特表2015-514530(P2015-514530A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アビオメド オイローパ ゲーエムベーハーの特許一覧

<>
  • 特表2015514530-脈動血液ポンプ 図000003
  • 特表2015514530-脈動血液ポンプ 図000004
  • 特表2015514530-脈動血液ポンプ 図000005
  • 特表2015514530-脈動血液ポンプ 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-514530(P2015-514530A)
(43)【公表日】2015年5月21日
(54)【発明の名称】脈動血液ポンプ
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/12 20060101AFI20150424BHJP
【FI】
   A61M1/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-507539(P2015-507539)
(86)(22)【出願日】2013年4月25日
(85)【翻訳文提出日】2014年12月17日
(86)【国際出願番号】EP2013058648
(87)【国際公開番号】WO2013160411
(87)【国際公開日】20131031
(31)【優先権主張番号】102012207042.7
(32)【優先日】2012年4月27日
(33)【優先権主張国】DE
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC
(71)【出願人】
【識別番号】507116684
【氏名又は名称】アビオメド オイローパ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スパニアー ゲルト
【テーマコード(参考)】
4C077
【Fターム(参考)】
4C077AA04
4C077DD03
4C077DD26
4C077EE01
4C077FF04
4C077JJ08
4C077JJ16
4C077JJ19
4C077JJ24
4C077KK07
4C077KK23
4C077KK25
(57)【要約】
血管外脈動血液ポンプが、第1の導管L1経由で左心室LVに、かつ第2の導管L2経由で大動脈AOに、接続されているポンプPを有する双方向に作動するポンピングシステムP、Mを有する。制御手段Stにより、ポンプPは、所定の心調律に従って、一方の方向に、また他方の方向に交互に動作し、その結果、一方では血液が第1の導管L1を通って吸引されかつ同時に血液が第2の導管L2を通って同程度まで駆出され、他方では血液が第2の導管L2を通って吸引されかつ同時に血液が第1の導管L1を通って駆出される。当該脈動血液ポンプは、血管外コパルセイションポンプの機能および利点を血管外カウンターパルセイション血液ポンプの機能および利点と組み合わせている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管外脈動血液ポンプであって、
前記脈動血液ポンプを心腔(LV;RV)に接続する第1の導管(L1)と、
前記脈動血液ポンプを血管(AO;PA)に接続する第2の導管(L2)と、
ある動作では前記第1の導管(L1)を通して血液を吸引しかつ同時に前記第2の導管(L2)を通して血液を駆出し、他の動作では前記第2の導管(L2)を通して血液を吸引しかつ同時に前記第1の導管(L1)を通して血液を駆出し、ある動作と他の動作を交互に行うようにされている双方向ポンピングシステム(P;P、M)と、
所定の心調律に従って、一方の方向と他方の方向(R)に、交互に前記ポンピングシステム(P;P、M)を動作させるために設けられている制御手段(St)と、
を含むことを特徴とする血管外脈動血液ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の脈動血液ポンプであって、心調律データを取得し、それを前記制御手段(St)に送信するために前記制御手段(St)と連結されているセンサ手段(S)を含むことを特徴とする脈動血液ポンプ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の脈動血液ポンプであって、前記ポンピングシステム(P;P、M)は、前記第1の導管(L1)に取り付けられている、可変容積(V1)を有する第1のポンピング室(1)と、前記第2の導管(L2)に取り付けられている、可変容積(V2)を有する第2のポンピング室(2)とを有し、前記第1のポンピング室(1)と前記第2のポンピング室(2)が互いに結合されていることにより、血液が前記第1の導管(L1)を通って前記第1のポンピング室(1)内に吸引されるときに、血液が前記第2のポンピング室(2)から前記第2の導管(L2)内へ駆出され、逆の場合も同様であることを特徴とする脈動血液ポンプ。
【請求項4】
請求項3に記載の脈動血液ポンプであって、前記第1のポンピング室(1)は、可変容積を有する第1のコンプライアンス室(C1)と共に第1の複室を形成しており、前記第2のポンピング室(2)は、可変容積を有する第2のコンプライアンス室(C2)と共に第2の複室を形成しており、各可変間仕切り(M1、M2)により、前記第1のポンピング室(1)は前記第1のコンプライアンス室(C1)から分離されており、前記第2のポンピング室(2)は前記第2のコンプライアンス室(C2)から分離されており、前記ポンピングシステムは、前記第1のコンプライアンス室(C1)と前記第2のコンプライアンス室(C2)との間で流体を行き来させるよう吐出するようにされているポンプ(P)を含むことを特徴とする脈動血液ポンプ。
【請求項5】
請求項4に記載の脈動血液ポンプであって、前記間仕切り(M1、M2)はそれぞれ可撓性膜を含むことを特徴とする脈動血液ポンプ。
【請求項6】
請求項4または5に記載の脈動血液ポンプであって、前記流体は液体であることを特徴とする脈動血液ポンプ。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の脈動血液ポンプであって、前記ポンピングシステムは差動ポンピングシステムであることを特徴とする脈動血液ポンプ。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の脈動血液ポンプであって、前記ポンピングシステム(P;P、M)は患者の身体内に埋め込まれるようにされていることを特徴とする脈動血液ポンプ。
【請求項9】
心臓の拍動を支援する方法であって、
a)前記心臓の実質的に拡張期の間に、前記心臓(LV;RV)から第1の量の血液を除去し、第2の量の血液を血管(AO;PA)内に送り込むステップと、
b)前記拡張期の後続の前記心臓の収縮期の間に、前記血管(AO;PA)から前記第2の量に対応する量の血液を除去し、前記第1の量に対応する量の血液を前記心臓(LV;RV)内へ送り込むステップと、
c)前記ステップa)およびb)を複数回繰り返すステップと、
を含む方法において、
前記第1の量の血液および前記第2の量の血液は、同じポンピングシステム(P;P、M)により除去され、送り込まれることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法であって、前記心臓(LV;RV)および前記血管(AO;PA)から除去された前記血液は、前記ポンピングシステム(P;P、M)の別個のポンピング室(1、2)内に一時的に貯蔵され、同じ血液が、次の収縮期または拡張期に、前記心臓または前記血管内に再度送り込まれることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法であって、前記第1のポンピング室(1)は第1のコンプライアンス室(C1)と連結されており、前記第2のポンピング室(2)は第2のコンプライアンス室(C2)と連結されており、前記第1のコンプライアンス室(C1)および前記第2のコンプライアンス室(C2)のそれぞれを、満たすこと空にすることを交互にすることより、血流が前記第1のポンピング室(1)から前記心臓(LV;RV)内に、また前記第2のポンピング室(2)から前記血管(AO;PA)内にもたらされることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項9から11のいずれか1項に記載の方法であって、前記血液は前記心臓の左半分、詳細には左心室(LV)、を介して前記心臓から除去され、前記血液は大動脈(AO)を介して前記血管から除去されることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項9から11のいずれか1項に記載の方法であって、前記血液は前記心臓の右半分、詳細には右心室(RV)、を介して心臓から除去され、前記血液は肺動脈(PA)を介して前記血管から除去されることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項9から13のいずれか1項に記載の方法であって、前記血管(AO;PA)から除去される量より多量の血液が前記心臓(LV;RV)から除去されることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項9から13のいずれか1項に記載の方法であって、前記心臓(LV;RV)から除去される量より多量の血液が前記血管(AO;PA)から除去されることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は血管外脈動血液ポンプに関し、ヒト心臓の拍動を支援することに適用される。
【背景技術】
【0002】
過去に損傷したヒト心臓の回復を可能にするために、心臓の拍動は人工ポンプにより支援される。いわゆる大動脈内バルーンポンプ(IABP:intraaortic balloon pump)が広く適用される。このように、大動脈内にバルーンが配置され、このバルーンが体外から比較的長いカテーテルを通して送られるヘリウムで心調律に従って交互に、満たされ、また空にされる。空にすることは収縮期の開始直前に達成されて、それにより大動脈内の血圧を大幅に低下させ、その結果、心臓は、低い大動脈圧に対向すればよく、その血液量を大動脈内に駆出することができる。拡張期の開始時に、バルーンは再度満たされ、それにより大動脈内の圧力を増大させ、このように血液を器官および抹消血管内に駆動する。また、この方法は、カウンターパルセイション法または大動脈カウンターパルセイション法として既知である。
【0003】
米国特許出願公開第2005/0096496(A1)号が、大動脈内バルーンポンプの様々な欠点を指摘している。とりわけ、それらは留置カテーテルに因る感染のリスクを含み、患者がベッドから出ることを可能にしない。したがって、それらは、通常、1日か2日間使用されるだけであるが、慢性的に弱った心臓は、実際には長期間の支援を必要とする。さらに、カテーテルは血管内の血流を妨げる。したがって、皮下埋込み型ポンプ(subcutaneously implanted pump)を導管を介して動脈血管に接続すること、および心臓が収縮した場合(収縮期)には動脈から外へ血液を吸引し、心臓が拡張した場合(拡張期)には血液を動脈内に再度拍出し戻すことが提案される。このようにして、血管自体または血管内に延在しているカテーテルを閉鎖するバルーンを用いずに、カウンターパルセイションが得られる。当該ポンプは、ブラダーポンプ、サックポンプ、または隔膜ポンプとして構成することができる。また、血液が継続的に第1の導管経由で心臓から外へ直接吸引されるのに用いられ、かつ血管外カウンターパルセイションポンプも接続されているその動脈に第2の導管経由で直接供給される第2の血管外ポンプにより、血管外カウンターパルセイションポンプを補足することが提案されている。
【0004】
血管外カウンターパルセイション血液ポンプは、従来の大動脈バルーンポンプより実質的により大量の流動、すなわち毎分0.7リットルの代わりに毎分最大2.4リットル、を達成することができる。そのようなカウンターパルセイションシステムは、さらに、血管外血液ポンプの導管が心臓の心室に直接接続されているコパルセイションシステム(copulsation system)に置き換えられるかまたはそれにより補足されることが可能である。当該ポンプは、次いで、拡張期の間に一時的に血液を心室から外へ室内へと吸引し、それにより心室内の血液量を最小限にし、心臓の拡張を防止し、後続の収縮期の間にこの血液を心室内に拍出し戻し、そこから、血液は開いた心臓弁を通って動脈血管内に流入する。
【0005】
身体内に完全に埋入された血管外血液ポンプによるカウンターパルセイションおよびコパルセイションはどちらも、ポンプにより吸引された血液が一時的に槽内に貯蔵されなければならないという問題を含む。このため、血液ポンプは、血液ポンプの充填時にその容積が相応に減少する、いわゆるコンプライアンス室を持っている。コンプライアンス室は比較的容積が大きい。小さいガス充填型コンプライアンス室の場合、ポンプはかなりのエネルギーを必要として、吸引段階中にコンプライアンス室のガス量を相応に圧縮すると考えられるため、これは特にガス充填型コンプライアンス室に適合する。この問題は、カウンターパルセイションポンプおよびコパルセイションポンプの両方が同時に埋め込まれている場合に倍増する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】独国特許出願公開第102010018233号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第102006035548号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第2388028号明細書
【特許文献4】米国特許第5314469号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、血管外脈動血液ポンプによる心臓の拍動の支援を向上させることであり、詳細には、前述の血管外脈動血液ポンプと比較してその機能性および外形寸法に関して最適化されている脈動血液ポンプを提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、請求項1の特徴を有する脈動血液ポンプにより達成される。請求項1の従属請求項は、本発明の有利な実施形態および発展形態を記載している。
【0009】
本発明による脈動血液ポンプは、カウンターパルセイションおよびコパルセイションの機能を組み合わせ、この目的のために、2つの導管経由で、一方では血管、例えば大動脈に、他方では心腔、例えば左心室に接続されている双方向に作動するポンピングシステムを有する。心臓と血管との間には、通常は心臓弁により形成されている弁がある。双方向ポンピングシステムは、心臓の拡張期の間に心臓から第1の量の血液を除去し、略同時に第2の量の血液を血管内に送り込むようになされている。他方、当該ポンピングシステムは、心臓の拡張期に続く収縮期の間に第2の量に対応する量の血液を血管から再度除去し、略同時に第1の量に対応する量の血液を心臓内に送り込むようになされている。第1の量および第2の量は等しくすることができるが、ポンピングシステムを差動ポンピングシステムとして構成することができるため、これは必須ではない。
【0010】
結果として、収縮期の間および拡張期の間のどちらにおいても、心臓の負担が相当に軽減される。何故なら、心臓が拍出している血管から、この拍出に同期して血液が除去されているため、収縮期の間、心臓はより低い動脈圧に抗して拍出すればよいからである。後続の拡張期の間、心腔に充填される血液の一部が血液ポンプの手段により関連する心腔から除去され、またさらに後続の収縮期の間だけで再び心腔に送り込まれることにより、心臓の負担が軽減される。心腔はこのようにそれほど膨張せず、それにより心腔の拡張または拡大を防止するかまたは減少させる。拡張期の間に心腔がその通常の範囲まで拡大し血液で満ちる場合でも、双方向ポンピングシステムにより心腔から除去される血液量により関連する心腔の充填量が「増大する」ことが、本発明による脈動血液ポンプにより少なくとも達成される。なぜなら、拡張期に除去された充填量そのものが、後続の収縮期の間に心腔に再度戻され、かつ心臓の動作と同時にこの量の血液が接続された血管系内に駆出されるためである。このように拡張期に心臓の負担が軽減されかつ/またはその容量が拡大するが、付属の血管内、例えば大動脈内の圧力は、血管内に同時に送り込まれる血液量に因り増大し、その結果、関連する血管内の血圧の上昇に因り、器官および隣接する血管にはより多くの血液が供給される。双方向に作動するポンピングシステムを有する、本発明による脈動血液ポンプは、このように、コパルセイション性の(copulsating)血管外血液ポンプの機能および利点をカウンターパルセイション性の(counterpulsating)血管外血液ポンプの機能および利点と組み合わせている。
【0011】
しかし、本発明による脈動血液ポンプの実質的なさらなる利点が、これら2つの機能の各々について別個のコンプライアンス室を設けることが必要ないことである。代わりに、ポンピングシステムは、例えば、例えば心腔に取り付けられている容積可変の第1のポンピング室と、対応する血管に取り付けられている容積可変の第2のポンピング室とを有することができ、2つのポンピング室は互いに連結されているので、血液が第1のポンピング室内に吸引されるのと同程度に、第2のポンピング室から血液が駆出され、逆の場合も同じである。したがって、2つのポンピング室はそれぞれ、他方のポンピング室のためのコンプライアンス室としての機能を果たす。このことは、複動式シリンダピストンとの比較により、説明することができる。シリンダ内部にあるピストンの変位によりピストンの移動方向前方の容積が減少するが、それによりピストンの後方の容積が増大する。ピストンの前方の減少する容積は、ピストンの後方の増大する容積のためのコンプライアンス室に相当する。ピストンの逆方向の移動において、この機能性は相応に逆転される。つまり、ピストンシリンダの加圧された室は、常時、何かが外へ吐出されるポンピング室としての、かつピストンの反対側にある室のためのコンプライアンス室としての、役割を同時に果たす。
【0012】
この基本原理は様々な方法で変形することができる。詳細には、ピストン行程は全く同一であっても、一方の方向と他方の方向で異なる量の流れを吐出する差動ポンピングシステムの差動ピストンにより実現することができる。
【0013】
本発明によれば、ポンプの吸引側の各圧力は、ピストンまたは液圧機器用作動流体を変位させるために必要なエネルギーを最小限にするのを助ける。このことは、特に完全に埋込み可能なシステムにとって電池サイズを最小にするために極めて重要である。
【0014】
前述の基本原理の別の変形形態が、別個のコンプライアンス室を提供する。つまり、ピストンの一方の側の容積がポンピング室としての役割を果たし、前述の複動式シリンダピストンと同時にコンプライアンス室としての役割を果たすが、これら2つの機能は、本変形型実施形態では相互に切り離されている。このように、双方向ポンピングシステムは、共に第1の複室を形成する、可変容積を有する第1のポンピング室と、可変容積を有する第1のコンプライアンス室とを有することができ、可変容積を有する第2のポンピング室は、可変容積を有する第2のコンプライアンス室と共に第2の複室を形成することができる。コンプライアンス室は、ここでは可変間仕切りにより各付属ポンピング室から分離され、その可変間仕切りは、例えば可撓性膜として構成するかまたは可撓性膜を少なくとも含むことができる。ここで、ポンプにより2つのコンプライアンス室間で流体が行き来するよう吐出され、その結果、ポンピング方向に応じて、血液が一方の付属ポンピング室から駆出される間に、同時に血液が他方の付属ポンピング室内に吸引され、逆の場合も同じである。
【0015】
従来のシステムより優れた、基本原理のこの最後に記載した変形形態の利点は、第1に、コンプライアンス室は気体の代わりに液体で満たすことができ、その結果、コンプライアンス室は、ポンピング室により受容される血液量より大きい必要がない。このことにより、システムは、ガス充填型コンプライアンス室と比較して、特に効率的で、さらに安全になる。使用される液体は任意の液体であってもよい。複動式シリンダピストンより優れた、本変形形態のさらなる利点が、ポンプが血液から分離されることであり、つまり、ポンプは2つのコンプライアンス室間で液体を吐出するだけであり、血液を吐出しない。
【0016】
本発明による脈動血液ポンプは、患者の身体内に完全に埋め込むことができる。しかし、少なくともポンピングシステムは埋め込まれるために設けられておりかつそのようにされている。ポンプ用の、またはポンプが別個のモータにより駆動される場合はこのモータ用の、エネルギー供給手段が、同様に埋込み可能であり、物理的接触を用いてまたは好ましくは非接触でのどちらかで、例えば経皮的に、時々または継続的に充電することができる。
【0017】
本発明による脈動血液ポンプは、当然、所定の心調律に従って、一方の方向にまた他方の方向に交互に、双方向ポンピングシステムを動作させるために設けられておりかつそのようにされている制御手段を含む。当該心調律は、適切なセンサ手段を使用して様々な方法で取得することができ、このように構築された心調律データは制御手段に送信される。詳細には、脈動血液ポンプは、例えば大動脈内血液ポンプなどの従来の同期心臓サポートシステムを制御するのにも使用される同じ心調律データにより制御することができる。
以下、本発明は添付図面を参照して、例として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】左心室のための支援の例による、本発明による脈動血液ポンプの基本原理の図である。
図2】基本原理の第1の変形形態の図である。
図3】基本原理の第2の変形形態の図である。
図4】右心室を支援する例による、基本原理の図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1による概略図を参照して、本発明による脈動血液ポンプの基本原理は以下に説明される。脈動血液ポンプは、一方では第1の導管L1および第2の導管L2経由で血管に、ここでは大動脈AOに、他方では心腔に、ここでは左心室LVに、接続されている双方向ポンピングシステムから実質的に成る。双方向ポンピングシステムは、ポンプPとポンプPを駆動するモータMとから実質的に成る。特定の場合においてポンプおよび/またはモータが具体的にどのように構成され、互いに連結されるかは、本発明にとってあまり重要ではない。図1に示されている基本原理に不可欠であるのは、ポンプPが複動式ピストンシリンダ装置の方法で構成されていることであり、ピストンKはシリンダZの内部で行き来する方向に移動する。これにより、ピストンKにより分離されている背中合わせのポンピング室1および2内の容積V1およびV2が変化する。
【0020】
モータM、およびしたがってポンプPは、制御手段Stにより、所定の心調律に従って、一方の方向に、また他方の方向に交互に動作する。ポンピングシステムを制御するための心調律データ(例えば、圧力、ECG、収縮、PPS等)は、制御手段Stと連結されているセンサ手段Sにより取得され、制御手段Stに送信され得る。このことは、圧力センサであってもよい、左心室LVの心房内にあるセンサSにより、ほんの概略的に図1に示されている。
【0021】
ポンピングシステムを動作させるために必要なエネルギーは、エネルギー貯蔵デバイスEから利用可能にすることができ、当該エネルギー貯蔵デバイスは、例えば非接触で、トランスミッタTにより、継続的に、または好ましくは一時的に、のどちらかで、相応に充電される。
【0022】
このエネルギーを使用し、制御手段Stにより処理された心調律データを考慮して、収縮期の間にポンピング室1の容積V1が減少し血液がポンピング室1から外へ導管L1経由で左心室LV内へ相応に吐出されるように、ここでピストンKは心調律に従って変位する。したがって、血液が大動脈AOから外へ導管L2を通って第2のポンピング室2の増大している容積V2内に同時に吸引される。左心室LVは、このように、低下した大動脈圧に対抗して作用し、また、ポンピング室1から外へ移動した血液量は、左心室LVおよび大動脈弁を通って大動脈AO内へ流動する。後続の拡張期の間、ピストンKは反対方向に移動し、その結果、血液が左心室LVから外へ導管L1を通ってポンピング室1内に吸引され、同時に対応する量の血液が、第2のポンピング室2から外へ導管L2を通って大動脈AO内に吐出される。これにより、左心室LVの膨張が最小限になり、心臓の拡張に対抗し、その結果、心臓は回復することができる。同時に、大動脈AO内にそのように吐出された血液は大動脈AO内の血圧を上昇させるので、血液は器官内に、すなわち心臓内においても、かつ抹消血管内に確実に流れ込む。心室拡張サイズの減少により、心筋の壁応力が最小限になり、したがって心臓に血液がより効率的に供給されることが可能になる。
【0023】
図2はこの基本原理の第1の変形形態を示す。ピストンKは、ここでは、異なる大きさの2つのピストン領域を備えた差動ピストンとして構成されている。したがって、方向RにおけるピストンKの運動時に、容積V1およびV2は同程度には変化しない。具体的に示されている例示的実施形態では、大動脈AOと第2のポンピング室2との間で吐出される量より少量の血液が、差動ピストンKに因り左心室LVとポンピング室1との間で行き来するよう吐出される。どの心臓機能が脈動血液ポンプにより主として支援されるべきかに応じて、差動ピストンのより大きなピストン領域が、心臓または血管のどちらかの側に存在し得る。しかし、差動ピストンKは、より小さいピストン領域の側において、導管L3経由でポンプPに接続されている付加コンプライアンス室Cを必要とする。コンプライアンス室Cは、差動ピストンKの変位方向に応じて正または負である、容積変位V2およびV1がもたらした差を吸収する。コンプライアンス室Cは患者体内の位置に配置され、そこではコンプライアンス室Cは、例えば腹部において、低い周囲圧力に晒されるのみであり、導管L3経由でポンプPに接続されている。導管L3およびコンプライアンス室C内には、液体すなわち詳細には血液ではないものが存在していることが好ましい。
【0024】
図3は、基本原理の第2の変形形態を示す。ここでは、第1のポンピング室1が、第1のコンプライアンス室C1と共に第1の複室を形成しており、第2のポンピング室2が、第2のコンプライアンス室C2と共に第2の複室を形成している。ポンピング室1および2はそれぞれ、膜MおよびM2により、コンプライアンス室C1およびC2から分離されており、その結果、ポンピング室1および2の容積V1およびV2はそれぞれ可変である。ポンプPの手段により、流体が心調律に従ってコンプライアンス室C1とC2との間で行き来するよう吐出され、2つのポンピング室1および2の可変容積V1およびV2図1を参照して前述されている方法で変化する。ポンプPは、ここでは概略的に表されているだけであり、例として双方向回転ポンプであってもよい。この目的のために、ポンプPは、導管L4およびL5経由でコンプライアンス室C1およびC2に接続されている。導管L4、L5およびコンプライアンス室C1、C2内には、液圧装置の作動流体がいれられており、すなわち詳細には血液が入っていない。ポンプPは、このように、膜M1およびM2により血液循環から確実に遮断されている。このことは、ポンピングシステムに使用可能なポンプPの構造および効率性にとって有益である。同様に、それはポンピングシステムの疲労強度を大幅に向上させる。
【0025】
付加コンプライアンス室CVが設けられて、血液量V1およびV2の大きさが変化する場合に、容積変動を吸収することができる。図3は、コンプライアンス室C1とC2との間で吐出される流体の一部を吸収するそのような付加コンプライアンス室CVを示す。この付加コンプライアンス室CVは随意であり、そのコンプライアンス特性に関して可変的に調節可能であることが好ましい。コンプライアンス特性を調節するために、制御弁StVが使用される。調節は、埋込みの前にまたは好ましくは例えば遠隔制御によりやはり埋込み後に、のどちらかで、さらに必要に応じてまたは継続的に、のどちらかで、行うことができる。これにより、適用可能な場合、やはり動的に、ポンピング室1および2内に受容されている血液量を変化させることが可能になる。そのような対策の理由は、例えば、2つのポンピング室1および2の一方または他方の充填時に問題が起こること、またはポンピング室1および2の利用可能な容積が意図的に変えられることである可能性がある。このように、両ポンピング室1および2のための共通ポンプPにも関わらず、付属コンプライアンス室C1とC2との間で異なる量を吐出することが可能であり、差分量は付加コンプライアンス室CVにより吸収される。制御弁StVにより、このように、ポンピング室1および2の吸引量および駆出量を可変的に制御することが可能である。しかし、量の減少により、ポンピング室の一方に多量の血液が継続的に留まっているので連続的な血液凝集が懸念される、という結果が出てはならない。
【0026】
導管L5に取り付けられている付加コンプライアンス室CVの代わりに、それはまた、導管L4に取り付けることができる。
【0027】
最後に、図4は、図1に示されている基本原理のさらなる変形形態をさらに示す。ここでは、脈動血液ポンプの導管L1およびL2は、左心室LVおよび大動脈AOに接続されていないが、代わりに右心室RVおよび肺動脈PAに接続されている。
【0028】
また、一方では心臓の左半分のために、他方では心臓の右半分のために、前述のタイプの2つの別個の脈動血液ポンプを同時に動作させる可能性がある。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】