特表2015-514478(P2015-514478A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-514478(P2015-514478A)
(43)【公表日】2015年5月21日
(54)【発明の名称】医療用注射デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/145 20060101AFI20150424BHJP
   A61M 5/20 20060101ALI20150424BHJP
   A61M 5/315 20060101ALI20150424BHJP
【FI】
   A61M5/145 510
   A61M5/20
   A61M5/315 550A
   A61M5/315 550X
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2015-506140(P2015-506140)
(86)(22)【出願日】2013年3月15日
(85)【翻訳文提出日】2014年12月4日
(86)【国際出願番号】EP2013055450
(87)【国際公開番号】WO2013156224
(87)【国際公開日】20131024
(31)【優先権主張番号】12165081.6
(32)【優先日】2012年4月20日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】12165082.4
(32)【優先日】2012年4月20日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】61/638,766
(32)【優先日】2012年4月26日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/638,565
(32)【優先日】2012年4月26日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC
(71)【出願人】
【識別番号】596113096
【氏名又は名称】ノボ・ノルデイスク・エー/エス
(74)【代理人】
【識別番号】100109726
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 吉隆
(74)【代理人】
【識別番号】100101199
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義教
(72)【発明者】
【氏名】ケルスン, バスチャン ゴースヴィーイ
(72)【発明者】
【氏名】モウリトスン, ブリーアン
【テーマコード(参考)】
4C066
【Fターム(参考)】
4C066AA09
4C066BB01
4C066CC01
4C066DD13
4C066EE14
4C066FF05
4C066HH05
4C066HH12
4C066HH17
4C066QQ32
(57)【要約】
本発明は、携帯型薬剤カートリッジ(10)から設定投与量を設定及び注射する注射デバイス(1)に関する。注射デバイス(1)は、ハウジング(110、120、130、140)、ピストンロッド(800)、回転可能ドライバ(500、700)、及び投与量制御部材(350)を備える。保存エネルギー源(560)は、ピストンロッド(800)に設定投与量を吐出させるために、ドライバ(500、700)の回転を駆動するように構成される。投与量制御部材(350)は、投与量設定の間及び投与量吐出の間に回転する。第1クラッチ(C1)は、投与量制御部材(350)とドライバ(500、700)との間に配置される。第2クラッチ(C2)は、ドライバ(500、700)とハウジング(110、120、130、140)との間に配置され、吐出動作を制御する。投与量設定の間、第1クラッチ(C1)が係合解除され、第2クラッチ(C2)が係合される。投与量吐出の間、第1クラッチ(C1)が係合され、第2クラッチ(C2)が係合解除される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
近位端部及び遠位端部を画定するハウジング(110、120、130、140)と、
設定投与量の大きさに応じて、前記ハウジング(110、120、130、140)に相対して固定配置されるように構成される所定のストップから離れて第1方向に動き、前記設定投与量の注射の間に前記所定のストップに逆戻りする投与量設定デバイス(350、400)を含む、投与量設定構成と、
前記設定投与量を注射するために作動されるように適合される注射作動器(300)と、
設定投与量を吐出するために、遠位方向に、前記ハウジング(110、120、130、140)に相対して移動するように適合されるピストンロッド(800)と、
前記ピストンロッド(800)に連結され、前記注射作動器(300)が前記ハウジング(110、120、130、140)に相対して前記ピストンロッド(800)を移動させるように作動されるときに、ドライバ(500、560、600、700)の回転を駆動するように構成される保存エネルギー源(560)を含む、回転可能なドライバ(500、560、600、700)と、
を備える医療用注射デバイス(1)であって、
前記投与量設定デバイス(350、400)が、第1軸の周りを回転するように構成される投与量制御部材(350)を画定し、
第1クラッチ構成(C1、352、502)が前記投与量制御部材(350)と前記ドライバ(500、560、600、700)との間に配置され、前記投与量制御部材(350)が前記ドライバ(500、560、600、700)から独立して回転するように、投与量設定の間に前記第1クラッチ構成(C1、352、502)が係合解除され、前記投与量設定デバイス(350、400)を前記所定のストップに向けて逆戻りさせながら、前記ドライバ(500、560、600、700)が前記投与量制御部材(350)を回転させることを可能にするために、前記注射作動器(300)が作動すると前記第1クラッチ構成(C1、352、502)が係合され、及び
第2クラッチ構成(C2、122、372)が前記ドライバ(500、560、600、700)と前記ハウジング(110、120、130、140)との間に配置され、投与量設定の間に前記ドライバ(500、560、600、700)の回転が防止されるように、投与量設定の間に前記第2クラッチ構成(C2、122、372)が係合され、前記ドライバ(500、560、600、700)が前記ハウジング(110、120、130、140)に相対して回転することを可能にするために、前記注射作動器(300)が作動すると前記第2クラッチ構成(C2、122、372)が係合解除される、
携帯型薬剤カートリッジ(10)から設定投与量を設定及び注射する医療用注射デバイス(1)。
【請求項2】
前記ドライバ(500、560、600、700)が、前記投与量制御部材(350)と同軸に回転するように配置される駆動部材(500)を画定し、前記駆動部材(500)がその上に配設される第1トラック(507)を有し、
前記投与量制御部材(350)がその上に配設される第2トラック(354)を有し、
内容物トラックフォロワ(900)の端部が前記駆動部材(500)と前記投与量制御部材(350)との間に配置され、前記内容物トラックフォロワ(900)の端部が前記第1トラック(507)及び前記第2トラック(354)に係合し、前記投与量制御部材(350)が前記駆動部材(500)に相対して回転するとき、前記内容物トラックフォロワ(900)の端部を前記第1軸に沿って動かすように、前記第1トラック及び前記第2トラックが構成され、及び
前記投与量設定デバイス(400)がダイヤルアップされるにつれて、前記内容物トラックフォロワ(900)の端部が内容物ストップの端部に向かって動き、前記内容物ストップの端部が所定位置に配置されて前記投与量設定デバイス(400)が前記内容物ストップの端部を越えて回転することを防止する、
請求項1に記載の注射デバイス。
【請求項3】
設定投与量の注射の間、前記第1クラッチ構成(C1、352、502)が、前記駆動部材(500)が前記投与量制御部材(350)に相対して回転することを防止する、請求項2に記載の注射デバイス。
【請求項4】
前記第1トラック(507)及び前記第2トラック(354)のうちの1つがスレッドを形成し、前記第1トラック(507)及び前記第2トラック(354)のうちの他の1つが軸方向トラックを形成する、請求項2又は3に記載の注射デバイス。
【請求項5】
前記第1トラック(507)及び前記第2トラック(354)の両方がスレッドを形成し、前記第1トラック(507)のリードが前記第2トラック(354)のリードと異なる、請求項2又は3に記載の注射デバイス。
【請求項6】
前記第1トラック(507)及び前記第2トラック(354)のうちの少なくとも1つがスレッド(507)を形成し、前記内容物ストップ端部が前記少なくとも1つのスレッド(507)に相対して固定配置される、請求項2から5のいずれか一項に記載の注射デバイス。
【請求項7】
前記投与量制御部材(350)が、前記注射作動器(300)が作動されると非作動位置から作動位置へと軸方向に動かされ、前記投与量制御部材(350)の軸方向位置が前記第1クラッチ構成(C1、352、502)及び前記第2クラッチ構成(C2、122、372)を制御する、請求項1から6のいずれか一項に記載の注射デバイス。
【請求項8】
前記注射デバイス(1)が、前記投与量設定デバイス(400)を操作するために、前記投与量設定デバイス(400)に連結される投与量設定部材(250)を備える、請求項1から7のいずれか一項に記載の注射デバイス。
【請求項9】
第3クラッチ構成(C3、253、353)が前記投与量制御部材(350)と前記投与量設定部材(250)との間に配置され、前記投与量制御部材(350)が前記投与量設定部材(250)と共に回転するように、前記第3クラッチ構成(C3、253、353)が投与量設定の間に係合され、前記投与量制御部材(350)が前記投与量設定部材(250)から独立して回転することを可能にするために、前記注射作動器(300)が作動すると前記第3クラッチ構成(C3、253、353)が係合解除される、請求項8に記載の注射デバイス。
【請求項10】
前記投与量制御部材(350)の前記軸方向位置が、前記第3クラッチ構成(C3、253、353)を制御する、請求項7に従属する場合の請求項9に記載の注射デバイス。
【請求項11】
前記ピストンロッド(800)の端部に係合する少なくともピストンが第2軸に沿って延在し、前記第2軸が前記第1軸から一定距離オフセットされ、前記ドライバ(500、560、600、700)が前記第2軸の周りを回転する駆動ナット(700)を備える、請求項1から10のいずれか一項に記載の注射デバイス。
【請求項12】
前記ピストンロッド(800)が、前記第2軸と平行して延在する第1端部を有する可撓性のピストンロッドであり、且つ携帯型カートリッジ(10)のピストン(13)に係合するように適合され、前記ピストンロッド(800)の第2端部が前記第2軸から離れた方向に屈曲されるように適合される、請求項1から11のいずれか一項に記載の注射デバイス。
【請求項13】
前記保存エネルギー源(560)が、前記カートリッジ(10)の全ての利用可能な内容物を吐出するために前記ピストンロッド(800)を駆動させるのに十分なエネルギーを含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の注射デバイス。
【請求項14】
前記保存エネルギー源が定荷重スプリング(560)を備える、請求項1から13のいずれか一項に記載の注射デバイス。
【請求項15】
前記定荷重スプリング(560)が前記第1軸と前記第2軸との間にS字型構成で配置される、請求項11に従属する場合の請求項14に記載の注射デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、医学療法の管理に適する医療用注射デバイスに関する。具体的には、本発明は、費用効果の高い方法で使い易さを提供するのに適する医療用注射デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の開示では、主にインシュリンの送達による糖尿病の処置を参照するが、これは本発明の例示的な使用に過ぎない。
【0003】
皮下注射を用いた液体薬剤送達のための従来の送達デバイスは、通常、円筒形フォームファクタを有するペン型デバイス等のデバイスとして提供されてきた。円筒形薬剤充填済みカートリッジの特定の使用のため、円筒形フォームファクタを用いるアプローチが主に選択されてきた。円筒形フォームファクタは、細いデバイスの設計を概して可能にする一方で、例えば、ディスプレイを用いてユーザへ情報提供するためのデバイスの長さ及び利用可能な表面領域に関して通常欠点を有する。
【0004】
これらの課題を克服するために、ペン型フォームファクタ以外のフォームファクタを有する送達デバイスが提案されてきた。特許文献WO98/10814では、円筒形フォームファクタ並びに非円筒形フォームファクタの両方を有する注射デバイスの実施例が開示されている。
【0005】
概して、ユーザの観点から、シャツのポケットなどで簡単に持ち運びできるコンパクトデバイスを提供するために、送達デバイスは可能な限り細くて短いのがよいという願いがある。同時に、最新の注射デバイスには、ますます多様な特徴が提供されてほしいという願いがある。このような特徴には、設定投与量の大きさ、1回の投与ごとに利用可能な最大投与量、設定投与量の自動吐出、デバイス内に残る薬剤量を越える投与量の設定の防止などを提示する大型ディスプレイが含まれうる。
【0006】
最近発行された特許文献WO2011/045611は、投与用量を選択する投与量設定構成を有するスプリング駆動注射デバイス、及びある形態では一連の投与を通してカートリッジの全ての利用可能な内容物を吐出するのに十分な保存エネルギーを有する予め荷重がかかったスプリングを含む駆動機構を開示する。特許文献WO2011/045611の教示によると、提案された注射デバイスは、構造的な長さに関する欠点を示す。加えて、提案された設定投与量を示すウィンドウ配置は、投与量がダイヤルされるにつれてハウジングに相対して回転するウィンドウを含むため、ユーザフレンドリーな設計からは程遠い。さらに、デバイスの内部に機械的欠陥が発生し、それによってカートリッジの全ての内容物が制御されていない状態で吐出された場合、潜在的に危険な状況が起こりうる。
【0007】
上述の説明に関連して、本発明の第1の目的は、先行技術のデバイスに比較してよりユーザフレンドリーな注射デバイスにある。
【0008】
本発明のさらなる目的は、先行技術のデバイスよりもコンパクトな注射デバイスを提供することである。
【0009】
本発明のさらに別の目的は、先行技術の注射デバイスに比較して、使用においてより安全な医療注射デバイスを提供することである。
【発明の概要】
【0010】
本発明の開示では、一又は複数の上記の目的に取組む実施形態及び態様、又は以下の開示から及び例示的実施形態の説明から明らかな目的に取り組む実施形態及び態様が説明される。
【0011】
したがって、本発明の第1の態様では、携帯型薬剤カートリッジから設定投与量を設定及び注射する医療用注射デバイスが提供され、該医療用注射デバイスは、
ハウジングと、
設定投与量の大きさに応じて、ハウジングに相対して固定配置されるように構成される所定のストップから離れて第1方向に動き、設定投与量の注射の間に所定のストップに逆戻りする投与量設定デバイスを含む、投与量設定構成と、
設定投与量を注射するために作動されるように適合される注射作動器と、
設定投与量を吐出するために、遠位方向に、ハウジングに相対して移動するように適合されるピストンロッドと、
ピストンロッドに連結され、注射作動器がハウジングに相対してピストンロッドを移動させるように作動されるときに、ドライバの回転を駆動するように構成される保存エネルギー源を含む、回転可能なドライバと
を備え、
投与量設定デバイスが、第1軸の周りを回転するように構成される投与量制御部材を画定し、
第1クラッチ構成が投与量制御部材とドライバとの間に配置され、投与量制御部材がドライバから独立して回転するように、投与量設定の間に第1クラッチ構成が係合解除され、投与量設定デバイスを所定のストップに向けて逆戻りさせながら、ドライバが投与量制御部材を回転させることを可能にするために、注射作動器が作動すると第1クラッチ構成が係合され、及び
第2クラッチ構成がドライバとハウジングとの間に配置され、投与量設定の間にドライバの回転が防止されるように、投与量設定の間に第2クラッチ構成が係合され、ドライバがハウジングに相対して回転することを可能にするために、注射作動器が作動すると第2クラッチ構成が係合解除される。
【0012】
これにより、第1及び第2のクラッチ構成の構成がデバイスの構造的設計の可撓性を増大し、最終的によりコンパクトなデバイスが提供されることが可能となるため、改善された注射デバイスが提供される。加えて、該設計により、投与量設定構成が、投与量設定の間並びに設定投与量の注射の間にデバイスのハウジングに相対して動く投与量設定デバイスを含むことが可能になる。これにより、投与量設定デバイスは、ハウジング内に形成されるウィンドウ又はさもなければハウジングに相対して回転可能に固定される位置においてハウジングと関連するウィンドウを通して見ることができる投与量表示装置を含むことができる。
【0013】
投与量設定デバイスは、通常、最小投与量設定及び最大投与量設定を画定するコンポーネントとして提供され、注射デバイスが投与量設定モードから投与量吐出モードにシフトするとき、投与量設定デバイスの最小投与量設定と最大投与量設定との間の現在位置が、設定投与量の吐出の間に吐出される分量を画定する。投与量設定構成は、投与量をダイヤルアップ及びダイヤルダウンすることができるように構成することができ、それにより、薬剤をデバイスから吐出させることなく最初に設定した投与量をダイヤルダウンすることができる。
【0014】
一部の実施形態において、投与量設定構成の投与量設定デバイスは、ハウジングに相対して回転するコンポーネントを備えるか、又はこのようなコンポーネントとして提供されてもよく、このようなコンポーネントは、円筒部材又は代替的にディスク状部材として形成される。ディスク上部材は、剛性部材又はさもなければフォイルで形成された部材などの可撓性部材として配置されうる。さらに別の実施形態において、投与量設定デバイスは、回転なく直線状に変位するコンポーネントである。一部の形態では、該コンポーネントは、コンポーネントの移動の長さに沿って形成される一連の投与量の目盛を有する機械式ダイヤルとして形成される。円筒部材に関しては、このような部材は、ハウジングに関係する又はハウジング内に形成されるスレッドと係合するスレッドを含むことができ、一連の投与量の目盛が、スレッドのリードに従って配置される螺旋経路に沿って形成される。投与量設定デバイスをダイヤルとして形成する代わりに、ダイヤルを投与量設定デバイスとは別のデバイスとして提供してもよい。
【0015】
特定の形態では、投与量設定デバイスは投与量制御部材の回転動作と連動して回転し、任意で、2つのコンポーネントの間の相対軸方向動作(すなわち、第1軸に平行する動作)を可能にする。別の実施形態では、投与量制御部材の回転動作と投与量設定デバイスの回転動作との間にギアが設けられる。さらに別の実施形態では、投与量設定デバイスは、投与量制御部材それ自体によって形成される。
【0016】
通常、注射デバイスと共に使用する薬剤カートリッジは、カートリッジの吐出端部に向かって遠位方向に移動可能なピストンを有する円筒形カートリッジの形態で提供されてもよく、カートリッジの吐出端部は、皮下注射針で貫通するように適合される貫通可能な隔膜によって封止される。
【0017】
注射デバイスの一部の実施形態では、ドライバは、投与量制御部材と同軸に回転するように配置される駆動部材を画定する。このような構成では、駆動部材にはその上に第1トラック設けられる一方で、投与量制御部材には第2トラックが設けられる。内容物トラックフォロワの端部は、駆動部材と投与量制御部材との間に配置され、第1トラック及び第2トラックの両方に係合し、各トラックを辿る。第1トラック及び第2トラックは、投与量制御部材が駆動部材に相対して回転するとき、内容物トラックフォロワの端部を第1軸に沿って動かすように構成される。内容物トラックフォロワの端部は、投与量設定デバイスがダイヤルアップされるにつれて内容物ストップの端部に向かって動き、内容物ストップの端部は、所定位置に配置されて、投与量設定デバイスが内容物ストップの端部に係合するトラックフォロワの端部に対応する投与量設定を越えて回転することを防止する。
【0018】
したがって、内容物機構の端部は、ユーザがカートリッジ内に残る薬剤の利用可能な内容物を越える分量の投与量をダイヤルアップすることを防止するために提供されうる。内容物ストップの端部は、例えばそれぞれのトラックの端部に、つまり、駆動部材又は投与量制御部材の上に、端部ストップを形成することによって、第1トラック又は第2トラックと関係付けることができる。第1トラック及び第2トラックの少なくとも1つがスレッドを形成し、内容物ストップの端部が少なくとも1つのスレッドに相対して固定配置される。内容物ストップの端部は、明確に画定されたストップ制限位置を確実なものとするために、回転ストップとして設けてもよい。
【0019】
第1クラッチ構成は、投与量の注射の間、駆動部材が投与量制御部材に相対して回転することを防止するように構成することができる。したがって、注射の間、トラックフォロワの端部は、係合するトラックに相対し、さらに内容物ストップの端部に相対する位置を維持する。
【0020】
一部の実施形態では、第1トラック及び第2トラックのうちの1つがスレッドを形成し、第1トラック及び第2トラックのうちの他の1つが軸方向トラックを形成する。別の実施形態では、第1トラック及び第2トラックの両方がスレッドを形成し、第1トラックのリードが第2トラックのリードと異なる。したがって、内容物トラックフォロワの端部は、投与量設定の間に投与量制御部材が駆動部材と相対して動くにつれて、軸方向に動かされる。
【0021】
投与量制御部材は、例えばデフォルト又は非作動近位位置と作動遠位位置との間で、ハウジングに相対して軸方向に前後に移動可能でありうる。投与量制御部材は、スプリング要素によって非作動位置に向けて付勢されうる。一部の実施形態では、投与量制御部材は、注射ボタンを形成することができる注射作動器を画定する。一部の実施形態では、投与量制御部材は、注射ボタンが設定投与量を注射するように操作されたことに応答して、非作動位置から作動位置へと動かされる。注射ボタンは、投与量制御部材に接続することができ、これらの2つのコンポーネントは軸方向動作に対して互いに対して固定される。注射ボタン及び投与量制御部材は、相対的回転動作を可能にするために配置されてもよい。
【0022】
特定の実施形態では、設定投与量の吐出は、注射ボタンにかかる指圧を解除することによって、いつでも中断させることができる。圧力が解除されたとき、投与量制御部材は、スプリング要素がもたらす付勢のため、自動的に近位位置に動かされる。したがって、このような状況では、第2クラッチ構成が再係合し、駆動部材の回転が防止される。しかしながら、設定投与量の残りの部分の吐出は、注射ボタンを再度押し下げることによって継続することができる。
【0023】
特定の実施形態では、投与量制御部材は、第1クラッチ構成及び第2クラッチ構成を操作する。投与量制御部材が非作動位置にあるとき、第1クラッチ構成が投与量制御部材とドライバとの間の連結を係合解除する一方で、第2クラッチ構成はハウジングに相対する回転動作に対してドライバをロックする。投与量制御部材が作動位置にあるとき、第1クラッチ構成が投与量制御部材とドライバとの間の回転動作を連結する一方で、第2クラッチ構成はハウジングに相対する回転動作に対してドライバをロック解除する。
【0024】
一部の形態では、注射デバイスは、投与量設定デバイスを操作するために投与量設定デバイスに連結される投与量設定部材を備え、例えば、投与量設定部材が回転するにつれて投与量設定デバイスが回転するようにする。投与量制御部材は、投与量設定部材と投与量設定デバイスを相互接続することができる。
【0025】
投与量設定部材は、注射される投与量をダイヤルアップ及びダイヤルダウンするためにユーザが手動でつかむように構成されうる。他の形態では、別の投与量選択器が投与量設定部材に連結され、ユーザが投与量選択器を手動で操作するときに投与量設定部材が回転する。このような形態では、投与量選択器は、可撓性バンドの動作が投与量設定部材の回転に変換されるように、投与量設定部材に連結されるエンドレスバンドとして提供されうる。
【0026】
第3クラッチ構成は、投与量制御部材と投与量設定部材の間に配置されてもよく、投与量制御部材が投与量設定部材と共に回転するように、投与量設定の間に第3クラッチ構成が係合され、投与量制御部材が投与量設定部材から独立して回転することを可能にするために、注射作動器が作動すると第3クラッチ構成が係合解除される。
【0027】
さらに、注射作動器が非作動位置にあるときは投与量設定部材の回転が可能となり、注射作動器が作動位置にあるときは投与量設定部材の回転が防止されるように、ハウジングに相対する投与量設定部材の回転を制御する第4クラッチ構成が提供されうる。
【0028】
一部の実施形態では、投与量設定部材は、第3クラッチ構成及び第4クラッチ構成のどちらか1つ或いはその両方を、すなわち投与量制御部材の軸方向位置に対応して、操作するように構成されうる。したがって、特定の実施形態では、投与量制御部材は、第1クラッチ構成、第2クラッチ構成、第3クラッチ構成、及び第4クラッチ構成を制御することができる。これにより、投与量設定モードの間と同様に投与量吐出モードの間に、デバイスのコンポーネントを大幅に制御することにより、デバイスの安全制御がもたらされる。
【0029】
上述したように、投与量制御部材は、第1軸の周りを回転するように構成される。一部の実施形態では、ピストンロッドが第1軸に沿って延在し、それにより、注射デバイスの一般的なフォームファクタが円筒形フォームファクタで形成されることが可能になる。他の実施形態では、少なくともピストンロッドの端部に係合するピストン及び円筒形カートリッジは、第1軸と異なる第2軸に沿って延在するように構成されうる。第2軸は第1軸と平行して配置されてもよいが、一定距離でオフセットされうる。このような状況でドライバは、第2軸の周りを回転し且つピストンと係合するドライバーナットを含むことができ、ドライバーナットが回転するにつれてピストンロッドが第2軸に沿って動かされる。
【0030】
ピストンロッドは、第2軸に沿って延在する第1端部を有し且つ携帯型カートリッジのピストンに係合するように適合される可撓性のピストンロッドとして形成されてもよく、ピストンロッドの第2端部は、第2軸から離れた方向に屈曲されるように適合される。可撓性のピストンロッドは、一連の相互接続されたリンク、又は代替的に非圧縮性の螺旋状スプリングとして提供されうる。さらに別の実施形態では、ピストンロッドは、剛性のロッド状部材によって形成される。
【0031】
注射デバイスにおいてよく知られているように、ピストンロッドは、一又は複数のスレッド、又は代替的に単一のスレッドと組み合わさった単一の軸方向に延在するトラックを含むことができ、各トラック又は各スレッドは、駆動ナットにおいてそれぞれ対応する形状及び薬剤カートリッジに相対して固定配置されるガイド部材に係合する。
【0032】
保存エネルギー源は、カートリッジ内に含有される薬剤の全ての利用可能な内容物を吐出するため、ピストンロッドを駆動させるのに十分なエネルギーを含むことができる。保存エネルギー源は、製造段階で既に張力がかけられうるスプリングデバイスとして提供されてもよく、したがって、ユーザは、設定投与量を吐出するために吐出作動器の作動の前にスプリングデバイスにエネルギーを供給する必要がない。スプリングデバイスは、例えば定荷重スプリングとして提供されうる。特定の実施形態では、スプリングデバイスは、軸a)に巻き付けられる第1端部を有し、且つ一定距離によって該軸a)に相対してオフセットされる別の軸b)に巻き付けられる第2端部を有する定荷重スプリングとして提供される。
【0033】
スプリングデバイスの実施例には、S字型定荷重スプリングが含まれる。このようなスプリングデバイスは、第1端部が投与量制御部材の軸に巻き付けられ、第2端部がカートリッジの軸に巻き付けられる、S字型構成で配置されうる。
【0034】
医療用デバイスのハウジングは、ユーザの手に収まり、ポケットで簡単に持ち運びできる大きさに成形することができる。
【0035】
したがって、本発明の第2の態様では、携帯型薬剤カートリッジから設定投与量を設定及び注射する注射デバイスが提供される。注射デバイスは、
近位端部及び遠位端部を画定するハウジングと、
設定投与量の大きさに応じて、ハウジングに相対して固定配置されるように構成される所定のストップから離れて第1方向に動き、設定投与量の注射の間に所定のストップに逆戻りする投与量設定デバイスを含む投与量設定構成と、
設定投与量を吐出するために、遠位方向に、ハウジングに相対して移動するように適合されるピストンロッドと、
ピストンロッドに連結され、ピストンロッドをハウジングに相対して移動させるために投与量注射の間に回転するように適合されるドライバと、
投与量設定デバイスの回転動作をドライバの回転動作に連結するように適合され、設定投与量の注射の間、投与量設定デバイスが所定のストップに向けて逆戻りするときにドライバが単独で回転する機構と、
を備え、注射デバイスはさらに、
注射の間にドライバが回転するにつれて第2軸の周りを回転するが、投与量を設定する間はハウジングに相対して回転可能に固定された状態が維持される第1コンポーネントであって、その上に配設される第1トラックを有する、第1コンポーネントと、
第2軸の周りを回転するために第1コンポーネントと同軸に配置され、投与量を設定する間に投与量設定デバイスが回転するにつれて回転し、投与量の注射の間にハウジングに相対して回転可能に固定される第2コンポーネントであって、その上に配設される第2トラックを有する、第2コンポーネントと、
第1コンポーネントと第2コンポーネントとの間に配置され、第1トラック及び第2トラックと係合される2次ストップトラックフォロワであって、第1トラック及び第2トラックが、第1コンポーネントと第2コンポーネントとが互いに相対して回転するときに、2次ストップトラックフォロワを第2軸に沿って動かすように構成され、及び所定のストップが注射の終了時にドライバを停止できなかった場合、ドライバがさらに回転することを防止するために安全ストップに向けて動く、2次ストップトラックフォロワと
を画定する。
【0036】
これにより、操作の安全性向上をもたらす、2次安全ストップを備える改善された注射デバイスが提供される。投与量設定デバイスに関係する一次制限機能が機能しない場合、又はデバイス内のクラッチ構成が機能しない場合、2次ストップ機能が注射デバイスの暴走を防止する。
【0037】
先行技術の注射デバイスに比較して、本発明は、投与量吐出動作の終了時の投与動作を制限することを意図する投与量設定デバイスに関係する所定ストップとの同期が向上する、より迅速に反応する安全システムを提供する。さらに、本発明は、2次安全ストップ機構を、他のコンポーネントが必要とするスペースをとらない位置に配置することができるため、安全システムを設計するための可撓性の増大がもたらされる。
【0038】
具体的には、2次安全ストップがピストンロッド以外のコンポーネントに連結される場合、すなわち、2次ストップトラックフォロワがピストンロッドに係合しない場合、2次安全ストップの一又は複数のスレッドのリードはピストンロッドのリードと異なる可能性があり、優れた操作性をもつように2次ストップ機能を設計する機会が増える。
【0039】
一部の実施形態では、第1トラック及び第2トラックのうちの1つがスレッドを形成するために成形され、第1トラック及び第2トラックのうちの他の1つが軸方向トラックを形成する。
【0040】
別の実施形態では、第1トラック及び第2トラックの両方がスレッドを形成し、第1トラックのリードが第2トラックのリードと異なる。
【0041】
第1トラック及び第2トラックの少なくとも1つがスレッドを形成し、安全ストップが少なくとも1つのスレッドに相対して固定配置される。
【0042】
第1の態様によると、第1コンポーネントは、ピストンロッドとは別のコンポーネントである。一部の実施形態では、ドライバは第1コンポーネントを画定する。
【0043】
安全ストップは、第1コンポーネントが安全ストップを越えてさらに回転することを防止するために、2次ストップトラックフォロワ上に設けられる回転ストップ表面に当接するように適合される回転ストップ表面として提供されうる。
【0044】
種々のさらなる実施形態では、第1の態様による様々な特徴は、第2の態様による一又は複数の特徴と組み合わされる。
【0045】
本明細書で使用する場合、「薬剤(drug)」という用語は、制御された方法で中空針などの送達手段を通過することができる任意の薬剤含有流動可能薬物、例えば、液体、溶液、ジェル又は微細懸濁液などを包含することを意味する。さらに、「薬剤(drug)」は、経鼻投与又は肺投与のための媒体を包含することを意味する。代表的な薬剤には、ペプチド、プロテイン、及びホルモン、生体由来薬剤又は活性薬剤、ホルモンベース薬剤又は遺伝子ベース薬剤、栄養製剤、並びに固体(調剤済)又は液体の形態の他の物質が含まれる。例示的な実施形態の説明において、インシュリンの使用を参照する。同様に、「皮下」及び「経皮」の注射又は注入とは、対象物に対する経皮投与の任意の方法を包含することを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
以下で図面を参照して本発明をさらに説明する。
【0047】
図1図1は、本発明による医療用注射デバイス1の実施形態の断面側面図を示す。
図2図2は、図1の注射デバイス1の主要コンポーネントの分解斜視図を示す。
図3図3は、図1の注射デバイス1の主要コンポーネントの分解断面図を示す。
図4a図4aは、投与量を設定する前の初期状態における図1のデバイスの断面側面図を示す。
図4b図4bは、投与量選択器200が投与量の特定の分量を設定するために操作される、図1のデバイスの断面側面図を示す。
図4c図4cは、注射ボタン300が押し下げられ、設定投与量の注射が完了した、図1のデバイスの断面側面図を示す。
図4d図4dは、設定投与量の注射が完了した後、注射ボタンが解除された、図1のデバイスの断面側面図を示す。
図5a図5aは、図1に示されるデバイスの駆動機構に関連するコンポーネントの断面側面図を示す。
図5b図5bは、図5aに示されるコンポーネントの近位斜視図を示す。
図6図6は、図1に示されるデバイスの投与量設定部材250の近位斜視図を示す。
図7a図7aは、2次ストップリミッターに関連するコンポーネント700の詳細斜視図を示す。
図7b図7bは、2次ストップリミッターに関連するコンポーネント950の詳細斜視図を示す。
図7c図7cは、2次ストップリミッターに関連するコンポーネント270の詳細斜視図を示す。
図8図8は、組み立てられた状態の図7a、図7b、及び図7cのコンポーネントの斜視断面図を示す。
図9図9は、図5bに示されるコンポーネントの斜視部分断面図を示す。
図10図10は、図5bの選択されたコンポーネントの遠位斜視図を示す。
図11図11は、図1の注射デバイス1の投与量設定及び駆動機構に関連する選択されたコンポーネントの近位斜視図を示す。
図12図12は、図1の注射デバイス1の駆動スプリングの概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0048】
図示の図面は概略的な表示であり、種々の構造の構成並びにそれらの相対的な寸法は、例示目的のみを意図している。
【0049】
以下の説明の文脈において、添付図面における「遠位端部」という用語は、注射針を通常担持する注射デバイスの端部を指すことを意味し、「近位端部」という用語は、注射針から離れるように向く反対側の端部、すなわち図1に示すように注射ボタンを担持する端部を指すように意味すると定義することが簡便であるかもしれない。「軸方向」という用語は、携帯型円筒形薬剤カートリッジの中心長手方向軸に平行する方向を指す。
【0050】
図1は、医学的自己治療のために患者によって使用される注射デバイス1の実施形態の断面側面図を示し、注射デバイス1は、薬剤の個別設定投与量を繰返し設定及び注射するように構成される。注射デバイス1は、主軸に沿って細長い構造を画定し、その長さの少なくとも一部において、主軸に対して横方向に、やや平坦な形状を示す非円筒形の断面で形成されるハウジング(110、120、130、140)を含み、このようなデバイスは、概して投与デバイス(doser device)と呼ばれる。
【0051】
注射デバイス1は、薬剤充填済みカートリッジ10がハウジング(110、120、130、140)内に収容されるカートリッジベースの注射デバイスとして示される。カートリッジ10は、細長い本体11及び交換可能な皮下注射針(図示せず)と協働する本体11の遠位出口端部を覆う貫通可能な隔膜12を有する。さらに、カートリッジ10は、カートリッジの吐出軸に沿った摺動動作のために本体11内に備え付けられたピストン13を含む。図1では、吐出軸は断面の平面に位置する。針アセンブリ(図示せず)がカートリッジ10に備え付けられるとき、ピストン13は、カートリッジ内に収容される薬剤の一部を吐出するために吐出軸に沿って遠位方向に押し出されることがある。カートリッジ10又はハウジング(110、120、130、140)のいずれかが、針組立体、例えば両端が尖った注射針を着脱可能に装着するように適合される針取付部を画定する。図1に示される注射デバイス1は、カートリッジ10の内容物を保護し及び任意でデバイスの遠位端部に装着されうる注射針を保護するために、ハウジング110の遠位端部に相対して着脱自在に装着されるキャップ(図示せず)をさらに含むことができる。
【0052】
図1を参照し、注射デバイス1の主要コンポーネントがこれより説明される。図1は、主要コンポーネントを参照するリファレンスのみを含む。さらに、注射デバイス1の主要コンポーネントの分解斜視図及び断面図が図2及び図3で示される。各コンポーネントのさらなる詳細に関しては、残りの図面、具体的には、図4a−4dを参照する。
【0053】
ハウジング(110、120、130、140)は、遠位ハウジング部分110、中間ハウジング部分120、近位ハウジング部分130、及びカートリッジハウジング部分140を備える。注射デバイス1は、注射ボタン300の形態の注射作動器によって操作可能な投与量注射機構及び投与量選択器200によって操作可能な投与量設定機構をさらに備える。
【0054】
投与量注射機構は、(ピストンワッシャーを用いて)ピストン13に係合するピストンロッド800を備える。ピストンロッド800は、ピストン13から離れて近位方向に向かって軸方向に延在する。示される実施形態では、ピストンロッド800は、ピストンに係合する端部及び自由端部を有する可撓性タイプであり、この可撓性は、ピストンロッドを一連の相互接続されたリンクとして形成することによってもたらされる。この可撓性により、ピストンロッドの自由端部が吐出軸から離れて屈折することが可能となる。図1及び図4a−4dのみがピストンロッド800の最遠位部分を示し、ピストンロッド800の残りの部分は、明瞭性のため、これらの図面から除外されていることに注意するべきである。しかしながら、ピストンロッド800の構造は、図2及び図3でより明確に示され、示されるピストンロッド800の操作状態においては、ピストンに係合するピストンロッド800の端部が直線部分を占め、自由端部が屈曲部分を占める。
【0055】
示される実施形態では、ピストンロッド800は、分割型ロッドであって、ピストンロッド800の自由端部が吐出軸から離れて屈曲することができるように少なくとも特定の回転方向において互いに対して相対的に旋回するように適合される相互接続される蝶番式ロッド要素(interconnected hinged rod elements)で構成される分割型ロッドである。ピストンロッド800の一部分が直線構成をとるとき、ロッド要素は、ピストンロッド800がプッシュロッドとして機能することができるように実質的に非圧縮性である。ピストンロッド800は、その長手方向の延在に沿って、ナット部材及び回転制御部材のそれぞれ1つと協働するようにそれぞれ適合される第1トラック及び第2トラックを画定し、ナット部材と回転制御部材との間の相対回転は、結果としてピストンロッド800の長手方向動作となる。代替的な実施形態では、ピストンロッドは、コイル状軸方向非圧縮性スプリングとして形成することができ、その長さに沿ってそのニュートラルな直線形状から離れるようにして曲がり、カートリッジのピストンに動力を伝達する役目を果たす。
【0056】
示される実施形態では、ピストンロッド800の第1トラックは、外部スレッド(図示せず)を画定し、第2トラック(図示せず)は、少なくともピストンロッド800の直線部分が実質的に回転不能に保持されることを確実にするために、遠位ハウジング部分110内に形成されるガイド部材112と協働する回転制御形状を画定する。ピストンロッド800の回転制御形状は、例えばガイド部材112の協働構造と結合するように適合される一又は複数の平面部を含み、それにより、ピストンロッド800と協働するガイド部材112との間の回転が防止される。
【0057】
図1に示されるように、注射デバイス1の投与量注射機構は、ピストンロッド800の外部スレッドと係合する内部スレッド709を有する駆動ナット700を備える。駆動ナット700は、回転自在に備え付けられるが、吐出軸の周りを回転することができるようにハウジングに相対して軸方向に固定され、それにより、駆動ナット700の回転量は、ピストンロッド800の端部に係合するピストンの直線部分の軸方向の遠位変位に対して決定的な影響をもつ。
【0058】
デバイス1の代替的構成では、駆動ナットは、ピストンロッドの軸方向に延在するトラックに係合する形状を備え、ガイド部材は、ピストンロッドのスレッドにスレッド係合される。さらに別の代替的構成は、異なるスレッドリードを有する2つの別々のスレッドを備えるピストンロッドを使用することであり、それぞれのスレッドがピストンナット及びガイド部材の対応するスレッドに係合する。本出願の文脈において、「駆動ナット」という用語は、駆動ナットの全てのこれらの変形例を対象とすることを意味することに注意するべきである。
【0059】
投与量注射機構は、回転可能に備え付けられるが、ハウジングに相対して軸方向に固定される駆動部材500をさらに含み、該駆動部材500は、駆動部材500が回転するにつれて駆動ナット700が回転するように、駆動ナット700と回転係合する。保存エネルギー源を供給する作動器は、ピストンロッド800を遠位方向に駆動することを可能にする特定の回転方向で、駆動部材500上に実質的に一定の駆動力を働かせる。示される実施形態では、保存エネルギー源は、最初に収納ドラム600上に収納されるゼンマイスプリングの形態をとり、且つピストンロッド800を遠位方向に駆動するために駆動スプリング560に蓄積されたエネルギーが解放されるときに駆動部材500に巻き付けられる、駆動スプリング560を備える。駆動機構のさらなる詳細に関しては、図10及び図11に関連する以下の説明を参照する。
【0060】
上述したように、注射デバイス1は投与量設定機構をさらに含み、ユーザが、投与量注射機構を用いることにより所望の投与量が注射されるように設定することが可能になる。
【0061】
投与量設定機構及び投与量注射機構には、クラッチ機構が連結され、該クラッチ機構は、投与量を設定する間、確実に駆動機構の動作が可能でないようにし、投与量注射の間、あらかじめ設定した投与量設定を変更するために投与量設定を確実に操作できないようにする。したがって、クラッチ機構は、注射デバイス1が投与量設定モード及び投与量吐出モードで操作されるように、注射デバイス1を画定する。示される実施形態では、クラッチ機構は、4つの別々のクラッチ構成機構を含む。図4a−4d及び以下の説明では、これらの4つのクラッチ構成機構には、それぞれ第1クラッチ構成、第2クラッチ構成、第3クラッチ構成、及び第4クラッチ構成(C1、C2、C3、C4)が指定される。
【0062】
注射ボタン300は、近位ハウジング部分130から近位方向に突出するように配置され、且つデフォルトの近位位置と遠位の押下位置との間で軸方向動作が制限されるよう配置される。クラッチ機構のモードは、注射ボタン300によって制御される。注射ボタン300が遠位位置に押し下げられたとき、注射デバイス1は投与量吐出モードにあり、注射ボタン300がデフォルトの近位位置にあるとき、注射デバイス1は投与量設定モードにある。注射ボタン300は、回転できないようにデバイス1のハウジングに相対して配置される。
【0063】
クラッチ機構は、駆動部材500とハウジング部分120との間に備え付けられ、駆動部材500がハウジングに相対して回転することを許容されているかどうかを制御する駆動クラッチ370を含む。クラッチ機構は、以下でさらに詳しく説明される。
【0064】
投与量設定機構は、投与量選択器200を回すことによって手動で操作可能な投与量設定部材250を備える。投与量設定部材250は、ハウジングに相対して軸方向に固定されるが、吐出軸と平行に延在する投与量設定軸を画定する軸の周りを回転し、該軸は、一定距離によって吐出軸から分離される。投与量選択器コネクター230は、投与量選択器200の動作を投与量設定部材250の回転と連結し、それにより、投与量設定部材250を投与量選択器200の動作によって制御されるいずれの方向にでも回転させることができる。投与量選択器コネクター230と投与量設定部材250との間には、スリップカップリングを配置することができ、それにより、投与量選択器200に過剰な動力が適用される場合に機構の破壊を防止する。実施形態で示され、図2でより明確に示されるように、投与量選択器200は、ハウジングを通じて延在する吐出軸、すなわち、中間ハウジング部分120と近位ハウジング部分130との間の部分に対して横方向の断面に沿って配置される。投与量選択器は、ハウジング部分120及び130内で形成されるガイド構造(guiding structure)との係合のため、ハウジング部分120及び130の外部表面の形状に概して適合するエンドレス可撓性バンド200として形成される。したがって、可撓性バンド200は、投与量の設定を増大させるために第1方向に、及び既に設定した投与量を減らすためにその反対方向に、可撓性バンドの周方向に沿って動かすことができる。可撓性バンド200の内部表面には投与量選択器コネクター230と協働する一連の歯が形成されており、それにより、可撓性バンド200の動作が投与量設定部材250の回転に変換される。他の実施形態では、投与量設定機構を操作するために手動で回すことができるホイール又はノブとして、可撓性バンド200の代わりに投与量選択器が設けられうる。投与量選択器は、例えば、投与量設定部材250の手動操作を可能にするために形成される適切なデバイスのハウジングに開口部を配置することによって、投与量設定部材250によって形成することができる。
【0065】
さらに、投与量制御部材350が、投与量設定軸に沿って長手方向に延在する。投与量制御部材350は、近位位置と遠位位置との間の制限された軸方向動作のためにハウジング内に配置される。注射ボタン300のピン310は、注射ボタン300から、投与量設定軸に沿って、投与量制御部材350の開口部へと遠位に延在する。ピン310は、注射ボタン300の軸方向動作を投与量制御部材350の軸方向動作と連結する役割を果たすが、投与量制御部材350が投与量制御軸の周りを回転することを可能にする。
【0066】
圧縮スプリング360は、投与量制御部材350に近位に向かう動力を加えるためにハウジング内に配置され、投与量制御部材350、或いは注射ボタン300を近位(デフォルト)位置に付勢する。
【0067】
投与量ダイヤルスケール400は、遠位ハウジング部分110内に配置され、投与量制御部材350と同軸に位置付けられる。示される実施形態では、投与量ダイヤルスケール400は、遠位ハウジング部分110(図4aを参照)内で形成される内部スレッド117に係合する外部スレッド407を画定する筒状スリーブとして設けられる。外部の螺旋経路に沿って投与量ダイヤルスケール400に一連の数値が設けられ、各々の数値は、注射デバイス1が設定及び吐出するように設計される個別に選択可能な薬剤投与量を指す。ハウジング部分110には開口部又はウィンドウ(図示せず)が設けられ、そこを通して現在の投与量設定を見ることができる。
【0068】
投与量ダイヤルスケール400は、投与量制御部材350と共に回転するように適合されるが、投与量制御部材350に相対して軸方向に動かすことができる。示される実施形態では、この機能は、投与量制御部材350の外部表面上で形成される一又は複数の軸方向に延在する対応するトラック351と協働する一又は複数の軸方向に延在するトラック401を画定する投与量ダイヤルスケール400の内部表面によって促進される(図4a及び図11を参照)。
【0069】
投与量ダイヤルスケール400は、注射デバイス1の動作の間に投与量ダイヤルスケールがとりうる2つの最端部位置を画定する最小制限ストップ表面及び最大制限ストップ表面を含み、これにより、2つの最端部位置を外れた動作を防ぐ。図3で最もよく図解されているように、投与量ダイヤルスケール400は、遠位ハウジング部分110及び中間ハウジング部分120によって画定されるそれぞれの投与量ストップ表面と協働するように適合される各々の軸方向に延在するレッジ(図示せず)として2つのストップ表面を含む。示される実施形態では、投与量ダイヤルスケール400は、ゼロ投与量位置と最大投与量位置との間のハウジングに相対して、合計で3.5回転を経るように適合される。示される実施形態では、投与量ダイヤルスケール400は、螺旋経路に沿って100の別々の投与量マーキングが設けられる。
【0070】
投与量制御部材350は、注射デバイス1の投与量設定機構と投与量注射機構の両方に関連する幾つかの機能を担う。
【0071】
注射デバイス1が投与量設定モードにあるとき、すなわち、注射ボタン300がデフォルトの近位位置にあるとき、投与量制御部材350は、投与量設定部材250の回転を投与量ダイヤルスケール400の回転と連結する。
【0072】
注射デバイス1が投与量吐出モードにあるとき、すなわち、注射ボタン300が押し下げられた位置にあるとき、投与量制御部材350は、駆動部材500の回転を投与量ダイヤルスケール400の回転と連結する。
【0073】
投与量制御部材350は、遠位ハウジング部分110内に形成される一連の軸方向のスプライン119と係合するように適合される弾性歯359(図4aを参照)をさらに含む。弾性歯359及びスプラインは、例えば投与量ダイヤルスケール400上に設けられる数値の数に応じて、投与量設定が別々のステップで行なわれるようにするクリック機構として機能する。投与量設定の間、注射デバイス1は、これにより、投与量選択器200が操作されるにつれて一連のカチッという音(クリック)を発する。加えて、薬剤の投与量が吐出されるとき、クリック機構は、例えば投与量の各単位が吐出されるにつれて1クリックなど、投与量制御部材350が回転するにつれて一連のクリック音を発する。軸方向のスプライン119により、投与量制御部材350は、クリック機構の動作に影響を与えずに軸方向に動くことが可能である。
【0074】
上述の機能の以外に、駆動クラッチ370の機能も投与量制御部材350の動作と連結される。加えて、エンドオブコンテンツ(EOC)トラックフォロワ900を含むエンドオブコンテンツ(EOC)機構が投与量制御部材350の動作に連結される。当業者であれば理解するように、エンドオブコンテンツ機構は、薬剤カートリッジに残る利用可能な投与用量、すなわち、所要の正確さで吐出することができるカートリッジ内に残る分量を越える投与用量の設定を防止する機構である。
【0075】
駆動クラッチ370の機能は、駆動部材500と中間ハウジング部分120との間の第2クラッチ構成C2(122、372)によってもたらされる。駆動部材500及び駆動クラッチ370は、共に回転することができるように互いに対して回転可能にロックされるが、駆動クラッチ370は、駆動部材500に相対して軸方向に僅かに動かされることがある。駆動クラッチ370と投与量制御部材350との間の連結により、駆動クラッチ370の軸方向動作が投与量制御部材350の軸方向動作に続くことが確実となるが、これらの2つのコンポーネントの間の相対的回転動作が可能である。駆動クラッチ370は、中間ハウジング部分120内に形成される、対応する歯122と係合するように適合される一連の歯372を含む(図4a、図4c、及び図11を参照)。したがって、注射ボタンが近位位置にあるとき、駆動部材500はハウジングに相対してロックされ、駆動部材500の回転が防止される。注射ボタン300が押し下げられると、駆動部材500がハウジングに相対する回転ロックから解除され、駆動部材500の回転が可能となる。したがって、注射ボタンが押し下げられたときのみ、駆動部材500の回転が可能となり、この方法で吐出操作が促進されうる。
【0076】
第1クラッチ構成C1(502、352)が駆動部材500と投与量制御部材350との間に設けられる。駆動部材500は、一連の歯502の配置に沿って、遠位円形開口部を画定する(図4a及び図10を参照)。投与量制御部材350は、一連の対応する歯352を含む。投与量制御部材350が遠位位置にあるとき(図4a及び図10を参照)、投与量制御部材350の歯352は、駆動部材500の歯502と係合し、相対的回転に対して2つのコンポーネントを効果的にロックする。したがって、投与量注射の間に注射ボタン300が押し下げられるとき、駆動部材500の回転が投与量制御部材350の回転に連結される。投与量制御部材350が近位位置に動かされるとき、歯352が駆動部材500の歯502との係合から外される。したがって、注射ボタン300が解除されるとき、駆動部材500に相対する投与量制御部材350の回転が可能になる。
【0077】
第3クラッチ構成C3(253、353)が、投与量設定部材250と投与量制御部材350との間に設けられる。投与量制御部材350の近位部分は、投与量設定部材250(図4a、図5a及び図6を参照)内に形成される対応する歯253に係合するように適合される一連の歯353(図4a及び図11を参照)を含む。投与量制御部材350が近位位置にあるとき、歯353が投与量設定部材250の歯253との係合状態に摺動するように適合される。したがって、注射ボタン300が解除位置にあるとき、投与量設定の間の投与量設定部材250の回転が投与量制御部材350の回転に連結される。投与量制御部材350が遠位位置にあるとき、歯352が駆動部材500の歯502との係合から外される。したがって、注射ボタン300が押し下げられるとき、投与量設定部材250に相対する投与量制御部材350の回転が可能になる。
【0078】
第4クラッチ構成C4(254、314)が、投与量設定部材250と注射ボタン300との間に設けられる。投与量設定部材250は、一連の歯254の配置に沿って、近位円形開口部を画定する(図4a、図5a及び図6を参照)。注射ボタン300の遠位延在ピン310は、一連の対応する歯314を含む(図4a及び図3を参照)。投与量制御部材350が遠位位置にあるとき(図4cに示す)、注射ボタン300の歯314は、投与量設定部材250の歯254と係合し、それにより、投与量制御部材350と注射ボタン300との間の相対回転が防止される。したがって、投与量注射の間に注射ボタン300が押し下げられるとき、ハウジングに相対する投与量設定部材250の回転が防止される。開示される実施形態では、投与量選択器200は、投与量注射の間に操作することができない。投与量制御部材350が近位位置(図4a、図4b、及び図4dに示される)に動かされるとき、歯314が投与量設定部材250の歯254との係合状態から外される。したがって、注射ボタン300が解除されるとき、ハウジングに相対する投与量設定部材250の回転が可能になり、投与量選択器200の操作による投与量の設定が可能となる。
【0079】
図4a、図5b、及び図5bに示されるように、駆動部材500は、歯車505を形成する円筒形部を含む。さらに、駆動ナット700は、歯車505に係合する歯車705を形成する円筒形部を含む。したがって、投与量注射の間、特定方向における駆動部材500の回転は、駆動ナット700の反対側方向の回転に伝達される。
【0080】
図10及び図11は、注射デバイス1に含まれる駆動機構の選択されたコンポーネントの斜視的な表示を示す。
【0081】
駆動部材500は、デバイスのハウジング内で収納ドラム600と同一の軸方向位置内に、収納ドラム600に隣在するように配置される、追加的な円筒形スプリング受入部550を含む。駆動ナット700は、収納ドラムが駆動ナット700に相対して単独で回転できるように、収納ドラム600を受け入れるように適合されるベアリング面を提供する。この実施形態では、駆動スプリング560は、収納ドラム600と駆動部材500の円筒形スプリング受入部550との間に配置される定荷重スプリングとして設けられる。スプリング560は、図12に概略的に示されるように、S字型のカーブを構成するように配置されうる。駆動スプリング560は、収納ドラム600上に自然に置かれる傾向を有するように適合されうる。しかしながら、注射デバイス1の生産の間、駆動スプリング560は、円筒形スプリング受入部550に弾性付勢され、それにより、駆動スプリング560内でエネルギーを蓄積する。解除されると、駆動スプリング560の蓄積されたエネルギーは、駆動スプリング560が収納ドラム600に徐々にワインドアップする間、駆動部材500に回転を促す。円筒形スプリング受入部550は、駆動スプリング560と駆動部材500との間に滑りが生じないように、駆動スプリング560の端部を結合する手段(図示せず)を含む。
【0082】
他の実施形態では、エネルギーが放出される間、すなわち、投与量の吐出の間に、駆動スプリング560が駆動部材500に向かって徐々に動くことができるように、動作の方向を逆転させることができる。さらに、示されたS字型スプリング以外の駆動スプリングの構成が使用されうる。
【0083】
示される実施形態では、駆動スプリング560は、注射デバイス1の組み立ての間に完全に装填される。ユーザによって購入されるときには、駆動スプリングは、カートリッジ10内に含有される薬剤の利用可能な分量全てを送達するのに十分なエネルギーを含む。
【0084】
投与量の設定の間、投与量制御部材350は、投与量選択器200を用いて調整される設定投与量に従って回転する。これにより、投与量ダイヤルスケール400がそのゼロ投与量位置から離れて回転する結果となる。したがって、投与量ダイヤルスケール400の回転量は、選択された投与量の大きさに正確に対応する。この動作の間、第1クラッチ構成C1は、駆動部材500が操作されないように、解除状態にある。投与量設定の間、第2クラッチ構成C2が係合され、これは、駆動部材500の回転が防止されることを意味することに留意すべきである。
【0085】
投与量の設定は、ハウジングの投与量ウィンドウに所望の投与量が表示されるまで投与量選択器200をダイヤルアップ又はダイヤルダウンすることによって実行されうる。所望の投与量がダイヤルされた後、及び薬剤カートリッジ10に相対して注射針が備え付けられた後、所望の投与量の注射の準備が整う。
【0086】
注射ボタン300を遠位位置に押し下げる(図4cを参照)ために注射ボタンに適切な動力を適用した後、第1クラッチ構成C1は係合状態になり、第2クラッチ構成C2は解除状態になる。したがって、駆動部材500は、ハウジングと相対する回転のために解除され、駆動スプリング560によって回転を促進され、その結果、投与量制御部材350を運ぶ。注射ボタン300が押し下げられた位置で維持されている限り、駆動部材500、投与量制御部材350、及び投与量ダイヤルスケール400は、ゼロ投与量位置に向かって共に回転する。この間ずっと、駆動ナット700は回転してピストンロッド800を前方に駆動させ、その結果、取り付けられた針を通して薬剤が吐出される。投与量ダイヤルスケール400の最小制限ストップ表面が遠位ハウジング部分110内に形成される対応する投与量ストップ表面と係合するとき、動作が停止する。これは、駆動部材500の回転を同時に停止し、ピストンロッド800はさらに動くことはない。
【0087】
投与量の注射手順の間、注射ボタン300にかかる指圧を解除することによって、いつでも吐出を中断させうることに注意するべきである。圧力が解除されるとき、投与量制御部材350は、圧縮スプリング360がもたらす付勢のため、自動的に近位位置に動かされる。したがって、クラッチ構成C2は再係合し、それにより、駆動部材500の回転が防止される。しかしながら、設定投与量の残りの部分の吐出は、注射ボタン300を再度押し下げることによって継続することができる。
【0088】
したがって、投与量ダイヤルスケール400は、投与量設定の間は調整デバイスとして機能し、注射の間に投与量ダイヤルスケール400が戻る動作が吐出される分量を決定する。このようにして、投与量ダイヤルスケールは、1次ストップリミッターを提供する。
【0089】
注射デバイス1は、投与量設定機構のどこかで、又は投与量注射機構のどこかで機械的誤差が生じた場合、安全バックアップ機能として機能する2次ストップリミッターをさらに含む。示される実施形態では、駆動ナット700は、このような2次ストップリミッターと関係する。図1、具体的には図5a−5b、図7a−7c、図8、及び図9において明らかなように、2次ストップリミッターは、前記駆動ナット700、駆動ナット700と同軸に配置される2次ストップリング270、及び駆動ナット700と2次ストップリング270との間に配置される2次ストップトラックフォロワ950を含む。
【0090】
図7aに示されるように、駆動ナット700は、その近位円筒形部分上に設けられる外部スレッド707を含む。駆動ナット700は、スレッド707に相対して特定の位置に置かれるストップ表面708を画定する。
【0091】
図7bを参照すると、この実施形態では2次ストップトラックフォロワ950は、駆動ナット700のスレッド707と係合するように適合される内部スレッド957を画定する円筒形ナットの形態をとる。2次トラックフォロワ950は、2次ストップトラックフォロワ950と駆動ナット700との間の特定の相対的な回転位置及び軸方向位置に対して、駆動ナット700に設けられるストップ表面708と係合するように適合されるストップ表面958を画定する。2次ストップトラックフォロワ950は、2次ストップトラックフォロワ950の外部円筒形表面から外側に放射状に延在する一又は複数のトラック要素953をさらに備える。
【0092】
図7cに示されるように、2次ストップリング270は、ハウジングの固定位置においてハウジング内に回転自在に支持されるように適合される円筒形ベアリング面(図示せず)を含む、概して円筒形のスリーブである。ストップリング270の内部表面は、一又は複数の軸方向に延在するトラック273を含み、各トラック273は、2次ストップトラックフォロワ950のトラック要素953のそれぞれのトラック要素と協働するように適合される。このようにして、2次ストップトラックフォロワ950は2次ストップリング270と共に回転するように構成されるが、2次ストップリング270に相対して2次ストップトラックフォロワ950の相対的な軸方向の変位が可能になる。2次ストップリング270の円筒形部は、投与量設定部材250の歯車255部に係合するように適合される歯車275を形成する。
【0093】
組み立てられた状態において、駆動ナット700、2次ストップリング270、及び2次ストップトラックフォロワ950は、図5a、図8、及び図9でより簡単に視認できる組立体を形成する。
【0094】
2次ストップトラックフォロワ950と駆動ナット700との間のスレッド係合のために、2次ストップトラックフォロワ950は、2次ストップトラックフォロワ950と駆動ナット700が互いに相対して回転するにつれて、軸方向に前後に動かされる。
【0095】
投与量を設定する前に、投与量ダイヤルスケール400がハウジング内のウィンドウを通してゼロ投与量設定を示すとき、2次ストップトラックフォロワ950は、駆動ナット700に相対して初期位置をとる。この状態では、2次トラックフォロワ950のストップ表面958は、駆動ナット700上に設けられるストップ表面708に近接して位置する。投与量選択器200を操作することによって投与量がダイヤルアップされるにつれて、投与量設定部材250は回転し、歯車255と歯車275とが係合するため、2次ストップリング270と2次トラックフォロワ950も同様に回転する。投与量を設定する間、駆動ナット700は回転不能に維持され、スレッド707及び957の接合のため、2次トラックフォロワ950は近位方向に動かされ、2次トラックフォロワ950のストップ表面958が駆動ナット700上に設けられるストップ表面708からさらに離れるように動かされる。
【0096】
投与量を注射する間、注射ボタン300が押し下げられるとき、投与量設定部材250は回転が妨げられ、したがって、2次ストップリング270及び2次トラックフォロワ950も同様に回転が妨げられる。しかしながら、駆動ナット700が注射の間に回転するにつれて、スレッド707及び957の接合のため、2次トラックフォロワ950が遠位方向に動かされる。
【0097】
正確に作動する注射デバイス1では、投与量ダイヤルスケール400の最小制限表面が(ゼロ投与量位置に対応する)遠位ハウジング部分110によって画定される対応する投与量ストップ表面に係合するように投与量ダイヤルスケール400が位置付けされ、投与量が途切れる状態に達すると、2次トラックフォロワ950は、上述の初期位置をとるように動かされる。この配置において、2次トラックフォロワ950のストップ表面958は、駆動ナット700上に設けられるストップ表面708に対して再度近接して位置する。
【0098】
1次ストップリミッターの故障、第1クラッチ構成C1の故障、又は第2クラッチ構成C2の故障など、注射デバイスで機械的故障が生じた場合、駆動スプリング560によって駆動部材500上にかかる付勢力によって駆動部材が自在に動作するようになり、それにより、駆動ナット700が回転させられ、ピストンロッド800が無制御状態で遠位方向に動かされることがある。このような状況が生じたら、駆動ナット700はわずかに回転するかもしれないが、2次トラックフォロワ950のストップ表面958が駆動ナット700上に設けられるストップ表面708と当接するようになるため、2次ストップリミッターが駆動ナット700のさらなる回転をすぐに防止する。
【0099】
示される実施形態では、駆動ナット700はスレッド707を画定し、ストップリング270は一又は複数の軸方向に延在するトラック273を画定し、スレッド707及びトラック273は2次トラックフォロワ950上の対応する構造と係合する。スレッドがストップリング270上に置かれ、軸方向に延在するトラックが駆動ナット700上に置かれるように再配置し、それに従って2次トラックフォロワ950上の構造を再配置することによって、類似の機能を得ることができる。さらに別の実施形態では、2次トラックフォロワ950は、2つのスレッド部を画定し、各スレッド部は、駆動ナット700及びストップリング270のそれぞれの上に形成される対応するスレッドと連動する。このような実施形態では、2つのスレッド係合に異なるリードのスレッドが設けられ、それにより、駆動ナット700とストップリング270が互いに相対して回転するにつれて、2次トラックフォロワ950が軸方向に動かされる。
【0100】
示される実施形態では、2次トラックフォロワ950は、円筒形ナットとして形成される。代替的な実施形態では、2次トラックフォロワ950は、代替的に、ハーフナットとして提供されるか、又は駆動ナット700及びストップリング270の内に形成され、異なるリードを有するトラックの間に固定されるボールなどの別の構造として形成されうる。
【0101】
上述のエンドオブコンテンツ(EOC)機構は、概して図4aを参照してこれよりさらに詳しく説明される。示される実施形態では、投与量制御部材350は、その外部円筒形表面に沿って設けられる一又は複数の長手方向に延在するリブ354を含む。駆動部材500は、内部スレッド507を画定する内部円筒形表面を含む。エンドオブコンテンツ(EOC)トラックフォロワ900は、円筒形ナットとして形成され、駆動部材500と投与量制御部材350との間に位置するように駆動部材500及び投与量制御部材350と同軸に配置される。EOCトラックフォロワ900は、駆動部材500の内部スレッド507と協働する外部スレッド907を画定する。EOCトラックフォロワ900は、一又は複数の内部軸方向凹部をさらに画定し、各凹部は、投与量制御部材350の一又は複数の長手方向に延在するリブ354と協働するように適合される。
【0102】
図示されていないEOC制限ストップは、駆動部材500のスレッド507の近位部分と関係する。既知の方法で、このようなストップは、EOCトラックフォロワ900と駆動部材500との間の特定の相対的な軸方向位置及び回転位置に対して、EOCトラックフォロワ900の回転ストップ表面(図示せず)に係合するように適合される回転ストップ表面を画定することができる。前記EOC制限ストップは、投与量の設定可能な分量が、カートリッジ10内に残る投与量に対応する投与量の大きさに制限されるように、EOCトラックフォロワ900の動作を近位方向に制限する。このようにして、投与量選択器200は、カートリッジ内に収容されて残っている利用可能な投与量よりも多い投与量をダイヤルアップすることができない。
【0103】
カートリッジ10がフル充填され、ピストンロッド800が図4aに示される位置に配置される、注射デバイスの使用前の状態では、EOCトラックフォロワ900は、ハウジングに相対する初期軸方向位置に位置付けされる(図4aを参照)。投与量をダイヤルアップする間、投与量制御部材350が駆動部材500に相対して回転するにつれて、EOCトラックフォロワ900が回転する。スレッド係合507、907のため、EOCトラックフォロワは、投与量がダイヤルアップされるにつれて、近位方向に動かされる(図4bを参照)。前に設定した投与量にダイヤルダウンするために投与量選択器200を動かす場合、EOCトラックフォロワ900は、投与量の分量の減少に従って、遠位方向に動く。
【0104】
注射が開始されたら、投与量制御部材350は、その遠位位置に動く。これは、EOCトラックフォロワ900の軸方向位置に対して何の影響ももたない。第1クラッチ構成C1が係合状態にある注射の間、投与量制御部材350は駆動部材500と共に回転する。したがって、この手順の間、EOCトラックフォロワ900は、駆動部材500によって画定されるスレッド507に相対するその位置を保つ(図4cを参照)。
【0105】
最後に、投与量の注射が完了した後、注射ボタン300が解除され、第1クラッチ構成C1が係合解除され、第2クラッチ構成C2が係合される。この場合も、これは、EOCトラックフォロワ900の軸方向位置に対して何の影響ももたない(図4dを参照)。
【0106】
さらに続く投与量設定及び投与量注射の手順の後、EOCトラックフォロワは、各々実行された投与の間に蓄積されたダイヤルアップの手順に応じて、徐々に近位方向に動く。上述したように、所定のポイントにおいて、ECOトラックフォロワは、さらなるダイヤルアップを防止するEOC制限ストップに当接する。これによって、ユーザは、一定の制限を越えるとカートリッジには十分な投与量が含まれないことが知らされる。
【0107】
上述のように、図4aは、投与量を設定する前の初期状態におけるデバイスを示し、図4bは、投与量選択器200が投与量の特定の分量を設定するために操作された状態のデバイスを示し、図4cは、注射ボタン300が押し下げられ、設定投与量の注射が完了した状態のデバイスを示し、そして最後に、図4dは、設定投与量の注射が完了した後、注射ボタン300が解除された状態のデバイスを示す。
【0108】
図4a、図4b、図4c、及び図4dに示される状態を比較することによって、クラッチ構成C1、C2、C3、及びC4の各々の動作が明らかになる。さらに、上記の説明に従って、EOC機構及び安全機構を提供する2次ストップリミッターの特定の動作が明らかになる。
【0109】
図面で示される実施形態では、注射デバイスは、薬剤充填済みカートリッジがデバイスの内部で固定配置される、あらかじめ充填された注射デバイスを画定する。カートリッジの利用可能な内容物をすべて吐出した後、あらかじめ充填された注射デバイスは、廃棄すること、及び任意で新しい使い捨てデバイスと交換することが意図されている。しかしながら、わずかに修正される他の実施形態では、注射デバイスは、最初のカートリッジが空になったとき、最初のカートリッジが新しいカートリッジと交換される、長持ちする種類のデバイスとして使用されるように適合されうる。
【0110】
上記で説明される発明に則して、本発明は、ユーザに有益な薬剤を送達するための投与経路の種類に関わらず、医療用送達デバイスに概して適用可能である。さらに、本発明は、送達プロセスの間にユーザが直接必要な機械的エネルギーを印加する手動式インジェクタ、並びに送達プロセスの間に事前に応力を印加されたスプリング又はユーザが引っ張ったスプリングによって必要な機械的エネルギーの一部又は全てが印加されるスプリング補助インジェクタとの両方において実装することができる。さらに本発明は、空気圧ストレージを有する空気圧式アクチュエータ、電気化学セルストレージ(electrochemical cell storage)を有する原動アクチュエータ(prime mover actuator)、又は電気アキュムレータストレージ(electrical accumulator storage)を有する電気アクチュエータなどの、スプリングアクチュエータ以外のエネルギー源を有するアクチュエータが使用される、他の医療用注射デバイスと関連して使用することができる。
【0111】
上述の例示的な実施形態の説明では、種々の構成要素の間の所望の関係を提供する種々の構造、並びに種々の構成要素に対して説明される機能を提供する手段が、当業者にとって本発明の概念が明確になる程度に説明された。詳細な構成及び種々の構造に対する明細は、本明細書に提示する概略に沿って当業者によって実施される通常の設計手順の目的として考察される。
図1
図2
図3
図4a
図4b
図4c
図4d
図5a
図5b
図6
図7a
図7b
図7c
図8
図9
図10
図11
図12
【国際調査報告】