【課題を解決するための手段】
【0011】
免疫療法戦略は、例えば、感染性疾患及びがん疾患の治療のための有望な選択肢である。増え続ける病原体及び腫瘍に関連する抗原(本明細書において腫瘍抗原とも称される)が同定されることによって、免疫療法のための適切な標的が幅広くコレクションされることへとつながった。
【0012】
一般に、本発明は、患部細胞のターゲティングによる疾患の免疫療法処置を包含する。本発明は、前記抗原を発現していない正常細胞への有害な作用を最小限にする、抗原を発現する細胞の選択的な根絶を提供する。したがって、治療に好ましい疾患は、1つ又は複数の抗原が発現されるものであり、例えば、がん疾患又は感染性疾患である。
【0013】
本発明は、患者においてT細胞を誘導し、拡大する能動免疫により、抗原発現細胞を特異的にターゲティングすることを目的とし、これによって患部細胞を特異的に認識し、死滅させることを可能にする。詳細には、本発明は、RNAとして示される抗原の抗原提示細胞(例えば、樹状細胞)へのインビボでの選択的な組込みを可能にする。抗原は、それがMHC分子に結合できる場合には、処理されて、MHC分子のためのペプチドパートナーが産生されうるか、又はさらなるプロセシングを必要とすることなく提示されうる。完全抗原がインビボで抗原提示細胞により処理される投与形態は、有効な免疫応答に必要とされるTヘルパー細胞応答も産生しうるため、好ましい。したがって、本発明にしたがって提供される組成物は、患者に投与された場合に、MHC提示エピトープが由来する抗原を発現している細胞に対するT細胞を刺激する、プライミングする及び/又は拡大するための1つ又は複数のMHC提示エピトープを提供する。それゆえ、本明細書に記載される組成物は、好ましくは、抗原をクラスI MHCと共に提示することにより特徴付けられる疾患に対する、細胞応答(好ましくは、細胞傷害性T細胞活性)を誘導する又は促進する能力を有する。
【0014】
特に、本発明は、少なくとも1つの抗原をコードするRNAを含むナノ粒子を含む医薬組成物であって、
(i)ナノ粒子における正電荷数がナノ粒子における負電荷数を超えず、及び/又は
(ii)ナノ粒子が中性電荷又は正味の負電荷を有し、及び/又は
(iii)ナノ粒子における正電荷と負電荷との電荷比が1.4:1以下であり、及び/又は
(iv)ナノ粒子のゼータ電位が0以下である、
医薬組成物に関する。
【0015】
好ましくは、本明細書に記載されるナノ粒子は、凝集、沈殿又はサイズの増加がなく、動的光散乱により測定される30%超の多分散指標が生じるという意味で、コロイドで少なくとも2時間安定である。
【0016】
一実施形態において、ナノ粒子における正電荷と負電荷との電荷比は、1.4:1から1:8の間、好ましくは、1.2:1から1:4の間、例えば、1:1から1:3の間、例えば、1:1.2から1:2の間、1:1.2から1:1.8の間、1:1.3から1:1.7の間、特に1:1.4から1:1.6の間、例えば、約1:1.5である。
【0017】
一実施形態において、ナノ粒子のゼータ電位は、-5以下、-10以下、-15以下、-20以下又は-25以下である。様々な実施形態において、ナノ粒子のゼータ電位は、-35以上、-30以上又は-25以上である。一実施形態において、ナノ粒子は、0mVから-50mV、好ましくは、0mVから-40mV又は-10mVから-30mVのゼータ電位を有する。
【0018】
一実施形態において、ナノ粒子は、少なくとも1つの脂質を含む。一実施形態において、ナノ粒子は、少なくとも1つのカチオン性脂質を含む。カチオン性脂質は、モノカチオン性又はポリカチオン性でありうる。任意のカチオン性両親媒性分子(例えば、少なくとも1つの親水性の及び親油性の部位を含む分子)は、本発明の意味内のカチオン性脂質である。一実施形態において、正電荷は少なくとも1つのカチオン性脂質により寄与され、負電荷はRNAにより寄与される。一実施形態において、ナノ粒子は、少なくとも1つのヘルパー脂質を含む。ヘルパー脂質は、中性又はアニオン性脂質であってもよい。ヘルパー脂質は、天然脂質、例えば、リン脂質又は天然脂質のアナログ、又は完全な合成脂質、又は天然脂質と類似性のない脂質様分子であってもよい。一実施形態において、カチオン性脂質及び/又はヘルパー脂質は、二重層形成脂質である。
【0019】
一実施形態において、少なくとも1つのカチオン性脂質は、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA)又はそのアナログ若しくは誘導体及び/或いは1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン(DOTAP)又はそのアナログ若しくは誘導体を含む。
【0020】
一実施形態において、少なくとも1つのヘルパー脂質は、1,2-ジ-(9Z-オクタデセノイル)-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)又はそのアナログ若しくは誘導体、コレステロール(Chol)又はそのアナログ若しくは誘導体及び/或いは1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)又はそのアナログ若しくは誘導体を含む。
【0021】
一実施形態において、少なくとも1つのカチオン性脂質と少なくとも1つのヘルパー脂質とのモル比は、10:0から3:7、好ましくは、9:1から3:7、4:1から1:2、4:1から2:3、7:3から1:1、又は2:1から1:1、好ましくは、約1:1である。一実施形態では、この比において、カチオン性脂質のモル量は、カチオン性脂質における正電荷数を乗じたカチオン性脂質のモル量からもたらされる。
【0022】
様々な実施形態において、脂質は、官能化されておらず、例えば、マンノース、ヒスチジン及び/又はイミダゾールにより官能化されておらず、ナノ粒子は、ターゲティングリガンド、例えば、マンノース官能化脂質を含まず、及び/又はナノ粒子は、pH依存的な化合物、カチオン性ポリマー、例えば、ヒスチジン及び/又はポリリジンを含有するポリマーのうちの1つ又は複数を含まず、ポリマーは、場合によりPEG化及び/又はヒスチジン化されていてもよく、又は2価のイオン、例えば、Ca
2+であってもよい。
【0023】
様々な実施形態において、RNAナノ粒子は、優先的に2500Daまでの分子量を有する、ペプチドを含みうる。
【0024】
本明細書に記載されるナノ粒子において、脂質は、RNAとの複合体を形成しうる及び/又はRNAをカプセル化しうる。一実施形態において、ナノ粒子は、リポプレックス又はリポソームを含む。一実施形態において、脂質は、前記RNAをカプセル化しているベシクル中に含まれる。ベシクルは、多層状ベシクル、単層ベシクル、又はその混合物であってもよい。ベシクルは、リポソームであってもよい。
【0025】
一実施形態において、ナノ粒子は10:0から1:9、好ましくは8:2から3:7、より好ましくは7:3から5:5のモル比でDOTMA及びDOPEを含むリポプレックスであり、DOTMAにおける正電荷とRNAにおける負電荷の電荷比は1.8:2から0.8:2、より好ましくは1.6:2から1:2、さらにより好ましくは1.4:2から1.1:2、さらにより好ましくは約1.2:2である。
【0026】
一実施形態において、ナノ粒子は、10:0から1:9、好ましくは8:2から3:7、より好ましくは7:3から5:5のモル比でDOTMA及びコレステロールを含むリポプレックスであり、ここで、DOTMAにおける正電荷とRNAにおける負電荷の電荷比は、1.8:2から0.8:2、より好ましくは1.6:2から1:2、さらにより好ましくは1.4:2から1.1:2、さらにより好ましくは約1.2:2である。
【0027】
一実施形態において、ナノ粒子は、10:0から1:9、好ましくは8:2から3:7、より好ましくは7:3から5:5のモル比でDOTAP及びDOPEを含むリポプレックスであり、ここで、DOTMAにおける正電荷とRNAにおける負電荷の電荷比は、1.8:2から0.8:2、より好ましくは1.6:2から1:2、さらにより好ましくは1.4:2から1.1:2、さらにより好ましくは約1.2:2である。
【0028】
一実施形態において、ナノ粒子は、2:1から1:2、好ましくは2:1から1:1のモル比でDOTMA及びDOPEを含むリポプレックスであり、ここで、DOTMAにおける正電荷とRNAにおける負電荷の電荷比は、1.4:1以下である。
【0029】
一実施形態において、ナノ粒子は、2:1から1:2、好ましくは2:1から1:1のモル比でDOTMA及びコレステロールを含むリポプレックスであり、ここで、DOTMAにおける正電荷とRNAにおける負電荷の電荷比は、1.4:1以下である。
【0030】
一実施形態において、ナノ粒子は、2:1から1:2、好ましくは2:1から1:1のモル比でDOTAP及びDOPEを含むリポプレックスであり、ここで、DOTAPにおける正電荷とRNAにおける負電荷の電荷比は、1.4:1以下である。
【0031】
一実施形態において、ナノ粒子は、約50nmから約1000nm、好ましくは、約50nmから約400nm、好ましくは、約100nmから約300nm、例えば、約150nmから約200nmの範囲の平均直径を有する。一実施形態において、ナノ粒子は、約200から約700nm、約200から約600nm、好ましくは、約250から約550nm、特に約300から約500nm又は約200から約400nmの範囲の直径を有する。
【0032】
一実施形態において、動的光散乱により測定される、本明細書に記載されるナノ粒子の多分散指標は、0.5以下、好ましくは0.4以下又はさらにより好ましくは0.3以下である。
【0033】
一実施形態において、本明細書に記載されるナノ粒子は、(i)水相におけるリポソームと水相におけるRNAとのインキュベーション、(ii)有機の水混和性溶媒、例えば、エタノールなどに溶解した脂質と水溶液中のRNAとのインキュベーション、(iii)逆相蒸発技術、(iv)生産物の凍結及び融解、(v)生産物の脱水及び再水和、(vi)生産物の凍結乾燥及び再水和、又は(vii)生産物の噴霧乾燥及び再水和のうちの1つ又は複数により入手可能である。
【0034】
一実施形態において、ナノ粒子は、前記ナノ粒子への組込み前にRNAと二価のカチオンを、好ましくは0.1mMから5mMの間、例えば0.1mMから4mMの間又は0.3mMから1mMの間の濃度でインキュベートする工程を含む方法により及び/又は前記ナノ粒子への組込み前にRNAと一価のイオンを、好ましくは1mMから500mMの間、例えば100mMから200mMの間若しくは130mMから170mMの間の濃度でインキュベートする工程により及び/又は前記ナノ粒子への組込み前にRNAと緩衝液をインキュベートする工程により生産される。
【0035】
一実施形態において、RNAに対する二価のカチオンのインキュベーション後に、リポソーム及び/又は他の水相を、1.5を超える係数、好ましくは2を超える係数、又は5を超える係数で添加することによる希釈工程が関与する。
【0036】
一実施形態において、二価のカチオンは、カルシウムイオンであり、前記カルシウムイオンの終濃度は、4mM未満、好ましくは3mM未満、さらにより好ましくは2.2mM以下である。
【0037】
一実施形態において、本明細書に記載されるナノ粒子は、ナノ粒子を押出しする工程及び/又は濾過する工程及び/又は凍結乾燥する工程を含む方法により生産される。
【0038】
一実施形態において、ナノ粒子の全身投与後に、脾臓におけるRNA発現が起こる。一実施形態において、ナノ粒子の全身投与後に、肺及び/又は肝臓におけるRNA発現は、起こらない又は本質的に起こらない。一実施形態において、ナノ粒子の全身投与後に、脾臓におけるRNA発現は、肺におけるRNA発現の量の少なくとも5倍、好ましくは少なくとも8倍、好ましくは少なくとも10倍、好ましくは少なくとも20倍、好ましくは少なくとも50倍、好ましくは少なくとも100倍、好ましくは少なくとも1000倍、又はそれよりさらに多い。一実施形態において、ナノ粒子の全身投与後に、脾臓における、抗原提示細胞、好ましくはプロフェッショナル抗原提示細胞におけるRNA発現が起こる。
【0039】
一実施形態において、ナノ粒子は、全身性に投与される場合に、脾臓を標的にする又は脾臓に蓄積する。好ましくは、ナノ粒子は、全身性に投与される場合に、脾臓における、抗原提示細胞、好ましくはプロフェッショナル抗原提示細胞、例えば樹状細胞及び/又はマクロファージにRNAを送達する。好ましくは、ナノ粒子は、標的器官若しくは組織でRNAを放出する及び/又は標的器官若しくは組織で細胞に進入する。好ましくは、標的器官又は組織は脾臓である及び標的器官又は組織での細胞は抗原提示細胞、例えば樹状細胞である。一実施形態において、ナノ粒子は、全身性に投与される場合に、肺及び/若しくは肝臓を標的にしない若しくは本質的に標的にしない又は肺及び/若しくは肝臓に蓄積しない若しくは本質的に蓄積しない。一実施形態において、脾臓においてターゲティングされる又は蓄積されるナノ粒子の量は、肺においてターゲティングされる又は蓄積される量の、少なくとも5倍、好ましくは少なくとも8倍、好ましくは少なくとも10倍、好ましくは少なくとも20倍、好ましくは少なくとも50倍、好ましくは少なくとも100倍、好ましくは少なくとも1000倍、又はそれよりさらに多い。
【0040】
本発明によれば、全身投与は、好ましくは非経口投与による、好ましくは静脈内投与、皮下投与、皮内投与又は動脈内投与による。
【0041】
好ましくは、本明細書に記載されるナノ粒子に含まれるRNAによりコードされる抗原は、疾患関連抗原である又は疾患関連抗原若しくは疾患関連抗原を発現している細胞に対する免疫応答を誘発する。
【0042】
本発明の医薬組成物は、さらに1つ又は複数の薬学的に許容される担体、賦形剤及び/又は添加剤を含みうる。本発明の医薬組成物は、さらに少なくとも1つのアジュバントを含みうる。
【0043】
本発明の医薬組成物は、全身投与のために製剤化されうる。
【0044】
本発明の医薬組成物は、免疫応答、特に疾患関連抗原に又は疾患関連抗原を発現している細胞に対する免疫応答、例えばがんに対する免疫応答を誘導するために使用されてもよい。それゆえ、医薬組成物は、疾患関連抗原又は疾患関連抗原を発現している細胞が関与する疾患、例えばがんの予防的及び/又は治療的処置に使用されてもよい。好ましくは、前記免疫応答は、T細胞応答である。一実施形態において、疾患関連抗原は、腫瘍抗原である。
【0045】
一実施形態において、本明細書に記載されるナノ粒子に含まれるRNAは、シュードウリジン残基を含まない、好ましくは修飾ヌクレオシドを含まない。
【0046】
本発明はまた、本発明の医薬組成物を対象に投与する工程を含む、脾臓における又は抗原提示細胞において抗原を発現している抗原提示細胞、好ましくはプロフェッショナル抗原提示細胞、例えば樹状細胞及び/又はマクロファージ、好ましくは脾臓におけるプロフェッショナル抗原提示細胞、例えば樹状細胞及び/又はマクロファージに抗原を送達するための方法に関する。
【0047】
本発明はまた、本発明の医薬組成物を対象に投与する工程を含む、対象において、免疫応答、好ましくはがんに対する免疫応答を誘導するための方法に関する。
【0048】
本発明はまた、本発明の医薬組成物を対象に投与する工程を含む、対象においてT細胞を刺激する、プライミングする及び/又は拡大するための方法に関する。
【0049】
本発明はまた、本発明の医薬組成物を対象に投与する工程を含む、対象において抗原が関与する疾患、好ましくはがん疾患を治療する又は予防する方法に関する。
【0050】
上記の態様において、疾患は、腫瘍成長及び/又は腫瘍転移であってもよい。それゆえ、本発明はまた、本発明の医薬組成物を対象に投与する工程を含む、腫瘍及び/又は腫瘍転移を発生するリスクを有する又はリスクにさらされている対象における腫瘍成長及び/又は腫瘍転移を治療する又は予防する方法に関する。
【0051】
一態様において、本発明はまた、本明細書に記載される治療の方法に使用するための、本明細書に記載される薬剤及び組成物を提供する。
【0052】
本発明はまた、本明細書に述べられる粒子に関する。
【0053】
本発明はまた、(a)塩化ナトリウム溶液中で製剤化されているRNAを用意する工程と、(b)RNAにリポソームを添加する工程とを含む、RNA含有ナノ粒子を生産するための方法に関する。塩化ナトリウム溶液は、水溶液であってもよい。水が、塩化ナトリウム溶液を調製するため使用されてもよく、一実施形態において、使用される唯一の溶媒であってもよい。一実施形態において、塩化ナトリウム溶液は、約50から約300mM、好ましくは、約100から約200mM、好ましくは約150mMの塩化ナトリウムを含有する。一実施形態において、塩化ナトリウム溶液は、等張塩化ナトリウム溶液である。リポソームは、水中で製剤化されていてもよい。一実施形態において、リポソームは、リポソームをRNA製剤に注入することによりRNAに添加される。上記方法にしたがって生産されるナノ粒子は、本明細書に述べられるナノ粒子であってもよい。
【0054】
本発明の他の特質及び利点は、以下の詳細な記載及び特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【0055】
発明の詳細な記載
以下に本発明を詳述するが、本発明は、本明細書に記載される特定の方法論、プロトコール及び試薬は様々でありうるため、これらに限定されないと理解すべきである。本明細書において使用する術語が、特定の実施形態を説明する目的のためのみの術語であり、付属の請求項によってのみ限定される本発明の範囲を限定しようとするものではないことも理解すべきである。他で規定されない限り、本明細書において使用する全ての技術用語及び科学用語は、当業者に通常理解されている意味と同じ意味を有する。
【0056】
以下、本発明の要素を説明する。これらの要素を特定の実施形態と共に列挙するが、それらを任意の方法及び任意の数で組み合わせて付加的な実施形態を作り出しうることが理解されるべきである。様々に記載される実施例及び好ましい実施形態は、本発明を明示的に記載する実施形態のみに限定されると解釈されるべきではない。本記載は、明示的に記載された実施形態と任意の数の開示された且つ/又は好ましい要素とを組み合わせた実施形態をサポートし、包含するものであると理解されるべきである。さらにまた、本願に記載した全ての要素の任意の順列及び組合せは、文脈上そうでないことを表示していない限り、本願の記載により開示されているとみなされるべきである。
【0057】
好ましくは、本明細書において使用する用語は、「A multilingual glossary of biotechnological terms: (IUPAC Recommendations)」, H.G.W. Leuenberger, B. Nagel, and H. Kolbl, Eds., (1995) Helvetica Chimica Acta, CH-4010 Basel, Switzerlandに記載されているように規定される。
【0058】
本発明の実施には、他に表示されない限り、生化学、細胞生物学、免疫学、及び組換えDNA技術の従来の方法が採用され、それらは、当該分野の文献に説明されている(例えば「Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版, J. Sambrookら編, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor 1989」を参照されたい)。
【0059】
本明細書とそれに続く特許請求の範囲の全体を通して、文脈上別段の必要がない限り、用語「含む(comprise)」とその変形、例えば「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」は、明示された構成要素、整数若しくは工程、又は構成要素、整数若しくは工程の群の包含を含意するが、任意の他の構成要素、整数若しくは工程又は構成要素、整数若しくは工程の群の除外を含意しない(但し、いくつかの実施形態においては、そのような他の構成要素、整数若しくは工程、又は構成要素、整数若しくは工程の群が除外されうる)と理解される、すなわち主題は、明示された構成要素、整数若しくは工程、又は構成要素、整数若しくは工程の群の包含から構成される。本発明の記載の文脈上(とりわけ特許請求の範囲の文脈上)使用する用語「1つの(a及びan)」及び「その(the)」並びにそれに類似する参照は、本明細書において他に表示されない限り、又は文脈上明らかに矛盾しない限り、単数と複数の両方を包含すると解釈すべきである。本明細書における値の範囲の列挙は、その範囲内に含まれる各々別々の値について個別に言及することを簡略化した方法として機能することを単に意図している。本明細書に他に表示されない限り、各々別々の値は、あたかもそれが本明細書において個別に列挙されているかのように、本明細書に組み込まれる。
【0060】
本明細書において他に表示されない又は文脈上明確に矛盾しない限り、本明細書に記載されている全ての方法は、任意の適切な順序で行うことができる。本明細書に提供されるありとあらゆる実施例又は例示的な語(例えば「例えば/など(such as)」)の使用は、単に本発明をよりよく説明することを意図しており、別途特許請求の範囲に記載される本発明の範囲に限定を課すものではない。本明細書におけるいかなる語も、本発明の実施に必須である、なんらかの特許請求の範囲に記載されない要素を表示していると解釈されるべきではない。
【0061】
いくつかの文書は、本明細書の全文にわたって引用される。本明細書において引用される文書のそれぞれは(全ての特許、特許出願、科学的刊行物、製造者の仕様書、説明書などを含めて)、上述のものであれ後述のものであれ、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書のいかなる内容も、本発明が、先行発明を理由としてそのような開示に先行する権利がないことの承認と解釈されるべきではない。
【0062】
本発明は、投与に際して、免疫応答を、特に疾患関連抗原に又は疾患関連抗原を発現している細胞(例えば、がん細胞)に対する細胞性免疫応答を誘導する、薬剤及び組成物を記載する。特に、本発明は、疾患関連抗原に又は疾患関連抗原を発現している細胞に対する免疫応答(特に、T細胞応答)を誘導する、抗原性のタンパク質又はペプチド(本明細書において「抗原」とも称される)をコードするRNAの使用を想定する。これらの抗原性のタンパク質又はペプチドは、疾患関連抗原又はその1つ若しくは複数のフラグメントの配列と本質的に対応する又は同一である配列を含みうる。一実施形態において、抗原性のタンパク質又はペプチドは、疾患関連抗原に由来するMHC提示ペプチドの配列を含む。インタクトな又は実質的にインタクトな疾患関連抗原又はそのフラグメント(例えば、MHCクラスI及びクラスIIペプチド)をコードするRNAでの免疫化によって、MHCクラスI及び/又はクラスIIタイプ応答を誘発し、患部細胞及び/又はCD4+T細胞を溶解させる能力のあるT細胞(例えば、CDB+細胞傷害性Tリンパ球)を刺激することが可能である。このような免疫化はまた、体液性免疫応答(B細胞応答)を誘発し、抗原に対する抗体の産生がもたらされる。それゆえ、本発明の医薬組成物は、免疫応答が、抗原性のタンパク質又はペプチドをコードする適切なRNA分子を対象に導入することで刺激される、遺伝子ワクチン接種に使用しうる。本明細書に開示される薬剤及び組成物は、疾患(例えば、本明細書に開示される疾患)の治療又は予防のための治療的又は予防的なワクチンとして使用しうる。一実施形態において、疾患関連抗原は、腫瘍抗原である。この実施形態において、本明細書に開示される薬剤及び組成物は、がん又はがん転移の治療に有用でありうる。好ましくは、患部器官又は組織は、患部細胞、例えば疾患関連抗原を発現している、好ましくはMHC分子との関連において疾患関連抗原を提示しているがん細胞により特徴付けられる。
【0063】
用語「免疫応答」は、抗原に又は抗原を発現している細胞に対する統合された身体の応答を指し、好ましくは細胞性免疫応答又は細胞性及び体液性の免疫応答を指す。免疫応答は、防御的/防止的/予防的及び/又は治療的でありうる。
【0064】
「免疫応答を誘導する」は、誘導前に、特定の抗原に又は抗原を発現している細胞に対して、免疫応答が存在しなかったことを意味しうるが、誘導前に、特定の抗原又は抗原を発現している細胞に対してある特定レベルの免疫応答が存在し、誘導後に、前記免疫応答が増強されることも意味しうる。したがって、「免疫応答を誘導する」はまた、「免疫応答を増強する」を含む。好ましくは、対象における免疫応答の誘導後、前記対象が感染性疾患若しくはがん疾患などの疾患を発生することから防御される、又は疾患状態が免疫応答を誘導することにより軽減される。例えば、ウイルス抗原に対する免疫応答は、ウイルス疾患を有する患者において又はウイルス疾患を発生するリスクにさらされている対象において誘導されうる。例えば、腫瘍抗原に対する免疫応答は、がん疾患を有する患者において又はがん疾患を発生するリスクにさらされている対象において誘導されうる。このケースでは、免疫応答を誘導することが、対象の疾患状態が軽減されること、対象が転移を発生しないこと、又はがん疾患を発生するリスクにさらされている対象ががん疾患を発症しないことを意味しうる。
【0065】
「細胞性免疫応答」、「細胞応答」、「抗原に対する細胞性応答」又は類似の用語は、抗原を発現しており、クラスI又はIIのMHCでの抗原の提示により特徴付けられる、細胞に対する細胞応答を含むことを意味する。細胞応答は、「ヘルパー」又は「キラー」のいずれかとして作用するT細胞又はTリンパ球と呼ばれる細胞に関する。ヘルパーT細胞(CD4
+T細胞とも称される)は、免疫応答を調節することにより中心的な役割を担い、キラー細胞(細胞傷害性T細胞、細胞溶解性T細胞、CD8
+T細胞又はCTLとも称される)は、感染細胞又はがん細胞などの患部細胞を死滅させ、さらなる患部細胞の産生を予防する。好ましい実施形態において、本発明は、1つ又は複数の腫瘍抗原を発現している、好ましくは係る腫瘍抗原をクラスI MHCと共に提示しているがん細胞に対する抗腫瘍CTL応答の刺激を含む。
【0066】
本発明によると、用語「抗原」は、免疫応答を誘発する少なくとも1つのエピトープを含む及び/又は免疫応答が向けられる、任意の分子、好ましくはペプチド又はタンパク質を含む。好ましくは、本発明の関連において抗原は、場合によってプロセシング後に、好ましくはその抗原に又はその抗原を発現している細胞に特異的である免疫応答を誘導する分子である。特に「抗原」は、場合によってプロセシング後に、MHC分子により提示され、特異的にTリンパ球(T細胞)と反応する分子に関する。
【0067】
したがって、抗原又はそのフラグメントは、T細胞レセプターにより認識可能であるべきである。好ましくは、抗原又はフラグメントは、T細胞レセプターにより認識される場合に、適切な共刺激シグナルの存在下で、その抗原又はフラグメントを特異的に認識するT細胞レセプターを保有するT細胞のクローン増殖を誘導することができる。本発明の実施形態との関連において、抗原又はフラグメントは、好ましくは、細胞によって、好ましくは抗原提示細胞及び/又は患部細胞によって、MHC分子との関連において提示され、それが、その抗原又はその抗原を発現している細胞に対する免疫応答をもたらす。
【0068】
本発明によれば、免疫応答(好ましくは、細胞性免疫応答)のための候補である、任意の適切な抗原が想定される。
【0069】
抗原は、好ましくは、天然の抗原に対応する又は天然の抗原に由来する産物である。そのような天然抗原は、アレルゲン、ウイルス、細菌、真菌、寄生虫及び他の感染性因子並びに病原体を含むか、若しくはそれらに由来してもよい、又は抗原は腫瘍抗原であってもよい。本発明によれば、抗原は、天然の産物、例えばウイルスタンパク質又はそのパートに対応しうる。
【0070】
用語「病原体」は、病原性微生物に関し、ウイルス、細菌、真菌、単細胞生物、及び寄生虫を含む。病原性ウイルスの例は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、サイトメガロウイルス(CMV)、ヘルペスウイルス(HSV)、A型肝炎ウイルス(HAV)、HBV、HCV、パピローマウイルス、及びヒトTリンパ球向性ウイルス(HTLV)である。単細胞生物は、プラスモジウム、トリパノソーマ、アメーバなどを含む。
【0071】
用語「疾患関連抗原」は、病理学的に有意性がある全ての抗原を指し、「腫瘍抗原」を含む。本発明によれば、疾患関連抗原に又は疾患関連抗原を発現している、好ましくはMHC分子との関連において疾患関連抗原を提示している細胞に対する免疫応答を誘導することが所望される。好ましくは、疾患関連抗原は、天然の抗原である。一実施形態において、疾患関連抗原は、患部細胞において発現され、好ましくは細胞のMHC分子により提示される。
【0072】
本明細書に記載されるナノ粒子に含まれるRNAによりコードされる抗原は、標的にされる疾患関連抗原に又は標的にされる疾患関連抗原を発現している細胞に対する免疫応答を誘導すべきである。したがって、本明細書に記載されるナノ粒子に含まれるRNAによりコードされる抗原は、疾患関連抗原又は1つ若しくは複数の免疫原性フラグメント(例えば、1つ若しくは複数の疾患関連抗原のMHC結合ペプチド)に対応しうる又はそれを含みうる。したがって、本明細書に記載されるナノ粒子に含まれるRNAによりコードされる抗原は、組換え抗原であってもよい。
【0073】
本発明との関連において用語「組換え」は、「遺伝子工学で作られた」ことを意味する。好ましくは、本発明との関連において、組換え核酸などの「組換え物」は、天然ではない。
【0074】
本明細書において使用する用語「天然」は、ある物体が自然界に見出すことが可能であるという事実を指す。例えば、生物(ウイルスを含む)中に存在し、自然界の供給源から単離することができ、実験室で人間によって意図的に修飾されていないペプチド又は核酸は、天然である。
【0075】
好ましい一実施形態において、抗原は、腫瘍抗原、すなわち、細胞質、細胞表面又は細胞核に由来しうるがん細胞において発現されるタンパク質又はペプチドなどのがん細胞の成分、特に、主にがん細胞の細胞内に又はがん細胞の表面抗原として発生するものであってもよい。例えば、腫瘍抗原は、癌胎児性抗原、α1-フェトプロテイン、イソフェリチン、及び胎児スルホ糖タンパク質(fetal sulphoglycoprotein)、α2-H-鉄蛋白及びγ-フェトプロテインを含む。本発明によれば、腫瘍抗原は、好ましくは、腫瘍又はがんに及び腫瘍細胞又はがん細胞に、発現され、これらのタイプ及び/又は発現レベルに関して場合によって特性がある、任意の抗原を含む。本発明との関連において、用語「腫瘍抗原」又は「腫瘍関連抗原」は、好ましくは、正常状態下では限定数の組織及び/若しくは器官において、又は特定の発生段階で特異的に発現されるタンパク質に関し、例えば腫瘍抗原は、正常状態下では胃組織、好ましくは胃粘膜において、生殖器官、例えば精巣において、栄養膜組織、例えば胎盤において、又は生殖系細胞において特異的に発現されえ、1つ又は複数の腫瘍組織若しくはがん組織において発現又は異常発現される。これに関連して、「限定数」は、好ましくは3以下、より好ましくは2又は1以下を意味する。本発明に関連して腫瘍抗原は、例えば分化抗原、好ましくは細胞タイプ特異的分化抗原、すなわち正常状態下では特定の分化段階で特定の細胞タイプにおいて特異的に発現されるタンパク質、がん/精巣抗原、すなわち正常状態下では精巣において及び時折胎盤において特異的に発現されるタンパク質、並びに生殖系列特異的抗原を含む。本発明との関連において、腫瘍抗原は、好ましくは、正常組織には発現しないか又は稀に発現する。好ましくは、腫瘍抗原又は腫瘍抗原の異所性発現によって、がん細胞が識別される。本発明との関連において、対象、例えばがん疾患に罹患している患者においてがん細胞により発現される腫瘍抗原は、好ましくは前記対象における自己タンパク質である。好ましい実施形態において、本発明との関連において腫瘍抗原は、正常状態下では、必須でない組織若しくは器官、すなわち免疫系により損傷された場合に対象の死亡をもたらさない組織若しくは器官において、又は免疫系がアクセスできない若しくは殆どアクセスできない器官若しくは身体構造において特異的に発現される。好ましくは、腫瘍抗原のアミノ酸配列は、正常組織で発現される腫瘍抗原とがん組織で発現される腫瘍抗原との間で同一である。好ましくは、腫瘍抗原は、その抗原が発現されるがん細胞により提示される。
【0076】
本発明に有用でありうる腫瘍抗原の例は、p53、ART-4、BAGE、ベータ-カテニン/m、Bcr-abL CAMEL、CAP-1、CASP-8、CDC27/m、CDK4/m、CEA、クローディンファミリーの細胞表面タンパク質、例えばCLAUDIN-6、CLAUDIN-18.2及びCLAUDIN-12、c-MYC、CT、Cyp-B、DAM、ELF2M、ETV6-AML1、G250、GAGE、GnT-V、Gap 100、HAGE、HER-2/neu、HPV-E7、HPV-E6、HAST-2、hTERT(又はhTRT)、LAGE、LDLR/FUT、MAGE-A、好ましくはMAGE-A1、MAGE-A2、MAGE-A3、MAGE-A4、MAGE-A5、MAGE-A6、MAGE-A7、MAGE-A8、MAGE-A9、MAGE-A10、MAGE-A11、又はMAGE-A12、MAGE-B、MAGE-C、MART-1/Melan-A、MC1R、ミオシン/m、MUC1、MUM-1、MUM-2、MUM-3、NA88-A、NF1、NY-ESO-1、NY-BR-1、p190マイナーBCR-abL、Pm1/RARa、PRAME、プロテイナーゼ3、PSA、PSM、RAGE、RU1又はRU2、SAGE、SART-1又はSART-3、SCGB3A2、SCP1、SCP2、SCP3、SSX、SURVIVIN、TEL/AML1、TPI/m、TRP-1、TRP-2、TRP-2/INT2、TPTE及びWT、好ましくはWT-1である。
【0077】
用語「エピトープ」は、分子における抗原決定基(例えば、抗原)、すなわち、MHC分子との関連において提示される場合に、免疫系により認識される(例えば、T細胞により認識される)分子のフラグメントにおけるパートを指す。腫瘍抗原などのタンパク質のエピトープは、好ましくは前記タンパク質の連続又は不連続部分を含み、好ましくは5から100の間、好ましくは5から50の間、より好ましくは8から30の間、最も好ましくは10から25の間のアミノ酸長であり、例えば、エピトープは、好ましくは9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24又は25アミノ酸長でありうる。本発明との関連におけるエピトープはT細胞エピトープであることが特に好ましい。
【0078】
本発明によれば、エピトープは、MHC分子(例えば、細胞の表面におけるMHC分子)に結合しうる、したがって、「MHC結合ペプチド」でありうる。用語「MHC結合ペプチド」は、MHCクラスI及び/又はMHCクラスII分子に結合するペプチドに関する。クラスI MHC/ペプチド複合体のケースでは、結合ペプチドは典型的に8〜10アミノ酸長であるが、より長い又はより短いペプチドが有効でありうる。クラスII MHC/ペプチド複合体のケースでは、結合ペプチドは典型的に10〜25アミノ酸長であり、特に13〜18アミノ酸長であるが、より長い及びより短いペプチドは有効でありうる。
【0079】
本発明によれば、本明細書に記載されるナノ粒子に含まれるRNAによりコードされる抗原は、好ましくはMHC結合ペプチドである、疾患関連抗原の免疫原性フラグメント、例えば、疾患関連抗原のペプチドフラグメント(本明細書において「抗原ペプチド」とも称される)を含みうる。
【0080】
本発明の「抗原の免疫原性フラグメント」は、好ましくは、免疫応答、好ましくは、抗原又は抗原を発現している、好ましくは抗原を提示している細胞、例えば患部細胞、特にがん細胞に対する細胞応答を刺激する能力のある抗原の部分又はフラグメントに関する。好ましくは、抗原の免疫原性フラグメントは、クラスI MHCでの抗原の提示により特徴付けられる細胞に対する細胞応答を刺激する能力があり、好ましくは抗原応答性CTLを刺激する能力がある。好ましくは、それは、特にMHC分子との関連において提示される場合に、T細胞レセプターにより認識(すなわち、特異的に結合)される抗原の部分である。特定の好ましい免疫原性フラグメントは、MHCクラスI又はMHCクラスII分子に結合する。本明細書に使用される、免疫原性フラグメントは、結合が当技術分野において知られている任意のアッセイを使って検出可能である場合に、MHCクラスI又はMHCクラスII分子「に結合する」といわれる。
【0081】
好ましくは、本発明の抗原の免疫原性フラグメントは、MHCクラスI及び/又はMHCクラスII提示ペプチドであるか、或いは処理されてMHCクラスI及び/又はMHCクラスII提示ペプチドを産生することができる。好ましくは、抗原の免疫原性フラグメントは、抗原のアミノ酸配列と実質的に対応する、好ましくは同一であるアミノ酸配列を含む。好ましくは、抗原の前記フラグメントは、MHCクラスI及び/又はMHCクラスII提示ペプチドである。
【0082】
ペプチドを直接的に、すなわちプロセシングなしで、特に切断なしで、提示させる場合に、それは、MHC分子、特にクラスI MHC分子への結合に適した長さを有し、好ましくは、7〜20アミノ酸長、より好ましくは7〜12アミノ酸長、より好ましくは8〜11アミノ酸長、特に9又は10アミノ酸長である。
【0083】
ペプチドが、例えばポリペプチドの付加的な配列を含むより大きな物質(entity)のパートであり、プロセシング後に、特に切断後に提示させる場合に、プロセシングにより産生されるペプチドは、MHC分子、特にクラスI MHC分子への結合に適した長さを有し、好ましくは、7〜20アミノ酸長、より好ましくは7〜12アミノ酸長、より好ましくは8〜11アミノ酸長、特に9又は10アミノ酸長である。好ましくは、プロセシング後に提示させる抗原ペプチドの配列は、抗原のアミノ酸配列に由来する、すなわちその配列は抗原のフラグメントと実質的に対応し、好ましくは完全に同一である。
【0084】
したがって、本明細書に記載されるナノ粒子に含まれるRNAによりコードされる抗原は、疾患関連抗原のMHC提示フラグメントと実質的に対応し、好ましくは完全に同一であり、プロセシング後に、提示されるペプチドを構成する、7〜20アミノ酸長、より好ましくは7〜12アミノ酸長、より好ましくは8〜11アミノ酸長、特に9又は10アミノ酸長の配列を含みうる。
【0085】
クラスI MHCにより提示されるペプチドの配列と実質的に対応するアミノ酸配列を有するペプチドは、クラスI MHCにより提示されるペプチドのTCR認識にとって、又はMHCのペプチド結合にとって、本質的でない1つ又は複数の残基が、異なっていてもよい。このような実質的に対応するペプチドも、所望の特異性を有するCTLを刺激する能力があり、免疫学的に均等とみなされうる。
【0086】
ペプチドは、MHCにより提示される場合に、T細胞レセプターにより認識可能であるべきである。好ましくは、提示ペプチドは、T細胞レセプターにより認識される場合に、適切な共刺激シグナルの存在下で、その提示ペプチドを特異的に認識するT細胞レセプターを保有するT細胞のクローン増殖を誘導することができる。好ましくは、抗原ペプチドは、特にMHC分子との関連において提示される場合に、免疫応答、好ましくは、それらが由来する抗原又は抗原を発現している、好ましくは抗原を提示している細胞に対する細胞応答を刺激する能力がある。好ましくは、抗原ペプチドは、クラスI MHCで抗原を提示する細胞に対する細胞応答を刺激する能力があり、好ましくは抗原応答性CTLを刺激する能力がある。このような細胞は、好ましくは本発明の目的のための標的細胞である。
【0087】
「標的細胞」は、免疫応答、例えば細胞性免疫応答のための標的である細胞を意味する。標的細胞は、抗原(例えば、疾患関連抗原)を発現する、好ましくは前記抗原を提示する、細胞を含む(これは、特に、抗原が細胞において処理され、抗原の1つ又は複数のフラグメントが、細胞におけるMHC分子との関連において提示されることを意味する)。標的細胞には、任意の望ましくない細胞、例えば感染細胞又はがん細胞が含まれる。好ましい実施形態において、標的細胞は、本明細書に記載される抗原を発現している、好ましくはクラスI MHCで前記抗原を提示している細胞である。
【0088】
「抗原プロセシング」は、特異的T細胞への細胞(好ましくは、抗原提示細胞)による提示のための、抗原の、前記抗原のフラグメントであるプロセシング産物への分解(例えばタンパク質のペプチドへの分解)及びそれらフラグメントの1つ又は複数とMHC分子との(例えば結合による)会合を指す。
【0089】
抗原提示細胞(APC)は、その表面に主要組織適合複合体(MHC)分子との関連において抗原を提示(すなわち、ディスプレイ)する細胞である。これには、抗原の僅か1つ又は複数のフラグメントが提示される状況が含まれる。T細胞は、それらのT細胞レセプター(TCR)を使って、この複合体を認識しうる。抗原提示細胞は、抗原を処理し、それらをT細胞に提示する。
【0090】
プロフェッショナル抗原提示細胞は、食作用又はレセプター媒介性エンドサイトーシスのいずれかにより抗原をインターナライズし、次にそれらの膜にクラスII MHC分子に結合された抗原のフラグメントをディスプレイすることに非常に効率的である。T細胞は、抗原提示細胞の膜における抗原-クラスII MHC分子複合体を認識し、相互作用する。次に、付加的な共刺激シグナルが、抗原提示細胞により生成され、T細胞の活性化が導かれる。共刺激分子の発現は、プロフェッショナル抗原提示細胞を規定する特性である。
【0091】
主なタイプのプロフェッショナル抗原提示細胞は、樹状細胞(この細胞は最も広い抗原提示の範囲を有し、おそらく最も重要な抗原提示細胞である)、マクロファージ、B細胞、及び特定の活性化した上皮細胞である。
【0092】
樹状細胞(DC)は、MHCクラスII及びI抗原提示経路の両方を介して、末梢組織において捕捉された抗原をT細胞に提示する白血球集団である。樹状細胞が、免疫応答の強力なインデューサーであり、これらの細胞の活性化が、抗腫瘍免疫を誘導するための決定的な工程であることは周知である。
【0093】
樹状細胞は、「未成熟」及び「成熟」細胞として便利に分類され、これを特徴が詳しく調べられた2つの表現型の間を識別するための単純な方式として使用することができる。しかしながら、この命名法によって、分化の全ての可能な中間ステージが除外されると解釈されるべきではない。
【0094】
未成熟の樹状細胞は、Fcγレセプター及びマンノースレセプターの高発現と相関し、抗原の取り込み及びプロセシングについて高い能力を有する抗原提示細胞と特徴付けられる。成熟表現型は、これらのマーカーをより低く発現するが、T細胞活性化を荷う細胞表面分子、例えばクラスI及びクラスII MHC、接着分子(例えば、CD54及びCD11)及び共刺激分子(例えば、CD40、CD80、CD86及び4-1BB)を高発現することで典型的に特徴付けられる。
【0095】
樹状細胞の成熟は樹状細胞の活性化の状態を指し、この状態で、このような抗原提示する樹状細胞はT細胞プライミングを導くが、未成熟の樹状細胞による提示は寛容をもたらす。樹状細胞の成熟は、主として、先天的なレセプター(細菌DNA、ウイルスRNA、エンドトキシンなど)により検出される微生物特性を有する生体分子、炎症誘発性サイトカイン(TNF、IL-1、IFN)、樹状細胞表面におけるCD40によるCD40のライゲーション、及びストレス性の細胞死を経験している細胞から放出される物質により引き起こされる。樹状細胞は、サイトカイン、例えば顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)及び腫瘍壊死因子アルファでインビトロで骨髄細胞を培養することに由来するものでありうる。
【0096】
非プロフェッショナル抗原提示細胞は、ナイーブT細胞との相互作用に必要とされるMHCクラスIIタンパク質を構成的に発現せず、これらは、特定のサイトカイン(例えば、IFNγ)による、非専門の抗原提示細胞の刺激に際してのみ発現される。
【0097】
抗原提示細胞は、細胞に、核酸、例えば提示されるペプチドを含むペプチド又はタンパク質をコードするRNA、例えば抗原をコードする核酸を形質導入することによりMHC提示ペプチドをロードしうる。樹状細胞のmRNAでのトランスフェクションは、強い抗腫瘍免疫を刺激する有望な抗原ローディング技術である。
【0098】
用語「免疫原性」は、免疫反応を誘導する抗原の相対的な効率に関する。
【0099】
用語「T細胞」及び「Tリンパ球」は、本明細書において互換的に使用され、Tヘルパー細胞(CD4+T細胞)及び細胞溶解性T細胞を含む細胞傷害性T細胞(CTL、CD8+T細胞)を含む。
【0100】
T細胞は、リンパ球として知られる白血球細胞の群に所属し、細胞性免疫における中心的役割を担う。それらは、T細胞レセプター(TCR)と呼ばれるそれらの細胞表面における特殊なレセプターの存在により、他のリンパ球タイプ、例えばB細胞及びナチュラルキラー細胞と区別できる。胸腺は、T細胞の成熟を荷う主要な器官である。T細胞のいくつかの異なるサブセットが発見されており、その各々は別個の機能を有する。
【0101】
Tヘルパー細胞は、免疫プロセスにおいて他の白血球細胞を補助しており、それには数ある機能のなかでもとりわけ、B細胞のプラズマ細胞への成熟及び細胞傷害性T細胞及びマクロファージの活性化が含まれる。これらの細胞は、その表面にCD4タンパク質を発現するので、CD4+T細胞としても知られる。ヘルパーT細胞は、抗原提示細胞(APC)の表面に発現されるMHCクラスII分子によりペプチド抗原が提示される場合に、活性化型となる。一旦活性化されたら、それらは、急速に分裂し、能動的な免疫応答を制御する又は補助するサイトカインと呼ばれる小さいタンパク質を分泌する。
【0102】
細胞傷害性T細胞は、感染細胞、例えばウイルス感染細胞及びがん細胞などの患部細胞を破壊し、また移植拒絶にも関与する。これらの細胞は、その表面にCD8糖タンパク質を発現するので、CD8+T細胞としても知られる。これらの細胞は、身体の殆どあらゆる細胞の表面に存在する、MHCクラスIに関連する抗原に結合することによりそれらの標的を認識する。
【0103】
T細胞の大多数は、いくつかのタンパク質の複合体として存在するT細胞レセプター(TCR)を有する。実際のT細胞レセプターは、2つの別々のペプチド鎖から構成され、これらの鎖は独立したT細胞レセプターアルファ及びベータ(TCRα及びTCRβ)遺伝子から産生され、α-及びβ-TCR鎖と呼ばれる。γδT細胞(ガンマデルタT細胞)は、その表面に別個のT細胞レセプター(TCR)を有するT細胞の小さいサブセットを代表する。しかしながら、γδT細胞において、TCRは、1つのγ-鎖及び1つのδ-鎖で作り上げられている。この群のT細胞は、αβT細胞よりも一般的ではない(全T細胞の2%)。
【0104】
全てのT細胞は、骨髄における造血幹細胞から生じる。造血幹細胞に由来する造血前駆細胞は、胸腺に居住し、細胞分裂により拡大して、未成熟の胸腺細胞の大集団を生じさせる。早期の胸腺細胞は、CD4もCD8も発現しないことから、ダブルネガティブ(CD4-CD8-)細胞として分類される。
【0105】
それらは発生をとおして発達するにつれて、ダブルポジティブな胸腺細胞(CD4+CD8+)となり、最終的にはシングルポジティブな(CD4+CD8-又はCD4-CD8+)胸腺細胞に成熟し、次に胸腺から末梢組織に放出される。
【0106】
T細胞の活性化における最初のシグナルは、T細胞レセプターと別の細胞上の主要組織適合複合体(MHC)により提示される短ペプチドとの結合により供給される。これによって、そのペプチドに特異的なTCRを有するT細胞のみが、活性化することが保証される。パートナー細胞は、通常はプロフェッショナル抗原提示細胞(APC)であり、ナイーブ応答のケースでは通常は樹状細胞であるが、B細胞及びマクロファージは重要なAPCでありうる。MHCクラスI分子によりCD8+T細胞に提示されるペプチドは、8〜10アミノ酸長である;MHCクラスII分子によりCD4+T細胞に提示されるペプチドはより長く、その原因はMHCクラスII分子の結合間隙の終部が開いているからである。
【0107】
用語「クローン増殖」は、特定の物質(entity)が増やされるプロセスを指す。本発明との関連において、その用語は、リンパ球が、抗原により刺激され、増殖し、前記抗原を認識する特異的なリンパ球が、増幅される、免疫学的な応答との関連において好ましくは使用される。好ましくは、クローン増殖は、リンパ球の分化を導く。
【0108】
本発明によれば、細胞傷害性Tリンパ球は、抗原又は抗原ペプチドの抗原提示細胞へのインビボでの組込みによりインビボで生成されうる。抗原又は抗原ペプチドは、RNAとして示される。抗原は、処理されてMHC分子のためのペプチドパートナーが産生されえるが、そのフラグメントは、さらなるプロセシングを必要とすることなく提示されえる。これらがMHC分子に結合できる場合は、特に後者である。結果得られる細胞は、所望の複合体を提示し、自己の細胞傷害性Tリンパ球により認識され、これが次に増殖する。
【0109】
CD4+又はCD8+T細胞の特異的な活性化は、種々の方式で検出されうる。特異的なT細胞活性化を検出するための方法には、T細胞の増殖、サイトカイン(例えば、リンフォカイン)の産生、又は細胞溶解活性の発生を検出することが含まれる。CD4+T細胞に関して、特異的なT細胞活性化を検出するための好ましい方法は、T細胞の増殖の検出である。CD8+T細胞に関して、特異的なT細胞活性化を検出するための好ましい方法は、細胞溶解活性の発生の検出である。
【0110】
用語「主要組織適合複合体」及び略語「MHC」は、MHCクラスI及びMHCクラスII分子を含み、全ての脊椎動物に生じる遺伝子の複合体に関する。MHCタンパク質又はMHC分子は免疫反応においてリンパ球と抗原提示細胞又は患部細胞との間のシグナル伝達のために重要であり、MHCタンパク質又はMHC分子はペプチドを結合し、それらをT細胞レセプターによる認識のために提示する。MHCによりコードされるタンパク質は、細胞の表面に発現され、自己抗原(細胞自身からのペプチドフラグメント)及び非自己抗原(例えば、侵入している微生物のフラグメント)の両方をT細胞にディスプレイする。
【0111】
MHC領域は、3つのサブグループであるクラスI、クラスII、及びクラスIIIに分けられる。MHCクラスIタンパク質は、α-鎖及びβ2-ミクログロブリン(15染色体によりコードされているMHCのパートではない)を含有する。それらは、細胞傷害性T細胞に抗原フラグメントを提示する。大抵の免疫系細胞において(詳細には抗原提示細胞において)、MHCクラスIIタンパク質は、α-及びβ-鎖を含有し、抗原フラグメントをTヘルパー細胞に提示する。MHCクラスIII領域は、他の免疫成分(例えば、補体成分及びサイトカインをコードするもの)をコードする。
【0112】
ヒトにおいて、細胞表面の抗原提示タンパク質をコードするMHC領域における遺伝子は、ヒト白血球抗原(HLA)遺伝子という。しかしながら、略語MHCが、HLA遺伝子産物を指すためしばしば使用される。HLA遺伝子には、9つのいわゆる古典的なMHC遺伝子であるHLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-DPA1、HLA-DPB1、HLA-DQA1、HLA-DQB1、HLA-DRA、及びHLA-DRB1が含まれる。
【0113】
本発明の全ての態様の好ましい一実施形態において、MHC分子は、HLA分子である。
【0114】
「抗原の提示により特徴付けられる細胞」、「抗原を提示する細胞」、「細胞により提示される抗原」、「提示される抗原」又は類似の表現によって、細胞、特に患部細胞又は標的細胞、例えば感染細胞若しくはがん細胞、又はそれが発現する抗原若しくは前記抗原に由来するフラグメントを例えばMHC分子(特にMHCクラスI分子)との関連において抗原のプロセシングにより、提示する抗原提示細胞を意味する。同様に、用語「抗原の提示により特徴付けられる疾患」は、特にクラスI MHCでの抗原の提示により特徴付けられる、細胞が関与する疾患を表す。細胞による抗原の提示は、細胞を抗原をコードするRNAなどの核酸でトランスフェクトすることにより達成されうる。
【0115】
用語「免疫学的に均等」は、免疫学的に均等な分子(免疫学的に均等なアミノ酸配列)が、同じ又は基本的に同じ免疫学的特性を示し、及び/又は、例えば体液性及び/若しくは細胞性免疫応答の誘導などの免疫学的作用のタイプ、誘導される免疫反応の強さ及び/若しくは期間、又は誘導される免疫反応の特異性に関して、同じ又は基本的に同じ免疫学的作用を発揮することを意味する。
【0116】
本発明に関連して用語「免疫エフェクター機能」は、腫瘍の播種及び転移の阻害を含む、例えば、感染細胞若しくはがん細胞の死滅、又は腫瘍増殖の阻害及び/若しくは腫瘍発生の阻害をもたらす免疫系の成分により媒介される任意の機能を含む。好ましくは、本発明との関連において免疫エフェクター機能は、T細胞媒介性エフェクター機能である。このような機能には、ヘルパーT細胞(CD4
+ T細胞)のケースでは、MHCクラスII分子との関連におけるT細胞レセプターによる抗原又は抗原ペプチドの認識、サイトカインの放出及び/又はCD8
+リンパ球(CTL)及び/又はB細胞の活性化、並びにCTLのケースでは、MHCクラスI分子との関連におけるT細胞レセプターによる抗原又は抗原ペプチドの認識、例えばアポトーシス又はパーフォリン媒介性の細胞溶解を介したMHCクラスI分子との関連において提示される細胞(すなわち、クラスI MHCでの抗原の提示により特徴付けられる細胞)の排除、サイトカイン(例えば、IFN-γ及びTNF-α)の産生、及び抗原発現標的細胞の特異的な細胞溶解による死滅が含まれる。
【0117】
核酸は、本発明によれば、好ましくはデオキシリボ核酸(DNA)又はリボ核酸(RNA)、より好ましくはRNA、最も好ましくはインビトロ転写されたRNA(IVT RNA)又は合成RNAである。核酸には、本発明によれば、ゲノムDNA、cDNA、mRNA、組換え生産された分子及び化学合成された分子が含まれる。核酸は、本発明によれば、一本鎖又は二本鎖及び直鎖状又は共有結合により閉じて環を形成する分子の形態であってもよい。核酸は、細胞への導入に、すなわち細胞のトランスフェクションに、例えば、DNAテンプレートからインビトロ転写によって調製することができるRNAの形態で、使用することができる。RNAはさらに、適用前に、安定化配列、キャッピング、及びポリアデニル化により修飾することもできる。
【0118】
核酸は、ベクターに含まれうる。本明細書に使用される用語「ベクター」は、プラスミドベクター、コスミドベクター、λファージなどのファージベクター、アデノウイルス若しくはバキュロウイルスベクターなどのウイルスベクター、又は細菌人工染色体(BAC)、酵母人工染色体(YAC)若しくはP1人工染色体(PAC)などの人工染色体ベクターを含む、当業者に知られる任意のベクターを含む。前記ベクターは、発現ベクター並びにクローニングベクターを含む。発現ベクターは、プラスミド及びウイルスベクターを含み、一般に所望のコード配列及び特定の宿主生物(例えば細菌、酵母、植物、昆虫若しくは哺乳動物)又はインビトロ発現系における作動可能に連結されたコード配列の発現のために必要な適切なDNA配列を含有する。クローニングベクターは、一般に特定の所望のDNAフラグメントを操作し、増幅するために使用され、所望のDNAフラグメントの発現のために必要な機能的配列を欠如しうる。
【0119】
本発明との関連において、用語「RNA」は、リボヌクレオチド残基を含み、好ましくは、全体的に又は実質的にリボヌクレオチド残基で構成されている分子に関する。「リボヌクレオチド」は、β-D-リボフラノシル基の2位にヒドロキシル基を有するヌクレオチドに関する。用語「RNA」には、二本鎖RNA、一本鎖RNA、単離されたRNA、例えば部分的に精製されたRNA、本質的に純粋なRNA、合成RNA、組換え的に生産したRNA、並びに、1つ又は複数のヌクレオチドの付加、欠失、置換及び/又は改変により天然のRNAとは異なる修飾RNAが含まれる。そのような改変には、例えばRNAの末端への、又は内部への、例えばRNAの1つ又は複数のヌクレオチドにおける、非ヌクレオチド物質の付加を含めることができる。RNA分子中のヌクレオチドには、非標準的ヌクレオチド、例えば非天然ヌクレオチド若しくは化学合成ヌクレオチド又はデオキシヌクレオチドも含めることができる。これらの改変RNAは、アナログ又は天然RNAのアナログといってもよい。
【0120】
本発明によれば、用語「RNA」は、「メッセンジャーRNA」を意味する「mRNA」を含み、好ましくはそれに関し、またDNAをテンプレートとして使って生産されうる及びペプチド又はタンパク質をコードする「転写物」に関する。mRNAは、典型的には、5'非翻訳領域(5'-UTR)、タンパク質又はペプチドコード領域及び3'非翻訳領域(3'-UTR)を含む。mRNAは、細胞及びインビトロにおいて限定的なハーフタイムを有する。好ましくは、mRNAは、DNAテンプレートを使うインビトロ転写により生産される。本発明の一実施形態において、RNAは、インビトロ転写又は化学合成により得られる。インビトロ転写法は当業者には知られている。例えば、様々なインビトロ転写キットが市販されている。
【0121】
本発明との関連において、用語「転写」は、DNA配列中の遺伝暗号がRNAに転写されるプロセスに関する。引き続き、そのRNAは、タンパク質に翻訳されうる。本発明によれば、用語「転写」は、「インビトロ転写」を含む。
【0122】
用語「インビトロ転写」は、RNA、特にmRNAが、好ましくは、適切な細胞抽出物を使う無細胞系においてインビトロ合成されるプロセスに関する。好ましくは、クローニングベクターが、転写産物の生成に適用される。これらのクローニングベクターは、一般に、転写ベクターとして表され、本発明によれば、用語「ベクター」に包含される。本発明によれば、RNAは、適切なDNAテンプレートのインビトロ転写により得てもよい。転写を制御するためのプロモーターは、任意のRNAポリメラーゼのための任意のプロモーターでありうる。RNAポリメラーゼの具体例は、T7、T3、及びSP6 RNAポリメラーゼである。インビトロ転写のためのDNAテンプレートは、核酸、特にcDNAをクローニングし、それを、インビトロ転写用の適当なベクターに導入することにより得てもよい。cDNAは、RNAの逆転写により得てもよい。好ましくは、クローニングベクターは、転写物を生産するために使用され、一般に転写ベクターと表される。
【0123】
用語「発現」は、本明細書ではその最も広い意味で使用され、RNAの産生及び/又はタンパク質若しくはペプチドの産生を含む。RNAに関して、用語「発現」又は「翻訳」は、特にペプチド又はタンパク質の産生に関する。発現は、一過性でありうる又は安定でありうる。本発明によれば、発現の用語は、「異所性発現」又は「異常発現」も含む。
【0124】
「異所性発現」又は「異常発現」は、本発明によれば、発現が改変されること、好ましくは、腫瘍抗原などの特定のタンパク質の異所性の又は異常な発現に関連する疾患を有していない対象における状態などの参照と比較して、増加することを意味する。発現の増加は、少なくとも10%、特に少なくとも20%、少なくとも50%又は少なくとも100%又はそれ以上の増加を指す。一実施形態において、発現は、患部組織においてのみ見出され、健康な組織における発現は抑制されている。
【0125】
用語「特異的に発現される」は、タンパク質が、基本的に特定の組織又は器官においてのみ発現されることを意味する。例えば、胃粘膜において特異的に発現される腫瘍抗原は、前記タンパク質が主に胃粘膜において発現され、他の組織では発現されない又は他の組織若しくは器官型では有意な程度に発現されないことを意味する。したがって、胃粘膜の細胞において排他的に発現され、精巣などの他の組織では有意に低い程度に発現されるタンパク質は、胃粘膜の細胞において特異的に発現される。一部の実施形態において、腫瘍抗原はまた、正常状態下では1を超える組織型又は器官、例えば2又は3の組織型又は器官において、しかし、好ましくは3以下の異なる組織又は器官型において特異的に発現されうる。このケースでは、腫瘍抗原は、これらの器官において特異的に発現される。例えば、腫瘍抗原が、正常状態下では、好ましくは肺と胃においてほぼ等しい程度に発現される場合に、前記腫瘍抗原は肺と胃において特異的に発現される。
【0126】
用語「翻訳」は、本発明によれば、メッセンジャーRNAの鎖がアミノ酸の配列の組立てを指示してタンパク質又はペプチドを作る、細胞のリボソームにおけるプロセスに関する。
【0127】
本発明によれば、用語「コードするRNA」は、RNAが、適切な環境下に、好ましくは細胞(例えば抗原提示細胞、特に樹状細胞)内に存在する場合に、発現して、それがコードするタンパク質又はペプチドを生産できることを意味する。
【0128】
本発明によれば、RNAの安定性及び翻訳効率を、必要に応じて修飾しうる。本発明にしたがって使用されるRNAとの関連において用語「修飾」は、前記RNAにおいて自然には存在しない、RNAの任意の修飾が含まれる。
【0129】
本発明の一実施形態において、本発明にしたがって使用されるRNAは、未キャップの5'-三リン酸を有さない。そのような未キャップの5'-三リン酸基の除去は、RNAをホスファターゼで処理することにより達成することができる。
【0130】
本発明のRNAは、その安定性を増加させる及び/又は細胞傷害性を減少させるために、修飾リボヌクレオチドを有しうる。例えば、一実施形態では、本発明にしたがって使用されるRNAにおいて、シチジンが、部分的に又は完全に、好ましくは完全に、5-メチルシチジンに置換される。代替的に又は付加的に、一実施形態では、本発明にしたがって使用されるRNAにおいて、ウリジンが、部分的に又は完全に、好ましくは完全に、シュードウリジンに置換される。
【0131】
一実施形態において、用語「修飾」は、RNAに5'-キャップ又は5'-キャップアナログを供給することに関する。用語「5'-キャップ」は、mRNA分子の5'端に見出されるキャップ構造を指し、一般的には、珍しい5'-5'三リン酸結合を介してmRNAに連結されるグアノシンヌクレオチドからなる。一実施形態において、このグアノシンは、7位でメチル化される。用語「従来の5'-キャップ」は、天然のRNA 5'-キャップ、好ましくは7-メチルグアノシンキャップ(m
7G)を指す。本発明との関連において、用語「5'-キャップ」には、RNAキャップ構造に類似し、RNAに付着させた場合に、好ましくはインビボで及び/又は細胞内で、そのRNAを安定化する能力及び/又はそのRNAの翻訳を増強する能力を有するように修飾されている5'-キャップアナログが含まれる。
【0132】
好ましくは、RNAの5'端は、次の一般式を有するキャップ構造を含む:
【0133】
【化1】
【0134】
[式中、R
1及びR
2は、独立して、ヒドロキシ又はメトキシであり、W
-、X
-及びY
-は独立して酸素、硫黄、セレン、又はBH
3である]。好ましい実施形態において、R
1及びR
2はヒドロキシであり、W
-、X
-及びY
-は酸素である。さらに好ましい実施形態において、R
1及びR
2の一方、好ましくはR
1がヒドロキシであり、他方はメトキシであり、W
-、X
-及びY
-は酸素である。さらに好ましい実施形態において、R
1及びR
2はヒドロキシであり、W
-、X
-及びY
-の1つ、好ましくはX
-が硫黄、セレン、又はBH
3、好ましくは硫黄であると同時に、その他は酸素である。さらに好ましい実施形態において、R
1及びR
2の一方、好ましくはR
2がヒドロキシであり、他方がメトキシであり、W
-、X
-及びY
-の1つ、好ましくはX
-が、硫黄、セレン、又はBH
3、好ましくは硫黄であると同時に、その他は酸素である。
【0135】
上式において、右側のヌクレオチドはその3'基を介してRNA鎖に連結される。
【0136】
RNAへの5'-キャップ又は5'-キャップアナログの供給は、前記5'-キャップ又は5'-キャップアナログの存在下でのDNAテンプレートのインビトロ転写により達成しうる(ここで、前記5'-キャップは生成したRNA鎖に転写と共に組み込まれる)、又は例えばインビトロ転写によりRNAを生成し、5'-キャップをRNAに、キャッピング酵素(例えば、ワクシニアウイルスのキャッピング酵素)を使って、転写後に付着させうる。
【0137】
RNAはさらなる修飾を含みうる。例えば、本明細書において使用されるRNAのさらなる修飾は、天然のポリ(A)テールの伸長若しくは切断、又は5'-若しくは3'非翻訳領域(UTR)の改変、例えば前記RNAのコード領域とは無関係なUTRの導入、例えば既存の3'-UTRの、1つ又は複数のコピーの、好ましくは2コピーの、α2-グロビン、α1-グロビン、β-グロビン、好ましくはβ-グロビン、より好ましくはヒトβ-グロビンなどのグロビン遺伝子に由来する3'-UTRとの交換、又はそれらの挿入でありうる。
【0138】
例えば、マスキングされていないポリA配列を有するRNAは、マスキングされたポリA配列を有するRNAよりも効率よく翻訳される。
【0139】
用語「ポリ(A)テール」又は「ポリA配列」は、典型的にはRNA分子の3'端に位置するアデニル(A)残基の配列に関し、「マスキングされていないポリA配列」とは、RNAの3'端にあるポリA配列が、ポリA配列のAで終了し、ポリA配列の3'端(すなわち下流)に位置するA以外のヌクレオチドが後続していないことを意味する。さらにまた、約120塩基対の長いポリA配列は、最適な転写産物安定性及びRNAの翻訳効率をもたらす。
【0140】
それゆえに、本発明にしたがって使用されるRNAの安定性及び/又は発現を増加させるために、ポリA配列(好ましくは10〜500、より好ましくは30〜300、さらに好ましくは65〜200、とりわけ100〜150個のアデノシン残基長を有するもの)を伴って存在するように、RNAを修飾しうる。とりわけ好ましい一実施形態において、ポリA配列は、約120のアデノシン残基長を有する。本発明にしたがって使用されるRNAの安定性及び/又は発現をさらに増加させるために、ポリA配列を脱マスキングすることができる。
【0141】
加えて、RNA分子の3'非翻訳領域への3'非翻訳領域(UTR)の組込みも、翻訳効率の増強をもたらすことができる。そのような3'非翻訳領域を2つ以上組み込むことにより、相乗効果を達成しうる。3'非翻訳領域は、それらが導入されるRNAに対して自己又は異種であってもよい。特定の一実施形態において、3'非翻訳領域は、ヒトβ-グロビン遺伝子に由来する。
【0142】
上述の修飾、すなわちポリA配列の組込み、ポリA配列の脱マスキング及び1つ以上の3'非翻訳領域の組込みの組合せは、RNAの安定性に対して相乗的な影響を有し、翻訳効率を増加させる。
【0143】
本発明にしたがって使用されるRNAの発現を増加させるためには、mRNAの安定性を増加させるためにGC含量が増加するように、またコドン最適化を行うことで細胞における翻訳が増強されるように、コード領域内(すなわち、発現するペプチド又はタンパク質をコードしている配列内)を、好ましくは発現するペプチド又はタンパク質の配列を改変することなく、修飾しうる。
【0144】
用語RNAの「安定性」は、RNAの「半減期」に関する。「半減期」は、活性、量、又は分子数の半分を排除するのに必要な期間に関する。本発明との関連において、RNAの半減期は、前記RNAの安定性の指標である。RNAの半減期は、RNAの「発現の持続時間」に影響しうる。長い半減期を有するRNAは、長期間にわたり発現すると予想することができる。
【0145】
当然ながら、本発明にしたがってRNAの安定性及び/又は翻訳効率を減少させることが所望される場合に、RNAの安定性及び/又は翻訳効率を増加させる上述のような要素の機能が干渉されるように、RNAを修飾することが可能である。
【0146】
本明細書に記載されるナノ粒子の平均の「直径」又は「サイズ」は、一般に「設計されるサイズ」であり、確立された方法にしたがって調製されるナノ粒子の意図されるサイズである。サイズは、直接的に測定した寸法、例えば平均又は最大直径であってもよい、又は間接的なアッセイ、例えば濾過スクリーニングアッセイにより決定されてもよい。粒子サイズの直接測定は、典型的には動的光散乱により実施される。頻繁に、動的光散乱の測定の結果は、Z
平均(平均サイズの基準)及び多分散指標、PI又はPDI(多分散性の基準)で表記される。製造プロセスの間に生じるサイズの軽微な変動(明示された測定値の40%までの変動)は、許容され、明示されたサイズの範囲内とみなされる。代替的に、サイズは、濾過スクリーニングアッセイにより決定されてもよい。例えば、少なくとも97%の粒子が、明示されたサイズの「スクリーンタイプ」フィルターをとおして通過する場合、粒子調製物は明示されたサイズ未満である。
【0147】
好ましくは、RNAが細胞(特に、インビボで提示する細胞、例えば樹状細胞)に送達される(すなわち、トランスフェクトされる)場合に、RNAはそれがコードするタンパク質、ペプチド又は抗原を発現する。
【0148】
用語「トランスフェクション」は、核酸の導入、特にRNAの細胞への導入に関する。本発明の目的について、用語「トランスフェクション」には、核酸の抗原提示細胞などの細胞への導入又はこのような細胞による核酸の取り込みも含まれる。ここで該細胞は患者などの対象に存在しうる。
【0149】
本発明によれば、抗原をコードするRNAの細胞への導入により前記抗原の発現がもたらされることが特に好ましい。
【0150】
本発明によれる用語「ペプチド」は、オリゴペプチド及びポリペプチドを含み、ペプチド結合により共有結合で接合された2個以上、好ましくは3個以上、好ましくは4個以上、好ましくは6個以上、好ましくは8個以上、好ましくは9個以上、好ましくは10個以上、好ましくは13個以上、好ましくは16個以上、好ましくは21個以上、好ましくは8、10、20、30、40又は50個、特に100個までのアミノ酸を含む物質を指す。用語「タンパク質」は、大きなペプチド、好ましくは、アミノ酸残基数が100個を超えるペプチドを指すが、一般的には、用語「ペプチド」と「タンパク質」は同義語であり、本明細書においては互換的に使用される。
【0151】
用語「細胞」は、好ましくは、インタクトな細胞、すなわち、酵素、細胞小器官、又は遺伝物質などの、その正常な細胞内成分が放出されていない、インタクトな膜を有する細胞である。インタクトな細胞は、好ましくは、生細胞、すなわちその正常な代謝機能を実施する能力がある生きている細胞である。好ましくは、前記用語は、本発明によれば、外因性の核酸でトランスフェクションされることが可能な任意の細胞に関する。用語「細胞」は、本発明によれば、原核細胞(例えば、大腸菌(E. coli))又は真核細胞(例えば、樹状細胞、B細胞、CHO細胞、COS細胞、K562細胞、HEK293細胞、HELA細胞、酵母細胞、及び昆虫細胞)を含む。外因性核酸は、(i)それ自体が自由に分散するか、(ii)組換えベクターに組み込まれるか、又は(iii)宿主細胞ゲノム又はミトコンドリアDNAに統合されて、細胞の内側に見出されうる。ヒト、マウス、ハムスター、ブタ、ヤギ、及び霊長類由来の細胞などの哺乳動物細胞は、特に好ましい。細胞は多くの組織タイプに由来するものであってもよく、また細胞には初代細胞及び細胞株が含まれる。具体的な例には、ケラチノサイト、末梢血白血球、骨髄幹細胞、及び胚性幹細胞が含まれる。さらなる実施形態において、細胞は、抗原提示細胞、特に樹状細胞、単球、又はマクロファージである。
【0152】
本明細書に使用される、用語「ナノ粒子」は、特に核酸の、全身性の、特に非経口投与に適切な粒子を作る直径、典型的には1000ナノメートル(nm)未満の直径を有する任意の粒子を指す。いくつかの実施形態において、ナノ粒子は、600nm未満の直径を有する。いくつかの実施形態において、ナノ粒子は、400nm未満の直径を有する。
【0153】
本明細書に使用される、用語「ナノ粒子製剤」又は類似する用語は、少なくとも1つのナノ粒子を含有する任意の物質を指す。いくつかの実施形態において、ナノ粒子組成物は、ナノ粒子の均一な集合である。いくつかの実施形態において、ナノ粒子組成物は、分散物又はエマルジョンである。一般に、少なくとも2つの不混和性の物質が組み合わされる場合に、分散物又はエマルジョンが形成される。
【0154】
用語「リポプレックス」又は「RNAリポプレックス」は、脂質と核酸(例えば、RNA)の複合体を指す。しばしば中性の「ヘルパー」脂質も含む、カチオン性リポソームが核酸と混合される場合に、リポプレックスは自然発生的に形成される。
【0155】
ゼータ電位は、コロイド系における界面動電位に関する科学用語である。理論的な観点から、ゼータ電位は、界面二重層における、界面から離れたバルク流体におけるポイントに対する滑り面の位置での電位である。換言すれば、ゼータ電位は、分散媒と分散した粒子に付着した流体の定常層との間の電位差である。ゼータ電位は、二重層での電荷の規模の定量のため広く使用される。
【0156】
ゼータ電位は、理論的なモデル及び実験的に決定された電気泳動度又は動的電気泳動度(dynamic electrophoretic mobility)の測定値を使って計算することができる。界面動電現象及び電気音響現象(electroacoustic phenomena)は、ゼータ電位を計算するためのデータの通常の供給元である。
【0157】
電気泳動法は、粒子のゼータ電位を推定するため使用しうる。分散剤のゼータ電位は、実施においては、分散剤をわたって電場を適用することより測定することができる。ゼータ電位を有する分散剤内の粒子は、ゼータ電位の規模に比例する速度で、逆荷電の電極に向かって移動する。この速度は、Laser Doppler Anemometerの技術を使って測定しうる。これらの移動する粒子により引き起こされる入射レーザービームの振動数シフト又は位相シフトは粒子移動度として測定しうるものであり、この移動度は分散剤粘性及び誘電体誘電率(dielectric permittivity)を入力すること及びSmoluchowski理論の適用により、ゼータ電位に変換しうる。
【0158】
電気泳動速度は電気泳動度に比例する、これは測定可能なパラメータである。電気泳動度とゼータ電位とを関連付けるいくつかの理論が存在する。
【0159】
Nicomp 380 ZLSシステムなどの適切なシステムをゼータ電位を決定するため使用することができる。このようなシステムは、液体懸濁液中の荷電粒子の電気泳動度及び安定性を通常測定する。これらの値は、懸濁液中の粒子により発揮される斥力の予知因子であり、またコロイド系の安定性にも直接的に関係する。ゼータ電位は、以下に記載されるプロトコールにしたがって測定しうる。
【0160】
電荷は、他の電気的に荷電した物体が接近する場合に、物体に力を受けさせる物理的特性である。電荷は、正及び負と呼ばれる2タイプの形式がある。同じ符号の電荷を有する荷電粒子は互いに反発し、異なる符号の電荷を有する粒子は引きつける。
【0161】
粒子などの巨視的な物体の電荷は、その粒子を作り上げる粒子の電荷の合計である。本明細書に記載されるナノ粒子は、等数の正電荷及び負電荷を有していてもよく、このケースでは、それらの電荷が取り消されて、ゼロの正味の電荷が与えられ、このようにして中性のナノ粒子が作られる。正味の電荷は、化合物などの物体全体における電荷である。
【0162】
全体的に正の正味の電荷を有するイオンはカチオンであり、全体的に負の正味の電荷を有するイオンはアニオンである。
【0163】
本明細書に記載されるナノ粒子は、カチオン性脂質とRNAの(+/-)電荷比に応じて、正電荷と負電荷を調整すること並びにRNA及びカチオン性脂質を混合することにより形成されうる。本明細書に記載されるナノ粒子におけるカチオン性脂質とRNAの+/-電荷比は、次の式で計算することができる。(+/-電荷比)=[(カチオン性脂質の量(mol))*(カチオン性脂質における正電荷の総数)]:[(RNA量(mol))*(RNAにおける負電荷の総数)]。RNA量及びカチオン性脂質の量は、当業者がナノ粒子の調製の際の負荷量を考慮して容易に決定できる。
【0164】
1つの実施形態によれば、本発明に適切なナノ粒子における正電荷と負電荷の比は、それらが、全体的な負電荷又は中性若しくは中性付近に全体的な電荷を有しうるものである。
【0165】
本発明が正電荷、負電荷若しくは中性電荷、又はカチオン性化合物、陰性化合物若しくは中性化合物などの電荷を指す場合には、言及された電荷が生理的なpHなどの選択されたpHで存在することを一般に意味する。例えば、用語「カチオン性脂質」は、生理的なpHなどの選択されたpHで、正の正味の電荷を有する脂質を意味する。用語「中性脂質」は、生理的なpHなどの選択されたpHで、正又は負の正味の電荷を有さない脂質を意味し、非荷電又は中性の両性イオンの形態で存在しうる。本明細書において「生理的なpH」により、約7.5のpHを意味する。
【0166】
本発明における使用に企図される脂質担体などのナノ粒子担体は、RNAとの複合体を形成すること又はRNAが封入若しくはカプセル化されるベシクルを形成することなどにより、RNAが会合されうる任意の物質若しくはビヒクルを含む。これによって、裸のRNAと比較してRNAの安定性の増加がもたらされうる。特に、血液におけるRNAの安定性が、増加されうる。
【0167】
正電荷を有するカチオン性脂質、カチオン性ポリマー及び他の物質は、負に荷電した核酸との複合体を形成しうる。これらのカチオン性分子を使用して核酸を複合体化して、それぞれ所謂リポプレックス又はポリプレックスなどを形成することが可能であり、また、これらの複合体は核酸を細胞に送達することが示されている。
【0168】
ナノ粒子RNA調製物は、様々なプロトコールにより、様々なRNA複合体化化合物(RNA complexing compound)から得ることができる。脂質、ポリマー、オリゴマー、又は両親媒性物質は、典型的な複合体化剤である。一実施形態において、複合体化化合物は、プロタミン、ポリエチレンイミン、ポリ-L-リジン、ポリ-L-アルギニン又はヒストンからなる群から選択される少なくとも1つの薬剤を含む。
【0169】
本発明によれば、プロタミンは、カチオン性担体剤として有用である。用語「プロタミン」は、アルギニンが豊富で、様々な動物(魚のような)の精子細胞において体細胞性ヒストンの代わりに特にDNAと会合することが見出されている、相対的に低分子量の任意の様々な強塩基性タンパク質を指す。特に、用語「プロタミン」は、強塩基性で、水に可溶性であるが、熱で凝固しなく、加水分解に際して主としてアルギニンを生じる、魚の精子に見出されているタンパク質を指す。それらは、精製した形態で、インスリンの持続性製剤において使用されており、ヘパリンの抗凝血性効果を中和する。
【0170】
本発明によれば、本明細書に使用される用語「プロタミン」は、本来の若しくは生物学的な供給源から得られる又はそれに由来する任意のプロタミンのアミノ酸配列、そのフラグメント及び前記アミノ酸配列又はそのフラグメントの多量体の形態を含むことを意味する。さらにまた、その用語は、特定の目的のために人工的及び特異的に設計され、本来の又は生物学的な供給源からは単離できない、(合成された)ポリペプチドを包含する。
【0171】
本発明にしたがって使用されるプロタミンは、硫酸化したプロタミン又は塩酸プロタミンでありうる。好ましい一実施形態において、本明細書に記載されるナノ粒子の生産に使用されるプロタミン供給源は、等張塩溶液中に10mg/ml(5000ヘパリン中和単位/ml)を超えるプロタミンを含有するプロタミン5000である。
【0172】
リポソームは、リン脂質などのベシクル形成脂質の1つ又は複数の二重層をしばしば有している微視的な脂質ベシクルであり、薬物をカプセル化する能力がある。当技術分野において知られている多層状ベシクル(MLV)、小さい単層のベシクル(SUV)、大きい単層のベシクル(LUV)、立体的に安定化したリポソーム(SSL)、多小胞性のベシクル(MV)、及び大きい多小胞性のベシクル(LMV)並びに他の二重層形態を含むが、これらに限定されない、異なるタイプのリポソームを本発明との関連において用いてもよい。リポソームのサイズ及びラメラリティは調製の様式に依存し、使用されるベシクルのタイプの選択は投与の好ましいモードに依存する。脂質が、ラメラ相、六方晶相及び逆六方晶相、立方相、ミセル、単層から構成される逆ミセルを含む水性媒体に存在しうる、超分子構造のいくつかの他の形態が存在する。これらの相はDNA又はRNAとの組合せにおいても得られうる。またRNA及びDNAとの相互作用は相状態に実質的に影響しうる。記載した相は、本発明のナノ粒子RNA製剤に存在しうる。
【0173】
s
予見されるRNAリポプレックスを提供する限り、RNA及びリポソームからのRNAリポプレックスの形成についてリポソームを形成する任意の適切な方法を使用できる。リポソームは、逆相蒸散法(REV)、エタノール注射法、脱水-再水和法(DRV)、超音波処理又は他の適切な方法などの標準的な方法を使って形成しうる。
【0174】
リポソーム形成後に、リポソームをサイズで分類して、実質的に均質なサイズ範囲を有しているリポソームの集団を得ることができる。
【0175】
二重層形成脂質は、2つの炭化水素鎖、特にアシル鎖、及び極性の又は無極性のいずれかの頭部基を典型的に有する。二重層形成脂質は、2つの炭化水素鎖が典型的には約14〜22の間の炭素原子長で、様々な程度の不飽和度を有する、リン脂質、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトール、及びスフィンゴミエリンを含む、天然の脂質又は合成起源のもののいずれかで構成される。本発明の組成物に使用される他の適切な脂質には、糖脂質及びステロール、例えばコレステロール及びその様々なアナログ(同様にリポソームに使用することができるもの)が含まれる。
【0176】
カチオン性脂質は、典型的には、ステロール、アシル又はジアシル鎖などの親油性部位を有すし、また全体的に正の正味の電荷を有する。脂質の頭部基は、典型的には正電荷を保有する。カチオン性脂質は、好ましくは、1〜10価の正電荷、より好ましくは1〜3価の正電荷、より好ましくは1価の正電荷を有する。カチオン性脂質の例には、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA);ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDAB);1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン(DOTAP);1,2-ジオレオイル-3-ジメチルアンモニウム-プロパン(DODAP);1,2-ジアシルオキシ-3-ジメチルアンモニウムプロパン;1,2-ジアルキルオキシ-3-ジメチルアンモニウムプロパン;ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロライド(DODAC)、1,2-ジミリストイルオキシプロピル-1,3-ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム(DMRIE)、及び2,3-ジオレイルオキシ-N-[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]-N,N-ジメチル-1-プロパナミウムトリフルオロアセテート(DOSPA)が含まれるが、これらに限定されない。DOTMA、DOTAP、DODAC、及びDOSPAが好ましい。DOTMAが最も好ましい。
【0177】
加えて、本明細書に記載されるナノ粒子は、好ましくは、構造上の安定性などを考慮して、中性脂質をさらに含む。中性脂質は、RNA脂質複合体の送達効率を考慮して、適切に選択されうる。中性脂質の例には、1,2-ジ-(9Z-オクタデセノイル)-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、ジアシルホスファチジルコリン、ジアシルホスファチジルエタノールアミン、セラミド、スフィンゴミエリン、ケファリン、ステロール、及びセレブロシドが含まれるが、これらに限定されない。DOPE及び/又はDOPCが好ましい。DOPEが最も好ましい。カチオン性リポソームがカチオン性脂質及び中性脂質の両方を含むケースでは、カチオン性脂質と中性脂質とのモル比は、リポソームなどの安定性を考慮して、適切に決定することができる。
【0178】
一実施形態によれば、本明細書に記載されるナノ粒子は、リン脂質を含みうる。リン脂質は、グリセロリン脂質であってもよい。グリセロリン脂質の例には、(i)双性イオンのリン脂質、これには、例えば、ホスファチジルコリン(PC)、卵黄ホスファチジルコリン、天然のダイズ由来PC、部分的に水素化された又は完全に水素化された形態、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)スフィンゴミエリン(SM)が含まれる;(ii)負に荷電したリン脂質:これには、例えば、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルグリセロール(PG)ジパルミトイルPG、ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG);抱合体が双性イオンのリン脂質を負に荷電させる合成誘導体〔メトキシ-ポリエチレン、グリコール-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(mPEG-DSPE)のケースのような〕が含まれる;及び(iii)カチオン性リン脂質、これには、例えば、ホスファチジルコリン又はスフィンゴミエリン(リン酸一エステルがO-メチル化されてカチオン性脂質を形成するもの)の3タイプの脂質が含まれるが、これらに限定されない。
【0179】
RNAと脂質担体との会合は、例えば、担体が物理的にRNAを捕らえるように、RNAが担体の間隙の空間を充填することにより、又は共有結合、イオン結合、若しくは水素結合により、又は非特異的な結合による吸着の手段により起こりうる。会合のモードがどんなものであっても、RNAは、その治療的(すなわち、抗原コード化)な特性を保持しなければならない。
【0180】
「多分散指標」は、粒子混合物におけるリポソームなどの個別の粒子の均質な又は不均質なサイズ分布の測定値であり、混合物における粒子分布の広がりを示す。PIは、例えば本明細書に記載のとおり決定できる。
【0181】
本明細書に使用される、用語「2価のカチオン」は、プラス2の電荷を有する正に荷電した元素、原子又は分子を意味することが企図される。その用語には、金属イオン、例えば、Ca
2+、Zn
2+、Mn
2+、Mg
2+、Fe
2+、Co
2+、Ni
2+及び/又はCu
2+が含まれる。本発明の2価のカチオンは、イオンの塩の形態も含む。2価の塩の具体的な例には、CaCl
2、ZnCl
2、MnSO
4、MnCl
2及びMgCl
2及び塩化物(Cl)、硫酸塩(SO
4)、酢酸塩及び/又はリン酸塩などとの塩形態における上記の例示的な2価のカチオンの他の組合せが含まれる。上記で例示されるもの以外の2価のカチオン及び塩形態は、当技術分野において周知されており、本明細書において使用される用語の意味に含まれる。
【0182】
用語「1価のイオン」には、プラス1の電荷を有するカチオンが含まれる。典型的には、その用語には、アルカリ金属、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、及びセシウムが含まれる。
【0183】
用語「部分」は、分率を指す。アミノ酸配列又はタンパク質などの特定の構造に関して、その「部分」という用語は、前記構造の連続又は不連続分率を表しうる。好ましくは、アミノ酸配列の部分は、前記アミノ酸配列のアミノ酸の少なくとも1%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、さらにより好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも90%を含む。好ましくは、部分が不連続分率である場合、前記不連続分率は、構造の2、3、4、5、6、7、8又はそれ以上のパートで構成され、各々のパートは構造の連続する要素である。例えば、アミノ酸配列の不連続分率は、前記アミノ酸配列の2、3、4、5、6、7、8又はそれ以上のパート、好ましくは4以下のパートで構成されえ、各々のパートは、好ましくはアミノ酸配列の少なくとも5個の連続するアミノ酸、少なくとも10個の連続するアミノ酸、好ましくは少なくとも20個の連続するアミノ酸、好ましくは少なくとも30個の連続するアミノ酸を含む。
【0184】
用語「パート」及び「フラグメント」は、本明細書において互換的に使用され、連続する要素を指す。例えば、アミノ酸配列又はタンパク質などの構造の1つのパートは、前記構造の1つの連続する要素を指す。構造の部分、パート又はフラグメントは、好ましくは前記構造の1つ又は複数の機能的特性を含む。例えば、エピトープ、ペプチド又はタンパク質の部分、パート又はフラグメントは、好ましくはそれが由来するエピトープ、ペプチド又はタンパク質と免疫学的に均等である。本発明との関連において、アミノ酸配列などの構造の「パート」は、好ましくは、全体の構造又はアミノ酸配列の少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも94%、少なくとも96%、少なくとも98%、少なくとも99%を含む、好ましくは、その全体の構造又はアミノ酸配列からなる。
【0185】
本明細書において使用される「低減する」又は「阻害する」は、レベルの全体的な減少、好ましくは5%以上、10%以上、20%以上、より好ましくは50%以上、最も好ましくは75%以上の全体的な減少を引き起こす能力を意味する。用語「阻害する」又は類似する表現には、完全な阻害又は本質的に完全な阻害、すなわちゼロへの低減又は本質的にゼロへの低減が含まれる。
【0186】
「増加」又は「増強」などの用語は、好ましくは、少なくとも約10%、好ましくは少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、さらにより好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも100%少なくとも200%、少なくとも500%、少なくとも1000%、少なくとも10000%、又はさらにそれより多い増加又は増強に関する。
【0187】
本明細書に記載される薬剤、組成物及び方法は、抗原を発現し、抗原ペプチドを提示している患部細胞の存在により特徴付けられる疾患などの疾患を有する対象を治療するため使用できる。治療及び/又は予防できる疾患の例には、本明細書に記載される抗原の1つを発現している全ての疾患が包含される。特に好ましい疾患は、感染性疾患、例えば、ウイルス性の感染性疾患及びがん疾患である。本明細書に記載される薬剤、組成物及び方法はまた、本明細書に記載される疾患を予防するための免疫化又はワクチン接種に使用しうる。
【0188】
本発明によれば、用語「疾患」は、感染性疾患及びがん疾患、特に本明細書に記載される形態の感染性疾患及びがん疾患を含む、任意の病理学的な状態を指す。
【0189】
本発明にしたがって治療される疾患は、好ましくは、抗原が関与する疾患である。「抗原が関与する疾患」又は類似する表現は、本発明によれば、抗原が患部組織又は器官の細胞において発現されることを意味する。患部組織又は器官の細胞における発現は、健康な組織又は器官における状態と比較して、増加されうる。一実施形態において、発現は、患部組織においてのみ見出され、健康な組織における発現は抑制されている。本発明によれば、抗原が関与する疾患には、疾患関連抗原が、好ましくは、感染因子及び腫瘍抗原の抗原である、感染性疾患及びがん疾患が含まれる。好ましくは、抗原が関与する疾患は、好ましくは、MHC分子との関連において、特にクラスI MHCで、抗原を発現している細胞及び抗原を提示している細胞が関与する疾患である。
【0190】
用語「正常組織」又は「正常状態」は、健康な組織又は健康な対象における状態、すなわち非病理学的状態を指し、「健康な」は、好ましくは非感染性又は非がん性を意味する。
【0191】
がん又はがん疾患(医学的な用語:悪性新生物)は、一群の細胞が、非制御的な成長(正常な限界をこえる分裂)、浸潤(隣接する組織への滲入及び破壊)、及び時々の転移(リンパ又は血液を介して身体における他の位置への伝播)を示す、疾患のクラスである。これらのがんの3つの悪性特性によって、自己限定的で侵襲又は転移しない良性腫瘍からがんが差別化される。大抵のがんは、腫瘍、すなわち細胞(新生物細胞又は腫瘍細胞と呼ばれる)の異常な成長により形成される腫脹又は傷害を形成するが、白血病のようないくつかのものは形成しない。本発明による用語「がん」は、白血病、精上皮腫、黒色腫、奇形腫、リンパ腫、神経芽細胞腫、神経膠腫、直腸がん、子宮内膜がん、腎がん、副腎がん、甲状腺がん、血液のがん、皮膚がん、脳のがん、子宮頸がん、腸がん、肝がん、結腸がん、胃がん、腸がん、頭頸部がん、胃腸のがん、リンパ節がん、食道がん、結腸直腸がん、膵がん、耳、鼻及び咽喉(ENT)がん、乳がん、前立腺がん、子宮のがん、卵巣がん及び肺がん並びにその転移を含む。それらの例は、肺癌、乳癌、前立腺癌、結腸癌、腎細胞癌、子宮頸癌、又は上記のがんのタイプ又は腫瘍の転移である。本発明によるがんという用語はまた、がん転移を含む。
【0192】
本発明のナノ粒子及び医薬組成物で治療可能ながんの例には、悪性黒色腫、全タイプの癌腫(結腸癌、腎臓細胞癌、膀胱癌、前立腺癌、非小細胞及び小細胞肺癌など)、リンパ腫、肉腫、芽細胞腫、神経膠腫などが含まれる。
【0193】
悪性黒色腫は、重篤なタイプの悪性黒色腫である。これは、メラノサイトと呼ばれる色素細胞の非制御的な成長によるものである。
【0194】
本発明によれば、「癌腫」は、上皮細胞に由来する悪性腫瘍である。この群は、最も一般的ながんを代表するものであり、乳房、前立腺、肺及び結腸のがんの一般的な形態を含む。
【0195】
リンパ腫及び白血病は、造血性(血液形成性)の細胞に由来する悪性疾患である。
【0196】
肉腫は、胚の中胚葉から発生するいくつかの組織の1つにおける形質転換した細胞から生じてくるがんである。したがって、肉腫には、骨、軟骨、脂肪、筋肉、脈管性、及び造血性組織の腫瘍が含まれる。
【0197】
芽細胞性腫瘍又は芽細胞腫は、未成熟又は胚性の組織に類似する腫瘍(通常、悪性)である。これらの腫瘍の多くは、小児において最も一般的である。
【0198】
神経膠腫は、脳又は脊椎において開始される腫瘍のタイプである。グリア細胞から生じてくるので、神経膠腫と呼ばれる。神経膠腫の最も一般的な部位は、脳である。
【0199】
「転移」により、元の部位から身体の別のパートへのがん細胞の伝播が意味される。転移の形成は、非常に複雑なプロセスであり、原発腫瘍からの悪性細胞の脱離、細胞外基質の浸潤、体腔及び脈管に進入する内皮基底膜の浸透、及び、次いで、血液により輸送された後、標的器官の浸潤に依存する。最終的に、標的部位での新しい腫瘍の成長(すなわち、二次腫瘍又は転移性腫瘍)は、血管形成に依存する。腫瘍転移はしばしば原発腫瘍の除去後であっても起こる、これは腫瘍細胞又は成分が残り、転移する潜在能力が発生する可能性があることが理由である。一実施形態において、本発明による用語「転移」は、原発腫瘍及び領域リンパ節系から離れた転移に関する「遠隔転移」に関する。
【0200】
本発明のナノ粒子及び医薬組成物で治療可能な感染性疾患の例には、ウイルス性の感染性疾患、例えばAIDS(HIV)、A型肝炎、B型肝炎若しくはC型肝炎、疱疹、帯状疱(水疱瘡)、風疹(風疹ウイルス)、黄熱病、デング熱など、フラビウイルス、インフルエンザウイルス、出血性の感染性疾患(マールブルクウイルス又はエボラウイルス)、細菌性の感染性疾患、例えば在郷軍人病(レジオネラ)、胃潰瘍(ヘリコバクター)、コレラ(ビブリオ)、大腸菌(E. coli)、ブドウ球菌、サルモネラ又は連鎖球菌(テタヌス)による感染症;原虫性の病原体による感染症、例えばマラリア、睡眠病、レーシュマニア症;トキソプラズマ症、すなわち、プラスモジウム、トリパノソーマ、レーシュマニア及びトキソプラズマによる感染症;又は例えばクリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)、ヒストプラスマ・カプスラーツム(Histoplasma capsulatum)、コクシジオイデス・イミティス(Coccidioides immitis)、ブラストミセス・デルマチチジス(Blastomyces dermatitidis)若しくはカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)により引き起こされる、真菌性の感染症が含まれる。
【0201】
「治療する」により、疾患を予防する若しくは除くために(対象における腫瘍のサイズ又は腫瘍の数を低減させることを含む);対象における疾患を停止させる若しくは遅らせるために;対象における新しい疾患の発生を阻害する若しくは遅らせるために;疾患を現在有する対象若しくは疾患を以前に有していた対象における症状の頻度若しくは重症度及び/若しくは再発を減少させるために;並びに/又は対象の寿命を延長(すなわち、増加)させるために、本明細書に記載される化合物又は組成物を対象に投与することを意味する。特に、用語「疾患の治療」には、治癒させること、持続時間を短縮すること、軽減すること、予防すること、進行若しくは悪化を緩徐化すること若しくは阻害すること、又は疾患若しくはその症状の開始を予防すること若しくは遅延させることが含まれる。
【0202】
用語「免疫療法」は、特異的な免疫応答及び/又は免疫エフェクター機能の活性化が関与する治療に関する。免疫療法は、本明細書に提供される薬剤が患者から抗原発現細胞を除去するため機能する、任意の種々の技術を使って行ってもよい。このような除去は、抗原に又は抗原を発現している細胞に特異的な、患者における免疫応答及び/又は免疫エフェクター機能を増強すること又は誘導することの結果として起こりうる。
【0203】
本発明に関連して、「防御する」、「予防する」、「予防的」、「防止的」、又は「防御的」などの用語は、対象における疾患の出現及び/又は蔓延の予防又は治療又はその両方に関し、特に、対象が疾患を発生する機会を最小限にすること又は疾患の発生を遅延させることに関する。例えば、がんのリスクにさらされている者は、がんを予防するための治療についての候補であろう。
【0204】
免疫療法の予防的投与、例えば本発明の組成物の予防的投与は、好ましくは疾患の発生からレシピエントを防御する。免疫療法の治療的投与、例えば本発明の組成物の治療的投与は、疾患の進行/成長の阻害を導きうる。これは疾患の進行/成長の減速、特に疾患の進行の途絶を含み、これにより好ましくは疾患の排除が導かれる。
【0205】
「リスクにさらされている」により、一般的な集団と比較して、疾患(特に、がん)を発生する機会が普通よりも高いとして同定される対象を意味する。加えて、疾患(特に、がん)を有していた対象又は現在有している対象は、疾患を発生するリスクが増加している対象である、というのも、このような対象は疾患を連続的に発生する可能性があるからである。がんを現在有している対象又は有していた対象はまた、がん転移が増加するリスクを有する。
【0206】
本明細書に提供される薬剤及び組成物は、単独で又は手術、放射線照射、化学療法及び/又は(自己、同系、同種又は無関係の)骨髄移植などの従来の治療レジメンと組み合わせて使用しうる。
【0207】
がんの治療は、頻繁に2つ、3つ、4つ若しくはさらにそれ以上のがんの薬物/治療の併用作用が、単独療法のアプローチの影響力よりもかなり強い相乗効果を生じることから、組合せ戦略が特に望ましい分野を代表するものである。したがって、本発明の別の実施形態において、本発明の方法及び医薬組成物などの免疫ベース又はワクチン接種ベースの機構を利用するがん治療は、類似の又は他の特異的な機構をターゲットとする様々な他の薬物及び/又は方法と有効に組み合わされてもよい。これらのなかには、例えば、従来の腫瘍療法、マルチエピトープ戦略、付加的な免疫療法、及び血管形成又はアポトーシスをターゲットとする治療アプローチとの組合せがある(総説に関して、例えば、Andersenら 2008: Cancer treatment: the combination of vaccination with other therapies. Cancer Immunology Immunotherapy, 57(11): 1735〜1743頁を参照されたい)。異なる薬剤の連続的な投与が異なるチェックポイントでがん細胞の成長を阻害し、他の薬剤が例えば新生血管形成、悪性細胞の生存又は転移を阻害し、潜在的にはがんを慢性疾患に変換しうる。以下のリストは、本発明と組み合わせて使用できる抗がん薬及び治療のいくつかの非限定的な例を提供する:
【0208】
1.化学療法
化学療法は、複合的なタイプのがんをケアする標準的なものである。最も一般的な化学療法剤は、急速に分裂する(がん細胞の主な特性の1つ)細胞を死滅させることにより作用する。したがって、従来の化学療法薬、例えばアルキル化剤、代謝拮抗物質、アントラサイクリン、植物アルカロイド、トポイソメラーゼインヒビター、及び細胞分裂又はDNA合成のいずれかに影響する他の抗腫瘍剤との組合せは、サプレッサ細胞を取り除くこと(免疫系の再起動)により、腫瘍細胞を免疫媒介性の殺傷により感受性にすることにより、又は免疫系の細胞の付加的な活性化により、本発明の治療効果を有意に改善する。化学療法及びワクチン接種ベースの免疫療法薬の相乗的な抗がん作用は、複数の研究において実証されている(例えば、Quoixら 2011: Therapeutic vaccination with TG4010 and first-line chemotherapy in advanced non-small-cell lung cancer: a controlled phase 2B trial. Lancet Oncol. 12(12):1125〜33頁を参照されたい;Lisethら 2010: Combination of intensive chemotherapy and anticancer vaccines in the treatment of human malignancies: the hematological experience. J Biomed Biotechnol. 2010:6920979も参照されたい;Hirookaら 2009: A combination therapy of gemcitabine with immunotherapy for patients with inoperable locally advanced pancreatic cancer. Pancreas 38(3):e69〜74頁も参照されたい)。基本的に併用療法に適切である、利用可能な何百もの化学療法薬が存在する。本発明と組み合わせることができる化学療法薬のいくつかの(非限定の)例は、カルボプラチン(Paraplatin)、シスプラチン(Platinol、Platinol-AQ)、シクロホスファミド(Cytoxan、Neosar)、ドセタキセル(Taxotere)、ドキソルビシン(Adriamycin)、エルロチニブ(Tarceva)、エトポシド(VePesid)、フルオロウラシル(5-FU)、ゲムシタビン(Gemzar)、メシル酸イマチニブ(Gleevec)、イリノテカン(Camptosar)、メトトレキセート(Folex、Mexate、Amethopterin)、パクリタキセル(Taxol、Abraxane)、ソラフィニブ(Nexavar)、スニチニブ(Sutent)、トポテカン(Hycamtin)、ビンクリスチン(Oncovin、Vincasar PFS)、及びビンブラスチン(Velban)である。
【0209】
2.手術
がん手術(腫瘍を除去するためのオペレーション)は、依然として、がん治療の基礎である。手術は、任意の残存している腫瘍細胞を除去するために、他のがん治療と組み合わせることができる。外科的な方法を引き続く免疫療法処置と組み合わせることは、何度となく実証されてきた有望なアプローチである。
【0210】
3.放射線
放射線療法は依然としてがん治療の重要な要素であり、全てのがん患者のおよそ50%が疾病の経過中に放射線療法を受けている。放射線療法の主なゴールは、がん細胞から彼等の倍加(細胞分裂)能を奪うことである。がんを治療するため使用される放射線のタイプは、光子放射線(X線及びガンマ線)及び粒子放射線(電子、プロトン及び中性子ビーム)である。放射線をがんの位置に送達するため2つの方式が存在する。外部のビーム照射は、高エネルギー線(光子、光子放射線又は粒子放射線)を腫瘍の位置に狙いを定めることにより、身体の外側から送達される。内部照射又は近接照射療法は、カテーテル又はシードに密封した放射性線源により、身体の内側から腫瘍部位に直接送達される。本発明と組み合わせて適用可能な放射線療法技術は、例えば、分割法(例えば、数週にわたり与えられる1.5〜3Gyの一日分割量で送達される分割レジメンにおける放射線療法)、3次元原体照射法(3DCRT;肉眼的腫瘍体積への放射線の送達)、強度変調放射線治療(IMRT;複数の放射線ビームのコンピュータ制御による強度の変調)、画像誘導放射線治療(IGRT;修正を見込んだプレ放射線治療イメージングを含む技術)、及び定位放射線治療(SRBT、僅か少数の治療の小部位に対する非常に高い個別の用量の放射線が送達される)である。放射線療法に関しては、総説(Baskarら 2012: Cancer and radiation therapy: current advances and future directions. Int. J Med Sci. 9(3):193〜199頁)を参照されたい。
【0211】
4.抗体
抗体(好ましくは、モノクローナル抗体)は、様々な機構を通じてがん細胞に対する治療効果を達成する。それらは、アポトーシス又はプログラム細胞死を生じさせることに直接的な効果を有しうる。それらは、成長因子レセプターなどのシグナル伝達経路の成分をブロックし、腫瘍細胞の増殖を有効に停止させることができる。モノクローナル抗体を発現する細胞において、それらは抗イディオタイプ抗体形成を起こすことができる。間接的な効果には、単球及びマクロファージなどの細胞傷害性を有する細胞をリクルートすることが含まれる。このタイプの抗体媒介性の細胞殺傷は、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)と呼ばれる。抗体はまた、補体に結合し、補体依存性細胞傷害(CDC)として知られる直接的な細胞傷害性が導かれる。外科的な方法を免疫療法的な薬物又は方法と組み合わせるアプローチは、例えば、Gadriら 2009: Synergistic effect of dendritic cell vaccination and anti-CD20 antibody treatment in the therapy of murine lymphoma. J Immunother. 32(4):333〜40頁において実証されているとおり、成功している。次のリストは、本発明と組み合わせて使用することができる抗がん抗体及び潜在的な抗体ターゲット(括弧内)のいくつかの非限定的な例を提供する:Abagovomab(CA-125)、Abciximab(CD41)、Adecatumumab(EpCAM)、Afutuzumab(CD20)、Alacizumab pegol(VEGFR2)、Altumomab pentetate(CEA)、Amatuximab(MORAb-009)、Anatumomab mafenatox(TAG-72)、Apolizumab(HLA-DR)、Arcitumomab(CEA)、Bavituximab(ホスファチジルセリン)、Bectumomab(CD22)、Belimumab(BAFF)、Bevacizumab(VEGF-A)、Bivatuzumab mertansine(CD44 v6)、Blinatumomab(CD19)、Brentuximab vedotin(CD30 TNFRSF8)、Cantuzumab mertansin(ムチン CanAg)、Cantuzumab ravtansine(MUC1)、Capromab pendetide(前立腺がん腫細胞)、Carlumab(CNTO888)、Catumaxomab(EpCAM、CD3)、Cetuximab(EGFR)、Citatuzumab bogatox(EpCAM)、Cixutumumab(IGF-1 レセプター)、Claudiximab(クローディン)、Clivatuzumab tetraxetan(MUC1)、Conatumumab(TRAIL-R2)、Dacetuzumab(CD40)、Dalotuzumab(インスリン様成長因子Iレセプター)、Denosumab(RANKL)、Detumomab(Bリンパ腫細胞)、Drozitumab(DR5)、Ecromeximab(GD3ガングリオシド)、Edrecolomab(EpCAM)、Elotuzumab(SLAMF7)、Enavatuzumab(PDL192)、Ensituximab(NPC-1C)、Epratuzumab(CD22)、Ertumaxomab(HER2/neu、CD3)、Etaracizumab(インテグリン αvβ3)、Farletuzumab(葉酸レセプター1)、FBTA05(CD20)、Ficlatuzumab(SCH 900105)、Figitumumab(IGF-1レセプター)、Flanvotumab(糖タンパク質75)、Fresolimumab(TGF-β)、Galiximab(CD80)、Ganitumab(IGF-I)、Gemtuzumab ozogamicin(CD33)、Gevokizumab(IL-1β)、Girentuximab(カルボニックアンヒドラーゼ9(CA-IX))、Glembatumumab vedotin(GPNMB)、Ibritumomab tiuxetan(CD20)、Icrucumab(VEGFR-1)、Igovoma(CA-125)、Indatuximab ravtansine(SDC1)、Intetumumab(CD51)、Inotuzumab ozogamicin(CD22)、Ipilimumab(CD152)、Iratumumab(CD30)、Labetuzumab(CEA)、Lexatumumab(TRAIL-R2)、Libivirumab(B型肝炎表面抗原)、Lintuzumab(CD33)、Lorvotuzumab mertansine(CD56)、Lucatumumab(CD40)、Lumiliximab(CD23)、Mapatumumab(TRAIL-R1)、Matuzumab(EGFR)、Mepolizumab(IL-5)、Milatuzumab(CD74)、Mitumomab(GD3ガングリオシド)、Mogamulizumab(CCR4)、Moxetumomab pasudotox(CD22)、Nacolomab tafenatox(C242抗原)、Naptumomab estafenatox(5T4)、Narnatumab(RON)、Necitumumab(EGFR)、Nimotuzumab(EGFR)、Nivolumab(IgG4)、Ofatumumab(CD20)、Olaratumab(PDGF-Rα)、Onartuzumab(ヒト細胞分散因子レセプターキナーゼ)、Oportuzumab monatox(EpCAM)、Oregovomab(CA-125)、Oxelumab(OX-40)、Panitumumab(EGFR)、Patritumab(HER3)、Pemtumoma(MUC1)、Pertuzuma(HER2/neu)、Pintumomab(腺癌抗原)、Pritumumab(ビメンチン)、Racotumomab(N-グリコリルノイラミン酸)、Radretumab(フィブロネクチンエキストラドメイン-B)、Rafivirumab(狂犬病ウイルス糖タンパク質)、Ramucirumab(VEGFR2)、Rilotumumab(HGF)、Rituximab(CD20)、Robatumumab(IGF-1レセプター)、Samalizumab(CD200)、Sibrotuzumab(FAP)、Siltuximab(IL-6)、Tabalumab(BAFF)、Tacatuzumab tetraxetan(アルファフェトプロテイン)、Taplitumomab paptox(CD19)、Tenatumomab(テネイシンC)、Teprotumumab(CD221)、Ticilimumab(CTLA-4)、Tigatuzumab(TRAIL-R2)、TNX-650(IL-13)、Tositumomab(CD20)、Trastuzumab(HER2/neu)、TRBS07(GD2)、Tremelimumab(CTLA-4)、Tucotuzumab celmoleukin(EpCAM)、Ublituximab(MS4A1)、Urelumab(4-1BB)、Volociximab(インテグリン α5β1)、Votumumab(腫瘍抗原 CTAA16.88)、Zalutumumab(EGFR)、Zanolimumab(CD4)。
【0212】
5.サイトカイン、ケモカイン、共刺激分子、融合タンパク質
有益な免疫モジュレーション又は腫瘍阻害効果を誘起するための、本発明の抗原コード医薬組成物とサイトカイン、ケモカイン、共刺激分子及び/又はその融合タンパク質との併用用法は、本発明の別の実施形態である。免疫細胞の腫瘍への浸潤を増加させるために及び抗原提示細胞の腫瘍所属リンパ節(tumor-draining lymph node)への運動を容易にするために、C、CC、CXC及びCX3C構造を有する様々なケモカインが使用されうる。最も有望なケモカインのいくつかは、例えば、CCR7及びそのリガンドCCL19及びCCL21、さらにCCL2、CCL3、CCL5、及びCCL16である。他の例は、CXCR4、CXCR7及びCXCL12である。さらにまた、共刺激性又は調節性の分子、例えば、B7リガンド(B7.1及びB7.2)も有用である。他のサイトカイン、例えば、インターロイキン、特に(例えば、IL-1からIL17)、インターフェロン(例えば、IFNalpha1からIFNalpha8、IFNalpha10、IFNalpha13、lFNalpha14、IFNalpha16、IFNalpha17、IFNalpha21、IFNbeta1、IFNW、IFNE1及びIFNK)、造血性因子、TGF(例えば、TGF-α、TGF-β、及び他のメンバーのTGFファミリー)、最後に腫瘍壊死因子ファミリーのメンバーのレセプター及びそれらのリガンド、並びに他の刺激分子であって、41BB、41BB-L、CD137、CD137L、CTLA-4GITR、GITRL、Fas、Fas-L、TNFR1、TRAIL-R1、TRAIL-R2、p75NGF-R、DR6、LT.beta.R、RANK、EDAR1、XEDAR、Fn114、Troy/Trade、TAJ、TNFRII、HVEM、CD27、CD30、CD40、4-1BB、OX40、GITR、GITRL、TACI、BAFF-R、BCMA、RELT、及びCD95(Fas/APO-1)、糖質コルチコイド誘導性TNFR関連タンパク質、TNFレセプター関連アポトーシス媒介性タンパク質(TRAMP)及びデスレセプター6(DR6)を含むが、これらに限定されない分子も有用である。特に、CD40/CD40L及びOX40/OX40Lは、併用免疫療法のための重要な標的である、というのも、これらはT細胞の生存及び増殖に直接的な影響力があるからである。総説に関して、Lechnerら 2011: Chemokines, costimulatory molecules and fusion proteins for the immunotherapy of solid tumors. Immunotherapy 3 (11), 1317〜1340頁を参照されたい。
【0213】
6.細菌処置
研究者は、クロストリジウム・ノビイ(Clostridium novyi)などの嫌気性菌を使って、低酸素腫瘍の内部を消費させた。その後、これらは腫瘍の酸素を含む側に接触した際に死滅するはずであり、それらが身体の残りの部分には無害であろうことを意味している。別の戦略は、非毒性のプロドラッグを毒性薬物に転換できる酵素で形質転換した嫌気性菌の使用である。腫瘍の壊死性及び低酸素性の領域においてその細菌が増殖することで、その酵素は唯一腫瘍において発現される。したがって、全身に適用されるプロドラッグは、腫瘍においてのみ毒性薬物に代謝される。このことは、非病原性の嫌気性菌であるクロストリジウム・スポロゲネス(Clostridium sporogenes)で有効であることが実証されている。
【0214】
7.キナーゼインヒビター
がん細胞の成長及び生存がキナーゼ活性の調節解除で厳密にインターロックされることから、補完的ながん治療のための潜在的な標的の別の大きなグループには、キナーゼインヒビターが含まれる。正常なキナーゼ活性を回復させて腫瘍成長を低減させるため、広範囲のインヒビターが使用されている。標的にされるキナーゼのグループには、レセプターチロシンキナーゼ、例えば、BCR-ABL、B-Raf、EGFR、HER-2/ErbB2、IGF-IR、PDGFR-α、PDGFR-β、c-Kit、Flt-4、Flt-3、FGFR1、FGFR3、FGFR4、CSF1R、c-Met、RON、c-Ret、ALK、細胞質のチロシンキナーゼ、例えば、c-SRC、c-YES、Abl、JAK-2、セリン/スレオニンキナーゼ、例えば、ATM、Aurora A&B、CDK、mTOR、PKCi、PLK、b-Raf、S6K、STK11/LKB1及び脂質キナーゼ、例えば、PI3K、SK1が含まれる。小分子キナーゼインヒビターは、例えば、PHA-739358、Nilotinib、Dasatinib、及びPD166326、NSC743411、Lapatinib(GW-572016)、Canertinib(CI-1033)、Semaxinib(SU5416)、Vatalanib(PTK787/ZK222584)、Sutent(SU11248)、Sorafenib(BAY 43-9006)及びLeflunomide(SU101)である。さらなる情報に関して、例えば、Zhangら 2009: Targeting cancer with small molecule kinase inhibitors. Nature Reviews Cancer 9, 28〜39頁を参照されたい。
【0215】
8.Toll様レセプター
Toll様レセプター(TLR)ファミリーのメンバーは、先天性免疫と適応性免疫の間の重要なリンクであり、多くのアジュバントの効果はTLRの活性化に依存する。がんに対して樹立された多数のワクチンは、ワクチン応答をブーストするためTLRに関するリガンドを取り込む。TLR2、TLR3、TLR4の他、特にTLR7及びTLR8は、受動免疫療法アプローチにおけるがん治療に関して調査された。密接に関連するTLR7及びTLR8は、免疫細胞、腫瘍細胞、及び腫瘍の微小環境に影響することにより抗腫瘍応答に寄与し、またヌクレオシドアナログ構造により活性化されうる。全てのTLRは、スタンドアローンの免疫療法又はがんワクチンアジュバントとして使用され、また本発明の製剤及び方法と相乗的に組み合わされうる。さらなる情報に関して、van Duinら 2005: Triggering TLR signaling in vaccination, Trends in Immunology, 27(1):49〜55頁を参照されたい。
【0216】
9.血管形成インヒビター
腫瘍媒介性のエスケープ機構及び免疫抑制により影響される免疫モジュレートリーレセプターを標的にする治療に加えて、腫瘍環境を標的にする治療が存在する。血管形成インヒビターは、腫瘍が生存のため必要とする広範な血管の成長(血管形成)を予防する。腫瘍細胞により血管形成が促進されて、それらの栄養及び酸素需要の増加に対処することを、例えば、異なる分子をターゲティングすることによりブロックできる。本発明と組み合わされうる血管形成媒介性分子又は血管形成インヒビターの非限定的な例は、可溶性のVEGF(VEGFアイソフォーム VEGF121及びVEGF165、レセプターVEGFR1、VEGFR2及びコレセプター ニューロピリン-1及びニューロピリン-2)1及びNRP-1、アンギオポエチン2、TSP-1及びTSP-2、アンギオスタチン及び関連分子、エンドスタチン、バソスタチン、カルレティキュリン、血小板因子-4、TIMP及びCDAI、Meth-1及びMeth-2、IFN-α、IFN-β及びIFN-γ、CXCL10、IL-4、IL-12及びIL-18、プロトロンビン(クリングルドメイン-2)、抗トロンビンIIIフラグメント、プロラクチン、VEGI、SPARC、オステオポンチン、マスピン、カンスタチン、プロリフェリン関連タンパク質、レスチン及び薬物、例えば、ベバシズマブ、イトラコナゾール、カルボキシアミドトリアゾール、TNP-470、CM101、IFN-α、血小板因子-4、スラミン、SU5416、トロンボスポンジン、VEGFRアンタゴニスト、血管新生抑制性ステロイド+ヘパリン、軟骨由来の血管形成阻害因子、マトリックスメタロプロテイナーゼインヒビター、2-メトキシエストラジオール、テコガラン、テトラチオモリブデート、サリドマイド、トロンボスポンジン、プロラクチンα Vβ3インヒビター、リノマイド、タスキニモドである。総説に関して、Schoenfeld and Dranoff 2011: Anti-angiogenesis immunotherapy. Hum Vaccin. (9):976〜81頁を参照されたい。
【0217】
10.小分子標的療法薬
小分子標的療法薬は、一般にがん細胞内の変異した、過剰発現した、又は他の点で決定的なタンパク質における酵素ドメインのインヒビターである。顕著な及び非限定的な例は、チロシンキナーゼインヒビターのイマチニブ(Gleevec/Glivec)及びゲフィチニブ(Iressa)である。がん治療のためのワクチンと組み合わせたいくつかのキナーゼをターゲティングするスニチニブリンゴ酸塩及び/又はソラフェニブトシル酸塩などの小分子の使用は、先の特許出願US2009004213にも記載されている。
【0218】
11.ウイルスベースのワクチン
本発明の製剤と一緒に併用療法アプローチに使用できる、利用可能な又は開発中のいくつかのウイルスベースのがんワクチンが存在する。このようなウイルスベクターの使用の1つの利点は、免疫活性化に必要な危険シグナルを作り出すウイルス感染の結果として起こる炎症反応で、免疫応答を開始する内因性の能力である。理想的なウイルスベクターは安全であるべきであり、また抗腫瘍性の特異的な応答をブーストすることを許容させる抗ベクター免疫応答を導入すべきではない。組換え型のウイルス、例えば、ワクシニアウイルス、単純ヘルペスウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、レトロウイルス及びアビポックスウイルスは動物の腫瘍モデルに使用されており、それらの有望な結果に基づいて、ヒト臨床試験が開始された。特に重要なウイルスベースのワクチンは、ウイルス様粒子(VLP)、ウイルスの外被膜からの特定のタンパク質を含有する小粒子である。ウイルス様粒子は、ウイルスからのいかなる遺伝物質も含有しなく、感染を引き起こすことはできないが、しかし、それらが構築されてそれらの被膜に腫瘍抗原を提示することができる。VLPは、様々なウイルス、例えば、B型肝炎ウイルス又はパルボウイルス科(例えば、アデノ関連ウイルス)、レトロウイルス科(例えば、HIV)、及びフラビウイルス科(例えば、C型肝炎ウイルス)を含む他のウイルスファミリーに由来しうる。一般的な総説に関して、Sorensen and Thompsen 2007: Virus-based immunotherapy of cancer: what do we know and where are we going? APMIS 115(11):1177〜93頁を参照されたい;がんに対するウイルス様粒子は、Buonaguroら 2011: Developments in virus-like particle-based vaccines for infectious diseases and cancer. Expert Rev Vaccines 10(11):1569〜83頁;及びGuillenら 2010: Virus-like particles as vaccine antigens and adjuvants: application to chronic disease, cancer immunotherapy and infectious disease preventive strategies. Procedia in Vaccinology 2 (2),128〜133頁において論評されている。
【0219】
12.マルチエピトープ戦略
マルチエピトープの使用によって、ワクチン接種に関して有望な結果が示されている。高速シークエンシング技術とインテリジェントアルゴリズムシステムとの組合せによって、腫瘍のミュータノーム(mutanome)の探索が可能になり、本発明と組み合わせることができる個別化ワクチンに関するマルチエピトープが提供されうる。さらなる情報に関して、2007: Vaccination of metastatic colorectal cancer patients with matured dendritic cells loaded with multiple major histocompatibility complex class I peptides. J Immunother 30: 762〜772頁;さらにまた、Castleら 2012: Exploiting the mutanome for tumor vaccination. Cancer Res 72 (5):1081〜91頁を参照されたい。
【0220】
13.養子T細胞移入
例えば、腫瘍抗原ワクチン接種及びT細胞移入の組合せは、Rapoportら 2011: Combination immunotherapy using adoptive T-cell transfer and tumor antigen vaccination on the basis of hTERT and survivin after ASCT for myeloma. Blood 117(3):788〜97頁に記載されている。
【0221】
14.ペプチドベースの標的療法
ペプチドは、細胞表面レセプターに結合しうる又は腫瘍の周囲の細胞外基質に影響しうる。これらのペプチド(例えば、RGD)に付着させた放射性核種は、その核種が細胞の近傍において崩壊する場合に、結果としてがん細胞を死滅させる。特に、これらの結合モチーフのオリゴマー又はマルチマーは、これにより増強される腫瘍特異性及び結合活性を導くことができることから、多大なる関心が寄せられる。非限定的な例に関して、Yamada 2011: Peptide-based cancer vaccine therapy for prostate cancer, bladder cancer, and malignant glioma. Nihon Rinsho 69(9): 1657〜61頁を参照されたい。
【0222】
15.他の治療
相乗効果を生み出すため、本発明の製剤及び方法と組み合わせることができる多数の他のがん療法が存在する。非限定的な例は、アポトーシスをターゲットとする治療、温熱療法、ホルモン療法、テロメラーゼ療法、インスリン強化療法、遺伝子治療及び光線力学療法である。
【0223】
用語「免疫」又は「ワクチン接種」は、治療的又は予防的な理由のため対象を処置する方法を記載する。
【0224】
用語「対象」は、哺乳動物に関する。例えば、本発明との関連において哺乳動物は、ヒト、非ヒト霊長動物、家畜、例えばイヌ、ネコ、ヒツジ、ウシ、ヤギ、ブタ、ウマなど、実験動物、例えばマウス、ラット、ウサギ、モルモットなど、並びに動物園の動物のような監禁されている動物である。本明細書で使用される「動物」の用語はまた、ヒトを含む。
【0225】
用語「自己」は、同じ対象に由来する全てを記載するために使用される。例えば、「自己移植」は、同じ対象に由来する組織又は器官の移植を指す。このような処理は有利である、というのも、それにより拒絶をもたらす免疫学的な障壁が克服されるからである。
【0226】
用語「異種」は、複数の異なる要素からなるものを記載するために使用される。例として、個体の骨髄を異なる個体に移入することによって、異種移植が構成される。異種遺伝子は、対象以外の供給源に由来する遺伝子である。
【0227】
本発明の医薬組成物は、好ましくは、無菌であり、有効量の本明細書に記載されるナノ粒子及び場合によって本明細書において考察されるさらなる薬剤を含有させて、所望の反応又は所望の効果を生じさせる。
【0228】
本発明の医薬組成物は、補足的な免疫増強物質、例えば1つ又は複数のアジュバントと一緒に投与しうる。また、その有効性をさらに増加させるため、好ましくは免疫活性化の相乗効果を達成するための1つ又は複数の免疫増強物質を含みうる。用語「アジュバント」は、免疫応答を延長する又は増強する又は加速する化合物に関する。この点において、様々なタイプのアジュバントに応じて様々な機構が可能である。例えば、DCの成熟を許容する化合物、例えばリポ多糖又はCD40リガンドは、第1のクラスの適切なアジュバントを形成する。一般に、「危険シグナル」(LPA、GP96、dsRNAなど)又はサイトカイン(例えば、GM-CSF)のタイプの免疫系に影響する任意の薬剤は、免疫応答を強めること及び/又は免疫応答に制御される様式で影響することが可能なアジュバントとして使用できる。場合によって、この関連においても、CpGオリゴデオキシヌクレオチドを使用できるが、上記のとおり、それらの特定の状況下で起きる副作用が考慮される。特に好ましいアジュバントは、サイトカイン、例えば、モノカイン、リンフォカイン、インターロイキン又はケモカイン、例えば、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-12、INFα、INF-γ、GM-CSF、LT-α、又は成長因子、例えば、hGHである。さらなる知られているアジュバントは、水酸化アルミニウム、フロイントアジュバント又は油、例えば、Montanide(登録商標)、最も好ましくはMontanide(登録商標)ISA51である。リポペプチド、例えばPam3Cysはまた、本発明の医薬組成物におけるアジュバントとしての使用に適切である。
【0229】
医薬組成物は、通常均一な剤形において提供され、またそれ自体既知の様式において調製されうる。本発明の医薬組成物は、例えば、溶液又は懸濁液の形態であってもよい。
【0230】
本発明の医薬組成物は、塩、緩衝物質、保存剤、担体、賦形剤及び/又は添加剤を含みうるものであり、その全てが好ましくは薬学的に許容されるものである。用語「薬学的に許容される」は、医薬組成物の活性成分の作用と相互作用しない無毒性の材料を指す。
【0231】
薬学的に許容されない塩は、薬学的に許容される塩を調製するため使用されてもよく、本発明に含まれる。この種類の薬学的に許容される塩は、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、クエン酸、蟻酸、マロン酸、コハク酸などの酸から調製されるものを非限定的な方式において含む。薬学的に許容される塩はまた、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩又はカルシウム塩として調製されうる。
【0232】
本発明の医薬組成物に使用するための適切な緩衝物質は、塩における酢酸、塩におけるクエン酸、塩におけるホウ酸及び塩におけるリン酸を含む。
【0233】
本発明の医薬組成物に使用するための適切な保存剤は、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、パラベン及びチメロサールを含む。
【0234】
注射可能製剤は、薬学的に許容される添加剤、例えば乳酸リンゲルを含みうる。
【0235】
用語「担体」は、適用を容易にする、増強する又は可能にするために活性成分と組み合わされる天然又は合成の有機又は無機成分に関する。本発明によれば、用語「担体」には、患者への投与に適切な、1つ又は複数の適合性の固体又は液体フィラー、賦形剤又はカプセル化物質も含まれる。
【0236】
非経口投与のための可能性のある担体物質は、例えば、滅菌水、リンゲル、乳酸リンゲル、無菌の塩化ナトリウム溶液、ポリアルキレングリコール、水素化ナフタレン及び、特に、生体適合性ラクチドポリマー、ラクチド/グリコリドコポリマー又はポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレンコポリマーである。
【0237】
本明細書で使用される場合、用語「添加剤」は、例えば担体、結合剤、滑沢剤、増粘剤、界面活性剤、保存剤、乳化剤、緩衝剤、香味剤又は着色剤などの、有効成分ではない本発明の医薬組成物中の全ての物質を示すことが意図されている。
【0238】
本明細書に開示される薬剤及び組成物は、例えば、注射又は輸液による非経口投与を含む非経口投与による、任意の従来の経路を介して投与しうる。投与は、好ましくは、非経口的、例えば、静脈内、動脈内、皮下、皮内又は筋肉内の投与である。
【0239】
用語「非経口投与」は、静脈内又は筋肉内注射によるような、消化管を通した投与以外の様式での投与を指す。全身投与は、腸内、すなわち胃腸管を通じた吸収が関与する投与、又は非経口の投与の経路である。
【0240】
非経口投与に適切な組成物は、好ましくはレシピエントの血液と等張である、活性化合物の無菌の水性又は非水性の調製物を通常含む。適合性の担体及び溶媒の例は、リンゲル液及び等張塩化ナトリウム溶液である。加えて、通常は無菌の固定油は、溶液又は懸濁液媒体として使用される。
【0241】
本明細書に開示される薬剤及び組成物は、有効量で投与される。「有効量」は、単独で又はさらなる用量と一緒に所望の反応又は所望の効果を達成する量を指す。特定の疾患又は特定の状態の治療のケースでは、所望の反応は好ましくは疾患の経過の阻害に関する。これには、疾患の進行を減速させること及び、特に疾患の進行を中断すること又は後戻りさせることが含まれる。疾患の又は状態の治療における所望の反応はまた、前記疾患の又は前記状態の、開始の遅延又は開始の予防でありうる。
【0242】
本明細書に記載される有効量の薬剤又は組成物は、治療される状態、疾患の重症度、年齢、生理的状態、身長及び体重を含む患者の個別のパラメータ、治療の期間、付随する治療のタイプ(存在する場合)、特定の投与経路並びに類似する因子に依存する。それゆえ、本明細書に記載される薬剤の投与される用量は、このような様々なパラメータに依存しうる。初期用量で患者の反応が不十分であるケースでは、より高い用量(又は異なる、より局所的な投与経路により達成されるより高い有効用量)を使用しうる。
【0243】
以下に図面及び実施例により本発明を詳細に説明するが、これらは説明の目的のためにのみ使用され、限定を意図するものではない。説明及び実施例によれば、当業者は同様に本発明に含まれるさらなる実施形態に到達可能である。