(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-516935(P2015-516935A)
(43)【公表日】2015年6月18日
(54)【発明の名称】多機能性BN−BN複合材料
(51)【国際特許分類】
C04B 35/583 20060101AFI20150522BHJP
【FI】
C04B35/58 103U
C04B35/58 103M
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-503197(P2015-503197)
(86)(22)【出願日】2013年3月29日
(85)【翻訳文提出日】2014年11月28日
(86)【国際出願番号】US2013000099
(87)【国際公開番号】WO2014028043
(87)【国際公開日】20140220
(31)【優先権主張番号】61/686,107
(32)【優先日】2012年3月30日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】13/986,089
(32)【優先日】2013年3月29日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC
(71)【出願人】
【識別番号】509314792
【氏名又は名称】ナショナル・インスティチュート・オブ・エアロスペース・アソシエイツ
(71)【出願人】
【識別番号】510149563
【氏名又は名称】ザ・ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ・アズ・リプレゼンテッド・バイ・ジ・アドミニストレーター・オブ・ザ・ナショナル・エアロノーティクス・アンド・スペース・アドミニストレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100104374
【弁理士】
【氏名又は名称】野矢 宏彰
(72)【発明者】
【氏名】カン,ジン・ホー
(72)【発明者】
【氏名】ブライアント,ロバート・ジー
(72)【発明者】
【氏名】パク,チョル
(72)【発明者】
【氏名】サウティ,ゴッドフレー
(72)【発明者】
【氏名】ギボンズ,ルーク
(72)【発明者】
【氏名】ローサー,シャロン
(72)【発明者】
【氏名】ティボルト,シェイラ・エイ
(72)【発明者】
【氏名】フェイ,キャサリン・シー
【テーマコード(参考)】
4G001
【Fターム(参考)】
4G001BA22
4G001BA23
4G001BA33
4G001BA60
4G001BA62
4G001BA75
4G001BA86
4G001BB22
4G001BB23
4G001BB33
4G001BB60
4G001BB62
4G001BB86
4G001BC22
4G001BC42
4G001BC44
4G001BC52
4G001BC54
4G001BC55
4G001BD23
4G001BE01
4G001BE15
(57)【要約】
苛酷な環境のためのエネルギー変換器、熱導体、耐貫通性または耐摩耗性の皮膜、および放射線硬化材料のための多機能性の窒化ホウ素ナノチューブ−窒化ホウ素(BN-BN)ナノ複合材料。全てが窒化ホウ素構造のBN-BN複合材料が合成される。窒化ホウ素を含む先駆物質が合成され、次いで、これを窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)と混合して複合溶液を生成させ、この複合溶液は、例えば、繊維、マット、フィルムおよびプレートを含めた様々な形態の未処理成形体を製造するために用いられる。未処理成形体を熱分解し、それによりBN-BN複合セラミックスへの変態が促進される。所望のBN結晶構造を形成するために熱分解温度、圧力、雰囲気および時間が制御される。全体がBN構造の材料は優れた熱安定性、高い熱伝導性、圧電気性、ならびに高い靭性、硬度および放射線遮蔽特性を示す。ナノチューブおよび/またはマトリックスの最初の構造の中に他の元素を置き換えることによって、優れた硬度、調整されたフォトニックバンドギャップおよび光ルミネッセンスを有する新たなナノ複合材料(すなわち、BCNセラミックスまたはBCSiNセラミックス)が得られる。
【選択図】
図2a
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ホウ素ナノチューブ−窒化ホウ素(BN-BN)ナノ複合材料を形成するための方法であって、以下の各工程:
窒化ホウ素を含むセラミックス先駆物質を合成すること;
窒化ホウ素ナノチューブの溶液を窒化ホウ素を含むセラミックス先駆物質と一緒にし、それにより複合材料の先駆物質を形成すること;
複合材料の先駆物質から少なくとも一つの未処理成形体を形成すること;および
形成した未処理成形体を熱分解してBN-BN複合セラミックスとすること;
を含む前記方法。
【請求項2】
少なくとも一つの未処理成形体は少なくとも800℃の温度で熱分解される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも一つの未処理成形体は少なくとも1500℃の温度で熱分解される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも一つの未処理成形体はアンモニアの下で熱分解される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも一つの未処理成形体は不活性ガスの下で熱分解される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも一つの未処理成形体は真空下で熱分解される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも一つの未処理成形体は加圧下で熱分解される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも一つの未処理成形体は繊維、織られたマット、不織マット、フィルムおよびプレートからなる群から選択される成形物からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
窒化ホウ素を含むセラミックス先駆物質に炭素が添加される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
窒化ホウ素を含むセラミックス先駆物質にケイ素が添加される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
窒化ホウ素を含むセラミックス先駆物質にケイ素と炭素の組み合わせが添加される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
複合材料の先駆物質の中の窒化ホウ素ナノチューブの溶液の濃度は0.01〜99.9重量%の間である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
少なくとも一つの未処理成形体は10Paよりも大きく1kPa未満に加圧されたアンモニアの下で熱分解される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
少なくとも一つの未処理成形体は10Paよりも大きく1kPa未満に加圧された不活性ガスの下で熱分解される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも一つの未処理成形体は5MPaよりも大きく10GPa未満まで高めた圧力の下で熱分解される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
窒化ホウ素、炭化ホウ素および炭化ケイ素の組み合わせが、窒化ホウ素を含むセラミックス先駆物質に添加される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
請求項1に記載の方法に従って調製された窒化ホウ素ナノチューブ−窒化ホウ素(BN-BN)ナノ複合材料。
【発明の詳細な説明】
【0001】
関連する出願についてのクロス・リファレンス
[01]本出願は「多機能性BN-BN複合材料」と題する米国仮出願61/686107号(2012年3月30日提出)の利益について権利主張する。
【0002】
連邦政府が後援する研究または開発についての陳述
[02]ここに記載された発明は、NASAの協力契約の下で研究を行う中で合衆国政府の従業員によって成され、パブリック・ロー96-517(米国特許法第202条)の規定に従うものであり、合衆国政府によって(または合衆国政府のために)、政府の目的で、発明についての(または発明に対する)特許権使用料を何ら支払うことなく製造および使用することができる。米国特許法第202条に従って、協力契約の受領者は所有権を保持することを選択した。
【技術分野】
【0003】
[03]本発明はナノ複合材料に関し、特に窒化ホウ素ナノチューブ−窒化ホウ素(BN-BN)ナノ複合材料に関する。
【背景技術】
【0004】
[04]航空宇宙およびその他の産業の用途においては、極限の環境に耐えることのできる高温感知要素、作動、通信および構造要素を必要とする。例えば、発電産業では高温、高圧の下で作動し、また原子力発電所の場合は放射線の環境下で作動するように設計された材料を必要とする。別の例は高摩擦の環境のための材料の開発であり、例えば航空機のブレーキパッドは材料の寿命を長くするための高い耐摩耗性、発生した熱を散逸させるための優れた熱伝導性、および酸化性の環境中での高い熱安定性を必要とする。極限の温度や(スペースシャトルの前縁のように)高い衝撃力に耐えることのできる検出器、作動器および構造材料は、様々な調整された用途に対して望ましいものである。BN-BNナノ複合材料は、絶縁材料が必要な場合の用途に対して炭素をベースとするナノ複合材料の代わりとするための適切な選択である。さらに、導電性材料の量と型を制御すれば、BCNセラミックスのようなナノ複合材料を調整された導電率を有するようにして製造することができる。
【0005】
[05]高い摩耗または摩擦条件のための最新の構造材料は、それらを使用する間に発生する高温において酸化を受ける炭素-炭素複合材料ならびに健康を冒すかもしれない危険を伴うことが示されているライナーの介在物を含む石綿とを含む。
【0006】
[06]チタン酸ジルコン酸鉛(ペロブスカイト、PZT)のような在来の強誘電性のセラミックス粉末は、感知と作動のための可撓性の圧電ポリマー複合材料を作るためにポリマーのマトリックスとともに用いられてきた。それらの重い重量、脆さおよび有毒性は、航空宇宙用途におけるそれらの使用を極めて少ない使用量に限定してきて、また可撓性の検出器や作動器としてのそれらの有効性は期待はずれのものであった。それらが圧電特性を失うキュリー温度は、わずかに約200℃である。加えて、耐貫通性または耐摩耗性の材料および放射線遮蔽材料が宇宙探検のために広く求められてきたが、しかしそれらの有用性は前述した制限のために限定されている。従って、十分に高い硬度または靭性と高い放射線遮蔽特性を示すとともに、500℃以上の温度で感知と作動の能力を示す強靭な材料を開発することに対する要求がある。そのような材料は未だに開発されていない。
【0007】
[07]近年、極性官能基を含む一連の非晶質圧電ポリイミドが分子設計と計算化学によって開発され、高温の用途における検出器として用いられる可能性がある。しかし、これらのポリイミドの圧電応答性はポリ(フッ化ビニリデン) (PVDF)の応答性よりも一桁小さい。これは、イミド化閉鎖環構造の中での鎖運動性が限定されているために、ポリマー中の双極子が加えた電界に沿って効率よく整列しない、という事実によるものである。これらのポリマーの圧電応答性を高めるために、様々なモノマーと合成すること、極性化工程を制御すること、およびポリマーの中にカーボンナノチューブ(CNTs)または窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)を添加することが報告されている[Kang et al, Nano, 1, 77 (2006);Park et al, Adv Mater, 20, 2074 (2008)]。
【0008】
[08]ホウ素-窒素含有ポリマー先駆物質を用いてBNの膜または繊維を調製する新たな方法が開発された[Rousseauら、米国特許6774074号]。Rousseauは、ホウ素-窒素含有ポリマーを合成することによってWagnerの研究[Wagner et al, Inorganic Chemistry, 1, 99, (1962)]に係る未処理成形体を製造し、次いで、その未処理成形体を熱分解することによってBNのセラミックス繊維または膜を得ることを教示している。得られたBNセラミックスは高い弾性率と高度を示した。
【0009】
[09]電気活性ポリイミド複合材料の多くの用途における使用には、なお制限がある。例えば、ポリマーをベースとする材料は500℃よりも十分に低い使用温度という制限がある。また、Wagnerらによって教示された熱分解したBN材料は優れた熱安定性を示すが、しかし、他のセラミックス材料と同様に、極めて低い靭性を有する。高摩擦用途と構造用途のための炭素をベースとする高硬度または高靭性の材料は酸化性雰囲気中で劣化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許6774074号(Rousseauら)
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Kang et al, Nano, 1, 77 (2006)
【非特許文献2】Park et al, Adv Mater, 20, 2074 (2008)
【非特許文献3】Wagner et al, Inorganic Chemistry, 1, 99, (1962)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
[10]本発明の主な目的は、窒化ホウ素ナノチューブ−窒化ホウ素(BN-BN)ナノ複合材料を提供することである。
【0013】
[11]本発明の目的は、高い靭性を有するBN-BNナノ複合材料を提供することである。
【0014】
[12]本発明の目的は、高い硬度を有するBN-BNナノ複合材料を提供することである。
【0015】
[13]本発明の目的は、高い放射線遮蔽特性を有するBN-BNナノ複合材料を提供することである。
【0016】
[14]本発明の目的は、調整されたフォトニックバンドギャップを有するBN-BNナノ複合材料を提供することである。
【0017】
[15]本発明のさらなる目的は、高い光ルミネッセンスを有するBN-BNナノ複合材料を提供することである。
【0018】
[16]最後に、本発明の目的は、単純で費用対効果が高いやり方で上記の目的を達成することである。
【0019】
[17]本発明の上記の目的とその他の目的、細目および利点は、添付する図面と共に読むことによって、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0020】
[18]本発明は窒化ホウ素ナノチューブ−窒化ホウ素(BN-BN)ナノ複合材料を形成するための方法を提供することによって、これらの要求に対処する。この方法においては、窒化ホウ素を含むセラミックス先駆物質が合成され、次いで、これを窒化ホウ素ナノチューブの溶液と一緒にすることによって複合材料の先駆物質が形成され、この複合材料の先駆物質から少なくとも一つの未処理成形体(green body)が形成される。次いで、その形成された未処理成形体が熱分解されてBN-BN複合セラミックスとなる。少なくとも一つの未処理成形体は、好ましくは少なくとも800℃の温度で、より好ましくは少なくとも1500℃の温度で熱分解される。さらに、少なくとも一つの未処理成形体は、好ましくはアンモニアまたは不活性ガスの下で真空下および加圧下で熱分解され、好ましくは5MPaよりも大きく10GPa未満の圧力で、より好ましくは10Paよりも大きく1kPa未満の圧力で熱分解される。好ましい態様において、少なくとも一つの未処理成形体は繊維、織られたマット、不織マット、フィルムまたはプレートである。本発明の別の態様において、炭素、ケイ素、ケイ素と炭素の組み合わせ、または窒化ホウ素、炭化ホウ素および炭化ケイ素の組み合わせが、窒化ホウ素を含むセラミックス先駆物質に添加される。この方法において、複合材料の先駆物質の中の窒化ホウ素ナノチューブの溶液の濃度は0.01〜99.9重量%の間である。この方法に従って調製された窒化ホウ素ナノチューブ−窒化ホウ素(BN-BN)ナノ複合材料についても記載される。
【0021】
[19]本発明の主題とその利点についてのより完全な説明は以下の詳細な説明を参照して行われ、このとき添付図面が参照される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1a】[20]
図1aはBN無機ポリマー先駆物質の化学構造を示す。
【
図1b】[21]
図1bは窒化ホウ素を含む無機ポリマー先駆物質のBNセラミックスの一つへの転化の概略図を示す。
【
図1c】[22]
図1cは窒化ホウ素を含む無機ポリマー先駆物質のBCNセラミックスへの転化の概略図を示す。
【
図2a】[23]
図2aはBNNT-BN無機ポリマー複合材料と様々な未処理成形体構造物(繊維、プレート、繊維マットおよび繊維強化複合材プレート)の製作プロセスの概略図を示す。
【
図2b】[24]
図2bは整列したBNNT-無機ポリマー不織マットの製作プロセスの概略図を示す。
【
図3a】[25]
図3aはBN-BN複合材料の電気活性特性を示す。
【
図3b】[26]
図3bはBN-BN複合材料の圧電応答性を示す。
【
図3c】[27]
図3cはBN-BN複合材料の電気ひずみ応答性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[28]以下の詳細な説明は本発明を実施するための最良のものであると現在考えられている態様である。この説明は限定的な意味で解釈されるべきではなく、本発明の態様の一般的な原則を単に例示する目的でなされるものである。本発明の態様と様々な特徴およびその有利な細目を、添付図面において記載および/または例示するとともに以下の説明において示される非限定的な態様と実施例を参照して、さらに十分に説明する。図面で例示された態様は必ずしも一定の縮尺では描かれておらず、またここで明示されていなくても、一つの態様の特徴は他の態様においても当業者が認識するように用いることができる、ということを認識すべきである。周知の構成要素と技術についての説明は、本発明を不明確にすることを避けるために省かれるかもしれない。ここで用いられる各実施例は単に、本発明を実施するやり方についての理解を促進し、また当業者が本発明を実施することをさらに可能にすることを意図したものである。従って、ここで示される実施例と態様は本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではなく、本発明の範囲は添付する特許請求の範囲によって明示される。さらに、幾つかの図面を通して同様の引用数字は同じ部分を示していることに留意されたい。
【0024】
[29]近年、並はずれて長くて高度に結晶性のBNNTを製造する新規で概念的に単純な方法が論証された。M. W. Smith他の米国特許出願公開2009/0117021号、M. W. Smith他の「ナノテクノロジー」20, 505604 (2009)、一部係属出願12/322591号(2009年2月4日提出)「窒化ホウ素ナノチューブを製造するための装置」、および一部係属出願12/387703号(2009年5月6日提出)「窒化ホウ素ナノチューブのフィブリルと糸」(これら全てはそれらの全体が引用文献として本明細書に組み込まれる)はそのような材料を記載している。同時係属の米国特許出願13/068329号(2011年5月9日提出)「窒化ホウ素ナノチューブを用いて製作される中性子と紫外線を遮蔽するフィルムおよび窒化ホウ素ナノチューブポリマー複合材料」は窒化ホウ素ナノチューブを用いて製作される放射線遮蔽フィルムの製造と窒化ホウ素ナノチューブポリマー複合材料を記載していて、同時係属の米国特許出願12/925047号(2010年10月13日提出)「窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)を用いて製作されるエネルギー転換材料およびBNNTポリマー複合材料」は窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)を用いて製作される作動器と検出器およびBNNTポリマー複合材料を記載していて、これらもそれらの全体が引用文献として本明細書に組み込まれる。
【0025】
[30]概して言えば、本発明は苛酷な環境下で用いるためのエネルギー変換器、熱導体、耐貫通性または耐摩耗性の皮膜、および放射線硬化材料のための多機能性の窒化ホウ素ナノチューブ−窒化ホウ素(BN-BN)ナノ複合材料の開発に関する。この目的のため、全てが窒化ホウ素構造のBN-BN複合材料が合成される。最初に、窒化ホウ素を含む先駆物質が合成され、次いで、これを窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)と混合して複合溶液を生成させる。このマトリックス先駆物質に炭素またはケイ素またはこれら二つを組み合わせたものを添加することができる。複合溶液は、(これらに限定はされないが)繊維、織られたマット、不織マット、フィルムおよびプレートを含めた様々な形態の未処理成形体を製造するために用いられる。未処理成形体を熱分解し、それによりBN-BN複合セラミックスへの変態が促進される。所望のBN結晶構造を形成するために熱分解温度、圧力、雰囲気および時間が制御される。全体がBN構造の材料は優れた熱安定性、高い熱伝導性、圧電気性、ならびに高い靭性、硬度および放射線遮蔽特性を示す。ナノチューブおよび/またはマトリックスの最初の構造の中に炭素またはケイ素のような他の元素を置き換えることによって、優れた硬度、調整されたフォトニックバンドギャップおよび光ルミネッセンスを有するBCNセラミックスまたはBCSiNセラミックスのような新たなナノ複合材料を調製することができる。
【0026】
[31]高温安定性、優れた熱伝導性、放射線硬化性、耐貫通性または耐摩耗性、ならびに感知と作動の性能を有するBN-BN材料は、ある範囲の産業用途において用いられることが期待される。これには、強い機械的応力と高温あるいは高い放射線の環境の下でターボ機械が運転される原子力発電所を含めた発電産業における検出器や構造要素が含まれる。高靭性のBN-BN複合材料は原子炉のための強靭な制御棒(中性子減速材)として用いることができると考えられる。おそらくは好ましくない雰囲気の中で高温において溶鉱炉やキルンが運転されて、従来のBNがライナーのために用いられてきた加工処理プラントも、本発明において記述されている強靭化複合材料から利益を得ることができ、よりいっそう強靭で安全なプラントになるだろう。
【0027】
[32]大量の熱が発生して摩耗する前に酸化のために破損することのあるブレーキパッドのような高摩擦要素が別の用途であり、この場合、BN-BN複合材料の高い熱安定性、耐酸化性、靭性または耐摩耗性および熱伝導性は明白な利点となるだろう。
【0028】
[33]用途としてのさらに別の分野は航空宇宙産業であり、この場合、エンジンやその他のサブシステムにおけるシステム健全性を監視するために高温検出器や作動器が必要となる。BN-BN複合材料の高い熱安定性と靭性ならびに(成分元素の低い原子量による)軽量性も、超音速や極超音速の媒体における構造要素としての用途を示唆する。
【0029】
[34]高温検出器や作動器は自動車産業においても用途がある可能性があり、この場合、効率を高めるために、より高いエンジン温度とより良好な制御された燃料と空気の混合物が追及される。
【0030】
[35]本発明で記述されている高度に安定な環境発電材料や検出材料は、原子力の生産や火山活動の監視と関連する用途のような、苛酷な環境において用いるための自己持続型の遠隔センサーを促進することができる。
【0031】
[36]ここで記述されている強靭な放射線硬化性複合材料は、高い高度の航空機、核材料検出器および水星の軌道における「メッセンジャー」のような宇宙船において遭遇するような高温環境または放射線環境において回路を保護するために用いることができる。
【0032】
[37]この技術は極めて高い熱安定性、高い熱伝導性、圧電性、優れた耐貫通性または耐摩耗性および放射線硬化能を有する材料を製造することを目的としている。これらの特性はホウ素-窒素系全体の独特な分子構造と形態から予想される。B-N結合は極めて安定であり、高い熱安定性に寄与する。BNおよびBNNTは効率的なフォノン(音子)の輸送により高い熱伝導性を有する。高い中性子吸収断面積ならびにBN-BN系を構成する原子の低い原子量により、高いエネルギー放射による分裂を起こすことのない放射線硬化性材料となる。BNマトリックスへのBNNTの注入により、優れた靭性が与えられる。複合材料の構造は熱衝撃に対する高い耐性をもたらすことも予想される。
【0033】
[38]最初に、BN無機ポリマー先駆物質が
図1aに示すように合成されるだろう。この先駆物質はBNNTと混合され、それにより均質なBNNT-BN複合溶液が調製される。次いで、BNNT-BN複合溶液は紡糸されて、繊維または繊維マットが製造されるか、あるいは複合未処理成形体が製造される(
図2a)。未処理成形体はアンモニア、不活性ガスまたは真空の下で(800℃を超える)高温で熱分解され、それによりBNセラミックスナノ複合材料への変態が促進される。セラミックスの形態は熱分解の温度、時間および圧力を調整することによって制御される(
図1b)。機械的強度、圧電性および熱伝導性が最大になるようにBNNTを整列させるために、不織未処理成形体を引き伸ばすことができる(
図2b)。このBNNT-BNセラミックスナノ複合材料は、ダイヤモンドに近い並はずれた硬度に加えて極めて高い機械的靭性と熱安定性を示し、耐貫通性または耐摩耗性の皮膜の最高の候補となる。圧電性はマトリックスのBN構造と共働する。圧電性や電気光学特性のような電気活性特性は、BNの結晶構造とBNNTの整列によって影響を受ける。調製されたBNNT-BN複合材料は、その全てのホウ素-窒素構造のために優れた放射線保護特性を示す。調製されたBN-BN複合材料は、適切な不動態層で被覆した後にエネルギー変換器または放射線遮蔽材料のために用いることができる。
図3aと3bは、減圧(約10Pa)の下で約30MPaの圧力で1750℃において5分にわたって熱処理した後の、開発されたBN-BN複合材料の熱的に安定な電気活性特性の例である。1Hzの交流電界が印加されたとき、サンプルのひずみ(S
33)は、周波数の関数として直線的なひずみと非直線的なひずみが重なった曲線(
図3aにおける黒くつぶした四角形)になると思われる。この重なった曲線は直線的な応答(
図3aと3bにおける白抜きの赤丸)と非直線的な応答(
図3aと3bにおける白抜きの青い三角形)に簡略化された。直線的な応答はBNNTの圧電特性から発生したものと思われる。データの直線への当てはめから(
図3b)、圧電係数d
33は約1.71pm/Vであると計算された。非直線的な応答は印加した電界が増大するのに伴って二次的な増大を示し、これは、このひずみの機構が主として電気ひずみによる応答であることを示している。電界強度の2乗(E
2)に対するひずみ(S
33)のプロット(
図3c)の勾配から計算された、BN-BN複合材料の電気ひずみ係数(M
33)(S
33=M
33E
2)は、平均で−2.27×10
−16pm
2/V
2であった。
【0034】
[39]炭素またはケイ素のような他の元素を置き換えることによって、優れた硬度、調整されたフォトニックバンドギャップおよび光ルミネッセンスを有するBCNセラミックスまたはBCSiNセラミックスを設計して調製することができる(
図1c)。電気活性特性に及ぼす炭素の置換の影響が、バンドギャップの特徴づけとともに研究されるだろう。
【0035】
[40]明らかに、本発明の基本的な精神から逸脱することなく多くの修正を成しうる。従って、添付した特許請求の範囲の中で、本明細書に特に記載したこと以外について本発明を実施できることが、当業者には認識されよう。本明細書に記載して特許請求の範囲で明示している本発明の精神と範囲から逸脱することのない多くの改良、修正および付加は、当業者には明らかであろう。
【国際調査報告】