特表2015-514740(P2015-514740A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2015-514740色素沈着阻害剤としてのリケステリン酸およびその誘導体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-514740(P2015-514740A)
(43)【公表日】2015年5月21日
(54)【発明の名称】色素沈着阻害剤としてのリケステリン酸およびその誘導体
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/49 20060101AFI20150424BHJP
   A61Q 19/02 20060101ALI20150424BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20150424BHJP
   A61Q 5/08 20060101ALI20150424BHJP
   A61Q 3/00 20060101ALI20150424BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20150424BHJP
   A61K 31/365 20060101ALI20150424BHJP
   C07D 307/68 20060101ALI20150424BHJP
【FI】
   A61K8/49
   A61Q19/02
   A61P17/00
   A61Q5/08
   A61Q3/00
   A61P43/00 105
   A61K31/365
   C07D307/68CSP
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-506293(P2015-506293)
(86)(22)【出願日】2013年4月18日
(85)【翻訳文提出日】2014年12月15日
(86)【国際出願番号】FR2013050856
(87)【国際公開番号】WO2013156738
(87)【国際公開日】20131024
(31)【優先権主張番号】1253585
(32)【優先日】2012年4月18日
(33)【優先権主張国】FR
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC
(71)【出願人】
【識別番号】508192256
【氏名又は名称】サントレ ナスィヨナル ドゥ ラ ルシェルシュ スィヤンティフィック−セエヌエールエス
(71)【出願人】
【識別番号】512230856
【氏名又は名称】ユニベルシテ ドゥ レンヌ 1
(71)【出願人】
【識別番号】513075283
【氏名又は名称】サントレ ホスピタリエ ユニヴェルスィテ ポンシャイルー
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(74)【代理人】
【識別番号】100129610
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 暁子
(72)【発明者】
【氏名】ブスティエ、 ジョエル
(72)【発明者】
【氏名】ガリベール−アンヌ、 マリー−ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】ロエジック−ル−デヴェア、 フランソワーズ
(72)【発明者】
【氏名】ショレ−クルグレール、 マリーレーヌ
(72)【発明者】
【氏名】トマジ、 ソフィー
(72)【発明者】
【氏名】ムーシェ、 ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】ルグィン−ガルダンヌ、 ビアトリス
【テーマコード(参考)】
4C037
4C083
4C086
【Fターム(参考)】
4C037MA01
4C083AC841
4C083AC842
4C083CC02
4C083CC28
4C083CC35
4C083EE16
4C083EE27
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086BA17
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA89
4C086ZA92
4C086ZB21
(57)【要約】
色素沈着阻害剤としてのリケステリン酸およびその誘導体。
本発明は、皮膚および/または角質の付属器を脱色素するための薬剤としての、式(A)の化合物およびその塩から選択される化合物の美容用の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
右旋性(+)形態の次式(A)の化合物およびその塩、ならびに左旋性(−)形態の前記式(A)の化合物およびその塩より選択される化合物の、皮膚および/またはその付属器を脱色素するための薬剤としての美容用の使用。
【化1】
[式中、
は、水素原子、n−ブチル基、非置換のフェニル基、非置換のフェネチル基、またはCOOR基(式中、R=Na、H、メチルまたはエチル)を表し、
は、水素原子、直鎖または分岐鎖のC〜C13アルキル基、CHCCH、Ph、PhCH、PhCHCH、(直鎖C〜C12アルキル)−CF基、末端位または非末端位が不飽和である直鎖C〜C13アルキル基、および(CH13COR(式中、R=OCH、OHまたはCH)より選択され、
ただし、左旋性(−)形態の化合物およびその塩において、Rは先に記載のとおりであり、Rは直鎖または分岐鎖のC〜Cアルキル基である。]
【請求項2】
右旋性(+)形態の次式(A)の化合物およびその塩、ならびに左旋性(−)形態の前記式(A)の化合物およびその塩より選択される、皮膚および/またはその付属器を脱色素することに使用するための化合物。
【化2】
[式中、
は、水素原子、n−ブチル基、非置換のフェニル基、非置換のフェネチル基、またはCOOR基(式中、R=Na、H、メチルまたはエチル)を表し、
は、水素原子、直鎖または分岐鎖のC〜C13アルキル基、CHCCH、Ph、PhCH、PhCHCH、(直鎖C〜C12アルキル)−CF基、末端位または非末端位が不飽和である直鎖C〜C13アルキル基、および(CH13COR(式中、R=OCH、OHまたはCH)より選択され、
ただし、左旋性(−)形態の化合物およびその塩において、Rは先に記載のとおりであり、Rは直鎖または分岐鎖のC〜Cアルキル基である。]
【請求項3】
が、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピル、n−ブチル、i−ブチルおよびt−ブチル基、−C11基、−C19基および−C1327基より選択される直鎖または分岐鎖のC〜C13アルキル基であることを特徴とする、請求項1に記載の化合物の美容用の使用、または、請求項2に記載の使用のための化合物。
【請求項4】
が、非末端がcis−不飽和であるC〜C13アルキル基、好ましくはcis−CCHCHC10基であることを特徴とする、請求項1に記載の化合物の美容用の使用、または、請求項2に記載の使用のための化合物。
【請求項5】
右旋性形態の化合物またはその塩が、組成物の総重量に対して0.0001重量%から10重量%の量で存在することを特徴とする、請求項1、3もしくは4に記載の化合物の美容用の使用、または、請求項2から4のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項6】
がCOOH基であり、Rが直鎖または分岐鎖のC〜C13アルキル基であることを特徴とする、請求項1もしくは3に記載の化合物の美容用の使用、または、請求項2および3のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項7】
化合物が、(+)−リケステリン酸、(+)−3−メチル−5−ノニルパラコン酸および(+)−3−メチル−5−ペンチルパラコン酸より選択されることを特徴とする、請求項1、3もしくは6に記載の化合物の美容用の使用、または、請求項2、3もしくは6に記載の使用のための化合物。
【請求項8】
右旋性(+)形態の式(A)の化合物およびその塩、ならびに左旋性(−)形態の前記式(A)の化合物およびその塩より選択される化合物。
【化3】
[式中、
は、水素原子、n−ブチル基、非置換のフェニル基、非置換のフェネチル基、またはCOOR基(式中、R=Na、H、メチルまたはエチル)を表し、
は、(直鎖C〜C12アルキル)−CF基、および末端位または非末端位が不飽和である直鎖C〜C13アルキル基より選択され、
ただし、左旋性(−)形態の化合物およびその塩において、Rは先に記載のとおりであり、Rは直鎖または分岐鎖のC〜Cアルキル基である。]
【請求項9】
がcis−CCHCHC10−基であることを特徴とする、請求項8に記載の化合物。
【請求項10】
医薬品として使用するための、請求項8または9に記載の化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚および/または皮膚付属器を脱色素する(depigment)ための式(A)の化合物またはその塩に関する。
【背景技術】
【0002】
人の皮膚およびその付属器(毛髪、爪、体毛など)の色は、個体のフォトタイプに依存する。構成要素の色素沈着(皮膚、毛髪および眼の色)の強さを、個体における日光に対する感受性および日焼けのしやすさと組み合わせることに基づく簡単な分類が、1975年、Fitzpatrick博士によって提案された。構成要素の色素沈着の強さは、多様な因子、たとえば、季節、および日差しの程度、性別ならびに年齢によって変わり、メラノサイトにより産生されるメラニンの濃度によって主として決定される。メラノサイトは、特定の細胞小器官、すなわちメラノソームを介してメラニンを合成する特殊化した細胞である。
【0003】
皮膚の色素沈着過剰は、皮膚上に褐色斑が現れることで顕在化する、よくある疾患である。この疾患は、皮膚におけるメラニンの不均一な蓄積に起因する。色素沈着斑は、身体のあらゆる部分、とりわけ、手の甲、顔、襟足および禿げた頭部に現れる可能性がある。
【0004】
いくつかの因子が色素沈着過剰病変の発症に寄与する可能性があるが、最も一般的なものは、遺伝的素因(アジア人の皮膚は、色素沈着過剰斑を白人より生じやすい)、ホルモン(たとえば、妊娠性肝斑)、日光への曝露(光老化の原因となる)および皮膚老化である。メラニン産生は、皮膚炎症過程によって、たとえば、外傷、炎症性の発疹、または皮膚刺激などの他の現象が生じた後に増加する可能性もある。
【0005】
色素沈着過剰の一般的な形態は、加齢斑または日光斑(日光黒子)から成る。それらは、太陽が原因で生じる損傷に起因し、一般的には、手の甲および腕の背側、襟足または顔面に現れる。これらの斑は、そばかすまたは雀卵斑より色が濃く、冬になっても消えない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、色素沈着過剰斑のための有効でリスクのない治療法が、真に必要とされている。
【0007】
逆に、限局性の白斑を特徴とする低色素沈着疾患も存在する。白斑症は、低メラニン症の最も一般的なものである。この場合、治療アプローチの目的は、罹患皮膚に再度色素沈着させること、または非罹患皮膚を脱色素することのいずれかによって、罹患皮膚と正常に色素沈着している皮膚とが比較されて生じる美しくないコントラストを低下させることである。治療戦略の選定は、脱色素している部位の位置および程度に応じて決まってこよう。つまり、白斑症が極度に広がっているときは、それに再度色素沈着させようと試みることは非現実的となり、したがって、残りの健康な皮膚を脱色素することによって皮膚の色を均一にすることが賢明である。現時点で得られている結果は奨励されているが不十分なものであり、したがって、生物活性分子を同定することが、真に必要とされている。
【0008】
最後に、アフリカ、とりわけ北アフリカ諸国、中東諸国、西インド諸島、アメリカ大陸(アメリカ合衆国、南米、中米)、アジア(インド、フィリピン)および欧州においては、これらの国々を起源とする人々の間で、皮膚の生まれついての色を薄くすることが、社会的な成功を収め、尊敬を受け、暮らし向きが向上している印と考えられていることがよくある。このような世間の圧力があるために、より薄い皮膚色を得るための脱色素用の化粧品が使用されるようになっている。しかし、脱色素特性を有する入手可能な製品が数あるにもかかわらず、それらが有する毒性のために、美容に使用できるものはほとんどない。したがって、この上なく安全に使用できる生物活性分子を同定することが、真に必要とされている。
【0009】
この観点から、ヒドロキノン、レチノイン酸またはアゼライン酸などの多数の化学的活性剤が提案されてきた。先行技術において提案されている解決策を用いて優れた結果が確かに得られているが、それでもまだ、皮膚またはその付属器の色素沈着に効果を有する物質の発見が未だに本技術分野における研究の主要な目的となっている事例がみられる。
【0010】
その理由は、先行技術による製品は、毒性効果を有する可能性があるため慎重に使用しなければならない場合が多いということである。さらに、それらは次第に、監視され、またはある国々では禁止すらされるようになっており、その例としてはたとえばヒドロキノンがあるが、この物質は、2009年11月30日付の規則(EC)第1223/2009号により、欧州連合においては化粧品製品に配合することが現在禁じられている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
驚くべきことに、本発明者らは、ある種の地衣類由来の化合物が皮膚またはその付属器の色素沈着を阻害することを今回発見した。
【0012】
本出願人らが出願した特許出願第FR2957078号には、パラコン酸、とりわけ、プロトリケステリン酸もしくはその塩、ジアステレオ異性体またはそれらの誘導体と、リケステリン酸もしくはその塩、鏡像異性体またはそれらの誘導体との、特定の比率での混合物の、色素沈着活性化剤としての使用が記載されている。
【0013】
誘導体の中には、確定した化学式の化合物がある。
【0014】
予想外なことであるが、これらの化合物のいくつかは、当初評価した投薬量5μM未満の濃度で、さらには特定の光学的形態で、in vitroにて単独で使用すると、驚くべきことに脱色素活性を有することが明らかになっている。
【0015】
したがって、本発明の対象は、右旋性(+)形態の次式(A)の化合物およびその塩より選択される化合物の、皮膚および/またはその付属器を脱色素するための薬剤としての美容用の使用である。
【0016】
【化1】
[式中、
は、水素原子、n−ブチル基、非置換のフェニル基、非置換のフェネチル基、またはCOOR基(式中、R=Na、H、メチルもしくはエチル)を表し、
は、水素原子、直鎖または分岐鎖のC〜C13アルキル基、CHCCH、Ph、PhCH、PhCHCH、(直鎖C〜C12アルキル)−CF基、末端位または非末端位が不飽和である直鎖C〜C13アルキル基、および(CH13COR(式中、R=OCH、OHまたはCH)より選択される。]
【0017】
本発明の対象は、また、右旋性(+)形態の次式(A)の化合物およびその塩より選択される、皮膚および/またはその付属器を脱色素することに使用するための化合物でもある。
【0018】
【化2】
[式中、
は、水素原子、n−ブチル基、非置換のフェニル基、非置換のフェネチル基、またはCOOR基(式中、R=Na、H、メチルまたはエチル)を表し、
は、水素原子、直鎖または分岐鎖のC〜C13アルキル基、CHCCH、Ph、PhCH、PhCHCH、(直鎖C〜C12アルキル)−CF基、末端位または非末端位が不飽和である直鎖C〜C13アルキル基、および(CH13COR(式中、R=OCH、OHまたはCH)より選択される。]
【0019】
本発明の対象は、また、右旋性(+)形態の式(A)の化合物およびその塩より選択される化合物でもある。
【0020】
【化3】
[式中、
は、水素原子、n−ブチル基、非置換のフェニル基、非置換のフェネチル基、またはCOOR基(式中、R=Na、H、メチルまたはエチル)を表し、
は、(直鎖C〜C12アルキル)−CF基、および末端位または非末端位が不飽和である直鎖C〜C13アルキル基より選択される。]
【0021】
好ましくは、前記化合物は、医薬品として使用される。
【0022】
本発明の対象は、また、左旋性(−)形態の次式(A)の化合物およびその塩より選択される化合物、ならびに、これらの化合物の上述の使用でもある。
(式中、Rは先に記載のとおりであり、Rは直鎖または分岐鎖のC〜Cアルキル基である。)
【0023】
好ましくは、非末端が不飽和であるR基は、cis−CCHCHC10基である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】濃度2μM以下の(+)LA/(+)PLA/(+)RA混合物(それぞれの割合は60/25/15)とともに、培養(ペトリ皿)4日後に吸光度により測定した、対照(100%)との比較のB16細胞中のメラニンレベルである。
図2】LA+およびLA−は3通りの濃度で、ならびにC9LA+およびC5LA+は2通りの濃度で培養4日後に吸光度により測定した、対照(ペトリ皿)との比較のB16細胞中のメラニンレベルである。使用した脱色素陽性対照は、ヒドロキノンである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
用語「付属器」は、とりわけ、毛髪、体毛および爪を意味するものとする。
【0026】
式(A)の化合物の中には、(+)−リケステリン酸、すなわち、RがCOOH基であり、Rが直鎖アルキル基C1327であるものがある。
【0027】
本出願においては、用語「リケステリン酸」は、(+)−リケステリン酸を意味するものとする。
【0028】
(+)−リケステリン酸は、実際は、次式(I)のパラコン酸である(すなわち、酸官能基でβ置換されたα−メチレン−γ−ラクトン環を有する)。
【0029】
【化4】
【0030】
この化合物は、地衣類、とりわけ、地衣Cetraria islandica Ach.、すなわちアイスランドゴケから抽出される。
【0031】
(+)−リケステリン酸は、環の5位に不斉炭素があることによる5R配置のものであり、エンド型の二重結合を有する。
【0032】
リケステリン酸を産生する地衣類の中には、次の地衣類がある:Cetraria islandica、ericetorum、chlorophylla、cucullata、sepincola、ciliaris、laureri、nigricans、orbata、australiensisまたはaculeata;Cetraria komarovii(すなわちNephromopsis komarovii);Parmelia camtschadalisおよびNephromopsis stracheyi(すなわちCetraria stracheyi f.ectocarpisma)。
【0033】
(+)−リケステリン酸は、前記地衣類から、とりわけ、Horhant,D.、Le Lamer,A.−C.、Boustie,J.、Uriac,P.、Gouault,N.、「Separation of a mixture of paraconic acids from Cetraria islandica(L.)Ach. employing a fluorous tag catch and release strategy」、Tetrahedron Lett.、2007、48、6031〜6033頁に記載された手順を用いて抽出できる。
【0034】
式(A)の化合物、とりわけリケステリン酸の、「塩」という用語は、これらの化合物とナトリウム、カリウムまたはリチウムなどのアルカリ金属との塩だけではなく、これらの化合物とアンモニウムイオンとの塩も意味するものとする。
【0035】
本発明においては、特に言及しない限り、用語「直鎖または分岐鎖のC〜C13アルキル基」は、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピル、n−ブチル、i−ブチルまたはt−ブチル基、−C11(ペンチル)基、−C19(ノニル)基または−C1327(トリデシル)基を意味するものとする。好ましくは、直鎖または分岐鎖のC〜C13アルキル基は、n−ブチル基、−C11基、−C19基および−C1327基より選択される。本発明においては、特に言及しない限り、用語「直鎖または分岐鎖のC〜Cアルキル基」は、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピル、n−ブチル、i−ブチルもしくはt−ブチル基または−C11(ペンチル)基を意味するものとする。
【0036】
本発明においては、特に言及しない限り、用語「(直鎖C〜C12アルキル)−CF基」は、3から12個の炭素原子を有し末端の炭素原子がCF基で置換されている直鎖アルキル基を意味するものとする。
【0037】
本発明においては、特に言及しない限り、用語「末端位または非末端位が不飽和である直鎖C〜C13アルキル基」は、2から13個の炭素原子を有し末端位が不飽和である直鎖アルキル基を意味するものとする。非末端位においては、それはcis−CCHCHC10基が好ましい。
【0038】
好ましくは、式(A)の化合物は、RがCOOH基でありRが直鎖または分岐鎖のC〜C13アルキル基であるものである。
【0039】
好ましくは、式(A)の化合物は、(+)−リケステリン酸、(+)−3−メチル−5−ノニルパラコン酸および(+)−3−メチル−5−ペンチルパラコン酸より選択される。
【0040】
本発明による化合物は、皮膚および/またはその付属器の色素沈着を阻害するために使用される。好ましくは、本発明による化合物は、色素沈着過剰疾患を治療するために使用される。
【0041】
用語「色素沈着過剰疾患」は、好ましくは、妊娠性肝斑、日光黒子、光老化、および、皮膚炎症、熱傷または皮膚刺激に起因する斑を意味するものとする。
【0042】
好ましくは、本発明による化合物は、白斑症などの低メラニン症を処置するためにも使用され、この場合には、健康な皮膚が標的となろう。
【0043】
最後に、本発明による化合物は、世間からの美容面での圧力に応えるために、色素沈着している皮膚の全体的な漂白を得ることを目的とした美容用の使用に好適であり得る。
【0044】
本発明による化合物は、組成物を介して皮膚またはその付属器に塗布できる。前記組成物は、好ましくは、該組成物の総重量に対して0.0001重量%から10重量%の間、好ましくは0.5重量%から5重量%の間の量の本発明による化合物を含む。
【0045】
本発明による化合物は、組成物を介して経口投与することも、皮膚および/またはその付属器への塗布によって全身的または局所的に投与することもできる。
【0046】
投与様式により、本発明による化合物を含む組成物は、いかなる医薬品形態であってもよい。
【0047】
好ましくは、本発明による化合物は、皮膚および/またはその付属器に局所投与される組成物中に含まれる。
【0048】
経口投与のために、前記組成物は、錠剤、ゲルカプセル剤、糖衣錠、シロップ剤、懸濁剤、溶液剤、散剤、顆粒剤、乳剤、または、徐放のためのミクロスフェアもしくはナノスフェア、もしくは脂質もしくはポリマーベシクルの形態であってもよい。
【0049】
皮膚への局所塗布のために、前記組成物は、とりわけ、ローションもしくは美容液タイプの分散系の形態、もしくは水性もしくは油性の溶液の形態;脂肪相の水相への分散(O/W)もしくはその逆(W/O)によって得られる、液体もしくは半液体の粘稠度の乳液タイプのエマルジョンの形態;軟質性のクリームタイプのエマルジョンの形態;二相エマルジョンの形態;水性もしくは無水のゲルの形態;泡状の形態、もしくはマイクロカプセルもしくは微小粒子の形態、もしくはイオン性および/もしくは非イオン性タイプのベシクル分散系の形態、またはスプレー製剤の形態であってもよい。これらの組成物は、当業者に公知の通常の方法により調製される。
【0050】
毛髪への局所塗布のために、該組成物は、水性、アルコール性もしくは水性アルコール溶液の形態;ゲルの形態;エマルジョンの形態;泡状の形態;または、高圧ガスも含むエアロゾル組成物の形態であってもよい。本発明による組成物は、また、ヘアケア組成物、とりわけ、シャンプー、トリートメントローション、整髪用クリームもしくはゲル、または脱毛を防ぐためのローションもしくはゲルであってもよい。
【0051】
全身塗布のために、該組成物は、水性もしくは油性溶液の形態、または美容液の形態であってもよい。
【0052】
本発明による化合物を含む組成物は、脂肪相、乳化剤、溶剤、浸透促進剤、またはゲル化剤(親油性または親水性のもの)を特に含むことができる。
【0053】
該組成物が脂肪相を含むとき、脂肪相は少なくとも1種の油または1種のワックスを含む。
【0054】
本発明において使用できる油またはワックスとして、鉱物油(流動ワセリン)、植物油(シアバターの液体留分、ヒマワリ油)、動物油(ペルヒドロスクアレン)、合成油(ピュアセリンオイル(purcelline oil))、シリコーン油またはワックス(シクロメチコン)、フッ化油(ペルフルオロポリエーテル)、蜜ロウ、カルナウバロウまたはパラフィンロウ、さらには脂肪アルコールおよび脂肪酸(ステアリン酸)を挙げることができる。
【0055】
該組成物は、少なくとも1種の乳化剤も含むことができる。この乳化剤は、アニオン性、カチオン性、非イオン性または両性であってもよい。
【0056】
本発明により使用できる溶剤としては、低級アルコール(とりわけエタノールおよびイソプロパノール)およびプロピレングリコールを挙げることができる。
【0057】
本発明により使用できる浸透促進剤として、グリコール、とりわけ1,2−プロパンジオール(すなわちプロピレングリコール)およびポリエチレングリコールを挙げることができる。
【0058】
本発明において使用できる親水性ゲル化剤として、カルボキシビニルポリマー(カルボマー)、アクリレート/アクリル酸アルキルコポリマーなどのアクリルコポリマー、ポリアクリルアミド、ヒドロキシプロピルセルロースなどの多糖類、天然ガムおよび粘土を挙げることができ、親油性ゲル化剤として、ベントンなどの変性粘土、ステアリン酸アルミニウムなどの脂肪酸の金属塩、ならびに、疎水性シリカ、エチルセルロースおよびポリエチレンを挙げることができる。
【0059】
本発明によれば、該組成物は、本発明による化合物と他の活性剤とを組み合わせてもよい。
【0060】
このような活性剤のうち、例として以下を挙げることができる:
−脱色素剤、たとえば、レチノイド、アゼライン酸もしくはコウジ酸;
−育毛活性および/または脱毛の進行を遅らせる活性を改善する薬剤であって、こうした活性について既に報告されているもの、たとえば、ミノキシジル、アミネキシル、ニコチン酸エステル(例としては特に、ニコチン酸トコフェロール、ニコチン酸ベンジル、および、ニコチン酸メチルまたはヘキシルなどのC〜Cアルキルのニコチン酸エステル);
−ステロイド系抗炎症剤、たとえば、ヒドロコルチゾン、吉草酸ベタメタゾンもしくはプロピオン酸クロベタゾール;
−抗真菌剤、たとえば、ケトコナゾール、硫化セレン、イトラコナゾールもしくはフルコナゾール;または
−抗掻痒剤、たとえば、テナルジン、トリメプラジンもしくはシプロヘプタジン。
【0061】
該組成物は、従来の補助剤、たとえば、保存料、酸化防止剤、香料、充填剤、臭気吸収剤および着色料も含むことができる。
【0062】
このような多様な補助剤の量は、従来使用されている量であり、たとえば、該組成物の総重量に対して0.01重量%から20重量%である。
【0063】
式(A)の化合物のR基およびR基の種類に応じて、いくつかのプロセスが想定されよう。以下のプロセスは、R=COOHである式(A)の化合物のエナンチオ選択的合成を記載するものである。
【0064】
このプロセスは、ステップa、b、cおよびfについては、S.BraukmullerおよびR.Brucknerによる刊行物、Eur.J.Org.Chem.、2006、2110〜2118頁から得られる。
【0065】
それは7ステップのエナンチオ選択的合成であり、エナンチオ制御はステップbおよびdによりもたらされる。マロン酸メチル(methyl hydrogeno malonate)へのアルデヒドの縮合(ステップa)により、trans−不飽和カルボン酸エステルが生じる。シャープレス不斉ジヒドロキシル化により、エナンチオピュアなヒドロキシラクトンを得ることが可能になる(ステップb)。脱水(ステップc)およびビニル基の選択的トランス付加(ステップd)の後、この化合物はパラコン酸に変換される(ステップe)。炭酸メチルマグネシウムの存在下での活性化、それに続く脱炭酸メチレン化により、(+)または(−)−プロトリケステリン酸の誘導体が生じる(ステップf)。エキソ型からエンド型への二重結合の異性化により、式(A)の誘導体が生じる(ステップg)。
【0066】
【化5】
【0067】
a)HOOCCHCO(1.0当量)、NEt(1.0当量)、90℃、3時間;b)AD mix−(登録商標)またはAD mix−(登録商標)、MeSONH(1.0当量)、tBuOH/HO(1:1)、0℃、40時間;c)MsCl(1.1当量)、NEt(2.1当量)、CHCl、0℃、15分;d)CuI(10当量)、THF、−78℃、MeLi(10当量)、15分;臭化ビニルマグネシウム(10当量)、15分、フラノン添加、2時間;e)NaIO(4.0当量)、RuCl(0.1当量)、CCl/CHCN/HO(2:2:3)、環境温度、3時間;f)(i)DMF中にMeOMg[O(C=O)Ome](38当量)、135〜140℃、70時間、粗生成物の単離;(ii)粗生成物、HOAc/NaOAc/ホルマリン(=ホルムアルデヒドの35〜40%水溶液)/N−メチルアニリン(過剰量;4:0.03:3:1)、環境温度、2時間;g)NEt、DMF、18時間。
【0068】
当然ではあるが、当業者は、本発明において使用される組成物中に化合物を導入する際に、前記化合物が、本発明が対象とする所望の技術的効果を打ち消すような形にならないように留意する。
【実施例】
【0069】
例示を目的として実施例をここに示すが、これは決して本発明の範囲を限定することを意図したものではない。
【0070】
略語は次のとおり:
(+)LAまたはLA+=(+)−リケステリン酸(または右旋性リケステリン酸)
(−)LAまたはLA−=(−)−リケステリン酸(または左旋性リケステリン酸)
(+)PLAまたはPLA+=(+)−プロトリケステリン酸(または右旋性プロトリケステリン酸)
(+)RAまたはRA+=(+)−ロッセラリン酸(または右旋性ロッセラリン酸)
C9LA+=(+)−3−メチル−5−ノニルパラコン酸(または右旋性3−メチル−5−ノニルパラコン酸)
C5LA+=(+)−3−メチル−5−ペンチルパラコン酸(または右旋性3−メチル−5−ノニルパラコン酸)
であり、以下の式に対応する。
【0071】
【表1】
【0072】
例1:(+)−リケステリン酸((+)LA)のin vitro脱色素活性の実証
手順:マウスB16細胞のメラニン含有量を分光光度法により決定する。試験のために保持された濃度はいずれも、記載されている条件下では一切の細胞毒性を呈さない(B16生存率>80%)。
【0073】
10cmのペトリ皿に一皿当たり7×10の密度で細胞を播き、精製してDMSOに可溶化しておいた所定濃度の地衣類由来分子とともに、96時間培養する。処理後、細胞をトリプシン処理によって回収し、PBSで2回洗浄する。回収した細胞の数を、血球計算盤を用いて計数することによって概算する。同一のフラクションを使用して、メラニン含有量およびタンパク質濃度を決定する。メラニン含有量は、1M水酸化ナトリウムを用いてメラニンを80℃15分間で溶解した後、細胞溶液の405nmにおける吸光度(VersaMax Microplate Reader、Molecular Devices、USA)から決定する。タンパク質濃度は、アメリカ合衆国のBio−Rad laboratoriesによって開発された「DC Protein Assay」キットの手順に従って決定する。処理した各試料について、メラニン含有量をタンパク質の量と関連付け、対照条件(DMSO溶液単独)に対する比率(%)として表す。各測定は三重に行い、各実験は独立に最低3回行う(指標のために示してあるC9LA+およびC5LA+の誘導体を除く)。
【0074】
図1と2において、結果をまとめている。これらの図は、所与の分子の存在下(図2)、または(+)−リケステリン酸((+)LA)/(+)−プロトリケステリン酸((+)PLA)/(+)−ロッセラリン酸((+)RA)混合物(60/25/15の重量比)の存在下(図1)で96時間処理したB16細胞のメラニン含有量を示すものである。
【0075】
x軸に沿って、試験した分子をその濃度と共にμMで表してある。
【0076】
y軸に沿って、メラニン含有量を対照(DMSO単独=濃度0.1%)に対する比率として表してある。
【0077】
図1の結果は、(+)−リケステリン酸と(+)−プロトリケステリン酸と(+)−ロッセラリン酸とをそれぞれ60/25/15の割合で含有する混合物の場合、1μMおよび2μMの濃度ではメラニンレベルの約−20%から−50%の阻害が記録されることを示している。
【0078】
一方、図2の結果は、リケステリン酸の2つの鏡像異性体が反対の活性をもたらすこと、すなわち、濃度が0.5から2μMの(−)−リケステリン酸(LA−)の場合はメラニン産生を+10%から+30%刺激し、同じ濃度の(+)−プロトリケステリン酸(PLA+)の場合はメラニンレベルを10%から20%低下させることを示している。
【0079】
脱色素陽性対照(ヒドロキノン。同じ条件下ではメラニンレベルの−20%の低下を誘導する)と比較すると、(+)−リケステリン酸、(+)−3−メチル−5−ノニルパラコン酸(C9LA+)および(+)−3−メチル−5−ペンチルパラコン酸(C5LA+)は、同等の脱色素活性(C5LA+の場合)またはより大きい脱色素活性を呈する。
【0080】
加えて、ここに示していない他の結果から、個々に単離した該混合物の他の2つの構成品についても、同じ条件下で試験するとメラニンレベルが低下することが示されており、この低下率は、0.25μMの(+)−プロトリケステリン酸の場合は約−20%であり、1μMのロッセラリン酸の場合は有意ではなく、これらそれぞれの鏡像異性体もまた、これらの同じ濃度では同じレベルの活性を有する。
【0081】
したがって、得られた結果は、本発明による(+)−リケステリン酸およびその誘導体の脱色素活性を実証するものである。
図1
図2
【国際調査報告】