さらに、脂質(脂肪酸、コレステロール、血清のHDLまたはLDL抽出物)及びこの種の多くの保存液培地で発見されるその他の成分(例えば、インスリンまたはトランスフェリン、ヌクレオシドまたはヌクレオチド、ピルビン酸塩、任意のイオン化形態または塩である糖原、例えば、グルコース、セレニウム、グルココルチコイド、例えば、ヒドロコルチゾン及び/または、還元剤、例えばβ−メルカプトエタノル)を含有してもよい。
【0025】
また、培地は細胞が互いに癒着したり、容器壁に癒着したり、大きすぎる束を形成することを防止する目的で、好ましくは抗凝集剤(anti−clumping agent)、例えばCat#0010057AE(Invitrogen製)等を含む。
【0026】
その中でも、下記の1以上の追加の添加剤を用いることが好ましい:
・幹細胞因子(SCF、Steel因子)、c−キットをニ量化する他のリガンドまたは抗体、及び同じ信号伝達経路の他の活性剤
・他のチロシンキナーゼ関連レセプター、例えば血小板−誘導された成長因子(Platelet−Derived Growth Factor、PDGF)、マクロファージコロニー−刺激因子、Flt−3リガンド及び血管内皮成長因子(Vascular Endothelial Growth Factor、VEGF)のレセプターのためのリガンド
・環状AMP濃度を高める因子、例えばフォルスコリン
・gp130を誘導する因子、例えばLIFまたはOncostatin−M
・造血母成長因子、例えばトロンボポイエチン(TPO)
・変形性成長因子、例えばTGFβ1
・ニュロトロフィン、例えばCNTF
【0027】
特に、本発明の一具体例で用いられる脂肪幹細胞を収得するための培地は、NAC、カルシウム、インスリン及びヒドロコルチゾン、抗酸化剤を含有するものが用いられ、より好ましくは、FBS、NAC、カルシウム、rEGF、インスリン、ヒドロコルチゾン及び抗酸化剤中二つ以上の成分を含有する培地が用いられる。前記抗酸化剤は、セレニウム(selenium)、アスコルビン酸、ビタミンE、カテキン、リコペン、βカロチン、コエンザイムQ−10、EPA(eicosapentaenoic acid)、DHA(docosahexanoic acid)等から選択したものが用いられ、好ましくはセレニウムが用いられる。本発明の一実施例では、抗酸化剤としてセレニウムを用いて、用いられるセレニウムの量は0.5〜10ng/mLであることが好ましい。
【0028】
本発明の一実施例では、本発明に係る培地で脂肪由来中間葉幹細胞を培養した。脂肪由来中間葉幹細胞は、下記のような方法で取得できる。まず、脂肪吸入術(Liposuction)等によって腹部から得られたヒト脂肪組織を分離してPBSで洗浄した後、組織を細かく切ってから、コラーゲン分解酵素を添加したDMEM培地を用いて分解した後、PBSで洗浄して1000rpmで5分間遠心分離する。上澄み液は除去して、底に残ったペレットはPBSで洗浄した後、1000rpmで5分間遠心分離する。100メッシュを用いて浮遊物を除去した後、PBSで再び洗浄した。DMEM(10%FBS.2mM NAC、0.2mMアスコルビン酸)培地で培養して、一夜過ぎた後、培養容器底に付着しなかった細胞はPBSで洗浄して、NAC、アスコルビン酸、カルシウム、rEGF、インスリン及びヒドロコルチゾンを含有したK−SFM培地を2日毎に交換しながら培養して、中間葉幹細胞を分離して継代培養して、中間葉幹細胞を得ることができる。しかしこの他にも当業界に公示された方法で中間葉幹細胞を得ることができる。
【0029】
前記組成の培地で培養された幹細胞をトリプシンで処理する工程をさらに含んでもよい。培養された幹細胞をトリプシンで処理すれば、単細胞形態の幹細胞を得ることができるが、この時、トリプシンは細胞間の凝集を抑制して細胞が単細胞の形態を持つように処理されるもので、細胞間の凝集形成を抑制できる物質ならいずれのものを用いてもよい。
【実施例】
【0030】
以下、実施例を通して、本発明をより一層詳細に説明する。この実施例は単に本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲がこの実施例によって制限されると解釈されないことは当業界の通常の知識を有する者には自明である。
【0031】
実施例1.ヒト脂肪組織由来中間葉幹細胞分離
脂肪吸入術により腹部脂肪から分離した脂肪組織をPBSで洗浄した後、脂肪組織を細かく切ってから、コラゲナーゼタイプ1(1mg/mL)を添加したDMEM mediaを利用して、37℃で2時間組織を分解させた。コラゲナーゼ処理された組織をPBSで洗浄した後、1000rpmで5分間遠心分離して、上澄み液を除去して、ペレットをPBSで洗浄した後、1000rpmで5分間遠心分離下した。100meshにフィルタリングして浮遊物を除去した後、PBSで洗浄して、10%FBS、2mM NAC(N−acetyl−L−cysteine)、0.2mMアスコルビン酸が添加されたDMEM培地で培養した。
一夜過ぎた後、付着しなかった細胞はPBSで洗浄して、5%FBS、2mM NAC、0.2mMアスコルビン酸、0.09mMカルシウム、5ng/mL rEGF、5ng/mLインスリン、10ng bFGF及び74ng/mLヒドロコルチゾン及び1ng/mLのセレニウムを含有したK−SFMを2日毎に交換しながら継代培養し、3継代培養して脂肪由来中間葉幹細胞を分離した。
【0032】
実施例2.ヒト脂肪組織由来中間葉幹細胞分離
1−1:幹細胞の単細胞維持能力
(1)アセチルサリチル酸を濃度毎に添加した生理食塩水で処理
実施例1で分離した脂肪組織由来中間葉幹細胞にトリプシン処理した後、アセチルサリチル酸(Acetylsalicylic acid)(Sigma、A5376)を濃度毎に添加した生理食塩水に1.0×10
7cells濃度で浮遊させた後、12時間、24時間での生存率を観察した。前記アセチルサリチル酸を添加した生理食塩水は、生理食塩水にアセチルサリチル酸を濃度毎に添加して、37℃で30分間超音波処理(sonication)して製造した。
【0033】
【表1】
実験結果のように、生理食塩水10mLに対してアスピリンの添加量が1.0mg以上の場合には、細胞毒性があることを確認することができた。
【0034】
(2)アルタジルジュを濃度毎に添加した生理食塩水で処理
実施例1で分離した脂肪組織由来中間葉幹細胞にトリプシン処理した後、アルタジルジュを濃度毎に添加した生理食塩水に1.0×10
7cells濃度で浮遊させた後、12h、24h、48h及び72hでの生存率を観察した。
【0035】
【表2】
実験結果のように、生理食塩水10mLに対してアスピリンの添加量が0.001〜0.1mgである場合には、脂肪幹細胞の生存に影響を与えないことを確認することができた。脂肪幹細胞をアスピリン浮遊液に浮遊時に72時間まで静置可能であるが、好ましくは24時間以内で処理した方が良好であった。
【0036】
(3)アルタジルジュを濃度毎に添加した生理食塩水に処理した幹細胞の増殖力
実施例1で分離した脂肪組織由来中間葉幹細胞にトリプシン処理した後、アルタジルジュを濃度毎に添加した生理食塩水に1.0×10
7cells濃度で浮遊させた後、24時間後の生存率を観察した。
【0037】
【表3】
実験結果のように、生理食塩水10mLに対してアルタジルジュの添加量が0.001〜0.1mgである場合、脂肪幹細胞の増殖能力に影響を与えないことを確認することができた。
また、前記浮遊させた細胞1.0×10
6cellsを7日間培養した後の細胞数と生存率を観察した結果、表4に示されたように86〜90%の生存率を示し、表5に示されたように、0.001〜0.1mg/10mLのアスピリン添加によって細胞数の変化は殆どなかった。
【0038】
【表4】
【0039】
【表5】
【0040】
(4)アルタジルジュを濃度毎に添加した生理食塩水に処理した幹細胞の凝集
実施例1で分離した脂肪由来中間葉幹細胞にトリプシン処理した後、アルタジルジュを濃度毎に添加した生理食塩水に浮遊させた後、24時間及び72時間後の凝集程度を観察した。
その結果、24時間後の対照群で最も多い凝集が観察されて、アルタジルジュの添加量が0.001〜0.1mgである場合、脂肪幹細胞の凝集が減少することを確認することができた(
図1)。低濃度(5×10
4cells)だけでなく高濃度(1×10
5cells)の幹細胞実験群でもアスピリンの凝集防止効果を確認した。
72時間後の凝集程度を確認した結果、
図2に示された通り、対照群と1μg/mLアスピリン処理群で凝集現象と共に細胞の死滅が観察されたが、10μg/mL以上処理群ではこのような現象が現れなかった(
図2)。
【0041】
(5)アスピリンリシン(Shinpoong製薬)を添加した生理食塩水に処理した幹細胞の特性
実施例1で分離した脂肪組織由来中間葉幹細胞にトリプシン処理した後、アスピリンリシン(Shinpoong製薬)を濃度毎に添加した生理食塩水に幹細胞を1.0×10
6cells濃度で浮遊させた後、5日間培養して細胞数を測定した。また、24時間冷蔵保管後FACSを測定して細胞特性を確認した。
【0042】
【表6】
実験結果のように、アスピリンリシン濃度による細胞生存率は多少減少するが、有意的ではなく、5日間培養した後の細胞数も個体差はあるが濃度毎の差は殆どなかった。24時間アスピリンが添加された生理食塩水に浮遊した後、24時間冷蔵保管した脂肪由来中間葉幹細胞の特性もアスピリン濃度による影響はないと観察された。
実験結果のように、生存率に対するアスピリンリシンの細胞毒性は現れなく、アスピリンが添加された生理食塩水に脂肪由来中間葉幹細胞を保管する場合、細胞の特性変化なしに凝集が防止されることを観察した。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によると、移送や保管中幹細胞の破砕及び凝集を防止できて、体内投与に適した安全性に優れた幹細胞を得ることができるので、幹細胞の投与による細胞治療効能を画期的に増進させることができる。
【0044】
以上、本発明の内容の特定の部分を詳細に記述したが、当業界の通常の知識を有する者にとっては、このような具体的な記術は単に望ましい実施様態であるだけであり、これによって本発明の範囲が制限されないことは明らかである。従って、本発明の実質的な範囲は添付された請求範囲及びその等価物によって定義される。
【国際調査報告】